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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022135065
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】肉様食品用油脂組成物
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20220908BHJP
   A23L 13/00 20160101ALI20220908BHJP
   A23L 13/40 20160101ALI20220908BHJP
   A23J 3/00 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
A23D9/00 518
A23L13/00 A
A23L13/40
A23J3/00 502
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021034646
(22)【出願日】2021-03-04
(71)【出願人】
【識別番号】591040144
【氏名又は名称】太陽油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】依田 浩樹
(72)【発明者】
【氏名】岸 瑶介
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 孝徳
【テーマコード(参考)】
4B026
4B042
【Fターム(参考)】
4B026DC01
4B026DG01
4B026DG03
4B026DG04
4B026DG06
4B026DH01
4B026DH02
4B026DH03
4B026DH05
4B026DP01
4B026DX01
4B026DX02
4B042AC03
4B042AD36
4B042AE03
4B042AG07
4B042AH11
4B042AK06
4B042AK11
4B042AK13
4B042AP04
4B042AP14
4B042AP30
(57)【要約】
【課題】肉様食品に使用した際の取扱い性に優れ、かつ、焼成歩留り、ジューシー感、及び食感を改善する効果に優れる肉様食品用油脂組成物を提供する。
【解決手段】固体脂含量が、10℃で15~50%、35℃で10%未満である肉様食品用油脂組成物。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体脂含量が、10℃で15~50%、35℃で10%未満である肉様食品用油脂組成物。
【請求項2】
ラウリン系固体脂と、ラウリン系固体脂及びそれ以外の油脂の混合油をエステル交換してなる油脂とからなる群から選択される1以上を含む、請求項1に記載の肉様食品用油脂組成物。
【請求項3】
油脂組成物の全構成脂肪酸のうち、ラウリン酸の含有量が、6~39質量%である、請求項1又は2に記載の肉様食品用油脂組成物。
【請求項4】
油脂組成物の全構成脂肪酸のうち、飽和脂肪酸の含有量が、30~70質量%である、請求項1~3のいずれかに記載の肉様食品用油脂組成物。
【請求項5】
固体脂含量が、5℃で15~60%である請求項1~4のいずれかに記載の肉様食品用油脂組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の肉様食品用油脂組成物と、1種又は2種以上の植物性蛋白質素材とを含む肉様食品。
【請求項7】
前記植物性蛋白質素材が、大豆蛋白質、えんどう豆蛋白質、ひよこ豆蛋白質、レンズマメ蛋白質、いんげん豆蛋白質、そら豆蛋白質からなる群から選択される1種又は2種以上を含む材料である、請求項6に記載の肉様食品。
【請求項8】
前記植物性蛋白質素材が、大豆蛋白質を含む、請求項6又は7に記載の肉様食品。
【請求項9】
請求項1~5のいずれかに記載の肉様食品用油脂組成物と、1種又は2種以上の植物性蛋白質素材とを混ぜ合わせて混合種を調製する工程と、前記混合種を所定の形状に成形して成形物とする工程と、前記成形物を加熱処理する工程とを含むことを特徴とする肉様食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肉様食品用油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康志向や環境保護といった観点から、食肉の一部あるいは全部を植物性蛋白質素材に代替した食品(以下、「肉様食品」ということがある。)の需要が高まっている。これらの食品は、低コレステロールかつ高蛋白質であることから注目されており、既にハンバーグやソーセージ等が流通している。
植物性蛋白質素材や肉様食品は、一般的に食用とされてきた畜肉加工食品と比較してジューシー感や食感に劣るため、肉様食品用油脂組成物を添加することでこれらの特性を改善することが試みられている。
また、ジューシー感を向上させるために水分量や油分量を高くすると、液体分の割合が増すことによって肉様食品の保形性が低くなり、ハンバーグやソーセージ等を製造する際に成形が困難になることがある。
肉様食品に限らず、食品に対して加熱操作を行う場合は製品重量の加熱損失が起こることから、様々な手法により加熱焼成する際の歩留りを改善することが試みられている。
【0003】
特許文献1には、加工食品のジューシー感を改善するために、特定の組成の加工食品用油脂組成物を使用することが記載されている。植物性蛋白質素材を使用した加工食品についてもジューシー感を改善するために、特定の組成の加工食品用油脂組成物を使用することが記載されている。
【0004】
特許文献2には、畜肉加工食品の片面に打ち粉をし、対向する片面を焼成する方法により加熱焼成する際の歩留りを向上させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2020/004058号
【特許文献2】特開2020-162451号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らが検討したところ、特許文献1の加工食品用油脂組成物は、肉様食品に使用した際にジューシー感及び食感を改善する効果が十分とはいえなかった。特に、喫食中に肉様食品の温度が低下してくると、油脂が冷え固まり、不自然に硬い食感となってしまう問題があった。加えて、当該油脂組成物を調製するためには、粉砕工程など、何らかの加工工程を経る必要があった。
また、特許文献2には畜肉加工食品を加熱焼成する際の歩留りを改善する製造方法が記載されているが、特殊な製造工程を経る必要があった。
【0007】
本発明は、肉様食品に使用した際の取扱い性に優れ、かつ、焼成歩留り、ジューシー感、及び食感を改善する効果に優れる肉様食品用油脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、以下の肉様食品用油脂組成物等を提供できる。
1.固体脂含量が、10℃で15~50%、35℃で10%未満である肉様食品用油脂組成物。
2.ラウリン系固体脂と、ラウリン系固体脂及びそれ以外の油脂の混合油をエステル交換してなる油脂とからなる群から選択される1以上を含む、1に記載の肉様食品用油脂組成物。
3.油脂組成物の全構成脂肪酸のうち、ラウリン酸の含有量が、6~39質量%である、1又は2に記載の肉様食品用油脂組成物。
4.油脂組成物の全構成脂肪酸のうち、飽和脂肪酸の含有量が、30~70質量%である、1~3のいずれかに記載の肉様食品用油脂組成物。
5.固体脂含量が、5℃で15~60%である1~4のいずれかに記載の肉様食品用油脂組成物。
6.1~5のいずれかに記載の肉様食品用油脂組成物と、1種又は2種以上の植物性蛋白質素材とを含む肉様食品。
7.前記植物性蛋白質素材が、大豆蛋白質、えんどう豆蛋白質、ひよこ豆蛋白質、レンズマメ蛋白質、いんげん豆蛋白質、そら豆蛋白質からなる群から選択される1種又は2種以上を含む材料である、6に記載の肉様食品。
8.前記植物性蛋白質素材が、大豆蛋白質を含む、6又は7に記載の肉様食品。
9.1~5のいずれかに記載の肉様食品用油脂組成物と、1種又は2種以上の植物性蛋白質素材とを混ぜ合わせて混合種を調製する工程と、前記混合種を所定の形状に成形して成形物とする工程と、前記成形物を加熱処理する工程とを含むことを特徴とする肉様食品の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、肉様食品に使用した際の取扱い性に優れ、かつ、焼成歩留り、ジューシー感、及び食感を改善する効果に優れる肉様食品用油脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0011】
[肉様食品用油脂組成物]
本発明の肉様食品用油脂組成物は、固体脂含量が、10℃で15~50%、35℃で10%未満である肉様食品用油脂組成物である。
これにより、肉様食品に使用した際の取扱い性に優れ、かつ、焼成歩留り、ジューシー感、及び食感を改善する効果に優れる肉様食品用油脂組成物を提供することができる。
【0012】
取扱い性とは、肉様食品を製造する際の、混合種中における肉様食品用油脂組成物の分散性と、加熱して肉様食品とする前の混合種の成形性とを意味する。肉様食品用油脂組成物が混合種中によく分散し、また、混合種が成形しやすいほど、取扱い性に優れることを意味する。
焼成歩留りとは、肉様食品を製造する際の、加熱焼成工程における、焼成前重量に対する焼成後重量の割合を意味し、焼成歩留りが大きいほど加熱焼成工程における損失量が少ないことを意味する。
ジューシー感とは、肉様食品を食する際の咀嚼により、肉様食品から溢れる液体成分の感触を意味し、溢れる液体成分の量が多いほどジューシー感が優れることを意味する。
食感とは、肉様食品を食する際の噛みごたえを意味し、粒感を呈することにより、畜肉に近い噛みごたえであるほど食感が優れることを意味する。
【0013】
[固体脂含量(以下、「SFC」ともいう。)]
本発明の肉様食品用油脂組成物は、10℃における固体脂含量が15~50%である。10℃におけるSFCは、18~47%であることが好ましく、24~40%であることがより好ましい。
10℃におけるSFCが上記範囲内であると、肉様食品に使用した際の取扱い性及び焼成歩留りに優れる肉様食品用油脂組成物を得ることができる。10℃におけるSFCが上記範囲を超える場合は分散性及び焼成歩留りが悪くなり、上記範囲を下回る場合は、加熱する前の成形性が悪くなる。
また、10℃におけるSFCが上記範囲の下限値以上であると、肉様食品が熱い時のジューシー感及び食感の改善効果に優れる。
【0014】
10℃におけるSFCは、例えば、15%以上、18%以上、21%以上、又は24%以上であり得、また、50%以下、47%以下、44%以下、又は40%以下であり得る。
【0015】
本発明の肉様食品用油脂組成物は、35℃におけるSFCが10%未満である。35℃におけるSFCは、0.3~7%であることが好ましく、0.9~4%であることがより好ましい。
10℃におけるSFCが前述した範囲内にあることを前提として、35℃におけるSFCが、上記範囲内であると、肉様食品が冷めた時のジューシー感及び食感の改善効果に優れる。
【0016】
35℃におけるSFCは、例えば、0%以上、0.3%以上、0.5%以上、0.7%以上、又は0.9%以上であり得、また、10%未満、9%以下、7%以下、又は4%以下であり得る。
【0017】
本発明の肉様食品用油脂組成物は、5℃におけるSFCが、好ましくは、15~60%であり、より好ましくは、25~55%であり、特に好ましくは、25~49%である。
【0018】
5℃におけるSFCは、例えば、15%以上、18%以上、21%以上、又は25%以上であり得、また、60%以下、59%以下、55%以下、又は49%以下であり得る。
【0019】
本発明の肉様食品用油脂組成物は、30℃におけるSFCが、好ましくは、1.0~11%であり、より好ましくは、1.5~10%である。
【0020】
30℃におけるSFCは、例えば、1.0%以上、1.2%以上、又は1.5%以上であり得、また、11%以下又は10%以下であり得る。
【0021】
SFC(単位:%)は、基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会)の「2.2.9-2013 固体脂含量(NMR法)」に基づいて、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0022】
本発明の好ましい態様によれば、肉様食品用油脂組成物は、(A)ラウリン系固体脂と、ラウリン系固体脂及びそれ以外の油脂の混合油をエステル交換してなる油脂とからなる群から選択される1以上の油脂(以下、「(A)成分」ともいう。)を含む。肉様食品用油脂組成物は、さらに(B)液体油(以下、「(B)成分」ともいう。)、(C)非ラウリン系極度硬化油(以下、「(C)成分」ともいう。)、及び(D)非ラウリン系固体脂(以下、「(D)成分」ともいう。)からなる群から選択される1以上を含んでもよい。
【0023】
肉様食品用油脂組成物における(A)成分の含有量は、10℃及び35℃における肉様食品用油脂組成物のSFCが上記範囲内にあれば特に限定はされず、肉様食品用油脂組成物全体に対して、例えば、20%以上、24%以上、又は28%以上であり得、また、100%以下、90%以下、又は80%以下であり得る。
【0024】
肉様食品用油脂組成物における(B)成分の含有量は、10℃及び35℃における肉様食品用油脂組成物のSFCが上記範囲内にあれば特に限定はされず、肉様食品用油脂組成物全体に対して、例えば、0%以上、10%以上、20%以上、又は25%以上であり得、また、80%以下、75%以下、又は70%以下であり得る。
【0025】
肉様食品用油脂組成物における(C)成分の含有量は、10℃及び35℃における肉様食品用油脂組成物のSFCが上記範囲内にあれば特に限定はされず、肉様食品用油脂組成物全体に対して、例えば、0%以上、0.5%以上、又は1%以上であり得、また、10%以下、8%以下、又は5%以下であり得る。
【0026】
肉様食品用油脂組成物における(D)成分の含有量は、10℃及び35℃における肉様食品用油脂組成物のSFCが上記範囲内にあれば特に限定はされず、肉様食品用油脂組成物全体に対して、例えば、0%以上、5%以上、又は8%以上であり得、また、30%以下、25%以下、又は20%以下であり得る。
【0027】
(A)ラウリン系固体脂と、ラウリン系固体脂及びそれ以外の油脂の混合油をエステル交換してなる油脂とからなる群から選択される1以上の油脂
「ラウリン系固体脂」は、全構成脂肪酸の質量に対し、ラウリン酸を30質量%以上含み、常温(例えば、15℃)で固体状である油脂である。固体状とは、一定の形状を維持することを意味する。例えば、ヤシ油、パーム核油、これらの分別油、これらの硬化油、これら1種以上のエステル交換油脂、これら2種以上の混合油が挙げられる。
【0028】
ラウリン系固体脂は、好ましくは、パーム核油、これの分別油、及びこれらの硬化油、並びにこれら1種以上のエステル交換油脂からなる群より選択される1種又は2種以上の油脂であり、より好ましくは、パーム核油、極度硬化パーム核油、エステル交換極度硬化パーム核油、及びパーム核ステアリンからなる群より選択される1種又は2種以上の油脂である。
【0029】
「ラウリン系固体脂及びそれ以外の油脂の混合油をエステル交換してなる油脂」は、ラウリン系固体脂とそれ以外の油脂との混合油にエステル交換を施したエステル交換油脂である。
ラウリン系固体脂及びそれ以外の油脂の混合油をエステル交換してなる油脂は、好ましくは、全構成脂肪酸の質量に対し、ラウリン酸を3質量%以上30質量%未満含み、それ以外の油脂としてパーム油あるいはその分別油、液体油からなる群より選択される1種又は2種以上の油脂を含むエステル交換油脂である。エステル交換油脂は、選択的エステル交換油脂及びランダムエステル交換油脂のいずれであってもよいが、好ましくは、ランダムエステル交換油脂である。
【0030】
(B)液体油
「液体油」は、常温(例えば、15℃)でSFC(固体脂含量)が0%である限り特に限定されず、例えば、大豆油、ハイオレイックナタネ油、ナタネ油、ハイエルシンナタネ油、ハイオレイックヒマワリ油、ヒマワリ油、ハイオレイックサフラワー油、サフラワー油、コーン油、綿実油、オリーブ油、亜麻仁油、ごま油、えごま油、グレープシードオイル、チアシードオイル、米油、パンプキンシードオイル、アボカドオイル、落花生油、マカダミアナッツ油、ヘンプ油、アルガンオイル、アーモンド油、くるみ油、及びパームダブルオレイン(又は融点18℃未満のパーム分別低融点部)、並びにこれらのうち2種以上の混合油が挙げられる。
【0031】
(C)非ラウリン系極度硬化油
「非ラウリン系極度硬化油」とは、全構成脂肪酸の質量に対し、ラウリン酸の含有量が3質量%未満である食用油脂を極度硬化処理したものである。「極度硬化」とは、水素添加によって不飽和脂肪酸を完全に飽和脂肪酸とすることである。水素添加の方法は当業者に既知の方法により適宜行うことができる。例えば「食用油製造の実際」(宮川高明著、幸書房、昭和63年7月5日 初版第1刷発行)に記載の方法に従い、行うことができる。
【0032】
非ラウリン系極度硬化油の原料油脂としては、通常、食用油脂として使用されるものが挙げられる。原料油脂は、好ましくは、パーム油、パーム分別油、ナタネ油、ハイエルシンナタネ油、大豆油、コーン油、綿実油、米油、サフラワー油及びオリーブ油からなる群より選択される1種又は2種以上の油脂であり、より好ましくは、ナタネ油、ハイエルシンナタネ油、大豆油、及びパーム系油脂からなる群より選択される1種又は2種以上の油脂であり、さらに好ましくは、ハイエルシンナタネ油及びパーム油からなる群より選択される1種又は2種以上の油脂である。
また、非ラウリン系極度硬化油の融点は50℃以上であることが好ましい。
【0033】
(D)非ラウリン系固体脂
「非ラウリン系固体脂」は、全構成脂肪酸の質量に対し、ラウリン酸の含有量が3質量%未満であり、常温(例えば、15℃)で固体状である油脂である。ただし、極度硬化処理したものを除く。非ラウリン系固体脂は、好ましくは、パーム油、パームオレイン、パームミッドフラクション、パームステアリン、カカオ脂、シア脂;これら1種以上のエステル交換油脂;又はこれら2種以上の混合油であり、より好ましくは、パーム油、パームオレイン、これら1種以上のエステル交換油脂、及びこれら2種以上の混合油である。
【0034】
肉様食品用油脂組成物のSFCは、(A)成分、(B)成分、(C)成分、及び(D)成分の混合割合を変更することにより、適宜調整することができる。例えば、パーム核油等の(A)成分の割合を増加させることで、低温~常温域(15℃以下)のSFCを上昇させることができ、コーン油等の(B)成分の割合を増加させることで、低温~常温域及び高温域(35℃)のSFCを低下させることができる。極度硬化パーム油等の(C)成分の割合を増加させることで、低温~常温域及び高温域のSFCを上昇させることができる。パーム油等の(D)成分の割合を増加させることで、低温域のSFCを(A)成分及び(C)成分に対して相対的に低下させることができる。また、(A)成分に対して、(B)~(D)成分を任意の割合で添加することにより、各温度におけるSFCを微調整(例えば、10℃で15~50%、35℃で10%未満の範囲に調整)することができる。
【0035】
[脂肪酸構成]
本発明の肉様食品用油脂組成物は、全構成脂肪酸の質量に対し、ラウリン酸の含有量が、好ましくは、6~39質量%であり、より好ましくは、8~30質量%である。
ラウリン酸の含有量を上記範囲とすることで、肉様食品の取扱い性を改善し、焼成歩留り、ジューシー感、及び食感を改善することができる。
【0036】
肉様食品用油脂組成物におけるラウリン酸の含有量は、肉様食品の取扱い性を改善し、焼成歩留り、ジューシー感、及び食感を改善することができれば特に限定はされず、肉様食品用油脂組成物全体に対して、例えば、6%以上、7%以上、又は8%以上であり得、また、39%以下、36%以下、又は30%以下であり得る。
【0037】
本発明の肉様食品用油脂組成物は、全構成脂肪酸の質量に対し、飽和脂肪酸の含有量が、好ましくは、30~70質量%であり、より好ましくは、40~65質量%である。
飽和脂肪酸の含有量を上記範囲とすることで、肉様食品の取扱い性を改善し、焼成歩留り、ジューシー感、及び食感を改善することができる。
【0038】
肉様食品用油脂組成物における飽和脂肪酸の含有量は、肉様食品の取扱い性を改善し、焼成歩留り、ジューシー感、及び食感を改善することができれば特に限定はされず、肉様食品用油脂組成物全体に対して、例えば、30%以上、35%以上、又は40%以上であり得、また、70%以下、68%以下、又は65%以下であり得る。
【0039】
本発明の肉様食品用油脂組成物における脂肪酸組成は、常法に従って求めることができる。具体的には、基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会)の「2.4.2.3-2013 脂肪酸組成(キャピラリーガスクロマトグラフ法)」に基づいて測定することができる。
【0040】
本発明の肉様食品用油脂組成物は、本発明の効果を抑制しない範囲で、適宜、乳化剤、pH調整剤、塩類、蛋白質、アミノ酸、酵素、糖質、食物繊維、調味料、香料、香辛料、色素、酸化防止剤、水等の成分を1種又は2種以上含有してもよい。
【0041】
本発明の肉様食品用油脂組成物は、加水分解反応の防止、保存性等の観点から、乳化物でないことが好ましい。
【0042】
本発明の肉様食品用油脂組成物は、原料油脂の品質安定化及びコレステロール低減等の観点から、植物油脂のみからなることが好ましい。
【0043】
本発明の肉様食品用油脂組成物は、流動性を高めることで、肉様食品への肉様食品用油脂組成物の分散性をよくする観点、及び混合種の粘性を高め、加熱前の肉様食品の成形性を高める観点から、室温(10~30℃)でペースト状であることが好ましい。ペースト状とは、室温において流動性を有する状態(ただし、液体状態は除く)を意味する。ある程度の流動性を有すれば、室温において一定の形状を維持しうる程度の粘性を有してもよい。
【0044】
[肉様食品]
本発明の肉様食品は、上記説明した本発明の肉様食品用油脂組成物と、植物性蛋白質素材とを含む。植物性蛋白質素材としては、小麦や豆(例えば、大豆、レンズマメ、ひよこ豆、えんどう豆)等の穀物、野菜、イモ類等から選択される1種又は2種以上の組み合わせが挙げられるが、植物性蛋白質を含む材料であれば特に限定されない。植物性蛋白質素材は、好ましくは、乾燥質量換算で植物性蛋白質を30質量%以上含む。
【0045】
例えば、大豆由来の蛋白質を使用する場合、大豆に脱脂・濃縮・抽出・成型等の加工が施され、蛋白質濃度が高まったものであればよく、市販品でも、新たに調製したものでもよい。大豆由来の蛋白質は、好ましくは、あらかじめミンチ状に加工された大豆由来蛋白質である。
【0046】
本発明の肉様食品において、肉様食品用油脂組成物の配合量は、1~30質量%が好ましく、10~25質量%がより好ましい。肉様食品用油脂組成物の配合量を上記範囲内とすることで、肉様食品の取扱い性を改善し、焼成歩留り、ジューシー感、及び食感を改善することができる。
【0047】
本発明の肉様食品は、本発明の効果を抑制しない範囲で、目的とする食品を構成するための他の食品材料を含むことができる。他の食品材料は、例えば、卵白、野菜、調味料、穀粉類、澱粉類、食物繊維、増粘多糖類、糖類、塩類、香辛料、着色料、保存料等である。
【0048】
本発明の肉様食品は、好ましくは、実質的に畜肉(例えば、牛肉、豚肉、鶏肉、馬肉、羊肉)を含まない。ここで、「実質的に畜肉を含まない」とは、肉様食品において、畜肉の量が好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下であることを意味し、畜肉を含まないことが最も好ましい。
【0049】
本発明の肉様食品は、植物性蛋白質により構成される以下のような食品である。例えば、ハンバーグ、ソーセージ、肉団子、プレスハム、チョップドハム、サラミ、ナゲット、メンチカツ、ロールキャベツ、ミートローフ、テリーヌ、つくね、中華まん、餃子、春巻き、シュウマイ、及び成形肉等が挙げられる。
【0050】
[肉様食品の製造方法]
本発明の肉様食品の製造方法は、上記のような肉様食品を製造する際に、本発明の肉様食品用油脂組成物と、1種又は2種以上の植物性蛋白質素材とを混ぜ合わせることを特徴とする。この肉様食品用油脂組成物と、1種又は2種以上の植物性蛋白質素材とを含む混合種を形成する工程と、混合種を所定の形状に成形して成形物とする工程と、成形物を加熱処理する工程とを含む工程を経ることで肉様食品を得ることができる。
【実施例0051】
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0052】
実施例及び比較例として、種々の肉様食品用油脂組成物を用いて肉様食品を調製し、評価した。用いた各原料は以下の通りである。
【0053】
(肉様食品用油脂組成物)
後述の[肉様食品用油脂組成物の製造]で得られた肉様食品用油脂組成物1~15
(植物性蛋白質素材)
ダイズラボ 大豆のお肉 ミンチタイプ(マルコメ株式会社製、乾燥品)
(パン粉)
フライスターセブン(フライスター株式会社製)
(コーンスターチ)
Home made CAKE コーンスターチ(共立食品株式会社製)
(ハンバーグ用調味料)
SPICE&HERBシーズニング ハンバーグ(エスビー食品株式会社製)
(メチルセルロース)
メトローズ MCE-100TS(信越化学工業株式会社製)
(その他)
たまねぎと卵は市販のものを使用した。
【0054】
[油脂の調製]
油脂は、以下のように調製したものを用いた。
【0055】
(A)成分
(パーム核油)
パーム核油を、脱色、脱臭することにより得た(融点28℃)。
(極度硬化パーム核油)
パーム核油の極度硬化処理を行い、脱色、脱臭することにより得た(融点40℃)。
(エステル交換極度硬化パーム核油)
極度硬化パーム核油に対し、0.12質量%のナトリウムメチラートを触媒とし、90℃で30分間、ランダムエステル交換反応を行い、脱色、脱臭することにより得た(融点35℃)。
(パーム核ステアリン)
パーム核油を自然分別法により高融点部と低融点部に分別して得られた高融点部を脱色、脱臭することにより得た(融点31℃)
(ランダムエステル交換油脂1)
パーム油:ヤシ油=60:40に対し、0.12質量%のナトリウムメチラートを触媒とし、90℃で30分間、ランダムエステル交換反応を行い、脱色、脱臭することにより得た(融点33℃)。
(ランダムエステル交換油脂2)
パーム油:パーム核オレイン:パームステアリン=67:25:8に対し0.12質量%のナトリウムメチラートを触媒とし、90℃で30分間、ランダムエステル交換反応を行い、脱色、脱臭することにより得た(融点36℃)。
(ランダムエステル交換油脂3)
ヤシ油:パームオレイン:コメ油=30:55:15に対し、0.12質量%のナトリウムメチラートを触媒とし、90℃で30分間、ランダムエステル交換反応を行い、脱色、脱臭することにより得た(融点31℃)。
(ランダムエステル交換油脂4)
パーム油:ヤシ油:ハイエルシンナタネ油=80:10:10に対し、0.12質量%のナトリウムメチラートを触媒とし、90℃で30分間、ランダムエステル交換反応を行い、脱色、脱臭することにより得た(融点37℃)。
【0056】
(B)成分
(コーン油)
コーン油を脱色、脱臭することにより得た。
(ハイオレイックナタネ油)
ハイオレイックナタネ油を脱色、脱臭することにより得た。
(パームダブルオレイン)
パームオレインを自然分別法により高融点部と低融点部に分別して得られた低融点部を脱色、脱臭することにより得た(ヨウ素価64)。
【0057】
(C)成分
(極度硬化パーム油)
パーム油の極度硬化処理を行い、脱色、脱臭することにより得た(融点58℃)。
(極度硬化ハイエルシンナタネ油)
ハイエルシンナタネ油(エルシン酸含量約46質量%)の極度硬化処理を行い、脱色、脱臭することにより得た(融点60℃)。
【0058】
(D)成分
(パーム油)
パーム油を、脱色、脱臭することにより得た(融点37℃)。
(パームオレイン)
パーム油を自然分別法により高融点部と低融点部に分別して得られた低融点部を脱色、脱臭することにより得た(ヨウ素価56、融点22℃)。
【0059】
[肉様食品用油脂組成物の製造]
各油脂を約60℃に加温して完全溶解し、表1に示した組成で配合し、急冷捏和してショートニング状にしたものを肉様食品用油脂組成物とした(肉様食品用油脂組成物1~9、11~15)。肉様食品用油脂組成物10については、液状のものをそのまま使用した。
【0060】
[脂肪酸組成の測定]
肉様食品用油脂組成物1~15について、基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会)の「2.4.2.3-2013 脂肪酸組成(キャピラリーガスクロマトグラフ法)」に基づいて、脂肪酸組成を測定し、ラウリン酸及び飽和脂肪酸の含有量を計算した。結果を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
[固体脂含量(SFC)の測定]
原料として用いた肉様食品用油脂組成物の固体脂含量(SFC)を以下の条件で測定した。具体的には、肉様食品用油脂組成物を60℃で30分保持し、完全に融解した後、0℃で30分保持して固化させた。その後、25℃で30分保持し、テンパリングを行った後、0℃に30分保持した。その後、各測定温度(5℃~10℃、30℃~35℃の温度範囲で5℃刻み)でそれぞれ30分保持した後、SFC測定装置(SFC-3000、アステック株式会社製)によりSFC(%)を測定した。結果を表2に示す。
【0063】
【表2】
【0064】
実施例1~9、比較例1~6
[肉様食品の調製]
以下の手順のとおり、肉様食品としての大豆ハンバーグを調製した。
【0065】
[原料の下準備]
必要量の植物性蛋白質素材(乾燥品)を沸騰したお湯で1分間茹でた。茹でた植物性蛋白質素材をザルにとり、水気を切ってから20分放冷し、得られたものを原料(大豆肉)として用いた。
たまねぎ(生)をフードプロセッサーで5秒間粉砕し、プロセッサーの容器内面についたたまねぎを容器内に落としてから、再度5秒間粉砕した。得られたものを原料として用いた。
卵は、卵白と卵黄に分け、卵白を原料として用いた。
肉様食品用油脂組成物12及び13は、フードプロセッサーで20秒間粉砕し、最大長2.8mm以上4.0mm以下の小片とし、得られたものを原料として用いた。最大長はふるい試験により測定した。
【0066】
[調理]
表3に示した配合量のとおりに、各原料をステンレスボウルに量りとった。表3の配合量は、各原料の合計質量に対する質量%である。ビーターを取り付けたホバートミキサーを使用し、中速で1分間混合した。混合種を団子状に丸めて40g量りとり、両手で20回空気抜きをしてからステンレス型(直径6.0cm、高さ2.4cm)に押し込み、成形物を得た。得られた成形物を天板の上に並べ、5℃の冷蔵庫に入れて30分間静置した。
上火:200℃、下火:200℃に設定したオーブンで片面6分間ずつ、両面(合計12分間)を加熱焼成した後、室温で20分間放冷した。食品用ラップフィルムに包んで-20℃の冷凍庫に入れ、一晩以上経過してから、自然解凍後、皿に盛った。電子レンジで500Wにて1分20秒間加熱した後、およそ半分を喫食し、熱い時のジューシー感及び食感を評価した。その後、室温で30分放冷してから再度喫食し、冷めた後のジューシー感及び食感を評価した。
【0067】
【表3】
【0068】
[取扱い性の評価]
肉様食品用油脂組成物の取扱い性として、実施例1~9及び比較例1~6の肉様食品(大豆ハンバーグ)を調製する際の、肉様食品用油脂組成物の分散性と、肉様食品について加熱前の成形性とを以下の評価基準で評価した。結果を表4に示す。
(分散性の評価)
◎:均一に練り込まれる
〇:大部分は均一に練り込まれるが、わずかに油脂塊が残る
△:一部は均一に練り込まれるが、多くの油脂塊が残る
×:ほぼ練り込まれず、すべてあるいはほとんどが油脂塊のまま残る
(加熱前の成形性の評価)
◎:まったく型崩れすることなく、型離れもよい
〇:型崩れしにくい
×:成形できるが、型崩れしやすい
【0069】
[焼成歩留りの評価]
肉様食品をオーブンで加熱焼成する際の焼成歩留り(%)を以下のように求めた。
焼成前の重量=(X)、焼成後の重量=(Y)とし、(Y/X)×100=焼成歩留り(%)とした。
また、焼成歩留りを以下の基準で評価した。結果を表4に示す。
◎:82%以上
○:79%以上82%未満
△:77%以上79%未満
×:77%未満
【0070】
[官能評価]
実施例1~9及び比較例1~6において調製した肉様食品(大豆ハンバーグ)を喫食し、熱い時と冷めた後のジューシー感及び食感について、評価パネル6人それぞれにより、以下の評価基準で評価した。評価の前には、評価パネル6人の間で、ジューシー感及び食感がどの程度変化したら加点又は減点するのかを共通にした。ジューシー感及び食感のそれぞれについて、6人の平均点を算出した。結果を表4に示す。
(ジューシー感の評価)
5点:噛んだ瞬間から肉汁があふれ、肉と同等以上のジューシーさがある
4点:噛んでいると肉汁があふれ、肉に近いジューシーさがある
3点:よく噛んでいると肉汁が出てくるが、ややジューシーさに欠ける
2点:噛んでいても肉汁があまり出てこず、ジューシーさを感じにくい。
1点:噛んでいても肉汁を全く感じず、ジューシーさを感じない。
(食感の評価)
5点:噛み応えのある粒感があり、肉のような食感
4点:肉に近い噛み応えと粒感がある
3点:自然な食感だが、やや噛み応えに欠け、粒感が物足りない
2点:粒感が少なく、やわらかい。あるいは不自然な固さがある。
1点:べちゃついて粒感がなく、練り物様の食感。あるいはとても固い。
【0071】
【表4】
【0072】
10℃のSFCは分散性や加熱前の成形性に影響を与えていると考えられ、10℃のSFCが15%に満たない比較例1及び6においては加熱前の成形性が悪く、10℃のSFCが50%を超える比較例2~5においては分散性が悪かったのに対し、10℃のSFCが15~50%である実施例1~9については共に良好な結果であった。
また、10℃のSFCは焼成歩留りに影響を与えていると考えられ、10℃のSFCが50%を超える比較例2~5においては焼成歩留りが悪かったのに対し、10℃のSFCが50%以下である実施例1~9については良好な結果であった。
さらに、10℃のSFCは、熱い時のジューシー感及び食感に影響を与えていると考えられ、10℃のSFCが15%に満たない比較例1及び6においては熱い時のジューシー感及び食感の合計値が低かったのに対し、10℃のSFCが15%以上である実施例1~9については良好な結果だった。
35℃のSFCは、冷めた後のジューシー感及び食感に影響を与えていると考えられ、35℃のSFCが10%を超える比較例3においては、冷めた後のジューシー感及び食感の合計値が低かったのに対し、35℃のSFCが10%未満である実施例1~9は良好な結果だった。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明によれば、肉様食品に使用した際の取扱い性に優れ、かつ、焼成歩留り、ジューシー感、及び食感を改善する効果に優れる肉様食品用油脂組成物を提供できる。本発明の肉様食品用油脂組成物を使用した肉様食品は、取扱い性に優れ、かつ、焼成歩留り、ジューシー感、及び食感を改善することが可能であり、産業上の利用可能性が高い。