IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ NTN株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-玉軸受 図1
  • 特開-玉軸受 図2
  • 特開-玉軸受 図3
  • 特開-玉軸受 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022135469
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】玉軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/58 20060101AFI20220908BHJP
   F16C 19/18 20060101ALI20220908BHJP
   F16C 43/04 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
F16C33/58
F16C19/18
F16C43/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021035291
(22)【出願日】2021-03-05
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167380
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 隆
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 一弘
【テーマコード(参考)】
3J117
3J701
【Fターム(参考)】
3J117AA06
3J117BA10
3J117HA03
3J701AA03
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA54
3J701BA55
3J701BA69
3J701EA02
3J701FA31
3J701GA01
3J701GA60
3J701XB01
3J701XB03
3J701XB24
(57)【要約】
【課題】内輪及び外輪の間に挿入されるボールの損傷を防止する。
【解決手段】内外の軌道輪1,2と、軌道輪1,2がそれぞれ備える軌道面1a,2aと、軌道面1a,2a間に配置される複数のボール3と、軌道輪1,2の少なくとも一方に設けられ軌道輪1,2の端面1d,2dから軌道面1a,2aに至る入れ溝10,20とを備え、入れ溝10,20は、軌道輪1,2の軸心eに平行な基準線d,d’に対して傾斜して形成されている玉軸受とした。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内外の軌道輪(1,2)と、
前記軌道輪(1,2)がそれぞれ備える軌道面(1a,2a)と、
前記軌道面(1a,2a)間に配置される複数のボール(3)と、
前記軌道輪(1,2)の少なくとも一方に設けられ前記軌道輪(1,2)の端面(1d,2d)から前記軌道面(1a,2a)に至る入れ溝(10,20)と、を備え、
前記入れ溝(10,20)は、前記軌道輪(1,2)の軸心(e)に平行な基準線(d,d’)に対して傾斜して形成されている玉軸受。
【請求項2】
前記軌道輪(1,2)に対して前記ボール(3)は周方向に沿って一方向へ相対移動し、
前記入れ溝(10,20)の中心線(f,f’)は、前記基準線(d,d’)に対して前記軌道輪(1,2)の端面(1d,2d)側から前記軌道面(1a,2a)側へ向かって一方向へ傾斜している請求項1に記載の玉軸受。
【請求項3】
前記入れ溝(10,20)の中心線(f,f’)の前記基準線(d,d’)に対する傾斜角(α)は、1°以上45°以下の範囲で設定されている請求項1又は2に記載の玉軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、玉軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車等の輸送機器やその他各種の産業機械等において、回転部材を支持するために、深溝玉軸受、アンギュラ玉軸受等の玉軸受が用いられる。玉軸受は、内外の軌道輪である内輪と外輪の間に、転動体として複数のボール(玉)を周方向に沿って配置したものである。
【0003】
玉軸受の組み付けに際して、内輪及び外輪の間の環状空間にボールを挿入していく手法がある。例えば、特許文献1では、内輪及び外輪にボールが通過できる入れ溝を設けることで、ボールの挿入を容易としている。また、入れ溝は、内輪の軸方向に直交する断面において矩形状を成す凹部で構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-69245号公報(明細書段落0011~0012、第2図等参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の入れ溝付き玉軸受は、使用時におけるボールの脱落防止(玉抜け防止)のため、内輪及び外輪とボールの間に締め代が設定されている。締め代の設定に伴い、軸受内にボールを挿入する際に、ボールは圧入状態となる。特に、締め代が大きい場合、圧入の際にボールに傷がつく恐れがある。損傷したボールを使用することはできないので、ボールに損傷が発生することはコスト高の要因となる。この点、入れ溝の縁に面取り等の加工を行うことで、ボールの損傷をある程度抑制できるが、ボールの損傷を完全に防ぐことは困難である。
【0006】
そこで、この発明の課題は、内輪及び外輪の間に挿入されるボールの損傷を防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、この発明は、内外の軌道輪と、前記軌道輪がそれぞれ備える軌道面と、前記軌道面間に配置される複数のボールと、前記軌道輪の少なくとも一方に設けられ軌道輪の端面から前記軌道面に至る入れ溝とを備え、前記入れ溝は、前記軌道輪の軸心に平行な基準線に対して傾斜して形成されている玉軸受を採用した。
【0008】
ここで、前記軌道輪に対して前記ボールは周方向に沿って一方向へ相対移動し、前記入れ溝の中心線は、前記基準線に対して前記軌道輪の端面側から前記軌道面側へ向かって一方向へ傾斜している構成を採用することができる。
【0009】
なお、前記入れ溝の中心線の前記基準線に対する傾斜角は、1°以上45°以下の範囲で設定されていることが望ましい。
【発明の効果】
【0010】
この発明は、内輪及び外輪の間に挿入されるボールの損傷を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】この発明の一実施形態を示す縦断面図
図2】外輪の要部平面図
図3】内輪の要部平面図
図4】内輪及び外輪の位置関係を示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0012】
この発明の一実施形態を、図面に基づいて説明する。この実施形態は、入れ溝を備えたアンギュラ玉軸受である。アンギュラ玉軸受は、ラジアル荷重と比較的大きなアキシアル荷重とからなる合成荷重を受け止めることができる転がり軸受である。
【0013】
図1に示すように、アンギュラ玉軸受5(以下、単に玉軸受5と称する)は、内外の対の軌道輪として、外輪1と内輪2とを備えている。外輪1の内径面には断面円弧状の軌道面1a(以下、外側軌道溝1aと称する)が、内輪2の外径面には断面円弧状の軌道面2a(以下、内側軌道溝2aと称する)が備えられている。実施形態は、複列の玉軸受1であるため、外側軌道溝1a及び内側軌道溝2aはそれぞれ2列並列して設けられている。内外方向に対向する外側軌道溝1aと内側軌道溝2aの間には、それぞれ複数のボール3が周方向に沿って収容されている。
【0014】
内輪2は、それぞれの内側軌道溝2aの外方側(内輪2の軸方向に沿って外側)に、ボール保持用のカウンタ部2cを備えている。2列の内側軌道溝2a,2aの間は、円筒面状の中間部2bで接続されている。このため、内側軌道溝2a,2aは、中間部2bの軸方向両端から外方側へ向かって徐々に外径方向へ円弧状に立ち上がり、カウンタ部2cの内方側端部に接続されている。
【0015】
外輪1は、それぞれの外側軌道溝1aの外方側(外輪1の軸方向に沿って外側)に、ボール保持用のカウンタ部1cを備えている。2列の外側軌道溝1a,1aの間は、円筒面状の中間部1bで接続されている。このため、外側軌道溝1a,1aは、中間部1bの軸方向両端から外方側へ向かって徐々に外径方向へ円弧状に広がり、その後、最大径となる底部から内径側へ立ち上がって、カウンタ部1cの内方側端部に接続されている。
【0016】
この実施形態では、外輪1のカウンタ部1cは、内輪2のカウンタ部2cよりもやや低い立ち上がり高さとなっているが、カウンタ部1c及びカウンタ部2cの立ち上がり高さは、軸受の仕様に応じて適宜設定できる。また、この実施形態では、外輪1と内輪2の両方にカウンタ部1c,2cを備えているが、カウンタ部1c,2cは外輪1又は内輪2の少なくとも一方に設けられていればよく、実施形態以外にも、例えば、外輪1のみにカウンタ部1cを備えたものもあるし、内輪2のみにカウンタ部2cを備えたものもある。
【0017】
これらの構成により、外側軌道溝1a及び内側軌道溝2aからなる2列の環状空間のそれぞれにおいて、ボール3の中心を挟んで軸方向に沿って反対側で外輪1及び内輪2の盛り上がった肩部に接触している。また、ボール3と外側軌道溝1aとの接触点、ボール3の中心、ボール3と内側軌道溝2aとの接触点は1直線上にあって、その接触点間を結ぶ直線は、ラジアル方向に対して角度(接触角/鋭角)をもっている。これにより、ラジアル荷重とアキシアル荷重に対抗できるようになっている。
【0018】
外側軌道溝1aの断面形状は、ボール3の直径に対応して設定された径の円弧状となっている。一方の外側軌道溝1a(図1に示す右側の外側軌道溝1a)の軸方向外側には、その外側軌道溝1aから外輪1の端面1dに至る外輪側入れ溝10(以下、単に入れ溝10と称する)が設けられている。
【0019】
入れ溝10は、図2に示すように、外輪1の端面1dとの成す稜線部を起点11とし、ボール3の中心を通るラジアル方向線g付近で屈曲し(この部分を屈曲部13と称する)、その後内径側へ傾斜して、外側軌道溝1aの幅方向中ほどで外側軌道溝1aに接続されて、その接続箇所を終点12としている。入れ溝10の起点11と屈曲部13との間は、図4に示すように、ボール3の外面に沿う断面円弧状の入口側溝部16となっている。また、屈曲部13と終点12の間も、ボール3の外面に沿う断面円弧状の奥側溝部17となっている。
【0020】
入口側溝部16はその全長L1に亘って一定の深さであり、奥側溝部17は、その全長L3に亘って奥部側へ向かって徐々に浅くなっている。なお、ボール3の中心を通るラジアル方向線gと屈曲部13との距離はL2であり、L1>L3>L2となっている。また、入れ溝10が形成された部位において、外側軌道溝1aとボール3との接触可能範囲の軸方向距離L4は、奥側溝部17の軸方向への全長L3以上であることが望ましい。
【0021】
図2は、入れ溝10の平面視の形状である。実際には、外輪1の内径面は円周状に湾曲しているが、図2では理解がしやすいように、これをフラットな面で模式的に図示している。入れ溝10の幅方向両側の縁14,14は、ボール3の通過を阻害しないように直線状、又は、直線状に近い形状となっている。入れ溝10の幅方向中心線fは、外輪1の軸心eに平行な基準線dに対して傾斜して形成されている。入れ溝10と外側軌道溝1aとの成す稜線部、入れ溝10とカウンタ部1cとの成す稜線部、入れ溝10と外輪1の端面1dとの成す稜線部に、それぞれ面取りを施してもよい。面取りは、C面、R面、その他形状としてよい。
【0022】
内側軌道溝2aの断面形状は、同じくボール3の直径に対応して設定された径の円弧状となっている。一方の内側軌道溝2a(図1に示す右側の外側軌道溝2a)の軸方向外側には、その内側軌道溝2aから内輪2の端面2dに至る内輪側入れ溝20(以下、単に入れ溝20と称する)が設けられている。
【0023】
入れ溝20は、図3に示すように、内輪2の端面2dとの成す稜線部を起点21とし、内側軌道溝2aとの接続箇所を終点22としている。入れ溝20の起点21と終点22との間は、図4に示すように、ボール3の外面に沿う断面円弧状の溝部25となっている。溝部25と内側軌道溝2aとの成す稜線26は、図3に示すように平面視円弧状となり、その稜線26の先端が、前述の終点22に相当する。
【0024】
溝部25は、端面2d側の一定距離L5の範囲では一定の深さであり、内側軌道溝2aとの接続部では、稜線26に沿って長さL6に亘って奥部側へ向かって徐々に浅くなっている。なお、ボール3の中心を通るラジアル方向線gと終点22との距離はL7であり、L7>L5>L6となっている。また、入れ溝20が形成された部位において、内側軌道溝2aとボール3との接触可能範囲の軸方向距離L8は、稜線26が介在する範囲の軸方向への長さL6以上であることが望ましい。
【0025】
図3は、入れ溝20の平面視の形状である。実際には、外輪1と同様に、内輪2の外径面は円周状に湾曲しているが、図3では理解がしやすいように、これをフラットな面で模式的に図示している。入れ溝20の幅方向両側の縁24,24は、ボール3の通過を阻害しないように直線状、又は、直線状に近い形状となっている。入れ溝20の幅方向中心線f’は、内輪2の軸心e(外輪1の軸心eと一致)に平行な基準線d’に対して傾斜して形成されている。入れ溝20と内側軌道溝2aとの成す稜線部、入れ溝20とカウンタ部2cとの成す稜線部、入れ溝20と内輪2の端面2dとの成す稜線部に、それぞれ面取りを施してもよい。面取りは、C面、R面、その他形状としてよい。
【0026】
この玉軸受1を組み立てる際の一例を紹介すると、内輪2が備える2列の内側軌道溝2aのうち、他方の内側軌道溝2a(図1に示す左側の内側軌道溝2a)に沿ってボール3群を配置する。そして、外輪1を一方側(図1の右側)から他方側(図1の左側)へ向かって挿し入れる。外輪1は、カウンタ部1c側から外側軌道溝1aにボール3が組み込まれるように内輪2の外周に嵌め込まれ、他方の外側軌道溝1aと他方の内側軌道溝2aの間にボール3がセットされる。このとき、内輪2の他方の内側軌道溝2a側が下に、一方の内側軌道溝2a側が上になるようにして作業をすると、外輪1の自重を活用して押し込むことが可能である。
【0027】
この状態で、一方の外側軌道溝1aと一方の内側軌道溝2aは軸受の半径方向に対向している。その後、入れ溝10,20を通じて、一方の外側軌道溝1aと一方の内側軌道溝2aの間に、順次ボール3を挿入していく。
【0028】
玉軸受5の使用時に、外輪1はハウジングに固定され、内輪2の内径面4には軸が圧入され、ハウジングと軸とは相対回転可能である(ハウジングと軸は図示せず)。ここで、実施形態では、ハウジングと軸との相対回転の方向は一定であり、すなわち、この回転に伴い外輪1及び内輪2のそれぞれに対して、ボール3は周方向に沿って一方向へ相対移動するようになっている。その一方向を、図2及び図3においてそれぞれ矢印で示す。
【0029】
外輪1の入れ溝10の中心線fは、対応する基準線dに対して、端面1d側から外側軌道溝1a側へ向かって、その回転方向と同じ一方向へ傾斜している。また、内輪2の入れ溝20の中心線f’は、対応する基準線d’に対して、端面2d側から内側軌道溝2a側へ向かって、その回転方向と同じ一方向へ傾斜している。このように、入れ溝10,20を、軸受の回転方向に倣うように、すなわち、ボール3の移動方向に倣うように形成したことにより、ボール3の脱落防止(玉抜け防止)のために行う外輪1と内輪2との間におけるボール3の締め代を有する必要がなくなる。このため、ボール3の圧入状態を解消し、あるいは、その圧入の度合い(締め代)を低減することで、ボール3への傷発生の可能性を抑制できる。したがって、軸受組立時の作業性が向上し、軸受の仕様や使用条件によっては、入れ溝10,20周囲の面取り形成を省略することもできる。
【0030】
ここで、外輪1の入れ溝10の中心線fの基準線dに対する傾斜角、及び、内輪2の入れ溝20の中心線f’の基準線d’に対する傾斜角は同じであり、この傾斜角をαとする。入れ溝10,20の傾斜角αは、1°以上45°以下の範囲で設定されていることが望ましい。
【0031】
この点について、仮に、傾斜角αが1°よりも小さい場合を想定する。傾斜角αが3°よりも小さいと、使用条件によっては、軸受の回転中にボール3が軸受から落ちる(抜ける)可能性が高まる。このため、耐玉落ち性(玉保持性)を確保するためには、傾斜角αは3°以上であることが望ましい。
【0032】
【表1】
【0033】
実験例を示す上記の表1において、上段の◎印は、玉保持性が良好であることを示しており、○印は、玉保持性が◎の場合よりも低いものの、実施可能な形態であることを示している。また、×印は、玉保持性の観点から実施不可能であることを示している。
【0034】
また、逆に、傾斜角αが45°よりも大きいと、入れ溝10,20を機械加工により形成する場合に、機械加工の切削具が外輪1や内輪2に干渉する。このため、加工性が悪いといえる。表1において、下段の◎印は、機械加工性が良好であることを示しており、○印は機械加工性が◎の場合よりも低いものの、実施可能な形態であることを示している。また×印は、機械加工性の観点から実施不可能であることを示している。
【0035】
以上のようなことから、入れ溝10,20の傾斜角αは、0.5°以上50°以下の範囲で設定されていることが望ましく、さらに言えば、入れ溝10,20の傾斜角αは、1°以上45°以下の範囲で設定されていることが望ましい。
【0036】
上記の実施形態では、外輪1及び内輪2の両方にそれぞれ入れ溝10,20を設けたが、この実施形態には限定されず、入れ溝10,20は、外輪1又は内輪2のいずれか一方にのみ設けられた態様においても、この発明を適用できる。また、上記の実施形態は、アンギュラ玉軸受を例にこの発明を説明したが、アンギュラ玉軸受以外の他の形式からなる玉軸受5においても、この発明を適用できる。
【符号の説明】
【0037】
1 外輪(軌道輪)
1a 軌道面(外側軌道溝)
1d 端面
2 内輪(軌道輪)
2a 軌道面(内側軌道溝)
2d 端面
10,20 入れ溝
α 傾斜角
d,d’ 基準線
e 軸心
f,f’中心線
図1
図2
図3
図4