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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022134773
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】真空ポンプ
(51)【国際特許分類】
   F04D 19/04 20060101AFI20220908BHJP
【FI】
F04D19/04 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021034156
(22)【出願日】2021-03-04
(71)【出願人】
【識別番号】508275939
【氏名又は名称】エドワーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114971
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 春樹
【テーマコード(参考)】
3H131
【Fターム(参考)】
3H131AA01
3H131AA02
3H131AA07
3H131BA03
3H131CA01
(57)【要約】
【課題】 析出物の堆積を抑制しつつ良好な許容流量の真空ポンプを得る。
【解決手段】当該真空ポンプでは、ロータと、ロータに対向して配設されたガス圧縮機能を有する複数のステータ部とが設けられており、さらに、ベース部129から吸気口101側に向かって積層された部材のうちの1つであって、その複数のステータ部の軸方向位置の基準となる基準部材301が設けられている。そして、その複数のステータ部が基準部材301より下流側(排気口133側)に配設されている。
【選択図】 図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気口を備えたケーシングと、ベース部と、前記ケーシング内に回転自在に保持されたロータと、前記ロータに対向して配設されたガス圧縮機能を有する複数のステータ部と、前記ベース部から前記吸気口側に向かって積層された部材のうちの1つであって、前記ステータ部の軸方向の基準となる基準部材とを有する真空ポンプであって、
前記複数のステータ部のうちの少なくとも2つが前記基準部材より下流側に配設されていること、
を特徴とする真空ポンプ。
【請求項2】
前記複数のステータ部は、互いに異なる種別のステータ部であって、ターボ分子ポンプ、ホルベック式ポンプ、およびシグバーン式ポンプのうちの少なくとも2種のステータ部を含むことを特徴とする請求項1記載の真空ポンプ。
【請求項3】
前記ステータ部と前記ベース部との間の間隙をさらに備えることを特徴とする請求項1記載の真空ポンプ。
【請求項4】
前記間隙に断熱部材をさらに備えることを特徴とする請求項3記載の真空ポンプ。
【請求項5】
前記断熱部材は、前記ステータ部の内側壁面に接触して、径方向における前記ステータ部の位置決めをすることを特徴とする請求項4記載の真空ポンプ。
【請求項6】
前記ステータ部は、ボルトを使用して、前記基準部材に固定されていることを特徴とする請求項1記載の真空ポンプ。
【請求項7】
前記間隙に弾性部材をさらに備えることを特徴とする請求項3記載の真空ポンプ。
【請求項8】
前記弾性部材は、Oリングであることを特徴とする請求項7記載の真空ポンプ。
【請求項9】
前記ベース部に固定され、前記基準部材に向けて前記ステータ部を押すボルトをさらに備えることを特徴とする請求項1記載の真空ポンプ。
【請求項10】
前記ベース部に接続される外筒部材をさらに備え、
前記基準部材は、前記外筒部材に接続され、
前記基準部材および前記外筒部材の少なくとも一方は、温度制御されていること、
を特徴とする請求項1記載の真空ポンプ。
【請求項11】
前記基準部材は、前記ベース部に直接接続され、温度制御されていることを特徴とする請求項1記載の真空ポンプ。
【請求項12】
前記ステータ部から前記基準部材に熱が流入することを特徴とする請求項1から請求項11のうちのいずれか1項記載の真空ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空ポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ある真空ポンプでは、ベース部を基準として軸方向に沿って吸気側に向けてネジ溝ポンプ部のステータおよびターボ分子ポンプ部の固定翼(ステータ)が順番に積層されて配置されている。また、ある真空ポンプでは、ベース部が、外周側面に延びており、冷却管で冷却されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-51952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、上述のターボ分子ポンプ部およびネジ溝ポンプ部のように、縦列に接続された複数のポンプ部を有する多段構成では、後段のポンプ部(上述の真空ポンプでは、ネジ溝ポンプ部)の圧力が高くなるため、後段のポンプ部の温度を高くしてガス析出物の堆積などを抑制することが好ましい。しかしながら、後段のポンプ部の温度が過剰になると、前段のポンプ部(ターボ分子ポンプ部の回転翼)の放熱を妨げることになり、ガスの許容流量が低下してしまう。
【0005】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、析出物の堆積を抑制しつつ良好な許容流量の真空ポンプを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る真空ポンプは、吸気口を備えたケーシングと、ベース部と、ケーシング内に回転自在に保持されたロータと、ロータに対向して配設されたガス圧縮機能を有する複数のステータ部と、ベース部から吸気口側に向かって積層された部材のうちの1つであって、ステータ部の軸方向の基準となる基準部材とを有する真空ポンプであって、その複数のステータ部のうちの少なくとも2つが基準部材より下流側に配設されている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、析出物の堆積を抑制しつつ良好な許容流量の真空ポンプが得られる。
【0008】
本発明の上記又は他の目的、特徴および優位性は、添付の図面とともに以下の詳細な説明から更に明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の実施の形態に係る真空ポンプとしてのターボ分子ポンプを示す縦断面図である。
図2図2は、図1に示すターボ分子ポンプの電磁石の励磁制御をするアンプ回路を示す回路図である。
図3図3は、電流指令値が検出値より大きい場合の制御を示すタイムチャートである。
図4図4は、電流指令値が検出値より小さい場合の制御を示すタイムチャートである。
図5図5は、図1に示す真空ポンプにおいて、基準部材と、基準部材によって位置決めされている部材について説明する断面図である。
図6図6は、実施の形態1に係る真空ポンプにおける間隙周辺の構成を説明する断面図である。
図7図7は、図1に示す真空ポンプにおいて、基準部材、および基準部材によって位置決めされている部材の締結の一例について説明する断面図である。
図8図8は、図1に示す真空ポンプにおいて、基準部材、および基準部材によって位置決めされている部材の締結の他の例について説明する断面図である。
図9図9は、実施の形態2に係る真空ポンプにおける間隙周辺の構成を説明する断面図である。
図10図10は、実施の形態3に係る真空ポンプにおける間隙周辺の構成を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0011】
実施の形態1.
【0012】
このターボ分子ポンプ100の縦断面図を図1に示す。図1において、ターボ分子ポンプ100は、円筒状の外筒127の上端に吸気口101が形成されている。そして、外筒127の内方には、ガスを吸引排気するためのタービンブレードである複数の回転翼102(102a、102b、102c・・・)を周部に放射状かつ多段に形成した回転体103が備えられている。この回転体103の中心にはロータ軸113が取り付けられており、このロータ軸113は、例えば5軸制御の磁気軸受により空中に浮上支持かつ位置制御されている。回転体103は、一般的に、アルミニウム又はアルミニウム合金などの金属によって構成されている。
【0013】
上側径方向電磁石104は、4個の電磁石がX軸とY軸とに対をなして配置されている。この上側径方向電磁石104に近接して、かつ上側径方向電磁石104のそれぞれに対応して4個の上側径方向センサ107が備えられている。上側径方向センサ107は、例えば伝導巻線を有するインダクタンスセンサや渦電流センサなどが用いられ、ロータ軸113の位置に応じて変化するこの伝導巻線のインダクタンスの変化に基づいてロータ軸113の位置を検出する。この上側径方向センサ107はロータ軸113、すなわちそれに固定された回転体103の径方向変位を検出し、制御装置200に送るように構成されている。
【0014】
この制御装置200においては、例えばPID調節機能を有する補償回路が、上側径方向センサ107によって検出された位置信号に基づいて、上側径方向電磁石104の励磁制御指令信号を生成し、図2に示すアンプ回路150(後述する)が、この励磁制御指令信号に基づいて、上側径方向電磁石104を励磁制御することで、ロータ軸113の上側の径方向位置が調整される。
【0015】
そして、このロータ軸113は、高透磁率材(鉄、ステンレスなど)などにより形成され、上側径方向電磁石104の磁力により吸引されるようになっている。かかる調整は、X軸方向とY軸方向とにそれぞれ独立して行われる。また、下側径方向電磁石105及び下側径方向センサ108が、上側径方向電磁石104及び上側径方向センサ107と同様に配置され、ロータ軸113の下側の径方向位置を上側の径方向位置と同様に調整している。
【0016】
さらに、軸方向電磁石106A、106Bが、ロータ軸113の下部に備えた円板状の金属ディスク111を上下に挟んで配置されている。金属ディスク111は、鉄などの高透磁率材で構成されている。ロータ軸113の軸方向変位を検出するために軸方向センサ109が備えられ、その軸方向位置信号が制御装置200に送られるように構成されている。
【0017】
そして、制御装置200において、例えばPID調節機能を有する補償回路が、軸方向センサ109によって検出された軸方向位置信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bのそれぞれの励磁制御指令信号を生成し、アンプ回路150が、これらの励磁制御指令信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bをそれぞれ励磁制御することで、軸方向電磁石106Aが磁力により金属ディスク111を上方に吸引し、軸方向電磁石106Bが金属ディスク111を下方に吸引し、ロータ軸113の軸方向位置が調整される。
【0018】
このように、制御装置200は、この軸方向電磁石106A、106Bが金属ディスク111に及ぼす磁力を適当に調節し、ロータ軸113を軸方向に磁気浮上させ、空間に非接触で保持するようになっている。なお、これら上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150については、後述する。
【0019】
一方、モータ121は、ロータ軸113を取り囲むように周状に配置された複数の磁極を備えている。各磁極は、ロータ軸113との間に作用する電磁力を介してロータ軸113を回転駆動するように、制御装置200によって制御されている。また、モータ121には図示しない例えばホール素子、レゾルバ、エンコーダなどの回転速度センサが組み込まれており、この回転速度センサの検出信号によりロータ軸113の回転速度が検出されるようになっている。
【0020】
さらに、例えば下側径方向センサ108近傍に、図示しない位相センサが取り付けてあり、ロータ軸113の回転の位相を検出するようになっている。制御装置200では、この位相センサと回転速度センサの検出信号を共に用いて磁極の位置を検出するようになっている。
【0021】
回転翼102(102a、102b、102c・・・)とわずかの空隙を隔てて複数枚の固定翼123(123a、123b、123c・・・)が配設されている。回転翼102(102a、102b、102c・・・)は、それぞれ排気ガスの分子を衝突により下方向に移送するため、ロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成されている。固定翼123(123a、123b、123c・・・)は、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。
【0022】
また、固定翼123も、同様にロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成され、かつ外筒127の内方に向けて回転翼102の段と互い違いに配設されている。そして、固定翼123の外周端は、複数の段積みされた固定翼スペーサ125(125a、125b、125c・・・)の間に嵌挿された状態で支持されている。
【0023】
固定翼スペーサ125はリング状の部材であり、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。固定翼スペーサ125の外周には、空隙を隔てて外筒127、基準部材301、および外筒部材302が固定されている。外筒部材302の底部にはベース部129が配設されている。また、ベース部129の上方には排気口133が配置され、外部に連通されている。チャンバ(真空チャンバ)側から吸気口101に入って移送されてきた排気ガスは、排気口133へと送られる。
【0024】
さらに、ターボ分子ポンプ100の用途によって、固定翼スペーサ125の下部とベース部129の間には、ネジ付スペーサ131が配設される。ネジ付スペーサ131は、アルミニウム、銅、ステンレス、鉄、又はこれらの金属を成分とする合金などの金属によって構成された円筒状の部材であり、その内周面に螺旋状のネジ溝131aが複数条刻設されている。ネジ溝131aの螺旋の方向は、回転体103の回転方向に排気ガスの分子が移動したときに、この分子が排気口133の方へ移送される方向である。回転体103の回転翼102(102a、102b、102c・・・)に続く最下部には円筒部102dが垂下されている。この円筒部102dの外周面は、円筒状で、かつネジ付スペーサ131の内周面に向かって張り出されており、このネジ付スペーサ131の内周面と所定の隙間を隔てて近接されている。回転翼102および固定翼123によってネジ溝131aに移送されてきた排気ガスは、ネジ溝131aに案内されつつベース部129へと送られる。
【0025】
ベース部129は、ターボ分子ポンプ100の基底部を構成する円盤状の部材であり、一般には鉄、アルミニウム、ステンレスなどの金属によって構成されている。ベース部129はターボ分子ポンプ100を物理的に保持すると共に、熱の伝導路の機能も兼ね備えているので、鉄、アルミニウムや銅などの剛性があり、熱伝導率も高い金属が使用されるのが望ましい。
【0026】
かかる構成において、回転翼102がロータ軸113と共にモータ121により回転駆動されると、回転翼102と固定翼123の作用により、吸気口101を通じてチャンバから排気ガスが吸気される。回転翼102の回転速度は通常20000rpm~90000rpmであり、回転翼102の先端での周速度は200m/s~400m/sに達する。吸気口101から吸気された排気ガスは、回転翼102と固定翼123の間を通り、ベース部129へ移送される。このとき、排気ガスが回転翼102に接触する際に生ずる摩擦熱や、モータ121で発生した熱の伝導などにより、回転翼102の温度は上昇するが、この熱は、輻射又は排気ガスの気体分子などによる伝導により固定翼123側に伝達される。
【0027】
固定翼スペーサ125は、外周部で互いに接合しており、固定翼123が回転翼102から受け取った熱や排気ガスが固定翼123に接触する際に生ずる摩擦熱などを外部へと伝達する。
【0028】
なお、上記では、ネジ付スペーサ131は回転体103の円筒部102dの外周に配設し、ネジ付スペーサ131の内周面にネジ溝131aが刻設されているとして説明した。しかしながら、これとは逆に円筒部102dの外周面にネジ溝が刻設され、その周囲に円筒状の内周面を有するスペーサが配置される場合もある。
【0029】
また、ターボ分子ポンプ100の用途によっては、吸気口101から吸引されたガスが上側径方向電磁石104、上側径方向センサ107、モータ121、下側径方向電磁石105、下側径方向センサ108、軸方向電磁石106A、106B、軸方向センサ109などで構成される電装部に侵入することのないよう、電装部は周囲をステータコラム122で覆われ、このステータコラム122内はパージガスにて所定圧に保たれる場合もある。
【0030】
この場合には、ベース部129には図示しない配管が配設され、この配管を通じてパージガスが導入される。導入されたパージガスは、保護ベアリング120とロータ軸113間、モータ121のロータとステータ間、ステータコラム122と回転翼102の内周側円筒部の間の隙間を通じて排気口133へ送出される。
【0031】
ここに、ターボ分子ポンプ100は、機種の特定と、個々に調整された固有のパラメータ(例えば、機種に対応する諸特性)に基づいた制御を要する。この制御パラメータを格納するために、上記ターボ分子ポンプ100は、その本体内に電子回路部141を備えている。電子回路部141は、EEP-ROM等の半導体メモリ及びそのアクセスのための半導体素子等の電子部品、それらの実装用の基板143等から構成される。この電子回路部141は、ターボ分子ポンプ100の下部を構成するベース部129の例えば中央付近の図示しない回転速度センサの下部に収容され、気密性の底蓋145によって閉じられている。
【0032】
ところで、半導体の製造工程では、チャンバに導入されるプロセスガスの中には、その圧力が所定値よりも高くなり、或いは、その温度が所定値よりも低くなると、固体となる性質を有するものがある。ターボ分子ポンプ100内部では、排気ガスの圧力は、吸気口101で最も低く排気口133で最も高い。プロセスガスが吸気口101から排気口133へ移送される途中で、その圧力が所定値よりも高くなったり、その温度が所定値よりも低くなったりすると、プロセスガスは、固体状となり、ターボ分子ポンプ100内部に付着して堆積する。
【0033】
例えば、Alエッチング装置にプロセスガスとしてSiClが使用された場合、低真空(760[torr]~10-2[torr])かつ、低温(約20[℃])のとき、固体生成物(例えばAlCl)が析出し、ターボ分子ポンプ100内部に付着堆積することが蒸気圧曲線からわかる。これにより、ターボ分子ポンプ100内部にプロセスガスの析出物が堆積すると、この堆積物がポンプ流路を狭め、ターボ分子ポンプ100の性能を低下させる原因となる。そして、前述した生成物は、排気口133付近やネジ付スペーサ131付近の圧力が高い部分で凝固、付着し易い状況にあった。
【0034】
そのため、この問題を解決するために、従来はベース部129等の外周に図示しないヒータや環状の水冷管149を巻着させ、かつ例えばベース部129に図示しない温度センサ(例えばサーミスタ)を埋め込み、この温度センサの信号に基づいてベース部129の温度を一定の高い温度(設定温度)に保つようにヒータの加熱や水冷管149による冷却の制御(以下TMSという。TMS;Temperature Management System)が行われている。
【0035】
次に、このように構成されるターボ分子ポンプ100に関して、その上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150について説明する。このアンプ回路150の回路図を図2に示す。
【0036】
図2において、上側径方向電磁石104等を構成する電磁石巻線151は、その一端がトランジスタ161を介して電源171の正極171aに接続されており、また、その他端が電流検出回路181及びトランジスタ162を介して電源171の負極171bに接続されている。そして、トランジスタ161、162は、いわゆるパワーMOSFETとなっており、そのソース-ドレイン間にダイオードが接続された構造を有している。
【0037】
このとき、トランジスタ161は、そのダイオードのカソード端子161aが正極171aに接続されるとともに、アノード端子161bが電磁石巻線151の一端と接続されるようになっている。また、トランジスタ162は、そのダイオードのカソード端子162aが電流検出回路181に接続されるとともに、アノード端子162bが負極171bと接続されるようになっている。
【0038】
一方、電流回生用のダイオード165は、そのカソード端子165aが電磁石巻線151の一端に接続されるとともに、そのアノード端子165bが負極171bに接続されるようになっている。また、これと同様に、電流回生用のダイオード166は、そのカソード端子166aが正極171aに接続されるとともに、そのアノード端子166bが電流検出回路181を介して電磁石巻線151の他端に接続されるようになっている。そして、電流検出回路181は、例えばホールセンサ式電流センサや電気抵抗素子で構成されている。
【0039】
以上のように構成されるアンプ回路150は、一つの電磁石に対応されるものである。そのため、磁気軸受が5軸制御で、電磁石104、105、106A、106Bが合計10個ある場合には、電磁石のそれぞれについて同様のアンプ回路150が構成され、電源171に対して10個のアンプ回路150が並列に接続されるようになっている。
【0040】
さらに、アンプ制御回路191は、例えば、制御装置200の図示しないディジタル・シグナル・プロセッサ部(以下、DSP部という)によって構成され、このアンプ制御回路191は、トランジスタ161、162のon/offを切り替えるようになっている。
【0041】
アンプ制御回路191は、電流検出回路181が検出した電流値(この電流値を反映した信号を電流検出信号191cという)と所定の電流指令値とを比較するようになっている。そして、この比較結果に基づき、PWM制御による1周期である制御サイクルTs内に発生させるパルス幅の大きさ(パルス幅時間Tp1、Tp2)を決めるようになっている。その結果、このパルス幅を有するゲート駆動信号191a、191bを、アンプ制御回路191からトランジスタ161、162のゲート端子に出力するようになっている。
【0042】
なお、回転体103の回転速度の加速運転中に共振点を通過する際や定速運転中に外乱が発生した際等に、高速かつ強い力での回転体103の位置制御をする必要がある。そのため、電磁石巻線151に流れる電流の急激な増加(あるいは減少)ができるように、電源171としては、例えば50V程度の高電圧が使用されるようになっている。また、電源171の正極171aと負極171bとの間には、電源171の安定化のために、通常コンデンサが接続されている(図示略)。
【0043】
かかる構成において、トランジスタ161、162の両方をonにすると、電磁石巻線151に流れる電流(以下、電磁石電流iLという)が増加し、両方をoffにすると、電磁石電流iLが減少する。
【0044】
また、トランジスタ161、162の一方をonにし他方をoffにすると、いわゆるフライホイール電流が保持される。そして、このようにアンプ回路150にフライホイール電流を流すことで、アンプ回路150におけるヒステリシス損を減少させ、回路全体としての消費電力を低く抑えることができる。また、このようにトランジスタ161、162を制御することにより、ターボ分子ポンプ100に生じる高調波等の高周波ノイズを低減することができる。さらに、このフライホイール電流を電流検出回路181で測定することで電磁石巻線151を流れる電磁石電流iLが検出可能となる。
【0045】
すなわち、検出した電流値が電流指令値より小さい場合には、図3に示すように制御サイクルTs(例えば100μs)中で1回だけ、パルス幅時間Tp1に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をonにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、正極171aから負極171bへ、トランジスタ161、162を介して流し得る電流値iLmax(図示せず)に向かって増加する。
【0046】
一方、検出した電流値が電流指令値より大きい場合には、図4に示すように制御サイクルTs中で1回だけパルス幅時間Tp2に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をoffにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、負極171bから正極171aへ、ダイオード165、166を介して回生し得る電流値iLmin(図示せず)に向かって減少する。
【0047】
そして、いずれの場合にも、パルス幅時間Tp1、Tp2の経過後は、トランジスタ161、162のどちらか1個をonにする。そのため、この期間中は、アンプ回路150にフライホイール電流が保持される。
【0048】
以上のようにターボ分子ポンプ100は構成されている。このターボ分子ポンプ100は真空ポンプの一例である。さらに、図1において、回転翼102および回転体103は、当該ターボ分子ポンプ100のロータであり、固定翼123および固定翼スペーサ125は、ターボ分子ポンプ部分のステータ部であり、ネジ付スペーサ131は、ターボ分子ポンプ部分の後段のネジ溝ポンプ部分のステータ部である。また、吸気口101、排気口133、外筒127、基準部材301、および外筒部材302は、当該ターボ分子ポンプ100のケーシングであり、上述のロータ、および上述の複数のステータ部を収容している。つまり、上述のロータは、上述のケーシング内に回転自在に保持されており、上述の複数のステータ部は、ロータに対向して配設されており、ガス圧縮機能を有する。
【0049】
図5は、図1に示す真空ポンプにおいて、基準部材301、および基準部材301によって位置決めされている部材について説明する断面図である。
【0050】
図1に示す真空ポンプにおいて、基準部材301は、ベース部129から吸気口101側に向かって積層された部材(以下、積層部材という)のうちの1つであって、上述の複数のステータ部の軸方向位置の基準となる環状の部材である。そして、上述のような複数のステータ部(ターボ分子ポンプ部分のステータ部、ネジ溝ポンプ部分のステータ部など)が、基準部材301に対して排気口133側に配設されており、基準部材301によって軸方向の位置決めがされている。なお、この複数のステータ部は、上述の積層部材には含まれていない。
【0051】
この実施の形態では、図5に示すように、固定翼123dおよび固定翼スペーサ125d(つまり、ターボ分子ポンプ部分(一部)のステータ部)並びにネジ付スペーサ131(つまり、ネジ溝ポンプ部分のステータ部)が、基準部材301に対して排気側において、基準部材301によって軸方向の位置決めがされている。
【0052】
具体的には、固定翼123dおよび固定翼スペーサ125dによるステータ部の一端が、軸方向に沿って、基準部材301に接触し、ネジ付スペーサ131の一端が、軸方向に沿って、固定翼123dおよび固定翼スペーサ125dによるステータ部の他端に接触している。また、環状部材303の一端が、基準部材301に接触し、環状部材303の他端が、ネジ付スペーサ131に接触している。さらに、ネジ付スペーサ131の他端は、ベース部129に接触しておらず、ネジ付スペーサ131とベース部129との間に間隙311が形成されている。
【0053】
このように、固定翼123dおよび固定翼スペーサ125d(つまり、ターボ分子ポンプ部分(一部)のステータ部)並びにネジ付スペーサ131(つまり、ネジ溝ポンプ部分のステータ部)は、ベース部129によって位置決めされておらず、基準部材301によって位置決めされている。
【0054】
また、ネジ付スペーサ131にはヒータ304が設けられており、基準部材301には冷却管305が設けられている。したがって、ヒータ304からネジ付スペーサ131へ流入する熱は、ネジ付スペーサ131から、固定翼123dおよび固定翼スペーサ125d(つまり、ターボ分子ポンプ部分(一部)のステータ部)並びに環状部材303を介して、基準部材301に流入する。これにより、ガス流路において、ネジ付スペーサ131、固定翼123dおよび固定翼スペーサ125dによるステータ部、基準部材301の順に、徐々に温度が低くなる。
【0055】
図6は、実施の形態1に係る真空ポンプにおける間隙311周辺の構成を説明する断面図である。実施の形態1では、図6に示すように、間隙311に、断熱部材321および弾性部材322が配置されている。
【0056】
断熱部材321は、ネジ付スペーサ131およびベース部129の熱伝導率より低い熱伝導率を有する環状の部材であって、フランジ部分321aを有する。フランジ部分321aは、周方向に沿って複数の孔を有し、その孔を挿通するボルト323がベース部129にネジ結合することで、断熱部材321はベース部129に固定される。
【0057】
この実施の形態では、例えば、ネジ付スペーサ131およびベース部129は、アルミ製であって、断熱部材321は、ステンレス製である。
【0058】
また、断熱部材321の外周面は、ネジ付スペーサ131の内側壁面に接触して、径方向におけるネジ付スペーサ131の位置決めをしている。当該真空ポンプの停止時に比べ、当該真空ポンプの運転時では、ネジ付スペーサ131はベース部129および断熱部材321より高温となるため、ネジ付スペーサ131のほうが熱膨張が大きい。そのため、このように、ネジ付スペーサ131の内側壁面に断熱部材321を接触させて径方向の位置決めをすることで、断熱効果が増加する。
【0059】
図7は、図1に示す真空ポンプにおいて、基準部材301、および基準部材301によって位置決めされている部材の締結の一例について説明する断面図である。
【0060】
実施の形態1では、例えば図7に示すように、固定翼123dおよび固定翼スペーサ125d(つまり、ターボ分子ポンプ部分(一部)のステータ部)並びにネジ付スペーサ131(つまり、ネジ溝ポンプ部分のステータ部)は、ボルト401,402によって、基準部材301に固定されている。なお、図7では、1つのボルト401,402がそれぞれ示されているが、周方向において複数のボルト401,402が所定の間隔で設けられている。
【0061】
具体的には、ボルト401によって、環状部材303が基準部材301に直接的に固定されており、ボルト402によって、ネジ付スペーサ131が環状部材303に直接的に固定されており、基準部材301とネジ付スペーサ131とに挟まれるようにして、固定翼123dおよび固定翼スペーサ125d(つまり、ターボ分子ポンプ部分(一部)のステータ部)が基準部材301に固定されている。
【0062】
図8は、図1に示す真空ポンプにおいて、基準部材301、および基準部材301によって位置決めされている部材の締結の他の例について説明する断面図である。図7では、基準部材301の孔にボルト401を挿通してボルト401と環状部材303とをボルト401でネジ結合させているが、その代わりに、例えば図8に示すように、環状部材303の孔にボルト403を挿通してボルト403と基準部材301とをボルト403でネジ結合させるようにしてもよい。
【0063】
また、図6に戻り、弾性部材322は、軸方向に伸縮する部材であって、ここでは、弾性部材322の一端がネジ付スペーサ131に接触し、弾性部材322の他端が、断熱部材321に接触している。なお、断熱部材321が省略される場合には、弾性部材322の他端は、ベース部129に接触する。
【0064】
実施の形態1では、弾性部材322は、Oリングである。
【0065】
また、基準部材301および外筒部材302の少なくとも一方は、図示せぬ温度センサを設けられ、制御装置200は、その温度センサを使用して温度センサ設置位置の温度を測定し、その温度を基づいて、ヒータ304の発熱量および/または冷却管305内の冷媒(ここでは水)の流量を調整して、基準部材301および外筒部材302の一方または両方の温度を、所定温度となるように制御する。これにより、基準部材301および外筒部材302の少なくとも一方が低温源となるとともに、運転時の外筒部材302(および基準部材301)の温度変化が抑制されるため、外筒部材302(および基準部材301)の熱膨張が抑制され、上述の積層部材などの各部の軸方向の位置の精度が低下しにくい。
【0066】
次に、実施の形態1に係る真空ポンプの動作について説明する。
【0067】
当該真空ポンプの運転時では、制御装置200による制御に基づいてモータ121が動作しロータが回転する。これにより、吸気口101を介して流入したガスが、ロータとステータ部との間のガス流路に沿って移送され、排気口133から外部配管へ排出される。
【0068】
当該真空ポンプの運転時、制御装置200は、ヒータ304および冷却管305の冷媒流量を制御して、温度制御を行う。その際、ヒータ304の設置されているネジ付きスペーサ131から、固定翼123dおよび固定翼スペーサ125d並びに環状部材303を介して基準部材301へ熱が流れる。
【0069】
そのため、流路に沿った温度分布が適切に設定される。つまり、圧力が高い排気側に向かって徐々に高温となるため、各流路位置において、析出物の抑制に必要な温度を確保しつつ、不必要なヒータ304による加熱を抑制できる。
【0070】
以上のように、上記実施の形態1によれば、当該真空ポンプでは、基準部材301は、ベース部129から吸気口101側に向かって積層された部材のうちの1つであって、ガス圧縮機能を有する複数のステータ部(固定翼123dおよび固定翼スペーサ125d(つまり、ターボ分子ポンプ部分のステータ部)並びにネジ付スペーサ131(つまり、ネジ溝ポンプ部分のステータ部))の軸方向位置の基準となる環状の部材である。そして、その複数のステータ部が基準部材301より下流側(排気口133側)に配設されている。
【0071】
これにより、流路の温度分布を適切な温度分布に調整しやすく、前段ポンプ部(ここではターボ分子ポンプ部分)の放熱(冷却)および後段ポンプ部(ここではネジ溝ポンプ部分)の加熱が適切に両立されるため、析出物の堆積を抑制しつつ良好な許容流量が得られる。
【0072】
実施の形態2.
【0073】
図9は、実施の形態2に係る真空ポンプにおける間隙311周辺の構成を説明する断面図である。
【0074】
実施の形態2では、図9に示すように、上述の弾性部材322(Oリング)の代わりに、弾性部材501が使用される。弾性部材501は、バネである。なお、周方向に沿って複数の弾性部材501が所定の間隔で設けられている。
【0075】
なお、実施の形態2に係る真空ポンプにおけるその他の構成および動作については実施の形態1と同様であるので、その説明を省略する。
【0076】
実施の形態3.
【0077】
図10は、実施の形態3に係る真空ポンプにおける間隙311周辺の構成を説明する断面図である。
【0078】
実施の形態3では、ベース部129に、軸方向に沿った孔601が形成されており、孔601には、ボルト602の雄ネジに対応する雌ネジ601aが形成されている。ボルト602の雄ネジと雌ネジ601aとはネジ結合し、ボルト602を回転させることで、ボルト602の先端平面602aが軸方向に沿って進行または後退し、これにより、ボルト602の先端平面602がネジ付スペーサ131の底面に接触する。
【0079】
このように、ボルト602は、ベース部129に固定され、その先端平面602aで基準部材301に向けてネジ付スペーサ131を押す。これにより、ネジ付スペーサ131が、ターボ分子ポンプのステータ部(固定翼123dおよび固定翼スペーサ125d)並びに環状部材303に押し付けられるとともに、ターボ分子ポンプのステータ部(固定翼123dおよび固定翼スペーサ125d)並びに環状部材303が基準部材301に押し付けられる。
【0080】
これにより、ターボ分子ポンプのステータ部(固定翼123dおよび固定翼スペーサ125d)が基準部材301に接触固定され、また、ネジ付スペーサ131がターボ分子ポンプのステータ部(固定翼123dおよび固定翼スペーサ125d)に接触固定されるまで、ターボ分子ポンプのステータ部(固定翼123dおよび固定翼スペーサ125d)並びにネジ付スペーサ131は押し付けられるため、ターボ分子ポンプのステータ部(固定翼123dおよび固定翼スペーサ125d)並びにネジ付スペーサ131は、基準部材301によって位置決めされる。そのため、実施の形態3では、上述のボルト401,402,403を設けなくてもよい。なお、周方向に沿って所定の間隔で、複数のボルト602(および孔601)が、上述のボルト323に干渉しない位置に設けられている。
【0081】
なお、実施の形態3に係る真空ポンプにおけるその他の構成および動作については実施の形態1または実施の形態2と同様であるので、その説明を省略する。
【0082】
なお、上述の実施の形態に対する様々な変更および修正については、当業者には明らかである。そのような変更および修正は、その主題の趣旨および範囲から離れることなく、かつ、意図された利点を弱めることなく行われてもよい。つまり、そのような変更および修正が請求の範囲に含まれることを意図している。
【0083】
例えば、上記実施の形態1,2,3において、上述の複数のステータ部は、互いに異なる種別のステータ部であって、ターボ分子ポンプ、ホルベック式ポンプ(ネジ溝ポンプ)、およびシグバーン式ポンプのうちの少なくとも2種のステータ部を含む。つまり、上記実施の形態1,2,3において、シグバーン式ポンプが追加されていてもよいし、ターボ分子ポンプまたはホルベック式ポンプ(ネジ溝ポンプ)の代わりにシグバーン式ポンプが使用されていてもよい。また、ターボ分子ポンプ、ホルベック式ポンプ(ネジ溝ポンプ)、およびシグバーン式ポンプのいずれかの代わりに、他の方式のポンプ(例えば、国際公開WO2013/110936に記載されているような、有孔ディスクと螺旋翼とを相対的に回転させるポンプ)を使用してもよいし、他の方式のポンプを追加してもよい。
【0084】
また、上記実施の形態1,2,3では、基準部材301に冷却管305が設けられているが、その代わりに、基準部材301に接続されている外筒302に冷却管305(および上述の温度センサ)が設けられていてもよい。
【0085】
また、上記実施の形態1,2,3では、上述のように、基準部材301が外筒302を介してベース部129に接続されているが、外筒302が設けられずに、基準部材301が、外筒302の形状を含む1部材とされ、ベース部129に直接接続され、同様に温度制御されるようにしてもよい。つまり、基準部材301がベース部129に直接接続され温度制御されるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明は、例えば、真空ポンプに適用可能である。
【符号の説明】
【0087】
100 ターボ分子ポンプ(真空ポンプの一例)
123d 固定翼(ステータ部の一例の一部)
125d 固定翼スペーサ(ステータ部の一例の一部)
129 ベース部
131 ネジ付スペーサ(ステータ部の一例)
301 基準部材
302 外筒部材
321 断熱部材
322,501 弾性部材
602 ボルト
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10