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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022134688
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】半導体駆動回路及び電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 1/08 20060101AFI20220908BHJP
   H02M 7/21 20060101ALI20220908BHJP
   H02M 7/12 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
H02M1/08 A
H02M7/21 A
H02M7/12 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021033989
(22)【出願日】2021-03-04
(71)【出願人】
【識別番号】000002037
【氏名又は名称】新電元工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082876
【弁理士】
【氏名又は名称】平山 一幸
(74)【代理人】
【識別番号】100086807
【弁理士】
【氏名又は名称】柿本 恭成
(74)【代理人】
【識別番号】100178906
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 充和
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 俊之
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健一
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 亘
【テーマコード(参考)】
5H006
5H740
【Fターム(参考)】
5H006AA02
5H006AA05
5H006CA02
5H006CB01
5H006CB03
5H006CB07
5H006DA02
5H006DA04
5H006DB01
5H006DC02
5H006DC05
5H740AA04
5H740BA12
5H740BB07
5H740BC01
5H740BC02
5H740HH07
5H740JA01
5H740JB01
5H740KK01
5H740NN18
(57)【要約】
【課題】電力変換装置のデッドタイム期間中に生じるような、半導体素子の逆電流導通時の電圧降下を減少させ、逆導通損失を低減する。
【解決手段】電力変換装置(例えば、コンバータ内のPFC回路)は、交流電源21、整流回路22、チョークコイル23、Lレベル側の半導体素子(例えば、スイッチング素子)24、同期整流用のHレベル側の半導体素子(例えば、スイッチング素子)25、前記スイッチング素子24,25をオン/オフ駆動する駆動回路26,27と、を備えている。駆動回路26又は27は、スイッチング素子24,25の誤点弧が発生し易くなる情報(例えば、入力電流Iiの大きさの情報)を基に、スイッチング素子24又は25をオフ状態にするための負バイアスのバイアス量を変化させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同期整流用の半導体素子と、
前記半導体素子をオン/オフ駆動する駆動回路と、
を備える半導体駆動回路において、
前記駆動回路は、
前記半導体素子の誤点弧が発生し易くなる情報を基に、前記半導体素子をオフ状態にするための負バイアスのバイアス量を変化させる、
ことを特徴とする半導体駆動回路。
【請求項2】
前記半導体素子の誤点弧が発生し易くなる情報は、
入力電流の大きさの情報である、
ことを特徴とする請求項1記載の半導体駆動回路。
【請求項3】
前記入力電流が大きい時には、前記半導体素子をオフ状態にするための前記負バイアスのバイアス量を増加させる、
ことを特徴とする請求項2記載の半導体駆動回路。
【請求項4】
前記入力電流が小さい時には、前記半導体素子をオフ状態にするための前記負バイアスのバイアス量を減少させる、
ことを特徴とする請求項2記載の半導体駆動回路。
【請求項5】
前記負バイアスのバイアス量は、リニアに変化させる、
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項記載の半導体駆動回路。
【請求項6】
前記半導体駆動回路は、
前記半導体素子を有するコンバータを含む回路である、
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項記載の半導体駆動回路。
【請求項7】
前記半導体素子は、
化合物半導体を用いた素子である、
ことを特徴とする請求項1~6のいずれか1項記載の半導体駆動回路。
【請求項8】
請求項1~7のずれか1項記載の半導体駆動回路を用いた、
ことを特徴とする電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同期整流用の半導体素子を駆動する半導体駆動回路と、その半導体駆動回路を用いた電力変換装置と、に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電力変換装置は、交流(AC)から直流(DC)、直流から交流、或いは交流の周波数変換、直流の電力変換等、電気エネルギーを変換する装置であり、例えば、AC/DCコンバータ、DC/ACインバータ、DC/DCコンバータ、力率改善回路(以下「PFC回路」という。)を有するコンバータ等の種々の装置が知られている。
【0003】
特許文献1には、電力変換装置(例えば、PFC回路及びDC/DCコンバータを備えた直流電源装置)について記載されている。DC/DCコンバータを構成する半導体素子として、化合物半導体を用いたノーマリオフ型のGaNトランジスタ、SiCトランジスタの例が記載されている。特に、GaNトランジスタは、Siトランジスタよりも電気的、物理的特性に優れ、大電力、小型、低損失のパワー半導体素子として注目されている。
特許文献2,3には、半導体素子として、ノーマリオフ型のGaNトランジスタ、SiCトランジスタ等が直列接続され、上アーム及び下アームで形成されたアームと、それらの半導体素子を駆動するための駆動回路を備えた半導体駆動回路が記載されている。
特許文献4には、半導体素子である電界効果トランジスタ(以下「FET」という。)からなるブリッジ構成の主スイッチング部と、前記FETのゲートを駆動する変圧器と、前記変圧器の1次巻線に接続され、前記1次巻線を駆動する駆動部と、を有する電源回路が記載されている。
【0004】
図4(a),(b),(c)は、特許文献1等に記載されたコンバータ内のPFC回路と類似の従来のPFC回路を示す図であり、同図(a)はPFC回路の全体の回路図、同図(b)は同図(a)中の駆動回路の回路図、及び、同図(c)はその駆動回路の出力電圧波形図である。
【0005】
このPFC回路は、交流電源1から供給される交流電力を全波整流する整流回路2と、この出力側に直列接続されたチョークコイル3及び低レベル(以下「Lレベル」という。)側の半導体素子であるスイッチング素子4と、を有している。スイッチング素子4に対して並列に、同期整流用の高レベル(以下「Hレベル」という。)側の半導体素子であるスイッチング素子5と平滑用のコンデンサ8との直列回路が接続されている。コンデンサ8の両電極には、負荷9が接続される。スイッチング素子4,5は、例えば、ノーマリオフ型のGaNトランジスタで構成され、それらのゲート(G)が駆動回路6,7にて駆動される。ノーマリオフ型のGaNトランジスタは、ゲートがLレベル(例えば、0V以下)でオフ、Hレベルでオンする。
【0006】
スイッチング素子4がオン、スイッチング素子5がオフの時、交流電源1→整流回路2→チョークコイル3→スイッチング素子4→整流回路2→交流電源1の経路で電流が流れる。スイッチング素子4がオフ、スイッチング素子5がオンの時、交流電源1→整流回路2→チョークコイル3→スイッチング素子5→コンデンサ8及び負荷9→整流回路2→交流電源1の経路で電流が流れる。これにより、交流電源1の交流電力が、整流回路2で整流され、その電力が、チョークコイル3、スイッチング素子4及びスイッチング素子5を通して昇圧され、コンデンサ8で平滑されて負荷9へ供給される。スイッチング素子4をオン/オフし、これに同期してスイッチング素子5をオフ/オンすることにより、電流を制御し、電源電圧と位相を同期させ、チョークコイル3に流れる電流の波形を正弦波に近づけている。スイッチング素子4への通電電流と同期整流用のスイッチング素子5の順電流の和が、チョークコイル3に流れる電流になる。
【0007】
図4(b)の駆動回路6及び7は、同一の回路構成であり、直流電源11、抵抗12、ツェナーダイオード13、及びコンデンサ14を有するツェナー回路と、パルス信号源15と、により構成されている。ツェナー回路は、0Vよりも高いツェナー電圧Vzを生成し、スイッチング素子4,5のソース(S)に供給する。パルス信号源15は、例えば、目標電圧と出力電圧との電圧誤差を零にするような出力制御信号を入力し、その出力制御信号を、搬送波によりパルス幅変調(以下「PWM」という。)して0Vよりも高い波高値Vhの駆動パルスGPを生成し、スイッチング素子4,5のゲート(G)に供給する。図4(c)に示すように、駆動回路6,7の出力電圧波形において、ツェナー電圧Vz分がスイッチング素子4,5のオフ時のゲートの負バイアス量に相当する。このような駆動回路6,7の出力電圧により、スイッチング素子4,5を、一定のデッドタイムをおいて相補的にオン/オフさせている。
【0008】
図5は、図4(a)のPFC回路の動作波形図である。
Vgs1はGaNトランジスタで構成されたスイッチング素子4のゲート・ソース間電圧、Vgs2はGaNトランジスタで構成されたスイッチング素子5のゲート・ソース間電圧、Id2はスイッチング素子5のソースからドレインに流れる逆方向のドレイン電流、及び、Vds2はスイッチング素子5のドレイン・ソース間電圧である。tdは、2つのスイッチング素子4,5のゲート・ソース間電圧Vgs1,Vgs2が共にLレベルになるデッドタイムである。
【0009】
図5において、ゲート・ソース間電圧Vgs1のHレベルによってスイッチング素子4がオン、ゲート・ソース間電圧Vgs2のLレベルによってスイッチング素子5がオフの状態では、交流電源1→整流回路2→チョークコイル3→スイッチング素子4→整流回路2→交流電源1の経路で電流が流れる。この状態で、ゲート・ソース間電圧Vgs1がLレベルに立ち下がってスイッチング素子4がターンオフし、スイッチング素子4,5のゲート・ソース間電圧Vgs1,Vgs2が共にLレベルになるデッドタイムtd期間へ遷移すると、スイッチング素子5のソースからドレインへ逆導通電流が流れ、ドレイン・ソース間電圧Vds2が0V以下のLレベルに立ち下がって逆導通電圧降下ΔVが生じる。
【0010】
同様に、ゲート・ソース間電圧Vgs2のHレベルによってスイッチング素子5がオン、ゲート・ソース間電圧Vgs1のLレベルによってスイッチング素子4がオフの状態では、交流電源1→整流回路2→チョークコイル3→スイッチング素子5→コンデンサ8及び負荷9→整流回路2→交流電源1の経路で電流が流れる。この状態で、ゲート・ソース間電圧Vgs2がLレベルに立ち下がってスイッチング素子5がターンオフし、スイッチング素子4,5のゲート・ソース間電圧Vgs1,Vgs2が共にLレベルになるデッドタイムtd期間へ遷移すると、スイッチング素子5のソースからドレインへ逆導通電流が流れ、ドレイン・ソース間電圧Vds2が0V以下のLレベルに立ち下がって逆導通電圧降下ΔVが生じる。
【0011】
スイッチング素子4,5を構成しているGaNトランスジスタは、高速スイッチングが可能な素子として利用されているが、ゲート閾値が低く、ノイズ等により誤点弧する恐れがある。誤点弧の具体例としては、PFC回路のスイッチング素子4の、ゼロボルトスイッチング(以下「ZVS」という。)ではないハードスイッチングによる、スイッチング素子5におけるドレイン電圧の急激な変化により、そのスイッチング素子5内のドレイン・ゲート間寄生容量を介してゲート電圧が持ち上がり、これがゲート閾値を超えると誤点弧となる。この対策として、スイッチング素子5のオフ時のゲート電圧を負バイアスにすると、誤点弧を防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第2012/153676号公報
【特許文献2】国際公開第2013/046420号公報
【特許文献3】中国特許出願公開第102611288号公報
【特許文献4】特開平1-122373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
図4のPFC回路のスイッチング素子4,5を構成しているGaNトランジスタは、ソースからドレインへ電流が流れる(逆導通する)場合、もともとのソース・ドレイン間の電圧降下に更にゲートの負バイアス分が加算さてしまう特性がある。そのため、PFC回路の同期整流用のスイッチング素子5のように、デッドタイムtd期間中にスイッチング素子5のソースからドレインへ電流が流れる(逆導通する)場合では、図5に示すように、逆導通電圧降下ΔVにより、導通損失が増加してしまう弊害がある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の半導体駆動回路は、同期整流用の半導体素子と、前記半導体素子をオン/オフ駆動する駆動回路と、を備え、前記駆動回路は、前記半導体素子の誤点弧が発生し易くなる情報を基に、前記半導体素子をオフ状態にするための負バイアスのバイアス量を変化させる、ことを特徴とする。
前記半導体素子の誤点弧が発生し易くなる情報は、例えば、入力電流の大きさの情報であり、前記入力電流が大きい時には、前記半導体素子をオフ状態にするための前記負バイアスのバイアス量を増加させ、前記入力電流が小さい時には、前記半導体素子をオフ状態にするための前記負バイアスのバイアス量を減少させる。
【0015】
本発明の電力変換装置は、前記半導体駆動回路を用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ハードスイッチングによるノイズ等により誤点弧する恐れが低い場合に、半導体素子の誤点弧が発生し易くなる情報を基に、半導体素子をオフ状態にするための負バイアスのバイアス量を変化させている。これにより、電力変換装置のデッドタイム期間中に生じるような、半導体素子の逆電流導通時の電圧降下を減少させ、逆導通損失を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施例1における電力変換装置(例えば、コンバータ内のPFC回路)を示す図
図2図1(a)のPFC回路の動作波形図
図3】本発明の実施例2における電力変換装置(例えば、コンバータ内のPFC回路)を示す図
図4】従来のPFC回路を示す図
図5図4(a)のPFC回路の動作波形図
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を実施するための形態は、以下の好ましい実施例の説明を添付図面と照らし合わせて読むと、明らかになるであろう。但し、図面はもっぱら解説のためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例0019】
(実施例1の構成)
図1(a),(b),(c)は、本発明の実施例1における電力変換装置(例えば、コンバータ内のPFC回路)を示す図であり、同図(a)はPFC回路の全体の回路図、同図(b)は同図(a)中の駆動回路の回路図、及び、同図(c)はその駆動回路の出力電圧波形図である。
【0020】
図1(a)のPFC回路は、従来の図4と同様に、交流電源21から供給される交流電力を全波整流する整流回路22と、この出力側に直列接続されたチョークコイル23及びLレベル側の半導体素子(例えば、スイッチング素子)24と、を有している。スイッチング素子24に対して並列に、同期整流用のHレベル側の半導体素子(例えば、スイッチング素子)25と平滑用のコンデンサ28との直列回路が接続されている。コンデンサ28の両電極には、負荷29が接続される。スイッチング素子24,25は、例えば、ノーマリオフ型のGaNトランジスタで構成され、それらのゲート(G)が駆動回路26,27により、一定のデッドタイムをおいて相補的にオン/オフ駆動される。ノーマリオフ型のGaNトランジスタは、ゲートがLレベル(例えば、0V以下)の時にドレイン(D)及びソース(S)間がオフし、ゲートがHレベルの時にドレイン・ソース間がオンする。
【0021】
チョークコイル23に対して直列に、電流検出手段(例えば、シャント抵抗)30aが接続され、そのシャント抵抗30aに、電流検出回路30が接続されている。電流検出回路30は、シャント抵抗30aを通してチョークコイル23に流れる入力電流Iiを検出する回路であり、その出力側に、比較器31が接続されている。比較器31は、検出された入力電流Iiと閾値電流Ithとの大小を比較し、入力電流Iiが閾値電流Ithよりも大きい時には、その入力電流Iiが「大電流」であると判定し、入力電流Iiが閾値電流Ithよりも小さい時には、その入力電流Iiが「小電流」であると判定して、電流判定信号S31を出力する回路である。比較器31の出力側には、2つの絶縁回路32,33が接続されている。各絶縁回路32,33は、電流判定信号S31を絶縁し、入力電流Iiが「大電流」の時にはLレベル、入力電流Iiが「小電流」の時にはHレベルの各制御信号S32,S33を出力して各駆動回路26,27へそれぞれ帰還する回路であり、パルス変圧器、絶縁増幅器、ハイサイドドライバ等により構成されている。
【0022】
図1(b)の駆動回路26及び27は、同一の回路構成であり、直流電源41、抵抗42、ツェナーダイオード43、Hレベルの制御信号S32(S33)によりオン、Lレベルの制御信号S32(S33)によりオフするノーマリオフ型のスイッチ44、NPN型トランジスタ45、コンデンサ46、及びそのコンデンサ46の放電抵抗47を有する降圧回路であるドロッパ回路と、パルス信号源48と、により構成されている。
【0023】
図1(c)に示すように、絶縁回路32(33)からLレベルの制御信号S32(S33)が出力されている時には、スイッチ44がオフ状態になっている。トランジスタ45のベースには、0Vよりも高いツェナーダイオード43のツェナー電圧Vzが掛かり、そのトランジスタ45のエミッタに、ドロッパ回路の直流の出力電圧(Vz-Vbe)が生じる(但し、Vbe;トランジスタ45のベース・エミッタ間電圧)。出力電圧(Vz-Vbe)は、スイッチング素子24(25)のソース(S)に供給される。パルス信号源48は、例えば、目標電圧と出力電圧との電圧誤差を零にするような出力制御信号を入力し、その出力制御信号を、三角波等の搬送波によりPWMして0Vよりも高い波高値Vhの駆動パルスGPを生成し、スイッチング素子24(25)のゲート(G)に供給する機能を有している。
【0024】
絶縁回路32(33)からHレベルの制御信号S32(S33)が出力される時には、スイッチ44がオンし、トランジスタ45のベースが短絡される。そのため、トランジスタ45がオフし、スイッチング素子24(25)のソースに供給されるドロッパ回路の出力電圧(Vz-Vbe)は、コンデンサ46と放電抵抗47の放電時定数で放電し、これに応じてスイッチング素子24(25)のオフ時のゲートの負バイアス(Vz-Vbe)量が減少する構成になっている。
【0025】
(実施例1の動作)
図2は、図1(a)のPFC回路の動作波形図である。Vgs1はGaNトランジスタで構成されたスイッチング素子24のゲート・ソース間電圧、Vgs2はGaNトランジスタで構成されたスイッチング素子25のゲート・ソース間電圧、Id2はスイッチング素子25のドレインからソースへ流れる順方向のドレイン電流、及び、Vds2はスイッチング素子25のドレイン・ソース間電圧である。td1,td2は、2つのスイッチング素子24,25のゲート・ソース間電圧Vgs1,Vgs2が共にLレベルになるデッドタイムである。
【0026】
図1のPFC回路は、図2に示す期間T1~T3において、以下の(1)~(3)のように動作する。
(1) 期間T1:スイッチング素子24がオンからオフへ遷移し、スイッチング素子25がオフからオンへ遷移し、入力電流Iiが閾値電流Ithよりも大きい大電流の場合
入力電流Iiが閾値電流Ithよりも大きい大電流であるから、絶縁回路32,33から出力されるLレベルの制御信号S32,S33により、駆動回路26,27内のスイッチ44がオフしている。そのため、駆動回路26,27から、Hレベルが(Vh-Vz)、Lレベルが0Vより低い負バイアス(Vz-Vbe)の矩形波電圧が出力される。
Hレベルのゲート・ソース間電圧Vgs1によりスイッチング素子24がオン、Lレベルのゲート・ソース間電圧Vgs2によりスイッチング素子25がオフの状態では、交流電源21→整流回路22→シャント抵抗30a→チョークコイル23→スイッチング素子24→整流回路22→交流電源21の経路で電流が流れる。
【0027】
この状態で、ゲート・ソース間電圧Vgs1がLレベルに立ち下がってスイッチング素子24がターンオフし、スイッチング素子24,25のゲート・ソース間電圧Vgs1,Vgs2が共にLレベルになるデッドタイムtd1期間へ遷移する。すると、スイッチング素子25のソースからドレインへ逆導通電流が流れ、交流電源21→整流回路22→シャント抵抗30a→チョークコイル23→スイッチング素子25→コンデンサ28及び負荷29→整流回路22→交流電源21の経路で電流が流れる。これにより、交流電源21の交流電力が、整流回路22で整流され、その電力が、チョークコイル23、スイッチング素子24及びスイッチング素子25を通して昇圧され、コンデンサ28で平滑されて負荷29へ供給される。スイッチング素子25のソースからドレインへ逆導通電流が流れると、ドレイン・ソース間電圧Vds2が0V以下のLレベルに立ち下がって逆導通電圧降下ΔVが生じる。
【0028】
デッドタイムtd1期間の経過後、スイッチング素子24はオフ状態であるが、ゲート・ソース間電圧Vgs2がHレベルに立ち上がって、逆導通電圧降下ΔVが減少する。これにより、交流電源21→整流回路22→シャント抵抗30a→チョークコイル23→スイッチング素子25→コンデンサ28及び負荷29→整流回路22→交流電源21の経路で電流が流れ続ける。
次に、ゲート・ソース間電圧Vgs2がLレベルに立ち下がってスイッチング素子25がターンオフし、スイッチング素子24,25のゲート・ソース間電圧Vgs1,Vgs2が共にLレベルになるデッドタイムtd2期間へ遷移すると、スイッチング素子25のソースからドレインへ逆導通電流が流れ、ドレイン・ソース間電圧Vds2が0V以下のLレベルに立ち下がって逆導通電圧降下ΔVが生じる。
【0029】
(2) 期間T2:スイッチング素子24がオンからオフへ遷移し、スイッチング素子25がオフからオンへ遷移し、入力電流Iiが閾値電流Ithよりも小さい小電流へ変化する場合
デッドタイムtd2期間の経過後、スイッチング素子25はオフ状態であるが、ゲート・ソース間電圧Vgs1がHレベルに立ち上がってスイッチング素子24がターンオンする。これにより、交流電源21→整流回路22→シャント抵抗30a→チョークコイル23→スイッチング素子24→整流回路22→交流電源21の経路で電流が流れる。スイッチング素子24がターンオンする際に、ゲート・ソース間電圧Vgs2に、ゲートのノイズNSが生じる。この時、スイッチング素子25のゲート・ソース間電圧Vgs2は負バイアスされているため、ゲート閾値を超え誤点弧することは無く、ドレイン電流Id2が流れず(0A)、ドレイン・ソース間電圧Vds2がHレベルとなる。
【0030】
ゲート・ソース間電圧Vgs1がLレベル(=0V)に立ち下がってスイッチング素子24がターンオフし、スイッチング素子24,25のゲート・ソース間電圧Vgs1,Vgs2が共にLレベルになるデッドタイムtd1期間へ遷移すると、スイッチング素子25のソースからドレインへ逆導通電流が流れ、ドレイン・ソース間電圧Vds2が0V以下のLレベルに立ち下がって逆導通電圧降下ΔVが生じる。
デッドタイムtd1期間の経過後、スイッチング素子24はオフ状態であるが、ゲート・ソース間電圧Vgs2がHレベルに立ち上がってスイッチング素子25がターンオンする。これにより、スイッチング素子25のドレイン電流Id2が負の値から正の値へ変化していく。スイッチング素子25のドレイン・ソース間電圧Vds2は、0Vを維持する。
【0031】
入力電流Iiが閾値電流Ithよりも小さい小電流になると、絶縁回路32,33から出力されるHレベルの制御信号S32,S33により、駆動回路26,27内のスイッチ44がオンする。すると、駆動回路26,27において、コンデンサ46と放電抵抗47の放電時定数でゲートの負バイアス(Vz-Vbe)量が減少していき、スイッチング素子24のゲート・ソース間電圧Vgs1が0Vへ上昇すると共に、スイッチング素子25のゲート・ソース間電圧Vgs2が上昇していく。
ゲート・ソース間電圧Vgs2がLレベル(=0V)に立ち下がってスイッチング素子25がターンオフし、スイッチング素子24,25のゲート・ソース間電圧Vgs1,Vgs2が共にLレベルになるデッドタイムtd2期間へ遷移すると、スイッチング素子25に流れる正のドレイン電流Id2により、そのスイッチング素子25のドレイン・ソース間電圧Vds2が0Vから上昇していく。そのため、デッドタイムtd2期間の経過後、スイッチング素子24がオフからオンへ遷移するときの、スイッチング素子25のドレイン・ソース間電圧Vds2の電圧変化量ΔVdsが減少する。
【0032】
(3) 期間T3:スイッチング素子24がオンからオフへ遷移し、スイッチング素子25がオフからオンへ遷移し、入力電流Iiが閾値電流Ithよりも小さい小電流の場合
デッドタイムtd2期間の経過後、スイッチング素子25はオフ状態であるが、ゲート・ソース間電圧Vgs1がHレベルに立ち上がってスイッチング素子24がターンオンする。これにより、スイッチング素子25に流れるドレイン電流Id2が0Aになり、ドレイン・ソース間電圧Vds2がHレベルになる。この時のスイッチング素子25のドレイン・ソース間電圧Vds2の電圧変化量ΔVdsは小さいため、スイッチング素子25内のドレイン・ゲート間寄生容量を介してゲート電圧が持ち上がるのが抑制される。
【0033】
スイッチング素子25のゲート・ソース間電圧Vgs2が0Vを維持すると共に、ゲート・ソース間電圧Vgs1がLレベル(=0V)に立ち下がってスイッチング素子24がターンオフし、スイッチング素子24,25のゲート・ソース間電圧Vgs1,Vgs2が共にLレベルになるデッドタイムtd1期間へ遷移すると、スイッチング素子25に負のドレイン電流Id2が流れ、ドレイン・ソース間電圧Vds2が0V以下のLレベルに立ち下がる。この時生じる逆導通電圧降下ΔVは、期間T1,T2の時よりも減少している。
その後、ゲート・ソース間電圧Vgs2がHレベルに立ち上がって前記と同様の動作を繰り返す。
【0034】
(実施例1の効果)
図1のPFC回路では、入力電流Iiが小さい時(即ち、入力正弦波電流の振幅が小さい時)にLレベル側のスイッチング素子24のゲートがHレベルになる前に、Hレベル側のスイッチング素子25のドレイン電圧(即ち、ドレイン・ソース間電圧Vds2)がチョークコイル23に流れる入力電流Iiによりチャージされるため、スイッチング素子24のターンオン時におけるスイッチング素子25のドレイン電圧(即ち、ドレイン・ソース間電圧Vds2)の電圧変化量ΔVdsが減少し、スイッチング素子25のゲートにノイズNSが発生しにくい点に着目し、入力電流Iiの情報を基に、小電流時は、スイッチング素子25のゲートの負バイアス(Vz-Vbe)量を減少させている。これにより、ハードスイッチングによるノイズ等により誤点弧する恐れが低い場合に、スイッチング素子25のオフ時のゲートの負バイアス(Vz-Vbe)量を減少させることで、PFC回路のデッドタイムtd1期間中に生じるような、ソースからドレインへの逆電流導通時の逆導通電圧降下ΔVを減少させ、逆導通損失を低減することができる。
【実施例0035】
(実施例2の構成)
図3(a),(b),(c)は、本発明の実施例2における電力変換装置(例えば、コンバータ内のPFC回路)を示す図であり、同図(a)は全体の回路図、同図(b)は(a)中の駆動回路の回路図、及び同図(c)は駆動回路の出力電圧波形図である。この図3において、実施例1の図1中の要素と共通の要素には共通の符号が付されている。
【0036】
本実施例2における図3(a)のPFC回路では、実施例1における図1(a)のPFC回路中の比較器31に代えて、例えば、演算増幅器(以下「オペアンプ」という。)34が設けられている。オペアンプ34は、実施例1と同様の電流検出回路30で検出された入力電流Iiの大きさ比例した電流判定信号S34を、実施例1と同様の絶縁回路32,33へ出力する機能を有している。絶縁回路32,33は、入力された電流判定信号S34を絶縁し、入力電流Iiの大きさに応じたレベルの制御信号S32,S33を出力し、駆動回路26,27へ帰還する構成になっている。
【0037】
本実施例2における図3(b)の駆動回路26(27)では、実施例1の駆動回路26(27)中の抵抗42、ツェナーダイオード43及びスイッチ44に代えて、例えば、オペアンプ49が設けられている。オペアンプ49は、絶縁回路32(33)から出力される、入力電流Iiの大きさに応じたレベルの制御信号S32(S33)に基づき、ドロッパ回路を構成するトランジスタ45のベース電圧Vicを変化させる回路である。トランジスタ45のエミッタからは、電圧(Vic-Vbe)(但し、Vbe;トランジスタ45のベース・エミッタ間電圧)が出力され、図3(a)のスイッチング素子24(25)のソース(S)に供給される。パルス信号源48から出力された波高値Vhの駆動パルスGPは、そのスイッチング素子24(25)のゲート(G)に供給される。
【0038】
(実施例2の動作)
図3(a)のPFC回路において、オペアンプ34は、入力電流Iiの大きさ比例した電流判定信号S34を絶縁回路32(33)へ出力する。絶縁回路32(33)は、その電流判定信号S34を絶縁し、入力電流Iiの大きさに応じたレベルの、図3(c)に示すような制御信号S32(S33)をオペアンプ49へ出力する。すると、オペアンプ49から出力されるトランジスタ45のベース電圧Vicが変化し、そのトランジスタ45のエミッタから出力されるドロッパ回路の出力電圧(Vic-Vbe)が変化するので、スイッチング素子24(25)に供給するゲートの負バイアス(Vic-Vbe)量をリニア(自由)に調整できる。
【0039】
(実施例2の効果)
実施例1の駆動回路26(27)では、スイッチ44によりゲートの負バイアスの有無を切り替えるのみで、負バイアスする電圧レベルを調整する機能はないが、回路構成が簡単である。これに対して本実施例2の駆動回路26(27)は、ドロッパ回路の出力電圧(Vic-Vbe)を変化させることで、スイッチオフ時のゲートの負バイアス(Vic-Vbe)量を調整できる。これにより、例えば、ノイズ等の大きさに応じて、ゲートが誤点弧しない程度の負バイアス量を調整できる。
【0040】
(実施例1,2の変形例)
本発明は、上記実施例1,2に限定されず、種々の利用形態や変形が可能である。この利用形態や変形例としては、例えば、次の(a)~(d)のようなものがある。
(a) 本発明は、半導体素子として、ノーマリオフ型のGaNトランジスタ以外のSiトランジスタ等のスイッチング素子、或いは、ダイオードにも適用が可能である。
(b) 実施例1,2において、例えば、入力電流Iiが小電流の時には、スイッチング素子24又は25をオフ状態にするためのゲートの負バイアス量を増加させるような構成に変形しても良い。このように変形しても、実施例1,2と略同様の作用効果を奏することができる。
【0041】
(c) スイッチング素子24,25の誤点弧が発生し易くなる情報は、入力電流Iiの大きさの情報以外の、入力電圧等から検出しても良い。
(d) 本発明は、コンバータ内のPFC回路以外のAC/DC電源回路、チョッパ回路等の他の電力変換装置にも適用が可能である。
【符号の説明】
【0042】
21 交流電源
22 整流回路
23 チョークコイル
24,25 スイッチング素子
26,27 駆動回路
28 コンデンサ
29 負荷
30 電流検出回路
31 比較器
32,33 絶縁回路
34 オペアンプ
図1
図2
図3
図4
図5