(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022135095
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】抗菌剤および抗菌性組成物
(51)【国際特許分類】
A01N 43/16 20060101AFI20220908BHJP
A01N 37/44 20060101ALI20220908BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
A01N43/16 A
A01N37/44
A01P1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021034689
(22)【出願日】2021-03-04
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り https://nenkai.csj.jp/Proceeding/detail/year/2020/lecture_no/3G2-45(日本化学会第100春季年会(2020)の講演予稿集(3G2-45)),令和2年3月5日掲載 〔刊行物等〕 日本化学会第100春季年会予稿集DVD,日本化学会第100春季年会予稿集USB,編集・発行所:公益社団法人 日本化学会,発行者:澤本光男,令和2年3月5日発行
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076314
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 正人
(74)【代理人】
【識別番号】100112612
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲士
(74)【代理人】
【識別番号】100112623
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 克幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163393
【弁理士】
【氏名又は名称】有近 康臣
(74)【代理人】
【識別番号】100189393
【弁理士】
【氏名又は名称】前澤 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100203091
【弁理士】
【氏名又は名称】水鳥 正裕
(72)【発明者】
【氏名】芹澤 武
(72)【発明者】
【氏名】澤田 敏樹
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 璃奈
(72)【発明者】
【氏名】西浦 聖人
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AA01
4H011BA06
4H011BB06
4H011BB08
4H011DA14
4H011DF04
(57)【要約】
【課題】新規な抗菌剤およびそれを含む抗菌性組成物を提供する。
【解決手段】実施形態に係る抗菌剤は下記一般式(1)で表されるアミノ化セルロース(式(1)中、R
1は炭素数1~20の2価の炭化水素基、nは6~16)を含む。実施形態に係る抗菌性組成物は、アミノ化セルロースとアミノポリカルボン酸系キレート剤と水を含み、アミノ化セルロースの含有量が0.005~0.04%(w/v)である。
【化1】
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるアミノ化セルロースを含む抗菌剤。
【化1】
式中、R
1は炭素数1~20の2価の炭化水素基を表し、nは6~16である。
【請求項2】
アミノポリカルボン酸系キレート剤と下記一般式(1)で表されるアミノ化セルロースと水を含み、前記アミノ化セルロースの含有量が0.005~0.04%(w/v)である抗菌性組成物。
【化2】
式中、R
1は炭素数1~20の2価の炭化水素基を表し、nは6~16である。
【請求項3】
前記アミノポリカルボン酸系キレート剤のカルボキシ基と前記アミノ化セルロースのアミノ基とのモル比であるカルボキシ基/アミノ基が0.01以上50.0以下である、請求項2に記載の抗菌性組成物。
【請求項4】
前記アミノポリカルボン酸系キレート剤が、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン二酢酸、1,2-シクロヘキサンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、イミノ二酢酸、N-(2-ヒドロキシエチル)イミノ二酢酸、N-(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン三酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸、グルタミン酸二酢酸、アスパラギン酸二酢酸、及びこれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項2または3に記載の抗菌性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌剤、およびそれを含む抗菌性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧品や洗浄剤などに配合される抗菌剤として、様々な抗菌剤が知られている。また、抗菌活性を向上させるために抗菌剤と他の物質とを組み合わせた組成物が知られており、例えば、カテキン類や酸化銀などの抗菌成分と、エチレンジアミン四酢酸などのアミノポリカルボン酸系キレート剤とを組み合わせることが提案されている(特許文献1,2参照)。
【0003】
一方、酵素反応を用いて人工的に合成されたセルロースオリゴマーとして、アミノ基を持つセルロースオリゴマー(アミノ化セルロース)が知られており、タンパク質の吸着剤や固定化担体、細胞の足場材などへの利用が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-091293号公報
【特許文献2】特開2010-202561号公報
【特許文献3】特開2018-174871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、上記のアミノ化セルロースをバイオ機能性材料へと展開することを目指し、研究していくなかで、アミノ化セルロースが抗菌活性を持つことを見出した。本発明者らは、また、アミノ化セルロースをアミノポリカルボン酸系キレート剤と特定の濃度で組み合わせることより、抗菌活性を向上できることを見出した。
【0006】
本発明の実施形態は、以上の点に鑑みてなされたものであり、アミノ化セルロースを含む新規な抗菌剤、およびそれを用いた抗菌性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下に示される実施形態を含む。
[1] 下記一般式(1)で表されるアミノ化セルロースを含む抗菌剤。
【化1】
式中、R
1は炭素数1~20の2価の炭化水素基を表し、nは6~16である。
[2] アミノポリカルボン酸系キレート剤と上記一般式(1)で表されるアミノ化セルロースと水を含み、前記アミノ化セルロースの含有量が0.005~0.04%(w/v)である抗菌性組成物。
[3] 前記アミノポリカルボン酸系キレート剤のカルボキシ基と前記アミノ化セルロースのアミノ基とのモル比であるカルボキシ基/アミノ基が0.01以上50.0以下である、[2]に記載の抗菌性組成物。
[4]前記アミノポリカルボン酸系キレート剤が、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン二酢酸、1,2-シクロヘキサンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、イミノ二酢酸、N-(2-ヒドロキシエチル)イミノ二酢酸、N-(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン三酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸、グルタミン酸二酢酸、アスパラギン酸二酢酸、及びこれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種である、[2]または[3]に記載の抗菌性組成物。
【0008】
なお、「%(w/v)」は、質量体積パーセント濃度であり、100mLの体積にしめる対象物質の質量(g)である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の実施形態によれば、アミノ化セルロースを含む新規な抗菌剤が提供される。また、アミノ化セルロースとアミノポリカルボン酸系キレート剤とを組み合わせることにより、抗菌活性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】試験例1(セルロース濃度=1%(w/v))におけるプレーティングの結果を示すグラフ。
【
図2】試験例1(セルロース濃度=1%(w/v))における増殖曲線のグラフ。
【
図3】試験例2(セルロース濃度=0.1%(w/v))におけるプレーティングの結果を示すグラフ。
【
図4】試験例2(セルロース濃度=0.1%(w/v))における増殖曲線のグラフ。
【
図5】試験例3(セルロース濃度=0.05%(w/v))におけるプレーティングの結果を示すグラフ。
【
図6】試験例3(セルロース濃度=0.05%(w/v))における増殖曲線のグラフ。
【
図7】試験例4(セルロース濃度=0.02%(w/v))におけるプレーティングの結果を示すグラフ。
【
図8】試験例4(セルロース濃度=0.02%(w/v))における増殖曲線のグラフ。
【
図9】試験例5(セルロース濃度=0.01%(w/v))におけるプレーティングの結果を示すグラフ。
【
図10】試験例5(セルロース濃度=0.01%(w/v))における増殖曲線のグラフ。
【
図11】試験例1~5のセルロース濃度と細菌数との関係を示すグラフである。
【
図12】試験例6におけるEDTA濃度と細菌数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[抗菌剤]
一実施形態に係る抗菌剤は、下記一般式(1)で表されるアミノ化セルロースを含む。該アミノ化セルロースは、グルコースがβ-1,4結合により連結された構造を持つセルロースオリゴマーにおいて、そのアノマー位にアミノ基を含む置換基を持つものである。
【0012】
【化2】
式(1)中、R
1は炭素数1~20の2価の炭化水素基を表し、nは6~16である。また、式(1)中の波線はアノマー位の立体配位がα体、β体、または、α体とβ体の混合物であることを表す。
【0013】
上記R1は、2価の脂肪族炭化水素基でもよく、2価の芳香族炭化水素基でもよい。2価の脂肪族炭化水素基としては、例えば、アルカンジイル基やアルケンジイル基などが挙げられ、直鎖でも分岐鎖を有してもよい。2価の芳香族炭化水素基としては、例えば、芳香環の置換基を持つ2価の脂肪族炭化水素基や、アレーンジイル基などが挙げられ、これらの芳香環にはアルキル基などの置換基が付加されてもよい。R1の炭素数は、好ましくは1~10であり、より好ましくは1~5である。R1は、好ましくは炭素数1~10のアルカンジイル基であり、より好ましくは炭素数1~5のアルカンジイル基であり、特に好ましくは炭素数1~3のアルカンジイル基である。
【0014】
上記nは、アミノ化セルロースの平均重合度(DP)を表し、6~16である。nは6.5以上でもよく、7以上でもよい。また、14以下でもよく、13以下でもよく、12以下でもよい。なお、個々のアミノ化セルロースの重合度は、特に限定されないが、例えば4以上でもよく、5以上でもよく、6以上でもよく、また、例えば20以下でもよく、16以下でもよく、13以下でもよい。
【0015】
上記アミノ化セルロースは、セルロースII型の結晶構造を持つセルロース構造体でもよい。すなわち、一実施形態において、アミノ化セルロースは、式(1)で表される化合物を構成成分として含有する、セルロースII型の結晶構造を持つセルロース構造体であってもよい。該セルロース構造体は、シート状の構造(セルロースナノシート)を持つものでもよい。天然由来のセルロース鎖が平行に配列したセルロースI型の結晶構造を持つのに対し、人工合成されたアミノ化セルロースは、熱力学的に安定であるセルロースII型の結晶構造を形成する。その際、セルロース鎖末端のアミノ基含有置換基(R1-NH2)は結晶形に影響を与えず、アミノ基含有置換基を持つセルロース誘導体はセルロースナノシートの膜厚方向に配列してラメラ結晶を形成しており、アミノ基がシート表面に露出する。
【0016】
上記アミノ化セルロースの合成方法は、特に限定されず、例えば、特許文献3に記載された、セロデキストリンホスホリラーゼ(CDP)の逆反応を利用した酵素合成反応を用いてもよい。すなわち、グルコース又はセロビオースのアノマー位にアミノ基含有置換基を持つプライマーとα-グルコース-1-リン酸(αG1P)とを、CDPと反応させることにより、プライマーに対してαG1Pが逐次的に重合され、式(1)で表されるアミノ化セルロースを合成することができる。
【0017】
上記抗菌剤は、一般式(1)で表されるアミノ化セルロースのみからなるものでもよく、また、その効果を損なわない範囲で他の成分、例えば酸化防止剤、安定剤、無機塩、pH調整剤、界面活性剤、有機溶剤、増粘剤、着色剤、香料等を含んでもよい。後述するように、アミノポリカルボン酸系キレート剤と組み合わせる場合、濃度によってはアミノ化セルロースによる抗菌活性が損なわれるので、一実施形態としてアミノポリカルボン酸系キレート剤を含有しなくてもよく、また使用濃度を考慮して含有させてもよい。
【0018】
上記抗菌剤は、また、上記アミノ化セルロースを水に分散させた分散液などの水分散体でもよい。その場合、水に緩衝剤を加えて緩衝液としてもよい。緩衝剤としては、特に限定されず、例えば、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、2-モルホリノエタンスルホン酸(MES)緩衝液、トリスヒドロキシメチルアミノメタン(Tris)緩衝液、3-モルホリノプロパンスルホン酸(MOPS)緩衝液、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)緩衝液等を構成する緩衝剤が挙げられる。
【0019】
上記抗菌剤を化粧品などの組成物に配合して用いる場合、その組成物中のアミノ化セルロースの含有量(濃度)は、抗菌活性が得られる限り、特に限定されず、例えば0.001~5%(w/v)でもよく、0.01~3%(w/v)でもよく、0.03~2%(w/v)でもよく、0.1~1%(w/v)でもよい。
【0020】
[抗菌性組成物]
一実施形態に係る抗菌性組成物は、(A)アミノポリカルボン酸系キレート剤と、(B)上記一般式(1)で表されるアミノ化セルロースと、(C)水を含む。
【0021】
(A)成分のアミノポリカルボン酸系キレート剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレンジアミン二酢酸(EDDA)、1,2-シクロヘキサンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸(NTA)、イミノ二酢酸(IDA)、N-(2-ヒドロキシエチル)イミノ二酢酸(HIDA)、N-(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(EGTA)、グルタミン酸二酢酸、アスパラギン酸二酢酸、及びこれらの塩が挙げられる。これらはいずれか1種用いても2種以上併用してもよい。
【0022】
上記の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩; カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩; メチルアミン塩、エチルアミン塩、プロピルアミン塩、ブチルアミン塩等のアミン塩; アンモニウム塩; モノエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩等のアルカノールアミン塩が挙げられ、これらはいずれか1種または2種以上組み合わせてもよい。
【0023】
これらの中でも、(A)成分のアミノポリカルボン酸系キレート剤としては、EDTA及び/又はその塩が好ましい。EDTAの塩としては、例えば、二ナトリウム塩、三ナトリウム塩、四ナトリウム塩、二カリウム塩、三カリウム塩、四カリウム塩、カルシウム塩、カルシウム二ナトリウム塩等が好ましい。
【0024】
(B)成分のアミノ化セルロースの詳細については[抗菌剤]において上述したとおりである。
【0025】
実施形態に係る抗菌性組成物は、(A)アミノポリカルボン酸系キレート剤および(B)アミノ化セルロースとともに水を含む水分散体であり、抗菌性組成物中における(B)アミノ化セルロースの含有量(濃度)が0.005~0.04%(w/v)である。(A)アミノポリカルボン酸系キレート剤と併用する場合、(B)アミノ化セルロースをこのように低濃度とすることにより、後述する実施例に示されるように、抗菌活性を向上することができる。(B)アミノ化セルロースの含有量は、より好ましくは0.03%(w/v)以下であり、さらに好ましくは0.04%(w/v)以下であり、また0.01%(w/v)以上であることが好ましい。
【0026】
該抗菌性組成物において、(A)アミノポリカルボン酸系キレート剤と(B)アミノ化セルロースとの比率は、(A)アミノポリカルボン酸系キレート剤のカルボキシ基と(B)アミノ化セルロースのアミノ基とのモル比で、カルボキシ基/アミノ基が0.01以上50.0以下であることが好ましい。このようなモル比に設定することにより、抗菌活性をより高めることができる。該モル比は、0.03以上であることが好ましく、より好ましくは0.05以上であり、さらに好ましくは0.20以上であり、さらに好ましくは0.30以上であり、さらに好ましくは0.50以上であり、さらに好ましくは1.0以上であり、2.0以上でもよく、3.0以上でもよい。また、該モル比は、10.0以下であることが好ましく、より好ましくは7.0以下である。
【0027】
なお、(A)アミノポリカルボン酸系キレート剤のカルボキシ基は、酸型(-COOH)だけでなく、塩型(-COOX。ここでXはカルボン酸と塩を形成するカチオン)も包含する概念である。
【0028】
該抗菌性組成物において、(A)アミノポリカルボン酸系キレート剤の含有量(濃度)は、特に限定されないが、1~5000μmol/Lであることが好ましく、より好ましくは5~1000μmol/Lであり、さらに好ましくは10~500μmol/Lであり、30~300μmol/Lでもよい。
【0029】
該抗菌性組成物は上記のように水分散体であるが、その形態は、例えば液状でも、クリーム状でも、ジェル状でも、シート状でもよい。
【0030】
該抗菌性組成物は、さらに緩衝剤を含有してもよく、水および緩衝剤からなる緩衝液を含んでもよい。すなわち、一実施形態に係る抗菌性組成物は、(A)アミノポリカルボン酸系キレート剤が溶解した緩衝液に(B)アミノ化セルロースが分散した水分散体である。
【0031】
緩衝液としては特に限定されず、例えば、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、2-モルホリノエタンスルホン酸(MES)緩衝液、トリスヒドロキシメチルアミノメタン(Tris)緩衝液、3-モルホリノプロパンスルホン酸(MOPS)緩衝液、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)緩衝液等が挙げられる。
【0032】
該抗菌性組成物のpHは特に限定されず、例えば20℃でのpHが3~11でもよく、5~9でもよい。
【0033】
該抗菌性組成物には、その形態及び用途等に応じて、本実施形態の効果を阻害しない範囲内で、その他の成分、例えば、酸化防止剤、安定剤、無機塩、pH調整剤、界面活性剤、有機溶剤、増粘剤、着色剤、香料等を配合してもよい。
【0034】
[用途・その他]
本実施形態に係る抗菌剤および抗菌性組成物の抗菌対象としては、特に限定されず、例えば、大腸菌、緑膿菌などのグラム陰性菌、黄色ブドウ球菌などのグラム陽性菌などの細菌等が挙げられる。
【0035】
本実施形態に係る抗菌剤の用途は特に限定されず、例えば、化粧品、医薬部外品、医薬品、トイレタリー製品、ハウスホールド製品などに配合することができ、抗菌活性を付与することができる。本実施形態に係る抗菌性組成物は、例えば、化粧品、医薬部外品、医薬品、トイレタリー製品、ハウスホールド製品などとして用いることができる。
【実施例0036】
以下、実施例により更に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において、「mol/m3」および「μmol/L」をそれぞれ「mM」および「μM」と表記する。
【0037】
[非修飾セルロースおよびアミノ化セルロースの調製]
T.Serizawaら,Polym.J.,2016年,48,539-544に記載の方法に従い、プライマーとしてグルコースを用いて、下記式で表される、平均重合度が10(n=10)の非修飾セルロースを合成した。
【化3】
【0038】
上記特許文献3(特開2018-174871号公報)に記載の方法に従い、下記式で表される、平均重合度が10(n=10)のアミノ化セルロースを合成した。詳細には、200mMのαG1P、50mMの2-アミノエチル-β-D-グルコシド、及び0.2U/mLのCDPを、500mMのHEPES緩衝液(pH7.5)中で混合し、60℃で3日間インキュベートした。沈澱した生成物を含む反応液を遠心(15000rpm、10分間以上、4℃)し、上清を取り除いた後、超純水を加えて生成物を再分散させ、遠心(同条件)する操作を繰り返することで、上清の置換率が99.999%以上となるまで精製して、アミノ化セルロースを得た。
【化4】
【0039】
平均重合度は、プロトン核磁気共鳴(NMR)装置(AVANCE III HD500(Bruker Biospin、磁場強度:500MHz、積算回数16回))を用いて、アミノ化セルロースのセルロース部位における還元末端以外のアノマー位(δ4.1~4.2ppm付近)とアミノ基に近接したエチル基(δ2.5~2.6ppm付近)のプロトンの積分値をもとに算出した。
【0040】
[リン酸緩衝生理食塩水(PBS)または10倍濃度(10×)PBSの調製]
PBSならびに10×PBSは、D-PBS(-)(富士フィルム和光純薬製)を超純水に溶解することで調製し、オートクレーブ(121℃、20分)した後に、使用するまで4℃で保存した。
【0041】
[セルロース分散液の調製]
上記で合成した非修飾セルロース及びアミノ化セルロースを用いて、非修飾セルロース及びアミノ化セルロースをそれぞれPBSに分散させたセルロース分散液を調製した。詳細には、1.00~1.50%(w/v)のアミノ化セルロース水分散液をオートクレーブ(121℃、20分)し、次いで、遠心(20400g、4℃、10分)し、上清を除去した後、滅菌精製水で再分散させ、この遠心と再分散の操作を5回実施した後、得られたアミノ化セルロース水分散液にその9分の1の量の10×PBSを添加して、1.00%(w/v)のアミノ化セルロースのPBS分散液を調製した。非修飾セルロースについても、同様にして、1.00%(w/v)の非修飾セルロースのPBS分散液を調製した。
【0042】
[EDTA水溶液の調製]
所定量のエチレンジアミン四酢酸(EDTA)(ナカライテスク製)を秤量し、PBSに溶解させた後、フィルター滅菌(孔径:0.22μm、素材:PVDF、マイレクス製)して、5000または500mMのEDTAのPBS溶液を調製した。
【0043】
[大腸菌懸濁液の調製]
大腸菌としてEscherichia coli ER2738株を用いてPBSに分散させ、660nmでの光学密度(OD)が0.2である大腸菌のPBS懸濁液を調製した。光学濃度は、マイクロプレートリーダー(SYNERGY H1、BioTek製)により測定した。
【0044】
[大腸菌に対する抗菌活性評価試験方法]
下記ステップ[1]~[4]により抗菌活性を評価した。
[1] セルロース分散液とEDTA水溶液と大腸菌懸濁液を、各試験例におけるインキュベーション条件に従い、96ウェルプレート上で各ウェル0.2mLとなるように混合した。各混合液について、プレーティングでコロニー数をカウントした。なお、大腸菌とインキュベーションする際のアミノ化セルロース又は非修飾セルロースの濃度が1.00%(w/v)の場合には、1.00%(w/v)のアミノ化セルロースまたは非修飾セルロースのPBS分散液を遠心(20400g、4℃、10分)し、その上清を、大腸菌と所定量のEDTAを含む同量のPBS懸濁液で置換した。
[2] 混合後、シェイキングインキュベーター(MyBL?P2S、FRONT LAB製)を用いて250rpmで96ウェルプレートを振盪させながら37℃で24時間、48時間インキュベーションした。
[3] 24時間及び48時間のインキュベーション後の各混合液について、大腸菌の増殖評価を行った。詳細には、各混合液をLB培地で100倍に希釈し、96ウェルプレートに100μLずつ添加した(n=3)。その後、37℃で振盪培養(567rpm)し、20時間にわたって10分に1回、マイクロプレートリーダー(SYNERGY H1、BioTek製)を用いて600nmでの光学密度(OD)を測定し、増殖曲線を得た。
[4] また、24時間及び48時間のインキュベーション後の各混合液について、プレーティングでコロニー数をカウントした。
【0045】
[プレーティング]
プレーティングによるコロニー数のカウントは下記ステップ(1)~(5)により行った。
(1) LB-AGAR(LENNOX)(ForMedium製)を3.5g/100mLとなるように超純水に溶解した後、オートクレーブ(121℃、20分)し、室温で静置した。徐冷し、ゲル化する前に滅菌オートシャーレにおよそ1mLずつ注いだ。これにより、プレートを調製した。
(2) インキュベーション後の各混合液にPBSを0.2mL添加し、0.4mLにメスアップした。
(3) 適切な濃度(プレーティングのコロニー数が10~300になるような濃度)まで1/10ずつ希釈した。
(4) 希釈後の混合液100μLをプレートにまき、37℃で培養した。
(5) 24時間培養後に生育したコロニー数をカウントした。
【0046】
[LB培地]
上記抗菌活性評価試験方法で用いたLB培地は、LB-BROTH(LENNOX)(ForMedium製)を2g/100mLとなるように超純水に溶解した後、オートクレーブ(121℃、20分)し、使用するまで室温で保存したものである。
【0047】
[試験例1]
大腸菌に対する抗菌活性評価試験として、上記ステップ[1]において、アミノ化セルロース又は非修飾セルロースの濃度、EDTAの濃度、及び大腸菌の濃度が、下記表1に記載の通りになるように、セルロース分散液とEDTA水溶液と大腸菌懸濁液を混合して、6種類のサンプル(試料A-1~F-1)を調製し、各サンプルについて抗菌活性を評価した。ここで、試料A-1において、EDTAのカルボキシ基とアミノ化セルロースのアミノ基のモル比、カルボキシ基/アミノ基=0.062である。結果を
図1及び
図2に示す。
【0048】
【0049】
図1に示すように、試料F-1(大腸菌のみ)及び試料D-1(非修飾セルロース+大腸菌)のインキュベーション後の細菌数は、インキュベーション時間が24時間の場合と48時間の場合の双方でほぼ一致した。試料B-1(アミノ化セルロース+大腸菌)では、試料F-1及び試料D-1と比較して、細菌数が減少した。そのため、非修飾セルロースは抗菌活性を示さないが、アミノ化セルロースは抗菌活性を示した。
【0050】
試料E-1(EDTA+大腸菌)及び試料C-1(非修飾セルロース+EDTA+大腸菌)の細菌数はインキュベーション時間によらずほぼ一致した。また、それぞれEDTAを添加しなかった試料F-1及び試料D-1と比較して細菌数が減少した。この結果より、EDTAそのものの抗菌活性は確認されたが、非修飾セルロースは抗菌活性を示さないことが分かる。
【0051】
試料A-1(アミノ化セルロース+EDTA+大腸菌)の細菌数は、試料C-1及び試料E-1の細菌数よりも多く、試料B-1の細菌数とほぼ一致した。このことから、アミノ化セルロースとEDTAとの相乗的な抗菌活性は認められず、むしろアミノ化セルロースとEDTAとの相互作用によりEDTAによる抗菌活性が低減したと考えられる。
【0052】
図2に示すように、インキュベーション時間が長くなることで大腸菌の増殖曲線において誘導期が長くなった。試料C-1及び試料E-1において誘導期が長くなっており、抗菌活性が認められた。また、試料A-1及び試料B-1では、特にインキュベーション48時間の場合に試料D-1及び試料F-1に比べて誘導期が長くなっており、試料C-1及び試料E-1よりも効果は小さいものの抗菌活性が認められ、
図1に示すプレーティングの結果とほぼ一致した。
【0053】
[試験例2]
大腸菌に対する抗菌活性評価試験として、上記ステップ[1]において、アミノ化セルロース又は非修飾セルロースの濃度、EDTAの濃度、及び大腸菌の濃度が、下記表2に記載の通りになるように、セルロース分散液とEDTA水溶液と大腸菌懸濁液を混合して、6種類のサンプル(試料A-2~F-2)を調製し、各サンプルについて抗菌活性を評価した。ここで、試料A-2において、EDTAのカルボキシ基とアミノ化セルロースのアミノ基のモル比、カルボキシ基/アミノ基=0.62である。結果を
図3及び
図4に示す。
【0054】
【0055】
図3に示すようにプレーティングでは、セルロース濃度が0.1%(w/v)の場合、
図1に示す1%(w/v)の場合とほぼ同じ結果であった。一方、
図4に示す増殖挙動については、アミノ化セルロース単独で大腸菌に作用させた試料B-2では、
図2に示す試料B-1に比べて誘導期が1時間短くなった。これにより、アミノ化セルロース単独で作用させる場合、セルロース濃度が高いほどより強く増殖を抑制し、抗菌活性を高められると考えられる。
【0056】
[試験例3]
大腸菌に対する抗菌活性評価試験として、上記ステップ[1]において、アミノ化セルロース又は非修飾セルロースの濃度、EDTAの濃度、及び大腸菌の濃度が、下記表3に記載の通りになるように、セルロース分散液とEDTA水溶液と大腸菌懸濁液を混合して、6種類のサンプル(試料A-3~F-3)を調製し、各サンプルについて抗菌活性を評価した。ここで、試料A-3において、EDTAのカルボキシ基とアミノ化セルロースのアミノ基のモル比、カルボキシ基/アミノ基=1.2である。結果を
図5及び
図6に示す。
【0057】
【0058】
図5に示すプレーティング結果において、インキュベーション時間が48時間の場合、試料A-3(アミノ化セルロース+EDTA+大腸菌)は試料B-3(アミノ化セルロース+大腸菌)よりも高い抗菌活性を示した。
図6に示す増殖曲線において、試料A-3は、試料E-3(EDTA+大腸菌)及び試料C-3(非修飾セルロース+EDTA+大腸菌)とほぼ同等の抗菌活性を示しており、試験例1及び試験例2とは異なる傾向を示した。以上の結果より、EDTAのカルボキシ基とアミノ化セルロースのアミノ基のモル比、カルボキシ基/アミノ基が大きくなると、両者を併用することによるEDTAの抗菌活性の低下が解消される傾向にあることが分かる。
【0059】
[試験例4]
大腸菌に対する抗菌活性評価試験として、上記ステップ[1]において、アミノ化セルロース又は非修飾セルロースの濃度、EDTAの濃度、及び大腸菌の濃度が、下記表4に記載の通りになるように、セルロース分散液とEDTA水溶液と大腸菌懸濁液を混合して、6種類のサンプル(試料A-4~F-4)を調製し、各サンプルについて抗菌活性を評価した。ここで、試料A-4において、EDTAのカルボキシ基とアミノ化セルロースのアミノ基のモル比、カルボキシ基/アミノ基=3.1である。結果を
図7及び
図8に示す。
【0060】
【0061】
図7に示すプレーティング結果において、インキュベーション時間が24時間の場合も48時間の場合も、試料A-4(アミノ化セルロース+EDTA+大腸菌)は、他のいずれの試料B-4~F-4と比べても細菌数が少なく抗菌活性が認められた。
図8に示す増殖曲線においても、試料A-4は、インキュベーション24時間の場合に試料B-4よりも明確に高い抗菌活性を示しており、インキュベーション48時間の場合には大腸菌が増殖される様子は確認されなかった。
【0062】
[試験例5]
大腸菌に対する抗菌活性評価試験として、上記ステップ[1]において、アミノ化セルロース又は非修飾セルロースの濃度、EDTAの濃度、及び大腸菌の濃度が、下記表5に記載の通りになるように、セルロース分散液とEDTA水溶液と大腸菌懸濁液を混合して、6種類のサンプル(試料A-5~F-5)を調製し、各サンプルについて抗菌活性を評価した。ここで、試料A-5において、EDTAのカルボキシ基とアミノ化セルロースのアミノ基のモル比、カルボキシ基/アミノ基=6.2である。結果を
図9及び
図10に示す。
【0063】
【0064】
図9に示すプレーティング結果及び
図10に示す増殖曲線のいずれについても、セルロース濃度が0.02%(w/v)である試験例4と同様の結果であった。
【0065】
[抗菌活性のセルロース濃度依存性]
図11は、試験例1~5のプレーティング(インキュベーション48時間)の結果をまとめたものである。アミノ化セルロースを単独で作用させた試料B-1~5では、試料D-1~5および試料F-1~5よりも細胞数が低く、抗菌活性が認められた。
【0066】
セルロース濃度が0.1%(w/v)以上で、アミノ化セルロースとEDTAを作用させた試料A-1~2の細菌数は、アミノ化セルロース単独で作用させた試料B-1~2の細菌数に近づき抗菌活性が低下した。一方、セルロース濃度が0.04%(w/v)以下で、アミノ化セルロースとEDTAを作用させた試料A-4~5の細菌数は、EDTA単独で作用させた試料E-4~5の細菌数よりも少なく、EDTA単独の場合よりも優れた抗菌活性を持つことが分かる。
【0067】
以上より、アミノ化セルロースは単独で作用させた場合、抗菌活性を示すことが分かる。一方で、アミノ化セルロースとEDTAを併用する場合に、アミノ化セルロースの濃度が高いと抗菌活性が低くなり、アミノ化セルロースの濃度を0.04%(w/v)以下にすることによりはじめて併用効果が得られることが分かった。また、カルボキシ基/アミノ基のモル比を大きくしてEDTA過剰で組み合わせることにより、EDTA単独で作用させた場合よりも抗菌活性に優れ、アミノ化セルロースとEDTAを併用することによる相乗効果が得られた。
【0068】
[試験例6]
大腸菌に対する抗菌活性評価試験として、上記ステップ[1]において、大腸菌濃度を1×10
7~10
8cfu/mL(OD
660=0.1)で一定とし、アミノ化セルロース又は非修飾セルロースの濃度、及びEDTAの濃度が、下記表6に記載の通りになるように、セルロース分散液とEDTA水溶液と大腸菌懸濁液を混合して、18種類のサンプルを調製し、各サンプルについて抗菌活性を評価した。評価はインキュベーション48時間におけるプレーティングにより行った。結果を
図12に示す。
【0069】
【0070】
図12に示すように、セルロース濃度0.02%(w/v)の場合において、EDTA濃度を変化させて抗菌活性を評価したところ、アミノ化セルロースとEDTAを併用した試料A-6~10では、アミノ化セルロース単独使用の試料B-6、EDTA単独使用の試料E-6~10、および非修飾セルロースとEDTAを併用した試料C-6~10よりも高い抗菌活性を示した。詳細には、カルボキシ基/アミノ基のモル比が0.062である試料A-6では、EDTA濃度が低いことから試料A-7~10に対して抗菌活性が低下したが、同じくEDTA濃度が低い試料C-6およびE-6に比べて高い抗菌活性を示しており、EDTA濃度を更に下げることで当該モル比がより小さくなっても、EDTA単独使用等に比べて高い抗菌活性を維持するものと考えられる。また、カルボキシ基/アミノ基のモル比が0.20以上である試料A-7~10では、EDTA単独や非修飾セルロースとEDTAの併用の場合にEDTA濃度をどのように変更しても達成できないレベルの高い抗菌活性が認められた。
【0071】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその省略、置き換え、変更などは、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。