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  • 特開-塗膜除去方法及び塗膜除去装置 図1
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  • 特開-塗膜除去方法及び塗膜除去装置 図6
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022134857
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】塗膜除去方法及び塗膜除去装置
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20220908BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20220908BHJP
   B23K 26/36 20140101ALI20220908BHJP
   E01D 22/00 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
E04G23/02 Z
B23K26/00 G
B23K26/36
E01D22/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021034311
(22)【出願日】2021-03-04
(71)【出願人】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(71)【出願人】
【識別番号】000198318
【氏名又は名称】株式会社IHI検査計測
(71)【出願人】
【識別番号】509338994
【氏名又は名称】株式会社IHIインフラシステム
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸口 雄介
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 浩
(72)【発明者】
【氏名】大阿見 尚弥
(72)【発明者】
【氏名】武川 哲
【テーマコード(参考)】
2D059
2E176
4E168
【Fターム(参考)】
2D059GG22
2D059GG39
2E176BB03
2E176BB36
2E176DD61
2E176DD64
4E168AD03
4E168CB04
4E168DA24
4E168DA26
4E168DA28
4E168DA32
4E168DA40
4E168EA15
4E168EA17
4E168JA02
4E168JA11
(57)【要約】
【課題】既設構造物における構造部材の表面に施された塗装の塗膜を除去することができ、構造部材の素地調整面にレーザ光が照射されたとしても、その素地調整面に及ぼす形状や組成の変化を少なく抑え得る塗膜除去方法及び塗膜除去装置を提供する。
【解決手段】レーザ発振器2と、レーザ発振器2から供給されるレーザ光Lを鋼材Wに照射するレーザヘッド4と、レーザヘッド4からのレーザ光Lを鋼材Wの表面上で走査させる走査機構6と、レーザヘッド4から照射されるレーザ光Lの出力,スポット径及び走査機構6によるレーザ光Lの走査速度をコントロールする制御部10を備え、制御部10は、鋼材Wの素地調整面Waに存在する凹凸を残すべく設定したレーザ条件でレーザヘッド4及び走査機構6を制御する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設構造物の構造部材における素地調整面上に塗装された塗膜を除去する塗膜除去方法であって、
前記構造部材の素地調整面に存在する凹凸を残すべく設定されたレーザ条件で前記塗膜に対してレーザ光を照射しつつ走査する塗膜除去方法。
【請求項2】
前記塗膜に対してレーザ光を照射しつつ直線状に走査する請求項1に記載の塗膜除去方法。
【請求項3】
前記レーザ条件は、レーザ光の出力が1000W以下であり、レーザ光のスポット径とレーザ光の走査速度との積でレーザ光の出力を除した量であるフルエンスが0.15J/mm以下である請求項1又は2に記載の塗膜除去方法。
【請求項4】
フルエンスを0.15J/mm以下とするためのレーザ光の走査速度が9.0m/s以上である請求項3に記載の塗膜除去方法。
【請求項5】
既設構造物の構造部材における素地調整面上に塗装された塗膜を除去する塗膜除去装置であって、
レーザ発振器と、
前記レーザ発振器から供給されるレーザ光を前記構造部材に照射するレーザヘッドと、
前記レーザヘッドからのレーザ光を前記構造部材の表面上で走査させる走査機構と、
前記レーザヘッドから照射されるレーザ光の出力,スポット径及び前記走査機構によるレーザ光の走査速度をコントロールする制御部を備え、
前記制御部は、前記構造部材の素地調整面に存在する凹凸を残すべく設定したレーザ条件で前記レーザヘッド及び前記走査機構を制御する塗膜除去装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、橋梁や建築物等の既設構造物における構造部材の表面に施された塗装の塗膜を除去するのに好適な塗膜除去方法及び塗膜除去装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記した橋梁や建築物等の既設構造物を長期にわたって安全に使用するためには、鋼材(構造部材)の腐食を防ぐべく、鋼材の表面に施された塗装の塗膜を定期的に剥がして除去し、再塗装する必要がある。
【0003】
従来において、鋼材の表面の塗膜を除去する方法としては、例えば、特許文献1に記載された塗膜除去方法がある。
この塗膜除去方法は、レーザヘッドから照射されるレーザ光の照射点を円状に回転走査させつつ、鋼材に対して水平にレーザヘッドを移動させることで、塗膜を除去するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5574354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記したようなレーザ光による塗膜除去方法では、塗膜のはく離性の向上を図るために比較的高出力のレーザ光が採用される。
【0006】
しかしながら、塗膜の除去が済んでいる箇所に対して高出力のレーザ光を継続して照射すると、塗装前の鋼材の素地調整面に存在していた数μmの微小な凹凸がほとんど消滅してしまう。
【0007】
このように、鋼材の素地調整面の微小な凹凸が消滅すると、塗膜除去後の再塗装の段階において、新たに塗装される塗膜の素地調整面に対する密着力が弱くなってしまい、塗装面の耐久性が低下する虞がある。
【0008】
したがって、たとえ、塗膜の除去が済んでいる箇所に対してレーザ光が照射されたとしても、鋼材の素地調整面に及ぼす微小凹凸の消滅といった過度な形状変更や素地調整面の組成変化を少なく抑え得るレーザ条件の構築が望まれており、これを解決することが従来の課題となっている。
【0009】
本開示は、上記した従来の課題を解決するためになされたもので、既設構造物における構造部材の表面に施された塗装の塗膜を除去することができるのは勿論のこと、構造部材の素地調整面に対してレーザ光が照射されるような場合であったとしても、その素地調整面に及ぼす形状や組成の変化を少なく抑えることが可能な塗膜除去方法及び塗膜除去装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の第1の態様は、既設構造物の構造部材における素地調整面上に塗装された塗膜を除去する塗膜除去方法であって、前記構造部材の素地調整面に存在する凹凸を残すべく設定したレーザ条件で前記塗膜に対してレーザ光を照射しつつ走査する構成としている。
【0011】
また、本開示の第2の態様は、前記塗膜に対してレーザ光を照射しつつ直線状に走査する構成としている。
【0012】
さらに、本開示の第3の態様において、前記レーザ条件は、レーザ光の出力が1000W以下であり、レーザ光のスポット径とレーザ光の走査速度との積でレーザ光の出力を除した量であるフルエンスが0.15J/mm以下である構成としている。
【0013】
さらにまた、本開示の第4の態様は、フルエンスを0.15J/mm以下とするためのレーザ光の走査速度が9.0m/s以上である構成としている。
【0014】
一方、本開示の第5の態様は、既設構造物の構造部材における素地調整面上に塗装された塗膜を除去する塗膜除去装置であって、レーザ発振器と、前記レーザ発振器から供給されるレーザ光を前記構造部材に照射するレーザヘッドと、前記レーザヘッドからのレーザ光を前記構造部材の表面上で走査させる走査機構と、前記レーザヘッドから照射されるレーザ光の出力,スポット径及び前記走査機構によるレーザ光の走査速度をコントロールする制御部を備え、前記制御部は、前記構造部材の素地調整面に存在する凹凸を残すべく設定したレーザ条件で前記レーザヘッド及び前記走査機構を制御する構成としている。
【0015】
本開示に係る塗膜除去方法及び塗膜除去装置において、レーザにはファイバーレーザや半導体レーザやYAGレーザを用いるのが一般的であるが、これらのレーザに限定されない。
【発明の効果】
【0016】
本開示に係る塗膜除去方法及び塗膜除去装置によれば、既設構造物における構造部材の表面に施された塗装の塗膜を除去することができるのは言うまでもなく、構造部材の素地調整面にレーザ光が照射されるような場合であったとしても、その素地調整面に及ぼす形状や組成の変化を少なく抑えることが可能であるという非常に優れた効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本開示の一実施形態に係る塗膜除去方法に用いられる塗膜除去装置を示す概略説明図である。
図2図1のレーザ塗膜除去装置による塗膜除去状況の拡大斜視説明図である。
図3図1のレーザ塗膜除去装置によるレーザ条件であるフルエンスを説明するためのレーザ光の走査面積概念図である。
図4】種々のフルエンスに対応するレーザ光の出力とレーザ光の走査面積との関係を示すグラフである。
図5】本開示の一実施形態に係る塗膜除去方法で得られた構造物の素地調整面を示す拡大図である。
図6】本開示の一実施形態に係る塗膜除去方法のレーザ条件とは異なるレーザ条件による塗膜除去方法で得られた構造物の素地調整面を示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本開示の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本開示の一実施形態に係る塗膜除去方法に用いられるレーザ塗膜除去装置を示している。
【0019】
図1に概略的に示すように、このレーザ塗膜除去装置1は、例えば、橋梁を構成する鋼材(構造部材)Wの表面に塗装された塗膜Wmを剥がして除去するためのものであって、レーザ発振器2と、内蔵した光学系3によりレーザ発振器2から供給されるレーザ光Lを集光して鋼材Wの表面に照射するレーザヘッド4と、レーザ発振器2からのレーザ光Lをレーザヘッド4へ導く光ファイバ5と、レーザヘッド4からのレーザ光Lを鋼材Wの表面上で走査させる走査機構6と、レーザヘッド4から照射されるレーザ光Lの出力,レーザ光Lのスポット径及び走査機構6によるレーザ光Lの走査速度等を制御する制御部10を備えている。
【0020】
走査機構6は、レーザヘッド4とともにケース9に保持されており、レーザヘッド4からのレーザ光Lを反射するスキャナミラー6aと、このスキャナミラー6aを所定の範囲で回動させるスキャナモータ6bとから構成されている。
【0021】
この実施形態では、レーザヘッド4からのレーザ光Lをスキャナミラー6aによって鋼材Wに向けて反射し、このスキャナミラー6aを所定の範囲で回動させることで、図2にも示すように、レーザ光Lを鋼材Wの表面上で直線状に走査させて(ジグザグに往復移動させて)塗膜Wmを除去するようになっている。
【0022】
この場合、制御部10では、レーザ光Lを鋼材Wの素地調整面Waに照射した場合でも素地調整面Waに存在する凹凸が残るように設定したレーザ条件でレーザヘッド4及び走査機構6のスキャナモータ6bを制御するようになっている。
【0023】
上記レーザ条件を決めるにあたっては、まず、レーザ光Lの出力を高く設定し過ぎると他の条件に関係なく素地調整面Waの微小な凹凸が消滅してしまうので、レーザ光Lの出力の上限を1000Wとする。
【0024】
レーザ光Lの出力を図3に示すレーザ光LのスポットSの面積SAで除したエネルギ密度(W/mm)は、スポット径Dが小さい程大きくなって単位時間当たりの入熱量が増えるので、確実な塗膜の除去を行ううえでスポット径Dを0.15mmとしてエネルギ密度を大き目に設定する。
【0025】
また、レーザ光Lのスポット径Dと図3に示すレーザ光Lの走査速度V(m/s)との積(走査面積A(m/s))でレーザ光Lの出力を除した量であるフルエンスは、0.2J/mm以下とすることが望ましく、より望ましくは0.15J/mm以下であり、より望ましくは0.13J/mm以下とする。
【0026】
ここで、種々のフルエンスに対応するレーザ光Lの出力とレーザ光Lの走査面積Aとの関係を図4に示す。この図4のグラフから判るように、レーザ光Lの出力とレーザ光Lの走査面積Aとの関係において、フルエンスは基準線I~IIIの各傾きとして表されており、本実施形態では、フルエンスが0.13J/mmの傾きの基準線Iを指標として、この基準線I上ないし近傍にレーザ光Lの出力及びレーザ光Lの走査面積Aがそれぞれ位置するようにエネルギ密度及びレーザ光Lの走査速度Vを設定するようにしている。
【0027】
これにより、フルエンスを0.13~0.15J/mmとするために、レーザ光Lの走査速度Vは、9.0m/s以上とすることが望ましく、より望ましくは12.0m/s以上であり、より望ましくは15.0m/s以上となるように設定している。
【0028】
このように、本実施形態において、制御部10では、レーザ光Lの出力の上限を1000Wとすると共にスポット径Dを0.15mmとしたうえで、フルエンスを0.13~0.15J/mmとするために、レーザ光の走査速度が9.0~15.0m/sとなるように走査機構6のスキャナモータ6bを制御するようになっている。
【0029】
そこで、基準線Iを指標として設定した表1に示す条件No.1と、基準線IIを指標として設定した条件No.2のもとで、橋梁を構成する鋼材Wの表面に塗装された塗膜Wmの除去を行った。なお、諸条件に関係なく素地調整面の微小な凹凸が消滅してしまう例として、基準線IIIに基づいて設定した条件No.3の場合を表1に併せて記載した(表1における表面状態(×))。
【0030】
【表1】
【0031】
条件No.1による塗膜除去では図5に示す結果が得られ、一方、条件No.2による塗膜除去では図6に示す結果が得られた。
【0032】
図5から判るように、条件No.1による塗膜除去では素地調整面の濃淡の度合いが「濃」である。これは素地調整面に存在している微小な凹凸が多数残っていることを示している(表1における表面状態(〇))。これに対して、図6から判るように、条件No.2による塗膜除去では素地調整面の濃淡の度合いが「淡」である。これは素地調整面に存在している微小な凹凸がかなり消滅していることを示している(表1における表面状態(△))。
【0033】
したがって、本実施形態に係る塗膜除去方法及び塗膜除去装置によれば、素地調整面Waに及ぼす形状や組成の変化を少なく抑えつつ、鋼材Wの表面に施された塗装の塗膜Wmを除去し得ることが実証できた。
【0034】
上記した実施形態では、本開示に係る塗膜除去方法及び塗膜除去装置により、橋梁を構成する鋼材(構造部材)Wの表面に塗装された塗膜Wmを除去する場合を示したが、これに限定されるものではなく、本開示に係る塗膜除去方法及び塗膜除去装置を、例えば、鉄塔を構成する鋼材の塗膜除去に適用することが当然可能である。
【0035】
本開示に係る塗膜除去方法及び塗膜除去装置の構成は、上記した実施形態に限られるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形可能である。
【符号の説明】
【0036】
1 レーザ塗膜除去装置(塗膜除去装置)
4 レーザヘッド
6 走査機構
6a スキャナミラー
6b スキャナモータ
10 制御部
L レーザ光
W 鋼材(構造部材)
Wa 素地調整面
Wm 塗膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6