(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022135160
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 4/00 20060101AFI20220908BHJP
【FI】
H02P4/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021034785
(22)【出願日】2021-03-04
(71)【出願人】
【識別番号】000003115
【氏名又は名称】東洋電機製造株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304021288
【氏名又は名称】国立大学法人長岡技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100161148
【弁理士】
【氏名又は名称】福尾 誠
(72)【発明者】
【氏名】北条 善久
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 敏昌
【テーマコード(参考)】
5H501
【Fターム(参考)】
5H501AA20
5H501BB05
5H501DD01
5H501JJ03
5H501JJ04
5H501JJ25
5H501LL47
(57)【要約】
【課題】2慣性系システムの共振周波数においても振動トルクと捻じれトルクを一致させる。
【解決手段】本発明に係る制御装置10は、振動周波数ωを検出する振動周波数検出器11と、振動周波数ωと、2慣性系システムのモータ慣性・摩擦部21および機械装置慣性・摩擦部22の慣性モーメントと粘性摩擦と、捻じれ要素23部のばね定数と摩擦から、振動トルクτ
Lと捻じれトルクτ
Sの大きさを一致させる電気慣性値を演算する電気慣性値演算器12と、電気慣性値演算器12で演算された電気慣性値と、モータの出力トルクτ
Mと捻じれトルクτ
Sとの偏差に対応するモータ回転速度ω
Mと、を基に電気慣性制御を行う電気慣性制御器13と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
捻じれ要素により連結された機械装置を駆動するモータを制御する制御装置であって、
振動トルクの振動周波数を検出する振動周波数検出器と、
前記振動周波数と、前記モータおよび前記機械装置の慣性モーメントと粘性摩擦と、前記捻じれ要素のばね定数と摩擦から、前記振動トルクと捻じれトルクの大きさを一致させる電気慣性値を演算する電気慣性値演算器と、
前記電気慣性値演算器で演算された前記電気慣性値と、前記モータの出力トルクおよび前記捻じれトルクの偏差に対応する前記モータの回転速度と、を基に電気慣性制御を行う電気慣性制御器と、
を備えることを特徴とする制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータと機械装置とが捻じれ要素により連結され、機械装置をモータにより駆動する系において、モータと機械装置との間の共振による振動を抑制する制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
モータと機械装置とが捻じれ要素により連結され、機械装置をモータにより駆動する系において、モータと機械装置との間の共振による振動が問題となることがある。そこで、このような振動を抑制するための技術が検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、捻じれトルクτSを検出する検出部と、モータの出力トルクτMと捻じれトルクτSとの偏差に対応するモータ回転速度ωMと摩擦係数DM^とに基づき、摩擦トルクTMDを演算する摩擦トルクシミュレータ部と、モータ回転速度ωMと慣性係数JM^とに基づき、慣性トルクτMJを演算する慣性トルクシミュレータ部と、トルク指令τM
refと摩擦トルクτMDと慣性トルクτMJとを加算してモータの出力トルクτMとして出力する加算器を具備し、トルク指令τM
refと捻じれトルクτSとの偏差が小さくなるように摩擦係数DM^および慣性係数JM^を調整する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されている技術では、トルク指令τM
refと捻じれトルクτSとの偏差が小さくなるように摩擦係数DM^および慣性係数JM^を調整するために、トルク計などを用いて捻じれトルクτSを検出する。その場合、検出器の応答の遅れ時間が振動を抑制する制御に影響を与える。そのため、繰り返し学習などの手法により、遅れ時間を補償するための位相調整が行われている。繰り返し学習などを用いることにより、振動周波数が変化する過渡状態に対して振動を抑制する制御の性能が損なわれる問題がある。
【0006】
上記のような問題点に鑑みてなされた本発明の目的は、モータと機械装置とが捻じれ要素により連結され、機械装置をモータにより駆動する系において、モータおよび機械装置の慣性モーメントと粘性摩擦と、捻じれ要素のばね定数と摩擦のみのパラメータを用いて、捻じれ要素により連結された装置間の共振による振動の増幅を抑制することができる制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明に係る制御装置は、捻じれ要素により連結された機械装置を駆動するモータを制御する制御装置であって、振動トルクの振動周波数を検出する振動周波数検出器と、前記振動周波数と、前記モータおよび前記機械装置の慣性モーメントと粘性摩擦と、前記捻じれ要素のばね定数と摩擦から、前記振動トルクと捻じれトルクの大きさを一致させる電気慣性値を演算する電気慣性値演算器と、前記電気慣性値演算器で演算された前記電気慣性値と、前記モータの出力トルクおよび前記捻じれトルクの偏差に対応する前記モータの回転速度と、を基に電気慣性制御を行う電気慣性制御器と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る制御装置によれば、モータと機械装置とが捻じれ要素により連結され、機械装置をモータにより駆動する系において、振動周波数が変化していく過程においても逐次電気慣性値を演算することで、モータと機械装置との間の共振による振動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係る制御装置の構成例を示す図である。
【
図2】本発明の実験に用いたパラメータを示す図である。
【
図3】本発明を用いなかった場合の実験結果を示す図である。
【
図4】本発明を用いた場合の実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。
【0011】
図1は、本発明の実施形態に係る制御装置10の構成例を示す図である。本実施形態に係る制御装置10は、モータと機械装置とが連結部などの捻じれ要素により結合され、捻じれ要素を介してモータにより機械装置が駆動される系において、モータを制御対象とするものである。具体的には、本実施形態に係る制御装置10は、モータと機械装置との間の共振による振動を抑制するようにモータを制御するものである。機械装置は、例えば、自動車のエンジンで発生したエネルギーを駆動輪に伝達するトランスミッションなどの駆動伝達系(供試体)である。
【0012】
上述したようなモータと機械装置とが連結部などの捻じれ要素により結合された系は、
図1に示す2慣性系システム20に近似することができる。まず、この2慣性系システム20について説明する。2慣性系システム20は、モータ慣性・摩擦部21と、機械装置慣性・摩擦部22と、捻じれ要素部23と、を含む。
【0013】
モータ慣性・摩擦部21は、モータの機械的要素(慣性および摩擦)を示す。モータ慣性・摩擦部21の伝達関数は、1/(JMs+DM)で表される。JMはモータ慣性・摩擦部21の慣性モーメントであり、DMはモータ慣性・摩擦部21の粘性摩擦であり、sはラプラス演算子である。モータ慣性・摩擦部21は、モータの出力トルクτMと捻じれトルクτSとの偏差が入力され、その偏差に対応するモータ回転速度ωMを出力する。モータの出力トルクτMは、電磁気的要素であり、図示していないトルク制御器や速度制御器から出力される。
【0014】
機械装置慣性・摩擦部22は、機械装置の機械的要素(慣性および摩擦)を示す。機械装置慣性・摩擦部22の伝達関数は、1/(JLs+DL)で表される。JLは機械装置慣性・摩擦部22の慣性モーメントであり、DLは機械装置慣性・摩擦部22の粘性摩擦である。機械装置慣性・摩擦部22は、捻じれトルクτSと、機械装置側の負荷トルクである機械装置側負荷トルクτLとの偏差が入力され、その偏差に対応する機械装置回転速度ωLを出力する。
【0015】
捻じれ要素部23の伝達関数は、(KS/s+DS)で表される。KSはばね定数で、Dsは摩擦である。捻じれ要素部23は、モータ回転速度ωMと機械装置回転速度ωLとの偏差が入力され、捻じれトルクτSとして出力する。
【0016】
また、
図1に示す2慣性系システム20において、機械装置側負荷トルクτ
Lから捻じれトルクτ
Sまでの伝達関数は、以下の式(1)で表される。
【0017】
【0018】
式(1)において、機械装置側負荷トルクτLの振動周波数ωにおけるゲイン特性は式(2)で表され、2慣性系システム20のモータおよび機械装置の慣性モーメントと粘性摩擦と、捻じれ要素のばね定数と摩擦のみのパラメータで決定される。
【0019】
【0020】
次に、本実施形態に係る制御装置10の構成について説明する。
【0021】
図1に示す制御装置10は、振動周波数検出器11と、電気慣性値演算器12と、電気慣性制御器13と、を備える。
【0022】
振動周波数検出器11は、機械装置側負荷トルクτLに含まれる振動トルクの振動周波数ωを検出する。振動周波数検出器11の入力は、捻じれトルクτSをトルク計や加速度計を用いて検出してもよいし、モータ回転速度ωMや機械装置回転速度ωLの振動成分から検出してもよい。
【0023】
電気慣性制御器13は、モータ回転速度ωMと、電気慣性値演算器12で演算される電気慣性値Jaを入力として、電気慣性トルクτMJを出力する。
【0024】
図1の2慣性系システム20に電気慣性制御器13を付加した場合の、機械装置側負荷トルクτ
Lから捻じれトルクτ
Sまでの伝達関数は、式(3)で表される。
【0025】
【0026】
式(1)では、モータ側の慣性モーメントはJMであり、式(3)ではJM+Jaに変換される。それゆえ、式(2)に示す振動周波数ωにおいて、機械装置側負荷トルクτLのから捻じれトルクτSまでのゲイン特性は式(4)に変換される。
【0027】
【0028】
機械装置側負荷トルクτLの振幅を捻じれトルクτSの振幅と一致させるために、式(4)が1に等しくなるように電気慣性値Jaについて導出すると式(5)となる。
【0029】
【0030】
電気慣性値演算器12は、振動周波数検出器11で検出した振動周波数ωを入力し、式(5)により機械装置側負荷トルクτLと捻じれトルクτSを一致させる電気慣性値Jaを演算して、電気慣性制御器13に出力する。
【0031】
これにより、2慣性系システム20の持つ共振周波数を有する振動トルクが機械装置側負荷トルクτLとして入力された場合においても、ゲイン増幅せずにゲインを1に維持することができる。
【0032】
本発明の効果を
図2、
図3、
図4を用いて説明する。
図2は実験に用いたモータ慣性・摩擦部21、機械装置慣性・摩擦部22、捻じれ要素部23の各パラメータを示している。機械装置側負荷トルクτ
Lの振動トルクの振幅は、±1Nmを入力している。
【0033】
図3は、電気慣性値演算器12および電気慣性制御器13を用いない場合の、機械装置側負荷トルクτ
Lの振動周波数ωに対する捻じれトルクτ
Sの振幅および位相を示している。
【0034】
共振周波数ωnに近づくほど捻じれトルクτSの振幅は大きくなり、共振周波数ωnにおいては機械装置側負荷トルクτLの入力に対して2.5倍以上の振幅となっている。
【0035】
また、共振周波数ωnに近づくほど捻じれトルクτSの位相遅れが大きくなり、共振周波数ωnを超過した領域では位相が反転している。
【0036】
図4は、電気慣性値演算器12および電気慣性制御器13を用いた場合の、機械装置側負荷トルクτ
Lの振動周波数ωに対する捻じれトルクτ
Sの振幅および位相を示している。
【0037】
共振周波数ωn付近においても、機械装置側負荷トルクτLの振幅と捻じれトルクτSの振幅は、一致している。
【0038】
また、共振周波数ωn付近においても、機械装置側負荷トルクτLに対する捻じれトルクτSの位相遅れは抑制されている。
【0039】
この場合において、電気慣性値J
aは
図4に示すように正の値から負の値へと変化しており、振動周波数ωに対して共振現象が発生しないように演算されている。
【0040】
上述により、電気慣性値演算器12および電気慣性制御器13を用いることで、2慣性系システム20の持つ共振周波数付近においても機械装置側負荷トルクτLと捻じれトルクτSの振幅および位相を一致させることが出来る。
【0041】
上述の実施形態は代表的な例として説明したが、本発明の趣旨および範囲内で、多くの変更および置換が可能であることは当業者に明らかである。したがって、本発明は、上述の実施形態によって制限するものと解するべきではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形および変更が可能である。
【符号の説明】
【0042】
10 制御装置
11 振動周波数検出器
12 電気慣性値演算器
13 電気慣性制御器
20 2慣性系システム
21 モータ慣性・摩擦部
22 機械装置慣性・摩擦部
23 捻じれ要素部