IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ NSKワーナー株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-摩擦係合装置 図1
  • 特開-摩擦係合装置 図2
  • 特開-摩擦係合装置 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022135490
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】摩擦係合装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 13/52 20060101AFI20220908BHJP
   F16D 13/71 20060101ALI20220908BHJP
   F16D 13/74 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
F16D13/52 A
F16D13/71 K
F16D13/74 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021035324
(22)【出願日】2021-03-05
(71)【出願人】
【識別番号】000102784
【氏名又は名称】NSKワーナー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002435
【氏名又は名称】特許業務法人井上国際特許商標事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077919
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 義雄
(74)【代理人】
【識別番号】100172638
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 隆治
(74)【代理人】
【識別番号】100153899
【弁理士】
【氏名又は名称】相原 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100159363
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 淳子
(72)【発明者】
【氏名】桐野 知之
(72)【発明者】
【氏名】菅井 佑馬
【テーマコード(参考)】
3J056
【Fターム(参考)】
3J056AA60
3J056BA04
3J056BA06
3J056BE07
3J056BE21
3J056CA07
3J056CC14
3J056DA04
3J056GA05
3J056GA12
(57)【要約】
【課題】構造の簡略化および燃費の向上を図ることが可能な摩擦係合装置を提供すること。
【解決手段】ハブ2に設けられた複数のクラッチディスク11と、ハウジング3に設けられ、複数のクラッチディスク11と軸方向に交互に配置された複数のセパレータプレート25と、複数のクラッチディスク11と複数のセパレータプレート25とを係合させる押圧機構と、を備えた摩擦係合装置であって、押圧機構は、ハウジング3に設けられたダイヤフラムカバー41と、ダイヤフラムカバー41に支持されたダイヤフラムスプリング37とを含み、ダイヤフラムスプリング37は、外径側縁部が、弾性力によって複数のクラッチディスク11と複数のセパレータプレート25とを係合させる方向に押圧している状態でダイヤフラムカバー41に支持されていることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内筒部材または外筒部材の一方に軸方向に設けられた複数の摩擦プレートと、
内筒部材または外筒部材の他方に設けられ、前記複数の摩擦プレートと軸方向に交互に配置された複数のセパレータプレートと、
前記複数の摩擦プレートと前記複数のセパレータプレートとを係合させる押圧機構と、を備えた摩擦係合装置であって、
前記押圧機構は、前記外筒部材に設けられた支持部材と、前記支持部材に支持された部分円錐面形状のばね部材とを含み、
前記ばね部材は、前記ばね部材の外径側縁部が、前記ばね部材の弾性力によって前記複数の摩擦プレートと前記複数のセパレータプレートとを係合させる方向に押圧している状態で前記支持部材に支持されていることを特徴とする摩擦係合装置。
【請求項2】
前記複数の摩擦プレートと前記複数のセパレータプレートとの係合を解除する解除機構をさらに備え、
前記解除機構は、軸方向に移動可能な可動部材を含み、
前記可動部材は、軸方向に移動して前記ばね部材の内径側縁部を押圧することにより、前記支持部材による支持部を支点として前記ばね部材を円板形状へ近づくように弾性変形させ、前記外径側縁部による前記複数の摩擦プレートと前記複数のセパレータプレートとを係合させる方向の押圧を解除することを特徴とする請求項1に記載の摩擦係合装置。
【請求項3】
前記可動部材は、非油圧の駆動機構によって軸方向に駆動されるピストンにより、軸方向に移動することを特徴とする請求項2に記載の摩擦係合装置。
【請求項4】
前記可動部材は、前記ばね部材の内径側縁部を押圧している状態において、前記内筒部材の内側面に接触する接触部を有し、
前記接触部が前記内側面に接触すると、前記内筒部材と前記可動部材とによって、前記複数の摩擦プレートおよび前記複数のセパレータプレートへの潤滑油の供給を制限する油溜まり部を画成することを特徴とする請求項2または3に記載の摩擦係合装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の自動変速機に組み込まれ、多板クラッチまたはブレーキとして用いられる摩擦係合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両の駆動装置、例えば自動変速機において、変速に関するクラッチまたはブレーキとして機能する機構に摩擦係合装置がある。図3は、従来の摩擦係合装置の例である多板クラッチの軸方向に沿った断面図であり、多板クラッチの解放状態を示している。
【0003】
図3に示すように、従来の多板クラッチ101は、駆動力が伝達される入力軸(図示省略)に連結されたハブ102と、内径側円筒部103aと外径側円筒部103bとを有し内径側円筒部103aに出力軸104が連結されたハウジング103とを備えている。ハブ102の外周側のスプライン109には、摩擦材113を備えたクラッチディスク111が複数嵌合し、ハウジング103の外径側円筒部103bの内周側に設けられたスプライン123には、セパレータプレート125が複数嵌合している。ハウジング103の内径側円筒部103aの外周側には、クラッチディスク111とセパレータプレート125とを押圧して締結させるためのピストン126が設けられ、ハウジング103の外径側円筒部103bの軸方向の一端には、押圧されたクラッチディスク111とセパレータプレート125とを固定状態に保持するためのエンドプレート133と、エンドプレート133をハウジング103の内周部に保持するための止め輪135とが設けられている。
【0004】
ハウジング103は内径側円筒部103aと外径側円筒部103bとを一体に連結する環状の周方向壁136を有し、周方向壁136とピストン126とによって油圧室138が画成されている。油圧室138にはピストン126を駆動させるための作動油が油穴140から供給される。ピストン126に関して油圧室138の反対側の内径側円筒部103aの外周側には、キャンセラ142が設けられている。キャンセラ142は円板状の部材であり、ピストン126とキャンセラ142とによって、キャンセル室144が画成されている。キャンセル室144には油穴145から作動油が供給される。キャンセル室144において、ピストン126とキャンセラ142との間には、ピストン126をキャンセラ142から離間する方向、すなわち多板クラッチ101が解放する方向にピストン126を付勢しているリターンスプリング146が介装されている。
【0005】
このような構成の従来の多板クラッチ101は、オイルポンプ(図示省略)によって油穴140から油圧室138へ作動油が供給されると、ピストン126はリターンスプリング146の付勢力に抗して図3において右方に移動し、クラッチディスク111とセパレータプレート125とを押圧し、多板クラッチ101を締結させる。この状態においてハブ102とハウジング103との間でトルク伝達がなされる。一方、油圧室138から作動油を排出することにより、ピストン126はリターンスプリング146の付勢力により図3において左方に移動し、クラッチディスク111とセパレータプレート125との押圧を解除し、多板クラッチ101を解放状態とする。
【0006】
ハウジング103が回転している状態においては、油圧室138では遠心力によって作動油が径方向外方に移動し、ピストン126を図3において右方に押圧する遠心油圧が発生する。一方で、キャンセル室144においても、油穴145からキャンセル室144に供給された作動油が径方向外方に移動し、ピストン126を図3において左方に押圧する遠心油圧が発生する。その結果、油圧室138で発生した遠心油圧は、キャンセル室144で発生した遠心油圧によって相殺される。
【0007】
近年の自動車における開発傾向はダウンサイジングおよび燃費の向上であり、上記のような構成の摩擦係合装置を備えた駆動装置に関してもこれらの要求がある。例えば特許文献1には、構成部品を簡略化した摩擦係合装置が記載されている。また、特許文献2には、潤滑油量を制限する機構を設け、余剰油量を低減することによりオイルポンプ等の小型化および粘性抵抗を低減し、これにより燃費の向上を図ることが可能な摩擦係合装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002-106598号公報
【特許文献2】特開2000-120722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
最近の自動車等の駆動装置の開発においては、電動化による構造変化に対応するために、新たな構造の簡略化および燃費の向上が求められている。
【0010】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、構造の簡略化および燃費の向上を図ることが可能な摩擦係合装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明に係る摩擦係合装置は、
内筒部材または外筒部材の一方に軸方向に設けられた複数の摩擦プレートと、
内筒部材または外筒部材の他方に設けられ、前記複数の摩擦プレートと軸方向に交互に配置された複数のセパレータプレートと、
前記複数の摩擦プレートと前記複数のセパレータプレートとを係合させる押圧機構と、を備えた摩擦係合装置であって、
前記押圧機構は、前記外筒部材に設けられた支持部材と、前記支持部材に支持された部分円錐面形状のばね部材とを含み、
前記ばね部材は、前記ばね部材の外径側縁部が、前記ばね部材の弾性力によって前記複数の摩擦プレートと前記複数のセパレータプレートとを係合させる方向に押圧している状態で前記支持部材に支持されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、構造の簡略化および燃費の向上を図ることが可能な摩擦係合装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は実施形態に係る摩擦係合装置である多板クラッチの要部の軸方向に沿った断面図であり、多板クラッチの解放状態を示している。
図2図2は実施形態に係る摩擦係合装置である多板クラッチの要部の軸方向に沿った断面図であり、多板クラッチの締結状態を示している。
図3図3は従来例に係る摩擦係合装置である多板クラッチの要部の軸方向に沿った断面図であり、多板クラッチの解放状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態に係る、摩擦係合装置の構成を説明する。
本発明の実施形態に係る摩擦係合装置は、自動車等の車両の駆動装置内でクラッチまたはブレーキとして用いられるものである。以下の実施形態は、説明の便宜上多板クラッチとして用いられる形態について説明する。
【0015】
図1は、実施形態に係る摩擦係合装置である多板クラッチの要部の軸方向に沿った断面図であり、多板クラッチの解放状態を示している。
図2は、実施形態に係る摩擦係合装置である多板クラッチの要部の軸方向に沿った断面図であり、多板クラッチの締結状態を示している。
なお、本実施形態において、軸方向は多板クラッチの軸方向とし、軸方向と直交する方向を径方向とする。また、説明の便宜上、図1、2において紙面に向かって右方を軸方向一方側とし、左方を軸方向他方側とする。
【0016】
図1、2に示すように、本実施形態に係る多板クラッチ1は、入力軸(図示省略、以下同様とする。)に連結されたハブ2と、入力軸と同軸に配置された出力軸(図示省略、以下同様とする。)に連結され、ハブ2と相対回転可能なハウジング3とを備えている。入力軸には電動モータ等の駆動源からの駆動力が伝達される。出力軸は、後段の変速機構へ前記駆動力を伝達する。
【0017】
ハブ2は、入力軸と同心に入力軸に配置された円板部5と、円板部5の外径側縁部から軸方向一方へ向けて延在する円筒部7とを備えている。ハブ2は入力軸と一体回転する。円筒部7の外周部にはスプライン9が設けられ、スプライン9には摩擦プレートであるクラッチディスク11が軸方向に移動可能に複数嵌合されている。クラッチディスク11の表面には摩擦材13が接着されている。クラッチディスク11はハブ2と一体回転する。円筒部7には、円筒部7を径方向に貫通する油路15が複数設けられている。円板部5の内径側部分は、軸方向一方側に突出する厚肉部17となっている。厚肉部17には、厚肉部17の外周面に開口する油路18が形成されている。
【0018】
ハウジング3は、出力軸と同心に出力軸に配置された円板部19と、円板部19の外径側縁部から軸方向一方へ向けて延在する円筒部21とを備えている。ハウジング3は出力軸と一体回転する。円板部19は、ハブ2の円板部5の軸方向他方側に僅かな隙間を介して配置されている。円筒部21は、ハブ2の円筒部7の径方向外方側に所定の径方向間隔を介して配置されている。円筒部21の内周部にはスプライン23が設けられている。スプライン23には、セパレータプレート25が軸方向に移動可能に複数嵌合されている。セパレータプレート25はハウジング3と一体回転する。セパレータプレート25はクラッチディスク11の摩擦係合相手部材であり、クラッチディスク11とセパレータプレート25とは軸方向に交互に配置されている。複数のクラッチディスク11と複数のセパレータプレート25とで摩擦係合部27が構成されている。
【0019】
摩擦係合部27への潤滑油の供給は、入力軸からの軸心給油である。具体的には、回転による遠心力によって、入力軸からハブ2の厚肉部17の油路18および円筒部7の油路15を介して摩擦係合部27へ潤滑油が供給される。
【0020】
摩擦係合部27の最も軸方向一方側に配置されたセパレータプレート25の軸方向一方側に隣接して、環状のダイヤフラム支持プレート29が配置されている。ダイヤフラム支持プレート29は、軸方向に移動可能にハウジング3のスプライン23に嵌合している。ダイヤフラム支持プレート29の軸方向一方側の面には、軸方向一方側に突出する凸部31が形成されている。ダイヤフラム支持プレート29は後述するダイヤフラムスプリング37が接触し、クラッチディスク11とセパレータプレート25とを軸方向一方側から軸方向他方側に向けて押圧する。
【0021】
ハウジング3のスプライン23の軸方向他方側端部にはエンドプレート33が嵌合されている。エンドプレート33の軸方向他方側端面は円板部19の軸方向一方側の面に接触している。エンドプレート33は、軸方向一方側から軸方向他方側に向けて押圧されたクラッチディスク11とセパレータプレート25とを固定状態に保持する。
【0022】
本実施形態の多板クラッチ1は、多板クラッチ1を締結させるためにクラッチディスク11とセパレータプレート25とを押圧する押圧機構として、ダイヤフラムスプリング37を用いている。一方、多板クラッチ1の締結状態を解放するためにダイヤフラムスプリング37を弾性変形させてクラッチディスク11とセパレータプレート25との押圧を解除する解除機構として、軸方向に移動可能なピストン39を用いている。以下、ダイヤフラムスプリング37を用いた押圧機構と、ピストン39を用いた解除機構とについて説明する。
【0023】
摩擦係合部27の軸方向一方側すなわちハウジング3のスプライン23の軸方向一方側端部には、ハウジング3と同心に、環状のダイヤフラムカバー41が嵌合されている。ダイヤフラムカバー41は、一対の止輪42にて軸方向に固定されスプライン23に嵌合されている。ダイヤフラムカバー41には、ダイヤフラムカバー41と同心に、環状のダイヤフラムスプリング37が支持されている。すなわちハウジング3の軸方向一方側端部には、ダイヤフラムカバー41を介してダイヤフラムスプリング37が軸方向に移動可能に配置されている。
【0024】
ダイヤフラムカバー41は、ハウジング3と同心に配置された環状部43を有している。環状部43は、外周部がハウジング3のスプライン23に嵌合している。環状部43の内周部には、軸方向他方側すなわち摩擦係合部27側に屈曲し、さらに径方向外方に折り返された断面略U字状の折り曲げ部45が、周方向所定間隔で複数形成されている。折り曲げ部45は、摩擦係合部27よりも径方向内方に配置されている。
【0025】
ダイヤフラムスプリング37は、所定の頂角を有する部分円錐面形状のばねである。詳細には、ダイヤフラムスプリング37は、部分円錐面形状の底部側部分である環状部47と、部分円錐面形状の底部側部分よりも頂部側の部分であって、環状部47の頂部側縁部から部分円錐面形状の頂部に向けて延在する複数の突出部49とを有している。環状部47と複数の突出部49とは一体に形成されている。突出部49の周方向幅は、環状部47側から頂部に向かうにしたがって小さくなっている。
【0026】
突出部49はダイヤフラムカバー41の折り曲げ部45と同数が形成され、周方向所定間隔で配置されている。すなわち周方向に隣り合う突出部49によって、所定の周方向間隔が形成されている。各突出部49の頂部側の縁部は、ダイヤフラムスプリング37の頂部側の小径側縁部あるいは内径側縁部を構成している。また、環状部47の底部側縁部は、ダイヤフラムスプリング37の底部側の大径側縁部あるいは外径側縁部を構成している。ダイヤフラムスプリング37は、図2に示すように、多板クラッチ1の軸方向に関して、環状部47が摩擦係合部27側で、突出部49が摩擦係合部27とは離間する側となる向きで配置されている。
【0027】
ダイヤフラムカバー41の折り曲げ部45は、ダイヤフラムスプリング37の周方向に隣り合う突出部49間に配置されている。したがって折り曲げ部45と突出部49とは周方向に交互に配置されている。ダイヤフラムカバー41の折り曲げ部45の内部には、軸方向に離間した一対のリング状の支持部材51が固定されている。ダイヤフラムスプリング37は、突出部49の径方向中間部が一対のリング状の支持部材51によって軸方向に挟まれた状態で軸方向に位置決めされている。また、ダイヤフラムスプリング37は、支持部材51を支点として部分円錐面形状から円板形状へ近づくように弾性変形が可能となっている。
【0028】
ダイヤフラムスプリング37は、図2に示すように、その形状が部分円錐面形状の状態において環状部47の軸方向他方側の面の外径側縁部がダイヤフラム支持プレート29の凸部31に接触した状態で、且つダイヤフラム支持プレート29に向かって押し付けられた状態でダイヤフラムカバー41に保持されている。この状態において、部分円錐面形状を保持しようとするダイヤフラムスプリング37の弾性力によってダイヤフラム支持プレート29は軸方向他方側に付勢され、クラッチディスク11とセパレータプレート25とを軸方向一方側から他方側へ向けて押圧している。
【0029】
一方、ダイヤフラムスプリング37は、図1に示すように、その形状が平坦な円板形状へ弾性変形している状態において、環状部47はダイヤフラム支持プレート29から離間している。この状態においては、クラッチディスク11とセパレータプレート25とは軸方向に押圧されない。ダイヤフラムスプリング37の作動については後述する。
【0030】
ダイヤフラムスプリング37の内径側には、ダイヤフラムスプリング37の突出部49の内径側端部を軸方向に移動させるための環状の可動部材53が配置されている。可動部材53は、ダイヤフラムスプリング37の突出部49の内径側端部を押圧して軸方向に移動させることにより、ダイヤフラムスプリング37を弾性変形させる。
【0031】
可動部材53は、入力軸と同心に入力軸に設けられた円板部55と、円板部55の外径側縁部から軸方向他方側に向けて延在する第1円筒部57と、第1円筒部57の軸方向他方側端部から径方向外方に延在するフランジ部59と、フランジ部59の外径側縁部から軸方向他方側に向けて延在する第2円筒部61とを備えている。円板部55と第1円筒部57とフランジ部59と第2円筒部61とは一体に構成されている。円板部55は入力軸上を軸方向に移動可能に設けられている。
【0032】
円板部55は、ダイヤフラムカバー41の径方向内方側であって、且つダイヤフラムスプリング37の軸方向一方側に配置されている。第1円筒部57には、軸方向に延在するスリット63が周方向所定間隔に複数形成されている。ダイヤフラムスプリング37の突出部49の内径側端部は、第1円筒部57のスリット63を径方向に貫通している。したがって円板部55の軸方向他方側の面の外径側縁部は、ダイヤフラムスプリング37の突出部49の軸方向一方側の面の内径側端部と軸方向に対向している。円板部55の軸方向他方側の面の外径側縁部とダイヤフラムスプリング37の突出部49の軸方向一方側の面の内径側端部との間に、リング状のダイヤフラム支持部材65が固定されている。ダイヤフラム支持部材65は、円板部55の軸方向他方側の面の外径側縁部とダイヤフラムスプリング37の突出部49の軸方向一方側の面の内径側端部と第1円筒部57の内周面とに接触している。
【0033】
第1円筒部57は、ハブ2の厚肉部17の外周面よりも径方向外方に配置されている。第1円筒部57は、可動部材53が最も軸方向他方側に位置している状態において、第1円筒部57の内周面の軸方向他方側端部が厚肉部17の外周面の軸方向一方側端部と径方向に隙間を介して対向している。第2円筒部61の外周面は、ハブ2の円筒部7の内周面と所定の間隔を介して径方向に対向している。また、第2円筒部61の軸方向他方側端部は、ハブ2の円板部5の軸方向一方側の面と軸方向に対向している。第2円筒部61の軸方向他方側端部にはシールリング67が固定されている。シールリング67は、可動部材53が最も軸方向一方側に位置している状態において、ハブ2の円板部5の軸方向一方側の面と離間し、可動部材53が最も軸方向他方側に位置している状態において、ハブ2の円板部5の軸方向一方側の面に密着する。第2円筒部61のシールリング67がハブ2の円板部5の軸方向一方側の面に密着すると、ハブ2と可動部材53とによって油溜まり部69が画成される。
【0034】
可動部材53は、円板部55の軸方向一方側に設けられたピストン39によって駆動される。ピストン39は可動部材53の円板部55の軸方向一方側の面の外径側縁部に接触している。本実施形態においては、ピストン39は油圧を用いない駆動機構(図示省略、以下同様とする。)によって軸方向に駆動されている。図1に示すように、駆動機構によってピストン39が軸方向他方側に移動することにより可動部材53は軸方向他方側へ押圧される。一方、駆動機構によってピストン39が軸方向一方側に移動すると、図2に示すように、可動部材53の押圧は解除される。
【0035】
次に、本実施形態に係る摩擦係合装置である多板クラッチ1の作動について説明する。
まず、多板クラッチ1が図2に示す締結状態から、図1に示す解放状態に切り替わる際の作動について説明する。
多板クラッチ1が締結状態においては、クラッチディスク11とセパレータプレート25とは摩擦係合し、ハブ2とハウジング3とは一体に回転し、ハブ2とハウジング3との間でトルクの伝達が行われている。また、ハブ2とハウジング3との回転による遠心力により、摩擦係合部27には入力軸から潤滑油が供給されている。
【0036】
この状態から、駆動機構によってピストン39が軸方向他方側に移動すると、ピストン39は可動部材53を軸方向他方側に押圧し、可動部材53を軸方向他方側に移動させる。すると可動部材53に固定されているダイヤフラム支持部材65に押されることによって、ダイヤフラムスプリング37の各突出部49の内径側端部が軸方向他方側に移動する。これによりダイヤフラムスプリング37は、支持部材51を支点として環状部47が軸方向一方側に移動するように弾性変形する。すなわちダイヤフラムスプリング37は、部分円錐面形状から円板形状へ近づくように弾性変形する。
【0037】
ピストン39によって可動部材53が最も軸方向他方側まで移動すると、図1に示すように、円板形状へ近づくように弾性変形したダイヤフラムスプリング37の環状部47はダイヤフラム支持プレート29から完全に離間し、これによりクラッチディスク11とセパレータプレート25との摩擦係合が解除され、多板クラッチ1は解放状態となる。なお、ダイヤフラムスプリング37が弾性変形する際、ダイヤフラムカバー41にはダイヤフラムスプリング37から支持部材51を介して軸方向他方側へ向かう方向の力が加わっている。
【0038】
ピストン39によって可動部材53が最も軸方向他方側まで移動すると、可動部材53のシールリング67がハブ2の円板部5の軸方向一方側の面に密着し、ハブ2と可動部材53とによって油溜まり部69が画成される。この油溜まり部69により、入力軸からハブ2の厚肉部17の油路18を介して摩擦係合部27および、クラッチディスク11とセパレータプレート25との間に供給される潤滑油が堰き止められる。多板クラッチ1の解放状態における摩擦係合部27および、クラッチディスク11とセパレータプレート25との間での潤滑油の潤滑は粘性性抵抗となるため好ましくない。本実施形態によれば、油溜まり部69によって余剰の潤滑油が摩擦係合部27および、クラッチディスク11とセパレータプレート25との間に供給されることを制限できる。したがって摩擦係合部27および、クラッチディスク11とセパレータプレート25との間での粘性抵抗が低減され、燃費の向上を図ることができる。
【0039】
次に、多板クラッチ1が上述した解放状態から締結状態に切り替わる際の作動について説明する。
多板クラッチ1が解放状態において、駆動機構によってピストン39が軸方向一方側に移動すると、円板形状へ近づくように弾性変形していたダイヤフラムスプリング37は、ピストン39の移動に従って部分円錐面形状へ弾性復帰してゆく。この弾性復帰により、ダイヤフラムスプリング37の各突出部49の内径側端部が軸方向一方側に移動し、可動部材53に固定されているダイヤフラム支持部材65を介して可動部材53を軸方向一方側に移動させる。
【0040】
ピストン39が最も軸方向一方側まで移動すると、ダイヤフラムスプリング37は部分円錐面形状に弾性復帰し、図2に示すように、環状部47の軸方向他方側の面の外径側縁部がダイヤフラム支持プレート29の凸部31に接触してダイヤフラム支持プレート29を軸方向他方側に付勢する。その結果クラッチディスク11とセパレータプレート25とが軸方向一方側から他方側へ向けて押圧されて摩擦係合し、多板クラッチ1は締結状態となる。なお、ダイヤフラムスプリング37が弾性復帰する際、ダイヤフラムカバー41にはダイヤフラムスプリング37から支持部材51を介して軸方向一方側へ向かう方向の力が加わっている。
【0041】
ピストン39が最も軸方向一方側まで移動し、ダイヤフラムスプリング37の弾性復帰の付勢力により可動部材53が最も軸方向一方側まで移動すると、可動部材53のシールリング67がハブ2の円板部5の軸方向一方側の面から離間し、油溜まり部69の画成が解除される。この状態においてハブ2とハウジング3との回転による遠心力により、入力軸からハブ2の厚肉部17の油路18および円筒部7の油路15を介して摩擦係合部27には充分な潤滑油が供給される。したがって多板クラッチ1の摩擦係合時に発生する蓄熱を冷却するために必要な量の潤滑油を供給することが可能となる。
【0042】
以上、説明した本実施形態の多板クラッチ1によれば、従来の多板クラッチ101(図3参照)において油圧制御された押圧部材すなわちピストン126によって行なわれていたクラッチディスク111とセパレータプレート125との係合、およびキャンセラ142とリターンスプリング146を用いて行われていた前記係合の解除位置への押圧部材の移動を、ダイヤフラムスプリング37および油圧を用いない駆動機構によって移動するピストン39によって行うことができる。その結果、クラッチディスク11とセパレータプレート25との係合のための複雑な油圧制御機構を設ける必要がなく、構造を簡略化することができ、摩擦係合装置のダウンサイジングおよび軽量化を実現することができる。
【0043】
また、本実施形態の多板クラッチ1によれば、多板クラッチ1の解放状態において、余剰な潤滑油が摩擦係合部27および、クラッチディスク11とセパレータプレート25との間に供給されることを制限できる。したがって摩擦係合部27および、クラッチディスク11とセパレータプレート25との間での粘性抵抗が低減され、燃費の向上を図ることができる。
【0044】
なお、本実施形態は、多板クラッチ1を例として摩擦係合装置を説明したが、本実施形態はブレーキとして用いることもできる。また、ハウジング3にクラッチディスク11を設け、ハブ2にセパレータプレート25を設ける構成としても良い。
【符号の説明】
【0045】
1 多板クラッチ
2 ハブ
3 ハウジング
9 スプライン
11 クラッチディスク
15、18 油路
23 スプライン
25 セパレータプレート
27 摩擦係合部
29 ダイヤフラム支持プレート
37 ダイヤフラムスプリング
39 ピストン
41 ダイヤフラムカバー
51 支持部材
53 可動部材
67 シールリング
69 油溜まり部
図1
図2
図3