(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022135086
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】摩擦伝動装置
(51)【国際特許分類】
F16H 13/08 20060101AFI20220908BHJP
F16H 13/10 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
F16H13/08 K
F16H13/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021034673
(22)【出願日】2021-03-04
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】南雲 稔也
【テーマコード(参考)】
3J051
【Fターム(参考)】
3J051AA01
3J051BA07
3J051BB07
3J051BC03
3J051BD02
3J051BE05
3J051EA01
3J051EA02
3J051EB02
3J051EC01
3J051EC10
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、製造コストを低減可能な摩擦伝動装置を提供することである。
【解決手段】ある摩擦伝動装置100は、軸12と、軸12の外周に配置された入力軌道輪14と、入力軌道輪14の回転軸線La周りに配置され、入力軌道輪14に接触する遊星転動体20と、遊星転動体20に接触する遊転軌道輪28と、を備えた摩擦伝動装置であって、遊星転動体20を与圧するばね50と、遊転軌道輪のアキシャル方向の荷重を受ける第1軸受54と、軸12を支持する第2軸受56と、を有する。ばね50は、第1軸受54と第2軸受56の軌道輪とに当接する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸と、前記軸の外周に配置された入力軌道輪と、前記入力軌道輪の回転軸線周りに配置され、前記入力軌道輪に接触する遊星転動体と、前記遊星転動体に接触する遊転軌道輪と、を備えた摩擦伝動装置であって、
前記遊星転動体を与圧するばねと、
前記遊転軌道輪のアキシャル方向の荷重を受ける第1軸受と、
前記軸を支持する第2軸受と、を有し、
前記ばねは、前記第1軸受と前記第2軸受の軌道輪とに当接する摩擦伝動装置。
【請求項2】
前記第1軸受は、前記軸に支持され、
前記ばねは、前記第2軸受の内輪に当接する請求項1に記載の摩擦伝動装置。
【請求項3】
前記第2軸受は、前記軸に嵌合する止め輪に位置規制される請求項1または2に記載の摩擦伝動装置。
【請求項4】
前記第2軸受の前記ばねとは反対側に与圧調整用のシムが設けられる請求項3に記載の摩擦伝動装置。
【請求項5】
前記第1軸受は、アキシャル方向のみの荷重を受ける軸受である請求項1から4のいずれか1項に記載の摩擦伝動装置。
【請求項6】
前記ばねを囲うケーシングを有し、前記ケーシングは、前記軸よりも熱伝導率が高い素材で形成されている請求項1から5のいずれか1項に記載の摩擦伝動装置。
【請求項7】
前記軸において、前記ばねが配置されるばね配置部の直径は、前記第2軸受が配置される軸受配置部の直径よりも大きい請求項1から6のいずれか1項に記載の摩擦伝動装置。
【請求項8】
前記ばねは、皿ばねである請求項1から7のいずれか1項に記載の摩擦伝動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦伝動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、入力側伝動部材と出力側伝動部材との間に転動体を設ける無段変速装置が記載されている。この変速装置は、入力軸と一体的に回転する入力ローラと、出力軸と一体的に回転する出力リングと、変速リングと、入力ローラ、出力リングおよび変速リングに接する摩擦面を有する複数の遊星ローラと、複数の遊星ローラを自転および公転可能に保持する可動ホルダとを備える。入力ローラ、出力リング、変速リングおよび遊星ローラはトラクション伝達部を構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の無段変速装置は、トラクション伝達部の摩擦面に与圧を付与するために、スラスト荷重を発生させる付勢バネと、付勢バネからの荷重を受ける部材とを備えている。付勢バネからの荷重を受ける部材は、摩擦面にバネ荷重を適切に伝達するために高精度に加工することが重要である。したがって、この部材は高い製造コストがかかる部材にならざるを得なかった。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑み為されたもので、製造コストを低減可能な摩擦伝動装置を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の摩擦伝動装置は、軸と、軸の外周に配置された入力軌道輪と、入力軌道輪の回転軸線周りに配置され、入力軌道輪に接触する遊星転動体と、遊星転動体に接触する遊転軌道輪と、を備えた摩擦伝動装置であって、遊星転動体を与圧するばねと、遊転軌道輪のアキシャル方向の荷重を受ける第1軸受と、軸を支持する第2軸受と、を有する。ばねは、第1軸受と第2軸受の軌道輪とに当接する。
【0007】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、製造コストを低減可能な摩擦伝動装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に係る摩擦伝動装置の断面を示す側断面図である。
【
図2】
図1の摩擦伝動装置のばねの周辺を拡大して示す拡大図である。
【0010】
以下、本発明を好適な実施形態をもとに各図面を参照しながら説明する。実施形態および変形例では、同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0011】
また、第1、第2などの序数を含む用語は多様な構成要素を説明するために用いられるが、この用語は一つの構成要素を他の構成要素から区別する目的でのみ用いられ、この用語によって構成要素が限定されるものではない。
【0012】
[実施形態]
図面を参照して、本開示の実施形態に係る摩擦伝動装置100の構成を説明する。
図1は、摩擦伝動装置100の断面を示す側断面図である。
図2は、後述するばね50の周辺を拡大して示す拡大図である。本実施形態の摩擦伝動装置100は、入力された動力を複数の摩擦伝動体および出力軌道輪の接触により伝達する。摩擦伝動装置100は、出力軌道輪が摩擦伝動体の摩擦面(軌道面でもある)を有しており、その摩擦面が単なる円筒面ではなく、中心軸に対して傾斜する面であればよい。本実施形態の摩擦伝動装置100は、駆動源(不図示)から入力された回転を変速して出力軌道輪に出力する伝動装置である。特に、摩擦伝動装置100は、入力軌道輪を回転させることにより摩擦伝動体に自転と公転とを生じさせ、その生じた回転成分を出力軌道輪に出力するように構成される。
【0013】
摩擦伝動装置100は、軸12と、入力軌道輪14と、複数の遊星転動体20と、支持軌道輪26と、遊転軌道輪28と、出力軌道輪30と、ケーシング40と、軸受収容部44と、出力フランジ46と、出力軸48と、ばね50と、主軸受52と、第1軸受54と、第2軸受56と、第3軸受58とを主に備える。以下、軸12の中心軸線Laに沿った方向を「軸方向」といい、その中心軸線Laを中心とする円の円周方向、半径方向をそれぞれ「周方向」、「径方向」とする。また、以下、便宜的に、軸方向の一方側(図中右側)を入力側といい、他方側(図中左側)を反入力側という。
【0014】
入力軌道輪14は、軸12の外周に配置される。複数の遊星転動体20は、入力軌道輪14の回転軸線La周りに配置される。複数の遊星転動体20は、入力軌道輪14、支持軌道輪26、遊転軌道輪28および出力軌道輪30に接触し、これらの軌道輪とともに摩擦伝動機構を構成する。
【0015】
出力軌道輪30は、遊星転動体20の反入力側に配置される。ケーシング40は、遊転軌道輪28、第1軸受54、第2軸受56、第3軸受58およびばね50を囲う。軸受収容部44は、主に反入力側において、主軸受52および出力フランジ46を収容するケーシングとして機能する。出力フランジ46は、出力軌道輪30の反入力側に固定される。出力軸48は、出力フランジ46の反入力側の端面から反入力側に突出する。ばね50は、軸方向に撓んで遊星転動体20を与圧する。
【0016】
軸12は、入力側の端部に駆動源の回転が入力される入力軸であり、中心軸線La周りに回転する。本実施形態の軸12は、軸方向に延びる円形部材である。軸12の外周には、反入力側から入力側に向かって、入力軌道輪14と、軌道輪嵌合部122と、第1軸受嵌合部123と、ばね配置部124と、軸受配置部125と、周状凹部127と、連結部128とがこの順で設けられている。入力軌道輪14は、軸12の反入力側の端部近傍において、径方向にフランジ状に延出する。本実施形態では、入力軌道輪14は軸12と一体的に回転する。入力軌道輪14は、別体に形成されて軸12の外周に固定されてもよい。連結部128には駆動源の出力軸(不図示)が連結される。
【0017】
第2軸受56は、軸12を支持する。第2軸受56は、軸12の軸受配置部125とケーシング40との間に配置される。第2軸受56の構成に限定はないが、本実施形態の第2軸受56は、球状の転動体562と、外輪563と、内輪564とを有する深溝玉軸受けである。外輪563は、ケーシング40の内周に支持され、内輪564は、軸12の軸受配置部125に嵌合し、軸12を支持する
【0018】
遊転軌道輪28は、第3軸受58を介して軸12に回転自在に支持される中空円筒状の部材である。遊転軌道輪28の入力側の端面は、第1軸受54の反入力側に接触し、第1軸受54を介して、ばね50の付勢力を受ける。ばね50の付勢力は、軸方向で反入力側向きの力で、遊転軌道輪28を遊星転動体20側に向けて与圧する。
【0019】
遊転軌道輪28は、反入力側に転動面28hを有する。転動面28hは、遊星転動体20が転動する面であり、遊星転動体20の入力側の第1接触面202と実質的に点接触する。転動面28hは、軸方向および径方向に対して傾斜している。転動面28hは、反入力側に向かって縮径するテーパー面を含む。転動面28hは、凸面や凹面などの曲面であってもよいが、この例では平坦面である。
【0020】
第3軸受58は、軸12の軌道輪嵌合部122と遊転軌道輪28との間に配置される中空円筒形状のラジアル軸受であり、この例では円筒ころ軸受である。第3軸受58は、含油メタル軸受等の滑り軸受であってもよい。
【0021】
第1軸受54は、遊転軌道輪28のアキシャル方向の荷重を受ける。第1軸受54は、軸12の第1軸受嵌合部123の外周に嵌合し、軸方向で、遊転軌道輪28と第2軸受56との間に配置される。第1軸受54は、軸12に支持される。第1軸受54と第2軸受56との間にばね50が配置される。第1軸受54の構成に限定はないが、本実施形態の第1軸受54は、複数の円筒転動体542とスラストプレート543と、リテーナ544とを有するスラスト軸受けである。円筒転動体542は、径方向に延びる円筒ころで、周方向に所定の間隔で配置される。スラストプレート543は、円筒転動体542の入力側に配置される中空円盤状の部材である。円筒転動体542の反入力側は、遊転軌道輪28の入力側の端面に直接接触している。つまり、遊転軌道輪28の入力側の端面は、円筒転動体542の転動面として機能する。リテーナ544は、円筒転動体542を保持する。
【0022】
遊星転動体20は、入力軌道輪14、支持軌道輪26、遊転軌道輪28および出力軌道輪30の間で遊星運動しながら回転を伝達する摩擦伝動体として機能する。遊星転動体20は、円盤状の部材で、入力側面の外周側に第1接触面202が設けられ、反入力側面の外周側に第2接触面204が設けられる。第1接触面202および第2接触面204は、軸方向および径方向に対して傾斜しており、遊星転動体20の外周側に向かって互いに接近する。
【0023】
遊星転動体20は、周方向に所定の間隔で複数(例えば、6個)配置される。複数の遊星転動体20を所望の位置に保持するためにリテーナを備えてもよいが、本実施形態では、リテーナを備えていない。リテーナを有しない構成は、製造コスト、装置の大きさ、装置の質量等の点で有利である。なお、遊星転動体20の個数は特に限定されず、6個より少なくても多くてもよいが、6~12個が好ましい。
【0024】
本実施形態では、支持軌道輪26と遊転軌道輪28とは遊星転動体20の第1接触面202に接触し、入力軌道輪14と出力軌道輪30とは遊星転動体20の第2接触面204に接触する。入力軌道輪14は、出力軌道輪30の径方向内側で遊星転動体20に接触し、遊転軌道輪28は、支持軌道輪26の径方向内側で遊星転動体20に接触する。
【0025】
入力軌道輪14は、遊星転動体20と接触し、入力軌道輪14が回転するにつれて遊星転動体20に自転と公転とを生じさせる。入力軌道輪14は、軸12と別体に形成されてもよいが、この例では、軸12と一体的に形成されている。入力軌道輪14は、略円板状の部材で、入力側に転動面14hを有する。転動面14hは、遊星転動体20が転動する面であり、遊星転動体20と実質的に点接触する。転動面14hは、軸方向および径方向に対して傾斜している。転動面14hは、入力側に向かって縮径するテーパー面を含む。転動面14hは、凸面や凹面などの曲面であってもよいが、この例では平坦面である。転動面14hは、遊星転動体20を挟んで、遊転軌道輪28の転動面28hと略対向する。
【0026】
支持軌道輪26および遊転軌道輪28は、遊星転動体20の姿勢および位置を一定の範囲に保持する。支持軌道輪26は、遊星転動体20の入力側であって、遊転軌道輪28の径方向外側に配置される。遊転軌道輪28は、遊星転動体20の入力側であって、支持軌道輪26の径方向内側に配置される。遊転軌道輪28は、遊星転動体20を挟んで入力軌道輪14と軸方向に対向配置される。支持軌道輪26は、遊星転動体20を挟んで出力軌道輪30と軸方向に対向配置される。出力軌道輪30は、遊星転動体20の反入力側であって、入力軌道輪14の径方向外側に配置される。入力軌道輪14は、遊星転動体20の反入力側であって、出力軌道輪30の径方向内側に配置される。
【0027】
支持軌道輪26は、隙間を介して遊星転動体20および出力軌道輪30を環囲する筒状部264を有する。支持軌道輪26は、筒状部264の入力側の端部から径方向内側に張り出した部分に反入力側に向いた転動面26hを有する。転動面26hは、遊星転動体20が転動する面であり、遊星転動体20と実質的に点接触する。転動面26hは、軸方向および径方向に対して傾斜している。転動面26hは、入力側に向かって縮径するテーパー面を含む。転動面26hは、凸面や凹面などの曲面であってもよいが、この例では平坦面である。支持軌道輪26の筒状部264は、ケーシング40と軸受収容部44の間に配置され、ケーシング40および軸受収容部44にボルトB1によって固定される。
【0028】
出力軌道輪30は、遊星転動体20と接触し、遊星転動体20が回転するにつれて中心軸線を中心に回転する。この例では、出力軌道輪30の回転軸線は、中心軸線Laと一致しているため、出力軌道輪30は、中心軸線Laを中心に回転する。出力軌道輪30は、出力フランジ46にボルトB2によって固定されており、出力軌道輪30が回転するにつれて出力フランジ46が回転する。
【0029】
出力軌道輪30は、軸12および遊星転動体20を環囲する円環状の本体部302と、本体部302の反入力側から径方向内側に延びる中空円盤状の円板部304とを有する。出力軌道輪30は、本体部302の入力側に転動面30hを有する。転動面30hは、遊星転動体20が転動する面であり、遊星転動体20と実質的に点接触する。転動面30hは、軸方向および径方向に対して傾斜している。転動面30hは、反入力側に向かって縮径するテーパー面を含む。転動面30hは、凸面や凹面などの曲面であってもよいが、この例では平坦面である。転動面30hは、遊星転動体20を挟んで、支持軌道輪26の転動面26hと略対向する。
【0030】
以下、出力軌道輪30の転動面30h、入力軌道輪14の転動面14h、支持軌道輪26の転動面26hおよび遊転軌道輪28の転動面28hを総称するときは単に「転動面」ということがある。
【0031】
遊星転動体20は、4つの転動面に接触することにより軸方向位置、径方向位置および姿勢が規制される。遊星転動体20の形状は、4つの転動面に接触することにより姿勢が決定され、4つの転動面に接触しながら転動可能である限り、どのような形状であってもよい。この例の遊星転動体20は、4つの転動面に接触する面が凸状に湾曲する軸方向に扁平な円環形状を有する。
【0032】
ケーシング40は、軸方向に延びる中空円筒状の管状部404と、管状部404の反入力側から径方向外側に延びる円盤状のフランジ部402と、管状部404の入力側から径方向内側に延びる中空の円板部406とを有する円形部材である。フランジ部402は、遊星転動体20の入力側に対面し、遊転軌道輪28を囲う。管状部404は第1軸受54、第2軸受56、第3軸受58およびばね50を囲う。円板部406は、第2軸受56の入力側に対面する。軸12の連結部128は、円板部406の中心孔408を貫通して入力側に突出する。
【0033】
管状部404に第2軸受56が嵌合する。管状部404には径方向に延びる止めねじ41がねじ込まれている。止めねじ41の先端は第2軸受56の外輪563に当接しており、第2軸受56の位置を調整した状態で第2軸受56を固定する。止めねじ41は、周方向に離れて複数設けられてもよい。
【0034】
軸受収容部44は、軸方向に延びる中空円筒状の軸受支持部444と、軸受支持部444の入力側から軸方向に延びる筒部446と、軸受支持部444の反入力側から径方向内側に延びる中空の延在部442とを有する円形部材である。軸受支持部444は主軸受52を囲い、延在部442は主軸受52の外輪523の反入力側に当接する。この例では、筒部446の内径は、軸受支持部444の内径よりも大径である。
【0035】
主軸受52は、軸受収容部44と出力フランジ46の間に配置され、軸受収容部44に対して出力フランジ46を回転自在に支持する。主軸受52の構成に限定はないが、本実施形態の主軸受52は、複数の円筒転動体522と、外輪523と、内輪524とを有するクロスローラベアリングである。外輪523は、軸受支持部444の内周に嵌合し、内輪524は、出力フランジ46の外周に嵌合する。
【0036】
出力フランジ46は、出力軌道輪30の円板部304の反入力側に固定される円盤状の部材である。出力フランジ46は、軸12の反入力側端面に軸方向に対向し、摩擦伝動機構の反入力側を覆う。
【0037】
出力軸48は、出力フランジ46の反入力側から突出して反入力側に延びる円柱状部材である。この例では、出力軸48は、出力フランジ46と一体的に形成されている。出力軸48および出力フランジ46は、出力軌道輪30と一体的に回転し、出力軌道輪30に取り出された減速回転を出力する。
【0038】
ばね50は、遊転軌道輪28を遊星転動体20側に向けて軸方向に与圧する付勢部材である。ばね50の構成に限定はないが、本実施形態のばね50は、内周側が外周側よりも入力側に出っ張る皿状の皿ばねである。この場合、小さなスペースで遊転軌道輪28に大きな与圧を付与可能で、摩擦伝動機構の伝達容量を大きくできる。
【0039】
図3は摩擦伝動装置100のばね50を示す図である。
図3(A)は、ばね50の側面図であり、
図3(B)は、ばね50の背面図である。ばね50は、軸12が貫通する貫通孔506を有する中空円形の部材である。
図3(A)に示すように、ばね50は、径方向外側の反入力側に第1軸受54に当接する第1接触部502が設けられ、径方向内側の入力側に第2軸受56の軌道輪に当接する第2接触部504が設けられる。この例では、第2接触部504は第2軸受56の内輪564に当接する。この場合、第1軸受54も第2軸受56の内輪564も一体回転し、軸12と一体回転する第1軸受54、第2軸受56の内輪にばね50が当接するので、ばね50の摩耗が軽減される。また、ばね50は、内輪564に入力側向きの付勢力を与え、内輪564と外輪563との間に与圧を与えられる。
【0040】
図2に戻る。第2軸受56は、軸12に嵌合する止め輪60に位置規制される。この場合、ケーシング40などを連結する前に軸12側で与圧を調整できる。また、簡易な構成で第2軸受56を位置決めできる。止め輪60は、軸12の周状凹部127に嵌合し、第2軸受56の内輪564にシム62を挟んで当接する。
【0041】
第2軸受56のばね50とは反対側に与圧調整用のシム62が設けられる。この場合、簡易な構成でばね50の与圧を調整できる。シム62は、第2軸受56の内輪564と止め輪60との間に挿入される。止めねじ41は第2軸受56を固定するために使用される。与圧調整は、先にシム62を挿入してから止め輪60を挿入することにより行う。挿入するシム62の厚みによって予圧を調整できる。与圧を調整することにより、摩擦伝動機構の伝達特性を確保できる。
【0042】
第1軸受54は、アキシャル方向のみの荷重を受ける軸受である。この場合、ラジアル荷重を受ける軸受よりも構成をコンパクト化できる。
【0043】
軸12は高速回転するため、第1軸受54および第2軸受56は発熱して周辺部材の温度を上昇させる。第1軸受54、第2軸受56およびばね50が過度に高温になると、与圧が変化し、摩擦伝動機構の伝達特性に影響を与える。また、軸12の熱伝導率が高いと、熱が軸12を介して遊星転動体20に伝達され、遊星転動体20が熱膨張し、摩擦伝動機構の伝達特性に影響を与える。そこで、本実施形態は、ばね50を囲うケーシング40を有し、ケーシング40は、軸12よりも熱伝導率が高い素材で形成されている。この場合、第1軸受54および第2軸受56の発熱は、熱伝導率が高いケーシング40によって雰囲気に放散されるので、周辺部材の温度上昇を抑制できる。軸12を介して遊星転動体20に伝達される熱量を低減できる。この結果、摩擦伝動機構の伝達特性に与える影響を小さくできる。
【0044】
軸12において、ばね50が配置されるばね配置部124の直径は、第2軸受56が配置される軸受配置部125の直径よりも大きい。この場合、ばね50の第2接触部504が、形状が不安定である内輪564の内側面取り部を避けた領域に当接させることができる。この結果、第2接触部504は、付勢力を適切に伝達でき、与圧を安定化できる。
【0045】
以上のように構成された摩擦伝動装置100の動作を説明する。駆動源から軸12に回転動力が伝達されると、入力軌道輪14が中心軸線La周りに回転する。入力軌道輪14が回転すると、遊星転動体20が自転軸周りに自転しながら公転軸周りに公転する。この例では、遊星転動体20の公転軸は中心軸線Laと一致している。遊星転動体20の回転は出力軌道輪30に伝達され、出力軌道輪30が回転する。出力軸48および出力フランジ46は、出力軌道輪30と一体的に回転し、出力軌道輪30に取り出された減速回転を出力する。
【0046】
遊転軌道輪28が自由回転し、支持軌道輪26が非回転で静止している場合、出力軌道輪30は、入力軌道輪14の回転に対して、各接触点の位置によって定まる所定の変速比で回転する。摩擦伝動装置100の変速比は、遊星転動体20の自転軸の中心軸線Laに対する傾斜角を変化させることによって調整できる。遊星転動体20の傾斜角が一定の場合、変速比は一定に保たれる。
【0047】
以上のように構成された摩擦伝動装置100の特徴を説明する。摩擦伝動装置100は、軸12と、軸12の外周に配置された入力軌道輪14と、入力軌道輪14の回転軸線La周りに配置され、入力軌道輪14に接触する遊星転動体20と、遊星転動体20に接触する遊転軌道輪28と、を備えた摩擦伝動装置であって、遊星転動体20を与圧するばね50と、遊転軌道輪のアキシャル方向の荷重を受ける第1軸受54と、軸12を支持する第2軸受56と、を有する。ばね50は、第1軸受54と第2軸受56の軌道輪とに当接する。
【0048】
この構成によれば、ばね50から付勢力を受ける部材は、第1軸受54および第2軸受56の軌道輪であり、これらは元々高精度に加工されているので、ばね50が発生させる与圧を摩擦伝動機構の摩擦面に適切に伝達することができる。ばね50から付勢力を受ける部材を改めて高精度に加工するための工数を減らせるため製造コストの点で有利である。
【0049】
以上、本発明の実施形態の例について詳細に説明した。前述した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施形態の内容は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。前述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態の」「実施形態では」等との表記を付して説明しているが、そのような表記のない内容に設計変更が許容されないわけではない。また、図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。
【0050】
以下、変形例を説明する。変形例の図面および説明では、実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。実施形態と重複する説明を適宜省略し、実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0051】
実施形態の説明では、ばね50が皿ばねである例を示したが、ばね50は、例えば、コイルスプリング等の皿ばねとは別構成の付勢部材であってもよい。
【0052】
実施形態の説明では、ばね50が第2軸受56の軌道輪と直接当接する例を示したが、ばね50は、スペーサを介して第2軸受56の軌道輪と当接してもよい。また、ばね50が第1軸受54と直接当接する例を示したが、ばね50は、スペーサを介してして第1軸受54と当接してもよい。
【0053】
実施形態の説明では、出力軌道輪30が遊星転動体20の反入力側に接触し、支持軌道輪26が遊星転動体20の入力側に接触する例を示したが、これに限定されない。例えば、出力軌道輪30が遊星転動体20の入力側に接触し、支持軌道輪26が遊星転動体20の反入力側に接触する構成であってもよい。
【0054】
実施形態の説明では、第1軸受54が、円筒転動体542を有するスラストベアリングである例を示したが、これに限定されない。例えば、第1軸受54の転動体は、球状等の円筒形状とは別の形状を有してもよい。
【0055】
上述の各変形例は実施形態と同様の作用と効果を奏する。
【0056】
上述した実施形態の構成要素と変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施形態は、組み合わされる実施形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【符号の説明】
【0057】
100 摩擦伝動装置、 12 軸、 14 入力軌道輪、 20 遊星転動体、 26 支持軌道輪、 28 遊転軌道輪、 30 出力軌道輪、 40 ケーシング、 50 ばね、 54 第1軸受、 56 第2軸受、 58 第3軸受、 60 止め輪、 62 シム、 124 ばね配置部、 125 軸受配置部、 564 内輪。