(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022135064
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】診断装置、診断方法、及び診断プログラム
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20220908BHJP
【FI】
G05B23/02 T
G05B23/02 301Q
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021034645
(22)【出願日】2021-03-04
(71)【出願人】
【識別番号】000176763
【氏名又は名称】三菱ケミカルエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河野 浩司
(72)【発明者】
【氏名】松木 章洋
(72)【発明者】
【氏名】熊埜御堂 勇貴
(72)【発明者】
【氏名】清原 俊二
【テーマコード(参考)】
3C223
【Fターム(参考)】
3C223AA01
3C223AA02
3C223AA11
3C223AA15
3C223BA03
3C223CC02
3C223DD03
3C223EB01
3C223EB02
3C223EB07
3C223FF02
3C223FF03
3C223FF12
3C223FF13
3C223FF33
3C223FF35
3C223FF42
3C223FF45
3C223FF52
3C223FF53
3C223GG01
3C223HH02
3C223HH03
3C223HH04
3C223HH08
3C223HH17
3C223HH29
(57)【要約】
【課題】本発明は、1つの運転サイクルに複数の工程が存在する設備であっても、設備の状態を示す時系列データを運転サイクル毎に容易に比較可能にすることを解決課題とする。
【解決手段】設備の状態を示す複数のセンサーの時系列データが記憶される記憶部と、時系列データから設備の状態変化を判定する処理部と、を備え、処理部は、時系列データのうち特定の運転サイクルの開始から終了までの間のデータを単位期間毎に分割し、特定の運転サイクルにおける全期間のデータに対する各単位期間のデータの相対的な関係を示す代表値を各単位期間について算出する算出処理と、代表値の大きさ順に採番したグループナンバーを各単位期間のデータに付与するグルーピング処理と、各単位期間のデータに各々付与したグループナンバーを、各単位期間の時系列順にプロットしたものを、複数の運転サイクル分について重ねて示すグラフの画面を出力する出力処理と、を実行する。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つの運転サイクルに複数の工程が存在する設備の状態を診断する診断装置であって、
前記設備の状態を示す複数のセンサーの時系列データが記憶される記憶部と、
前記時系列データから前記設備の状態変化を判定する処理部と、を備え、
前記処理部は、
前記時系列データのうち特定の運転サイクルの開始から終了までの間のデータを単位期間毎に分割し、前記特定の運転サイクルにおける全期間のデータに対する各単位期間のデータの相対的な関係を示す代表値を前記各単位期間について算出する算出処理と、
前記代表値の大きさ順に採番したグループナンバーを前記各単位期間のデータに付与するグルーピング処理と、
前記各単位期間のデータに各々付与したグループナンバーを、前記各単位期間の時系列順にプロットしたものを、複数の運転サイクル分について重ねて示すグラフの画面を出力する出力処理と、を実行する、
診断装置。
【請求項2】
前記処理部は、前記算出処理において、前記各単位期間のデータのばらつき度合いの大きさを表す標準化値を二乗し、前記複数のセンサー分を積算した値を前記代表値として前記各単位期間について算出する、
請求項1に記載の診断装置。
【請求項3】
前記処理部は、前記各単位期間のデータを所定個数に分割して個別に算出した最大値と最小値との差分について、前記単位期間毎の平均値Δと、前記特定の運転サイクルにおける全ての平均値μ及び標準偏差σを算出し、前記平均値Δと前記平均値μと前記標準偏差σを使って前記標準化値を算出する、
請求項2に記載の診断装置。
【請求項4】
前記処理部は、前記グルーピング処理において、前記各単位期間のうち特定の単位期間のデータのばらつきの大小の差分の最小値と最大値の範囲と、他の特定の単位期間のデータのばらつきの大小の差分の最小値と最大値の範囲とが重なるもの同士の代表値同士については同一レベルのものとみなし、両単位期間の各データに同一のグループナンバーを付与する、
請求項1から3の何れか一項に記載の診断装置。
【請求項5】
前記センサーは、振動センサーであり、
前記時系列データは、前記設備の振動レベルのデータである、
請求項1から4の何れか一項に記載の診断装置。
【請求項6】
1つの運転サイクルに複数の工程が存在する設備の状態を診断する診断方法であって、
コンピュータが、
前記設備の状態を示す複数のセンサーの時系列データのうち特定の運転サイクルの開始から終了までの間のデータを単位期間毎に分割し、前記特定の運転サイクルにおける全期間のデータに対する各単位期間のデータの相対的な関係を示す代表値を前記各単位期間について算出する算出処理と、
前記代表値の大きさ順に採番したグループナンバーを前記各単位期間のデータに付与するグルーピング処理と、
前記各単位期間のデータに各々付与したグループナンバーを、前記各単位期間の時系列順にプロットしたものを、複数の運転サイクル分について重ねて示すグラフの画面を出力する出力処理と、を実行する、
診断方法。
【請求項7】
1つの運転サイクルに複数の工程が存在する設備の状態を診断する診断プログラムであって、
コンピュータに、
前記設備の状態を示す複数のセンサーの時系列データのうち特定の運転サイクルの開始から終了までの間のデータを単位期間毎に分割し、前記特定の運転サイクルにおける全期間のデータに対する各単位期間のデータの相対的な関係を示す代表値を前記各単位期間について算出する算出処理と、
前記代表値の大きさ順に採番したグループナンバーを前記各単位期間のデータに付与するグルーピング処理と、
前記各単位期間のデータに各々付与したグループナンバーを、前記各単位期間の時系列順にプロットしたものを、複数の運転サイクル分について重ねて示すグラフの画面を出力する出力処理と、を実行させる、
診断プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、診断装置、診断方法、及び診断プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種装置類の経年変化を診断する技術が普及している(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
装置の診断方法の一例として、例えば、設備の保守作業の前後における振動レベルの変化等を比較し、保守作業が適正に行われたことを確認することがある。このような診断方法では、例えば、保守作業の開始前後における仮設または本設の振動センサーの振動データを採取し、解析が行われる。しかし、一般的には、作業者が目視で確認したセンサーの指示値を記録し、保守作業の前後で有意な変動が無いか、或いは、指示値が基準値内に収まっているかの確認に留まっているのが現状であり、データを詳しく解析しないと把握できない変化を容易に捉えることはできていない。特に、1つの運転サイクルに複数の工程が存在する設備では、工程間で指示値が異なることが多く、また、次工程における指示値が前工程における状態に応じて異なることも日常的である。
【0005】
そこで、本発明は、1つの運転サイクルに複数の工程が存在する設備であっても、設備の状態を示す時系列データを運転サイクル毎に容易に比較可能にすることを解決課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明では、特定の運転サイクルにおける全期間のデータに対する各単位期間のデータの相対的な関係を示す代表値の大きさ順に採番したグループナンバーを各単位期間のデータに付与し、当該グループナンバーを、各単位期間の時系列順にプロットしたものを、複数の運転サイクル分について重ねて示すグラフの画面を出力することにした。
【0007】
詳細には、本発明は、1つの運転サイクルに複数の工程が存在する設備の状態を診断する診断装置であって、設備の状態を示す複数のセンサーの時系列データが記憶される記憶部と、時系列データから設備の状態変化を判定する処理部と、を備え、処理部は、時系列データのうち特定の運転サイクルの開始から終了までの間のデータを単位期間毎に分割し、特定の運転サイクルにおける全期間のデータに対する各単位期間のデータの相対的な関係を示す代表値を各単位期間について算出する算出処理と、代表値の大きさ順に採番したグループナンバーを各単位期間のデータに付与するグルーピング処理と、各単位期間のデータに各々付与したグループナンバーを、各単位期間の時系列順にプロットしたものを、複数の運転サイクル分について重ねて示すグラフの画面を出力する出力処理と、を実行する。
【0008】
ここで、グループナンバーとは、各単位期間のデータに付与するグループ名であり、数字に限定されるものではないが、例えば、グラフの縦軸に設定しやすい数字の方が好適で
ある。
【0009】
上記の診断装置であれば、1つの運転サイクルに複数の工程が存在する設備について、特定の運転サイクルの開始から終了までの間のデータと、他の運転サイクルの開始から終了までの間のデータとの相対的な単位期間毎の関係を、グラフで容易に把握することが可能となる。よって、1つの運転サイクルに複数の工程が存在する設備であっても、設備の状態変化を容易に把握することが可能となる。
【0010】
なお、処理部は、算出処理において、各単位期間のデータのばらつき度合いの大きさを表す標準化値を二乗し、複数のセンサー分を積算した値を代表値として各単位期間について算出するものであってもよい。この場合、処理部は、各単位期間のデータを所定個数に分割して個別に算出した最大値と最小値との差分について、単位期間毎の平均値Δと、特定の運転サイクルにおける全ての平均値μ及び標準偏差σを算出し、平均値Δと平均値μと標準偏差σを使って標準化値を算出してもよい。
【0011】
これによれば、特定の運転サイクルにおける全期間のデータに対する各単位期間のデータの相対的な関係を表したものを代表値として算出することが可能となる。なお、標準化値とは、基準値に対するばらつき度合いを示す値であり、例えば、基準とする期間における振動レベルに対する、比較対象の期間における振動レベルのばらつき度合いや、その他各種の物理量のばらつき度合いに適用することができる。
【0012】
また、処理部は、グルーピング処理において、各単位期間のうち特定の単位期間のデータのばらつきの大小の差分の最小値と最大値の範囲と、他の特定の単位期間のデータのばらつきの大小の差分の最小値と最大値の範囲とが重なるもの同士の代表値同士については同一レベルのものとみなし、両単位期間の各データに同一のグループナンバーを付与してもよい。これによれば、データ同士を、実用上支障ない程度のグループ数にグルーピングすることが可能である。
【0013】
また、センサーは、振動センサーであり、時系列データは、設備の振動レベルのデータであってもよい。稼働中の設備が発する振動は、通常、連続的である。よって、上記診断装置を振動センサーのデータで用いれば、設備の状態変化の把握に好適である。
【0014】
また、本発明は、方法の側面から捉えることもできる。本発明は、例えば、1つの運転サイクルに複数の工程が存在する設備の状態を診断する診断方法であって、コンピュータが、設備の状態を示す複数のセンサーの時系列データのうち特定の運転サイクルの開始から終了までの間のデータを単位期間毎に分割し、特定の運転サイクルにおける全期間のデータに対する各単位期間のデータの相対的な関係を示す代表値を各単位期間について算出する算出処理と、代表値の大きさ順に採番したグループナンバーを各単位期間のデータに付与するグルーピング処理と、各単位期間のデータに各々付与したグループナンバーを、各単位期間の時系列順にプロットしたものを、複数の運転サイクル分について重ねて示すグラフの画面を出力する出力処理と、を実行するものであってもよい。
【0015】
また、本発明は、プログラムの側面から捉えることもできる。本発明は、例えば、1つの運転サイクルに複数の工程が存在する設備の状態を診断する診断プログラムであって、コンピュータに、設備の状態を示す複数のセンサーの時系列データのうち特定の運転サイクルの開始から終了までの間のデータを単位期間毎に分割し、特定の運転サイクルにおける全期間のデータに対する各単位期間のデータの相対的な関係を示す代表値を各単位期間について算出する算出処理と、代表値の大きさ順に採番したグループナンバーを各単位期間のデータに付与するグルーピング処理と、各単位期間のデータに各々付与したグループナンバーを、各単位期間の時系列順にプロットしたものを、複数の運転サイクル分につい
て重ねて示すグラフの画面を出力する出力処理と、を実行させるものであってもよい。
【発明の効果】
【0016】
上記の診断装置、診断方法、及び診断プログラムであれば、1つの運転サイクルに複数の工程が存在する設備であっても、設備の状態を示す時系列データを運転サイクル毎に容易に比較可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、実施形態に係る診断システムのシステム構成の一例を示した図である。
【
図2】
図2は、コンピュータが実現する処理フローの一例を示した図である。
【
図3】
図3は、特定の運転サイクルにおける振動データの処理内容を解説した図である。
【
図4】
図4は、代表値のソート及びグループナンバーの付与を解説した図である。
【
図5】
図5は、各センサーが検出する振動レベルの大きさと発生頻度との相関関係を例示した図である。
【
図6】
図6は、センサーの振動レベルの相関関係の考え方を解説した図である。
【
図7】
図7は、特定の運転サイクルにおけるグループナンバーのソートと、グラフの描画処理をイメージした図である。
【
図8】
図8は、混合する処理をイメージで表した図である。
【
図9】
図9は、比較対象とする運転サイクルのグラフを、ベースパターンと比較可能なように示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、実施形態について説明する。以下に示す実施形態は、単なる例示であり、本開示の技術的範囲を以下の態様に限定するものではない。
【0019】
<ハードウェア構成>
図1は、実施形態に係る診断システム1のシステム構成の一例を示した図である。診断システム1は、施設4に設置されている設備5を診断するシステムである。診断システム1は、1つの運転サイクルに複数の工程が存在する設備5を対象とするシステムであり、複数の工程によって構成される1つの運転サイクルにおける開始から終了までの間に設備5が発する振動のレベルを、各運転サイクル間で比較可能にする。診断システム1は、例えば、設備5の定期的な保守作業の前後における比較、試運転の時と本運転の時との比較、その他各種のタイミングにおける振動の相対的な状態変化に適用可能である。よって、診断システム1は、設備5に取り付けられた仮設又は本設の振動センサー6で設備5の振動に関するデータを取得し、当該データを解析して設備5の診断を行う。診断システム1が診断する施設4の設備5としては、稼働時に振動を発生し得る様々なものが挙げられる。このような設備5としては、例えば、医薬品や工業製品の生産設備、発電設備、輸送機械、その他各種のものが挙げられる。
【0020】
設備5の振動を検出する振動センサー6は、有線または無線でデータを送信する。振動センサー6から送信されるデータは、施設4に設置されるコンピュータ等を経由してクラウド3へアップロードされる。コンピュータ2(本願でいう「診断装置」の一例である)は、クラウド3へアップロードされたデータを解析し、設備5の異常検知等を行う。コンピュータ2は、CPU21、メモリ22、ストレージ23、通信インターフェース24を有する電子計算機であり、ストレージ23から読み出されてメモリ22に展開されたコンピュータプログラムを実行することにより、後述する各種の処理を実行する。コンピュータ2は、施設4から遠隔の地に設置されるものであってもよいし、或いは、施設4に設置されるものであってもよい。
【0021】
コンピュータ2は、コンピュータプログラムを実行すると、以下の処理を実現する。
図2は、コンピュータ2が実現する処理フローの一例を示した図である。コンピュータ2は、コンピュータプログラムを実行すると、
図2に示すステップS101からステップS112までの一連の処理フローを実現する。以下、コンピュータ2が実現する処理フローを説明する。
【0022】
コンピュータ2は、まず、クラウド3にアップロードされた振動データの取得を行う(S101)。すなわち、コンピュータ2は、振動センサー6で計測された振動データをメモリ22に記憶する。振動データとは、振動に関する物理量のデータであり、例えば、振幅の大きさといった各種の振動レベルが挙げられる。メモリ22に記憶される振動データは、コンピュータ2の作動中に逐次蓄積されるリアルタイムのデータであってもよい。振動データは、クラウド3にアップロードされたものではなく、振動センサー6からコンピュータ2へ直接送信されてもよい。
【0023】
次に、コンピュータ2は、振動データの中から基準とする特定の運転サイクルの開始から終了までの間のデータを抽出し、抽出した当該振動データを所定の個数に分割する(S102)。
図3は、特定の運転サイクルにおける振動データの処理内容を解説した図である。振動データの中から何れの期間のデータを抽出するかは、様々であるが、例えば、定期的な保守作業の前後における比較を行う場合であれば、保守作業を開始する前に実行された運転サイクルにおける開始から終了までの振動データや、保守作業を完了した後に最初に実行された運転サイクルにおける開始から終了までの振動データを、基準とする運転サイクルの振動データとして抽出するのが好適である。また、分割の個数は、コンピュータ2の計算能力や診断精度に応じて適宜決定可能であるが、ここでは特定の運転サイクルにおける振動データを、振動データT1~Tnのn個に分割した場合を例に説明する。各振動データT1~Tnに対応する時間軸の期間を、以下、「単位期間」という。
【0024】
更に、コンピュータ2は、各振動データT1~Tnをそれぞれ更に所定の個数に分割する。分割の個数は、上記と同様、コンピュータ2の計算能力や診断精度に応じて適宜決定可能であるが、ここでは各振動データT1~Tnをそれぞれ振動データS1~S5に5分割した場合を例に説明する。
【0025】
次に、コンピュータ2は、分割した5つの振動データS1~S5のそれぞれについて、最大値から最小値を差し引いた差分を算出する(S103)。5つの振動データS1~S5のそれぞれの差分を、以下、差分Δ1~Δ5とする。コンピュータ2は、分割した各振動データの差分の算出を、例えば、全てのセンサーのデータについて行う。一般的な振動センサーであれば、通常、XYZの3軸のそれぞれの振動データを出力する。よって、このように3軸のそれぞれの振動を振動センサー6が出力する場合であれば、コンピュータ2は、1つの振動センサー6に対応する3つのそれぞれの振動データについて、分割した各振動データの差分の算出を行う。振動センサー6はこのように3つの振動データを出力するが、説明の便宜上、振動センサー6が検出する3軸のうちの1つの出力を意味する場合に、以下、「センサーの出力」或いは「振動因子」と呼ぶ場合がある。
【0026】
次に、コンピュータ2は、差分Δ1~Δ5の平均値Δを算出する(S104)。平均値Δは、全ての振動データT1~Tnについて行う。よって、以下、振動データT1~Tnのうちの何れかの平均値Δを意味する場合は、対応する符号T1~Tnを付して説明する(例えば、振動データT1の平均値Δであれば「平均値Δ
T1」)。コンピュータ2は、以下の式に基づいて平均値Δを算出する。
【数1】
【0027】
次に、データを抽出した特定の運転サイクルにおける全期間の振動データの平均値μ及び標準偏差σを算出する(S105)。データを抽出した特定の運転サイクルにおける全期間の振動データの平均値μ及び標準偏差σは、以下の式に基づいて算出する。すなわち、平均値μは、各振動データT1~Tnのそれぞれに対応する5つの振動データS1~S5の差分Δ1~5の全て(5×n個)の平均値である。
【数2】
【0028】
次に、各振動データT1~Tnの標準化値Θを算出する(S106)。標準化値Θは、振動データT1~Tnのそれぞれについて算出されるので、以下、特定の標準化値Θを意味する場合は、対応する符号T1~Tnを付して説明する(例えば、振動データT1の標準化値Θであれば「標準化値Θ
T1」)。標準化値Θは、データを抽出した特定の運転サイクルにおける全期間の振動データの平均値μ及び標準偏差σを用いて、各振動データT1~Tnの平均値Δを標準化して算出する。よって、コンピュータ2は、以下の式に基づいて標準化値Θを算出する。
【数3】
【0029】
次に、各振動データT1~Tnについて、振動の状態を定量的に表す代表値Pを算出する(S107)。標準化値Θは、正と負の両方が混在する。そこで、代表値Pは、標準化値Θを二乗し、全振動因子(全センサー)分について積分した値とする。具体的には、以下の式に基づいて各単位期間の代表値Pを算出する。
【数4】
【0030】
振動センサー6は、上述したように、通常、X軸とY軸とZ軸の3つの振動データを出力する。よって、上記の式において、振動センサー6が3つの場合にはセンサー数Mが9(3×3)となる。また、周期ナンバーは、振動データT1~Tnに対応する1~nのナンバーである。
【0031】
次に、コンピュータ2は、n個の代表値Pを、昇順にソート(並び替え)する(S108)。そして、代表値Pの並び順にグループナンバーを採番する(S109)。n個の代
表値Pのうち、値の大きさが同一レベルのものについては同一のグループナンバーを採番する。
図4は、代表値Pのソート及びグループナンバーの付与を解説した図である。コンピュータ2は、
図4(A)に示すようにステップS107で代表値Pを算出すると、
図4(B)に示すようにステップS108で代表値Pを昇順にソートする。そして、コンピュータ2は、
図4(C)に示すように、n個の代表値Pのうち値の大きさが同一レベルのものを仕分けるレベル判定を行う。そして、コンピュータ2は、
図4(D)に示すように、同一レベルのものについては同一のグループナンバーを採番する。
図4では、代表値P33,P34,P21の3つについては値の大きさが同一レベルと判定され、同一のグループナンバーである「Gr1」が付与された例を示している。代表値Pの値の大きさが互いに同一レベルであるか否かの判定は、以下の考え方に基づいて行われる。
【0032】
図5は、各センサーが検出する振動レベルの大きさと発生頻度との相関関係を例示した図である。
図5の各グラフは、横軸が振動レベルの大きさを表し、縦軸が発生頻度を表す。
図5において(A)に示すグラフは、2つのセンサーがそれぞれ検出する振動レベルの大きさに明確な差異がある場合を例示している。また、
図5において(B)に示すグラフは、2つのセンサーがそれぞれ検出する振動レベルの大きさが比較的近似している場合を例示している。2つのセンサーがそれぞれ検出する振動レベルの大きさに明確な差異がある場合、
図5(A)に示すように、各センサーで計測する振動データの相対的な大小関係は明確に区別できる。一方、2つのセンサーがそれぞれ検出する振動レベルの大きさが比較的近似している場合、
図5(B)に示すように、各センサーで計測する振動データの相対的な大小関係は明確に区別できないことがある。そこで、代表値Pの値の大きさが互いに同一レベルであるか否かの判定は、基本的に以下のようにして行われる。
【0033】
すなわち、
図5の(A)で示したケース1の場合においては、センサーAの振動レベルとセンサーBの振動レベルとの相関関係は、明確にAの方がBより小さい(A<B)と言える。よって、本実施形態では、振動レベルの大小関係が明確なケース1については、センサーAとセンサーBは別グループとして定義する。また、
図5の(B)で示したケース2の場合においては、センサーAの振動レベルとセンサーBの振動レベルとの相関関係は、AがB以下(A≦B)の場合であったり、AがB以上(A≧B)であったりすると言える。よって、本実施形態では、振動レベルの大小関係が明確でないケース2については、センサーAとセンサーBは同グループとして定義する。
【0034】
図6は、センサーの振動レベルの相関関係の考え方を解説した図である。
図6のグラフで横軸は振動レベルの大きさを表し、縦軸が発生頻度を表す。特定のセンサーが出力する振動レベルの発生頻度は、基本的に平均値μを頂点とする正規分布に従う。
図6のグラフに示す振動レベルPH1,PL1は、滅多に発生しないデータ(レアケースの値)である。また、
図6のグラフに示す振動レベルPH2,PL2は、異常なデータ(外れ値)である。そして、平均値μから標準偏差σの2倍(μ±2σ)を超える確率は4.5%なので、比較する2つのセンサーの振動レベルの大小関係が逆転する確率は約0.05%(2.25%×2.25%)となり、極めて低い確率である。そこで、本実施形態では、特定のセンサーの振動レベルにおけるμ+2σの値が、他のセンサーの振動レベルにおけるμ-2σの値よりも小さければ、原則的に、両センサーを別グループとして取り扱う。
【0035】
なお、閾値をどのように設定するかは、振動レベルのデータに応じて適宜変更可能である。例えば、±σの範囲の領域は68.3%であり、±2σの範囲の領域は95.5%であり、±3σの範囲の領域は99.7%であるから、センサー数や振動レベルのデータのばらつき度合い等に応じた適宜のものを、グループ分けの際の閾値として設定する。
【0036】
上記のような考え方の元、振動データを基にして算出される代表値Pの値の大きさが互いに同一レベルであるか否かの判定について、コンピュータ2は、具体的には以下のよう
な処理で実行する。
【0037】
すなわち、コンピュータ2は、振動因子毎に、各振動データT1~TnについてステップS102で5つに分割して得た振動データS1~S5のそれぞれの最大値、最小値、平均値、標準偏差を使い、各振動データT1~Tnのばらつきの最小値を標準化したΘρ、最大値を標準化したΘηを算出する。ΘρとΘηの算出は、次のようにして行う。
【0038】
まず、振動データS1~S5のそれぞれの最大値、最小値、平均値、標準偏差を、順にη、ρ、Δ、sとする。そして、各振動データS1~S5について、振動データのばらつきの大小の差分の最小値Δρと最大値Δηを以下の式に基づいて決定する。なお、下記の式におけるsの係数は、設備5の特徴等に応じて予め適宜決定された値である。
【数5】
【0039】
次に、振動因子毎に、当該運転サイクルにおける全ての振動データS1~S5、すなわち、(5×3×n)個のΔの平均値μと、標準偏差σを算出する。そして、算出した平均値μ及び標準偏差σを使って、各単位期間のΔρを標準化したΘρと、各単位期間のΔηを標準化したΘηを算出する。具体的には、以下の式に基づいてΘρとΘηを算出する。
【数6】
【0040】
標準化値は、正と負の両方が混在し得る。そこで、代表値Pの算出と同様、算出したΘρとΘηをそれぞれ二乗して全振動因子(全センサー)分について積分した最小の代表値Pρ及び最大の代表値Pηを算出する。具体的には、以下の式に基づいて各単位期間の代表値Pρ、Pηを算出する。
【数7】
【0041】
そして、ステップS108で代表値Pの昇順にソートした後、各代表値Pに対応する代表値Pρと代表値Pηの範囲が互いに重なるもの同士の代表値Pについては同一レベルのものとみなすレベル判定を行い、ステップS109の処理、すなわち、グループナンバーを採番する処理を完了する。同一レベルのものであるか否かの判定の方法を示した式を、下記に示す。下記の式では、代表値Pを昇順にソートした結果、「P41<P53<P40<・・・」であったケースについて例示している。代表値PnのグループナンバーをGnとすると、以下の式に示す判定基準にしたがってグループナンバーを採番する。
【数8】
【0042】
すなわち、上記の式では、n個の代表値Pのうち最も値が小さい代表値P41のグループナンバーG41として「1」が設定される例が示されている。そして、代表値P41に対応するPη41が、代表値P41の次に大きい値である代表値P53に対応する代表値Pρ53より小さければ、代表値P53に対応する最小の代表値Pρ53と最大の代表値Pη53の範囲に、代表値P41に対応する最小の代表値Pρ41と最大の代表値Pη41の範囲が重なっていないことになるから、代表値P53は代表値P41と同一レベルではないとみなし、代表値P53のグループナンバーG53として「2」が設定される例が示されている。また、代表値P41に対応する最大の代表値Pη41が、代表値P41の次に大きい値である代表値P53に対応する最小の代表値Pρ53以上であれば、代表値P53に対応する最小の代表値Pρ53と最大の代表値Pη53の範囲に、代表値P41に対応する最小の代表値Pρ41と最大の代表値Pη41の範囲が重なっていることになるから、代表値P53は代表値P41と同一レベルであるとみなし、代表値P53のグループナンバーG53として、代表値P41のグループナンバーG41と同じ「1」が設定される例が示されている。
【0043】
以上のような処理により、n個の代表値Pのそれぞれについて、グループナンバーの採番が完了する。
【0044】
次に、コンピュータ2は、採番したグループナンバーを、各グループナンバーに対応する振動データの時系列順にソートする(S110)。そして、コンピュータ2は、横軸を時系列、縦軸をグループナンバーとするグラフを作成する(S111)。
図7は、特定の運転サイクルにおけるグループナンバーのソートと、グラフの描画処理をイメージした図である。コンピュータ2がステップS110の処理を実行すると、例えば、
図7に示されるように、振動データT1~Tnの単位期間それぞれに対応する形で、グループナンバーが時系列順にソートされる。よって、縦軸をグループナンバーとするグラフに、この時系列順にソートされたグループナンバーをプロットしていくと、
図7に示されるように、ステップS109において採番されたグループナンバーを時系列で視覚的に表したグラフが完成する。以下、このグラフの折れ線が示すパターンを、ベースパターンという。
【0045】
コンピュータ2は、次に、基準とする運転サイクルの振動データの特徴を表したベースパターンと、比較対象の運転サイクルの振動データの特徴を表した比較対象パターンとの照合を行う。具体的には、コンピュータ2は、以下の処理を実行し、比較対象の運転サイクルの振動データを処理する(S112)。
【0046】
すなわち、コンピュータ2は、まず、比較対象とする運転サイクルの振動データから代表値Pを算出する。算出方法は、上述したステップS102~S107の処理と同様である。次に、基準とする運転サイクルの振動データから算出した代表値Pと、比較対象とする運転サイクルの振動データから算出した代表値Pとを混合する。
図8は、混合する処理をイメージで表した図である。次に、コンピュータ2は、混合した代表値Pについて、ステップS108~S109と同様の処理を行い、グループナンバーを採番する。そして、コンピュータ2は、採番したグループナンバーを、基準とする運転サイクルに対応するも
のと、比較対象とする運転サイクルに対応するものとに仕分ける。そして、コンピュータ2は、ステップS110と同様の処理を、仕分けたそれぞれのグループナンバーに対して行い、基準とする運転サイクルに対応するグループナンバーと、比較対象とする運転サイクルに対応するグループナンバーについて、各グループナンバーに対応する振動データの時系列順にソートする。そして、コンピュータ2は、ステップS111と同様に、横軸を時系列、縦軸をグループナンバーとするグラフを作成する。
図9は、比較対象とする運転サイクルのグラフを、ベースパターンと比較可能なように示したグラフである。
【0047】
図9のグラフでは、基準とする特定の運転サイクルを示すベースパターンのグラフの他に、比較対象として4つの運転サイクルのグラフが示されている。
図9のグラフにおいて、縦軸が示すグループナンバーは、振動レベルの大小とは無関係である。振動値の大小の差分の平均値からのずれが大きい程、グラフ線が示すばらつきが大きくなる。
図9に示す例では、5つのグラフ線を見比べることにより、各運転サイクルの開始初期段階においては、振動値の大小の差分の平均値からのずれが大きいことが判る。設備5が、例えば、運転サイクルの開始初期段階において、真空槽内を真空ポンプで真空引きするような工程を有する場合、真空ポンプの吸い込み側にある弁開度や、真空槽の開閉部分の密閉度合い等に応じて、真空ポンプが発する振動レベルが変化する。よって、設備5がこのような場合、各運転サイクルの開始初期段階において、
図9に示すように、振動値の大小の差分の平均値からのずれが大きくなることがある。
【0048】
本実施形態のコンピュータ2は、このように、振動値の大小の差分の平均値からのずれを視覚的に把握可能なグラフの画面を出力する。よって、診断システム1であれば、1つの運転サイクルに複数の工程が存在する設備5であっても、1つの運転サイクルにおける開始から終了までの間に設備5が発する振動のレベルを、各運転サイクル間で比較することが可能である。したがって、設備5の管理者は、設備5の調査やメンテナンスの要否等を判断する際の参考に当該グラフを用いることが可能である。
【0049】
なお、本実施形態では、振動データの場合を例に説明したが、振動以外の様々な計測データに適用することも可能である。
【0050】
<コンピュータが読み取り可能な記録媒体>
コンピュータその他の機械、装置(以下、コンピュータ等)に上記いずれかの機能を実現させるプログラムをコンピュータ等が読み取り可能な記録媒体に記録することができる。そして、コンピュータ等に、この記録媒体のプログラムを読み込ませて実行させることにより、その機能を提供させることができる。
【0051】
ここで、コンピュータ等が読み取り可能な記録媒体とは、データやプログラム等の情報を電気的、磁気的、光学的、機械的、または化学的作用によって蓄積し、コンピュータ等から読み取ることができる記録媒体をいう。このような記録媒体のうちコンピュータ等から取り外し可能なものとしては、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、CD-R/W、DVD、ブルーレイディスク(ブルーレイは登録商標)、DAT、8mmテープ、フラッシュメモリなどのメモリカード等がある。また、コンピュータ等に固定された記録媒体としてハードディスクやROM(リードオンリーメモリ)等がある。
【符号の説明】
【0052】
1・・診断システム
2・・コンピュータ
3・・クラウド
4・・施設
5・・設備
6・・振動センサー
21・・CPU
22・・メモリ
23・・ストレージ
24・・通信インターフェース