(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022135510
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】電動ブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
B60T 8/17 20060101AFI20220908BHJP
B60T 13/74 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
B60T8/17 Z
B60T13/74 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021035362
(22)【出願日】2021-03-05
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】増田 唯
【テーマコード(参考)】
3D048
3D246
【Fターム(参考)】
3D048CC49
3D048HH18
3D048HH42
3D048HH51
3D048HH59
3D048HH66
3D048HH68
3D048RR01
3D048RR06
3D048RR11
3D048RR13
3D048RR25
3D048RR29
3D246DA01
3D246HA35B
3D246HA35C
3D246HA38A
3D246HA39A
3D246HA42A
3D246LA13Z
(57)【要約】
【課題】 安全性や操縦者のブレーキフィーリングを向上させた電動ブレーキ装置を提供する。
【解決手段】 ブレーキロータと、摩擦材と、電動モータと、電動モータの回転運動を摩擦材の直進運動に変換する直動機構と、モータ角度推定手段と、ブレーキ力推定手段と、電動モータを制御する制御装置とを備え、前記制御装置が、位置制御部と、ブレーキ力制御部と、を有し、ブレーキ解除状態において位置制御を実行し、ブレーキ状態において前記ブレーキ力制御を実行し、さらに、前記ブレーキ解除状態からブレーキ状態へと推移する際、前記摩擦材と前記ブレーキロータとの空隙が想定よりも拡大していると判断された場合において、前記電動モータを所定の角速度で動作させる角速度制御部の制御を実行する制御切替部をさらに有する電動ブレーキ装置。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキロータと、前記ブレーキロータと当接してブレーキ力を発生させる摩擦材と、電動モータと、前記電動モータの回転運動を前記摩擦材の直進運動に変換する直動機構と、前記電動モータの回転角度を推定するモータ角度推定手段と、前記ブレーキロータと摩擦材との当接により発生する前記ブレーキ力を推定するブレーキ力推定手段と、前記電動モータを制御する制御装置と、を備えた電動ブレーキ装置において、
前記制御装置が、前記モータ角度推定手段による推定モータ角度に基づいて前記直動機構におけるストローク位置を制御する位置制御部と、前記ブレーキ力推定手段による推定ブレーキ力に基づいて前記ブレーキロータと前記摩擦材との当接により発生する前記ブレーキ力を制御するブレーキ力制御部と、を有し、
前記制御装置は、少なくとも前記摩擦材と前記ブレーキロータとの間に所定の空隙が生じるよう離反させるブレーキ解除状態において前記位置制御部の制御を実行し、少なくとも前記摩擦材と前記ブレーキロータとが当接したブレーキ状態において前記ブレーキ力制御部の制御を実行し、
さらに、前記制御装置は、前記ブレーキ解除状態からブレーキ状態へと推移する際、前記摩擦材と前記ブレーキロータとの空隙が想定よりも拡大していると判断された場合において、前記電動モータを所定の角速度で動作させる角速度制御部の制御を実行する制御切替部をさらに有する、
電動ブレーキ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電動ブレーキ装置において、
前記制御切替部は、
前記ブレーキ解除状態からブレーキ状態へと推移する際、前記直動機構のストローク位置が前記摩擦材とブレーキロータとが当接し得る位置であり、かつ前記推定ブレーキ力が所定の値よりも小さい場合であって、
前記摩擦材と前記ブレーキロータとの空隙が想定よりも拡大していると判断された場合において、前記電動モータを所定の角速度で動作させる角速度制御部の制御を実行する、
電動ブレーキ装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電動ブレーキ装置において、
前記制御装置に対して目標ブレーキ力に対応する値を入力するブレーキ指令手段を備え、
前記角速度制御部は、前記ブレーキ指令手段による目標ブレーキ力に対応する値の大きさが大きくなると、前記角速度の目標値を大きくする、
電動ブレーキ装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載の電動ブレーキ装置において、
前記制御装置に対して目標ブレーキ力に対応する値およびブレーキ解除の指示を入力するブレーキ指令手段を備え、
前記角速度制御部は、前記ブレーキ指令手段によってブレーキ解除が指示された状態から目標ブレーキ力に対応する値が入力された状態へと変化してからの所定時間内における前記目標ブレーキ力の変化量を記憶する記憶部を備え、
前記目標ブレーキ力の変化量の大きさが大きくなると、前記角速度制御部における角速度の目標値を大きくする、
電動ブレーキ装置。
【請求項5】
請求項4に記載の電動ブレーキ装置において、
前記目標ブレーキ力の変化量の大きさの最大値に基づき、前記最大値が大きくなると、前記角速度制御部における角速度の目標値を大きくする、
電動ブレーキ装置。
【請求項6】
請求項1または2に記載の電動ブレーキ装置において、
車両を急停止する必要がある状況、ブレーキを緊急に動作させる必要がある状態のうちの少なくとも一つを判断する機能を備えた上位デバイスを備え、
前記上位デバイスは、前記電動ブレーキ装置が搭載される車両の周辺物との近接度合いと、前記車両の所定方向の加速度に基づき導出される車両挙動と、の少なくとも一方または両方に基づいて、平常状態から緊急状態への変化を表す少なくとも2段階以上の緊急度合が情報として付加するものであり、
前記制御装置は、前記緊急度合が平常状態からより緊急な状態を表す信号であるほど、前記角速度制御部における角速度の目標値を大きくする、
電動ブレーキ装置。
【請求項7】
請求項1~6の何れか一項に記載の電動ブレーキ装置において、
前記制御装置は、前記制御切替部が前記ブレーキ力制御部の制御を選択している状態において、前記推定ブレーキ力と、前記状態における前記推定モータ角度と、予め設定された前記電動ブレーキ装置剛性と、から所定の空隙量となりうる直動機構のストローク位置を逐次更新する、
電動ブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電動のブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電動ブレーキ装置において、以下の技術が提案されている。
(1)遊星ローラねじ構造を用いた電動式アクチュエータ(特許文献1)。
(2)位置制御と荷重制御を適用した電動ブレーキ制御装置(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-194356号公報
【特許文献2】特開2014-177205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の、ブレーキペダルを踏み込むことで、遊星ローラねじ構造を用いた直動機構を介してモータの回転運動を直線運動に変換し、摩擦材(ブレーキパッド)をブレーキロータ(ブレーキディスク)に押圧接触させて制動力を発生させる電動ブレーキ装置において、例えば、電動ブレーキを搭載した車両の操縦者等にブレーキフィーリングの違和感を抱かせないために、ブレーキロータと摩擦材との押付力を操縦者の要求通りきめ細やかに制御することが求められる場合が多い。特に、一般公道の走行時に多用する比較的ブレーキ力の小さい常用ブレーキの領域において、操縦者はブレーキフィーリングに違和感を覚えやすい傾向にあるため、特に精密なブレーキ力制御が求められる場合がある。
【0005】
また、例えばモータの回転角度から換算される直動機構のストローク量(摩擦材の移動量に相当)を用いて、ブレーキペダル操作の操作量に対して所定のストローク量とすることで電動ブレーキ装置のブレーキ力を制御する場合(この制御を位置制御とも呼ぶ)、車両にブレーキをかける際に発生するブレーキ摩擦熱によって膨張した摩擦材やブレーキロータ等が、ブレーキを解除した後の放熱により冷却されて収縮するなどの要因により、摩擦材とブレーキロータとの間の空隙が想定より拡大する場合がある(ストローク量誤差、摩擦材の位置(モータ角度)の誤差の発生)。そのような状態においては本来ブレーキ力が作用するべきブレーキペダル操作量の状態においてブレーキ力が発生せず、操縦者がブレーキフィーリングに違和感を覚えるおそれが生じる場合がある。
【0006】
また、特許文献2において、例えばブレーキ力を推定するためのブレーキ力センサを設け、ブレーキをかける際はブレーキペダル操作の操作量に対して所定のブレーキ力センサ出力となるようブレーキ力制御(または荷重制御)を行い、ブレーキを解除する際は前記ブレーキ力センサ出力やモータ回転角から所定のパッドクリアランス(摩擦材とブレーキロータとの間の空隙)が設けられるようにモータ角度制御を行うことで電動ブレーキ装置を制御する手法(または位置制御)が開示されている。
【0007】
しかしながら、上記要因などによって想定より大きなパッドクリアランスとなっている状態が発生した場合、ブレーキ力制御を実行した際に実際にブレーキ力が発生するまでに想定以上に電動モータが加速したためブレーキ力に大きなオーバーシュートが発生する現象や(制動ショック現象)、ブレーキ力がしばらく発生せず大きな応答遅れが生じる現象、あるいはこれらの複合された現象が生じる場合がある。これらのうち何れの現象が発生するかは、ブレーキ指令値の大きさやブレーキコントローラのパラメータに依存するため、予め調整することが困難であり、また主に比較的小さなブレーキ操作を行った際に発生し易いことから、操縦者がブレーキフィーリングに違和感を覚えることや、意図しないブレーキ動作により安全性が低下する可能性がある。
【0008】
この発明の目的は、安全性や操縦者のブレーキフィーリングを向上させた電動ブレーキ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、概して、ブレーキを解除した状態(ブレーキ解除状態)から所定のブレーキ力を発生する状態(ブレーキ状態)へと移行する際に、モータの回転角度(モータ角度)と推定されたブレーキ力(推定ブレーキ力)から想定より大きなパッドクリアランスが生じているかを判断し、前記判断によってパッドクリアランスが想定より大きい場合はモータ角速度制御を実行し、前記モータ角速度制御を実行する際、ブレーキ力指令値に基づいて角速度の大きさを変更することを基本とする。
【0010】
上記目的を達成するために、本発明にかかる電動ブレーキ装置は、
ブレーキロータと、前記ブレーキロータと当接してブレーキ力を発生させる摩擦材と、電動モータと、前記電動モータの回転運動を前記摩擦材の直進運動に変換する直動機構と、前記電動モータの回転角度を推定するモータ角度推定手段と、前記ブレーキロータと摩擦材との当接により発生する前記ブレーキ力を推定するブレーキ力推定手段と、前記電動モータを制御する制御装置と、を備えた電動ブレーキ装置において、
前記制御装置が、前記モータ角度推定手段による推定モータ角度に基づいて前記直動機構におけるストローク位置を制御する位置制御部と、前記ブレーキ力推定手段による推定ブレーキ力に基づいて前記ブレーキロータと前記摩擦材との当接により発生する前記ブレーキ力を制御するブレーキ力制御部と、を有し、
前記制御装置は、少なくとも前記摩擦材と前記ブレーキロータとの間に所定の空隙が生じるよう離反させるブレーキ解除状態において前記位置制御部の制御を実行し、少なくとも前記摩擦材と前記ブレーキロータとが当接したブレーキ状態において前記ブレーキ力制御部の制御を実行し、
さらに、前記制御装置は、前記ブレーキ解除状態からブレーキ状態へと推移する際、前記摩擦材と前記ブレーキロータとの空隙が想定よりも拡大していると判断された場合において、前記電動モータを所定の角速度で動作させる角速度制御部の制御を実行する制御切替部をさらに有する。
【0011】
上記構成によると、ブレーキを解除した際の空隙(パッドクリアランス)が想定よりも大きくなっていた場合、本来ブレーキがかかる状態まで所定の角速度でモータを駆動することで、ブレーキをかける指令に対してブレーキ力がなかなか発生しない現象や、反対にモータが高速に動作しすぎて制動ショックが発生する現象が生じることを防止し、安全性およびブレーキフィーリングを向上することができる。
【0012】
なお、上記構成において、前記制御切替部は、
前記ブレーキ解除状態からブレーキ状態へと推移する際、前記直動機構のストローク位置が前記摩擦材とブレーキロータとが当接し得る位置であり、かつ前記推定ブレーキ力が所定の値よりも小さい場合であって、
前記摩擦材と前記ブレーキロータとの空隙が想定よりも拡大していると判断された場合において、前記電動モータを所定の角速度で動作させる角速度制御部の制御を実行してよい。
【0013】
上記構成において、
前記制御装置に対して目標ブレーキ力に対応する値を入力するブレーキ指令手段を備え、
前記角速度制御部は、前記ブレーキ指令手段による目標ブレーキ力に対応する値の大きさが大きくなると、前記角速度の目標値を大きくしてもよい。
これにより、比較的大きな目標ブレーキ力の際にはより早く目標値に追従するよう比較的高速な角速度に制御し、比較的小さな目標ブレーキ力の際には比較的低速な角速度に制御してオーバーシュートを抑制することで、ブレーキの応答性(すなわち安全性)とフィーリングを両立できる。
【0014】
上記構成において、
前記制御装置に対して目標ブレーキ力に対応する値およびブレーキ解除の指示を入力するブレーキ指令手段を備え、
前記角速度制御部は、前記ブレーキ指令手段によってブレーキ解除が指示された状態から目標ブレーキ力に対応する値が入力された状態へと変化してからの所定時間内における前記目標ブレーキ力の変化量を記憶する記憶部を備え、
前記目標ブレーキ力の変化量の大きさが大きくなると、前記角速度制御部における角速度の目標値を大きくしてもよい。
これにより、比較的急峻に目標ブレーキ力が変化した際にはより早く目標値に追従するよう比較的高速な角速度に制御し、比較的緩慢に目標ブレーキ力が変化した際には比較的低速な角速度に制御してオーバーシュートを抑制することで、ブレーキの応答性(すなわち安全性)とフィーリングを両立できる。
【0015】
なお、上記構成において、
前記目標ブレーキ力の変化量の大きさの最大値に基づき、前記最大値が大きくなると、前記角速度制御部における角速度の目標値を大きくしてもよい。
【0016】
上記構成において、
車両を急停止する必要がある状況、ブレーキを緊急に動作させる必要がある状態のうちの少なくとも一つを判断する機能を備えた上位デバイスを備え、
前記上位デバイスは、前記電動ブレーキ装置が搭載される車両の周辺物との近接度合いと、前記車両の所定方向の加速度に基づき導出される車両挙動と、の少なくとも一方または両方に基づいて、平常状態から緊急状態への変化を表す少なくとも2段階以上の緊急度合が情報として付加するものであり、
前記制御装置は、前記緊急度合が平常状態からより緊急な状態を表す信号であるほど、前記角速度制御部における角速度の目標値を大きくしてもよい。
これにより、衝突軽減ブレーキや横滑り防止機能など、車両の安全性に係る機能によるブレーキ指令が印加された際には比較的高速なモータ角速度で駆動することで、安全性を向上できる。
【0017】
上記構成において、
前記制御装置は、前記制御切替部が前記ブレーキ力制御部の制御を選択している状態において、前記推定ブレーキ力と、前記状態における前記推定モータ角度と、予め設定された前記電動ブレーキ装置剛性と、から所定の空隙量となりうる直動機構のストローク位置を逐次更新してもよい。
これにより、所定の空隙量を設けるストローク位置決定方法を具体化できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明にかかる電動ブレーキ装置によれば、安全性や操縦者のブレーキフィーリングを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1A】本発明の一実施形態に係る電動ブレーキ装置を含めた構成を示す概略ブロック図である。
【
図1B】上記電動ブレーキ装置を含めた構成を示す別の概略ブロック図である。
【
図2】上記電動ブレーキ装置を使用して複数のブレーキアクチュエータに対応した概略ブロック図である。
【
図3】上記電動ブレーキ装置を使用して複数のブレーキアクチュエータに対応した別の概略ブロック図である。
【
図4A】制御装置内部の構成を示す概略ブロック図である。
【
図4B】上記制御装置内部の構成を示す別の概略ブロック図である。
【
図4C】上記制御装置内部の構成を示すさらに別の概略ブロック図である。
【
図5A】上記電動ブレーキ装置の動作を示す状態遷移図である。
【
図5B】上記電動ブレーキ装置の動作を示す別の状態遷移図である。
【
図6】上記電動ブレーキ装置の動作例を示す波形図である。
【
図7】上記電動ブレーキ装置の目標角速度の調整例を示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1Aに、少なくとも、電動モータ210を制御する制御装置(以後、電動ブレーキ制御装置とも呼ぶ)100と、電動モータ210の回転運動を摩擦材220の直進運動に変換する直動機構240を用いた電動式の(ブレーキ)アクチュエータ200と、からなる電動ブレーキ装置1の構成を示す。なお、電動ブレーキ装置1は、さらに電源装置PWと、ブレーキペダル等のブレーキ指示手段300と、後述の車両運動制御装置400とを備えてもよい。ブレーキペダル300は例えばペダルストローク量のような単一の情報を出力する。電動ブレーキ装置1は、本実施形態では車両用の制動装置の例で説明を行うが、その他、例えば昇降装置や発電装置、フライホイールなどのエネルギー蓄積装置を停止するためのブレーキ装置として、本実施形態の構成を適用することもできる。
【0021】
<<ブレーキアクチュエータ200構成>>
ブレーキアクチュエータ200は、不図示の車輪と一体で回転するブレーキロータ230と、ブレーキロータ230と当接してブレーキ力を発生させる摩擦材220と、電動モータ210と、直動機構240と、モータ角度(具体的にはモータロータの回転角度)を検出する角度センサ250と、ブレーキ荷重を検出する荷重センサ260と、から構成される。なお、必要に応じて電動モータ210の回転速度を減速させる減速機等が設けられてもよい。電動モータ210は、例えば永久磁石同期電動機であり、これにより構成すると省スペースで高効率かつ高トルクとなり好適と考えられる。なお、電動モータ210は他に、例えばブラシを用いたDCモータや、永久磁石を用いないリラクタンスモータ、あるいは誘導モータ等を適用することもできる。また、電動モータ210は、回転径方向に磁極を有するラジアルギャップモータであってもよく、回転軸方向に磁極を有するアキシャルギャップモータであってもよい。
【0022】
直動機構240は、遊星ローラねじ、ボールねじ等の各種ねじ機構や、ボールランプ機構、電動モータ210の回転運動を摩擦材220の直進運動に変換可能な各種機構等で構成される。角度センサ250は、例えばレゾルバや磁気エンコーダ等であり、これらを用いると高精度かつ高信頼性であり好適と考えられる。なお、角度センサ250は、光学式エンコーダ等の各種センサを適用することもできる。もしくは他の構成として、角度センサ250を用いずに、例えば後述する電動ブレーキ制御装置100において電圧と電流との関係等からモータ角度を推定するような角度センサレス推定を適用することもできる。
【0023】
荷重センサ260は、例えばアクチュエータ200が作用させる荷重に応じた歪や変形等を検出するセンサであり、これを用いると安価で高精度となり好適と考えられる。なお、荷重センサ260は、圧電素子等の感圧媒体を用いることもできる。あるいは、荷重センサ260には、ブレーキロータの制動トルクを検出するトルクセンサや、車両用電動ブレーキ装置の場合は車両の前後減速度を検出する加速度センサ等を用いてもよい。
【0024】
ブレーキアクチュエータ200には、その他の図示外の要素として、サーミスタ等の温度センサなど、各種センサ類を要件に応じて別途設けても良い。また、ソレノイドやDCモータなどでアクチュエータの動作部分(動力伝達部)をロックする機構を設け、パーキングブレーキ付アクチュエータとすることもできる。
【0025】
<<電動ブレーキ制御装置100の構成>>
電動ブレーキ制御装置100は、例えば、ブレーキ動作の演算、制御を行うブレーキ制御器BCと、モータの動作状態を演算し推定する運動状態推定器MEと、荷重センサ260の出力等からブレーキ力を推定し推定ブレーキ力を出力するブレーキ力推定器170と、所定のモータ出力を得るためにモータ電流を制御するモータ制御器MCと、モータに電力を供給するモータドライバMDと、モータ電流を検出する電流センサCSと、から構成される。
【0026】
運動状態推定器MEは、角度センサ250の出力が入力されて、少なくとも電動モータ210の回転子(ロータ)の回転角度を推定(推定モータ角度を算出)する角度推定部(モータ角度推定手段)150と、該ロータの回転角速度を推定(推定角速度を算出)する角速度推定部160と、を備える。あるいは、運動状態推定器MEには、例えば電動モータ210の角加速度等の所定微積分値を推定する機能や、さらに外乱を推定する機能等が設けられても良い。また、運動状態推定器MEは、例えば電流制御に用いる電気角位相や角度制御に用いる角度センサのオーバーラップおよびアンダーラップを補正した総回転角度等の制御構成に基づいて、必要な物理量を適宜求める機能を有する。その他、電動モータ210の角度(回転角度)や角速度(回転角速度)は、前記電動モータ210の回転子に代えて、例えば減速機を有する場合に減速比に基づいて求めた該減速機の所定部位の角度等や、ねじ機構の等価リード等に基づいて求めた位置や速度であっても良い。前記物理量の推定は、例えば状態推定オブザーバ等の構成を用いても良く、微分や慣性方程式に基づく逆算等の直接的な演算であっても良い。
【0027】
電流センサCSは、例えば通電経路に設けたシャント抵抗の両端の電圧を検出して増幅するアンプを含むセンサや、通電経路周囲の磁束等を検出する非接触式センサ等を用いることができる。あるいは、電流センサCSは、例えばモータドライバMDを構成する素子等の端子間電圧等を検出する構成としても良い。また、電流センサCSは、電動モータ210の相間に設けても良く、低電位側ないし高電位側に1つあるいは複数設けても良い。もしくは、電流センサを設けずに、インダクタンスや抵抗値等のモータ特性等に基づいてフィードフォワード制御を行うこともできる。
【0028】
ブレーキ制御器BCは、推定ブレーキ力や推定モータ角度等の入力を受けて、ブレーキペダル300や車両運動制御装置400等からの所定の指令入力(指令信号)に対して、ブレーキアクチュエータ200が望ましく追従動作するための操作量を求め、モータ駆動信号に変換する機能を有する。ブレーキ制御器BCは、主に、直動機構240の直線運動を行う構成部品の所謂ロッドの移動位置(ストローク位置またはストローク量)を制御する位置制御部110と、摩擦材220とブレーキロータ230との当接によって発生するブレーキ力を制御するためのブレーキ力制御部120と、所定のモータ角速度に従って摩擦材220を移動させる制御のための角速度制御部130と、これらを切替える制御切替部140と、を備える。
【0029】
位置制御部110は、例えばねじ機構を用いた場合の等価リードや、減速機を設けた場合の減速比等、ブレーキアクチュエータ200の各種緒言に基づいてモータ回転量またはモータ角度から換算される直動機構240のストローク量を制御するようにモータの駆動量を決定する機能を有する。なお、図示外のストロークセンサ等を別途設け、該センサからの信号を所定の目標値にフィードバック制御する機能であっても良い。位置制御部110は、例えばブレーキを解除する際に摩擦材220とブレーキロータ230とが極力当接しないように、これらの間に所定の空隙が存在し得るストローク量とする場合に(ブレーキ解除状態)、機能を発揮する。前記所定の空隙となりうるストローク量は、例えば所定の推定ブレーキ力となるモータ角度から所定量だけモータを回転させた位置、あるいは推定ブレーキ力がモータ角度の推移に対して変化しなくなってから(または、変化量が小さくなってから)所定量だけモータを回転させた位置として設定することができる。位置制御部110は、その他、例えば、ブレーキ力を検出する荷重センサ260やトルクセンサ等で検出が困難となりうる極めて軽微なブレーキ力をコントロールするために、摩擦材220とブレーキロータ230との間の空隙がゼロ近傍または(演算上、制御上の)ゼロより小さいマイナスの値となるストローク状態にするよう機能させてもよい。
【0030】
ブレーキ力制御部120は、摩擦材220とブレーキロータ230とを当接させたブレーキ状態でのブレーキ力が所望の目標値に追従するように制御するべく、(モータ角度等のモータを駆動する量である)モータ駆動量を決定する機能を有する。同図においては、摩擦材220とブレーキロータ230との押付力は荷重センサ260で検出され、荷重センサ260の出力からブレーキ力推定器170で推定される隋定ブレーキ力に基づいて、ブレーキ力制御部120が機能する例を示すが、ブレーキロータ230の制動トルクを検出するトルクセンサ等を用いてブレーキ力制御とすることもできる。
【0031】
角速度制御部130は、所定のモータの角速度に従って電動モータ210を動作させて直動機構240がストローク動作するように(ストローク位置が推移するように)、モータ駆動量を決定する機能を有する。角速度制御部130は、例えばブレーキ解除状態から、ブレーキ状態である所望のブレーキ力を発生させる際に、摩擦材220とブレーキロータ230との間の空隙が想定より広がっていた場合において、摩擦材220とブレーキロータ230を当接させるまで直動機構240を所定のモータ角速度でストロークさせる。なお、例えば、直動機構240の前記ストローク位置が摩擦材220とブレーキロータ230とが当接する位置であり、かつ、前記推定ブレーキ力が所定の値よりも小さい場合に、摩擦材220とブレーキロータ230との空隙が想定よりも拡大していると判断される。このとき、モータ210を高速で動作させるほどブレーキの応答は速くなるが、摩擦材220とブレーキロータ230との当接を検知してからモータ210を減速させるのに時間を要するためオーバーシュートが発生し易くなる、というトレードオフが生じる。このため、角速度制御部130は、前記トレードオフを加味してブレーキ操作や搭載車両の状況等のうちのいずれかの条件により、適宜目標とする角速度が変更される機能が設けられることが望ましい。
【0032】
制御切替部140は、主に前述の搭載車両の状況等に応じて、ブレーキ制御器BCの制御内容を、前述の位置制御部110と、ブレーキ力制御部120と、角速度制御部130とで切り替える機能を有する。例えば、制御切替部140は、ブレーキ解除状態からブレーキ状態へと移行する際に、摩擦材220とブレーキロータ230が当接し得る位置状態までは位置制御部110を機能させ、摩擦材220がブレーキロータ230に当接し得る位置状態にも関わらず、推定ブレーキ力がゼロまたはゼロに相当する微小な値など推定ブレーキ力が所定の値よりも小さい値であった場合は、空隙が想定よりも広いと判断されるため、角速度制御部130を機能させ、推定ブレーキ力から摩擦材220がブレーキロータ230に当接したことが判断された場合にはブレーキ力制御部120を機能させるよう、制御切替を行うことができる。また、制御切替部140は、ブレーキ状態からブレーキ解除状態とする際、推定ブレーキ力から摩擦材220がブレーキロータ230と当接していることが判断された状態ではブレーキ力制御部120を機能させ、推定ブレーキ力から摩擦材220がブレーキロータ230と離反したことが判断された後は摩擦材220とブレーキロータ230との間に所望の空隙が設けられるよう位置制御110部を機能させるよう、制御切替を行うことができる。
【0033】
モータ制御器MCは、ブレーキ制御器BCで求められたモータ駆動信号に含まれるモータ駆動量が所望量となるよう、モータ電流を制御する機能を有する。モータ制御器MCは、所定のモータ角速度の状態で所望のトルクを得るために最適な電流条件をあらかじめLUT(Look Up Table)等に記憶させておき、前記モータ電流を現在のモータ角速度から目標電流値を決定して所望の電流値となるように、制御する機能とすると安価に高精度な制御が行えて好適と考えられる。なお、モータ制御器MCは、モータの出力を導出する電流や電圧の関係式などを演算し駆動条件をリアルタイムで求める機能とすることもできる。
【0034】
モータドライバMDは、例えばFET(Field Effect Transistor)等のスイッチング素子を用いてブリッジ回路等で構成され、所定のデューティ比によりモータ印加電圧を決定するPWM(Pulse Width Modulation)制御を行う構成とされており、こうすると安価で高性能となり好適と考えられる。あるいは、モータドライバMDは、変圧回路等が設けられ、PAM(Pulse Amplitude Modulation)制御を行う構成とすることもできる。
【0035】
<<その他>>
電源装置PWは、例えば自動車用電動ブレーキ装置においては、低電圧バッテリや、高電圧バッテリおよびそれを降圧する降圧コンバータ等、もしくは、高容量のキャパシタ等を用いることができ、或いはこれらを並列使用して冗長化しても良い。また、図示外の要素として、モータドライバや前述のソレノイド用ドライバには直接この電源装置PWから電力を供給し、各制御装置における演算器等には該制御装置内で小型の降圧コンバータを適用する構成が好ましい。または、モータドライバおよびソレノイド用ドライバの何れかまたは両方には昇圧コンバータを介した電力を供給し、演算器等には直接この電源装置PWから電力を供給する構成としても良い。ブレーキ指令手段として、ブレーキペダル300に代えてボリューム、ジョイスティック、スイッチ等の操縦者が操作可能な各種操縦手段を用いても良い。
【0036】
車両運動制御装置400は、車両の衝突を防止するまたは衝突時の衝撃を軽減する自動ブレーキ機能部410、車両が横滑り状態となった際に少なくともブレーキによる車両スピン等を防止するための横滑り防止機能部420、ブレーキにより車輪がロックし車両挙動が不安定になることを防止するためのアンチスキッド制御部430、等を備える。車両運動制御装置400は、例えば図示外の重力センサ、対物センサ、GPS(Global Positioning System)等の各車載センサ類の情報を統合し、前記の各機能に必要な演算を行う統合制御装置であっても良い。これら車両運動制御装置400で決定されたブレーキ操作量も、前記指令信号を介して目標ブレーキ力として電動ブレーキ制御装置に伝達される。
【0037】
以上の電動ブレーキ制御装置100における制御器等の各種演算機能は、例えば、プログラムで動作するプロセッサを有するマイコン、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)等の演算器やハードウエアにより構成されると、安価で高性能となり好適と考えられる。その他、同図に示す機能ブロックはあくまで記述の便宜上設けたものであり、ハードウェアないしソフトウェアによる構成の種別や機能のパーティション等を制約するものではない。また、ソフトウェアやハードウェアの具体的構成は、同図に示す機能に支障がない範囲で任意に構成し得るものとし、必要に応じて同図に示す各ブロックの機能を統合ないし分割しても良い。あるいは、同図の機能に支障がない範囲で図示外要素を加えることも可能であり、例えば各種機能やセンサ類が故障した場合のセーフティメカニズム等をシステム要件に基づいて適宜加えることが好ましい。
【0038】
図1Bは、
図1Aとは異なり、ブレーキペダル300からの指令信号を車両運動制御装置400に取り込み、
図1Aの車両運動制御装置400で決定された上記ブレーキ操作量と合わせて、統合された目標ブレーキ力として電動ブレーキ制御装置100に送信する構成例を示す。
図1Aと比較して、より統合されたブレーキ制御が実行できるメリットがある一方で、車両運動制御装置400に不具合が生じた場合にこれに対するセーフティメカニズムが必要となるデメリットがある。なお、
図1Aの構成および
図1Bの構成を複合した構成とすることもできる。
【0039】
図2は、
図1Aの構成の電動ブレーキ装置1を複数備えたシステム構成例を示し、車両運動制御装置400による目標ブレーキ力は、4つの電動ブレーキ制御装置100A~100Dの各々に対して独立して個別に送信される。本構成では、ブレーキペダルは例えばペダルストローク量のような単一の指令情報を出力するが、4つの電動ブレーキ制御装置100A~100Dの各々に対して独立して個別に送信される。なお、例えば現状の四輪自動車におけるフロントブレーキとリアブレーキで行われているように、同じブレーキストローク量に対して実際に発生させるブレーキ力を、前後の、または前後左右の各電動ブレーキ制御装置で異なるブレーキ力とすることができる。ここで、電動ブレーキ制御装置100A~100Dの各々は、ブレーキアクチュエータ200A~200Dに各々一対一に対応している。ブレーキシステムとして構成される電動ブレーキ装置の数は、ブレーキシステムの要件に応じて適宜決定される。
図3は、
図2に対して、1台の電動ブレーキ制御装置で複数のブレーキアクチュエータを制御する電動ブレーキ制御装置を構成する例を示す。同図においては2つのブレーキアクチュエータ200A,200B(200C,200D)を1つの電動ブレーキ制御装置100A(100B)で制御する構成例を示すが、1台の電動ブレーキ制御装置に接続されるブレーキアクチュエータの数はシステム要件に応じて適宜決めることができる。なお、
図2の構成と
図3の構成とを併用してもよい。
【0040】
<<ブレーキ制御器の構成例>>
図4Aは、
図1A(
図1B)のブレーキ制御器BC内の更なる構成例を示す。ストローク指令演算機能部111、位置制御コントローラ113、およびストローク基準補償機能部115は、位置制御部110に該当する。角速度指令演算機能部131および角速度制御コントローラ133は、角速度制御部130に該当する。ブレーキ力指令演算機能部121およびブレーキ力コントローラ123は、ブレーキ力制御部120に該当する。制御切替機能部141およびコントローラリセット機能部143は、制御切替部140に該当する。
【0041】
ブレーキ力指令演算機能部121は、前記ブレーキ操作量等のブレーキ力に係る指令(
図1A、
図1Bにおける指令信号)であるブレーキ指令値を、実際に制御する物理量であるブレーキ力ないしブレーキ力に相当する値に換算してブレーキ力制御目標値を生成する機能を有する。ブレーキ指令値は、例えばブレーキペダルのストローク量、ブレーキトルク、車両減速度、従来の油圧ブレーキにおける換算値であるマスタシリンダ液圧想定値、ブレーキ荷重等であり、ブレーキ力制御目標値は、例えばブレーキ荷重、ブレーキトルク、車両減速度等である。ブレーキ指令値やブレーキ力制御目標値にどのパラメータを用いるかは設計者が適宜定める。加えて、ブレーキ力指令演算機能部121には、例えばノイズ等の影響を抑制するフィルタリング処理や、アクチュエータが動作し得ない状態となる指令値を除外するリミット処理などを行う機能を設けても良い。ブレーキ力コントローラ123は、前記ブレーキ力制御目標値に対応する所定の推定物理量を、該目標値に対してフィードバック制御する機能を有する。
【0042】
角速度指令演算機能部131は、電動ブレーキ装置1の動作速度に係る指令である応答速度指令値を、実際に制御する物理量であるモータ角速度ないしモータ角速度に相当する値に換算して、角速度制御目標値を生成する機能を有する。上記応答速度指令値は、直動アクチュエータのストロークの変化速度や前記ブレーキ指令値と同じ値であっても良く、その他、モータ角速度等が直接指示される構成であっても良い。または、上記応答速度指令値は、例えば車両を急停止する必要がある状況や、ブレーキを緊急に動作させる必要がある状態等を判断する機能を備えた上位デバイスHD(ECU[Electronic Control Unit]やVCU[Vehicle Control Unit]等)からの、所定のプロトコルに基づく緊急度合を表す信号であっても良い。角速度制御目標値は、例えばモータ角速度、等価リードなどから導出される直動アクチュエータストローク速度、等である。
【0043】
応答速度指令値に前記ブレーキ指令値と同じ値を適用する場合、ブレーキ指令値(目標ブレーキ力に対応する値)が大きくなると角速度制御目標値を大きくする処理を行っても良い。例えば一般に車両操縦者が強めにブレーキペダル300を踏みこんだ場合など、比較的大きなブレーキ指令値が入力された場合は安全性向上のために比較的高速なブレーキ動作が求められる場合が多いと考えられ、またブレーキ指令値が比較的大きければ摩擦材220とブレーキロータ230(
図1A)とが当接してから目標とするブレーキ力が発生するまでにモータを減速させることが容易になりオーバーシュートが発生し難いことから、前記の通りブレーキ指令値が大きくなると角速度制御目標値を大きくすることは合理的と考えられる。
【0044】
また、この応答速度指令値に前記ブレーキ指令値と同じ値を適用する場合では、ブレーキ指令値がブレーキ解除を指示する指令値である状態からブレーキ指令値が所定のブレーキ力を発揮させる指令値(目標ブレーキ力に対応する値)である状態へと変化してからの所定時間内におけるそれらのブレーキ指令値の変化量(または、この変化量の最大値)を所定の記憶部ST(
図1A)に記憶し、前記変化量が大きくなると角速度制御における目標値を大きくする処理を行っても良い。なお、前記ブレーキ指令値(目標ブレーキ力)の変化量の大きさの最大値に基づき、前記最大値が大きくなると、前記角速度制御時の目標角速度を大きくするようにしてもよい。例えば一般に車両操縦者が急にブレーキペダルを踏みこんだ場合など、比較的急峻にブレーキ指令値が変化した場合は安全性向上のために比較的高速なブレーキ動作が求められる場合が多いと考えられ、またブレーキ指令値が急峻に変化していればブレーキ力の応答にオーバーシュートが発生したとしても違和感を覚えにくいと考えられることから、前記の通りブレーキ指令値が急峻に変化すると角速度制御目標値を大きくすることは合理的と考えられる。尚、例えば車両操縦者がブレーキペダル300(
図1A)を急に踏み込んだ場合にはペダルストローク量はブレーキペダル操作初期に急峻に変化した後に変化が緩慢になるため、前記ブレーキ指令値の変化量は、ブレーキを解除するブレーキ指令値からブレーキ力を発揮させるブレーキ指令値へと変化してから所定時間内における変化量の大きさの最大値を記憶するようにすると好適と考えられる。
【0045】
応答速度指令値にブレーキ動作の緊急度合を表す信号を適用する場合、該緊急度合がより緊急な状態を表す信号であるほど、角速度制御目標値を大きくする処理を行っても良い。例えば本電動ブレーキ装置を搭載した車両において、自車からの対物距離(近接度合い)が急速に縮小した場合や、車両の横滑りなどの意図しない車両挙動となった場合、あるいはこれらが複合して生じた場合に、これらの要因に基づいてブレーキを動作させる複数段階の緊急度合を決定することが可能であり、これら緊急度の高い状態においては安全性が最優先されることから、上述の通り、緊急度合がより緊急な状態となるほど角速度制御目標値を大きくすることは合理的と考えられる。角速度コントローラ133は、前記角速度制御目標値に対応する所定の推定物理量を目標値に対してフィードバック制御する機能を有する。
【0046】
ストローク指令演算機能部111は、ブレーキを解除する際の摩擦材220とブレーキロータ230(
図1A)との間の空隙に係る指令である空隙指令値を、実際に制御する物理量であるモータ角度ないしモータ角度に相当する値に換算して位置制御目標値を生成する機能を有する。上記空隙指令値は、ブレーキを解除した際に摩擦材220とブレーキロータ230との間に所望する空隙量とすることができる。位置制御目標値は、例えば直動アクチュエータの等価リードや減速機の減速比等に依存した回転量と直動量の相間から求められる前記空隙量となり得るモータ角度とすることができ、ブレーキを解除する際は前記空隙指令値に基づく値とし、ブレーキ力を発生させる際はゼロとしてもよい。もしくは、位置制御目標値は、前記空隙量そのものであっても良く、その場合は後述の位置制御コントローラ113においてフィードバックパラメータとしてモータ角度から直動位置を演算する。尚、
図4Aで示されているモータ角度とは、例えばモータ回転子の機械角ないし電気角等に依存した周期的にオーバーラップ/アンダーラップする角度(例えば、電気角0~360度など)ではなく、モータが総じてどれだけ回転したかを累積した総回転量を示す。位置制御コントローラは、前記位置制御目標値に対応する所定の推定物理量を目標値に対してフィードバック制御する機能を有する。
【0047】
ストローク基準補償機能部115は、所定の空隙量となり得る位置を導出する上での基準位置の誤差を補償する機能を有する。前記基準位置は、例えば摩擦熱による摩擦材220やブレーキロータ230に発熱がある場合、摩擦材220等に摩耗がある場合、あるいは直動アクチュエータの動力伝達にプーリ・ベルトやトラクションドライブ構造のような所定の滑りを伴う動力伝達構造を設けている場合、または電動モータ210(
図1A)に誘導モータを適用している場合などにおいて、予め認識している(または想定されている)アクチュエータ基準位置から動作中に誤差が生じている場合がある。そこで、ストローク基準補償機能部115は、電動ブレーキ装置がブレーキ力を発生させている状態において、推定ブレーキ力とモータ角度との比較から、前記基準位置の誤差を補償する所定の補償値を演算する。
【0048】
前記補償値は、例えば予め設定された電動ブレーキ装置の剛性と、所定のサンプリング条件におけるブレーキ力およびモータ角度とから、基準モータ角度を設定する形であっても良い。もしくは、前記補償値は、前記剛性と、所定のサンプリング区間におけるブレーキ力の変化量およびモータ角度の変化量とから、基準モータ角度を設定する形とすることもできる。前記基準モータ角度は、例えばブレーキ力が丁度ゼロとなる摩擦材220とブレーキロータ230の当接が開始された位置として設定しても良い。もしくは、ゼロではないブレーキ力が発揮され得る位置をモータ角度として基準モータ角度を設定しても良い。また、前記電動ブレーキ装置の剛性は、予め設定された初期剛性に対し、電動ブレーキ装置1を動作させた際のブレーキ力およびモータ角度の情報を用いて逐次更新されるものであってもよい。
【0049】
制御切替機能部141は、ブレーキ力コントローラ123と、角速度制御コントローラ133と、位置制御コントローラ113とにより導出された操作量から、電動モータ210の駆動力(電動モータ駆動力)を決定し出力する機能(または、これらの3つのコントローラの制御または出力から少なくとも一つを選択する機能)を有する。制御切替機能部141から出力される電動モータ駆動力は、例えば同図に示すようにモータトルク指令値であっても良く、あるいはモータ電流、モータ電圧等であっても良い。これらのうちどれが電動モータ駆動力に使用されるかは、制御設計に依存し、設計者が適宜定める。また、電動モータ駆動力は、上記の各コントローラのうちのいずれか一つの導出結果(操作量)を採択するものであっても良く、あるいは各コントローラのうちの複数の操作量を所定の統合比率を以て統合したもの(加重平均したもの)であっても良い。また、制御切替機能部141は、上記の各種指令値並びにフィードバック値等から判断して、ブレーキを解除する際には位置制御コントローラ113の操作量を主に使用し、ブレーキ力を発生させる際はブレーキ力コントローラ123の操作量を主に使用し、ブレーキ解除状態からブレーキ力が発生するまで直動機構をストロークさせる場合の少なくとも一部において角速度制御コントローラ133の操作量を主に使用するよう、制御切替を行う。
【0050】
コントローラリセット機能部143は、各コントローラの切替時の制御動作の安定性向上や、演算パラメータのオーバーフロー防止等を目的として、各コントローラの内部演算パラメータを適宜リセットする機能を有する。例えば、前記コントローラの切替動作が行われた場合、切替えた直後に実行されるコントローラに適切な演算初期値を設定し、切替時に不要なモータ駆動が行われないようにすることができる。具体的には、例えば一のコントローラから他のコントローラへの切替において、もしくは操作量の前記統合比率の変更が決定された所定の演算サイクル(サイクルk)において、切替前のコントローラによる操作量u(k)から切替後のコントローラによる操作量u’(k)について、u’(k)≒u(k)となるようコントローラの状態量に初期値を設定してもよい。なお、これはあくまで一例であり、どのようなリセット動作を行うかは設計時の要件等に応じて適宜定められるものとする。
【0051】
また、コントローラリセット機能部143に関して、例えば、ストローク基準補償機能部115により比較的大きな補償値が決定されて、その後の演算過程で変数のオーバーフローやアンダーフローが発生し得る場合に、ストローク基準補償機能部115の補償値を一度リセットし、加えてこの補償値のリセットによりモータを意に反して駆動することが無いよう、関連する他のコントローラの演算値もリセットすることが好ましい。具体的には、例えばある演算サイクルkにおいて、位置制御目標値θr(k)およびストローク補償値θz(k)を目標値とし、また現在のモータ角度θ(k)をもとに、制御演算式fcpにより操作量up(k)が、次式の
up(k) = fcp(θr(k) + θz(k), θ(k) )
により求められている状況において、θz(k) = 0にリセットした際の操作量up’(k)が、次式の
up’(k) = fcp(θr(k), θ’(k) ) ≒ up(k)
となるように、モータ角度を上記θ’(k)にリセットする機能であっても良い。但し、当該の動作はあくまで一例であり、どのようなリセット動作を行うかは設計時の要件等に応じて適宜定められるものとする。
【0052】
図4Bは、
図4Aと同等の機能を別の構成で実現する例を示す。尚、
図4Aを参照して説明した内容は、以下における説明を省略する場合がある。角速度指令演算機能部131と、
図4Aには記載のない目標位置加算機能部135とが
図1Aの角速度制御部130に相当する。ストローク指令演算機能部111と、ストローク基準補償機能部115とが
図1Aの位置制御部110に相当する。ブレーキ力指令演算機能部121と、
図4Aには記載のないブレーキ力補償機能部125と、が
図1Aのブレーキ力制御部120に相当する。位置制御コントローラ113Aは、位置制御部110と、角速度制御部130と、ブレーキ力制御部120との全てにおいて、共有される機能を有するコントローラである。また、制御切替機能部141と、コントローラリセット機能部143と、が
図1Aの制御切替部140に相当する。
【0053】
ブレーキ力指令演算機能部121は、ブレーキ指令値に応じたブレーキ力が発生し得るモータ角度を位置制御目標値(ブレーキ発生位置)として演算する機能を有する。なお、モータ角度は、電動ブレーキ装置の剛性に基づいて求められる。ブレーキ力補償機能部125は、推定されたブレーキ力と、モータ角度と、および電動ブレーキ装置剛性から、例えばストローク位置とブレーキ力との相関性も加味しつつ、所望のブレーキ力となる位置制御補償値を演算する機能を有する。すなわち、本機能は電動ブレーキ装置の温度、摩擦材やブレーキロータの摩耗状況、等によって発生する電動ブレーキ装置剛性の内部推定値と実機との誤差を補償する機能と換言できる。
【0054】
目標位置加算機能部135は、制御切替機能部141からの角速度制御実行信号を参照して角速度制御を実行するか否かを判断し、実行する場合は、角速度指令演算機能部131からの角速度制御目標値に応じた、所定の単位時間当たりの位置制御目標値の増加量を演算する。この角速度制御は、目標位置をランプ状に変化させることで等価的に実現される。すなわち、角速度は一定であり、上記目標位置の変化量が一定となっている。
【0055】
制御切替機能部141は、ブレーキを解除する際は、ストローク指令演算機能部111で導出された空隙位置となる位置制御目標値を採択する。ブレーキ力を発生させる際は、ブレーキ力指令演算機能部121で導出されたブレーキ力を発生させる位置制御目標値を採択し、ブレーキ力補償機能部125にブレーキ力制御を実行するようブレーキ力制御実行信号を出力する。また、上記角速度制御を実行する際は、目標位置加算機能部135に角速度制御を実行するよう上記角速度制御実行信号を出力する。
【0056】
その他、ブレーキ力補償機能や目標位置加算機能に対するコントローラリセット機能の作用は、ストローク基準補償機能部115に対する作用と同様となる。
【0057】
図4Cは、
図4Bに対し、ストローク基準補償機能部115と、ブレーキ力補償機能部125と、
図4Bには記載のない加算ストローク補償機能部137と、による補償値を、位置制御目標値に代えてフィードバックされたモータ角度に適用する例を示す。加算ストローク補償機能部137は、目標位置加算機能135と同様の機能を備え、目標位置加算機能135が目標位置をランプ状に変化させて等価的に角速度制御を実行するのに対し、加算ストローク補償機能部137はフィードバックされるモータ角度にランプ状の補償値を加えることで等価的に角速度制御を実行する。
図4Bの構成と
図4Cの構成とは、必要に応じて適宜併用することもできる。例えば、ストローク基準補償機能部115と、ブレーキ力補償機能部125と、目標位置加算機能部135とによる補償値のうち一部を位置制御目標値に適用し、前記一部を除いたその他の補償値を上記フィードバックされたモータ角度に適用することもできる。その際、目標位置加算機能部135が位置制御目標値に適用されない場合は、加算ストローク演算機能部137がフィードバックされたモータ角度に適用される。
【0058】
図5Aは、
図1A等に記載の制御切替部140の動作における制御状態の状態遷移の例を示すステートマシンであり、
図5Bは、略同じ制御、遷移動作をする、
図5Aとは別のステートマシンである。ステートST.0では、制御状態は
図1における位置制御部110を主に実行している状態(すなわち制御切替部140が該制御部の制御を選択している状態)であり(位置制御状態)、ステートST.1では、制御状態は
図1における角速度制御部130を主に実行している状態であり(角速度制御状態)、ステートST.2では、制御状態は
図1におけるブレーキ力制御部120を実行している状態を示す(ブレーキ力制御状態)。なお、前記の各ステートは、各制御部の制御を択一的に実施する場合を表すほか、それらの制御のうちの複数を実施した結果の操作量を所定の統合比率を以て統合する場合(加重平均)を含む。後者の場合は、ステートマシンの各ステートは、その制御部の制御の比率が加重平均演算において支配的であることを示し、すなわち、ステートST.0では位置制御部110、ST.1では角速度制御部130、ステートST.2ではブレーキ力制御部120の制御の比率が支配的となる。なお、各ステートにおいて、さらに上記比率を変更するアルゴリズムを設けてもよい。
【0059】
図5Aにおいて、イグニションスイッチ等による電源投入後の最初の分岐において、ブレーキ力が発生していない場合はステートST.0に、ブレーキ力が発生している場合はステートST.2に遷移する。ステートST.0の位置制御状態において、ブレーキが要求されると空隙を縮小し摩擦材220とブレーキロータ230(
図1A)とが当接する位置制御目標値に基づいて制御が実行される。その際の位置制御目標値は、空隙をゼロとする目標値の他、そこからさらに直動機構240を摩擦材220がブレーキロータ230と当接する方向に動作するよう(演算上、制御上の)マイナスの空隙に基づく位置制御目標値とすることもできる。ここで、ブレーキ力を発生させることが要求されており、かつ推定空隙がゼロ以下となったにも関わらず、ブレーキ力が発生していない場合は
図5AのステートST.1(角速度制御状態)に遷移し、ブレーキ力が発生していればステートST.2(ブレーキ力制御状態)に遷移する。なお、ブレーキ力を発生させることが要求されており、かつブレーキ力が発生していても、ステートST.2(ブレーキ力制御状態)に遷移する。
【0060】
ステートST.1の角速度制御状態では、摩擦材220とブレーキロータ230(
図1A)とが当接する方向に所定のモータ角速度で電動ブレーキ制御装置100を動作させる。
図5AのステートST.1の角速度制御状態でブレーキ力が発生した場合は、ステートST.2(ブレーキ力制御状態)へと遷移する。ステートST.2のブレーキ力制御状態において、ブレーキ解除が要求されるとブレーキ力を低下させて摩擦材220とブレーキロータ230(
図1A)とが離反するブレーキ力制御目標値に基づいて制御が実行される。その際のブレーキ力制御目標値は、ブレーキ力をゼロとするブレーキ力目標値の他、そこからさらに直動機構240を摩擦材220がブレーキロータ230から離反する方向に動作するようマイナスのブレーキ力に基づくブレーキ力制御目標値とすることもできる。ここで、ブレーキ解除が要求されており、かつブレーキ力が発生しない状態(すなわち空隙の推定値がゼロ以上)となった際、ステートST.0の位置制御状態へと遷移する。ブレーキ力が発生/発生しない状態とは、ブレーキ力が非ゼロ/ゼロとなった状態の他、推定ブレーキ力が所定の閾値を上回る/下回る等から判断された略非ゼロ/ゼロも含まれる。また、推定空隙とは
図3Aの説明において記載された所定の基準位置と現在のモータ角度から推定される空隙量であり、推定空隙がゼロ以下とは、推定空隙がゼロより大きくとも空隙がなくなったと見なしてもよい微小な空隙量となった状態も含まれる。
【0061】
図5Bについては、
図5Aと異なる点を中心に説明する。
図5Bにおいて、ステートST.0の位置制御状態において、ブレーキ要求が発生した際にはステートST.2(ブレーキ力制御状態)へと遷移する。ステートST.2のブレーキ力制御状態において、ブレーキ力が発生しておらず、かつ推定空隙がゼロ以下である場合に、ステートST.1(角速度制御状態)へと遷移する。なお、ステートST.2のブレーキ力制御状態において、ブレーキ解除が要求された場合には、ステートST.0(位置制御状態)へと遷移する。なお、
図5A、
図5Bのステートマシンは、矛盾しない範囲で組み合わせることもできる。例えば、
図5BにおいてステートST.2 からステートST.0 へ遷移する条件を、
図5Aのようにブレーキ解除要求かつブレーキ力が発生しない状態(すなわち空隙の推定値がゼロ以上)とするなど、適宜組み合わせて構成しても良い。
【0062】
図6は、実際の摩擦材220とブレーキロータ230(
図1A)とが想定していた空隙量より離れていた場合における、電動ブレーキ装置の動作例の模式図を示す。
図6(a)は、本実施形態の電動ブレーキ装置1を使用した場合の例を示す。この図によると、ブレーキ力を発生させる制御目標値(破線)が印加され、ブレーキアクチュエータ200が動作する際、想定より空隙量が大きい状態と判断された後に角速度制御を実行し、所定の角速度で電動ブレーキ装置を動作させることで、ブレーキ力(推定値)が大きな応答遅れやオーバーシュートなく、時刻t1においてブレーキ力目標値に対する追従制御が達成される(実線)。
【0063】
図6(b)は、本実施形態の電動ブレーキ装置1を使用せず、電動ブレーキ制御装置においてブレーキ力にオーバーシュートが発生しないように調整した例を示す。この場合、想定より空隙量が大きいが、かつモータ角速度が急峻に増加しないようにしたため、上記時刻t1に対してブレーキ動作に大きな応答遅れが発生し(時刻t2:実線)、フィーリングや安全性に懸念が生じる可能性がある。
図6(c)は、本実施形態の電動ブレーキ装置1を使用せず、電動ブレーキ制御装置において十分な応答性を発揮できるように調整した例を示す。空隙が想定より大きいケースで、十分な応答性を発揮すると、モータ角速度が想定より増加してしまい、時刻t1に生じたブレーキ力(推定値)に大きなオーバーシュートが発生し(実線)、フィーリングや安全性に懸念が生じる可能性がある。
【0064】
図7は、
図1A等に示す角速度制御部130における、目標角速度の調整例を示す。
図7(a)は、目標ブレーキ力が大きくなると目標角速度を大きく設定する例を示す。尚、本図に示す所定以上の目標ブレーキ力F1で上限値に達する処理は行わなくても良く、また上限値はモータ特性や設計要件に応じて適宜定めても良い。さらに、本図は目標角速度が目標ブレーキ力に対してリニアに遷移する例を示すが、段階的に変化するようにしてもよい。
図7(b)は、目標ブレーキ力の変化量が大きくなるに連れて目標角速度を大きく設定する例を示す。
図7(c)は、ブレーキ動作の緊急度の水準(レベル)を複数設け、そのレベル毎に目標角速度を設定する例を示す。ブレーキ動作の緊急度は、例えば電動ブレーキ装置搭載車両での対物近接速度、対物距離、横滑り度合い、等から定めることができる。同図では、目標角速度が離散値となっているが、
図7(a),
図7(b)のように、緊急度をリニアに変化する水準(すなわち連続値)とし、目標角速度がリニアに変化するようにしても良い。
【0065】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0066】
1 電動ブレーキ装置
100 電動ブレーキ制御装置(制御装置)
110 位置制御部
120 ブレーキ力制御部
130 角速度制御部
140 制御切替部
150 角度推定部(モータ角度推定手段)
170 ブレーキ力推定器(ブレーキ力推定手段)
210 電動モータ
220 摩擦材
230 ブレーキロータ
240 直動機構
300 ブレーキペダル(ブレーキ指令手段)
HD ECU(上位デバイス)
ST 記憶部