(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022134687
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】半導体駆動回路及び電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02M 1/08 20060101AFI20220908BHJP
H02M 7/5387 20070101ALI20220908BHJP
H03K 17/695 20060101ALI20220908BHJP
H03K 17/687 20060101ALI20220908BHJP
H03K 17/16 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
H02M1/08 A
H02M7/5387 Z
H03K17/695
H03K17/687 F
H03K17/16 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021033988
(22)【出願日】2021-03-04
(71)【出願人】
【識別番号】000002037
【氏名又は名称】新電元工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082876
【弁理士】
【氏名又は名称】平山 一幸
(74)【代理人】
【識別番号】100086807
【弁理士】
【氏名又は名称】柿本 恭成
(74)【代理人】
【識別番号】100178906
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 充和
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 俊之
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健一
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 亘
【テーマコード(参考)】
5H740
5H770
5J055
【Fターム(参考)】
5H740AA04
5H740BA12
5H740BB08
5H740BB10
5H740BC01
5H740BC02
5H740HH05
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5H770HA02Z
5J055AX12
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5J055GX01
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5J055GX05
(57)【要約】
【課題】ノイズ等によりスイッチング素子が誤点弧する恐れが低い場合に、そのスイッチング素子のソースからドレインへの逆電流導通時の逆導通電圧降下を減少させ、逆導通損失を低減する。
【解決手段】LLC回路等の電力変換装置は、半導体駆動回路を有している。半導体駆動回路は、スイッチング素子32,33が直列に接続されたアームと、そのスイッチング素子32と33とを同時にオフ状態になるデッドタイムをおいて相補的にオン/オフ駆動する駆動回路34,35と、を備えている。各駆動回路34,35は、スイッチング素子32又は33の誤点弧が発生し易くなる情報を基に、そのスイッチング素子32又は33をオフ状態にするための負バイアスのバイアス量を変化させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1スイッチング素子及び第2スイッチング素子を有し、前記第1スイッチング素子及び前記第2スイッチング素子が、正電源側と負電源側との間に直列に接続されたアームと、
前記第1スイッチング素子と前記第2スイッチング素子とが同時にオフ状態になるデッドタイムをおいて相補的にオン/オフ駆動する2つの駆動回路と、
を備える半導体駆動回路において、
前記各駆動回路は、
前記第1スイッチング素子又は前記第2スイッチング素子の誤点弧が発生し易くなる情報を基に、前記第1スイッチング素子又は前記第2スイッチング素子をオフ状態にするための負バイアスのバイアス量を変化させる、
ことを特徴とする半導体駆動回路。
【請求項2】
前記第1スイッチング素子又は前記第2スイッチング素子の前記誤点弧が発生し易くなる情報は、
負荷の状態が重負荷か又は軽負荷かの情報である、
ことを特徴とする請求項1記載の半導体駆動回路。
【請求項3】
前記負荷の状態が前記重負荷か又は前記軽負荷かは、
前記負荷に流れる負荷電流を検出し、この検出結果が閾値を超えると前記重負荷と判定し、前記検出結果が前記閾値を超えなければ前記軽負荷と判定する、
ことを特徴とする請求項2記載の半導体駆動回路。
【請求項4】
前記負荷の状態が前記重負荷か又は前記軽負荷かは、
前記第1スイッチング素子又は前記第2スイッチング素子に流れるスイッチング電流を検出し、この検出結果が閾値を超えると前記重負荷と判定し、前記検出結果が前記閾値を超えなければ前記軽負荷と判定する、
ことを特徴とする請求項2記載の半導体駆動回路。
【請求項5】
前記負荷の状態が前記重負荷の時には、前記第1スイッチング素子又は前記第2スイッチング素子をオフ状態にするための前記負バイアスのバイアス量を減少させる、
ことを特徴とする請求項2~4のいずれか1項記載の半導体駆動回路。
【請求項6】
前記負荷の状態が前記軽負荷の時には、前記第1スイッチング素子又は前記第2スイッチング素子をオフ状態にするための前記負バイアスのバイアス量を増加させる、
ことを特徴とする請求項2~4のいずれか1項記載の半導体駆動回路。
【請求項7】
前記負バイアスのバイアス量は、リニアに変化させる、
ことを特徴とする請求項1~6のいずれか1項記載の半導体駆動回路。
【請求項8】
前記アームは、
並列接続された複数のアームを有し、
前記各アームは、
前記2つの駆動回路により相補的にオン/オフ駆動される前記第1スイッチング素子及び前記第2スイッチング素子を有する、
ことを特徴とする請求項1~7のいずれか1項記載の半導体駆動回路。
【請求項9】
前記第1スイッチング素子及び前記第2スイッチング素子は、
化合物半導体を用いた素子である、
ことを特徴とする請求項1~8のいずれか1項記載の半導体駆動回路。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項記載の半導体駆動回路を用いた、
ことを特徴とする電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイッチング素子を駆動する半導体駆動回路と、その半導体駆動回路を用いた電力変換装置と、に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電力変換装置は、交流(AC)から直流(DC)、直流から交流、或いは交流の周波数変換、直流の電力変換等、電気エネルギーを変換する装置であり、例えば、AC/DCコンバータ、DC/ACインバータ、DC/DCコンバータ、LLC形DC/DCコンバータ(以下「LLC回路」という。)、位相シフトをするフルブリッジ回路(以下「位相シフト回路」という。)等の種々の装置が知られている。
【0003】
特許文献1には、電力変換装置(例えば、位相シフト回路)について記載されている。位相シフト回路を構成するスイッチング素子として、化合物半導体を用いたノーマリオフ型のGaNトランジスタ、SiCトランジスタの例が記載されている。特に、GaNトランジスタは、Siトランジスタよりも電気的、物理的特性に優れ、大電力、小型、低損失のパワー半導体素子として注目されている。
特許文献2,3には、スイッチング素子として、ノーマリオフ型のGaNトランジスタ、SiCトランジスタ等が直列接続され、上アーム及び下アームで形成されたアームと、それらのスイッチング素子を駆動するための駆動回路を備えた半導体駆動回路が記載されている。
特許文献4には、電界効果トランジスタ(以下「FET」という。)からなるブリッジ構成の主スイッチング部と、前記FETのゲートを駆動する変圧器と、前記変圧器の1次巻線に接続され、前記1次巻線を駆動する駆動部と、を有する電源回路が記載されている。
【0004】
図6(a),(b),(c)は、特許文献1に記載された位相シフト回路と類似の回路構成である従来の単相のハーフブリッジ形LLC回路を示す図である。この
図6(a)~(c)において、(a)はLLC回路の全体の回路図、(b)は(a)中の駆動回路の回路図、及び、(c)はその駆動回路の出力電圧波形図である。
【0005】
図6(a)の単相のハーフブリッジ形LLC回路は、直流電源1の正極(正電源側)と負極(負電源側)との間に直列に接続された第1及び第2スイッチング素子2,3からなるアームと、そのスイッチング素子2,3をオン/オフ駆動する2つの駆動回路4,5と、を有する矩形波発生用の半導体駆動回路を備えている。スイッチング素子2,3は、例えば、ノーマリオフ型のGaNトランジスタで構成され、それらのゲート(G)が駆動回路4,5にて、同時にオフ状態になるデッドタイムをおいて相補的にオン/オフ駆動される。ノーマリオフ型のGaNトランジスタは、ゲートが低レベル(以下「Lレベル」という。)の例えば0V以下でドレイン(D)及びソース(S)間がオフ状態、高レベル(以下「Hレベル」という。)でドレイン・ソース間がオン状態になる。スイッチング素子2,3のアーム構成については、特許文献2,3にも記載されている。スイッチング素子2,3の出力側には、共振コンデンサ6、変圧器7の漏れインダクタンス7a、及び励磁インダクタンス7bからなる直列共振回路が接続されている。変圧器7の出力側には、4つのダイオード8,9,10,11からなる全波整流回路が接続され、更に、その出力側に、平滑用の出力コンデンサ12が接続され、負荷13に対して直流電力を供給するようになっている。
【0006】
図6(b)の駆動回路4及び5は、同一の回路構成であり、直流電源21、抵抗22、ツェナーダイオード23、及びコンデンサ24を有するツェナー回路と、パルス信号源25と、により構成されている。ツェナー回路は、0Vよりも高いツェナー電圧Vzを生成し、スイッチング素子2,3のソース(S)に供給する。パルス信号源25は、例えば、目標電圧と出力電圧との電圧誤差を零にするような周波数信号を入力し、その周波数信号を、搬送波によりパルス幅変調(以下「PWM」という。)して0Vよりも高い波高値Vhの駆動パルスGPを生成し、スイッチング素子2,3のゲート(G)に供給する。
図6(c)に示すように、駆動回路4,5の出力電圧波形において、ツェナー電圧Vz分がスイッチング素子2,3のオフ時の負バイアス量に相当する。このような駆動回路4,5の出力電圧により、スイッチング素子2,3を、一定のデッドタイムをおいて相補的にオン/オフさせている。
【0007】
図7は、
図6(a)のLLC回路の動作波形図である。Icは共振コンデンサ6を流れる共振電流、Vgs1はGaNトランジスタで構成されたスイッチング素子2のゲート・ソース間電圧、Vgs2はGaNトランジスタで構成されたスイッチング素子3のゲート・ソース間電圧、Id1はスイッチング素子2のドレイン電流、及び、Vds1はスイッチング素子2のドレイン・ソース間電圧である。
【0008】
図6のLLC回路は、
図7に示す期間(1)~(4)において、以下のように動作する。
期間(1):スイッチング素子2がオン、スイッチング素子3がオフの場合
スイッチング素子2がオンしており、直流電源1の正極→スイッチング素子2→共振コンデンサ6→漏れインダクタンス7a→励磁インダクタンス7b及び変圧器7の1次巻線→直流電源1の負極の経路で、スイッチング素子2に正方向のドレイン電流Id1が流れると共に、共振コンデンサ6に正方向の共振電流Icが流れる。
期間(2):スイッチング素子2がオフ、スイッチング素子3の還流動作の場合
スイッチング素子2がオフすると、共振コンデンサ6→漏れインダクタンス7a→励磁インダクタンス7b→スイッチング素子3→共振コンデンサ6の経路で、共振電流Icが流れる。共振電流Icがスイッチング素子3のソースからドレインに流れ、ドレイン・ソース間の寄生容量が放電された後に、Hレベルに立ち上げたゲート・ソース間電圧Vgs2によりスイッチング素子3をオンさせる。
【0009】
期間(3):スイッチング素子2がオフ、スイッチング素子3がオンの場合
共振電流IcがLC共振により正から負方向に変わると、スイッチング素子3→励磁インダクタンス7b及び変圧器7の1次巻線→漏れインダクタンス7a→共振コンデンサ6→スイッチング素子3の経路で、そのスイッチング素子3に正方向のドレイン電流が流れる。
期間(4):スイッチング素子2の還流動作、スイッチング素子3がオフの場合
スイッチング素子3のドレイン電流が正方向の状態で、Lレベルに立ち下げたゲート・ソース間電圧Vgs2によりスイッチング素子3をオフさせると、直流電源1の負極→励磁インダクタンス7b→漏れインダクタンス7a→共振コンデンサ6→スイッチング素子2→直流電源1の正極の経路で、スイッチング素子2のドレイン電流Id1が逆方向に流れる。そのため、スイッチング素子2のドレイン・ソース間電圧Vds1に、逆導通電圧降下ΔVが生じる。スイッチング素子2を通して電流が流れている期間の経過後に、スイッチング素子2をオンさせる。
【0010】
以上の動作において、期間(2)では、最初にスイッチング素子3のソースからドレインに電流が流れてドレイン・ソース間の寄生容量の電荷が放電され、その期間(2)の経過後、スイッチング素子3のドレイン・ソース間電圧が略0Vになった状態で、スイッチング素子3をオンにするゼロボルトスイッチング(以下「ZVS」という。)動作を行っている。期間(4)の経過後でも、同様のZVS動作を行っている。
【0011】
スイッチング素子2,3を構成するGaNトランスジスタは、高速スイッチングが可能な素子として利用されているが、ゲート閾値が低く、ノイズ等により誤点弧する恐れがある。誤点弧の具体例としては、ZVS動作ではないハードスイッチングによるスイッチドレイン電圧の急激な変化により、GaNトランジスタ内のドレイン・ゲート間寄生容量を介してゲート電圧が持ち上がり、これがゲート閾値を超えると誤点弧となる。この対策として、スイッチオフ時のゲート電圧を負バイアスすると、誤点弧を防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第2012/153676号公報
【特許文献2】国際公開第2013/046420号公報
【特許文献3】中国特許出願公開第102611288号公報
【特許文献4】特開平1-122373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
図6(a)のスイッチング素子2,3を構成するGaNトランジスタは、ソースからドレインに電流が流れる(逆導通する)場合、もともとのソース・ドレイン間の電圧降下に更にゲートの負バイアス分が加算さてしまう特性がある。そのため、LLC回路や位相シフト回路のように、デッドタイム期間中にスイッチング素子2,3のソースからドレインに電流が流れる(逆導通する)場合では、
図7のドレイン・ソース間電圧Vds1の逆導通電圧降下ΔVに示すように、導通損失が増加してしまう弊害がある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の半導体駆動回路は、第1スイッチング素子及び第2スイッチング素子を有し、前記第1スイッチング素子及び前記第2スイッチング素子が、正電源側と負電源側との間に直列に接続されたアームと、前記第1スイッチング素子と前記第2スイッチング素子とが同時にオフ状態になるデッドタイムをおいて相補的にオン/オフ駆動する2つの駆動回路と、を備え、前記各駆動回路は、前記第1スイッチング素子又は前記第2スイッチング素子の誤点弧が発生し易くなる情報(例えば、負荷の状態が重負荷か又は軽負荷かの情報等)を基に、前記第1スイッチング素子又は前記第2スイッチング素子をオフ状態にするための負バイアスのバイアス量を変化させることを特徴とする。
【0015】
例えば、前記負荷の状態が前記重負荷の時には、前記第1スイッチング素子又は前記第2スイッチング素子をオフ状態にするための前記負バイアスのバイアス量を減少させる。或いは、前記負荷の状態が前記軽負荷の時には、前記第1スイッチング素子又は前記第2スイッチング素子をオフ状態にするための前記負バイアスのバイアス量を増加させる。
【0016】
本発明の電力変換装置は、前記半導体駆動回路を用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、LLC回路や位相シフト回路等の従来の電力変換装置において、軽負荷時にZVSが困難となり、ハードスイッチングによるノイズ発生により、ゲートの誤点弧が発生し易く、逆に重負荷時はZVSによりノイズが発生しにくい点に着目し、第1スイッチング素子又は第2スイッチング素子の誤点弧が発生し易くなる情報(例えば、負荷の状態が重負荷か又は軽負荷かの情報等)を基に、第1スイッチング素子又は第2スイッチング素子をオフ状態にするための負バイアスのバイアス量を変化させている。これにより、ノイズ等により誤点弧する恐れが低い場合に、スイッチオフ時の負バイアス量を変化させることで、LLC回路や位相シフト回路等のデッドタイム期間中に生じるような、ソースからドレインへの逆電流導通時の電圧降下を減少させ、逆導通損失を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施例1における電力変換装置(例えば、ハーフブリッジ形LLC回路)を示す図
【
図3】本発明の実施例2における電力変換装置(例えば、ハーフブリッジ形LLC回路)を示す図
【
図4】本発明の実施例3における電力変換装置(例えば、フルブリッジ形LLC回路)を示す回路図
【
図5】本発明の実施例4における電力変換装置(例えば、位相シフト回路)を示す回路図
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明を実施するための形態は、以下の好ましい実施例の説明を添付図面と照らし合わせて読むと、明らかになるであろう。但し、図面はもっぱら解説のためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例0020】
(実施例1の構成)
図1(a),(b),(c)は、本発明の実施例1における電力変換装置(例えば、単相のハーフブリッジ形LLC回路)を示す図であり、同図(a)は全体の回路図、同図(b)は(a)中の駆動回路の回路図、及び同図(c)は駆動回路の出力電圧波形図である。
【0021】
図1(a)の単相のハーフブリッジ形LLC回路は、従来の
図6(a)に示す単相のハーフブリッジ形LLC回路と同様に、直流電源31の正極(正電源側)と負極(負電源側)との間に直列に接続された第1及び第2スイッチング素子32,33からなるアームと、そのスイッチング素子32,33をオン/オフ駆動する2つの駆動回路34,35と、を有する矩形波発生用の半導体駆動回路を備えている。スイッチング素子32,33は、例えば、ノーマリオフ型のGaNトランジスタで構成され、それらのゲート(G)が駆動回路34,35により、同時にオフ状態になるデッドタイムをおいて相補的にオン/オフ駆動される。ノーマリオフ型のGaNトランジスタは、ゲートがLレベル(例えば、0V以下)でドレイン(D)及びソース(S)間がオフ状態、0Vよりも高いHレベルでドレイン・ソース間がオン状態になる。スイッチング素子32及びスイッチング素子33の接続点と、スイッチング素子33のソース及び直流電源31の負極と、の間には、共振コンデンサ36、変圧器37の漏れインダクタンス37a、及び励磁インダクタンス37bからなる直列共振回路が接続されている。
なお、漏れインダクタンス37aに代えて、共振インダクタを設けても良い。共振コンデンサ36には、交流の共振電流Icが流れる。
【0022】
変圧器37は、1次巻線及び2次巻線を有している。その変圧器37の2次巻線には、4つのダイオード38,39,40,41からなる全波整流回路が接続され、更に、その出力側に、平滑用の出力コンデンサ42が接続され、負荷43に対して直流の負荷電流Irを供給するようになっている。
【0023】
負荷43に対して直列に、シャント抵抗等の電流検出回路44が接続されている。電流検出回路44は、負荷43に流れる負荷電流Irを検出する回路であり、その出力側に、比較器45が接続されている。比較器45は、検出された負荷電流Irと閾値電流Ithとの大小を比較し、負荷電流Irが閾値電流Ithを超えると、負荷43を「重負荷」であると判定して負荷判定信号S45を出力する回路であり、その出力側に、2つの絶縁回路46,47が接続されている。各絶縁回路46,47は、負荷判定信号S45を絶縁して各制御信号S46,S47の形で各駆動回路34,35へそれぞれ帰還する回路であり、パルス変圧器、絶縁増幅器、ハイサイドドライバ等により構成されている。
【0024】
図1(b)の駆動回路34及び35は、同一の回路構成であり、直流電源51、抵抗52、ツェナーダイオード53、制御信号S46(S47)によりオンするノーマリオフ型のスイッチ54、NPN型トランジスタ55、コンデンサ56、及びそのコンデンサ56の放電抵抗57を有する降圧回路であるドロッパ回路と、パルス信号源58と、により構成されている。
【0025】
図1(c)に示すように、絶縁回路46(47)から制御信号S46(S47)が出力されていないオフ時には、スイッチ54がオフ状態になっている。トランジスタ55のベースには、0Vよりも高いツェナーダイオード53のツェナー電圧Vzが掛かり、そのトランジスタ55のエミッタに、ドロッパ回路の直流の出力電圧(Vz-Vbe)が生じる(但し、Vbe;トランジスタ55のベース・エミッタ間電圧)。出力電圧(Vz-Vbe)は、スイッチング素子32(33)のソース(S)に供給される。パルス信号源58は、例えば、目標電圧と出力電圧との電圧誤差を零にするような周波数信号を入力し、その周波数信号を、三角波等の搬送波によりPWMして0Vよりも高い波高値Vhの駆動パルスGPを生成し、スイッチング素子32(33)のゲート(G)に供給する機能を有している。
【0026】
絶縁回路46(47)から制御信号S46(S47)が出力されるオン時には、スイッチ54がオンし、トランジスタ55のベースが短絡される。そのため、トランジスタ55がオフし、スイッチング素子32(33)のソースに供給されるドロッパ回路の出力電圧(Vz-Vbe)は、コンデンサ56と抵抗57の放電時定数で放電し、これに応じてスイッチオフ時のゲートの負バイアス(Vz-Vbe)量が減少する構成になっている。
【0027】
(実施例1の動作)
図2は、
図1(a)のLLC回路の動作波形図である。従来の
図7と同様に、
図2において、Icは共振コンデンサ36を流れる共振電流、Vgs1はGaNトランジスタで構成されたスイッチング素子32のゲート・ソース間電圧、Vgs2はGaNトランジスタで構成されたスイッチング素子33のゲート・ソース間電圧、Id1はスイッチング素子32のドレイン電流、及び、Vds1はスイッチング素子32のドレイン・ソース間電圧である。
【0028】
図1のLLC回路は、
図2に示す期間(1)~(4)において、以下のように動作する。
期間(1):スイッチング素子32がオン、スイッチング素子33がオフ、負荷電流Irが閾値電流Ithよりも小さい軽負荷の場合
負荷電流Irが閾値電流Ithよりも小さい軽負荷の場合、電流検出回路44及び比較器45を介して、絶縁回路46(47)から制御信号S46(S47)が出力されないので、駆動回路34(35)内のスイッチ54がオフ状態である。そのため、駆動回路34(35)内のドロッパ回路の出力電圧(Vz-Vbe)がスイッチング素子32(33)のソースに供給され、パルス信号源58から出力された波高値Vhの駆動パルスGPのHレベルが、スイッチング素子32(33)のゲートに供給される。
【0029】
スイッチング素子32のゲート・ソース間電圧Vgs1は、0Vよりも高いHレベルであるので、そのスイッチング素子32がオンしている。スイッチング素子33のゲート・ソース間電圧Vgs2は、0Vよりも低いLレベルであるので、そのスイッチング素子33がオフしている。そのため、直流電源31の正極→オン状態のスイッチング素子32→共振コンデンサ36→漏れインダクタンス37a→励磁インダクタンス37b及び変圧器37の1次巻線→直流電源31の負極の経路で、スイッチング素子32に正方向のドレイン電流Id1が流れると共に、共振コンデンサ36に正方向の共振電流Icが流れる。変圧器37の1次巻線に電流が流れると、その変圧器37の2次巻線に誘導電流が流れ、その誘導電流が、ダイオード38~41で全波整流されて出力コンデンサ42で平滑される。平滑された直流の負荷電流Irは、負荷43へ供給される。負荷43が軽負荷であるので、共振電流Ic、及びスイッチング素子32に流れるドレイン電流Id1は、振幅が小さい。
【0030】
期間(2):スイッチング素子32がオフ、スイッチング素子33の還流動作、負荷電流Irが閾値電流Ithよりも小さい軽負荷の場合
負荷電流Irが閾値電流Ithよりも小さい軽負荷の場合、駆動回路34(35)内のスイッチ54がオフしている。そのため、駆動回路34(35)内のドロッパ回路の出力電圧(Vz-Vbe)が、スイッチング素子32(33)のソースに供給され、パルス信号源58から出力された駆動パルスGPのLレベル(=0V)がスイッチング素子32(33)のゲートに供給される。
【0031】
スイッチング素子32のゲート・ソース間電圧Vgs1が0Vよりも低いLレベルになるので、そのスイッチング素子32がオフする。スイッチング素子33のゲート・ソース間電圧Vgs2は、0Vよりも低いLレベルのままであるので、オフしている。スイッチング素子32がオフすると、共振コンデンサ36→漏れインダクタンス37a→励磁インダクタンス37b→スイッチング素子33→共振コンデンサ36の経路で、共振電流Icが流れる。共振電流Icがスイッチング素子33のソースからドレインに流れるが、軽負荷で電流値が小さいため、ドレイン・ソース間の寄生容量が十分放電されない状態で、Hレベルに立ち上げたゲート・ソース間電圧Vgs2により、スイッチング素子33がオンする。この時、スイッチング素子33のドレイン・ソース間電圧が急激に0Vになるため、直流電源31に直列に接続されているスイッチング素子32のドレイン・ソース間電圧Vds1も同時に急激に直流電源31の電圧まで上昇する。すると、スイッチング素子32のドレイン・ゲート間寄生容量を介して、そのスイッチング素子32のゲート・ソース間電圧Vgs1に、正方向のスパイク状のノイズNSが発生する。しかし、スイッチング素子32のゲート・ソース間電圧Vgs1は負バイアスされているため、ゲート閾値を超え誤点弧することは無い。
【0032】
期間(3):スイッチング素子32がオフ、スイッチング素子33がオン、負荷電流Irが閾値電流Ithよりも小さい軽負荷から閾値電流Ithよりも大きい重負荷へ変化する場合
共振電流IcがLC共振により正から負方向に変わると、スイッチング素子33→励磁インダクタンス37b及び変圧器37の1次巻線→漏れインダクタンス37a→共振コンデンサ36→スイッチング素子33の経路で、そのスイッチング素子33に正方向のドレイン電流が流れる。負荷電流Irが重負荷に変化すると、これが電流検出回路44及び比較器45で検出及び判定され、絶縁回路46(47)から制御信号S46(S47)が出力される。すると、駆動回路34内のスイッチ54がオンし、トランジスタ55のベースが短絡される。そのため、トランジスタ55がオフし、スイッチング素子32のソースに供給されるドロッパ回路の出力電圧(Vz-Vbe)は、コンデンサ56と抵抗57の放電時定数で放電し、これに応じてスイッチオフ時のゲートの負バイアス(Vz-Vbe)量が減少し、スイッチング素子32のゲート・ソース間電圧Vgs1が0Vまで上昇していく。
【0033】
期間(4):スイッチング素子32の還流動作、スイッチング素子33がオフ、負荷電流Irが重負荷の場合
スイッチング素子33のドレイン電流が正方向の状態で、Lレベルに立ち下げたゲート・ソース間電圧Vgs2によりスイッチング素子33をオフさせると、直流電源31の負極→励磁インダクタンス37b→漏れインダクタンス37a→共振コンデンサ36→スイッチング素子32→直流電源31の正極の経路で、スイッチング素子32のドレイン電流Id1が逆方向に流れる。重負荷で電流値が大きいため、スイッチング素子32のドレイン・ソース間の寄生容量が十分放電されるので、スイッチング素子32のドレイン・ソース間電圧Vds1に、逆導通電圧降下ΔVが生じる。しかし、スイッチング素子32のゲート・ソース間電圧Vgs1が上昇して0Vになっているので、スイッチング素子32のドレイン・ソース間電圧Vds1に生じる逆導通電圧降下ΔVが、従来よりも減少する。そして、スイッチング素子32を通して電流が流れている期間の経過後に、スイッチング素子32をオンさせる。この時、スイッチング素子32のドレイン・ソース間電圧Vds1は略0Vになっているため、スイッチング素子33のドレイン・ソース間電圧の急激な変化が生じず、そのスイッチング素子33のゲート・ソース間電圧Vgs2に、正方向のスパイク状のノイズNSが発生するのが抑制される。
【0034】
以降の期間では、スイッチング素子32のゲート・ソース間電圧Vgs1は、HレベルとLレベル(=0V)の間で遷移し、同様に、スイッチング素子33のドレイン・ソース間電圧Vds2も、HレベルとLレベル(=0V)の間で遷移し、重負荷でのDC/DC変換動作を行う。
【0035】
(実施例1の効果)
本実施例1によれば、LLC回路等の従来の電力変換装置において、軽負荷時にZVSが困難となり、ハードスイッチングによるノイズ発生により、ゲートの誤点弧が発生し易く、逆に重負荷時はZVSによりノイズが発生しにくい点に着目し、負荷電流Irの情報を基に、重負荷時はゲートの負バイアス(Vz-Vbe)量を減少させている。これにより、ノイズ等により誤点弧する恐れが低い場合に、スイッチオフ時のゲートの負バイアス量を減少させることで、LLC回路のデッドタイム期間中に生じるような、ソースからドレインへの逆電流導通時の逆導通電圧降下ΔVを減少させ、逆導通損失を低減することができる。