(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022135344
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】カリウム濃度推定方法およびカリウム濃度推定装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/27 20060101AFI20220908BHJP
G01N 33/02 20060101ALI20220908BHJP
A01G 22/05 20180101ALI20220908BHJP
【FI】
G01N21/27 B
G01N21/27 F
G01N33/02
A01G22/05 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021035087
(22)【出願日】2021-03-05
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】516191227
【氏名又は名称】株式会社Happy Quality
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100110582
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 昌聰
(72)【発明者】
【氏名】岡野 陽平
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 仁
(72)【発明者】
【氏名】與儀 修
(72)【発明者】
【氏名】秋草 文
(72)【発明者】
【氏名】宮地 誠
【テーマコード(参考)】
2B022
2G059
【Fターム(参考)】
2B022AA01
2B022AB15
2B022EA10
2B022EB10
2G059AA01
2G059BB08
2G059BB11
2G059CC02
2G059EE02
2G059EE11
2G059GG01
2G059GG02
2G059GG07
2G059HH02
2G059KK01
2G059MM12
(57)【要約】
【課題】非破壊かつ非接触で果実のカリウム濃度を推定するのに好適な方法を提供する。
【解決手段】カリウム濃度推定方法は、光照射工程S1、反射光強度測定工程S2およびカリウム濃度推定工程S3を備える。光照射工程S1では、光源から出力された複数の波長の光を植物の果実以外の被測定部分に照射する。射光強度測定工程S2では、光照射工程S1による光照射に応じて生じた被測定部分からの反射光を受光して、複数の波長それぞれの反射光強度を測定する。カリウム濃度推定工程S3では、反射光強度測定工程S2により測定された反射光強度に基づいて複数の波長それぞれの吸光度を求め、複数の波長それぞれの吸光度と予め用意しておいた検量線とに基づいて、果実に含まれるカリウムの濃度を推定する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物の果実に含まれるカリウムの濃度を推定する方法であって、
光源から出力された複数の波長の光を前記植物の前記果実以外の被測定部分に照射する光照射工程と、
前記光照射工程による光照射に応じて生じた前記被測定部分からの反射光を受光して、前記複数の波長それぞれの反射光強度を測定する反射光強度測定工程と、
前記反射光強度測定工程により測定された反射光強度に基づいて前記複数の波長それぞれの吸光度を求め、前記複数の波長それぞれの吸光度と予め用意しておいた検量線とに基づいて、前記果実に含まれるカリウムの濃度を推定するカリウム濃度推定工程と、
を備えるカリウム濃度推定方法。
【請求項2】
前記光照射工程において、ハロゲンランプまたは発光ダイオードを前記光源として用いる、
請求項1に記載のカリウム濃度推定方法。
【請求項3】
前記光照射工程において、500nm~800nmの波長範囲に含まれる複数の波長の光を前記光源から出力させる、
請求項1または2に記載のカリウム濃度推定方法。
【請求項4】
前記カリウム濃度推定工程により推定した前記果実に含まれるカリウムの濃度に基づいてカリウム施肥量を判断するカリウム施肥量判断工程を更に備える、
請求項1~3の何れか1項に記載のカリウム濃度推定方法。
【請求項5】
前記カリウム濃度推定工程により推定した前記果実に含まれるカリウムの濃度に基づいて前記果実の品質を評価する品質評価工程を更に備える、
請求項1~4の何れか1項に記載のカリウム濃度推定方法。
【請求項6】
前記光照射工程、前記反射光強度測定工程および前記カリウム濃度推定工程を前記果実の生育中に行う、
請求項1~5の何れか1項に記載のカリウム濃度推定方法。
【請求項7】
前記光照射工程、前記反射光強度測定工程および前記カリウム濃度推定工程を前記果実の収穫後に行う、
請求項1~6の何れか1項に記載のカリウム濃度推定方法。
【請求項8】
前記被測定部分は前記植物の茎または葉である、
請求項1~7の何れか1項に記載のカリウム濃度推定方法。
【請求項9】
前記植物はウリ科に属する、
請求項1~8の何れか1項に記載のカリウム濃度推定方法。
【請求項10】
前記植物はメロンである、
請求項9に記載のカリウム濃度推定方法。
【請求項11】
植物の果実に含まれるカリウムの濃度を推定する装置であって、
複数の波長の光を出力する光源を含み、前記光源から出力された光を前記植物の前記果実以外の被測定部分に照射する光照射部と、
前記光照射部による光照射に応じて生じた前記被測定部分からの反射光を受光して、前記複数の波長それぞれの反射光強度を測定する反射光強度測定部と、
前記反射光強度測定部により測定された反射光強度に基づいて前記複数の波長それぞれの吸光度を求め、前記複数の波長それぞれの吸光度と予め用意しておいた検量線とに基づいて、前記果実に含まれるカリウムの濃度を推定する演算部と、
を備えるカリウム濃度推定装置。
【請求項12】
前記光源は、ハロゲンランプまたは発光ダイオードである、
請求項11に記載のカリウム濃度推定装置。
【請求項13】
前記光源は、500nm~800nmの波長範囲に含まれる複数の波長の光を出力する、
請求項11または12に記載のカリウム濃度推定装置。
【請求項14】
前記演算部は、推定した前記果実に含まれるカリウムの濃度に基づいてカリウム施肥量を判断する、
請求項11~13の何れか1項に記載のカリウム濃度推定装置。
【請求項15】
前記演算部は、推定した前記果実に含まれるカリウムの濃度に基づいて前記果実の品質を評価する、
請求項11~14の何れか1項に記載のカリウム濃度推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の果実に含まれるカリウムの濃度を推定する方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
果実は様々なミネラル(例えば、亜鉛、カリウム、カルシウム、クロム、セレン、鉄、銅、ナトリウム、マグネシウム、マンガン、モリブデン、ヨウ素、リンなど)を含む。そのうちカリウムについては、腎障害によりカリウムを体外に排出することが困難な腎透析患者にとっては、摂取量の管理が重要である。腎障害によりカリウムを体外に排出できないと、体内のカリウム濃度が上昇して、悪心、嘔吐などの胃腸症状、しびれ感、知覚過敏、脱力感などの筋肉・神経症状、不整脈などが主な症状として現れる。
【0003】
したがって、腎臓に障害がある場合は、カリウム制限等の食事療法を行い、血中のカリウム濃度の上昇を抑えるという処置がとられる。そこで、このようなカリウム制限に対応するため、果実の生育中におけるカリウム施肥量を調整することにより低カリウム果実の栽培が行われている。
【0004】
果実に含まれるカリウムの濃度の測定は、その果実を破壊してイオンメータ等を用いることにより可能である。しかし、このような破壊検査では果実の全数についてカリウム濃度を測定することができない。また、同じ畑で栽培した果実であっても、施肥量や日照条件などの違いにより、カリウム濃度に個体差が生じる。そこで、非破壊検査により果実のカリウム濃度を測定する技術が求められている。
【0005】
特許文献1には、エネルギー分散型蛍光X線分析装置を用いて果実(例えばメロン)のカリウム濃度を非破壊で測定する発明が開示されている。メロンのように比較的カリウム濃度が高く比較的高価である果実は、カリウム濃度を非破壊で測定することは重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に、蛍光X線分析を行う際には測定対象物を乾燥させて粉砕することが必要であるが、特許文献1に開示された発明は、エネルギー分散型蛍光X線分析装置を用いて果実のカリウム濃度を非破壊で測定するものである。したがって、特許文献1に開示された発明は、非破壊で果実のカリウム濃度を高精度に測定しようとすれば、測定装置を果実に接触させる必要がある。その結果、果実の表面を傷つけて果実の商品価値を低下させる場合があり、この問題は高価なメロンについては特に重大である。また、測定装置を果実に接触させたときに果実の表面を傷つけることがなくても、メロンのように果実の皮が厚い場合には、内部の可食部分のカリウム濃度の測定データの信頼性は低い。
【0008】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、非破壊かつ非接触で果実のカリウム濃度を推定するのに好適な方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のカリウム濃度推定方法は、植物の果実に含まれるカリウムの濃度を推定する方法であって、(1) 光源から出力された複数の波長の光を植物の果実以外の被測定部分に照射する光照射工程と、(2) 光照射工程による光照射に応じて生じた被測定部分からの反射光を受光して、複数の波長それぞれの反射光強度を測定する反射光強度測定工程と、(3) 反射光強度測定工程により測定された反射光強度に基づいて複数の波長それぞれの吸光度を求め、複数の波長それぞれの吸光度と予め用意しておいた検量線とに基づいて、果実に含まれるカリウムの濃度を推定するカリウム濃度推定工程と、を備える。
【0010】
本発明のカリウム濃度推定方法は、光照射工程において、ハロゲンランプまたは発光ダイオードを光源として用いるのが好適であり、また、500nm~800nmの波長範囲に含まれる複数の波長の光を光源から出力させるのが好適である。本発明のカリウム濃度推定方法は、カリウム濃度推定工程により推定した果実に含まれるカリウムの濃度に基づいてカリウム施肥量を判断するカリウム施肥量判断工程を更に備えるのが好適であり、また、カリウム濃度推定工程により推定した果実に含まれるカリウムの濃度に基づいて果実の品質を評価する品質評価工程を更に備えるのが好適である。
【0011】
本発明のカリウム濃度推定方法は、光照射工程、反射光強度測定工程およびカリウム濃度推定工程を果実の生育中に行うのが好適であり、光照射工程、反射光強度測定工程およびカリウム濃度推定工程を果実の収穫後に行うのも好適である。本発明のカリウム濃度推定方法において、被測定部分は植物の茎または葉であってもよいし、植物はウリ科に属するものであってもよいし、また、植物はメロンであってもよい。
【0012】
本発明のカリウム濃度推定装置は、植物の果実に含まれるカリウムの濃度を推定する装置であって、(1) 複数の波長の光を出力する光源を含み、光源から出力された光を植物の果実以外の被測定部分に照射する光照射部と、(2) 光照射部による光照射に応じて生じた被測定部分からの反射光を受光して、複数の波長それぞれの反射光強度を測定する反射光強度測定部と、(3) 反射光強度測定部により測定された反射光強度に基づいて複数の波長それぞれの吸光度を求め、複数の波長それぞれの吸光度と予め用意しておいた検量線とに基づいて、果実に含まれるカリウムの濃度を推定する演算部と、を備える。
【0013】
本発明のカリウム濃度推定装置において、光源は、ハロゲンランプまたは発光ダイオードであるのが好適であり、また、500nm~800nmの波長範囲に含まれる複数の波長の光を出力するのが好適である。演算部は、推定した果実に含まれるカリウムの濃度に基づいてカリウム施肥量を判断するのが好適であり、また、推定した果実に含まれるカリウムの濃度に基づいて果実の品質を評価するのが好適である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、非破壊かつ非接触で果実のカリウム濃度を推定するのに好適な方法および装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、メロンの草姿を模式的に示す図である。
【
図2】
図2は、本実施形態のカリウム濃度推定方法のフローチャートである。
【
図3】
図3は、カリウム濃度推定装置1Aの構成を示す図である。
【
図4】
図4は、カリウム濃度推定装置1Bの構成を示す図である。
【
図5】
図5は、幾つかのメロンについてカリウム濃度推定装置1A(
図3)を用いて得られたカリウム濃度推定値と、カリウム濃度実測値と、の間の関係を示すグラフである。
【
図6】
図6は、幾つかのメロンについてカリウム濃度推定装置1B(
図4)を用いて得られたカリウム濃度推定値と、カリウム濃度実測値と、の間の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0017】
本実施形態のカリウム濃度推定方法は、植物の果実に含まれるカリウムの濃度を推定する方法である。本実施形態においてカリウム濃度推定の対象となる植物の果実は、特に限定されるものではないが、ウリ科に属する植物の果実であるのが好適であり、また、ウリ科のなかでもメロンであるのが好適である。ウリ科には、キュウリ、スイカ、カボチャ、ズッキーニ、ヒョウタン、ヘチマ、トウガン、テッポウウリ、ユウガオ、ツルレイシ(ニガウリ、ゴーヤー)およびメロン等が含まれる。
【0018】
以下では、カリウム濃度推定の対象がメロンであるとして説明をする。
図1は、メロンの草姿を模式的に示す図である。この図に示されるように、果実であるメロンは、親蔓(主茎)から延びる子蔓(側枝)にできる。親蔓(主茎)から出た本葉のうち、果実であるメロンができた子蔓(側枝)が延びる位置のものを着果節本葉という。
【0019】
図2は、本実施形態のカリウム濃度推定方法のフローチャートである。本実施形態のカリウム濃度推定方法は、光照射工程S1、反射光強度測定工程S2およびカリウム濃度推定工程S3を備える。また、本実施形態のカリウム濃度推定方法は、カリウム施肥量判断工程S4または品質評価工程S5を更に備えてもよい。
【0020】
光照射工程S1では、光源から出力された複数の波長の光を植物の果実以外の被測定部分に照射する。ここで用いられる光源は、広帯域光を出力するもの(例えば、ハロゲンランプ、キセノンランプ、発光ダイオード、蛍光灯、放電灯等)であってもよいし、離散的な複数の中心波長を有する光を出力するもの(例えば中心出力波長が異なる複数の発光ダイオードまたはレーザダイオードを組み合わせたもの等)であってもよい。また、光源は、可視域から近赤外域に亘る波長域に含まれる複数の波長の光を出力するものであるのが好適であり、そのうちでも、500nm~800nmの波長範囲に含まれる複数の波長の光を出力するものであるのが好適である。光を照射する被測定部分は、植物の果実以外の部分(茎、葉)であって、例えば、果実ができている子蔓(側枝)や着果節本葉である。
【0021】
反射光強度測定工程S2では、光照射工程S1による光照射に応じて生じた被測定部分からの反射光を受光して、複数の波長それぞれの反射光強度を測定する。被測定部分からの反射光は、被測定部分の表面で反射した光だけでなく、被測定部分の内部で散乱した後に外部へ出た光をも含む。複数の波長それぞれの反射光強度を測定する装置は、分光器であってもよいし、各波長の光を選択的に透過させるフィルタと該フィルタからの出力光を検出する受光素子との組を波長毎に備えるものであってもよい。
【0022】
カリウム濃度推定工程S3では、反射光強度測定工程S2により測定された反射光強度に基づいて複数の波長それぞれの吸光度を求め、複数の波長それぞれの吸光度と予め用意しておいた検量線とに基づいて、果実に含まれるカリウムの濃度を推定する。測定された反射光強度に基づいて吸光度を求めるには、まず、被測定部分を配置する位置に略100%の反射率を有する反射板(例えばセラミック製の白色板)を配置して光源から光を照射し、このときに測定された反射光強度をリファレンスとして用いることで反射率を求め、次に、被測定部分で吸収されなかった光が反射光として測定されるとみなし、-log10(反射率)の計算結果を吸光度とする。
【0023】
検量線は、幾つかの検量線作成用の果実について上記のようにして求めた複数の波長の吸光度と、該果実について他の手法(例えば化学分析)により測定したカリウム濃度とに基づいて、予め作成されて用意される。検量線の作成に際して、吸光度スペクトルに対してSNV(Standard Normal. Variate)や二次微分などの前処理を施すのが好適であり、また、PLS回帰分析等の多変量解析を行うのが好適である。
【0024】
カリウム施肥量判断工程S4では、カリウム濃度推定工程S3により推定した果実に含まれるカリウムの濃度に基づいて、カリウム施肥量を判断する。具体的には、例えば、推定した果実のカリウム濃度が基準値(または目標値)より大きければ、以後のカリウム施肥量を少なくする。このとき、カリウム施肥量を少なくする植物の対象は、カリウム濃度が大きいと判断された収穫前の植物であってもよいし、その植物の周辺において同環境で栽培されている植物であってもよい。
【0025】
品質評価工程S5では、カリウム濃度推定工程S3により推定した果実に含まれるカリウムの濃度に基づいて、果実の品質を評価する。具体的には、例えば、推定した果実のカリウム濃度が基準値(または目標値)より小さければ、その果実を低カリウム品とする。
【0026】
光照射工程S1、反射光強度測定工程S2およびカリウム濃度推定工程S3を、果実の生育中(収穫前)に行ってもよいし、果実の収穫後に行ってもよいし、また、果実の生育中および収穫後の双方で行ってもよい。これらの工程S1~S3を果実の生育中に複数回行ってもよい。工程S1~S3を果実の生育中に行えば、カリウム施肥量判断工程S4により爾後のカリウム施肥量を調整することにより、所望のカリウム濃度を有する果実の収穫につながる。工程S1~S3を果実の収穫後に行えば、収穫後の果実の品質を品質評価工程S5により評価することにより、その果実の出荷先等を決定することができる。
【0027】
次に、本実施形態のカリウム濃度推定方法を実施するのに好適なカリウム濃度推定装置の構成について、
図3および
図4を用いて説明する。
【0028】
図3は、カリウム濃度推定装置1Aの構成を示す図である。この図に示されるカリウム濃度推定装置1Aは、測定ヘッド2Aおよび演算部3を備える。測定ヘッド2Aは、筐体内に、光源10、分光器20、第1偏光子41、第2偏光子42、シャッタ51、ビームスプリッタ52,53、レンズ54、絞り55、ビームダンパ56,57およびレーザ光源60を備える。
【0029】
光源10は、複数の波長の光を出力する。光源10は、広帯域光を出力するものであってもよいし、離散的な複数の中心波長を有する光を出力するものであってもよい。また、光源は、可視域から近赤外域に亘る波長域に含まれる複数の波長の光を出力するものであるのが好適であり、そのうちでも、500nm~800nmの波長範囲に含まれる複数の波長の光を出力するものであるのが好適である。また、光源10は、例えば秒単位で点灯/消灯を繰り返すことができるものであってもよく、短時間に高強度の光を放つストロボ動作をすることができるもの(例えば、キセノンフラッシュ光源、一眼レフカメラ用のフラッシュランプ、コンパクトカメラ用のLEDフラッシュランプ、等)であってもよい。
【0030】
第1偏光子41およびシャッタ51は、光源10から測定対象物Saへ至る第1光路の途中に設けられている。第1偏光子41は、光源10から出力された光を入力して、特定偏光(特定方向の直線偏光または特定回転方向の円偏光)の光を測定対象物Saへ出力する。シャッタ51は、光源10から出力された光の測定対象物Saへの照射/非照射を制御する。シャッタ51は、光源10から測定対象物Saへ至る第1光路に対する遮蔽板の挿入/待避により、測定対象物Saへの光の照射/非照射を制御してもよい。また、シャッタ51は、第1光路上に配置された液晶パネルの光の透過/遮断により、測定対象物Saへの光の照射/非照射を制御してもよい。シャッタ51を設けることなく、光源10からの光の出射/非出射により、測定対象物Saへの光の照射/非照射を制御してもよい。また、短い周期(例えば数十ms~数百ms)で測定対象物Saへの光の照射/非照射を複数回繰り返すことで、日照などの周囲環境光の短時間の変化に追随できるようにしてもよく、この場合、照射時間および非照射時間それぞれを例えば100msとしてよい。
【0031】
第2偏光子42、レンズ54および絞り55は、測定対象物Saから分光器20へ至る第2光路の途中に設けられている。第2偏光子42は、測定対象物Saで生じた光を入力して、上記特定偏光の光を除く光を分光器20へ出力する。レンズ54は、測定対象物Saの光照射領域で生じ第2偏光子42を経た光を入力して、その光照射領域の像を結像面上に結像する。分光器20の光入射スリットは結像面上にある。絞り55は、レンズ54の後段に設けられ、分光器20の光入射スリットへの光の入射の方向(指向性)を制限する。
【0032】
レンズ54の焦点距離および絞り55の開口径を適切に選択することにより、レンズ54の過焦点距離の1/2より遠くに測定対象物Sbが位置する場合であっても、その測定対象物Sbの像が結像面上に結像され得る。このことにより、測定対象物Saと装置との間の距離の設定の自由度を高めることができる。また、分光器20の光入射スリットのサイズが小さいほど、分光器20による分光測定の範囲が狭まり、測定角が狭く指向性が高い状態を実現することができる。
【0033】
分光器20は、測定対象物Saから到達した光のうち光入射スリットを通過した光のスペクトルを取得する。分光器20は、光源10から出力される光の帯域において感度を有する。分光器20の分光可能な波長帯域は、光源10から出力される白色光の波長帯域に含まれるのが好適である。
【0034】
分光器20として、例えば浜松ホトニクス株式会社製のマイクロ分光器C12666MAまたはC12880MAが好適に用いられる。これらのマイクロ分光器は、光入射スリット、グレーティングおよびCMOSリニアイメージセンサをMOEMS(Micro Opto Electro Mechanical Systems)技術により一体に組み込んだものであり、サイズが W20.1 x D12.5 x H10.1 mm という小型であるので、可搬性を有するカリウム濃度推定装置1Aを構成する上で好適である。
【0035】
ビームスプリッタ52は、シャッタ51と測定対象物Saとの間の光路上に設けられている。ビームスプリッタ52は、光源10から出力され第1偏光子41およびシャッタ51を経た光を入力して、その光の一部を測定対象物Saへ出力し、残部をビームダンパ56へ出力する。ビームダンパ56は、入力した光を吸収する。また、ビームスプリッタ52は、測定対象物Saから到達した光を入力して、その光を第2偏光子42へ出力する。
【0036】
ビームスプリッタ53は、第2偏光子42とレンズ54との間の光路上に設けられている。ビームスプリッタ53は、測定対象物Saからビームスプリッタ52および第2偏光子42を経て到達した光を入力して、その光をレンズ54へ出力する。
【0037】
レーザ光源60はレーザ光を出力する。小型化および可搬性向上の点で、レーザ光源60はレーザダイオードであるのが好適である。レーザ光の波長は、可視域であり、測定対象物Saの色に応じて適切に選択される。例えば、測定対象物Saが緑色であれば、レーザ光の波長は赤色(例えば635nm)であるのが好適である。ビームスプリッタ53は、レーザ光源60から出力されたレーザ光を入力して、その光の一部を第2偏光子42へ出力し、残部をビームダンパ57へ出力する。ビームダンパ56は、入力した光を吸収する。
【0038】
演算部3は、測定ヘッド2Aと電気的に接続されている。演算部3は、測定ヘッド2Aの動作(例えば、測定対象物Saへの光の照射/非照射、分光器20によるスペクトル取得)を制御する。
【0039】
光源10から出力された光は、第1偏光子41、シャッタ51およびビームスプリッタ52を経て、測定対象物Saへ照射される。測定対象物Saにおいて光が照射される箇所は、果実以外の被測定部分Ra(茎、葉)である。これらの光源10、第1偏光子41、シャッタ51およびビームスプリッタ52は、光源10から出力された光を植物の果実以外の被測定部分Raに照射する光照射部を構成する。
【0040】
測定対象物Saにおいて生じた反射光は、ビームスプリッタ52、第2偏光子42、ビームスプリッタ53、レンズ54および絞り55を経て分光器20により受光されて、分光器20により複数の波長それぞれの反射光強度(反射光強度スペクトル)が測定される。測定された複数の波長それぞれの反射光強度(反射光強度スペクトル)のデータは演算部3へ出力される。これらのビームスプリッタ52、第2偏光子42、ビームスプリッタ53、レンズ54、絞り55および分光器20は、光照射部による光照射に応じて生じた被測定部分Raからの反射光を受光して複数の波長それぞれの反射光強度を測定する反射光強度測定部を構成する。
【0041】
レーザ光源60から出力されたレーザ光は、ビームスプリッタ53、第2偏光子42およびビームスプリッタ52を経て、測定対象物Saへ照射される。測定対象物Saにおけるレーザ光の照射位置は、分光測定可能な位置または範囲を示している。すなわち、レーザ光源60は、分光測定可能な位置または範囲を示すレーザポインタとして用いられる。これにより、測定対象物Saにおける照射範囲または分光可能範囲の目視による確認が可能となる。
【0042】
測定された複数の波長それぞれの反射光強度(反射光強度スペクトル)のデータが入力された演算部3では、複数の波長それぞれの吸光度が求められ、複数の波長それぞれの吸光度と予め用意しておいた検量線とに基づいて、果実に含まれるカリウムの濃度が推定される。さらに、演算部3では、推定した果実に含まれるカリウムの濃度に基づいてカリウム施肥量が判断され、また、推定した果実に含まれるカリウムの濃度に基づいて前記果実の品質が評価される。
【0043】
図4は、カリウム濃度推定装置1Bの構成を示す図である。この図に示されるカリウム濃度推定装置1Bは、測定ヘッド2Bおよび演算部3を備える。測定ヘッド2Bは、筐体内に、光源10および分光器20を備える。カリウム濃度推定装置1Bの演算部3,光源10および分光器20は、カリウム濃度推定装置1Aの同名の構成要素と同様のものである。
【0044】
カリウム濃度推定装置1Bでは、分光器20の光入射スリットの上方に測定対象物Saが置かれる。この測定対象物Saに対して斜め下方に光源10が配置されている。この図には、反射板70も示されている。リファレンス測定時には、反射板70は、測定対象物Saが置かれる位置に測定対象物Saに替えて配置される。測定対象物Saからの反射光の強度を測定するときには、反射板70は、この図に示されるように測定対象物Saを上から抑えるように配置される。
【0045】
カリウム濃度推定装置1A(
図3)およびカリウム濃度推定装置1B(
図4)は、何れも、本実施形態のカリウム濃度推定方法を実施するのに好適なものである。
【0046】
カリウム濃度推定装置1A(
図3)は、測定対象物Saから分光器20に至るまでの反射光の光路上に結像の為のレンズ54が設けられていることにより、測定対象物Saにおける狭い領域の被測定部分Raからの反射光の強度を測定することができる。また、カリウム濃度推定装置1A(
図3)は、レーザ光源60から出力されたレーザ光により、測定対象物Saにおける狭い領域の被測定部分Raについて目視による確認を可能とする。したがって、カリウム濃度推定装置1A(
図3)は、狭い又は細い被測定部分Ra(例えば茎)へ光を照射して反射光強度を測定するのに好適である。また、カリウム濃度推定装置1A(
図3)は、測定対象物Saに対して非接触で測定をすることができる。
【0047】
これに対し、カリウム濃度推定装置1B(
図4)は、広い又は太い被測定部分(例えば葉)へ光を照射して反射光強度を測定するのに好適である。カリウム濃度推定装置1B(
図4)を用いる場合、被測定部分を比較的広くすることができるので、被測定部分の表面に凹凸や傷み等の状態のばらつきがある場合であっても、そのばらつきの影響を平均化することができ、高い精度で果実のカリウム濃度を推定することができる。
【0048】
次に、メロンのカリウム濃度推定値とカリウム濃度実測値との間の関係について、
図5および
図6を用いて説明する。
【0049】
図5は、幾つかのメロンについてカリウム濃度推定装置1A(
図3)を用いて得られたカリウム濃度推定値と、カリウム濃度実測値と、の間の関係を示すグラフである。カリウム濃度推定装置1A(
図3)を用い、メロンができた子蔓(側枝)の直近箇所に光を照射して生じた複数の波長の反射光の強度に基づいて、メロンのカリウム濃度を推定した。
【0050】
図6は、幾つかのメロンについてカリウム濃度推定装置1B(
図4)を用いて得られたカリウム濃度推定値と、カリウム濃度実測値と、の間の関係を示すグラフである。カリウム濃度推定装置1B(
図4)を用い、着果節本葉に光を照射して生じた複数の波長の反射光の強度に基づいて、メロンのカリウム濃度を推定した。
【0051】
図5および
図6の何れの場合も、光源10としてハロゲンランプを用い、分光器20として浜松ホトニクス株式会社製のマイクロ分光器を用いた。ハロゲンランプから出力される白色光は、波長600nm付近を中心にして可視域から近赤外域までの広帯域の光である。分光器のチャネル数は256であり、分光器による分光が可能な波長範囲は350nm~800nmである。この波長範囲のうち350nm~500nmの範囲ではノイズが大きいので、波長範囲500nm~800nmの反射光強度に基づいてメロンのカリウム濃度を推定した。このように広帯域光を被測定部分へ照射するとともに、分光器を用いて多くの波長の反射光強度を測定することで、多くの波長の吸光度を求めることができるので、果実のカリウム濃度の推定精度を高めることができる。
【0052】
図5および
図6の何れにおいても、カリウム濃度推定値とカリウム濃度実測値との間によい相関が認められる。これらの図中に示された直線は、カリウム濃度推定値:カリウム濃度実測値=1:1となる直線である。ただし、着果節本葉からの反射光強度を測定した場合(
図6)と比べて、子蔓からの反射光強度を測定した場合(
図5)の方が、カリウム濃度推定値とカリウム濃度推定値との相関が高い。これは、着果節本葉からの反射光強度を測定する場合、被測定部分のうちでも位置による傷み具合の差が大きいことに因ると考えられる。
【0053】
通常のメロンは、果実100g当たり340mgのカリウムが含まれているとされている。これに対し、低カリウム品のメロンは、果実100g当たり170mg以下のカリウム濃度であることが目安とされる。
図5および
図6から、メロンのカリウム濃度の測定誤差は、果実100g当たり±30mg程度であることが認められる。果実100g当たり170mg以下のカリウム濃度のメロンを低カリウム品と判定することにすれば、果実100g当たり200mg以上のカリウム濃度のメロンを確実に除くことができる。
【0054】
本実施形態によれば、複数の波長の光を植物の果実以外の被測定部分に照射して測定された反射光強度に基づいて、植物の果実に含まれるカリウムの濃度を推定するので、果実に対しては非破壊かつ非接触で、果実のカリウム濃度を推定することができる。そして、推定した果実のカリウム濃度に基づいて、カリウム施肥量を判断することができ、また、果実の品質を評価することができる。
【0055】
カリウム濃度推定装置1A(
図3)を用いた場合には、果実に対して非破壊かつ非接触であるだけでなく、被測定部分(茎、葉)に対しても非破壊かつ非接触で、果実のカリウム濃度を推定することができる。この場合には、果実や被測定部分は、光源の熱の影響が低減され、また、病虫害や菌の汚染も抑制され得る。
【0056】
果実および被測定部分(茎、葉)の何れについても破壊する必要がないので、煩雑な前処理が不要であり、測定時間を短縮することができる。したがって、多くのサンプルのカリウム濃度を迅速に測定することができる。
【0057】
非破壊測定であることから、栽培中の果実のカリウム濃度をリアルタイムで測定することができるので、生産者が生産現場で測定することができる。
【0058】
カリウム濃度推定装置1A(
図3)を用いた場合には、ピンポイント分光測定で狭い領域の情報を取得することができるので、従来では困難であった蔓の測定が可能となる。
【0059】
装置構成を小型化・単純化することができので、生産者が装置を容易に操作することができて、装置のコストの低減化が可能である。
【符号の説明】
【0060】
1A,1B…カリウム濃度推定装置、2A,2B…測定ヘッド、3…演算部、10…光源、20…分光器、41…第1偏光子、42…第2偏光子、51…シャッタ、52,53…ビームスプリッタ、54…レンズ、55…絞り、56,57…ビームダンパ、60…レーザ光源、70…反射板、Sa,Sb…測定対象物、Ra…被測定部分。