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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022134891
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】水底資源の採取方法
(51)【国際特許分類】
   E21C 50/00 20060101AFI20220908BHJP
   E21B 43/00 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
E21C50/00
E21B43/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021034372
(22)【出願日】2021-03-04
(71)【出願人】
【識別番号】000219406
【氏名又は名称】東亜建設工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504194878
【氏名又は名称】国立研究開発法人海洋研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】森澤 友博
(72)【発明者】
【氏名】大森 慎哉
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 由依
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 英剛
(72)【発明者】
【氏名】秋山 敬太
(72)【発明者】
【氏名】許 正憲
(72)【発明者】
【氏名】澤田 郁郎
(72)【発明者】
【氏名】川村 善久
【テーマコード(参考)】
2D065
【Fターム(参考)】
2D065FA26
2D065GA01
(57)【要約】
【課題】水底地盤の泥土に含有されている水底資源を効率的に採取できる水底資源の採取方法を提供する。
【解決手段】水底地盤Bへ向けて揚収管2を延設し、揚収管2の下部に接続している挿入管3の下部を水底地盤Bに挿入する。挿入管3の内部に液体Lを供給しつつ、揚収管2および挿入管3の内部を管軸方向に延在している回転軸4と、回転軸4の下部に取付けられている撹拌翼6とを挿入管3の内部で回転させて、撹拌翼6により挿入管3の内部の泥土Sを掘削、解泥する。そして、その解泥によってスラリー状にした泥土Sを撹拌翼6の回転によって発生させた撹拌流によって挿入管3の上部へ上昇させ、その上昇させたスラリー状の泥土Sを揚収手段により揚収管2を通じて水上に揚収する。この際、撹拌翼6の回転速度を、掘削当初の初期工程では、この初期工程以後の後工程よりも遅くする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水底資源が含有されている未掘削状態の水底地盤の泥土を掘削して水上に揚収する水底資源の採取方法において、
水上から前記水底地盤へ向けて揚収管を延設し、前記揚収管の下部に接続している挿入管の少なくとも下部を前記水底地盤に挿入した状態で、前記挿入管の内部に液体を供給するとともに、前記揚収管および前記挿入管の内部を管軸方向に延在している回転軸と、前記回転軸の下部に取付けられている撹拌翼とを前記挿入管の内部で回転させて、前記撹拌翼により前記挿入管の内部の前記泥土を掘削、解泥し、その解泥によってスラリー状にした前記泥土を前記撹拌翼の回転によって発生させた撹拌流によって前記挿入管の上部へ上昇させ、その上昇させたスラリー状の前記泥土を揚収手段により前記揚収管を通じて水上に揚収し、前記撹拌翼の回転速度を、掘削当初の初期工程では、この初期工程以後の後工程よりも遅くすることを特徴とする水底資源の採取方法。
【請求項2】
前記初期工程では、前記撹拌翼を前記水底地盤の表面から目標深度よりも浅い所定深度まで貫入し、前記後工程では、前記撹拌翼を前記所定深度から前記目標深度まで貫入する請求項1に記載の水底資源の採取方法。
【請求項3】
前記初期工程では、前記撹拌翼を前記水底地盤の表面から目標深度まで貫入し、前記後工程では、前記撹拌翼を前記目標深度から前記水底地盤の表面までにおける所定の深さ範囲内で管軸方向に往復移動させる請求項1に記載の水底資源の採取方法。
【請求項4】
前記挿入管の内部に供給する単位時間当たりの液量を、前記初期工程では、前記後工程よりも少なくする請求項1~3のいずれかに記載の水底資源の採取方法。
【請求項5】
前記撹拌翼の先端部に設けた噴射ノズルから前記挿入管の内周面に向かって前記液体を噴射する請求項1~4のいずれかに記載の水底資源の採取方法。
【請求項6】
前記噴射ノズルから、前記撹拌翼の回転方向に対して斜め前方に向けて前記液体を噴射する請求項5に記載の水底資源の採取方法。
【請求項7】
前記回転軸に設けた吐出ノズルから前記撹拌翼の表面に向けて前記液体を吐出する請求項1~6のいずれかに記載の水底資源の採取方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水底資源の採取方法に関し、さらに詳しくは、水底地盤の泥土に含有されている水底資源を効率的に採取できる水底資源の採取方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
海洋資源開発においては、深海に存在するレアアース等の水底資源が含有されている水底地盤の泥土を水などの液体とともにポンプリフトやエアリフト等の揚収手段を利用して水上の揚収船等に揚収している。泥土の土塊が大きいほど揚収するために多くの液量が必要となる。泥土とともに揚収される液量が多くなるほど揚収作業や泥土と液体とを分離する作業工数が増え、水底資源の採取に要するコストも高くなる。それ故、水底地盤の泥土に含有されている水底資源を効率的に採取するには、水底地盤の泥土を細かく解泥してより少ない液量で揚収することが重要である。
【0003】
従来、水底地盤の泥土を掘削して揚収するシステムが種々提案されている(特許文献1参照)。特許文献1の海洋資源揚鉱装置では、揚収管部の下部に設けられている回収ホッパを水底地盤の表面に対向させる。次いで、回転させたビットを水底地盤に貫入するとともに、ビットの下端部に設けられたノズルから海水よりも比重の軽いエマルション(界面活性剤を混ぜた油)を噴射することで水底地盤の泥土を掘削する。そして、水底地盤中から回収ホッパの上部にまで上昇した泥土およびエマルションを、揚収管部を介して水上に揚収している。この方法では、ビットによって掘削した水底地盤中の泥土の多くが水底地盤中で拡散してしまうため、泥土を細かく解泥できない。それ故、この海洋資源揚鉱装置では、泥土を上昇させるために海水よりも比重の軽いエマルションを水底地盤中に噴射している。しかしながら、多量のエマルションを水底地盤中に噴射し、揚収する必要があるため、揚収した泥土とエマルションとを分離する作業工数が増大し、水底資源の採取に要するコストが高くなる。また、水中に流出するエマルションにより水中環境が害されることも懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-11568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、水底地盤の泥土に含有されている水底資源を効率的に採取できる水底資源の採取方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の水底資源の採取方法は、水底資源が含有されている未掘削状態の水底地盤の泥土を掘削して水上に揚収する水底資源の採取方法において、水上から前記水底地盤へ向けて揚収管を延設し、前記揚収管の下部に接続している挿入管の少なくとも下部を前記水底地盤に挿入した状態で、前記挿入管の内部に液体を供給するとともに、前記揚収管および前記挿入管の内部を管軸方向に延在している回転軸と、前記回転軸の下部に取付けられている撹拌翼とを前記挿入管の内部で回転させて、前記撹拌翼により前記挿入管の内部の前記泥土を掘削、解泥し、その解泥によってスラリー状にした前記泥土を前記撹拌翼の回転によって発生させた撹拌流によって前記挿入管の上部へ上昇させ、その上昇させたスラリー状の前記泥土を揚収手段により前記揚収管を通じて水上に揚収し、前記撹拌翼の回転速度を、掘削当初の初期工程では、この初期工程以後の後工程よりも遅くすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、初期工程以後の後工程では、相対的に高速で回転させた状態の撹拌翼によって、挿入管の内部の泥土を掘削、解泥することで、挿入管の内部の泥土を効率的にスラリー状に細粒化できる。さらに、撹拌翼を高速で回転させることによって、挿入管の内部に細粒化された泥土が上昇し易い撹拌流を発生させることができる。一方、掘削当初の初期工程では、撹拌翼を相対的に低速で回転させることで、土塊の大きい泥土が挿入管の上部に上昇して揚収管が詰まるリスクを低くできる。それ故、比較的少ない液量で水底地盤の泥土を効率的に揚収することができ、泥土に含有されている水底資源を効率的に採取できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の水底資源の採取方法の実施形態の概要を例示する説明図である。
図2図1の挿入管の内部を平面視で例示する説明図である。
図3図2のA矢視で挿入管の内部を例示する説明図である。
図4図2のB矢視で挿入管の内部を例示する説明図である。
図5図1の挿入管を水底地盤に挿入した状態を例示する説明図である。
図6図5の状態から相対的に低速で回転させた状態の撹拌翼を水底地盤の目標深度よりも浅い所定深度まで貫入した状態を例示する説明図である。
図7図6の状態から相対的に高速で回転させた状態の撹拌翼を水底地盤の目標深度まで貫入した状態を例示する説明図である。
図8】撹拌翼の貫入深さの時間推移を例示するグラフ図である。
図9図5の状態から相対的に低速で回転させた状態の撹拌翼を水底地盤の目標深度まで貫入した状態を例示する説明図である。
図10図9の状態から相対的に高速で回転させた状態の撹拌翼を挿入管の内部で管軸方向に往復移動させている状態を例示する説明図である。
図11】本発明の水底資源の採取方法の別の実施形態の挿入管の内部を平面視で例示する説明図である。
図12】本発明の水底資源の採取方法のさらに別の実施形態の挿入管の内部を断面視で例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の水底資源の採取方法を図に示した実施形態に基づいて説明する。本発明では、図1に例示する水底資源の採取システム1(以下、採取システム1という)を用いて、レアアース等の水底資源(鉱物資源)が含有されている未掘削状態の水底地盤Bの泥土Sを掘削して水上に揚収する。
【0010】
採取システム1は、水上から水底地盤Bに向かって延在する揚収管2と、揚収管2の下部に接続されている挿入管3と、揚収管2および挿入管3の内部を管軸方向に延在している回転軸4とを備えている。採取システム1はさらに、回転軸4の下部に取付けられた撹拌翼6と、挿入管3の内部に液体L(海水または淡水)を供給する液体供給機構8とを備えている。この実施形態では、揚収管2が水上の揚収船20に接続されている場合を例示しているが、揚収船20に限らず例えば、揚収管2が水上に設けられた揚収施設などに接続された構成にすることもできる。
【0011】
揚収管2と挿入管3は連通している。挿入管3の内径は揚収管2の内径よりも大きく設定されている。揚収管2と挿入管3との連結部分の内周面は滑らかに連続する曲面形状になっている。揚収管2の内径は例えば、0.2m以上1.0m以下の範囲内に設定され、挿入管3の内径は例えば、0.5m以上5m以下の範囲内に設定される。揚収管2には、挿入管3の上部に上昇した泥土Sを、揚収管2を通じて水上に揚送する揚送手段が接続されている。揚送手段は、例えば、エアリフトポンプやスラリーポンプ等で構成される。
【0012】
挿入管3の管軸方向の長さは、水底資源が分布している地層の深さに応じて適宜設定されるが、例えば、2m以上20m以下の範囲内に設定される。この実施形態では、挿入管3の外周面に平面視で環状のストッパー3aが設けられている。このストッパー3aを境界にして、ストッパー3aよりも下側の挿入管3の領域が水底地盤Bに挿入された状態になり、ストッパー3aよりも上側の挿入管3の領域が水底地盤Bの表面よりも上方に突出した状態になる。
【0013】
回転軸4は、揚収船20から揚収管2および挿入管3を挿通して吊り下げられていて、駆動機構により軸回転する。図2図4に例示するように、この実施形態では、回転軸4の下部に対して着脱可能に連結されるヘッド5に、撹拌翼6が取付けられている。ヘッド5の下端部には水底地盤Bの泥土Sを掘削する掘削刃7が設けられている。掘削刃7よりも上方に位置するヘッド5の外周面に、複数の撹拌翼6で構成された撹拌翼群が設けられている。それぞれの撹拌翼6は、挿入管3の内周面に向かって延在している。同じ撹拌翼群を構成する複数の撹拌翼6は、回転軸4の周方向に間隔をあけて配置されている。
【0014】
この実施形態のそれぞれの撹拌翼6は平板状に形成されていて、回転軸4(ヘッド5)に接続されている根元部分から先端に向かって先細りするテーパ形状になっている。撹拌翼6の回転方向における前端部は鋭く尖った形状になっている。例えば、撹拌翼6の前端部を山と谷とが連続する鋸歯状にすることもできる。撹拌翼6は、平板状に限らず、例えば、スクリューの羽根のような湾曲した形状にすることもできる。
【0015】
この実施形態では、対向する位置に配置された2枚の撹拌翼6で構成された撹拌翼群が、回転軸4の軸方向に3段設けられている。最下段の撹拌翼群を構成するそれぞれの撹拌翼6は、回転方向に向かって下向きに傾斜している。中段の撹拌翼群と最上段の撹拌翼群を構成するそれぞれの撹拌翼6は、回転方向に向かって上向きに傾斜している。図4に例示するように、回転軸4の軸方向と撹拌翼6の延在方向とのなす角度θ(俯角)は例えば、10度以上80度以下、好ましくは20度以上70度以下、より好ましくは25度以上40度以下の範囲内に設定される。
【0016】
回転軸4の軸方向に隣り合う撹拌翼6どうしは、平面視で回転軸4の周方向にずれた位置に配置されている。挿入管3の内周面と撹拌翼6の先端との間には、50mm~500mm程度のすき間(クリアランス)が設けられている。
【0017】
回転軸4の軸方向に設ける撹拌翼群の段数や、各段の撹拌翼群を構成する撹拌翼6の数などは、この実施形態に限定されず、異なる構成にすることもできる。例えば、3枚の撹拌翼6で構成された撹拌翼群が、回転軸4の軸方向に2段設けられた構成などにすることもできる。それぞれの撹拌翼群を構成する撹拌翼6は、平面視で回転軸4の軸心を中心にして点対象になるように配置することが好ましい。それぞれの段の撹拌翼群を構成する撹拌翼6の傾斜方向は、この実施形態に限定されず、例えば、最上段の撹拌翼群や中段の撹拌翼群を構成する撹拌翼6が回転方向に向かって下向きに傾斜している構成にすることもできる。
【0018】
液体供給機構8は、液体Lとして例えば、水(海水や淡水)を供給する。現場で入手できる現場水(海水や淡水)を利用すると便利である。その他に、液体Lとして例えば、水に添加剤を加えた液体や、水以外の液体を供給する構成にすることもできる。この実施形態の液体供給機構8は、撹拌翼6の先端部に設けられた噴射ノズル8aを有している。水上(揚収船20)に設置された液体供給装置により、回転軸4に内部に延設された主管と、主管の下部で複数に分岐した配管8bとを通じて、それぞれの噴射ノズル8aに液体Lが供給される構成になっている。
【0019】
噴射ノズル8aおよび配管8bは、撹拌翼6の回転方向に対して撹拌翼6の背後側になる面に付設されている。例えば、噴射ノズル8aおよび配管8bを撹拌翼6に内設して撹拌翼6の先端から液体Lが噴射される構成にすることもできる。この実施形態では、全ての撹拌翼6にそれぞれ噴射ノズル8aが設けられているが、一部の撹拌翼6に選択的に噴射ノズル8aを設けることもできる。即ち、例えば、最下段の撹拌翼群を構成するそれぞれの撹拌翼6にだけ噴射ノズル8aを設けることもできる。
【0020】
一部の撹拌翼6に選択的に噴射ノズル8aを設ける場合にも、各段に設ける噴射ノズル8aは、平面視で回転軸4の軸心を中心にして点対象になるように配置することが好ましい。なお、液体供給機構8は、挿入管3の内部に液体Lを供給できる構成であればよく、この実施形態の構成に限定されない。
【0021】
次に、この採取システム1を用いて水底資源を採取する方法の作業手順の一例を以下に説明する。本発明では、初期工程と後工程とを行う。
【0022】
揚収管2の下部に挿入管3を接続し、挿入管3の上部の内部にヘッド5を着脱可能に固定しておく。初期工程では、図5に例示するように、水上(揚収船20)から水底地盤Bへ向けて揚収管2を延設し、挿入管3の少なくとも下部を未掘削状態の水底地盤Bに挿入する。例えば、挿入管3の全長の50%以上を水底地盤Bに挿入した状態にする。ヘッド5が収容されている挿入管3の上部は水底地盤Bに挿入せずに、ヘッド5を水底地盤Bの表面よりも上方に配置した状態にする。この段階では、水底地盤Bに挿入されている挿入管3の下部の内部は水底地盤Bの泥土Sで満たされた状態になっている。水底地盤Bに挿入されていない挿入管3の上部の内部は、水域の水Wで満たされた状態になっている。
【0023】
この実施形態では、挿入管3の外側に設けられているストッパー3aが水底地盤Bの表面に当接する位置まで挿入管3を水底地盤Bに挿入すると、水底資源が分布している地層の深さまで挿入管3の下部が挿入される。ヘッド5が収容されている挿入管3の上部は水底地盤Bの表面よりも上方に突出した状態となる。
【0024】
次いで、回転軸4を、揚収管2および挿入管3の内部に挿通させた状態で水上(揚収船20)から水底地盤Bへ向けて降下させて、回転軸4の下端部にヘッド5(撹拌翼6)を連結する。回転軸4の下端部にヘッド5を連結した状態で、回転軸4をさらに水底地盤Bへ向けて下方移動させると挿入管3からヘッド5が外れる。その結果、回転軸4と一体化したヘッド5(撹拌翼6)が管軸方向に移動可能な状態となる。
【0025】
次いで、図6に例示するように、液体供給機構8により挿入管3の内部に液体Lを供給するとともに、挿入管3の内部で回転させた状態の撹拌翼6を未掘削状態の水底地盤Bの表面から水底地盤B中に貫入して、挿入管3の内部の泥土Sを掘削、解泥する。掘削当初の初期工程では、撹拌翼6の回転速度を、この初期工程以後の後工程よりも遅くする。初期工程における撹拌翼6の回転速度(回転毎分)は、例えば5rpm~20rpmの範囲内に設定する。
【0026】
次いで、後工程では、図7に例示するように、液体供給機構8により挿入管3の内部に液体Lを供給するとともに、回転速度を初期工程よりも相対的に速くした状態の撹拌翼6によって、挿入管3の内部の泥土Sを掘削、解泥する。そして、その解泥によってスラリー状にした泥土Sを撹拌翼6の回転によって発生させた撹拌流によって挿入管3の上部へ上昇させ、その上昇させたスラリー状の泥土Sを揚収手段により揚収管2を通じて水上に揚収する。
【0027】
後工程における撹拌翼6の回転速度は、例えば、初期工程における撹拌翼6の回転速度の1.5倍~4.0倍の回転速度に設定する。具体的には、泥土Sを上昇させる撹拌流を発生させるには、撹拌翼6の回転数を相応に速くする必要があるため、後工程における撹拌翼6の回転速度(回転毎分)は20rpm以上、より好ましくは30rpm以上、さらに好ましくは40rpm以上に設定するとよい。一方、撹拌翼6を高速で回転させるには限界があるので、回転速度の上限は例えば80rpm、或いは60rpm程度にする。尚、初期工程、後工程のそれぞれでは、工程の全期間を通じて撹拌翼6の回転速度が一定とは限らないので、一定ではない場合は、平均回転速度を算出する。そして、算出した平均回転速度を用いて、初期工程に対して後工程では1.5倍~4.0倍の回転速度に設定する。
【0028】
この実施形態では、噴射ノズル8aから挿入管3の内周面に向かって液体Lを高圧で噴射することで、撹拌翼6の先端と挿入管3の内周面との間の泥土Sを掘削、解泥する。図6に例示するように、撹拌翼6の回転速度を相対的に遅くする初期工程では、撹拌翼6を未掘削状態の水底地盤Bの表面から水底地盤Bの目標深度TDよりも浅い所定深度PDまで貫入して、挿入管3の内部の所定深度PDまでの泥土Sを掘削、解泥する。
【0029】
目標深度TDは、水底資源が分布している地層の深さに応じて適宜設定できるが、例えば、水底地盤Bの表面から1.5m~9m程度の深度に設定する。目標深度TDは、水底地盤Bに挿入した状態の挿入管3の中途位置の深度に設定する。所定深度PDは、水底地盤Bの泥土Sの硬度などに応じて適宜設定できるが、例えば、水底地盤Bの表面から0.5m~2m程度の深度、或いは、水底地盤Bの表面から目標深度TDの20%~60%の深さ範囲に設定する。
【0030】
撹拌翼6の回転速度を相対的に速くする後工程では、撹拌翼6を所定深度PDから目標深度TDまで貫入して、所定深度PDから目標深度TDまでの挿入管3の内部の泥土Sを掘削、解泥する。撹拌翼6の高速回転によって発生する撹拌流により、初期工程で解泥された泥土Sが後工程で掘削、解泥された泥土Sとともに挿入管3の内部で撹拌され、より細かく解泥される。挿入管3の内部の細粒化された泥土Sは、挿入管3の内部の液体(水域の水Wと液体供給機構8によって供給された液体Lとを含む)に紛れて浮遊した状態となり、挿入管3の内部がスラリー状の泥土Sで満たされた状態となる。
【0031】
そして、液体供給機構8(噴射ノズル8a)から挿入管3の内部に新たな液体Lが供給されることで、挿入管3の内部の水Wや泥土Sが、新たに供給された液体Lに置換されることが促進される。さらに、撹拌翼6の高速回転によって発生する撹拌流によって、挿入管3の上部に上昇したスラリー状の泥土Sは、揚収手段によって揚収管2を通じて水上(揚収船20)に順次揚収される。
【0032】
このように、本発明では、掘削当初の初期工程では、撹拌翼6を相対的に低速で回転させることで、十分に解泥されていない土塊の大きい泥土Sが挿入管3の上部に上昇して揚収管2が詰まるリスクを低くできる。一方、後工程では、相対的に高速で回転させた状態の撹拌翼6によって、挿入管3の内部の泥土Sを掘削、解泥することで、挿入管3の内部の泥土Sを効率的にスラリー状に細粒化できる。さらに、撹拌翼6を高速で回転させることによって、挿入管3の内部に細粒化された泥土Sが上昇し易い撹拌流を発生させることができる。それ故、比較的少ない液量で水底地盤Bの泥土Sを効率的に揚収することができ、泥土Sに含有されている水底資源を効率的に採取できる。
【0033】
比較的浅い深度の泥土Sを掘削、解泥しているときには、上方に滞留している泥土Sが比較的少ないため、撹拌翼6で掘削、解泥された泥土Sが比較的上昇し易い。そのため、この実施形態のように、初期工程において、回転速度を相対的に遅くした状態で撹拌翼6を未掘削状態の水底地盤Bの表面から目標深度TDよりも浅い所定深度PDまで貫入すると、浅い深度の泥土Sが土塊の大きい状態で挿入管3の上部に上昇して揚収管2が詰まるリスクを低くできる。
【0034】
撹拌翼6を所定深度PDまで貫入した後には、撹拌翼6よりも上方に滞留している泥土Sが比較的多くなり、泥土Sが土塊の大きい状態で挿入管3の上部に上昇する可能性は低くなる。それ故、後工程では、回転速度を相対的に速くした状態で撹拌翼6を所定深度PDから目標深度TDまで貫入することで、挿入管3の内部の泥土Sを効率よく掘削、解泥できる。さらに、撹拌翼6を高速で回転させて、挿入管3の内部に流れの速い撹拌流が発生させることで、スラリー状の泥土Sを挿入管3の上部に効率よく上昇させることができる。
【0035】
次に、水底資源の採取方法の手順の別の一例を以下に説明する。挿入管3を未掘削状態の水底地盤Bに挿入し、回転軸4の下端部にヘッド5(撹拌翼6)を連結するまでの手順は、先に例示した手順と同じである。
【0036】
図8のグラフの横軸は撹拌翼6を水底地盤Bに貫入してからの経過時間を示し、縦軸は水底地盤Bの表面を基準(0m)とした撹拌翼6の貫入深さを示している。図8のグラフに示すように、この実施形態では、初期工程において、撹拌翼6を未掘削状態の水底地盤Bの表面から目標深度TDまで貫入する。そして、後工程において、撹拌翼6を挿入管3の内部の目標深度TDから水底地盤Bの表面までにおける所定の深さ範囲内(目標深度TDよりも浅い範囲)で管軸方向に往復移動させる。
【0037】
図9に例示するように、初期工程において、回転速度を相対的に遅くした状態で撹拌翼6を水底地盤Bの表面から目標深度TDまで貫入すると、土塊の大きい泥土Sが挿入管3の上部に上昇して揚収管2が詰まるリスクをさらに低くできる。
【0038】
そして、図10に例示するように、後工程において、回転速度を相対的に速くした状態で撹拌翼6を挿入管3の内部の目標深度TDから水底地盤Bの表面までにおける所定の深さ範囲内で管軸方向に往復移動させて、挿入管3の内部の泥土Sを繰り返し解泥すると、挿入管3の内部の泥土Sをより確実に細粒化できる。さらに、高速回転する撹拌翼6を管軸方向に往復移動させることで、挿入管3の内部で解泥された泥土Sが挿入管3の下部により沈降し難くなる。それ故、比較的少ない液量で水底地盤Bの泥土Sを効率的に揚収するには益々有利になる。撹拌翼6は、目標深度TDから挿入管3の上部まで移動させることが好ましい。撹拌翼6を往復移動させる回数は水底地盤Bの泥土Sの硬度や撹拌翼6の数などに応じて適宜決定できるが、例えば、2回~15回程度、複数回往復移動させるとよい。
【0039】
初期工程と後工程とでそれぞれ、撹拌翼6を一定の回転速度に設定することもできるが、例えば、撹拌翼6の貫入深度が深くなるほど撹拌翼6の回転速度を速く設定することもできる。貫入深度が深くなるほど撹拌翼6の回転速度を速く設定すると、土塊の大きい泥土Sが挿入管3の上部に上昇して揚収管2が詰まることを回避しつつ、泥土Sをより効率的に掘削、解泥できる。
【0040】
撹拌翼6を管軸方向に移動させる速度は、水底地盤Bの泥土Sの硬度などに応じて適宜設定できる。具体的には、例えば、撹拌翼6の管軸方向の移動速度は1mm/秒~100mm/秒、より好ましくは1mm/秒~10mm/秒の範囲内に設定するとよい。好ましくは、撹拌翼6の管軸方向の移動速度を、初期工程では、後工程よりも遅くするとよい。
【0041】
撹拌翼6を未掘削状態の水底地盤Bに貫入する初期工程では、撹拌翼6にかかる負荷も比較的大きい。それ故、初期工程では、撹拌翼6の管軸方向の移動速度を1mm/秒~5mm/秒程度の比較的遅い速度に設定することで、撹拌翼6の回転速度が低速であっても、撹拌翼6に過大な負荷がかかることを回避しつつ、水底地盤Bの泥土Sを比較的細かく解泥できる。後工程では、初期工程よりも撹拌翼6の回転速度を速くするので、初期工程よりも撹拌翼6の管軸方向の移動速度を速くすることで、挿入管3の内部の泥土Sを効率的に掘削、解泥できる。後工程での撹拌翼6の管軸方向の移動速度は、例えば、5mm/秒~100mm/秒程度、より好ましくは5mm/秒~10mm/秒程度に設定するとよい。
【0042】
撹拌翼6の先端部に設けた噴射ノズル8aから挿入管3の内周面に向かって液体Lを噴射すると、撹拌翼6が届かない撹拌翼6の先端と挿入管3の内周面との間の泥土Sを掘削、解泥できる。それ故、挿入管3の内部の泥土Sを網羅的に揚収することが可能になる。さらに、挿入管3の内周面に近い撹拌翼6の先端部に噴射ノズル8aを配置することで、撹拌翼6の先端と挿入管3の内周面との間の泥土Sを切削するのに必要な液体Lの噴射圧を比較的低くできる。
【0043】
また、噴射ノズル8aから高圧で噴出される液体Lによって挿入管3の内部に液体(水域の水Wと液体L)の流れが生じるので、挿入管3の内部の泥土Sがより細粒化され易くなり、泥土Sが挿入管3の下部により沈降し難くなる。挿入管3の内部の泥土Sを揚収し終えた後に挿入管3の内周面に付着して残る泥土Sもより少なくなる。そのため、挿入管3を挿入する位置を変えて泥土Sの揚収作業を複数回行う場合は、水底地盤Bの新たな位置に挿入管3を挿入する際の抵抗が大きくならず、挿入管3を円滑に挿入できる。揚収作業を終えた後の挿入管3のメンテナンスに要する労力も低減できる。
【0044】
初期工程において、挿入管3の内部に液体Lを急速に供給すると、土塊の大きい泥土Sが挿入管3の上部に上昇して揚収管2が詰まるリスクが比較的高くなる。それ故、挿入管3の内部に供給する単位時間当たりの液量を、初期工程では、後工程よりも少なくするとよい。後工程では、挿入管3の内部に供給する単位時間当たりの液量を初期工程よりも多くすることで、解泥したスラリー状の泥土Sを挿入管3の上部に効率的に上昇させるには有利になる。
【0045】
図10に例示する本発明の別の実施形態のように、撹拌翼6の先端部に設けた噴射ノズル8aから、撹拌翼6の回転方向に対して斜め前方に向けて液体Lを噴射することもできる。撹拌翼6の延在方向に対する噴射ノズル8aによる噴射角度は、撹拌翼6の回転速度等に応じて適宜設定できるが、例えば、10度~45度の範囲内に設定する。
【0046】
このように、噴射ノズル8aから撹拌翼6の回転方向に対して斜め前方に向けて液体Lを噴射すると、噴射された液体Lが挿入管3の内周面により勢いよく到達し易くなる。それ故、撹拌翼6の先端と挿入管3の内周面との間の泥土Sをより効率的に掘削、解泥できる。例えば、撹拌翼6の延在方向に対する噴射ノズル8aの噴射角度を変更可能な可変機構を設けて、撹拌翼6の回転速度に応じて噴射ノズル8aによる噴射角度を変更する構成にすることもできる。
【0047】
図11に例示する本発明のさらに別の実施形態のように、液体供給機構8として、挿入管3の内部に配置されている回転軸4の下部(ヘッド5)に、液体Lを吐出する吐出ノズル8cを設けることもできる。このように、吐出ノズル8cから撹拌翼6の表面に向けて液体Lを吐出すると、撹拌翼6の表面に付着した泥土Sを除去できる。それ故、撹拌翼6の表面に泥土Sが堆積することを防止でき、挿入管3の内部の泥土Sを網羅的に揚収するにはより有利になる。また、撹拌翼6が届く範囲の泥土Sに液体Lがより行渡り易くなるので、挿入管3の内部で泥土Sがより流動し易くなる。それ故、挿入管3の内部の泥土Sを効率的に細粒化するにはより有利になる。
【符号の説明】
【0048】
1 水底資源の採取システム
2 揚収管
3 挿入管
3a ストッパー
3b 下端
4 回転軸
5 ヘッド
6 撹拌翼
7 掘削刃
8 液体供給機構
8a 噴射ノズル
8b 配管
8c 吐出ノズル
20 揚収船
B 水底地盤
PD 所定深度
TD 目標深度
S 泥土
L 液体
W 水
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12