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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022135260
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】無機粒子複合繊維シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 15/12 20060101AFI20220908BHJP
   D21H 17/70 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
D21H15/12
D21H17/70
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021034953
(22)【出願日】2021-03-05
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100126985
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 充利
(74)【代理人】
【識別番号】100141265
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 有紀
(74)【代理人】
【識別番号】100129311
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 規之
(72)【発明者】
【氏名】渕瀬 萌
(72)【発明者】
【氏名】松本 寛人
(72)【発明者】
【氏名】大川 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】工藤 まどか
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055AA02
4L055AA03
4L055AC06
4L055AF09
4L055AF47
4L055AG04
4L055AG08
4L055AG16
4L055AG56
4L055AH01
4L055AH16
4L055AH18
4L055AH50
4L055BD12
4L055EA17
4L055EA30
4L055EA32
4L055EA40
4L055FA30
(57)【要約】      (修正有)
【課題】優れた無機粒子複合繊維シートの製造方法を提供する。
【解決手段】繊維を含むスラリー中で無機粒子を合成し、前記繊維と前記無機粒子との複合繊維を生成する工程と、前記複合繊維を含む複合繊維含有スラリーに電解質化合物または高分子化合物を添加して紙料スラリーを調整する工程と、紙料スラリーをシート化する工程と、を備える。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維を含むスラリー中で無機粒子を合成し、前記繊維と前記無機粒子との複合繊維を得る工程と、
前記複合繊維を含む複合繊維含有スラリーに電解質化合物または高分子化合物を添加して紙料スラリーを調整する工程と、
紙料スラリーをシート化する工程と、
を含む、無機粒子複合繊維シートの製造方法。
【請求項2】
前記繊維が、セルロース繊維である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電解質化合物または高分子化合物が、紙力剤および/または歩留剤である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記試料調整工程において、離解した後のスラリーに対して電解質化合物または高分子化合物を添加する、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
電解質化合物または高分子化合物の分子量が700万以上である、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
紙料の歩留りが50%以上である、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記複合繊維表面の50%以上が無機粒子によって被覆されている、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機粒子と繊維の複合繊維を含むシートの製法に関する。
【背景技術】
【0002】
水に分散されたセルロース繊維等の繊維が含まれるシートを大量生産するために、連続抄紙機が使用される。例えば、特許文献1には、連続抄紙機を用いて平均繊維径1~1000nmの微細繊維を含有するシートを製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-96026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
製造するシートに機能性を付与する等、シートの用途によっては機能をもった無機粒子を繊維に混合して連続抄紙によって抄紙することがある。より高い機能を発揮させるためには、無機粒子を多く含ませることが必要となる。
【0005】
しかし、小さな無機粒子は抄紙機の網の目から流れ落ちやすく、多く配合することに限度がある。
無機粒子の歩留りを高める策として、パルプの叩解強化が挙げられるが、パルプを叩解すると濾水度が低下するため、抄紙中のシートの脱水性が低下する。そのため、脱水に時間を要するため、特に高坪量のシートを抄紙する際は低速抄紙とせざるを得ず、操業性が低下する。
【0006】
無機粒子を高配合する手段として、繊維表面に無機粒子を付着させる技術がある。例えば、セルロース繊維などの繊維上に無機粒子を析出させる技術について、米国特許第5679220号には、パルプ懸濁液中で炭酸ガス法により炭酸カルシウムを析出させることによって、パルプと炭酸カルシウムの複合繊維を製造する技術が記載されている。
【0007】
ところが、このような複合繊維を抄紙機などでシート化すると、無機粒子(無機分、灰分)の歩留を高くできる可能性が高くなるが、抄紙時の条件によっては繊維表面に定着した無機粒子を脱離させることになり、複合化したメリットがなくなることがあった。
【0008】
以上のような状況を踏まえて、本発明の課題は、無機粒子と繊維の複合繊維を含むシートを歩留よく製造する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、これに制限されるものでないが、以下の発明を包含する。
[1] 繊維を含むスラリー中で無機粒子を合成し、前記繊維と前記無機粒子との複合繊維を得る工程と、前記複合繊維を含む複合繊維含有スラリーに電解質化合物または高分子化合物を添加して紙料スラリーを調整する工程と、紙料スラリーをシート化する工程と、を含む、無機粒子複合繊維シートの製造方法。
[2] 前記繊維が、セルロース繊維である、[1]に記載の方法。
[3] 前記電解質化合物または高分子化合物が、紙力剤および/または歩留剤である、[1]または[2]に記載の方法。
[4] 前記試料調整工程において、離解した後のスラリーに対して電解質化合物または高分子化合物を添加する、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5] 電解質化合物または高分子化合物の分子量が700万以上である、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6] 紙料の歩留りが50%以上である、[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7] 前記複合繊維表面の50%以上が無機粒子によって被覆されている、[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、繊維表面が多くの無機粒子で強く結着された複合繊維からなるシートを効率よく高歩留で得ることができる。
本発明に係る複合繊維は、従来の繊維と異なり、予め無機粒子と強く結着しているため、脱水やシート化などにおいて無機粒子が脱落しにくく、後工程での無機粒子の歩留りに優れている。本発明によれば、この複合繊維をシート化する際に繊維表面から無機物が脱離する現象を抑制し、効率よく無機分含有率が高いシートを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実験1で合成した複合繊維の電子顕微鏡写真である(サンプルA、3000倍)。
図2】実験1で合成した複合繊維の電子顕微鏡写真である(サンプルB、3000倍)。
図3】実験1で合成した複合繊維の電子顕微鏡写真である(サンプルC、3000倍)。
図4】実験1で合成した複合繊維の電子顕微鏡写真である(サンプルD、3000倍)。
図5】実験3で製造したシートの電子顕微鏡写真である(サンプル2-1、500倍)。
図6】実験3で製造したシートの電子顕微鏡写真である(サンプル2-2、500倍)。
図7】実験3で製造したシートの電子顕微鏡写真である(サンプル2-3、500倍)。
図8】実験3で製造したシートの電子顕微鏡写真である(サンプル2-4、500倍)。
図9】実験6で製造したシートの電子顕微鏡写真である(サンプル5-1、500倍)。
図10】実験6で製造したシートの電子顕微鏡写真である(サンプル5-2、500倍)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明においては、後述する複合繊維から様々なシートを歩留良く製造することが可能であるが、複合繊維を含有するスラリーに電解質化合物または高分子化合物を添加して紙料スラリーを調整する。
【0013】
本発明において、電解質化合物とは溶媒中に溶解した際に陽イオンと陰イオンに電離する物質のことを意味し、高分子化合物とは小さい分子の多数回の繰り返しで構成された構造を有する分子量が大きい分子のことを意味する。本発明においては、填料の繊維への定着を促したり、填料や繊維の歩留を向上させたりするために、電解質化合物や高分子化合物を使用することができ、例えば、歩留剤(歩留向上剤)や紙力剤(紙力増強剤)、凝結剤などを添加することができる。例えば歩留剤として、カチオン性またはアニオン性、両性ポリアクリルアミド系物質を用いることができる。また、これらに加えて少なくとも一種以上のカチオンやアニオン性のポリマーを併用する、いわゆるデュアルポリマーと呼ばれる歩留りシステムを適用することもでき、少なくとも一種類以上のアニオン性のベントナイトやコロイダルシリカ、ポリ珪酸、ポリ珪酸もしくはポリ珪酸塩ミクロゲルおよびこれらのアルミニウム改質物などの無機微粒子や、アクリルアミドが架橋重合したいわゆるマイクロポリマーといわれる粒径100μm以下の有機系の微粒子を一種以上併用する多成分歩留りシステムであってもよい。特に単独または組合せで使用するポリアクリルアミド系物質が、極限粘度法による重量平均分子量が200万ダルトン以上である場合、良好な歩留りを得ることができ、好ましくは、500万ダルトン以上であり、更に好ましくは1000万ダルトン以上3000万ダルトン未満の上記アクリルアミド系物質である場合に非常に高い歩留りを得ることが出来る。このポリアクリルアミド系物質の形態はエマルジョン型でも溶液型であっても構わない。この具体的な組成としては、該物質中にアクリルアミドモノマーユニットを構造単位として含むものであれば特に限定はないが、例えば、アクリル酸エステルの4級アンモニウム塩とアクリルアミドとの共重合物、あるいはアクリルアミドとアクリル酸エステルを共重合させた後、4級化したアンモニウム塩が挙げられる。該カチオン性ポリアクリルアミド系物質のカチオン電荷密度は特には限定されない。
【0014】
また紙力剤として、湿潤および/または乾燥紙力剤(紙力増強剤)を添加することができる。これにより、紙料歩留りや複合繊維シートの強度を向上させることができる。紙力剤としては例えば、尿素ホルムアルデヒド樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、ポリアミド、ポリアミン、エピクロロヒドリン樹脂、植物性ガム、ラテックス、ポリエチレンイミン、グリオキサール、ガム、マンノガラクタンポリエチレンイミン、ポリアクリルアミド、ポリビニルアミン、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール等の樹脂;上記樹脂から選ばれる2種以上からなる複合ポリマー又は共重合ポリマー;澱粉及び加工澱粉;カルボキシメチルセルロース、グアーガム、尿素樹脂等が挙げられる。これらの凝結剤、歩留剤、紙力剤の添加量は特に限定されないが、例えば紙料中の固形分に対して、凝結剤では100ppm~800ppm、歩留剤では50ppm~1000ppm、紙力剤の場合は0.1%~2%の添加率とすることで特に好適に用いることができる。
【0015】
また凝結剤として、ポリエチレンイミンおよび第三級および/または四級アンモニウム基を含む改質ポリエチレンイミン、ポリアルキレンイミン、ジシアンジアミドポリマー、ポリアミン、ポリアミン/エピクロヒドリン重合体、並びにジアルキルジアリル第四級アンモニウムモノマー、ジアルキルアミノアルキルアクリレート、ジアルキルアミノアルキルメタクリレート、ジアルキルアミノアルキルアクリルアミド及びジアルキルアミノアルキルメタクリルアミドとアクリルアミドの重合体、モノアミン類とエピハロヒドリンからなる重合体、ポリビニルアミン及びビニルアミン部を持つ重合体やこれらの混合物などのカチオン性のポリマーに加え、前記ポリマーの分子内にカルボキシル基やスルホン基などのアニオン基を共重合したカチオンリッチな両イオン性ポリマー、カチオン性ポリマーとアニオン性または両イオン性ポリマーとの混合物などを用いることができる。さらには、硫酸アルミニウム(硫酸バンド、バンド、アラム)やポリ塩化アルミ(PAC)などの無機物を用いることもできる。
【0016】
その他、目的に応じて、濾水性向上剤、内添サイズ剤、pH調整剤、消泡剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤、嵩高剤、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、シリカなどの無機粒子(いわゆる填料)等が挙げられる。各添加剤の使用量は特に限定されない。
【0017】
シートの基本重量(坪量:1平方mあたりの重量)は、目的に応じて適宜調整できるが、例えば30~1200g/mとすると抄紙時や乾燥後のシートの強度が強く、また、製造時の乾燥負荷が低いため良好である。一つの態様において、シートの坪量は、60~1000g/mとすることができ、80~800g/mや100~700g/mとしてもよい。また、シートの坪量は、1200g/m以上とすることもでき、例えば2000~110000g/mとすることもできる。さらには30g/m以下とすることもでき、例えば15~30g/mとすることもできる。
【0018】
シート化する工程に用いる抄紙機(抄造機)としては、例えば長網抄紙機、円網抄紙機、ギャップフォーマ、ハイブリッドフォーマ、ロトフォーマー、多層抄紙機、これらの機器の抄紙方式を組合せた公知の抄造機などが挙げられる。抄紙機におけるプレス線圧、後段でカレンダー処理を行う場合のカレンダー線圧は、いずれも操業性や複合繊維シートの性能に支障を来さない範囲内で定めることができる。また、形成されたシートに対して含浸や塗布により澱粉や各種ポリマー、顔料およびそれらの混合物を付与しても良い。
【0019】
以上に示した配合・乾燥・成形において、1種類の複合繊維のみを用いることもできるし、2種類以上の複合繊維を混合して用いることもできる。2種類以上の複合繊維を用いる場合は、予めそれらを混合したものを用いることもできるし、それぞれを配合・乾燥・成形したものを後から混合することもできる。
【0020】
本発明品で製造した成形物には印刷を施すことができる。この印刷方法は特に限定されるものではいが、例えば、オフセット印刷、シルクスクリーン印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷、マイクログラビア印刷、フレキソ印刷、活版印刷、シール印刷、フォーム印刷、オンデマンド印刷、ファニッシャーロール印刷、インクジェット印刷等の公知の方式で行うことができる。この中でもインクジェト印刷は、オフセット印刷のように版下を作製する必要がなく、インクジェットプリンターの大型化が比較的容易であるため、大型シートへの印刷も可能であるため好ましい。また、フレキソ印刷は表面の凹凸が比較的大きい成形物にも好適に印刷できるため、ボードやモールド、ブロックのような形状に成形した際にも好適に用いることができる。
【0021】
無機粒子と繊維の複合繊維
複合繊維を構成する無機粒子は、組成物の用途に応じて適宜選択すればよく、水に不溶性または難溶性の無機粒子であることが好ましい。無機粒子の合成を水系で行う場合があり、また、複合繊維を水系で使用することもあるため、無機粒子が水に不溶性または難溶性であると好ましい。
【0022】
無機粒子とは、金属単体もしくは金属化合物のことをいう。また金属化合物とは、金属の陽イオン(例えば、Na、Ca2+、Mg2+、Al3+、Ba2+等)と陰イオン(例えば、O2-、OH、CO 2-、PO43-、SO 2-、NO 、Si 2-、SiO 2-、Cl、F、S2-等)がイオン結合によって結合してできた、一般に無機塩と呼ばれるものをいう。
【0023】
無機粒子の具体例としては、例えば、金、銀、チタン、銅、白金、鉄、亜鉛、及び、アルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1つの金属を含む化合物が挙げられる。また、炭酸カルシウム(軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム)、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、硫酸バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、リン酸カルシウム、酸化亜鉛、ステアリン酸亜鉛、二酸化チタン、ケイ酸ナトリウムと鉱酸から製造されるシリカ(ホワイトカーボン、シリカ/炭酸カルシウム複合繊維、シリカ/二酸化チタン複合繊維、ケイ酸アルミニウム、アルミノケイ酸)、硫酸カルシウム、ゼオライト、ハイドロタルサイトが挙げられる。炭酸カルシウム-シリカ複合物としては、炭酸カルシウム及び/又は軽質炭酸カルシウム-シリカ複合物以外に、ホワイトカーボンのような非晶質シリカを併用してもよい。以上に例示した無機粒子については、繊維を含む溶液中で、互いに合成する反応を阻害しない限り、単独でも2種類以上の組み合わせで用いてもよい。また、例えば、複合繊維に消臭機能、あるいは、不透明性を持たせる場合には、金、銀、チタン、銅、白金、鉄、亜鉛、及び、アルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1つの金属を含む化合物がより好ましい。また、複合繊維に難燃性の機能を持たせる場合には、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、ハイドロタルサイト、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、シリカ、ケイ酸アルミニウムが好ましく、特に好ましくは、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、ハイドロタルサイトである。また、複合繊維中の無機粒子がハイドロタルサイトである場合、ハイドロタルサイトと繊維との複合繊維の灰分中、マグネシウム及び亜鉛のうち少なくとも一つを10重量%以上含むことがより好ましい。なお、「金属を含む化合物」は金属単体であってもよく、金属イオンを含む化合物であってもよい。つまり、無機粒子は金属単体の粒子であってもよく、金属イオンを含む化合物の粒子であってもよい。
【0024】
無機粒子の合成法は気液法と液液法のいずれでもよい。気液法の一例としては炭酸ガス法があり、例えば水酸化マグネシウムと炭酸ガスを反応させることで、炭酸マグネシウムを合成することができる。液液法の例としては、酸(塩酸、硫酸等)と塩基(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)を中和によって反応させたり、無機塩と酸もしくは塩基を反応させたり、無機塩同士を反応させたりする方法が挙げられる。例えば、水酸化バリウムと硫酸とを反応させることで硫酸バリウムを得たり、硫酸アルミニウムと水酸化ナトリウムとを反応させることで水酸化アルミニウムを得たり、炭酸カルシウムと硫酸アルミニウムとを反応させることでカルシウムとアルミニウムが複合化した無機粒子を得ることができる。また、このようにして無機粒子を合成する際、反応液中に任意の金属又は金属化合物を共存させることもでき、この場合はそれらの金属もしくは金属化合物が無機粒子中に効率よく取り込まれ、複合化できる。例えば、炭酸カルシウムにリン酸を添加してリン酸カルシウムを合成する際に、二酸化チタンを反応液中に共存させることで、リン酸カルシウムとチタンの複合粒子を得ることができる。
【0025】
一つの好ましい態様として、無機粒子の平均一次粒子径を、例えば、1μm以下とすることができるが、平均一次粒子径が500nm未満の無機粒子、平均一次粒子径が200nm以下の無機粒子、平均一次粒子径が100nm以下の無機粒子、平均一次粒子径が50nm以下の無機粒子を用いることができる。また、無機粒子の平均一次粒子径は10nm以上とすることも可能である。このうち、平均一次粒子径が10~200nmの無機粒子が好ましい。その理由は、繊維への定着度合いや被覆率が高くなるためである。なお、平均一次粒子径は電子顕微鏡写真から算出することができる。
【0026】
また、無機粒子を合成する際の条件を調整することによって、種々の大きさ、形状を有する無機粒子を繊維と複合繊維化することができる。例えば、鱗片状の無機粒子が繊維に複合化している複合繊維とすることもできる。複合繊維を構成する無機粒子の形状は、電子顕微鏡による観察により確認することができる。
【0027】
また、無機粒子は、微細な一次粒子が凝集した二次粒子の形態を取ることもあり、熟成工程によって用途に応じた二次粒子を生成させてもよく、また、粉砕によって凝集塊を細かくしてもよい。粉砕の方法としては、ボールミル、サンドグラインダーミル、インパクトミル、高圧ホモジナイザー、低圧ホモジナイザー、ダイノーミル、超音波ミル、カンダグラインダ、アトライタ、石臼型ミル、振動ミル、カッターミル、ジェットミル、離解機、叩解機、短軸押出機、2軸押出機、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサー等が挙げられる。
【0028】
また、前記複合繊維と混合してシート化するために用いる無機粒子には、平均一次粒子径が10nm~20μmの無機粒子を使用でき、求められるシートの柔軟性や抄紙時の濾水性等によって添加する無機粒子の粒径を選択することができる。好ましくは、100nm~15μm、より好ましくは500nm~10μm、さらに好ましくは600nm~8μmであり、とりわけ好ましくは2~5μmである。添加する無機粒子の粒形が大きいほど、シートや板状に成形した際の柔軟性が高くなるが、大きすぎると成形後に無機物が脱離する「粉落ち」という現象につながるため好ましくない。また一方で、小さすぎると無機物同士が凝集しやすくなり、繊維構造物中の無機物の分散が均一になりづらいため好ましくない。無機粒子を添加することによって繊維構造物のこわさが低下するメカニズムは明らかになっていないが、一因として、繊維に直接定着していない無機粒子が繊維間に隙を作ることにより、乾燥後の繊維構造物中での繊維の絡み合いの度合いが小さくなるため、と考えられる。
【0029】
また、添加する同じ種類の無機粒子の複合繊維に対する割合は、複合繊維:添加する無機粒子=5:95~95:5である。添加する無機粒子の割合が大きくなるほど、シート化した際の柔軟性が向上する。
【0030】
繊維
複合繊維を構成する繊維は特に制限されないが、例えば、セルロースなどの天然繊維はもちろん、石油などの原料から人工的に合成される合成繊維、さらには、レーヨンやリヨセルなどの再生繊維(半合成繊維)、さらにはセラミックをはじめとする無機繊維などを制限なく使用することができる。天然繊維としては上記の他にウールや絹糸やコラーゲン繊維等の蛋白系繊維、キチン・キトサン繊維やアルギン酸繊維等の複合糖鎖系繊維等が挙げられる。
【0031】
セルロース系の原料としては、パルプ繊維(木材パルプや非木材パルプ)、バクテリアセルロースが例示され、木材パルプは、木材原料をパルプ化して製造すればよい。木材原料としては、アカマツ、クロマツ、トドマツ、エゾマツ、ベニマツ、カラマツ、モミ、ツガ、スギ、ヒノキ、カラマツ、シラベ、トウヒ、ヒバ、ダグラスファー、ヘムロック、ホワイトファー、スプルース、バルサムファー、シーダ、パイン、メルクシマツ、ラジアータパイン等の針葉樹、及びこれらの混合材、ブナ、カバ、ハンノキ、ナラ、タブ、シイ、シラカバ、ハコヤナギ、ポプラ、タモ、ドロヤナギ、ユーカリ、マングローブ、ラワン、アカシア等の広葉樹及びこれらの混合材が例示される。
【0032】
木材原料をパルプ化する方法は、特に限定されず、製紙業界で一般に用いられるパルプ化法が例示される。木材パルプはパルプ化法により分類でき、例えば、クラフト法、サルファイト法、ソーダ法、ポリサルファイド法等の方法により蒸解した化学パルプ;リファイナー、グラインダー等の機械力によってパルプ化して得られる機械パルプ;薬品による前処理の後、機械力によるパルプ化を行って得られるセミケミカルパルプ;古紙パルプ;脱墨パルプ等が挙げられる。木材パルプは、未晒(漂白前)の状態であってもよいし、晒(漂白後)の状態であってもよい。
【0033】
非木材由来の原料としては、綿、ヘンプ、サイザル麻、マニラ麻、亜麻、藁、竹、バガス、ケナフ、サトウキビ、トウモロコシ、稲わら、楮(こうぞ)、みつまた等が例示される。
【0034】
パルプ繊維は、未叩解及び叩解のいずれでもよく、複合繊維シートの物性に応じて選択すればよいが、叩解を行う方が好ましい。これにより、シート強度の向上並びに炭酸カルシウムの定着促進が期待できる。
【0035】
合成繊維としてはポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、アクリル、ナイロン、アクリル、ビニロン、セラミックス繊維など、半合繊維としてはレーヨン、アセテートなどが挙げられ、無機繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、各種金属繊維などが挙げられる。
【0036】
また、これらセルロース原料はさらに処理を施すことで粉末セルロース、酸化セルロースなどの化学変性セルロース、およびセルロースナノファイバー:CNF(ミクロフィブリル化セルロース:MFC、TEMPO酸化CNF、リン酸エステル化CNF、カルボキシメチル化CNF、機械粉砕CNFなど)として使用することもできる。本発明で用いる粉末セルロースとしては、例えば、精選パルプを酸加水分解した後に得られる未分解残渣を精製・乾燥し、粉砕・篩い分けするといった方法により製造される棒軸状である一定の粒径分布を有する結晶性セルロース粉末を用いてもよいし、KCフロック(日本製紙製)、セオラス(旭化成ケミカルズ製)、アビセル(FMC社製)などの市販品を用いてもよい。粉末セルロースにおけるセルロースの重合度は好ましくは100~1500程度であり、X線回折法による粉末セルロースの結晶化度は好ましくは70~90%であり、レーザー回折式粒度分布測定装置による体積平均粒子径は好ましくは1μm以上100μm以下である。本発明で用いる酸化セルロースは、例えばN-オキシル化合物、及び、臭化物、ヨウ化物若しくはこれらの混合物からなる群から選択される化合物の存在下で酸化剤を用いて水中で酸化することで得ることができる。セルロースナノファイバーとしては、上記セルロース原料を解繊する方法が用いられる。解繊方法としては、例えばセルロースや酸化セルロース等の化学変性セルロースの水懸濁液等を、リファイナー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、一軸または多軸混練機、ビーズミル等による機械的な磨砕、ないし叩解することにより解繊する方法を使用することができる。上記方法を1種または複数種類組み合わせてセルロースナノファイバーを製造してもよい。製造したセルロースナノファイバーの繊維径は電子顕微鏡観察などで確認することができ、例えば5nm~1000nm、好ましくは5nm~500nm、より好ましくは5nm~300nmの範囲にある。このセルロースナノファイバーを製造する際、セルロースを解繊及び/又は微細化する前及び/又は後に、任意の化合物をさらに添加してセルロースナノファイバーと反応させ、水酸基が修飾されたものにすることもできる。修飾する官能基としては、アセチル基、エステル基、エーテル基、ケトン基、ホルミル基、ベンゾイル基、アセタール、ヘミアセタール、オキシム、イソニトリル、アレン、チオール基、ウレア基、シアノ基、ニトロ基、アゾ基、アリール基、アラルキル基、アミノ基、アミド基、イミド基、アクリロイル基、メタクリロイル基、プロピオニル基、プロピオロイル基、ブチリル基、2-ブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、ノナノイル基、デカノイル基、ウンデカノイル基、ドデカノイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、ピバロイル基、ベンゾイル基、ナフトイル基、ニコチノイル基、イソニコチノイル基、フロイル基、シンナモイル基等のアシル基、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアノイル基等のイソシアネート基、メチル基、エチル基、プロピル基、2-プロピル基、ブチル基、2-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ミリスチル基、パルミチル基、ステアリル基等のアルキル基、オキシラン基、オキセタン基、オキシル基、チイラン基、チエタン基等が挙げられる。これらの置換基の中の水素が水酸基、カルボキシル基等の官能基で置換されても構わない。また、アルキル基の一部が不飽和結合になっていても構わない。これらの官能基を導入するために使用する化合物としては特に限定されず、例えば、リン酸由来の基を有する化合物、カルボン酸由来の基を有する化合物、硫酸由来の基を有する化合物、スルホン酸由来の基を有する化合物、アルキル基を有する化合物、アミン由来の基を有する化合物等が挙げられる。リン酸基を有する化合物としては特に限定されないが、リン酸、リン酸のリチウム塩であるリン酸二水素リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸三リチウム、ピロリン酸リチウム、ポリリン酸リチウムが挙げられる。更にリン酸のナトリウム塩であるリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウムが挙げられる。更にリン酸のカリウム塩であるリン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、ポリリン酸カリウムが挙げられる。更にリン酸のアンモニウム塩であるリン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウムなどが挙げられる。これらのうち、リン酸基導入の効率が高く、工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩が好ましく、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムがより好ましいが、特に限定されない。カルボキシル基を有する化合物としては特に限定されないが、マレイン酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、イタコン酸等のジカルボン酸化合物やクエン酸、アコニット酸などトリカルボン酸化合物が挙げられる。カルボキシル基を有する化合物の酸無水物としては特に限定されないが、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、無水イタコン酸等のジカルボン酸化合物の酸無水物が挙げられる。カルボキシル基を有する化合物の誘導体としては特に限定されないが、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物のイミド化物、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の誘導体が挙げられる。カルボキシル基を有する化合物の酸無水物のイミド化物としては特に限定されないが、マレイミド、コハク酸イミド、フタル酸イミド等のジカルボン酸化合物のイミド化物が挙げられる。カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の誘導体としては特に限定されない。例えば、ジメチルマレイン酸無水物、ジエチルマレイン酸無水物、ジフェニルマレイン酸無水物等の、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の少なくとも一部の水素原子が置換基(例えば、アルキル基、フェニル基等)で置換されたものが挙げられる。上記カルボン酸由来の基を有する化合物のうち、工業的に適用しやすく、ガス化しやすいことから、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸が好ましいが、特に限定されない。また、化学的に結合させなくても、修飾する化合物がセルロースナノファイバーに物理的に吸着する形でセルロースナノファイバーを修飾してもよい。物理的に吸着する化合物としては界面活性剤等が挙げられ、アニオン性、カチオン性、ノニオン性いずれを用いてもよい。セルロースを解繊及び/又は粉砕する前に上記の修飾を行った場合、解繊及び/又は粉砕後にこれらの官能基を脱離させ、元の水酸基に戻すこともできる。以上のような修飾を施すことで、セルロースナノファイバーの解繊を促進したり、セルロースナノファイバーを使用する際に種々の物質と混合しやすくしたりすることができる。
【0037】
以上に示した繊維は単独で用いても良いし、複数を混合しても良い。中でも、木材パルプを含むか、若しくは、木材パルプと非木材パルプ及び/又は合成繊維との組み合わせを含むことが好ましく、木材パルプのみであることがより好ましい。
【0038】
好ましい態様において、本発明の複合繊維を構成する繊維はパルプ繊維である。また、例えば、製紙工場の排水から回収された繊維状物質を本発明で用いてもよい。このような物質を反応槽に供給することにより、種々の複合粒子を合成することができ、また、形状的にも繊維状粒子などを合成することができる。
【0039】
複合化する繊維の繊維長は特に制限されないが、例えば、平均繊維長が0.1μm~15mm程度とすることができ、10μm~12mm、50μm~10mm、200μm~8mmなどとしてもよい。このうち、本発明においては、平均繊維長が50μmより長いことが脱水やシート化が容易なため好ましい。平均繊維長が1mmより長いことが通常の抄紙工程で使用する脱水およびもしくは抄紙用のワイヤー(フィルター)のメッシュを使用して脱水やシート化が可能なためさらに好ましい。
【0040】
複合化する繊維の繊維径は特に制限されないが、例えば、平均繊維径が1nm~100μm程度とすることができ、10nm~100μm、0.15μm~100μm、1μm~90μm、3~50μm、5~40μmなどとしてもよい。このうち、本発明においては、平均繊維径が500nmより高いことが水やシート化が容易なため好ましい。平均繊維径が15μmより大きいことが通常の抄紙工程で使用する脱水およびもしくは抄紙用のワイヤー(フィルター)のメッシュを使用して脱水やシート化が可能なためさらに好ましい。
【実施例0041】
具体例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の具体例に限定されるものではない。また、本明細書において特に記載しない限り、濃度や部などは重量基準であり、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。
【0042】
実験1.複合繊維の合成と評価
(サンプルA、図1
室温下で、容器(マシンチェスト、容積:4m)に2%のパルプスラリー(LBKP/NBKP=8/2、CSF=400mL、平均繊維長:約0.9mm、固形分25kg)と水酸化バリウム八水和物(日本化学工業、75kg)とを投入して混合後、ペリスターポンプを用いて硫酸アルミニウム(硫酸バンド、98kg)を約5kg/minで滴下した。滴下終了後そのまま30分間撹拌を継続して熟成後、得られたスラリーの一部をろ布を用いた遠心脱水によって固形分約25%まで脱水し、硫酸バリウムとパルプの複合繊維(サンプルA)を得た。
【0043】
(サンプルB、図2
室温下で、水酸化ナトリウム溶液(和光純薬、1.6M)にパルプ繊維(NBKP、CSF:400mL、平均繊維長:約1.8mm、平均繊維径:18μm)を添加し、パルプ繊維を含む水性懸濁液を準備した(パルプ固形分30g、パルプ繊維濃度:2%、pH:約12.4)。この水性懸濁液を10L容の反応容器に入れ、水性懸濁液を撹拌しながら、硫酸アルミニウム(硫酸バンド溶液)を5ml/minで滴下した。滴下終了後そのまま30分間撹拌を継続して熟成後、得られたスラリーをろ布を用いた遠心脱水によって固形分約25%まで脱水して、水酸化アルミニウム粒子と繊維との複合繊維(サンプルB)を合成した。
【0044】
(サンプルC、図3
銅亜鉛系ハイドロタルサイト化合物(CuZnAl(OH)16CO・4HO)とパルプの複合繊維を製造するため、まずアルカリ溶液(A溶液)として、NaCO(トクヤマ)およびNaOH(日本軽金属)の混合水溶液、酸溶液(B溶液)として、ZnSO(圓商産業株式会社)、Al(SO(朝日化学工業)およびCuSO4(小名浜製錬株式会社)の混合水溶液を調製した。
・A溶液: NaCO濃度:0.05M、NaOH濃度:0.8M
・B溶液: ZnSO濃度:0.6M、Al(SO濃度:0.12M、CuSO濃度:0.12M
複合化する繊維として、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)をダブルディスクリファイナー(DDR)でカナダ標準濾水度を620mlに調整したパルプ繊維を用いた(平均繊維長2.0mm、平均繊維径:19μm)。
【0045】
A溶液にパルプ繊維を添加し、パルプ繊維を含む水性懸濁液を準備した(パルプ繊維濃度:3%、pH:約12.5)。この水性懸濁液(パルプ固形分290kg、10000L)を15m容の反応容器に入れ、水性懸濁液を撹拌しながら、B溶液を滴下して銅亜鉛系ハイドロタルサイト微粒子と繊維との複合繊維を合成した。反応温度は50℃、滴下速度は20L/minであり、反応液のpHが約7になった段階で滴下を停止した。滴下終了後、30分間、反応液を撹拌し、得られたスラリーをドラムフィルタ―によって固形分約25%まで脱水して、サンプルCを得た。
【0046】
(サンプルD、図4
銅亜鉛系ハイドロタルサイト化合物(CuZnAl(OH)16CO・4HO)とパルプの複合繊維を製造するため、まずアルカリ溶液(A溶液)として、NaCO(トクヤマ)およびNaOH(日本軽金属)の混合水溶液、酸溶液(B溶液)として、ZnSO(圓商産業株式会社)、Al(SO(朝日化学工業)およびCuSO4(小名浜製錬株式会社)の混合水溶液を調製した。
・A溶液: NaCO濃度:0.05M、NaOH濃度:0.8M
・B溶液: ZnSO濃度:0.9M、Al(SO濃度:0.18M、CuSO濃度:0.18M
複合化する繊維として、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)と針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)を5:5の重量比で含み、ダブルディスクリファイナー(DDR)を用いてカナダ標準濾水度を380mlに調整したパルプ繊維を用いた(平均繊維長2.1mm、平均繊維径:19μm)。
【0047】
A溶液にパルプ繊維を添加し、パルプ繊維を含む水性懸濁液を準備した(パルプ繊維濃度:2.5%、pH:約12.5)。この水性懸濁液(パルプ固形分340kg、13600L)を15m容の反応容器に入れ、水性懸濁液を撹拌しながら、B溶液を滴下して銅亜鉛系ハイドロタルサイト微粒子と繊維との複合繊維を合成した。反応温度は56℃、滴下速度は18L/minであり、反応液のpHが約7になった段階で滴下を停止した。滴下終了後、30分間反応液を撹拌し、得られたスラリーをドラムフィルタ―によって固形分約25%まで脱水して、サンプルDを得た。
【0048】
(被覆率と無機物量の評価)
得られた複合体サンプルをそれぞれエタノールで洗浄後、電子顕微鏡を用いて複合繊維表面の様子を観察した(図1~4)。無機物質によって被覆されている繊維表面の面積率(被覆率)は、画像処理ソフト(Image J、アメリカ国立衛生研究所)を用いて算出した。具体的には、電子顕微鏡にて3000倍で撮影した画像について、無機物が存在する個所を(白)、繊維が存在する個所を(黒)となるように二値化処理し、画像全体に対する白色部分、すなわち無機物が存在する部分の割合(面積率、面積%)を算出した。
【0049】
また、得られた複合体について、それに含まれる無機物の重量比率(重量%)を測定した。ここで、重量比率は、複合体を525℃で約2時間加熱した後、残った灰の重量と元の固形分との比率から求めた複合体の灰分に基づいて算出した(JIS P 8251:2003)。
【0050】
各複合体サンプルの被覆率を下表に示すが、いずれも被覆率は15%以上だった。また、いずれのサンプルにおいても繊維表面を無機物質が覆い、自己定着している様子が観察された。
【0051】
【表1】
【0052】
実験2.繊維複合体シートの製造と評価(1)
実験1で得られたサンプルA(硫酸バリウムとパルプの複合繊維)を固形分濃度が4%になるよう水道水で希釈後、TAPPI離解機で5分間離解した。離解後のサンプルをさらに水道水で約0.2%に希釈後、表2に示す配合で下記の製紙用薬品を添加して紙料スラリーを調製した。
・歩留剤1(高分子電解質、カチオン性歩留剤、ND300、ハイモ)
・歩留剤2(高分子電解質、アニオン性歩留剤、FA230、ハイモ)
・歩留剤3(高分子電解質、カチオン性歩留剤、RX5202、ハイモ)
・紙力剤1(高分子電解質、湿潤紙力剤、AF255、荒川化学工業)
・紙力剤2(高分子電解質、乾燥紙力剤、ポリストロン、荒川化学工業)
次いで、動的濾水度分析装置(DDA、Ab Akribi Kemikonsulter)を用いて、紙料スラリーからシートを製造した(坪量:約100g/m)。DDAのワイヤーメッシュには60メッシュを用い、撹拌速度は600rpm、脱水時の真空圧は0.3barとした。
【0053】
表2に示す通り、無薬添の場合に比べて、薬品を添加した場合は紙料歩留の向上が確認された。中でも、薬品添加後の撹拌時間が短いサンプル1-2、サンプル1-4、サンプル1-6は、薬品添加後の撹拌時間が長いサンプル1-3、サンプル1-5、サンプル1-7に比べて良好な紙料歩留で、同一の薬添時で比較すると約10ポイント高い歩留であった。
【0054】
【表2】
【0055】
実験3.繊維複合体シートの製造と評価(2)
実験1で得られたサンプルB(水酸化アルミニウムとパルプの複合繊維)を固形分濃度が4%になるよう水道水で希釈後、TAPPI離解機で5分間離解した。離解後のサンプルをさらに水道水で濃度約1%に希釈後、アニオン性歩留剤(高分子電解質、RV30SV、ハイモ)を200ppm添加して紙料スラリーを調製した。薬品はスラリーの撹拌開始20秒後に添加し、総撹拌時間は45秒と625秒の2種類で実施した。
【0056】
次いで、動的濾水度分析装置(DDA、Ab Akribi Kemikonsulter)を用いて、紙料スラリーからシートを製造した(坪量:約30g/m)。DDAのワイヤーメッシュには60メッシュを用い、撹拌速度は600rpm、脱水時の真空圧は0.3barとした。
【0057】
下表に示す通り、薬品を添加すると無薬添の場合と比べて仕上がりのシート無機分が向上しており、薬添によって無機分歩留が高くなることが明らかとなった。一方、薬添後の撹拌時間が長くなるとシート無機分が低下する傾向であったことから、薬添後に長撹拌撹拌すると無機分歩留が低くなると考えられた。
【0058】
走査型電子顕微鏡(SEM)でシート表面を観察したところ、無薬添でシート化したサンプル2-1およびサンプル2-2、薬添後の時間が短かったサンプル2-3では、繊維からの無機物の脱離は確認されなかった(図5~7)。一方、薬添後の時間が長かったサンプル2-4では、一部の繊維から無機物が脱離し、繊維表面がやや露出している様子が確認された(図8)。
【0059】
【表3】
【0060】
実験4.繊維複合体シートの製造と評価(3)
上記実験1で得られた複合繊維(サンプルC)に合成繊維(芯鞘型ポリエステル系複合繊維、鞘部分:ポリエチレンテレフタレートコポリマー、芯部分:ポリエチレンテレフタレート、繊維径:1.7デシテックス、繊維長:5mm)を6:4の割合で配合し、固形分濃度が3%になるよう水道水で希釈後、TAPPI離解機で5分間離解した。離解後のサンプルをさらに水道水で約0.05%に希釈した。表4に示す配合で下記のカチオン性歩留剤を添加して紙料スラリーを調製した。なおスラリーの撹拌は合計60秒とし、途中で5秒間だけ1200rpmで強撹拌することで、実機抄紙時にポンプやクリーナー、スクリーン等で受ける高シェアを模した。
・歩留剤a(高分子電解質、カチオン性歩留剤、ND300、ハイモ)
・歩留剤b(高分子電解質、カチオン性歩留剤、RX5202、ハイモ)
次いで、動的濾水度分析装置(DDA、Ab Akribi Kemikonsulter)を用いて、紙料スラリーからシートを製造した(坪量:約30g/m)。DDAのワイヤーメッシュには60メッシュを用い、撹拌速度は600rpm、脱水時の真空圧は0.3barとした。
【0061】
結果は表4に示すとおりであり、無薬添の場合に比べて歩留剤を添加すると灰分歩留の向上が確認された。中でも、高シェアをかけた後に薬品を添加すると、高シェアをかける前に薬品を添加した場合と比べて歩留が高い傾向であった。
【0062】
【表4】
【0063】
実験5.繊維複合体シートの製造と評価(4)
実験1で得られたサンプルD(銅亜鉛系ハイドロタルサイトとパルプの複合繊維)とポリエチレンテレフタレート繊維(PET、繊維径:1.7デシテックス、繊維長:5mm)、バインダー繊維(繊維径:1.7デシテックス、繊維長:5mm)を5:1:4で混合し、固形分濃度が3%になるよう水道水で希釈後、TAPPI離解機で5分間離解した。離解後のサンプルをさらに水道水で約0.05%に希釈後、下記の歩留剤を100ppm添加して紙料スラリーを調製した。
・カチオン性歩留剤(高分子電解質、RX5202、ハイモ)
・アニオン性歩留剤(高分子電解質、RV30SV、ハイモ)
・ノニオン性歩留剤(高分子化合物、N2000、ハイモ)
次いで、動的濾水度分析装置(DDA、Ab Akribi Kemikonsulter)を用いて、紙料スラリーからシートを製造した(坪量:約30g/m)。DDAのワイヤーメッシュには60メッシュを用い、撹拌速度は600rpm、脱水時の真空圧は0.3barとした。
【0064】
下表に示す通り、無薬添の場合に比べて、薬品を添加すると紙料歩留ならびにシート無機分の向上が確認された。以上より、カチオン性もしくはアニオン性もしくはノニオン性の歩留剤を使用することで、複合繊維を湿式不織布にシート化する際の歩留を大きく向上できることが示唆された。また、特に、カチオン性もしくはアニオン性歩留剤を使用すると歩留向上効果が高いことがわかった。
【0065】
【表5】
【0066】
実験6.繊維複合体シートの製造と評価(5)
実験1で得られたサンプルDとポリエチレンテレフタレート繊維(PET、繊維径:1.7デシテックス、繊維長:5mm)、バインダー繊維(繊維径:1.7デシテックス、繊維長:5mm)を5:1:4で混合した。混合物を水道水で約3%に希釈後、パルパーで15分間離解した。その後各種工程を経て、最終的なインレット(抄き箱)の濃度は約0.05%であった。カチオン性歩留剤(高分子電解質、ND300、ハイモ)をパルパーもしくはインレット(抄き箱)にて300ppm添加して紙料スラリーを調製した。
【0067】
次いで、円網ヤンキードライヤー抄紙機を用いて、紙料スラリーから湿式法により不織布シートを製造した(坪量:約15g/m)。
下表に示す通り、薬品をインレットに添加した時の方がパルパーに添加した時よりも灰分歩留が高くなった。走査型電子顕微鏡(SEM)でシート表面を観察したところ、パルパーにおいて薬品を添加して製造したシート(図9)では無機分が脱離して繊維表面が露になった箇所が認められたのに対し、インレットに薬品を添加して製造したシート(図10)は、元々無機物を複合化していなかった合成繊維以外で繊維の露出はほとんど認められず、複合繊維から無機物が脱離した様子は確認されなかった。
【0068】
【表6】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10