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特開2022-135423クリヤー塗料組成物および複層塗膜の形成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022135423
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】クリヤー塗料組成物および複層塗膜の形成方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 133/00 20060101AFI20220908BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20220908BHJP
   C09D 133/04 20060101ALI20220908BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20220908BHJP
   C09D 161/20 20060101ALI20220908BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20220908BHJP
   B05D 1/36 20060101ALI20220908BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20220908BHJP
   B05D 3/00 20060101ALI20220908BHJP
   C08G 18/62 20060101ALI20220908BHJP
   C08G 18/40 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
C09D133/00
C09D175/04
C09D133/04
C09D7/61
C09D161/20
C09D5/00 D
B05D1/36 B
B05D7/24 302P
B05D7/24 302T
B05D7/24 302S
B05D3/00 D
B05D7/24 303B
C08G18/62 016
C08G18/40 027
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021035213
(22)【出願日】2021-03-05
(71)【出願人】
【識別番号】593135125
【氏名又は名称】日本ペイント・オートモーティブコーティングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100088801
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 宗雄
(72)【発明者】
【氏名】富樫 みずほ
(72)【発明者】
【氏名】大隣 雅俊
(72)【発明者】
【氏名】井上 侑紀
(72)【発明者】
【氏名】三輪 安紀
【テーマコード(参考)】
4D075
4J034
4J038
【Fターム(参考)】
4D075AA02
4D075AE03
4D075AE06
4D075AE08
4D075AE09
4D075BB16X
4D075BB25Z
4D075BB26Z
4D075BB28Z
4D075BB75X
4D075BB89X
4D075CA02
4D075CA13
4D075CA38
4D075CA44
4D075CA47
4D075CA48
4D075DA06
4D075DB02
4D075DC11
4D075EA05
4D075EA06
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4D075EA43
4D075EB22
4D075EB32
4D075EB38
4D075EB51
4D075EB53
4D075EB54
4D075EB55
4D075EB56
4D075EC01
4D075EC07
4D075EC30
4D075EC33
4D075EC47
4D075EC53
4J034AA05
4J034AA06
4J034BA05
4J034BA07
4J034DA01
4J034DA03
4J034DB05
4J034DB07
4J034DC12
4J034DE01
4J034DJ09
4J034FA02
4J034FB01
4J034FC01
4J034FD07
4J034FD08
4J034HA01
4J034HA07
4J034HA11
4J034HC01
4J034HC12
4J034HC25
4J034JA01
4J034JA32
4J034QA02
4J034QD06
4J034RA07
4J038CG141
4J038CG142
4J038CH031
4J038CH032
4J038CH041
4J038CH042
4J038CH071
4J038CH121
4J038CH122
4J038CJ031
4J038CJ032
4J038DA112
4J038DG262
4J038GA03
4J038GA06
4J038HA446
4J038KA06
4J038KA09
4J038KA20
4J038MA13
4J038MA14
4J038MA16
4J038NA04
4J038NA11
4J038PA07
4J038PA19
4J038PB07
(57)【要約】
【課題】
本発明は、自動車の表面に形成される複層塗膜の最上層のクリヤー塗膜を提供するクリヤー塗料組成物であって、高い耐薬品性やドライ擦り傷性を有し、かつ高い洗車擦り傷性および高いリコート密着性を有するものを提供する。
【解決手段】
本発明は、水酸基含有アクリル樹脂(A)、水酸基含有アクリル樹脂(B)、多官能イソシアネート化合物(C)およびアミノプラスト樹脂(D)を含有するクリヤー塗料組成物であって、
前記水酸基含有アクリル樹脂(A)が、ガラス転移温度20~35℃、水酸基価100~200mgKOH/g、溶解性パラメータ9.5~11.5および脂環式(メタ)アクリレートを水酸基含有アクリル樹脂(A)の固形分全量に対して20~40質量%の量で含み
前記水酸基含有アクリル樹脂(B)が、ガラス転移温度15~30℃、水酸基価150~250mgKOH/gおよび溶解性パラメータ10.5~12.5を有し、
前記水酸基含有アクリル樹脂(A)の溶解性パラメータが前記水酸基含有アクリル樹脂(B)の溶解性パラメータよりも低く、かつ、その差が0.5以上であり、
成分(C)および(D)の配合量を更に制御したものと提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基含有アクリル樹脂(A)、水酸基含有アクリル樹脂(B)、多官能イソシアネート化合物(C)およびアミノプラスト樹脂(D)を含有するクリヤー塗料組成物であって、
前記水酸基含有アクリル樹脂(A)が、ガラス転移温度20~35℃、水酸基価100~200mgKOH/g、溶解性パラメータ9.5~11.5および脂環式(メタ)アクリレートを水酸基含有アクリル樹脂(A)の固形分全量に対して20~40質量%の量で含み、
前記水酸基含有アクリル樹脂(B)が、ガラス転移温度15~30℃、水酸基価150~250mgKOH/gおよび溶解性パラメータ10.5~12.5を有し、
前記水酸基含有アクリル樹脂(A)の溶解性パラメータが前記水酸基含有アクリル樹脂(B)の溶解性パラメータよりも低く、かつ、その差が0.5以上であり、
上記アミノプラスト樹脂(D)以外の全水酸基含有樹脂(X)の水酸基当量(α)と上記多官能イソシアネート化合物(C)のイソシアネート当量(β)の比率が、下記式(1)
1.20>β/α>0.80:式(1)
を満足し、かつ、
上記多官能イソシアネート化合物(C)および上記アミノプラスト樹脂(D)の固形分質量比率(Mc、Md)が、下記式(2)
8.0>Mc/Md>1.0:式(2)
を満足することを特徴とする、クリヤー塗料組成物。
【請求項2】
上記クリヤー塗料組成物が、更に平均粒径2~500nmの無機微粒子を含む請求項1記載のクリヤー塗料組成物。
【請求項3】
前記水酸基含有アクリル樹脂(A)および水酸基含有アクリル樹脂(B)は、クリヤー塗料組成物の樹脂固形分の合計100質量部に対して、水酸基含有アクリル樹脂(A)が20~50質量%の量で含み、水酸基含有アクリル樹脂(B)が5~35質量%の量で含む、請求項1または2記載のクリヤー塗料組成物。
【請求項4】
前記多官能イソシアネート化合物(C)が、クリヤー塗料組成物の樹脂成分100質量部に対して、25~45質量%の量で含まれる、請求項1~3のいずれか1項に記載のクリヤー塗料組成物。
【請求項5】
アミノプラスト樹脂(D)が、クリヤー塗料組成物の樹脂成分100質量部に対して、1~25質量%の量で含まれる、請求項1~4のいずれか1項に記載のクリヤー塗料組成物。
【請求項6】
被塗装物に対して中塗り塗料組成物を塗布して、さらに得られた中塗り未硬化塗膜の上にベース塗料組成物を塗布してベース未硬化塗膜を得た後、請求項1~5のいずれか1項に記載のクリヤー塗料組成物を塗布してクリヤー未硬化塗膜を得、
前記中塗り未硬化塗膜、ベース未硬化塗膜及びクリヤー未硬化塗膜を同時に加熱して硬化させることを特徴とする複層塗膜の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリヤー塗料組成物、特に自動車の表面に塗布するのに適したクリヤー塗料組成物およびそれを用いる複層塗膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の表面には、高い意匠性を付与するために、着色塗膜が形成され、更にその上にクリヤー塗料を塗布して、着色塗膜をより深みのあるものにすることが行なわれている。
【0003】
着色塗膜上に形成されたクリヤー塗膜は、着色塗膜を保護する機能も有していて、高い耐薬品性やドライ擦り傷性等の特性を有しなければならない。また、最近では、自動車は洗車機で洗車することが多くなり、洗車機による洗車擦り傷性と呼ばれる、洗車機による擦り傷を防止する性能も必要である。更に、自動車塗膜は、欠陥があると、塗膜を研磨した後、その上に同じ塗色の複層塗膜を形成することが行なわれるが、クリヤー塗膜は上に形成される欠陥修復用の複層塗膜との密着性(「リコート密着性」とも呼ばれる。)も高くする必要がある。これらすべての性能を満足するのは、非常に難しい。
【0004】
クリヤー塗料に関しては、特許文献1(WO2013/031977)を始めたくさんの特許出願がなされていて、水酸基含有アクリル樹脂を基本樹脂として、ポリイソシアネート化合物等の架橋剤で架橋する2液硬化型のクリヤー塗料組成物が多く提案され、実際に使用されているが、前述の全て特性に優れているものは、まだ提供されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2013/031977
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、自動車の表面に形成される複層塗膜の最上層のクリヤー塗膜を提供するクリヤー塗料組成物であって、高い耐薬品性やドライ擦り傷性を有し、かつ高い洗車擦り傷性および高いリコート密着性を有するものを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、本発明は以下の態様を提供する:
[1]
水酸基含有アクリル樹脂(A)、水酸基含有アクリル樹脂(B)、多官能イソシアネート化合物(C)およびアミノプラスト樹脂(D)を含有するクリヤー塗料組成物であって、
前記水酸基含有アクリル樹脂(A)が、ガラス転移温度20~35℃、水酸基価100~200mgKOH/g、溶解性パラメータ9.5~11.5および脂環式(メタ)アクリレートを水酸基含有アクリル樹脂(A)の固形分全量に対して20~40質量%の量で含み、
前記水酸基含有アクリル樹脂(B)が、ガラス転移温度15~30℃、水酸基価150~250mgKOH/gおよび溶解性パラメータ10.5~12.5を有し、
前記水酸基含有アクリル樹脂(A)の溶解性パラメータが前記水酸基含有アクリル樹脂(B)の溶解性パラメータよりも低く、かつ、その差が0.5以上であり、
上記アミノプラスト樹脂(D)以外の全水酸基含有樹脂(X)の水酸基当量(α)と上記多官能イソシアネート化合物(C)のイソシアネート当量(β)の比率が、下記式(1)
1.20>β/α>0.80:式(1)
を満足し、かつ、
上記多官能イソシアネート化合物(C)および上記アミノプラスト樹脂(D)の固形分質量比率(Mc、Md)が、下記式(2)
8.0>Mc/Md>1.0:式(2)
を満足することを特徴とする、クリヤー塗料組成物。
[2]
上記クリヤー塗料組成物が、更に平均粒径2~500nmの無機微粒子を含む[1]に記載のクリヤー塗料組成物。
[3]
前記水酸基含有アクリル樹脂(A)および水酸基含有アクリル樹脂(B)は、クリヤー塗料組成物の樹脂固形分の合計100質量部に対して、水酸基含有アクリル樹脂(A)が20~50質量%の量で含み、水酸基含有アクリル樹脂(B)が5~35質量%の量で含む、[1]または[2]に記載のクリヤー塗料組成物。
[4]
前記多官能イソシアネート化合物(C)が、クリヤー塗料組成物の樹脂成分100質量部に対して、25~45質量%の量で含まれる、[1]~[3]のいずれかに記載のクリヤー塗料組成物。
[5]
アミノプラスト樹脂(D)が、クリヤー塗料組成物の樹脂成分100質量部に対して、1~25質量%の量で含まれる、[1]~[4]のいずれかに記載のクリヤー塗料組成物。
[6]
被塗装物に対して中塗り塗料組成物を塗布して、さらに得られた中塗り未硬化塗膜の上にベース塗料組成物を塗布してベース未硬化塗膜を得た後、[1]~[5]のいずれかに記載のクリヤー塗料組成物を塗布してクリヤー未硬化塗膜を得、
前記中塗り未硬化塗膜、ベース未硬化塗膜及びクリヤー未硬化塗膜を同時に加熱して硬化させることを特徴とする複層塗膜の形成方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、クリヤー塗料組成物の組成、特に塗膜形成性の基本樹脂である水酸基含有アクリル樹脂を2種類用いて、その特性(特に、溶解性パラメータ)を制御して、塗装時にクリヤー塗膜内で2層に分離して、塗膜の上層(被塗物と反対側)に薬品性とドライ擦り傷性に優れた層を形成し、下層(被塗物側)に洗車擦り傷に優れた層を形成し、両方の層がリコート密着性に優れたものとして、クリヤー塗膜の性能を向上させた。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のクリヤー塗料組成物は、2種類の水酸基含有アクリル樹脂(A)および水酸基含有アクリル樹脂(B)を用い、それらを2種類の架橋剤(具体的には、多官能イソシアネート化合物(C)およびアミノプラスト樹脂(D))で硬化する組成を用いている。それぞれの成分と、それぞれの成分の特性を説明する。
【0010】
尚、本明細書中で、「a~b」(aおよびbは共に数字。)で数値範囲を表しているのは、a以上b以下という意味である。
【0011】
[水酸基含有アクリル樹脂(A)および(B)]
水酸基含有アクリル樹脂は、アクリル樹脂であって、且つ水酸基を含有するものである。本発明では、2種類の水酸基含有アクリル樹脂、即ち水酸基含有アクリル樹脂(A)および水酸基含有アクリル樹脂(B)として区別して記載するが、共に水酸基含有アクリル樹脂であるので、一般的に水酸基含有アクリル樹脂を説明した後に、個別に水酸基含有アクリル樹脂(A)および水酸基含有アクリル樹脂(B)について説明する。
【0012】
本発明において「アクリル樹脂」とは、アクリル酸およびそのエステル、メタクリル酸およびそのエステルのうちの少なくとも一つのモノマーを含むモノマー組成物を重合して得られるポリマーを指す。
【0013】
本発明に係る水酸基含有アクリル樹脂を構成するモノマーとしては、例えば、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸4-ヒドロキシブチル等の、水酸基を含有するアクリル酸ヒドロキシエステル;メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸4-ヒドロキシブチル等の、水酸基を含有するメタクリル酸ヒドロキシエステル;のうちの少なくとも1つを含み、さらに、必要に応じて、アクリル酸;アクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸イソボロニル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸;メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸イソボロニル等の脂肪族アルキルメタクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート等の脂環式(メタ)アクリレート;スチレン等の芳香環を有するエチレン性不飽和モノマー;等が挙げられる。モノマーの組成は、水酸基含有アクリル樹脂に求められる各種物性に応じて適宜調節される。シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート等の脂環式(メタ)アクリレート
【0014】
水酸基含有アクリル樹脂は、例えば酢酸ブチル等の溶剤を用いて重合できる。また、溶剤の種類、重合時のモノマーの濃度、或いは重合開始剤の種類、量、重合温度、重合時間等の重合条件は、水酸基含有アクリル樹脂に求められる各種物性に応じて適宜調節できる。したがって、本発明の水酸基含有アクリル樹脂の製造方法は特に限定されるものではなく、市販の水酸基含有アクリル樹脂を用いてもよい。
【0015】
本発明において、水酸基含有アクリル樹脂(A)は、ガラス転移温度20~35℃、水酸基価100~200mgKOH/g、溶解性パラメータ9.5~11.5および脂環式(メタ)アクリレートを水酸基含有アクリル樹脂(A)の固形分全量に対して20~40質量%の量で含むものである。
また、本発明において、水酸基含有アクリル樹脂(B)は、ガラス転移温度15~30℃、水酸基価150~250mgKOH/gおよび溶解性パラメータ10.5~12.5を有するものである。
本発明では、水酸基含有アクリル樹脂(A)の溶解性パラメータが水酸基含有アクリル樹脂(B)の溶解性パラメータよりも低く、かつ、その差が0.5以上であることが必要である。
【0016】
水酸基含有アクリル樹脂(A)のガラス転移温度は、25℃以上35℃以下である。ガラス転移温度がこのような範囲内であることにより、クリヤー塗膜は、優れた耐汚染性、耐擦り傷性、及び硬度を有することができ、加えて、クリヤー塗膜形成組成物の速乾性が向上する。その上、優れた外観を有することができる。
【0017】
水酸基含有アクリル樹脂(B)のガラス転移温度は、15℃以上30℃以下である。ガラス転移温度がこのような範囲内であることにより、クリヤー塗膜は、優れた耐汚染性、耐擦り傷性、及び硬度を有することができ、加えて、クリヤー塗膜形成組成物の速乾性が向上する。その上、優れた外観を有することができる。
【0018】
本明細書におけるガラス転移温度は、示差走査熱量計(DSC)(熱分析装置SSC5200(セイコー電子製))にて以下の工程により測定した値を用いた。具体的には、昇温速度10℃/minにて20℃から150℃に昇温する工程(工程1)、降温速度10℃/minにて150℃から-50℃に降温する工程(工程2)、昇温速度10℃/minにて-50℃から150℃に昇温する工程(工程3)において、工程3の昇温時のチャートから得られる値をガラス転移温度とした。
【0019】
水酸基含有アクリル樹脂(A)と水酸基含有アクリル樹脂(B)のガラス転移温度の差は、水酸基含有アクリル樹脂(A)のガラス転移温度(Agt)-水酸基含有アクリル樹脂(B)のガラス転移温度(Bgt)が、0~20℃,好ましくは5~20℃である。ガラス転移温度は、擦り傷性や硬度に寄与する因子であるが、クリヤー塗膜の上層(被塗物と反対側)に来るものが、ガラス転移温度が低く、衝撃に強いことが期待される。
【0020】
水酸基含有アクリル樹脂(A)は、水酸基価が100mgKOH/g以上200mgKOH/g以下である。水酸基価がこのような範囲内であることにより、クリヤー塗膜に良好な架橋密度を付与できる。さらに、塗膜の親水化を抑制でき、クリヤー塗膜および複層塗膜に優れた耐水性、耐湿性を有することができる。
【0021】
水酸基含有アクリル樹脂(B)は、水酸基価が150mgKOH/g以上250mgKOH/g以下である。水酸基価がこのような範囲内であることにより、クリヤー塗膜に良好な架橋密度を付与できる。さらに、塗膜の親水化を抑制でき、クリヤー塗膜および複層塗膜に優れた耐水性、耐湿性を有することができる。
【0022】
本発明において、水酸基価は、JIS K 0070に記載されている水酸化カリウム水溶液を用いる中和滴定法により求めることができる。
【0023】
水酸基含有アクリル樹脂(A)と水酸基含有アクリル樹脂(B)の水酸基価の差は、水酸基含有アクリル樹脂(A)の水酸基価(Ahv)-水酸基含有アクリル樹脂(B)の水酸基価(Bhv)が、0~150の範囲内であり、好ましくは50~100の範囲内である。水酸基価は、架橋反応に寄与する活性基であるが、クリヤー塗膜の上層(被塗物と反対側)に来るものが、架橋度が高く硬い方が耐擦り傷性に優れ、内側(被塗物側)に来るものは、多少柔らかみがあった方が洗車擦り傷性に良い。
【0024】
水酸基含有アクリル樹脂(A)の溶解性パラメータ(SP)は、9.5以上11.5以下である。
【0025】
水酸基含有アクリル樹脂(B)の溶解性パラメータ(SP)は、9.5以上11.5以下である。
【0026】
本発明では、水酸基含有アクリル樹脂(A)の溶解性パラメータ(Asp)が水酸基含有アクリル樹脂(B)の溶解性パラメータ(Bsp)よりも低く、かつ、その差(Bsp-Asp)が0.5以上、好ましくは0.6以上であることが必要である。また、Bsp-Aspの上限は3.0である。SP値に差があることで、クリヤー塗膜が層分離して、上層(被塗物と反対側)と下層(被塗物側)にクリヤー塗膜内で異なる性能が付与でき、それぞれの性能が耐薬品、ドライ擦り傷性、洗車擦り傷性およびリコート密着性に寄与する。SP値の差が大きすぎると、塗膜内で分離が生じ、外観不良を生じる。
【0027】
本明細書における溶解性パラメータ(SP)は、次の方法によって実測することができる[参考文献:SUH、CLARKE、J.P.S.A-1、5、1671~1681(1967)]。
測定温度:20℃
サンプル:樹脂0.5gを100mLビーカーに秤量し、良溶媒10mLを、ホールピペットを用いて加え、マグネティックスターラーにより溶解する。
溶媒:
良溶媒…ジオキサン、アセトン等
貧溶媒…n-ヘキサン、イオン交換水等
濁点測定:50mLビュレットを用いて貧溶媒を滴下し、濁りが生じた点を滴下量とする。
SP値δは次式によって与えられる。
δ=(Vml1/2δml+Vmh1/2δmh)/(Vml 1/2+Vmh 1/2
=V/(φ+φ
δ=φδ+φδ
:溶媒の分子容(mL/mol)
φ:濁点における各溶媒の体積分率
δ:溶媒のSP値
ml:低SP貧溶媒混合系
mh:高SP貧溶媒混合系
【0028】
更に、水酸基含有アクリル樹脂(A)は、その合成時に、モノマーとして、脂環式(メタ)アクリレートを水酸基含有アクリル樹脂(A)のモノマーの固形分全量に対して20~40質量%の量で含む必要がある。脂環式(メタ)アクリレートは、上記モノマーの説明部分に記載している。脂環式(メタ)アクリレートを含むことにより、耐スポット性向上の利点を付与することができる。脂環式(メタ)アクリレートの配合量は、好ましくは20~40質量%であり、より好ましくは30~40質量%である。
【0029】
水酸基含有アクリル樹脂(A)の重量平均分子量は5000以上7000以下である。重量平均分子量がこのような範囲内であることにより、クリヤー塗膜は、耐久性と外観の両立が可能という利点を有する。
【0030】
水酸基含有アクリル樹脂(B)の重量平均分子量は、5000以上7000以下である。重量平均分子量がこのような範囲内であることにより、クリヤー塗膜は、耐久性と外観の両立が可能という利点を有する。
【0031】
本明細書における重量平均分子量は、東ソー株式会社製 HLC-8200を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって測定した値である。測定条件は以下の通りである。
カラム TSgel Super Multipore HZ-M 3本
展開溶媒 テトラヒドロフラン
カラム注入口オーブン 40℃
流量 0.35ml
検出器 RI
標準ポリスチレン 東ソー株式会社製PSオリゴマーキット
【0032】
水酸基含有アクリル樹脂(A)のクリヤー塗料組成物内への配合量は、水酸基含有アクリル樹脂(A)と、水酸基含有アクリル樹脂(B)と、多官能イソシアネート化合物(C)と、アミノプラスト樹脂(D)とを含むクリヤー塗料組成物の樹脂固形分の合計100質量部に対して、20質量%以上、50質量%以下であることが好ましく、30質量%以上、40質量%以下であることがより好ましい。このような量であることにより、クリヤー塗膜の平滑性を良好に保つことが出来る。また、クリヤー塗料組成物の乾燥性にも優れ、クリヤー塗料組成物は、良好な取り扱い性を有することができる。
【0033】
水酸基含有アクリル樹脂(B)のクリヤー塗料組成物内への配合量は、水酸基含有アクリル樹脂(A)と、水酸基含有アクリル樹脂(B)と、多官能イソシアネート化合物(C)と、アミノプラスト樹脂(D)とを含むクリヤー塗料組成物の樹脂固形分の合計100質量部に対して、5質量%以上、35質量%以下であることが好ましく、10質量%以上、30質量%以下であることがより好ましい。このような量であることにより、クリヤー塗膜の平滑性を良好に保つことが出来る。また、クリヤー塗料組成物の乾燥性にも優れ、クリヤー塗料組成物は、良好な取り扱い性を有することができる。
【0034】
[多官能イソシアネート化合物(C)]
本発明のクリヤー塗料組成物は、多官能イソシアネート化合物(C)と反応して硬化して硬化塗膜を形成する。
【0035】
多官能イソシアネート化合物(C)は特に限定されず、例えば、脂肪族、脂環式、芳香族基含有脂肪族又は芳香族の、ジイソシアネート、ジイソシアネートの二量体、ジイソシアネートの三量体(好ましくはイソシアヌレート型イソシアネート(いわゆるイソシアヌレート))等の多官能イソシアネート化合物であってよい。
【0036】
ジイソシアネートとして、例えば、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4-トリメチルへキサンジイソシアネート、ウンデカンジイソシアネート-(1,11)、リジンエステルジイソシアネート、シクロヘキサン-1,3-及び1,4-ジイソシアネート、1-イソシアナト-3-イソシアナトメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン(イソホロンジイソシアネート:IPDI)、4,4’-ジイソシアナトジシクロメタン、ω,ω’-ジプロピルエーテルジイソシアネート、チオジプロピルジイソシアネート、シクロヘキシル-1,4-ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、1,5-ジメチル-2,4-ビス(イソシアナトメチル)ベンゼン、1,5-トリメチル-2,4-ビス(ω-イソシアナトエチル)-ベンゼン、1,3,5-トリメチル-2,4-ビス(イソシアナトメチル)ベンゼン、1,3,5-トリエチル-2,4-ビス(イソシアナトメチル)ベンゼン、ジシクロヘキシルジメチルメタン-4,4’-ジイソシアネート等が挙げられる。また、2,4-ジイソシアナトトルエン及び/又は2,6-ジイソシアナトトルエン、4,4’-ジイソシアナトジフェニルメタン、1,4-ジイソシアナトイソプロピルベンゼンのような芳香族ジイソシアネートも用いることができる。イソシアヌレート型イソシアネートとしては上述のジイソシアネートの三量体を挙げることができる。
【0037】
多官能イソシアネート化合物(C)は、2種以上を併用してよい。
多官能イソシアネート化合物(C)の含有量は特に限定されないが、より適切に硬化反応を促進させる観点から、水酸基含有アクリル樹脂(B)の水酸基のモル数に対するイソシアネート化合物(C)のイソシアネート基のモル数の比(NCO/OH)は、0.6以上1.4以下であってよく、好ましく0.8以上1.2以下である。
【0038】
多官能イソシアネート化合物(C)のクリヤー塗料組成物への配合量は、特に限定されないが、硬化反応がより適切に行われるように、クリヤー塗料組成物の樹脂成分100質量部に対して、25質量%以上45質量%以下、好ましくは30質量%以上40質量%以下である。25質量%より少ないと、硬化が不十分になり、45質量%を超えても多官能イソシアネート化合物(C)の添加の効果に変化が見られず、逆に耐洗車スリキズ性が悪くなる。
【0039】
[アミノプラスト樹脂(D)]
本発明のクリヤー塗料組成物では、多官能イソシアネート化合物(C)に加えて、アミノプラスト樹脂(D)を配合する。
【0040】
アミノプラスト樹脂は、アミンあるいはアミド化合物とアルデヒドの反応によって生成する熱硬化性樹脂の総称であって、尿素樹脂、アニリン-ホルムアルデヒド樹脂、メラミン樹脂、グアナミン樹脂、チオ尿素樹脂等が挙げられる。アルデヒドとしては,おもにホルムアルデヒドが用いられる。アミノ化合物またはアミド化合物とホルムアルデヒドの反応により,窒素原子にホルムアルデヒドが付加してメチロール体(ヒドロキシメチル化合物)を生成する。
【0041】
アミノプラスト樹脂(D)の含有量は、特に限定されないが、より適切に硬化反応を促進させる観点から、リコート密着性および耐薬品性の観点から、クリヤー塗料組成物の樹脂固形分100質量部に対して、1質量%以上25質量%以下であってよく、好ましくは5質量%以上15質量%以下である。1質量%より少ないと、アミノプラスト樹脂(D)の添加の効果であるリコート密着性および耐薬品性が得られず、25質量%を超えてもアミノプラスト樹脂(D)の添加の効果に変化が見られず、逆に耐洗車スリキズ性が悪くなる。
【0042】
本発明では、上記多官能イソシアネート化合物(C)およびアミノプラスト樹脂(D)と、水酸基含有アクリル樹脂(A)および(B)との配合の各当量の関係が、クリヤー塗膜の性能に寄与する。具体的には、上記アミノプラスト樹脂(D)以外の全水酸基含有アクリル樹脂(X)の水酸基当量(α)と上記多官能イソシアネート化合物(C)のイソシアネート当量(β)の比率が、下記式(1)
1.20>β/α>0.80:式(1)
を満足し、かつ、
上記多官能イソシアネート化合物(C)および上記アミノプラスト樹脂(D)の固形分質量比率(Mc、Md)が、下記式(2)
8.0>Mc/Md>1.0:式(2)
を満足することを必要とする。
【0043】
上記において、水酸基含有アクリル樹脂(X)というのは、水酸基含有アクリル樹脂(A)および水酸基含有アクリル樹脂(B)の合計を意味し、式中の(α)は、水酸基当量の合計量である。
【0044】
上記式(1)において、イソシアネート当量(β)/水酸基当量(α)は、当量が0.80~1.2であって、ほぼ同じ当量で使用することを示している。イソシアネート当量(β)/水酸基当量(α)は、好ましくは0.90~1.10である。この当量比率が、上記範囲を外れると、硬化が十分でなくなり、外観やドライ擦り傷性等が悪くなく。
【0045】
上記式(2)において、多官能イソシアネート化合物の固形分質量(Mc)/アミノプラスト樹脂の固形分質量(Md)は、1.0~8・0であって、多官能イソシアネート化合物(C)の配合質量がアミノプラスト樹脂(D)の配合質量と同じぐらいか、かなり多いことを意味する。多官能イソシアネート化合物の固形分質量(Mc)/アミノプラスト樹脂の固形分質量(Md)は、好ましくは1.0~3.0、多官能イソシアネート化合物の固形分質量(Mc)が、アミノプラスト樹脂の固形分質量(Md)より少ないと、リコート密着性が悪くなる。逆に、多官能イソシアネート化合物の固形分質量(Mc)が、アミノプラスト樹脂の固形分質量(Md)の8倍より大きいと、耐薬品性等の性能が悪くなる。
【0046】
[クリヤー塗料組成物]
クリヤー塗料組成物は、水系であってよく、有機溶剤系であってもよい。
有機溶剤として、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、安息香酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸メチル等のエステル類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3-メトキシブチルアセテート等のグリコールエーテル類;芳香族炭化水素類、脂肪族炭化水素類等が挙げられる。
水と有機溶剤とは併用してよく、また、2種類以上の有機溶剤を用いてよい。なお、水は特に限定されず、イオン交換水等であってよい。
【0047】
本発明のクリヤー塗料組成物には、無機微粒子を配合すると、表面の擦り傷性や耐衝撃性が良好になる。無機微粒子は、クリヤー塗膜で上層(被塗物と反対側)に存在するようにすると、より擦り傷性が良くなり、好ましい。そのために、無機微粒子は平均粒径2~500nmのものが好ましく、上層への移行が起こりやすいように、シランカップリング剤や有機樹脂等で表面修飾したものが使用される。
【0048】
本発明のクリヤー塗料組成物には、必要に応じて、硬化触媒、粘性調整剤、消泡剤、紫外線吸収剤、光安定剤(例えば、ヒンダードアミン)、酸化防止剤、表面調整剤、造膜助剤、防錆剤、顔料、帯電防止剤等を含んでよい。
【0049】
クリヤー塗料組成物の製造方法は特に限定されず、ディスパー、ホモジナイザー、ロール、サンドグラインドミル又はニーダー等を用いて上述の材料を攪拌、混練又は分散する等、当該技術分野において公知の方法を用いることができる。
【0050】
クリヤー塗料組成物は、一液型塗料であってよく、二液型塗料等の多液型塗料であってもよい。ブロック化されていない多官能イソシアネート化合物(C)を使用する場合には、貯蔵安定性の観点から、水酸基含有アクリル樹脂(A)および(B)を含む主剤と多官能イソシアネート化合物(C)およびアミノプラスト樹脂(D)とを含む二液型塗料とし、使用直前に両者を混合して使用することが好ましい。
【0051】
[クリヤー塗膜]
本発明の実施形態に係るクリヤー塗膜は、本発明の実施形態に係るクリヤー塗料組成物から形成される。本クリヤー塗膜中ではシリカ粒子が塗膜内部に比べて塗膜表面近傍に多く存在する。これにより塗膜再表層硬度が上昇し、優れた耐擦り傷性を示す。
【0052】
塗膜内部及び塗膜表面近傍におけるシリカ粒子の分布は、例えば、クリヤー塗膜の平面方向に垂直な断面を透過電子顕微鏡で観察することができる。
【0053】
本発明の実施形態に係るクリヤー塗膜の形成方法は特に限定されず、例えば、後述の方法により形成してよい。
【0054】
[塗装物品]
本発明の実施形態に係る塗装物品は、本発明の実施形態に係るクリヤー塗膜を最表面に含む。
【0055】
ある実施形態において、塗装物品は、被塗物上に設けられた中塗り塗膜又はプライマー塗膜と、中塗り塗膜又はプライマー塗膜上に設けられたベース塗膜と、ベース塗膜上に設けられた本発明の実施形態に係るクリヤー塗膜とを含む複層塗膜を含んでよい。
【0056】
(1)被塗物
被塗物は特に限定されず、例えば、金属基材、プラスチック基材及びその発泡体等が挙げられる。
【0057】
金属基材として、例えば、鉄、鋼、銅、アルミニウム、スズ、亜鉛等の金属及びこれらの金属を含む合金等が挙げられる。金属基材として、具体的には、乗用車、トラック、オートバイ、バス等の自動車車体及び自動車車体用の部品等が挙げられる。このような金属基材は、予め電着塗膜が形成されていることが好ましい。また、電着塗膜形成前に、必要に応じて化成処理(例えば、リン酸亜鉛化成処理、ジルコニウム化成処理等)が行われていてよい。
【0058】
プラスチック基材として、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂等が挙げられる。プラスチック基材として具体的には、スポイラー、バンパー、ミラーカバー、グリル、ドアノブ等の自動車部品等が挙げられる。これらのプラスチック基材は、純水及び/又は中性洗剤で洗浄されたものであることが好ましい。
【0059】
(2)中塗り塗膜、プライマー塗膜
被塗物が金属基材である場合、電着塗装が形成された金属基材上に中塗り塗膜が設けられてよい。また、被塗物がプラスチック基材である場合、プラスチック基材上にプライマー塗膜が設けられてよい。
中塗り塗膜及びプライマー塗膜は特に限定されず、それぞれ、例えば、塗膜形成樹脂及び必要に応じて硬化剤等を含む中塗り塗料組成物又はプライマー塗料組成物を用いて形成してよい。
【0060】
(3)ベース塗膜
中塗り塗膜又はプライマー塗膜上にベース塗膜が設けられてよい。ベース塗膜は特に限定されず、顔料、塗膜形成樹脂及び必要に応じて硬化剤等を含むベース塗料組成物を用いて形成してよい。ベース塗料組成物の形態として、溶剤型及び水性型のものが挙げられる
【0061】
ベース塗料組成物の例として、顔料と、塗膜形成樹脂として水酸基を有するアクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂と、硬化剤としてメラミン樹脂とを含むものが挙げられる。
【0062】
ベース塗料組成物は、粘性制御剤を含んでもよい。粘性制御剤として、例えば、架橋あるいは非架橋の樹脂粒子、脂肪酸アマイドの膨潤分散体、アマイド系脂肪酸、長鎖ポリアミノアマイドのリン酸塩等のポリアマイド系のもの、酸化ポリエチレンのコロイド状膨潤分散体等のポリエチレン系等のもの、有機酸スメクタイト粘土、モンモリロナイト等の有機ベントナイト系のもの等を挙げることができる。
【0063】
ある実施形態において、着色顔料を含むベース塗料組成物から形成した第1ベース塗膜と、鱗片状顔料を含むベース塗料組成物から形成した第2ベース塗膜とを併用して、フリップフロップ性が付与された複層塗膜を形成してよい。
【0064】
塗装物品の製造方法は特に限定されず、例えば、以下に説明する本発明の実施形態に係る製造方法により作製してよい。
【0065】
[塗装物品の製造方法]
本発明の実施形態に係る塗装物品の製造方法は、
被塗物上に、中塗り塗料組成物を塗装して未硬化の中塗り塗膜を形成する、又はプライマー塗料組成物を塗装して未硬化のプライマー塗膜を形成する工程、
未硬化のプライマー塗膜又は未硬化の中塗り塗膜上に、ベース塗料組成物を塗装して未硬化のベース塗膜を形成する工程、
未硬化のベース塗膜上に、本発明の実施形態に係るクリヤー塗料組成物を塗装して未硬化のクリヤー塗膜を形成する工程、及び
未硬化のプライマー塗膜又は未硬化の中塗り塗膜と、未硬化のベース塗膜と、未硬化のクリヤー塗膜とを加熱硬化させて複層塗膜を形成する工程
を含む。
【0066】
(1)未硬化の中塗り塗膜又は未硬化のプライマー塗膜を形成する工程
上述の中塗り塗料組成物又はプライマー塗料組成物を被塗物に塗装して、未硬化の中塗り塗膜又は未硬化のプライマー塗膜を形成する。その際、必要に応じて、例えば、40℃以上80℃以下の温度で1分以上10分以下のプレヒート工程を行ってよい。
未硬化の中塗り塗膜又はプライマー塗膜を形成する場合、その膜厚は、乾燥膜厚として、例えば、8μm以上40μm以下であってよく、15μm以上30μm以下であってよい。
【0067】
(2)未硬化のベース塗膜を形成する工程
ベース塗料組成物を未硬化の中塗り塗膜又は未硬化のプライマー塗膜に塗装して、未硬化のベース塗膜を形成する。その際、必要に応じて、例えば、40℃以上80℃以下の温度で1分以上10分以下のプレヒート工程を行ってよい。
未硬化のベース塗膜の膜厚は、乾燥膜厚として、例えば、10μm以上30μm以下であるのが好ましい。
【0068】
(3)未硬化のクリヤー塗膜を形成する工程
本発明の実施形態に係るクリヤー塗料組成物を未硬化のベース塗膜に塗装して、未硬化のクリヤー塗膜を形成する。
未硬化のクリヤー塗膜の膜厚は、乾燥膜厚として、例えば、10μm以上80μm以下であってよく、20μm以上50μm以下であってよい。
【0069】
(4)未硬化の塗膜を加熱硬化させて複層塗膜を形成する工程
未硬化の塗膜、すなわち、未硬化の中塗り塗膜又は未硬化のプライマー塗膜と、未硬化のベース塗膜と、未硬化のクリヤー塗膜とを加熱硬化させて複層塗膜を形成する。加熱硬化温度は、例えば、80℃以上150℃以下であってよく、加熱硬化時間は、例えば、20分以上40分以下の範囲で適宜調整してよい。
【0070】
中塗り塗料組成物、プライマー塗料組成物、ベース塗料組成物、及び本発明の実施形態に係るクリヤー塗料組成物の塗装方法は特に限定されない。被塗物の種類に応じて、例えば、エアースプレー塗装、ベル塗装、エアー静電スプレー塗装による多ステージ塗装又は1ステージ塗装、あるいは、エアー静電スプレー塗装と、メタリックベルと言われる回転霧化式の静電塗装機とを組み合わせた塗装方法等、塗装分野において一般的に用いられる塗装方法を用いてよい。
【0071】
未硬化の塗膜を加熱硬化させるのに用いる加熱装置として、例えば、熱風、電気、ガス、赤外線等の加熱源を利用した乾燥炉等が挙げられる。また、これらの加熱源を2種以上併用した乾燥炉を用いると、乾燥時間が短縮されるため好ましい。
【0072】
本発明の実施形態に係る塗装物品の製造方法によれば、未硬化の塗膜に順次上層の塗膜を形成し、複数の未乾燥の塗膜を一括して加熱硬化するため、工程を短縮することができ、経済性及び環境面からも好ましい。
なお、本発明の実施形態に係る塗装物品は、各塗料組成物を塗布する毎に塗膜を加熱硬化させ、順次上層の塗膜を形成することによって製造することもできる。
【実施例0073】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明は実施例により何ら制限されるものではない。実施例中、「部」及び「%」は、ことわりのない限り質量基準による。
【0074】
製造例1 水酸基含有アクリル樹脂(a)の製造
攪拌機、温度制御装置、還流冷却器を備えた容器に、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート42.8gを仕込み、120℃に昇温させた。次に下記組成の単量体混合物(スチレン4.5部、メタクリル酸エチルヘキシル42.3部、メタクリル酸イソボロニル20.0部、メタクリル酸Sラウリル9部、メタクリル酸ヒドロキシエチル23.2部およびメタクリル酸1.0部)、そしてカヤエステルO 9.4部およびプロピレングリコールメチルエーテルアセテート9.0部を3時間かけて平行滴下させた後30分間放置し、カヤエステルO 0.5部、酢酸ブチル4部の溶液を1時間かけて滴下し、反応溶液を30分攪拌し樹脂への変化率を上昇させた後、反応を終了させ、固形分62.4%、数平均分子量2500、水酸基価100mg/KOH、酸価6.5mg/KOH、SP値9.6、Tg20℃である、水酸基含有アクリル樹脂(a)を得た。
【0075】
製造例2 水酸基含有アクリル樹脂(b)の製造
単量体混合物の組成をスチレン31.0部、メタクリル酸エチルへキシル2.6部、メタクリル酸イソボロニル20.0部、メタクリル酸Sラウリル22.2、メタクリル酸ヒドロキシエチル23.2部及びメタクリル酸1.0部に変更した以外は製造例1と同様に実施し、固形分62.4%、数平均分子量2500、水酸基価100mg/KOH、酸価6.5mg/KOH、SP値9.6、Tg35℃である、水酸基含有アクリル樹脂(b)を得た。
【0076】
製造例3 水酸基含有アクリル樹脂(c)の製造
単量体混合物の組成をスチレン 2.5部、アクリル酸エチル16.9部、アクリル酸エチルへキシル8.2部、メタクリル酸イソボロニル20.0部、メタクリル酸ヒドロキシプロピル51.4部及びメタクリル酸 1.0部に変更した以外は製造例1と同様に実施し、固形分62.4%、数平均分子量2500、水酸基価200mg/KOH、酸価6.5mg/KOH、SP値11.1、Tg20℃である、水酸基含有アクリル樹脂(c)を得た。
【0077】
製造例4 水酸基含有アクリル樹脂(d)の製造
単量体混合物の組成をスチレン 14.0部、アクリル酸エチル18.0部、アクリル酸イソボロニル20.0部、メタクリル酸メチル4.6部、アクリル酸エチルへキシル41.4部、メタクリル酸2.0部に変更した以外は製造例1と同様に実施し、固形分62.4%、数平均分子量2500、水酸基価200mg/KOH、酸価13.0mg/KOH、SP値11.5、Tg20℃である、水酸基含有アクリル樹脂(d)を得た。
【0078】
製造例5 水酸基含有アクリル樹脂(e)の製造
単量体混合物の組成をスチレン15.0部、アクリル酸エチルへキシル14.5部、アクリル酸イソボロニル40.0部、メタクリル酸ラウリル6.46部、アクリル酸ヒドロキシプロピル23.2部、アクリル酸0.84部に変更した以外は製造例1と同様に実施し、固形分62.4%、数平均分子量2500、水酸基価100mg/KOH、酸価6.5mg/KOH、SP値9.5、Tg20℃である、水酸基含有アクリル樹脂(e)を得た。
【0079】
製造例6 水酸基含有アクリル樹脂(f)の製造
単量体混合物の組成をスチレン7.5部、n-アクリル酸ブチル35.0部、アクリル酸エチルへキシル3.3部、メタクリル酸イソボロニル30.0部、メタクリル酸ヒドロキシエチル23.2部、メタクリル酸1.0部に変更した以外は製造例1と同様に実施し、固形分62.4%、数平均分子量2500、水酸基価100mg/KOH、酸価6.5mg/KOH、SP値10.0、Tg15℃である、水酸基含有アクリル樹脂(f)を得た。
【0080】
製造例7 水酸基含有アクリル樹脂(g)の製造
単量体混合物の組成をスチレン7.5部、n-アクリル酸ブチル28.62部、メタクリル酸エチル1.2部、メタクリル酸イソボロニル30.0部、メタクリル酸ヒドロキシエチル20.88部、メタクリル酸1.0部に変更した以外は製造例1と同様に実施し、固形分62.4%、数平均分子量2500、水酸基価90mg/KOH、酸価6.5mg/KOH、SP値10.4、Tg30℃である、水酸基含有アクリル樹脂(g)を得た。
【0081】
製造例8 水酸基含有アクリル樹脂(h)の製造
単量体混合物の組成をスチレン5.5部、Tert-メタクリル酸ブチル12.49部、メタクリル酸ラウリル26.0部、アクリル酸イソボロニル30.0部、メタクリル酸ヒドロキシプロピル25.7部、メタクリル酸0.31部に変更した以外は製造例1と同様に実施し、固形分62.4%、数平均分子量2500、水酸基価100mg/KOH、酸価2.0mg/KOH、SP値9.4、Tg20℃である、水酸基含有アクリル樹脂(h)を得た。
【0082】
製造例9 水酸基含有アクリル樹脂(i)の製造
単量体混合物の組成をアクリル酸エチル9.5部、Tert-メタクリル酸ブチル33.8部、メタクリル酸ラウリル17.5部、アクリル酸イソボロニル15.0部、アクリル酸ヒドロキシプロピル23.2部、メタクリル酸1.00部に変更した以外は製造例1と同様に実施し、固形分62.4%、数平均分子量2500、水酸基価100mg/KOH、酸価6.5mg/KOH、SP値10.0、Tg20℃である、水酸基含有アクリル樹脂(i)を得た。
【0083】
製造例10 水酸基含有アクリル樹脂(j)の製造
単量体混合物の組成をアクリル酸エチル25.5部、アクリル酸エチルへキシル5.5部、メタクリル酸メチル14.8部、メタクリル酸イソボロニル30.0部、メタクリル酸ヒドロキシエチル23.2部、メタクリル酸1.0部に変更した以外は製造例1と同様に実施し、固形分62.4%、数平均分子量2500、水酸基価100mg/KOH、酸価6.5mg/KOH、SP値10.5、Tg40℃である、水酸基含有アクリル樹脂(j)を得た。
【0084】
製造例13 水酸基含有アクリル樹脂(k)の製造
単量体混合物の組成をスチレン14.3部、メタクリル酸ラウリル11.24部、メタクリル酸イソボロニル30.0部、アクリル酸ヒドロキシエチル43.46部、メタクリル酸1.0部に変更した以外は製造例1と同様に実施し、固形分62.4%、数平均分子量2500、水酸基価210mg/KOH、酸価6.5mg/KOH、SP値10.9、Tg20℃である、水酸基含有アクリル樹脂(k)を得た。
【0085】
製造例12 水酸基含有アクリル樹脂(l)の製造
単量体混合物の組成をアクリル酸エチル2.0部、メタクリル酸メチル29.5部、メタクリル酸イソボロニル20.0部、メタクリル酸ラウリル6.1部、アクリル酸ヒドロキシエチル41.4部、メタクリル酸1.0部に変更した以外は製造例1と同様に実施し、固形分62.4%、数平均分子量2500、水酸基価200mg/KOH、酸価6.5mg/KOH、SP値11.6、Tg30℃である、水酸基含有アクリル樹脂(l)を得た。
【0086】
製造例13 水酸基含有アクリル樹脂(m)の製造
単量体混合物の組成をアクリル酸エチル1.0部、メタクリル酸ラウリル19.05部、アクリル酸イソボロニル45.0部、メタクリル酸ヒドロキシエチル34.8部、メタクリル酸0.15部に変更した以外は製造例1と同様に実施し、固形分62.4%、数平均分子量2500、水酸基価150mg/KOH、酸価1.0mg/KOH、SP値9.9、Tg35℃である、水酸基含有アクリル樹脂(m)を得た。
【0087】
製造例14 水酸基含有アクリル樹脂(n)の製造
単量体混合物の組成をスチレン15部、アクリル酸エチルへキシル0.95部、メタクリル酸メチル30.3部、アクリル酸ヒドロキシエチル51.75部及びメタクリル酸2.0部に変更した以外は製造例1と同様に実施し、固形分62.4%、数平均分子量3000、水酸基価250mg/KOH、酸価13.0mg/KOH、SP値12.41、Tg30℃である、水酸基含有アクリル樹脂(n)を得た。
【0088】
製造例15 水酸基含有アクリル樹脂(o)の製造
単量体混合物の組成をスチレン5.5部、アクリル酸エチル14.1部、メタクリル酸メチル 27.65部、アクリル酸ヒドロキシエチル51.75部及びメタクリル酸1.0部に変更した以外は製造例15と同様に実施し、固形分62.4%、数平均分子量3000、水酸基価250mg/KOH、酸価6.5mg/KOH、SP値12.5、Tg15℃である、水酸基含有アクリル樹脂(o)を得た。
【0089】
製造例16 水酸基含有アクリル樹脂(p)の製造
単量体混合物の組成をスチレン30.0部、アクリル酸エチル19.5部、メタクリル酸メチル18.45部、アクリル酸ヒドロキシエチル31.05部及びメタクリル酸1.0部に変更した以外は製造例15と同様に実施し、固形分62.4%、数平均分子量3000、水酸基価150mg/KOH、酸価6.5mg/KOH、SP値11.3、Tg30℃である、水酸基含有アクリル樹脂(p)を得た。
【0090】
製造例17 水酸基含有アクリル樹脂(q)の製造
単量体混合物の組成をスチレン4.0部、メタクリル酸Tert-ブチル36.0部、メタクリル酸ラウリル24.2部、メタクリル酸ヒドロキシエチル34.8部及びメタクリル酸1.0部に変更した以外は製造例15と同様に実施し、固形分62.4%、数平均分子量3000、水酸基価150mg/KOH、酸価6.5mg/KOH、SP値10.5、Tg30℃である、水酸基含有アクリル樹脂(p)を得た。
【0091】
製造例18 水酸基含有アクリル樹脂(r)の製造
単量体混合物の組成をスチレン5.5部、アクリル酸エチル18.6部、メタクリル酸メチル23.1部、アクリル酸ヒドロキシエチル51.75部、メタクリル酸1.0部に変更した以外は製造例15と同様に実施し、固形分62.4%、数平均分子量3000、水酸基価250mg/KOH、酸価6.5mg/KOH、SP値12.5、Tg10℃である、水酸基含有アクリル樹脂(r)を得た。
【0092】
製造例19 水酸基含有アクリル樹脂(s)の製造
単量体混合物の組成をアクリル酸エチル33.3部、メタクリル酸メチル32.06部、アクリル酸ヒドロキシプロピル33.64部、メタクリル酸1.0部に変更した以外は製造例15と同様に実施し、固形分62.4%、数平均分子量3000、水酸基価145mg/KOH、酸価6.5mg/KOH、SP値11.6、Tg15℃である、水酸基含有アクリル樹脂(s)を得た。
【0093】
製造例20 水酸基含有アクリル樹脂(t)の製造
単量体混合物の組成をスチレン33.67部、メタクリル酸ラウリル25.72部、メタクリル酸ヒドロキシプロピル38.56部、メタクリル酸2.0部に変更した以外は製造例15と同様に実施し、固形分62.4%、数平均分子量3000、水酸基価150mg/KOH、酸価13.0mg/KOH、SP値10.3、Tg15℃である、水酸基含有アクリル樹脂(t)を得た。
【0094】
製造例21 水酸基含有アクリル樹脂(u)の製造
単量体混合物の組成をスチレン35.35部、アクリル酸エチル24.05部、メタクリル酸ヒドロキシプロピル38.56部、メタクリル酸2.0部に変更した以外は製造例15と同様に実施し、固形分62.4%、数平均分子量3000、水酸基価150mg/KOH、酸価13.0mg/KOH、SP値10.9、Tg35℃である、水酸基含有アクリル樹脂(u)を得た。
【0095】
製造例22 水酸基含有アクリル樹脂(v)の製造
単量体混合物の組成をメタクリル酸メチル31.85部、メタクリル酸ラウリル8.0部、アクリル酸ヒドロキシプロピル59.15部、メタクリル酸1.0部に変更した以外は製造例15と同様に実施し、固形分62.4%、数平均分子量3000、水酸基価255mg/KOH、酸価6.5mg/KOH、SP値12.1、Tg15℃である、水酸基含有アクリル樹脂(v)を得た。
【0096】
製造例23 水酸基含有アクリル樹脂(w)の製造
単量体混合物の組成をアクリル酸エチル9.8部、メタクリル酸メチル20.0部、メタクリル酸エチル16.8部、アクリル酸ヒドロキシエチル51.75部、アクリル酸1.67部に変更した以外は製造例15と同様に実施し、固形分62.4%、数平均分子量3000、水酸基価250mg/KOH、酸価13.0mg/KOH、SP値12.6、Tg15℃である、水酸基含有アクリル樹脂(w)を得た。
【0097】
実施例1
クリヤー塗料組成物の調製
1Lの金属製容器に、製造例1の水酸基含有アクリル樹脂(a)を樹脂固形分で60.0部、製造例14の水酸基含有アクリル樹脂(n)を固形分で2部、アミノプラスト樹脂LUWIPAL018(BASF社から市販)を固形分で10部、チバガイギー社製紫外線吸収剤「チヌビン384」1.4部、チバガイギー社製光安定剤「チヌビン123」1.4部、アクリル系表面調整剤1.4部、メチルアミルケトン57.0部およびジブチルエーテル(昭栄ケミカル社製)22.0部、無機微粒子1.8部を順次添加し、ディスパーにて十分撹拌し、2液型クリヤー塗料組成物の主剤を得た。
【0098】
別の金属製容器に、住友バイエルウレタン社製「ディスモジュールN-3300」(NCO有効成分22%)固形分で40.0部および2-エチルエトキシプロパノールを順次添加し、十分撹拌し、2液型クリヤー塗料組成物の硬化剤を得た。
【0099】
塗膜形成
リン酸亜鉛処理した150×300×0.8mmのダル鋼板に、パワーニックス1010(日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製カチオン電着塗料)及びオルガP-30(日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製中塗り塗料)をそれぞれ乾燥膜厚20μm及び40μmとなるように塗装した試験板に、AR-3020ブラック(日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製水性ベース塗料)を乾燥膜厚が15μmとなるようにエアースプレー塗装し、80℃で5分間乾燥させることにより未硬化ベース塗膜を形成した。
【0100】
その上に、上記クリヤー主剤と硬化剤を混合した混合物を、酢酸ノルマルブチル/3-エトキシプロピオン酸エチル=1/2(質量比)からなるシンナーによってNo.4フォードカップで30秒/20℃となるように希釈した。このようにして作製した二液混合クリヤー塗料組成物を、乾燥膜厚が40μmとなるようにエアースプレー塗装して未硬化クリヤー塗膜を形成し、7分間セッティング後、140℃で25分間焼き付け硬化させ、複層塗膜を形成した。
【0101】
得られた各試験用塗膜について、下記の評価(耐水スポット性、耐樹脂液性、耐ドライ擦り傷性、耐洗車擦り傷性およびリコート密着性)を行った。結果を表1に記載する。表1には、水酸基含有アクリル樹脂のAとBの分類と、それぞれの水酸基含有アクリル樹脂のガラス転移温度、水酸基価、溶解性パラメータ、水酸基含有アクリル樹脂(A)について脂環式(メタ)アクリレートの配合量を記載し、更に水酸基含有アクリル樹脂(B)の溶解性パラメータ―(Bsh)と水酸基含有アクリル樹脂(A)の溶解性パラメータ(Ash)の差(Bsh-Ash)、多官能性イソシアネート化合物のイソシアネート当量(β)/アミノプラスト樹脂(D)以外の全水酸基含有樹脂(X)の水酸基当量(α)の比(β/α)、アミノプラスト樹脂(D)の固形分質量(Md)とイソシアネート化合物(C)の固形分質量(Mc)の比率(Mc/Md)、無機微粒子の配合の有無も記載した。表1には、更に性能評価の結果も記載した。
【0102】
<耐水スポット性>
耐水スポット性は塗膜を長辺500mmの電着板上に作成後72時間養生した後に以下のように評価する。塗膜上に250μLの脱イオン水(DIW)(≦0、9μS/cm)を2cm間隔で滴下する。この塗膜を37-81℃、1℃/1cmの温度勾配に設定したグラジエントオーブン(2615/2610BYK-Gardner)上に30分間静置する。24時間養生後に目視でスポットが生じているかを確認し、スポットが生じている温度を評価する。このときの温度はグラジエントオーブンに設置時の場所から判断する。
【0103】
◎(耐水スポット性が非常に良好):81℃でスポットなし。
○(耐水スポット性が良好):81℃でのみごく薄いスポットが生じている
△(耐水スポット性が概ね良好): 81℃ではっきりとスポットが生じている。
×(耐水スポット性が弱い): 81℃未満でもスポットが生じている。
【0104】
<耐樹脂液性>
耐樹脂液性の試験および評価は耐水スポット性と同様に行う。ただし、DIWの代わりに樹脂液(Procurementsource,AxaltaもしくはWorwag社製)を25μL滴下し、グラジエントオーブンから取り出した際は冷水で樹脂液を洗い流したのちに養生する。
【0105】
◎(耐樹脂液性が非常に良好):75℃でスポットなし。
○(耐樹脂液性が良好):75℃でスポットが生じている
△(耐樹脂液性が概ね良好): 65℃でスポットが生じている。
×(耐樹脂液性が弱い): 65℃未満でもスポットが生じている。
【0106】
<耐ドライ擦り傷性>
得られた塗膜の耐傷付性(耐擦り傷性)の評価は、大栄科学精器製作所社製平面摩耗試験機に治具先端が摩耗する物体の表面に対して水平である直径16mmの金属製円柱型治具を取り付け、治具先端にフェルトと摩耗紙(3M社製 281Q、WETORDRY PRODUCTION POLISHING PAPER 9μGRADE)を、治具先端、フェルト、摩耗紙の順で固定し、治具に固定した摩耗紙表面に合計で900gの荷重が加わるように荷重を加え、10cmのストローク長さで1分間に40往復する速度で得られた塗膜の表面を10往復摩耗した。
【0107】
試験部位と未試験部位の塗膜表面に対して20°の角度の光沢をマイクロトリグロス(ビックケミー社製光沢測定器)で測定し、試験部位に対する未試験部位の商の百分率を摩耗試験による光沢保持率として、耐傷付性を評価した。結果を表1に示す。
【0108】
◎(耐傷付性が非常に良好):光沢保持率が80%以上。
○(耐傷付性が良好):光沢保持率が70%以上、且つ80%未満。
△(耐傷付性が概ね良好):光沢保持率が60%以上、且つ70%未満。
×(耐傷付性が弱い):光沢保持率が60%未満。
【0109】
<耐洗車擦り傷性>
得られた塗膜に、高さ100mmから直径3mmのノズルより23℃の水を圧力80kg/cmで噴射した後、耐ドライ擦り傷性と同様の方法で耐傷付性を評価した。結果を表1に示す。
【0110】
◎(耐傷付性が非常に良好):光沢保持率が80%以上。
○(耐傷付性が良好):光沢保持率が70%以上、且つ80%未満。
△(耐傷付性が概ね良好):光沢保持率が60%以上、且つ70%未満。
×(耐傷付性が弱い):光沢保持率が60%未満。
【0111】
<リコート密着性>
リン酸処理鋼板に日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製カチオン電着塗料「パワートップU-50」(商品名)を乾燥膜厚が25μmになるように塗装して加熱硬化させた試験板に、日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製水性塗料「アクアレックスAR-800」(商品名)を乾燥膜厚が20μmになるように塗装し、次いで日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製水性塗料「アクアレックスAR-2000」(商品名)ブラック色を乾燥膜厚が10μmになるように塗装し、80℃で5分間乾燥を行った。その上にウェットオンウェットで上記クリヤー塗料組成物を乾燥膜厚が40μmになるように塗布して150℃で60分間焼付け乾燥を行い、ファーストコート塗膜を作製した。さらに得られたファーストコート塗膜の上に日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製水性塗料「アクアレックスAR-800」(商品名)を乾燥膜厚が20μmになるように塗装し、次いで日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製水性塗料「アクアレックスAR-2000」(商品名)ブラック色を乾燥膜厚が10μmになるように塗装し、80℃で5分間乾燥を行った。その上にウェットオンウェットで上記クリヤー塗料組成物を乾燥膜厚が40μmになるように塗布して140℃で30分間焼付け乾燥を行い、リコート塗膜を作製した。
【0112】
カッター(NTカッター(商品名)S型、A型又はその相当品)の切り刃を、得られたリコート塗膜の塗膜面に対して約30度に保持して、素地に達する2mmの碁盤目を形成し、その上に粘着テープ(ニチバン社製セロテープ(登録商標))を気泡が残らないように指先で均一に圧着させた。直ちに粘着テープの一端を持ち、塗面に対して垂直に急激に引っ張って試験片から粘着テープを剥がした。このときの[剥がれたマス目の数]/[碁盤目のマス目の数=100]を目視で測定して下記の基準にてリコート密着性を評価した。結果を表1に示す。
【0113】
○:0/100
△:1/100~25/100
×:26/100~100/100
【0114】
実施例2~8
水酸基含有アクリル樹脂(A)および水酸基含有アクリル樹脂(B)として、使用した水酸基含有アクリル樹脂(a)~(w)の種類が表1に示されたものを用いたこと以外は、実施例1と同様にして2液型クリヤー塗料組成物を調製した。
得られたクリヤー塗料組成物を用いて、実施例1と同様の手順により、塗膜形成を行った。表1には、実施例1と同様の数値の記載および性能評価の記載を行った。
【0115】
比較例1~14
製造例で得られた水酸基含有アクリル樹脂(a)~(w)を表2に記載した組合せで用いたこと以外は、実施例1と同様にして2液型クリヤー塗料組成物を調製した。尚、比較例11および14では、無機微粒子を配合していない。
得られたクリヤー塗料組成物を用いて、実施例1と同様の手順により、塗膜形成を行った。表2には、実施例1と同様の数値の記載および性能評価の記載を行った。
【0116】
【表1】
【0117】
【表2】
【0118】
上記表1の実施例の結果から明らかなように、水酸基含有アクリル樹脂(A)および(B)、多官能イソシアネート化合物(C)およびアミノプラスト樹脂(D)が全ての要件を満足している場合には、耐水スポット性、耐樹脂液性、耐ドライ擦り傷性、耐洗車擦り傷性およびリコート密着性の全ての性能が優れている。一方、表2には比較例の結果が記載されていて、比較例1~4は水酸基含有アクリル樹脂(A)のガラス転移温度、水酸基価、溶解性パラメータおよび脂環式(メタ)アクリレートの値が、それぞれの範囲において最低値を逸脱している場合であり、比較例5~8は水酸基含有アクリル樹脂(A)のそれぞれの値の最高値を逸脱している場合である。比較例10~11は、水酸基含有アクリル樹脂(B)のガラス転移温度、水酸基価および溶解性パラメータがそれぞれの最低値を逸脱している場合であり、比較例12~14は水酸基含有アクリル樹脂(B)のそれぞれの値の最高値を逸脱している場合である。また、比較例7および8はβ/αが0.8より少ない場合であり、比較例11および12はβ/αが1.2より高い場合である。更に、比較例7および11は、Mc/Mdの値が0の場合である。比較例の場合、その性能がいずれかの点で悪い結果が出ている。