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特開2022-134922無電解ニッケルめっき浴および無電解ニッケル合金めっき浴
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022134922
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】無電解ニッケルめっき浴および無電解ニッケル合金めっき浴
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/36 20060101AFI20220908BHJP
   H05K 3/18 20060101ALN20220908BHJP
【FI】
C23C18/36
H05K3/18 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021034429
(22)【出願日】2021-03-04
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】000120386
【氏名又は名称】株式会社JCU
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】特許業務法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】若田 康輔
(72)【発明者】
【氏名】横山 千香子
【テーマコード(参考)】
4K022
5E343
【Fターム(参考)】
4K022AA13
4K022AA14
4K022AA15
4K022AA19
4K022AA20
4K022AA31
4K022AA41
4K022BA01
4K022BA03
4K022BA06
4K022BA07
4K022BA08
4K022BA09
4K022BA11
4K022BA14
4K022BA16
4K022BA18
4K022BA21
4K022BA24
4K022BA25
4K022BA32
4K022DA01
4K022DB01
4K022DB02
4K022DB08
5E343CC43
5E343CC52
5E343CC71
5E343CC78
5E343DD33
5E343GG20
(57)【要約】
【課題】 規制対象物質であるアンモニア等の窒素化合物を実質的に含有させずに、めっき皮膜の良好な生成とめっき浴の良好な連続使用を達成できる無電解ニッケル(合金)めっき浴を提供する。
【解決手段】 水溶性ニッケル塩、還元剤、フェノールスルホン酸ならびにフェノールスルホン酸塩およびこれらの水和物からなる群から選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする無電解ニッケルめっき浴およびこれに更に合金化金属塩を含有する無電解ニッケル合金めっき浴。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性ニッケル塩、還元剤、フェノールスルホン酸ならびにフェノールスルホン酸塩およびこれらの水和物からなる群から選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする無電解ニッケルめっき浴。
【請求項2】
更に、錯化剤を含有するものである請求項1記載の無電解ニッケルめっき浴。
【請求項3】
フェノールスルホン酸ならびにフェノールスルホン酸塩およびこれらの水和物からなる群から選ばれる1種または2種以上を、1g/L~50g/Lで含有するものである請求項1または2記載の無電解ニッケルめっき浴。
【請求項4】
フェノールスルホン酸塩が、フェノールスルホン酸ナトリウム、フェノールスルホン酸カリウム、フェノールスルホン酸リチウム、フェノールスルホン酸亜鉛、フェノールスルホン酸すず、フェノールスルホン酸銅、フェノールスルホン酸ニッケルからなる群から選ばれる1種または2種以上である請求項1~3の何れか1に記載の無電解ニッケルめっき浴。
【請求項5】
窒素を実質的に含有しないものである請求項1~4の何れか1に記載の無電解ニッケルめっき浴。
【請求項6】
水銀、ヒ素、カドミウムまたは鉛を実質的に含有しないものである請求項1~5の何れか1に記載の無電解ニッケルめっき浴。
【請求項7】
請求項1~6の何れか1に記載の無電解ニッケルめっき浴に、更に、合金化金属塩を含有させたことを特徴とする無電解ニッケル合金めっき浴。
【請求項8】
合金化金属塩の金属が、鉄、銅、スズ、コバルト、タングステン、レニウム、マンガン、パラジウム、バナジウム、亜鉛、クロム、金、銀および白金からなる群から選ばれる1種または2種以上である請求項6記載の無電解ニッケル合金めっき浴。
【請求項9】
被めっき物を請求項1~6の何れか1に記載の無電解ニッケルめっき浴で処理することを特徴とする無電解ニッケルめっき方法。
【請求項10】
被めっき物を請求項7または8記載の無電解ニッケル合金めっき浴で処理することを特徴とする無電解ニッケル合金めっき方法。
【請求項11】
被めっき物を請求項1~6の何れか1に記載の無電解ニッケルめっき浴で処理することにより得られる無電解ニッケルめっき製品。
【請求項12】
被めっき物を請求項7または8記載の無電解ニッケル合金めっき浴で処理することにより得られる無電解ニッケル合金めっき製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒素等の環境負荷の大きい元素を含まず、環境負荷の小さい無電解ニッケルめっき浴および無電解ニッケル合金めっき浴(以下、「無電解ニッケル(合金)めっき浴」と略記する)に関するものであり、更に詳細には、安定性やめっき析出速度の優れた無電解ニッケルめっき浴および無電解ニッケル合金めっき浴に関するものである。
【背景技術】
【0002】
無電解めっきとは、金属イオンと還元剤が存在する溶液から、化学反応により金属イオンを還元して金属皮膜を得る技術である。そしてその中でも、無電解ニッケルめっきあるいは無電解ニッケル合金めっき(以下、これらを総称して「無電解ニッケル(合金)めっき」という)は、プラスチック上へめっきを施す際の導電化処理をはじめとし、防錆、硬さ向上、はんだ付け性向上、はんだ濡れ性向上等の用途があり、自動車部品や水栓金具といった意匠部品の下地めっきのほか、プリント基板やITO基板の下地めっき、抵抗体、磁気ディスク、電磁波シールド等に工業的に広範囲に使用されている。また、ポリテトラフルオロエチレン等の微粒子を金属皮膜に均一に分散させた複合めっき皮膜を得る為の金属マトリックスとしても使用されている(特許文献1)。
【0003】
従来より、特にプラスチック上へのめっきに用いられる無電解ニッケル(合金)めっき液には、めっき浴の性能向上のために、アンモニアが添加されてきた。アンモニアの存在により、ニッケルイオンの金属への還元反応に必要な温度、pHにおけるニッケルイオンの無作為な還元反応、すなわち一般には自己分解と称される反応が抑制されるとともに、無電解めっき皮膜の良好な析出速度を得られることができ、ニッケル(合金)めっき皮膜の良好な生成とめっき浴の良好な連続使用が可能だった。
【0004】
一方、アンモニアの放出による環境への影響が以前から指摘されていたが、更に近年、環境意識の高まりと共に、特に中国において厳しい排水規制が設けられている。この規制対象の中には、無電解めっき浴で従来から使用されてきたアンモニアの規制のみならず、窒素としての規制が含まれている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-257460号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】石油化学産業の汚染物質排出基準、GB 31571-2015
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はかかる技術背景に鑑みてなされたものであり、その課題は、規制対象物質であるアンモニア等の窒素化合物を実質的に含有させずに、めっき皮膜の良好な生成とめっき浴の良好な連続使用を達成できる無電解ニッケル(合金)めっき浴を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、特定の化合物を無電解ニッケルめっき浴に添加することで、かかる課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、水溶性ニッケル塩、還元剤、フェノールスルホン酸ならびにフェノールスルホン酸塩およびこれらの水和物からなる群から選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする無電解ニッケルめっき浴である。
【0010】
また、本発明は、被めっき物を上記無電解ニッケルめっき浴で処理することを特徴とする無電解ニッケルめっき方法である。
【0011】
更に、本発明は、上記無電解ニッケルめっき浴に、更に、合金化金属塩を含有させたことを特徴とする無電解ニッケル合金めっき浴である。
【0012】
また更に、本発明は、被めっき物を上記無電解ニッケル合金めっき浴で処理することを特徴とする無電解ニッケル合金めっき方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、規制物質であるアンモニア等の窒素化合物を実質的に含有させなくても、めっき皮膜外観、めっき析出速度、めっき浴安定性に優れた無電解ニッケル(合金)めっき浴を提供することができる。また、めっき浴の連続使用時においても、上記性能が低下しにくいので、めっき浴の更新が少なくて済み、作業効率の向上を図ることができるものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、水溶性ニッケル塩、還元剤、フェノールスルホン酸ならびにフェノールスルホン酸塩およびフェノールスルホン酸塩の水和物からなる群から選ばれる1種または2種以上を含有する無電解ニッケルめっき浴およびこの無電解ニッケルめっき浴に更に合金化金属塩を加えた無電解ニッケル合金めっき浴に関するものである。
【0015】
本発明の無電解ニッケル(合金)めっき浴に使用される水溶性ニッケル塩は、特に限定はなく、一般に使用される水溶性ニッケル塩、例えば、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、酢酸ニッケル、硝酸ニッケル、次亜リン酸ニッケル等が挙げられる。これら水溶性ニッケル塩は1種または2種以上を用いることができる。
【0016】
これら水溶性ニッケル塩の無電解ニッケル(合金)めっき浴中の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば、ニッケルイオンの濃度として、0.1g/L~100g/Lであることが好ましく、1g/L~50g/Lであることが特に好ましい。0.1g/L未満だと未反応の場合があり、100g/Lより多い場合は、過反応による分解が起こる場合がある。
【0017】
また、本発明の無電解ニッケル(合金)めっき浴に使用される還元剤は、特に限定はなく、一般に使用される還元剤、例えば、次亜リン酸、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム等の次亜リン酸(塩)類、水素化ホウ素ナトリウム等が挙げられる。これら還元剤は1種または2種以上を用いることができる。なお、本発明の無電解ニッケル(合金)めっき浴には、一般に使用される還元剤であるジメチルアミンボラン、トリメチルアミンボラン等のアミンボラン類、ヒドラジン等のヒドラジン(塩)類も使用することができるが、無電解ニッケル(合金)めっき浴を窒素フリーとするために、これらを使用しないことが好ましい。
【0018】
これら還元剤の無電解ニッケル(合金)めっき浴中の含有量は、使用する還元剤の種類や必要とする析出速度により相違するが、例えば、1g/L~100g/Lが好ましく、2g/L~50g/Lが特に好ましい。1g/L未満だと未反応の場合があり、100g/Lより多い場合は、過反応による分解が起こる場合がある。
【0019】
本発明の無電解ニッケル(合金)めっき浴に使用されるフェノールスルホン酸ならびにフェノールスルホン酸塩およびこれらの水和物(以下、これらを「フェノールスルホン酸類」ということもある)としては、例えば、フェノールスルホン酸、フェノールスルホン酸水和物、フェノールスルホン酸ナトリウム、フェノールスルホン酸カリウム、フェノールスルホン酸リチウム、フェノールスルホン酸亜鉛、フェノールスルホン酸すず、フェノールスルホン酸銅、フェノールスルホン酸ニッケル等のフェノールスルホン酸塩、前記フェノールスルホン酸塩の水和物等が挙げられる。これらフェノールスルホン酸ならびにフェノールスルホン酸塩およびこれらの水和物は1種または2種以上を用いることができる。なお、フェノールスルホン酸には、o(オルト)、m(メタ)、p(パラ)の異性体があるが、p(パラ)体が好ましい。
【0020】
上記フェノールスルホン酸ならびにフェノールスルホン酸塩およびこれらの水和物の無電解ニッケル(合金)めっき浴中の含有量は、特に限定はないが、例えば、1g/L~50g/Lであることが好ましく、2g/L~30g/Lであることがより好ましく、3g/L~20g/Lであることが特に好ましい。上記フェノールスルホン酸ならびにフェノールスルホン酸塩およびこれらの水和物の無電解ニッケル(合金)めっき浴中の含有量は、析出速度の点からは7.5g/L~20g/Lが好ましく、特に12.5g/L~17.5g/Lが好ましい。1g/L未満だと十分なめっき析出性向上の効果が得られない可能性があり、50g/Lより多い場合は、過反応による分解が起こる場合がある。
【0021】
本発明の無電解ニッケル(合金)めっき浴が、無電解ニッケル合金めっき浴である場合は、更に、公知の合金化金属塩を含有させることが必要である。この合金化金属塩は、めっき皮膜の硬さ、磁性、延展性、電気抵抗、靭性等の物性を改善させる。このような合金化金属塩の金属は、特に限定されるものではないが、例えば、鉄、銅、スズ、コバルト、タングステン、レニウム、マンガン、パラジウム、バナジウム、亜鉛、クロム、金、銀、白金等が挙げられる。これら合金化金属塩の金属は1種または2種以上を用いることができる。
【0022】
上記合金化金属塩の無電解ニッケル合金めっき浴中の含有量は、特に限定はないが、例えば、合金化金属塩として、0.1g/L~100g/Lであることが好ましく、1g/L~50g/Lであることが特に好ましい。
【0023】
本発明の無電解ニッケル(合金)めっき浴には、上記各必須成分の他、錯化剤を含有させることが好ましい。錯化剤としては、特に限定されないが、種々の無機酸および有機酸が好ましく使用される。具体的な無機酸および有機酸としては、例えば、ホウ酸、ホウ砂等のホウ素化合物;酢酸、プロピオン酸、リンゴ酸、乳酸、コハク酸、マロン酸、アジピン酸、クエン酸、フマル酸、マレイン酸、グルコン酸、グリコール酸、安息香酸、ヒドロキシ安息香酸等のモノカルボン酸化合物、ジカルボン酸化合物またはヒドロキシカルボン酸化合物およびこれらの塩等が挙げられる。これら錯化剤は1種または2種以上を用いることができる。これらの錯化剤の中でもクエン酸、リンゴ酸、コハク酸、マロン酸、フマル酸、マレイン酸、ヒドロキシ安息香酸が好ましく、クエン酸、マレイン酸、フマル酸 、ヒドロキシ安息香酸がより好ましい。
【0024】
上記錯化剤の無電解ニッケル(合金)めっき浴中の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に限定はないが、例えば、1g/L~100g/Lが好ましく、10g/L~50g/Lが特に好ましい。1g/L未満だと、自己分解をしたり、水酸化ニッケルが生成したりする場合がある。また、100g/Lより多い場合は、未反応や充分な反応速度が得られない場合がある。
【0025】
本発明の無電解ニッケル(合金)めっき浴には、更に、安定剤を含有させることができる。安定剤としては特に限定はないが、例えば、ビスマス、モリブデン、アンチモン等が挙げられる。ビスマスとしては、例えば、酸化ビスマス、硫酸ビスマス等が挙げられる。モリブデンとしては、例えば、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、モリブデン酸アンモン等のモリブデン酸塩、モリブデン酸二ナトリウム二水和物等の前記モリブデン酸塩の水和物、モリブデン酸等が挙げられる。アンチモンとしては、例えば、アンチモン酸ナトリウム、アンチモン酸カリウム、アンチモン酸アンモン等のアンチモン酸塩、それらアンチモン酸塩水和物、アンチモン酸、アンチモニル-L-酒石酸、酒石酸アンチモニルカリウム等が挙げられる。これら安定剤は1種または2種以上を用いることができる。
【0026】
上記安定剤の無電解ニッケル(合金)めっき浴中の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に限定はないが、例えば、ビスマスであれば、ビスマス金属に換算して、0.1mg/L~1g/L、好ましくは0.5mg/L~200mg/Lであり、モリブデンはモリブデン金属に換算して、0.1mg/L~1g/L、好ましくは10mg/L~500mg/Lであり、アンチモンはアンチモン金属に換算して、0.1mg/L~1g/L、好ましくは0.5mg/L~200mg/Lである。
【0027】
本発明の無電解ニッケル(合金)めっき浴には、更に、反応促進・応力軽減剤を含有させることができる。反応促進・応力軽減剤としては特に限定はないが、例えば、有機硫黄化合物、無機硫黄化合物等が挙げられる。具体的には、チオ硫酸塩、チオン酸塩、ポリチオン酸塩、チオ尿素、チオシアン酸塩、チオスルホン酸塩、チオ炭酸塩、チオカルバミン酸塩、チオセミカルバジド、スルフィド、ジスルフィド、チオール、メルカプタン、チオグリコール酸、チオジグリコール酸等またはこれらの誘導体等が挙げられる。これら反応促進・応力軽減剤は1種または2種以上を用いることができる。
【0028】
上記反応促進・応力軽減剤の無電解ニッケル(合金)めっき浴中の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に限定はないが、例えば、0.001mg/L~1000mg/L、好ましくは0.01mg/L~100mg/Lである。
【0029】
本発明の無電解ニッケル(合金)めっき浴には、更に、皮膜物性改善剤を含有させることができる。皮膜物性改善剤としては特に限定はないが、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、フッ化ピッチ等のフッ素樹脂若しくはフッ化化合物;ナイロン、ポリエチレン等の有機ポリマー;黒鉛、フッ化黒鉛、二硫化モリブデン、炭化ケイ素、酸化チタン、ダイヤモンド等の無機物;カーボンナノチューブ等、一般に無電解複合めっき浴に用いられる水不溶性の微粒子や短繊維を、1種または2種以上用いることができる。
【0030】
上記皮膜物性改善剤の無電解ニッケル(合金)めっき浴中の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に限定はないが、例えば、0~500g/Lが好ましく、1g/L~10g/Lが特に好ましい。500g/Lより多い場合は、めっき皮膜の良好な析出が得られない場合があり、また皮膜物性改善剤の皮膜中での均一な分散が得られない場合がある。
【0031】
本発明の無電解ニッケル(合金)めっき浴のpHは特に限定はないが、めっき時にpH3~11となるようにすることが好ましく、pH4~10とすることが特に好ましい。無電解めっき浴のpHをこの範囲とすることにより、効率的な金属イオンの還元反応が進行し、無電解めっき皮膜の析出速度が良好となる効果が得られる。めっき浴のpH調整には、塩酸、硫酸等の酸や、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリを、好ましくは水で希釈して適宜添加することができる。
【0032】
なお、本発明においては、アンモニア等の窒素を含有する化合物でpH調整は行わないことが好ましい。また、還元剤等の成分にも窒素を含むアミンボラン類のようなものを使用しないことが好ましい。そうすると、本発明の無電解ニッケル(合金)めっき浴は窒素を実質的に含有しない(窒素フリー)ものとなる。なお、ここで実質的に含有しないとは、全窒素分析(JIS K0102 45.1)で大気中のアンモニア等を考慮して5ppm以下となることをいう。
【0033】
また、本発明の無電解ニッケル(合金)めっき浴は、水銀、ヒ素、カドミウム、鉛を使用しないで建浴できるため、実質的に水銀、ヒ素、カドミウム、鉛を含有しない(規制物質フリー)。本発明の無電解ニッケル(合金)めっき浴は、環境や人体にほとんど影響を及ぼす可能性がなく、規制、ガイドライン等の対象とならない。なお、ここで実質的に含有しないとは、ICP-MS等で測定した場合に、0.1ppm以下となることをいう。
【0034】
本発明の無電解ニッケル(合金)めっき浴の好ましい態様としては以下の組成からなるものが挙げられる。なお、両方のめっき浴は共に、pH調整をアンモニア等の窒素を含有するもので行わず、還元剤、その他の成分にも窒素を含むアミンボラン類のようなものを意図的に使用せず、水銀、ヒ素、カドミウム、鉛を含有する化合物も意図的に含有させない。
【0035】
<無電解ニッケルめっき浴>
水溶性ニッケル塩 0.1g/L~100g/L
還元剤 1g/L~100g/L
フェノールスルホン酸類 1g/L~50g/L
(必要により)錯化剤 1g/L~100g/L
(必要により)安定剤 0.1mg/L~1g/L
(必要により)反応促進・応力軽減剤 0.001mg/L~1000mg/L
pH3~11
【0036】
<無電解ニッケル合金めっき浴>
水溶性ニッケル塩 0.1g/L~100g/L
還元剤 1g/L~100g/L
フェノールスルホン酸類 1g/L~50g/L
合金化金属塩 0.1g/L~100g/L
(必要により)錯化剤 1g/L~100g/L
(必要により)安定剤 0.1mg/L~1g/L
(必要により)反応促進・応力軽減剤 0.001mg/L~1000mg/L
pH3~11
【0037】
本発明の無電解ニッケル(合金)めっき浴は、上記成分を混合、溶解することにより建浴することができる。
【0038】
また、本発明の無電解ニッケル(合金)めっき浴のめっき時の浴の温度については、ニッケルイオンの還元反応が行なわれる温度であれば特に限定はないが、効率の良い還元反応を起こさせるために、15~98℃が好ましく、25~60℃が特に好ましい。
【0039】
以上のようにして得られる本発明の無電解ニッケル(合金)めっき浴を用いためっき方法は、通常の無電解めっき浴を用いためっき方法と同様であれば良く、特に限定はされず、例えば、被めっき物を本発明の無電解ニッケル(合金)めっき浴で処理すればよい。また、本発明の無電解ニッケル(合金)めっき浴で処理する前には、被めっき物を脱脂、水洗、触媒付与、触媒の活性化等を行うことが好ましい。被めっき物を本発明の無電解ニッケル(合金)めっき浴で処理する方法としては特に限定されないが、例えば、建浴した本発明の無電解ニッケル(合金)めっき浴の中に被めっき物を浸漬する方法、建浴した本発明の無電解ニッケル(合金)めっき浴を被めっき物に噴霧する方法等が挙げられる。
【0040】
本発明の無電解ニッケル(合金)めっき浴でめっきできる被めっき物としては、無電解ニッケルがめっきできるものであれば特に限定されないが、例えば、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS)、アクリロニトリル・スチレン共重合体(AS)、ポリカーボネート(PC)、PC/ABS、ポリプロピレン(PP)、ポリアミド(PA)、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)等の樹脂が挙げられる。
【0041】
更に、本発明の無電解ニッケル(合金)めっき浴を用いてめっきを行なうにあたっては、めっきの進行により、金属イオンが還元剤によって金属に還元される結果、めっき液中の金属イオン濃度、還元剤濃度が低下し、またpHも低下することになる。従って、連続的にまたは適当な時間ごとに、無電解ニッケル(合金)めっき浴中に、水溶性ニッケル塩、還元剤、錯化剤、p-フェノールスルホン酸塩、安定剤、pH調整剤等を補給して、それらの濃度をもとの濃度に戻すことが好ましい。連続的にまたは適当な時間ごとに、めっき液中の金属イオン濃度、還元剤濃度やpHを測定し、その測定結果に応じて、それらを補給することも好ましい。
【0042】
本発明の無電解ニッケル(合金)めっきにより無電解ニッケルめっき製品および無電解ニッケル合金めっきが得られる。これらめっき製品は、従来のめっき製品と、皮膜のリン含有量が異なるものである。従来のめっき皮膜はリン含有量が約1~5wt%であるのに対し、本発明のめっき皮膜は7~12wt%である。また、本発明のめっき皮膜は従来のめっき皮膜に比べて硝酸に溶解しにくいという物性を有する。これらのめっき製品は、自動車部品や水栓金具といった意匠部品の下地めっきのほか、プリント基板やITO基板の下地めっき、抵抗体、磁気ディスク、電磁波シールド、微粒子含有複合めっき皮膜の金属マトリックス等の用途に広範囲に使用できるものである。
【実施例0043】
次に、実施例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0044】
実 施 例 1
無電解ニッケルめっき:
ABS樹脂の試験片(サイズ:2mm×60mm×80mm)を、50℃の脱脂液(EBAPREP SK-144:株式会社JCU製)に5分間浸漬して脱脂を行った。この試験片を、68℃に加温された380g/LのCrOおよび380g/Lの濃硫酸を含有する水溶液に10分間浸漬してエッチングした。これを水洗した後、室温で中和(ENILEX RD:株式会社JCU製)を1分間行った。中和後に水洗し、室温で80mL/Lの塩酸に約15秒浸漬した後、35℃の触媒付与(ENILEX CT-806:株式会社JCU製)に3分間浸漬した。これを水で濯ぎ、35℃の80mL/Lの塩酸溶液に3分間浸漬し触媒の活性化を行い、再度水洗を行った。最後に、これを無電解ニッケルめっき浴に浸漬して無電解ニッケルめっきを行った。
【0045】
[無電解ニッケルめっき浴の初期性能の評価]
下記組成で、p-フェノールスルホン酸塩を含む本発明の無電解ニッケルめっき浴を常法に従って調製した。また、比較としてp-フェノールスルホン酸塩を含まないもの及びアンモニアを含有するものを用いた。
【0046】
<無電解ニッケルめっき浴組成(窒素フリー、規制物質フリー)>
硫酸ニッケル六水和物 22g/L
次亜リン酸ナトリウム一水和物 18g/L
酸化ビスマス 6mg/L
錯化剤 適宜
p-フェノールスルホン酸ナトリウム二水和物 表1に記載の量
めっき液のpH** 8.8
アンモニア 表1に記載の量
水酸化ナトリウム 適宜
* 錯化剤はクエン酸、リンゴ酸、コハク酸、マロン酸、フマル酸、マレイン酸、ヒドロキシ安息香酸及びそれらの塩の中から二種以上を組み合わせて、錯化剤の総量が50g/L以下となるように添加した。
**本発明めっき浴(1)~(3)および比較浴(1)は水酸化ナトリウムで調整、比較浴(2)はアンモニアで調整
【0047】
【表1】
【0048】
<めっき条件>
浴温 42℃
攪拌 スターラー攪拌
めっき時間 7分
【0049】
得られた無電解ニッケルめっき皮膜について、蛍光X線膜厚計にて析出速度を測定した。この結果を表2に示す。
【0050】
【表2】
【0051】
表2の結果より、p-フェノールスルホン酸ナトリウム二水和物を含有する本発明めっき浴は、十分使用に耐えうる析出速度が得られることが分かった。特にp-フェノールスルホン酸ナトリウム二水和物を多く配合することにより、アンモニアを配合したものと同等の析出速度を得ることができることが確認された。また、本発明めっき浴はアンモニア特有の刺激臭もなく、使用性もよいことが分かった。
【0052】
実 施 例 2
無電解ニッケルめっき皮膜のリン含有量:
実施例1に記載の方法にて無電解めっきを行った後に、35%硝酸を用いてその皮膜を溶解させ、その溶解液に含まれるニッケル濃度とリン濃度をICP発光分析法で測定し、リン含有量を評価した。
【0053】
本発明めっき浴(2)からはリン含有量8.9wt%の皮膜が得られた。また、比較浴(2)からはリン含有量は3.8wt%の皮膜が得られた。更に、本発明めっき浴(2)から得られた皮膜は、比較浴(2)から得られた皮膜と比べて硝酸に溶解しにくかった。
【0054】
実 施 例 3
無電解ニッケルめっき浴の連続使用試験:
表2の結果から、優れためっき析出性が確認された本発明めっき浴(2)について、連続使用試験を行なった。連続使用試験は、無電解ニッケルめっき浴を、1、2、3ターン連続使用して無電解めっきを行い、下記の判定条件で評価した。
【0055】
<相対析出速度>
各ターン連続使用時の析出速度を、実施例1と同様の方法でそれぞれ測定し、この測定値を下記の判定基準を用いて、実施例1で得られた初期の析出速度に対する各ターン時の析出速度の低下割合を評価した。
【0056】
判 定 析出速度
◎ : 0%~10%低下した
○ : 10%~20%低下した
△ : 20%~25%低下した
× : 25%以上低下した
【0057】
めっき浴の安定性を以下の判定条件を用いて評価した。
<めっき浴安定性の評価方法>
めっき終了時のめっき槽底面の析出物を目視で確認した。
【0058】
判 定 析出物目視確認
◎ : 析出物なし
○ : 直径5mm以下の析出物が確認できた
△ : 直径5mm以上の析出物が確認できた
× : めっき浴が自己分解した
【0059】
なおここで1ターン連続使用とは、無電解ニッケルめっき浴中の初期のニッケルイオン濃度に相当する量のニッケル金属がめっきされるまで連続してめっきを行うことをいう。例えば、無電解ニッケルめっき浴中の初期ニッケルイオン濃度が、M[g/L]であるとした場合、M[g/L]のニッケルがめっきにより析出した時点を1ターンとするものである。よって、この場合には、3ターン連続使用とは、3×M[g/L]のニッケルめっきがなされるまで連続してめっきすることをいう。
【0060】
【表3】
【0061】
実施例3で評価した本発明めっき浴(2)は、3ターンまで良好に無電解ニッケルめっきを続けることができ、連続的に使用しても、析出速度の低下が少なく、浴安定性にも優れたものであった。また、めっきの未析出は確認されなかった。
【0062】
更に、本発明めっき浴(2)は、アンモニア使用の比較めっき浴(2)に比べても、ターン進行時における析出速度の低下が少なく優れていた。また、めっき浴安定性において、めっき浴中の析出物の生成も少なく、アンモニア使用の浴と比較しても遜色のない性能であることが確認された。更に、本発明めっき浴はアンモニア特有の刺激臭もなく、使用性もよいことが分かった。
【0063】
実 施 例 4
無電解ニッケルめっき:
下記組成で、p-フェノールスルホン酸塩を含む本発明の無電解ニッケルめっき浴を常法に従って調製した。
【0064】
<無電解ニッケルめっき浴組成(窒素フリー、規制物質フリー)>
硫酸ニッケル六水和物 20g/L
次亜リン酸ナトリウム一水和物 20g/L
酸化ビスマス 4.8mg/L
錯化剤 適宜
p-フェノールスルホン酸ナトリウム二水和物 10g/L
チオジグリコール酸 95mg/L
めっき液のpH (水酸化ナトリウムで調整) 8.6
* 錯化剤はクエン酸、リンゴ酸、コハク酸、マロン酸、グルコン酸、グリコール酸、ヒドロキシ安息香酸及びそれらの塩の中から二種以上を組み合わせて、錯化剤の総量が50g/L以下となるように添加した。
【0065】
本発明の無電解ニッケルめっき浴は、実施例1および3と同様に無電解ニッケルめっきをし得る。
【0066】
実 施 例 5
無電解ニッケルめっき:
下記組成で、p-フェノールスルホン酸塩を含む本発明の無電解ニッケルめっき浴を常法に従って調製した。
【0067】
<無電解ニッケルめっき浴組成(窒素フリー、規制物質フリー)>
硫酸ニッケル六水和物 24g/L
次亜リン酸ナトリウム一水和物 20g/L
モリブデン酸二ナトリウム二水和物 126mg/L
錯化剤 適宜
p-フェノールスルホン酸ナトリウム二水和物 20g/L
めっき液のpH(水酸化ナトリウムで調整) 9.2
* 錯化剤はクエン酸、コハク酸、酢酸、乳酸、マロン酸、ヒドロキシ安息香酸及びそれらの塩の中から二種以上を組み合わせて、錯化剤の総量が50g/L以下となるように添加した。
【0068】
本発明の無電解ニッケルめっき浴は、実施例1および3と同様に無電解ニッケルめっきをし得る。
【0069】
実 施 例 6
無電解ニッケル合金めっき:
下記組成で、p-フェノールスルホン酸塩を含む本発明の無電解ニッケル合金めっき浴を常法に従って調製した。
【0070】
<無電解ニッケル合金めっき浴組成(窒素フリー、規制物質フリー)>
硫酸ニッケル六水和物 19g/L
硫酸銅五水和物 0.75g/L
次亜リン酸ナトリウム一水和物 20g/L
酸化ビスマス 3.6mg/L
錯化剤 適宜
p-フェノールスルホン酸ナトリウム二水和物 15g/L
めっき液のpH(水酸化ナトリウムで調整) 9.4
* 錯化剤はクエン酸、リンゴ酸、コハク酸、マロン酸、フマル酸、マレイン酸、ヒドロキシ安息香酸及びそれらの塩の中から二種以上を組み合わせて、錯化剤の総量が50g/L以下となるように添加した。
【0071】
本発明の無電解ニッケル合金めっき浴は、実施例1および3と同様に無電解ニッケル合金めっきをし得る。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の無電解ニッケル(合金)めっき浴は、無電解ニッケル(合金)めっきに利用できるものである。
以 上