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特開2022-135296低酸素訓練システム、低酸素訓練方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022135296
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】低酸素訓練システム、低酸素訓練方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   A63B 71/06 20060101AFI20220908BHJP
   A63B 69/00 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
A63B71/06 J
A63B69/00 C
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021035027
(22)【出願日】2021-03-05
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】521020767
【氏名又は名称】Kuru-Lab株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100136180
【弁理士】
【氏名又は名称】羽立 章二
(72)【発明者】
【氏名】柏野 知亮
(72)【発明者】
【氏名】山川 俊貴
(57)【要約】
【課題】 低酸素ルームを利用した低酸素トレーニングにおいて、安全性を確保したりトレーニング効果を高めたりすることに適した低酸素訓練システムなどを提案する。
【解決手段】 低酸素訓練システム1は、低酸素ルーム3において運動者11が低酸素トレーニングを行うためのものである。酸素濃度制御装置15は、低酸素ルーム3における酸素濃度を制御する。生体測定装置19は、低酸素トレーニングを行っている運動者11を測定して生体測定データを得る。運動管理装置7は、生体測定データを使用して酸素濃度制御装置15に指示して低酸素トレーニングを行っているときの低酸素ルーム3における酸素濃度を変更する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
低酸素ルームにおいて運動者が低酸素トレーニングを行う低酸素訓練システムにおいて、
前記低酸素ルームにおける酸素濃度を制御する酸素濃度制御装置と、
前記低酸素トレーニングを行っている前記運動者を測定して生体測定データを得る生体測定装置と、
前記生体測定データを使用して前記酸素濃度制御装置に指示して前記低酸素トレーニングを行っているときの前記低酸素ルームにおける酸素濃度を変更する運動管理装置を備える低酸素訓練システム。
【請求項2】
前記運動管理装置は、運動者が低酸素トレーニングを行う前に得られた前記低酸素ルームにおける酸素濃度の推移を含む環境制御計画データに対して、低酸素トレーニングを行っているときの前記生体測定データの推移を利用して前記環境制御計画データを調整して前記酸素濃度の指示をする、請求項1記載の低酸素訓練システム。
【請求項3】
前記運動管理装置は、前記運動者がインターバルを挟みながら複数回の運動を行う低酸素トレーニングを行うときに、
前記運動者が以前の低酸素トレーニングにおいて得られた生体測定データにおいてインターバル前の運動においてインターバル後の運動のときよりもSpO2の値が低下する傾向がある場合に、インターバル前の運動における酸素濃度を、インターバル後の運動における酸素濃度よりも高い状態にし、
前記運動者が以前の低酸素トレーニングにおいて得られた生体測定データにおいてインターバル後の運動においてインターバル前の運動よりもSpO2の値が低下する傾向がある場合に、インターバル後の運動における酸素濃度を、インターバル前の運動における酸素濃度よりも高い状態にする、請求項2記載の低酸素訓練システム。
【請求項4】
低酸素ルームにおいて運動者が低酸素トレーニングを行う低酸素訓練方法であって、
運動管理装置が、生体測定装置が前記低酸素トレーニングを行っている前記運動者を測定して得られる生体測定データを利用して、前記低酸素ルームにおける酸素濃度を制御する酸素濃度制御装置に指示して前記低酸素トレーニングを行っているときの前記低酸素ルームにおける酸素濃度を変更するステップを含む低酸素訓練方法。
【請求項5】
コンピュータを、請求項1から3のいずれかに記載の運動管理装置として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、低酸素訓練システム、低酸素訓練方法及びプログラムに関し、特に、低酸素ルームにおいて運動者が低酸素トレーニングを行う低酸素訓練システム等に関する。
【背景技術】
【0002】
低酸素環境下でのトレーニング(低酸素トレーニング)は、高地トレーニングがベースとなっている。近時、低酸素ルームを利用した低酸素トレーニングが注目を集めている(特許文献1、特許文献2など参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6725731号公報
【特許文献2】特開2018-117728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の低酸素トレーニングは、高地トレーニングと同様に酸素濃度は一定として運動内容を中心に工夫するものであり、さらに、複数の運動を行うときのインターバルにおいて回復することを暗黙の前提にするものであった。
【0005】
しかしながら、発明者らは、実験により、低酸素トレーニングにおける生体測定値の推移は個人差が大きく、危険な状態になったりトレーニング効果が得られなくなったりする可能性があることを確認した。
【0006】
そこで、本願発明は、低酸素ルームを利用した低酸素トレーニングにおいて、安全性を確保したりトレーニング効果を高めたりすることに適した低酸素訓練システムなどを提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明の第1の観点は、低酸素ルームにおいて運動者が低酸素トレーニングを行う低酸素訓練システムにおいて、前記低酸素ルームにおける酸素濃度を制御する酸素濃度制御装置と、前記低酸素トレーニングを行っている前記運動者を測定して生体測定データを得る生体測定装置と、前記生体測定データを使用して前記酸素濃度制御装置に指示して前記低酸素トレーニングを行っているときの前記低酸素ルームにおける酸素濃度を変更する運動管理装置を備える。
【0008】
本願発明の第2の観点は、第1の観点の低酸素訓練システムであって、前記運動管理装置は、運動者が低酸素トレーニングを行う前に得られた前記低酸素ルームにおける酸素濃度の推移を含む環境制御計画データに対して、低酸素トレーニングを行っているときの前記生体測定データの推移を利用して前記環境制御計画データを調整して前記酸素濃度の指示をする。。
【0009】
本願発明の第3の観点は、第2の観点の低酸素訓練システムであって、前記運動管理装置は、前記運動者がインターバルを挟みながら複数回の運動を行う低酸素トレーニングを行うときに、前記運動者が以前の低酸素トレーニングにおいて得られた生体測定データにおいてインターバル前の運動においてインターバル後の運動のときよりもSpO2の値が低下する傾向がある場合に、インターバル前の運動における酸素濃度を、インターバル後の運動における酸素濃度よりも高い状態にし、前記運動者が以前の低酸素トレーニングにおいて得られた生体測定データにおいてインターバル後の運動においてインターバル前の運動よりもSpO2の値が低下する傾向がある場合に、インターバル後の運動における酸素濃度を、インターバル前の運動における酸素濃度よりも高い状態にする。
【0010】
本願発明の第4の観点は、低酸素ルームにおいて運動者が低酸素トレーニングを行う低酸素訓練方法であって、 運動管理装置が、生体測定装置が前記低酸素トレーニングを行っている前記運動者を測定して得られる生体測定データを利用して、前記低酸素ルームにおける酸素濃度を制御する酸素濃度制御装置に指示して前記低酸素トレーニングを行っているときの前記低酸素ルームにおける酸素濃度を変更するステップを含む。
【0011】
本願発明の第5の観点は、コンピュータを、第1から第3のいずれかの観点の運動管理装置として機能させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0012】
本願発明の各観点によれば、低酸素トレーニングを行っているときに低酸素ルームの酸素濃度を変更することにより、安全な状態で、効率よくトレーニング効果が得られる低酸素トレーニングを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本願の発明の実施の形態に係る低酸素訓練システム1の(a)構成の一例を示すブロック図と、(b)~(e)運動者11の経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)の時間推移の一例を示すグラフと、(f)運動管理装置7の動作の一例を示すフロー図である。
図2】20歳から39歳までの男性について、運動の前後における、酸素濃度20%、18%、16%の心拍数、スピード及びSpO2の推移を示す図である。
図3】20歳から39歳までの女性について、運動の前後における、酸素濃度20%、18%、16%の心拍数、スピード及びSpO2の推移を示す図である。
図4】29歳~30歳の男女のSpO2(上段)、心拍数(中段)、速度(下段)の推移を示すグラフである。
図5図4における1回目の運動の開始時の拡大図である。
図6図4における1回目の運動の終了時の拡大図である。
図7図4における3回目の運動の開始時の拡大図である。
図8】39歳~40歳の男性のSpO2(上段)、心拍数(中段)、速度(下段)の推移を示すグラフである。
図9図8における1回目の運動の開始時の拡大図である。
図10図8における1回目の運動の終了時の拡大図である。
図11図8における3回目の運動の開始時の拡大図である。
図12】39歳~40歳の女性のSpO2(上段)、心拍数(中段)、速度(下段)の推移を示すグラフである。
図13図12における1回目の運動の開始時の拡大図である。
図14図12における1回目の運動の終了時の拡大図である。
図15図12における3回目の運動の開始時の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下では、図面を参照して、本願発明の実施例について説明する。なお、本願発明は、この実施例に限定されるものではない。
【実施例0015】
図1は、本願の発明の実施の形態に係る低酸素訓練システム1の(a)構成の一例を示すブロック図と、(b)~(e)運動者11の経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)の時間推移の一例を示すグラフと、(f)運動管理装置7の動作の一例を示すフロー図である。
【0016】
図1(a)を参照して、低酸素訓練システム1は、低酸素ルーム3と、利用者情報管理装置5と、運動管理装置7と、運動装置13と、酸素濃度制御装置15と、環境測定装置17と、生体測定装置19を備える。各装置は、通信によってデータを送受信することができる。
【0017】
低酸素ルーム3において、運動者11は、運動装置13を利用して運動を行う。運動は、例えば歩行や走行などである。運動装置13は、運動者11による運動の内容(例えば歩行速度の推移など)を運動管理装置7に送信する。
【0018】
酸素濃度制御装置15は、運動管理装置7の制御により、運動者11が運動を行う前、行っている間、行った後における低酸素ルーム3の酸素濃度を制御する。大気中の酸素濃度は20%であり、酸素濃度制御装置15は、低酸素ルーム3における酸素濃度を、大気中の酸素濃度と実質的に同一視できる酸素濃度としたり、大気中の酸素濃度よりも低い酸素濃度(低酸素環境。例えば16%、18%など。)としたりすることができる。
【0019】
環境測定装置17は、低酸素ルーム3内の環境を測定する。例えば、低酸素ルーム3内の酸素濃度を測定する。環境測定装置17は、測定結果である環境測定データを運動管理装置7に送信する。
【0020】
生体測定装置19は、運動者11の生体情報を測定する。例えば、運動者11のSpO2を測定する。生体測定装置19は、測定結果である生体測定データを運動管理装置7に送信する。
【0021】
低酸素環境下でのトレーニング(低酸素トレーニング)は、高地トレーニングがベースとなっている。標高が高く空気の薄い場所では、酸素濃度が低くなる。このような低酸素環境下でトレーニングを行うことにより、身体がより多くの酸素を取り込もうとして最大酸素摂取量が増え、持久力の強化などにつながるとされている。ただし、高地トレーニングでは気圧も下がるために身体への負担も大きくなる。低酸素ルームを利用することにより高地へ行くことなく低酸素環境下でのトレーニングが実現できるため、低酸素ルームを利用した低酸素トレーニングが注目を集めている。
【0022】
低酸素ルームを利用した低酸素トレーニングでは、インターバルを挟みつつ運動を繰り返すことにより、運動によって失われた酸素をインターバルで取り込ませることを繰り返し、最大酸素摂取量を増加することが行われている。
【0023】
図1(b)~(e)は、低酸素環境で運動者11が環境に順化する時間帯p1と、1回目の5分間の歩行運動の時間帯p2と、1分間のインターバル(運動休止状態)の時間帯p3と、2回目の5分間の歩行運動の時間帯p4と、運動後の回復時間帯p5における、運動者11の経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)の時間推移の一例を示すグラフである。
【0024】
発明者らは、実験により、図1(b)にあるように、一般的には、SpO2の値は運動中に下がり、運動後に回復する傾向があることを確認した。しかしながら、運動者によってはインターバルにおいて十分に回復しない例が存在することを見出した。十分に回復しないままに運動を繰り返すと、SpO2の値が乱高下したり、図1(c)にあるようにSpO2が減少したり、図1(d)にあるようにSpO2が低いままで運動をしたり、図1(e)にあるように危険な状態にまで減少する可能性もある。
【0025】
しかしながら、従来の低酸素トレーニングは、高地トレーニングと同様に酸素濃度は一定として運動内容を中心に工夫するものであり、さらに、インターバルにおいて自然に回復することを暗黙の前提にするものであった。そのため、インターバルでは十分に回復しない運動者は、SpO2が乱高下したり極めて低い状態となったりすることになり、危険な状態になったり、トレーニング効果が得られなくなったりする可能性があった。本願発明は、運動者の過去及び現在の生体の状態(特にSpO2の値)に応じて低酸素ルーム3の酸素濃度を変更することにより、安全な状態で、効率よくトレーニング効果が得られる低酸素トレーニングを実現することができる。
【0026】
利用者情報管理装置5は、利用者ごとに、低酸素トレーニングを行ったときのデータを管理している。例えば、以前に行ったときの運動の内容の推移とSpO2の推移などを記録している。
【0027】
図1(f)を参照して、運動管理装置7の動作について、運動者11がn回(nは2以上の自然数)の歩行運動を5分間行い、歩行運動の間にインターバルとして1分間休止することを例に具体的に説明する。
【0028】
運動管理装置7は、利用者情報管理装置5に記録された、運動者11が以前に行った運動により得られた利用者情報を読み出す。運動管理装置7は、読み出した運動者11の過去の運動により得られたデータを利用して、今回の運動者11による運動における低酸素ルーム3の環境の推移を示す環境制御計画データ(例えば、低酸素ルーム3における酸素濃度の推移)を作成する(ステップST1)。環境制御計画データは、例えば、運動者11が1回目の運動を開始する時点での酸素濃度である初期酸素濃度と、i回目(iはn以下の自然数)の運動及びインターバルのときの酸素濃度である第i酸素濃度と、n回の運動後の回復期酸素濃度と、各回の運動及びインターバルでの生体測定データの計画値を含む。生体測定データの計画値は、例えば、上限値及び/又は下限値によって特定されるものであってもよい。また、各回の運動及びインターバルの組み合わせにおいて一定であってもよく、時間経過に従って変化するものであってもよい。
【0029】
運動管理装置7は、環境制御計画データに従って酸素濃度制御装置15を制御して、低酸素ルーム3における酸素濃度を初期酸素濃度にする(ステップST2)。運動者11は、運動を開始する前に、低酸素ルーム3の環境に順化する。運動管理装置7は、環境測定装置17から受信したデータを利用して低酸素ルーム3が初期酸素濃度となったことを確認する。
【0030】
運動管理装置7は、低酸素ルーム3に画像などを表示したり音を鳴らしたりして、運動者11に1回目の歩行運動を開始するように指示する(ステップST3)。
【0031】
運動管理装置7は、環境制御計画データに従って酸素濃度制御装置15に指示して、運動者11が1回目の運動を行う状態で、低酸素ルーム3を第1酸素濃度とする(ステップST4)。運動管理装置7は、環境測定装置17から受信したデータを利用して低酸素ルーム3が第1酸素濃度となったことを確認する。
【0032】
運動管理装置7は、運動者11に1回目の歩行運動を終了するように指示する(ステップST5)。変数iを1とする(ステップST6)。
【0033】
運動管理装置7は、インターバル時間である1分間が経過すると(ステップST7)、変数iを1増加させて(ステップST8)、運動者11に2回目の歩行運動を開始するように指示する(ステップST9)。
【0034】
運動管理装置7は、1回目の運動を開始してからインターバルが終了するまでに生体測定装置19が測定した運動者11の生体測定データを分析して、運動者11がインターバルまでに計画どおりに回復できているか否かを判定し、2回目以降の運動での酸素濃度である第2酸素濃度~第n酸素濃度を調整して、調整後の環境制御計画データとする(ステップST10)。
【0035】
運動管理装置7は、調整後の環境制御計画データに従って酸素濃度制御装置15に指示して、低酸素ルーム3を調整後の第2酸素濃度とする(ステップST11)。運動管理装置7は、環境測定装置17から受信したデータを利用して低酸素ルーム3が第2酸素濃度となったことを確認する。
【0036】
運動管理装置7は、運動者11に2回目の歩行運動を終了するように指示する(ステップST12)。
【0037】
運動管理装置7は、n回の運動が終了したか否かを判定する(ステップST13)。n回の運動が終了したのであれば、処理を終了する。運動がn回未満であればステップST7に戻り、以降の運動においても同様に処理を行う。すなわち、運動管理装置7は、インターバル時間である1分間が経過すると(ステップST7)、変数iを1増加させて(ステップST8)、運動者11にi回目の運動を開始するように指示する(ステップST9)。運動管理装置7は、1回目の運動を開始してからi-1回目のインターバルが終了するまでに生体測定装置19が測定した運動者11の生体測定データを分析して、運動者11がi-1回目のインターバルまでに計画どおりか否かを判定し、第i酸素濃度~第n酸素濃度を調整して、調整後の環境制御計画データを生成する(ステップST10)。運動管理装置7は、調整後の環境制御計画データに従って酸素濃度制御装置15に指示して、低酸素ルーム3を調整後の第i酸素濃度とする(ステップST11)。運動管理装置7は、運動者11にi回目の歩行運動を終了するように指示する(ステップST12)。これらの処理を繰り返し、運動者11にn回の運動を行わせる。
【0038】
ステップST1において、運動者11自身やトレーナーが運動者11の運動内容(例えば歩行か走行か、運動の時間、インターバルの時間、順化や回復の時間、酸素濃度を高めにするか低めにするか、など)を決定して運動管理装置7に入力し、運動管理装置7は、入力された運動内容に応じて環境制御計画データの案を作成して運動者11らに表示し、運動者11らはこれを調整して環境制御計画データとするものであってもよい。
【0039】
ステップST10では、運動管理装置7は、例えば、インターバル終了時の生体測定装置19により測定された運動者11のSpO2の測定値によって酸素濃度を調整する。生体測定データは、測定ミスなども生じやすいため、例えば、測定ミスや誤差や一時的な変化などを除けばSpO2の測定値が計画値の範囲内にあると評価できるならば環境制御計画データにおける第i酸素濃度を維持し、測定ミスなどを除いてSpO2の測定値が計画値を下回って危険な運動となる可能性が生じたと評価できるならば環境制御計画データにおける第i酸素濃度を高くしてSpO2の低下を抑えるようにする。また、例えば計画値の範囲内でも、SpO2の値の変化が大きく、急な低下が予想される場合には、環境制御計画データにおける第i酸素濃度を高くしてSpO2の低下を抑えるようにする。
【0040】
また、運動者11らが、運動者11に余裕があるならば負荷を増大することを指示するならば、生体測定データにおいてSpO2の低下と回復の傾向が明確に表れていると評価できれば、運動管理装置7は、第i酸素濃度を、環境制御計画データよりも低くするように調整してもよい。
【0041】
図2図15を参照して、発明者らが行った実験について説明する。実験において、被験者は、5分間の順化の後、歩行(3~4km/時)又は早歩き(5~6km/時)の運動を15分(5分ごとに1分程度停止)行い、室内で10分間以上の安静を行った。このとき、運動装置13からは被験者の速度の推移を取得し、生体測定装置19は、被験者の生体測定データとして、被験者の心拍数とSpO2の推移を測定した。
【0042】
図2及び図3は、データの大まかな推移を示すものである。図2(a)、(b)及び(c)は、それぞれ、20歳から39歳までの男性について、運動の前後における、酸素濃度20%(実線)、18%(破線)、16%(一点破線)の心拍数、スピード及びSpO2の推移を示す。図2(a)、(b)及び(c)にあるように、効果的な心拍数を維持でき、SpO2が危険な値に下がらないようにスピードを制御して運動を行った。図2(c)にあるように、酸素濃度がたかければSpO2は低下しにくく、酸素濃度が低いほどSpO2が低下する傾向が確認できた。酸素濃度を高くすれば、運動者11のSpO2を低下しないようにできる。
【0043】
図2(d)、(e)及び(f)は、それぞれ、20歳から39歳までの女性について、運動の前後における、酸素濃度20%(実線)、18%(破線)、16%(一点破線)の心拍数、スピード及びSpO2の推移を示す。図3(a)、(b)及び(c)は、それぞれ、40歳から59歳までの男性について、運動の前後における、酸素濃度20%(実線)、18%(破線)、16%(一点破線)の心拍数、スピード及びSpO2の推移を示す。図3(d)、(e)及び(f)は、それぞれ、40歳から59歳までの女性について、運動の前後における、酸素濃度20%(実線)、18%(破線)、16%(一点破線)の心拍数、スピード及びSpO2の推移を示す。これらの実験結果からも、酸素濃度を高くすれば運動者のSpO2が低下しないようにできることを確認した。
【0044】
図4図7は、29歳~30歳の男女のSpO2(上段)、心拍数(中段)、速度(下段)の推移を示すグラフである。被験者は4人で、各図において(a)、(b)、(c)及び(d)は同じ被験者から得られたものであり、図4は全体を示すグラフ、図5は1回目の運動の開始時の拡大図、図6は1回目の運動の終了時の拡大図、図7は3回目の運動の開始時の拡大図である。
【0045】
各図の(a)の被験者は、SpO2がインターバルにおいて十分に回復しており、理想的な傾向を示している。他方、(b)の被験者は、1回目のインターバルでは十分に回復しているものの、2回目のインターバルでは回復できていないままに3回目の運動が始まり、3回目の運動では乱高下が生じている。このような被験者には、例えば2回目及び/又は3回目の運動において酸素濃度を上昇させて、回復を促したり、安全に運動できる状態にしたりする。(c)の被験者は、明確な上下動がなく、回復できていない可能性が高い。このような被験者には、例えば2回目及び/又は3回目の運動において酸素濃度を上昇させて、回復を促したり、安全に運動できる状態にしたりする。(d)の被験者は、SpO2の値は上下動しているが、1回目、2回目、3回目と運動を繰り返すとSpO2が徐々に低下し、危険な状態に近づいている。そのため、酸素濃度を徐々に増加することにより、安全な環境でのトレーニングを実現することができる。
【0046】
このように、一般的な傾向とは異なり、個々の被験者は、SpO2の値の推移が様々である。そのため、SpO2の急な変化により身体の危険な状況を避けるためには、酸素濃度の制御が有効である。
【0047】
図8図11は、39歳~40歳の男性のSpO2(上段)、心拍数(中段)、速度(下段)の推移を示すグラフである。被験者は3人で、各図において(a)、(b)及び(c)は同じ被験者から得られたものであり、図8は全体を示すグラフ、図9は1回目の運動の開始時の拡大図、図10は1回目の運動の終了時の拡大図、図11は3回目の運動の開始時の拡大図である。
【0048】
いずれの被験者も、SpO2の値は、十分に低下しているものの、運動しているときとインターバルのときでSpO2の変化の傾向が明確には表れていない。そのため、例えば2回目、3回目の運動で酸素濃度を高くすることにより、SpO2の低下を防止することが期待できる。また、例えば1回目の運動では酸素濃度を低くして十分にSpO2の値を低下させ、2回目の運動では酸素濃度を高くしてSpO2を回復させ、3回目の運動では酸素濃度を再度低くして十分にSpO2の値を低下させることにより、効果的な低酸素トレーニングを実現することなどが期待できる。また、(b)の被験者は、1回目の運動においてSpO2の著しい低下がみられるが、その後の運動ではSpO2の低下は緩和されている。そのため、この場合には1回目の運動では酸素濃度を高くしてSpO2の低下を避け、徐々に酸素濃度を低下させることにより、安全なトレーニング環境を実現することができる。
【0049】
図12図15は、39歳~40歳の女性のSpO2(上段)、心拍数(中段)、速度(下段)の推移を示すグラフである。被験者は4人で、各図において(a)、(b)、(c)及び(d)は同じ被験者から得られたものであり、図12は全体を示すグラフ、図13は1回目の運動の開始時の拡大図、図14は1回目の運動の終了時の拡大図、図15は3回目の運動の開始時の拡大図である。
【0050】
各図の(a)の被験者は、1回目の運動を開始した直後にSpO2が著しく低下し、危険な状態に近づいている。この場合には1回目の運動では酸素濃度を高くしてSpO2の低下を避け、徐々に酸素濃度を低下させることにより、安全なトレーニング環境を実現することができる。(b)の被験者は、SpO2がインターバルにおいて十分に回復しており、理想的な傾向を示している。(c)の運動者は、1回目のインターバルでは十分に回復しているものの、2回目のインターバルでは回復できていないままに3回目の運動が始まり、3回目の運動では乱高下が生じている。このような場合には、例えば酸素濃度を上昇させて、回復を促したり、安全に運動できる状態にしたりする。(d)の被験者は、明確な上下動がなく、効果的なトレーニングが得られていない可能性がある。このような場合には、例えば酸素濃度を増減して効果的なトレーニングを実現することが期待される。
【符号の説明】
【0051】
1 低酸素訓練システム、3 低酸素ルーム、5 利用者情報管理装置、7 運動管理装置、11 運動者、13 運動装置、15 酸素濃度制御装置、17 環境測定装置、19 生体測定装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
【手続補正書】
【提出日】2021-11-30
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
低酸素ルームにおいて運動者が低酸素トレーニングを行う低酸素訓練システムにおいて、
前記低酸素ルームにおける酸素濃度を制御する酸素濃度制御装置と、
前記低酸素トレーニングを行っている前記運動者を測定して生体測定データを得る生体測定装置と、
前記生体測定データを使用して前記酸素濃度制御装置に指示して前記低酸素トレーニングを行っているときの前記低酸素ルームにおける酸素濃度を変更する運動管理装置を備え
前記運動管理装置は、前記運動者がインターバルを挟みながら複数回の運動を行う低酸素トレーニングを行うときに、インターバルにおいて測定されたSpO2の値が回復しない傾向のある前記運動者に対して、前記酸素濃度制御装置に指示して少なくともインターバルにおける酸素濃度を上昇させて、インターバルにおいて測定されるSpO2の値を回復させる、低酸素訓練システム。
【請求項2】
前記運動管理装置は、前記運動者が過去に行った運動及びインターバルにおいて、第1回目のインターバルでは測定されたSpO2の値が回復する傾向があり、第2回目以降の一部又は全部のインターバルにおいて回復しない傾向がある場合に、前記運動者が行う運動及びインターバルにおいて、第1回目での運動及びインターバルでの酸素濃度に比較して、第2回目以降の一部又は全部の運動及びインターバルにおいて前記酸素濃度制御装置に指示して酸素濃度を上昇させる、請求項1記載の低酸素訓練システム。
【請求項3】
低酸素ルームにおいて運動者が低酸素トレーニングを行う低酸素訓練方法であって、
運動管理装置が、生体測定装置が前記低酸素トレーニングを行っている前記運動者を測定して得られる生体測定データを利用して、前記低酸素ルームにおける酸素濃度を制御する酸素濃度制御装置に指示して前記低酸素トレーニングを行っているときの前記低酸素ルームにおける酸素濃度を変更するステップを含み
前記運動管理装置は、前記運動者がインターバルを挟みながら複数回の運動を行う低酸素トレーニングを行うときに、インターバルにおいて測定されたSpO2の値が回復しない傾向のある前記運動者に対して、前記酸素濃度制御装置に指示して少なくともインターバルにおける酸素濃度を上昇させて、インターバルにおいて測定されるSpO2の値を回復させる、低酸素訓練方法。
【請求項4】
前記運動管理装置は、前記運動者が過去に行った運動及びインターバルにおいて、第1回目のインターバルでは測定されたSpO2の値が回復する傾向があり、第2回目以降の一部又は全部のインターバルにおいて回復しない傾向がある場合に、前記運動者が行う運動及びインターバルにおいて、第1回目での運動及びインターバルでの酸素濃度に比較して、第2回目以降の一部又は全部の運動及びインターバルにおいて前記酸素濃度制御装置に指示して酸素濃度を上昇させる、請求項3記載の低酸素訓練方法。
【請求項5】
コンピュータを、請求項1又は2に記載の運動管理装置として機能させるためのプログラム。