IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社IFGの特許一覧

<>
  • 特開-磁気刺激装置 図1
  • 特開-磁気刺激装置 図2
  • 特開-磁気刺激装置 図3
  • 特開-磁気刺激装置 図4
  • 特開-磁気刺激装置 図5
  • 特開-磁気刺激装置 図6
  • 特開-磁気刺激装置 図7
  • 特開-磁気刺激装置 図8
  • 特開-磁気刺激装置 図9
  • 特開-磁気刺激装置 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022134700
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】磁気刺激装置
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/36 20060101AFI20220908BHJP
   A61N 2/02 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
A61N1/36
A61N2/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021034035
(22)【出願日】2021-03-04
(71)【出願人】
【識別番号】507076126
【氏名又は名称】株式会社IFG
(74)【代理人】
【識別番号】100082429
【弁理士】
【氏名又は名称】森 義明
(74)【代理人】
【識別番号】100162754
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 真樹
(72)【発明者】
【氏名】森 仁
(72)【発明者】
【氏名】八島 建樹
(72)【発明者】
【氏名】加賀谷 斉
(72)【発明者】
【氏名】藤村 健太
【テーマコード(参考)】
4C053
4C106
【Fターム(参考)】
4C053JJ01
4C053JJ12
4C053JJ24
4C053JJ27
4C106CC03
(57)【要約】
【課題】干渉部位があって従来、適用できなかった治療部位に容易にリハビリテーション治療を施すことができる磁気刺激装置を提供する。
【解決手段】磁気刺激装置Aは、コア本体21と、コア本体21から同方向に伸びた一対の脚部22・26とで形成された磁性体コア20、及びその外周面が絶縁され、変動電流が給電される環状導体10・14とを備える。磁性体コア20の一方の脚部26が前記環状導体10・14の内周側に配置され、他方の脚部26が前記環状導体10・14の外周側に配置されて前記環状導体10・14の一部を跨ぐように配置されていることを特徴とする。
【選択図】図6


【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア本体と、該コア本体から同方向に伸びた一対の脚部とで形成された磁性体コア、及びその外周面が絶縁され、変動電流が給電される環状導体とを備えた磁気刺激装置において、
前記磁性体コアの一方の脚部が前記環状導体の内周側に配置され、他方の脚部が前記環状導体の外周側に配置されて前記環状導体の一部を跨ぐように配置されていることを特徴とする磁気刺激装置。
【請求項2】
前記環状導体は、断面円形の複数の絶縁導線が撚り合わされた1つの束を複数ターン巻回し、環状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の磁気刺激装置。
【請求項3】
前記環状導体の束は、複数の絶縁導線が撚り合わされて形成された小束が複数束、束ねられると共に更に捻じられて構成されていることを特徴とする請求項2に記載の磁気刺激装置。
【請求項4】
前記環状導体は、前記1つの束、又前記複数の小束が捻じられて形成された束が、複数回、環状に巻き付けられると共に互いに撚り合わされて形成されていることを特徴とする請求項2又は3に記載の磁気刺激装置。
【請求項5】
前記環状導体は、断面四角形の複数の絶縁導線を前記環状導体の径方向および脚部の高さ方向に積層した束が複数回巻回されて構成され、
前記磁性体コアの跨設部分において、前記環状導体の絶縁導線の巻設位置を1ターン毎に高さ方向または径方向において、1つずつずれて行くように配線されていることを特徴とする請求項1に記載の磁気刺激装置。
【請求項6】
前記環状導体の、前記磁性体コアによる上記被跨設部分は前記脚部に沿って直線状に形成されていることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の磁気刺激装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気刺激装置の改良に関し、特に、肩回りの末梢神経を繰り返し磁気刺激することが出来る亜脱臼治療用の磁気刺激装置に係る。
【背景技術】
【0002】
現在、脳血管障害の後遺症や脊髄損傷により四肢に麻痺を有する患者は200万人に達している。麻痺が長期間継続すると、廃用症候群によって筋肉の機能が著しく低下し、回復が困難な状態になる。片麻痺や四肢麻痺による廃用症候群を防止し、筋肉の機能を積極的に回復させるために運動療法によるリハビリテーションは最も重要な治療法とされている。
【0003】
麻痺を要因とする筋肉の衰弱と上肢の重さにより、脳卒中後の肩関節亜脱臼は臨床において頻繁に認められ、疼痛が引き起こされる。肩関節は、上肢の中でも体幹に最も近位に位置し、手で道具を扱うヒトにとって、腕を固定・保持するという重要な役割を担っているが、亜脱臼による疼痛と関節可動域の狭小化は、リハビリテーションの施行や日常生活活動(ADL)を阻害する要因となっている。
【0004】
肩関節亜脱臼は時間の経過とともに徐々に悪化するため、スリングやストラップにより肩を固定することが一般的に実施されるが、これらの固定具は拘縮形成を助長し、患者が上肢の使用を避けることによりボディイメージの低下において不利な可能性がある。より積極的な治療法として、鍼や神経筋電気刺激(NMES)による治療が実施されている。
【0005】
神経電気刺激(NMES)には、簡易に筋収縮を得られる利点がある一方で、表面電極を使用するため皮膚に存在する侵害受容器が刺激され、痛みと不快感のため強い刺激ができないと言った課題がある。更に、神経筋電気刺激(NMES)による亜脱臼治療においては、肩部及び背部に電極を貼付する必要があるが、患者は脱衣してこれらの部位の肌を露出しなければならず、上肢に麻痺のある患者や施術者にとってこれは施術において厄介なプロセスとなっている。
【0006】
このような現状にあって、反復末梢磁気刺激(rPMS)は上記の問題点を解消する手法である。反復末梢磁気刺激(rPMS)は、パルスコイルから発生するパルス磁界により、生体に渦電流を誘導し、その渦電流により運動神経を興奮させ、筋収縮を誘発する技術である。反復末梢磁気刺激(rPMS)による痛みは、同じ強度の神経筋電気刺激(NMES)の痛みと比較して大幅に低い。更に、磁気は衣服を浸透するため、反復末梢磁気刺激(rPMS)は刺激部位を衣服の上から施術でき、患者は刺激部位の皮膚を露出させる必要がない。
【0007】
このような反復末梢磁気刺激(rPMS)を行う磁気刺激装置には様々なものがあるが、特許文献1に示すこれまでの磁気刺激装置は、コアの一対の脚部それぞれに互いに連続した導線を巻き付けた構成で、患部(モーターポイント)に当てて治療する場合、脚部間に強い渦電流が流れるように設定されていた。この部分が磁気刺激装置の「治療ポイント」である。亜脱臼治療のような場合、首に近い棘上筋(モーターポイント)を磁気刺激する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第6535825号公報
【発明の概要】
【0009】
ところが、首に近い棘上筋(モーターポイント)上に特許文献1に記載の磁気刺激装置の「治療ポイント」を配置するために、一方の脚部を首側に配置すると、両脚部に導線がそれぞれ太く巻き付けられているため、太く巻かれた導線が首に干渉し、この磁気刺激装置の「治療ポイント」を棘上筋(モーターポイント)上にもっていくことができなかった。
【0010】
本発明の目的はかかる従来例の問題点の解消に向けてなされたもので、干渉部位(例えば、亜脱臼治療の場合の首)があって従来、適用できなかった部位(例えば、亜脱臼患者の棘上筋)にでも容易に設置でき、これまでにない効果的なリハビリテーションを提供できる磁気刺激装置を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の発明(磁気刺激装置A)は、
コア本体21と、該コア本体21から同方向に伸びた一対の脚部22・26とで形成された磁性体コア20、及びその外周面が絶縁され、変動電流が給電される環状導体10・14とを備えた磁気刺激装置Aにおいて、
前記磁性体コア20の一方の脚部26が前記環状導体10・14の内周側に配置され、他方の脚部22が前記環状導体10・14の外周側に配置されて前記環状導体10・14の一部を跨ぐように配置されていることを特徴とする。
【0012】
請求項2は、リッツ線を用いた第1実施形態の1に関する(図7(a-1))。
請求項1に記載の磁気刺激装置Aにおいて、
前記環状導体10は、断面円形の複数の絶縁導線11が撚り合わされた1つの束12を複数ターン巻回し、環状に形成されていることを特徴とする。
【0013】
請求項3は、リッツ線を用いた第1実施形態の2に関する(図7(b-1))。
請求項2に記載の環状導体10の束12は、複数の絶縁導線11が撚り合わされて形成された小束12aが複数束、束ねられると共に更に捻じられて構成されていることを特徴とする。
【0014】
請求項4は、リッツ線を用いた第1実施形態の3に関する(図8)。
請求項2又は3に記載の環状導体10は、前記1つの束12、又前記複数の小束12aが捻じられて形成された束12が、複数回、環状に巻き付けられると共に互いに撚り合わされて形成されていることを特徴とする。
【0015】
請求項5は、平角線を用いた第1実施形態の1に関する(図9)。
請求項1に記載の磁気刺激装置Aにおいて、
前記環状導体14は、断面四角形の複数の絶縁導線15を前記環状導体14の径方向および脚部22・26の高さ方向に積層した束が複数回巻回されて構成され、
前記環状導体14の絶縁導線15の巻設位置を1ターン毎に高さ方向または径方向において、1つずつずれて行くように配線されていることを特徴とする。
【0016】
請求項6は、請求項1~5のいずれかに記載の磁気刺激装置Aにおいて、
前記環状導体10・14の、前記磁性体コア20による上記被跨設部分13・19は前記脚部22・26に沿って直線状に形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の磁気刺激装置Aは、上記構成により、干渉部分(例えば首のような部位)に近い棘上筋のようなモーターポイントを正確に磁気刺激できる。同様の干渉部位として、腋下部や股下部等に位置するモーターポイントの磁気刺激も可能となる。
【0018】
即ち、このような磁気刺激装置Aを用いれば、例えば脳機能障害等による麻痺のために自発運動が困難な筋肉(例えば、棘上筋)を、パルス磁界の作用で連続的に大きく運動させることが可能になる。同様の筋収縮効果は電気刺激によっても可能であるが、電気刺激は、(1)感電に類似する不快感と疼痛を伴い、(2)衣服を脱いで患部を露出して電極を貼り付ける、或いは埋め込む手数がかかり、(3)通電に伴う火傷の危険性がある。しかし、磁気刺激はこれらの(1)~(3)の問題がない。脳機能障害によって四肢麻痺が生じても、神経系と筋肉は損傷を受けていないので、適切なリハビリテーション治療を施すことにより、運動機能を回復することができる。
【0019】
特に意識障害を伴う、或いは寝たきりの状態が続くと、廃用症候群のために運動機能を回復することができなくなる。本発明の磁気刺激装置Aを用いて連続磁気刺激を行えば、麻痺した筋肉を効果的に運動させることができるので、リハビリテーション効果を画期的に高めることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の磁気刺激装置の斜視図である。
図2図1の底面側の斜視図である。
図3図1の蓋部側の平面図である。
図4図1の側面側の平面図である。
図5図4の縦断面図である。
図6】本発明の磁気刺激装置の使用状態の斜視図である。
図7】(a-1)リッツ線使用の第1実施形態の1の環状導体の平面図、(a-2)リッツ線の束の断面図、(a-3)環状導体の正面図、(b-1)第1実施形態の2の環状導体の平面図、(b-2)リッツ線の小束を用いた束の断面図である。
図8】リッツ線使用の第1実施形態の3の環状導体の平面図である。
図9】第2実施形態(平角線使用)の1の配線状態を示す図である。
図10】第2実施形態の2の配線状態の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明の詳細を実施例に基づいて説明する。なお、この実施例は当業者の理解を容易にするためのものである。すなわち、本発明の明細書の全体に記載されている技術思想によってのみ限定されるものであり、本実施例のみに限定されるものでないことは理解されるべきことである。
【0022】
本発明の磁気刺激装置Aの主要部品は、環状導体10・14、磁性体コア20、ファン40で、ケーシング1に収納されている。
磁性体コア20は、コア本体21の両端から脚部22・26が同方向に突き出したU字形の部材で、薄い絶縁被膜付きの圧延ケイ素鋼板を多数枚積層したものである。本実施例の磁性体コア20はU字形に打ち抜いた部材を上記のように積層したもの、或いは圧延ケイ素鋼帯を多重に巻き、これを2分割したものなどが用いられる。本実施例で使用した圧延ケイ素鋼板は、厚さが0.35mmのものである。
なお、脚部22・26の長手方向に対して直角方向の断面は、本実施例では四角形(正方形或いは長方形、)又は図示していないが円形である。
【0023】
環状導体10・14は、絶縁導線11・15で構成され、使用される絶縁導線11・15によって2種類に分かれる。環状導体10・14に使用される該絶縁導線11・15は、長尺で断面円形又は断面四角形(正方形又は長方形)で、例えば、前者は断面円形の銅線に絶縁塗料を焼き付けた例えばエナメル線、後者では平角銅条又は平角アルミニウム条が素材として使用される。その表面には絶縁被膜が形成されている。
素材の一例を示せば、断面円形の絶縁導線11の場合は、直径1.4mm、断面四角形の絶縁導線15の場合は、その厚みは0.9mm、高さは1.6mmである。
なお、環状導体10・14の外観形状は、図示したような円形に限られず、楕円形や矩形等を選択することが出来る。本実施例では円形とする。環状導体10・14の大きさは、刺激部位体表に設置した際に、対象部位(亜脱臼治療用の場合は肩部)からはみ出ない程度にできるだけ大きい寸法とすることが好ましい。本実施例では、成人男子の肩のサイズを想定し、内径65mm、外径95mmの円形としている。
【0024】
絶縁被膜としてはエナメル(高分子化合物をワニスに溶かしたもの)、ウレタン樹脂を用い、環状導体10・14の表面の放熱を妨げないように薄くしている。本実施例では絶縁被膜の厚みは20μmとした。断面が円形のものは絶縁導線11間にスペースが発生するため、平角の絶縁導線15に比べて環状導体10全体の体積が平角の絶縁導線15の環状導体14より大きくなる。
【0025】
上記のように環状導体10・14には、第1実施形態(断面円形)と第2実施形態(断面四角形)がある。また、巻き方により第1実施形態では「その1」~「その3」まであり、第2実施形態では「その1」、「その2」がある。環状導体10・14に付いては後述する。
【0026】
ケーシング1は、中空直方体と中空円盤とが重なったような外形をなし、直方体状の本体部分1aの前端部分1bと後端部分1cとが円盤状の部分1eの前後2辺から突出しており、さらにこの直方体状の本体部分1aが円盤状の部分1eの上面から上にせり出している。そして、ケーシング1の側面全周、即ち、直方体状の本体部分1aの側面から円盤状の部分1eの側面において上下2分割されている。下側を本体部分2、上側を蓋部5とし、両者は開閉可能でネジで固定されている。
【0027】
本体部分2は、上面が開口した部材で、本体部分2側の半円状本体部分2e1の一辺から直方体状の本体部分1aの前端部分1bの下部を構成し、磁性体コア20の一方の脚部22を収納する矩形状の収納部分が形成され、反対側の辺から環状導体10・14の給電部分10a・14aの下半分が収納される収納部分が形成されている。前者を脚部収納部分2b1、後者を給電部収納部分2c1とする。そして上記半円状本体部分2e1には、環状導体10・14が収納されている。
【0028】
環状導体10・14の直線部分13・19は脚部収納部分2b1に沿って配置され、直線部分13・19の反対側から引き出された環状導体10・14の給電部分10a・14aは給電部収納部分2c1内に配置され、さらに外部に引き出されている。半円状本体部分2e1の底部内面には複数の突起部2tが半円状本体部分2e1の側壁に沿って立設されており、半円状本体部分2e1に配置された環状導体10・14をこの突起部2tと半円状本体部分2e1の側壁とで環状導体10・14を挟み固定している。また、半円状本体部分2e1の底部外面は、患者の患部に接触する患部接触面2sとなっており、該底部外面には摩擦係数の高いゴムのような滑り止めシート2gが貼られている。
【0029】
蓋部5は、下面が開口した部材で本体部分2と同一の開口形状をしている。そして、直方体状の蓋部分5aの側面から半円状本体部分2e1に嵌まり込む半円状蓋部分5e1が半円状本体部分2e1に合わせて両側方に膨出している。蓋部5の半円状蓋部分5e1の中央部分で、当該半円状蓋部分5e1から上にせり出した直方体状の蓋部分5aの内部にはファン40が設置されている。このファン40の設置部分に一致した直方体状の蓋部分5aの天井面に給気孔5kが穿設されている。以上から上記ファン40は環状導体10・14の内側の空間の直上に位置する。
【0030】
直方体状の蓋部分5aで、本体部分2の脚部収納部分2b1に対応して半円状蓋部分5e1の一辺から突き出すように形成された部分にはコア本体21が収納されている。この部分をコア収納部分5b1とする。コア収納部分5b1の側面には冷却空気の吹出孔5fが穿設されている。
コア収納部分5b1とファン40の設置部分との間に隔壁5hが蓋部5の天井面から垂設されている。ファンからの風は、環状導体10・14の表面に沿って流れながら通気間隙8を通り磁性体コア20を冷却し吹出孔5fより排出される。
本体部分2の給電部収納部分2c1に対応して蓋部分5aから蓋側給電部収納部分5c1が突設され、嵌め込まれている。
【0031】
環状導体10・14と磁性体コア20との関係は、図5から分かるように、環状導体10・14の直線部分13・19を磁性体コア20が跨ぐように配置されている。環状導体10・14の直径は磁性体コア20の内側の脚部26より大きく、外側の脚部22は直線部分13に接近しており、該直線部分13の反対側に位置する該脚部26の側面は環状導体10・14の給電側の辺から離間している。
【0032】
蓋部5の両半円状蓋部分5e1の上面には一対のベルト通し孔が設けられたベルト保持部6が直方体状の蓋部分5aの側面に沿って形成されている。
一対のベルト50はベルト保持部6それぞれに取り付けられ、その自由端には例えば面ファスナーのような連結部材(図示せず)が設けられている。
【0033】
(第1実施形態:断面円形の環状導体10を使用)
(その1:図7(a-1)、(a-2)、(a-3))
この実施形態の環状導体10は、断面円形の複数の絶縁導線11が撚り合わされた1つの束12で構成され、且つ該束12が環状に形成されている。
即ち、複数の絶縁導線11を引き揃えて1つの束とし、この束を撚り合わせて(捻じって)1本の撚りを掛けた束12とする。続いて、この撚り束12の中央部分を複数ターン巻回し環状に成形する。環状部分から撚られた給電部分10aが2本引き出される。この両給電部分の端部では、絶縁導線11の絶縁は除去され、全ての絶縁導線11がお互いに電気的に接触している状態となっており、環状導体10は並列接続された複数のコイルと等価である。
環状部分の中央で磁性体コア20が跨設される部分は磁性体コア20に合わせて直線状に形成される。この部位を直線部分13とする。
【0034】
(その2:図7(b-1) (b-2))
この場合は、複数の絶縁導線11を引き揃えて小束とし、この小束を撚り合わせた(捻じって)1本を、撚りを掛けた小束12aとする。そして、この撚りを掛けた小束12aを複数本引き揃え、更に撚り合わせて(捻じって)1本の撚りを掛けた束12とする。続いて、(その1)のようにこの撚りを掛けた束12を複数ターン巻回し環状に成形すると共に直線部分13を形成する。環状部分から撚られた2本の給電部分10aが引き出される。この給電部分10aの端部処理も(その1)と同様に行なわれ、環状導体10は並列接続された複数のコイルと等価である。
【0035】
(その3:図8
この場合は、上記(その1)、(その2)で用いた撚りを掛けた長尺の1本の束12を使用する。この撚り掛けた束12を複数回、環状に巻き付けると共に互いに撚り合わして形成する。環状部分から撚られた給電部分10aが引き出される。この給電部分10aの端部処理も(その1)(その2)と同様に行なわれ、環状導体10は並列接続された複数のコイルと等価である。環状部分の中央で磁性体コア20が跨設される部分に直線部分13が形成される。
このように形成された環状導体10は上記のようにケーシング1内に収納され、磁性体コア20がセットされる。
【0036】
以下、第1実施形態1に於ける磁気刺激装置Aの使用について説明する。この場合は、図6に示すように、首に近い棘上筋(モーターポイント)を磁気刺激するものとする。
装置Aの前端部分1bを首側に向けて患者の肩の上にセットし、ベルト50によって装置Aを当該部位に固定する。滑り止めシート2gが患者の肩に接触し、装置Aの移動を防ぐ。これにより装置Aの「治療ポイントP」は棘上筋(モーターポイント)上にセットされる。
【0037】
続いて、装置Aをオンにして環状導体10に変動電流を供給すると、環状導体10の下方において、変動電流の生成する磁束変化に抗して患部の肩の筋肉に渦電流が発生する。この渦電流は、およそ環状導体10と同程度の直径の範囲に発生する。発生した渦電流は磁性体コア20の脚部22・26間の「治療ポイントP」に向かって集中するように流れる。この「治療ポイントP」は患部である棘上筋に一致する部位に設置されているので、棘上筋に磁気刺激を与えることになる。渦電流が発生している面積が広く発生した渦電流の総量が大きいほど、治療ポイントPに集中する渦電流の密度は高まるため、環状導体10・14の大きさは、刺激部位体表に設置した際に、対象部位(亜脱臼治療用の場合は肩部)からはみ出ない程度にできるだけ大きい寸法とすることが好ましい。本実施例の形態は、首等への干渉が無い部位にて、大きな環状導体10・14にて広い範囲に渦電流を発生して渦電流の総量を確保しつつ、その生成した渦電流を、首の根本近くに設置した磁性体コア20の脚部22・26間に集めることで、首の根本部など、干渉物があり構造的に刺激が難しい部位においても十分な刺激を行うことを可能にしている。
また、環状導体10・14の生成する変動磁束により発生する渦電流は、比較的広い範囲に発生しており、その範囲には、他の筋を収縮させるモーターポイントもいくつか存在しているが、磁性体コア20の脚部22・26間以外では、その密度が小さいためそれらの筋は収縮することはない。仮に、磁性体コア20を用いずに、環状導体10・14のみの構成の磁気刺激装置で刺激を行った場合は、棘上筋のみならず三角筋および上腕部の神経が刺激されてしまう。
【0038】
一般的に、変動電流を導線に流し続けると表皮効果(導体に変動電流を流すと、電磁誘導作用によって導体の中心部分には変動電流が流れにくくなり、変動電流が導体の表面を流れるようになる現象)により導体の実効的な抵抗値が高くなり、導体の発熱が大きくなり発熱する。
この表皮効果を抑制するために細い絶縁導体を束にして捩ったリッツ線が用いられるが、単純に捩っただけの直線状のリッツ線に変動電流を流した場合、「リッツ線の断面」において、表面に位置している絶縁導体は、常に表面にあり続けるため、通常の導体と同様に表皮効果が発生し、表面に位置する絶縁導体に集中的に電流が流れ発熱してしまう問題がある。
【0039】
しかしながら、第1実施形態の環状導体10の絶縁導線11は、コイル状に数ターン巻かれており、「リッツ線の断面」でなく、その「コイルの断面」における表面部分に対して表皮効果が表れることになる。第1実施形態の環状導体10を「コイルの断面」として見た場合は、単純に捩じっただけの場合でも、各絶縁導線11が「コイルの断面」の中心よりの部分と表面よりの部分、換言すれば、「コイルの断面」の中心部分と外周部分とを通過することになる。その結果、表皮効果がキャンセルされることなる。
なお、表皮効果における表皮厚み(電流の流れる深さ)dは、下記の式で表される。
【0040】
【数1】
ρ:絶縁導線の抵抗率 μ:絶縁導線の透磁率 f:変動電流の周波数
従って、この深さよりも細い絶縁導線11を使えば、表皮効果はほぼなくなる。リッツ線は、使用周波数における表皮厚みより細い線であるからリッツ線を絶縁導線11として使えば、表皮効果は解消される。
【0041】
リッツ線の捩じり方として絶縁導線11をまとめて捩じったものを複数用意して、それらを纏めて更に捩じった「多重ステップ巻」という巻き法(第1実施形態の1,2)が用いられている。この方法を用いたリッツ線であればターン数の少ないコイルであっても、各素線が内外を行き来するので表面への電流の偏りがなくなり、表皮効果が解消される。
その結果、環状導体10の昇温が抑制され、患部に火傷を負わせるようなことがない。
【0042】
(第2実施形態:断面四角形の環状導体14を使用。図9
この実施形態の環状導体14は、断面四角形(図9図10では番号を付す関係上、断面を正方形で示すが、通常は縦長長方形のものが使用される。)の複数の絶縁導線15が環状導体14の径方向に多重に巻回されて構成されると共に磁性体コア20の脚部22・26の高さ方向に多層に巻回されて構成されている。図9にその例を示す。
【0043】
図9は、断面四角形の絶縁導線15を径方向に2重に、高さ方向に3層に巻回されて構成された例である。使用される絶縁導線15は6本で並列に配置され、位置をずらしながら1本の絶縁導線15を複数ターン巻回している。
環状導体14の直線状の被跨設部分13に現れる絶縁導線15のそれぞれの断面に1~6までの番号を順に付する。そうすると、図9(b)の最左端の断面(I)では脚部22の先端側の断面が番号1、その上の断面が番号2、最上段の断面が番号3、これに隣接する脚部26側(即ち、横)の断面が番号4、その下の断面が番号5、最下層の断面が番号6となる。この断面の配線順序は図9(b)の符号(I)で示される断面となる。この順番は一例である。
1ターンすると符号(II)で示される断面となり、6ターンすると符号(VI)で示される断面となる。このように、絶縁導線15は1ターン毎に高さ方向及び径方向において、1つずつずれて行くように巻線されている。第一の実施形態と同様に、環状導体14から給電部分が2本引き出され、この両給電部分の端部では、絶縁導線15の絶縁は除去され、全ての絶縁導線15がお互いに電気的に接触している状態となっており、環状導体14は並列接続された複数のコイルと等価である。
【0044】
この装置Aの環状導体14に変動電流を供給すると、第1実施形態と同様、患部において、渦電流が磁性体コア20の脚部22・26間の「治療ポイントP」で集中するように流れ、患部である棘上筋に磁気刺激を与えることになる。
そして、この場合も、絶縁導線15は1ターン毎に1つずつずれて行くように配線されているので、表皮効果が緩和され、変動電流がある程度均等に絶縁導線11内を流れることになって環状導体10の昇温が抑制され、患部に火傷を負わせるようなことがない。また、リッツ線に比較して、捩り部がほとんどなく、線間の空隙を大幅に削減できるため、導体断面積が小さくなるメリットがある。また、導体間の空隙がほぼないため、導体内部と表面間の熱伝導性が高まり、導体内部の蓄熱が表面に散逸されやすくなり、導体内部と外部の温度差が低減される。
【0045】
図10に第二の実施形態における素線構成の一例を示す。
この場合は、(その1)に示す絶縁導線15の束12を高さ方向に2層に巻設した場合である。上下2層の束12のそれぞれにおいて、6本の絶縁導線15が6ターンするように、巻設されている。
【符号の説明】
【0046】
A:磁気刺激装置、P:治療ポイント、1:ケーシング、1a:直方体状の本体部分、1b:前端部分、1c:後端部分、1e:円盤状の部分、2:本体部分、2b1:脚部収納部分、2c1:給電部収納部分、2e1:半円状本体部分、2g:滑り止めシート、2s:患部接触面、2t:突起部、5:蓋部、5a:直方体状の蓋部分、5b1:コア収納部分、5c1:蓋側給電部収納部分、5e1:半円状蓋部分、5f:吹出孔、5h:隔壁、5k:給気孔、6:ベルト保持部、8:通気間隙、10:第1の実施形態の環状導体、10a:給電部分、11:断面円形の絶縁導線、12:束、12a:小束、13:被跨設部分(直線部分)、14:第2の実施形態の環状導体、14a:給電部分、15:四角形の絶縁導線、19:被跨設部分(直線部分)、20:磁性体コア、21:コア本体、22・26:脚部、40:ファン、50:ベルト

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10