(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022135461
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】目地内止水構造体
(51)【国際特許分類】
E02B 8/00 20060101AFI20220908BHJP
E02B 3/00 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
E02B8/00
E02B3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021035274
(22)【出願日】2021-03-05
(71)【出願人】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000545
【氏名又は名称】特許業務法人大貫小竹国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒田 佳祥
(72)【発明者】
【氏名】藤井 義徳
(57)【要約】
【課題】水利構造物の目地内に設置した目地材が部分的に破損・流出しても、水が目地から水利構造物の下方へ漏出するのを目地内止水構造体で防止できるようにする。
【解決手段】水利構造物(エプロン1)の目地7から水利構造物の下方への漏水を防止する目地内止水構造体4は、目地7内の下部に設置されるグラウト材(例えば、無収縮モルタル)8の第1層と、目地7内で且つ第1層の上に重ねて設置される水膨張止水材10の第2層と、を備えている。水膨張止水材10は、目地7の幅方向中央部分に配置される水膨張ゴム11と、この水膨張ゴム11の幅方向両側部分に配置され、水膨張ゴム11と目地7の側壁との隙間を埋める一液性水膨張弾性シール材12と、からなっている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水利構造物の目地から水利構造物の下方への漏水を防止する目地内止水構造体において、
前記目地内の下部に設置されるグラウト材の第1層と、
前記目地内で且つ前記第1層の上に重ねて設置される水膨張止水材の第2層と、
を備えたことを特徴とする目地内止水構造体。
【請求項2】
前記目地内で且つ前記第2層の上に重ねて設置されるグラウト材の第3層を備えた、
ことを特徴とする請求項1に記載の目地内止水構造体。
【請求項3】
前記第2層は、前記水利構造物の上面よりも引っ込んだ位置に設置された、
ことを特徴とする請求項1に記載の目地内止水構造体。
【請求項4】
前記水膨張止水材は、目地の幅方向中央部分に配置される水膨張ゴムと、この水膨張ゴムの幅方向両側部分に配置され、前記水膨張ゴムと前記目地の側壁との隙間を埋める一液性水膨張弾性シール材と、からなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の目地内止水構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、水利構造物(例えば、ダムのエプロン、河川の川底等)を形作るコンクリートの目地内に設置され、目地から下方への漏水を防止する目地内止水構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、水利構造物としてのダムのコンクリート製のエプロンは、適当な間隔で目地が設けられ、コンクリートがダム周辺の環境変化(例えば、温度変化)で変形(膨張又は収縮)するのを目地で吸収し、コンクリートが過度の変形で損傷(例えば、ひび割れ)するのを防止している。そして、エプロンの下に発電所が設けられている場合には、目地から発電所側に漏水するのを防止するため、目地内に目地材(例えば、エラスチックフィラー)を設置している(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、エプロンの目地内の目地材は、放水時にエプロンを流れる水流の勢いにより、破損・流出する場合がある。このような場合には、目地材が破損・流出した箇所からエプロン下に設けられた発電所側に漏水し、発電機が停止するという不具合を生じる虞がある。
【0005】
そこで、本発明は、目地材が部分的に破損・流出しても、水が目地から水利構造物の下方(例えば、エプロン下の発電所側)へ漏出するのを防止できる目地内止水構造体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、水利構造物(例えば、ダム3のエプロン1)の目地7から水利構造物の下方への漏水を防止する目地内止水構造体4に関するものである。本発明の目地内止水構造体4は、前記目地7内の下部に設置されるグラウト材(無収縮モルタル)8の第1層と、前記目地7内で且つ前記第1層の上に重ねて設置される水膨張止水材10の第2層と、を備えている。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る目地内止水構造体は、2層目の水膨張止水材が破損・流出した場合でも、1層目のグラウト材が目地をシールし、水が目地から水利構造物の下方へ漏出するのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】エプロン下に発電所を備えたダムの一部断面図である。
【
図2】
図2(a)はエプロンの平面図(
図1の矢印Aに沿って見た図を90°時計回り方向に回転して表した図)であり、
図2(b)は
図2(a)のB-B線に沿って切断して示す目地内止水構造体の第1実施例の断面図であり、
図2(c)は
図2(a)のB-B線に沿って切断して示す目地内止水構造体の第2実施例の断面図であり、
図2(d)は
図2(a)のB-B線に沿って切断して示す目地内止水構造体の第3実施例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施例を図面に基づき詳述する。なお、以下の各実施例は水利構造物としてのダムのエプロンを例示して説明するが、本発明は他の水利構造物(例えば、河川の川底等)にも広く適用が可能である。
【0010】
(第1実施例)
図1は、エプロン1の下(裏面側)に発電所2を備えたダム3の一部断面図である。
図2(a)は、エプロン1の平面図(
図1の矢印Aに沿って見た図を90°時計回り方向に回転して表した図)である。また、
図2(b)は、
図2(a)のB1-B1線に沿って切断して示す目地内止水構造体4の第1実施例の断面拡大図である。なお、
図2(a)のB2-B2線に沿って切断して示す断面図は、
図2(b)で示す断面図と同様である。
【0011】
図1及び
図2(a)~(b)に示すように、ダム3は、放水時に、ダム3の放水口5から放出された水が斜面6に沿って勢い良く流れ落ち、その斜面6を流れ落ちた水がエプロン1の表面(上面)1aに沿って下流側(
図1の右側、
図2(a)の下側)に向かって流れるようになっている。
【0012】
ダム3のエプロン1は、放水時の水流を支える強度が必要とされるため、主にコンクリートで形成されている。しかし、ダム3のエプロン1は、全体をコンクリートで一体に形成すると、ダム3周辺の環境変化(例えば、温度変化)で変形し、ひび割れ等の損傷が生じやすくなる。そのため、一般に、ダム3のエプロン1は、適当な間隔(
図2(a)に示す幅方向に沿って適当な間隔で、且つ、
図2(a)に示す流動方向に沿って適当な間隔)で目地(隙間)7を設け、コンクリートの変形を目地7で吸収して、コンクリートがダム3周辺の環境変化(例えば、温度変化)によってひび割れ等の損傷が生じないように構成されている。なお、コンクリート製のエプロン1は、下面1b側が図示しないI型鋼等の鉄骨材で支えられている。
【0013】
本実施例において、エプロン1の直下には、発電所2が設置されている。すなわち、発電所2の天井は、エプロン1によって形作られている。したがって、エプロン1で水漏れを生じると、エプロン1から発電所2内に水が落下し、発電所2内に設置された発電機等の設備に水がかかり、発電機等が故障する虞がある。そこで、
図2(b)に示すように、本実施例に係るエプロン1は、目地(隙間)7を塞ぐ目地内止水構造体4を採用し、水が目地7から発電所2内に漏水するのを防止している。
【0014】
図2(b)に示す目地内止水構造体4は、2層構造になっており、目地7内の下部(発電所2側の深部)に設置される1層目がグラウト材(例えば、無収縮モルタル)8で形成され、目地7内で且つ1層目のグラウト材8の上に重ねて設置される2層目が水膨張止水材10(水膨張ゴム11(例えば、エラスチックフィラー)及び一液性水膨張弾性シール材12(例えば、スリーボンドユニコム株式会社のポリシーラーUK))で形成されている。そして、この目地内止水構造体4を構成する水膨張止水材10は、その上面10aがエプロン1の表面1aから引っ込んだ位置に配置され、エプロン1の表面1aを流動する水に直接接触しないように(流動する水の衝撃を直接受けないように)工夫されている。また、水膨張止水材10は、目地7の幅方向中央部分に水膨張ゴム11が配置され、この水膨張ゴム11の幅方向両側部分に一液性水膨張弾性シール材12が配置され、一液性水膨張弾性シール材12が水膨張ゴム11と目地7の側壁との隙間を埋めるようになっている。この
図2(b)に示す目地内止水構造体4は、エプロン1の新設時はもちろんのこと、エプロン1の補修時にも従来の目地内止水構造体に代えて使用することにより、目地7からの漏水を確実に防止できる。
【0015】
また、本実施例において、
図2(b)に示すように、エプロン1の下面1b(発電所2の天井面)には、目地7に沿って樋13が設置されている。これにより、何らかの原因によって目地内止水構造体4の止水機能が不十分になった場合でも、樋13が目地7からの漏水を受け止めて図外の排水口に案内し、目地7からの漏水が発電所2内の設備に落下するのを防止できる。すなわち、本実施例は、エプロン1の目地7に設置される目地内止水構造体4と、発電所2の天井面に目地7に沿って設置される樋13とが、エプロン1の目地7からの漏水に対する二重の漏水防止構造を構成しており、フェイルセーフの技術思想を適用している。
【0016】
(第1実施例の効果)
本実施例に係る目地内止水構造体4は、2層目の水膨張止水材10の上面10aがエプロン1の表面1aから引っ込んだ位置に配置され、エプロン1の表面1aを流動する水に直接接触しないため、2層目の水膨張止水材10が長期間にわたり破損・流出し難く、目地7から発電所2側への漏水を長期間にわたり防止できる。
【0017】
本実施例に係る目地内止水構造体4は、何らかの原因で2層目の水膨張止水材10が破損・流出した場合でも、1層目のグラウト材8が目地7をシールし、水が目地7から発電所2内に漏出するのを防止できる。
【0018】
(第2実施例)
図2(c)は、本発明の第2実施例に係る目地内止水構造体4を示す図であり、
図2(b)に示す目地内止水構造体4の変形例を示す図である。なお、本実施例は、第1実施例の目地内止水構造体4と同一部分に同一符号を付し、第1実施例の説明と重複する説明を省略する。
【0019】
図2(c)に示すように、本実施例の目地内止水構造体4は、2層目の水膨張止水材10の上面10aがエプロン1の表面1aと同一平面上に位置する(エプロン1の表面1aから上方へ出っ張ることがない)ように形成されている。
【0020】
このような本実施例に係る目地内止水構造体4は、2層目の水膨張止水材10の上面10aがエプロン1の表面1aから出っ張ることがなく、2層目の水膨張止水材10がエプロン1の表面1aを流動する水と衝突することがないため、2層目の水膨張止水材10が長期間にわたり破損・流出し難く、目地7から発電所2側への漏水を長期間にわたり防止できる。
【0021】
また、本実施例に係る目地内止水構造体4は、第1実施例に係る目地内止水構造体4と同様に、何らかの原因で2層目の水膨張止水材10が破損・流出した場合でも、1層目のグラウト材8が目地7をシールし、水が目地7から発電所2内に漏出するのを防止できる。
【0022】
(第3実施例)
図2(d)は、本発明の第3実施例に係る目地内止水構造体4を示す図であり、
図2(b)に示す目地内止水構造体4の変形例を示す図である。なお、本実施例は、第1実施例の目地内止水構造体4と同一部分に同一符号を付し、第1実施例の説明と重複する説明を省略する。
【0023】
図2(d)に示すように、本実施例に係る目地内止水構造体4は、1層目のグラウト材(例えば、無収縮モルタル)8と、2層目の水膨張止水材10と、3層目のグラウト材14(例えば、ポリマーセメントモルタル、水中接着型・高流動エポキシグラウト(アルファ工業の商品名「アルファテック841」等)と、で構成されている。3層目のグラウト材14は、2層目の水膨張止水材10の上に重ねて配置され、その上面14aがエプロン1の表面1aと同一平面上に位置する(エプロン1の表面1aから上方へ出っ張ることがない)ように形成されている。
【0024】
このような本実施例に係る目地内止水構造体4は、3層目のグラウト材14の上面14aがエプロン1の表面1aから出っ張ることがなく、3層目のグラウト材14がエプロン1の表面1aを流動する水と衝突することがないため、3層目のグラウト材14が長期間にわたり破損・流出し難く、3層目のグラウト材14が2層目の水膨張止水材10の破損・流出を長期間にわたり防止できる。その結果、本実施例に係る目地内止水構造体4は、目地7から発電所2側への漏水防止効果が第1及び第2実施例よりも向上する。
【0025】
また、本実施例に係る目地内止水構造体4は、何らかの原因で3層目のグラウト材14が破損・流出した場合でも、全体構造が第1実施例に係る目地内止水構造体4と同様になるだけであり、2層目の水膨張止水材10と1層目のグラウト材8とが目地7をシールし続けるため、水が目地7から発電所2内に漏出するのを第1実施例に係る目地内止水構造体4と同様に防止できる。
【0026】
また、本実施例に係る目地内止水構造体4は、何らかの原因で3層目のグラウト材14及び2層目の水膨張止水材10が破損・流出した場合でも、1層目のグラウト材8が目地7をシールし、水が目地7から発電所2内に漏出するのを防止できる。
【0027】
(その他の実施例)
本発明は、上述した各実施例におけり水利構造物(ダム3のエプロン1)に限定されず、例えば、水利構造物としての河川の川底(エプロン1に対向する構成)がコンクリートで形成され、その川底に目地が形成され、川底の下方に鉄道のトンネル又は道路(発電所2に対応する構成)が設置される場合等に広く適用が可能である。
【符号の説明】
【0028】
1……エプロン(水利構造物)、4……目地内止水構造体、7……目地、8……グラウト材、10……水膨張止水材