(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022135280
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】水まわり部材
(51)【国際特許分類】
A47K 13/00 20060101AFI20220908BHJP
【FI】
A47K13/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021034992
(22)【出願日】2021-03-05
(71)【出願人】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【弁理士】
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168332
【弁理士】
【氏名又は名称】小崎 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100146592
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100157901
【弁理士】
【氏名又は名称】白井 達哲
(74)【代理人】
【識別番号】100172188
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 敬人
(74)【代理人】
【識別番号】100197538
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 功
(74)【代理人】
【識別番号】100176751
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 耕平
(72)【発明者】
【氏名】副島 嵩生
(72)【発明者】
【氏名】武田 宏二
(72)【発明者】
【氏名】岩下 直基
(72)【発明者】
【氏名】光橋 義陽
(72)【発明者】
【氏名】始田 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】黒木 潤二
【テーマコード(参考)】
2D037
【Fターム(参考)】
2D037AA02
2D037AA13
(57)【要約】 (修正有)
【課題】露出部の耐傷つき性の向上と、嵌合部の寸法安定性の確保と、を両立できる水まわり部材を提供する。
【解決手段】結晶性樹脂を含む水まわり部材であって、被嵌合部材250が嵌合される嵌合部210と、前記嵌合部以外の部分であって、器具に取り付けられた状態で露出した位置に設けられる露出部220と、を備え、前記嵌合部の表面硬度は、前記露出部の表面硬度よりも小さいこと特徴とする水まわり部材200。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性樹脂を含む水まわり部材であって、
被嵌合部材が嵌合される嵌合部と、
前記嵌合部以外の部分であって、器具に取り付けられた状態で露出した位置に設けられる露出部と、
を備え、
前記嵌合部の表面硬度は、前記露出部の表面硬度よりも小さいことを特徴とする水まわり部材。
【請求項2】
前記露出部の表面硬度は、鉛筆硬度でB以上であり、
前記嵌合部の表面硬度は、鉛筆硬度で2B以下であることを特徴とする請求項1記載の水まわり部材。
【請求項3】
前記露出部の表面硬度は、鉛筆硬度でF以下であることを特徴とする請求項2記載の水まわり部材。
【請求項4】
前記嵌合部の表面硬度は、鉛筆硬度で3B以上であることを特徴とする請求項2または3に記載の水まわり部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の態様は、一般的に、水まわり部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、樹脂を含む材料を成形することで製造した便蓋や便座が知られている(例えば、特許文献1)。このような便蓋や便座の材料には、例えば、安価なポリプロピレン(PP:Polypropylene)などの樹脂が用いられる。しかし、PPなどの樹脂を用いて便蓋や便座等の水まわり部材を成形すると、表面硬度が小さいために、トイレットペーパーや硬質の不織布で乾拭きされた際に水まわり部材の表面に傷がつきやすいという問題がある。
【0003】
このような問題を解決する手段として、例えば、水まわり部材の表面硬度を高めることが考えられる。水まわり部材の表面硬度を高める手段として、例えば、水まわり部材を成形するための金型にヒータを設け、加熱された金型内に樹脂を射出することで、樹脂の高温状態を所定時間維持しながら硬化させるヒート&クール成形(H&C成形)などが考えられる。このような成形方法であれば、樹脂の固化過程を徐々に行うことで水まわり部材の表面の結晶化度を高め、水まわり部材の表面硬度を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、表面の結晶化度を高めると、成形品の収縮量が大きくなり、成形品を金型から取り出した後に、成形品の経時的な寸法変化量が大きくなるという問題がある。そのため、水まわり部材にこのような成形方法を適用すると、寸法精度が低下するおそれがある。例えば、便蓋や便座の下面部には、便蓋や便座が閉まるときの衝撃を緩和するためのクッション部材が取り付けられる。このクッション部材は、例えば、便蓋や便座の下面部に設けられた凹部に嵌合されることで取り付けられる。そのため、凹部において寸法精度が低下すると、所望の形状で凹部を形成できなくなり、クッション部材を取り付けられなくなるおそれがある。
【0006】
本発明の態様は、かかる課題の認識に基づいてなされたものであり、露出部の耐傷つき性の向上と、嵌合部の寸法安定性の確保と、を両立できる水まわり部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様は、結晶性樹脂を含む水まわり部材であって、被嵌合部材が嵌合される嵌合部と、前記嵌合部以外の部分であって、器具に取り付けられた状態で露出した位置に設けられる露出部と、を備え、前記嵌合部の表面硬度は、前記露出部の表面硬度よりも小さいことを特徴とする水まわり部材である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の態様によれば、露出部の耐傷つき性の向上と、嵌合部の寸法安定性の確保と、を両立できる水まわり部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に係るトイレ装置を表す斜視図である。
【
図2】実施形態に係る便蓋の一部を表す断面図である。
【
図3】実施形態に係る便座の一部を表す断面図である。
【
図4】
図4(a)~
図4(c)は、便蓋の製造工程の一部を表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
図1は、実施形態に係るトイレ装置を表す斜視図である。
図2は、実施形態に係る便蓋の一部を表す断面図である。
図3は、実施形態に係る便座の一部を表す断面図である。
図2は、
図1に示したA1-A2線による断面図である。
図3は、
図1に示したB1-B2線による断面図である。
図1及び
図2では、開状態の便座及び便蓋を示している。
図3では、閉状態の便座を示している。
図1~
図3に表したように、実施形態に係るトイレ装置100は、洋式腰掛便器(以下、単に「便器」という)10と、ケーシング20と、便蓋30と、便座40と、を備える。
【0011】
便器10は、下方に向けて窪んだボウル部11を有する。便器10は、ボウル部11において使用者の尿や便などの排泄物を受ける。ボウル部11は、リム11aと、リム11aに囲まれた開口部11hと、を有する。
【0012】
ここで、本願明細書においては、便座40に座った使用者からみて上方を「上方」とし、便座40に座った使用者からみて下方を「下方」とする。また、開いた状態の便蓋30に背を向けて便座40に座った使用者からみて左右方向を、それぞれ「左側方」及び「右側方」とし、前後方向を、それぞれ「前方」及び「後方」とする。
【0013】
便器10のボウル部11の後方の上には、ケーシング20が設けられている。ケーシング20の内部には、例えば、便蓋30を開閉するための便蓋電動開閉ユニットや便座40を開閉するための便座電動開閉ユニットが収納されている。また、ケーシング20の内部には、例えば、使用者の局部を洗浄するノズルユニットなどが収納されていてもよい。
【0014】
便蓋30及び便座40は、それぞれ、便器10に対して開閉可能に設けられている。便蓋30及び便座40は、それぞれ、ケーシング20に対して回動可能に軸支されている。
【0015】
便蓋30は、便蓋本体部31と、便蓋ヒンジ部32と、便蓋クッション部材33と、を有する。便蓋本体部31は、閉状態において、ボウル部11及び便座40の上方に位置する。便蓋本体部31は、閉状態においてボウル部11及び便座40の上方を覆う。
【0016】
便蓋ヒンジ部32は、閉状態において、便蓋本体部31の後方に設けられる。便蓋ヒンジ部32は、例えば、便蓋本体部31と一体成形される。便蓋ヒンジ部32は、例えば、便蓋本体部31とは別で成形され、便蓋本体部31に取り付けられていてもよい。便蓋ヒンジ部32は、ケーシング20の内部に収納された便蓋電動開閉ユニットの出力軸に対して嵌合することで、ケーシング20に対して回動可能に軸支されている。便蓋電動開閉ユニットは、便蓋ヒンジ部32を介して便蓋本体部31を回動させることで、便蓋30を開閉する。
【0017】
便蓋クッション部材33は、便蓋本体部31とは別の部材であり、便蓋本体部31に取り付けられる。便蓋クッション部材33は、例えば、エラストマーなどからなり、便蓋本体部31が便座40に当たる際の衝撃を緩和する。
【0018】
便蓋本体部31は、便蓋上面部31aと、便蓋下面部31bと、を有する。便蓋上面部31aは、閉状態において、上方に露出する。便蓋上面部31aは、閉状態において、上方を向く。便蓋下面部31bは、閉状態において、下方に露出する。便蓋下面部31bは、閉状態において、下方を向く。便蓋下面部31bは、例えば、閉状態において便座40と対向する。
【0019】
便蓋下面部31bには、便蓋凹部31cが設けられている。便蓋凹部31cは、閉状態において、上方に窪む。便蓋凹部31cには、便蓋クッション部材33が取り付けられている。便蓋クッション部材33は、便蓋凹部31cに嵌合されることで、便蓋凹部31cに取り付けられる。
【0020】
便蓋30は、水まわり部材200の一例である。水まわり部材200は、嵌合部210と、露出部220と、を備える。嵌合部210は、別体形成された被嵌合部材250が嵌合される部分である。露出部220は、嵌合部210以外の部分であって、器具260に取り付けられた状態で露出した位置に設けられる部分である。露出部220は、器具260に取り付けられた状態で使用者から視認可能な部分である。嵌合部210は、例えば、便蓋凹部31cである。この場合、被嵌合部材250は、例えば、便蓋クッション部材33である。嵌合部210は、例えば、便蓋ヒンジ部32であってもよい。この場合、被嵌合部材250は、例えば、便蓋電動開閉ユニットの出力軸である。露出部220は、例えば、便蓋上面部31aと、便蓋下面部31bと、を含む。器具260は、例えば、ケーシング20である。
【0021】
水まわり部材200は、結晶性樹脂を含む。より具体的には、便蓋本体部31は、結晶性樹脂を含む。便蓋ヒンジ部32は、例えば、結晶性樹脂を含む。結晶性樹脂は、結晶性を有する熱可塑性樹脂である。結晶性樹脂としては、例えば、PPまたはポリブチレンテレフタレート(PBT:Polybutyleneterephtalate)が用いられる。
【0022】
水まわり部材200は、無機フィラーをさらに含んでもよい。より具体的には、便蓋本体部31及び便蓋ヒンジ部32は、無機フィラーをさらに含んでもよい。無機フィラーは、無機材料からなるフィラー(充填剤)である。無機フィラーとしては、例えば、ガラス繊維などの繊維状の無機フィラーが用いられる。無機フィラーは、繊維状でなくてもよい。また、無機フィラーは、例えば、針状鉱物、板状鉱物、フリット系鉱物などの鉱物であってもよい。無機フィラーとしてガラス繊維を用いる場合、繊維径が直径6μm以上24μm以下(例えば、13μm程度)、長さが10μm以上3000μm以下(例えば、300μm以上1000μm以下程度)のガラス繊維を用いることが好ましい。便蓋本体部31または便蓋ヒンジ部32に含まれる無機フィラーの量は、結晶性樹脂と無機フィラーの合計の100質量部に対して、5質量部以上30質量部以下(例えば、10質量部程度)であることが好ましい。
【0023】
嵌合部210の表面硬度は、露出部220の表面硬度よりも小さい。露出部220の表面硬度は、鉛筆硬度でB以上であることが好ましい。露出部220の表面硬度は、鉛筆硬度でF以下であることが好ましい。嵌合部210の表面硬度は、鉛筆硬度で2B以下であることが好ましい。嵌合部210の表面硬度は、鉛筆硬度で3B以上であることが好ましい。
【0024】
露出部220の表面硬度は、例えば、露出部220の少なくとも一部の表面硬度であってもよい。露出部220が互いに表面硬度の異なる複数の部分を有する場合、例えば、露出部220のうち表面硬度が最も高い部分の表面硬度を、露出部220の表面硬度とみなすことができる。水まわり部材200が便蓋30の場合、例えば、便蓋上面部31aの表面硬度を、露出部220の表面硬度とみなすことができる。つまり、嵌合部210が便蓋凹部31cの場合、便蓋凹部31cの表面硬度は、例えば、便蓋上面部31aの表面硬度よりも小さい。嵌合部210が便蓋ヒンジ部32の場合、便蓋ヒンジ部32の表面硬度は、例えば、便蓋上面部31aの表面硬度よりも小さい。
【0025】
また、便蓋下面部31bの表面硬度は、例えば、便蓋上面部31aの表面硬度よりも小さい。便蓋凹部31cの表面硬度は、例えば、便蓋下面部31bの表面硬度と同じである。便蓋ヒンジ部32の表面硬度は、例えば、便蓋下面部31bの表面硬度と同じである。
【0026】
便蓋上面部31aの表面硬度は、鉛筆硬度でB以上であることが好ましい。また、便蓋上面部31aの表面硬度は、鉛筆硬度でF以下であることが好ましい。便蓋下面部31bの表面硬度は、鉛筆硬度で2B以下であることが好ましい。また、便蓋下面部31bの表面硬度は、鉛筆硬度で3B以上であることが好ましい。
【0027】
便蓋凹部31cの表面硬度は、鉛筆硬度で2B以下であることが好ましい。また、便蓋凹部31cの表面硬度は、鉛筆硬度で3B以上であることが好ましい。便蓋ヒンジ部32の表面硬度は、鉛筆硬度で2B以下であることが好ましい。また、便蓋ヒンジ部32の表面硬度は、鉛筆硬度で3B以上であることが好ましい。
【0028】
表面硬度は、JIS K 5600-5-4:1999に準拠した鉛筆硬度として求めることができる。なお、JIS K 5600-5-4:1999で規定されていない6B未満の鉛筆硬度は、三菱鉛筆(株)ハイユニ(Hi-uni)シリーズを用いて、JIS K 5600-5-4:1999と同様にして求めることができる。
【0029】
便蓋上面部31aの表面硬度は、例えば、閉状態においてボウル部11の開口部11hと上下方向に重なるいずれかの位置における表面硬度である。便蓋下面部31bの表面硬度は、例えば、閉状態において、便蓋上面部31aの表面硬度を測定した位置と上下方向に重なる位置における表面硬度である。便蓋ヒンジ部32の表面硬度は、例えば、便蓋電動開閉ユニットの出力軸が嵌合されるヒンジ軸受け部の平坦部分における表面硬度である。
【0030】
便座40は、便座本体部41と、便座ヒンジ部42と、便座クッション部材43と、を有する。便座本体部41は、閉状態において、ボウル部11の上方に位置する。便座本体部41は、閉状態において上下方向に貫通する開口部41hを有する。
【0031】
便座ヒンジ部42は、閉状態において、便座本体部41の後方に設けられる。便座ヒンジ部42は、例えば、便座本体部41と一体成形される。便座ヒンジ部42は、例えば、便蓋本体部31とは別で成形され、便座本体部41に取り付けられていてもよい。便座ヒンジ部42は、ケーシング20の内部に収納された便座電動開閉ユニットの出力軸に対して嵌合することで、ケーシング20に対して回動可能に軸支されている。便座電動開閉ユニットは、便座ヒンジ部42を介して便座本体部41を回動させることで、便座40を開閉する。
【0032】
便座クッション部材43は、便座本体部41とは別の部材であり、便座本体部41に取り付けられる。便座クッション部材43は、例えば、エラストマーなどからなり、便座本体部41がボウル部11のリム11aに当たる際の衝撃を緩和する。
【0033】
便座本体部41は、便座上面部41aと、便座下面部41bと、を有する。便座上面部41aは、閉状態において、上方に露出する。便座上面部41aは、閉状態において、上方を向く。便座上面部41aは、使用者が着座する着座面である。便座下面部41bは、閉状態において、下方に露出する。便座下面部41bは、閉状態において、下方を向く。便座下面部41bは、例えば、閉状態においてボウル部11のリム11aと対向する。
【0034】
便座下面部41bには、便座凹部41cが設けられている。便座凹部41cは、閉状態において、上方に窪む。便座凹部41cには、便座クッション部材43が取り付けられている。便座クッション部材43は、例えば、便座凹部41cに嵌合されることで、便座凹部41cに取り付けられる。
【0035】
図3に表したように、便座40は、中空であり、底板45と、上板46と、第1接合部材47と、第2接合部材48と、を有する。底板45は、便座下面部41bを含む。便座下面部41bは、閉状態における底板45の下面に相当する。上板46は、閉状態において底板45の上に位置する。この例では、上板46は、便座上面部41aを含む第1部分46aと、第1部分46aの一端から下方に延びる第2部分46bと、第1部分46aの他端から下方に延びる第3部分46cと、を有する。便座上面部41aは、閉状態における第1部分46aの上面に相当する。第1接合部材47は、便座40の内周側に設けられ、底板45と上板46の第2部分46bとを接合している。第2接合部材48は、便座40の外周側に設けられ、底板45と上板46の第3部分46cとを接合している。便座ヒンジ部42は、例えば、底板45及び上板46により構成される。
【0036】
便座40は、水まわり部材200の一例である。嵌合部210は、例えば、便座凹部41cである。この場合、被嵌合部材250は、例えば、便座クッション部材43である。嵌合部210は、例えば、便座ヒンジ部42であってもよい。この場合、被嵌合部材250は、例えば、便座電動開閉ユニットの出力軸である。露出部220は、例えば、便座上面部41aと、便座下面部41bと、を含む。器具260は、例えば、ケーシング20である。
【0037】
便座本体部41は、結晶性樹脂を含む。便座ヒンジ部42は、例えば、結晶性樹脂を含む。便座本体部41及び便座ヒンジ部42は、無機フィラーをさらに含んでもよい。結晶性樹脂及び無機フィラーとしては、便蓋30の説明で例示したものと同様のものを用いることができる。また、無機フィラーの配合量も、便蓋30の説明で例示したものと同様とすることができる。
【0038】
水まわり部材200が便座40の場合、例えば、便座上面部41aの表面硬度を、露出部220の表面硬度とみなすことができる。つまり、嵌合部210が便座凹部41cの場合、便座凹部41cの表面硬度は、例えば、便座上面部41aの表面硬度よりも小さい。嵌合部210が便座ヒンジ部42の場合、便座ヒンジ部42の表面硬度は、例えば、便座上面部41aの表面硬度よりも小さい。
【0039】
また、便座下面部41bの表面硬度は、例えば、便座上面部41aの表面硬度よりも小さい。便座凹部41cの表面硬度は、例えば、便座下面部41bの表面硬度と同じである。便座ヒンジ部42の表面硬度は、例えば、便座下面部41bの表面硬度と同じである。
【0040】
便座上面部41aの表面硬度は、鉛筆硬度でB以上であることが好ましい。また、便座上面部41aの表面硬度は、鉛筆硬度でF以下であることが好ましい。便座下面部41bの表面硬度は、鉛筆硬度で2B以下であることが好ましい。また、便座下面部41bの表面硬度は、鉛筆硬度で3B以上であることが好ましい。
【0041】
便座凹部41cの表面硬度は、鉛筆硬度で2B以下であることが好ましい。また、便座凹部41cの表面硬度は、鉛筆硬度で3B以上であることが好ましい。便座ヒンジ部42の表面硬度は、鉛筆硬度で2B以下であることが好ましい。また、便座ヒンジ部42の表面硬度は、鉛筆硬度で3B以上であることが好ましい。
【0042】
便座上面部41aの表面硬度は、例えば、閉状態においてボウル部11のリム11aと上下方向に重なるいずれかの位置における表面硬度である。便座下面部41bの表面硬度は、例えば、閉状態において、便座上面部41aの表面硬度を測定した位置と上下方向に重なる位置における表面硬度である。便座ヒンジ部42の表面硬度は、例えば、便座電動開閉ユニットの出力軸が嵌合されるヒンジ軸受け部の平坦部分における表面硬度である。
【0043】
以下、実施形態に係る便蓋30及び便座40の製造工程について説明する。
図4(a)~
図4(c)は、実施形態に係る便蓋の製造工程の一部を表す断面図である。
図4(a)~
図4(c)に表したように、便蓋30は、金型M1及び金型M2を用いて、成形により製造される。金型M1には、加熱部Hと、冷却部C1と、が設けられている。金型M2には、冷却部C2が設けられており、加熱部は設けられていない。
【0044】
製造工程においては、まず、
図4(a)に表したように、加熱部Hにより加熱された金型M1及び加熱されていない金型M2で形成された空間に上記の結晶性樹脂などを含む材料Xを充填する。このとき、材料Xは、金型M1よりも高温に加熱された状態で、金型M1及び金型M2で形成された空間に充填される。言い換えると、材料Xは、熱変形温度(ISOR75)のマイナス70℃以上かつ射出シリンダの温度より低い温度に加熱された金型M1及び加熱されていない金型M2で形成された空間に、射出シリンダにより加熱された状態で充填される。これにより、材料Xは、金型M1に接している側において徐々に冷却されるとともに、金型M2に接している側において急速に冷却される。次に、
図4(b)に表したように、冷却部C1により金型M1を冷却するとともに、冷却部C2により金型M2を冷却することで、金型M1及び金型M2の内部において材料Xを冷却して硬化させる。次に、
図4(c)に表したように、材料Xが硬化することで成形された便蓋30を金型M1及び金型M2から取り出す。
【0045】
このように、加熱部Hにより加熱された金型M1に金型M1よりも高温に加熱された材料Xを充填して材料Xを徐々に冷却し、さらに冷却部C1により金型M1を冷却して材料Xを硬化させることで便蓋30の便蓋上面部31aを成形することで、便蓋30の便蓋上面部31a側の表面付近の結晶化を促進し、便蓋30の便蓋上面部31aの表面硬度を大きくすることができる。また、便蓋上面部31a側の金型M1に加熱部Hを設け、便蓋下面部31b側の金型M2には加熱部を設けないことで、便蓋下面部31b及び便蓋凹部31cの表面硬度を、便蓋上面部31aの表面硬度よりも小さくすることができる。つまり、嵌合部210の表面硬度を、露出部220の表面硬度よりも小さくすることができる。
【0046】
以下、このように金型M1、M2の少なくとも一方に加熱部を設け、材料Xを徐々に冷却して硬化させる成形方法を、「ヒート&クール成形(H&C成形)」と称する。これに対し、金型M1、M2のいずれにも加熱部を設けず、材料Xを急速に冷却して硬化させる成形方法を、「通常成形」と称する。
【0047】
便蓋ヒンジ部32を便蓋本体部31と一体成形する場合、例えば、便蓋ヒンジ部32を成形する金型のヒンジ軸受け部に接触する部分には、加熱部を設けない。これにより、便蓋ヒンジ部32の表面硬度を、便蓋上面部31aの表面硬度よりも小さくすることができる。つまり、嵌合部210の表面硬度を、露出部220の表面硬度よりも小さくすることができる。
【0048】
図4(a)~
図4(c)では、便蓋30の製造工程について説明したが、便座40も同様の方法で製造することができる。便座40は、例えば、上記の方法で底板45と上板46とを作製し、底板45と上板46とを第1接合部材47及び第2接合部材48により接合させることで、製造することができる。このとき、加熱部Hを設けた金型M1で上板46の便座上面部41a側を成形し、加熱部を設けない金型M2で底板45の便座下面部41b側を成形することで、便座下面部41bの表面硬度を、便座上面部41aの表面硬度よりも小さくすることができる。
【0049】
あるいは、上板46を成形する際には、高い寸法精度が求められる嵌合箇所を除いて、金型M1及び金型M2の両方に加熱部を設け、底板45を成形する際には、金型M1及び金型M2の両方に加熱部を設けないことで、便座下面部41bの表面硬度を、便座上面部41aの表面硬度よりも小さくしてもよい。つまり、底板45は、「通常成形」で成形されてもよい。
【0050】
また、金型M1に加熱部Hを設ける代わりに、金型M1の成形品を形成する面に、断熱材をコーティングしてもよい。金型M1の表面に断熱材をコーティングすることで、加熱溶融した材料Xの冷却速度が遅くなるため、H&C成形と同様の効果を得ることができる。
【0051】
また、金型M1に加熱部Hを設ける代わりに、冷却部C1に温水や加圧した温水などを流してもよい。冷却部C1に温水や加圧した温水などを流すことで、金型M1の温度が通常の成形よりも高くなるため、H&C成形と同様の効果を得ることができる。
【0052】
図5は、実験結果の一例を示す表である。
図5の各表に示した材料を用い、通常成形、H&C成形、または断熱成形で成形した各成形品(実験例1~11)において、表面硬度を測定した結果を、
図5に示す。また、各成形品の耐傷つき性、凹部及びヒンジ部の寸法安定性を評価した結果を、
図5に示す。なお、実験例1、11に用いたPP A種、実験例2~5に用いたPP B種、実験例6、8~10に用いたPP C種、及び実験例7に用いたPP D種は、いずれもポリプロピレン(PP)であるが、それぞれ構造が異なる。
【0053】
通常成形では、上面部側(キャビ側)、下面部側(コア側)、及びヒンジ部の金型温度をそれぞれ
図5に記載した温度に設定し、加熱溶融した材料を金型に充填し、冷却部により金型を冷却することで、金型の内部において材料を冷却して硬化させて成形品を得た。なお、凹部の金型温度は、下面部側の金型温度と同じである。
【0054】
H&C成形では、上面部側、下面部側、及びヒンジ部の金型温度をそれぞれ
図5に記載した温度に設定し、加熱溶融した材料を金型に充填して材料を徐々に冷却し、さらに冷却部により金型を冷却することで、金型の内部において材料を冷却して硬化させて成形品を得た。なお、凹部の金型温度は、下面部側の金型温度と同じである。
【0055】
断熱成形では、上面部側の金型に断熱材をコーティングし、上面部側、下面部側、及びヒンジ部の金型温度をそれぞれ
図5に記載した温度に設定し、加熱溶融した材料を金型に充填して材料を徐々に冷却し、金型の内部において材料を冷却して硬化させて成形品を得た。なお、凹部の金型温度は、下面部側の金型温度と同じである。
【0056】
表面硬度は、JIS K 5600-5-4:1999に準拠して測定した。
【0057】
耐傷つき性の評価では、ラビングテスターの先端にフェルトを取り付け、その上から便蓋や便座を掃除する際に使用する可能性の高いトイレットペーパーを被せて、成形品の表面を5往復擦る試験を行い、試験後の成形品の耐傷つき性を評価した。耐傷つき性は、目視にて試験後の成形品を観察し、擦った部分の全体に傷があるものを「×」、擦った部分の一部に傷があるものを「△」、擦った部分の全体に傷がないものを「○」と評価した。試験時の荷重は、上面部では3kgとした。なお、洗面ボウルカウンターや浴室カウンターの拭き掃除で使われるペーパータオルは、トイレットペーパーと同等の硬さを有しているものがあり、ペーパータオルを用いて耐傷つき性の評価を行った場合の結果も、トイレットペーパーを用いて耐傷つき性の評価を行った場合の結果と同じであった。
【0058】
凹部及びヒンジ部の寸法安定性の評価では、それぞれ、得られた成形品を常温で48時間放置し、凹部及びヒンジ部の寸法を測定することで評価した。寸法安定性は、JIS B 0405:1991に記載の許容差が中級以下のものを「○」、許容差が中級よりも大きく粗級の中間以下のものを「△」、許容差が粗級の中間よりも大きいものを「×」と評価した。
【0059】
図5に表したように、上面部の表面硬度、凹部の表面硬度、及びヒンジ部の表面硬度がいずれも6B未満(7B)である実験例1では、凹部やヒンジ部(嵌合部)の寸法安定性は良好であるものの、上面部(露出部)の耐傷つき性が不良であった。また、上面部の表面硬度、凹部の表面硬度、及びヒンジ部の表面硬度がいずれもFである実験例9では、耐傷つき性は良好であるものの、凹部やヒンジ部(嵌合部)の寸法安定性が不良であった。つまり、上面部(露出部)の表面硬度と凹部やヒンジ部(嵌合部)の表面硬度が同じである場合には、露出部の耐傷つき性の向上と、嵌合部の寸法安定性の確保と、の両立が困難であった。
【0060】
これに対し、凹部の表面硬度及びヒンジ部の表面硬度が上面部の表面硬度よりも小さい、実験例2~8、10、11では、上面部(露出部)の耐傷つき性が良好であり、凹部やヒンジ部(嵌合部)の寸法安定性も良好であった。特に、上面部の表面硬度が鉛筆硬度でB以上の実験例2~4、6~8、10では、上面部の表面硬度が鉛筆硬度でB未満の実験例1、5、11に比べて、上面部(露出部)の耐傷つき性が良好であった。また、凹部の表面硬度及びヒンジ部の表面硬度が鉛筆硬度で2B以下の実験例2~7、10では、凹部の表面硬度及びヒンジ部の表面硬度が鉛筆硬度で2Bを超える実験例8、9に比べて、凹部やヒンジ部(嵌合部)の寸法安定性が良好であった。つまり、上面部の表面硬度を鉛筆硬度でB以上とし、凹部やヒンジ部(嵌合部)の表面硬度を鉛筆硬度で3B以上2B以下とすることで、耐傷つき性と凹部やヒンジ部(嵌合部)の寸法安定性の両方をよりバランスよく達成できることが示唆された。
【0061】
また、実験例4、11の結果から、ガラス繊維などの無機フィラーを添加することで、無機フィラーを添加しない場合と比べて、表面硬度が高くなることが示唆された。
【0062】
なお、上記の説明では、水まわり部材200が便座または便蓋である場合を例に挙げて説明したが、水まわり部材は、これらに限定されない。水まわり部材は、例えば、洗面ボウルカウンター、浴室カウンター、及びトイレ装置の後部に設けられる手洗い鉢などであってもよい。言い換えれば、水まわり部材は、例えば、便座、便蓋、洗面ボウルカウンター、浴室カウンター、及びトイレ装置の後部に設けられる手洗い鉢などに適用できる。
【0063】
水まわり部材200が洗面ボウルカウンターの場合、器具260は、例えば、洗面ボウルカウンターの下方に設けられたキャビネットである。露出部220は、例えば、ボウルやカウンターの表面である。被嵌合部材250は、例えば、排水栓部品または排水管部品である。嵌合部210は、例えば、ボウルに設けられた排水口である。
【0064】
水まわり部材200が浴室カウンターの場合、器具260は、例えば、浴室の壁である。露出部220は、例えば、カウンター(天板)である。被嵌合部材250は、例えば、カウンターを支持する支持台である。この場合、嵌合部210は、例えば、カウンター(天板)下面の支持台に固定される部分である。また、被嵌合部材250は、例えば、カウンターに取り付けられる化粧カバーであってもよい。この場合、嵌合部210は、例えば、化粧カバーが嵌る凹部である。
【0065】
水まわり部材200が手洗い鉢の場合、器具260は、例えば、手洗い鉢の下方に設けられた便器のタンク部である。露出部220は、例えば、手洗い鉢の表面である。被嵌合部材250は、例えば、タンク部の上部に設けられた被嵌合部である。嵌合部210は、例えば、手洗い鉢の下部に設けられた凹部である。
【0066】
以上説明した実施形態に基づく水まわり部材として、例えば以下に述べる態様のものが考えられる。
【0067】
第1の態様は、結晶性樹脂を含む水まわり部材であって、被嵌合部材が嵌合される嵌合部と、前記嵌合部以外の部分であって、器具に取り付けられた状態で露出した位置に設けられる露出部と、を備え、前記嵌合部の表面硬度は、前記露出部の表面硬度よりも小さいことを特徴とする水まわり部材である。
【0068】
第1の態様によれば、露出部の表面硬度を相対的に大きくすることで、トイレットペーパーや硬質の不織布で拭き取り作業を行った場合であっても、露出部の表面に傷がつくことを抑制できる。これにより、使用者から見えやすい露出部において、耐傷つき性を向上させることができ、美観が損なわれることを抑制できる。一方、通常の使用状態において、嵌合部は、被嵌合部材によって隠蔽されている。そのため、嵌合部に対しては、拭き取り作業が行われにくい。また、仮に、拭き取り作業が行われて嵌合部の表面に傷がついたとしても、使用者からは見えにくい位置であるため、美観が損なわれるおそれが小さい。つまり、嵌合部は、表面硬度を相対的に小さくしても、美観に与える影響が小さい。このように、嵌合部においては、表面硬度を相対的に小さくすることができるため、例えば、嵌合部を成形する際に、樹脂を硬化させる際の金型の温度を相対的に低くすることができる。これにより、嵌合部において、収縮量の増大による経時的な寸法変化を低減することができ、寸法精度を向上させることができる。したがって、嵌合部を所望の形状で形成することができ、被嵌合部材を適切に嵌合部に嵌合させることができる。このように、第1の態様によれば、露出部の耐傷つき性の向上と、嵌合部の寸法安定性の確保と、を両立できる。
【0069】
第2の態様は、第1の態様において、前記露出部の表面硬度は、鉛筆硬度でB以上であり、前記嵌合部の表面硬度は、鉛筆硬度で2B以下であることを特徴とする水まわり部材である。
【0070】
第2の態様によれば、露出部の表面硬度を鉛筆硬度でB以上とすることで、トイレットペーパーや硬質の不織布等により強い力で拭き取り作業を行った場合であっても、露出部の表面に傷がつくことを抑制できる。また、嵌合部の表面硬度を鉛筆硬度で2B以下とすることで、嵌合部において、寸法精度をより確実に向上させることができる。つまり、露出部の耐傷つき性の向上と、嵌合部の寸法安定性の確保と、をよりバランスよく達成できる。
【0071】
第3の態様は、第2の態様において、前記露出部の表面硬度は、鉛筆硬度でF以下であることを特徴とする水まわり部材である。
【0072】
第3の態様によれば、露出部の表面硬度を鉛筆硬度でF以下とすることで、露出部において、表面に傷がつくことを抑制しつつ、より容易に水まわり部材を製造できる。例えば、安価なPP材料をベースに、ガラス繊維の添加やH&C成形といった公知の技術を組み合わせることで、低コストで十分な硬度を有する露出部を備えた水まわり部材を製造できる。
【0073】
第4の態様は、第2または第3の態様において、前記嵌合部の表面硬度は、鉛筆硬度で3B以上であることを特徴とする水まわり部材である。
【0074】
第4の態様によれば、嵌合部の表面硬度を鉛筆硬度で3B以上とすることで、被嵌合部材を外して嵌合部の拭き取り作業を行った場合であっても、嵌合部の表面に傷がつくことを抑制できる。これにより、嵌合部の表面に傷がつき、被嵌合部材を適切に嵌合できなくなることを抑制できる。
【0075】
以上説明したように、実施形態によれば、露出部の耐傷つき性の向上と、嵌合部の寸法安定性の確保と、を両立できる水まわり部材が提供される。
【0076】
以上、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの記述に限定されるものではない。前述の実施の形態に関して、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、水まわり部材などが備える各要素の形状、寸法、材質、配置、設置形態などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。
また、前述した各実施の形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0077】
10 便器、 11 ボウル部、 11a リム、 11h 開口部、 20 ケーシング、 30 便蓋、 31 便蓋本体部、 31a 便蓋上面部、 31b 便蓋下面部、 31c 便蓋凹部、 32 便蓋ヒンジ部、 33 便蓋クッション部材、 40 便座、 41 便座本体部、 41a 便座上面部、 41b 便座下面部、 41c 便座凹部、 41h 開口部、 42 便座ヒンジ部、 43 便座クッション部材、 45 底板、 46 上板、 46a~46c 第1~第3部分、 47、48 第1、第2接合部材、 100 トイレ装置、 200 水まわり部材、 210 嵌合部、 220 露出部、 250 被嵌合部材、 260 器具、 C1、C2 冷却部、 H 加熱部、 M1、M2 金型、 X 材料