(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022135257
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】合成樹脂エマルションとこれを含有する水性塗料組成物及び当該水性塗料組成物を使用した塗装方法
(51)【国際特許分類】
C09D 133/04 20060101AFI20220908BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
C09D133/04
C09D5/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021034946
(22)【出願日】2021-03-05
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 別紙証明書リスト(販売実績リスト)参照
(71)【出願人】
【識別番号】000251277
【氏名又は名称】スズカファイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136113
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寿浩
(72)【発明者】
【氏名】梅村 尚史
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 昭範
(72)【発明者】
【氏名】中西 功
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CG012
4J038CG131
4J038GA07
4J038GA15
4J038KA08
4J038KA09
4J038MA10
4J038PB05
4J038PC08
(57)【要約】 (修正有)
【課題】被塗装物に含有される可塑剤の塗膜中への移行を抑制でき、容易に製造可能な水性塗料組成物用の合成樹脂エマルションを提供する。
【解決手段】水性塗料組成物用の合成樹脂エマルションであって、合成樹脂が、(A)エチルアクリレート40~90重量%と、(B)カルボキシル基含有ビニル系酸モノマー1~5重量%と、(C)エポキシ基又はアルコキシシリル基含有ビニル系モノマー0.5~5重量%と、を含有する重合体である。これを使用した水性塗料組成物用によれば、可塑剤の移行による軟化及び粘着の発生を防止できる塗膜を形成可能である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性塗料組成物用の合成樹脂エマルションであって、
前記合成樹脂が、
(A)エチルアクリレート40~90重量%と、
(B)カルボキシル基含有ビニル系酸モノマー1~5重量%と、
(C)エポキシ基又はアルコキシシリル基含有ビニル系モノマー0.5~5重量%と、
を含有する重合体である、合成樹脂エマルション。
【請求項2】
請求項1に記載の合成樹脂エマルションを含有する、水性塗料組成物。
【請求項3】
可塑剤を含有する材料からなる製品又は被膜の表面に、
請求項2に記載の水性塗料組成物を塗布する、塗装方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種シーリング材や塩化ビニル被膜等に含有される可塑剤の塗膜中への移行を抑制できる合成樹脂エマルションと、これを含有する水性塗料組成物、及び当該水性塗料組成物を各種シーリング材や塩化ビニル被膜等の表面に塗装して、可塑剤による塗膜の軟化及び粘着の発生を防止できる塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
可塑剤を含有する各種シーリング材、塩化ビニル製品、塩化ビニル被覆鋼板、及び塩化ビニル壁紙等に対して、美装、保護、又は各種機能性付与等を目的として、これらの製品や被膜の表面に塗料を塗装や重ね塗りして塗膜を形成することがある。この場合、被塗装物(可塑剤含有製品)や下塗り被膜(可塑剤含有被膜)中の可塑剤が塗膜に移行して、塗膜中の樹脂を可塑化する可能性がある。その場合、塗膜の軟化及び粘着が発生し、塗膜の剥がれや汚染の原因となる。
【0003】
なお、可塑剤とは、そのままでは脆くて変形や加工が困難な樹脂に対して、軟化時の流動性、硬化時の柔軟性、たわみ性を向上させ、成形を容易にするために加える添加物を言う。例えばポリ塩化ビニルには、可塑剤としてフタル酸ジブチル(DBP)、フタル酸ジオクチル(DOP)、又はリン酸トリクレシル(TCP)等が使われる。
【0004】
このため、可塑剤を含有する材料の表面に対して、エポキシ樹脂/アミン硬化剤系の2液型組成物からなる特定の水性プライマーを表面に塗装することによって、可塑剤の滲みだしを防止するのに適するプライマー塗膜を形成する方法が提案されている(特許文献1)。
【0005】
他に、A成分として(a)メチルメタクリレート、(b)片末端に(メタ)アクリロイル基を有するシリコーンマクロモノマー、(c)ヒドロキシル基を有するエチレン性不飽和単量体、(d) ケト基又はアルデヒド基に由来するカルボニル基を有するエチレン性不飽和単量体及び(e)メチルメタクリレート以外のエチレン性不飽和単量体をそれぞれ特定量共重合して得られる(メタ)アクリル系共重合体樹脂の水性エマルション、並びに、B成分として1分子当たり少なくとも2つのヒドラジノ基を有するヒドラジン誘導体の特定量からなる水性表面処理剤組成物が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-247070号公報
【特許文献2】特開2012-56978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の塗料は二液型であるため、調合比やポットライフ等の厳密な管理が必要であり、作業が非効率的となる課題がある。
【0008】
特許文献2の技術は、樹脂製シートに添加されている可塑剤が塗膜にブリードして、ベタツキや汚れ付着の原因となることを防止する一液架橋型水性塗料組成物に関するものである。しかし、当該技術は、塗料組成物の製造時に架橋を形成するものではなく、塗料組成物を塗布後に皮膜化する過程で架橋を形成するため、短時間で架橋反応が進行せずに架橋効率が悪い。そのため、これを補うために過剰量の架橋性モノマー及び架橋剤を必要とする課題がある。
【0009】
そこで、本発明は上記課題を解決するものであって、被塗装物に含有される可塑剤の塗膜中への移行を抑制でき、容易に製造可能な合成樹脂エマルションと、これを含有する水性塗料組成物、及び当該水性塗料組成物によって軟化及び粘着の発生を防止できる塗膜を形成可能な塗装方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そのための手段として、本発明は、水性塗料組成物用の合成樹脂エマルションであって、前記合成樹脂が、(A)エチルアクリレート40~90重量%と、(B)カルボキシル基含有ビニル系酸モノマー1~5重量%と、(C)エポキシ基又はアルコキシシリル基含有ビニル系モノマー0.5~5重量%と、を含有する重合体であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明によれば、上記合成樹脂エマルションを含有する水性塗料組成物、及び可塑剤を含有する材料からなる製品又は被膜の表面に、当該水性塗料組成物を塗布する塗装方法を提供することもできる。
【0012】
なお、本発明において数値範囲を示す「○○~××」とは、特に明示しない限り「○○以上××以下」を意味する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の合成樹脂エマルションは、エチルアクリレート(EA)を主成分としている。ここで、従来のアクリル樹脂系建築塗料用樹脂では、一般的に耐水性が良好な(メタ)アクリル酸エステルがモノマーとして常用されている。なお、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸又はメタクリル酸を意味する。その代表的なものとして、メチルメタクリレート、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート等が挙げられる。このため、これらよりも親水性が高いため耐水性が劣るエチルアクリレートは、建築塗料用樹脂のモノマーとして使用されることは殆ど無かった。
【0014】
しかしながら、エチルアクリレート等の親水性モノマーを主成分とする樹脂は、建築塗料用として常用される汎用的な(メタ)アクリル酸エステルを主成分とする樹脂に比べ、フタル酸エステルを代表とする可塑剤の影響を受けにくい。本発明は、この性質を利用した、エチルアクリレートを主成分とする従来にない新規な塗料用の合成樹脂エマルションである。これにより、各種シーリング材、塩化ビニル製品、塩化ビニル被覆鋼板、塩化ビニル壁紙等の可塑剤含有製品や被膜から、可塑剤が塗膜中へ移行するのを抑制し、塗膜の軟化及び粘着の発生を抑制することができる。
【0015】
一方で、本発明においては、エチルアクリレートに由来する塗膜の耐水性の低下を補うために、エチルアクリレートを架橋する架橋性官能基含有ビニル系モノマーを配合している。これにより、エチルアクリレートを主成分とする樹脂の乳化重合時に、架橋性官能基含有ビニル系モノマーを共重合し、当該樹脂を予めエマルション粒子内で容易に架橋できる。これにより、エチルアクリレートを主成分としても、良好な耐水性を確保しながら可塑剤が塗膜中に移行することを抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(合成樹脂エマルション)
本発明の水性塗料組成物に用いる合成樹脂エマルションは、合成樹脂(以下、単に樹脂と略すことがある)中に少なくとも(A)エチルアクリレートと、架橋性官能基を有するビニル系モノマー(B)・(C)とを含有するビニル系共重合体であり、水を分散媒体とする乳化重合によって得られ、公知の製造方法によって製造することができる。
【0017】
樹脂中の(A)エチルアクリレートのモノマーとしての含有量は40~90重量%、好ましくは55~75重量%である。(A)エチルアクリレートの含有量が40重量%未満の場合は、耐可塑剤性が不十分となり、塗膜の軟化及び粘着が発生しやすくなる。一方、(A)エチルアクリレートの含有量が90重量%を超える場合は塗膜の耐水性低下が著しくなるため、実用的ではない。
【0018】
本発明による樹脂の架橋構造は、当該合成樹脂エマルションの乳化重合時に形成できる。そのための架橋性官能基を有するビニル系モノマーとして、(B)カルボキシル基含有ビニル系酸モノマーと、(C)エポキシ基又はアルコキシシリル基含有ビニル系モノマーを含有する。合成樹脂エマルションの乳化重合時に、樹脂の分子内架橋及び/又は分子間架橋を確実にするものとして、具体的には(B)カルボキシル基含有ビニル系酸モノマーと(C)エポキシ基含有ビニル系モノマーとによる架橋形成、又は、(C)アルコキシシリル基含有ビニル系モノマーの縮合による架橋形成が挙げられ、これらを併用することも可能である。
【0019】
(B)カルボキシル基含有ビニル系酸モノマーと(C)エポキシ基含有ビニル系モノマーとにより樹脂架橋を形成する場合は、両者を含むビニル系モノマー成分を乳化重合法により共重合し、同時に酸-エポキシ架橋反応を進行させる公知の製造方法が利用できる。
【0020】
(B)カルボキシル基含有ビニル系酸モノマーとしては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などのモノカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などの不飽和ジカルボン酸や、それらの無水物;マレイン酸メチル、イタコン酸メチルなどの不飽和ジカルボン酸のモノエステルなどを挙げることができる。中でも、メタクリル酸やアクリル酸が汎用的で好ましい。これら(B)成分は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0021】
樹脂中の(B)カルボキシル基含有ビニル系酸モノマーの含有量は、1~5重量%、好ましくは2~4重量%である。当該(B)成分の含有量が1重量%未満の場合は、(C)エポキシ基含有ビニル系モノマーとの架橋形成が少なくなり、塗膜の耐水性が不十分となる。一方、5重量%を超える場合も塗膜の耐水性が不十分となる。
【0022】
(C)エポキシ基含有ビニル系モノマーは、重合性不飽和基を1個以上有するC3~30のエポキシドである。(C)エポキシ基含有ビニル系モノマーとしては、例えばグリシジル(メタ)アクリレートやβ-メチルグリシジル(メタ)アクリレート等の炭素数6~20のグリシジル基含有(メタ)アクリレート;4-ビニル-1,2-エポキシシクロヘキサンや5-ビニル-2,3-エポキシノルボルナン等の炭素数6~20の脂環式エポキシ基含有ビニル系モノマー;N-(4-(2,3-エポキシプロポキシ)-3,5-ジメチルフェニルメチル)アクリルアミド等の炭素数6~20のグリシジル基含有アクリルアミド等が挙げられる。これらの内、(B)カルボキシル基含有ビニル系酸モノマーとの重合性の観点から好ましいのはグリシジル(メタ)アクリレートである。これら(C)エポキシ基含有ビニル系モノマーは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0023】
(C)アルコキシシリル基含有ビニル系モノマーにより樹脂架橋を形成する場合は、(C)アルコキシシリル基含有ビニル系モノマーを乳化重合法により樹脂骨格中に共重合し、更にアルコキシシリル基の加水分解により生成するシラノール基の脱水縮合反応を進行させる公知の製造方法が利用できる。
【0024】
(C)アルコキシシリル基含有ビニル系モノマーのシリル基としては、架橋密度が高くなることからトリアルコキシシリル基又はジアルコキシシリル基が好ましい。このような(C)アルコキシシリル基含有ビニル系モノマーとしては、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。これら(C)アルコキシシリル基含有ビニル系モノマーは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0025】
樹脂中の(C)成分の含有量は0.5~5重量%、好ましくは1~3重量%である。(C)成分の含有量が0.5重量%未満の場合は、塗膜の耐水性が不十分となる。一方(C)成分の含有量が5重量%を超える場合は、合成樹脂エマルションの重合安定性が低下するため、水性塗料組成物の調整が困難となる。
【0026】
本発明による樹脂の架橋構造は、合成樹脂エマルションの乳化重合時に形成するが、水性塗料組成物の調製時又は使用前に、硬化剤若しくは架橋剤を添加することで補助的に形成することもできる。このような架橋システムとしては、カルボニル基とヒドラジド基、水酸基とイソシアネート基、エポキシ基とアミノ基、エポキシ基とカルボキシル基、アルコキシシリル基、カルボキシル基とカルボジイミド基、カルボキシル基と多価金属イオン、カルボキシル基とアジリジン等を利用でき、更にこれらを組み合わせることもできる。
【0027】
また、本発明の合成樹脂エマルションの樹脂中には、この種の水性塗料組成物用合成樹脂エマルションに従来から使用されている、上記(A)~(C)成分以外のその他のビニル系共重合モノマーを併用してもよい。代表的には、(メタ)アクリル酸エステルを挙げることができる。アクリル酸エステルとしては、メチルアクリレート、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、アクリロニトリル、アクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリレートを挙げることができる。メタクリル酸エステルとしては、メチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、メタクリロニトリル、メタクリルアミド、ヒドロキシエチルメタクリレートを挙げることができる。なかでも、好ましくはメチルメタクリレート、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレートである。これらその他のビニル系共重合モノマーも、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0028】
(水性塗料組成物)
上記合成樹脂エマルションを使用して、水性塗料組成物を調整する。水性塗料組成物における合成樹脂エマルションの含有量は、固形分換算で10重量%以上が好ましく、15重量%以上がより好ましい。合成樹脂エマルションの含有量が10重量%未満であると、耐可塑剤性が有効に機能する塗膜が得られにくくなる。なお、合成樹脂エマルション単独で水性塗料組成物とすることもできるため、水性塗料組成物における合成樹脂エマルションの含有量の上限は特に限定されない(エマルション100重量%でもよい)。一般的な合成樹脂エマルションでは、安定な状態を保つため、合成樹脂エマルション中の固形分量は60重量%を上限として調整されることが多い。したがって、水性塗料組成物における合成樹脂エマルションの固形分換算含有量は、60重量%以下が好ましく、他の添加剤を配合する自由度から、55重量%以下がより好ましい。なお、水性塗料組成物中には、合成樹脂エマルション1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0029】
本発明の水性塗料組成物には、耐候性や被塗物との付着性等の改質を目的として、従来から公知の合成樹脂エマルションを、本発明の効果を阻害しない範囲で、特に制限無く広く混用することもできる。具体的には、アクリル樹脂エマルション、アクリル/スチレン共重合樹脂エマルション、アクリルシリコン樹脂エマルション、ふっ素樹脂複合アクリル樹脂エマルション、ウレタン樹脂エマルション、酢酸ビニル/エチレン共重合樹脂エマルションなどを例示できる。又、これらは自己架橋形のものであってもよく、硬化剤によって硬化する公知の反応硬化形のものであってもよい。
【0030】
水性塗料組成物は、塗膜に厚みを持たせ、隠ぺい性と着色性を付与するため、塗料の分散安定性を低下させない範囲で、顔料を配合することができる。この場合、顔料の含有量は、合成樹脂エマルションの固形分100重量部に対して、600重量部以下が好ましく、450重量部以下がより好ましく、300重量部以下が更に好ましい。合成樹脂エマルションの固形分100重量部に対して、顔料の含有量が600重量部を超えると、塗料の分散安定性が低下して製造が困難になり、又、耐可塑剤性が不十分となる。
【0031】
顔料は体質顔料と着色顔料に区分できる。体質顔料としては、例えば、炭酸カルシウム、沈降性硫酸バリウム、タルク、クレー、珪藻土、マイカ等を挙げることができる。着色顔料としては、例えば、酸化チタン、赤色酸化鉄、黄色酸化鉄、カーボンブラック、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、アントラキノン系顔料、キナクリドン系顔料、インジゴ系顔料、ジオキサジン系顔料、ペリレン系顔料、イソインドリノン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料等を挙げることができる。
【0032】
水性塗料組成物には、上記成分以外にも、貯蔵安定性、塗装作業性、仕上り性、耐候性などの機能付与及び向上を目的として、本発明の効果を阻害しない範囲で各種添加剤を配合することも可能である。具体的には、分散剤、増粘剤、造膜助剤、消泡剤、防腐剤、防かび剤、防藻剤、凍結防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤等を挙げることができる。
【0033】
(塗装方法)
水性塗料組成物は、可塑剤を含有する被塗物、すなわち可塑剤を含有する材料からなる製品又は被膜の表面に塗装し、塗膜を形成する。これにより形成された塗膜は、塗膜の軟化及び粘着の発生を防ぐことができ、且つ、それらを原因とする塗膜の剥がれや汚染も防止される。そのため、本発明の水性塗料組成物により形成した塗膜を最表面塗膜としてもよいし、当該塗膜の表面にカラーリングや保護目的等の別種上塗り塗料をさらに重ね塗りすることもできる。特に、本発明の水性塗料組成物により形成された塗膜は耐可塑剤性が特徴なので、上塗り塗料を重ね塗りした場合に効果が顕著である。
【0034】
水性塗料組成物の塗装方法は特に制限されず、スプレー塗装、ローラー塗装、バーコート、鏝塗り、ヘラ塗りなど、従来から公知の方法で行えばよい。
【0035】
塗装対象として具体的には、可塑剤を含有する各種シーリング材、塩化ビニル製品、塩化ビニル被覆鋼板、塩化ビニル壁紙等の他、可塑剤を含有する塗料が下塗りされた建築物等を挙げることができる。建築物への塗装箇所としては、例えば、外壁、基礎部、軒天、内壁、天井、床などを挙げることができる。
【実施例0036】
以下に、本発明を具体化した実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0037】
≪合成樹脂エマルションの調製≫
実施例に使用した合成樹脂エマルションのモノマー成分の種類と量(重量%)、及び重合安定性を表1に、比較例に使用した合成樹脂エマルションのモノマー成分の種類と量(重量%)、及び重合安定性を表2に、それぞれ示す。これらの各合成樹脂エマルションは、水を分散媒体とする乳化重合法により各種モノマーを共重合し、同時に酸-エポキシ架橋反応を進行させる公知の製造方法により調製した。全てにおいて、固形分は45重量%となるように調整した。これらの具体的な手順を以下に示す。
【0038】
(実施例1-1)
エチルアクリレート(EA)40.0部、メチルメタクリレート(MMA)33.0部、n-ブチルアクリレート(n-BA)25.5部、メタクリル酸(MAA)1.0部、グリシジルメタクリレート(GMA)0.5部からなる単量体成分(総量100部)に、アニオン乳化剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム(固形分25%)を2部、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩(固形分30%)を8.3部と、イオン交換水28部を混合して乳化し、単量体混合物の乳化物を調整した。次に、温度計、撹拌機、滴下装置、還流冷却管を備えた反応装置に、イオン交換水59部、及びポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム(固形分25%)を0.3部秤量し、内温を85℃まで昇温した。その温度に保ちながら、20%濃度の過硫酸アンモニウム水溶液を1部添加し、直ちに先に調整した単量体混合物の乳化物を連続的に3時間滴下して乳化重合した。またこれと並行して5%濃度の過硫酸アンモニウム水溶液5部を滴下した。滴下終了後85℃で2時間熟成し、室温まで冷却した後、アンモニア水を添加して中和した。その後イオン交換水を添加して濃度を調整し、固形分約45重量%、pH約8のアクリル酸エステル共重合体のエマルションを得た。
【0039】
(実施例1-2~1-9及び比較例1-10~1-15)
上記実施例1-1の単量体成分を、表1に示す実施例1-2~1-9、及び、表2に示す比較例1-10~1-15に変更した以外は、実施例1-1と同様に調製し、アクリル酸エステル共重合体のエマルションを得た。
【0040】
なお、表1、表2における各モノマー成分は、次の通りである。
EA:エチルアクリレート
MAA:メタクリル酸
AA:アクリル酸
GMA:グリシジルメタクリレート
MPTMS:3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン
MMA:メチルメタクリレート
n-BA:n-ブチルアクリレート
2-EHA:2-エチルヘキシルアクリレート
【0041】
<重合安定性>
合成樹脂エマルションの調製時における安定性を、以下の基準で評価した。
◎:あまり増粘しておらず、且つエマルション粒子の凝集も生じておらず、好適に使用可能である。
○:やや粘度が高いものの、エマルション粒子の凝集物は生じておらず、使用可能である。
×:エマルション粒子の凝集物の発生、又は、著しい増粘を生じ、使用できない。
【0042】
【0043】
【0044】
表1の結果から、(A)~(C)成分を適量混合した実施例1-1~1-9は、安定な合成樹脂エマルションを調製することができた。一方、表2の結果から、(C)成分の含有量が7重量%であり、(A)成分の含有量が90重量%を超える比較例1-14は、エマルション粒子の凝集物の発生が著しかったため、水性塗料組成物の調製に使用することができなかった。また、比較例1-15は、増粘が著しかったことにより、水性塗料組成物の調製から除外した。
【0045】
≪水性塗料組成物の調製≫
上記試験により得られた各実施例及び比較例用の合成樹脂エマルションを使用して(比較例1-14、1-15は使用できず)、表3に示す材料を表3に示す配合量(重量%)で、容器に順次添加しながら撹拌機により混合し、実施例及び比較例の水性塗料組成物を調製した。表3中の、樹脂分100部に対する顔料重量部は、樹脂分100重量部に対する顔料分の合計重量部である。
【0046】
なお、表3に示す各材料としては、次のものを使用した。
顔料分散剤:ポイズ530(花王株式会社製)
造膜助剤:テキサノール(イーストマン ケミカル ジャパン株式会社製)
消泡剤:BYK021(BYK-Chemie GmbH製)
白色顔料:酸化チタンであるJR-600A(テイカ株式会社製)
体質顔料:炭酸カルシウムであるNS#400(日東粉化工業株式会社製)
増粘剤:アデカノールUH-472(株式会社ADEKA製)
【0047】
得られた各塗膜の物性も表3に示す。これらは次のように評価した。
<試験体作製方法>
(耐可塑剤性)
JIS A 5430に規定する厚さ4mmのフレキシブル板に、可塑剤を含有するシーリング材であるSRシールS70(サンライズ株式会社製)を、ヘラ塗りにより厚み約5mmで平坦に塗布し、23℃で3日間乾燥した。次に、その上に各実施例及び各比較例の塗料組成物を、刷毛塗りにより0.3kg/m2塗布し、23℃で16時間乾燥した。そして、その半面だけに、上塗としてつや有合成樹脂エマルションペイントであるラフトンEMエナメル(スズカファイン株式会社製)を、スプレー塗りにより2回塗布し(0.15kg/m2/回、塗装間隔4時間)、23℃で7日間乾燥したものを試験体とした。
【0048】
(耐水性)
JIS A 5430に規定する厚さ4mmのフレキシブル板に、各実施例及び各比較例の塗料組成物を、刷毛塗りにより0.3kg/m2塗布し、23℃で16時間乾燥した。次に、これらの上にラフトンEMエナメルをスプレー塗りにより2回塗布し(0.15kg/m2/回、塗装間隔4時間)、24時間乾燥した。最後に、裏面及び周辺を刷毛塗りによりラフトンEMエナメルで2回塗り包み、23℃で14日間乾燥したものを試験体とした。
【0049】
<評価方法>
(耐可塑剤性)
試験体を50℃で7日間静置した後、23℃で24時間静置し、指触による塗膜の粘着性の程度から、上塗が無い面と上塗が有る面にて、耐可塑剤性を以下の基準で評価した。
◎:塗膜表面に指先を押し付けても、ほとんど粘着しない。
○:塗膜表面に指先を押し付けると、弱く粘着するが、指先を瞬時に引き離すことができる。
△:塗膜表面に指先を押し付けると、粘着して、指先を容易に引き離せない。
×:塗膜表面に指先を押し付けると、強く粘着して、指先を引き離すには力が必要。
【0050】
(耐水性)
試験体を、23℃で脱イオン水に96時間浸漬し、目視により耐水性を以下の基準で評価した。
○:塗膜に膨れが生じない。
×:塗膜に膨れが生じる。
【0051】
【0052】
表3の結果から、本発明が規定する条件を満たす実施例2-1~2-11では、耐可塑剤性、耐水性、及び抗張力が全て良好な結果であった。一方、(C)成分を含有していない非架橋形の合成樹脂エマルションを用いた比較例2-1は、上塗り塗膜に強い粘着を生じて耐可塑剤性が不足しており、更に、耐水性が不足していた。(A)成分の含有量が少な過ぎる合成樹脂エマルションを用いた比較例2-2と比較例2-3は、耐水性は許容範囲であるが、耐可塑剤性が不足していた。(B)成分を多量に含有する合成樹脂エマルションを用いた比較例2-4は、耐可塑剤性は良好であったが、その反面耐水性が不足していた。