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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022134737
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】接着方法
(51)【国際特許分類】
   H05B 6/10 20060101AFI20220908BHJP
【FI】
H05B6/10 381
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021034092
(22)【出願日】2021-03-04
(71)【出願人】
【識別番号】391015443
【氏名又は名称】堀硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】日高 康之
(72)【発明者】
【氏名】益田 靖博
(72)【発明者】
【氏名】原田 裕之
【テーマコード(参考)】
3K059
【Fターム(参考)】
3K059AB26
3K059AB28
3K059AD40
3K059CD44
3K059CD48
3K059CD52
3K059CD73
(57)【要約】
【課題】大掛かりな設備を要せずに、ホルダーの溝の一方側及び他方側の側面をガラス板に均一に密着させることができるとともに、ガラス板とホルダーとの接着力が強い構造体を得ることの可能な構造体の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の製造方法は、ガラス板2と、溝7を有するホルダー3と、発熱体4と、第一及び第二熱可塑性樹脂シート5A,5Bとを準備する準備工程と、ガラス板2の外周縁部、発熱体4、及び第一及び第二熱可塑性樹脂シート5A,5Bが溝7に配置された状態にする配置工程と、発熱体4を高周波誘導加熱により発熱させることで、第一及び第二熱可塑性樹脂シート5A,5Bを加熱して溶融させる加熱工程と、ガラス板2、発熱体4、及び第一及び第二熱可塑性樹脂シート5A,5Bを冷却して、溶融した前記第一及び第二熱可塑性樹脂シート5A,5Bを固化させる冷却工程を有する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス板にホルダーが装着された構造体を製造する方法であって、
前記ガラス板と、前記ガラス板の外周縁部が挿入される有底の溝を有する前記ホルダーと、高周波誘導加熱により発熱する導電性材料により形成されるシート状の発熱体と、第一及び第二熱可塑性樹脂シートとを準備する準備工程と、
前記発熱体が、前記溝の一方側の側面と前記ガラス板の一方側の側面との間、前記溝の底面と前記ガラス板の端面との間、及び前記溝の他方側の側面と前記ガラス板の他方側の側面との間を延び、前記第一熱可塑性樹脂シートが、前記溝の一方側及び他方側の側面と前記発熱体との間、及び前記溝の底面と前記発熱体との間に介在し、前記第二熱可塑性樹脂シートが、前記ガラス板の一方側及び他方側の側面と前記発熱体との間、及び前記ガラス板の端面と前記発熱体との間に介在するように、前記ガラス板の外周縁部、前記発熱体、及び前記第一及び第二熱可塑性樹脂シートが前記溝に配置された状態にする配置工程と、
前記発熱体を高周波誘導加熱により発熱させることで、前記第一及び第二熱可塑性樹脂シートを加熱して溶融させる加熱工程と、
前記ガラス板、前記発熱体、及び前記第一及び第二熱可塑性樹脂シートを冷却して、溶融した前記第一及び第二熱可塑性樹脂シートを固化させることで、前記溝の一方側及び他方側の側面と前記溝の底面とを、前記第一熱可塑性樹脂シートを介して前記発熱体に接着させ、前記ガラス板の一方側及び他方側の側面と前記ガラス板の端面とを、前記第二熱可塑性樹脂シートを介して前記発熱体に接着させて、前記ガラス板に前記ホルダーが装着された状態にする冷却工程とを有することを特徴とする構造体の製造方法。
【請求項2】
前記準備工程では、前記ガラス板と、前記ホルダーと、前記発熱体の片面に前記第一熱可塑性樹脂シートが積層され、前記発熱体の他面に前記第二熱可塑性樹脂シートが積層された積層体とが準備され、
前記配置工程では、前記発熱体が、前記溝の一方側の側面と前記ガラス板の一方側の側面との間、前記溝の底面と前記ガラス板の端面との間、及び前記溝の他方側の側面と前記ガラス板の他方側の側面との間を延び、前記第一熱可塑性樹脂シートが、前記溝の一方側及び他方側の側面と前記発熱体との間、及び前記溝の底面と前記発熱体との間に介在し、前記第二熱可塑性樹脂シートが、前記ガラス板の一方側及び他方側の側面と前記発熱体との間、及び前記ガラス板の端面と前記発熱体との間に介在するように、前記ガラス板の外周縁部及び前記積層体が前記溝に配置される請求項1に記載の構造体の製造方法。
【請求項3】
前記発熱体は、金属製のシート材である請求項1又は2に記載の構造体の製造方法。
【請求項4】
ガラス板と、
前記ガラス板の外周縁部が挿入される有底の溝を有するホルダーと、
高周波誘導加熱により発熱する導電性材料により形成されて、前記溝の一方側の側面と前記ガラス板の一方側の側面との間、前記溝の底面と前記ガラス板の端面との間、及び前記溝の他方側の側面と前記ガラス板の他方側の側面との間を延びるシート状の発熱体と、
前記溝の一方側及び他方側の側面と前記溝の底面とを前記発熱体に接着する第一熱可塑性樹脂シートと、
前記ガラス板の一方側及び他方側の側面と前記ガラス板の端面とを前記発熱体に接着する第二熱可塑性樹脂シートとを備える構造体。
【請求項5】
前記ガラス板は、自動車の窓ガラス板として使用されるものであり、
前記ホルダーは、前記溝の底面を構成する底壁と、前記底壁から上方に延びて、前記溝の一方側の側面を構成する第一側壁と、前記底壁から上方に延びて、前記溝の他方側の側面を構成する第二側壁と、前記底壁から下方に延びる連結板とを備えており、
前記連結板には、前記ガラス板を昇降させるための昇降装置を連結可能である請求項4に記載の構造体。
【請求項6】
前記第一側壁及び前記第二側壁の一方又は双方は、1mm以上3mm以下の厚みを有する請求項5に記載の構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート材を用いてガラス板とホルダーとを接着する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、高周波誘導加熱により発熱する発熱体とその両側に積層された熱可塑性樹脂層とからなる第一及び第二積層体を用いて、ガラス板とホルダーとを接着する方法が開示されている。ホルダーは、底壁と、底壁から延びる第一及び第二側壁とを有しており、第一側壁と第二側壁との間に溝が形成されている。特許文献1の接着方法では、溝の一方側の側面(第一側壁の側面)とガラス板との間に第一積層体が介在し、溝の他方側の側面(第二側壁の側面)とガラス板との間に第二積層体が介在するように、ガラス板及び第一及び第二積層体が溝に挿入される。そして、高周波誘導加熱により第一及び第二積層体に含まれる発熱体を発熱させることで、第一及び第二積層体に含まれる熱可塑性樹脂層を溶融させて、この後、当該熱可塑性樹脂層を固化させることで、溝の一方側及び他方側の側面とガラス板とを接着する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6-206442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら特許文献1の方法では、第一積層体と第二積層体とが分離している。このため、高周波誘導加熱がホルダーの片側(第一側壁側、或いは第二側壁側)から行なわれる場合に、第一積層体に含まれる発熱体の温度と、第二積層体に含まれる発熱体の温度とが均一にならず。これらの温度に大きな差が生じる虞がある。そしてこの場合には、第一積層体に含まれる熱可塑性樹脂と、第二積層体に含まれる熱可塑性樹脂とを、均一に溶融させることができないので、溝の一方側の側面と、溝の他方側の側面とを、均一にガラス板に密着させることができない。
【0005】
また上記の問題を回避すべく、高周波誘導加熱をホルダーの両側(第一側壁側及び第二側壁側))から行なう場合には、2つの高周波誘導加熱装置を使用する必要があるため、設備が大掛かりとなる。
【0006】
また特許文献1の方法では、溝の底面とガラス板との間にはシート材が配置されないため、溝の底面をガラス板に接着させることができない。
【0007】
本発明は、上記事項に鑑みてなされたものであって、第一の目的は、ガラス板にホルダーが装着された構造体を製造する方法であって、大掛かりな設備を要せずに、ホルダーの溝の一方側及び他方側の側面をガラス板に均一に密着させることができるとともに、前記溝の側面のみならず、前記溝の底面も、ガラス板に接着することで、ガラス板とホルダーとの接着力が強い構造体を得ることの可能な構造体の製造方法を提供することである。
【0008】
本発明の第二の目的は、ホルダーの溝の側面のみならず、前記溝の底面も、ガラス板に接着することで、ガラス板とホルダーとの接着力が強い構造体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は、次の項に記載の主題を包含する。
【0010】
項1.ガラス板にホルダーが装着された構造体を製造する方法であって、
前記ガラス板と、前記ガラス板の外周縁部が挿入される有底の溝を有する前記ホルダーと、高周波誘導加熱により発熱する導電性材料により形成されるシート状の発熱体と、第一及び第二熱可塑性樹脂シートとを準備する準備工程と、
前記発熱体が、前記溝の一方側の側面と前記ガラス板の一方側の側面との間、前記溝の底面と前記ガラス板の端面との間、及び前記溝の他方側の側面と前記ガラス板の他方側の側面との間を延び、前記第一熱可塑性樹脂シートが、前記溝の一方側及び他方側の側面と前記発熱体との間、及び前記溝の底面と前記発熱体との間に介在し、前記第二熱可塑性樹脂シートが、前記ガラス板の一方側及び他方側の側面と前記発熱体との間、及び前記ガラス板の端面と前記発熱体との間に介在するように、前記ガラス板の外周縁部、前記発熱体、及び前記第一及び第二熱可塑性樹脂シートが前記溝に配置された状態にする配置工程と、
前記発熱体を高周波誘導加熱により発熱させることで、前記第一及び第二熱可塑性樹脂シートを加熱して溶融させる加熱工程と、
前記ガラス板、前記発熱体、及び前記第一及び第二熱可塑性樹脂シートを冷却して、溶融した前記第一及び第二熱可塑性樹脂シートを固化させることで、前記溝の一方側及び他方側の側面と前記溝の底面とを、前記第一熱可塑性樹脂シートを介して前記発熱体に接着させ、前記ガラス板の一方側及び他方側の側面と前記ガラス板の端面とを、前記第二熱可塑性樹脂シートを介して前記発熱体に接着させて、前記ガラス板に前記ホルダーが装着された状態にする冷却工程とを有することを特徴とする構造体の製造方法。
【0011】
項2.前記準備工程では、前記ガラス板と、前記ホルダーと、前記発熱体の片面に前記第一熱可塑性樹脂シートが積層され、前記発熱体の他面に前記第二熱可塑性樹脂シートが積層された積層体とが準備され、
前記配置工程では、前記発熱体が、前記溝の一方側の側面と前記ガラス板の一方側の側面との間、前記溝の底面と前記ガラス板の端面との間、及び前記溝の他方側の側面と前記ガラス板の他方側の側面との間を延び、前記第一熱可塑性樹脂シートが、前記溝の一方側及び他方側の側面と前記発熱体との間、及び前記溝の底面と前記発熱体との間に介在し、前記第二熱可塑性樹脂シートが、前記ガラス板の一方側及び他方側の側面と前記発熱体との間、及び前記ガラス板の端面と前記発熱体との間に介在するように、前記ガラス板の外周縁部及び前記積層体が前記溝に配置される項1に記載の構造体の製造方法。
【0012】
項3.前記発熱体は、金属製のシート材である項1又は2に記載の構造体の製造方法。
【0013】
項4.ガラス板と、
前記ガラス板の外周縁部が挿入される有底の溝を有するホルダーと、
高周波誘導加熱により発熱する導電性材料により形成されて、前記溝の一方側の側面と前記ガラス板の一方側の側面との間、前記溝の底面と前記ガラス板の端面との間、及び前記溝の他方側の側面と前記ガラス板の他方側の側面との間を延びるシート状の発熱体と、
前記溝の一方側及び他方側の側面と前記溝の底面とを前記発熱体に接着する第一熱可塑性樹脂シートと、
前記ガラス板の一方側及び他方側の側面と前記ガラス板の端面とを前記発熱体に接着する第二熱可塑性樹脂シートとを備える構造体。
【0014】
項5.前記ガラス板は、自動車の窓ガラス板として使用されるものであり、
前記ホルダーは、前記溝の底面を構成する底壁と、前記底壁から上方に延びて、前記溝の一方側の側面を構成する第一側壁と、前記底壁から上方に延びて、前記溝の他方側の側面を構成する第二側壁と、前記底壁から下方に延びる連結板とを備えており、
前記連結板には、前記ガラス板を昇降させるための昇降装置を連結可能である項4に記載の構造体。
【0015】
項6.前記第一側壁及び前記第二側壁の一方又は双方は、1mm以上3mm以下の厚みを有する項5に記載の構造体。
【発明の効果】
【0016】
本発明の製造方法によれば、大掛かりな設備を要せずに、ホルダーの溝の一方側及び他方側の側面をガラス板に均一に密着させることができるとともに、ホルダーの溝の側面のみならず、前記溝の底面も、ガラス板に接着することで、ガラス板とホルダーとの接着力が強い構造体を得ることが可能である。
【0017】
本発明の構造体によれば、ホルダーの溝の側面のみならず、前記溝の底面も、ガラス板に接着することで、ガラス板とホルダーとの接着力が強い。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態に係る構造体を示す側面図である。
図2】ガラス板の外周縁部に装着されたホルダーを示す斜視図である。
図3】ガラス板の外周縁部に装着されたホルダーを示す断面図である。
図4図3のY範囲を拡大して示す断面図である。
図5】本発明の実施形態に係る構造体の製造方法で使用される積層体を示す断面図である。
図6】本発明の実施形態に係る製造方法における配置工程の手順を示す断面図である。
図7】本発明の実施形態に係る製造方法における加熱工程が実施されているときの状態を示す断面図である。
図8】ガラス板の外周縁部に装着された変形例のホルダーを示す斜視図である。
図9】ガラス板の外周縁部に装着された変形例のホルダーを示す断面図である。
図10】比較例の製造方法によりガラス板及び第一及び第二の積層体がホルダーの溝に挿入された状態を示す斜視図である。
図11】(A)は、比較例の製造方法によりガラス板及び第一及び第二の積層体がホルダーの溝に挿入された状態を示す断面図であり、(B)は、(A)のZ範囲を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施形態に係る構造体1を示す側面図である。図2は、ガラス板2の外周縁部に装着されたホルダー3を示す斜視図である(図2は、図1のX範囲を拡大して示している)。図3は、ガラス板2の外周縁部に装着されたホルダー3を示す断面図であり、図4は、図3のY範囲を拡大して示す断面図である。
【0020】
(構造体)
構造体1(図1)は、自動車のドアに設けられるものであって、ガラス板2と、ホルダー3と、シート状の発熱体4(図2図4)と、第一熱可塑性樹脂シート5A(図2図4)と、第二熱可塑性樹脂シート5B(図2図4)とを有する。
【0021】
ホルダー3は、ガラス板2の外周縁部が挿入される有底の溝7を有する。図4に示すように、シート状の発熱体4は、溝7の一方側の側面7aとガラス板2の一方側の側面2aとの間、溝7の底面7cとガラス板2の端面2cとの間、及び溝7の他方側の側面7bとガラス板2の他方側の側面2bとの間を延びる。第一熱可塑性樹脂シート5Aは、溝7の一方側の側面7aと溝7の他方側の側面7bと溝7の底面7cとを、発熱体4に接着する。第二熱可塑性樹脂シート5Bは、ガラス板2の一方側の側面2aとガラス板2の他方側の側面2bとガラス板2の端面2cとを、発熱体4に接着する。
【0022】
上記の構造体1は、発熱体4の片面40に第一熱可塑性樹脂シート5Aが積層され、発熱体4の他面41に第二熱可塑性樹脂シート5Bが積層された積層体10を用いて製造されたものである。当該構造体1は、積層体10を介して(つまり、第一熱可塑性樹脂シート5A、発熱体4、及び第二熱可塑性樹脂シート5Bを介して)、溝7の一方側の側面7aとガラス板2の一方側の側面2aとが接着され、溝7の他方側の側面7bとガラス板2の他方側の側面2bとが接着され、溝7の底面7cとガラス板2の端面2cとが接着されることで、ガラス板2とホルダー3との接着力が強い。つまり、構造体1は、溝7及びガラス板2の側面同士のみならず、溝7の底面7c及びガラス板2の端面2cも接着されることで、溝7及びガラス板2の側面同士のみが接着される場合に比して、ガラス板2とホルダー3との接着力が強い。
【0023】
(ガラス板2)
ガラス板2は、自動車の窓ガラス板として使用される。当該ガラス板2は、例えば、熱処理で強化された強化ガラス板、或いは中間層にポリビニルブチラール等の樹脂層を使用した合わせガラス板である。
【0024】
(ホルダー3)
ホルダー3は、溝7の底面7cを構成する底壁20と、底壁20から上方に延びて、溝7の一方側の側面7aを構成する第一側壁21と、底壁20から上方に延びて、溝7の他方側の側面7bを構成する第二側壁22と、底壁20から下方に延びる連結板23とを備える。
【0025】
連結板23には、金属ナット15が嵌め込まれる孔14(図2)が形成されており、金属ボルト(図示せず)を孔14に挿入して金属ナット15に締結することで、昇降装置(図示せず)を連結板23に連結できる。上記の昇降装置(図示せず)は、例えばレギュレーターと称される装置であり、構造体1を昇降させるために設けられる。
【0026】
第一側壁21の厚みt1(図3)と、第二側壁22の厚みt2(図3)とは、いずれか一方、もしくは双方が、1.0mm以上3.0mm以下であることが好ましい。
【0027】
第一側壁21の厚みt1及び第二側壁22の厚みt2の双方が1.0mmより薄い場合には、ホルダー3の剛性を十分高められない虞がある。第一側壁21の厚みt1及び第二側壁22の厚みt2の双方が3.0mmより厚い場合には、第一側壁21及び第二側壁22の双方の剛性が高いことで、ガラス板2の表面の曲率が大きい場合に、ガラス板2へのホルダー3の追従性が低下する虞がある。
【0028】
溝7の大きさは、特に限定されず、ガラス板2の大きさ、重量、曲率、形状等に応じて、任意に設定できる。
【0029】
上記のホルダー3は、例えば、ポリエステル樹脂(ポリブチレンテレフタレートやポリエチレンテレフタレート等)、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂等のエンジニアリングプラスティック、或いは、軽量化(低比重)、易成型性、易リサイクル性などの特徴をもったポリプロピレン樹脂やポリエチレン樹脂から形成される。ホルダー3の強度を上げるために、上記の樹脂にガラス繊維を含ませてもよく、或いは、ホルダー3を、ABS(Acrylonitrile Butadiene Styrene)またはポリカーボネートを含むアロイから形成してもよい。
【0030】
ホルダー3を形成するために、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリプロピレン樹脂、及びポリエチレン樹脂の市販品を使用できる。上記のポリブチレンテレフタレート樹脂の市販品としては、ポリプラスチックス株式会社のジュラネックス(登録商標)、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社のノバデュラン(登録商標)、及び東レ株式会社のトレコン(登録商標)があげられる。上記のポリアセタール樹脂の市販品としては、三菱瓦斯化学株式会社のユピタール(登録商標)、ポリプラスチックス株式会社のジュラコン(登録商標)、イ- アイ ヂユポン デ ニモアス エンド コンパニ-デルリン(登録商標)、及び旭化成株式会社のテナック(登録商標)があげられる。上記のポリプロピレン樹脂の市販品としては、日本ポリプロ株式会社のノバテックPP(ノバテックは登録商標)、出光興産株式会社のIDEMITSU PP(IDEMITSUは登録商標)があげられる。上記のポリエチレン樹脂の市販品としては、日本ポリプロ株式会社のノバテックPE(ノバテックは登録商標)、出光興産株式会社のIDEMITSU PE(IDEMITSUは登録商標)、住友化学株式会社のスミカセン(登録商標)があげられる。なおホルダー3を形成するために使用される樹脂は、上記の市販品に限定されない。
【0031】
ホルダー3は、公知の射出成型等により成形される。本発明は、ホルダー3の成形方法及び形状を特に限定するものではない。
【0032】
(第一及び第二熱可塑性樹脂シート5A,5B)
第一及び第二熱可塑性樹脂シート5A,5Bは、エチレン酢酸ビニル(EVA)等のホットメルト樹脂、又は、スチレン系のエラストマー樹脂、オレフィン系のエラストマー樹脂、或いはエステル系のエラストマー樹脂等の熱可塑性樹脂から形成される。第一及び第二熱可塑性樹脂シート5A,5Bは、発熱体4にコーティングされた層であってもよく、発熱体4に接合されたシート材やフィルム材でもよい。
【0033】
第一及び第二熱可塑性樹脂シート5A,5Bを形成するために、スチレン系、オレフィン系、或いはエステル系のエラストマー樹脂の市販品を使用できる。上記のスチレン系エラストマー樹脂の市販品としては、株式会社クラレのセプトン(登録商標)、及びMCPPイノベーション合同会社のラバロン(登録商標)があげられる。上記のオレフィン系エラストマー樹脂の市販品としては、MCPPイノベーション合同会社のサーモラン(登録商標)、及び三井化学株式会社のミラストマー(登録商標)があげられる。上記のエステル系エラストマー樹脂の市販品としては、イー アイ デュポン ドゥ ヌムール アンド カンパニーのハイトレル(登録商標)、及び東洋紡株式会社のペルプレン(登録商標)があげられる。なお第一及び第二熱可塑性樹脂シート5A,5Bを形成するために使用される樹脂は、上記の市販品に限定されない。また第一熱可塑性樹脂シート5Aと、第二熱可塑性樹脂シート5Bとは、同一種の熱可塑性樹脂から形成されてもよく、異種の熱可塑性樹脂から形成されてもよい。
【0034】
また第一熱可塑性樹脂シート5Aの厚みt3(図5)や、第二熱可塑性樹脂シート5Bの厚みt4(図5)は、特に限定されないが、上記の厚みt3,t4を、25μm以上1,000μm以下にすることが好ましい。上記の厚みt3,t4を25μm以上とすることで、ガラス板2やホルダー3への積層体10の密着性を高めることができ、上記の厚みt3,t4を1,000μm以下とすることで、熱可塑性樹脂シート5A,5Bの溶融不足が生じることを回避できる。
【0035】
(発熱体4)
シート状の発熱体4は、高周波誘導加熱により発熱する導電性材料により形成される。本明細書中、誘導加熱とは、「磁界によって発生する渦電流に基づく加熱」を意味する。また、「高周波誘導加熱によって発熱する」とは、「コイルに高周波数の交流を流すことにより交流磁界を発生させ、交流磁界中に置いた導電性物質中を通る磁束線により導電性物質中に渦電流を発生させて、当該発生した渦電流に基づくジュール熱により、導電性物質が発熱すること」を意味する。
【0036】
発熱体4は、例えば、高周波誘導加熱によって発熱する導電性材料から形成されたシート材、即ち、上記の交流磁界中に置かれた場合、上記の渦電流に基づくジュール熱によって発熱するシート材から構成される。発熱体4を構成する上記のシート材として、例えば、導電性を有する金属製のシート材を使用できる。
【0037】
上記金属製のシート材は、特に限定されず、例えば、アルミニウム、鉄、ステンレス鋼、銅、真鍮等からなるシート材等が挙げられる。なかでもアルミニウムからなるシート材は、比較的柔軟で取り扱いやすく、高価でないことから、アルミニウムからなるシート材によって発熱体4を構成することが好ましい。
【0038】
上記発熱体4の厚みt5(図5)は、特に限定されないが、20μm以上100μm以下であることが好ましい。上記厚みt5が20μm未満である場合には、発熱体4の発熱が不充分となり、第一及び第二熱可塑性樹脂シート5A,5Bの溶融や固化に長時間を要する虞がある。固化上記厚みt5が100μmを超える場合には、発熱体4の剛性が強くなりすぎることで、積層体10の追従性や加工適正が低下する虞がある。
【0039】
(構造体1の製造方法)
本実施形態に係る構造体1の製造方法は、下記の準備工程、配置工程、過熱工程、及び冷却工程を順次行なうことで、ガラス板2にホルダー3が装着された構造体1を製造する。
【0040】
準備工程:ガラス板2と、ホルダー3と、発熱体4の片面40に第一熱可塑性樹脂シート5Aが積層され、発熱体4の他面41に第二熱可塑性樹脂シート5Bが積層された積層体10(図5)とを準備する工程(積層体10を準備することは、発熱体4と、第一熱可塑性樹脂シート5Aと、第二熱可塑性樹脂シート5Bとを準備することに相当する)。
【0041】
配置工程:発熱体4が、溝7の一方側の側面7aとガラス板2の一方側の側面2aとの間、溝7の底面7cとガラス板2の端面2cとの間、及び溝7の他方側の側面7bとガラス板2の他方側の側面2bとの間を延び、第一熱可塑性樹脂シート5Aが、溝7の一方側及び他方側の側面7a,7bと発熱体4との間、及び溝7の底面7cと発熱体4との間に介在し、第二熱可塑性樹脂シート5Bが、ガラス板2の一方側及び他方側の側面2a,2bと発熱体4との間、及びガラス板2の端面2cと発熱体4との間に介在するように、ガラス板2の外周縁部及び積層体10が、溝7に配置された状態にする工程。
【0042】
加熱工程:発熱体4を高周波誘導加熱により発熱させることで、第一及び第二熱可塑性樹脂シート5A,5Bを加熱して溶融させる工程。
【0043】
冷却工程:ガラス板2、発熱体4、及び第一及び第二熱可塑性樹脂シート5A,5Bを冷却して、溶融した第一及び第二熱可塑性樹脂シート5A,5Bを固化させることで、溝7の一方側及び他方側の側面7a,7bと溝7の底面7cとを、第一熱可塑性樹脂シート5Aを介して発熱体4に接着させ、ガラス板2の一方側及び他方側の側面2a,2bとガラス板2の端面2cとを第二熱可塑性樹脂シート5Bを介して発熱体4に接着させて、ガラス板2にホルダー3が装着された状態にする工程。
【0044】
(準備工程)
準備工程では、ガラス板2から埃や油分を除去するために、ガラス板2の脱脂が行なわれてもよい。この脱脂は、例えば有機溶剤を用いて行なわれる。脱脂に使用する有機溶剤は、特に限定されないが、当該有機溶剤として、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール溶剤、または、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類を使用できる。
【0045】
また準備工程では、ガラス板2の接着面に、合成樹脂、ポリイソシアネート組成物、シランカップリング剤、シラン変性樹脂などの、一般的にプライマーと呼ばれるものを塗布してもよく、シランカップリング剤を塗布することが特に好ましい。また、ガラス板2の接着面には、コロナまたはプラズマ等による物理的な表面改質が施されてもよい。上記の「ガラス板2の接着面」とは、ホルダー3との接着が行なわれるガラス板2の表面2a,2c,2bの範囲である。
【0046】
上記のシランカップリング剤としては、ガラス、シリカ、金属、粘土等の無機材料と高分子等の有機材料とを化学結合できる官能基を有する下記式(1)で表される有機ケイ素化合物を使用できる。
【0047】
[式1]
Y~(CH)nSiX 式(1)
(式中のXはアルコキシ基やアセトキシ基、イソプロポキシ基、アミノ基、ハロゲン等の加水分解性の置換基で、無機と反応し、Yは有機質と反応しやすいビニル基、エポキシ基、アミノ基、メタクリル基、メルカプト基などである。)
【0048】
また準備工程では、ホルダー3から埃や油分を除去するために、ホルダー3の脱脂が行なわれてもよい。この脱脂は、例えば有機溶剤を用いて行なわれる。脱脂に使用する有機溶剤は、特に限定されないが、当該有機溶剤として、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール溶剤、或いは、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類を使用できる。
【0049】
また準備工程では、ホルダー3の接着面7a,7c,7bに、合成樹脂、ポリイソシアネート組成物、シランカップリング剤、シラン変性樹脂などの、一般的にプライマーと呼ばれる材料を塗布してもよく、シランカップリング剤を塗布することが特に好ましい。またホルダー3の接着面7a,7c,7bには、コロナまたはプラズマ等による物理的な表面改質が施されてもよい。
【0050】
上記のシランカップリング剤としては、ガラス、シリカ、金属、粘土等の無機材料と高分子等の有機材料とを化学結合できる官能基を有する下記式(2)で表される有機ケイ素化合物を使用できる。
【0051】
[式2]
Y~(CH)nSiX 式(2)
(式中のXはアルコキシ基やアセトキシ基、イソプロポキシ基、アミノ基、ハロゲン等の加水分解性の置換基で、無機と反応し、Yは有機質と反応しやすいビニル基、エポキシ基、アミノ基、メタクリル基、メルカプト基などである。)
【0052】
また準備工程では、発熱体4と第一及び第二熱可塑性樹脂シート5A,5Bとの密着性が高い積層体10を準備するために、発熱体4の接合面及び/又は第一及び第二熱可塑性樹脂シート5A,5Bの接合面に、合成樹脂、ポリイソシアネート組成物、シランカップリング剤、シラン変性樹脂などの、一般的にプライマーと呼ばれる材料を塗布することが好ましく、シランカップリング剤を塗布することが特に好ましい。また、発熱体4の接合面及び/又は第一及び第二熱可塑性樹脂シート5A,5Bの接合面には、コロナ処理またはプラズマ処理等による物理的な表面改質が施されてもよい。上記の「発熱体4の接合面」は、「第一及び第二熱可塑性樹脂シート5A,5Bに接合される発熱体4の表面40,41」を意味し、上記の「第一及び第二熱可塑性樹脂シート5A,5B」の接合面は、「発熱体4に接合される第一及び第二熱可塑性樹脂シート5A,5Bの表面」を意味する。
【0053】
上記のシランカップリング剤としては、ガラス、シリカ、金属、粘土等の無機材料と高分子等の有機材料とを化学結合できる官能基を有する下記式(3)で表される有機ケイ素化合物を使用できる。
【0054】
[式3]
Y~(CH)nSiX 式(3)
(式中のXはアルコキシ基やアセトキシ基、イソプロポキシ基、アミノ基、ハロゲン等の加水分解性の置換基で、無機と反応し、Yは有機質と反応しやすいビニル基、エポキシ基、アミノ基、メタクリル基、メルカプト基などである。)
【0055】
(配置工程)
配置工程では、図6(A)に示すように、積層体10が溝7の開口を覆うように、積層体10を第一側壁21及び第二側壁22の上に配置した状態で、図6(B),(C),(D)に示すように、積層体10の上側からガラス板2の外周縁部を溝7に押し込むことが行なわれる。これにより図4に示すように、発熱体4が、溝7の一方側の側面7aとガラス板2の一方側の側面2aとの間、溝7の底面7cとガラス板2の端面2cとの間、及び溝7の他方側の側面7bとガラス板2の他方側の側面2bとの間を延び、第一熱可塑性樹脂シート5Aが、溝7の一方側の側面7aと発熱体4との間、溝7の底面7cと発熱体4との間、及び溝7の他方側の側面7bと発熱体4との間に介在し、第二熱可塑性樹脂シート5Bが、ガラス板2の一方側の側面2aと発熱体4との間、ガラス板2の端面2cと発熱体4との間、及びガラス板2の他方側の側面2bと発熱体4との間に介在するように、ガラス板2の外周縁部及び積層体10が、溝7に配置された状態となる。
【0056】
(加熱工程)
加熱工程では、図7に示すように、高周波誘導加熱装置Sをホルダー3の片側(第一側壁21側或いは第二側壁22側)に配置した状態で、高周波誘導加熱装置Sが備えるコイル(図示せず)に高周波の交流を流すことで、高周波誘導加熱装置Sに交流磁界を発生させて、当該交流磁界を積層体10に印加することが行なわれる(図7は、高周波誘導加熱装置Sを第二側壁22側に配置した状態で、交流磁界を積層体10に印加している状態を示しているが、高周波誘導加熱装置Sを第一側壁21側に配置した状態で、交流磁界を積層体10に印加してもよい)。これにより積層体10に含まれる発熱体4に渦電流が発生して、当該渦電流に基づくジュール熱により、発熱体4が発熱して、発熱体4の熱により第一及び第二熱可塑性樹脂シート5A,5Bが加熱されて溶融する。なお、上記の高周波誘導加熱装置Sとして、公知の超小型IH装置やポータブルハンディ誘電加熱装置を使用できる。上記の超小型IH装置として、例えばブラウニー社製の形式BT001が挙げられる。上記のポータブルハンディ誘電加熱装置として、例えばBEGA SPECIAL TOOLS社製の形式iDuctor2が挙げられる。
【0057】
高周波誘導加熱装置Sに交流磁界を発生させる時間は、特に限定されないが、第一及び第二熱可塑性樹脂シート5A,5Bの温度が130℃以上250℃以下になるまで高周波誘導加熱装置Sに交流磁界を発生させることが好ましい。上記第一及び第二熱可塑性樹脂シート5A,5Bの温度が130℃未満である場合には、第一及び第二熱可塑性樹脂シート5A,5Bの溶融が不充分となり、ガラス板2とホルダー3との接着力(耐水接着力等)が低下する虞がある。上記第一及び第二熱可塑性樹脂シート5A,5Bの温度が250℃を超える場合には、第一及び第二熱可塑性樹脂シート5A,5Bが加熱されすぎて、第一及び第二熱可塑性樹脂シート5A,5Bのダメージにより、ガラス板2とホルダー3との接着力が低下する虞がある。
【0058】
なお、例えば高周波誘導加熱装置Sが超小型IH装置(ブラウニー社製、形式:BT001)であり、発熱体4がアルミニウムから形成されたシートであり、第一及び第二熱可塑性樹脂シート5A,5Bがオレフィン系のエラストマー樹脂から形成される場合には、高周波誘導加熱装置Sに交流磁界を5秒以上20秒以下発生させることで、第一及び第二熱可塑性樹脂シート5A,5Bの温度を上記の130℃以上250℃以下にすることができる。
【0059】
(冷却工程)
冷却工程では、例えば、自然冷却や、エアーブロー等の公知の方法によって、ガラス板2、ホルダー3、及び積層体10を冷却することが行なわれる。これにより、加熱工程で溶融した第一及び第二熱可塑性樹脂シート5A,5Bが固化して、溝7の側面7a,7bと溝7の底面7cとが第一熱可塑性樹脂シート5Aを介して発熱体4に接着し、ガラス板2の側面2a,2bとガラス板2の端面2cとが第二熱可塑性樹脂シート5Bを介して発熱体4に接着して、ガラス板2にホルダー3が装着された状態となる(ガラス板2とホルダー3とが、第一熱可塑性樹脂シート5A、発熱体4、及び第二熱可塑性樹脂シート5Bを介して接着された状態となる)。
【0060】
なお冷却工程では、ホルダー3を加圧しながら、ガラス板2、ホルダー3、及び積層体10を冷却することが好ましい(つまり、ホルダー3を加圧しながら、冷却工程が実施されることが好ましい)。ホルダー3を加圧する圧力は、特に限定されないが、好ましくは0.1MPa以上0.5MPa以下である。上記の圧力を0.1MPa以上とすることで、ガラス板2とホルダー3との界面のアンカー効果により、ガラス板2とホルダー3との接着力を高めることができる。上記の圧力を0.5MPa未満とすることで、ホルダー3に残留する内部応力を小さく抑えることができるので、時間経過によりホルダー3からのガラス板2の剥がれが生じることを防止できる。
【0061】
本実施形態の製造方法によれば、図4に示すように、発熱体4が、溝7の側面7aとガラス板2の側面2aとの間、溝7の底面7cとガラス板2の端面2cとの間、及び溝7の側面7bとガラス板2の側面2bとの間を延ばされる。このため、図7に示すように、高周波誘導加熱がホルダー3の片側から行なわれる場合、溝7の底面7cとガラス板2の端面2cとの間に存在する発熱体4の範囲4c(図4)を介する熱伝導によって、溝の側面7aとガラス板2の側面2aとの間に存在する発熱体4の範囲4aの温度と、溝の側面7bとガラス板2の側面2bとの間に存在する発熱体4の範囲4bの温度とが、均一になる。このため上記のように高周波誘導加熱がホルダー3の片側のみから行なわれる場合でも、一方側に存在する第一熱可塑性樹脂シート5Aの範囲5Aaと、他方側に存在する第一熱可塑性樹脂シート5Aの範囲5Abとを均等に溶融及び固化させることができる。また、一方側に存在する第二熱可塑性樹脂シート5Bの範囲5Baと、他方側に存在する第二熱可塑性樹脂シート5Bの範囲5Bbとを、均等に溶融及び固化させることができる。したがって高周波誘導加熱をホルダー3の両側から行なうための大掛かりな設備を要せずに、溝7の一方側の側面7aと、溝7の他方側の側面7bとを、ガラス板2に均一に密着させることができる。
【0062】
また本実施形態の製造方法によれば、溝7の側面7a,7bのみならず、溝7の底面7cも、ガラス板2に接着できることで、ガラス板2とホルダー3との接着力が強い構造体1を得ることができる。
【0063】
また本実施形態の製造方法によれば、高周波誘導加熱によって発熱体4の温度を短時間で高めることができるため、ガラス板2とホルダー3とを短時間で接着できる。これにより本実施形態の製造方法は、ガラス板2が、過度の加熱によって問題が生じる自動車用の強化ガラス板或いは合わせガラス板である場合に好適である。つまり、上記の強化ガラス板は、生ガラスの熱処理で表面強度を強化させているため、強化ガラス板とホルダー3とを接着するために長時間の加熱が行なわれる場合には、強化ガラス板の強度が低下してしまう。また上記の合わせガラス板とホルダー3とを接着するために、長時間の加熱が行なわれる場合には、中間膜のポリビニルブチラール等の樹脂が、溶融及び発泡して、合わせ板ガラス板の強度劣化や外観不良等の不具合が生じてしまう。本実施形態の製造方法によれば、長時間の加熱を行なう必要がないため、上記の問題が生じることなく、ガラス板2として使用される強化ガラス板或いは合わせガラス板とホルダー3とを接着できる。
【0064】
本発明は、上記実施形態に限定されず、種々改変できる。
【0065】
例えば第一側壁21及び第二側壁22の一方又は双方に貫通孔30が形成されてもよい(図8は、第一側壁21に貫通孔30が形成される場合を示す)。この場合、加熱工程では、積層体10から発せられて貫通孔30を通過する赤外線の強度を放射温度計等で測定することで積層体10の温度を監視することが行なわれる。貫通孔30の直径は、2mm以上6mm以下であることが好ましい。貫通孔30の直径が2mm未満である場合には、放射温度計の有効径と位置精度とを十分確保できないことで、測定が困難となり得る。貫通孔30の直径が6mmを超える場合には、貫通孔30の数が多い場合にガラス板2とホルダー3との接着強度を十分確保できなくなる虞がある。第一側壁21或いは第二側壁22に形成する貫通孔30の数は、貫通孔30の直径や、ガラス板2とホルダー3との接着強度等に応じて適宜設定される。
【0066】
また準備工程では、予め積層体10が溝7に挿入されたホルダー3が準備されてもよい。この場合、配置工程では、ガラス板2の外周縁部がホルダー3の溝7に挿入されることで、発熱体4が、溝7の側面7aとガラス板2の側面2aとの間、溝7の底面7cとガラス板2の端面2cとの間、及び溝7の側面7bとガラス板2の側面2bとの間を延び、第一熱可塑性樹脂シート5Aが、溝7の側面7a,7bと発熱体4との間、及び溝7の底面7cと発熱体4との間に介在し、第二熱可塑性樹脂シート5Bが、ガラス板2の側面2a,2bと発熱体4との間、及びガラス板2の端面2cと発熱体4との間に介在するように、ガラス板2の外周縁部、発熱体4、及び第一及び第二熱可塑性樹脂シート5A,5Bが溝7に配置された状態とされる。
【0067】
また準備工程では、第一側壁21と第二側壁22と底壁20と連結板23とを別々に成形した後、第一側壁21と第二側壁22と連結板23とをそれぞれ底壁20に接合することで、ホルダー3を形成してもよい。第一側壁21、第二側壁22、底壁20、及び連結板23の成形は、射出成型等の公知の方法で実現できる。
【0068】
また上記実施形態では、第一及び第二熱可塑性樹脂シート5A,5Bが発熱体4に積層された積層体10を用いて、構造体1を製造する例を示したが、発熱体4と、第一熱可塑性樹脂シート5Aと、第二熱可塑性樹脂シート5Bとは、分離していてもよい。この場合、準備工程では、ガラス板2と、ホルダー3と、発熱体4と、第一熱可塑性樹脂シート5Aと、第二熱可塑性樹脂シート5Bとが別々に準備される。そして配置工程では、第一熱可塑性樹脂シート5Aが溝7の開口を覆うように、第一熱可塑性樹脂シート5Aを第一側壁21及び第二側壁22の上に配置し、第一熱可塑性樹脂シート5Aの上に発熱体4を配置し、発熱体4の上に第二熱可塑性樹脂シート5Bを配置した状態で、第二熱可塑性樹脂シート5Bの上側からガラス板2の外周縁部を溝7に押し込むことが行なわれる。これにより、発熱体4が、溝7の側面7aとガラス板2の側面2aとの間、溝7の底面7cとガラス板2の端面2cとの間、及び溝7の側面7bとガラス板2の側面2bとの間を延び、第一熱可塑性樹脂シート5Aが、溝7の側面7aと発熱体4との間、溝7の底面7cと発熱体4との間、及び溝7の側面7aと発熱体4との間に介在し、第二熱可塑性樹脂シート5Bが、ガラス板2の側面2aと発熱体4との間、ガラス板2の端面2cと発熱体4との間、及びガラス板2の側面2bと発熱体4との間に介在するように、ガラス板2の外周縁部、発熱体4、及び第一及び第二熱可塑性樹脂シート5A,5Bが、溝7に配置された状態とされる。加熱工程では、発熱体4を高周波誘導加熱により発熱させることで、第一及び第二熱可塑性樹脂シート5A,5Bを加熱して溶融させることが行なわれる。冷却工程では、ガラス板2、発熱体4、及び第一及び第二熱可塑性樹脂シート5A,5Bを冷却して、溶融した第一及び第二熱可塑性樹脂シート5A,5Bを固化させることで、溝7の側面7a,7bと溝7の底面7cとを、第一熱可塑性樹脂シート5Aを介して発熱体4に接着させ、ガラス板2の側面2a,2bとガラス板2の端面2cとを第二熱可塑性樹脂シート5Bを介して発熱体4に接着させることで、ホルダー3がガラス板2に装着された状態とされる。
【0069】
また本発明の製造法は、自動車以外の物体に設けられる構造体を製造するためにも適用可能である。また、ホルダーの構造も、ガラス板の外周縁部を挿入するための溝が形成された様々な構造に変更可能である。例えばホルダーは、溝の底面を構成する底壁と、溝の一方の側面を構成する第一側壁、及び溝の他方の側面を構成する第二側壁のみを備えたものとしてもよい。
【0070】
以下に実施例を掲げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0071】
(作製例1の積層体10)
発熱体4を構成する厚さ40μmのアルミシート(東洋アルミニウム株式会社製)に、第一及び第二熱可塑性樹脂シート5A,5Bを構成する厚さ150μmのシート状ポリオレフィン系エラストマーを公知の方法で一体に積層することで、総厚が340μmである作製例1の積層体10を作製した。
【0072】
(作製例2のホルダー3)
ガラス繊維を30重量%含むポリプロピレン樹脂(株式会社プライムポリマー製、グレード名 プライムポリプロE7000(プライムポリプロは登録商標))を用いて、公知の方法で射出成型を行い、作製例2のホルダー3を作製した。作製例2のホルダー3は、第一側壁21の厚みt1と第二側壁22の厚みt2とがいずれも1mmであり、第一側壁21と第二側壁22との間の間隔が3.8mmであり、第一側壁21及び第二側壁22の内面の寸法は、いずれも40mm×15mmである。
【0073】
(作製例3のホルダー3)
第一側壁21の厚みt1及び第二側壁22の厚みt2をいずれも2mmにしたこと以外は、作製例2のホルダー3と同様にして、作製例3のホルダー3を作製した。
【0074】
(作製例4のホルダー3)
第一側壁21の厚みt1及び第二側壁22の厚みt2をいずれも3mmにしたこと以外は、作製例2のホルダー3と同様にして、作製例4のホルダー3を作製した。
【0075】
(実施例1~3のホルダー3付きガラス板2)
自動車用のガラス板2(厚み:3.5mm、縦横の寸法:100mm×100mm)の接着面にエポキシ系シランカップリング剤(信越化学工業株式会社製、グレード名KBE-403)を塗布した後、図8及び図9に示すように、ガラス板2の側面2aとホルダー3の溝7の一方側の側面7aとの間、ガラス板2の端面2cと溝7の底面7cとの間、及びガラス板2の他方側の側面2bと溝7の他方側の側面7bとの間に、積層体10が介在するように、ガラス板2の外周縁部及び積層体10を溝7に挿入することで、実施例1~3のホルダー3付きガラス板2を作製した。
【0076】
実施例1~3のホルダー3付きガラス板2では、作製例1の積層体10を使用している。実施例1のホルダー3付きガラス板2では、作製例2のホルダー3を使用し、実施例2のホルダー3付きガラス板2では、作製例3のホルダー3を使用し、実施例3のホルダー3付きガラス板2では、作製例4のホルダー3を使用している。
【0077】
(比較例1~3のホルダー3付きガラス板2)
自動車用のガラス板2(厚み:3.5mm、縦横の寸法:100mm×100mm)の接着面にエポキシ系シランカップリング剤(信越化学工業株式会社製、グレード名KBE-403)を塗布した後、図10及び図11に示すように、ガラス板2の一方側の側面2aと溝7の一方側の側面7aとの間に第一の積層体10Aが介在し、ガラス板2の他方側の側面2bと溝7の他方側の側面7bとの間に第二の積層体10Bが介在するように、ガラス板2及び第一及び第二の積層体10A,10Bを溝7に挿入することで、比較例1~3のホルダー3付きガラス板2を作製した。
【0078】
比較例1~3のホルダー3付きガラス板2では、上記の第一及び第二の積層体10A,10Bとして、それぞれ作製例1の積層体10を使用している。比較例1のホルダー3付きガラス板2では、作製例2のホルダー3を使用し、比較例2のホルダー3付きガラス板2では、作製例3のホルダー3を使用し、比較例3のホルダー3付きガラス板2では、作製例4のホルダー3を使用している。
【0079】
そして実施例1~3及び比較例1~3のホルダー3付きガラス板2の各々について、超小型IH装置(ブラウニー社製、形式:BT001)を第二側壁22側に配置した状態で、超小型IH装置に発生させた交流磁界を9秒間ほど積層体10に印加することで、積層体10に含まれる発熱体4を発熱させた。そしてこの後、0.2MPaの圧力でホルダー3を加圧しながら、積層体10が室温と同等の温度になるまで、ガラス板2、ホルダー3、及び積層体10を自然冷却させることで、ガラス板2とホルダー3とが積層体10を介して一体化した構造体を得た。
【0080】
実施例1~3及び比較例1~3のホルダー3付きガラス板2の各々について、側壁22,23と積層体10との間に熱電対(坂口電熱株式会社製、形式T350252H)を介在させて、積層体10の第一側壁21側(一方側)の最高温度と、積層体10の第二側壁22側(他方側)の最高温度とを測定した。また交流磁界を積層体10に印加した直後の熱可塑性樹脂シート5A,5Bの第一側壁21側(一方側)及び第二側壁22側(他方側)の溶融状態を確認した。また自然冷却を行なった後に、オートグラフにより10mm/秒のスピードで、ガラス板2とホルダー3とが積層体10を介して一体化した構造体の引張剪断強度を測定した。結果を以下の表1に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
表1に示す結果から、実施例1~3では、比較例1~3に比して、高い強度が発現され、熱可塑性樹脂シート5A,5Bの第一側壁側(一方側)と第二側壁側(他方側)の温度差が小さく、熱可塑性樹脂シート5A,5Bの第一側壁側(一方側)と第二側壁側(他方側)とが均一に溶融したことが確認される。
【0083】
実施例1~3のホルダー3付きガラス板2から得られた構造体について、表面に曲率のある自動車用のガラス板2と第一側壁21及び第二側壁22との密着性(追従性)と、構造体の強度とを比較した(上記の構造体は、ガラス板2とホルダー3とが積層体10を介して一体化したものである)。結果を以下の表2に示す。
【0084】
【表2】
【0085】
表2に示す結果から、第一側壁21及び第二側壁22の幅を1.0mm以上3.0mm以下とすることで、構造体の強度を大きくして、ガラス板2とホルダー3との密着性(追従性)を良好にすることができることが確認された。
【符号の説明】
【0086】
1 構造体
2 ガラス板
2a ガラス板の一方側の側面
2b ガラス板の他方側の側面
2c ガラス板の端面
3 ホルダー
4 発熱体
5A 第一熱可塑性樹脂シート
5B 第二熱可塑性樹脂シート
7 溝
7a 溝の一方側の側面
7b 溝の他方側の側面
7c 溝の底面
10 積層体
20 底壁
21 第一側壁
22 第二側壁
23 連結板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11