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  • 特開-テニスボール用水性接着剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022134661
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】テニスボール用水性接着剤
(51)【国際特許分類】
   C09J 109/00 20060101AFI20220908BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20220908BHJP
   C09J 109/02 20060101ALI20220908BHJP
   A63B 39/00 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
C09J109/00
C09J11/06
C09J109/02
A63B39/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021033950
(22)【出願日】2021-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】郷司 翔
(72)【発明者】
【氏名】兵頭 建彦
(72)【発明者】
【氏名】志賀 一喜
【テーマコード(参考)】
4J040
【Fターム(参考)】
4J040CA001
4J040CA031
4J040CA091
4J040HD09
4J040JA03
4J040JA12
4J040JB09
4J040KA14
4J040MA12
4J040MB02
4J040MB10
4J040NA05
4J040PA33
(57)【要約】
【課題】効率的にシーム部を形成できるテニスボール用水性接着剤の提供。
【解決手段】このテニスボール用水性接着剤は、ゴムラテックスを含んでいる。このゴムラテックスは、液状ゴムラテックスと固形ゴムラテックスとの混合物である。このゴムラテックスに含まれる全ゴム成分に対する液状ゴムの比率は、固形分換算で、20質量%を超えて90質量%未満である。テニスボールは、このテニスボール用水性接着剤から形成されたシーム部を有している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴムラテックスを含んでおり、
上記ゴムラテックスが、液状ゴムラテックスと固形ゴムラテックスとの混合物であり、
上記ゴムラテックスに含まれる全ゴム成分に対する液状ゴムの比率が、固形分換算で、20質量%を超えて90質量%未満である、テニスボール用水性接着剤。
【請求項2】
上記ゴムラテックスに含まれるゴム成分のムーニー粘度(ML1+4(100℃))が6.0以下である、請求項1に記載の水性接着剤。
【請求項3】
そのムーニー粘度(ML1+4(100℃))が10以下である、請求項1又は2に記載の水性接着剤。
【請求項4】
上記液状ゴムの数平均分子量が10,000以上60,000以下である、請求項1から3のいずれかに記載の水性接着剤。
【請求項5】
チウラム系加硫促進剤をさらに含む、請求項1から4のいずれかに記載の水性接着剤。
【請求項6】
上記液状ゴムがイソプレンゴムである請求項1から5のいずれかに記載の水性接着剤。
【請求項7】
上記固形ゴムがイソプレンゴムである、請求項1から6のいずれかに記載の水性接着剤。
【請求項8】
シーム部を有しており、このシーム部が、請求項1から7のいずれかに記載のテニスボール用水性接着剤から形成されている、テニスボール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テニスボール水性接着剤に関する。詳細には、本発明は、硬式テニスボールの製造に用いる水性接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
テニスボールは、コアを備えている。このコアは、中空の球体である。コアは、2つの半球状のハーフコアを貼り合わせることにより形成される。この2つのハーフコアの貼り合わせに、接着剤が用いられる。このコアの外表面は、2枚のダンベル状のフェルト(メルトンとも称される)で被覆されている。コアの外表面へのメルトンの接着にも、接着剤が用いられる。2枚のメルトン同士の間隙にはシーム部が形成されている。
【0003】
シーム部の形成には、シーム糊が用いられる。シーム糊は、通常、ゴム組成物からなる。特開2004-148022号公報(特許文献1)には、天然ゴム等の基材ゴム、酸化チタン、硫黄等を含むゴム組成物がナフサ等の有機溶剤に溶解されてなる溶剤系のシーム糊が開示されている。
【0004】
シーム糊は、コアに貼り付けられる前のメルトンの側面に付着させられる。例えば、多数のメルトンを重ね合わせた後シーム糊に浸漬させることで、重ね合わされたメルトンの側面にシーム糊を付着させる。付着したシーム糊を乾燥させた後、各メルトンを1枚ずつ剥離することにより、その側面にシーム糊が付着したメルトンが得られる。このメルトン2枚を接着剤でコアの外表面に貼り付けた後、架橋することにより、メルトン同士の間隙にシーム部が形成される。
【0005】
この製造方法においては、乾燥後未加硫のゴム組成物からなるシーム糊によって、多数のメルトン同士が付着するタック性と、メルトンをコアに接着する次工程において、付着したメルトンを1枚ずつ剥離できる引き裂き性とが求められる。また、乾燥後のシーム糊が他の部材等に付着しない耐移行性も必要とされる。
【0006】
近年、環境に対する影響及び作業者の負担軽減の観点から、溶剤系接着剤に替えて水性接着剤が求められている。特開2020-059838号公報(特許文献2)では、ゴムラテックスとスルフェンアミド系加硫促進剤とを含むテニスボール用水性接着剤が、ハーフコア同士の貼り合わせに使用されている。特開昭57-179265号公報(特許文献3)には、解重合処理した天然ゴムラテックス及び/又は合成ゴムラテックスを基材成分とするメルトンシーム用接着剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004-148022号公報
【特許文献2】特開2020-059838号公報
【特許文献3】特開昭57-179265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1が開示する溶剤系シーム糊では、天然ゴム等の固形ゴムに、各種薬品を添加して混練することにより得られるゴム組成物が用いられる。混練時には、固形ゴムがしゃく解される。このしゃく解により、ゴム成分が低分子量化するため、シーム部の形成に適したタック性、引き裂き性及び耐移行性が得られる。これに対し、特許文献2に開示された水性接着剤は、例えば天然ゴムラテックスに加硫促進剤等のスラリーを添加することにより製造されうる。この水性接着剤では、製造時に混練されることがなく低分子量化しないため、溶剤系シーム糊と同等のタック性及び引き裂き性が得られない。特許文献3に開示されたメルトンシーム用接着剤には、ゴムラテックスの解重合処理が必要であり、製造工程が複雑化する。また、解重合ゴムラテックスを用いた接着剤のタック性、引き裂き性及び耐移行性にも未だ改良の余地がある。
【0009】
本発明の目的は、タック性、引き裂き性、さらには耐移行性に優れ、効率的にシーム部を形成することができるテニスボール用水性接着剤の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るテニスボール用水性接着剤は、ゴムラテックスを含んでいる。このゴムラテックスは、液状ゴムラテックスと固形ゴムラテックスとの混合物である。このゴムラテックスに含まれる全ゴム成分に対する液状ゴムの比率は、固形分換算で、20質量%を超えて90質量%未満である。
【0011】
好ましくは、ゴムラテックスに含まれるゴム成分のムーニー粘度(ML1+4(100℃))は、6.0以下である。好ましくは、この水性接着剤のムーニー粘度(ML1+4(100℃))は、10以下である。好ましくは、液状ゴムの数平均分子量は10,000以上60,000以下である。
【0012】
好ましくは、この水性接着剤は、チウラム系加硫促進剤をさらに含む。好ましくは、上記液状ゴムが、イソプレンゴムである。好ましくは、上記固形ゴムが、イソプレンゴムである。
【0013】
本発明に係るテニスボールは、シーム部を有している。このシーム部は、前述したいずれかの水性接着剤から形成されている。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るテニスボール用水性接着剤は、シーム部の形成に適したタック性、引き裂き性及び耐移行性を有している。この水性接着剤により形成されたシーム部を備えたテニスボールは、耐久性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る接着剤を用いて得られるテニスボールの、一部切り欠き断面図である。
図2図2の(a)及び(b)は、図1のテニスボールのコアの形成工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0017】
本発明の一実施形態に係るテニスボール用水性接着剤は、ゴムラテックスを含んでいる。ゴムラテックスは、液状ゴムラテックスと固形ゴムラテックスとの混合物である。本願明細書において、ゴムラテックスとは、水又は水溶液等の分散媒に、ゴム成分が微粒子状に分散したエマルジョンを意味する。液状ゴムとは、常温、大気圧下で流動性を有するゴムであり、液状ゴムラテックスとは、液状ゴムが分散媒に微粒子状に分散したエマルジョンを意味する。固形ゴムとは、常温、大気圧下で流動しないゴムであり、固形ゴムラテックスとは、固形ゴムが分散媒に微粒子状に分散したエマルジョンを意味する。
【0018】
このテニスボール用水性接着剤に含まれるゴムラテックスでは、水又は水溶液等の分散媒に、液状ゴムからなる微粒子と、固形ゴムからなる微粒子とが、分散している。このゴムラテックスに含まれる全ゴム成分に対する液状ゴムの比率は、固形分換算で、20質量%を超えて90質量%未満である。
【0019】
全ゴム成分に対する液状ゴムの比率が、固形分換算で20質量%を超える水性接着剤は、乾燥後未加硫の状態におけるタック性及び引き裂き性に優れる。この水性接着剤によれば、複数のメルトンを容易に接着することができ、かつ、付着したメルトンを変形することなく剥離することができる。また、この比率が90質量%未満である水性接着剤は、乾燥後未加硫の状態における耐移行性に優れる。この水性接着剤は、乾燥後未加硫の状態でも他の部材に付着しないので、作業性が良好である。さらに、この水性接着剤は、実質的に、有機溶媒を含まない。この水性接着剤によれば、環境への負荷及び使用する作業者の負担が軽減される。
【0020】
良好なタック性及び引き裂き性が得られるとの観点から、全ゴム成分に対する液状ゴムの比率は、25質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましい。耐移行性に優れるとの観点から、この比率は、85質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましい。
【0021】
適正なタック性、引き裂き性及び耐移行性が得られる限り、液状ゴムラテックス及び固形ゴムラテックスの種類は特に限定されない。液状ゴムラテックス及び固形ゴムラテックス中のゴム成分として、例えば、スチレン・ブタジエンゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、エチレン・プロピレンゴム又はこれらの変性物が例示される。変性物の例としては、カルボキシル基、アミン基、水酸基等の官能基変性ゴムが挙げられる。加硫後の着色の原因となる硫黄(加硫剤)の配合が不要であることから、イソプレンゴム又は天然ゴムが好ましい。天然ゴムラテックス中のタンパク質、リン脂質等に起因する架橋により、意図せずグリーン強度が増加する場合がある。製造安定性の観点から、より好ましいゴム成分は、イソプレンゴムである。
【0022】
タック性及び引き裂き性の観点から、ゴムラテックス中のゴム成分のムーニー粘度(ML1+4(100℃))は、6.0以下が好ましく、5.0以下がより好ましく、4.0以下が特に好ましい。耐移行性の観点から、ゴム成分の好ましいムーニー粘度は2.0以上である。ゴム成分の分子量及び分子量分布が、ムーニー粘度に影響する。この水性接着剤では、固形ゴムに対し液状ゴムが所定の比率で配合されることにより、得られるゴム成分の平均分子量が低下し、かつ分子量分布が広くなる。その結果、ゴム成分のムーニー粘度が適正に調整され、本発明の効果がより顕著になる。
【0023】
ゴムラテックス中のゴム成分のムーニー粘度(ML1+4(100℃))は、液状ゴムラテックス及び固形ゴムラテックスを所定の比率で配合したゴムラテックスを乾燥し、水分を除去した後、「JIS K6300」の規定に準拠して測定される。測定条件は、以下の通りである。
ローター:Lローター
予備加熱時間:1分
ローターの回転時間:4分
温度:100℃
【0024】
本発明の効果が得られる限り、液状ゴムラテックスに含まれる液状ゴムの数平均分子量は特に限定されず、その種類により適宜選択されうる。良好なタック性、引き裂き性及び耐移行性が得られやすいとの観点から、液状ゴムの数平均分子量は60,000以下が好ましく、40,000以下がより好ましい。また、液状ゴムの数平均分子量は10,000以上が好ましく、20,000以上がより好ましい。
【0025】
本発明の効果が得られる限り、固形ゴムラテックスに含まれる固形ゴムの数平均分子量は特に限定されず、その種類により適宜選択されうる。良好なタック性、引き裂き性及び耐移行性が得られやすいとの観点から、固形ゴムの数平均分子量は3,000,000以下が好ましく、2,000,000以下がより好ましい。また、固形ゴムの数平均分子量は500,000以上が好ましく、1,000,000以上がより好ましい。
【0026】
ゴムラテックスの固形分濃度は、後述する各種添加剤との混合性の観点から、80質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましい。接着強度の観点から、ゴムラテックスの固形分濃度は、20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましい。なお、ゴムラテックスの固形分濃度は、JIS K6387-2「ゴムラテックス-第2部:全固形分の求め方」に記載の方法に準拠して求められる。
【0027】
好ましくは、このテニスボール用水性接着剤は、ゴムラテックスとともに加硫促進剤を含む。本発明の効果が阻害されない限り、加硫促進剤の種類は特に限定されず、アルデヒド-アンモニア系加硫促進剤、アルデヒド-アミン系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、スルフェンアミド系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、チオウレア系加硫促進剤、キサントゲン酸塩系加硫促進剤等が適宜選択されて用いられうる。1又は2以上の加硫促進剤が併用されてもよい。加硫後の着色原因となる硫黄(加硫剤)を使用せずに、無硫黄加硫ができることから、チウラム系加硫促進剤が好適に用いられる。
【0028】
チウラム系加硫促進剤と他の加硫促進剤とを併用する場合、全加硫促進剤中、チウラム系加硫促進剤の割合が50質量%以上であることが好ましく、55質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることが特に好ましい。
【0029】
加硫後のシーム部の強度の観点から、水性接着剤に含まれる加硫促進剤の量は、ゴム成分100質量部に対して、固形分換算で、1.5質量部以上が好ましく、2.5質量部以上がより好ましい。加硫時の流動性の観点から、水性接着剤に含まれる加硫促進剤の量は、固形分換算で、3.5質量部以下が好ましく、3.0質量部以下がより好ましい。
【0030】
水性接着剤が、必要に応じて、加硫剤を含んでもよい。好適な加硫剤として、例えば、粉末硫黄、不溶性硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄等の硫黄;モルホリンジスルフィド、アルキルフェノールジスルフィド等の硫黄化合物が挙げられる。加硫剤として配合された硫黄は、得られるシーム部の着色原因となる場合があることから、実質的に硫黄を含まない水性接着剤が好ましい。本願明細書において、硫黄とは、粉末硫黄等単体としての硫黄を意味する。
【0031】
本発明の効果が得られる限り、水性接着剤が、無機充填剤を含んでもよい。シリカ、カーボンブラック、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、タルク、マイカ、ケイソウ土、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ビスマス、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム及びアルミナからなる群から選択される1又は2以上の無機充填剤が好ましい。形成されるシーム部の強度の観点から、水性接着剤中の無機充填剤の量は、全ゴム成分100質量部に対して、固形分換算で、5質量部以上が好ましく、15質量部以上がより好ましい。加硫時の流動性の観点から、無機充填剤の量は、固形分換算で、40質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましい。
【0032】
本発明の効果が阻害されない限り、水性接着剤が、さらに、加硫促進助剤、増粘剤、粘着性付与剤、老化防止剤、酸化防止剤、光安定剤、軟化剤、加工助剤、着色剤等の各種添加剤を含んでもよい。
【0033】
本発明の効果が得られる限り、水性接着剤に含まれる全固形分の濃度は特に限定されない。得られるシーム部の強度の観点から、その固形分濃度は、5.0質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。加硫時の流動性の観点から、その固形分濃度は、80質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましい。
【0034】
良好なタック性、引き裂き性及び耐移行性が得られるとの観点から、この水性接着剤のムーニー粘度(ML1+4(100℃))は10以下が好ましく、8以下がより好ましく、6以下が特に好ましい。耐移行性の観点から、水性接着剤の好ましいムーニー粘度は2以上である。水性接着剤のムーニー粘度(ML1+4(100℃))は、この水性接着剤を乾燥して水分を除去した後、「JIS K6300」の規定に準拠して測定される。測定条件は、以下の通りである。
ローター:Lローター
予備加熱時間:1分
ローターの回転時間:4分
温度:100℃
【0035】
浸漬されたメルトンへの付着性の観点から、水性接着剤の粘度は、10Pa・s以上が好ましく、15Pa・s以上がより好ましい。流動性の観点から、水性接着剤の粘度は、25Pa・s以下が好ましく、20Pa・s以下がより好ましい。この水性接着剤の粘度は、JIS Z8803「液体の粘度測定方法」の記載に準じて、ブルックフィールド型回転粘度計(ローター:No.3)を用いて、温度23±1℃にて測定される。粘度が20Pa・s以下の場合の回転数は10rpmであり、粘度が20Pa・sを超える場合の回転数は5rpmである。
【0036】
このテニスボール用水性接着剤の製造方法は、特に限定されないが、例えば、液状ゴムラテックスと固形ゴムラテックスとを、全ゴム成分に対する液状ゴムの比率が、20質量%を超え、90質量%未満となるように配合した後、加硫促進剤、無機充填剤等の添加剤を順次添加して混合することにより製造される。加硫促進剤等の添加剤は、そのままゴムラテックスと混合されてもよく、各添加剤のスラリーとして混合されてもよい。
【0037】
各添加剤のスラリーは、分散剤を含む分散媒に、それぞれ添加剤を投入して混合することにより得られる。分散媒に含まれる分散剤の種類は特に限定されず、添加剤の種類及びスラリーの濃度に応じて、アニオン型、ノニオン型及びカチオン型の界面活性剤から適宜選択されて用いられる。アニオン型界面活性剤としては、炭素数8~20個のアルキルスルホネート、アルキルアリールサルフェート、ナフタレンスルホン酸ナトリウム-ホルムアルデヒド縮合物、ロジン酸のアルカリ金属塩等が例示される。ノニオン型界面活性剤の例としては、芳香族ポリグリコールエーテル、ポリビニルアルコール、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンモノステアレート等が挙げられる。カチオン型界面活性剤としては、ジラウリルジメチルアンモニウムクロリド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド等が例示される。アニオン型又はノニオン型の界面活性剤が好ましい。2種以上の界面活性剤を併用してもよい。
【0038】
スラリーの安定性の観点から、分散媒中の分散剤の濃度は0.5質量%以上が好ましく、1.0質量%以上がより好ましい。得られる接着剤の接着強度の観点から、分散媒中の分散剤の濃度は20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましい。
【0039】
この分散媒は、液状ゴムラテックス及び固形ゴムラテックスの固形分濃度の調整にも用いられ得る。液状ゴムラテックス及び固形ゴムラテックスを配合した後に、分散媒を添加して固形分濃度を調整してもよい。液状ゴムラテックス及び固形ゴムラテックスを配合後、各添加剤を添加して混合した後に、分散媒を用いて固形分濃度を調整してもよい。
【0040】
このテニスボール用水性接着剤は、例えば、硬式テニスボールの製造において好適に用いられうる。図1には、本発明の一実施形態に係る水性接着剤を用いて得られるテニスボール2が示されている。このテニスボール2は、中空のコア4と、このコア4を被覆する2枚のフェルト部6と、この2枚のフェルト部6の間隙に位置するシーム部8とを有している。コア4の厚みは、通常、3mmから4mm程度である。コア4の内部には、圧縮ガスが充填されている。コア4の表面には、2枚のフェルト部6が接着剤により貼り付けられている。
【0041】
図2は、図1のテニスボール2が有するコア4の形成工程を説明するための断面図である。図2(a)に示される通り、このコア4の形成工程では、始めに、2つのハーフコア20が準備される。各ハーフコア20は、半球殻状であり、円環状のエッジ部21を有している。次に、各ハーフコア20のエッジ部21に、本発明に係るゴム用水性接着剤が塗布され、一方のハーフコア20に、塩化ナトリウム及び亜硝酸ナトリウムのタブレット並びに水が投入される。その後、図2(b)に示される通り、2つのハーフコア20が、互いのエッジ部21で貼り合わされる。この2つのハーフコア20からなる球体が、所定の金型に投入され、加熱及び加圧されることにより、中空のコア4が形成される。
【0042】
コア4は、基材ゴム、加硫剤、加硫促進剤、充填剤等を含むゴム組成物が架橋されることによって形成される。好適な基材ゴムとしては、天然ゴム、ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン・ブタジエン共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体、ポリクロロプレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体、イソブチレン・イソプレン共重合体及びアクリルゴムが例示される。より好ましい基材ゴムは、天然ゴム及びポリブタジエンである。基材ゴムとして、2種以上が併用されてもよい。コア4のゴム組成物が、加硫助剤、老化防止剤、酸化防止剤、光安定剤、軟化剤、加工助剤、着色剤等の添加剤をさらに含んでもよい。
【0043】
本発明の目的が達成される限り、このゴム組成物を製造する方法は、特に限定されない。例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等既知の混練機に、基材ゴムと、適宜選択された添加剤とを投入して混練して得られる混練物を加熱及び加圧することにより、このゴム組成物が製造されてもよい。混練条件及び加硫条件は、ゴム組成物の配合により選択される。好ましい混練温度は50℃以上180℃以下である。好ましい加硫温度は、140℃以上180℃以下である。加硫時間は2分以上60分以下が好ましい。
【0044】
次に、織りフェルトがダンベル形状に裁断されて、多数のフェルト部6(メルトン)が準備される。この多数のフェルト部6が重ね合わされた後、前述した水性接着剤に浸漬されることにより、多数のフェルト部6の側面(裁断面)に水性接着剤が付着する。その後乾燥されることにより、多数のフェルト部6の側面が、未加硫のゴム組成物により接着される。接着された多数のフェルト部6のうち、2枚のフェルト部6を剥離して、コア4の外表面に貼り付けられ、加圧・加熱される。加圧・加熱により、フェルト部6の側面に付着したゴム組成物が加硫されることにより、フェルト部6の間隙にシーム部8が形成された、テニスボール2が得られる。
【0045】
このテニスボール用水性接着剤は、良好なタック性、引き裂き性及び耐移行性を有するので、その側面に、適正な量の未加硫のゴム組成物が付着したフェルト部6を、効率よく得ることができる。また、この水性接着剤は、加硫時の流動性が適正なので、2枚のフェルト部6の間隙にすき間なくシーム部8を形成することができる。このシーム部8を備えたテニスボール2の耐久性は、高い。この水性接着剤によれば、高品質のテニスボール2を効率よく製造することができる。
【実施例0046】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0047】
[実施例1]
(分散媒の調整)
100質量部の精製水、1.6質量部のTAMOL NN 9104(BASF製のナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ナトリウム塩)、0.6質量部のエマルビンW(LANXESS製の芳香族ポリグリコールエーテル)及び0.4質量部のアンモニア水(和光純薬製、濃度28質量%)を配合することにより、分散媒を得た。
【0048】
(増粘剤の調整)
100質量部の精製水に、50質量部のA-7075(東亞合成製のアクリルポリマーエマルション)及び9.0質量部のアンモニア水(和光純薬製、濃度28質量%)を添加することにより、増粘剤を得た。
【0049】
(ゴムラテックスの調整)
分散媒を、クラレ社製の商品名「クラプレンLIR-700」に添加して、1.4倍に稀釈することにより、固形分濃度が60質量%である液状ゴムラテックスを得た。得られた液状ゴムラテックスと、固形ゴムラテックス(Cariflex PTE.Ltd社製の商品名「Cariflex IR0401 SU」、固形分濃度63質量%)と、を混合して、固形分換算で、液状ゴムL-IRと固形ゴムS-IRとの比が30:70であるゴムラテックスE1を得た。ゴムラテックスE1を一部採取し、60℃で24時間乾燥させた後、ムーニー粘度(ML1+4(100℃))を測定した。測定結果が、「ML1+4(100):ゴム成分」として、下表1に示されている。
【0050】
(添加剤スラリーの調整)
酸化チタン(Behn Meyer社製の商品名「Disoertint TB60」)、酸化亜鉛(Behn Meyer社製の商品名「Disoertint ZnO60」)、シリカ(日本触媒社の商品名「シーホスターKE W50」)、老化防止剤(中京油脂社製の商品名「K-840」)及び加硫促進剤DPTT(大内新興化学社製の商品名「ノクセラーTRA」)のそれぞれに、前述の分散媒を添加し、ボールミルで24時間撹拌することにより、固形分濃度60質量%である各スラリーを調整した。
【0051】
(水性接着剤の調整)
得られたゴムラテックスE1を、スリーワンモーターを用いて150rpmで撹拌しながら、酸化チタンスラリー、酸化亜鉛スラリー、シリカスラリー、老化防止剤スラリー、及び加硫促進剤スラリーを順次添加した後、前述の増粘剤を添加して、粘度15~20Pa・sに調整することにより、実施例1の水性接着剤を得た。実施例1の水性接着剤中の固形分組成は、全ゴム成分100質量部に対して、酸化チタン7.22質量部、酸化亜鉛5質量部、シリカ8質量部、老化防止剤0.51質量部及び加硫促進剤2.54質量部である。得られた水性接着剤の一部を採取して、60℃で24時間乾燥させた後、ムーニー粘度(ML1+4(100℃))を測定した。測定結果が、「ML1+4(100℃):水性接着剤」として下表1に示されている。
【0052】
[実施例2-4及び比較例1-9]
ゴム成分の種類及び配合比を下表1-3に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例2-4及び比較例1-9の水性接着剤を得た。実施例2-4及び比較例1-8について、実施例1と同様に、ゴムラテックスのムーニー粘度(ML1+4(100℃))を測定した。また、実施例2-4及び比較例1-5について、実施例1と同様に、水性接着剤のムーニー粘度(ML1+4(100℃))を測定した。比較例6-8については、ゴムラテックスの測定結果から、水性接着剤のムーニー粘度が好ましい範囲から外れることが予想されたため、測定を実施しなかった。比較例9のムーニー粘度は測定していない。得られた結果が、それぞれ下表1-3に示されている。表1-3中、「ND」は「検出限界以下」を意味する。「*」は「同条件で測定不可能」を意味する。
【0053】
[参考例]
参考例として、従来の有機溶剤系接着剤を調整した。具体的には、天然ゴム(Astlett Rubber社の商品名「SMR CV60」)100質量部、酸化亜鉛(東邦亜鉛社製の商品名「銀嶺R」)5質量部、酸化チタン(チタン工業株式会社製の商品名「KR-380」)7.22質量部、シリカ(エボニック社製の商品名「ウルトラジルVN3GR」)8質量部、老化防止剤(ELIOKEM社製の商品名「Wingstay」)0.51質量部及び加硫促進剤DPTT(大内新興化学社製の商品名「ノクセラーTRA」)2.54質量部を加圧式ニーダーで混練し、ゴム組成物を得た。このゴム組成物を60質量部のナフサに溶解することにより、参考例の有機溶剤系接着剤を得た。ゴム成分である天然ゴムのムーニー粘度(ML1+4(100℃))は60であった。有機溶剤系接着剤の使用状態はナフサが残存しており、乾燥状態で使用する水性接着剤と単純に対比できないため、参考例の接着剤としてのムーニー粘度は測定していない。
【0054】
[引き裂き性、タック性及び耐移行性の評価]
織りフェルトをダンベル形状に打ち抜いて多数のメルトンを得た。このメルトンを数十枚重ね合わせて、2枚のエンドプレートにはさんで、水性接着剤中に20秒間浸漬した。浸漬後、重ね合わされたメルトンの側面に付着した水性接着剤を、48時間乾燥させた。乾燥後、固定されたメルトン同士の引き裂き性、タック性及び耐移行性を、下記基準に基づいて評価した。参考例の有機溶剤系接着剤についても、同様にして、引き裂き性、タック性及び耐移行性を評価した。実施例1-4及び比較例1-9の水性接着剤並びに参考例の有機溶剤系接着剤について得られた評価結果が、下表1-3に示されている。
<引き裂き性>:付着したメルトン同士の剥離性及び剥離時の変形性を観察した。
A・・・剥離時にメルトンが伸びない。
B・・・剥離時にメルトンが伸びる。
C・・・剥離できない。
<タック性>:メルトン同士の付着性及び経時変化を観察した。
A・・・乾燥後に複数のメルトンが付着し、経時後も剥離しない。
B・・・乾燥後に複数のメルトンが付着するが、経時により剥離する。
C・・・乾燥後すぐにメルトンが剥離する。
<耐移行性>:乾燥後のシーム糊に他のメルトンを接触させた時の付着性を観察した。
A・・・付着しない。
B・・・付着するが剥離できる。
C・・・付着した後剥離できない。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
【表3】
【0058】
表1-3に示された化合物の詳細は、以下の通りである。
S-IR:固形ゴムラテックス(Cariflex PTE.Ltd社製の商品名「Cariflex IR0401 SU」)のゴム成分、イソプレンゴム
L-IR:液状ゴムラテックス(クラレ社の液状ゴムラテックス、商品名「クラプレンLIR-700」)のゴム成分、イソプレンゴム
NR:固形ゴムラテックス(野村貿易社の固形ゴムラテックス、「HYTEX-HA」)のゴム成分、天然ゴム
VP:固形ゴムラテックス(日本エイアンドエル社製の固形ゴムラテックス、商品名「ピラテックス」)のゴム成分、2-ビニルピリジン変性スチレン・ブタジエンゴム
SBR:固形ゴムラテックス(旭化成社製の固形ゴムラテックス、商品名「SBラテックスA-7141」)のゴム成分、カルボキシ変性スチレン・ブタジエンゴム
天然ゴム:Astlett Rubber社の商品名「SMR CV60」
解重合天然ゴム:固形ゴムラテックス(レジテックス社製の解重合天然ゴムラテックス、商品名「DPL-51」)のゴム成分
【0059】
表1から、実施例の水性接着剤のゴム成分は、参考例の有機溶剤系接着剤のゴム成分よりかなり小さいムーニー粘度を有していることがわかる。その結果、実施例の水性接着剤では、参考例と同等の引き裂き製、タック性及び耐移行性が得られた。さらに、表1-3に示されるように、実施例の水性接着剤は、比較例の水性接着剤に比べて評価が高い。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0060】
以上説明された水性接着剤は、種々の中空ボールの製造に適用されうる。
【符号の説明】
【0061】
2・・・テニスボール
4・・・コア
6・・・フェルト部
8・・・シーム部
20・・・ハーフコア
21・・・エッジ部
図1
図2