(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022134747
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】制御装置および通知方法
(51)【国際特許分類】
F01N 3/023 20060101AFI20220908BHJP
F01N 3/035 20060101ALI20220908BHJP
F01N 3/18 20060101ALI20220908BHJP
F01N 11/00 20060101ALI20220908BHJP
F01N 3/24 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
F01N3/023 A
F01N3/035 E
F01N3/18 C
F01N11/00
F01N3/24 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021034111
(22)【出願日】2021-03-04
(71)【出願人】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長堂 嘉利
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 真一
(72)【発明者】
【氏名】神田 俊夫
【テーマコード(参考)】
3G091
3G190
【Fターム(参考)】
3G091AA02
3G091AA18
3G091AB02
3G091AB13
3G091AB15
3G091BA31
3G091CA18
3G091EA17
3G091EA18
3G091EA32
3G091FC04
3G091HA15
3G091HA36
3G091HA37
3G091HA42
3G190AA02
3G190AA12
3G190BA49
3G190CA01
3G190CB18
3G190CB34
3G190CB35
3G190DA03
3G190DA04
3G190DA39
3G190DB02
3G190DB20
3G190DB74
3G190EA14
3G190EA23
3G190EA24
3G190EA25
(57)【要約】
【課題】強制再生中の運転状態等に問題があることを通知する。
【解決手段】本発明の一態様は、エンジンの排気中の粒子状物質を捕集するフィルタと、前記フィルタの上流に設けられた酸化触媒とを有し、前記酸化触媒の作用によって前記フィルタを再生する排気ガス後処理装置において、前記排気の温度を強制的に上昇させる強制再生が実行されている場合、前記排気の温度が所定時間以上ライトオフ温度未満になったと推定される回数が所定のしきい値を超えたとき、前記エンジンの運転状態に問題がある旨を通知する通知部を備える制御装置である。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの排気中の粒子状物質を捕集するフィルタと、前記フィルタの上流に設けられた酸化触媒とを有し、前記酸化触媒の作用によって前記フィルタを再生する排気ガス後処理装置において、前記排気の温度を強制的に上昇させる強制再生が実行されている場合、
前記排気の温度が所定時間以上ライトオフ温度未満になったと推定される回数が所定のしきい値を超えたとき、
前記エンジンの運転状態に問題がある旨を通知する再生状態判定部を
備える制御装置。
【請求項2】
前記再生状態判定部は、さらに、前記排気の温度がライトオフ温度以上であると推定される時間が第1判定時間以上経過しても前記強制再生が完了していないと判定した場合、前記酸化触媒の故障の可能性がある旨を通知する
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記再生状態判定部は、さらに、前記強制再生が開始されてからの時間が、前記第1判定時間より長い第2判定時間以上経過しても前記強制再生が完了していないと判定した場合、前記エンジンの故障の可能性がある旨を通知する
請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
エンジンの排気中の粒子状物質を捕集するフィルタと、前記フィルタの上流に設けられた酸化触媒とを有し、前記酸化触媒の作用によって前記フィルタを再生する排気ガス後処理装置において、前記排気の温度を強制的に上昇させる強制再生が実行されている場合、
前記排気の温度が所定時間以上ライトオフ温度未満になったと推定される回数が所定のしきい値を超えたとき、
その旨を通知するステップを
含む通知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置および通知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載されているように、ディーゼルエンジンの排気浄化装置では、排気温度がフィルタの触媒のライトオフ温度(活性化温度)以上に所定時間(例えば数分間)保持されているときには、捕集された粒子状物質が燃焼してフィルタは再生(自己再生)されるが、排気温度が活性化温度に到達しなかったり、到達していても再生が完了しないまま温度が低下したりしたときには粒子状物質がフィルタに蓄積される。このような事態を回避するためのフィルタの再生方法として、強制的に排気温度を昇温することで粒子状物質を除去する強制再生がある。強制再生には、ある条件が満たされたときに自動的に再生を行う自動再生と、運転者の操作で任意のタイミングで再生を行う手動再生とがある。しかしながら、作業機械では、自動または手動で強制再生を実行しても、エンジンが停止される頻度が高く、また、作業内容や作業負荷に応じてエンジン回転数の変動が大きいため、強制再生を実行しているにも関わらず粒子状物質が堆積してしまう傾向が強い。
【0003】
そこで、特許文献1に記載されている作業機械は、ディーゼルエンジンの排気中の粒子状物質をフィルタで捕集し、その捕集された粒子状物質を燃焼してフィルタを再生する排気浄化装置を備える作業機械において、フィルタの強制再生中に、例えば、排気温度が再生可能を示す閾値未満に到達したときに、強制再生が失敗したと判定する再生判定手段と、再生判定手段で強制再生が失敗したと判定された回数が所定の閾値以上に到達したときに、強制再生が失敗した旨を報知する報知手段とを備える。特許文献1に記載されている作業機械では、例えば、フィルタの自動再生が所定回数失敗した場合に、強制再生が失敗した旨を示す警告メッセージと、再生失敗回数と、排気温度低下等の再生が失敗した理由が報知される。そして、特許文献1に記載されている作業機械によれば、作業機械の利用形態等が原因で再生の失敗が頻繁に発生する場合でも、再生が失敗した旨が頻繁に表示されることを防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されている作業機械では、再生が失敗した後に排気温度低下等の再生が失敗した理由を通知することはできるが、再生が失敗しなかった場合や他の原因で再生が失敗した場合等において強制再生中の運転状態等に問題があることを通知することはできないという課題があった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、強制再生中の運転状態等に問題があることを通知することができる制御装置および通知方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の一態様は、エンジンの排気中の粒子状物質を捕集するフィルタと、前記フィルタの上流に設けられた酸化触媒とを有し、前記酸化触媒の作用によって前記フィルタを再生する排気ガス後処理装置において、前記排気の温度を強制的に上昇させる強制再生が実行されている場合、前記排気の温度が所定時間以上ライトオフ温度未満になったと推定される回数が所定のしきい値を超えたとき、前記エンジンの運転状態に問題がある旨を通知する再生状態判定部を備える制御装置である。
【0008】
また、本発明の一態様は、エンジンの排気中の粒子状物質を捕集するフィルタと、前記フィルタの上流に設けられた酸化触媒とを有し、前記酸化触媒の作用によって前記フィルタを再生する排気ガス後処理装置において、前記排気の温度を強制的に上昇させる強制再生が実行されている場合、前記排気の温度が所定時間以上ライトオフ温度未満になったと推定される回数が所定のしきい値を超えたとき、その旨を通知するステップを含む通知方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の各態様によれば、強制再生中の運転状態等に問題があることを通知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係るエンジン制御システムの構成例を示すシステム図である。
【
図2】
図1に示す制御装置100の構成例を示すブロック図である。
【
図3】
図2に示す制御装置100の動作例を模式的に示すタイミング図である。
【
図4】
図1に示すエンジン制御システムの動作例を模式的に示すタイミング図である。
【
図5】
図2に示す再生ターゲット温度リセット部104の動作例を示すフローチャートである。
【
図6】
図2に示す再生状態判定部105を示す制御ブロック図である。
【
図7】
図2に示す再生状態判定部105の動作例を示すフローチャートである。
【
図8】
図2に示す再生状態判定部105の動作例を説明するための模式図である。
【
図9】
図2に示す再生状態判定部105の動作例を説明するための模式図である。
【
図10】
図2に示す再生状態判定部105の動作例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、各図において同一または対応する構成には同一の符号を用いて説明を適宜省略する。
【0012】
(エンジン制御システム10)
図1は、本発明の各実施形態に係る排気ガス浄化システムの一構成例としてのエンジン制御システム10の構成例を示すシステム図である。
図1に示すエンジン制御システム10は、エンジン1と、排気管3と、排気ガス後処理装置の一構成例としてのDPF装置5と、モニタ8と、制御装置100と、HCドーザ7とを備える。なお、
図1等では、本実施形態のエンジン制御システム10において(あるいは制御装置100について)、DPF装置5の強制再生に係る構成を主に示し、燃料噴射制御等の他の機能に係る構成については図示を適宜省略している。
【0013】
エンジン1は、内燃機関の一構成例であり、本実施形態では多気筒のディーゼルエンジンである。排気管3は、エンジン1の排気を、DPF装置5を通して大気に排気する。
【0014】
DPF装置5は、エンジン1の排気中に含まれる粒子状物質(PM(Particulate Matter))を浄化する装置であり、エンジン1の排気管3内に設けられたDOC(Diesel Oxidation Catalyst;ディーゼル酸化触媒)51と、エンジン1の排気中のPMを捕集するフィルタであるDPF(Diesel Particulate Filter;ディーゼルパティキュレートフィルタ)52とを有する。DPF装置5は、DOC51の作用によってDPF52を再生する。DPF装置5は、DPF52の上流に設けられたDOC51で変換された二酸化窒素によって下流で捕集されたPMを酸化して二酸化炭素とし、PMを除去する。
【0015】
また、DPF装置5は、DOC51の入口の排気温度を検知するDOC入口温度センサ94と、DOC51の出口の排気温度を検知するDOC出口温度センサ95と、DPF52の入口と出口の差圧を検知する1組の圧力センサ96および97とを有する。DOC入口温度センサ94、DOC出口温度センサ95、ならびに、圧力センサ96および97の各検出値は、制御装置100へ出力される。
【0016】
HCドーザ7は、DOC51の上流で排気管3内に燃料(HC)を噴射(以下、(HCドージング等という)する排気管燃料噴射装置である。HCドーザ7によるHCドージングは、制御装置100によって制御される。
【0017】
モニタ8は、例えば表示パネルと入力パネルとを有し、表示装置および入力装置として機能し、制御装置100の指示に応じて所定の文字や画像を表示したり、ユーザ(オペレータ)の入力操作に応じた信号を制御装置100へ出力したりする。
【0018】
本実施形態のエンジン制御システム10では、DPF52に堆積したPMを燃焼させるために定期的に強制再生(DPF再生運転)が行われる。この強制再生では、排気の温度やDOC51の温度が強制的に上昇させられる。強制再生は、例えばエンジン1内で排気に燃料を混合するためのポスト噴射によって、あるいは、ポスト噴射とDPF装置5の上流の排気管3内部へのHCドーザ7によるHC(燃料)ドージング(噴射)との組み合わせによって、DPF52上流に配置されたDOC51内部でHCを燃焼させ、DPF52の温度を上げることによって行われる。
【0019】
なお、本実施形態のエンジン制御システム10では、強制再生(DPF再生運転)には、ある条件が満たされたときに通常稼動状態(エンジン回転数を強制的に固定する等せずに、通常の運転や作業が行える状態)で自動的に再生を行う自動再生と、ユーザの操作で任意のタイミングで再生を行う定置手動再生(手動再生)とがある。定置手動再生は、通常稼動状態では十分に排気温度が上がらず、DPF装置5の温度を安定的に目的の温度に制御できない場合に、ユーザの許可の下、通常稼動を停止させて、DPF装置5の性能を回復させる制御である。定置手動再生では、制御装置100が、まず、モニタ8を用いて、定置手動再生を行うことができる状態であること、また、行うようにとの要求をユーザへ出す。これに対し、ユーザがモニタ8を用いて、定置手動再生を実行するよう指示を出すと、制御装置100はエンジン回転数をある回転に固定させて、排気温度を上昇させて、強制再生を実行する。
【0020】
(制御装置100)
図2~
図10を参照して、
図1に示す制御装置100の構成例および動作例について説明する。
図2は、
図1に示す制御装置100の構成例を示すブロック図である。
図3は、
図2に示す制御装置100の動作例を模式的に示すタイミング図である。
図4は、
図1に示すエンジン制御システム10の動作例を模式的に示すタイミング図である。
図5は、
図2に示す再生ターゲット温度リセット部104の動作例を示すフローチャートである。
図6は、
図2に示す再生状態判定部105を示す制御ブロック図である。
図7は、
図2に示す再生状態判定部105の動作例を示すフローチャートである。
図8~
図9は、
図2に示す再生状態判定部105の動作例を説明するための模式図である。
図10は、
図2に示す再生状態判定部105の動作例を示すフローチャートである。
【0021】
図2に示す制御装置100は、例えばマイクロコンピュータ等のコンピュータと、そのコンピュータの周辺回路や周辺装置とを用いて構成することができ、そのコンピュータ等のハードウェアと、そのコンピュータが実行するプログラム等のソフトウェアとの組み合わせから構成される機能的構成として、
図2に示す複数のブロックを備える。
図2に示す例では、制御装置100は、燃料噴射制御部101、強制再生開始判定部102、強制再生制御部103、再生ターゲット温度リセット部104、および再生状態判定部105を備える。なお、制御装置100は、エンジン1の回転数(回転速度)を図示していない回転数センサの出力に基づいて取得したり、DPF装置5におけるススの堆積量を運転状態等に基づいて推定する機能を有していたりする。
【0022】
燃料噴射制御部101は、例えば、強制再生制御部103の指示に従い、エンジン1の図示していない燃料噴射装置等を制御して強制再生時に例えばポスト噴射を行う。
【0023】
強制再生開始判定部102は、圧力センサ96および97が検知したDPF52の差圧に基づき、差圧が所定のしきい値を超えた場合、強制再生の開始を要求する。本実施形態では、この強制再生開始判定部102によって強制再生の開始が要求された状態を再生要求がある状態とする。再生要求がある状態は、例えば再生状態判定部105によって、再生が完了したと判定された場合、または、再生を完了することができずに再生を終了させると判定された場合に、再生要求が無い状態に設定される。
【0024】
強制再生制御部103は、再生要求がある場合、強制再生時の温度制御を次のようにして行う。すなわち、強制再生制御部103は、DOC出口温度が、例えば
図3に示すように逐次計算された所定の再生ターゲット温度に合うように、例えばエンジン1のポスト噴射の制御と、HCドーザ7によるHCドージング量の制御とによって、DOC出口温度をフィードバックして温度制御を行う。ただし、HCがドーズ(噴射)されるのは、DOC入口温度がDOC51に含まれる触媒が活性化する温度(ライトオフ温度、例えば約250℃)に達してからとなる。
【0025】
図3は、横軸を時間、縦軸をDOC出口温度として、再生ターゲット温度の変化を模式的に示す。
図3に示す例では、強制再生制御部103は、次の5段階の再生状態に分けて、再生ターゲット温度を変化させる。なお、
図3に示す例では、時刻t11に再生要求がありとされている(時刻t11までは再生状態は無しである)。再生状態は、(1)再生開始前(再生状態:無し)、(2)WarmUp Target温度(350℃程度)に達するまでのToWarmUp状態、(3)WarmUp Target温度に達しているWarmUp状態、(4)Target温度(500℃程度、最終目標温度)に達するまでのToTarget状態、(5)Target温度に達しているTarget状態の5段階ある。
【0026】
ToWarmUp状態は、再生ターゲット温度の最大値をWarmUp Taeget温度(例えば350℃)とする再生状態である。ToWarmUp状態では、強制再生が開始された時刻t11の実際のDOC出口温度を初期値として所定時間後の時刻t12までにWarmUp Taeget温度まで増加するように、再生ターゲット温度が算出される。この時刻t11から時刻t12までの再生状態がToWarmUp状態である。
【0027】
また、WarmUp状態は、再生ターゲット温度をWarmUp Taeget温度(例えば350℃)一定とする再生状態である。時刻t12から所定時間後の時刻t13までの再生状態がWarmUp状態である。なお、以下では、ToWarmUp状態とWarmUp状態をまとめてWarmUp状態という場合がある。また、時刻t11から時刻t13までの時間は、1回の昇温で例えば2分程度である。
【0028】
また、ToTarget状態は、再生ターゲット温度の最大値をTaeget温度-50℃(例えば450℃)とする再生状態である。ToTarget状態では、WarmUp Taeget温度(例えば350℃)を初期値として所定時間後の時刻t14までにTaeget温度-50℃まで増加するように、再生ターゲット温度が算出される。時刻t13から時刻t14までの再生状態がToTarget状態である。
【0029】
また、Target状態は、再生ターゲット温度の最大値をTaeget温度(例えば500℃)とする再生状態である。Target状態では、Taeget温度-50℃(例えば450℃)を初期値として所定の傾きでTaeget温度(例えば500℃)まで増加するとともに、Taeget温度まで増加した後はTaeget温度一定となるように、再生ターゲット温度が算出される。時刻t14以降の再生状態がTarget状態である。
【0030】
図4は、横軸を時間、縦軸をDOC入口温度、DOC出口温度またはHCドージング量として、温度制御の例を模式的に示す。
図4に示す例では、時刻t1に再生要求がありとされている。時刻t1で強制再生が開始され、例えば、ポスト噴射の制御によって、DOC入口温度とDOC出口温度が上昇する。そして、時刻t2で、DOC入口温度がHCドージング開始温度(例えばライトオフ温度あるいはライトオフ温度に所定の余裕を持たせた温度)に到達すると、HCドージングが開始される。その後、DOC出口温度は、Target状態の再生ターゲット温度の最終値(Target温度)となるようにフィードバック制御される。そして、時刻t3で再生が完了すると、強制再生が終了し、HCドージングが停止している。なお、dt1は、エンジン排温の上昇分に対応し、dt2は燃料供給によってDOC51での燃焼による温度上昇分に対応する。
【0031】
次に、
図2に示す再生ターゲット温度リセット部104について説明する。再生ターゲット温度リセット部104は、一定の条件で、再生ターゲット温度を、ToWarmUp状態またはWarmUp状態の再生ターゲット温度にリセットする機能を有する。強制再生が始まり、再生状態がToTarget状態またはTarget状態の場合、再生ターゲット温度-DOC出口温度が例えば200℃以上となったとき、再生ターゲット温度リセット部104は、極端なフィードバックがかかることでDOC出口温度が過大とならないように、強制再生制御部103による再生状態をToWarmUp状態またはWarmUp状態にリセットする。なお、以下では条件が「再生ターゲット温度-DOC出口温度が200℃以上」である場合を一例として動作例について説明する。
【0032】
図5は、再生ターゲット温度リセット部104の動作例を示す。
図5に示す処理は、再生要求有りの場合に実行される。
図5に示す処理が開始されると、再生ターゲット温度リセット部104は、まず、再生ターゲット温度とDOC出口温度と再生状態を取得する(ステップS101)。次に、再生ターゲット温度リセット部104は、強制再生中であるか否かを判定する(ステップS102)。強制再生中である場合(ステップS102で「Y」の場合)、再生ターゲット温度リセット部104は、再生状態がToTarget状態またはTarget状態であるか否かを判定する(ステップS103)。再生状態がToTarget状態またはTarget状態である場合(ステップS103で「Y」の場合)、再生ターゲット温度リセット部104は、再生ターゲット温度-DOC出口温度>200℃である時間が一定時間以上であるか否かを判定する(ステップS104)。
【0033】
ステップS104における判定条件である、再生ターゲット温度-DOC出口温度>200℃である時間が一定時間以上である場合は、排気温度(DOC51入口温度)が所定時間以上ライトオフ温度未満になったと推定される場合に対応するように設定することができる。温度条件については、再生ターゲット温度の最大値がTarget状態の最終目標値(Target温度=例えば500℃)であるので、この例では、DOC出口温度<300℃の場合となる。また、時間条件について、一定時間を適切に設定することで、排気温度(DOC51入口温度)が所定時間以上ライトオフ温度未満となったと推定される場合に対応させることができる。一定時間は、例えば数十秒~数分程度である。
【0034】
再生ターゲット温度-DOC出口温度>200℃である時間が一定時間以上である場合(ステップS104で「Y」の場合)、再生ターゲット温度リセット部104は、再生ターゲット温度をリセットし、再生状態をWarmUp状態(ToWarmUp状態またはWarmUp状態)からやり直すよう強制再生制御部103に指示を出し、昇温リセット回数を1だけ増分する(ステップS105)。昇温リセット回数は、再生要求が発生してから強制再生が終了するまでの期間に、再生状態が、ToTarget状態またはTarget状態から、ToWarmUp状態またはWarmUp状態へリセットされた回数(DOC入口温度がライトオフ温度を下回るであろうと推定される温度からDOC入口温度がライトオフ温度を超えるであろうと推定される温度へDOC出口温度の昇温をやり直した回数)を表す。
【0035】
一方、再生状態がToTarget状態でなく、かつ、Target状態でない場合(ステップS103で「N」の場合)、または、再生ターゲット温度-DOC出口温度>200℃である時間が一定時間以上でない場合(ステップS104で「N」の場合)、再生ターゲット温度リセット部104は、再度、ステップS101以降の処理を実行する。
【0036】
他方、強制再生中でない場合(強制再生が終了した場合)(ステップS103で「N」の場合)、再生ターゲット温度リセット部104は、昇温リセット回数を0に初期化して(ステップS106)、
図5に示す処理を終了する。
【0037】
次に、
図2に示す再生状態判定部105について説明する。再生状態判定部105は、強制再生時にDOC出口温度がTaeget温度まで到達させられない場合に、温度制御がどのような状態であるのかを判定し、判定した結果や原因、対処方法等をユーザへ通知する。本実施形態では、強制再生時にDOC出口温度がTaeget温度まで到達させられない場合を、非効率再生(1)、非効率再生(2)および再生未完了の3通りの場合に分類している。
【0038】
非効率再生(1):排気温度(DOC入口温度)はライトオフ温度に達しているが、DOC51の触媒が劣化しているため、DOC51でHCが燃焼せず、DOC出口温度がTarget温度(例えば500℃)に達しない場合である。
【0039】
非効率再生(2):運転状態などにより、DOC入口温度がライトオフ温度をまたいで頻繁に上下するため、HC噴射が頻繁に停止しDOC出口温度がTarget温度に達しない場合である。
【0040】
再生未完了:エンジンの故障などにより、排気温度がライトオフ温度(250℃)に到達しないため、HC噴射ができず、DOC出口温度がTarget温度に達しない場合である。
【0041】
上記の場合分けをするため、再生状態判定部105は、
図6に示すように、DOC入口温度、DOC出口温度、再生状態、再生ターゲット温度のリセット回数を含めて演算することにより、より細かく故障の状態等を判定する。また、再生状態判定部105は、所定の通知先に対して、判定結果を表す情報として例えば故障コードを通知したり、ユーザへの警告を表す情報を通知したりする。ここで、所定の通知先は、例えば、エンジン制御システム10の稼働状態等を遠隔管理する外部のサーバ、WEBシステム上等で予め登録された外部の通知先等である。また、再生状態判定部105は、モニタ8を用いてユーザに対して判定結果に基づく一定の情報を通知してもよい。
【0042】
図7を参照して、再生状態判定部105の動作例について説明する。
図7に示す処理は、再生要求有りの場合に実行される。
図7に示す処理が開始されると、再生状態判定部105は、まず、DOC入口温度、DOC出口温度および昇温リセット回数を取得する(ステップS201)。次に、再生状態判定部105は、再生が要求されてからの時間が2時間以上であるか否かを判定する(ステップS202)。この場合の2時間は、第1判定時間より長い第2判定時間の一例である。
【0043】
再生が要求されてからの時間が2時間以上である場合(ステップS202で「Y」の場合)、再生状態判定部105は、再生未完了の場合であると判定してエンジン故障で再生が開始されない旨等の通知を行い(ステップS210)、続いて定置手動再生を要求する(ステップS211)。ステップS211では、例えば、定置手動再生の要求に対する応答を一定時間待機し、例えば応答が無くかつDOC出口温度の上昇も無い場合に、さらに警告を出した後、
図7に示す処理を終了する。
【0044】
一方、再生が要求されてからの時間が2時間以上でない場合(ステップS202で「N」の場合)、再生状態判定部105は、昇温リセット回数に基づき、再生をWarmUp状態からやり直した回数がX回以上(Xは任意の自然数)であるか否かを判定する(ステップS203)。再生をWarmUpからやり直した回数がX回以上である場合(ステップS203で「Y」の場合)、再生状態判定部105は、非効率再生(2)の場合であると判定して警告等の通知を行い(ステップS207)、再生完了条件に達しているか否かを判定する(ステップS205)。再生完了条件は、例えば、圧力差から推定されるPM堆積量の推定値等を初期値として再生制御の温度変化等から推定されるPM堆積量が所定のしきい値以下である場合、DOC出口温度がTarget温度-50℃に達している時間が所定のしきい値以上である場合等である。再生完了条件に達している場合(ステップS205で「Y」の場合)、再生状態判定部105は、強制再生を終了し(再生要求有りを無しに設定し)(ステップS206)、
図7に示す処理を終了する。一方、再生完了条件に達していない場合(ステップS205で「N」の場合)、再生状態判定部105は、ステップS201以降の処理を再度実行する。
【0045】
他方、再生をWarmUpからやり直した回数がX回以上でない場合(ステップS203で「N」の場合)、再生状態判定部105は、HCドージング中にDOC出口温度がTarget温度-50℃以下である時間が1時間以上であるか否かを判定する(ステップS204)。ここで、HCドージング中とは、DOC入口温度が、HCドージング開始温度(例えばライトオフ温度あるいはライトオフ温度に所定の余裕を持たせた温度)に到達している状態が継続していることである。また、この場合の1時間は、第1判定時間の一例である。
【0046】
HCドージング中にDOC出口温度がTarget温度-50℃以下である時間が1時間以上である場合(ステップS204で「Y」の場合)、再生状態判定部105は、非効率再生(1)の場合であると判定してDOC51の故障の可能性がある旨等の通知を行い(ステップS208)、続いて定置手動再生を要求し(ステップS209)、強制再生を終了し(再生要求有りを無しに設定し)(ステップS206)、
図7に示す処理を終了する。
【0047】
一方、HCドージング中にDOC出口温度がTarget温度-50℃以下である時間が1時間以上でない場合(ステップS204で「N」の場合)、再生状態判定部105は、再生完了条件に達しているか否かを判定する(ステップS205)。再生完了条件に達している場合(ステップS205で「Y」の場合)、再生状態判定部105は、強制再生を終了し(再生要求有りを無しに設定し)(ステップS206)、
図7に示す処理を終了する。一方、再生完了条件に達していない場合(ステップS205で「N」の場合)、再生状態判定部105は、ステップS201以降の処理を再度実行する。
【0048】
再生状態判定部105による判定条件、判定結果、対処方法等をまとめて
図8に示した。
【0049】
非効率再生(1)の場合、判定条件は、HCドージング中にDOC出口温度がTarget温度-50℃以下である時間が1時間以上である。エンジン1の状態は、問題なしである。DPF装置5の状態は、DOC51が劣化している可能性あり、である。エンジン1を搭載した車両の運転状態は、問題なしである。対処方法は、定置手動再生要求することである。定置手動再生を行っても解消しない場合は、DPF装置5関連のトラブルシューティングを行うことである。トラブルシューティングとしては、例えば、DOC効率の測定、DOC乾燥運転などである。なお、DOC効率は、(DOCによって変換された熱量/再生用に噴射されたHCの熱量)*100の数式にて求めることができる。また、DOC乾燥運転とは、エンジン排気温度上昇制御+再生用HC噴射無し、によりDOC入り口に付着した未燃燃料、ススを取り除く運転である。
【0050】
非効率再生(2)の場合、判定条件は、再生をWarmUp状態からやり直した回数がX回以上である。エンジン1の状態とDPF装置5の状態は、問題なしである。車両の運転状態は、負荷変動が大きく、DOC入口温度が250℃を頻繁に下回っている、である。対処方法は、定置手動再生のリコメンドや、車両の運転状態が負荷変動が大きい状態であることの警告を行うこと(例えば、車両の運転状態を負荷変動が小さい状態に変化させことを勧告する等の通知を行うこと)である。
【0051】
再生未完了の場合、判定条件は、再生が要求されてからの時間が2時間以上である。エンジンの状態は、故障が発生した状態や、ローアイドル状態(エンジンが停止しない最低回転数のアイドリング状態)で放置された状態、である。ローアイドル状態で放置された場合、結果としてライトオフ温度に到達せずに強制再生が開始できないということがあるが、例えば、再生状態判定部105による判定結果の通知先で動作状態(放置時間等)を確認することで原因特定が可能である。DPF装置5の状態と車両の運転状態は、問題なしである。対処方法は、定置手動再生要求である。定置手動再生で解消しない場合はエンジンのトラブルシューティング(VGT(可変容量ターボ)故障、エア漏れなど)を行うことである。
【0052】
次に、
図9を参照して、非効率再生(1)、非効率再生(2)および再生未完了の場合の、HCドージング状態の変化について説明する。
図9は、横軸を時間として、上から順に、非効率再生(1)、非効率再生(2)および再生未完了の場合のHCドージングの状態(実行中(制御中)または停止中)を示す。なお、
図9では、時刻t21で強制再生が要求され、時刻t22で時刻t21から1時間が経過し、時刻t23で時刻t21から2時間が経過した状態を示す。
【0053】
非効率再生(1)の場合、排気温度はライトオフ温度に継続して到達した状態であり、HCドージングは継続して実行される。非効率再生(2)の場合、排気温度はライトオフ温度に断続的に到達した状態であり、HCドージングは断続的に実行される。再生未完了の場合、排気温度はライトオフ温度に継続的に到達していない状態であり、HCドージングは継続的に停止されている。ただし、この例では、再生未完了の場合、時刻t23の時間T20前に排気温度がライトオフ温度に到達し、時刻t23の時間T20前にHCドージングが実行された状態となっているが、時刻t23に達する前に再生完了条件は満足していない。
【0054】
次に、
図10を参照して、強制再生が分断または中断された場合の再生状態判定部105の動作例について説明する。
図10に示す処理は、再生要求有りの場合に実行される。
図10に示す処理が開始されると、再生状態判定部105は、まず、DOC出口温度、エンジン回転数、スス堆積量の推定値を取得する(ステップS301)。次に、再生状態判定部105は、再生停止条件になっているか否かを判定する(ステップS302)。再生停止条件は、例えば、キーオフによるエンジン停止(分断)、ユーザによる再生禁止(中断)等である。
【0055】
再生停止条件になっている場合(ステップS302で「Y」の場合)、再生状態判定部105は、再生停止条件が無くなるまで、ステップS301とステップS302の処理を繰り返し実行する。
【0056】
一方、再生停止条件になっていない場合(ステップS302で「N」の場合)、再生状態判定部105は、強制再生を実行するよう強制再生制御部103に指示を出し(ステップS303)、再生完了条件に達しているか否かを判定する(ステップS304)。再生完了条件に達している場合(ステップS304で「Y」の場合)、再生状態判定部105は、強制再生を終了し(再生要求有りを無しに設定し)(ステップS305)、
図10に示す処理を終了する。一方、再生完了条件に達していない場合(ステップS304で「N」の場合)、再生状態判定部105は、ステップS301以降の処理を再度実行する。
【0057】
(作用・効果)
以上のように、本実施形態によれば、制御装置100は、エンジン1の排気中の粒子状物質を捕集するDPF52(フィルタ)と、DPF52の上流に設けられたDOC51(酸化触媒)とを有し、DOC51の作用によってDPF52を再生するDPF装置5(排気ガス後処理装置)において、排気の温度を強制的に上昇させる強制再生が実行されている場合、排気の温度が所定時間以上ライトオフ温度未満になったと推定される回数が所定のしきい値(X回)を超えたとき、エンジン1の運転状態に問題がある旨を通知する再生状態判定部105を備える。この構成によれば、強制再生中の運転状態等に問題があることを通知することができる。
【0058】
なお、再生状態判定部105は、さらに、排気の温度がライトオフ温度以上であると推定される時間が第1判定時間(1時間)以上経過しても強制再生が完了していないと判定した場合、DOC51(酸化触媒)の故障の可能性がある旨を通知するようにすることができる。
【0059】
また、再生状態判定部105は、さらに、強制再生が開始されてからの時間が、第1判定時間より長い第2判定時間(2時間)以上経過しても強制再生が完了していないと判定した場合、エンジンの故障の可能性がある旨を通知するようにすることができる。
【0060】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して説明してきたが、具体的な構成は上記実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。例えば、上記実施形態は排気ガス後処理装置をDPF装置5で構成しているが、例えばさらに下流にSCR装置(Selective Catalytic Reduction装置(選択触媒還元装置))を設けたり、あるいは、例えば下流にSCR装置を設けてDPF装置5からDPF52を省略したりしてもよい。また、制御装置100が実行するプログラムの一部または全部は、コンピュータ読取可能な記録媒体あるいは通信回線を介して頒布することができる。
【符号の説明】
【0061】
1…エンジン、3…排気管、5…DPF装置、7…HCドーザ、51…DOC、52…DPF、94…DOC入口温度センサ、95…DOC出口温度センサ、96、97…圧力センサ、100…制御装置、105…再生状態判定部