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  • 特開-金型補修溶接材料及び金型 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022135094
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】金型補修溶接材料及び金型
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/30 20060101AFI20220908BHJP
【FI】
B23K35/30 340C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021034688
(22)【出願日】2021-03-04
(71)【出願人】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100112900
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 路子
(74)【代理人】
【識別番号】100198247
【弁理士】
【氏名又は名称】並河 伊佐夫
(72)【発明者】
【氏名】永冶 仁
(72)【発明者】
【氏名】中村 裕紀
(72)【発明者】
【氏名】山田 慎之介
(72)【発明者】
【氏名】村田 健太
(72)【発明者】
【氏名】大▲崎▼ 元嗣
(57)【要約】
【課題】耐ブローホール特性に優れ且つ溶接部を適正な硬さとすることができる金型補修溶接材料を提供する。
【解決手段】金型補修溶接材料は、質量%で、C:0.15~0.30%、Si:0.20~0.50%、Mn:0.20~0.50%、Cr:6.0~12.0%、Mo:0.45~1.50%、V:0.05~0.65%、O:0.05%以下、N:0.10%以下、P:0.05%以下、S:0.05%以下、を含有し、残部がFe及び不可避的不純物の組成を有する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で
C:0.15~0.30%
Si:0.20~0.50%
Mn:0.20~0.50%
Cr:6.0~12.0%
Mo:0.45~1.50%
V:0.05~0.65%
O:0.05%以下
N:0.10%以下
P:0.05%以下
S:0.05%以下
を含有し、残部がFe及び不可避的不純物の組成を有することを特徴とする金型補修溶接材料。
【請求項2】
請求項1において、質量%で
Al:0.001~0.700%
を更に含有することを特徴とする金型補修溶接材料。
【請求項3】
請求項1,2の何れかにおいて、質量%で
Ti,Nb,Zr,Ta,YおよびHfのうち1種若しくは2種以上を合計で:0.40%以下
を更に含有することを特徴とする金型補修溶接材料。
【請求項4】
請求項1~3の何れかにおいて、質量%で
Ni,Cuのうち1種若しくは2種を合計で:1.00%以下
を更に含有することを特徴とする金型補修溶接材料。
【請求項5】
請求項1~4の何れかにおいて、質量%で
Co:1.00%以下
B:0.01%以下
W:1.50%以下
の何れか1種若しくは2種以上を更に含有することを特徴とする金型補修溶接材料。
【請求項6】
窒素濃度が0.5質量%以上の表層を有する窒化処理された金型であって、請求項1~5の何れかに記載の金型補修溶接材料で溶接補修されていることを特徴とする金型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、金型の溶接補修用に用いられる金型補修溶接材料及びこれを用いて溶接補修された金型に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ダイカスト金型や熱間鍛造用金型には、JIS SKD61に代表される熱間金型用工具鋼が広く用いられている。これらの金型は、ヒートチェックなどの亀裂や摩耗が生じた場合、金型寿命向上を目的に、溶接棒又は溶接ワイヤを用いた損耗部の溶接補修がなされている。このため金型補修材料は、補修後の金型寿命を考慮し、靭性、硬さ、高温硬さ、熱伝導率、耐ヒートチェック性、軟化抵抗に着目して開発がなされている(例えば下記特許文献1参照)。
【0003】
ところでダイカスト金型や熱間鍛造用金型では、金型寿命向上を目的にガス軟窒化または塩浴窒化処理を施し、金型表層に硬い窒化層を形成させることがある。このような金型に対し上記補修材料を用いて補修を行うと、金型表層に形成される窒化層起因のブローホール(溶接欠陥)が発生し、金型寿命を著しく低下させてしまう問題があった。
尚、下記特許文献2で示すように耐ブローホール特性を考慮した溶接材料も開発されているが、補修溶接部の硬さが低く金型補修用の材料としては適していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-24053号公報
【特許文献2】特開2015-110240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は以上のような事情を背景とし、耐ブローホール特性に優れ且つ溶接部を適正な硬さとすることができる金型補修溶接材料及びこれを用いて溶接補修された金型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
而して請求項1は金型補修溶接材料に関するもので、質量%で、C:0.15~0.30%、Si:0.20~0.50%、Mn:0.20~0.50%、Cr:6.0~12.0%、Mo:0.45~1.50%、V:0.05~0.65%、O:0.05%以下、N:0.10%以下、P:0.05%以下、S:0.05%以下、を含有し、残部がFe及び不可避的不純物の組成を有することを特徴とする。
【0007】
なお、金型補修溶接材料において、下記に示す成分が下記範囲で不可避的不純物として含まれ得る。
H≦0.0002%、Sn≦0.1%、Pb≦0.01%、Bi≦0.01%、Zn≦0.01%、Ga≦0.01%、Ge≦0.01%、Se≦0.01%、In≦0.01%、Sb≦0.01%、Te≦0.01%、Ag≦0.01%、Mg≦0.005%、Ca≦0.005%などである。
【0008】
請求項2は、請求項1において、質量%で、Al:0.001~0.700%を更に含有することを特徴とする。
【0009】
請求項3は、請求項1,2の何れかにおいて、質量%で、Ti,Nb,Zr,Ta,YおよびHfのうち1種若しくは2種以上を合計で:0.40%以下、を更に含有することを特徴とする。
【0010】
請求項4は、請求項1~3の何れかにおいて、質量%で、Ni,Cuのうち1種若しくは2種を合計で:1.00%以下、を更に含有することを特徴とする。
【0011】
請求項5は、請求項1~4の何れかにおいて、質量%で、Co:1.00%以下、B:0.01%以下、W:1.50%以下、の何れか1種若しくは2種以上を更に含有することを特徴とする。
【0012】
請求項6は金型に関するもので、窒素濃度が0.5質量%以上の表層を有する窒化処理された金型であって、請求項1~5の何れかに記載の金型補修溶接材料で溶接補修されていることを特徴とする。
【0013】
以上のような本発明の金型補修溶接材料は、耐ブローホール特性の向上にCr添加が有効であることに着目し、Crの含有量を増大させている。但し、Crの含有量増大は残留オーステナイトの増加を招き、溶接部の硬さが低くなってしまうことから、本発明ではCr量の増加とともにC量の下限および炭化物形成元素の添加量を最適化して、適正硬さに必要なマトリックス中のC量を確保している。本発明の金型補修溶接材料によれば、耐ブローホール特性が高められるとともに、溶接部を、金型使用時における摩耗や割れの発生が抑制され得る、適正な硬さとすることができ、金型の寿命を高めることができる。
本発明の金型補修溶接材料は、汎用鋼JIS SKD61で代表される熱間金型用工具鋼から成る金型に使用する補修溶接材料として、特に表層に窒化層を備えた金型に使用する補修溶接材料として好適である。
【0014】
次に本発明における各化学成分の添加及び限定理由につき以下に説明する。
C:0.15~0.30%
Cは、溶接部の硬さを左右する重要な元素であり、0.15%未満では硬さが不十分となってしまう。逆に、0.30%を超えると硬さが硬くなりすぎてしまい、溶接後の割れの懸念が高くなってしまう。したがって、本発明ではCを0.15~0.30%の範囲内で含有させる。より好ましい範囲は0.17~0.30%である。
【0015】
Si:0.20~0.50%
Siは、軟化抵抗を高める上で有用な働きをなす元素である。熱間鍛造用金型の溶接補修に用いられる場合、軟化抵抗が小さいと鍛造中に溶接部が軟化してしまう。溶接部が軟化してしまうと、そこでヒートチェックが発生しやすくなる。したがって、本発明では、軟化抵抗を高めるためにSi量を0.20%以上含有させる。一方、0.50%を超えて多量に含有させると熱伝導率が低下し、ヒートチェックが発生しやすくなる。したがって、本発明ではSiを0.20~0.50%の範囲内で含有させる。
【0016】
Mn:0.20~0.50%
Mnは、0.20%未満では硬さが不十分となり、また0.20%未満に下げようとすると原材料の配合を考慮する必要があり、製造コストが高くなってしまう。一方、0.50%を超えて含有させると熱伝導率が低下してしまう。したがって、本発明ではMnを0.20~0.50%の範囲内で含有させる。
【0017】
Cr:6.0~12.0%
Crは、窒素のガス化を抑え固溶を促進する効果が高く、耐ブローホール特性を向上させるために不可欠な元素である。耐ブローホール特性を向上させるためには6.0%以上の添加が必要である。但し、過度な添加は残留オーステナイトを増加させてしまうため、溶接部での硬さが低減してしまう。したがって、本発明ではCrを6.0~12.0%の範囲内で含有させる。より好ましい範囲は6.8~12.0%である。
【0018】
Mo:0.45~1.50%
Moは、軟化抵抗に対して有用な元素である。ただし、0.45%未満では軟化抵抗に対する効果が小さいため、本発明では0.45%以上含有させる。また、1.50%を超えて添加すると溶解コストが高くなる。したがって、本発明ではMoを0.45~1.50%の範囲内で含有させる。
【0019】
V:0.05~0.65%
Vは、VC析出により結晶粒粗大化を防止する役割(ピン止め効果)を果たす。0.05%未満では、VC析出量が少なく、ピン止め効果を得にくい。そこで、本発明では、0.05%以上含有させる。また、V量が多いほどV炭化物が増加し、高温強度が向上する。しかし、0.65%より多く含有する場合、硬さに寄与するCを消費して粗大な炭化物を形成するため、溶接部の硬さ及び靭性が低下する。したがって、本発明では、Vを0.05~0.65%の範囲内で含有させる。
【0020】
O:0.05%以下
Oは、0.05%より多く含有させると粗大な酸化物が増えるため、溶接部の靭性が低下してしまう。したがって、本発明では、Oの含有量を0.05%以下に制限する。
【0021】
N:0.10%以下
Nは、0.10%より多く含有させるとブローホールの生成を促進させる。したがって、本発明では、Nの含有量を0.10%以下に制限する。
【0022】
P:0.05%以下、S:0.05%以下
P,Sは、溶接割れを促進する元素である。したがって、本発明では、P,Sそれぞれの含有量を0.05%以下に制限する。
【0023】
Al:0.001~0.700%
Alは、窒化物を形成しやすい元素であり耐ブローホール特性向上に有用であり、必要に応じて含有させることができる。Alは0.001%以上含有させることで、溶接中の湯に溶け込んだ窒素を窒化物としてトラップし、ブローホールの生成を抑制する。一方、0.700%より多く含有させると、溶解コストの増加及び熱伝導率の低下を引き起こす。したがって、本発明ではAlの含有量を0.001~0.700%の範囲内とする。
【0024】
Ti,Nb,Zr,Ta,YおよびHfの1種若しくは2種以上:合計で0.40%以下
Ti,Nb,Zr,Ta,YおよびHfは、炭素又は窒素と結合し、炭化物、窒化物又は炭窒化物を形成し、結晶粒の粗大化抑制に寄与する元素で、必要に応じて含有させることができる。これらの元素は析出物を生成し、オーステナイト結晶粒のピン止め粒子として働き、結晶粒粗大化を抑制する。また、微細粒となることで靭性を上げることができる。但し、0.40%を超えて含有させると、硬さに寄与するCを消費して粗大な炭化物を形成するため、硬さ及び靭性が低下する。したがって、本発明では、これら元素の含有量の合計を0.40%以下に制限する。
【0025】
Ni,Cuの1種若しくは2種:合計で1.00%以下
Ni,Cuを添加することでパーライトの生成が遅延され、焼き入れ性が向上する。但し、必要以上に添加するとコストが高くなる。また、ブローホールの生成を促進する。本発明では、Ni,Cuの何れか一方だけを含有させることもできるし、或いはその両方を含有させることもできるが、Ni,Cuの含有量の合計を1.00%以下に制限する。
【0026】
Co:1.00%以下、W:1.50%以下
Co,Wを添加することで高温強度を高めることができる。但し、必要以上に添加するとコストが上昇し、また熱伝導率の低下につながる。そのため、Coの含有量を1.0%以下、Wの含有量を1.5%以下に制限する。
【0027】
B:0.01%以下
Bは、粒界に偏析して粒界を強化するとともに、粒界炭化物を微細分散させることによって、靭性を向上させる。但し、Bの含有量が過剰になると溶接割れを引き起こすため、Bの含有量を0.01%以下に制限する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1は耐ブローホール特性評価についての説明図である。
【実施例0029】
次に本発明の実施例を詳述する。ここでは、下記表1,表2に示す実施例および比較例(計39種)の溶接棒を用いて試験片を作製し、各種評価を行った。
【0030】
1.試験片の作製
JIS SKD61からなる寸法50×150×13.5mmの板を2種類用意した。
一つは、大同DMソリューション株式会社の塩浴窒化処理(Prevents Scoring and Scuffing(PS)処理)を550℃×10時間行うことで、表面に窒素濃度が0.5質量%以上の窒化層を形成させた板である。もう一つは、PS処理を行わず窒化層未形成の板である。
【0031】
窒化層を形成させた板に対しては、下記表1,表2に示す各種化学組成の溶接棒(Φ2.0mm×1000mm)を用いてティグ溶接を1層のみ行った。また、窒化層未形成の板に対しては、同じく下記表1,表2に示す各種化学組成の溶接棒(Φ2.0mm×1000mm)を用いてティグ溶接にて5層肉盛溶接した。溶接長さはそれぞれ100mmである。
【0032】
なお、溶接材料は直径0.2~3.5mmであることが望ましい。0.2mmよりも直径が細いと溶接の際の熱が母材の方に多く加わって母材の溶融量が多くなり、溶接部の硬さを必要以上に硬くしてしまうことにつながる。一方、3.5mmよりも太過ぎると溶接時の熱が溶接材料に奪われて母材側に十分に加わらず、融合不良の原因となってしまう。
【0033】
溶接条件は、Arをシールドガスとして、上記溶接棒をアーク内に挿入して加熱し、これを溶融させて溶接を行った。なお、溶接電流は120A、溶接速度は5cm/minの条件で溶接を行った。
【0034】
2.評価
得られた溶接後の試験片(板)を用いて、耐ブローホール特性及び溶接部の硬さを評価した。
【0035】
<耐ブローホール特性の評価>
窒化層を形成させた板の肉盛溶接部の断面を10箇所切り出し、肉盛溶接部と母材の境界を判別できるよう研磨及び腐食を行った。その後、図1で例示するように光学顕微鏡を用いて観察及び顕微鏡像を撮影し、肉盛溶接部内に確認されるブローホールの総面積をWin ROOF(三谷商事株式会社製)により算出した。その後、測定視野数(ここでは10である)で除すことで、ブローホールの面積を算出した。なお、観察時の倍率は50倍である。肉盛溶接部の全体が顕微鏡像1枚では収まらない場合は、2枚以上撮影して評価した。
判定基準は下記の通りとした。
○:ブローホールの面積(mm2)が0.025以下
△:ブローホールの面積(mm2)が0.025超~0.030
×:ブローホールの面積(mm2)が0.030超
これらの結果が表1,表2に示してある。
【0036】
<硬さ評価>
窒化層未形成の板の肉盛溶接部の断面を1箇所切り出し、各肉盛層の境界が判別できるように研磨及び腐食を行った。5層目の肉盛溶接部の位置を確認後、再度研磨した。そして5層目の肉盛溶接部の中央にて、ビーカース硬さ試験(荷重300gf)を10回行い、その平均値を求めることで硬さ(溶接まま硬さ)を算出した。
判定基準は下記の通りとした。
○:HV420~550未満
△:HV400~420未満
×:HV400未満、若しくは、HV550以上
これら結果が同じく表1,表2に併せて示してある。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
表1,表2の評価結果より、以下のことが分かる。
比較例1は、上記特許文献1で開示された従来公知の溶接材料である。この比較例1は、溶接部の硬さは十分であったが、Cr量が少なく耐ブローホール特性の評価が「×」であった。
【0040】
また比較例11は、上記特許文献2で開示された従来公知の溶接材料である。この比較例11は耐ブローホール特性を考慮した溶接材料であり、耐ブローホール特性の評価は「○」であったが、十分な溶接部の硬さが得られておらず硬さの評価が「×」であった。
【0041】
比較例2は、Crが本発明で規定する範囲を超えて過剰に添加されており、耐ブローホール特性の評価は「○」であったが、硬さの評価が「×」であった。残留オーステナイトの増加により硬さが低下したものと考えられる。
【0042】
比較例3は、Niが本発明で規定する範囲を超えて過剰に添加されており、硬さの評価は「○」であったが、耐ブローホール特性の評価が「×」であった。Niが窒素の固溶を阻害しブローホールが増加したものと考えられる。
【0043】
比較例4は、Crが本発明で規定する範囲よりも少なく、耐ブローホール特性の評価が「×」であった。
【0044】
比較例5は、Cuが本発明で規定する範囲を超えて過剰に添加された例で、比較例3の場合と同様、耐ブローホール特性の評価が「×」であった。
またNi及びCuが過剰に添加された比較例6も同様に、耐ブローホール特性の評価が「×」であった。
【0045】
比較例7は、Cが本発明で規定する範囲よりも少なく、硬さの評価が「×」であった。
【0046】
比較例8はNbが、比較例9はVが、比較例10はZr及びTiの合計が、それぞれ本発明で規定する範囲を超えて過剰に添加された例である。これらの比較例は、いずれも硬さの評価が「×」であった。粗大な炭化物が増加しマトリックス中のC量が減ったため硬さが低くなったものと考えられる。
【0047】
比較例12は、Cが本発明で規定する範囲を超えて過剰に添加された例で、溶接部が硬くなり過ぎてしまい、硬さの評価が「×」であった。
【0048】
比較例13は、Nが本発明で規定する範囲を超えて過剰に添加された例で、耐ブローホール特性の評価が「×」であった。
【0049】
比較例14は、Mnが本発明で規定する範囲よりも少なく、硬さの評価が「×」であった。
【0050】
以上のように各比較例においては、少なくとも硬さ、耐ブローホール特性の何れかの評価が「×」であった。
【0051】
これに対し、溶接材料(溶接棒)の化学組成が本発明の範囲内である実施例1~25は、硬さ、耐ブローホール特性いずれの評価も「○」もしくは「△」であり、従来公知の溶接材料(比較例1、比較例11)に比べてこれら2つの特性の両立が図られていることが分かる。
本発明の溶接材料であれば、窒素濃度が0.5質量%以上の表層を有する窒化処理された金型の補修に用いた場合でもブローホールの発生が良好に抑制され、また補修溶接部を適正な硬さとすることが可能である。
【0052】
実施例について更に詳しくみると、Cを本発明の規定の範囲内でより多く添加することで硬さを更に高くすることができており、C量を0.17%以上とした例については硬さの評価で「○」が得られている。
またCrを本発明の規定の範囲内でより多く添加することで耐ブローホール特性をより向上させることができており、Cr量を6.8%以上とした例については耐ブローホール特性の評価で「○」が得られている。
【0053】
また実施例9と実施例16、実施例18と実施例14等を比較するとAlが添加された例においてブローホールの面積が小さくなっており、Alの添加が耐ブローホール特性の向上に有効であることが分かる。
【0054】
以上本発明の実施例について詳述したが、本発明はこれに限定されず、その趣旨を逸脱しない範囲内において種々変更して実施可能である。
図1