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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022134670
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】産業用ロボット制御システム
(51)【国際特許分類】
   B25J 13/08 20060101AFI20220908BHJP
【FI】
B25J13/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021033960
(22)【出願日】2021-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】509311643
【氏名又は名称】株式会社山本金属製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100115200
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 修之
(72)【発明者】
【氏名】山本 憲吾
(72)【発明者】
【氏名】山本 隆将
(72)【発明者】
【氏名】松田 亮
(72)【発明者】
【氏名】新堂 正俊
【テーマコード(参考)】
3C707
【Fターム(参考)】
3C707AS12
3C707BS12
3C707KS31
3C707KW03
3C707KX02
3C707KX06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】自立動作制御を行う産業用ロボットにおいて事後的に装着したツールモニタリングユニットでセンシングしたデータを産業用ロボットのCNC等内部情報と融合させて、産業用ロボットの動作を高精度化し得る産業用ロボットの制御システムを提供する。
【解決手段】ロボット内制御部が産業用ロボットによる所定の移動/回転動作が行われるときにロボットの姿勢の情報と変位量検出部の検出値とを用いた前記ロボットの制御を行いながら、ロボット内検出部の検出値に基づいた力制御を行う。ロボットの先端にはワークの被加工対象部に対して所定の加工を行う加工ツールを把持してロボットと協働して移動及び/又は回転するツールモニタリングユニットが連結され加工ツールに生じる力を逐次検出する加工ツール検出部と、同一時間軸の加工ツール検出部の検出値及びロボット内検出部の検出値に基づいてロボット内制御部の制御信号を補正する割込制御部と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステージに載置されたワークに対して相対的に変位可能であり、該ワークの非加工対象部に対して所定の加工を行う産業用ロボットと、
前記産業用ロボットの姿勢、及び前記所定の移動/回転動作を制御するロボット内制御部と、
所定の加工時における前記産業用ロボットのワークに対する変位量を逐次検出する変位量検出部と、
少なくとも前記産業用ロボットに支持される部品、ワーク又は外部物体と前記産業用ロボット又は産業用ロボットが支持する部品とが接触することによって生ずる力を検出するロボット内検出部と、を備え、
前記ロボット内制御部が、
前記産業用ロボットによる前記所定の移動/回転動作が行われるときに、前記ロボットの姿勢の情報と前記変位量検出部の検出値とを用いた前記ロボットの制御を行いながら、前記ロボット内検出部の検出値に基づいた力制御を行う産業用ロボットシステムであって、
前記ロボットの先端にはワークの被加工対象部に対して所定の加工を行う加工ツールを把持して該ロボットと協働して移動及び/又は回転するツールモニタリングユニットが連結され、該ツールモニタリングユニットは、少なくとも加工ツールに生じる力を逐次検出する加工ツール検出部と、同一時間軸の前記加工ツール検出部の検出値及び前記ロボット内検出部の検出値に基づいて前記ロボットのロボット内制御部の制御信号を補正する割込制御部と、を備える、産業用ロボット制御システム。
【請求項2】
前記ツールモニタリングユニットは、該加工ツール検出部により検出された力の検出値を同一時間軸における前記ロボット内検出部により検出された力の検出値から算出する、請求項1に記載の産業用ロボット制御システム。
【請求項3】
前記ツールモニタリングユニットの加工ツール検出部は、加工ツールに生じる力及び振動及び/又は熱を逐次検出する、請求項1に記載の産業用ロボット制御システム。
【請求項4】
前記加工ツール検出部において逐次検出する温度は、加工ツールのワークに対する任意の加工面の方向に向いて少なくとも1つ配設された非接触系外温度計により検出する、請求項3に記載の産業用ロボット制御システム。
【請求項5】
前記加工ツール検出部において逐次検出する振動は、ワークに対する加工ツールの並進方向及び垂直方向の振動加速度を検出する加速度センサにより検出する、請求項3又は4に記載の産業用ロボット制御システム。
【請求項6】
前記ツールモニタリングユニットは、前記加工ツール検出部の検出値、前記ロボット内検出部の検出値、及び/又は前記変位量検出部の検出値を同一時間軸で比較し、前記割り込み制御部によって前記ロボット内制御部の制御を補正する、請求項1~5のいずれか1項に記載の作業ロボットシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々の現象のモニタリングからフィードバックした自立動作制御を行う産業用ロボットにおいて、事後的に装着したツールモニタリングユニットでセンシングしたデータを産業用ロボットのCNC等内部情報と融合させて、産業用ロボットの動作を高精度化し得る産業用ロボットの制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、加工技術の高精度化に伴い産業用ロボットが行う作業も複雑高度化しており、IoT(Internet of Things)技術の発達に基づき産業用ロボットのセンシング技術と検出データから自律動作することが求められている。所謂6軸加工ロボットに代表されるこの産業用ロボットでは、CNC(Computerized Numerical Control)等コンピュータ数値(以下、本明細書では代表的な「CNC」で表現)によりロボットの移動量・傾斜・工具の回転速度等の動作が制御(「加工制御」とも称する)されているが、産業用ロボットは単純な加工制御だけでなく、種々の現象をモニタリングし、そのデータをフィードバックして自律動作制御することが要求される。
【0003】
近年、種々の現象のモニタリングからフィードバックした自立動作制御の活用例として、特に安全柵レスで人と協調できる産業用ロボット(以下「協働ロボット」とも称する。)の開発が進んでいる。通常の加工動作と異なり、人が接触したりロボットと他の部品等が衝突・干渉する場合を想定した動作停止等の安全制御が行われている(「異常時制御」とも称する:特許文献1参照)。一般的にこの協働ロボットにおける異常時制御は、人やロボット部品、周辺機器等との接触・干渉を接触センサにより、接触時に負荷される荷重を計測し、所定条件を満たすとCNCの内部情報に割り込んで協働ロボットの動作停止等行っている(特許文献2参照)。この異常時制御のような自立制御におけるCNC内部情報を用いて加工制御を高精度なものにしていくニーズが大きい。
【0004】
しかしながら、実際の現場における加工制御は複雑なものが多く、慣性重量の大きい協働ロボットに搭載された自立制御を用いて高精度な加工制御を補正していくことには限界がある。例えば、複雑形状で高精度が要求される磨き作業(加工)を協働ロボットで行う場合、ロボットに内蔵する上記接触センサからのデータを用いて自立制御することは難しく、サーボの内部情報や無線通信機能を具備しての自立制御を行うことができるIoT対応型の協働ロボットの提供には至っていない現状があった。
【0005】
一方、本出願人は従来より主軸先端に事後代替え的に装備し、マシニングセンタ等の加工装置における工具等の温度/振動/力をモニタリングする加工ツールモニタリングユニットの開発に取り組んできており、このモニタリング装置から得たデータを検出し、外部送信して分析する装置を提供している(特許文献3等参照)。さらにこの加工ツールモニタリング装置では、外部から割り込み処理をして加工装置のCNC内部情報を修正する技術も提供している(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-130646号公報
【特許文献2】特開2020-163478号公報
【特許文献3】特開2017-140696号公報
【特許文献4】国際公開WO2020/149316公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記実情に鑑みて、協働ロボットに代表されるような種々の現象のモニタリングからフィードバックした自立動作制御を行う産業用ロボットにおいて、その主軸先端に装着される上記加工ツールモニタリングユニットからの検出情報を産業用ロボットにフィードドバックして産業用ロボットのCNC等コンピュータ数値の内部情報と融合させて、産業用ロボットの動作精度を高速・高精度化する産業用ロボット制御システムを提供することを目的とする。また同時に本発明の産業用ロボットシステムでは、産業用ロボットのCNC等コンピュータ数値の内部情報を加工ツールモニタリング装置にフィードバックして、その検出情報に融合させる産業用ロボットの制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため具体的に本発明の産業用ロボット制御システムは、
ステージに載置されたワークに対して相対的に変位可能であり、該ワークの非加工対象部に対して所定の加工を行う産業用ロボットと、
前記産業用ロボットの姿勢、及び前記所定の移動/回転動作を制御するロボット内制御部と、
所定の加工時における前記産業用ロボットのワークに対する変位量を逐次検出する変位量検出部と、
少なくとも前記産業用ロボットに支持される部品、ワーク又は外部物体と前記産業用ロボット又は産業用ロボットが支持する部品とが接触することによって生ずる力を検出するロボット内検出部と、を備え、
前記ロボット内制御部が、
前記産業用ロボットによる前記所定の移動/回転動作が行われるときに、前記ロボットの姿勢の情報と前記変位量検出部の検出値とを用いた前記ロボットの制御を行いながら、前記ロボット内検出部の検出値に基づいた力制御を行う産業用ロボットシステムであって、
前記ロボットの先端にはワークの被加工対象部に対して所定の加工を行う加工ツールを把持して該ロボットと協働して移動及び/又は回転するツールモニタリングユニットが連結され、該ツールモニタリングユニットは、少なくとも加工ツールに生じる力を逐次検出する加工ツール検出部と、同一時間軸の前記加工ツール検出部の検出値及び前記ロボット内検出部の検出値に基づいて前記ロボットのロボット内制御部の制御信号を補正する割込制御部と、を備える。
【0009】
本発明では、上述する自律動作制御を行う産業用ロボットのうち、人や部品等との接触・干渉を接触力検出部(接触センサ)でモニタリングして、変位量検出部で検出された姿勢(位置や傾斜等)におけるデータをフィードバックしてCNC等のロボット内制御部の内部情報を修正して、その姿勢での動作停止させる自立動作制御を行う協働ロボット等産業用ロボットの制御システムを提供している。後付けした工具等加工ツールのセンシングを行うツールモニタリングユニット(加工ツールモニタリング装置)から得られたデータに基づきロボットのCNC等内部情報を修正することで協働ロボットの動作を高精度にする産業用ロボット制御システムを提供している。
【0010】
詳細には後述するが、発明者らは協働ロボットの加工精度向上を企図して出願人が技術を有するツールモニタリングユニットを用いてワーク加工中の工具等のツールの力・温度・振動のリアルタイムな現象を検知・分析している過程において協働ロボット側で自立動作制御のためにセンシングしている内部情報と比較して、少なくとも力については両データが安定的に線形の関係(以下、単に「シンクロする」と表現することもある。)を有しているという知見を得た。これを契機として本発明は開発され、協働ロボットに代表される自律動作制御を行う産業用ロボットにおいて、別途工具等の加工ツールの現象のリアルタイム検出値に基づいてロボット側のCNC等コンピュータ数値を補正することで産業用ロボットの姿勢等制御を高精度にすることができる。
【0011】
また、前記ツールモニタリングユニットは、該加工ツール検出部により検出された力の検出値を同一時間軸における前記ロボット内検出部により検出された力の検出値から算出する、ことが好ましい。
【0012】
とりわけ磨き加工を行う協働ロボット等の産業用ロボットでは、ワークにかかる負荷を認識したい場合、絶対座標であるロボット空間座標系で取得できるロボット基準(土台等に配置)の力センサのほうが優位であり、工具等加工ツールにかかる負荷も十分に取得できるという知見を得たことから、本産業用ロボット制御システムでは工具等加工ツールに加えられる力をセンシングする本ツールモニタリングユニットからの相対座標に基づくデータを同一時間軸における絶対座標のロボット空間座標系として評価することができる。
【0013】
また、前記ツールモニタリングユニットの加工ツール検出部は、加工ツールに生じる力及び振動及び/又は熱を逐次検出することができる。
【0014】
上記本産業用ロボット制御システムでは、ツールモニタリングユニットにおいて力以外に熱や振動を測定し、産業用ロボットの制御を高精度とすることができる。特に磨き加工を行う協働ロボット等の産業用ロボットでは、ワークへの切り込み量は工具等加工ツールの振動と温度とに大きく依存することがわかり、磨き面(磨き工具の表面)の温度・振動を計測することでワークへの正確な磨き精度の重要因子となる切り込み量を制御することができ、より高精度な磨き加工を達成することが可能となる。
【0015】
また、前記加工ツール検出部において逐次検出する温度は、加工ツールのワークに対する任意の加工面の方向に向いて少なくとも1つ配設された非接触系外温度計により検出することが好ましい。
【0016】
上記のように協働ロボット等産業用ロボットで磨き加工を行う場合、加工ツールのワークに対する任意の加工面の方向(例えば、加工ツールの任意の径方向)に1つ安価な赤外線温度センサ等の非接触系外温度計を配設すれば十分であり、簡易且つ安価なモニタリング及び制御方法を提供している。
【0017】
また、前記加工ツール検出部において逐次検出する振動は、ワークに対する加工ツールの並進方向及び垂直方向の振動加速度を検出する加速度センサにより検出することができる。
【0018】
さらに、前記ツールモニタリングユニットは、前記加工ツール検出部の検出値、前記ロボット内検出部の検出値、及び/又は前記変位量検出部の検出値を同一時間軸で比較し、前記割り込み制御部によって前記ロボット内制御部の制御を補正することができる。
【0019】
本産業用ロボット制御システムでは、ツールモニタリングユニットの加工ツール検出部で検出される工具等加工ツールの検出データと産業用ロボット側の検出データである内部情報とを同一時間軸で融合・分析して、その結果に基づいてロボット側のCNC等内部情報を自動的に更生する制御ができる点でより高精度な加工を達成する。とりわけ従来は産業用ロボットごとにその装置メーカが装置に備え付けた制御ユニットでCNC等コンピュータ数値である内部情報を補正して高精度化・安全化に向けた動作制御を行っていたが、本産業用ロボット制御システムでは種々の産業用ロボットに適用でき、加工種類に応じたロボット制御の高精度化を達成し得るユニバーサルなシステムが提供できる基本的構成となっている点で大きく有利である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の産業用ロボット制御システムによれば、協働ロボットに代表されるような種々の現象のモニタリングから所謂自立動作制御を行う産業用ロボットにおいて、その主軸先端に装着されるツールモニタリングユニットからの検出情報と産業用ロボットのCNC等の内部情報と融合させて、産業用ロボットの動作を高精度化することができる。またこれと同時に産業用ロボットのCNC等の内部情報をツールモニタリングユニット側にフィードバックして、その検出情報に融合させることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本産業用ロボット制御システムにおいてロボット内検出部及び加工ツール検出部で力の検出を検証した際の加圧点、ツールモニタリングユニットにおける軸付回転砥石と周辺センサの配置図を示す写真図である。
図2】赤外線温度センサと赤外線サーモグラフィカメラを用いて温度計測する実験装置セッティングを示す図である。
図3】土台の力センサ、赤外線温度センサ及び無線振動計測システムにより加工中の力・熱・振動のモニタリングを試みる実験装置のセッティングを示している。
図4】本発明の産業用ロボット制御システムにおけるツールモニタリングユニットの加工ツール検出部において振動検出を実行する無線振動モニタリングシステムの構成例及び振動加速度のモニタ方法を示している
図5】1つの実証実験として実施したワークの周囲に対し磨き動作をした際の力,温度,振動のモニタリングのワーク形状および工具(加工ツール)軌跡およびセンシング位置概略図である。
図6】左欄及び右欄にそれぞれ図1の 1 点1,2の加圧力とハンド力センサのシステム変数1-3(上段~下段)の1 秒間平均値の関係が示されたグラフ図である。
図7】左欄及び右欄にそれぞれグラフで1 点1,2の加圧力と土台力センサのシステム変数1-3 (上段~下段)の1 秒間平均値(横軸)の関係が示されたグラフ図である。
図8】磨き加工中に発生する熱を図2に示す点c(90°)から赤外線サーモグラフィカメラで撮影した写真図である。
図9】温度が飽和したときだけでなく、温度の立ち上がりから工具径方向には一定の温度となったことを示すグラフ図である。
図10】押付開始10秒時点での工具の回転数変化を切り込み量ごとにプロットしたものに示すグラフ図である。
図11】各センサから温度・振動加速度・力の平均値及び切り込み変化を示すグラフ図である。
図12】各切り込み量における各往復時の磨き効率をモニタリングした平均値を示すグラフ図である。
図13図12におけるモニタリング時の表面性状の観察結果を示す写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、上述する本発明の産業用ロボット制御システムの概要について説明する。特に明細書では、一例として産業用ロボットの1つである人等との接触検知用の力センサを有する協働ロボットにおいて主軸先端に把持された工具でワークに対して複雑形状の磨き加工と行う場合に着目して、協働ロボット内のロボット内検出部及び本ツールモニタリングユニットの加工ツール検出部において工具の力・振動・温度を検出し、外部に無線したデータを分析した実証実験の結果、得た知見を説明し、同時にロボット内検出部としての接触検知用の力センサの内部情報を磨き加工の高度化にも活用した新しい磨きシステムが構築された産業用ロボット制御システムを説明する。
【0023】
《磨き作業用の協働ロボットとCNC内部情報の取得について》
本実証実験で用いた産業用ロボットは、7kg可搬のJ1軸~J6軸の6 軸協働ロボット(FANUC 社:CR-7iA/L)であり,ロボット内検出部として根元のJ1軸直下の土台部(協働ロボットの構成部品)に力センサ(Force sensor(Base))を有している。この土台部の力センサで人等との接触を認識するようになっており,本産業用ロボット制御システムは、力センサの出力値としてCNCシステム変数(内部パラメータ) を取得し、外部PCに無線出力する。また協働ロボットは、その先端のJ6 軸先端にも力センサ(Force sensor(Hand)(FANUC 社:FS-15iA))が取り付けられており、この出力値も同様に本産業用ロボット制御システムでCNCシステム変数を取得し外部に出力した。なお、ここで示す本産業用ロボット制御システム例は、協働ロボットの先端部に装着される本ツールモニタリングユニット(Wireless Vibration Monitoring System(山本金属製作所:MULT INTELLIGENCE))の先端に治具を介して工具(加工ツール)としてのエアリュータ(Air Leutor(UHT 社:MSG-3BSPlus))を取り付けた磨き作業用のロボットシステムである。図1には本産業用ロボット制御システムにおいてロボット内検出部及び加工ツール検出部で力の検出を検証した際の加圧点(Pressure point)が示されており、この加圧点1、2(Pressure point 1, 2)に対し、力の検出を実施した。
【0024】
《研磨(磨き)作業用の工具(加工ツール)と無線送信および外部センサについて》
本ツールモニタリングユニットの先端にあるエアリュータ周辺に複数のセンサ(変位量検出部、ロボット内検出部、加工ツール検出部等)を取り付け、その先端には軸付回転砥石(Rotary tool)を取り付けた。本ツールモニタリングユニットにおける軸付回転砥石と周辺センサの配置図は図1に示される通りである。実証実験で使用したセンサの一覧を以下の表1に示している。
【表1】
【0025】
また実証実験では、磨き加工中に発生する熱の確認をするため図1に示すように赤外線温度センサ(Infrared temperature sensor)と赤外線サーモグラフィカメラ(Thermal imaging camera)を用いて温度計測を実施した。その時の実験装置セッティングを図2、磨き加工の条件を下記表2に示している。赤外線温度センサはサーモバイル検出型を利用し,砥石底面から3mm の位置で磨き加工中の砥石上の1 点における温度情報を1 方向(図2に示すa 点から X軸に対して180°反対方向)から取得した。
【表2】
【0026】
また、赤外線サーモグラフィカメラでは工具表面の温度を3 方向(図2のb,c,d 点からX 軸に対して30°,90°,150°反時計回転方向)から撮影した。本ツールモニタリングユニットでは、この磨き加工において切り込み量を変化させた際の力、温度、振動の変化を確認するため上述する土台の力センサ、赤外線温度センサに加えて無線振動計測システムを備えており、これらにより加工中の力・熱・振動のモニタリングを試み、そのときの実験装置のセッティングを図3、磨き加工の条件を下記表3に示している。
【表3】
【0027】
本ツールモニタリングユニットの加工ツール検出部において振動検出を実行する例として、無線振動モニタリングシステムによる構成例及び振動加速度のモニタ方法を図4に示している。図4左欄には主軸に協働回転するように連結された本ツールモニタリングユニットの主要構成例が示されており、本ツールモニタリングユニット上方の主軸側の小型ケース(Wireless Vibration monitoring System)内に1軸方向に感度をもつ圧電型加速度センサ(4X acceleration sensors(図4右蘭参照))を同一円周上に等間隔に4つ配置した。
【0028】
上下径方向対面にそれぞれ配置されたセンサの周方向の加速度ax1, ax2は、図4右欄に示す両矢印の方向に+の感度を有しており、1軸方向としてXm は(ax1-ax2)/2 で振動加速度の差分演算(アナログオペアンプ演算)により算出して回転振動成分は相殺している。また、同様に残り2つのセンサXm、その垂直成分であるZm(=(az1-az2)/2で振動加速度の差分演算した振動加速度)の計2方向の振動加速度のモニタが可能となる。任意時間t における差分または加算演算の出力をx(t)としたとき、振動の実効値RMS(Root Mean Square)演算a(t)は下記式1で示される。
【数1】
【0029】
本ツールモニタリングユニットにおける無線振動モニタリングシステム内のマイコンでは,積分時間をT=0.1s と設定しリアルタイムにアナログ演算し,演算結果のa(t)をA/D 変換した後にワイヤレス送信の転送周波数50Hz,すなわち0.02s 間隔で小型ケースより遠隔PC に接続した受信機に向けて送信する仕様となっている.ここで用いたセンサの固有振動数は20kHz で10kHz 程度までの振動加速度の検出が可能である。
【0030】
具体的な圧電型加速度センサ(4X acceleration sensors)からの振動計測信号の流れとしては、図4左欄の構成例に示すように圧電型加速度センサからアナログ信号の振動信号が送信され増幅回路(Amplifer)によりインピーダンスを整合し、ゲイン対周波数特性が変更される。増幅回路からの出力信号は圧電型加速度センサの共振周波数をカットして信号出力することもでき、その出力信号はローパスフィルタ(Filter)によりオペアンプで構成される減算回路(差動増幅回路)、加算回路及び平均化処理回路(Averaging circuit)で振動の大きさを定量的に捉える処理、例えば、RMS(二乗平均平方根)による平均化処理をし、加速度の実効値を出力する。その後、A/D変換器(A/D converter)によりアナログ信号をデジタル信号に変換し、マイコン(Micro-controller)で送信データを処理して無線送受信機(Transmitter)で外部送信される。図示しないが無線送信された振動情報(振動データ)は、無線受信機で受信されて専用ソフトウェアをインストールした外部PCで処理されてディスプレイ上に協働ロボットからのセンサ情報・CNC内部情報とともに同一時間軸に表示され、分析し、CNC内部情報を補正等して外部PCからロボット内制御部に割り込み処理できる状態になる。
【0031】
《加工条件について》
実証実験では一例として、材質JIS:S50C の8 角形ワークの周囲に対し磨き動作をした際の力,温度,振動のモニタリングを実施した。そのときのワーク形状と工具軌跡およびセンシング位置概略図を図5に、磨き加工の条件を下記表4に示している。磨き動作は8 角形ワークの4 辺を連続して磨く動作20 往復を3 セット繰り返し,加工後の表面粗さを確認した。加工モニタリングは先述の土台部力センサ、赤外線温度センサ及び無線振動計測システムを用いて実施した。この動作を切り込み2 条件に対して実施した。
【表4】
【0032】
《実証実験の結果と考察(協働ロボットのCNC内部情報と力の検出)について》
力の検出は、図1に示す1 点1,2(Pressure point 1(Tool end), Pressure point 2(Base)) の協働ロボット基準の絶対座標系(以下、「ロボット座標系」とも称する。)でX,Y,Z 方向それぞれに対してばねばかりにて0.98N 刻みで4.9Nになるまで(具体的には0N, 0.98N, 1.96N, 2.94N, 3.92N, 4.9Nの6条件で)加圧したのち、0Nまで同刻みで減圧した際の力センサ(Force sensor(Base), Force sensor(Hand))の値を確認した。図6には左欄及び右欄にそれぞれ図1の 1 点1,2(Pressure point 1(Tool end), Pressure point 2(Base))の加圧力(横軸)とハンド力センサ(Force sensor(Hand))のシステム変数1-3(上段~下段(Hand Force[1]~[3]))の1 秒間平均値(縦軸)の関係が示されている。また図7には図6同様に、左欄及び右欄にそれぞれグラフで1 点1,2(Pressure point 1(Tool end), Pressure point 2(Base))の加圧力(横軸)と土台力センサ(Force sensor(Base))のシステム変数1-3 (上段~下段(Base Force[1]~[3]))の1 秒間平均値(横軸)の関係が示されている。
【0033】
図6左欄に示すように図1に示す点1(Pressure point 1(Tool end))において、システム変数1(上段(Hand Force[1]))がZ,X 方向の順に大きく変動しており、システム変数2(中段(Hand Force[2]))がY 方向に変化しており、システム変数3(下段(Hand Force[3]))がX,Z 方向の順に大きく変動していることがわかる。これはツールの取り付け方向がハンド力センサ(Force sensor(Hand))の認識方向と同一ではないことに起因していると考えられ、このことからハンド力センサ(Force sensor(Hand))では土台側に荷重をかけた際に負荷が認識できないことが予想された。実際に図6右欄のように点2(Pressure point 2(Base))において、土台側センサ(Force sensor(Base))は、0 点からほぼ横ばいとなっていた。
【0034】
次に図7左欄に示すように図1に示す点1(Pressure point 1(Tool end))において、システム変数1(上段(Base Force[1]))がX方向、システム変数2(中段(Base Force[2])) がY方向、システム変数3(下段(Base Force[3]))がZ方向に荷重がかかった際に線形的に変化することがわかる。また、荷重をかける位置によらず荷重0N時点からの相対変化量がほぼ同じとなっており、先端での荷重を土台の力センサ(Force sensor(Base))で十分認識できていることがわかった。よって、実証実験からワークにかかる負荷を認識したい場合、絶対座標であるロボット空間座標系で取得できるロボット土台の力センサ(Force sensor(Base))のほうが優位であり、工具先端にかかる負荷も十分に取得できることがわかった。これを活用すれば、工具等のツールの力をセンシングする本ツールモニタリングユニットからの相対座標に基づくデータを同一時間軸における絶対座標のロボット空間座標系として評価することができる。
【0035】
《砥石温度のモニタリングについて》
図8には、磨き加工中に発生する熱を図2に示す点c(90°)から赤外線サーモグラフィカメラ(Thermal imaging camera(図1も参照))で撮影した写真を示している。面温度を確認すると工具径方向に一定であることがわかった。これは撮影角度に問わず同様となっていた。また図9は、温度が飽和したときだけでなく、温度の立ち上がりから工具径方向には一定の温度となったことを示すグラフ図である。このグラフ図では、測定範囲において最高温度の経時変化を角度毎に30°(30deg),90°(90deg),150°(150deg) ,180°(180deg)に、赤外線温度センサ(Infrared temperature sensor(図1も参照))から得られた温度の経時変化を180°としてプロットしている。これらを比較すればわかるように、いずれのセンサにおいても類似したグラフになっており、今回の砥石においては計測角度によって温度値に大きな変化がなく、磨き加工中の温度計測は径方向で1か所温度測定をすれば十分であることがわかった。また、赤外線サーモグラフィカメラと赤外線温度センサにおいて得られた温度値も大きな違いがなく赤外線温度センサでも加工中の温度を十分に計測できることがわかった。
【0036】
《切り込み量変化時の力・温度・振動モニタリング》
さらに上記磨き加工において工具(Tool)を回転させながら絶対座標としてのロボット座標系でY-方向に60秒間ワーク(S50C(機械構造用炭素鋼鋼材))に押し当てた際の力、温度、振動のモニタリング,を実施した。このとき径方向切り込み量は0~0.5mmまで0.1mm刻みで6条件実施した。図10は、押付開始10秒時点での工具の回転数変化(縦軸:Spindle speed(min-1))を切り込み量(横軸:Ae(mm))ごとにプロットしたものに示すグラフ図である。このグラフ図から切り込み量を増やすにしたがって工具とワークの接触面積が大きくなり、その摩擦力によって工具の回転数が低下していることがわかる。
【0037】
図11は、左欄上段に赤外線温度センサ(Infrared temperature sensor(図1も参照))からの温度値(Tempereture(℃))、左欄中段にXm(図4に示す(ax1-ax2)/2で振動加速度の差分演算した振動加速度:Vibration RMS(mV))、左欄下段にZm(図4に示すZm=(az1-az2)/2で振動加速度の差分演算したXmの垂直成分の振動加速度:Vibration RMS(mV))、右欄上~下段に土台力センサ(Base force[1]~[3](図4も参照):Original data(-))の加工開始10sから50sまでのそれぞれ平均値を算出し、それを切り込み変化(Ae(mm))に対してプロットしたグラフ図が示されている。赤外線温度センサの平均値(左欄上段)を確認するとAe=0.3mmまで切り込みを増やすごとに温度上昇していたが、それ以上切り込みを増やすと温度低下して安定した温度平衡状態を示していることがわかる。これは切り込みを増やせば工具とワークとの接触面積が増え、工具の回転数が低下し、単位時間当たりの除去量が落ちているためと考えられる。また、振動値(振動加速度)Xm,Zmを確認すると切り込みAe=0.2mmが最も高く,それ以上切り込みを上げると振動値(振動加速度)が低下しており(左欄中下段)、回転数の低下による強制振動の低下や接触剛性の変化の影響を検出したもと考えられる。
【0038】
図11右蘭上中段からハンド力センサ(Force sensor(Hand))とシンクロする土台力センサ(Base force[1]~[2])の値を確認すると、Ae=0.5mm時にX方向1N相当,Y方向に4N相当の力が発生していると考えられ、切り込み(Ae)に応じて指数関数的に上昇していることがわかった。また、図11右欄下段からZ方向の力(土台力センサ(Base force[3])の値)に関しては切り込みAe0.1~0.5mmでほぼ一定となっており、切込み量に大きく依存しないため温度平衡と振動が低下する適切な切り込み量とを探索できることがわかる。
【0039】
《実証実験の結果と考察(砥石による磨き加工)について》
無線モニタで安定した研磨条件が判明したので,その差が大きい切り込み量Ae=0.2mm,0.4mmの時の20,40,60往復時の磨き効率について検討した。各種モニタリングの平均値を図12に、表面性状の観察結果を図13に示している。表面粗さRaの値を確認すると、振動が安定しているAe=0.4mm時の方が値が低く良好な面が得られており、効率的な磨きが実現できていることがわかった。モニタリング結果を切り込み毎で比較すると、温度と力に関しては切り込み量が多いほうが大きく、振動に関しては切り込み量が少ないほうが小さくなっていた。Ae=0.4mmの方がAe=0.2mmと深くして研削量が多く発熱しているが、回転数低下のため振動が少なくなっていることが表面粗さを小さくできた要因であると考えられる。
【0040】
《実証実験の考察まとめ》
本産業用ロボット制御システムにおける本ツールモニタリングユニットとしての無線通信機能を具備したモニタリングシステムと赤外無線通信機能を具備したモニタリングシステムと赤外温度センサとを協働ロボットに取り付け、協働ロボットのCNC内部情報の取得と融合しながら磨き加工を検証した結果、以下の考察結果が得られた。
(1)協働ロボットに具備された人や周辺部品等との接触(干渉)検出用土台の力センサからCNC内部情報を活用して,ロボット先端に発生する加工負荷をモニタできることがわかった。
(2)赤外線サーモグラフィカメラを用いることで回転砥石円周上において加工温度が均一であることわかり,工具周上1点の温度を観察すれば加工点の温度が計測できることがわかった。
(3) 回転砥石の切り込み量を変化させた場合,切り込みに応じてエアリュータの回転数が下がり温度平衡を示し,また接触剛性が変化して振動は安定した。したがって,それらのモニタで適切な切り込み量が探索できることわかった.
(4)モニタリングにより探索した適切な切り込み量でケースタディを遂行して、本産業用ロボット制御システムが加工の高度化に有効であることを確認した。
【0041】
《モニタリング・分析した結果に基づく本産業用ロボット制御システムでの制御例》
なお、本産業用ロボット制御システムでは、協働ロボットのセンサ情報・CNC内部情報及び本ツールモニタリングユニットから外部パソコン8内でシンクロさせて読取った力・振動・温度情報は、磨き加工等加工条件に応じて予め設定した条件と比較判定し、協働ロボットの動作修正や停止を行うべく協働ロボットのCNC内部情報に割り込む信号を送信し、NCプログラムを変更することができる。
【0042】
図示しないが具体的な協働ロボットの内部制御部のNCプログラム側の割り込み処理フロー例としては、外部PCから割込み制御機能がONにされると、割込み発生時に呼び出す協働ロボットの動作補正・停止としてサブプログラムを登録し、協働ロボットの内部制御部(NCプログラム)が割込み信号を外部PCから受信するとその内部制御部は登録したサブプログラムが実行され、協働ロボットの動作補正・停止を行うよう制御することとなる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13