(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022135063
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】診断装置、診断方法、及び診断プログラム
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20220908BHJP
【FI】
G05B23/02 T
G05B23/02 301Q
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021034644
(22)【出願日】2021-03-04
(71)【出願人】
【識別番号】000176763
【氏名又は名称】三菱ケミカルエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河野 浩司
(72)【発明者】
【氏名】松木 章洋
(72)【発明者】
【氏名】熊埜御堂 勇貴
(72)【発明者】
【氏名】清原 俊二
【テーマコード(参考)】
3C223
【Fターム(参考)】
3C223AA01
3C223AA02
3C223AA11
3C223AA15
3C223BA03
3C223CC02
3C223DD03
3C223EB01
3C223EB02
3C223EB07
3C223FF02
3C223FF03
3C223FF12
3C223FF13
3C223FF25
3C223FF33
3C223FF35
3C223FF42
3C223FF45
3C223FF52
3C223FF53
3C223GG01
3C223HH02
3C223HH03
3C223HH04
3C223HH08
3C223HH17
3C223HH29
(57)【要約】
【課題】本発明は、設備の状態を示す時系列データを、期間毎に容易に比較可能にすることを解決課題とする。
【解決手段】設備の状態を示す複数のセンサーの時系列データが記憶される記憶部と、時系列データから設備の状態変化を判定する処理部と、を備え、処理部は、時系列データのうち基準とする期間のデータである基準データの平均値及び標準偏差を求めた後、時系列データの中から比較対象とする期間のデータである比較データの標準化値を、平均値及び標準偏差から算出する処理と、複数のセンサーの各データ同士を、データの大小関係順にグルーピングする処理を、基準データと比較データのそれぞれについて実行する処理と、比較データの標準化値を視覚的に表した図と、データの大小関係のグループの順位とセンサーとの対応関係を、基準データと比較データのそれぞれについて表した表と、を有する画面を出力する処理と、を実行する。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
設備の状態を診断する診断装置であって、
前記設備の状態を示す複数のセンサーの時系列データが記憶される記憶部と、
前記時系列データから前記設備の状態変化を判定する処理部と、を備え、
前記処理部は、
前記時系列データのうち基準とする期間のデータである基準データの平均値及び標準偏差を求めた後、前記時系列データの中から比較対象とする期間のデータである比較データの標準化値を、前記平均値及び前記標準偏差から算出する処理と、
前記複数のセンサーの各データ同士を、データの大小関係順にグルーピングする処理を、前記基準データと前記比較データのそれぞれについて実行する処理と、
前記比較データの標準化値を視覚的に表した図と、データの大小関係のグループの順位と前記センサーとの対応関係を、前記基準データと前記比較データのそれぞれについて表した表と、を有する画面を出力する処理と、を実行する、
診断装置。
【請求項2】
前記センサーは、振動センサーであり、
前記時系列データは、前記設備の振動レベルのデータである、
請求項1に記載の診断装置。
【請求項3】
前記処理部は、前記基準データと前記比較データのそれぞれを所定個数に分割して各分割期間におけるデータの最大値と最小値との差分から、前記基準データの平均値及び標準偏差、及び、前記比較データの標準化値を算出する、
請求項1又は2に記載の診断装置。
【請求項4】
前記処理部は、前記複数のセンサーの各データ同士が、正規分布における標準偏差を基準とする範囲内に入るか否かに応じて、同一グループと否のグループとに仕分けすることにより、データの大小関係順にグルーピングする処理を、前記基準データと前記比較データのそれぞれについて実行する、
請求項1から3の何れか一項に記載の診断装置。
【請求項5】
設備の状態を診断する診断方法であって、
コンピュータが、
前記設備の状態を示す複数のセンサーの時系列データのうち基準とする期間のデータである基準データの平均値及び標準偏差を求めた後、前記時系列データの中から比較対象とする期間のデータである比較データの標準化値を、前記平均値及び前記標準偏差から算出する処理と、
前記複数のセンサーの各データ同士を、データの大小関係順にグルーピングする処理を、前記基準データと前記比較データのそれぞれについて実行する処理と、
前記比較データの標準化値を視覚的に表した図と、データの大小関係のグループの順位と前記センサーとの対応関係を、前記基準データと前記比較データのそれぞれについて表した表と、を有する画面を出力する処理と、を実行する、
診断方法。
【請求項6】
設備の状態を診断する診断プログラムであって、
コンピュータに、
前記設備の状態を示す複数のセンサーの時系列データのうち基準とする期間のデータである基準データの平均値及び標準偏差を求めた後、前記時系列データの中から比較対象とする期間のデータである比較データの標準化値を、前記平均値及び前記標準偏差から算出する処理と、
前記複数のセンサーの各データ同士を、データの大小関係順にグルーピングする処理を、前記基準データと前記比較データのそれぞれについて実行する処理と、
前記比較データの標準化値を視覚的に表した図と、データの大小関係のグループの順位と前記センサーとの対応関係を、前記基準データと前記比較データのそれぞれについて表した表と、を有する画面を出力する処理と、を実行させる、
診断プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、診断装置、診断方法、及び診断プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種装置類の経年変化を診断する技術が普及している(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
装置の診断方法の一例として、例えば、設備の保守作業の前後における振動レベルの変化等を比較し、保守作業が適正に行われたことを確認することがある。このような診断方法では、例えば、保守作業の開始前後における仮設または本設の振動センサーの振動データを採取し、解析が行われる。しかし、一般的には、作業者が目視で確認したセンサーの指示値を記録し、保守作業の前後で有意な変動が無いか、或いは、指示値が基準値内に収まっているかの確認に留まっているのが現状であり、データを詳しく解析しないと把握できない変化を容易に捉えることはできていない。
【0005】
そこで、本発明は、設備の状態を示す時系列データを、期間毎に容易に比較可能にすることを解決課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明では、比較データの標準化値を視覚的に表した図と、データの大小関係のグループの順位とセンサーとの対応関係を、基準データと比較データのそれぞれについて表した表と、を有する画面を出力することにした。
【0007】
詳細には、本発明は、設備の状態を診断する診断装置であって、設備の状態を示す複数のセンサーの時系列データが記憶される記憶部と、時系列データから設備の状態変化を判定する処理部と、を備え、処理部は、時系列データのうち基準とする期間のデータである基準データの平均値及び標準偏差を求めた後、時系列データの中から比較対象とする期間のデータである比較データの標準化値を、平均値及び標準偏差から算出する処理と、複数のセンサーの各データ同士を、データの大小関係順にグルーピングする処理を、基準データと比較データのそれぞれについて実行する処理と、比較データの標準化値を視覚的に表した図と、データの大小関係のグループの順位とセンサーとの対応関係を、基準データと比較データのそれぞれについて表した表と、を有する画面を出力する処理と、を実行する。
【0008】
ここで、標準化値とは、基準値に対するばらつき度合いを示す値であり、例えば、基準とする期間における振動レベルに対する、比較対象の期間における振動レベルのばらつき度合いや、その他各種の物理量のばらつき度合いに適用することができる。
【0009】
上記の診断装置であれば、基準とする期間におけるセンサーの時系列データに対する、比較対象の期間におけるセンサーの時系列データのばらつき度合いが視覚的に表示され、更に、データの大小関係のグループの順位とセンサーとの対応関係が、基準データと比較
データのそれぞれについて表される。よって、基準とする期間と比較対象の期間との間における時系列データの変化を容易に比較することが可能となる。
【0010】
なお、センサーは、振動センサーであり、時系列データは、設備の振動レベルのデータであってもよい。稼働中の設備が発する振動は、通常、連続的である。よって、上記診断装置を振動センサーのデータで用いれば、基準とする期間と比較対象の期間との間における時系列データの変化の比較により有効である。
【0011】
また、処理部は、基準データと比較データのそれぞれを所定個数に分割して各分割期間におけるデータの最大値と最小値との差分から、基準データの平均値及び標準偏差、及び、比較データの標準化値を算出してもよい。このような算出方法であれば、データの処理に係る計算負荷を低減することができる。
【0012】
また、処理部は、複数のセンサーの各データ同士が、正規分布における標準偏差を基準とする範囲内に入るか否かに応じて、同一グループと否のグループとに仕分けすることにより、データの大小関係順にグルーピングする処理を、基準データと比較データのそれぞれについて実行してもよい。これによれば、データ同士を、実用上支障ない程度のグループ数にグルーピングすることが可能である。
【0013】
また、本発明は、方法の側面から捉えることもできる。本発明は、例えば、設備の状態を診断する診断方法であって、コンピュータが、設備の状態を示す複数のセンサーの時系列データのうち基準とする期間のデータである基準データの平均値及び標準偏差を求めた後、時系列データの中から比較対象とする期間のデータである比較データの標準化値を、平均値及び標準偏差から算出する処理と、複数のセンサーの各データ同士を、データの大小関係順にグルーピングする処理を、基準データと比較データのそれぞれについて実行する処理と、比較データの標準化値を視覚的に表した図と、データの大小関係のグループの順位とセンサーとの対応関係を、基準データと比較データのそれぞれについて表した表と、を有する画面を出力する処理と、を実行するものであってもよい。
【0014】
また、本発明は、プログラムの側面から捉えることもできる。本発明は、例えば、設備の状態を診断する診断プログラムであって、コンピュータに、設備の状態を示す複数のセンサーの時系列データのうち基準とする期間のデータである基準データの平均値及び標準偏差を求めた後、時系列データの中から比較対象とする期間のデータである比較データの標準化値を、平均値及び標準偏差から算出する処理と、複数のセンサーの各データ同士を、データの大小関係順にグルーピングする処理を、基準データと比較データのそれぞれについて実行する処理と、比較データの標準化値を視覚的に表した図と、データの大小関係のグループの順位とセンサーとの対応関係を、基準データと比較データのそれぞれについて表した表と、を有する画面を出力する処理と、を実行させるものであってもよい。
【発明の効果】
【0015】
上記の診断装置、診断方法、及び診断プログラムであれば、設備の状態を示す時系列データを、期間毎に容易に比較可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、実施形態に係る診断システムのシステム構成の一例を示した図である。
【
図2】
図2は、コンピュータが実現する処理フローの一例を示した図である。
【
図3】
図3は、基準とする期間における振動データの処理内容を解説した図である。
【
図4】
図4は、比較対象の期間における振動データの処理内容を解説した図である。
【
図5】
図5は、各センサーが検出する振動レベルの大きさと発生頻度との相関関係を例示した図である。
【
図6】
図6は、センサーの振動レベルの相関関係の考え方を解説した図である。
【
図7】
図7は、平均値と標準偏差の算出の一例を示した図である。
【
図8】
図8は、標準化値の算出の一例を示した図である。
【
図9】
図9は、ソートとグルーピングの一例を示した図である。
【
図10】
図10は、振動データの比較結果の画面の第1例を示した図である。
【
図11】
図11は、振動データの比較結果の画面の第2例を示した図である。
【
図12】
図12は、振動データの比較結果の画面の第3例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、実施形態について説明する。以下に示す実施形態は、単なる例示であり、本開示の技術的範囲を以下の態様に限定するものではない。
【0018】
<ハードウェア構成>
図1は、実施形態に係る診断システム1のシステム構成の一例を示した図である。診断システム1は、施設4に設置されている設備5を診断するシステムである。診断システム1は、特定の期間における設備5の振動の状態を基準とし、その他の期間における設備5の振動の相対的な状態変化を提示するシステムである。診断システム1は、例えば、設備5の定期的な保守作業の前後における比較、試運転の時と本運転の時との比較、その他各種のタイミングにおける振動の相対的な状態変化に適用可能である。よって、診断システム1は、設備5に取り付けられた仮設又は本設の振動センサー6で設備5の振動に関するデータを取得し、当該データを解析して設備5の診断を行う。診断システム1が診断する施設4の設備5としては、稼働時に振動を発生し得る様々なものが挙げられる。このような設備5としては、例えば、医薬品や工業製品の生産設備、発電設備、輸送機械、その他各種のものが挙げられる。
【0019】
設備5の振動を検出する振動センサー6は、有線または無線でデータを送信する。振動センサー6から送信されるデータは、施設4に設置されるコンピュータ等を経由してクラウド3へアップロードされる。コンピュータ2(本願でいう「診断装置」の一例である)は、クラウド3へアップロードされたデータを解析し、設備5の異常検知等を行う。コンピュータ2は、CPU21、メモリ22、ストレージ23、通信インターフェース24を有する電子計算機であり、ストレージ23から読み出されてメモリ22に展開されたコンピュータプログラムを実行することにより、後述する各種の処理を実行する。コンピュータ2は、施設4から遠隔の地に設置されるものであってもよいし、或いは、施設4に設置されるものであってもよい。
【0020】
コンピュータ2は、コンピュータプログラムを実行すると、以下の処理を実現する。
図2は、コンピュータ2が実現する処理フローの一例を示した図である。コンピュータ2は、コンピュータプログラムを実行すると、
図2に示すステップS101からステップS112までの一連の処理フローを実現する。以下、コンピュータ2が実現する処理フローを説明する。
【0021】
コンピュータ2は、まず、クラウド3にアップロードされた振動データの取得を行う(S101)。すなわち、コンピュータ2は、振動センサー6で計測された振動データをメモリ22に記憶する。振動データとは、振動に関する物理量のデータであり、例えば、振幅の大きさといった各種の振動レベルが挙げられる。メモリ22に記憶される振動データは、コンピュータ2の作動中に逐次蓄積されるリアルタイムのデータであってもよい。振動データは、クラウド3にアップロードされたものではなく、振動センサー6からコンピ
ュータ2へ直接送信されてもよい。
【0022】
次に、コンピュータ2は、振動データの中から基準とする所定期間(T分間)のデータを抽出し、抽出した当該振動データを所定の個数に分割する(S102)。
図3は、基準とする期間における振動データの処理内容を解説した図である。振動データの中から何れの期間のデータを基準の振動データ(BASE LOT)とするかは、様々であるが、例えば、定期的な保守作業の前後における比較を行う場合であれば、保守作業を開始する前の振動データを、基準とする所定期間のデータとするのが好適である。また、分割の個数は、コンピュータ2の計算能力や診断精度に応じて適宜決定可能であるが、ここでは基準の振動データを振動データS1~4に4分割した場合を例に説明する。
【0023】
次に、コンピュータ2は、分割した4つの振動データS1~4のそれぞれについて、最大値から最小値を差し引いた差分を算出する(S103)。4つの振動データS1~4のそれぞれの差分を、以下、差分Δ1~4とする。コンピュータ2は、分割した各振動データの差分の算出を、例えば、全てのセンサーのデータについて行う。一般的な振動センサーであれば、通常、XYZの3軸のそれぞれの振動データを出力する。よって、このように3軸のそれぞれの振動を振動センサー6が出力する場合であれば、コンピュータ2は、1つの振動センサー6に対応する3つのそれぞれの振動データについて、分割した各振動データの差分の算出を行う。振動センサー6はこのように3つの振動データを出力するが、説明の便宜上、振動センサー6が検出する3軸のうちの1つの出力を意味する場合であっても、以下、「センサーの出力」と呼ぶ場合がある。
【0024】
次に、コンピュータ2は、以下の式に基づいて、差分Δ1~4の平均値を算出する(S104)。所定期間における差分Δ1~4の平均値を、以下、平均値Δ
BASEとする。
【数1】
【0025】
次に、基準とする所定期間における振動データの標準偏差σを算出する(S105)。所定期間における振動データの標準偏差σは、以下の式に基づいて算出する。なお、下記の式におけるμは、ステップS104で算出した平均値Δ
BASEである。
【数2】
【0026】
以上により、基準とする所定期間における振動データの処理が完了する。次に、比較対象の期間における振動データの処理について説明する。
図4は、比較対象の期間における振動データの処理内容を解説した図である。ステップS105の処理が完了した後は、振動データの中から比較対象とする所定期間(T分間)のデータを抽出し、抽出した当該振動データを所定の個数に分割する(S106)。
【0027】
比較対象として抽出する振動データは、基準とする所定期間の振動データに対応するものが好ましい。例えば、基準とする所定期間の振動データが、設備5が所定製品の製造を開始してから終了するまでの期間の振動データであった場合、比較対象として抽出する振動データは、設備5が所定製品の製造を開始してから終了するまでの期間の振動データで
あることが好ましい。そして、設備5において当該所定製品の製造が繰り返し行われる場合、製造を開始してから終了するまでの期間毎の振動データを抽出することが好ましい。
図4では、基準とする所定期間におけるのと同様の動作が設備5で少なくとも4回以上繰り返されており、所定期間(T分間)と同じ長さの期間4つ分の振動データL1~4を抽出する例を示している。また、各振動データL1~4を分割する際の分割の個数は、ステップS102における分割の個数と同じである。
【0028】
次に、比較対象の期間における振動データの標準化値Θを算出する(S107)。標準化値Θは、振動データL1~4のそれぞれについて算出されるので、以下、特定の標準化値Θを意味する場合は、対応する符号L1~4を付して説明する(例えば、振動データL2の標準化値Θであれば「標準化値ΘL2」)。標準化値Θは、以下の処理により算出する。
【0029】
すなわち、振動データL1~4のそれぞれについて、上述したステップS102の処理と同様に、所定の個数に分割する。
図4では、振動データL2を振動データS1~4に4分割した場合を例示している。そして、分割した4つの振動データS1~4のそれぞれについて、上述したステップS103の処理と同様に、最大値から最小値を差し引いた差分を算出する。そして、上述したステップS104の処理と同様に、差分Δ1~4の平均値Δを算出する。平均値Δは、振動データL1~4のそれぞれについて算出されるので、以下、特定の平均値Δを意味する場合は、対応する符号L1~4を付して説明する(例えば、振動データL2の平均値Δであれば「平均値Δ
L2」)。そして、以下の式に基づいて標準化値Θを振動データL1~4のそれぞれについて算出する。
【数3】
【0030】
上記一連の処理により、標準化値Θが、基準とする所定期間に対する比較対象の期間の振動レベルのばらつきの度合いとして算出される。
【0031】
次に、センサー間の相関関係を評価するための処理について説明する。
図5は、各センサーが検出する振動レベルの大きさと発生頻度との相関関係を例示した図である。
図5の各グラフは、横軸が振動レベルの大きさを表し、縦軸が発生頻度を表す。
図5において(A)に示すグラフは、2つのセンサーがそれぞれ検出する振動レベルの大きさに明確な差異がある場合を例示している。また、
図5において(B)に示すグラフは、2つのセンサーがそれぞれ検出する振動レベルの大きさが比較的近似している場合を例示している。2つのセンサーがそれぞれ検出する振動レベルの大きさに明確な差異がある場合、
図5(A)に示すように、各センサーで計測する振動データの相対的な大小関係は明確に区別できる。一方、2つのセンサーがそれぞれ検出する振動レベルの大きさが比較的近似している場合、
図5(B)に示すように、各センサーで計測する振動データの相対的な大小関係は明確に区別できないことがある。そこで、各センサーで計測する振動データの相対的な大小関係を比較容易にするため、コンピュータ2は、以下のような処理を行う。
【0032】
コンピュータ2は、まず、基準の振動データ(BASE LOT)における全てのセンサーの出力それぞれについて算出したステップS104の平均値ΔBASEを、昇順にソート(並び替え)する(S108)。そして、平均値ΔBASEの並び順にソートした各センサーに対してグループナンバーを付与する(S109)。また、比較対象とする期間の振動データにおける全てのセンサーの出力それぞれについて算出したステップS107の平均値Δを、昇順にソートする(S110)。そして、平均値Δの並び順にソートした各センサーに対し
てグループナンバーを付与する(S111)。そして、振動データの比較結果の画面を出力する(S112)。各センサーが検出する振動レベルの大小関係の比較は、通常、同じ検出方向(軸)のもの同士で行うと、大小関係が入れ替わった場合にその原因が設備のどこにあるかを特定しやすい。そこで、本実施形態では、ソートやグループナンバーの比較について、同じ検出方向(軸)のもの同士(例えば、X軸とY軸とZ軸のそれぞれ)で行う。
【0033】
上記処理によって付与されるグループナンバーを細分化すると、大小関係が入れ替わるセンサー数が膨大になるため、ステップS112で出力される画面を見たユーザは、基準の振動データ(BASE LOT)と比較対象とする期間の振動データとの間における変化を把握することが難しくなる。そこで、本実施形態では、上記処理におけるグループナンバーの付与を、次のような考え方で行うことにより、基準の振動データ(BASE LOT)と、比較対象とする期間の振動データとの間における変化の把握を容易にしている。
【0034】
すなわち、
図5の(A)で示したケース1の場合においては、センサーAの振動レベルとセンサーBの振動レベルとの相関関係は、明確にAの方がBより小さい(A<B)と言える。よって、本実施形態では、振動レベルの大小関係が明確なケース1については、センサーAとセンサーBは別グループとして定義する。また、
図5の(B)で示したケース2の場合においては、センサーAの振動レベルとセンサーBの振動レベルとの相関関係は、AがB以下(A≦B)の場合であったり、AがB以上(A≧B)であったりすると言える。よって、本実施形態では、振動レベルの大小関係が明確でないケース2については、センサーAとセンサーBは同グループとして定義する。
【0035】
図6は、センサーの振動レベルの相関関係の考え方を解説した図である。
図6のグラフで横軸は振動レベルの大きさを表し、縦軸が発生頻度を表す。特定のセンサーが出力する振動レベルの発生頻度は、基本的に平均値μを頂点とする正規分布に従う。
図6のグラフに示す振動レベルPH1,PL1は、滅多に発生しないデータ(レアケースの値)である。また、
図6のグラフに示す振動レベルPH2,PL2は、異常なデータ(外れ値)である。そして、平均値μから標準偏差σの2倍(μ±2σ)を超える確率は4.5%なので、比較する2つのセンサーの振動レベルの大小関係が逆転する確率は約0.05%(2.25%×2.25%)となり、極めて低い確率である。そこで、本実施形態では、特定のセンサーの振動レベルにおけるμ+2σの値が、他のセンサーの振動レベルにおけるμ-2σの値よりも小さければ、原則的に、両センサーを別グループとして取り扱う。
【0036】
なお、閾値をどのように設定するかは、振動レベルのデータに応じて適宜変更可能である。例えば、±σの範囲の領域は68.3%であり、±2σの範囲の領域は95.5%であり、±3σの範囲の領域は99.7%であるから、センサー数や振動レベルのデータのばらつき度合い等においた適宜のものを、グループ分けの際の閾値として設定する。
【0037】
ところで、本実施形態では、特定のセンサーの振動レベルにおけるμ+2σの値が、他のセンサーの振動レベルにおけるμ-2σの値よりも小さければ、原則的に、両センサーを別グループとして取り扱うが、例外的な取り扱いも行う。すなわち、平均値μや標準偏差σを算出する際の元となるデータのサンプル数が少ないと、データが正規分布を表現できない。よって、μ±2σ(或いは、μ±σ、μ±3σ)が、実際のデータの最小値や最大値を超える場合がある。そこで、本実施形態では、このような実際の振動レベルの状態に沿わない値が算出される場合に備えて、以下のような処理を行う。
【0038】
すなわち、コンピュータ2は、対象とする測定期間における最小値をρ、最大値をηとした場合、μ±2σを超えた場合はρまたはηに設定する。A,B,C,D,Eの5つのセンサーを想定し、2σで判定する場合を例に説明する。例えば、X軸方向における5つ
のセンサーそれぞれの振動データの平均値をソートした結果、平均値が小さいものから順にΔ
Ax,Δ
Bx,Δ
Cx,Δ
Dx,Δ
Exであったと仮定する。以下の式において、Gはグループナンバーとし、平均値Δが最小のグループナンバーをNo.1とし、順にNo.2、3、・・・とする。
【数4】
【0039】
コンピュータ2は、上述したステップS109とステップS111において、上記の式に従ったグループナンバーの付与を行う。そして、コンピュータ2は、上述したステップS112において、基準の振動データ(BASE LOT)における各センサーのグループナンバーと、比較対象とする期間の振動データにおける各センサーのグループナンバーとを比較した画面を出力する。
【0040】
図7は、平均値Δ
BASEと標準偏差σの算出の一例を示した図である。
図7では、20分間の振動データを基準のデータとし、これを4分割した5分間ずつの振動データのそれぞれについて、平均値Δ
BASE(=μ)と標準偏差σを算出する処理(S102~S105)のイメージを示している。
【0041】
図8は、標準化値Θの算出の一例を示した図である。
図8では、比較対象のそれぞれ20分間の振動データL1~4のそれぞれについて、標準化値Θを算出する処理(S106~S107)のイメージを示している。
【0042】
図9は、ソートとグルーピングの一例を示した図である。
図9では、基準の振動データ(BASE LOT)と比較対象の振動データにおける全てのセンサーの出力それぞれについて、平均値Δを昇順にソート(並び替え)してグループナンバーを付与する処理(S108~S111)のイメージを示している。
【0043】
図10は、振動データの比較結果の画面の第1例を示した図である。
図10では、4つの振動データL1~4の全てについて、9つのセンサー(3つの振動センサー6のX軸、Y軸、Z軸)の標準化値Θを示したレーダーチャート、及び、基準の振動データにおける各センサーのグループナンバーと、比較対象とする期間の振動データにおける各センサーのグループナンバーとの関係を示した表を描画した画面を例示している。
図10に示すレーダーチャートは、標準化値Θを示しているので、標準化値Θがゼロの部分が、基準の振動データの部分に相当する。また、
図10に示す表は、基準の振動データのグループナンバーと異なっている部分が判りやすいように、異なっている部分を網掛け表示している。
【0044】
図10に示すような画面がコンピュータ2で表示されると、画面を見たユーザは、基準の振動データ(BASE LOT)と、比較対象とする期間の振動データとの間における変化を容易に把握することができる。例えば、
図10に示すレーダーチャートを見ると、センサーSAxは、基準とする期間における振動データに比べて、振動データL1~L3のばらつきの度合いが大きいことが判る。よって、センサーSAxの振動に関わる箇所で何らかの変化が生じていることが判る。また、例えば、
図10に示す表を見ると、センサーSAy
とセンサーSByについては、基準とする期間における振動データに比べて、振動レベルが入れ替わるような何らかの変化が生じたことが判る。
【0045】
なお、
図10に示した画面は、例えば、次のように変形することもできる。
図11は、振動データの比較結果の画面の第2例を示した図である。
図11に示す画面では、レーダーチャートに振動データL4のばらつき度合いのみが示されている。振動データのばらつき度合いを示すレーダーチャートは、このように、特定の期間の振動データについてのみ表示してもよい。これによれば、特定の期間の振動データを詳しく見ることができる。
【0046】
また、コンピュータ2は、次のような画面を表示してもよい。
図12は、振動データの比較結果の画面の第3例を示した図である。
図12に示す画面では、振動データL1~L4のばらつき度合いを4つのレーダーチャートで別個に表示している。そして、4つのレーダーチャートを時系列順に矢印で並べている。各期間の振動データのばらつき度合いがそれぞれ示されたレーダーチャートが並んで表示されれば、ばらつき度合いの変化を時系列で把握することができる。
【0047】
図10から
図12に例示した画面は、例えば、稼働中の設備5の監視画面として用いることもできる。この場合、
図10に示した網掛け表示等が点滅表示することで、コンピュータ2の画面を監視しているユーザに対し、振動データの変化を報知するようにしてもよい。
【0048】
また、本実施形態では、振動データの場合を例に説明したが、振動以外の様々な計測データに適用することも可能である。
【0049】
<コンピュータが読み取り可能な記録媒体>
コンピュータその他の機械、装置(以下、コンピュータ等)に上記いずれかの機能を実現させるプログラムをコンピュータ等が読み取り可能な記録媒体に記録することができる。そして、コンピュータ等に、この記録媒体のプログラムを読み込ませて実行させることにより、その機能を提供させることができる。
【0050】
ここで、コンピュータ等が読み取り可能な記録媒体とは、データやプログラム等の情報を電気的、磁気的、光学的、機械的、または化学的作用によって蓄積し、コンピュータ等から読み取ることができる記録媒体をいう。このような記録媒体のうちコンピュータ等から取り外し可能なものとしては、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、CD-R/W、DVD、ブルーレイディスク(ブルーレイは登録商標)、DAT、8mmテープ、フラッシュメモリなどのメモリカード等がある。また、コンピュータ等に固定された記録媒体としてハードディスクやROM(リードオンリーメモリ)等がある。
【符号の説明】
【0051】
1・・診断システム
2・・コンピュータ
3・・クラウド
4・・施設
5・・設備
6・・振動センサー
21・・CPU
22・・メモリ
23・・ストレージ
24・・通信インターフェース