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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022134900
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】シール機構を備えた装置
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/16 20060101AFI20220908BHJP
   F16J 15/3204 20160101ALI20220908BHJP
   F16C 33/78 20060101ALI20220908BHJP
   F16C 19/18 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
F16J15/16 B
F16J15/3204 201
F16C33/78 Z
F16C19/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021034382
(22)【出願日】2021-03-04
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】阿部 瞬
【テーマコード(参考)】
3J006
3J043
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J006AE01
3J006AE45
3J043AA16
3J043BA05
3J043CA12
3J043DA05
3J216AA02
3J216AA14
3J216AB04
3J216AB29
3J216BA02
3J216BA25
3J216CA02
3J216CA05
3J216CB03
3J216CB07
3J216CB13
3J216CB15
3J216CB19
3J216CC03
3J216CC14
3J216CC33
3J216CC38
3J216CC41
3J216DA01
3J216DA02
3J216DA11
3J701AA03
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701AA72
3J701BA73
3J701EA06
3J701EA31
3J701EA49
3J701FA31
3J701FA42
3J701GA11
3J701GA24
(57)【要約】
【課題】組み付け後のスリンガの偏心を抑制可能なシール機構を備えた装置を提供する。
【解決手段】装置100は、シャフト部材2と、シャフト部材2の少なくとも一部を収容するケース3と、シャフト部材2とケース3との間をシールするシール機構4と、を備える装置である。シール機構4は、シャフト部材2の外周面に設けられたスリンガ5と、ケース3とスリンガ5との間に設けられたシール部材6と、を備える。スリンガ5は、筒状部51と、筒状部51からシャフト部材2に向けて突出するフランジ部52と、を備える。筒状部51とシャフト部材2との間には、フランジ部52よりも弾性係数が小さい弾性部材56が設けられ、フランジ部52は、シャフト部材2と径方向に当接する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフト部材と、
前記シャフト部材の少なくとも一部を収容するケースと、
前記シャフト部材と前記ケースとの間をシールするシール機構と、を備える装置であって、
前記シール機構は、前記シャフト部材の外周面に設けられたスリンガと、前記ケースと前記スリンガとの間に設けられたシール部材と、を備え、
前記スリンガは、筒状部と、前記筒状部から前記シャフト部材に向けて突出するフランジ部と、を備え、
前記筒状部と前記シャフト部材との間には、前記フランジ部よりも弾性係数が小さい弾性部材が設けられ、
前記フランジ部は、前記シャフト部材に径方向に当接することを特徴とする装置。
【請求項2】
前記フランジ部は、前記弾性部材よりも挿入側に配置されることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記フランジ部は、前記筒状部の軸方向両端に配置されることを特徴とする請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記スリンガは、前記フランジ部によって、前記シャフト部材に対して、軸方向内側への移動が規制されることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
前記フランジ部には、前記シャフト部材への挿入時にガイドとなるガイド用テーパ部が設けられることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】
径方向から見て、前記フランジ部は、前記シール部材のリップ部に重なることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の装置。
【請求項7】
前記シャフト部材と前記ケースとの間に配置される軸受を有し、
前記シャフト部材の外周面は、前記軸受の転動体の内輪側転動面と、前記スリンガが配置されるスリンガ配置面と、前記内輪側転動面と前記スリンガ配置面との間に設けられる接続面と、を有し、
前記スリンガ配置面の外径は、前記接続面の外径より小さい請求項1から6のいずれか1項に記載の装置。
【請求項8】
前記スリンガの筒状部の外径は、前記接続面の外径より大きい請求項7に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール機構を備えた装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シャフト部材とケースとの間をシールするシール機構を備えた装置が知られている。例えば、特許文献1には、シール部材とシール部材に取り囲まれたスリンガとを有するシールを備えた装置が記載されている。このシール機構は、シャフト部材の外周面に設けられたスリンガと、ケースとスリンガの間に設けられたシール部材とを備える。スリンガは、筒状部からシャフト部材の内側に位置するフランジ部を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-082198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、シール機構を備えた装置に関して以下の認識を得た。
シール機構では、潤滑材の漏れを抑制するシール機能の低下の要因として、オイルシールリップの偏摩耗が考えられる。リップの偏摩耗を抑制するためには、圧入精度を改善して、組み付け後のスリンガの偏心を小さくすることが重要である。しかし、特許文献1に記載のシール機構では、スリンガの内側が弾性体でスリンガの金属部とシャフト部材との隙間が大きく、この構造では、シールが傾いた状態で組み付けられ、組み付け後のスリンガの偏心が大きくなる。
【0005】
本発明は、こうした状況に鑑みてなされたもので、組み付け後のスリンガの偏心を抑制可能なシール機構を備えた装置を提供することを目的の一つとしている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の装置は、シャフト部材と、シャフト部材の少なくとも一部を収容するケースと、シャフト部材とケースとの間をシールするシール機構と、を備える装置であって、シール機構は、シャフト部材の外周面に設けられたスリンガと、ケースとスリンガとの間に設けられたシール部材と、を備える。スリンガは、筒状部と、筒状部からシャフト部材に向けて突出するフランジ部と、を備える。筒状部とシャフト部材との間には、フランジ部よりも弾性係数が小さい弾性部材が設けられ、フランジ部は、シャフト部材に径方向に当接する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、組み付け後のスリンガの偏心を抑制可能なシール機構を備えた装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態に係るシール機構を備えた装置を概略的に示す側断面図である。
図2図1のシール機構を拡大して示す図である。
図3】第2実施形態に係るシール機構を拡大して示す図である。
【0009】
以下、本発明を好適な実施形態をもとに各図面を参照しながら説明する。実施形態および変形例では、同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0010】
また、第1、第2などの序数を含む用語は多様な構成要素を説明するために用いられるが、この用語は一つの構成要素を他の構成要素から区別する目的でのみ用いられ、この用語によって構成要素が限定されるものではない。
【0011】
[第1実施形態]
以下、図面を参照して、第1実施形態に係るシール機構4の構成を説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係るシール機構4が適用された装置100を示す側断面図である。装置100は、シャフト部材2と、ケース3と、シール機構4と、軸受8とを備える。ケース3は、シャフト部材2の少なくとも一部を収容する。ケース3は、シャフト部材2と略同軸に形成されてもよい。
【0012】
シール機構4は、シャフト部材2とケース3との間をシールする。シール機構4は、シャフト部材2の外周面22に設けられたスリンガ5と、ケース3とスリンガ5との間に設けられたシール部材6とを備える。一例として、装置100は、減速機であってもよいし、偏心揺動型減速機であってもよい。この場合、シャフト部材2はキャリアに対応し、ケース3はキャリアの外周を覆う筒状のケーシングに対応し、軸受8は主軸受に対応する。
【0013】
以下、装置100のシャフト部材2の中心軸線Laに沿った方向を「軸方向」といい、その中心軸線Laを中心とする円の円周方向、半径方向をそれぞれ「周方向」、「径方向」とする。この例における中心軸線Laはシャフト部材2の回転軸線に一致している。ケース3とシャフト部材2との間には、軸受8が設けられる。シャフト部材2は、ケース3内に配置されケース3に対して相対回転可能に支持される。
【0014】
本実施形態では、シャフト部材2とケース3の少なくとも一方は、回転軸線La周りに回転する。例えば、ケース3が固定され、シャフト部材2が回転してもよいし、シャフト部材2が固定され、ケース3が回転してもよい。
【0015】
本実施形態では、ケース3は、シャフト部材2の一部または全部を収容する内部空間を形成する。ケース3の内部空間には、シャフト部材2と共に、装置100の一部に用いられる様々な構成部材が収容されてもよい。一例として、ケース3の内部空間には、シャフト部材2に連結され得る歯車部品などが配置されてもよいが、これに限らない。
【0016】
軸受8は、ケース3とシャフト部材2の軸方向の一方側と他方側とに配置されている。軸受8は、周方向に間隔を空けて並ぶ複数の転動体82を有している。図1の例では、軸受8の内輪側転動面83はシャフト部材2の外周面に形成されており、外輪側転動面842はケース3の内周面に嵌め込まれた外輪84に形成されている。つまり、軸受8の外輪84は、ケース3とは別体に形成されている。軸受8には、潤滑剤(不図示)が保持されている。
【0017】
ケース3とシャフト部材2との間の空間において、潤滑剤を保持する軸受8が配置されてシール機構4によってシールされている領域を「潤滑剤保持空間J」という。また、軸方向において、潤滑剤保持空間Jから離れる方向を「外側」といい、その反対方向を「内側」という。また、部材の内側・外側の端部を「内端・外端」という。また、潤滑剤保持空間Jから装置100の外部空間に至る通気路において、潤滑剤保持空間Jに接近する側を「内部側」といい、その反対側を「外部側」という。
【0018】
図2は、本実施形態のシール機構4の拡大図である。この図は、径方向に沿って切断された断面を示している。シール機構4は、シャフト部材2とケース3との間に形成される隙間をシールするシール部材6と、スリンガ5とを備える。特に、シール機構4は、シール部材6がスリンガ5に接触することにより、ケース3とシャフト部材2との間の隙間をシールしている。スリンガ5は、シャフト部材2に接着されてもよい。
【0019】
スリンガ5は、シャフト部材2とケース3との間に位置する。本実施形態のスリンガ5は、シャフト部材2に挿入されている。スリンガ5は、シャフト部材2から径方向外側に位置する環状の部材である。スリンガ5については後述する。
【0020】
シール部材6は、リップ部62とリップ支持部63とを有する。リップ部62は、スリンガ5に接触することにより、ケース3とスリンガ5との間でシールを形成する。リップ支持部63は、ケース3の内周面32に嵌合する環状の部分でリップ支持部63の内周側にリップ部62を支持する。リップ部62は、リップ支持部63からスリンガ5の外周面512に向けて径方向に延びている。この例では、シール部材6は、スリンガ5の軸方向外側においてケース3に着脱可能に取り付けられている。
【0021】
リップ部62は、弾性変形可能な複数のリップ部を含んでもよい。この例では、リップ部62は、スリンガ5の外周面512と接触するためのメインリップ623とダストリップ624とを含んでいる。メインリップ623は、潤滑剤保持空間Jの潤滑剤の外部への漏出を抑制可能なメインリップとして機能する。ダストリップ624は、潤滑剤保持空間Jの潤滑剤の外部への漏出を抑制するとともに、外部から潤滑剤保持空間Jへの異物の侵入を抑制するダストリップとして機能する。
【0022】
リップ部62は、スプリングリング625を有する。スプリングリング625は、メインリップ623の外周に設けられる環状部材である。スプリングリング625は、メインリップ623を環囲して、メインリップ623にシャフト部材2の中心に向かう力を付与する。この構成により、メインリップ623は、筒状部51の外周面512に密着し、メインリップ623と筒状部51との間にシール機能を生じさせる。ダストリップ624は、スリンガ5の筒状部51の外周面512に当接する。
【0023】
リップ支持部63は、弾性部632と、剛性部631とを有する。剛性部631は、弾性部632の形状を一定の範囲で維持する芯材として機能する。剛性部631は、鉄系金属などの金属材料、硬質プラスチックなどの非金属材料、これらの複合材料などで構成できる。剛性部631は、径方向に沿って切断された断面がL字状の環状部材である。剛性部631は、中空円板状の円板部と、円板部の外周から軸方向内方に延びる中空円筒状の円筒部とを有する。弾性部632は、剛性部631の全体を覆う。弾性部632は、ゴムなどの柔らかい樹脂材料で形成されている。リップ部62は、リップ支持部63の弾性部632と一体的に形成されている。
【0024】
(スリンガ)
スリンガ5は、筒状部51と、この筒状部51からシャフト部材2の径方向内側に位置するフランジ部52とを備える。この例の筒状部51は、略同軸の外周面512と内周面513を有する円筒形状を呈する。筒状部51は、任意の形状を有してもよい。
【0025】
筒状部51とシャフト部材2との間には、フランジ部52よりも弾性係数が小さい弾性部材56が設けられる。この例の弾性部材56は、略同軸の外周面562と内周面563を有する円筒形状を呈する。筒状部51は、任意の形状を有してもよい。スリンガ5に挿入される前の状態(以下、「未挿入状態」という)において、外周面562は、筒状部51の内周面513と同径または僅かに大きくてもよい。スリンガ5に挿入された状態(以下、「挿入状態」という)で、外周面562は、内周面513に密着してもよい。弾性部材56は、挿入状態で、径方向につぶれてもよい。弾性部材56は、例えば、粘着性のある接着材であってもよい。この場合、フランジ部52以外への接着剤の染み出しを減らすため、一部の領域に接着剤を付着させるようにしてもよい。
【0026】
フランジ部52は、シャフト部材2と径方向に当接する。フランジ部52とシャフト部材2とは、締めしろを有する絞まりばめにされてもよいし、締めしろを有せず僅かな隙間を設ける隙間ばめにされてもよいし、中間ばめにされてもよい。隙間ばめの場合の隙間は、組み付け後のスリンガ5の偏心の許容量に応じて設定できる。フランジ部52は、筒状部51の内周面513から径方向内向きに張り出す張出形状を有する。フランジ部52の径方向厚みは、未挿入状態で、弾性部材56の径方向厚みよりも小さくてもよい。この場合、挿入状態で弾性部材56は径方向に弾性変形し、シャフト部材2の外周面22の形状に沿った形状となる。
【0027】
スリンガ5にシャフト部材2を挿入するとき、スリンガ5の軸方向両側のうち、先にシャフト部材2に接する方を「挿入側」といい、その反対側を「反挿入側」という。換言すれば、「挿入側」は、装置内部側(潤滑剤が封入される空間に近い側)、「反挿入側」は、装置外部側ということもできる。図2の例では、フランジ部52は、弾性部材56よりも挿入側に配置される第1フランジ部53を含む。この場合、高精度のフランジ部52が弾性部材56よりも先にシャフト部材2に接し、両者が概ね調心された状態で、弾性部材56がシャフト部材2に接するので、弾性部材56が周方向に概ね均等に接し、周方向に不均一な変形を回避できる。
【0028】
また、フランジ部52は、弾性部材56よりも反挿入側に配置される第2フランジ部54を含む。フランジ部52は、筒状部51の端から離れて設けられてもよいが、この例では、第1フランジ部53と第2フランジ部54は、筒状部51の端に設けられている。つまり、第1フランジ部53と第2フランジ部54は、筒状部51の軸方向両端に配置される。この場合、弾性部材56の軸方向の両側でフランジ部がシャフト部材2に当接するので、弾性部材56がシャフト部材2に軸方向に略均一に接し、軸方向に不均一な変形を回避できる。
【0029】
フランジ部52にシャフト部材2を挿入するとき、両者が概ね調心された状態で、挿入されることが望ましい。このため、フランジ部52には、挿入時にガイドとなるガイド用テーパ部522が設けられる。この場合、シャフト部材2に対してスリンガ5が調心されるので、組み付け後のスリンガの偏心を小さくできる。調心機能を確保する観点では、バリやカエリ等を除去するための面取り加工(例えば、0.1mm程度)では不足であった。検討によれば、テーパ部522の軸方向の大きさは、0.5mm以上が好ましく、0.7mm以上がより好ましいことが示唆されている。本実施形態ではテーパ部522の軸方向の大きさは0.7mm~1.5mmに設定されている。
【0030】
また、検討によれば、テーパ部522の中心軸線Laに対する傾斜は45°以下が好ましく、35°以下がより好ましいことが示唆されている。本実施形態ではテーパ部522の中心軸線Laに対する傾斜は25°~35°に設定されている。つまり、テーパ部522の軸方向の大きさは、テーパ部522の径方向の大きさよりも長い方が好ましい。
【0031】
本実施形態では、テーパ部522は、第1フランジ部53と第2フランジ部54の両端部の内周側の角部に設けられている。この例では、テーパ部522の軸方向の大きさは、第1フランジ部53と第2フランジ部54の内周側の他の面取り部523の軸方向の大きさよりも大きい。
【0032】
例えば、特許文献1のスリンガは、軸方向に非対称で挿入方向が1方向に限定されるため、挿入方向を間違えた誤挿入による不良品が市場に流出するおそれがある。これに対して、本実施形態のスリンガ5では、第1フランジ部53と第2フランジ部54の外向きの角部にテーパ部522が設けられているので、シャフト部材2は、第1フランジ部53から挿入可能で、第2フランジ部54からも挿入可能である。このため、誤挿入の不良品が流出するおそれは殆ど無い。また、スリンガ5の向きを気にせずに挿入作業できるので、作業工数を低減できる。
【0033】
シャフト部材2に対するスリンガ5の軸方向位置は一定であることが望ましい。そこで、本実施形態では、スリンガ5は、フランジ部52によって、シャフト部材2に対して、軸方向内側への移動が規制される。図2の例では、シャフト部材2は、外周面22から径方向外向きに延びる当接壁部23を有し、スリンガ5の第1フランジ部53は、当接壁部23に当接する。この場合、弾性部材56で移動規制される構成よりも位置精度が高く、筒状部51で移動規制される構成よりも当接壁部23の径方向寸法を小さくできる。当接壁部23は、径方向凸部の壁部であってもよいし、段部の壁部であってもよい。当接壁部23の径方向外側位置は、フランジ部52の外周よりも径方向内側であってもよい。図2の例では、当接壁部23の径方向外側位置は、フランジ部52の外周よりも径方向外側であり、筒状部51の挿入側の外周面取りよりも径方向内側である。
【0034】
図1図2を参照して、シャフト部材2の外周面22を説明する。上述したように、本実施形態は、シャフト部材2とケース3との間に配置される軸受8を有する。シャフト部材2の外周面22は、軸受8の転動体82の内輪側転動面83と、スリンガ5が配置されるスリンガ配置面24と、内輪側転動面83とスリンガ配置面24との間に設けられる接続面25と、を有する。図2の例では、スリンガ配置面24の外径は接続面25の外径より小さい。この場合、スリンガ5がスリンガ配置面24を超えて接続面25に進入することを防げる。また、図2の例では、スリンガ5の筒状部51の外周面512の外径は、接続面25の外径より大きい。この場合、ケース3の内周面32と、スリンガ5の筒状部51の外周面512との間の隙間を狭くしてシール性能を向上できる。
【0035】
以上のように構成された本実施形態の装置100の特徴を説明する。装置100は、シャフト部材2と、シャフト部材2の少なくとも一部を収容するケース3と、シャフト部材2とケース3との間をシールするシール機構4と、を備える装置であって、シール機構4は、シャフト部材2の外周面22に設けられたスリンガ5と、ケース3とスリンガ5との間に設けられたシール部材6と、を備え、スリンガ5は、筒状部51と、筒状部51からシャフト部材2に向けて突出するフランジ部52と、を備え、筒状部51とシャフト部材2との間には、フランジ部52よりも弾性係数が小さい弾性部材56が設けられ、フランジ部52は、シャフト部材2に径方向に当接する。
【0036】
この構成によれば、フランジ部52がシャフト部材2に径方向に当接するので、これらが当接しない構成よりも、シャフト部材2に対するスリンガ5の傾斜を減らし、組み付け後のスリンガ5の偏心を小さくできる。
【0037】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態を説明する。第2実施形態の図面および説明では、第1実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。第1実施形態と重複する説明を適宜省略し、第1実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0038】
本発明の第2実施形態もまた、シール機構を備える装置である。図3は、第2実施形態に係るシール機構を拡大して示す図であり、図2に対応する。本実施形態に係るシール機構4は、スリンガ5の形状が異なり、特に、フランジ部52が、径方向から見て、シール部材6のリップ部62に重なる第3フランジ部55を含む点で図2の例と相違する。この例では、第3フランジ部55は、軸方向で第1フランジ部53と第2フランジ部54の間であって、径方向から見てシール部材6のリップ部62に重なる位置に設けられる。特に、第3フランジ部55の一部または全部は、径方向から見て、メインリップ623に重なる。
【0039】
第3フランジ部55の特徴は、第1フランジ部53および第2フランジ部54の特徴と同様である。なお、この例では、フランジ部52が3個のフランジ部を含む例を示しているが、フランジ部の数は3個に限定されず、2個以下であってもよいし、4個以上であってもよい。
【0040】
本実施形態は、第1実施形態と同様の作用効果を奏する。加えて、フランジ部52が、径方向から見て、シール部材6のリップ部62に重なるため、筒状部51の径方向肉厚を薄くしても、リップ部62の接触圧による撓みを小さくできる。また、筒状部51の径方向肉厚が一定の条件では、リップ部62の接触圧を高くしてシール機能を高められる。
【0041】
以上、本発明の実施形態の例について詳細に説明した。前述した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施形態の内容は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。前述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態の」「実施形態では」等との表記を付して説明しているが、そのような表記のない内容に設計変更が許容されないわけではない。また、図面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。
【0042】
[変形例]
以下、変形例について説明する。変形例の図面および説明では、実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。実施形態と重複する説明を適宜省略し、実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0043】
実施形態の説明では、装置100が減速機である例を示したが、本発明はこれに限定されない。装置100は、シャフト部材とケースとシール機構を有する任意の装置であってもよく、例えばモータ、各種変速機、カップリング機構であってもよい。また、シャフト部材2は、特定の形状に限定されず、例えば、円柱状の部材であってもよいし、円筒状の部材であってもよいし、その他の形状を備えた部材であってもよい。
【0044】
実施形態の説明では、シール機構4が減速機のシール機構である例を示したが、本発明はこれに限定されない。シール機構4は、特定の装置に限らず、任意の回転部材を備える装置に適用できる。
【0045】
実施形態の説明では、シール機構4が装置100の軸方向の一方側に設けられる例を示したが、シール機構4は、装置100の軸方向で両側に設けられてもよい。
【0046】
実施形態の説明では、内輪側転動面83がシャフト部材2の外周面に形成される例を示したが、シャフト部材2とは別体の内輪を備え、その内輪に内輪側転動面が形成されてもよい。
【0047】
上述の各変形例は実施形態と同様の作用・効果を奏する。
【0048】
上述した各実施形態と変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施形態は、組み合わされる各実施形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【符号の説明】
【0049】
2 シャフト部材、 3 ケース、 4 シール機構、 5 スリンガ、 6 シール部材、 8 軸受、 51 筒状部、 52 フランジ部、 53 第1フランジ部、 54 第2フランジ部、 55 第3フランジ部、 56 弾性部材、 62 リップ部、 522 ガイド用テーパ部、 100 装置。
図1
図2
図3