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特開2022-135102エポキシ樹脂硬化触媒および熱硬化性エポキシ樹脂組成物の製造法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022135102
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂硬化触媒および熱硬化性エポキシ樹脂組成物の製造法
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/70 20060101AFI20220908BHJP
【FI】
C08G59/70
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021034696
(22)【出願日】2021-03-04
(71)【出願人】
【識別番号】390003001
【氏名又は名称】川研ファインケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 尚宗
【テーマコード(参考)】
4J036
【Fターム(参考)】
4J036AD08
4J036GA15
4J036GA16
4J036HA12
4J036JA01
4J036JA05
4J036JA06
4J036KA01
(57)【要約】
【課題】
触媒の単独使用および使用量低減により、エポキシ樹脂中に占める触媒コストを抑えることができ、保存安定性に優れ、皮膚刺激性および環境負荷の小さいエポキシ硬化用触媒を提供する。
【解決手段】
芳香族スルホン酸化合物が配位した特定の金属キレートが、従来のエポキシ硬化用触媒よりも少量で十分な硬化触媒活性を示し、保存安定性に優れ、皮膚刺激性および環境負荷の小さいエポキシ硬化用触媒であることを見出した。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(a)で表される芳香族スルホン酸化合物が配位したエポキシ硬化用触媒金属キレート化合物。
(式中のnは0~5の整数)
【請求項2】
請求項1記載のRが、炭素数1~20であるエポキシ硬化用触媒金属キレート化合物。
【請求項3】
前記金属キレートの金属原子がアルミニウム、亜鉛、チタニウムから選ばれる請求項1および2記載のエポキシ硬化触媒金属キレート化合物。
【請求項4】
請求項3記載のそれぞれの金属原子への芳香族スルホン酸化合物の平均分子配位数がアルミニウムに対しては0.2~3.0、亜鉛対しては0.2~2.0、チタニウム対しては0.2~4である請求項1~3記載のエポキシ硬化触媒金属キレート化合物。
【請求項5】
金属キレートの金属原子がアルミニウムである請求項1~4に記載のエポキシ硬化触媒金属キレート化合物。
【請求項6】
請求項1~5に記載のエポキシ硬化触媒金属キレート化合物を、エポキシ樹脂に対して0.1~20wt%使用する熱硬化性エポキシ樹脂組成物の製造法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂硬化に用いられる硬化触媒およびエポキシ樹脂組成物の製造法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は電気的、機械的、熱的物性に優れ、さらには比較的安価なことから電気絶縁材料、構造部材、接着剤等工業的に広く使用されている。エポキシ樹脂を合成するためには、エポキシモノマー単独を加熱しただけでは反応性が低いために、一般的には硬化剤および硬化促進剤などの触媒が使用されている。硬化剤および硬化促進剤として、チオール化合物、アミン系化合物、酸無水物系化合物、フェノール系化合物、アルミキレートとシラン化合物の錯体、ホウ素錯体、およびリン系化合物が用いられている。
【0003】
アミン系化合物、酸無水物系化合物およびフェノール系化合物などの硬化剤は硬化剤自体がエポキシ樹脂内に組み込まれることにより硬化するメカニズムとなっている。そのため、硬化剤の配合量としてはエポキシ樹脂に対し20~100%と高い割合で添加する必要があり、エポキシ樹脂特有の機械的物性や熱物性の特徴を生かすことが困難であり、さらには、エポキシ樹脂中に占める触媒コストが高いなどの問題があった。またアミン系は皮膚刺激性が懸念され、酸無水物については揮発性・昇華性があることから作業環境を汚染する問題があった。(非特許文献1および特許文献1)
【0004】
そこで、昭57-10623公報にはアルミニウムキレートと補助硬化剤としてシラン化合物を併用したカチオン硬化型触媒が報告されている。しかし、高い活性を有するフェニル基含有シラン化合物は、極めて高価であり、製造コスト面から優位性は非常に低く、さらには製造上PCBなどの有害物質を含むなど環境面での課題があった。(特許文献2)
【0005】
また、熱硬化性樹脂を潜在的に使用する場合、予め硬化剤と樹脂を混合した状態で保存すると経時的に粘度が上昇し、保存安定性が低く、使用条件が限られるという課題があった。このような課題を解決する手段として硬化剤をマイクロカプセル化した硬化剤粒子が使用されている。
しかしながら、マイクロカプセルは有機溶剤や樹脂が浸透しやすいことや、硬化剤の保持量に制限があるなど課題があった。さらには、このようなマイクロカプセルを調製する特殊な工程が増えることから作業性・コスト面でも課題があった。(特許文献3および特許文献4)
【0006】
エポキシ重合触媒としての活性を有する化合物はいくつか知られており、フッ化ホウ素アミン塩やジシアンジアミド(DICY)などがその代表例として挙げられる。しかしながら、これらは固体かつ高極性化合物であるために、樹脂への溶解が容易でなく、特にDICYではその分散性の低さが課題となる他、高温での処理が必要となり別に促進剤が必要となる場合も多い。 (非特許文献2)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4826256号
【特許文献2】特開昭57-10623
【特許文献3】特開2008-156570
【特許文献4】国際公開第2005/033173号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】日本接着学会誌Vol.53 No.4(2017)
【非特許文献2】ネットワークポリマーVol.30 No.6(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
高価なシラン化合物などの補助硬化剤や他の硬化剤と併用することなく、触媒単独で高い硬化触媒活性を示し、高い保存安定性と潜在的硬化活性を有したエポキシ硬化触媒を提供すること、および、このエポキシ硬化触媒を使用し、優れた機械的物性、熱物性を有し、さらには高価なシラン化合物などを使用しないことでトータルの製造コストが低いエポキシ樹脂硬化物となりうる熱硬化性エポキシ樹脂組成物の製造法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前項記載のエポキシ硬化触媒および、これを用いたエポキシ樹脂組成物を開発することを目標として鋭意検討を重ねた結果、芳香族スルホン酸化合物が配位した金属キレートが、高価なシラン化合物などの補助硬化剤や他の硬化剤と併用することなく、触媒単独で硬化触媒活性を示し、高い保存安定性と潜在的硬化活性を有するエポキシ硬化触媒であることを見出した。さらに、このエポキシ樹脂硬化触媒を用いることで、エポキシ樹脂本来の優れた機械的物性、熱物性を有し、さらにはトータルの製造コストが低いエポキシ樹脂硬化物となりうる熱硬化性エポキシ樹脂組成物の製造法を見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち本発明のエポキシ硬化用触媒は、
(1)一般式(a)で表される芳香族スルホン酸化合物が金属原子に配位したエポキシ硬化用触媒金属キレート化合物。
(式中のnは0~5の整数。Rは特に制限されることはないが、炭素数1~20の直鎖または分岐鎖のアルキル基、アシル基、フェニル基等を示すことができる。また、nが2以上の場合、Rは必ずしも同一の構造である必要はない。)
【0012】
(2)前記金属キレートの金属原子がアルミニウム、亜鉛、チタニウムから選ばれる、(1)記載のエポキシ硬化触媒金属キレート化合物。
【0013】
(3)前述(2)記載のそれぞれの金属原子への芳香族スルホン酸化合物の平均分子配位数がアルミニウムに対しては0.2~3.0、亜鉛に対しては0.2~2.0、チタニウムに対しては0.2~4.0である(1)記載のエポキシ硬化触媒金属キレート化合物。
【0014】
(4)金属キレートの金属原子がアルミニウムである前述(1)~(3)に記載のエポキシ硬化触媒金属キレート化合物。
【0015】
(5)(1)~(4)記載のエポキシ硬化触媒金属キレート化合物を、エポキシ樹脂に対して0.1~20wt%使用する熱硬化性エポキシ樹脂組成物の製造法。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、従来エポキシ硬化触媒として使用されてきた、アミンや酸無水物などではない、金属キレート触媒であり、高価なシラン化合物などの補助硬化剤や他の硬化剤と併用しなくとも、少量の金属キレート化合物単独で高い硬化触媒活性を示し、高い保存安定性と潜在的硬化活性を有したエポキシ用硬化触媒金属キレートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に具体例を挙げて、本発明についてさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの説明により何ら限定されるものでは無い。
【0018】
本発明のエポキシ硬化用金属キレート触媒は、以下に示す一般式(a)で表される芳香族スルホン酸化合物が金属原子に配位したものである。
一般式(a)中のnは0~5の整数であり、Rは硬化活性への影響が少ないことから特に制限されることはないが、炭素数1~20のアルキル基、アルキルエーテル基、アルケニル基、フェニル基等で表される芳香族スルホン酸化合物などを示すことができる。また、nが2以上の場合、Rが全て同一である必要はない。具体例としてベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、エチルベンゼンスルホン酸、プロピルベンゼンスルホン酸、オクチルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、p-キシレン-2-スルホン酸、m-キシレン-4-スルホン酸、メシチレンスルホン酸、4-アセチルベンゼンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸等が挙げられる。一般式(a)を満たし、金属原子に配位していれば、エポキシ硬化触媒として十分に使用できる。しかし、エポキシ硬化用金属キレート触媒の分子量が小さいほど、樹脂を硬化するために最低限必要となるエポキシ硬化用金属キレート触媒の重量が少なくて済む。これに伴い硬化物に対するエポキシ樹脂の割合が高くなることで、樹脂本来の特性を維持しやすくなる。このため、nは0~2が好ましく、Rにおける炭素数は1~5がより好ましい。具体的にはベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、エチルベンゼンスルホン酸、プロピルベンゼンスルホン酸、p-キシレン-2-スルホン酸、m-キシレン-4-スルホン酸などが挙げられる。また、原料調達の観点から、安価で入手しやすいためにnは0~1、Rはアルキル基であることがさらに好ましく、具体的にはp-トルエンスルホン酸、エチルベンゼンスルホン酸などが挙げられる。
【0019】
本発明のエポキシ硬化用金属キレート触媒における金属原子は、アルミニウム、亜鉛、チタニウムが好ましく、硬化触媒活性が高く、樹脂への着色が最も少ないことからアルミニウムがより好ましい。
【0020】
前述の金属原子の原料としては、金属水酸化物、金属酸化物、金属塩、金属アルコキシ・キレート化合物などが挙げられ、後工程の簡便さから金属アルコキシ・キレート化合物がより好ましい。
【0021】
金属水酸化物の具体例としては、水酸化アルミニウム、オキシ水酸化チタニウム、水酸化亜鉛などが挙げられる。
【0022】
金属酸化物としては、酸化アルミニウムとしてベーマイト、バイヤライト、ギブサイト、γ-アルミナ、δ-アルミナ、θ-アルミナなどが好ましい。酸化チタンとしてはアナターゼ型、ルチル型、ブルッカイト型が好ましい。酸化亜鉛については限定されるものはない。
【0023】
金属塩の具体例としては塩化物塩、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩などが好ましい。具体的には、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化亜鉛、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛、炭酸、炭酸アンモニウムアルミニウム、チタンラクテートアンモニウム塩、チタンラクテートなどである。
【0024】
金属アルコキシ・キレート化合物におけるアルミニウムアルコキサイドの具体例としては、アルミニウムエトキシド、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムn-ブトキシド、アルミニウムsec-ブトキシドなどが挙げられ、アルミニウムキレートの具体例としては、環状アルミニウムオリゴマー、ジイソプロポキシ(エチルアセトアセタト)アルミニウム、トリス(エチルアセトアセタト)アルミニウムなどが挙げられる。
チタンのアルコキシ・キレート化合物の具体例としては、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラオクチルチタネート、チタンアセチルアセトネート、チタンエチルアセトアセテート、チタンオクチレングリコレートなどが挙げられる。
亜鉛アルコキシ化合物の具体例としては、亜鉛ジメトキシド、亜鉛ジエトキシドなどが挙げられる。
【0025】
本発明のエポキシ硬化触媒金属キレート化合物において、芳香族スルホン酸化合物が金属原子に配位していることが、硬化活性発現の条件であるが、芳香族スルホン酸化合物と同金属原子に配位する他の化合物としては、一般式(b)で表されるβ-ケトエステル化合物、および一般式(c)で表されるβ-ジケトン化合物、および一般式(d)で表されるアルコールなどが挙げられ、
一般式(b)で表されるβ-ケトエステル化合物は以下の通りである。
-O-CO-CH-CO-R 一般式(b)
式中R、Rは炭素数1~30のアルキル基、アルケニル基または芳香族基で表されるβ-ケトエステル化合物が好ましい。合成したエポキシ硬化用金属キレート触媒の平均分子量が小さければ、樹脂を硬化するために最低限必要なエポキシ硬化用金属キレート触媒の重量が少なくて済み、これに伴い硬化物に対するエポキシ樹脂の割合が高くなる。そのため樹脂本来の特性を維持しやすくなる。よってR、Rは炭素数1~18がより好ましい。これらは同時に入手のしやすさ、コスト面でも優れている。具体例としてはアセト酢酸エチル、アセト酢酸ブチル、アセト酢酸オクチル、アセト酢酸ラウリル、アセト酢酸ミリスチル、アセト酢酸ステアリル、アセト酢酸オレイル、プロピオニル酢酸メチル、プロピオニル酢酸エチル、イソブチリル酢酸メチル、ピバロイル酢酸メチルなどが挙げられる。特に、合成されたエポキシ硬化用金属キレート触媒が液体状となり、樹脂への混合時やその他取り扱いにおいて有利となることから、Rは炭素数14~18のアルキル基、アルケニル基であることがさらにより好ましい。具体例としてはアセト酢酸ミリスチル、アセト酢酸ステアリル、アセト酢酸オレイルなどが挙げられる。
【0026】
一般式(c)で表されるβ-ジケトン化合物は以下の通りである。
-CO-CHR-CO-R 一般式(c)
式中のR、RおよびRは水素原子または炭素数1~24のアルキル基、アルケニル基または芳香族基で表されるβ-ジケトン化合物であり、具体例としてはアセチルアセトン、ベンゾイルアセトン、ジベンゾイルメタンなどが挙げられる。合成したエポキシ硬化用金属キレート触媒の平均分子量が小さければ、樹脂を硬化するために最低限必要なエポキシ硬化用金属キレート触媒の重量が少なくて済み、これに伴い硬化物に対するエポキシ樹脂の割合が高くなる。そのため樹脂本来の特性を維持しやすくなる。よってR、RおよびRは比較的分子量の小さい、水素原子または炭素数1~5のアルキル基、アルケニル基であることがより好ましい。具体的にはアセチルアセトン、ジピバロイルメタンなどが挙げられる。
【0027】
一般式(d)で表されるアルコール化合物は以下の通りである。
HO-R 一般式(d)
式中Rは炭素数1~24のアルキル基、アルケニル基または芳香族基で表されるアルコール化合物が好ましい。炭素数が小さい場合、得られるエポキシ硬化触媒金属キレート化合物が固化しやすく樹脂への分散性も低下し取り扱いが難しくなる場合があり、炭素数が大きくなると融点が高くなりアルミニウムアルコキシドを合成することが難しくなる場合があることから、より好ましくは炭素数3~18である。具体例としてはメタノール、エタノール、n-プロパノール、2-プロパノール、n-ブタノール、イソブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、1-ヘキサノール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、ベヘニルアルコール、1-テトラコサノール、シクロヘキサノール、フェノール、クレゾール、キノリノールなどが挙げられる。さらに、合成したエポキシ硬化触媒金属キレート化合物の平均分子量が小さい場合、樹脂を硬化するために最低限必要なエポキシ硬化触媒金属キレート化合物の重量が少なくて済み、これに伴い硬化物に対するエポキシ樹脂の割合が高くなり、樹脂本来の特性を維持しやすくなる。よって、Rは炭素数3~5のアルキル基、アルケニル基であることがさらに好ましい。具体的には、n-プロパノール、2-プロパノール、n-ブタノール、イソブチルアルコールなどが挙げられる。
【0028】
各金属原子における芳香族スルホン酸化合物の平均分子配位数は、アルミニウムの場合は0.2~3.0配位、亜鉛の場合は0.2~2.0配位、チタニウムの場合は0.2~4.0配位であることが好ましい。
芳香族スルホン酸化合物の金属原子への平均分子配位数が0.2配位未満の場合は、十分な硬化活性が発現しない場合がある。また、平均分子配位数が各上限以上の構造は取りにくく、過剰分については硬化触媒として作用しないためにコスト高となる場合がある。各配位子の平均分子配位数が変化することにより硬化活性も変化するが、エポキシ樹脂の種類によって最適な平均分子配位数が変わるために固定されるものではない。
【0029】
各金属原子への一般式(b)のβ-ケトエステル化合物および一般式(c)のβ-ジケトン化合物、一般式(d)のアルコールの平均合計分子配位数は、金属原子がアルミニウムの場合は0~2.5、亜鉛の場合は0~1.5、チタニウムの場合は0~3.5であることが好ましい。一般式(b)β-ケトエステル化合物、一般式(c)β-ジケトン化合物および一般式(d)アルコールの各金属原子への平均合計分子配位数が上限以上の場合、芳香族スルホン酸化合物の割合が低くなり、硬化活性が低下する場合がある。
また、Rが炭素数14~18のアルキル基、アルケニル基である一般式(b)のβ-ケトエステル化合物の平均配位数が、金属原子がアルミニウムの場合は1.0~2.5、亜鉛の場合は1.0~1.5、チタニウムの場合は1.0~3.5とすることで、樹脂への混合が容易である液体状のエポキシ硬化触媒金属キレート化合物が得られるためより好ましい。
さらに、一般式(b)のβ-ケトエステル化合物は比較的高価であることから、コスト面より平均配位数は1.0~1.5であることがさらに好ましい。
【0030】
本発明のエポキシ硬化触媒金属キレート化合物において、芳香族スルホン酸化合物が金属原子に配位していることが、硬化活性発現の条件であるが、取り扱いのしやすさ、樹脂への混合のしやすさ、入手のしやすさ、コスト面から、中心金属原子がアルミニウムであり、一般式(a)の芳香族スルホン酸化合物の平均配位数が0.3~1.0であり、一般式(b)のRが炭素数14~18のアルキル基、アルケニル基であるβ-ケトエステル化合物の平均配位数が1.0~1.5、であることがより好ましい。
具体例としては、モノ(ミリスチルアセトアセテート)モノ(p-トルエンスルホネート)アルミニウムイソプロポキシド、モノ(オレイルアセトアセテート)モノ(p-トルエンスルホネート)アルミニウムイソプロポキシド、モノ(ステアリルアセトアセテート)モノ(p-トルエンスルホネート)アルミニウムイソプロポキシドなどが挙げられる。
【0031】
製造方法
本発明のエポキシ硬化用触媒金属キレート化合物は、例えば、金属アルコキシドを金属源とした場合、下記の方法により製造することができる。
すなわち金属アルコキシドに、設計した所定モル量の一般式(a)の芳香族スルホン酸化合物と、一般式(b)のβ-ケトエステル化合物、一般式(c)のβ-ジケトン化合物および一般式(d)のアルコールから選ばれた1種以上を、そのまま滴下、或いはこれらを適当な溶媒(例えば2-プロパノール、エタノール等)に溶解した溶液として滴下する。これを加熱することで、原料とした金属アルコキシドに配位していた一価のアルコールが生成する。生成した一価のアルコールを減圧にて留出除去することで、目的のエポキシ硬化用触媒金属キレート化合物を製造することができる。
これは、精製することなく使用でき、また、その後使用するエポキシ樹脂などに混入して問題ない場合は、生成した一価のアルコールを減圧にて留出除去せず、そのまま溶液として扱っても差し支えない。
【0032】
前述反応は反応温度60℃~200℃で行われ、より好ましくは100℃~150℃の範囲内で行うことが望ましい。60℃未満では反応の進行が遅くなるため不都合な状態を招き、200℃を超える温度では原料の沸点以上となる場合や、熱分解が生じる場合がある。
【0033】
金属源を金属アルコキシド以外とした場合も、金属に対し設計した所定モル量の一般式(a)の芳香族スルホン酸化合物と、一般式(b)のβ-ケトエステル化合物、一般式(c)のβ-ジケトン化合物および一般式(d)のアルコールを反応させることで、目的のエポキシ硬化用触媒金属キレート化合物を製造することができる。
【0034】
本発明のエポキシ硬化用触媒金属キレート化合物の具体例としては、モノアセチルアセトネートアルミニウムイソプロポキシモノ(ベンゼンスルホネート)キレート、モノアセチルアセトネートアルミニウムジ(ベンゼンスルホネート)キレート、エチルアセトアセテートアルミニウムイソプロポキシモノ(p-トルエンスルホネート)キレート、モノエチルアセトアセテートアルミニウムモノ(p-トルエンスルホネート)キレート、モノエチルアセトアセテートアルミニウムイソプロポキシモノ(ドデシルベンゼンスルホネート)キレート、ジイソプロポキシアルミニウムモノ(ドデシルベンゼンスルホネート)キレート、モノオレイルアセトアセテートアルミニウムイソプロポキシモノ(ドデシルベンゼンスルホネート)、ビスエチルアセトアセテートアルミニウムモノ(ドデシルベンゼンスルホネート)キレート、モノオレイルアセトアセテートアルミニウムモノ(ベンゼンスルホネート)キレート、モノオレイルアセトアセテートアルミニウムイソプロポキシモノ(m-キシレン-4-スルホンネート)キレート、アルミニウムトリス(p-トルエンスルホネート)キレート、アルミニウムトリス(ドデシルベンゼンスルホネート)キレートなどが挙げられる。
【0035】
本発明のエポキシ硬化用触媒金属キレート化合物が硬化触媒活性を示すエポキシ樹脂としては、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂(ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、フェノールノボラック型等)、環状脂肪族エポキシ樹脂(脂環式ジエポキシアセタール、脂環式ジエポキシアジペート等)、グリシジルエステル型エポキシ樹脂(フタル酸ジグリシジルエステル、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステル等)、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルp-アミノフェノール等)、複素環式エポキシ樹脂(ジグリシジルヒダントイン等のヒダントイン型エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレート)及びこれらエポキシ樹脂をアミンあるいはポリアミドで変性した樹脂等を挙げることができ、これらのエポキシ樹脂にはモノマーやオリゴマーも含まれる。
【0036】
硬化剤および硬化促進剤
本発明のエポキシ用硬化触媒金属キレートは、他の一般的に使用される硬化剤や硬化促進剤との併用も可能である。例えば、二官能フェノールとしてビスフェノールA、ヒドロキノン、レゾルシノール、ビスフェノールF、テトラブロモビスフェノールA、ナフタレンジオールなどが例示され、多官能フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂などが挙げられる。
【0037】
シラン化合物
本発明のエポキシ用硬化触媒金属キレートは、使用するエポキシ樹脂の種類によっては、硬化温度低減、硬化時間短縮を目的にシラン化合物を併用することも可能である。具体的には、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランなどのエポキシ系、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミン系シラン処理剤のほかp-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、トリフェニルメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシランなどである。
【0038】
本発明における熱硬化性エポキシ樹脂組成物とは、エポキシ樹脂および硬化剤が必須として存在する硬化前の混合物である。
【0039】
熱硬化性エポキシ樹脂組成物製造方法
本発明のエポキシ硬化用触媒金属キレート化合物を用いた熱硬化性エポキシ樹脂組成物は、例えば、下記の方法により製造することができる。
すなわち、前述のエポキシ樹脂に本発明のエポキシ硬化用触媒金属キレート化合物を任意量添加し、撹拌・混合することにより、目的の熱硬化性エポキシ樹脂組成物を製造することができる。
撹拌混合時の温度は、十分な撹拌・混合が可能で、概ね均一な熱硬化性エポキシ樹脂組成物が得られる温度であればよい。使用するエポキシ樹脂やエポキシ硬化用触媒金属キレート化合物により異なるが、概ね常温~80℃が好ましい。
使用するエポキシ樹脂やエポキシ硬化用触媒金属キレート化合物により異なるが、常温以下の場合、均一化が難しく混合不良となり硬化にムラが発生する場合がある。80℃以上の場合、撹拌・混合中に部分的に硬化する場合がある。
また触媒化合物が固体であったり、粘稠液体であったりする場合など、混合、分散が困難な場合には、触媒化合物を何らかの溶媒に溶解させた後、樹脂と混合し、溶媒を留去することでも樹脂組成物を製造することもできる。この際、用いる溶媒は特に制限されないが、具体例としてはエタノール、イソプロピルアルコール、トルエン、キシレン等が挙げられる。
なお、成形法によっては、熱硬化性エポキシ樹脂組成物の製造と硬化を同時に実施する場合もあるため、必ずしも前述のような撹拌混合工程を経る必要はない。
【0040】
熱硬化性エポキシ樹脂組成物におけるエポキシ用硬化触媒金属キレート化合物の配合量は、エポキシ樹脂に対して任意量で良いが、好ましくは0.1%~20%、より好ましくは1%~10%である。エポキシ硬化用触媒金属キレートが0.1%以下の場合は十分な硬化活性が得られない場合があり、20%以上の場合硬化活性は得られるが、エポキシ樹脂の比率が下がり、エポキシ樹脂特有の機械的強度等の特徴が維持しにくくなる場合がある。また、触媒のコストの比率が高くなり、コスト高となる場合がある。
【0041】
本発明のエポキシ硬化用触媒金属キレート化合物を用いて熱硬化性エポキシ樹脂組成物を製造する際の撹拌・混合する方法は、サンドミル、ビーズミル、ペイントシェーカー等の一般的な方法を用いることができる。
【0042】
本発明におけるエポキシ樹脂硬化物とは、前述熱硬化性エポキシ樹脂組成物を加熱等により硬化・成形したものである。
【0043】
成形法
本発明のエポキシ硬化用触媒金属キレート化合物を用いた熱硬化性エポキシ樹脂組成物の成形法としては、射出成形、圧縮成形、トランスファー成形、注型成形、積層成形等の一般的な方法を用いることができる。
【0044】
硬化条件
本発明のエポキシ硬化用触媒金属キレート化合物を用いた熱硬化性エポキシ樹脂組成物の硬化条件は、使用するエポキシ樹脂やエポキシ硬化用触媒金属キレート化合物により異なるが、概ね60~220℃が望ましく、さらに望ましくは100~200℃である。使用するエポキシ樹脂やエポキシ硬化用触媒金属キレート化合物により異なるが、60℃未満では硬化が不十分となり所望の硬化度が得られない場合があり、220℃を超えると熱分解する場合がある。硬化時間は、硬化温度および使用するエポキシ樹脂やエポキシ硬化用触媒金属キレート化合物により異なるが、15~300分程度であり、硬化雰囲気は空気中で十分である。硬化温度および使用するエポキシ樹脂やエポキシ硬化用触媒金属キレート化合物により異なるが、硬化時間が15分未満では硬化が不十分となり所望の硬化度が得られない場合があり、300分以上の場合、すでに十分に硬化している場合があり、過剰なエネルギーの使用となる場合がある。
【実施例0045】
次に、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
製造するにあたり使用したアルミニウムトリイソプロポキシドはAIPD(川研ファインケミカル社製)、チタンテトライソプロポキシドはA-1(日本曹達株式会社製)、その他の原料は富士フィルム和光純薬株式会社製の特級もしくは1級の試薬を使用した。
【0046】
製造例1
四ツ口フラスコにアルミニウムトリイソプロポキシド102.1g(0.5mol)を仕込み、撹拌しながらアセチルアセトン50.0g(0.5mol)を滴下した。次いでp-トルエンスルホン酸172.2g(1.0mol)を滴下した後、加熱し、反応により生成した2-プロパノールを83℃で1時間還流した。その後、反応により生成した2-プロパノールを減圧度40mmHg以下で留出除去して、白色固体のモノ(アセチルアセトネート)ビス(p-トルエンスルホネート)アルミニウム[平均構造]223.0gを得た。
【0047】
製造例2
四ツ口フラスコにアルミニウムトリイソプロポキシド102.1g(0.5mol)を仕込み、撹拌しながらアセト酢酸オレイル176.3g(0.5mol)を滴下した。次いでp-トルエンスルホン酸86.1g(0.5mol)を滴下した後、加熱し、反応により生成した2-プロパノールを83℃で1時間還流した。その後、反応により生成した2-プロパノールを減圧度40mmHg以下で留出除去して、黄色液体のモノ(オレイルアセトアセテート)モノ(p-トルエンスルホネート)アルミニウムイソプロポキシド[平均構造]289.7gを得た。
【0048】
製造例3
四ツ口フラスコにアルミニウムトリイソプロポキシド102.1g(0.5mol)を仕込み、撹拌しながらアセト酢酸オレイル176.3g(0.5mol)を滴下した。次いでp-トルエンスルホン酸43.1g(0.25mol)を滴下した後、加熱し、反応により生成した2-プロパノールを83℃で1時間還流した。その後、反応により生成した2-プロパノールを減圧度40mmHg以下で留出除去して、黄色液体のモノ(オレイルアセトアセテート)モノ(p-トルエンスルホネート)アルミニウムイソプロポキシドとモノ(オレイルアセトアセテート)アルミニウムジイソプロポキシドの混合物[平均構造]254.1gを得た。
【0049】
製造例4
製造例2のアセト酢酸オレイルをアセト酢酸ステアリル177.3g(0.5mol)に変更した以外は製造例2と同条件で試作した結果、黄褐色液体のモノ(ステアリルアセトアセテート)モノ(p-トルエンスルホネート)アルミニウムイソプロポキシド[平均構造]290.6gを得た。
【0050】
製造例5
四ツ口フラスコにアルミニウムトリイソプロポキシド102.1g(0.5mol)を仕込み、撹拌しながらアセト酢酸エチル130.1g(1.0mol)を滴下した。次いでm-キシレンスルホン酸93.1g(0.5mol)を滴下した後、加熱し、反応により生成した2-プロパノールを83℃で1時間還流した。その後、反応により生成した2-プロパノールを減圧度40mmHg以下で留出除去して、黄色固体のビス(エチルアセトアセテート)モノ(m-キシレンスルホネート)アルミニウム[平均構造]224.4gを得た。
【0051】
製造例6
製造例5のm-キシレンスルホン酸を4-アセチルベンゼンスルホン酸100.1g(0.5mol)に、アセト酢酸エチルをアセト酢酸ステアリル354.6g(1.0mol)変更した以外製造例4と同条件で合成した結果、淡黄色液体のビス(ステアリルアセトアセトネート)モノ(4-アセチルベンゼンスルホネート)アルミニウム[平均構造]444.3gを得た。
【0052】
製造例7
製造例5のm-キシレンスルホン酸を2-ナフタレンスルホン酸104.1g(0.5mol)に変更し、アセト酢酸エチルをアセト酢酸オレイル352.5g(1.0mol)に変更した以外製造例4と同条件で試作した結果、淡黄色液体のビス(オレイルアセトアセトネート)モノ(2-ナフタレンベンゼンスルホネート)アルミニウム[平均構造]446.1gを得た。
【0053】
製造例8
製造例5のm-キシレンスルホン酸をドデシルベンゼンスルホン酸163.2g(0.5mol)に変更し、アセト酢酸エチルをアセト酢酸ミリスチル298.5g(1.0mol)に変更した以外製造例4と同条件で試作した結果、淡黄色液体のビス(ミリスチルアセトアセトネート)モノ(ドデシルベンゼンスルホネート)アルミニウム[平均構造]450.9gを得た。
【0054】
製造例9
製造例2のp-トルエンスルホン酸をドデシルベンゼンスルホン酸163.2g(0.5mol)に変更した以外は製造例2と同条件で試作した結果、黄褐色液体のモノ(オレイルアセトアセテート)モノ(ドデシルベンゼンスルホネート)アルミニウムイソプロポキシド[平均構造]362.9gを得た。
【0055】
製造例10
製造例1のp-トルエンスルホン酸をドデシルベンゼンスルホン酸326.4g(1.0mol)、アセチルアセトンをアセト酢酸オレイル176.3g(0.5mol)に変更した以外は製造例1と同条件で試作を行った結果、黄色液体のモノ(オレイルアセトアセテート)ビス(ドデシルベンゼンスルホンネート)アルミニウム[平均構造]489.5gを得た。
【0056】
製造例11
製造例2のアセト酢酸オレイルをアセト酢酸ステアリル177.3g(0.5mol)に変更し、p-トルエンスルホン酸をドデシルベンゼンスルホン酸163.2g(0.5mol)に変更した以外は製造例2と同条件で試作した結果、黄褐色液体のモノ(ステアリルアセトアセテート)モノ(ドデシルベンゼンスルホネート)アルミニウムイソプロポキシド[平均構造]363.9gを得た。
【0057】
製造例12
四ツ口フラスコにアルミニウムトリイソプロポキシド102.1g(0.5mol)、オレイルアルコール268.4g(1.0mol)を仕込み1時間還流後、生成した2-プロパノールを留去させた。その後、p-トルエンスルホン酸86.1g(0.5mol)を滴下した後、加熱を行い、1時間還流した。生成した2-プロパノールを留出させ、白色固体のモノ(p-トルエンスルホネート)ジオレイルアルコキシアルミニウム[平均構造]348.2gを得た。
【0058】
製造例13
四ツ口フラスコにアルミニウムトリイソプロポキシド102.1g(0.5mol)を仕込み、撹拌しながらドデシルベンゼンスルホン酸489.7g(1.5mol)を滴下した後、加熱を行い、1時間還流した。生成した2-プロパノールを留出させ、淡黄色固体のトリス(ドデシルベンゼンスルホネート)アルミニウム[平均構造]476.6gを得た。
【0059】
製造例14
四ツ口フラスコにチタンテトライソプロポキシド142g(0.5mol)を仕込み、撹拌しながらp-トルエンスルホン酸172g(1.0mol)を滴下した後、生成した2-プロパノールを留出させ、粘稠液体のビス(p-トルエンスルホネート)ジイソプロポキシチタン[平均構造]255gを得た。
【0060】
製造例15
四ツ口フラスコにチタンテトライソプロポキシド142g(0.5mol)を仕込み、撹拌しながら2,4-ペンタンジオン100g(1.0mol)を滴下した。次いでドデシルベンゼンスルホン酸348g(1.0mol)を滴下した後、生成した2-プロパノールを留出させ、粘稠液体のビス(アセチルアセトネート)ビス(ドデシルベンゼンスルホネート)チタン[平均構造]470gを得た。
【0061】
製造例16
四ツ口フラスコに亜鉛ジメトキシド64g(0.5mol)を仕込み、加熱溶解させ、さらに、撹拌しながらドデシルベンゼンスルホン酸174g(0.5mol)を滴下した後、加熱を行い、1時間還流し、生成したメタノールを留去し褐色粘稠液体のモノ(ドデシルベンゼンスルホネート)メトキシ亜鉛[平均構造]220gを得た。
【0062】
比較製造例1
四ツ口フラスコにアルミニウムトリイソプロポキシド102.1g(0.5mol)を仕込み、撹拌しながらアセト酢酸オレイル438.9g(1.5mol)を滴下した後、加熱を行い、1時間還流した。生成した2-プロパノールを留出させ、黄色液体のトリス(オレイルアセトアセテート)アルミニウム[平均構造]428.4gを得た。
【0063】
実施例1~16及び比較例1~3
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(製品名:JER828三菱ケミカル社製)に、実施例1~16として製造例1~16に示されたエポキシ硬化用触媒金属キレート化合物、比較1として比較製造例1の金属キレート化合物を各5wt%および各10wt%添加し、室温にて自転公転ミキサー(株式会社 シンキー社製ARE-310)を用い2000rpm/1分、2200rpm/30秒の攪拌を行い、実施例1~16及び比較例1の熱硬化性エポキシ樹脂組成物を調製した。この際、固体の硬化用触媒に関しては10%トルエン溶液とすることで樹脂に溶解させた。
また、比較例2および3として、ドデシルベンゼンスルホン酸およびm-キシレンジアミンを、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(製品名:JER828三菱ケミカル社製)に対して各5wt%および各10wt%添加し、攪拌混合して比較例2および3の硬化性樹脂組成物を調製した。それぞれの実施例に用いたエポキシ硬化用触媒金属キレート化合物を表1に示す。比較例に用いた化合物を表2に示す。
【0064】
実施例
【表1】
【0065】
比較例
【表2】
【0066】
保存安定性評価
各種硬化触媒とエポキシ樹脂を混合した熱硬化性エポキシ樹脂組成物における経時的な粘度の変化を観察し、保存安定性として評価した。ビスフェノールA型エポキシ樹脂(製品名:JER828三菱ケミカル社製)に対して、実施例1~16および比較例1~3で示した硬化性樹脂組成物の、調製直後と25℃で1ヶ月経過後の粘度を測定した。この粘度測定においては、東機産業株式会社製のTVB-15を用いた。
調製直後と1ヶ月経過後(25℃保存)の粘度を比較し、粘度変化を測定した。粘度が10%以上変化すると、製品としての取り扱いが難しくなり、使用条件が限定される場合があるため、硬化剤添加量10wt%で粘度変化が10%未満を保存安定性評価が◎、硬化剤添加量5wt%で粘度変化が10%未満の場合を〇、硬化剤添加量5wt%添加で10%以上の変化および固化した場合を×とした。各評価を表3および表4に示す。
【0067】
硬化活性評価
エポキシ樹脂硬化物の硬化度は赤外分光法(FT-IR)にて分析し、硬化度を評価した。
処理前の硬化触媒を添加していないビスフェノールA型エポキシ樹脂(製品名:JER828三菱ケミカル社製)をFT-IRにて測定し、950cm-1付近のエポキシ基吸収由来のピーク面積(e)および1500cm-1付近のフェニル基由来の吸収ピーク面積(f)を測定した。次に、実施例1~16および比較例1~4で示した熱硬化性エポキシ樹脂組成物を前述の硬化条件に従い熱処理し、950cm-1付近のエポキシ基吸収由来のピーク面積(e)および1500cm-1付近のフェニル基由来の吸収ピーク面積(f)を測定した。この測定においては、日本分光株式会社製のFT-IR-4100を用いた。
これらの分析値から下記の式(e)を用い硬化度を算出した。値が大きいほど硬化活性が高いと判断できる。
硬化度(%)=[1-(e/F)/(e/F)]×100 (e)
硬化度が80%未満では、硬化後の樹脂の機械的強度が低下し、使用に耐えない場合があるため、硬化剤を5wt%の添加で硬化度が80%以上を硬化活性評価が◎、10wt%の添加で硬化度が80%以上となったものを〇、10wt%の添加で硬化度が80%未満を×と評価した。各評価を表3および表4に示す。
【0068】
実施例における保存安定性評価および硬化活性評価
【表3】
【0069】
比較例における保存安定性評価および硬化活性評価
【表4】
【0070】
実施例1~16で示した本発明のエポキシ硬化用触媒金属キレート化合物を用いた熱硬化性エポキシ樹脂組成物の保存安定性評価およびエポキシ樹脂硬化物の硬化活性評価においてすべて○または◎の評価であった。それに対して、本発明の触媒を使用していない比較例1および2は十分な硬化活性が示されなかった。また、比較例3で示されるアミン系硬化剤においては保存安定性が劣る結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
この発明の技術を用いることにより、触媒の使用量が低減し、エポキシ樹脂中に占める触媒コストを抑えられ、保存安定性に優れ、皮膚刺激性および環境負荷の小さいエポキシ硬化用金属キレート触媒を提供することができる。
一般的にエポキシ樹脂が使用される分野において制限なく使用することができ、例えば塗料、インキ、接着剤、粘着剤、電気絶縁材料等に利用することができることから、より広く産業界の発展に寄与することができる。