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特開2022-135011ボールねじ装置及び電動パワーステアリング装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022135011
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】ボールねじ装置及び電動パワーステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 25/22 20060101AFI20220908BHJP
   F16H 19/04 20060101ALI20220908BHJP
   F16H 25/20 20060101ALI20220908BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
F16H25/22 Z
F16H19/04 D
F16H25/20 E
B62D5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021034566
(22)【出願日】2021-03-04
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永井 豊
【テーマコード(参考)】
3D333
3J062
【Fターム(参考)】
3D333CB02
3D333CB19
3D333CC15
3D333CE12
3D333CE52
3J062AA07
3J062AB05
3J062AB12
3J062AC07
3J062BA16
3J062CA06
3J062CA15
3J062CD04
3J062CD23
3J062CD60
(57)【要約】
【課題】耐久性に優れたボールねじ装置を提供する。
【解決手段】ボールねじ装置は、ナット、ねじ軸、及び複数のボールを備える。ナットには外側軌道面が設けられる。ねじ軸には内側軌道面が設けられる。内側軌道面は、ねじ軸の中心軸と平行な軸方向の長さが外側軌道面よりも長い。内側軌道面は、軸方向の中央部に位置する中立軌道面と、中立軌道面よりも第1方向に配置される第1軌道面と、中立軌道面よりも第2方向に配置される第2軌道面と、を有する。外側軌道面のリードと中立軌道面のリードは、互いに等しい。第1軌道面のリードと第2軌道面のリードは、少なくとも一部が外側軌道面のリードよりも大きい。複数のボールは、外側軌道面と中立軌道面との間に配置された場合、軸方向の隙間を有する。複数のボールは、外側軌道面と第1軌道面との間、及びに外側軌道面と第2軌道面との間に配置された場合、予圧が与えられている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プーリ装置を介してモータの回転運動が伝達されるナットと、
前記ナットを貫通し、ラックバーと一体に設けられたねじ軸と、
前記ナットと前記ねじ軸との間に配置された複数のボールと、
を備え、
前記ナットの内周面には、外側軌道面が設けられ、
前記ねじ軸の外周面には、内側軌道面が設けられ、
前記内側軌道面は、前記ねじ軸の中心軸と平行な軸方向の長さが前記外側軌道面よりも長く、
前記内側軌道面は、
前記内側軌道面のうち前記軸方向の中央部に位置する中立軌道面と、
前記中立軌道面よりも第1方向に配置される第1軌道面と、
前記中立軌道面よりも第2方向に配置される第2軌道面と、
を有し、
前記外側軌道面のリードと前記中立軌道面のリードは、互いに等しく、
前記第1軌道面のリードと前記第2軌道面のリードは、少なくとも一部が前記外側軌道面のリードよりも大きく、
複数の前記ボールは、前記外側軌道面と前記中立軌道面との間に配置された場合、前記軸方向の隙間を有し、
複数の前記ボールは、前記外側軌道面と前記第1軌道面との間、及びに前記外側軌道面と前記第2軌道面との間に配置された場合、予圧が与えられている
ボールねじ装置。
【請求項2】
プーリ装置を介してモータの回転運動が伝達されるナットと、
前記ナットを貫通し、ラックバーと一体に設けられたねじ軸と、
前記ナットと前記ねじ軸との間に配置された複数のボールと、
を備え、
前記ナットの内周面には、外側軌道面が設けられ、
前記ねじ軸の外周面には、内側軌道面が設けられ、
前記内側軌道面は、前記ねじ軸の中心軸と平行な軸方向の長さが前記外側軌道面よりも長く、
前記内側軌道面は、
前記内側軌道面のうち前記軸方向の中央部に位置する中立軌道面と、
前記中立軌道面よりも第1方向に配置される第1軌道面と、
前記中立軌道面よりも第2方向に配置される第2軌道面と、
を有し、
前記外側軌道面のリードと前記中立軌道面のリードは、互いに等しく、
前記第1軌道面のリードと前記第2軌道面のリードは、少なくとも一部が前記外側軌道面のリードよりも小さく、
複数の前記ボールは、前記外側軌道面と前記中立軌道面との間に配置された場合、前記軸方向の隙間を有し、
複数の前記ボールは、前記外側軌道面と前記第1軌道面との間、及びに前記外側軌道面と前記第2軌道面との間に配置された場合、予圧が与えられている
ボールねじ装置。
【請求項3】
前記ねじ軸は、前記ラックバーの前記第1方向の端部に配置され、
前記ラックバーの前記第2方向の端部には、ピニオンと歯合するラックが設けられ、
前記外側軌道面と前記第1軌道面とにより前記ボールに与える予圧量は、前記外側軌道面と前記第2軌道面とにより前記ボールに与える予圧量よりも小さい
請求項1又は請求項2に記載のボールねじ装置。
【請求項4】
前記中立軌道面は、ステアリングホイールが中立位置にある場合、前記ナットの軸方向の中心部と重なる中立基準点を有し、
前記中立基準点から前記第1軌道面までの長さは、前記中立基準点から前記第2軌道面までの長さよりも長い
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のボールねじ装置。
【請求項5】
前記第1軌道面のリードと前記第2軌道面のリードは、前記中立軌道面から離隔するにつれて、次第に前記外側軌道面のリードとの差分が大きくなる
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のボールねじ装置。
【請求項6】
ラックバーと、
前記ラックバーと一体なねじ軸、前記ねじ軸に貫通されるナット、及び前記ナットと前記ねじ軸との間に配置された複数のボールを有する請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のボールねじ装置と、
アシスト力を生成するモータと、
前記モータの回転運動を前記ナットに伝達するプーリ装置と、
を備える電動パワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ボールねじ装置及び電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ラックアシスト型の電動型パワーステアリング装置は、モータで生成した動力をラックバーに入力するため、伝達装置を備えている。また、伝達装置として、プーリ装置と、ボールねじ装置と、を備えた伝達装置が挙げられる(特許文献1参照)。この伝達装置において、ボールねじ装置のナットは、ハウジングに回転自在に支持される。ボールねじ装置のねじ軸は、ラックバーと一体となっている。プーリ装置は、モータの回転運動をナットに伝達する。よって、モータが駆動すると、ナットが回転する。そして、ナットとねじ軸との間で回転運動が直線運動に変換され、ラックバーが軸方向に移動する。
【0003】
ところで、ねじ軸の外周面には、複数のボールが転動する内側軌道面が設けられている。ステアリングホイールが中立位置にある場合(ステリング角度がゼロの場合)、ナットの内周側には、内側軌道面の軸方向の中央部が配置されている。以下、ステアリングホイールが中立位置にある状態を単に「中立状態」と称する場合がある。一方で、ステアリングホイールが操作され、車輪が転舵している場合、ナットの内周側には、内側軌道面の軸方向の端部が配置されている。また、下記特許文献1の内側軌道面は、軸方向の中央部のリードが軸方向の両端部のリードよりも大きい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-6825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車輪の転舵角が大きくなると、車輪からラックバーに作用するモーメント荷重及びラジアル荷重も大きくなる。このため、ねじ軸がナットの中心軸に対して傾く、という状態になり易い。また、ねじ軸が傾くと、複数のボールのうち一部のボールと、ねじ軸の内側軌道面と、の間に隙間が生じる。つまり、ねじ軸から負荷は、内側軌道面と接触しているボールに集中する。このため、複数のボールに均等に作用していた負荷分布が崩れ、ボールねじ装置の耐久性が損なわれる。
【0006】
本開示は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、耐久性に優れたボールねじ装置を提供することを目的とする。また、耐久性に優れたボールねじ装置を備えた電動パワーステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本開示の第一態様に係るボールねじ装置は、プーリ装置を介してモータの回転運動が伝達されるナットと、前記ナットを貫通し、ラックバーと一体に設けられたねじ軸と、前記ナットと前記ねじ軸との間に配置された複数のボールと、を備える。前記ナットの内周面には、外側軌道面が設けられる。前記ねじ軸の外周面には、内側軌道面が設けられる。前記内側軌道面は、前記ねじ軸の中心軸と平行な軸方向の長さが前記外側軌道面よりも長い。前記内側軌道面は、前記内側軌道面のうち前記軸方向の中央部に位置する中立軌道面と、前記中立軌道面よりも第1方向に配置される第1軌道面と、前記中立軌道面よりも第2方向に配置される第2軌道面と、を有する。前記外側軌道面のリードと前記中立軌道面のリードは、互いに等しい。前記第1軌道面のリードと前記第2軌道面のリードは、少なくとも一部が前記外側軌道面のリードよりも大きい。複数の前記ボールは、前記外側軌道面と前記中立軌道面との間に配置された場合、前記軸方向の隙間を有している。複数の前記ボールは、前記外側軌道面と前記第1軌道面との間、及びに前記外側軌道面と前記第2軌道面との間に配置された場合、予圧が与えられている。
【0008】
また、本開示の第二態様に係るボールねじ装置は、プーリ装置を介してモータの回転運動が伝達されるナットと、前記ナットを貫通し、ラックバーと一体に設けられたねじ軸と、前記ナットと前記ねじ軸との間に配置された複数のボールと、を備える。前記ナットの内周面には、外側軌道面が設けられる。前記ねじ軸の外周面には、内側軌道面が設けられる。前記内側軌道面は、前記ねじ軸の中心軸と平行な軸方向の長さが前記外側軌道面よりも長い。前記内側軌道面は、前記内側軌道面のうち前記軸方向の中央部に位置する中立軌道面と、前記中立軌道面よりも第1方向に配置される第1軌道面と、前記中立軌道面よりも第2方向に配置される第2軌道面と、を有する。前記外側軌道面のリードと前記中立軌道面のリードは、互いに等しい。前記第1軌道面のリードと前記第2軌道面のリードは、少なくとも一部が前記外側軌道面のリードよりも小さい。複数の前記ボールは、前記外側軌道面と前記中立軌道面との間に配置された場合、前記軸方向の隙間を有している。複数の前記ボールは、前記外側軌道面と前記第1軌道面との間、及びに前記外側軌道面と前記第2軌道面との間に配置された場合、予圧が与えられている。
【0009】
また、上記の目的を達成するため、本開示の一態様に係る電動パワーステアリング装置は、ラックバーと、前記ラックバーと一体なねじ軸、前記ねじ軸に貫通されるナット、及び前記ナットと前記ねじ軸との間に配置された複数のボールを有する前記した記載のボールねじ装置と、アシスト力を生成するモータと、前記モータの回転運動を前記ナットに伝達するプーリ装置と、を備える。
【0010】
例えば車両が直進している場合(中立状態の場合)、路面から受ける振動が車輪からラックバーに伝達する。これにより、ねじ軸に、軸方向への揺動(がたつき)が発生する。ここで、前記したボールねじ装置及び電動パワーステアリング装置によれば、中立状態で、ボールは、外側軌道面と中立軌道面との間に配置され、軸方向の隙間を有している。よって、ねじ軸の揺動は軸方向の隙間で吸収され、揺動による荷重がナットに作用し難い。以上から、ねじ軸の揺動による負荷が軽減され、ボールねじ装置の耐久性が向上する。一方で、例えば車両がコーナーを走行している場合(車輪が転舵している場合)、ボールは、外側軌道面と第1軌道面との間、又は外側軌道面と第2軌道面との間に配置され、予圧が付与される。そして、ねじ軸が傾いた場合、言い換えると、ねじ軸の第1軌道面又は第2軌道面が一部のボールから離隔した場合、予圧により潰れていたボールが元の形状に復帰するように弾性変形する。このため、ボールと第1軌道面又は第2軌道面との当接状態が保持される。以上から、前記したボールねじ装置及び電動パワーステアリング装置によれば、ナット及びねじ軸はボールとの間に隙間が生じない。このため、ねじ軸からボールに作用する負荷は、複数のボール全体に分散し、ボールねじ装置の耐久性が向上する。
【0011】
また、前記したボールねじ装置又は電動パワーステアリング装置の望ましい態様として、前記ねじ軸は、前記ラックバーの前記第1方向の端部に配置されている。前記ラックバーの前記第2方向の端部には、ピニオンと歯合するラックが設けられている。前記外側軌道面と前記第1軌道面とにより前記ボールに与える予圧量は、前記外側軌道面と前記第2軌道面とにより前記ボールに与える予圧量よりも小さい。
【0012】
前記した構成によれば、外側軌道面と第1軌道面は、ねじ軸の傾き量に対応し、ボールに与える予圧量が小さくなっている。詳細に説明すると、ラックバーの第1方向への移動量が大きくなると、ラックバーの第1方向の端部に作用するモーメント荷重やラジアル荷重が大きくなる。同様に、ラックバーの第2方向への移動量が多くなると、ラックバーの第2方向の端部に作用するモーメント荷重やラジアル荷重が大きくなる。しかしながら、ラックバーの第2方向の端部には、ピニオンが歯合している。よって、ラックバーの第2方向の端部に作用するモーメント荷重やラジアル荷重の一部がピニオンに入力される。よって、ラックバーが第2方向に移動した場合、第1方向に移動する場合よりも、ねじ軸の傾き量が小さい。そして、本開示のボールねじ装置は、ねじ軸の傾き量に対応して、ラックバーが第2方向に移動した場合、ボールに与える予圧量が小さい。つまり、必要以上に大きな予圧をボールに与えないようになっている。よって、外側軌道面と第1軌道面の負荷が軽減され、ボールねじ装置の耐久性が向上する。
【0013】
また、前記したボールねじ装置又は電動パワーステアリング装置の望ましい態様として、前記中立軌道面は、ステアリングホイールが中立位置にある場合、前記ナットの軸方向の中心部と重なる中立基準点を有している。前記中立基準点から前記第1軌道面までの長さは、前記中立基準点から前記第2軌道面までの長さよりも長い。
【0014】
前記する構成によれば、ねじ軸が中立位置から第2方向に移動しても、ボールに予圧が付与されない状態が長くなる。言い換えると、外側軌道面と内側軌道面は、ボールに与える予圧を与える範囲が小さくなる。よって、外側軌道面と内側軌道面の負荷が軽減され、ボールねじ装置の耐久性が向上する。また、ボールに予圧が付与されない状態が長くなるものの、ラックバーが第2方向に移動した場合、ラックバーの第2方向の端部に作用するモーメント荷重やラジアル荷重の一部はピニオンに吸収される。つまり、ラックバーの第2方向への移動量が小さい場合、ねじ軸が傾き難い。よって、ボールに予圧を与えなくても、ボールと第1軌道面との当接状態が保持される。
【0015】
また、前記したボールねじ装置又は電動パワーステアリング装置の望ましい態様として、前記第1軌道面のリードと前記第2軌道面のリードは、前記中立軌道面から離隔するにつれて、次第に前記外側軌道面のリードとの差分が大きくなる。
【0016】
前記する構成によれば、中立状態からねじ軸の移動量が増加するにつれて予圧量が大きくなる。このため、ステアリングホイールの操作感に与える影響が緩やかとなり、運転者に違和感を与えにくい。
【発明の効果】
【0017】
本開示のボールねじ装置及び電動パワーステアリング装置によれば、耐久性の向上を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、実施形態1の電動パワーステアリング装置の模式図である。
図2図2は、実施形態1のボールねじ装置とラックバーとを模式的に示した模式図である。
図3図3は、図2のIII-III線矢視断面図である。
図4図4は、外側軌道面と第1軌道面との対向状態を断面視した断面図である。
図5図5は、外側軌道面と第2軌道面との対向状態を断面視した断面図である。
図6図6は、ラックバーが第2方向に移動した場合の模式図である。
図7図7は、ラックバーが第1方向に移動した場合の模式図である。
図8図8は、実施形態2のボールねじ装置において、外側軌道面と第1軌道面との対向状態を断面視した断面図である。
図9図9は、実施形態3のボールねじ装置において、外側軌道面と第1軌道面との対向状態を断面視した断面図である。
図10図10は、実施形態4のボールねじ装置とラックバーとを模式的に示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本開示につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の発明を実施するための形態(以下、実施形態という)により本開示が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0020】
(実施形態1)
図1は、実施形態1の電動パワーステアリング装置の模式図である。図2は、実施形態1のボールねじ装置とラックバーとを模式的に示した模式図である。図3は、図2のIII-III線矢視断面図である。図4は、外側軌道面と第1軌道面との対向状態を断面視した断面図である。図5は、外側軌道面と第2軌道面との対向状態を断面視した断面図である。図6は、ラックバーが第2方向に移動した場合の模式図である。図7は、ラックバーが第1方向に移動した場合の模式図である。
【0021】
最初に図1を参照しながら、実施形態1の電動パワーステアリング装置80の基本構造を説明する。電動パワーステアリング装置80は、車両に搭載されて車輪を操舵するための装置である。図1に示すように、電動パワーステアリング装置80は、ステアリングホイール81と、ステアリングコラムシャフト82と、ユニバーサルジョイント84と、中間シャフト85と、ユニバーサルジョイント86と、ピニオンシャフト87と、ピニオン88aと、ラックバー1と、を備える。
【0022】
ステアリングホイール81は、ステアリングコラムシャフト82と連結している。ステアリングコラムシャフト82と中間シャフト85とピニオンシャフト87は、ユニバーサルジョイント84、86を介して連結している。ピニオンシャフト87は、ピニオン88aと連結している。ピニオン88aは、ラックバー1のラック88b(図2参照)に歯合している。ラックバー1の両端部は、タイロッド89を介して図示しない車輪と連結している。ステアリングホイール81が運転者に操作されると、その操作トルクがピニオン88aに伝達し、ピニオン88aが回転する。そして、ラックバー1が車両の車幅方向に移動し、車輪が転舵する。
【0023】
電動パワーステアリング装置80は、運転者のステアリングホイール81の操作をアシストするため、トルクセンサ91と、ECU(ElectRonic ContRol Unit)92と、モータ93と、伝達装置2と、を備える。トルクセンサ91は、ピニオン88aに取り付けられている。トルクセンサ91は、ピニオン88aに伝達された操舵トルクをECU92に出力する。ECU92は、トルクセンサ91から信号を取得し、モータ93の動作を制御する。伝達装置2は、図示しないプーリ装置と、ボールねじ装置3(図2参照)と、を備える。プーリ装置は、モータ93の出力軸に固定される駆動プーリと、ボールねじ装置3のナット4(図2参照)に固定される従動プーリと、駆動プーリと従動プーリに架け渡される無端状ベルトと、を備える。ボールねじ装置3は、プーリ装置を介して伝達されたモータ93の回転運動をラックバー1の直線運動に変換する。次に、ラックバー1とボールねじ装置3の詳細について説明する。
【0024】
図2に示すように、ラックバー1は、棒状部材である。以下、ラックバー1の中心軸Oと平行な方向を軸方向と称する。ラックバー1の一端部には、ボールねじ装置3のねじ軸5が一体と設けられている。また、ラックバー1の他端部の外周面には、ピニオン88aと歯合するラック88bが設けられている。以下、軸方向のうち、ラックバー1の一端部が指す方向を第1方向X1と称し、ラックバー1の他端部が指す方向を第2方向X2と称する。
【0025】
図3に示すように、ボールねじ装置3は、ナット4と、ねじ軸5と、複数のボール6と、を備える。ナット4の内周面には、ボール6が転動する外側軌道面4aが設けられている。外側軌道面4aは、サーキュラアーク形状であり、ボール6の径よりも大きな径を有している。よって、外側軌道面4aは、ボール6との接触点が1点となる。実施形態1の外側軌道面4aは、4条(4巻)となっている。外側軌道面4aの各条のリードは、L1となっている。つまり、外側軌道面4aの各条は、等間隔で配置されている。
【0026】
ねじ軸5の外周面には、ボール6が転動する内側軌道面10が設けられている。内側軌道面10は、サーキュラアーク形状であり、ボール6との接触点が1点となる。ボール6は、外側軌道面4aと内側軌道面10と間に形成される螺旋状の軌道に配置される。また、ボール6は、軌道の一端に移動した場合、ナット4に設けられた図示しない循環部により、軌道の他端に循環される。
【0027】
図2に示すように、内側軌道面10は、ナット4(外側軌道面4a)よりも軸方向の長さが長く、凡そナット4の3倍の長さとなっている。また、内側軌道面10は、軸方向の部位によってリードが異なっている。言い換えると、内側軌道面10は、中立軌道面11と、第1軌道面12と、第2軌道面13と、を備えている。中立軌道面11は、内側軌道面10のうち軸方向の中央部に位置している。第1軌道面12は、内側軌道面10の第1方向X1に配置されている。第2軌道面13は、内側軌道面10の第2方向X2に配置されている。なお、中立軌道面11と第1軌道面12と第2軌道面13とは、それぞれの軸方向の長さが均等となっている。
【0028】
図3に示すように、中立軌道面11の各条のリードは、L2となっている。よって、中立軌道面11の各条は、等間隔で設けられている。また、中立軌道面11のリードL2は、外側軌道面4aのリードL1と同一である。よって、ナット4の内周側に中立軌道面11が配置され、外側軌道面4aと中立軌道面11とで軌道が形成される場合、ボール6は、外側軌道面4aと中立軌道面11に対し、軸方向の軸間を有している。つまり、ボール6には、予圧が付与されていない状態となっている。このため、ねじ軸5が軸方向に揺動しても(がたついたとしても)、軸方向の隙間で吸収されるようになっている。また、図2に示すように、中立軌道面11の軸方向の中央部には、中立基準点H2が設けられている。この中立基準点H2は、内側軌道面10における軸方向の中央部に位置している。
【0029】
図4に示すように、第1軌道面12の各条のリードは、L3となっている。よって、第1軌道面12の各条は、等間隔で設けられている。第1軌道面12のリードL3は、外側軌道面4aのリードL1よりも大きい。また、第1軌道面12のリードL3は、ボール6に予圧を付与できる長さとなっている。言い換えると、外側軌道面4aと第1軌道面12とで形成される軌道にボール6が配置された場合、そのボール6には、外側軌道面4aと中立軌道面11から軸方向の荷重が作用するようになっている。
【0030】
図5に示すように、第2軌道面13の各条のリードは、L4となっている。よって、第2軌道面13の各条は、等間隔で設けられている。第2軌道面13のリードL4は、外側軌道面4aのリードL1よりも大きい。また、第2軌道面13のリードL4は、ボール6に予圧を付与できる長さとなっている。言い換えると、外側軌道面4aと第2軌道面13とで形成される軌道にボール6が配置された場合、そのボール6には、外側軌道面4aと第2軌道面13から軸方向の荷重が作用するようになっている。
【0031】
次に、ナットとねじ軸の位置関係について説明する。ステアリングホイール81が中立位置にある場合、図2に示すように、ナット4の軸方向の中央部(図2の2点鎖線H1参照)と、中立軌道面11の軸方向の中立基準点H2と、が重なっている。よって、各ボール6は、外側軌道面4aと中立軌道面11とにより形成される軌道に配置され、予圧が付与されていない状態となっている(図3参照)。よって、路面から車輪に外力が入力され、ラックバー1が揺動しても、ナット4とねじ軸5との間で吸収される。中立状態において、ナット4の外側軌道面4aに作用する負荷が軽減され、ナット4の耐久性が向上する。
【0032】
なお、中立状態において、ねじ軸5に作用する荷重は、中立軌道面11に接触する各ボール6を介して外側軌道面4aに伝達する。よって、ねじ軸5の負荷は、各ボール6に分散してナット4に伝達される。
【0033】
一方、ラックバー1が第1方向X1又は第2方向X2に移動すると(図6図7参照)、車輪が転舵する。ラックバー1の移動によりねじ軸5も第1方向X1又は第2方向X2に移動している。ナット4の内周側には、第1軌道面12(図6参照)又は第2軌道面13(図7参照)が配置される。よって、各ボール6は、外側軌道面4aと第1軌道面12との間の軌道、又は外側軌道面4aと第2軌道面13との間の軌道に配置されて予圧が与えられた状態となっている(図4図5参照)。
【0034】
また、ラックバー1は、軸方向への移動により、作用するモーメント荷重やラジアル荷重が大きくなる。よって、ラックバー1(ねじ軸5)が傾き、第1軌道面12の一部又は第2軌道面13の一部がボール6と接触せずに隙間が生じる可能性がある。なお、ボール6に対して隙間が生じると、ねじ軸5からナット4に伝達される荷重は、一部のボール6に集中し、ボール6の破損の原因となる。一方で、本実施形態によれば、ねじ軸5が傾き、第1軌道面12の一部又は第2軌道面13の一部がボール6から離隔しても、予圧により潰れていたボール6が元の形状に復帰するように弾性変形し、ボール6と第1軌道面12又は第2軌道面13との当接状態が継続する。以上から、ねじ軸5の負荷が一部のボールに集中しないようになっている。
【0035】
以上から、実施形態1のボールねじ装置3は、プーリ装置を介してモータ93の回転運動が伝達されるナット4と、ナット4を貫通し、ラックバー1と一体に設けられたねじ軸5と、ナット4とねじ軸5との間に配置された複数のボール6と、を備える。ナット4の内周面には、外側軌道面4aが設けられている。ねじ軸5の外周面には、内側軌道面10が設けられている。内側軌道面10は、ねじ軸5の中心軸Oと平行な軸方向の長さが外側軌道面4aよりも長い。内側軌道面10は、内側軌道面10のうち軸方向の中央部に位置する中立軌道面11と、中立軌道面11よりも第1方向X1に配置される第1軌道面12と、中立軌道面11よりも第2方向X2に配置される第2軌道面13と、を有している。外側軌道面4aのリードL1と中立軌道面11のリードL2は、互いに等しい。第1軌道面12のリードL3と第2軌道面13のリードL4は、少なくとも一部が外側軌道面4aのリードL1よりも大きい。複数のボール6は、外側軌道面4aと中立軌道面11との間に配置された場合、軸方向の隙間を有している。複数のボール6は、外側軌道面4aと第1軌道面12との間、及びに外側軌道面4aと第2軌道面13との間に配置された場合、予圧が与えられている。また、実施形態1の電動パワーステアリング装置80は、ラックバー1と、ラックバー1と一体なねじ軸5、ねじ軸5に貫通されるナット4、及びナット4とねじ軸5との間に配置された複数のボール6を有するボールねじ装置3と、アシスト力を生成するモータ93と、モータ93の回転運動を前記ナット4に伝達するプーリ装置と、を備える。
【0036】
上記したボールねじ装置3又は電動パワーステアリング装置80によれば、中立状態時、ナット4の外側軌道面4aに作用する負荷が軽減される。また、ラックバー1が軸方向に移動し、ねじ軸5が傾いても、ねじ軸5の負荷は複数のボール6全体に分散する。よって、ボールねじ装置3の耐久性の向上が図られている。
【0037】
以上、実施形態1について説明したが、次に、内側軌道面10の第1軌道面12と第2軌道面13のリードを変更した実施形態2、実施形態3について説明する。なお、第1軌道面12と第2軌道面13のリード以外の構成は、実施形態1と同じであるため、以下の説明では、第1軌道面12と第2軌道面13のリードに絞って説明する。
【0038】
(実施形態2)
図8は、実施形態2のボールねじ装置において、外側軌道面と第1軌道面との対向状態を断面視した断面図である。図8に示すように、実施形態2のボールねじ装置3Aは、第1軌道面12Aの各条のリードがL5となっている。なお、特に図示しないが、第2軌道面の各条のリードもL5となっている。この第1軌道面12A及び第2軌道面のリードL5は、ナット4の外側軌道面4aのリードL1よりも小さい。リードL5は、ボール6に予圧が付与される長さとなっている。以上から、実施形態2のボールねじ装置3Aによれば、実施形態1と同じように、中立状態時、ナット4の外側軌道面4aに作用する負荷が軽減される。また、ラックバー1が軸方向に移動し、ねじ軸5が傾いても、ねじ軸5の負荷は複数のボール6全体に分散する。よって、ボールねじ装置3Aの耐久性の向上が図られている。
【0039】
(実施形態3)
図9は、実施形態3のボールねじ装置において、外側軌道面と第1軌道面との対向状態を断面視した断面図である。図9に示すように、実施形態3のボールねじ装置3Bは、第1軌道面12Bの各条のリードが均等になっていない。第1軌道面12Bの各条のリードは、中立軌道面11に近い方から第1方向X1に向かって、L10、L11、L12、L13、L14、L15、L16となっており、リードが次第に大きくなっている。なお、最もリードが小さいL10は、外側軌道面4aのリードL1よりも大きい。よって、実施形態3の第1軌道面12BのリードL10、L11、L12、L13、L14、L15、L16は、中立軌道面11から離隔するにつれて、次第に外側軌道面4aのリードとの差分が大きくなる。また、特に図示しないが、第2軌道面の各条のリードも、中立軌道面11に近い方から第2方向X2に向かって、リードが次第に大きくなっている。
【0040】
実施形態3のボールねじ装置3Bによれば、中立状態からねじ軸5の移動量が増加するにつれてボール6の予圧量が大きくなる。言い換えると、よって、ステアリングホイール81のステアリング角度が大きくなるにつれて、次第に予圧量が高くなる。よって、ステアリングホイール81の操作感に与える影響が緩やかとなり、運転者に違和感を与えにくい。
【0041】
以上、実施形態2と実施形態3について説明したが、実施形態3では、リードが次第に大きくなる例を挙げて説明しているが、本開示は、中立軌道面11から離隔するにつれてシードが次第に小さくなるように変形してもよい。また、実施形態3では、第1軌道面12Bにおいて最も短いリードL10は、外側軌道面4aのリードL1よりも大きい、となっているが、本開示において、ボール6に予圧が与えることができれば、リードL10とリードL1とが同じ大きさであってもよい。つまり、本開示の第1軌道面及び第2軌道面は、ボール6に予圧を与えることができれば、各条のリードのうち少なくとも一部のリードが外側軌道面3aのリードよりも大きい(若しくは小さい)といった構成であってもよい。
【0042】
(実施形態4)
図10は、実施形態4のボールねじ装置とラックバーとを模式的に示した模式図である。図10に示すように、実施形態4のボールねじ装置3Cは、中立軌道面11を第1方向X1に長くし、第1軌道面12の軸方向の長さが第2軌道面13よりも短くなっている点で、実施形態1のボールねじ装置3と相違する。このため、ラックバー1の第2方向X2への移動量が大きい場合にのみ、ボール6に予圧が与えられる。
【0043】
次に、実施形態4のボールねじ装置3Cの効果を説明する。ラックバー1の軸方向の移動量が大きくなると、ラックバー1の移動する方向の端部に作用するモーメント荷重及びラジアル荷重が大きくなる。つまり、ラックバー1が第1方向X1へ移動すると、ラックバー1の第1方向X1の端部には、大きなモーメント荷重及びラジアル荷重が作用する。同様に、ラックバー1が第2方向X2に移動すると、ラックバー1の第2方向X2の端部には、ラックバー1の第1方向X1の端部と同等のモーメント荷重及びラジアル荷重が作用する。
【0044】
ここで、ラックバー1の第2方向X2の端部と、ボールねじ装置3Cと、の間には、ラック88bに歯合するピニオン88aが介在している。よって、ラックバー1が第2方向X2に移動した場合、ラックバー1の第2方向X2の端部に作用するモーメント荷重及びラジアル荷重は、ピニオン88aに入力される。この結果、ねじ軸5に作用するモーメント荷重及びラジアル荷重は低減する。よって、ラックバー1の第2方向X2への移動量が小さい場合、ねじ軸5が傾かず、ラックバー1の第2方向X2への移動量が大きい場合、ねじ軸5が傾く。
【0045】
これに対し、実施形態4のボールねじ装置3Cは、ラックバー1の第2方向X2への移動量が大きい場合、言い換えると、ねじ軸5が傾く場合にのみ、ボール6に予圧を与えている。よって、実施形態4のボールねじ装置3Cによれば、ボール6に与える予圧を与える範囲(軸方向の長さ)が小さくなっているものの、ねじ軸5の負荷が一部のボール6に集中する、ということが回避される。そして、ボールねじ装置3Cは、ボール6に与える予圧を与える範囲が小さくなっていることから、外側軌道面3aと内側軌道面10の負荷が軽減されている。よって、ボールねじ装置3Cの耐久性が向上する。
【0046】
以上、実施形態4について説明したが、実施形態4の構成に、実施形態3で説明した構成を組み合わせるようにしてもよい。これによれば、ラックバー1の移動量が大きくなるにつれて、ラックバー1の端部に作用するモーメント荷重及びラジアル荷重が大きくなるところ、ボール6に与える予圧量も次第に高くなる。よって、モーメント荷重及びラジアル荷重の大きさに対応した予圧量をボール6に与えることができる。
【0047】
そのほか、実施形態4で説明したように、電動パワーステアリング装置80は、ラックバー1が第2方向X2に移動した場合、モーメント荷重及びラジアル荷重がピニオン88aに吸収される。このため、ラックバー1の第2方向X2への移動量が小さい場合、ねじ軸5は傾き難い。一方で、ラックバー1の第2方向X2への移動量が大きい場合、ねじ軸5が傾くものの、ラックバー1が第1方向X1に移動した場合よりも傾き量が小さい。よって、本開示のボールねじ装置は、ねじ軸5の傾き量に対応して、外側軌道面3aと第1軌道面12とによりボール6に与える予圧量(ラックバー1が第2方向X2に移動した場合の予圧量)を、外側軌道面3aと第2軌道面13とによりボール6に与える予圧量(ラックバー1が第1方向X1に移動した場合の予圧量)よりも小さくなるようにしてもよい。このような変形例によれば、必要以上に大きな予圧をボールに与えない。よって、外側軌道面3aと第1軌道面12の負荷が軽減され、ボールねじ装置の耐久性が向上する。
【符号の説明】
【0048】
1 ラックバー
2 伝達装置
3、3A、3B、3C ボールねじ装置
4 ナット
4a 外側軌道面
5 ねじ軸
6 ボール
10 内側軌道面
11 中立軌道面
12、12A、12B 第1軌道面
13 第2軌道面
80 電動パワーステアリング装置
81 ステアリングホイール
88a ピニオン
88b ラック
93 モータ
L1、L2、L3、L4、L5、L10、L11、L12、L13、L14、L15 リード
H2 中立基準点
X1 第1方向
X2 第2方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10