(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022135387
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】アルカリ金属含有物の処理方法、アルカリ金属含有物の処理システム
(51)【国際特許分類】
B09B 3/70 20220101AFI20220908BHJP
B09B 5/00 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
B09B3/00 304G
B09B3/00 304H
B09B5/00 F ZAB
B09B5/00 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021035158
(22)【出願日】2021-03-05
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辰巳 慶展
(72)【発明者】
【氏名】比留間 友亮
【テーマコード(参考)】
4D004
【Fターム(参考)】
4D004AA33
4D004AA36
4D004AB05
4D004AC04
4D004BA02
4D004CA13
4D004CA40
4D004CB13
4D004CB21
4D004CC11
4D004CC12
4D004CC15
4D004DA03
4D004DA20
(57)【要約】
【課題】塩化焙焼とは異なる方法で、アルカリ金属含有物からアルカリ金属を効率的に除去することを可能にする、アルカリ金属含有物の処理方法を提供する。
【解決手段】アルカリ金属含有物の処理方法は、アルカリ金属含有物に水を加えてスラリーを得る工程(a)と、スラリーのpHと酸化還元電位(ORP)の関係が下記(1)式を満たすようにスラリーのpHとORPの関係を調整する工程(b)と、工程(b)の実行中又は実行後にスラリー中のアルカリ金属含有物に含まれるアルカリ金属をスラリー中の液相に溶出させる工程(c)と、工程(b)及び工程(c)の実行後のスラリーを固液分離してアルカリ金属含有物よりもアルカリ金属の含有率が低下されたケーキを得る工程(d)とを有する。
(ORP(mV)) ≦ 28×(pH) - 575 …(1)
(ただし、(1)式において、pHの範囲は10≦pH≦14である。)
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属含有物に水を加えてスラリーを得る工程(a)と、
前記スラリーのpHと酸化還元電位(ORP)の関係が下記(1)式を満たすように、前記スラリーのpHとORPの関係を調整する工程(b)と、
前記工程(b)の実行中又は実行後に、前記スラリー中のアルカリ金属含有物に含まれるアルカリ金属を前記スラリー中の液相に溶出させる工程(c)と、
前記工程(b)及び前記工程(c)の実行後の前記スラリーを固液分離して、前記アルカリ金属含有物よりもアルカリ金属の含有率が低下されたケーキを得る工程(d)とを有することを特徴とする、アルカリ金属含有物の処理方法。
(ORP(mV)) ≦ 28×(pH) - 575 …(1)
(ただし、(1)式において、pHの範囲は10≦pH≦14である。)
【請求項2】
前記工程(b)は、前記スラリーのpHとORPの関係が下記(2)式を満たすように、前記スラリーのpHとORPを調整する工程であることを特徴とする、請求項1に記載のアルカリ金属含有物の処理方法。
(ORP(mV)) ≦ -55×(pH) + 340 …(2)
(ただし、(2)式において、pHの範囲は11≦pH≦14である。)
【請求項3】
前記工程(b)は、前記スラリーに対して、pH調整剤及びORP調整剤の少なくとも一方を加える工程を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載のアルカリ金属含有物の処理方法。
【請求項4】
前記工程(b)は、
前記スラリーのpH及びORPを測定する工程(b1)と、
前記工程(b1)で測定された前記スラリーのpHとORPの関係が前記(1)式を満たさない場合には、前記スラリーのpHとORPの関係が前記(1)式を満たすように、前記スラリーに対してpH調整剤及びORP調整剤の少なくとも一方を加える工程(b2)を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載のアルカリ金属含有物の処理方法。
【請求項5】
前記pH調整剤は、塩酸、硝酸、硫酸、クエン酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び水酸化カルシウムからなる群から選ばれた1種以上を含み、
前記ORP調整剤は、硫化水素ナトリウム及び硫化ナトリウムからなる群から選ばれた1種以上を含むことを特徴とする、請求項3又は4に記載のアルカリ金属含有物の処理方法。
【請求項6】
前記工程(d)において前記スラリーが固液分離されることで得られた排水を、前記工程(a)、前記工程(b)、及び前記工程(c)の少なくともいずれか一の工程の実行時に再利用することを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載のアルカリ金属含有物の処理方法。
【請求項7】
前記工程(c)は、前記スラリーの温度を5℃~60℃に維持した状態で前記スラリーを撹拌する工程を含むことを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載のアルカリ金属含有物の処理方法。
【請求項8】
前記アルカリ金属含有物が、木質バイオマス燃焼灰の飛灰、木質バイオマス燃焼灰の主灰、建設発生土、及び廃コンクリートの再生微粉からなる群から選ばれた1種以上を含むことを特徴とする、請求項1~7に記載のアルカリ金属含有物の処理方法。
【請求項9】
収容されたアルカリ金属含有物をスラリー化する反応槽と、
前記反応槽に収容された前記スラリーのpHと酸化還元電位(ORP)の関係が下記(1)を満たすように、前記スラリーのpHとORPの関係を調整する調整装置と、
前記反応槽から排出された前記スラリーを固液分離する固液分離装置とを備えることを特徴とする、アルカリ金属含有物の処理システム。
(ORP(mV)) ≦ 28×(pH) - 575 …(1)
(ただし、(1)式において、pHの範囲は10≦pH≦14である。)
【請求項10】
前記調整装置は、前記反応槽に収容された前記スラリーに対して、pH調整剤及びORP調整剤の少なくとも一方を導入可能に構成されており、
前記反応槽に収容された前記スラリーのpH及びORPを測定する測定装置と、
前記測定装置の測定結果に基づいて、前記調整装置に対して制御を行うことで、前記スラリーのpHとORPの関係が前記(1)を満たすように前記スラリーに対して加えられる前記pH調整剤及び前記ORP調整剤の少なくとも一方の量を変更する制御装置とを備えることを特徴とする、請求項9に記載のアルカリ金属含有物の処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ金属含有物の処理方法に関し、特に石炭灰に代わる粘土代替からアルカリ金属を除去する方法に関する。また、本発明は、この方法の実行に適したアルカリ金属含有物の処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化への影響に鑑み、近年、石炭火力発電所の利用率を低下させていく流れがあり、石炭灰の発生数量の低下が見込まれている。このため、セメント原料用の石炭灰が不足することが予想されており、石炭灰に代わる粘土代替の確保が求められる。
【0003】
しかしながら、石炭灰以外の粘土代替にはアルカリ金属を高濃度で含むものが多い。セメントにアルカリ金属が多く含まれてしまうと、アルカリ骨材反応等を生じさせることから、一般的にアルカリ金属はセメントにとっては忌避成分とされている。このため、石炭灰以外の粘土代替を、石炭灰に代わるセメント原料として利用するためには、アルカリ金属の除去が必要となっており、その除去技術の開発が進められている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-39038号公報
【特許文献2】特開2004-59754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
石炭灰以外の粘土代替の例としては、木質バイオマスの燃焼で発生する燃焼灰(以後、「木質バイオマス灰」と称する場合がある。)、建設発生土、廃コンクリートの再生微粉等が挙げられる。これらの粘土代替は、石炭灰やごみ焼却灰等と比較すると、アルカリ金属、特にカリウムの含有量が多い。よって、これらの粘土代替をセメント原料として利用するためには、アルカリ金属を効率的に除去する必要がある。
【0006】
ところで、上記特許文献1や特許文献2に記載されているように、従来、アルカリ金属含有物からアルカリ金属を除去する方法として、塩素含有物と共にアルカリ金属含有物を加熱して、アルカリ金属含有物に含まれるアルカリ金属を水溶性塩(アルカリ金属塩化物)に変化させる方法(いわゆる「塩化焙焼」)が知られている。しかしこの方法によれば、高温での加熱処理が必要となるため、アルカリ金属を除去するための処理に大きなコストが掛かってしまう。また、加熱に伴ってCO2が排出されることから、地球温暖化防止の観点からも、塩化焙焼とは異なる方法でアルカリ金属を除去する方法を確立しておくことは好ましい。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑み、塩化焙焼とは異なる方法を用いながらも、アルカリ金属含有物からアルカリ金属を効率的に除去することを可能にする、アルカリ金属含有物の処理方法及び処理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るアルカリ金属含有物の処理方法は、
アルカリ金属含有物に水を加えてスラリーを得る工程(a)と、
前記スラリーのpHと酸化還元電位(ORP)の関係が下記(1)式を満たすように、前記スラリーのpHとORPの関係を調整する工程(b)と、
前記工程(b)の実行中又は実行後に、前記スラリー中の前記アルカリ金属含有物に含まれるアルカリ金属を前記スラリー中の液相に溶出させる工程(c)と、
前記工程(b)及び前記工程(c)の実行後の前記スラリーを固液分離して、前記アルカリ金属含有物よりもアルカリ金属の含有率が低下されたケーキを得る工程(d)とを有することを特徴とする。
(ORP(mV)) ≦ 28×(pH) - 575 …(1)
ただし、(1)式において、pHの範囲は10≦pH≦14である。
【0009】
本発明者らの鋭意研究により、アルカリ金属含有物に水を加えて得られたスラリーを、pHの範囲を10≦pH≦14とした上で、pHとORPの関係が上記(1)式を満たすような環境下に置くことで、スラリー中のアルカリ金属含有物に含まれるアルカリ金属を効率的に溶出できることが新たに見出された。つまり、上記方法によれば、従来の塩化焙焼のような500℃~1000℃という高温で加熱する処理が不要であるため、ランニングコストが低廉化されると共に地球温暖化の抑制にも貢献できる。
【0010】
そして、上記方法で得られたケーキは、処理前のアルカリ金属含有物と比べて、アルカリ金属の含有率が大幅に低下しているため、石炭灰に代わるセメント原料として有効に利用できる。
【0011】
前記工程(b)は、前記スラリーのpHとORPの関係が下記(2)式を満たすように、前記スラリーのpHとORPを調整する工程であるものとしても構わない。
(ORP(mV)) ≦ -55×(pH) + 340 …(2)
ただし、(2)式において、pHの範囲は11≦pH≦14である。
【0012】
上記(2)式の条件を満たすような環境下にスラリーを置くことで、前記工程(c)において、アルカリ金属をより多く液相に溶出させることが可能となる。詳細は、「発明を実施するための形態」の項で実施例を参照しながら後述される。
【0013】
前記工程(b)は、前記スラリーに対して、pH調整剤及びORP調整剤の少なくとも一方を加える工程を含むものとしても構わない。
【0014】
また、前記工程(b)は、
前記スラリーのpH及びORPを測定する工程(b1)と、
前記工程(b1)で測定された前記スラリーのpHとORPの関係が前記(1)式を満たさない場合には、前記スラリーのpHとORPの関係が前記(1)式を満たすように、前記スラリーに対してpH調整剤及びORP調整剤の少なくとも一方を加える工程(b2)を含むものとしても構わない。
【0015】
上記において、前記pH調整剤は、塩酸、硝酸、硫酸、クエン酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び水酸化カルシウムからなる群から選ばれた1種以上を含むことができる。また、前記ORP調整剤は、硫化水素ナトリウム及び硫化ナトリウムからなる群から選ばれた1種以上を含むことができる。
【0016】
アルカリ金属含有物の処理方法は、前記工程(d)において前記スラリーが固液分離されることで得られた排水を、前記工程(a)、前記工程(b)、及び前記工程(c)の少なくともいずれか一の工程の実行時に再利用するものとしても構わない。
【0017】
工程(d)を経て回収された排水は、アルカリ金属含有物から溶出したアルカリ金属成分を含むが、酸化還元電位(ORP)が好適な状態であるため再利用できる。
【0018】
前記工程(c)は、前記スラリーの温度を5℃~60℃に維持した状態で前記スラリーを撹拌する工程を含むものとしても構わない。
【0019】
この温度条件下で撹拌することで、アルカリ金属含有物に含まれるアルカリ金属を、効率的に液相に溶出させることができる。
【0020】
前記アルカリ金属含有物が、木質バイオマス燃焼灰の飛灰、木質バイオマス燃焼灰の主灰、建設発生土、及び廃コンクリートの再生微粉からなる群から選ばれた1種以上を含むものとしても構わない。
【0021】
これらのアルカリ金属含有物は、非水溶性のアルカリ金属を含むため、単に水洗処理を行ってもアルカリ金属を十分に除去することができない。しかしながら、上記の方法で処理をすることで、非水溶性のアルカリ金属であってもスラリーの液相に効率的に溶出できるため、その後の固液分離工程を経て、アルカリ金属の含有率の低下したケーキを得ることができる。
【0022】
前記アルカリ金属含有物の処理方法は、前記工程(a)の実行前に、前記アルカリ金属含有物を粉砕する工程(e)を有するものとしても構わない。この工程(e)によって、例えば粒径が5mm以下になるように粉砕される。
【0023】
アルカリ金属含有物には、アルカリ金属が全体的に満遍なく含まれていることが想定される。上記方法のように、水を加える工程(a)の前に粉砕工程(e)を行うことでアルカリ金属の露出面積が増加するため、溶出工程(c)において、スラリー中のアルカリ金属含有物に含まれるアルカリ金属を高効率で溶出させることができる。なお、本明細書において、「粒径」とは、対象物が通過する最小の篩いの目開きを指す。
【0024】
前記アルカリ金属含有物の処理方法は、前記工程(a)の実行前に、前記アルカリ金属含有物を予備的に水洗する工程(f)を有するものとしても構わない。
【0025】
この方法によれば、アルカリ金属含有物に可溶性のアルカリ金属が含まれている場合には、スラリー化の前段階でこの可溶性のアルカリ金属を除去できるので、アルカリ金属の除去率が更に高められる。
【0026】
また、本発明に係るアルカリ金属含有物の処理システムは、
収容されたアルカリ金属含有物をスラリー化する反応槽と、
前記反応槽に収容された前記スラリーのpHと酸化還元電位(ORP)の関係が下記(1)を満たすように、前記スラリーのpHとORPの関係を調整する調整装置と、
前記反応槽から排出された前記スラリーを固液分離する固液分離装置とを備えることを特徴とする。
(ORP(mV)) ≦ 28×(pH) - 575 …(1)
ただし、(1)式において、pHの範囲は10≦pH≦14である。
【0027】
上記処理システムによれば、特に非水溶性のアルカリ金属を含むアルカリ金属含有物から、高温での加熱処理を行うことなくアルカリ金属を効率的に除去することができる。
【0028】
前記調整装置は、前記反応槽に収容された前記スラリーに対して、pH調整剤及びORP調整剤の少なくとも一方を導入可能に構成されており、
前記反応槽に収容された前記スラリーのpH及びORPを測定する測定装置と、
前記測定装置の測定結果に基づいて、前記調整装置に対して制御を行うことで、前記スラリーのpHとORPの関係が前記(1)を満たすように前記スラリーに対して加えられる前記pH調整剤及び前記ORP調整剤の少なくとも一方の量を変更する制御装置とを備えるものとしても構わない。
【0029】
上記構成によれば、スラリーのpH及びORPの値に応じて、pH調整剤及びORP調整剤の少なくとも一方の量が自動的に調整される。これにより、pH調整又はORP調整のための薬剤等の使用に、過剰なコストが掛かることが防止できる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、数百℃以上という高温での加熱処理を行うことなく、アルカリ金属含有物に対して、アルカリ金属の含有率を低下させる処理を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明に係るアルカリ金属含有物の処理方法の手順を模式的に示すフローチャートである。
【
図2】
図1に示す方法を実施する処理システムの一例を模式的に示すブロック図である。
【
図3】
図1内の水洗処理工程S2の詳細な処理手順の一例を模式的に示すフローチャートである。
【
図4】本発明に係るアルカリ金属含有物の処理方法の手順を模式的に示す別のフローチャートである。
【
図5】本発明の適用範囲を表したpHと酸化還元電位(ORP)の関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明が適用される、処理対象としてのアルカリ金属含有物としては、アルカリ金属成分を高濃度に含有するアルカリ金属含有物であればよく、特に制限はないが、例えば木質バイオマス灰の飛灰や主灰、建設発生土、及び廃コンクリートの再生微粉等が挙げられる。
【0033】
例えば、木質バイオマス灰は、アルカリ金属(Na,K)を塩化物、炭酸塩、硫酸塩、ケイ酸塩ガラスとして含有し、R2O換算(R2O=Na2O+0.658×K2O)で、木質バイオマス灰の飛灰では3質量%~50質量%程度、木質バイオマス灰の主灰では3質量%~20質量%程度を含んでいる。
【0034】
また、建設発生土及び廃コンクリートの再生微粉は、アルカリ金属(Na,K)を、R2O換算で2質量%~8質量%程度を含んでいる。
【0035】
本発明によれば、上記のようなアルカリ金属含有物中に含まれるアルカリ金属成分の濃度を、上記R2O換算で2.5質量%以下、より典型的には2.0質量%以下にまで低減することができる。そして、これを例えばセメント原料として有効利用することができる。アルカリ金属含有物中のアルカリ金属の濃度は、周知の方法で測定することができ、例えば、JIS R 5204「セメントの蛍光X線分析方法」に準拠した方法等が好ましく例示される。
【0036】
以下、本発明についてより具体的に図面を参照しつつ説明する。ただし、本発明は、これら図面と共に説明する態様に限定されるものではない。
【0037】
図1は、本発明に係るアルカリ金属含有物の処理方法の手順を模式的に示すフローチャートである。また、
図2は、
図1に示す方法を実施するシステム(以下、「処理システム1」と称する。)の一例を模式的に示すブロック図である。
【0038】
図1に示す方法は、粉砕処理工程S1、水洗処理工程S2及び固液分離処理工程S3を含む。また、
図2に示すように、
図1に示す方法を実施するための処理システム1は、反応槽2、調整装置3、固液分離装置4、制御装置5、及び粉砕装置6を備えて構成される。なお後述するように、粉砕処理工程S1は適宜省略でき、この場合、処理システム1は粉砕装置6を備えていなくても構わない。
【0039】
以下、
図1に示す各工程での処理内容につき、適宜
図2を参照しながら詳述する。
【0040】
(粉砕処理工程S1)
粉砕処理工程S1は、供給された固形状のアルカリ金属含有物A1を、後段の各工程S2~S3においてより効率的に処理できる大きさに粉砕する工程である。
図2に示す処理システム1では、粉砕装置6によって粉砕処理工程S1が実行される。
【0041】
具体的には、粉砕処理工程S1を経て得られるアルカリ金属含有物粉砕物A2の粒径は、好ましくは5mm以下、より好ましくは4mm以下、特に好ましくは3mm以下である。アルカリ金属含有物粉砕物A2の粒径の下限値に特に制限はないが、粉砕にかかるエネルギー及びコストの観点から、5μm以上である。なお、上述したように、本明細書における「粒径」とは、対象物(ここではアルカリ金属含有物粉砕物A2)が通過する最小の篩いの目開きを指す。
【0042】
粉砕装置6は、粒径が5mm以下となるように、塊状のアルカリ金属含有物A1を粉砕することが望ましく、その設備仕様は塊状のアルカリ金属含有物A1の性状に応じて適宜設定すればよい。粉砕装置6は、複数の装置の組み合わせであってもよい。
【0043】
具体的には、粉砕装置6としては、チューブミル、竪型ローラーミル、ジョークラッシャ、ジャイレトリクラッシャ、コーンクラッシャ、インパクトクラッシャ、ロールクラッシャ及びエアロフォールミル等が好適に使用できる。なお、これらの装置を複数組合せて粉砕装置6とする場合、各粉砕機の間に分級機を併設して閉回路粉砕システムを構築することによって、粒度の揃ったアルカリ金属含有物粉砕物A2を効率的に得ることができる。この場合の分級機としては、所定の分級点でアルカリ金属含有物粉砕物A2を分級できるものであれば特に限定されず、篩い(面内運動篩い、振動篩い)、重力式分級機、慣性力式分級機、サイクロン等の遠心式分級機、サイクロンエアセパレータ等の回転羽根付きの遠心式分級機等が好適に使用できる。なかでも、設備の簡便性と操作、調整の容易性からサイクロンエアセパレータ等の回転羽根付きの遠心式分級機が好ましい。粉砕装置6として、分級機や篩い網が内蔵された粉砕機を用いることもできる。
【0044】
なお、供給された固形状のアルカリ金属含有物A1が、有姿において前記の好ましい粒径を満足する場合には、この粉砕処理工程S1を省略できる。
図1では、アルカリ金属含有物A1が、粉砕処理工程S1を経て水洗処理工程S2に送られる場合と、粉砕処理工程S1を経ずに直接水洗処理工程S2に送られる場合の双方が模式的に図示されている。また、
図2では、供給されたアルカリ金属含有物A1が粉砕装置6で粉砕されて得られたアルカリ金属含有物粉砕物A2が反応槽2に送られる場合と、供給されたアルカリ金属含有物A1が直接反応槽2に送られる場合の双方が模式的に図示されている。
【0045】
この粉砕処理工程S1が、工程(e)に対応する。
【0046】
(水洗処理工程S2)
水洗処理工程S2は、アルカリ金属含有物A1又はアルカリ金属含有物粉砕物A2を、所定のpH・酸化還元電位(ORP)条件下でスラリー化する工程である。
図2に示す処理システム1では、反応槽2において水洗処理工程S2が実行される。なお、以下では、煩雑さを避ける観点から、反応槽2に導入されるアルカリ金属含有物A1とアルカリ金属含有物粉砕物A2を、「アルカリ金属含有物A1」と代表して記載する。
【0047】
図3は、この水洗処理工程S2の詳細な処理手順の一例を模式的に示すフローチャートである。以下、
図3のフローチャートも参照しながら、水洗処理工程S2の内容について詳述する。
【0048】
(ステップS21)
反応槽2内に、アルカリ金属含有物A1と水W1とを導入して攪拌し、スラリーLr1を作る。
図2に示すように、反応槽2には好ましくは撹拌翼21が設けられており、この撹拌翼21を用いて撹拌するものとして構わない。撹拌翼21としては、例えば一般的なスクリュー型のものが利用できる。
【0049】
水W1としては、工水(真水)が好ましい。水W1の導入量は、アルカリ金属含有物A1の質量の3倍量以上であり、好ましくは4倍量以上であり、より好ましくは5倍量以上である。
【0050】
このステップS21が、工程(a)に対応する。なお、撹拌工程は、後述するステップS22~S25の間も継続して実行されるものとして構わない。
【0051】
(ステップS22)
反応槽2内のスラリーLr1のpH及びORPを測定する。この測定結果は、制御装置5に送信される。
【0052】
図2に示す例では、反応槽2には、pH測定器22及びORP測定器23が付設されており、これらの測定器によって、スラリーLr1のpH及びORPが連続的に測定可能に構成されている。ORP測定器23としては、公知の測定機器を用いればよく、特に高濃度懸濁液用の測定機器を用いることが好ましい。なお、pH測定器22とORP測定器23は、一体化されていても構わない。
【0053】
ただし、スラリーLr1のpHは通常大きな変動が生じないことから、ORPのように連続した測定を行わなくても構わない。例えば、pH測定器22は、所定のタイミングで(例えばスラリーLr1が均質化した直後等に)pHを測定し、この結果を制御装置5に送信するものとしても構わない。
【0054】
このステップS22が工程(b1)に対応する。
【0055】
(ステップS23)
制御装置5において、スラリーLr1のpHとORPの関係が、上記(1)式を満たすかどうかが確認される。以下に(1)式を再掲する。
(ORP(mV)) ≦ 28×(pH) - 575 …(1)
ただし、(1)式において、pHの範囲は10≦pH≦14である。
【0056】
(ステップS24)
制御装置5において、スラリーLr1のpHとORPの関係が、上記(1)式を満たさないことが確認されると(ステップS23においてNo)、スラリーLr1内のpH又はORPが調整される。具体的には、制御装置5からの信号に基づく制御により、調整装置3からORP調整剤α1及びpH調整剤α2の少なくとも一方がスラリーLr1に添加される。
【0057】
図2の例では、調整装置3が、ORP調整剤添加装置3aとpH調整剤添加装置3bとを備えている。調整装置3は、制御装置5からの信号に基づいて、ORP調整剤添加装置3aから反応槽2内に所用量のORP調整剤α1を供給し、及び/又はpH調整剤添加装置3bから反応槽2内に所用量のpH調整剤α2を供給する。
【0058】
ORP調整剤α1としては、硫化水素ナトリウム又は硫化ナトリウム等が利用できる。また、pH調整剤α2としては、塩酸、硝酸、硫酸、クエン酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム又は水酸化カルシウム等が利用できる。なお、ORP調整剤α1及びpH調整剤α2は、それぞれ2種以上の材料を用いても構わない。
【0059】
ORP調整剤α1及び/又はpH調整剤α2がスラリーLr1に導入されることで、スラリーLr1のORP及び/又はpHが変動する。この結果、スラリーLr1のpHとORPの関係が調整される。
【0060】
このステップS24が工程(b)に対応し、より詳細には工程(b2)に対応する。
【0061】
本ステップS24によって、ORP調整剤α1及び/又はpH調整剤α2がスラリーLr1に導入された後は、再びステップS22に戻って反応槽2内のスラリーLr1のpH及びORPが測定された後、ステップS23によってスラリーLr1のpHとORPの関係が(1)式を満たすか否かが検証される。
【0062】
なお、アルカリ金属含有物A1として一般的なバイオマス灰を用いてスラリーLr1を生成した場合、その酸化還元電位(ORP)は-50mV程度であり、そのpHは10程度である。このため、通常は、少なくともORP調整剤α1の添加が必要である。
【0063】
(ステップS25)
制御装置5において、スラリーLr1のpHとORPの関係が上記(1)式を満たすことが確認されると(ステップS23においてYes)、この関係を維持しながら所定の撹拌時間に到達するまでスラリーLr1が撹拌される。
【0064】
スラリーLr1のORPは、pHと比較して変動性が高く、撹拌中にORPが変動して上記(1)式を満たさなくなる可能性がある。このため、撹拌時間が経過する迄の間は、pH及びORPの関係が(1)式を満たすよう、ステップS22~S24が繰り返し実行されるものとして構わない。
【0065】
ただし、pH及びORPの関係が(1)式を満たす限りにおいては、ORP調整剤α1の使用コストの関係から、ORPを過剰に低下させないのが好ましい。一例としては、ORPの下限としては、-700mV程度であることが好ましく、-600mV程度であることがより好ましく、-500mV程度であることが特に好ましい。
【0066】
スラリーLr1のpHとORPの関係を(1)式を満足する範囲に維持しながら、所定の攪拌時間に到達するまでスラリーLr1の攪拌が継続されることで、スラリー中のアルカリ金属含有物A1に含まれるアルカリ金属が効率的にスラリー中の液相に溶出される。すなわち、本ステップS25が工程(c)に対応する。スラリーLr1のpHとORPの関係が(1)式を満足する範囲に維持されることで、アルカリ金属を効率的に溶出できる点については、実施例を参照して後述される。
【0067】
ここで、アルカリ金属の溶出に要する攪拌時間は、アルカリ金属の溶出を促進するためには、30分以上とすることが好ましく、45分以上であると特に好ましい。
【0068】
スラリーLr1の撹拌工程の間、スラリーLr1は所定の温度に維持されるものとするのが好適である。例えば、
図2に示すように、反応槽2が温度計24及び加熱設備25を付設し、加熱設備25によって温度計24で測定されるスラリーLr1の温度が制御される。加熱設備25としては、例えば、散気装置を使用して排ガス等の高温ガスG1をスラリーLr1中に供給するものや、一般的な低周波誘導加熱装置等が使用できる。前者の場合、高温ガスG1としてはセメント製造設備11の高温排ガスを好適に利用できる。
【0069】
より詳細には、
図2に示すように、制御装置5は温度計24からの信号に基づいて、加熱設備25を制御することによって、スラリーLr1の温度を所定の温度に維持する。これは、アルカリ金属の溶出をさらに促進するためである。その温度は、5℃~60℃とすることが好ましく、25℃~60℃であると特に好ましい。
【0070】
(固液分離処理工程S3)
水洗処理工程S2によって、アルカリ金属が水に溶解された状態のスラリーLr1は、後段に設置された固液分離装置4によって、含水率が有効に低減されてセメント原料等として利用可能な固体物(ケーキC1)と排水W2とに分離される。この固液分離処理工程S3で分離されたケーキC1の含水率は、ケーキC1に液相に溶出したアルカリ金属がその液相と共に残留することを防止するために、30質量%~70質量%とすることが好ましい。
【0071】
スラリーLr1を固液分離装置4に輸送する際には、スラリー用渦巻きポンプ、ピストンポンプ、及び、モーノポンプ、ホースポンプ等の汎用のスラリー液用輸送装置(不図示)を用いればよい。
【0072】
固液分離装置4としては、フィルタープレス、加圧葉状濾過装置、スクリュープレス、ベルトプレス、ベルトフィルター等の汎用のろ過装置等を用いればよい。
【0073】
図2に示す固液分離装置4は、溶出成分の回収を確実にするために、ケーキC1の水洗浄装置4aを設けている。水洗浄装置4aで使用される洗浄水としては、常温の水を、ケーキC1の質量の3倍量以上、好ましくは4倍量以上、より好ましくは5倍量以上の量だけ用いればよい。ただし、この水洗浄装置4aは省略が可能である。
【0074】
この固液分離処理工程S3が、工程(d)に対応する。
【0075】
好ましい態様として、固液分離装置4で分離された排水W2を回収するようにしても構わない。回収した排水W2は、アルカリ金属含有物A1から溶出したアルカリ金属を含むが、ORPが好適な状態であるため、反応槽2に供給してスラリーLr1の生成の際に再利用することも可能である。
図2に示す処理システム1においては、固液分離装置4を経て、その固液分離後の液相として回収された排水W2が、図示しない送液装置によって反応槽2へ送られる構成が採用されている。送液装置としては、遠心ポンプ、プロペラポンプ、ロータリーポンプ等の一般的な送液ポンプを使用すればよい。
【0076】
(後工程)
固液分離装置4によって分離されたケーキC1は、アルカリ金属成分の濃度が2.5質量%以下、より典型的には2.0質量%以下にまで低減されているので、セメント原料等に有効に利用することができる。ここでいうアルカリ金属の濃度とは、周知の方法での分析値、例えば、JIS R 5204「セメントの蛍光X線分析方法」に準拠した方法による分析値や、酸分解試料についてのICP発光分光分析法による分析値を指す。
【0077】
図2に示す処理システム1の例では、固液分離装置4によって分離されたケーキC1が、ケーキ運搬装置12によってセメント製造設備11に搬送されている。ケーキ運搬装置12としては、例えば、ベルトコンベア、スクリューコンベア、パイプコンベア等の一般的なケーキ輸送装置が用いられる。
【0078】
[別構成例]
以下、別構成例について説明する。
【0079】
〈1〉ステップS23において、スラリーLr1のpHとORPの関係が、上記した(1)式に加えて、(2)式を満たすか否かが確認されるものとしても構わない。以下に(2)式を再掲する。
(ORP(mV)) ≦ -55×(pH) + 340 …(2)
ただし、(2)式において、pHの範囲は11≦pH≦14である。
【0080】
スラリーLr1のpHとORPの関係が、(1)式及び(2)式を満たすように調整された状態で、所定時間にわたってスラリーLr1が撹拌されることで、スラリーに含まれるアルカリ金属を更に効率的に液相に溶出できる。この点は、実施例を参照して後述される。
【0081】
〈2〉上記実施形態では、調整装置3が、ORP調整剤添加装置3aとpH調整剤添加装置3bとを備えるものとした。しかし、上述したように、スラリーLr1のpHは、ORPとは異なり大きく変動しない。また、アルカリ金属含有物A1としてバイオマス灰を用いた場合、得られるスラリーLr1のpHは10~13を示す場合がある。この場合には、ステップS24においてスラリーLr1のpHは調整せずにORPを調整することで、(1)式を満たすことが可能である。
【0082】
つまり、
図1に示す水洗処理工程S2において、pH調整剤α2は添加されずに、ORP調整剤α1のみが添加されるものとしても構わない。この場合、調整装置3は、pH調整剤添加装置3bを備えずに、ORP調整剤添加装置3aのみを備えるものとしても構わない。
【0083】
〈3〉
図4に示すように、水洗処理工程S2の前段階で、予備的な水洗処理工程S4が実行されるものとしても構わない。これにより、アルカリ金属含有物A1に可溶性のアルカリ金属が含まれる場合には事前に水洗除去できるため、後段の水洗処理工程S2及び固液分離処理工程S3を経て得られるケーキC1のアルカリ金属含有率を更に低下できる場合がある。
【0084】
〈4〉上記実施形態では、制御装置5からの信号に基づいて、調整装置3から反応槽2内に導入されるORP調整剤α1又はpH調整剤α2の量が自動的に制御されるものとした。しかし、ORP調整剤α1又はpH調整剤α2の導入量が手動で調整される場合も、本発明の範囲内である。
【0085】
〈5〉
図2に示す処理システム1は、反応槽2内を加熱するための加熱装置25を備えていたが、加熱装置25は必ずしも必須ではない。例えば、室温下でスラリーLr1の撹拌処理が行われるものとしても構わない。ただし、加熱装置25によって室温よりも10℃~30℃程度加温することで、アルカリ金属をより効率的に溶出する効果が得られる場合がある。
【実施例0086】
以下、本発明についてさらに詳細に説明するために具体的な試験例を示すが、本発明はこれら試験例の態様に限定されるものではない。
【0087】
アルカリ金属含有物A1として、バイオマス発電プラント(循環流動層ボイラ)の排ガス集塵機(バグフィルタ)で捕集された木質バイオマス灰の飛灰が用いられた。表1には、アルカリ金属については酸分解試料のICP発光分光分析法による分析で、その他の化学成分にはペレット試料の蛍光X線分析法による分析で得られた結果であり、それぞれの化学組成を示す。なお、表1のR2Oは、上述したように、本組成物中の全アルカリ金属成分量として「R2O=Na2O+0.658×K2O」で算定された値を示す。
【0088】
【0089】
また、表2にはアルカリ金属含有物A1の材料としての木質バイオマス灰のXRD解析結果を示す。
【0090】
【0091】
上記材料のアルカリ金属含有物A1に対して、水W1としての水道水を、アルカリ金属含有物A1の質量換算で4倍量混合して、スラリーLr1を生成した。このスラリーLr1のpHは10、酸化還元電位(ORP)は-52mVであった(後述する表3内の水準#1に対応する。)。
【0092】
その後、生成したスラリーLr1に対し、ORP調整剤α1及びpH調整剤α2の添加量を異ならせることで、ORP及びpHの異なる複数種類の試料を作成し、各々を20~25℃で60分間撹拌した。ORP調整剤α1としては、硫化水素ナトリウムの25質量%水溶液が用いられた。pH調整剤α2としては、水酸化ナトリウムの50質量%水溶液が用いられた。
【0093】
なお、スラリーLr1の温度、pH及びORPの各データは、堀場製作所社製のポータブル型pH・ORP・電気伝導率メータ(型番D-74)によって測定された。
【0094】
その後、攪拌後のスラリーLr1をフィルタープレスで固液分離した後、スラリーLr1作成時と同量(アルカリ金属含有物A1の質量換算で4倍量)の水で洗浄ろ過して、ケーキC1を作成した。そして、得られたケーキC1について、アルカリ金属成分の含有量を、酸分解試料のICP発光分光分析法による分析で求めた。結果を表3及び
図5に示す。
図5は、表3に基づき、本発明の適用範囲を表したpHとORPの関係図である。
【0095】
【0096】
なお、表3におけるK除去率は、以下の(3)式で算定された値が採用された。
K除去率={d1-(1-d2)×d3}/d1 …(3)
ただし、(3)式内の各記号は、それぞれ以下の値である。
d1: 水洗処理工程S2前のアルカリ金属含有物A1に含まれるK(カリウム)の含有率(濃度)
d2: 水洗処理工程S2及び固液分離処理工程S3によるアルカリ金属含有物A1の重量減少率
d3: 固液分離処理工程S3の後に得られたケーキC1に含まれるKの含有率(濃度)
【0097】
なお、実験で利用されたバイオマス灰の処理前のK含有率d1=3.4%であった。
【0098】
表3において、水準#1~#4は、いずれもスラリーLr1に対してpH調整剤α2を添加せずに、ORP調整剤α1の添加量を異ならせて得られた試料に対応する。
水準#5~#8は、スラリーLr1に対するpH調整剤α2の添加量を固定として(添加量x1)、ORP調整剤α1の添加量を相互に異ならせて得られた試料に対応する。
水準#9~#12は、スラリーLr1に対するpH調整剤α2の添加量を、添加量x1よりも多い量で固定とし(添加量x2)、ORP調整剤α1の添加量を相互に異ならせて得られた試料に対応する。
水準#13~#16は、スラリーLr1に対するpH調整剤α2の添加量を、添加量x2よりも多い量で固定とし(添加量x3)、ORP調整剤α1の添加量を相互に異ならせて得られた試料に対応する。
水準#17~#20は、スラリーLr1に対するpH調整剤α2の添加量を、添加量x3よりも多い量で固定とし(添加量x4)、ORP調整剤α1の添加量を相互に異ならせて得られた試料に対応する。
【0099】
また、表3において、水準#1、#5、#9、#13、及び#17は、相互にORP調整剤α1の添加量が共通である(添加量y1)。なお、それぞれはスラリーLr1に対するpH調整剤α2の添加量が異なっているため、pHの値の相違に起因して相互にORPの値が異なっている。
水準#2、#6、#10、#14、及び#18は、相互に、ORP調整剤α1の添加量が、y1よりも多いy2で共通である。
水準#3、#7、#11、#15、及び#19は、相互に、ORP調整剤α1の添加量が、y2よりも多いy3で共通である。
水準#4、#8、#12、#16、及び#20は、相互に、ORP調整剤α1の添加量が、y3よりも多いy4で共通である。
【0100】
図5において、線L1はORP=28×(pH)-575の関数に対応し、線L2は、ORP=-55×(pH)+340の関数に対応する。
図5によれば、10≦pH≦14において、ORP≦28×(pH)-575の範囲内、すなわち、
図5内の右上がりハッチング領域内においては、K除去率が17%以上を示しており、スラリーLr1のpHとORPの関係をこの範囲内にした状態で撹拌することで、K(カリウム)を効率的に除去できることが分かる。
【0101】
更に、
図5によれば、11≦pH≦14において、ORP≦28×(pH)-575且つORP≦-55×(pH)+340の範囲内、すなわち、
図5内のクロスハッチング領域内においては、K除去率が23%以上を示しており、スラリーLr1のpHとORPの関係をこの範囲内にした状態で撹拌することで、K(カリウム)を更に効率的に除去できることが分かる。
【0102】
この理由は定かではないが、アルカリ金属含有物A1としてのバイオマス灰にはカリウムがガラスの形態で含まれているためスラリーLr1をアルカリ雰囲気として水洗することでガラスが溶解してカリウムが腐食されたこと、及びスラリーLr1のORPを下げて還元雰囲気として水洗することで、ガラスの溶解性が更に向上したことがその理由として推察される。つまり、水洗処理工程S2において、アルカリ性及び還元性を共に強くした環境下で行うことで、バイオマス灰等のアルカリ金属含有物から、アルカリ金属を効率的に除去できることが分かる。また、上記の方法によれば、アルカリ金属を除去するに際して高温での加熱処理が不要である。