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特開2022-134898イオン注入装置およびイオン注入方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022134898
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】イオン注入装置およびイオン注入方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/04 20060101AFI20220908BHJP
   H01J 37/317 20060101ALI20220908BHJP
   H01J 37/09 20060101ALI20220908BHJP
   H01J 37/05 20060101ALI20220908BHJP
   G21K 5/04 20060101ALI20220908BHJP
   H05H 9/00 20060101ALI20220908BHJP
   H01L 21/265 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
H01J37/04 Z
H01J37/317 C
H01J37/317 B
H01J37/09 A
H01J37/05
G21K5/04 A
H05H9/00 A
H05H9/00 C
H01L21/265 603A
H01L21/265 603B
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021034380
(22)【出願日】2021-03-04
(71)【出願人】
【識別番号】000183196
【氏名又は名称】住友重機械イオンテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】月原 光国
【テーマコード(参考)】
2G085
5C101
【Fターム(参考)】
2G085AA03
2G085AA18
2G085BA02
2G085BA12
2G085CA06
2G085CA21
2G085CA26
2G085EA08
5C101EE04
5C101EE16
5C101EE19
5C101EE22
5C101EE28
5C101EE43
5C101EE44
(57)【要約】
【課題】線形加速装置を備えるイオン注入装置において、ビームエネルギーの調整を迅速化する。
【解決手段】イオン注入装置100は、イオンを生成するイオン源10と、イオン源10からイオンを引き出して加速することによりイオンビームを生成する引出部10aと、引出部10aにより引き出されるイオンビームを加速する線形加速装置22a~22cと、線形加速装置22a~22cから出力されるイオンビームを加速または減速する静電加減速装置52と、静電加減速装置52から出力されるイオンビームをウェハWに照射する注入処理がなされる注入処理室40と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンを生成するイオン源と、
前記イオン源から前記イオンを引き出して加速することによりイオンビームを生成する引出部と、
前記引出部により引き出される前記イオンビームを加速する線形加速装置と、
前記線形加速装置から出力される前記イオンビームを加速または減速する静電加減速装置と、
前記静電加減速装置から出力される前記イオンビームをウェハに照射する注入処理がなされる注入処理室と、を備えることを特徴とするイオン注入装置。
【請求項2】
前記静電加減速装置は、前記線形加速装置が含まれる第1筐体に印加される第1電位と、前記注入処理室が含まれる第2筐体に印加される第2電位の間の電位差を利用して前記イオンビームを加速または減速することを特徴とする請求項1に記載のイオン注入装置。
【請求項3】
前記静電加減速装置は、前記線形加速装置が含まれる第1筐体および前記注入処理室が含まれる第2筐体の少なくとも一方に直流電圧を印加する直流電源を有することを特徴とする請求項1または2に記載のイオン注入装置。
【請求項4】
前記線形加速装置の動作パラメータを固定したまま、前記静電加減速装置の加減速電圧を変更することにより、前記ウェハに照射される前記イオンビームのビームエネルギーを変更する制御装置をさらに備えることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項5】
前記注入処理室は、前記イオンビームが照射される位置においてウェハを保持するウェハ保持部と、前記イオンビームが照射されない位置においてウェハを収容するウェハ収容部と、前記ウェハ保持部と前記ウェハ収容部の間でウェハを搬送するウェハ搬送機構と、を含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項6】
前記静電加減速装置よりも上流側に設けられ、前記ウェハに照射される前記イオンビームのビーム電流量を調整する可変スリットをさらに備えることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項7】
前記静電加減速装置よりも下流側に設けられ、前記ウェハに照射される前記イオンビームのビーム電流量を調整する可変スリットをさらに備えることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項8】
前記線形加速装置と前記静電加減速装置の間に設けられ、ビーム進行方向と直交する平面内で前記イオンビームを発散させることによりリボンビームを生成する、または、前記イオンビームを往復スキャンさせることによりリボン状ビーム束を生成するリボンビーム生成器をさらに備えることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項9】
前記リボンビーム生成器と前記静電加減速装置の間に設けられ、前記リボンビームの進行方向、または、前記リボン状ビーム束を構成する各ビームの進行方向を平行化するビーム平行化器をさらに備えることを特徴とする請求項8に記載のイオン注入装置。
【請求項10】
前記静電加減速装置の下流側に設けられるエネルギー分析装置をさらに備えることを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項11】
前記イオン源と前記線形加速装置の間に設けられる質量分析装置をさらに備えることを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項12】
イオンビームを線形加速装置により加速することと、
前記線形加速装置から出力される前記イオンビームを静電加減速装置により加速または減速することと、
前記静電加減速装置から出力される前記イオンビームをウェハに照射することと、を備えることを特徴とするイオン注入方法。
【請求項13】
前記線形加速装置の動作パラメータを固定したまま、前記静電加減速装置の加減速電圧を変更することにより、前記ウェハに照射される前記イオンビームのビームエネルギーを変更することをさらに備えることを特徴とする請求項12に記載のイオン注入方法。
【請求項14】
前記線形加速装置の動作パラメータを固定したまま、前記静電加減速装置の加減速電圧を変更することにより、互いに異なるビームエネルギーを有する複数のイオンビームを生成し、前記複数のイオンビームを前記ウェハに順次照射して多段注入することを特徴とする請求項13に記載のイオン注入方法。
【請求項15】
前記線形加速装置の動作パラメータおよび前記静電加減速装置の加減速電圧を変更することにより、互いに異なるビームエネルギーを有する複数のイオンビームを生成し、前記複数のイオンビームを前記ウェハに順次照射して多段注入することを特徴とする請求項12に記載のイオン注入方法。
【請求項16】
前記複数のイオンビームの少なくとも一つは、前記静電加減速装置により加速および減速されないことを特徴とする請求項14または15に記載のイオン注入方法。
【請求項17】
前記イオンビームの少なくとも一つのビーム特性を調整することと、
前記調整をした後に前記静電加減速装置の加減速電圧を変更することと、を備え、
前記変更をした後に前記イオンビームの少なくとも一つのビーム特性を調整せずに、前記静電加減速装置から出力される前記イオンビームを前記ウェハに照射することを特徴とする請求項12から16のいずれか一項に記載のイオン注入方法。
【請求項18】
前記静電加減速装置の加減速電圧を変更することと、
前記変更をした後に前記イオンビームの少なくとも一つのビーム特性を調整することと、を備え、
前記調整をした後に前記静電加減速装置から出力される前記イオンビームを前記ウェハに照射することを特徴とする請求項12から16のいずれか一項に記載のイオン注入方法。
【請求項19】
前記イオンビームの少なくとも一つのビーム特性を調整することは、前記静電加減速装置よりも上流側または下流側に設けられる可変スリットのスリット幅を調整することにより、前記ウェハに照射される前記イオンビームのビーム電流量を調整することを含むことを特徴とする請求項17または18に記載のイオン注入方法。
【請求項20】
前記線形加速装置と前記静電加減速装置の間に設けられるビーム走査器により前記イオンビームを往復スキャンすることをさらに備え、
前記イオンビームの少なくとも一つのビーム特性を調整することは、前記ビーム走査器の動作を制御するスキャン波形を調整することにより、前記ウェハに照射される前記イオンビームのビームスキャン方向のビーム電流密度分布を調整することを含むことを特徴とする請求項17から19のいずれか一項に記載のイオン注入方法。
【請求項21】
注入処理室内で複数のウェハに第1イオンビームを順次照射することと、
前記第1イオンビームが照射された前記複数のウェハを前記注入処理室内のウェハ収容部に収容することと、
前記静電加減速装置の加減速電圧を変更することにより、前記第1イオンビームとはビームエネルギーの異なる第2イオンビームを生成することと、
前記ウェハ収容部に収容される前記複数のウェハに前記第2イオンビームを順次照射することと、を備えることを特徴とする請求項12から20のいずれか一項に記載のイオン注入方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン注入装置およびイオン注入方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程では、半導体の導電性を変化させる目的、半導体の結晶構造を変化させる目的などのため、半導体ウェハにイオンを注入する工程(イオン注入工程ともいう)が標準的に実施されている。イオン注入工程で使用される装置は、イオン注入装置と呼ばれる。ウェハの表面近傍に注入されるイオンの所望の注入深さに応じて、イオンの注入エネルギーが決定される。比較的深い領域への注入には高エネルギー(例えば、1MeV以上)のイオンビームが使用される。
【0003】
高エネルギーのイオンビームを出力可能なイオン注入装置では、多段式の高周波線形加速装置(LINAC)を用いてイオンビームが加速される。高周波線形加速装置では、所望のビームエネルギーが得られるように各段の電圧振幅、周波数および位相といった高周波パラメータが調整される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-085179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
最近では、さらに深い領域への注入のために、超高エネルギー(例えば、4MeV以上)のイオンビームが求められることがある。超高エネルギーのイオンビームを出力可能とするには、従来に比べて高周波線形加速装置の段数を増やす必要がある。高周波線形加速装置の段数が増えると、その分だけ高周波パラメータの調整にかかる時間が長くなる。半導体製造工程によっては、互いに異なるビームエネルギーを有する複数のイオンビームを同一ウェハに照射する多段注入が必要な場合もある。この場合、複数のビームエネルギーに対応する複数のデータセットを生成しなければならず、さらに高周波パラメータの調整にかかる時間が長くなり、イオン注入装置の生産性の低下につながる。
【0006】
本発明のある態様の例示的な目的のひとつは、線形加速装置を備えるイオン注入装置において、ビームエネルギーの調整を迅速化する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様のイオン注入装置は、イオンを生成するイオン源と、イオン源からイオンを引き出して加速することによりイオンビームを生成する引出部と、引出部により引き出されるイオンビームを加速する線形加速装置と、線形加速装置から出力されるイオンビームを加速または減速する静電加減速装置と、静電加減速装置から出力されるイオンビームをウェハに照射する注入処理がなされる注入処理室と、を備える。
【0008】
本発明の別の態様は、イオン注入方法である。この方法は、イオンビームを線形加速装置により加速することと、線形加速装置から出力されるイオンビームを静電加減速装置により加速または減速することと、静電加減速装置から出力されるイオンビームをウェハに照射することと、を備える。
【0009】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のある態様によれば、ビームエネルギーの調整を迅速化し、様々なビームエネルギーを有するイオンビームを用いたイオン注入処理を容易に実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施の形態に係るイオン注入装置の概略構成を示す上面図である。
図2】多段注入に用いる複数のイオンビームのエネルギー調整方法を模式的に示す図である。
図3】イオンビームの第1調整方法の一例を示すフローチャートである。
図4】イオンビームの第2調整方法の一例を示すフローチャートである。
図5】変形例に係るイオン注入装置の概略構成を示す上面図である。
図6】別の変形例に係るイオン注入装置の概略構成を示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、以下に述べる構成は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0013】
実施の形態を詳述する前に概要を説明する。本実施の形態は、高エネルギー用のイオン注入装置に関する。イオン注入装置は、イオン源で生成したイオンビームを高周波線形加速装置により加速させ、加速して得られた高エネルギーのイオンビームをビームラインに沿って被処理物(例えば基板またはウェハ)まで輸送し、被処理物にイオンを注入する。
【0014】
本実施の形態における「高エネルギー」とは、1MeV以上、4MeV以上または10MeV以上のビームエネルギーを有するイオンビームのことをいう。高エネルギーのイオン注入によれば、比較的高いエネルギーで所望の不純物イオンがウェハ表面に打ち込まれるので、ウェハ表面のより深い領域(例えば深さ5μm以上)に所望の不純物を注入することができる。高エネルギーイオン注入の用途は、例えば、最新のイメージセンサ等の半導体デバイス製造におけるP型領域および/またはN型領域を形成することである。
【0015】
イオン注入装置にて所望のビーム条件を実現するためには、イオン注入装置を構成する各種機器の動作パラメータを適切に設定する必要がある。所望のビームエネルギーを有するイオンビームを得るには複数段の高周波加速部の動作パラメータを適切に設定する必要がある。また、各段の高周波加速部の上流側および下流側にはイオンビームを適切に輸送するためのレンズ装置があり、所望のビーム電流量を有するイオンビームを得るには複数段のレンズ装置の動作パラメータを適切に設定する必要がある。さらに、ウェハに照射されるイオンビームの平行度や角度分布といったビーム品質を調整するために、線形加速装置よりも下流側の各種機器の動作パラメータを適切に設定する必要がある。これらの動作パラメータのセットは、所望のビーム条件を実現するための「データセット」として生成される。
【0016】
より高エネルギーのイオンビームを生成するためには、高周波加速部の段数をより多くした線形加速装置が必要となる。高周波加速部の段数が増えると、調整すべき動作パラメータの数が増えるため、適切なデータセットを生成するために必要な時間が長くなる。半導体製造工程によっては、互いに異なるビームエネルギーを有する複数のイオンビームを同一ウェハに照射する多段注入が必要な場合もある。この場合、複数のビームエネルギーに対応する複数のデータセットを生成しなければならない。複数のデータセットを一から生成した場合、複数のデータセットの全てを生成するまでに非常に長い時間がかかってしまう。そうすると、イオン注入装置の生産性の低下につながってしまう。
【0017】
本実施の形態では、線形加速装置の後段に補助的な静電加減速装置を設ける。本実施の形態に係るイオン注入装置は、イオンを生成するイオン源と、イオン源からイオンを引き出して加速することによりイオンビームを生成する引出部と、引出部により引き出されるイオンビームを加速する線形加速装置と、線形加速装置から出力されるイオンビームを加速または減速する静電加減速装置と、静電加減速装置から出力されるイオンビームをウェハに照射する注入処理がなされる注入処理室と、を備える。本実施の形態によれば、線形加速装置の後段に静電加減速装置を設けることで、線形加速装置の動作パラメータを固定したままウェハに照射されるイオンビームのビームエネルギーを一定の範囲で調整できる。
【0018】
図1は、実施の形態に係るイオン注入装置100を概略的に示す上面図である。イオン注入装置100は、ビーム生成ユニット12と、ビーム加速ユニット14と、ビーム偏向ユニット16と、ビーム輸送ユニット18と、基板搬送処理ユニット20とを備える。
【0019】
ビーム生成ユニット12は、イオン源10と、質量分析装置11とを有する。ビーム生成ユニット12では、イオン源10にて生成されるイオンが引出部10aにより引き出される。引出部10aは、イオン源10からイオンを引き出して加速することによりイオンビームを生成する。引出部10aにより引き出されるイオンビームは、質量分析装置11により質量分析される。質量分析装置11は、質量分析磁石11aと、質量分析スリット11bとを有する。質量分析スリット11bは、質量分析磁石11aの下流側に配置される。質量分析装置11による質量分析の結果、注入に必要なイオン種だけが選別され、選別されたイオン種のイオンビームは、次のビーム加速ユニット14に導かれる。
【0020】
ビーム加速ユニット14は、イオンビームの加速を行う複数の線形加速装置22a,22b,22cと、ビーム測定部23とを有し、ビームラインBLのうち直線状に延びる部分を構成する。複数の線形加速装置22a~22cのそれぞれは、一段以上の高周波加速部を備え、高周波(RF)電場をイオンビームに作用させて加速させる。ビーム測定部23は、ビーム加速ユニット14の最下流に設けられ、複数の線形加速装置22a~22cにより加速された高エネルギーイオンビームの少なくとも一つのビーム特性を測定する。ビーム測定部23は、ビームエネルギー、ビーム電流、ビームプロファイルなどのビーム特性を測定する測定装置であってもよい。
【0021】
本実施の形態では、三つの線形加速装置22a~22cが設けられる。第1線形加速装置22aは、ビーム加速ユニット14の上段に設けられ、複数段(例えば5段~15段)の高周波加速部を備える。第1線形加速装置22aは、ビーム生成ユニット12から出力される連続ビーム(DCビーム)を特定の加速位相に合わせる「バンチング(bunching)」を行い、例えば、1MeV程度のエネルギーまでイオンビームを加速させる。第2線形加速装置22bは、ビーム加速ユニット14の中段に設けられ、複数段(例えば5段~15段)の高周波加速部を備える。第2線形加速装置22bは、第1線形加速装置22aから出力されるイオンビームを例えば2~3MeV程度のエネルギーまで加速させる。第3線形加速装置22cは、ビーム加速ユニット14の下段に設けられ、複数段(例えば5段~15段)の高周波加速部を備える。第3線形加速装置22cは、第2線形加速装置22bから出力されるイオンビームを例えば4MeV以上の高エネルギーまで加速させる。
【0022】
ビーム加速ユニット14から出力される高エネルギーイオンビームは、ある範囲のエネルギー分布を持っている。このため、ビーム加速ユニット14の下流で高エネルギーのイオンビームを往復走査および平行化させてウェハに照射するためには、事前に高い精度のエネルギー分析、エネルギー分散の制御、軌道補正及びビーム収束発散の調整を実施しておくことが必要となる。
【0023】
ビーム偏向ユニット16は、ビーム加速ユニット14から出力される高エネルギーイオンビームのエネルギー分析、エネルギー分散の制御、軌道補正を行う。ビーム偏向ユニット16は、ビームラインBLのうち円弧状に延びる部分を構成する。高エネルギーイオンビームは、ビーム偏向ユニット16によって方向転換され、ビーム輸送ユニット18に向かう。
【0024】
ビーム偏向ユニット16は、エネルギー分析電磁石24と、エネルギー分散を抑制する横収束四重極レンズ26と、エネルギー分析スリット27と、第1ファラデーカップ28と、ステアリング(軌道補正)を提供する偏向電磁石30と、第2ファラデーカップ31とを有する。エネルギー分析電磁石24は、エネルギーフィルタ電磁石(EFM)とも呼ばれる。また、エネルギー分析電磁石24、横収束四重極レンズ26、エネルギー分析スリット27および第1ファラデーカップ28で構成される装置群は、総称して「エネルギー分析装置」とも呼ばれる。
【0025】
エネルギー分析スリット27は、エネルギー分析の分解能を調整するためにスリット幅が可変となるよう構成されてもよい。エネルギー分析スリット27は、例えば、スリット幅方向に移動可能な二枚の遮蔽体により構成され、二枚の遮蔽体の間隔を変化させることによりスリット幅が調整可能となるように構成されてもよい。エネルギー分析スリット27は、スリット幅の異なる複数のスリットのいずれか一つを選択することによりスリット幅が可変となるよう構成されてもよい。
【0026】
第1ファラデーカップ28は、エネルギー分析スリット27の直後に配置され、エネルギー分析用のビーム電流測定に用いられる。第2ファラデーカップ31は、偏向電磁石30の直後に配置され、軌道補正されてビーム輸送ユニット18に入るイオンビームのビーム電流測定用に設けられる。第1ファラデーカップ28および第2ファラデーカップ31のそれぞれは、ファラデーカップ駆動部(不図示)の動作によりビームラインBLに出し入れ可能となるよう構成される。第1ファラデーカップ28および第2ファラデーカップ31のそれぞれは、ビーム電流やビームプロファイルなどのビーム特性を測定する測定装置であってもよい。
【0027】
ビーム輸送ユニット18は、ビームラインBLのうちもう一つの直線状に延びる部分を構成し、装置中央のメンテナンス領域MAを挟んでビーム加速ユニット14と並行する。ビーム輸送ユニット18の長さは、ビーム加速ユニット14の長さと同程度となるように設計される。その結果、ビーム加速ユニット14、ビーム偏向ユニット16およびビーム輸送ユニット18で構成されるビームラインBLは、全体でU字状のレイアウトを形成する。本明細書において、ビーム輸送ユニット18を「ビームライン装置」ともいう。
【0028】
ビーム輸送ユニット18は、ビーム整形器32と、ビーム走査器34と、ビームダンプ35と、ビーム平行化器36と、最終エネルギーフィルタ38と、左右ファラデーカップ39L,39Rとを有する。
【0029】
ビーム整形器32は、四重極レンズ装置(Qレンズ)などの収束/発散レンズを備えており、ビーム偏向ユニット16を通過したイオンビームを所望の断面形状に整形するよう構成されている。ビーム整形器32は、例えば、電場式の三段四重極レンズ(トリプレットQレンズともいう)で構成され、三つの静電四重極レンズ装置を有する。ビーム整形器32は、三つのレンズ装置を用いることにより、イオンビームの収束または発散を水平方向(x方向)および鉛直方向(y方向)のそれぞれについて独立に調整しうる。ビーム整形器32は、磁場式のレンズ装置を含んでもよく、電場と磁場の双方を利用してビームを整形するレンズ装置を含んでもよい。
【0030】
ビーム走査器34は、ビームの往復走査を提供するよう構成され、整形されたイオンビームをx方向に走査するビーム偏向装置である。ビーム走査器34は、ビーム走査方向(x方向)に対向する走査電極対を有する。走査電極対は可変電圧電源(不図示)に接続されており、走査電極対の間に印加される電圧を周期的に変化させることにより、電極間に生じる電場を変化させてイオンビームをさまざまな角度に偏向させる。その結果、イオンビームが矢印Xで示される走査範囲にわたって走査される。図1において、走査範囲でのイオンビームの複数の軌跡を細実線で示している。なお、ビーム走査器34は、他のビーム走査装置で置き換えられてもよく、ビーム走査装置は磁場を利用する磁石装置として構成されてもよい。
【0031】
ビーム走査器34は、矢印Xで示される走査範囲を超えてビームを偏向させることにより、ビームラインBLから離れた位置に設けられるビームダンプ35にイオンビームを入射させる。ビーム走査器34は、ビームダンプ35に向けてビームラインBLからイオンビームを一時的に待避させることにより、下流の基板搬送処理ユニット20にイオンビームが到達しないようにイオンビームを遮断する。
【0032】
ビーム走査器34は、ビーム進行方向と直交する平面内でイオンビームを往復スキャンさせることにより、例えばx方向に拡がるリボン状ビーム束を生成する。ビーム走査器34の代わりに、ビーム進行方向と直交する平面内でイオンビームを発散させることによりリボンビームを生成するリボンビーム生成器が設けられてもよい。リボンビーム生成器は、例えば、磁場式または電場式のビーム発散装置によって構成されてもよい。なお、本明細書では、リボン状ビーム束を生成するビーム走査器34と、リボンビームを生成する装置とを総称して「リボンビーム生成器」ともいう。
【0033】
ビーム平行化器36は、走査されたイオンビームの進行方向を設計上のビームラインBLの軌道と平行にするよう構成される。ビーム平行化器36は、中央部にイオンビームの通過スリットが設けられた円弧形状の複数の平行化レンズ電極を有する。平行化レンズ電極は、高圧電源(不図示)に接続されており、電圧印加により生じる電場をイオンビームに作用させて、イオンビームの進行方向を平行に揃える。なお、ビーム平行化器36は他のビーム平行化装置で置き換えられてもよく、ビーム平行化装置は磁場を利用する磁石装置として構成されてもよい。ビーム平行化器36は、リボン状ビーム束の進行方向を平行化するよう構成されてもよいし、リボンビームの進行方向を平行化するよう構成されてもよい。
【0034】
最終エネルギーフィルタ38は、イオンビームのエネルギーを分析するエネルギー分析装置である。最終エネルギーフィルタ38は、必要なエネルギーのイオンを下方(-y方向)に偏向して基板搬送処理ユニット20に導くよう構成されている。最終エネルギーフィルタ38は、角度エネルギーフィルタ(AEF)と呼ばれることがある。最終エネルギーフィルタ38は、電場偏向用のAEF電極対を有する。AEF電極対は、高圧電源(不図示)に接続される。上側のAEF電極に正電圧、下側のAEF電極に負電圧を印加させることにより、イオンビームを下方に偏向させる。なお、最終エネルギーフィルタ38は、磁場偏向用の磁石装置で構成されてもよく、電場偏向用のAEF電極対と磁場偏向用の磁石装置の組み合わせで構成されてもよい。
【0035】
最終エネルギーフィルタ38は、AEF電極対の下流側に設けられるエネルギースリット(不図示)をさらに有する。エネルギースリットは、最終エネルギーフィルタ38の分解能を調整するためにスリット幅が可変となるよう構成されてもよい。エネルギースリットは、例えば、スリット幅方向に移動可能な二枚の遮蔽体により構成され、二枚の遮蔽体の間隔を変化させることによりスリット幅が調整可能となるように構成されてもよい。エネルギースリットは、スリット幅を変化させることにより、ウェハWに照射されるイオンビームのビーム電流量を調整するために用いられてもよい。
【0036】
左右ファラデーカップ39L,39Rは、最終エネルギーフィルタ38の下流側に設けられ、矢印Xで示される走査範囲の左端および右端のビームが入射しうる位置に配置される。左右ファラデーカップ39L,39Rは、ウェハWに向かうビームを遮らない位置に設けられ、ウェハWへのイオン注入時にビーム電流を測定する。
【0037】
ビーム輸送ユニット18の下流側、つまり、ビームラインBLの最下流には基板搬送処理ユニット20が設けられる。基板搬送処理ユニット20は、注入処理室40と、ビームモニタ41と、ビームプロファイラ42と、プロファイラ駆動装置43と、ウェハ保持部44と、ウェハ収容部45と、基板搬送装置46と、ロードポート47とを有する。
【0038】
ビームモニタ41は、注入処理室40の内部のビームラインBLの最下流に設けられる。ビームモニタ41は、ビームラインBL上にウェハWが存在しない場合にイオンビームが入射しうる位置に設けられており、イオン注入工程の事前または工程間においてビーム特性を測定するよう構成される。ビームモニタ41は、ビーム電流、ビーム電流密度分布、ビーム角度、ビーム平行度などのビーム特性を測定する測定装置であってもよい。ビームモニタ41は、例えば、注入処理室40と基板搬送装置46との間を接続する搬送口(不図示)の近くに位置し、搬送口よりも鉛直下方の位置に設けられる。
【0039】
ビームプロファイラ42は、ウェハWの表面の位置におけるビーム電流を測定するよう構成される。ビームプロファイラ42は、プロファイラ駆動装置43の動作によりx方向に可動となるよう構成され、イオン注入時にウェハWが位置する注入位置から待避され、ウェハWが注入位置にないときに注入位置に挿入される。ビームプロファイラ42は、x方向に移動しながらビーム電流を測定することにより、x方向のビーム走査範囲の全体にわたってビーム電流を測定できる。ビームプロファイラ42は、ビーム走査方向(x方向)の複数の位置におけるビーム電流を同時に計測可能となるように、x方向にアレイ状に並んだ複数のファラデーカップを有してもよい。ビームプロファイラ42は、x方向のビーム電流密度分布を測定する測定装置であってもよい。
【0040】
ビームプロファイラ42は、ビーム電流を測定するための単一のファラデーカップを備えてもよいし、ビームの角度情報を測定するための角度計測器を備えてもよい。角度計測器は、例えば、スリットと、スリットからビーム進行方向(z方向)に離れて設けられる複数の電流検出部とを備える。角度計測器は、例えば、スリットを通過したビームをスリット幅方向に並べられる複数の電流検出部で計測することにより、スリット幅方向のビームの角度成分を測定できる。ビームプロファイラ42は、x方向の角度情報を測定可能な第1角度測定器と、y方向の角度情報を測定可能な第2角度測定器とを備えてもよい。ビームプロファイラ42は、x方向のビーム角度およびy方向のビーム角度を測定する測定装置であってもよい。ビームプロファイラ42は、ビームの角度情報として、角度重心や収束/発散角度などを測定してもよい。
【0041】
ウェハ保持部44は、イオン注入時にイオンビームが照射される位置においてウェハWを保持する。ウェハ保持部44は、イオン注入時にウェハWをビーム走査方向(x方向)と直交する方向(y方向)に移動させるよう構成される。イオン注入時にウェハWをy方向に移動させることにより、ウェハWの被処理面全体にイオンビームを照射できる。ウェハ保持部44は、ウェハWをy方向に駆動させる機構を含めてプラテン駆動装置とも呼ばれる。
【0042】
ウェハ収容部45は、イオン注入時にイオンビームが照射されない位置においてウェハを収容する。ウェハ収容部45は、例えば、同一の注入条件が適用される複数枚のウェハを注入処理室40にて一時的に収容するよう構成される。注入処理室40には、ウェハ保持部44とウェハ収容部45の間でウェハを搬送するウェハ搬送機構(不図示)が設けられる。ウェハ収容部45は、異なるビームエネルギーを有する複数のイオンビームを順次照射する多段注入がなされるウェハWを収容してもよい。例えば、複数のウェハに第1エネルギーを有する第1イオンビームが順次照射され、第1イオンビームが照射された複数のウェハがウェハ収容部45に収容される。次に、ウェハ収容部45に収容されている複数のウェハを順次取り出し、取り出したウェハに第2エネルギーを有する第2イオンビームを照射する。これにより、多段注入の途中で、複数のウェハを注入処理室40の外部に搬出し、注入処理室40の外部から再搬入する手間を省略でき、多段注入の生産性を高めることができる。
【0043】
基板搬送装置46は、ウェハ容器48が載置されるロードポート47と、注入処理室40との間でウェハWを搬送するよう構成される。ロードポート47は、複数のウェハ容器48が同時に載置可能となるよう構成されており、例えば、x方向に並べられる4台の載置台を有する。ロードポート47の鉛直上方にはウェハ容器搬送口(不図示)が設けられており、ウェハ容器48が鉛直方向に通過可能となるよう構成される。ウェハ容器48は、例えば、イオン注入装置100が設置される半導体製造工場内の天井等に設置される搬送ロボットによりウェハ容器搬送口を通じてロードポート47に自動的に搬入され、ロードポート47から自動的に搬出される。
【0044】
イオン注入装置100は、さらに中央制御装置50を備える。中央制御装置50は、イオン注入装置100の動作全般を制御する。中央制御装置50は、ハードウェア的には、コンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や機械装置で実現され、ソフトウェア的にはコンピュータプログラム等によって実現される。中央制御装置50により提供される各種機能は、ハードウェアおよびソフトウェアの連携によって実現されうる。
【0045】
中央制御装置50の近傍には、イオン注入装置100の動作パラメータを設定するための表示装置や入力装置を有する操作盤49が設けられる。操作盤49および中央制御装置50の位置は特に限られないが、例えば、ビーム生成ユニット12と基板搬送処理ユニット20の間のメンテナンス領域MAの出入口に隣接して操作盤49および中央制御装置50を配置できる。イオン注入装置100を管理する作業員による作業頻度の高いイオン源10、ロードポート47、操作盤49および中央制御装置50の場所を隣接させることで、作業効率を高めることができる。
【0046】
イオン注入装置100は、静電加減速装置52をさらに備える。静電加減速装置52は、ビーム加速ユニット14よりも下流側に設けられる。静電加減速装置52は、第1筐体54に印加される第1電位と、第2筐体56に印加される第2電位の間の電位差を利用してイオンビームを加速または減速するよう構成される。図1の例では、ビーム平行化器36と最終エネルギーフィルタ38の間に静電加減速装置52が設けられる。
【0047】
第1筐体54は、静電加減速装置52よりも上流側の機器が含まれる筐体である。第1筐体54には、ビーム生成ユニット12と、ビーム加速ユニット14と、ビーム偏向ユニット16と、ビーム輸送ユニット18の上流側の一部(ビーム整形器32、ビーム走査器34、ビームダンプ35およびビーム平行化器36)とが含まれる。第2筐体56は、静電加減速装置52よりも下流側の機器が含まれる筐体である。第2筐体56には、ビーム輸送ユニット18の下流側の一部(最終エネルギーフィルタ38)と、基板搬送処理ユニット20とが含まれる。第1筐体54と第2筐体56の間は、絶縁構造58によって電気的に絶縁される。
【0048】
静電加減速装置52は、第1筐体54および第2筐体56の少なくとも一方に直流電圧を印加する直流電源60を有する。直流電源60は、第1筐体54と第2筐体56の間の電位差を生成し、第1筐体54と第2筐体56の間の電位差を可変にする。図1の例において、直流電源60は、第1筐体54に接続され、第1筐体54に印加する第1電位を生成する。図1の例において、第2筐体56は、グランドに接続されており、第2筐体56に印加される第2電位はグランド電位である。別の例では、第1筐体54にグランドが接続され、第2筐体56に直流電源60が接続されてもよい。さらに別の例では、第1筐体54に第1直流電源が接続され、第2筐体56に第2直流電源が接続されてもよく、第1電位と第2電位の双方が可変であってもよい。第1筐体54と第2筐体56の間に電位差が生成されるのであれば、第1電位および第2電位のそれぞれは、正、負、グランドのいずれに設定されてもよい。
【0049】
静電加減速装置52は、第2電位を基準として第1電位を正にすることにより、静電加減速装置52を通過するイオンビームを加速する。例えば、第2筐体56をグランド電位とし、第1筐体を正電位とすることにより、第1筐体54と第2筐体56の間のギャップにおいてイオンビームを加速できる。静電加減速装置52は、第2電位を基準として第1電位を負にすることにより、静電加減速装置52を通過するイオンビームを減速する。例えば、第2筐体56をグランド電位とし、第1筐体を負電位とすることで、第1筐体54と第2筐体56の間のギャップにおいてイオンビームを減速できる。
【0050】
静電加減速装置52によるビームエネルギーの調整範囲は、イオンビームの価数qと、直流電源60が印加可能な電圧Vの積q・Vによって決まる。例えば、イオンビームの価数が3価であり、直流電源60の最大加速電圧が250kVであれば、0~750kVの範囲でビームエネルギーを調整できる。例えば、イオンビームの価数が3価であり、直流電源60の最大減速電圧が-250kVであれば、0~-750kVの範囲でビームエネルギーを調整できる。静電加減速装置52は、ビーム加速ユニット14から出力されるイオンビームのビームエネルギーを補助的に調整するために用いることができる。ビーム加速ユニット14による加速エネルギーの調整範囲は、例えば、0~10MeVである。
【0051】
ビーム加速ユニット14は、加速エネルギーの調整範囲が大きく、超高エネルギーのイオンビームを生成することもできる。しかしながら、ビーム加速ユニット14の加速エネルギーを調整するためには、ビーム加速ユニット14に含まれる複数段の高周波加速部の動作パラメータを個別に調整する必要があり、段数の分だけ調整に時間がかかる。一方、静電加減速装置52のビームエネルギーの調整範囲はビーム加速ユニット14に比べて小さいが、直流電源60により印加される加減速電圧を変更するだけでビームエネルギーを調整できるため、調整にかかる時間はわずかである。本実施の形態によれば、ビーム加速ユニット14と静電加減速装置52を組み合わせることで、ビームエネルギーの調整を容易化できる。例えば、多段注入に用いる複数のイオンビームのビームエネルギーの調整を迅速化できる。
【0052】
図2は、多段注入に用いる複数のイオンビームのエネルギー調整方法を模式的に示す図である。図2では、ウェハWに照射されるイオンビームのビームエネルギーを700keV~4,000keVの範囲で300keV刻みで変化させた12種類のイオンビームを生成する場合について示す。静電加減速装置52を用いない従来例では、線形加速装置(ビーム加速ユニット14)の動作パラメータを個別に調整して12種類のイオンビームを生成しなければならないため、線形加速装置の動作パラメータの調整を12回実行しなければならない。一方、静電加減速装置52を用いる実施例では、静電加減速装置52を用いてビームエネルギーを調整できる。イオンビームの価数が3価であり、静電加減速装置52の最大電圧が250kVであるとすると、静電加減速装置52により0~750keVの範囲でビームエネルギーを調整できる。そのため、750keV以下の範囲でビームエネルギーを調整する場合には、線形加速装置から出力されるビームエネルギーを固定したまま、静電加減速装置52の加減速電圧のみを調整すればよい。例えば、線形加速装置から出力されるビームエネルギーを700keVに固定したまま、静電加減速装置52の加減速電圧を0V、+100kVおよび+200kVに設定し、静電加減速装置52のエネルギー調整量を+0keV、+300keVおよび+600keVにすることにより、700keV、1,000keVおよび1,300keVのイオンビームを生成できる。本実施例によれば、12種類のイオンビームを生成する場合であっても、線形加速装置の動作パラメータの調整を4回に減らすことができる。図2では、静電加減速装置52によるイオンビームの加速を利用してビームエネルギーを調整する場合が示されているが、静電加減速装置52によるイオンビームの減速を利用してもよいし、静電加減速装置52によるイオンビームの加速と減速を組み合わせて利用してもよい。
【0053】
つづいて、イオンビームの調整工程の流れについて説明する。図3は、イオンビームの第1調整方法の一例を示すフローチャートである。第1調整方法は、線形加速装置(ビーム加速ユニット14)の動作パラメータの調整が含まれる調整方法である。図3に示されるフローは、中央制御装置50が実行する自動調整プログラムによって実行される。なお、自動調整プログラムによる調整によって所望の目標値が得られない場合、イオン注入装置100の操作者によるマニュアル調整がなされてもよい。
【0054】
まず、各種機器の動作パラメータの初期値(初期パラメータともいう)を設定する(S10)。つづいて、イオンビームが有する複数のビーム特性を調整する(S12~S20)。図3の例では、ビームエネルギー(S12)、ビーム電流(S14)、ビーム角度(S16)、ビーム平行度(S18)、および、ビーム電流密度分布(S20)が順に調整される。なお、S12~S20の調整の順序は問わず、調整の順序を適宜入れ替えてもよい。また、特定のビーム特性の調整が複数回実行されてもよい。例えば、第1ビーム特性を調整した後に第2ビーム特性を調整し、その後に第1ビーム特性を再度調整してもよい。
【0055】
S10では、例えば、目標とするビーム特性に応じた初期パラメータが決定される。S10では、例えば、所定のアルゴリズムを用いたシミュレーションによって初期パラメータが決定される。S10では、過去に使用実績のあるデータセットに基づいて初期パラメータが決定されてもよい。例えば、目標とするビーム特性に一致または近似するビーム特性を有するイオンビームが得られた過去のデータセットがあれば、そのデータセットに含まれる動作パラメータの設定値を初期パラメータとしてもよい。
【0056】
S12のビームエネルギーの調整では、ビーム生成ユニット12およびビーム加速ユニット14の動作パラメータが調整される。具体的には、イオン源10の引出電圧、ビーム加速ユニット14に含まれる複数段の高周波加速部のそれぞれに印加される高周波電圧VRFの振幅、周波数および位相といった動作パラメータを調整して、ビームエネルギーを調整する。ビームエネルギーは、例えば、ビーム測定部23によって測定される。
【0057】
S14のビーム電流の調整では、ビーム生成ユニット12、ビーム加速ユニット14およびビーム偏向ユニット16の動作パラメータが調整される。具体的には、イオン源10のソースガス流量、アーク電流、アーク電圧およびソースマグネット電流、質量分析スリット11bおよびエネルギー分析スリット27のスリット開口幅といった動作パラメータを調整して、ビーム電流を調整する。ビーム電流は、例えば、ビーム測定部23、第1ファラデーカップ28、第2ファラデーカップ31、ビームモニタ41またはビームプロファイラ42によって測定される。
【0058】
S16のビーム角度の調整では、ビーム偏向ユニット16およびビーム輸送ユニット18の動作パラメータが調整される。例えば、x方向のビーム角度重心は、偏向電磁石30のマグネット電流によって調整される。y方向のビーム角度重心は、最終エネルギーフィルタ38の印加電圧によって調整される。x方向およびy方向の収束/発散角度は、ビーム整形器32に含まれるQレンズの印加電圧によって調整される。ビーム整形器32に含まれるQレンズの印加電圧を調整することで、ビームサイズが調整されてもよい。ビーム角度およびビームサイズは、例えば、ビームモニタ41またはビームプロファイラ42によって測定される。
【0059】
S18のビーム平行度の調整では、ビーム輸送ユニット18の動作パラメータが調整される。具体的には、ビーム平行化器36に含まれる平行化レンズ電極の印加電圧を調整して、ビーム平行度を調整する。ビーム平行度は、例えば、ビームモニタ41またはビームプロファイラ42によって測定される。
【0060】
S20のビーム電流密度分布の調整では、ビーム輸送ユニット18の動作パラメータが調整される。具体的には、ビーム走査器34に含まれる走査電極対に印加される電圧波形(スキャン波形)を調整して、x方向のビーム電流密度分布を調整する。ビーム電流密度分布は、例えば、ビームモニタ41またはビームプロファイラ42によって測定される。
【0061】
S12~S20の調整工程では、例えば、調整対象となるビーム特性を測定し、測定したビーム特性の測定値に基づいて少なくとも一つの動作パラメータを調整する。ビーム特性の測定値が所望の条件を満たしていれば、調整対象となるビーム特性の調整を終了する。ビーム特性の測定値が所望の条件を満たしていなければ、ビーム特性が所望の条件を満たすように動作パラメータが調整される。
【0062】
第1調整方法における調整工程は、静電加減速装置52による加速および減速がない状態で実施されてもよいし、静電加減速装置52による加速または減速がある状態で実施されてもよい。
【0063】
図4は、イオンビームの第2調整方法の一例を示すフローチャートである。第2調整方法は、線形加速装置(ビーム加速ユニット14)の動作パラメータの調整が含まれない調整方法である。図4に示されるフローも、中央制御装置50が実行する自動調整プログラムによって実行される。なお、自動調整プログラムによる調整によって所望の目標値が得られない場合、イオン注入装置100の操作者によるマニュアル調整がなされてもよい。
【0064】
まず、静電加減速装置52の加減速電圧を変更する(S30)。静電加減速装置52の加減速電圧の変更は、任意の変更であってよい。例えば、静電加減速装置52による加速および減速がない状態から、静電加減速装置52による加速または減速がある状態に変更されてもよい。具体的には、静電加減速装置52の加減速電圧を0Vから+100kV(または-100kV)に変更してもよい。その他、静電加減速装置52による加速または減速がある状態から、静電加減速装置52による加速および減速がない状態に変更されてもよい。具体的には、静電加減速装置52の加減速電圧を+200kV(または-200kV)から0Vに変更してもよい。また、静電加減速装置52による加速または減速がある状態を維持したまま、加減速電圧の大きさを変更してもよい。具体的には、静電加減速装置52の加減速電圧を+100kVから+200kV(または-100kVから-200kV)に変更してもよい。その他、静電加減速装置52による加速(または減速)がある状態から、静電加減速装置52による減速(または加速)がある状態に変更されてもよい。具体的には、静電加減速装置52の加減速電圧を+100kVから-200kV(または-100kVから+200kV)に変更してもよい。
【0065】
次に、静電加減速装置52よりも下流側の機器の動作パラメータを変更する(S32)。例えば、図1の装置構成では、静電加減速装置52の加減速電圧を変更した場合、最終エネルギーフィルタ38が通過させるべきビームエネルギーを変更する必要がある。そこで、最終エネルギーフィルタ38の動作パラメータを変更し、変更後のビームエネルギーを有するイオンビームがウェハWに向かうようにする。
【0066】
つづいて、追加の調整が必要であれば(S34のY)、少なくとも一つのビーム特性を調整する(S36)。少なくとも一つのビーム特性として、ビーム電流や、ビーム角度、ビーム平行度またはビーム電流密度分布が調整されてもよい。ビーム電流を調整する場合、静電加減速装置52の上流側に設けられる質量分析スリット11bやエネルギー分析スリット27のスリット幅を調整してもよい。ビーム電流を調整する場合、静電加減速装置52の下流側に設けられる最終エネルギーフィルタ38のエネルギースリットのスリット幅を調整してもよい。ビーム角度、ビーム平行度またはビーム電流密度分布を調整する場合、図3のS16~S20の工程と同様の調整がなされてもよい。S36の追加の調整を実行することで、ビーム品質をより高めることができる。
【0067】
なお、追加の調整が必要なければ(S34のN)、S36の処理をスキップする。第2調整方法では、静電加減速装置52による加減速エネルギーのみを変更しているため、ビーム電流、ビーム角度、ビーム平行度およびビーム電流密度分布といったビームエネルギー以外のビーム特性の変化は小さい。例えば、第2調整方法の実行前に第1調整方法によってビーム特性が適切に調整されていれば、静電加減速装置52の加減速電圧の変更後であっても、変更前と同等のビーム特性を実現できる。このような場合、S36の処理をスキップすることで、ビーム品質の低下を防ぎつつ、ビームエネルギーの調整を迅速に完了できる。
【0068】
本実施の形態によれば、第1調整方法においてビーム加速ユニット14の動作パラメータを変更することで、ウェハWに照射されるイオンビームのビームエネルギーを広い範囲で調整できる。その結果、幅広い範囲(例えば、700keV~4000keV)で異なるビームエネルギーを有する複数のイオンビームを生成することができ、深さ方向に異なる複数の位置にイオンを注入する多段注入を実現できる。
【0069】
本実施の形態によれば、第2調整方法においてビーム加速ユニット14の動作パラメータを固定したまま、静電加減速装置52の加減速電圧を変更することで、ウェハWに照射されるイオンビームのビームエネルギーを一定の範囲内で迅速に調整できる。その結果、小刻みに(例えば、300keV刻みで)異なるビームエネルギーを有する複数のイオンビームを生成することができ、深さ方向において高精度に設計された注入プロファイルが形成可能な多段注入を容易に実現できる。
【0070】
本実施の形態によれば、第1調整方法と第2調整方法を組み合わせることで、ウェハWに照射されるイオンビームのビームエネルギーを広い範囲で小刻みに調整する場合であっても、ビームエネルギーの調整にかかる時間を短縮化できる。その結果、非常に深い範囲まで高精度に設計された注入プロファイルが形成可能な多段注入を容易に実現できる。
【0071】
図5は、変形例に係るイオン注入装置110の概略構成を示す上面図である。イオン注入装置110は、上述の実施の形態と同様、ビーム生成ユニット12、ビーム加速ユニット14、ビーム偏向ユニット16、ビーム輸送ユニット18、基板搬送処理ユニット20および中央制御装置50を備える。本変形例では、静電加減速装置62の位置が上述の実施の形態と異なっており、ビーム偏向ユニット16とビーム輸送ユニット18の間に静電加減速装置62が設けられる。
【0072】
静電加減速装置62は、第1筐体64と第2筐体66の間の電位差を利用してイオンビームを加速または減速するよう構成される。第1筐体64は、静電加減速装置62よりも上流側の機器が含まれる筐体である。第1筐体64には、ビーム生成ユニット12と、ビーム加速ユニット14と、ビーム偏向ユニット16とが含まれる。第2筐体66は、静電加減速装置62よりも下流側の機器が含まれる筐体である。第2筐体66には、ビーム輸送ユニット18と、基板搬送処理ユニット20とが含まれる。第1筐体64と第2筐体66の間は、絶縁構造68によって電気的に絶縁される。
【0073】
静電加減速装置62は、第1筐体64および第2筐体66の少なくとも一方に直流電圧を印加する直流電源70を有する。直流電源70は、第1筐体64と第2筐体66の間の電位差を生成し、第1筐体64と第2筐体66の間の電位差を可変にする。図5の例において、直流電源70は、第1筐体64に接続され、第1筐体64に印加する第1電位を生成する。図5の例において、第2筐体66は、グランドに接続されており、第2筐体66に印加される第2電位はグランド電位である。別の例では、第1筐体64にグランドが接続され、第2筐体66に直流電源70が接続されてもよい。さらに別の例では、第1筐体64に第1直流電源が接続され、第2筐体66に第2直流電源が接続されてもよく、第1電位と第2電位の双方が可変であってもよい。第1筐体64と第2筐体66の間に電位差が生成されるのであれば、第1電位および第2電位のそれぞれは、正、負、グランドのいずれに設定されてもよい。
【0074】
本変形例において、図4に示す第2調整方法を実行する場合、S32の処理において、静電加減速装置62よりも下流側にあるビーム輸送ユニット18の動作パラメータが調整される。具体的には、静電加減速装置62から出力されるイオンビームの変更後のビームエネルギーに応じて、ビーム整形器32、ビーム走査器34、ビーム平行化器36および最終エネルギーフィルタ38の動作パラメータが調整される。
【0075】
図6は、別の変形例に係るイオン注入装置120の概略構成を示す上面図である。イオン注入装置120は、上述の実施の形態と同様、ビーム生成ユニット12、ビーム加速ユニット14、ビーム偏向ユニット16、ビーム輸送ユニット18、基板搬送処理ユニット20および中央制御装置50を備える。本変形例では、静電加減速装置72の位置が上述の実施の形態と異なっており、ビーム加速ユニット14とビーム偏向ユニット16の間に静電加減速装置72が設けられる。
【0076】
静電加減速装置72は、第1筐体74と第2筐体76の間の電位差を利用してイオンビームを加速または減速するよう構成される。第1筐体74は、静電加減速装置72よりも上流側の機器が含まれる筐体である。第1筐体74には、ビーム生成ユニット12と、ビーム加速ユニット14とが含まれる。第2筐体76は、静電加減速装置72よりも下流側の機器が含まれる筐体である。第2筐体76には、ビーム偏向ユニット16と、ビーム輸送ユニット18と、基板搬送処理ユニット20とが含まれる。第1筐体74と第2筐体76の間は、絶縁構造78によって電気的に絶縁される。
【0077】
静電加減速装置72は、第1筐体74および第2筐体76の少なくとも一方に直流電圧を印加する直流電源80を有する。直流電源80は、第1筐体74と第2筐体76の間の電位差を生成し、第1筐体74と第2筐体76の間の電位差を可変にする。図6の例において、直流電源80は、第1筐体74に接続され、第1筐体74に印加する第1電位を生成する。図6の例において、第2筐体76は、グランドに接続されており、第2筐体76に印加される第2電位はグランド電位である。別の例では、第1筐体74にグランドが接続され、第2筐体76に直流電源80が接続されてもよい。さらに別の例では、第1筐体74に第1直流電源が接続され、第2筐体76に第2直流電源が接続されてもよく、第1電位と第2電位の双方が可変であってもよい。第1筐体74と第2筐体76の間に電位差が生成されるのであれば、第1電位および第2電位のそれぞれは、正、負、グランドのいずれに設定されてもよい。
【0078】
本変形例において、図4に示す第2調整方法を実行する場合、S32の処理において、静電加減速装置72よりも下流側にあるビーム偏向ユニット16およびビーム輸送ユニット18の動作パラメータが調整される。具体的には、静電加減速装置72から出力されるイオンビームの変更後のビームエネルギーに応じて、エネルギー分析電磁石24、横収束四重極レンズ26、偏向電磁石30、ビーム整形器32、ビーム走査器34、ビーム平行化器36および最終エネルギーフィルタ38の動作パラメータが調整される。
【0079】
以上、本発明を上述の各実施の形態を参照して説明したが、本発明は上述の各実施の形態に限定されるものではなく、各実施の形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて各実施の形態における組み合わせや処理の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれ得る。
【符号の説明】
【0080】
10…イオン源、10a…引出部、11…質量分析装置、12…ビーム生成ユニット、14…ビーム加速ユニット、16…ビーム偏向ユニット、18…ビーム輸送ユニット、20…基板搬送処理ユニット、22a,22b,22c…線形加速装置、24…エネルギー分析電磁石、26…横収束四重極レンズ、30…偏向電磁石、32…ビーム整形器、34…ビーム走査器、36…ビーム平行化器、38…最終エネルギーフィルタ、40…注入処理室、44…ウェハ保持部、45…ウェハ収容部、50…中央制御装置、52,62,72…静電加減速装置、54,64,74…第1筐体、56,66,76…第2筐体、60,70,80…直流電源、100,110,120…イオン注入装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6