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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022135015
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】オピオイド受容体作動剤
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/47 20060101AFI20220908BHJP
   C12P 21/06 20060101ALI20220908BHJP
   A23L 33/18 20160101ALI20220908BHJP
   A23L 33/19 20160101ALI20220908BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220908BHJP
   A61P 25/22 20060101ALI20220908BHJP
   A61K 38/01 20060101ALI20220908BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20220908BHJP
【FI】
C07K14/47 ZNA
C12P21/06
A23L33/18
A23L33/19
A61P43/00 111
A61P25/22
A61K38/01
C12N15/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021034572
(22)【出願日】2021-03-04
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100090251
【氏名又は名称】森田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】山本 直之
(72)【発明者】
【氏名】竹内 柚衣
(72)【発明者】
【氏名】福永 もえ
(72)【発明者】
【氏名】宮永 一彦
【テーマコード(参考)】
4B018
4B064
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4B018MD71
4B018ME14
4B018MF12
4B064AG01
4B064CA21
4B064CB01
4B064CC10
4B064DA01
4B064DA10
4C084AA07
4C084BA03
4C084BA43
4C084CA38
4C084CA59
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA051
4C084ZA052
4C084ZC411
4C084ZC412
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA15
4H045BA16
4H045CA43
4H045EA01
4H045EA21
4H045FA70
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、安全性の高い、食品由来のオピオイド受容体作動剤を提供することである。
【解決手段】前記課題は、本発明のカゼインを麹菌由来プロテアーゼで分解したペプチド混合物によって解決することができる。本発明のカゼインを麹菌由来プロテアーゼで分解したペプチドは、効率的なオピオイド受容体作動活性を示すことができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カゼインを麹菌由来プロテアーゼで分解したペプチド混合物。
【請求項2】
前記麹菌がアスペルギルス・オリザエである、請求項1に記載のペプチド混合物。
【請求項3】
配列番号1で表されるアミノ酸配列、又は配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるペプチド。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のペプチド混合物又は請求項3に記載のペプチドを、有効成分として含むオピオイド受容体作動剤。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のペプチド混合物又は請求項3に記載のペプチドを含有効成分として含む、オピオイド受容体作動用食品組成物。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のペプチド混合物又は請求項3に記載のペプチドを含有効成分として含む、抗不安用食品組成物。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のペプチド混合物又は請求項3に記載のペプチドを有効成分として含む、オピオイド受容体作動用医薬組成物。
【請求項8】
請求項1又は2に記載のペプチド混合物又は請求項3に記載のペプチドを有効成分として含む、抗不安用医薬組成物。
【請求項9】
カゼインを麹菌由来プロテアーゼで分解することを特徴とする、ペプチド混合物の製造方法。
【請求項10】
前記麹菌がアスペルギルス・オリザエである、請求項9に記載のペプチド混合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オピオイド受容体作動剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ストレスに起因する様々な疾患が報告されており、モルヒネ様活性を期待したオピオイド受容体アゴニストが、鎮痛薬又は向神経薬として開発されている。一方、食品タンパク質の酵素分解ペプチドに、オピオイド受容体への作用が報告されており(非特許文献1)、ストレスを低減できる食品添加物としての利用が期待されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】「ペプチド(Peptides)」1999年(オランダ)第20巻、p957-962
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記食品タンパク質の酵素分解ペプチドのオピオイド受容体への作用は、十分ではなかった。
従って、本発明の目的は、安全性の高い、食品由来のオピオイド受容体作動剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、安全性の高い食品由来のオピオイド受容体作動剤について、鋭意研究した結果、驚くべきことに、カゼインを麹菌由来プロテアーゼによって分解することによって、高いオピオイド受容体作動活性を有するペプチドが得られることを見出した。
本発明は、こうした知見に基づくものである。
従って、本発明は、
[1]カゼインを麹菌由来プロテアーゼで分解したペプチド混合物、
[2]前記麹菌がアスペルギルス・オリザエである、[1]に記載のペプチド混合物、
[3]配列番号1で表されるアミノ酸配列、又は配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、
[4][1]又は[2]に記載のペプチド混合物又は[3]に記載のペプチドを、有効成分として含むオピオイド受容体作動剤、
[5][1]又は[2]に記載のペプチド混合物又は[3]に記載のペプチドを含有効成分として含む、オピオイド受容体作動用食品組成物、
[6][1]又は[2]に記載のペプチド混合物又は[3]に記載のペプチドを含有効成分として含む、抗不安用食品組成物、
[7][1]又は[2]に記載のペプチド混合物又は[3]に記載のペプチドを有効成分として含む、オピオイド受容体作動用医薬組成物、
[8][1]又は[2]に記載のペプチド混合物又は[3]に記載のペプチドを有効成分として含む、抗不安用医薬組成物、
[9]カゼインを麹菌由来プロテアーゼで分解することを特徴とする、ペプチド混合物の製造方法、及び
[10]前記麹菌がアスペルギルス・オリザエである、[9]に記載のペプチド混合物の製造方法、
に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明のカゼインを麹菌由来プロテアーゼで分解したペプチドは、効率的なオピオイド受容体作動活性を示すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】オピオイド受容体結合活性を測定するHEK細胞のメカニズムを示した概略図である。
図2】カゼインの麹菌由来プロテアーゼによる分解物を、疎水性C-18系樹脂によって精製した各フラクションのオピオイド受容体結合活性を示したグラフである。
図3】カゼインの麹菌由来プロテアーゼによる分解物を、疎水性C-18系樹脂、及び逆相クロマトグラフィーによって精製した各フラクションのオピオイド受容体結合活性を示したグラフである。
図4】カゼインの麹菌由来プロテアーゼによる分解物を、疎水性C-18系樹脂、及び2回の逆相クロマトグラフィーによって精製した各フラクションのオピオイド受容体結合活性を示したグラフである。
図5】ペプチド1をマウスに投与することによって抗不安効果が得られたことを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[1]ペプチド
本発明のペプチドは、オピオイド受容体への結合活性を有するペプチドである。オピオイド受容体とは、モルヒネ様物質の作用発現に関与する細胞表面受容体タンパク質であり、G/G共役型の7回膜貫通型受容体である。δ受容体、κ受容体、及びμ受容体が報告されている。本発明のペプチドが結合するオピオイド受容体は限定されるものではないが、好ましくはδ受容体もしくはμ受容体である。
δ受容体は、ロイシン-エンケファリンに対して強い親和性を持ち、中枢神経系に広く分布している。δ受容体は抗うつ作用、身体・精神依存、及び鎮痛にも関与しており、δとδの二つの受容体がある。
【0009】
本発明のペプチドは、オピオイド受容体、特にはμ及びδ受容体に対する結合活性を有しており、受容体への結合により、抗不安作用、鎮痛作用、抗うつ作用、又は抗ストレス作用を発揮することが期待される。
【0010】
本発明のペプチドとしては、限定されるものではないが、配列番号1で表されるアミノ酸配列(YPFPGPIPNS)からなるペプチド(以下、ペプチド1と称することがある)、又は配列番号2で表されるアミノ酸配列(YPFPGPIPNSL)からなるペプチド(以下、ペプチド2と称することがある)が挙げられる。
本発明のペプチドは、本分野で公知のペプチド合成法により得ることができる。また、後述のように、カゼインを麹菌のプロテアーゼで分解することによって製造することができる。
【0011】
《ペプチド混合物》
本発明のペプチドは、カゼインを麹菌のプロテアーゼで分解した分解物に含まれる。従って、カゼインの麹菌プロテアーゼ分解物は、本発明のペプチドを含むペプチド混合物であり、前記ペプチド1を含む。
すなわち、本発明のペプチド混合物は、カゼインを麹菌のプロテアーゼで分解することによって得ることができる。更に、本発明のペプチド混合物は、前記ペプチド1以外の、オピオイド受容体への結合活性を有するカゼイン由来のペプチドを含む。カゼインを麹菌のプロテアーゼで分解することによって、前記ペプチド1以外の、オピオイド受容体への結合活性を示すペプチドを得ることができる。
【0012】
《麹菌》
前記麹菌としては、黒麹菌、白麹菌、黄麹菌、又は紅麹菌が挙げられ、具体的には、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)(黒麹菌)、アスペルギルス・サイトイ(Aspergillus saitoi)(黒麹菌)、アスペルギルス・ナカザワイ(Aspergillus nakazawai)(黒麹菌)、アスペルギルス・ウサミ(Aspergillus usamii)(黒麹菌)、アスペルギルス・ルーチェンシス(Aspergillus luchensis)(黒麹菌)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)(黒麹菌)、アスペルギルス・カワチ(Aspergillus kawachii)(白麹菌)、アスペルギルス・オリザエ(Aspergillus oryzae)(黄麹菌)が挙げられるが、好ましくいはアスペルギルス・オリザエである。
【0013】
[2]オピオイド受容体作動剤
本発明のオピオイド受容体作動剤は、有効成分として、本発明のペプチド又はペプチド混合物を含む。すなわち、本発明のオピオイド受容体作動剤は、有効成分として前記ペプチド1、ペプチド2、又は前記ペプチド混合物を含む。本発明のオピオイド受容体作動剤はアゴニストであり、オピオイド受容体に結合することによって、鎮痛作用、抗うつ作用、又は抗ストレス作用を示すことができる。
オピオイド受容体としては、δ受容体、κ受容体、又はμ受容体が挙げられる。本発明のペプチドが作用するオピオイド受容体は限定されるものではないが、好ましくはδ受容体もしくはμ受容体である。
【0014】
[3]食品組成物
オピオイド受容体作動用食品組成物、又は抗不安用食品組成物は、有効成分として、本発明のペプチド又はペプチド混合物を含む。
【0015】
食品としては、具体的には、サラダなどの生鮮調理品;ステーキ、ピザ、ハンバーグなどの加熱調理品;野菜炒めなどの炒め調理品;トマト、ピーマン、セロリ、ニガウリ、ニンジン、ジャガイモ、及びアスパラガスなどの野菜及びこれら野菜を加工した調理品;クッキー、パン、ビスケット、乾パン、ケーキ、煎餅、羊羹、プリン、ゼリー、アイスクリーム類、チューインガム、クラッカー、チップス、チョコレート及び飴等の菓子類;うどん、パスタ、及びそば等の麺類;かまぼこ、ハム、及び魚肉ソーセージ等の魚肉練り製品;チーズ、クリーム、及びバターなどの乳製品;みそ、しょう油、ドレッシング、ケチャップ、マヨネーズ、スープの素、麺つゆ、カレー粉、みりん、ルウ、シーズニングスパイス等の調味料類;豆腐などの大豆食品;こんにゃく;並びにサプリメントなどを挙げることができる。
【0016】
飲料としては、例えばコーヒー飲料;ココア飲料;前記の野菜から得られる野菜ジュース;グレープフルーツジュース、オレンジジュース、ブドウジュース、及びレモンジュース等の果汁飲料;緑茶、紅茶、煎茶、及びウーロン茶等の茶飲料;ビール、ワイン(赤ワイン、白ワイン、又はスパークリングワインなど)、清酒、梅酒、発泡酒、ウィスキー、ブランデー、焼酎、ラム、ジン、及びリキュール類等のアルコール飲料;乳飲料;豆乳飲料;流動食;並びにスポーツ飲料などを挙げることができる。
【0017】
食品又は飲料には、動物に対する飼料が含まれる。対象となる動物は、例えばヒトなどの霊長類、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、ウサギ、ラット、又はマウス等が挙げられる。
【0018】
これらの食品又は飲料には、所望により、酸化防止剤、香料、酸味料、着色料、乳化剤、保存料、調味料、甘味料、香辛料、pH調整剤、安定剤、酸化防止剤、植物油、動物油、糖及び糖アルコール類、ビタミン、有機酸、果汁エキス類、野菜エキス類、穀類、豆類、野菜類、肉類、魚介類等の食品添加物及び食品素材を単独で又は2種以上組み合わせて配合することができる。これらの食品素材及び食品添加物の配合量は、本発明の目的を損なわない範囲内で適宜決定することができる。
【0019】
食品及び飲料には、機能性食品(飲料)及び健康食品(飲料)が含まれる。本明細書において「健康食品(飲料)」とは、健康に何らかの効果を与えるか、あるいは、効果を期待することができる食品又は飲料を意味し、「機能性食品(飲料)」とは、前記「健康食品(飲料)」の中でも、生体調節機能(すなわち、オピオイド受容体作動作用)を充分に発現することができるように設計及び加工された食品又は飲料を意味する。機能性食品及び健康食品は、顆粒状、固形状、液状、カプセル状、ゲル状、又は錠剤状であることができる。
【0020】
[4]医薬組成物
本発明のオピオイド受容体作動用医薬組成物、又は抗不安用医薬組成物は、有効成分として、本発明のペプチド又はペプチド混合物を含む。本発明のオピオイド受容体作動用医薬組成物は、限定されるものではないが、抗不安、鎮痛、抗うつ、又は抗ストレスの用途に用いることができる。
【0021】
本発明の医薬組成物の投与剤型としては、特には限定がなく、経口剤及び非経口剤を挙げることができるが、経口剤が好ましい。前記経口剤は、例えば、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、及び丸剤等の固形状又は粉末状製剤、並びに懸濁液、エマルジョン剤、シロップ剤、及びエキス剤等の液状製剤を挙げることができる。非経口剤としては、例えば、注射剤を挙げることができる。
【0022】
本発明の医薬組成物は、前記ペプチド又はペプチド混合物から成るものでもよく、また、前記ペプチド又はペプチド混合物を含むものでもよい。本発明の医薬組成物が、前記ペプチド又はペプチド混合物を含むものである場合、他の添加剤を含むことができる。
【0023】
本発明の医薬組成物が経口剤である場合、他の添加剤としては、賦形剤、結合剤、崩壊剤、乳化剤、滑沢剤、流動性促進剤、希釈剤、保存剤、着色剤、香料、矯味剤、安定化剤、保湿剤、防腐剤、酸化防止剤、又は懸濁化剤を挙げることができ、具体的には、例えば、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、澱粉、コーンスターチ、白糖、乳糖、ぶどう糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、デキストリン、ポリビニルピロリドン、結晶セルロース、大豆レシチン、ショ糖、脂肪酸エステル、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール、ケイ酸マグネシウム、無水ケイ酸、又は合成ケイ酸アルミニウムなどであることができる。
【0024】
本発明の医薬組成物が非経口剤である場合、他の添加剤としては、生理食塩水若しくはリンゲル液等の水溶性溶剤、植物油若しくは脂肪酸エステル等の非水溶性溶剤、ブドウ糖若しくは塩化ナトリウム等の等張化剤、溶解補助剤、安定化剤、防腐剤、懸濁化剤、又は乳化剤などを挙げることができる。
【0025】
本発明の医薬組成物は、前記ペプチド又はペプチド混合物を、90重量%以上、50重量%以上、10重量%以上、又は1重量%以上含むことができる。
【0026】
本発明の医薬組成物の投与量又は摂取量は、製剤形態、並びに使用する対象の年齢、性別、体重及び疾患の症状の程度などに応じて適宜調整することができるが、当該医薬組成物を投与又は摂取することで、鎮痛、抗うつ、又は抗ストレス等の作用を示すことができる量であることが好ましい。具体的には、ペプチド又はペプチド混合物の添加量に換算して、0.01~1000mg/kg体重/日、好ましくは、0.1~750mg/kg体重/日、より好ましくは1~500mg/kg体重/日、更に好ましくは5~400mg/kg体重/日、更に好ましくは10~300mg/kg体重/日、更に好ましくは15~200mg/kg体重/日、又は最も好ましくは20~150mg/kg体重/日であることができる。
【0027】
もちろん、上記の投与法は一例であり、他の投与法であってもよい。ヒトへの医薬組成物の投与方法、投与量、投与期間、及び投与間隔等は、管理された臨床治験によって決定されることが望ましい。
【0028】
本発明の医薬組成物は、ヒトに対して投与することができるが、投与対象はヒト以外の動物であってもよく、イヌ、ネコ、ウサギ、ハムスター、モルモット、及びリス等のペット;牛及び豚等の家畜;マウス、ラット等の実験動物;並びに、動物園等で飼育されている動物等が挙げられる。
【0029】
前記医薬組成物には、医薬品及び医薬部外品が含まれる。医薬品としては、例えば、生薬製剤及び漢方製剤などを挙げることができる。医薬部外品としては、例えば、栄養ドリンク及び生薬含有保健薬などを挙げることができる。
【0030】
[5]ペプチド混合物の製造方法
本発明のペプチド混合物の製造方法は、カゼインを麹菌由来プロテアーゼで分解することを特徴とする。カゼインは、牛乳に含まれる乳タンパク質であり、配列番号2で示されるアミノ酸配列を有する209のアミノ酸からなるタンパク質である。
麹菌由来プロテアーゼは、公知の方法により調整することができる。例えば麹菌は個体培養により、液体培養に比して様々な酵素活性を高めることができる。個体培養によりプロテアーゼを高濃度に含む麹菌を培養集菌し、蒸留水や緩衝液などにより酵素を懸濁抽出することができる。ここで抽出された酵素は、エタノール添加による沈殿や、塩析による沈殿、膜による濃縮、イオン交換カラムによる濃縮が可能である。
【0031】
更に麹菌由来プロテアーゼとしては、市販のプロテアーゼを用いてもよい。例えば、プロテアーゼM「アマノ」SD、又はプロテアーゼA「アマノ」SDが挙げられる。
【0032】
カゼインの麹菌由来プロテアーゼによる分解温度は、例えば40~60℃で、12~30時間行えばよい。反応バッファーは、特に限定されない。
【0033】
カゼインを麹菌由来プロテアーゼで消化した消化物(分解物)を、そのまま粗ペプチド混合物として用いてもよい。また、前記粗ペプチド混合物を生成し、活性ペプチドが濃縮された精製ペプチド混合物を用いてもよい。
精製方法としては、ペプチド又はタンパク質精製法の分野で公知の方法を用いることができるが、例えば逆相クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ゲル濾過、イオン交換クロマトグラフィー、又はアフィニティクロマトグラフィーなどによって精製することが可能であり、FPLC又はHPLCなどを用いることができる。
【実施例0034】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0035】
《実施例1》
本実施例では、カゼインをいくつかのプロテアーゼで分解し、オピオイド受容体との結合を検討した。
カゼイン0.3gをPBS30mLに溶解し、プロテアーゼ0.03mgを加え45℃で24時間反応させた。反応後、80℃20分失活させ上清を回収した。
【0036】
得られた分解物のオピオイド受容体との結合を、オピオイド受容体とGloSensor cAMP biosensorを共発現したHEK293細胞(Journal of Pharmacological Sciences, 140 (2019) 171-177)を用いて測定した。
上記のHEK293細胞を平衡溶液(88%CO-independent medium、10%fetal bovine serum、2%GloSensor cAMP Reagent stock solution)で5×10cells/mLの細胞液を作成し遮光状態で23℃2時間インキュベートした。細胞液を96wellプレートに各wellに100μLずつ加え、Forskolin30μMを12.5μL、分解溶液を12.5μL加え、マルチラベルプレートリーダーEnspire(Perkin Elmer)を用いて経時的に発光強度を測定した。
図1に示すように、ペプチドがオピオイド受容体に結合することによって、発光量が減少し、ペプチドの活性が測定できる。結果を表1に示す。
【0037】
【表1】
表1に示すように、麹菌由来のプロテアーゼで分解した実施例1及び2では、δ受容体への結合活性が上昇していた。
【0038】
《実施例2》
本実施例では、前記実施例2で得られたペプチド混合物を逆相クロマトグラフィーで精製した。
まず、Sep-Pak C18 1ccに99.5%エタノールを2mL、次にA液(水/0.1%トリフルオロ酢酸)2mLを通した。分解溶液を通した後、B液(アセトニトリル/0.1%トリフルオロ酢酸)のA液に対する割合を0%、10%、20%、30%とした溶液を2mLずつ通し、それぞれの通過液を0%溶出液、10%溶出液、20%溶出液、30%溶出液として回収した。
図2に示すように、C-4 20%のフラクションに高いオピオイド受容体結合活性が見られた。
【0039】
次に、逆相クロマトグラフィーとして逆相HPLC(C18カラム)を用いて、0-5分/0-5%、5-40分/5-25%、40-45分/25-100%、45-50分/100%、50-53分/100-0%で溶出し、分取を行った。
図3に示すように、Fr1-10、Fr1-11、Fr1-12、Fr1-13の各フラクションに高いオピオイド受容体結合活性が見られた。
【0040】
次に、2回目の逆相クロマトグラフィーとして逆相HPLC(C18カラム)を用いて、0-5分/0-23%、5-75分/23-63%、75-80分/63-100%、80-85分/100%、85-88分/100-0%で溶出し、分取を行った。
図4に示すように、Fr3-1、Fr3-2、Fr3-3、及びFr3-4の各フラクションに高いオピオイド受容体結合活性が見られた。
【0041】
《実施例3》
本実施例では、実施例2で得られたFr3-2のフラクションから、ペプチドを同定した。ペプチドはHPLCにより純化を行い、Shimadzu社製LC-MS/MS解析により同定を行い、同定ペプチドについてはペプチドを化学合成し、HPLCにおけるリテンションタイムの比較と、活性の比較を行った。
同定されたペプチド1は分子量1088.6であり、及びYPFPGPIPNSのアミノ酸配列を有していた。
【0042】
《実施例4》
本実施例では、実施例3で同定されたペプチド1を合成し、オピオイド受容体結合活性を測定した。
【0043】
《実施例5》
本実施例では、ペプチド2(YPFPGPIPNSL)を合成し、オピオイド受容体結合活性を測定した。
【0044】
《比較例4》
比較例4として、非特許文献1に記載のβ-Casomorphin-7のオピオイド受容体結合活性を測定した。
【0045】
《比較例5》
比較例4として、非特許文献1に記載のβ-Casomorphin-9のオピオイド受容体結合活性を測定した。
表2に示すように、ペプチド1及び2は、β-Casomorphin-7、β-Casomorphin-9と比較して優れたオピオイド受容体結合活性を示した。
【0046】
【表2】
【0047】
《実施例5》
本実施例では、ペプチド1をマウスに投与して、抗不安作用を示すかについて、高架式十字迷路試験によって検討した。
BALB/c雌性マウス(9週齢)を使用(n=6)して、YPFPGPIPNS(1mg/kg体重、10mg/kg体重)を経口投与し、10分後に高架式十字迷路による抗不安作用を評価した。対照サンプルにはpH7.4調整済PBSとδオピオイド受容体アゴニストであるロイシン-エンケファリン(0.2mg/kg体重)を用いた。
解析にはt検定を用い、オープンアーム平均滞在時間を%表示した数値で比較した(図5)。結果としてYPFPGPIPNSは抗不安作用を持ち、10mg/kg体重では有意な結果を示すと明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明のペプチドは、抗不安、鎮痛、抗うつ、又は抗ストレスなどの用途の食品又は医薬に用いることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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