(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022134760
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】ガラス-金属複合体
(51)【国際特許分類】
C23C 24/08 20060101AFI20220908BHJP
C03C 10/00 20060101ALI20220908BHJP
H05B 3/10 20060101ALI20220908BHJP
H01M 8/12 20160101ALN20220908BHJP
H01M 8/22 20060101ALN20220908BHJP
【FI】
C23C24/08 C
C03C10/00
H05B3/10 C
H01M8/12 101
H01M8/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021034133
(22)【出願日】2021-03-04
(71)【出願人】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(72)【発明者】
【氏名】山田 祐貴
【テーマコード(参考)】
3K092
4G062
4K044
5H126
【Fターム(参考)】
3K092PP20
3K092QA05
3K092VV34
4G062AA11
4G062BB01
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4K044CA22
4K044CA24
4K044CA27
4K044CA53
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】少なくとも1000℃の耐熱性および耐窒化性の両立が好適に実現され得るガラス-金属複合体を提供すること。
【解決手段】ここで開示されるガラス-金属複合体1は、ガラス部材2と、セラミック部材3と、それらに挟持された金属部材4とを備えている。金属部材4は、その一の短辺側に、金属製の2本のリード5を備えている。ここで、ガラス部材2においては、アモルファスマトリックス中に結晶化部分が混在しており、かつ、該ガラス部材を構成するガラス粉の圧粉体から成る焼成体を、次の条件:温度;1000℃(大気雰囲気中)、時間;100時間において、放置したときの、該放置前後の熱膨張係数の変化率が10%以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材と、
該金属部材の少なくとも一部を被覆するガラス部材と、
を備えるガラス-金属複合体であって、
前記ガラス部材において、アモルファスマトリックス中に結晶化部分が混在しており、かつ、該ガラス部材を構成するガラス粉の圧粉体から成る焼成体を、以下の条件:
温度:1000℃(大気雰囲気中);
時間:100時間;
において放置したときの、該放置前後の熱膨張係数の変化率が10%以下である、ガラス-金属複合体。
【請求項2】
前記金属部材は、一対の幅広面を備えたシート状または板状の形状を有しており、
前記ガラス部材は、該シート状または板状の金属部材の少なくとも一方の幅広面の少なくとも一部分を被覆している、請求項1に記載のガラス-金属複合体。
【請求項3】
前記金属部材の他方の幅広面の少なくとも一部分は、セラミックを主体として構成される部材によって被覆されている、請求項2に記載のガラス-金属複合体。
【請求項4】
前記ガラス部材は、酸化物換算のモル比で以下の組成:
MgO:4~30モル%
CaO:4~25モル%
BaO:0~45モル%
ZnO:0~10モル%
Al2O3:0.1~5モル%
SiO2:35~55モル%
La2O3:0~5モル%
を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載のガラス-金属複合体。
【請求項5】
前記ガラス部材のアルキメデス法に基づく相対密度は、95%以上である、請求項1から4のいずれか一項に記載のガラス-金属複合体。
【請求項6】
前記ガラス部材は、アルカリ金属元素、鉛、ヒ素、カドミウムを含まない、請求項1から5のいずれか一項に記載のガラス-金属複合体。
【請求項7】
前記ガラス部材における30℃から500℃までの熱膨張係数は、8.0×10-6K-1~13.0×10-6K-1である、請求項1から6のいずれか一項に記載のガラス-金属複合体。
【請求項8】
前記金属部材は、Fe、CrおよびAlを構成元素として含む、請求項1から7のいずれか一項に記載のガラス-金属複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス-金属複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
窒素やアンモニアに曝されるヒーター部材、NOxに曝される自動車排ガス浄化用部材、アンモニアを燃料とする固体酸化物形燃料電池部材等、高温かつ窒素元素が含有された雰囲気下で使用される各種部材には、耐熱性および耐窒化性等の機能を有する材料が好ましく用いられる。かかる機能を有する材料の一例として、アルミナ(Al2O3)やジルコニア(ZrO2)等のセラミック材料が挙げられる。例えば、下記特許文献1には、アルミナからなる板状のセラミック体と、該セラミック体の内部に埋設された発熱体(金属部材)とを備えたセラミックヒーター素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、本発明者らの検討によると、アルミナ等からなるセラミック体は、ステンレス系などの汎用的な金属部材の耐熱温度(典型的には、900~1000℃)以下の温度で緻密化されにくい(即ち、相対密度が低減されたものしか得ることができない)ことが分かった。これにより、セラミック体のガスバリア性が低下するため、金属部材が腐食され易くなるという知見を得た。これに対して、例えばガラス材料によると、典型的には800~900℃程度で焼成することによって、相対密度の高いガラス部材を得ることができるとされる。しかしながら、種々の用途に使用するという観点から、従来のガラス部材と比較してより高い耐熱温度(例えば、1000℃以上)を具備することが要求されており、まだまだ改善の余地が残されていた。
【0005】
本発明は、かかる事情に鑑みてなさなれたものであり、その主な目的は、金属部材がガラス部材によって被覆された複合体であって、少なくとも1000℃(好ましくは、1100℃以上)の耐熱性と、耐窒化性とが、好適に両立され得る複合体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を実現するべく、本発明は、金属部材と、該金属部材の少なくとも一部を被覆するガラス部材とを備えるガラス-金属複合体を提供する。上記ガラス部材において、アモルファスマトリックス中に結晶化部分が混在している。そして、上記ガラス部材を構成するガラス粉の圧粉体から成る焼成体を、以下の条件:
温度:1000℃(大気雰囲気中);
時間:100時間;
において放置したときの、該放置前後の熱膨張係数の変化率が10%以下である(以下、かかる条件を満たす態様を、単に「少なくとも1000℃の耐熱性を有する」ともいう)。
【0007】
上述したように、ガラス材料は比較的緻密化され易いとされるため、該ガラス材料を焼成して得られるガラス部材によると、優れた相対密度を実現することができる。これによって、耐窒化性を好適に実現することができる。また、ガラス部材が、アモルファスマトリックス中に結晶化部分が混在する構成を有し、かつ、少なくとも1000℃の耐熱性を有するため、優れた耐熱性を実現することができる。
【0008】
ここで開示されるガラス-金属複合体の好ましい一態様では、上記金属部材は、一対の幅広面を備えたシート状または板状の形状をしており、上記ガラス部材は、該シート状または板状の金属部材の少なくとも一方の幅広面の少なくとも一部分を被覆している。かかる構成のガラス-金属複合体によると、耐熱性および耐窒化性の両立がより好適に実現され得る。また、上記金属部材の他方の幅広面の少なくとも一部分が、セラミックを主体として構成される部材によって被覆されている態様のガラス-金属複合体は、種々の工業製品に使用することができるため、好ましい。
【0009】
ここで開示されるガラス-金属複合体の好ましい一態様では、上記ガラス部材は、酸化物換算のモル比で以下の組成、MgO:4~30モル%、CaO:4~25モル%、BaO:0~45モル%、ZnO:0~10モル%、Al2O3:0.1~5モル%、SiO2:35~55モル%、La2O3:0~5モル%を含む。
かかる組成のガラス部材によると、耐熱性および耐窒化性の両立をより好適に実現することができる。
【0010】
ここで開示されるガラス-金属複合体の好ましい一態様では、上記ガラス部材のアルキメデス法に基づく相対密度は、95%以上である。
ガラス部材が上述したような高い相対密度を有することにより、耐窒化性により優れたガラス-金属複合体を得ることができる。なお、かかる相対密度の算出方法の詳細については後述する。
【0011】
ここで開示されるガラス-金属複合体の好ましい一態様では、上記ガラス部材は、アルカリ金属元素、鉛、ヒ素、カドミウムを含まない。
かかる構成のガラス部材を備えたガラス-金属複合体によると、焼成時に人体や環境への悪影響を及ぼし得る物質が生成することを未然に防止することができるため、好ましい。
【0012】
ここで開示されるガラス-金属複合体の好ましい一態様では、上記ガラス部材における30℃から500℃までの熱膨張係数は、8.0×10-6K-1~13.0×10-6K-1である。被覆部分の破損を好適に防止するという観点から、ガラス部材の熱膨張係数は、被覆対象である金属部材の熱膨張係数に近似させることが好ましい。かかる熱膨張係数を有するガラス部材を備えたガラス-金属複合体によると、被覆部分の破損が好適に抑制されるため、好ましい。
【0013】
ここで開示されるガラス-金属複合体の好ましい一態様では、上記金属部材は、Fe、CrおよびAlを構成元素として含む。かかる構成の金属部材は、例えば1000℃以上の耐熱性に優れるため、好ましく用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】一実施形態に係るガラス-金属複合体を説明するための分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、以下の実施形態は、ここで開示される技術をかかる実施形態に限定することを意図したものではない。また、本明細書にて示す図面では、同じ作用を奏する部材・部位に同じ符号を付して説明している。そして、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。
なお、本明細書および特許請求の範囲において、所定の数値範囲をA~B(A、Bは任意の数値)と記すときは、A以上B以下の意味である。したがって、Aを上回り且つBを下回る場合を包含する。
【0016】
≪ガラス-金属複合体1≫
図1は、一実施形態に係るガラス-金属複合体1(具体的には、セラミックヒーター素子)を説明するための分解斜視図である。本実施形態に係るガラス-金属複合体1は大まかにいって、ガラス部材2と、セラミック部材3と、それらに挟持された金属部材4(発熱体に相当する)とを備えている。
図1に示すように、本実施形態に係る金属部材4は矩形の板状であって、その一の短辺側に、金属製の2本のリード5(発熱体リードに相当する)を備えている。以下、各構成要素について詳細に説明する。
【0017】
<ガラス部材2>
本実施形態に係るガラス部材2は、少なくとも1000℃の耐熱性を有し、アモルファスマトリックス中に結晶化部分が混在していることを特徴とする。結晶化部分が混在していることで、高い耐熱性を実現することが可能になる。また、アモルファスマトリックス中に存在する結晶化部分の割合(即ち、結晶化度)としては、ここで開示される技術の効果が発揮される限りにおいて特に限定されないが、典型的には40~99%(例えば、50~95%)等であり得る。なお、本明細書において「結晶化度」とは、X線回折(XRD)測定により得られたXRDパターンにおいて、結晶成分由来のピーク(回折線)と非晶質成分由来のピーク(ハローピーク、すなわちブロードな散乱線)とをそれぞれ算出した後、(結晶成分由来のピークの面積)×100/(結晶成分由来のピークの面積+非晶質成分由来のピークの面積)(%)の式によって算出された値を示す。かかる測定は、この種の測定の従来公知の方法に基づいて行うことができる。
【0018】
ガラス部材2は、ガラス成分(即ち、ガラス組成物)を含む部材である。ガラス部材2が含むガラス成分の含有量は、ここで開示される技術の効果が発揮される限りにおいて特に制限されないが、該ガラス部材の全体を100重量%としたときに、典型的には、70重量%以上、好ましくは80重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上とすることができる。また、ガラス部材2が含むガラス成分の上限は特に制限されないが、例えば100重量%であってもよく、99重量%以下であってもよく、95重量%以下等であってもよい。
【0019】
ガラス部材2を構成するガラス成分の構成は、ここで開示される技術の効果が発揮される限りにおいて特に制限されないが、例えば以下の成分を含む場合が好ましい。また、各成分の酸化物換算のモル比が、以下のとおりとなるように含む場合がより好ましい。なお、ガラス部材2に含まれるガラス成分全体を100モル%としたときに、以下の成分が例えば95モル%以上、好ましくは97モル%以上、より好ましくは99モル%以上含まれる態様とすることができる(100モル%含まれる態様とすることもできる)。
MgO:4~30モル%、
CaO:4~25モル%、
BaO:0~45モル%
ZnO:0~10モル%
Al2O3:0.1~5モル%
SiO2:35~55モル%
La2O3:0~5モル%
以下、各成分について説明する。
【0020】
上記アルカリ土類金属の酸化物(MgO,CaO,BaO)は、熱膨張係数の調整やガラス部材の耐熱性の向上に寄与し得る成分である。MgO(酸化マグネシウム;マグネシア)は、4~30モル%の範囲で含有されることが好ましい。CaO(酸化カルシウム)は、4~25モル%の範囲で含有されることが好ましい。BaO(酸化バリウム)は、0~45モル%の範囲で含有させることが好ましい。BaOは、含有されていなくてもよく(即ち、0モル%)、含有されている場合は、45モル%以下(例えば、16~38モル%)で含有されることが好ましい。
【0021】
ZnO(酸化亜鉛)は、焼成時に用いるガラススラリー(インク状、ペースト状のものを包含する)の粘度を調整し易くするとともに、ガラス部材の気密性や安定性を向上させる機能を有し得る成分である。ZnOは、0~10モル%の範囲で含有されることが好ましい。ZnOは、含有されていなくてもよく(即ち、0モル%)、含有されている場合は、10モル%以下で含有されていることが好ましい。
【0022】
Al2O3(酸化アルミニウム;アルミナ)は、ガラススラリーの流動性を制御し、付着安定性に関与し得る成分である。Al2O3は、0.1~5モル%(例えば、2.0~2.5モル%)の範囲で含有されることが好ましい。
【0023】
SiO2(二酸化ケイ素)は、ガラス部材の骨格を構成する成分である。また、SiO2の含有率が高すぎると、融点(軟化点)が高くなりすぎてしまい好ましくないとされる。SiO2は、35~55モル%(例えば、36~51モル%)の範囲で含有されることが好ましい。
【0024】
La2O3(酸化ランタン)は、ガラス部材の安定性を向上させる機能を有し得る成分である。La2O3は、0~5モル%の範囲で含有されることが好ましい。La2O3は、含有されていなくてもよく(即ち、0モル%)、含有されている場合は、5モル%以下(例えば、3.0モル%以下)含有されることが好ましい。
【0025】
また、ここで開示される技術の効果が著しく阻害されない限りにおいて、ガラス部材2は、ガラス成分として上記7種類の成分以外の任意成分を含んでいてもよい。かかる任意成分の一例として、B2O3、Cu2O、Fe2O3、NiO、ZrO2、TiO2、Nb2O5、FeO、Fe3O4、CuO、SnO、SnO2、CeO2、Bi2O3、Y2O3(イットリア)等が挙げられる。これらの任意成分を1種または2種以上添加し、多成分系のガラス材料を構成することによって、ガラス部材の物理的安定性を向上させることができる。なお、作業性やコスト等の観点から、ガラス部材全体に対する任意成分の割合は、0.01~5.0モル%以下であることが好ましく、0.05~2.0モル%であることがより好ましく、0.1~1.0モル%以下であることがさらに好ましい。
【0026】
ガラス部材2は、アルカリ金属元素、鉛、ヒ素、カドミウム等を含まない場合が好ましい。かかるアルカリ金属元素としては、Li、Na、K、Rb、Cs、Fr等が挙げられる。これらのアルカリ金属成分(特にNa、K)を含まない場合、焼成時に環境に悪影響を与え得る物質の生成を未然に防止することができるため、好ましい。また、ガラス部材2が、鉛(Pb)、ヒ素(As)、カドミウム(Cd)を含まないことにより、人体や環境に悪影響を与え得る物質の生成を未然に防止することができるため、好ましい。なお、本明細書および特許請求の範囲において「含まない」とは、上述した成分を意図的に添加していないことを示す。したがって、原料や製造工程等に由来して微量に含まれ得る不可避的なものを厳格に排除するものではない。
【0027】
なお、ガラス部材2は、ここで開示される技術の効果が著しく阻害されない限りにおいて、上記ガラス成分以外の成分を含んでいてもよい。かかるガラス成分以外の成分の含有量は、ここで開示させる技術の効果が発揮される限りにおいて特に制限されないが、ガラス部材2の全体を100重量%としたときに、概ね30重量%以下、例えば10重量%以下、5重量%以下とすることができる。かかる成分としては、例えば無機フィラー等が挙げることができる。かかる無機フィラーとしては、例えば、Al2O3、ZrO2、Y2O3、BeO、MgO、La2O3、TiO2、ムライト(Al6O13Si2)、フォルステライト(Mg2SiO4)、ステアタイト(MgO・SiO2)等が挙げられる。なお、これらは1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
ガラス部材2の相対密度は、ここで開示される技術の効果が得られる限りにおいて特に制限されないが、典型的には80%以上であり、耐窒化性を向上させるという観点から、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、97%以上、特に好ましくは99%以上であり得る(但し、上限は100%である)。ガラス部材2が高い相対密度を有する(即ち、優れたガスバリア性を有する)場合、耐窒化性がより優れたガラス-金属複合体1を得ることができるため、好ましい。なお、本明細書および特許請求の範囲において「相対密度」とは、ピクノメーター法で測定した真密度によって、アルキメデス法に基づいて算出された嵩密度を除したものである。具体的には、先ず、ガラス部材の乾燥重量W1と、該ガラス部材を水(例えば、蒸留水)に浸けたときの水中重量W2と、当該ガラス部材を水から取り出し、その表面の水滴を除去したときの含水重量W3とを測定する。そして、水中重量W2測定時の水温における水の密度σwを用いて、下記の式(I)に基づいて、嵩密度を算出する。
(嵩密度)=W1σw/(W3-W2)・・・(I)
続いて、ピクノメーター法により算出した試料の真密度を用いて、下記の式(II)に基づいて、相対密度を算出する。
(相対密度)=(嵩密度)/(真密度)・・・(II)
上述したような一連の測定は、この種の測定の従来公知の測定方法に基づいて行うことができる。
【0029】
ガラス部材2の熱膨張係数は、ここで開示される技術の効果が得られる限りにおいて特に制限されないが、被覆部分の破損を好適に防止するという観点から、該ガラス部材の熱膨張係数を被覆対象である金属部材の熱膨張係数に近似させることが好ましい。かかるガラス部材の熱膨張係数は、例えば8.0×10-6K-1~13.0×10-6K-1(好ましくは、8.7×10-6K-1~12.3×10-6K-1程度)とすることができる。なお、本明細書において「熱膨張係数」とは、30℃から500℃までの温度領域において、熱機械分析装置(Thermomechanical Analysis:TMA)を用いて測定した平均膨張係数(平均線膨張係数)であり、試料の初期長さに対する試料長さの変化量を温度差で割った値をいう。熱膨張係数の測定は、例えばJISR3102:1995等に準じて実施することができる。
【0030】
<セラミック部材3>
本実施形態に係るセラミック部材3は、セラミックを主体として構成される部材である。なお、本明細書および特許請求の範囲において「セラミック」(以下、「セラミック成分」ともいう)とは、酸化物に限られない無機化合物であって、ガラス(アモルファス構造体)に該当しない無機化合物等であり得る。また、上記「セラミックを主体として構成される」とは、セラミック部材3を構成する成分のうち、重量基準で最も多く含まれている成分がセラミック成分であることを意味する。かかるセラミック部材は、好ましくはセラミック成分を95重量%以上、97重量%以上、あるいは99重量%以上含むものであり得る。なお、セラミック成分以外の成分としては、例えば不可避的な不純物としての種々の金属元素や非金属元素等であり得る。かかるセラミック成分としては、例えば、Al2O3、MgO、BeO、ZrO2、TiO2、Y2O3、ムライト、フォルステライト、ステアタイト、窒化ホウ素(BN)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ケイ素(Si3N4)、ベーマイト(AlOOH)等が挙げられる。なお、これらは1種類または2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
<金属部材4>
図1に示すように、本実施形態に係る金属部材4は、矩形の板状の部材である。金属部材4としては、ここで開示される技術の効果が発揮させる限りにおいて特に制限されないが、例えばFe、CrおよびAlを構成元素として含むものを好ましく用いることができる。かかる一例としては、Fe,Al,Cr,Ti,Siを所定の割合で含有するステンレス鋼、Fe,Al,Cr,Tiを所定の割合で含有するステンレス鋼、Fe,Cr,Alを所定の割合で含有するステンレス鋼等が例示される。このような構成の金属部材は、1000℃以上の耐熱性に優れるため、好ましく用いることができる。なお、金属部材4としてAlを含むステンレス鋼を用いた場合、焼成後に該金属部材の表面にアルミナ層や酸化クロム層(Cr
2O
3)等が形成され得る。
【0032】
金属材料4の厚み(
図1におけるS部分)は、ここで開示される技術の効果が発揮される限りにおいて特に制限されないが、耐窒化性を好適に実現するという観点から、例えばガラス部材2の厚み(
図1におけるT部分)を100%とした場合、典型的には50%以下、好ましくは30%以下、より好ましくは10%以下(例えば、1~5%)とすることができる。
【0033】
<リード5>
本実施形態に係るリード5は、金属製のリードである。
図1に示すように、リード5は矩形の板状であって、金属部材4の一の短辺側に備えられている。リード5を構成する材料としては、ここで開示される技術の効果が発揮させる限りにおいて特に制限されないが、例えば金属部材4の説明において例示した材料から構成されているものを用いることができる。
【0034】
≪ガラス-金属複合体1の製造方法≫
続いて、ガラス-金属複合体1の製造方法の一例について説明する。なお、以下の製造方法は、ここで開示されるガラス-金属複合体の製造方法をかかる方法に限定することを意図したものではない。また、以下に記載の各ステップは、適宜順序を入れ替えて実施することができる。
【0035】
先ず、ガラス部材2を構成するガラス材料を準備する。具体的には、ガラス材料を構成する各種構成成分の酸化物、炭酸塩、硝酸塩、複合酸化物等を含む工業製品、試薬、または各種の鉱物原料を用意し、これらが所望の組成比になるように混合する。かかる混合は、例えば各粉末をボールミル等の混合機に投入し、数時間~数十時間混合することにより実施することができる。
次に、得られた原料粉末を乾燥させた後、所定の温度条件(典型的には、1300℃~1500℃)で加熱して原料粉末を溶融する。そして、溶融した原料粉末を冷却(好ましくは急冷)することにより、所望のガラス体を得ることができる。得られたガラス体を所望の大きさ(粒径)となるまで粉砕・分級(篩いがけ)することにより、カレット状またはパウダー状等のガラス材料を得ることができる。かかるガラス材料の平均粒径は、典型的には0.5~50μm(例えば、1~40μmや2~30μm)等とすることができる。なお、本明細書において「平均粒子径」とは、レーザー回折・散乱法に基づく体積基準の粒度分布において、粒径の小さい側から積算値50%に相当する粒径(D50粒径)を意味する。かかる測定は、例えばマルバーン社製、Mastersizer3000を用いて実施することができる。
【0036】
上記のとおり作製したガラス材料と、溶剤と、必要に応じてバインダー等を、攪拌機を備えた回転式混合機やロールミル、ボールミル等を用いた従来公知の方法により攪拌混合することにより、ガラススラリーを得ることができる。なお、かかるガラススラリーの粘度は、適宜調整されることが好ましいが、典型的には0.1~20[Pa・s](例えば、0.3~15[Pa・s]や0.5~10[Pa・s])(液温25℃、E型粘度計ローター回転数1rpmで測定)等とすることができる。かかる粘度は、例えば市販の粘度計を用い、該粘度計に付随するマニュアル等に基づいて測定することができる。
ここで、上記ガラス材料の含有量は、ここで開示される技術の効果が発揮される限りにおいて特に制限されないが、例えばガラススラリーの重量を100重量%としたときに、概ね90重量%以下、典型的には40~85重量%、例えば60~80重量%の範囲内とすることができる。
【0037】
また、上記溶剤の含有量は特に制限されないが、例えばガラススラリーの重量を100重量%としたときに、概ね60重量%以下、典型的には15~50重量%、例えば20~40重量%の範囲内とすることができる。また、かかる溶剤としては、通常ガラススラリーに使用されるものを使用することが可能であり、例えば、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、メチルエチルケトン、ジオキサン、アセトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、ターピネオール、テトラヒドロフラン、ジメチルスルフォキシド、γ-ブチルラクトン、ブロモベンゼン、クロロベンゼン、ジブロモベンゼン、ジクロロベンゼン、ブロモ安息香酸、クロロ安息香酸、キシレン、イオン交換水等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を適宜選択して用いることができる。
【0038】
そして、上記バインダーの含有量は特に制限されないが、例えばガラススラリーの重量を100重量%としたときに、概ね20重量%以下、典型的には1~15重量%、例えば2~10重量%の範囲内とすることができる。また、かかるバインダーとしては、通常ガラススラリーに使用されるものを使用することが可能であり、例えば、エチルセルロース、メチルセルロース、ニトロセルロース、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート等のセルロース系樹脂、または、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ノルマルブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、2-エチルメチル(メタ)アクリレート、2-ヒドキシルエチル(メタ)アクリレート等の重合体もしくは共重合体からなるアクリル樹脂、ポリ-α-メチルスルホン、ポリビニルアルコール、ポリブテン、フタル酸エステル等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を適宜選択して用いることができる。
【0039】
なお、上記ガラススラリーは、必要に応じて、無機フィラー、着色顔料、チキソトロピー付与剤、分散剤、可塑剤、酸化防止剤、消泡剤、レベリング剤等の添加剤成分を含有してもよい。上記成分としては、通常ガラススラリーに使用されるものを使用することができる。例えば、上記無機フィラーとしては、ガラス部材2に含有され得るガラス成分以外の成分の説明において記載したようなものを、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、ガラススラリーが無機フィラーを含有する場合、無機フィラーの含有量は、ここで開示される技術の効果が発揮される限りにおいて特に制限されないが、ガラススラリーの重量を100重量%としたときに、概ね30重量%以下、典型的には1~25重量%、例えば2~20重量%の範囲内とすることができる。
【0040】
上記のとおり作製したガラススラリーを、所定の厚みを有するキャリアシート上に塗工し、乾燥させることによって、ガラスグリーンシートを得ることができる。かかる塗工は、例えばドクターブレード法等により実施することができる。
続いて、セラミック部材(セラミック焼結体)を用意する。ここでは市販のセラミック部材を用いるが、当然のことながら従来公知の方法に基づいて作製したセラミック部材を用いてもよい。そして、2本のリードを備えた金属部材を、上記のとおり作製したガラスグリーンシートおよびセラミック部材によって挟持し、接着剤等によって一体化させる。ここで、金属部材としては、耐熱性を担保するために、予め酸化雰囲気中において所定の温度(例えば1000℃~1100℃)で数時間(例えば、1~2時間程度)熱処理を行ったものを用いてもよい。また、かかる接着剤としては、例えばポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルアクリレート、ポリブチルアクリレート、シアノアクリレート等のアクリル系樹脂等が挙げられる。
このようにして一体化させたものを、アルミナセッターの上に設置し、所定の温度(例えば、200℃~600℃)で数時間(例えば、2~3時間程度)脱脂し、所定の温度(例えば、1000℃~1100℃)で数時間(例えば、2~3時間程度)焼成することにより、ガラス-金属複合体1を得ることができる。
【0041】
なお、上記製造方法では、ガラスグリーンシートを用いた製造方法について説明したが、これに限定されず、ガラス-金属部材1は、セラミック部材3の上に金属部材4を配置した後、該金属部材を被覆するようにしてガラススラリーを塗工し、乾燥させた後、焼成することによっても得ることができる。また、上記製造方法では、一体化させた部材をアルミナセッターの上に設置して焼成を行っていたが、これに限定されず、例えば吊るし焼きや砂中における焼成を行うこともできる。
【0042】
<変形例>
以上、ここで開示されるガラス-金属複合体(および、ガラス-金属複合体の製造方法)の具体例を詳細に説明したが、ここで開示されるガラス-金属複合体をかかる具体例に限定するものではない。ここで開示されるガラス-金属複合体は、上述した具体例をその目的を変更しない限りにおいて種々変更したものが包含される。
【0043】
図1に示すように、上記実施形態に係る金属部材4は矩形の板状であるが、これに限定されず、ここで開示される金属部材は、例えばシート状(箔状)、楕円の板状、その他種々の形状等であってもよい。
【0044】
上記実施形態に係るガラス-金属複合体は、ガラス部材2と、セラミック部材3とを備えているが、これに限定されず、例えば、セラミック部材3がガラス部材2に変更された態様のものや、セラミック部材3がガラス部材2とは異なる組成のガラス部材に変更された態様のものであってもよい。
セラミック部材3がガラス部材2に変更された態様のガラス-金属複合体は、上記のとおり作製したガラスグリーンシート2枚によってリードを備えた金属部材を挟持し、一体化させた後、焼成すること等によって得ることができる。また、セラミック部材3がガラス部材2とは異なる組成のガラス部材に変更された態様のガラス-金属複合体は、2種類のガラスグリーンシート2枚によりリードを備えた金属部材を挟持し、一体化させた後、焼成すること等によって得ることができる。
【0045】
また、例えば金属部材が円筒状である場合、ガラス部材は円筒状の金属部材の外側および/または内側を被覆する態様であり得る。かかる被覆は、外側の一部あるいは全面であってもよいし、内側の一部あるいは全面であってもよい。
【0046】
上記実施形態では、ガラス部材2およびセラミック部材3の形状がともに六面体形状であるが、これに限定されず、例えばガラス部材および/またはセラミック部材として4つの角部が無いものを用いてもよい。
【0047】
上記実施形態では、金属部材4が2本のリード5を備え態様について説明しているが、当然のことながらこれに限定されず、ここで開示されるガラス-金属部材における金属部材は、リードを備えていなくてもよい。即ち、ここで開示されるガラス-金属部材は、金属部材が、ガラス部材およびセラミック部材の複合体に挟持された態様であってもよい。
そして、かかるガラス-金属部材において、金属部材は、ガラス部材およびセラミック部材の複合体の一の短辺側からはみ出した態様でもよいし、金属部材の一の短辺側の一部分に加えて、該一の短辺側の反対側に相当する短辺側からも、該金属部材の一部分がはみ出していてもよい。また、金属部材全体が、上記複合体によって被覆(埋設)されていてもよい。なお、ガラス-金属部材がかかる態様であった場合についても、段落0043~0046で説明した変形例を適応することができる。
【0048】
[実施例]
以下、ここで開示されるガラス-金属複合体に関する実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に限定することを意図したものではない。
【0049】
1.ガラス-金属複合体の作製
本実施例では、22種類のガラス-金属複合体(サンプル1~22)を作製した。以下、各サンプルの作製方法について説明する。
【0050】
1-1.ガラス材料A~Iおよび各ガラス材料を含有するグリーンシートの作製
先ず、表1の該当欄に示す組成(モル%)となるように各原料粉末を調合し、混合した。そして、1300℃~1500℃で1時間溶融し、急冷することによって、ガラス体を得た。かかるガラス体を粉砕、分級することにより、ガラス材料A~Iを得た。ここで、ガラス材料A~Iの平均粒子径は10μm程度であった。
続いて、上記のとおり作製したガラス材料と、市販のアクリル樹脂と、フタル酸エステルと、キシレンとを混合し、撹拌することによってガラススラリーを得た。ここで、上記各成分の配合量は、上記ガラススラリーの重量を100重量%としたとき、ガラス材料が60重量%、アクリル樹脂が10重量%、フタル酸エステルが5重量%、残部がキシレンとなるようにした。そして、上記のとおり作製したガラススラリーを、ドクターブレード法によりキャリアシート上に塗工した後、乾燥し、縦60mm×横40mmの大きさに切り出し、キャリアシートを剥がすことによって、ガラス材料A~Iを含有する厚み1.5mm程度のグリーンシートを作製した。
【0051】
1-2.セラミック材料Jの準備
セラミック材料Jとして、表1の該当欄に示す組成(モル%)の共立マテリアル製の8mol%イットリア安定化ジルコニアを使用した。ここで、セラミック材料Jの平均粒子径は0.5μm程度であった。
【0052】
1-3.金属材料の準備
縦80mm×横15mm(後述する4-2の評価用として、縦35mm×横15mmのものも準備した)、厚み30~100μmに箔化された耐熱フェライト系ステンレス(具体的には、日本製鉄株式会社製のNCA-1,NCA-2、JFEスチール株式会社製のJFE20-5USR,JFE18-3USR)を用意した。サンプル1~10,14~16,18~22ではNCA-1、サンプル11ではNCA-2、サンプル12ではJFE20-5USR、サンプル13ではJFE18-3USRをそれぞれ使用した。なお、各金属箔について、耐熱性を担保するために、予め酸化雰囲気において1100℃で1時間熱処理を行った。また、サンプル17では、株式会社ニラコ製のSUS430(厚み50μm)をそのまま使用した。
【0053】
1-4.サンプル1~9,11~13,17~22の作製
表2~表4の該当欄に示す金属箔を、表2~表4の該当欄に示す2枚のグリーンシートによって挟み込んだ後、一軸プレス(プレス圧:50MPa)により2枚のグリーンシートを圧着し、一体化させた。ここで、各サンプルについて、後述する4-1の評価に用いる、金属箔の一の短辺側の一部分が2枚のグリーンシートからはみ出したものと、後述する4-2の評価に用いる、金属箔の全体が2枚のグリーンシートによって埋設されたものの2種類を作製した。なお、この段階で、グリーンシートから形成される2層のそれぞれの厚みが1.0mmよりも厚いものに関しては、適宜グリーンシートを複数枚積層してからプレスを行った。
このようにして一体化させたものを、アルミナセッターの上に設置し、200℃~600℃で2時間脱脂し、表2~表4の該当欄に示す焼成温度で、大気雰囲気中、2時間焼成することによって、各サンプルに係るガラス-金属複合体を作製した。そして、2枚のグリーンシートから形成された2層を、ダイヤモンド研磨パッドを用いて研磨し、縦50mm×横30mm、厚みを表2~4の該当欄に示す厚みになるように調整した。
【0054】
1-5.サンプル10の作製
ガラス材料Eに加えて、無機フィラーとしてのセラミック材料Jを添加したガラススラリーからなるグリーンシートを2枚用いたこと以外はサンプル6と同様にして、サンプル10に係るガラス-金属複合体を作製した。ここで、かかるガラススラリーは、該ガラススラリーの重量を100重量%としたときに、ガラス材料Eが45重量%、アクリル樹脂が10重量%、フタル酸エステルが5重量%、セラミック材料Jが15重量%、残部がキシレンとなるように作製した。そして、上記のとおり作製したガラススラリーを、ドクターブレード法によりキャリアシート上に塗工した後、乾燥し、縦60mm×横40mmの大きさに切り出し、キャリアシートを剥がすことによって、サンプル10に係る厚み1.5mm程度のガラスグリーンシートを作製した。
【0055】
1-6.サンプル14~16の作製
表3の該当欄に示す金属箔を、ガラス材料Eからなるガラスグリーンシートおよび表3の該当欄に示すセラミック焼結体によって挟持した後、シアノアクリレート系接着剤を用いて一体化させた。
ここで、8%イットリア安定化ジルコニア焼結体としては、セラミック材料Jを一軸プレス(プレス圧:50MPa)により成形し、1500℃で4時間焼成したものを、ダイヤモンド研磨パッドを用いて研磨し、縦50mm×横30mm×厚み1.0mmとしたものを用いた。フォルステライト焼結体としては、丸ス釉薬合資社製のフォルステライト粉を一軸プレス(プレス圧:50MPa)により成形し、1300℃で4時間焼成したものを、ダイヤモンド研磨パッドを用いて研磨し、縦50mm×横30mm×厚み1.0mmとしたものを用いた。マグネシア焼結体としては、株式会社ニッカトー製のものを、ダイヤモンド研磨パッドを用いて研磨し、縦50mm×横30mm×厚み1.0mmとしたものを用いた。各焼結体の相対密度は、ピクノメーター法で算出した真密度と、アルキメデス法によって算出した嵩密度から99%以上であった。これ以外はサンプル7と同様にして、サンプル14~16に係るガラス-金属複合体を作製した。
【0056】
2.セラミック-金属複合体の作製(サンプル23の作製)
セラミック材料Jに対して、5重量%のメチルセルロースを添加し、乳鉢、乳棒を用いて混合することで得た造粒粉を、一軸プレス(プレス圧:50MPa)で縦60mm×横40mm×厚み1.5mmに成形したものを2枚用い、焼成温度を1100℃にしたこと以外はサンプル8と同様にして、サンプル23に係るセラミック-金属複合体を作製した。
【0057】
3.ガラス材料A~Iおよびセラミック材料Jの評価試験
上記のとおり作製したガラス材料A~Iおよびセラミック材料Jについて、熱膨張係数および耐熱性の評価を行った。以下、各評価について説明する。
【0058】
3-1.熱膨張係数の評価
ガラス材料A~Iおよびセラミック材料Jについて、プレス成形プレス圧:50MPaを行うことによって直径20mm,厚み7mmの圧粉体を作製した後、ガラス材料A,D,Eを1100℃、ガラス材料B,C,Gを1000℃、ガラス材料F,Iを900℃、ガラス材料Hを450℃で、大気雰囲気中、2時間熱処理を行うことで、焼成体を得た。そして、ダイヤモンドカッターを用いて直径15mm,厚み5mmの円柱状に切り出し、熱機械分析装置(株式会社リガク製、TMA8310)を用いて熱膨張係数を測定した。具体的には、室温(25℃)から1000℃まで10℃/分の一定速度で昇温したときの、30℃から500℃の間の平均線膨張量から熱膨張係数を算出した。なお、ガラス材料Hに関しては、他のサンプルと異なり、30℃から300℃の間の平均線膨張量から熱膨張係数を算出した。結果を表1の該当欄に示した。
【0059】
3-2.耐熱性の評価
上記3-1で得られたガラス材料A~Iおよびセラミック材料Jの焼成体を、大気雰囲気中、400℃~1100℃において、加熱温度が50℃単位で異なる熱暴露(加熱時間:100時間)を行い、該熱暴露後の熱膨張係数を測定した。かかる測定には、熱機械分析装置(株式会社リガク製、TMA8310)を用いた。そして、上記熱暴露の前後の熱膨張係数の変化率が10%以下であることを確認した温度のうち最も高い温度を「材料耐熱温度」とした。結果を表1の該当欄に示した。
【0060】
3-3.相対密度の評価
上記3-1で得られたガラス材料A~Iおよびセラミック材料Jの圧粉体を、1000℃程度で2時間熱処理をすることによって得られた焼成物に対して、アルキメデス法に基づく相対密度の測定を行った。具体的には、先ず、各焼成物の乾燥重量W1を測定した。次に、各ガラス焼成物を蒸留水に浸けた後に真空ポンプ付きのデシケータ内に入れ、45分間真空引きを行った後、各焼成物の水中重量W2と含水重量W3を測定した。そして、水中重量W2測定時の水温での水の密度σwを用いて、下記の式(I)に基づいて嵩密度を算出した。
(嵩密度)=W1σw/(W3-W2)・・・(I)
上記各焼結体を、メノウ乳鉢で十分粉砕した後、真密度を、ピクノメーター(マイクロメリティックス社製、AccuPycII1340)を用いて測定した。上記嵩密度と真密度を用いて、下記式(II)に基づいて、相対密度を算出した。
(相対密度)=(嵩密度)/(真密度)・・・(II)
結果を表1の該当欄に示した。なお、ガラス材料Hに関しては、上記熱処理において溶融してしまったため、「-」と表記した。
【0061】
3-4.結晶化部分の有無の評価
ガラス材料A~Iおよびセラミック材料Jについて、結晶化部分の有無を評価した。具体的には、上記3-1で得られたガラス材料A~Iおよびセラミック材料Jの圧粉体を、1000℃程度で2時間熱処理した後、得られたガラス体およびセラミック体を粉砕して粉末状の試料を得た。そして、かかる粉末状の試料に対して粉末X線結晶回折(XRD)を行い、結晶析出の有無を確認した。かかる測定には、X線回折装置(リガク社製、RINT-TTRIII)を用いた。このとき、結晶が確認されなかったものを「無」、結晶が確認されたものを「有」と表記した。結果を表1の該当欄に示した。なお、ガラス材料Hに関しては、上記熱処理において溶融してしまったため、「-」と表記した。
【0062】
【0063】
4.ガラス-金属複合体(または、セラミック-金属複合体)の評価試験
上記のとおり作製したサンプル1~23について、耐熱性および耐腐食性の評価を行った。以下、各評価について説明する。
【0064】
4-1.耐熱性の評価
金属箔の一の短辺側の一部分が、グリーンシートからはみ出したものを焼成することによって得られた各ガラス-金属複合体について、1000℃、2時間の熱処理を行った。このとき、2層のいずれか一方にでもクラックが入ったものや、2層が剥離したもの、ガラス材料が溶解してアルミナセッターに固着したもの等、形状を維持できなかったものを「×」と表記した。そして、上記熱処理後において、熱処理前の形状を保ったサンプルについて、金属箔を面方向に90°折り曲げた。このとき、金属箔の表面に存在する酸化被膜(具体的には、Al2O3もしくはCr2O3)が剥がれ落ちたものを「×」、剥がれ落ちなかったものを「〇」と表記した。結果を表2~表4の該当欄に示した。
【0065】
4-2.耐腐食性の評価
耐熱性評価において「〇」であったサンプルについて、金属箔の全体がガラス層(またはセラミック層)により埋設されたものを焼成することによって得られたガラス-金属複合体を、アンモニアガスを流通することができる機構を備えた電気炉内に設置し、700℃のアンモニア雰囲気に2時間暴露させた。かかる暴露後の複合体を樹脂詰めし、ダイヤモンドカッターにより切断加工し、ガラス層(またはセラミック層)と金属箔の断面を露出させた。そして、かかる断面について、EDX(Energy Dispersive X-ray)分析し、窒素およびクロムの共存層を窒化層として、かかる窒化層の厚みを測定した。上記窒化層は、例えば厚みが2μm以下で検出される場合が好ましく、検出されない(即ち、N.D.である)場合がより好ましいとされる。これに基づいて、窒化層が2μm超確認されたものを「×」、窒化層が確認されたが、2μm以下であったものを「△」、窒化層が確認されなかったものを「〇」と表記した。結果を表2~表4の該当欄に示した。
【0066】
4-3.総合評価
上記評価の結果を踏まえて、耐熱性評価および耐腐食性評価が共に「〇」であったものを「〇」、耐熱性評価および/または耐腐食性評価が「△」であったものを「△」、耐熱性評価および/または耐腐食性評価が「×」であったものを「×」と表記した。結果を表2~表4の該当欄に示した。
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
以上の結果より、金属箔(即ち、金属部材)と、該金属箔の少なくとも一部を被覆するガラス部材とを備えるガラス-金属複合体であって、該ガラス部材において、アモルファスマトリックス中に結晶化部分が存在し、材料耐熱温度が1000℃以上であるサンプル1~13に係るガラス-金属複合体において、耐熱性(具体的には、1000℃~1100℃程度)および耐窒化性の両立が好適に実現されることが確認された。また、1層がガラス部材であり、他の1層がセラミック焼結体(即ち、セラミックを主体とする部材)であるサンプル14~16に係るガラス-金属複合体についても、かかる両立が好適に実現されることが確認された。一方、2層が共にセラミック部材であるサンプル23においては、耐窒化性が十分でないことが確認された。
このように、ここで開示されるガラス-金属複合体によると、耐熱性および耐窒化性の両立が好適に実現された複合体を提供することができる。
【符号の説明】
【0071】
1 ガラス-金属複合体
2 ガラス部材
3 セラミック部材
4 金属部材
5 リード
S 金属部材4の厚み
T ガラス部材2の厚み