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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022134966
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/02 20060101AFI20220908BHJP
   F02D 29/00 20060101ALI20220908BHJP
   F16H 59/08 20060101ALI20220908BHJP
   F16H 59/42 20060101ALI20220908BHJP
   F16H 59/46 20060101ALI20220908BHJP
   F16H 61/682 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
F16H61/02
F02D29/00 G
F02D29/00 C
F02D29/00 F
F16H59/08
F16H59/42
F16H59/46
F16H61/682
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021034500
(22)【出願日】2021-03-04
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001520
【氏名又は名称】弁理士法人日誠国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 勇亮
【テーマコード(参考)】
3G093
3J552
【Fターム(参考)】
3G093AA05
3G093BA03
3G093CB08
3G093DA06
3G093DB01
3G093DB05
3G093DB10
3G093DB11
3G093DB15
3G093EA03
3G093EB03
3J552MA04
3J552MA13
3J552NA01
3J552NB01
3J552NB06
3J552NB07
3J552NB09
3J552PA03
3J552PB10
3J552RA22
3J552RB07
3J552SA26
3J552SB02
3J552SB38
3J552VA32W
3J552VA37W
3J552VA64W
(57)【要約】
【課題】変速機の同期完了を正確に判定できる車両の制御装置を提供すること。
【解決手段】ECUは、進行方向が反転する変速段へのシフト操作が車両の走行中に行われた場合(ステップS2でYES)は、回転数が所定の反転確認回転数以下に一旦低下した(ステップS5でYES)後に、目標シンクロ回転数と一致した場合(ステップS9でYES)に、変速機4の同期が完了したと判断する(ステップS11)。反転確認回転数は、目標シンクロ回転数よりも小さい値に設定されている。反転確認回転数は、目標シンクロ回転数から所定の第1速度差を減算した値であり、ECUは、クラッチ7の回転数と目標シンクロ回転数との回転数差が、第1速度差よりも小さい第2速度差以下になった場合に、変速機4の同期が完了したと判断する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラッチを介してエンジンから動力が伝達され、シフト操作により変速段を切替可能な変速機と、
前記クラッチの回転数が、変更先の変速段と車速とに基づいて決定される所定の目標シンクロ回転数と一致した場合に、前記変速機の同期が完了したと判断する制御部と、を備える車両の制御装置であって、
前記制御部は、進行方向が反転する変速段へのシフト操作が車両の走行中に行われた場合は、前記回転数が所定の反転確認回転数以下に一旦低下した後に前記目標シンクロ回転数と一致した場合に、前記変速機の同期が完了したと判断することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記反転確認回転数は、前記目標シンクロ回転数よりも小さい値に設定されていることを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記反転確認回転数は、前記目標シンクロ回転数から所定の第1速度差を減算した値であり、
前記制御部は、前記回転数と前記目標シンクロ回転数との回転数差が、前記第1速度差よりも小さい第2速度差以下になった場合に、前記変速機の同期が完了したと判断することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、内燃機関に前後進切換装置の前進クラッチを介して接続されるベルト式のCVT(無段変速機)を備えた車両の制御装置において、検出された前進クラッチの入力軸の回転数と出力軸の回転数が回転方向も含めて一致したとき、前進クラッチが締結されたと判断し、その判断結果に応じてCVTのベルト伝達トルク指令値を決定し、エンジンの出力トルクを低減することが記載されている。これにより、特許文献1に記載のものは、クラッチの締結状態を精度良く判断できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-090931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、平行軸歯車式の変速機とエンジンとの間にクラッチを備える車両にあっては、変速機の内部の同期機構(シンクロ機構)の同期が完了した後にクラッチを締結する必要がある。つまり、クラッチを締結して駆動力の伝達が開始される前に、同期機構の同期が完了し歯車が軸と一体回転するように変速段が成立している必要がある。そして、同期の完了は、クラッチの回転数(回転速度)が同期させようとしている変速段の変速比と車速とから決定される回転数(目標シンクロ回転数)と回転方向も含めて一致した場合に、同期が完了したと判定することが出来る。
【0005】
しかしながら、上述したような変速機における同期判定は、特許文献1に記載の車両の制御装置のように各回転要素の回転方向を検出可能な構成であれば問題ないが、各回転要素の回転方向を検出できない安価なセンサを用いる構成の場合には、次のような不具合が発生する。
【0006】
すなわち、各回転要素の回転方向を検出できない構成の場合、変速機の同期判定を行うにあたり、各回転要素が異なる回転方向に同じ回転数で回転する状況では、同期が完了したと誤判定してしまうおそれがある。
【0007】
そこで、本発明は、安価なセンサを用いる構成であっても変速機の同期完了を正確に判定できる車両の制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため本発明は、クラッチを介してエンジンから動力が伝達され、シフト操作により変速段を切替可能な変速機と、前記クラッチの回転数が、変更先の変速段と車速とに基づいて決定される所定の目標シンクロ回転数と一致した場合に、前記変速機の同期が完了したと判断する制御部と、を備える車両の制御装置であって、前記制御部は、進行方向が反転する変速段へのシフト操作が車両の走行中に行われた場合は、前記回転数が所定の反転確認回転数以下に一旦低下した後に前記目標シンクロ回転数と一致した場合に、前記変速機の同期が完了したと判断することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
このように、本発明によれば、変速機の同期完了を正確に判定できる車両の制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の一実施例に係る車両の概略構成図である。
図2図2は、本発明の一実施例に係る車両のシンクロ完了判定動作の手順を示すフローチャートである。
図3図3は、本発明の一実施例に係る車両の制御装置のシンクロ完了判定動作の実行時の車両状態の推移を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施の形態に係る車両の制御装置は、クラッチを介してエンジンから動力が伝達され、シフト操作により変速段を切替可能な変速機と、前記クラッチの回転数が、変更先の変速段と車速とに基づいて決定される所定の目標シンクロ回転数と一致した場合に、前記変速機の同期が完了したと判断する制御部と、を備える車両の制御装置であって、前記制御部は、進行方向が反転する変速段へのシフト操作が車両の走行中に行われた場合は、前記回転数が所定の反転確認回転数以下に一旦低下した後に前記目標シンクロ回転数と一致した場合に、前記変速機の同期が完了したと判断することを特徴とする。
【0012】
これにより、本発明の一実施の形態に係る車両の制御装置は、変速機の同期完了を正確に判定できる。
【実施例0013】
以下、図面を参照して、本発明の実施例に係る制御装置を搭載した車両について詳細に説明する。なお、以下の説明で使用する回転数は、回転速度(rpm)を示す。
【0014】
図1において、本発明の一実施例に係る車両1は、エンジン2と、走行用のモータジェネレータ3と、変速機4と、ディファレンシャル5と、駆動輪6と、制御部としてのECU(Electronic Control Unit)10と、を含んで構成されている。
【0015】
エンジン2には、複数の気筒が形成されている。本実施例において、エンジン2は、各気筒に対して、吸気行程、圧縮行程、膨張行程および排気行程からなる一連の4行程を行うように構成されている。
【0016】
エンジン2には、ISG(Integrated Starter Generator)20が連結されている。ISG20は、ベルト21などを介してエンジン2のクランクシャフトに連結されている。ISG20は、電力が供給されることにより回転してエンジン2を回転駆動させる電動機の機能と、クランクシャフトから入力された回転力を電力に変換する発電機の機能とを有する。
【0017】
モータジェネレータ3は、インバータ30を介してバッテリ31から供給される電力によって車両の駆動力を発生する電動機としての機能と、ディファレンシャル5を介して駆動輪6から入力される回転力(逆駆動力)によって回生発電を行う発電機としての機能とを有する。
【0018】
インバータ30は、ECU10の制御により、バッテリ31から供給された直流電力を三相の交流電力に変換してモータジェネレータ3に供給したり、モータジェネレータ3によって生成された三相の交流電力を直流電力に変換してバッテリ31を充電したりする。バッテリ31は、例えばリチウムイオン電池などの二次電池によって構成されている。
【0019】
変速機4は、エンジン2からクラッチ7を介して入力軸8に入力される回転を複数の変速段のいずれかに応じた変速比で変速して出力軸9から出力する。本実施例では、変速機4は、平行軸歯車式の手動変速機の構造を元に変速操作を自動化したAMT(Automated Manual Transmission)により構成されている。詳細には、変速機4は、自動で変速を行うことも、運転者が後述するシフトレバー40やクラッチペダル71を用いて所謂手動変速機の様に変速操作をすることも出来る変速機である。以後、説明を容易にするために、前進の変速段をDレンジ(1/2/3/4/5/6速段)とし、後進の変速段をRレンジ(後進段)とする。
【0020】
変速機4の変速段は、シフトアクチュエータ44によって切り替えられる。シフトアクチュエータ44は、ECU10に接続され、ECU10によって制御されるようになっている。変速機4の出力軸9は、ディファレンシャル5を介して左右の駆動輪6に接続されている。モータジェネレータ3の出力軸は、変速機4の出力軸9に接続されている。このように、車両1は、エンジン2とモータジェネレータ3との少なくとも一方の駆動力により走行可能なハイブリッド車両として構成されている。
【0021】
変速機4で成立可能な変速段としては、例えば低速段である1速段から高速段である6速段までの前進用の変速段(Dレンジ)と、後進用の変速段(Rレンジ)とがある。走行用の変速段の段数は、車両1の諸元により異なり、上述の1速段から6速段に限られるものではない。変速機4は、前進用の変速段だけでなく、後進用の変速段にも同期機構(シンクロメッシュ)を備えている。
【0022】
変速機4における変速段は、運転者により操作されるシフトレバー40の操作位置に応じて切り替えられるようになっている。シフトレバー40の操作位置は、シフトポジションセンサ41により検出される。シフトポジションセンサ41は、ECU10に接続されており、検出結果をECU10に送信するようになっている。
【0023】
本実施例では、シフトレバー40の操作位置には、駐車位置であるPレンジと、後進位置であるRレンジと、ニュートラル位置であるNレンジと、前進位置であるDレンジとが設けられている。
【0024】
例えば、ドライバがシフトレバー40をDレンジに設定している場合、ECU10は、アクセル開度センサ91の検出信号等に応じて、シフトアクチュエータ44およびクラッチアクチュエータ70を駆動し、1速段から6速段の前進用の各変速段の間で変速を行う。
【0025】
また、ドライバがシフトレバー40をDレンジからRレンジに切り替えた場合、ECU10は、シフトアクチュエータ44およびクラッチアクチュエータ70を駆動し、前進用の変速段から後進用の変速段への変速段の切り替えを行う。
【0026】
本実施例におけるDレンジおよびRレンジは、車両の走行が可能なシフト位置であり、本発明における走行位置を構成する。また、本発明におけるPレンジおよびNレンジは、エンジン2の始動が可能なシフト位置であり、本発明における始動位置を構成する。
【0027】
変速機4には、ニュートラルスイッチ42が設けられている。ニュートラルスイッチ42は、ECU10に接続されている。ニュートラルスイッチ42は、変速機4においていずれの変速段も成立していない状態、つまりニュートラル状態であることを検出するもので、変速機4がニュートラル状態にあるときにONされるスイッチである。
【0028】
エンジン2と変速機4との間の動力伝達経路には、クラッチ7が設けられている。クラッチ7としては、例えば乾式単板の摩擦クラッチを用いることができる。エンジン2と変速機4とは、クラッチ7を介して接続されている。
【0029】
このように、変速機4は、クラッチ7を介してエンジン2から動力が入力軸8に伝達され、シフト操作により変速段を切替可能に構成されている。クラッチ7はクラッチディスクを備えており、クラッチディスクと変速機4の入力軸8とは、相互に連結されており、一体的に回転する。したがって、クラッチディスクの回転数(以下、クラッチ7の回転数という)は変速機4の入力軸8の回転数と等しい。
【0030】
クラッチ7は、クラッチアクチュエータ70によって作動され、エンジン2と変速機4との間で動力を伝達する係合状態と、動力を伝達しない開放状態と、回転差のある状態でトルクが伝達される半クラッチ状態と、のいずれかに切り替えられるようになっている。クラッチアクチュエータ70は、ECU10に接続され、ECU10によって制御されるようになっている。
【0031】
クラッチ7には回転数センサ43が設けられており、この回転数センサ43はクラッチ7の回転数を検出する。回転数センサ43は、ECU10に接続されており、検出結果をECU10に送信するようになっている。しかし、この回転数センサ43は、クラッチ7の回転方向を検出できない安価なセンサである。
【0032】
ECU10は、運転者により操作されるクラッチペダル71の踏み込み量に応じてクラッチアクチュエータ70を制御し、クラッチ7をマニュアルクラッチと同等の動作となるように制御する。また、ECU10は、運転者のクラッチペダル71の操作に係らずクラッチアクチュエータ70を制御し、クラッチ7の状態を変更することが出来る。
【0033】
クラッチペダル71の踏み込み量は、クラッチペダルセンサ72によって検出される。クラッチペダルセンサ72は、ECU10に接続されており、クラッチペダル71の踏み込み量に応じた信号をECU10に送信するようになっている。
【0034】
車両1は、運転者により操作されるアクセルペダル90を備えている。アクセルペダル90の踏み込み量は、アクセル開度センサ91によって検出される。アクセル開度センサ91は、ECU10に接続されており、アクセルペダル90の踏み込み量をアクセル開度として検出し、当該アクセル開度に応じた信号をECU10に送信するようになっている。
【0035】
車両1は、運転者により操作されるブレーキペダル92を備えている。ブレーキペダル92の踏み込み量は、ブレーキペダルセンサ93によって検出される。ブレーキペダルセンサ93は、ECU10に接続されており、ブレーキペダル92の踏み込み量に応じた信号をECU10に送信するようになっている。
【0036】
ECU10は、CPU(Central Processing Unit)と、RAM(Random Access Memory)と、ROM(Read Only Memory)と、バックアップ用のデータなどを保存するフラッシュメモリと、入力ポートと、出力ポートとを備えたコンピュータユニットによって構成されている。
【0037】
コンピュータユニットのROMには、各種定数や各種マップ等とともに、当該コンピュータユニットをECU10として機能させるためのプログラムが格納されている。すなわち、CPUがRAMを作業領域としてROMに格納されたプログラムを実行することにより、コンピュータユニットは、本実施例におけるECU10として機能する。
【0038】
ECU10には、上述したセンサ類のほか、車速センサ11が接続されている。車速センサ11は、車両1の車速を検出し、検出結果をECU10に送信するようになっている。
【0039】
ECU10は、車両1の制御モードを切り替えるようになっている。本実施例における制御モードとしては、EVモードとHEVモードとが設定されている。
【0040】
EVモードは、クラッチ7を開放状態とし、モータジェネレータ3の動力により車両1を走行させる制御モードである。HEVモードは、クラッチ7を係合状態とし、エンジン2、又はエンジン2及びモータジェネレータ3の動力により車両1を走行させる制御モードである。
【0041】
ECU10は、例えば、アクセル開度とエンジン回転数に基づいてEVモードとHEVモードとを切り替える。
【0042】
ECU10は、例えば、EVモードの走行時に、アクセル開度で決まるドライバ要求トルクがHEV移行閾値を超えた場合、エンジン2を再始動してHEVモードに移行する。
【0043】
ECU10は、例えば、HEVモードの走行時に、アクセル開度とエンジン回転数で決まるドライバ要求トルクがEV移行閾値を下回った場合、エンジン2を停止してEVモードに移行する。
【0044】
ECU10は、変速機4の内部の変速段の切り替えを行う場合、クラッチアクチュエータ70を駆動してクラッチ7を開放し、変速機4の変速段の変更を行う。
【0045】
ECU10は、クラッチ7の回転数が、変更先の変速段と車速とに基づいて決定される所定の目標シンクロ回転数と一致した場合に、変速機4の同期が完了したと判断する。そして、ECU10は、変速機4の同期が完了したと判断した後にクラッチ7を締結する。
【0046】
ここで目標シンクロ回転数とは、走行している車両1の駆動輪6の回転数から、ディファレンシャル5や変速機4等の動力伝達経路の変速比を考慮して計算されるクラッチ7の回転数のことである。つまり、目標シンクロ回転数とは、駆動輪6が回転している状態で、変速動作中の変更先の動力伝達経路を構成する歯車が同期機構の作用によって軸と同じ回転になった時の入力軸8およびクラッチ7の回転数であって、駆動輪6の回転数から逆算される入力軸8およびクラッチ7の回転数である。
【0047】
なお、ECU10は、クラッチ7を締結するにあたり、エンジン回転数が目標シンクロ回転数になるようにエンジン2を制御することもできる。これにより、エンジン回転数がクラッチ7の回転数と一致した状態でスムーズにクラッチ7を締結することができる。
【0048】
本実施例では、変速機4は、前進用の変速段だけでなく後進用の変速段にも同期機構を備えており、車両1が停止してない状態であっても変速機4を後進用の変速段に切り替えることができる。
【0049】
このため、ガレージに車両1を駐車するような状況において、車両1がDレンジで微速前進走行中にドライバがRレンジに切り替えた場合であっても、ECU10は、変速機4を後進用の変速段に切り替えるようになっている。同様に、Rレンジで車両1が微速後進走行中にドライバがDレンジに切り替えた場合にも、ECU10は、変速機4を前進用の変速段に切り替えるようになっている。
【0050】
ここで、例えば、変速機4が前進用の変速段から後進用の変速段に切り替えられる場合、同期機構の働きにより、開放されたクラッチ7の回転数は徐々に低下し、瞬間的に回転が止まり、その後、回転方向が逆転方向に反転する。その後、クラッチ7の逆転方向の回転数は上昇し、所定の目標シンクロ回転数に到達して後進用の変速段の同期が完了する。
【0051】
クラッチ7の回転方向が反転する変速が行われる際に、仮にクラッチ7の回転数だけを参照して同期の完了を判定すると、クラッチ7の回転方向が異なるが回転数が目標シンクロ回転数と一致する状況が発生するため、誤って同期の完了が判定されることになる。同期が完了していると誤判定された場合、同期が完了していないにもかかわらずクラッチ7が締結されてしまい、同期機構に大きな負荷が掛かったり、車両1に大きなショックが発生してしまう。
【0052】
そこで、本実施例において、ECU10は、進行方向が反転する変速段へのシフト操作が車両の走行中に行われた場合は、クラッチ7の回転数が所定の反転確認回転数以下に一旦低下した後に目標シンクロ回転数と一致した場合に、変速機4の同期が完了したと判断する。
【0053】
つまり、本実施例では、進行方向が反転する変速段へのシフト操作が車両の走行中に行われた場合は、クラッチ7の回転数が所定の反転確認回転数以下に一旦低下したことを、同期完了判定の条件に追加している。
【0054】
本実施例では、反転確認回転数は、目標シンクロ回転数よりも小さい値に設定されている。詳しくは、反転確認回転数は、目標シンクロ回転数から所定の第1速度差を減算した値(回転数)に設定されている。反転確認回転数は、クラッチ7の回転数が一旦0rpmに低下して回転方向が反転(逆転)したことを確認できるように、十分に小さい回転数に設定されている。つまり、反転確認回転数は、目標シンクロ回転数よりも確実に回転数が低下したことを確認できる値であって、反転確認回転数よりも低い逆回転の時に必ず通過する0rpm側への回転数の低下を確実に検出するために必要な時間を考慮して決められている。
【0055】
そして、ECU10は、クラッチ7の回転数と目標シンクロ回転数との回転数差が、第1速度差よりも小さい第2速度差以下になった場合に、変速機4の同期が完了したと判断する。つまり、ECU10は、クラッチ7の回転数が目標シンクロ回転数に完全に一致していない場合であっても、一致したと見なせる程度に双方の回転数差が十分に小さくなった場合は変速機4の同期が完了したと判断する。
【0056】
以上のように構成された本実施例に係る制御装置によるシンクロ完了判定動作について、図2を参照して説明する。このシンクロ完了判定動作は、変速機4の変速が行われるときに短い周期で繰り返し実行される。
【0057】
ECU10は、ステップS1において、変速動作中におけるシンクロフェーズ中であるか否かを判断し、シンクロフェーズ中ではない場合は今回の動作を終了する。シンクロフェーズ中とは、変速機4の変速段を切り替える時の同期機構の作動中のことをいう。一方、ECU10は、シンクロフェーズ中である場合は、ステップS2に進み、変速動作がドライバのシフトレバー操作に基づくレンジ変更(R→D、D→R)動作であるか否かを判断する。
【0058】
ECU10は、ドライバのシフトレバー操作に基づくレンジ変更(R→D、D→R)動作ではない場合、ステップS3に進んで従来のシンクロ判定を使用し、今回の動作を終了する。従来のシンクロ判定とは、クラッチ7の回転数が目標シンクロ回転数と一致した場合に変速機4の同期が完了したと判断する手法である。一方、ECU10は、ドライバのシフトレバー操作に基づくレンジ変更(R→D、D→R)動作である場合、ステップS4に進んで現在の車速が所定値V以上であるか否かを判断する。ここで所定値Vは、車両がほぼ停止しているとみなせる速度であり、同期機構が瞬時に同期を完了できる速度が設定される。
【0059】
車速が所定値V以上でない場合は、同期機構に負担を掛けることなく同期を完了できるので、ステップS3に進んで従来のシンクロ判定を使用し、今回の動作を終了する。一方、ECU10は、車速が所定値V以上である場合、ステップS5に進んで目標シンクロ回転数を算出する。
【0060】
次いで、ECU10は、ステップS6でクラッチ回転数の低下判定が成立済か否かを判断する。ここでは、ECU10は、前回の制御周期におけるステップS7、S8の判定にてYES判定されS9の「クラッチ回転数の低下判定が成立」のフラグが出ているか否かを判断する。
【0061】
ステップS6でクラッチ回転数の低下判定が成立済ではない場合、ECU10は、ステップS7で、クラッチ回転数が目標シンクロ回転数から第1速度差としての閾値1を減算した値以下となる状態が、所定時間経過したか否かを判断する。つまり、ステップS7において、ECU10は、クラッチ回転数の低下判定として、クラッチ7の回転数が所定の反転確認回転数以下に一旦低下したか否かを判断する。更に、低下した状態が所定時間経過したかを確認することで、信号の異常等に左右されずにより確実に回転の低下を判定することができる。
【0062】
ステップS7の判別がYESの場合、ECU10は、ステップS9でクラッチ回転数の低下判定が成立したと判断し、成立のフラグを立てて今回の動作を終了する。
【0063】
一方、ステップS7の条件を満たさない場合、ECU10は、ステップS8でクラッチ回転数が目標シンクロ回転数から閾値1を減算した値を超える状態(つまり、減算した値以下にならない状態)が所定時間経過したか否かを判断し、この条件を満たさない場合は今回の動作を終了する。
【0064】
一方、ステップS8の条件を満たす場合、ECU10は、ステップS9でクラッチ回転数の低下判定が成立したと判断し、成立のフラグを立てて今回の動作を終了する。ステップS8は制御の停止を防止するためのタイムアウト判定として実行されている。
【0065】
ECU10は、ステップS5でクラッチ回転数の低下判定が成立済の場合、ステップS10で、クラッチ回転数が目標シンクロ回転数から第2速度差としての閾値2を減算した値以上で、かつ、目標シンクロ回転数に閾値2を足した値以下の状態が、所定時間経過したか否かを判断し、この条件を満たす場合はステップS11でシンクロ完了したと判断し、今回の動作を終了する。このように、ECU10は、クラッチ7の回転数が目標シンクロ回転数に対して正負のそれぞれで第2速度差の範囲内に所定時間入った場合、変速機4の同期が完了したと判断する。そして、ECU10は、変速機4の同期が完了したと判断した後にクラッチ7を締結する。
【0066】
このようなシンクロ完了判定動作の実行時の車両状態の推移について図3を参照して説明する。図3の縦軸は、上から、シフトレバー40のシフト位置、車速、変速状態、クラッチ位置(クラッチ7の締結状態)、クラッチ回転数を表しており、横軸は時間の推移を表している。なお、変速状態とは、変速機4の内部の変速段の切り替えに関する状態を表している。
【0067】
時刻t0の初期状態において、シフトレバー40はDレンジに設定されおり、車両1はHEVモードでエンジン2を使用して所定速度V以上の速度で前進走行している。また、変速機4の変速状態は変速中ではなく、クラッチ7は締結されている。
【0068】
その後、時刻t1において、ドライバがシフトレバー40をRレンジに切り替えたことにより、変速段の切替が開始されクラッチ7が開放され始める。
【0069】
その後、時刻t2において、クラッチ7の開放が完了し、変速状態が、前進の変速段からのギヤ抜きが開始される。その後、変速状態は、時刻t3でギヤ抜きが完了しセレクトの状態となり、時刻t4でセレクトが完了しギヤ締結動作が開始される。
【0070】
ここで、ギヤ抜きとは、変速機4の内部の作動部品が変速前の変速段からニュートラルへシフト方向に移動することをいう。セレクトとは、作動部品が変更先の変速段に係る位置へセレクト方向に移動することをいう。ギヤ締結とは、作動部品が変更先の変速段へシフト方向に移動することをいう。ギヤ締結動作が開始されることにより同期機構の同期(シンクロ)が実施され、同期が完了すると変速機4における動力伝達経路が成立する。
【0071】
クラッチ回転数は、時刻t2でクラッチ7の開放が完了しギヤ抜きが終了することで駆動力を失って低下し、時刻t4で同期機構の同期(シンクロ)が実施され始めることで回転にブレーキがかかり急速に回転数が低下する。そして、時刻t5でクラッチ回転数は反転確認回転数にまで低下し、その後更に低下を続けて一旦0rpmにまで低下する。その後に、クラッチ7は回転方向が反転して回転数が上昇し、時刻t6で反転確認回転数以上に上昇する。
【0072】
その後、時刻t7で、クラッチ回転数が目標シンクロ回転数とほぼ一致し、変速機4の同期完了が判定され、ギヤ締結が完了する。なお、同期完了の判定は、クラッチ回転数が目標シンクロ回転数から上下に所定の閾値2の速度差の範囲となることで同期完了を判定する。そして、同期が完了した時刻t7からクラッチ7が締結され始める。これにより、変速機4の変速状態は変速中ではない状態(シンクロフェーズ中でない状態)となる。また、クラッチ7の締結が始まり、徐々にエンジン2の駆動力が伝えられることにより、車両1の前進速度は低下し、その後、後退に転じ車速は変更先の変速段のギヤ比等に応じた速度となる。
【0073】
時刻t8でクラッチ7の締結が完了する。この時刻t8では、変速に関する制御が終了し、車速は後進方向を表す負の値であり、車両1は後進する。
【0074】
以上のように、本実施例では、ECU10は、進行方向が反転する変速段へのシフト操作が車両の走行中に行われた場合は、クラッチ7の回転数が所定の反転確認回転数以下に一旦低下した後に目標シンクロ回転数と一致した場合に、変速機4の同期が完了したと判断する。
【0075】
これにより、例えば、ドライバがDレンジからRレンジへのシフト操作を走行中に行った場合、本実施例のECU10は、進行方向が反転する変速段へのシフト操作が車両の走行中に行われたことを判断できる。そして、クラッチ7の回転数が所定の反転確認回転数以下に一旦低下して回転を再開した場合、ECU10は、クラッチ7の回転数が逆方向に回転を始めたと判断する。その後、クラッチ7の回転数が目標シンクロ回転数と一致した場合に、ECU10は、変速機4の同期が完了したと判断する。
【0076】
したがって、クラッチ7の回転方向が反対方向にも関わらず回転数が目標シンクロ回転数と一致したことにより変速機4の同期が完了したと誤判定されることが防止される。この結果、変速機4の同期完了を正確に判定できる。
【0077】
また、本実施例では、反転確認回転数は、目標シンクロ回転数よりも小さい値に設定されている。これにより、クラッチ7の回転数が、確実に目標シンクロ回転数よりも小さい値に一旦なっていることになり、確実にクラッチ7の回転方向が反転した後に同期の判定ができる。
【0078】
なお、反転確認回転数は、車速の所定値Vに相当する駆動輪6の回転数から逆算される入力軸8およびクラッチ7の回転数よりも早い回転数に設定されている。これにより、クラッチ7の回転数が0rpmとなって反転する瞬間を検知することが困難であっても、ECU10は、クラッチ7の回転方向の反転を確認可能な0rpm付近等の十分に低い回転数まで低下したことを検知できる。
【0079】
また、本実施例では、反転確認回転数は、目標シンクロ回転数から所定の第1速度差を減算した値であり、ECU10は、クラッチ7の回転数と目標シンクロ回転数との回転数差が、第1速度差よりも小さい第2速度差以下になった場合に、変速機4の同期が完了したと判断する。
【0080】
これにより、第1速度差を適切な値に設定することで、ECU10は、クラッチ7の回転方向の反転を確実に検出できる。また、クラッチ7の回転数が目標シンクロ回転数に対して正負のそれぞれで第2速度差の範囲内に入ったときに変速機4の同期の完了を判断できるので、変速機4の同期の完了を速やかに判断できる。
【0081】
本発明の実施例を開示したが、当業者によっては本発明の範囲を逸脱することなく変更が加えられうることは明白である。すべてのこのような修正及び等価物が次の請求項に含まれることが意図されている。
【符号の説明】
【0082】
1 車両
2 エンジン
4 変速機
7 クラッチ
10 ECU(制御部)
図1
図2
図3