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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022135396
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】タイヤ用ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/06 20060101AFI20220908BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20220908BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20220908BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20220908BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20220908BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
C08L9/06
C08K3/013
C08K3/04
C08K3/36
C08L9/00
B60C1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021035176
(22)【出願日】2021-03-05
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】黒坂 香織
【テーマコード(参考)】
3D131
4J002
【Fターム(参考)】
3D131AA02
3D131BB01
3D131BC02
3D131BC12
3D131BC19
3D131BC51
4J002AC032
4J002AC081
4J002DA036
4J002DJ017
4J002FD010
4J002FD016
4J002FD017
4J002GN01
(57)【要約】
【課題】ウェット性能の向上と転がり抵抗の低減を両立しながら、良好な押出加工性を確保することを可能にしたタイヤ用ゴム組成物を提供する。
【解決手段】スチレンブタジエンゴムを70質量%以上と、チタン触媒により合成されたブタジエンゴム5質量%以上30質量%以下とを含むジエン系ゴムに対して、カーボンブラックおよびシリカを含む充填剤を配合し、ジエン系ゴム100質量部に対するカーボンブラックおよびシリカの配合量の合計を70質量部以上130質量部以下にする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレンブタジエンゴムを70質量%以上と、チタン触媒により合成されたブタジエンゴム5質量%以上30質量%以下とを含むジエン系ゴムに対して、カーボンブラックおよびシリカを含む充填剤が配合され、前記ジエン系ゴム100質量部に対する前記カーボンブラックおよび前記シリカの配合量の合計が70質量部以上130質量部以下であることを特徴とするタイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
前記スチレンブタジエンゴム中に、ビニル含有量が35質量%以下である溶液重合スチレンブタジエンゴムが80質量%以上含まれることを特徴とする請求項1に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
前記シリカとして、BET比表面積が異なる2種類のシリカを配合したことを特徴とする請求項1または2に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項4】
前記2種類のシリカの一方のBET比表面積が150m2/g以上200m2/g以下であることを特徴とする請求項3に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項5】
前記2種類のシリカの他方のBET比表面積が200m2/g以上であることを特徴とする請求項4に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物をトレッド部に用いたことを特徴とする空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として空気入りタイヤのトレッド部に使用することを意図したタイヤ用ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
冬用タイヤ以外の一般的な空気入りタイヤ(所謂ノーマルタイヤやサマータイヤ)では、降雨時等に濡れた路面を走行する際のウェット性能に優れることが求められる。また、燃費性能を高くするため転がり抵抗を小さくすることが求められる。特に、路面と接触するトレッド部に使用されるタイヤ用ゴム組成物においては、これら性能の両立が求められる。
【0003】
例えば、ウェット性能を向上する方法として、シリカを多量に配合することが知られている(例えば、特許文献1を参照)。しかしながら、単にシリカの配合量を多くしただけでは、必ずしも十分に転がり抵抗を低減することはできない。そこで、比表面積が大きいシリカを配合することも検討されているが、比表面積が大きいシリカを配合した場合、未加硫のコンパウンドの粘度が高くなるため、押出時にヤケが発生する等の不具合が生じやすくなり、押出加工性が悪化することが懸念される。そのため、ウェット性能の向上と転がり抵抗の低減を両立しながら、良好な押出加工性を確保するための対策が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019‐196419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ウェット性能の向上と転がり抵抗の低減を両立しながら、良好な押出加工性を確保することを可能にしたタイヤ用ゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明のタイヤ用ゴム組成物は、スチレンブタジエンゴムを70質量%以上と、チタン触媒により合成されたブタジエンゴム5質量%以上30質量%以下とを含むジエン系ゴムに対して、カーボンブラックおよびシリカを含む充填剤が配合され、前記ジエン系ゴム100質量部に対する前記カーボンブラックおよび前記シリカの配合量の合計が70質量部以上130質量部以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、上述の配合であるため、ウェット性能の向上と転がり抵抗の低減を両立しながら、良好な押出加工性を確保することができる。特に、カーボンブラックおよびシリカを含む充填剤が適度に配合されることで、優れたウェット性能と低転がり抵抗性をバランスよく両立することができる。その一方で、ブタジエンゴムとしてチタン触媒により合成されたものを用いることで、前述の性能を損なうことなく、良好な押出加工性を発揮することが可能になる。
【0008】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、スチレンブタジエンゴム中に、ビニル含有量が35質量%以下である溶液重合スチレンブタジエンゴムが80質量%以上含まれることが好ましい。このようにビニル含有量が少ないスチレンブタジエンゴムを多く含むことで、ウェット性能をより効果的に高めることができる。
【0009】
本発明のタイヤ用ゴム組成物においては、シリカとして、BET比表面積が異なる2種類のシリカを配合することが好ましい。特に、2種類のシリカの一方のBET比表面積が150m2/g以上200m2/g以下であることが好ましい。また、2種類のシリカの他方のBET比表面積が200m2/g以上であることが好ましい。これにより、ウェット性能の向上と転がり抵抗の低減を、より高度に両立することができる。尚、BET比表面積は、ISO 5794/1に準拠して測定するものとする。
【0010】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、空気入りタイヤのトレッド部に好適に用いることができる。本発明のタイヤ用ゴム組成物をトレッド部に用いた空気入りタイヤは、上述のゴム物性によって、優れたウェット性能および低燃費性能を発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のタイヤ用ゴム組成物において、ゴム成分はジエン系ゴムであり、スチレンブタジエンゴムおよびブタジエンゴムを必ず含む。スチレンブタジエンゴムとしては、タイヤ用ゴム組成物に通常用いられる溶液重合スチレンブタジエンゴムまたは乳化重合スチレンブタジエンゴムを例示できるが、本発明では、特に、溶液重合スチレンブタジエンゴムを用いるとよい。一方、ブタジエンゴムは、チタン触媒により合成されたものを必ず使用する。このように、溶液重合スチレンブタジエンゴムとチタン触媒により合成されたブタジエンゴムを併用することで、ウェット性能を向上しながら、転がり抵抗を低減し、且つ、良好な押出加工性を発揮することが可能になる。尚、ブタジエンゴムが、チタン触媒以外(例えば、コバルト触媒、ニッケル触媒、ネオジム触媒など)で合成されたものであると、ウェット性能や低転がり性能を確保できても、押出加工性が悪化し、ゴムシートに加工した際などにシート肌の悪化やヤケ等の不具合が生じやすくなる。
【0012】
スチレンブタジエンゴムの配合量は、ジエン系ゴム100質量部中に70質量%以上、好ましくは70質量%以上95質量%以下、より好ましくは75質量%以上90質量%以下である。チタン触媒により合成されたブタジエンゴムの配合量は、ジエン系ゴム100質量部中に5質量%以上30質量%以下、好ましくは10質量%以上25質量%以下である。スチレンブタジエンゴムとチタン触媒により合成されたブタジエンゴムを併用するにあたって、配合量を上記のように設定することで、ウェット性能の向上と転がり抵抗の低減を両立しながら、良好な押出加工性を発揮するには有利になる。スチレンブタジエンゴムの配合量が70質量%未満であると、ウェット性能を向上する効果が十分に得られない。チタン触媒により合成されたブタジエンゴムの配合量が5質量%未満であると、押出加工性を改善する効果が十分に見込めなくなる。チタン触媒により合成されたブタジエンゴムの配合量が30質量%を超えると、ウェット性能が低下する。
【0013】
上述のスチレンブタジエンゴムは、ビニル含有量が好ましくは35質量%以下、より好ましくは10質量%以上35質量%以下である溶液重合スチレンブタジエンゴム(以下、低ビニル含有SBRという)を含んでいるとよい。このような低ビニル含有SBRを含む場合、その配合量は、上述のスチレンブタジエンゴム中に好ましくは80質量%以上、より好ましくは80質量%以上95質量%以下である。上述の低ビニル含有SBRを含有することで、ウェット性能の向上と転がり抵抗の低減を両立しながら、良好な押出加工性を発揮するには有利になる。上述の低ビニル含有SBRのビニル含有量が35質量%を超えると、ウェット性能が低下する。上述の低ビニル含有SBRの配合量が80質量%未満であると、ウェット性能が低下する。上述の低ビニル含有SBR以外に他のスチレンブタジエンゴムを含む場合、そのビニル含有量は特に限定されない。また、上述の低ビニル含有SBRに該当するスチレンブタジエンゴムを2種以上併用してもよい。その場合、2種の低ビニル含有SBRの配合量の合計を好ましくは80質量%以上、より好ましくは80質量%以上95質量%以下にするとよい。尚、スチレンブタジエンゴムのビニル含有量は、赤外分光分析(ハンプトン法)により測定するものとする。スチレンブタジエンゴムにおけるビニル含有量の増減は、触媒等によって通常の方法で適宜調整することができる。
【0014】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、上述のブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム以外に、他のジエン系ゴムを含有することができる。他のジエン系ゴムとしては、タイヤ用ゴム組成物に一般的に使用可能なゴムを用いることができる。他のジエン系ゴムは、単独または任意のブレンドとして使用することができる。
【0015】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、上述のジエン系ゴムに対して、カーボンブラックおよびシリカを含む充填剤が必ず配合される。このように充填剤を配合することで、ゴム組成物のゴム硬度を高くし、空気入りタイヤにしたとき、操縦安定性を優れたものにすることができる。充填剤は、上述のカーボンブラックおよびシリカを必ず含むが、カーボンブラックおよびシリカ以外の他の充填剤を配合することもできる。他の充填材として、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、タルク、クレー、アルミナ、水酸化アルミニウム、酸化チタン、硫酸カルシウムを挙げることができる。これら他の充填剤は単独または2種以上を組合わせて使用してもよい。
【0016】
このように充填剤を配合するにあたって、カーボンブラックおよびシリカの配合量の合計は、上述のジエン系ゴム100質量部に対して70質量部以上130質量部以下、好ましくは80質量部以上120質量部以下である。カーボンブラックおよびシリカの配合量の合計が70質量部未満であると、ゴム硬度が低くなり、操縦安定性を十分に確保することができない。カーボンブラックおよびシリカの配合量の合計が130質量部を超えると、フィラーのゴムへの分散が悪くなるため押出加工が難しくなり、結果として転がり抵抗が大きくなる。カーボンブラックおよびシリカの個々の配合量は、特に限定されないが、カーボンブラックについては好ましくは1質量部~50質量部、より好ましくは1質量部~40質量部配合するとよく、シリカについては好ましくは20質量部~129質量部、より好ましくは40質量部~119質量部配合するとよい。特に、シリカの配合量を上述の範囲に設定することで、ウェット性能の向上と転がり抵抗の低減を両立しながら、良好な押出加工性を発揮するには有利になる。
【0017】
本発明で使用されるカーボンブラックは、沃素吸着量が好ましくは100g/kg以上、より好ましくは100g/kg~150g/kgであるとよい。カーボンブラックの沃素吸着量を100g/kg以上にすることで、ゴム組成物の物性を良好にして、操縦安定性と乗心地を両立することができる。カーボンブラックの沃素吸着量が100g/kgを下回ると、操縦安定性と乗心地を両立することができない。尚、カーボンブラックの沃素吸着量は、JIS K6217‐1に準拠して測定した値とする。
【0018】
本発明で使用されるシリカとして、例えば湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム等を例示することができる。またシランカップリング剤による表面処理が施された表面処理シリカを使用してもよい。これらは、単独または2種以上を組合わせて使用してもよい。特に、BET比表面積が異なる2種類のシリカを併用することが好ましい。
【0019】
単独のシリカを用いる場合、そのBET比表面積は、好ましくは150m2/g~350m2/g、より好ましくは150m2/g~300m2/gであるとよい。単独のシリカを用いる場合に、シリカのBET比表面積を上述の範囲に設定することで、ウェット性能の向上と転がり抵抗の低減を両立しながら、良好な押出加工性を発揮するには有利になる。この場合、シリカのBET比表面積が150m2/g未満であるとウェット性能が低下する。シリカのBET比表面積が300m2/gを超えると低燃費性能が低下する。
【0020】
BET比表面積が異なる2種類のシリカを併用する場合、一方のシリカのBET比表面積を、好ましくは150m2/g以上200m2/g以下、より好ましくは150m2/g以上185m2/g以下に設定するとよい。また、他方のシリカのBET比表面積を、好ましくは200m2/g以上、より好ましくは200m2/g以上300m2/g以下に設定するとよい。また、2種類のシリカのBET比表面積の差が、好ましくは5m2/g以上90m2/g以下、より好ましくは15m2/g以上75m2/g以下であるとよい。このように2種類のシリカのそれぞれのBET比表面積を適切な範囲に設定することで、ウェット性能の向上と転がり抵抗の低減を両立しながら、良好な押出加工性を発揮するには有利になる。一方のシリカ(相対的にBET比表面積が小さい方のシリカ)のBET比表面積が150m2/g未満であると、ウェット性能が低下する。一方のシリカ(相対的にBET比表面積が小さい方のシリカ)のBET比表面積が200m2/gを超えると、低燃費性能が低下する。他方のシリカ(相対的にBET比表面積が大きい方のシリカ)のBET比表面積が200m2/g未満であると、ウェット性能が低下する。
【0021】
BET比表面積が異なる2種類のシリカを併用する場合、一方のシリカ(相対的にBET比表面積が小さい方のシリカ)の配合量Aと他方のシリカ(相対的にBET比表面積が大きい方のシリカ)の配合量Bとの比A:Bは、好ましくは99:1~55:45、より好ましくは95:5~65:35にするとよい。このように2種類のシリカをバランスよく併用することで、2種類のシリカを併用することによる効果をより効果的に発揮することができる。
【0022】
上記のようにシリカを配合するにあたって、シランカップリング剤を併用することが好ましい。シランカップリング剤により、シリカの分散性を改良することができる。シランカップリング剤の配合量は、シリカの配合量の好ましくは4質量%~20質量%、より好ましくは4質量%~16質量%、更に好ましくは5質量%~15質量%であるとよい。シランカップリング剤の配合量が4質量%未満であると、シリカの分散性を十分に改良することができない。シランカップリング剤の配合量が20質量%を超えると、ゴム組成物が早期加硫を起こしやすくなり、成形加工性が悪化する虞がある。
【0023】
シランカップリング剤としては、タイヤ用ゴム組成物に使用可能なものであれば特に制限されるものではないが、例えば、ビス‐(3‐トリエトキシシリルプロピル)テトラサルファイド、ビス(3‐トリエトキシシリルプロピル)ジサルファイド、3‐トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラサルファイド、γ‐メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3‐オクタノイルチオプロピルトリエトキシシラン等の硫黄含有シランカップリング剤を例示することができる。なかでもメルカプト基を有するシランカップリング剤が好ましく、シリカとの親和性を高くしその分散性を改良することができる。これらシランカップリング剤は、単独で配合してもよいし、複数を組合わせて配合してもよい。
【0024】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、上述のジエン系ゴムに対して、オイルを配合することができる。オイルとしては、天然オイル、合成オイル、可塑剤など、ゴム組成物の調製時に添加されるオイルを例示することができる。このようにオイルを配合するにあたって、その配合量は、調製時に添加されるオイルとジエン系ゴムが含有する油展成分の合計(以下、オイル成分の合計という)に基づいて決定するとよい。具体的には、オイル成分の合計を、カーボンブラックおよびシリカの配合量の合計の45%以下、好ましくは20%~40%とする。このように適量のオイルを含有することで、ウェット性能、低転がり性能、および押出加工性をバランスよく両立することができる。オイル成分の合計が45%を超えると、ゴム硬度が低下して、ドライ性能(特にドライ路面における操縦安定性)が悪化する。尚、ジエン系ゴムが含有する油展成分を除いたオイル(ゴム組成物の調製時に添加されるオイル)の配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、例えば5質量部~20質量部に設定することができる。
【0025】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、加硫または架橋剤、加硫促進剤、老化防止剤、可塑剤、加工助剤、液状ポリマー、テルペン系樹脂、熱硬化性樹脂などのタイヤ用ゴム組成物に一般的に使用される各種添加剤を、本発明の目的を阻害しない範囲内で配合することができる。また、かかる添加剤は一般的な方法で混練してゴム組成物とし、加硫または架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【0026】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、上述のように、ウェット性能および低転がり性能に優れ、且つ、製造時には良好な押出加工性を発揮する。そのため、本発明のタイヤ用ゴム組成物は、空気入りタイヤ(特に、サマータイヤ)のトレッド部に好適に用いることができる。本発明のタイヤ用ゴム組成物をトレッド部に用いた空気入りタイヤは、上述のゴム物性によって、優れたウェット性能と低燃費性能を発揮することができる。
【0027】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0028】
表3に示す配合剤を共通配合とし、表1~2に示す配合からなるタイヤ用ゴム組成物(標準例1、比較例1~6、実施例1~12)を調製するにあたり、それぞれ硫黄および加硫促進剤を除く成分を、1.7Lの密閉式バンバリーミキサーで5分間混練りした後、ミキサーから放出して室温冷却した。これを1.7Lの密閉式バンバリーミキサーに投入し、硫黄および加硫促進剤を加えて混合することにより、タイヤ用ゴム組成物を調製した。
【0029】
尚、表1~2の「SBR1」、「SBR2」、「SBR3」の欄については、製品の配合量に加えて、括弧内に油展成分を除く正味の配合量を記載した。表1~2の「充填剤合計」は、カーボンブラックの配合量とシリカの配合量の合計を示す。
【0030】
得られたタイヤ用ゴム組成物を使用して、以下に示す方法で押出加工性の評価を行った。また、得られたタイヤ用ゴム組成物をトレッドゴムに使用した空気入りタイヤ(タイヤサイズ:225/45R18)を加硫成形し、以下に示す方法で、ウェット性能、低燃費性能の評価を行った。
【0031】
押出加工性
各タイヤ用ゴム組成物を使用して、ASTM D 2230‐77に準拠して、ガーベダイを用いて押出サンプルを作成し、各押出サンプルの外観(エッジの鋭さと表面肌の平滑性を目視で評価した。評価結果は、外観に異常がない場合を「〇」、エッジ切れやヤケ等の不具合が生じた場合を「×」で示した。
【0032】
ウェット性能
得られた空気入りタイヤを標準リム(リムサイズ:225/45R18)に組み付け、空気圧250kPaを充填し、試験車両に装着し、ウェット路面上を走行させ、初速40km/時で制動をかけたときの制動距離を測定した。評価結果は、測定値の逆数を用いて、標準例1の値を100とする指数で示した。この指数値が大きいほど制動距離が短く、ウェット性能に優れることを意味する。
【0033】
低燃費性能
各試験タイヤをリムサイズ225/45R18のホイールに組み付けて、ISO28580に準拠して、ドラム径1707.6mmのドラム試験機を用い、空気圧250kPa、荷重4.8kN、速度80km/hの条件で転がり抵抗を測定した。評価結果は、測定値の逆数を用いて、標準例1を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど転がり抵抗が低く、低燃費性能に優れることを意味する。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
【表3】
【0037】
表1~3において使用した原材料の種類を下記に示す。
・SBR1:溶液重合スチレンブタジエンゴム、日本ゼオン社製NIPOL NS560(スチレン含有量:41質量%、ビニル含有量:31質量%、ゴム成分100質量部に対しオイル分20質量%を含む油展品)
・SBR2:溶液重合スチレンブタジエンゴム、日本ゼオン社製NIPOL NS540(スチレン含有量:42質量%、ビニル含有量:29質量%、ゴム成分100質量部に対しオイル分25質量%を含む油展品)
・SBR3:溶液重合スチレンブタジエンゴム、旭化成社製TUFDENE F3420(スチレン含有量:36質量%、ビニル含有量:41質量%、ゴム成分100質量部に対しオイル分25質量%を含む油展品)
・BR1:チタン触媒により合成されたブタジエンゴム、VORONEZHSYNTHEZKAUCHUK JSC社製BR‐1203 Ti
・BR2:ネオジム触媒により合成されたブタジエンゴム、VORONEZHSYNTHEZKAUCHUK JSC社製BR‐1243 Nd
・BR3:コバルト触媒により合成されたブタジエンゴム、日本ゼオン社製NIPOL BR 1220
・CB1:カーボンブラック、キャボットジャパン社製VULCAN 7HJ
・シリカ1:Evonik社製ULTRASIL 7000GR(BET比表面積:160m2/g)
・シリカ2:Solvay社製ZEOSIL PREMIUM 200MP(BET比表面積:210m2/g)
・シリカ3:Evonic社製ZEOSIL 1165MP(BET比表面積:115m2/g)
・アロマオイル:Klaus Dhleke KG社製VIVATEC 500
・加工助剤:Struktol社製STRUKTOL A50P
・老化防止剤:LANXESS社製VULKANOX 4020
・ワックス:NIPPON SEIRO社製OZOACE‐0015A
・カップリング剤:シランカップリング剤、Evonik社製Si69
・亜鉛華:ZM Silesia社製Zinc Oxide
・ステアリン酸:IOI Acidchem社製PALMAC 1600
・加硫促進剤:住友化学社製ソクシノールD‐G(DPG)
・硫黄:細井化学工業社製油処理イオウ
【0038】
表1から明らかなように、実施例1~12のタイヤ用ゴム組成物は、標準例1に対して、ウェット性能および低燃費性能を同等以上に改善しながら、押出加工性を良好に発揮し、これら性能を高度に両立した。
【0039】
一方、比較例1は、ブタジエンゴムの配合量が多いため、ウェット性能と押出加工性が悪化した。比較例2は、ブタジエンゴムの配合量が少ないため、低燃費性能が悪化した。比較例3は、シリカの配合量が少ない結果、充填剤合計(カーボンブラックおよびシリカの配合量の合計)が少ないため、ウェット性能が悪化した。比較例4は、シリカの配合量が多い結果、充填剤合計(カーボンブラックおよびシリカの配合量の合計)が多いため、低燃費性能および押出加工性が悪化した。比較例5は、触媒の異なるブタジエンゴム(ネオジム触媒により合成されたBR2)を使用しているため、押出加工性が悪化した。比較例6は、触媒の異なるブタジエンゴム(コバルト触媒により合成されたBR3)を使用しているため、押出加工性が悪化した。