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特開2022-134973ハイブリッド液晶化合物、そのハイブリッド液晶化合物を含有する液晶組成物、および、その液晶組成物を用いた液晶表示素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022134973
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】ハイブリッド液晶化合物、そのハイブリッド液晶化合物を含有する液晶組成物、および、その液晶組成物を用いた液晶表示素子
(51)【国際特許分類】
   C09K 19/14 20060101AFI20220908BHJP
   C09K 19/34 20060101ALI20220908BHJP
   C09K 19/30 20060101ALI20220908BHJP
   C09K 19/20 20060101ALI20220908BHJP
   C09K 19/18 20060101ALI20220908BHJP
   G02F 1/13 20060101ALI20220908BHJP
   G02F 1/137 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
C09K19/14
C09K19/34
C09K19/30
C09K19/20
C09K19/18
G02F1/13 500
G02F1/137
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021034510
(22)【出願日】2021-03-04
(71)【出願人】
【識別番号】521051842
【氏名又は名称】株式会社JACTAコラボレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110002435
【氏名又は名称】特許業務法人井上国際特許商標事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077919
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 義雄
(74)【代理人】
【識別番号】100172638
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 隆治
(74)【代理人】
【識別番号】100153899
【弁理士】
【氏名又は名称】相原 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100159363
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 淳子
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼津 晴義
【テーマコード(参考)】
2H088
4H027
【Fターム(参考)】
2H088JA03
2H088KA06
2H088KA26
2H088KA27
4H027BA01
4H027BB03
4H027BB04
4H027BB13
4H027BC05
4H027BD02
4H027BD03
4H027BD07
4H027BD09
4H027BE04
4H027CD01
4H027CE04
4H027CE05
4H027CH04
4H027CM05
4H027CN04
4H027CN05
4H027CQ05
4H027CR04
4H027CT01
4H027CT03
4H027CT04
4H027CT05
4H027CW01
4H027CW03
(57)【要約】      (修正有)
【課題】応答性、透過性等の性能を向上させることができ、且つ、工程中の組成変化を抑制できる化合物、その化合物を用いた液晶組成物および液晶表示素子の提供。
【解決手段】1分子中に2つ以上の炭素数をもつメチレンスペーサーによって区切られた2つの部位から成り、一方の部位は少なくとも2つ以上のフルオロ基を備え、双極子モーメントのベクトル和がその分子軸に対して垂直方向に向かうよう構成されているネガ型であり、もう一方の部位は少なくとも1つ以上のフルオロ基を備え、双極子モーメントのベクトル和はその分子軸に対して水平方向に向かうよう構成されているポジ型であり、ネガ型またはポジ型の機能を有するハイブリッド液晶化合物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも炭素原子をもつ所定のスペーサーによって区切られた2つの部位から成り、前記スペーサーおよび各々の前記部位の結合部から、各々の前記部位の末端へ向かう方向に沿った分子軸がそれぞれ規定される化合物であって、
前記スペーサーは、
1分子中に2つ以上の炭素数をもつメチレンスペーサーであり、
前記メチレンスペーサーによって区切られた2つの前記部位のうちの一方は、
少なくとも2つ以上のフルオロ基を備え、
前記一方の部位における双極子モーメントのベクトル和が、前記一方の部位にて規定される前記分子軸に対して垂直方向に向かうよう構成されており、且つ、前記一方の部位における誘電率異方性が負となるネガ型であり、
前記メチレンスペーサーによって区切られた2つの前記部位のうちの他方は、
少なくとも1つ以上のフルオロ基を備え、
前記他方の部位における双極子モーメントのベクトル和が、前記他方の部位にて規定される前記分子軸に対して水平方向に向かうよう構成されており、且つ、前記他方の部位における誘電率異方性が正となるポジ型であり、
液晶組成物に用いられ、前記ネガ型または前記ポジ型の機能を有することを特徴とする化合物であるハイブリッド液晶化合物。
【請求項2】
前記メチレンスペーサーによって区切られた2つの前記部位から成る前記ハイブリッド液晶化合物として、
下記の一般式(1)
【化1】
(式中、Rは炭素原子数1から9のアルキル基又はアルコキシ基又は炭素原子数2から9のアルケニル基又はアルケニルオキシ基を表し、RはF、Cl、OCF、OCFH、OCFH又はCFを表し、RはF、又はHを表し、aおよびcは0、1、又は2を表し、bは0または1を表し、
環Aは、下記の構造式(a-1)から構造式(a-4)のうちのいずれかを表し、
【化2】
環Bは、下記の構造式(b-1)から構造式(b-6)のうちのいずれかを表し、
【化3】
は各々独立して-CHO-、-OCH-、-COO-、-OCO-、-C≡C-又は単結合を表わし、Zは-CFO-、-OCF-、-CHO-、-OCH-、-COO-、-C≡C-又は単結合を表わし、連結基Xは、―(CH)n―、―O―(CH)n―O-、―O―(CH)n―、又は―(CH)n―O-を表し、nは2から10を表す。)で表され、
2つの前記部位のうちの前記一方は、
前記一般式(1)において、前記連結基Xが含む前記メチレンスペーサーの一端と結合する原子から前記R1を末端とする一連の部位であり、
2つの前記部位のうちの前記他方は、
前記一般式(1)において、前記連結基Xが含む前記メチレンスペーサーの他端と結合する原子から前記R2を末端とする一連の部位である請求項1に記載のハイブリッド液晶化合物。
【請求項3】
前記一般式(1)における前記Z1および前記Z2は、
単結合である請求項2に記載のハイブリッド液晶化合物。
【請求項4】
前記一般式(1)における前記環Aは、
前記構造式(a-1)のシクロヘキサン環、又は、前記構造式(a-2)のベンゼン環であり、
前記一般式(1)における前記環Bは、
前記構造式(b-1)のシクロヘキサン環、又は、前記構造式(b-2)のベンゼン環である請求項2または請求項3に記載のハイブリッド液晶化合物。
【請求項5】
前記メチレンスペーサーによって区切られた2つの前記部位から成る前記ハイブリッド液晶化合物として、
下記の一般式(2)
【化4】
(式中、RおよびRは炭素原子数1から9のアルキル基又はアルコキシ基又は炭素原子数2から9のアルケニル基又はアルケニルオキシ基を表し、aおよびdは0、1、又は2を表し、bは0または1を表し、
環Aは、下記の構造式(a-1)から構造式(a-4)のうちのいずれかを表し、
【化5】
環Cは、下記の構造式(c-1)から構造式(c-6)のうちのいずれかを表し、
【化6】
は各々独立して-CH2O-、-OCH2-、-COO-、-OCO-、-C≡C-又は単結合を表わし、Z3は-CF2O-、-OCF2-、-CH2O-、-OCH2-、-COO-、-C≡C-又は単結合を表わし、連結基Xは、―(CH2)n―、―O―(CH2)n―O-、―O―(CH2)n―、又は―(CH2)n―O-を表し、nは2から10を表す。)で表され、
2つの前記部位のうちの前記一方は、
前記一般式(2)において、前記連結基Xが含む前記メチレンスペーサーの一端と結合する原子から前記R1を末端とする一連の部位であり、
2つの前記部位のうちの前記他方は、
前記一般式(2)において、前記連結基Xが含む前記メチレンスペーサーの他端と結合する原子から前記R4を末端とする一連の部位である請求項1に記載のハイブリッド液晶化合物。
【請求項6】
前記一般式(2)における前記Z1および前記Z3は、
単結合である請求項5に記載のハイブリッド液晶化合物。
【請求項7】
前記一般式(2)における前記環Aは、
前記構造式(a-1)のシクロヘキサン環、又は、前記構造式(a-2)のベンゼン環であり、
前記一般式(2)における前記環Cは、
前記構造式(c-1)のシクロヘキサン環、又は、前記構造式(c-2)のベンゼン環である請求項5または請求項6に記載のハイブリッド液晶化合物
【請求項8】
少なくとも、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のハイブリッド液晶化合物を一種又は二種以上含有する液晶組成物。
【請求項9】
下記の構造式(3-1)から構造式(3-6)
【化7】
(式中、Rは炭素原子数1から9のアルキル基又は炭素原子数2から9のアルケニル基を表し、Rは炭素原子数1から9のアルキル基又はアルコキシ基又は炭素原子数3から9のアルケニル基を表す。)の化合物のうちの一種又は二種以上、および、
下記の構造式(4-1)から構造式(4-6)
【化8】
(式中、Rは炭素原子数1から5のアルキル基又は炭素原子数2から5のアルケニル基を表わし、Rは炭素原子数1から5のアルキル基を表す。)の化合物のうちの一種又は二種以上を、
更に含有する請求項8に記載の液晶組成物。
【請求項10】
前記構造式(3-1)から前記構造式(3-4)における前記Rは、
エチル基、プロピル基、エテニル基、又はプロペニル基であり、
前記構造式(3-5)および前記構造式(3-6)における前記Rは、
炭素原子数1から5のアルキル基、又はアルコキシ基であり、
前記構造式(3-1)から前記構造式(3-6)における前記Rは、
炭素原子数1から5のアルキル基、又はアルコキシ基であり、
前記構造式(4-1)から前記構造式(4-6)における前記Rは、
エチル基、プロピル基、エテニル基、又はプロペニル基であり、
前記構造式(4-1)から前記構造式(4-6)における前記Rは、
メチル基、エチル基、又はプロポキシ基である請求項9に記載の液晶組成物。
【請求項11】
誘電率異方性(Δε)が-6.0から-2.0の間である請求項8から請求項10のいずれか一項に記載の液晶組成物。
【請求項12】
下記の構造式(3-1)から構造式(3-6)
【化9】
(式中、Rは炭素原子数1から9のアルキル基又は炭素原子数2から9のアルケニル基を表し、Rは炭素原子数1から9のアルキル基又はアルコキシ基又は炭素原子数3から9のアルケニル基を表す。)の化合物のうちの一種又は二種以上、および、
下記の構造式(5-1)から構造式(5-17)
【化10】
(式中、Rは炭素原子数1から5のアルキル基又は炭素原子数2から5のアルケニル基を表す。)の化合物のうちの一種又は二種以上を、
更に含有する請求項8に記載の液晶組成物。
【請求項13】
誘電率異方性(Δε)が1.5から5.0の間である請求項8または請求項12に記載の液晶組成物。
【請求項14】
誘電率異方性(Δε)が5.1から15の間である請求項8または請求項12に記載の液晶組成物。
【請求項15】
請求項8から請求項14のいずれか一項に記載の液晶組成物を使用した液晶表示素子。
【請求項16】
MVA(マルチドメイン・バーティカル・アライメント)型、PSA(ポリマー・サステインド・アライメント)型、IPS(イン・プレーン・スイッチング)型、FFS(フリンジ・フィールド・スイッチング)型、又はTN(ツイステッド・ネマチック)型である請求項15に記載の液晶表示素子。
【請求項17】
請求項11に記載の液晶組成物を使用した、MVA(マルチドメイン・バーティカル・アライメント)型、PSA(ポリマー・サステインド・アライメント)型又はFFS(フリンジ・フィールド・スイッチング)型である液晶表示素子。
【請求項18】
請求項13に記載の液晶組成物を使用した、FFS(フリンジ・フィールド・スイッチング)型である液晶表示素子。
【請求項19】
請求項14に記載の液晶組成物を使用した、IPS(イン・プレーン・スイッチング)型又はTN(ツイステッド・ネマチック)型である液晶表示素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド液晶化合物、そのハイブリッド液晶化合物を含有する液晶組成物、および、その液晶組成物を用いた液晶表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶示素子(LCD)は、自動車用パネル、ワードプロセッサー、電子手帳、プリンター、コンピューター、携帯電話、テレビ、広告表示板等に用いられるようになっている。液晶表示方式としては、その代表的なものにTN(ツイステッド・ネマチック)型、STN(スーパー・ツイステッド・ネマチック)型、TFT(薄膜トランジスタ)を用いたMVA(マルチドメイン・バーティカル・アライメント)型、PSA(ポリマー・サステインド・アライメント)型、IPS(イン・プレーン・スイッチング)型、FFS(フリンジ・フィールド・スイッチング)型等がある。これらの液晶表示素子に用いられる液晶組成物は水分、空気、熱、光などの外的要因に対して安定であること、また、室温を中心としてできるだけ広い温度範囲で液晶相を示し、低粘性であることが求められている。さらに液晶組成物は個々の表示素子に対して誘電率異方性(Δε)または屈折率異方性(Δn)等を要求される値とするなどの観点で、下記特許文献1に示すように、数種類から二十種類程度の化合物から構成されている。
【0003】
誘電率異方性(Δε)が負の液晶(ネガ型液晶)を用いるMVA型やPSA型さらにFFS型において、負の誘電率異方性を有する液晶組成物の回転粘度が高いことにより、応答速度が遅くなってしまうという課題がある。したがって、従来の化合物に比べてより回転粘度の低い高速応答性の化合物とその化合物を用いた負の誘電率異方性を有する液晶組成物の開発が求められている。
【0004】
IPS型において液晶は常に基板に対して平行に回転し、どの角度から見ても形状は変わらないため、広い視野角を得ることができるという特徴があるが、開口率が低く光透過率が下がるという欠点がある。FFS型はIPS型の広視野角を維持したまま、光透過率を改善した方式である。FFS型LCDに使われる液晶としては、誘電率異方性(Δε)が正の液晶(ポジ型液晶)と負の液晶(ネガ型液晶)の両方を用いることが可能であるが、ネガ型液晶は応答が遅くなるためポジ型液晶が用いられることが多い。また、ポジ型液晶を用いるFFS型のR・G・Bの各色において、コントラストの差が大きい場合には、各画素からの光漏れ量が大きく相違するため、白表示時の色特性に基づいて色調整を実施しても黒表示時には色バランスが崩れるという現象が生じてしまう。これを解決するために、R・G・Bの少なくとも1つのサブ画素の開口率を小さく調整するなどの方式があるが、透過率が低下する問題がある。FFS型において、さらに透過率の低下を改善するために、負の誘電率異方性の化合物を正の誘電率異方性の液晶組成物に添加する方法が下記特許文献2で提案されている。
【0005】
この方法によって透過率が改善することができるが、正の誘電率異方性の液晶組成物に負の誘電率異方性の化合物を添加すると、添加された分の誘電率異方性が相殺されて、結果として添加後の正の誘電率異方性が減少してしまうことになる。したがって、最終的な液晶組成物に要望される誘電異方性を得るためには、その分、正の誘電率異方性を有する化合物を多く使用する必要がある。正および負の誘電率異方性を有する化合物は、液晶組成物として使用されている誘電率異方性が0付近の非極性の化合物と比較すると粘度(η)、特に直接応答速度と関係する回転粘度(γ)が高い。したがって、該先行技術のように、正の誘電率異方性の液晶組成物に負の誘電率異方性の化合物を添加する方法は、液晶組成物の粘度および回転粘度を高めてしまい、応答速度が遅くなってしまうという大きな課題がある。このため、正の誘電率異方性の液晶組成物に添加して透過率を改善でき、回転粘度の低い化合物の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-99038号公報
【特許文献2】特開2014-215347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、ネガ型液晶を用いるMVA型やPSA型さらにFFS型においては、回転粘度が低い化合物が求められる。また、ポジ型液晶を用いるIPS型やTN型やSTN型においても、同様である。更に、ポジ型液晶を用いるFFS型においては、回転粘度が低いことに加え、透過率を改善できる化合物が求められる。即ち、この種の化合物を用い液晶組成物および液晶表示素子を構成する際、応答性や透過性等の性能を向上させることができるものが求められる。
【0008】
他方、化合物の回転粘度においては、一般に、化合物の分子全体の長さを短くするほど、より回転粘度小さくなる傾向がある。この傾向に基づき、分子全体の長さが短い化合物の適用が考えられる。この場合、化合物の沸点が低く蒸気圧も高くなるため、LCD製造工程の減圧下で、化合物の分子が蒸発しやすい。このため、工程中に液晶組成物の組成が変化しやすいという問題が生じる。上記化合物においては、この問題を生じさせないことも求められる。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、液晶組成物および液晶表示素子に用いられる化合物であって、上記性能を向上させることができ、且つ、工程中の組成変化を抑制できる化合物、その化合物を含有する液晶組成物、および、その液晶組成物を用いた液晶表示素子の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、前記課題を解決するために、少なくとも炭素原子をもつ所定のスペーサーによって区切られた2つの部位から成り、スペーサーおよび各々の部位の結合部から、各々の部位の末端へ向かう方向に沿った分子軸がそれぞれ規定される化合物を提供する。
【0011】
本発明の化合物の特徴は、スペーサーが、1分子中に2つ以上の炭素数をもつメチレンスペーサーであり、メチレンスペーサーによって区切られた2つの部位のうちの一方が、少なくとも2つ以上のフルオロ基を備え、一方の部位における双極子モーメントのベクトル和が一方の部位にて規定される分子軸に対して垂直方向に向かうよう構成されており、且つ、一方の部位における誘電率異方性が負となるネガ型であり、メチレンスペーサーによって区切られた2つの部位のうちの他方が、少なくとも1つ以上のフルオロ基を備え、他方の部位における双極子モーメントのベクトル和は他方の部位にて規定される分子軸に対して水平方向に向かうよう構成されており、且つ、他方の部位における誘電率異方性が正となるポジ型であり、液晶組成物に用いられ、ネガ型またはポジ型の機能を有することにある。この特徴を備えた化合物を、ハイブリッド液晶化合物と称呼する。
【0012】
本発明は、メチレンスペーサーによって区切られた2つの部位から成る前述のハイブリッド液晶化合物であって、より好ましき化合物として、下記一般式(1)又は一般式(2)で表されるハイブリッド液晶化合物を提供する。
【0013】
【化1】
(式中、Rは炭素原子数1から9のアルキル基又はアルコキシ基又は炭素原子数2から9のアルケニル基又はアルケニルオキシ基を表し、RはF、Cl、OCF、OCFH、OCFH又はCFを表し、RはF、又はHを表し、aおよびcは0、1、又は2を表し、bは0または1を表し、環Aは、下記の構造式(a-1)から構造式(a-4)のうちのいずれかを表し、
【0014】
【化2】
環Bは、下記の構造式(b-1)から構造式(b-6)のうちのいずれかを表し、
【0015】
【化3】
は各々独立して-CHO-、-OCH-、-COO-、-OCO-、-C≡C-又は単結合を表わし、Zは-CFO-、-OCF-、-CHO-、-OCH-、-COO-、-C≡C-又は単結合を表わし、連結基Xは、―(CH)n―、―O―(CH)n―O-、―O―(CH)n―、又は―(CH)n―O-を表し、nは2から10を表す。)
【0016】
【化4】
(式中、RおよびRは炭素原子数1から9のアルキル基又はアルコキシ基又は炭素原子数2から9のアルケニル基又はアルケニルオキシ基を表し、aおよびdは0、1、又は2を表し、bは0または1を表し、環Aは式(1)の環Aと同じ意味を表し、環Cは下記の構造(c-1)から(c-6)のいずれかを表し、
【0017】
【化5】
は式(1)のZと同じ意味を表し、Zは-CFO-、-OCF-、-CHO-、-OCH-、-COO-、-C≡C-又は単結合を表わし、連結基Xは式(1)の連結基Xと同じ意味を表す。)
【0018】
また、本発明は前述のハイブリッド液晶化合物を一種又は二種以上含有する液晶組成物を提供する。好ましくは、一般式(1)および一般式(2)で表わされるハイブリッド液晶化合物のうち一種又は二種以上含有する液晶組成物を提供する。さらに、本発明は、前記液晶組成物を使用した液晶表示素子を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明のハイブリッド液晶化合物の特徴は、スペーサーが、1分子中に2つ以上の炭素数をもつメチレンスペーサーであり、メチレンスペーサーによって区切られた2つの部位のうちの一方が、少なくとも2つ以上のフルオロ基を備え、一方の部位における双極子モーメントのベクトル和が一方の部位にて規定される分子軸に対して垂直方向に向かうよう構成されており、且つ、一方の部位における誘電率異方性が負となるネガ型であり、メチレンスペーサーによって区切られた2つの部位のうちの他方が、少なくとも1つ以上のフルオロ基を備え、他方の部位における双極子モーメントのベクトル和は他方の部位にて規定される分子軸に対して水平方向に向かうよう構成されており、且つ、他方の部位における誘電率異方性が正となるポジ型であり、液晶組成物に用いられ、ネガ型またはポジ型の機能を有することにある。
【0020】
ここにおいて、メチレンスペーサーは自由回転が可能であるので、各々の部位は印加した電場に対してある程度独立して応答する。そして、液晶分子が電極に対して略垂直に配向しているネガ型液晶を用いる、MVA型、PSA型、FFS型においては、本発明のハイブリッド液晶化合物のネガ型の部位が応答し、ポジ型の部位はほとんど略垂直のまま動かない。また、液晶分子が電極に対して略水平に配向しているポジ型液晶を用いる、IPS型、FFS型、TN型、STN型においては、本発明のハイブリッド液晶化合物のポジ型の部位が応答し、ネガ型の部位はほとんど略平行のまま動かない。
【0021】
一般的に液晶分子が長くなると応答速度は遅くなる。したがって、分子長の短いベンゼン環やシクロヘキサン環などの環を2つもつ2環系化合物が低粘性で回転粘度の低い高速応答性化合物として用いられている。しかしながら、分子長が短くなり分子量が小さい化合物を用いるとネマチック相上限温度(Tn-i)が低下してしまうという欠点がある。また、沸点が低くなり蒸気圧が高くなるため、LCD製造工程での減圧下で分子が蒸発していまい液晶組成物の組成が変わってしまうという問題が発生する。
【0022】
本発明のハイブリッド液晶化合物は前述のようにネガ型液晶を用いるMVA型やPSA型においても、ポジ型液晶を用いるIPS型やFFS型さらにTN型やSTN型においても、応答するのは2つの部位のうち一方の部位のみであるので、本発明のハイブリッド液晶化合物を用いた液晶組成物の回転粘度が低く応答速度は速くなる。これは応答する部位の長さが分子全体の長さよりも短くなることによる。さらに、ポジ型液晶を用いるFFS型においてはネガ型の部位が動かないので透過率が高くなる。また、本発明のハイブリッド液晶化合物の沸点は高く蒸気圧も低いので、前述のLCD製造工程での減圧下で分子が蒸発していまい液晶組成物の組成が変わってしまうという問題は起こらない。
【0023】
本発明のハイブリッド液晶化合物によれば、液晶組成物に用いられることで、応答性、透過性等の性能を向上させることができ、且つ、工程中の組成変化を抑制できる。本発明の液晶組成物を使用した液晶表示素子は、特に、高速の応答と高い透過率が要求される液晶テレビや高速の応答が要求される液晶モニター用の液晶表示素子の提供に適している。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明について具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明のより好ましき化合物の例として、前記一般式(1)に対応する下記の構造式(1-1)から構造式(1-12)をあげる。
【0025】
【化6】
(式中、R、Rおよび連結基Xは、式(1)のR、Rおよび連結基Xと同じ意味を表す。)
【0026】
さらに、本発明のより好ましき化合物の例として、前記一般式(2)に対応する下記の構造式(2-1)から構造式(2-9)をあげる。
【0027】
【化7】
(式中、R、Rおよび連結基Xは、式(1)のR、Rおよび連結基Xと同じ意味を表す。)
【0028】
前記Rの好ましきは炭素数1~5のアルキル基又はアルケニル基又はアルコキシ基であり、より好ましくはエチル基又はプロピル基又はエテニル基又はプロペニル基又はメトキシ基又はエトキシ基又はプロポキシ基であり、前記Rの好ましきはF又はOCFまたはOCFHであり、前記連結基Xの好ましきは、―O―(CH)―O-、―O―(CH)―O-、―(CH)―、―(CH)―、―(CH)―、―O―(CH)―、―O―(CH)―、―(CH)―O-、―(CH)―O-である。
【0029】
本発明の液晶組成物のうちMVA型やPSA型やFFS型に用いられるネガ型液晶組成物は、前述の本発明にかかるハイブリッド液晶化合物を一種又は二種以上含有し、前記化合物に加えて、誘電率異方性(以下、単に「Δε」とも称呼する。)が0付近(概ね-2から+2程度)の従来公知の液晶化合物およびΔεが-3より強い負のΔεを有する従来公知の液晶化合物を含有することが好ましい。
【0030】
本発明の液晶組成物のうちIPS型やFFS型に用いられるポジ型液晶組成物は、前述の本発明にかかるハイブリッド液晶化合物を一種又は二種以上含有し、前記化合物に加えて、誘電率異方性(以下、単に「Δε」とも称呼する。)が0付近(概ね-2から+2程度)の従来公知の液晶化合物およびΔεが+3より強い正のΔεを有する従来公知の液晶化合物を含有することが好ましい。
【0031】
本発明のネガ型およびポジ型液晶組成物に含有されるΔεが0付近(概ね-2から+2程度)の従来公知の好ましき液晶化合物の例として、下記の構造式(3-1)から構造式(3-6)をあげる。このうち一種又は二種以上含有されることが好ましい。
【0032】
【化8】
(式中、Rは炭素原子数1から9のアルキル基又は炭素原子数2から9のアルケニル基を表わし、Rは炭素原子数1から9のアルキル基又はアルコキシ基又は炭素原子数3から9のアルケニル基を表し、さらに好ましきは、Rはエチル基又はプロピル基又はエテニル基又はプロペニル基を表し、Rは炭素原子数1から5のアルキル基又はアルコキシ基を表す。)
【0033】
本発明のネガ型液晶組成物に含有される-3より強い負のΔεを有する化合物の従来公知の好ましき液晶化合物の例として、下記の構造式(4-1)から構造式(4-6)をあげる。このうち一種又は二種以上含有されることが好ましい。
【0034】
【化9】
(式中、Rは炭素原子数1から5のアルキル基又は炭素原子数2から5のアルケニル基を表わし、Rは炭素原子数1から5のアルキル基を表し、さらに好ましきは、Rはエチル基又はプロピル基又はエテニル基又はプロペニル基を表し、Rはメチル基又はエチル基又はプロピル基を表す。)
【0035】
本発明のポジ型液晶組成物に含有される+3より強い正のΔεを有する化合物の従来公知の好ましき液晶化合物の例として、下記の構造式(5-1)から構造式(5-17)をあげる。このうち一種又は二種以上含有されることが好ましい。
【0036】
【化10】
(式中、Rは炭素原子数1から5のアルキル基又は炭素原子数2から5のアルケニル基を表わし、さらに好ましきは、エチル基又はプロピル基又はエテニル基又はプロペニル基を表す。)
【0037】
本発明のネガ型液晶組成物は、一般式(1)および一般式(2)で表わされるハイブリッド液晶化合物のうち一種又は二種以上、および、Δεが0付近(概ね-2から+2程度)の構造式(3-1)から構造式(3-6)の化合物のうち一種又は二種以上、および、-3より強い負のΔεを有する構造式(4-1)から構造式(4-6)の化合物のうち一種又は二種以上を含有することが好ましい。
【0038】
本発明のポジ型液晶組成物は、一般式(1)および一般式(2)で表わされるハイブリッド液晶化合物のうち一種又は二種以上、および、Δεが0付近(概ね-2から+2程度)の構造式(3-1)から構造式(3-6)の化合物のうち一種又は二種以上、および、+3より強い正のΔεを有する構造式(5-1)から構造式(5-17)の化合物のうち一種又は二種以上を含有することが好ましい。
【0039】
本発明のネガ型液晶組成物を使用した液晶表示素子としては、液晶表示素子が、二枚の基板の間に液晶材料を挟持して液晶を基板に略垂直に配向し、基板に略垂直な電界を印加することにより光学素子や表示素子として使用する垂直配向型のMVA型とPSA型および液晶を基板に略平行で電極に略平行に配向するIPS型とFFS型であると好ましい。
【0040】
本発明のポジ型液晶組成物を使用した液晶表示素子としては、液晶表示素子が、二枚の基板の間に液晶材料を挟持して液晶を基板に略平行で一枚の基板上にある電極に略平行に配向するIPS型とFFS型であると好ましい。さらに、二枚の基板の間に液晶材料を挟持して液晶を基板に略平行で電極に略平行に配向するTN型であっても好ましい。また、本液晶組成物を使用した液晶表示素子は、高速応答を要求される液晶テレビや液晶モニターや低温で高速の応答が要求される車載用ディスプレイやPID(パブリック・インフォメーション・ディスプレイ)への応用に適している。
【実施例0041】
(実施例1)
式(1-1)においてR=C-、R=―Fの化合物の合成
【0042】
【化11】
(上記式中、DIADはアゾジカルボン酸ジイソプロピルを表し、TPPはトリフェニルホスフィンを表す。)
【0043】
2,3-ジフルオロ-4-(trans-4-プロピルシクロヘキシル)フェノール(5.04g)、2-(3,4,5-トリフルオロフェニルオキシ)エタノール(1.93g)及びトリフェニルホスフィン(6.0g)をTHF(25mL)に溶解させ、-10℃に冷却した。DIAD(4.4g)を、内温が15℃以上とならない速度で加え、室温にてさらに2時間撹拌した。水(1mL)を加えて10分撹拌し、反応液を減圧下濃縮した。ヘキサン(60mL)、トルエン(20mL)及び70%ターシャリーブチルヒドロぺルオキシド水溶液(0.8g)を加えて、室温にて1時間撹拌した。析出物を除去し、溶媒を減圧留去した。続いてシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、さらにエタノールから再結晶する事で、式(1-2-1)の化合物を白色固体として4.7g得た。
【0044】
(実施例2)
式(1-8)においてR=CO-、R=―Fの化合物の合成
【0045】
(実施例1)と同様にして、式(1-8-1)の化合物を4.5g得た。
【化12】
【0046】
(実施例3)
式(2-3)においてR=CO-、R=―Cの化合物の合成
【0047】
(実施例1)と同様にして、式(2-3-1)の化合物を4.3g得た。
【化13】
【0048】
(実施例4)
式(2-4)においてR=CO-、R=―Cの化合物の合成
【0049】
(実施例1)と同様にして、式(2-4-1)の化合物を4.6g得た。
【化14】
【0050】
(実施例5)
式(2-4-1)の本発明の化合物を用いて、表1のネガ型液晶組成物(1)(以下、単に「組成物(1)」とも称呼する。)を作製した。表1は、液晶組成物が含有する化合物における組成比率を示している。
【0051】
液晶組成物(1)の物性値は以下の通りであった。誘電率異方性(Δε)および屈折率異方性(Δn)は25℃で測定し、粘度(η20)および回転粘度(γ)は20℃で測定した。
ネマチック相上限温度(Tn-i):80.2℃
誘電率異方性(Δε):-3.3
屈折率異方性(Δn):0.11
粘度(η20):20.5mPa・s
回転粘度(γ):125mPa・s
【0052】
(実施例6)
(実施例5)と同様にして、式(1-2-1)の本発明の化合物を用いて、表2のポジ型液晶組成物(2)(以下、単に「組成物(2)」とも称呼する。)を作製した。
【0053】
液晶組成物(2)の物性値は以下の通りであった。
ネマチック相上限温度(Tn-i):82.2℃
誘電率異方性(Δε):6.2
屈折率異方性(Δn):0.10
粘度(η20):16.7mPa・s
回転粘度(γ):103mPa・s
【0054】
(比較例1)
(実施例5)の比較例として従来の液晶化合物から成る表1のネガ型液晶組成物(3)(以下、単に「組成物(3)」とも称呼する。)を作製した。
【0055】
液晶組成物(3)の物性値は以下の通りであった。
ネマチック相上限温度(Tn-i):80.1℃
誘電率異方性(Δε):-3.3
屈折率異方性(Δn):0.11
粘度(η20):23.2mPa・s
回転粘度(γ):145mPa・s
【0056】
(比較例2)
(実施例6)の比較例として従来の液晶化合物から成る表2のネガ型液晶組成物(4)(以下、単に「組成物(4)」とも称呼する。)を作製した。
【0057】
液晶組成物(4)の物性値は以下の通りであった。
ネマチック相上限温度(Tn-i):82.1℃
誘電率異方性(Δε):6.2
屈折率異方性(Δn):0.10
粘度(η20):18.7mPa・s
回転粘度(γ):115mPa・s
【0058】
実施例(5)の液晶組成物(1)および比較例(1)の組成物(3)は、いずれも液晶テレビ用のPSA型あるいはMVA型液晶表示装置に使用されるネガ型液晶組成物に典型的に要求される特性のうち、ネマチック相上限温度(Tn-i)=80℃、誘電率異方性(Δε)=-3.3、屈折率異方性(Δn)=0.11に合わせたものである。また、実施例(6)の組成物(2)と比較例(2)の組成物(5)は、ほぼ同じTn-i=82℃、Δε=6.2、およびΔn=0.10を有するポジ型の液晶組成物である。比較例(2)はFFS型液晶表示素子の透過率を向上させるために、式(4-1-1)のネガ型の液晶化合物を含有している。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
表1の式(3-1-1)、式(3-1-2)、式(3-1-3)、式(3-6-1)、および、式(3-3-1)の化合物は下記の化合物を示す。
【化15】
【0062】
表1の式(4-1-1)、式(4-1-2)、式(4-3-1)、式(4-3-2)、式(4-4-1)、式(4-4-2)、式(4-4-3)の化合物は下記の化合物を示す。
【化16】
【0063】
表2の式(3-1-4)、式(3-1-5)、式(3-3-2)、式(3-3-3)、式(5-2-1)、式(5-11-1)、式(5-11-2)、式(5-12-1)、式(5-15-1)、式(5-15-2)の化合物は下記の化合物を示す。
【化17】
【0064】
実施例(5)のネガ型の液晶組成物(1)の回転粘度(γ)は式(2-4-1)の本発明の化合物の効果により、125mPa・sと比較例(1)の組成物(3)の回転粘度(γ)145mPa・sより明らかに低くなっている。また、実施例(6)のポジ型の液晶組成物(2)の回転粘度は103mPa・sと、透過率を向上させるために式(4-1-1)のネガ型の液晶化合物を10%含有している比較例(2)の組成物(4)の回転粘度115mPa・sより低くなっており、尚且つ、実施例(6)の組成物(2)は比較例(2)の組成物(4)と同等の透過率を示した。これらのことから、本発明の液晶化合物およびそれを含有する液晶組成物は、ネガ型液晶を用いるMVA型、PSA型およびFFS型においても、ポジ型液晶を用いるFFS型やIPS型においても、高速応答性に有効であることは明白である。
【0065】
このように、上述したハイブリッド液晶化合物によれば、液晶組成物に用いられることで、応答性、透過性等の性能を向上させることができる。加えて、上述したハイブリッド液晶化合物の沸点は高く、蒸気圧も低いので、LCD製造工程での減圧下で分子が蒸発していまい液晶組成物の組成が変わってしまうという問題は起こらない。即ち、工程中の組成変化を抑制することができる。