(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022135511
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】配管設計不具合の検出方法、検出プログラム、過去配管設計不具合データベースの構築方法、構築プログラム、及び配管設計不具合の検出システム
(51)【国際特許分類】
G06F 30/18 20200101AFI20220908BHJP
G06F 30/10 20200101ALI20220908BHJP
G06F 16/28 20190101ALI20220908BHJP
【FI】
G06F17/50 650C
G06F17/50 614D
G06F17/50 610A
G06F16/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021035363
(22)【出願日】2021-03-05
(71)【出願人】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】502116922
【氏名又は名称】ジャパンマリンユナイテッド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】谷口 智之
(72)【発明者】
【氏名】吉冨 祐介
(72)【発明者】
【氏名】西口 義正
(72)【発明者】
【氏名】眞田 剛志
【テーマコード(参考)】
5B046
5B146
5B175
【Fターム(参考)】
5B046AA02
5B046DA01
5B046GA01
5B046JA01
5B046JA02
5B046KA05
5B146AA02
5B146AA03
5B146CA01
5B146DG00
5B146DL07
5B146DL08
5B146EC09
5B175DA10
5B175KA12
(57)【要約】
【課題】配管の繋がりや配管合流地点における流れの向きの不具合を迅速に検出する配管設計不具合の検出方法、検出プログラム、過去配管設計不具合データベースの構築方法、構築プログラム、及び配管設計不具合の検出システムを提供すること。
【解決手段】配管の設計に関連した設計CADデータを取得するステップS1と、配管の系統図データを取得するステップS2と、設計CADデータと系統図データに基づいて有向グラフに変換するステップS3と、過去の不具合グラフを過去配管設計不具合データベース20から取得するステップS4と、取得した過去の不具合グラフに対して、有向グラフの部分グラフ同型による候補群を生成するステップS5と、候補群と過去の不具合グラフの類似度を計算するステップS6と、類似度の順に候補群と過去の不具合グラフを並べランキングを提示するステップS7とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配管の設計不具合を過去の不具合を参照して検出する方法であって、
前記配管の設計に関連した設計CADデータを取得するCADデータ取得ステップと、
前記配管の系統図データを取得する系統図データ取得ステップと、
前記設計CADデータと前記系統図データに基づいて有向グラフに変換する有向グラフ変換ステップと、
過去の不具合グラフを過去配管設計不具合データベースから取得する不具合情報取得ステップと、
取得した前記過去の不具合グラフに対して、前記有向グラフの部分グラフ同型による候補群を生成する候補群生成ステップと、
前記候補群と前記過去の不具合グラフの類似度を計算する類似度計算ステップと、
前記類似度の順に前記候補群と前記過去の不具合グラフを並べランキングを提示するランキング提示ステップとを備えたことを特徴とする配管設計不具合の検出方法。
【請求項2】
前記設計CADデータには、ライン形式で表現された配管データと形状パーツの最小の直方体の座標値が含まれ、前記系統図データには、前記配管の流れのスタートとゴールの条件が含まれていることを特徴とする請求項1に記載の配管設計不具合の検出方法。
【請求項3】
前記有向グラフ変換ステップは、前記ライン形式の前記配管データと前記直方体の前記座標値のデータよりグラフのノードを定義し、前記ライン形式で表現された前記配管データから前記ノード間をつなぐエッジを定義する定義ステップと、前記ノードを縮約する縮約ステップと、前記スタートと前記ゴールの条件に基づいて前記ノードを検索し、最短経路と前記流れの向きを付与して前記有向グラフを構築する有向グラフ構築ステップを有することを特徴とする請求項2に記載の配管設計不具合の検出方法。
【請求項4】
前記縮約ステップは、全部の前記ノードであらわされる点群に対して、指定する半径の範囲を考慮して前記ノードを縮約する第一縮約ステップと、前記直方体の内部の他点を考慮して前記形状パーツの前記ノードと、前記内部の他点ノードを1つに縮約する第二縮約ステップを有することを特徴とする請求項3に記載の配管設計不具合の検出方法。
【請求項5】
前記ランキング提示ステップにおける前記ランキングとして提示された前記過去の不具合グラフに基づいて、前記配管の前記設計不具合を修正することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の配管設計不具合の検出方法。
【請求項6】
配管の設計不具合を過去の不具合を参照して検出するプログラムであって、コンピュータに、請求項1から請求項4のいずれか1項の配管設計不具合の検出方法における、前記CADデータ取得ステップと、前記系統図データ取得ステップと、前記有向グラフ変換ステップと、前記不具合情報取得ステップと、前記候補群生成ステップと、前記類似度計算ステップと、前記ランキング提示ステップとを実行させることを特徴とする配管設計不具合の検出プログラム。
【請求項7】
過去の配管の設計不具合をデータベースとして構築する方法であって、
前記過去の配管の前記設計不具合の情報を入手する設計不具合情報入手ステップと、
前記過去の配管の前記設計不具合に関連した過去設計CADデータを取得する過去CADデータ取得ステップと、
前記過去の配管の前記設計不具合に関連した過去系統図データを取得する過去系統図データ取得ステップと、
前記過去設計CADデータと前記過去系統図データに基づいて前記過去の配管の前記設計不具合を有向グラフに変換する過去設計有向グラフ変換ステップと、
前記有向グラフ化された前記設計不具合を過去の不具合グラフとして、過去配管設計不具合データベースに格納する格納ステップとを備えたことを特徴とする過去配管設計不具合データベースの構築方法。
【請求項8】
前記過去設計CADデータには、ライン形式で表現された配管データと形状パーツの最小の直方体の座標値が含まれ、前記過去系統図データには、前記過去の配管の流れのスタートとゴールの条件が含まれていることを特徴とする請求項7に記載の過去配管設計不具合データベースの構築方法。
【請求項9】
前記過去設計有向グラフ変換ステップは、前記ライン形式の前記配管データと前記直方体の前記座標値のデータよりグラフのノードを定義し、前記ライン形式で表現された前記配管データから前記ノード間をつなぐエッジを定義する定義ステップと、前記ノードを縮約する縮約ステップと、前記スタートと前記ゴールの条件に基づいて前記ノードを検索し、最短経路と前記流れの向きを付与して有向グラフを構築する有向グラフ構築ステップを有することを特徴とする請求項8に記載の過去配管設計不具合データベースの構築方法。
【請求項10】
前記縮約ステップは、全部の前記ノードであらわされる点群に対して、指定する半径の範囲を考慮して前記ノードを縮約する第一縮約ステップと、前記直方体の内部の他点を考慮して前記形状パーツの前記ノードと、前記内部の他点ノードを1つに縮約する第二縮約ステップを有することを特徴とする請求項9に記載の過去配管設計不具合データベースの構築方法。
【請求項11】
過去の配管の設計不具合をデータベースとして構築するプログラムであって、コンピュータに、請求項7から請求項10のいずれか1項に記載の過去配管設計不具合データベースの構築方法における、前記設計不具合情報入手ステップと、前記過去CADデータ取得ステップと、前記過去系統図データ取得ステップと、前記過去設計有向グラフ変換ステップと、前記格納ステップとを実行させることを特徴とする過去配管設計不具合データベースの構築プログラム。
【請求項12】
配管の設計不具合を過去の不具合を参照して検出する検出システムであって、CADシステムを利用して前記配管の設計を行う設計手段と、過去の配管設計の不具合情報を過去の不具合グラフとして格納した過去配管設計不具合データベースと、前記設計手段で設計された前記配管の設計CADデータと系統図データを取得する設計情報取得部、過去配管設計不具合データベースの前記過去の配管設計の前記不具合情報を取得する過去不具合情報取得部、前記設計CADデータと前記系統図データを有向グラフに変換し前記過去の配管設計の前記不具合情報との類似度を計算しランキングを計算する類似検索部、及び前記ランキングを提示する結果提示部を有した不具合検出手段とを備えたことを特徴とする配管設計不具合の検出システム。
【請求項13】
前記類似検索部は、有向グラフ変換部と、候補群生成部と、類似度計算部と、ランキング計算部を有することを特徴とする請求項12に記載の配管設計不具合の検出システム。
【請求項14】
前記過去配管設計不具合データベースは、請求項7から請求項10のいずれか1項に記載の過去配管設計不具合データベースの構築方法に基づいて構築されたものであることを特徴とする請求項12又は請求項13に記載の配管設計不具合の検出システム。
【請求項15】
前記不具合検出手段は、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の配管設計不具合の検出方法で利用されるものであることを特徴とする請求項12から請求項14のいずれか1項に記載の配管設計不具合の検出システム。
【請求項16】
前記結果提示部の前記ランキングを、関連情報を含めて前記設計手段に表示することを特徴とする請求項12から請求項15のいずれか1項に記載の配管設計不具合の検出システム。
【請求項17】
前記設計手段と、前記過去配管設計不具合データベースと、不具合検出手段とを任意に組み合わせ情報通信網を利用して情報の連係を行うことを特徴とする請求項12から請求項16のいずれか1項に記載の配管設計不具合の検出システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配管の設計不具合を過去の不具合を参照して検出する配管設計不具合の検出方法、検出プログラム、過去配管設計不具合データベースの構築方法、構築プログラム、及び配管設計不具合の検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、設計のリードタイムは短縮傾向にあり、設計業務における自動化の重要性が高まっている。特に造船のような多品種少量生産では新規設計も多い。さらに艤装品である配管設計などは船殻設計に比べて後回しになることが多く、喫緊の課題である。一方で、自動干渉チェックなどの一部の自動化機能はCADの機能として充実してきている。
【0003】
ここで、特許文献1には、複数階からなるプラントの機器配置設計を3次元CADにより3次元的に行うプラント機器配置設計システムであって、プラントを構成する機器の3次元空間上の位置を予め定めた基準配置ルールデータベースを備え、演算処理装置にプラント出力、各階の高さ、機器構成および建屋寸法等のプラント基本計画情報を入力し、プラント基本計画情報に含まれる標準的な構造材の情報をもとに3次元空間上に基準となる座標系を設定し、配置ルールに沿って、機器・配管・通路および各階毎床の仮想空間を座標系上に機器配置位置として設置して機器配置設計を行うことが開示されている。
また、特許文献2には、建築設備システムを設計するシステムであって、少なくとも1つのコンピュータプログラムを実行するように動作する少なくとも1つのプロセッサーと、少なくとも1つのプロセッサーに接続され、複数のデータセットを受け取るように動作する少なくとも1つのユーザインターフェースであって、複数のデータセットは、少なくとも1つの建築設備システムの複数の構成要素デバイスの位置を有する第1のデータセットと、複数の構成要素デバイスの少なくとも1つに関連付けられた少なくとも1つの動作パラメータを有する第2のデータセットとを有するものである、少なくとも1つのユーザインターフェースとを有し、少なくとも1つのコンピュータプログラムは、複数のデータセットを使用して、複数の設計解を生成し、複数の設計解の各々は、複数の構成要素デバイス間の相互接続の配列を有するものであり、少なくとも1つのコンピュータプログラムは、複数の設計解の各々に関連付けられた建設費を決定するように動作することが開示されている。
また、特許文献3には、制御によって開閉可能な複数の電磁弁を含む複数の弁と、複数の配管とを有し、複数の配管の各配管が弁どうしを接続することで複数の配管がメッシュ状に配置され、流体が流入するメッシュ配管回路のモデルである配管モデルを、入力されたメッシュ粗さに基づいて作成し、作成した配管モデルと、メッシュ配管回路を使用する工場のモデルを示す工場レイアウトモデルとを組み合わせることにより、メッシュ配管回路を備える工場のモデルであり、シミュレーション対象のモデルである工場モデルを作成するメッシュ計算部と、工場モデルの示す工場の構築コストを計算する構築コスト計算部と、工場モデルをシミュレーションすることにより、工場がメッシュ配管回路を使用して稼動する稼動コストを計算する生産コスト計算部と、構築コストと稼動コストとに基づいて、メッシュ配管回路の効果を評価するメッシュ効果評価部とを備えるシミュレーション装置が開示されている。
また、特許文献4には、回路素子が配置された基板の設計データに対してデザインルールチェックを行う設計支援装置であって、幾何学的な計算によって設計データに対してデザインルールチェックを行う第1DRC部と、第1DRC部によってエラーであると判定された部分がセンタリングされた画像データを設計データから生成する生成部と、ディープラーニングを経た人工知能によって画像データに対してデザインルールチェックを行う第2DRC部と、第2DRC部によるデザインルールチェックの結果を示す第1情報を表示部に表示させる表示制御部とを備えることが開示されている。
また、特許文献5には、流体をその搬送元から搬送先に搬送する際に、搬送元と搬送先との間の複数の配管系統から最適な搬送経路を計算機により探索する配管搬送経路の探索方法において、配管系統を構成する系統設備のうちバルブ及び配管を除くすべての設備をグラフ理論上のノードとみなすと共にバルブ及び配管をノード間を結ぶラインとみなして、搬送経路探索のために実配管系統をネットワーク表現する配管系統のネットワーク表現方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-330887号公報
【特許文献2】特表2013-516007号公報
【特許文献3】国際公開第2020/183647号
【特許文献4】国際公開第2020/79810号
【特許文献5】特開平7-225788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、過去の事例や熟練技術者の知見を反映して階層毎の配置を予めルール化し、その配置ルールにしたがって機器等を自動配置するものであるが、配管の設計不具合を検出するものではない。
特許文献2は、システムに入力された全ての必要な設計パラメータを満たす最小コストの解を決定するものであるが、配管の設計不具合を検出するものではない。
特許文献3は、構築コストと稼働コストに基づいてメッシュ配管回路の効果を評価するものであるが、配管の設計不具合を検出するものではない。
特許文献4は、デザインルールチェックによって判定されたエラーが真のエラーであるかどうかを確認する作業を効率化しようとするものであるが、配管の設計不具合を検出するものではない。
特許文献5は、最適な搬送経路を計算機により探索するものであるが、配管の設計不具合を検出するものではない。
そこで本発明は、配管の繋がりや配管合流地点における流れの向きの不具合を迅速に検出する配管設計不具合の検出方法、検出プログラム、過去配管設計不具合データベースの構築方法、構築プログラム、及び配管設計不具合の検出システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載に対応した配管設計不具合の検出方法においては、配管の設計不具合を過去の不具合を参照して検出する方法であって、配管の設計に関連した設計CADデータを取得するCADデータ取得ステップと、配管の系統図データを取得する系統図データ取得ステップと、設計CADデータと系統図データに基づいて有向グラフに変換する有向グラフ変換ステップと、過去の不具合グラフを過去配管設計不具合データベースから取得する不具合情報取得ステップと、取得した過去の不具合グラフに対して、有向グラフの部分グラフ同型による候補群を生成する候補群生成ステップと、候補群と過去の不具合グラフの類似度を計算する類似度計算ステップと、類似度の順に候補群と過去の不具合グラフを並べランキングを提示するランキング提示ステップとを備えたことを特徴とする。
請求項1に記載の本発明によれば、類似度に基づきランキング付けされた過去の類似不具合情報が得られることで、例えば、配管が繋がっていない、又は配管合流地点において流れが逆向きとなっているといった配管の設計不具合を迅速に検出することができる。
なお、設計CADデータと配管の系統図データが関連付けて統合されて管理されている場合は、CADデータ取得ステップと系統図データ取得ステップを統合することも可能である。
【0007】
請求項2記載の本発明は、設計CADデータには、ライン形式で表現された配管データと形状パーツの最小の直方体の座標値が含まれ、系統図データには、配管の流れのスタートとゴールの条件が含まれていることを特徴とする。
請求項2に記載の本発明によれば、有向グラフ化するための必要条件を満たした設計CADデータと系統図データを使用することで、設計CADデータと系統図データを有向グラフに精度よく変換することができる。
【0008】
請求項3記載の本発明は、有向グラフ変換ステップは、ライン形式の配管データと直方体の座標値のデータよりグラフのノードを定義し、ライン形式で表現された配管データからノード間をつなぐエッジを定義する定義ステップと、ノードを縮約する縮約ステップと、スタートとゴールの条件に基づいてノードを検索し、最短経路と流れの向きを付与して有向グラフを構築する有向グラフ構築ステップを有することを特徴とする。
請求項3に記載の本発明によれば、設計CADデータと系統図データを効率よく、更に精度よく有向グラフに変換することができる。
【0009】
請求項4記載の本発明は、縮約ステップは、全部のノードであらわされる点群に対して、指定する半径の範囲を考慮してノードを縮約する第一縮約ステップと、直方体の内部の他点を考慮して形状パーツのノードと、内部の他点ノードを1つに縮約する第二縮約ステップを有することを特徴とする。
請求項4に記載の本発明によれば、縮約することにより有向グラフへの変換をより適切に行うことができる。
【0010】
請求項5記載の本発明は、ランキング提示ステップにおけるランキングとして提示された過去の不具合グラフに基づいて、配管の設計不具合を修正することを特徴とする。
請求項5に記載の本発明によれば、配管の設計不具合を適切に修正することができる。
なお、配管の設計不具合を修正は、人が行うことも、コンピュータやCADシステム等により自動的に行うこともできる。
【0011】
請求項6記載に対応した配管設計不具合の検出プログラムにおいては、配管の設計不具合を過去の不具合を参照して検出するプログラムであって、コンピュータに、配管設計不具合の検出方法における、CADデータ取得ステップと、系統図データ取得ステップと、有向グラフ変換ステップと、不具合情報取得ステップと、候補群生成ステップと、類似度計算ステップと、ランキング提示ステップとを実行させることを特徴とする。
請求項6に記載の本発明によれば、プログラムが過去の不具合を参照した配管設計不具合の検出をコンピュータに実行させることで、配管の設計不具合を迅速に検出し、省力化を図ることができる。
【0012】
請求項7記載に対応した過去配管設計不具合データベースの構築方法においては、過去の配管の設計不具合をデータベースとして構築する方法であって、過去の配管の設計不具合の情報を入手する設計不具合情報入手ステップと、過去の配管の設計不具合に関連した過去設計CADデータを取得する過去CADデータ取得ステップと、過去の配管の設計不具合に関連した過去系統図データを取得する過去系統図データ取得ステップと、過去設計CADデータと過去系統図データに基づいて過去の配管の設計不具合を有向グラフに変換する過去設計有向グラフ変換ステップと、有向グラフ化された設計不具合を過去の不具合グラフとして、過去配管設計不具合データベースに格納する格納ステップとを備えたことを特徴とする。
請求項7に記載の本発明によれば、過去に配管の設計不具合があった過去設計CADデータと過去系統図データを有向グラフに適切に変換して蓄積したデータベースを構築しておくことにより、現在の配管設計の不具合を有向グラフの類似度を基に迅速に求めることができる。
【0013】
請求項8記載の本発明は、過去設計CADデータには、ライン形式で表現された配管データと形状パーツの最小の直方体の座標値が含まれ、過去系統図データには、過去の配管の流れのスタートとゴールの条件が含まれていることを特徴とする。
請求項8に記載の本発明によれば、有向グラフ化するための必要条件を満たした過去設計CADデータと過去系統図データを使用することで、過去設計CADデータと過去系統図データを有向グラフに精度よく変換することができる。
【0014】
請求項9記載の本発明は、過去設計有向グラフ変換ステップは、ライン形式の配管データと直方体の座標値のデータよりグラフのノードを定義し、ライン形式で表現された配管データからノード間をつなぐエッジを定義する定義ステップと、ノードを縮約する縮約ステップと、スタートとゴールの条件に基づいてノードを検索し、最短経路と流れの向きを付与して有向グラフを構築する有向グラフ構築ステップを有することを特徴とする。
請求項9に記載の本発明によれば、過去設計CADデータと系統図データを効率よく、更に精度よく有向グラフに変換することができる。
【0015】
請求項10記載の本発明は、縮約ステップは、全部のノードであらわされる点群に対して、指定する半径の範囲を考慮してノードを縮約する第一縮約ステップと、直方体の内部の他点を考慮して形状パーツのノードと、内部の他点ノードを1つに縮約する第二縮約ステップを有することを特徴とする。
請求項10に記載の本発明によれば、縮約することにより有向グラフへの変換をより適切に行うことができる。
【0016】
請求項11記載に対応した過去配管設計不具合データベースの構築プログラムにおいては、過去の配管の設計不具合をデータベースとして構築するプログラムであって、コンピュータに、過去配管設計不具合データベースの構築方法における、設計不具合情報入手ステップと、過去CADデータ取得ステップと、過去系統図データ取得ステップと、過去設計有向グラフ変換ステップと、格納ステップとを実行させることを特徴とする。
請求項11に記載の本発明によれば、プログラムが過去の配管の設計不具合に関したデータベースの構築をコンピュータに実行させることで、過去の配管の設計不具合を蓄積したデータベースの構築に当たり、省力化を図ることができる。
【0017】
請求項12記載に対応した配管設計不具合の検出システムにおいては、配管の設計不具合を過去の不具合を参照して検出する検出システムであって、CADシステムを利用して配管の設計を行う設計手段と、過去の配管設計の不具合情報を過去の不具合グラフとして格納した過去配管設計不具合データベースと、設計手段で設計された配管の設計CADデータと系統図データを取得する設計情報取得部、過去配管設計不具合データベースの過去の配管設計の不具合情報を取得する過去不具合情報取得部、設計CADデータと系統図データを有向グラフに変換し過去の配管設計の不具合情報との類似度を計算しランキングを計算する類似検索部、及びランキングを提示する結果提示部を有した不具合検出手段とを備えたことを特徴とする。
請求項12に記載の本発明によれば、類似度に基づきランキング付けされた過去の類似不具合情報が得られることで、例えば、配管が繋がっていない、又は配管合流地点において流れが逆向きとなっているといった配管の設計不具合を迅速に検出することができる。
【0018】
請求項13記載の本発明は、類似検索部は、有向グラフ変換部と、候補群生成部と、類似度計算部と、ランキング計算部を有することを特徴とする。
請求項13に記載の本発明によれば、現在の配管設計の有向グラフについて、過去の配管設計の有向グラフとの類似度を精度よく算出し、ランキング計算をすることができる。
【0019】
請求項14記載の本発明は、過去配管設計不具合データベースは、過去配管設計不具合データベースの構築方法に基づいて構築されたものであることを特徴とする。
請求項14に記載の本発明によれば、過去に配管の設計不具合があった過去設計CADデータと過去系統図データを有向グラフに適切に変換して蓄積したデータベースを構築しておくことにより、現在の配管設計の不具合を有向グラフの類似度を基に迅速に求めることができる。
【0020】
請求項15記載の本発明は、不具合検出手段は、配管設計不具合の検出方法で利用されるものであることを特徴とする。
請求項15に記載の本発明によれば、配管の設計不具合を迅速かつ的確に検出することができる。
【0021】
請求項16記載の本発明は、結果提示部のランキングを、関連情報を含めて設計手段に表示することを特徴とする。
請求項16に記載の本発明によれば、設計者等は、ランキング形式で提示された類似度の結果から、類似度の高い不具合と関連情報を参考に、配管の設計不具合を適切に修正することができる。
【0022】
請求項17記載の本発明は、設計手段と、過去配管設計不具合データベースと、不具合検出手段とを任意に組み合わせ情報通信網を利用して情報の連係を行うことを特徴とする。
請求項17に記載の本発明によれば、1社が複数の拠点に各手段やデータベースを分散して利用することや、設計事業者には設計手段と不具合検出手段を設置し、データベース提供事業者には過去配管設計不具合データベースのみを設置するなど、各社がそれぞれの事業内容に応じてシステムを利用すること等が可能となる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の配管設計不具合の検出方法によれば、類似度に基づきランキング付けされた過去の類似不具合情報が得られることで、例えば、配管が繋がっていない、又は配管合流地点において流れが逆向きとなっているといった配管の設計不具合を迅速に検出することができる。
【0024】
また、設計CADデータには、ライン形式で表現された配管データと形状パーツの最小の直方体の座標値が含まれ、系統図データには、配管の流れのスタートとゴールの条件が含まれている場合には、有向グラフ化するための必要条件を満たした設計CADデータと系統図データを使用することで、設計CADデータと系統図データを有向グラフに精度よく変換することができる。
【0025】
また、有向グラフ変換ステップは、ライン形式の配管データと直方体の座標値のデータよりグラフのノードを定義し、ライン形式で表現された配管データからノード間をつなぐエッジを定義する定義ステップと、ノードを縮約する縮約ステップと、スタートとゴールの条件に基づいてノードを検索し、最短経路と流れの向きを付与して有向グラフを構築する有向グラフ構築ステップを有する場合には、設計CADデータと系統図データを効率よく、更に精度よく有向グラフに変換することができる。
【0026】
また、縮約ステップは、全部のノードであらわされる点群に対して、指定する半径の範囲を考慮してノードを縮約する第一縮約ステップと、直方体の内部の他点を考慮して形状パーツのノードと、内部の他点ノードを1つに縮約する第二縮約ステップを有する場合には、縮約することにより有向グラフへの変換をより適切に行うことができる。
【0027】
また、ランキング提示ステップにおけるランキングとして提示された過去の不具合グラフに基づいて、配管の設計不具合を修正する場合には、配管の設計不具合を適切に修正することができる。
【0028】
また、本発明の配管設計不具合の検出プログラムによれば、プログラムが過去の不具合を参照した配管設計不具合の検出をコンピュータに実行させることで、配管の設計不具合を迅速に検出し、省力化を図ることができる。
【0029】
また、本発明の過去配管設計不具合データベースの構築方法によれば、過去に配管の設計不具合があった過去設計CADデータと過去系統図データを有向グラフに適切に変換して蓄積したデータベースを構築しておくことにより、現在の配管設計の不具合を有向グラフの類似度を基に迅速に求めることができる。
【0030】
また、過去設計CADデータには、ライン形式で表現された配管データと形状パーツの最小の直方体の座標値が含まれ、過去系統図データには、過去の配管の流れのスタートとゴールの条件が含まれている場合には、有向グラフ化するための必要条件を満たした過去設計CADデータと過去系統図データを使用することで、過去設計CADデータと過去系統図データを有向グラフに精度よく変換することができる。
【0031】
また、過去設計有向グラフ変換ステップは、ライン形式の配管データと直方体の座標値のデータよりグラフのノードを定義し、ライン形式で表現された配管データからノード間をつなぐエッジを定義する定義ステップと、ノードを縮約する縮約ステップと、スタートとゴールの条件に基づいてノードを検索し、最短経路と流れの向きを付与して有向グラフを構築する有向グラフ構築ステップを有する場合には、過去設計CADデータと系統図データを効率よく、更に精度よく有向グラフに変換することができる。
【0032】
また、縮約ステップは、全部のノードであらわされる点群に対して、指定する半径の範囲を考慮してノードを縮約する第一縮約ステップと、直方体の内部の他点を考慮して形状パーツのノードと、内部の他点ノードを1つに縮約する第二縮約ステップを有する場合には、縮約することにより有向グラフへの変換をより適切に行うことができる。
【0033】
また、本発明の過去配管設計不具合データベースの構築プログラムによれば、プログラムが過去の配管の設計不具合に関したデータベースの構築をコンピュータに実行させることで、過去の配管の設計不具合を蓄積したデータベースの構築に当たり、省力化を図ることができる。
【0034】
また、本発明の配管設計不具合の検出システムによれば、類似度に基づきランキング付けされた過去の類似不具合情報が得られることで、例えば、配管が繋がっていない、又は配管合流地点において流れが逆向きとなっているといった配管の設計不具合を迅速に検出することができる。
【0035】
また、類似検索部は、有向グラフ変換部と、候補群生成部と、類似度計算部と、ランキング計算部を有する場合には、現在の配管設計の有向グラフについて、過去の配管設計の有向グラフとの類似度を精度よく算出し、ランキング計算をすることができる。
【0036】
また、過去配管設計不具合データベースは、過去配管設計不具合データベースの構築方法に基づいて構築されたものである場合には、過去に配管の設計不具合があった過去設計CADデータと過去系統図データを有向グラフに適切に変換して蓄積したデータベースを構築しておくことにより、現在の配管設計の不具合を有向グラフの類似度を基に迅速に求めることができる。
【0037】
また、不具合検出手段は、配管設計不具合の検出方法で利用されるものである場合には、配管の設計不具合を迅速かつ的確に検出することができる。
【0038】
また、結果提示部のランキングを、関連情報を含めて設計手段に表示する場合には、設計者等は、ランキング形式で提示された類似度の結果から、類似度の高い不具合と関連情報を参考に、配管の設計不具合を適切に修正することができる。
【0039】
また、設計手段と、過去配管設計不具合データベースと、不具合検出手段とを任意に組み合わせ情報通信網を利用して情報の連係を行う場合には、1社が複数の拠点に各手段やデータベースを分散して利用することや、設計事業者には設計手段と不具合検出手段を設置し、データベース提供事業者には過去配管設計不具合データベースのみを設置するなど、各社がそれぞれの事業内容に応じてシステムを利用すること等が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】本発明の実施形態による配管設計不具合の検出方法の概要図
【
図3】同設計CADデータの非グラフ構造データが有向のグラフ構造データに変換されるまでの概要図
【
図5】同過去配管設計不具合データベースに格納されているデータの例を示す図
【
図7】本発明の実施例によって得られた結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明の実施形態による配管設計不具合の検出方法、検出プログラム、過去配管設計不具合データベースの構築方法、構築プログラム、及び配管設計不具合の検出システムについて説明する。
【0042】
図1は本実施形態による配管設計不具合の検出方法の概要図である。
図2は配管設計不具合の検出方法のフロー図であり、
図2(a)は部分グラフ同型類似検索による設計修正フローを示し、
図2(b)は過去配管設計不具合データベースの構築フローを示している。
図3は設計CADデータの非グラフ構造データが有向のグラフ構造データに変換されるまでの概要図である。
配管設計不具合の検出方法は、配管の設計不具合を過去の不具合を参照して検出する方法であり、配管の設計に関連した設計CADデータを取得するCADデータ取得ステップS1と、配管の系統図データを取得する系統図データ取得ステップS2と、設計CADデータと系統図データに基づいて有向グラフに変換する有向グラフ変換ステップS3と、過去の不具合グラフを過去配管設計不具合データベース20から取得する不具合情報取得ステップS4と、取得した過去の不具合グラフに対して、有向グラフの部分グラフ同型による候補群を生成する候補群生成ステップS5と、候補群と過去の不具合グラフの類似度を計算する類似度計算ステップS6と、類似度の順に候補群と過去の不具合グラフを並べランキングを提示するランキング提示ステップS7と、設計修正ステップS8を備える。
なお、設計CADデータは3次元データとして、配管の系統図データは2次元データとして管理される場合が多いため、CADデータ取得ステップS1と、系統図データ取得ステップS2とを分けているが、関連付けて統合されて管理されている場合は、CADデータ取得ステップS1と系統図データ取得ステップS2とを統合することも可能である。
【0043】
CADデータ取得ステップS1においては、現在設計中の3DCAD又は2D図面など、配管の設計に関連した設計CADデータを取得する。取得する設計CADデータには、下記データA及びデータBが存在するようにする。
データA:管一品毎のライン形式で表現された配管データ
データB:形状パーツとして中心座標位置及び形状パーツを含む最小の直方体の座標値
なお、「ライン形式で表現された配管データ」とは、管一品を中心線で代表されるラインで表現したものである。管一品のデータは、
図3(b)の上段に示すように、2点の線分で表される。また、「形状パーツ」とは、配管以外のフランジや弁、又は機器等である。形状パーツは、
図3(b)の下段に示すように、矩形枠であるバウンディングボックスで表される。
また、系統図データ取得ステップS2においては、配管の系統図データを取得する。取得する系統図データには、下記データCが存在するようにする。
データC:流れのスタートとゴールの名称、及び各スタートから流れとして辿りつくゴールのリスト(
図3(e)参照)
設計CADデータにはライン形式で表現された配管データと形状パーツの最小の直方体の座標値が含まれ、系統図データには配管の流れのスタートとゴールの条件が含まれている。このように、有向グラフ化するための必要条件を満たした設計CADデータと系統図データを使用することで、設計CADデータと系統図データを有向グラフに精度よく変換することができる。
【0044】
有向グラフ変換ステップS3においては、設計CADデータと系統図データに基づいて、非グラフ構造データである設計CADデータから、有向グラフに変換する。これにより、配管系がノードとエッジの有向グラフとして表現される。
ここで、
図4は有向グラフへの変換方法のフロー図である。
有向グラフ変換ステップS3は、ライン形式の配管データと直方体の座標値のデータよりグラフのノードを定義し、ライン形式で表現された配管データからノード間をつなぐエッジを定義する定義ステップS3-1と、ノードを縮約する縮約ステップS3-2と、スタートとゴールの条件に基づいてノードを検索し、最短経路と流れの向きを付与して有向グラフを構築する有向グラフ構築ステップS3-3を有する。これにより、設計CADデータと系統図データを効率よく、更に精度よく有向グラフに変換することができる。
【0045】
定義ステップS3-1においては、上記のデータAとデータBより、グラフのノードを定義する。このとき、配管は、両端(始点と終点)の位置座標をそれぞれノードの属性値として定義する。また、ノードの名称と両端の種別を定義する。配管以外のフランジ等の形状パーツは、中心位置を属性値としたノードとし、形状パーツの名称を定義する。
併せて、定義ステップS3-1においては、データAから、配管ラインの両端を表すノード間をつなぐエッジを定義する。このとき、管一品のラインをエッジとして定義し、長さと局所的な円筒座標系(r,θ,Φ)を属性値として定義する。また、形状パーツに接続される他の配管や形状パーツに対して、そのノード間にエッジを定義する。
【0046】
縮約ステップS3-2は、全部のノードであらわされる点群に対して、指定する半径の範囲を考慮してノードを縮約する第一縮約ステップS3-2-1と、直方体の内部の他点を考慮して形状パーツのノードと、内部の他点ノードを1つに縮約する第二縮約ステップS3-2-2を有する。縮約することにより、有向グラフへの変換を適切に行うことができる。
第一縮約ステップS3-2-1においては、定義ステップS3-1で得られた全ノードで表される点群に対して、指定する半径R範囲内に存在するノードを1つのノードとみなし、それらのノードを縮約する。
第二縮約ステップS3-2-2においては、データBにおける直方体の内部に他の点が存在する場合は、データBにおける形状パーツを表すノードと内部に存在するノードを1つのノードとして縮約する。
例えば
図3(c)においては、距離が5mm以内の点同士、及びバウンディングボックス内の点とバウンディングボックス同士を1つのノードとして縮約している。
【0047】
有向グラフ構築ステップS3-3においては、定義ステップS3-1と縮約ステップS3-2により構築した無向グラフに対して、データCのスタート点とゴール点に相当するノードを検索し、その2点間のノードをつなぐ最短経路を、ダイクトラ法を用いて検索する。結果の経路の順に流れの向きを付与し、有向グラフを構築する。また、双方向の流れも許可する。
このように設計CADの非グラフ構造データから、グラフ構造データに変換することで、区画、系統、ルート(位置情報)、流量、及び他部材との距離などが反映された抽象モデルとして、入力の有向グラフG
iが得られる。
図3(d)はこの抽象モデルの例として、流れ情報ありのグラフ形式のデータ構造を示している。
【0048】
図2(a)に示す不具合情報取得ステップS4においては、過去の不具合グラフを過去配管設計不具合データベース20から取得する。過去配管設計不具合データベース20には、過去の配管設計の不具合情報が、過去の不具合グラフとして格納されている。
ここで、過去配管設計不具合データベース20の構築方法について説明する。
過去配管設計不具合データベース20の構築方法は、過去の配管の設計不具合をデータベースとして構築する方法であり、
図2(b)に示すように、過去の配管設計に不具合があったという事実としての情報を得るため、過去の配管の設計不具合の情報を入手する設計不具合情報入手ステップS11と、事実としての情報に従って、過去の配管の設計不具合に関連した過去設計CADデータを取得する過去CADデータ取得ステップS12と、過去の配管の設計不具合に関連した過去系統図データを取得する過去系統図データ取得ステップS13と、過去設計CADデータと過去系統図データに基づいて過去の配管の設計不具合を有向グラフに変換する過去設計有向グラフ変換ステップS14と、有向グラフ化された設計不具合を過去の不具合グラフとして、過去配管設計不具合データベース20に格納する格納ステップS15を備える。このように過去に配管の設計不具合があった過去設計CADデータと過去系統図データを有向グラフに適切に変換して蓄積したデータベースを構築しておくことにより、現在の配管設計の不具合を有向グラフの類似度を基に迅速に求めることができる。
【0049】
設計不具合情報入手ステップS11における過去の配管の設計不具合の情報と、過去CADデータ取得ステップS12における過去設計CADデータは、過去の配管設計における実績データが蓄積された実績データベース50から取得する。
実績データベース50には、船舶ごとの各区画における各管系統のCADデータが記録されている。
図1に示す例においては、船Aにおける区画Aの排水管系統について、1回目の設計レビューを受けたCADデータであるレビュー1回目データと、2回目の設計レビューを受けたCADデータであるレビュー2回目データと、設計が完了したCADデータである完了CADデータが、「不具合あり」又は「不具合なし」の情報とともに記録されている。レビュー1回目データとレビュー2回目データには「不具合あり」の情報が付され、完了CADデータには「不具合なし」の情報が付されている。なお、過去設計CADデータは、過去の配管の設計不具合の情報と紐づけされたCADシステムから取得してもよい。また、設計の不具合の情報は、レビューのみならず、製造、試運転、就航過程で取得された設計にまつわる不具合情報を含むこともできる。
【0050】
過去CADデータ取得ステップS12においては、CADデータ取得ステップS1と同様に、取得する過去設計CADデータに、ライン形式で表現された配管データと形状パーツの最小の直方体の座標値が含まれるようにする。
また、過去系統図データ取得ステップS13においては、系統図データ取得ステップS2と同様に、取得する過去系統図データに、過去の配管の流れのスタートとゴールの条件が含まれるようにする。
過去設計CADデータには、ライン形式で表現された配管データと形状パーツの最小の直方体の座標値が含まれ、過去系統図データには、過去の配管の流れのスタートとゴールの条件が含まれている。このように、有向グラフ化するための必要条件を満たした過去設計CADデータと過去系統図データを使用することで、過去設計CADデータと過去系統図データを有向グラフに精度よく変換することができる。
【0051】
過去設計有向グラフ変換ステップS14は、有向グラフ変換ステップS3と同様である。すなわち、
図4に示すように、ライン形式の配管データと直方体の座標値のデータよりグラフのノードを定義し、ライン形式で表現された配管データからノード間をつなぐエッジを定義する定義ステップS3-1と、ノードを縮約する縮約ステップS3-2と、スタートとゴールの条件に基づいてノードを検索し、最短経路と流れの向きを付与して有向グラフを構築する有向グラフ構築ステップS3-3を実行する。これにより、過去設計CADデータと系統図データを効率よく、更に精度よく有向グラフに変換することができる。
また、縮約ステップS3-2は、全部のノードであらわされる点群に対して、指定する半径の範囲を考慮してノードを縮約する第一縮約ステップS3-2-1と、直方体の内部の他点を考慮して形状パーツのノードと、内部の他点ノードを1つに縮約する第二縮約ステップS3-2-2を有する。縮約することにより、有向グラフへの変換を適切に行うことができる。
【0052】
有向グラフ構築ステップS3-3においては、定義ステップS3-1と縮約ステップS3-2により構築した無向グラフに対して、データCのスタート点とゴール点に相当するノードを検索し、その2点間のノードをつなぐ最短経路を、ダイクトラ法を用いて検索する。結果の経路の順に流れの向きを付与し、有向グラフを構築する。また、双方向の流れも許可する。
このように、過去の設計において不具合となった設計CADデータを有向グラフGfに変換する。
【0053】
格納ステップS15においては、有向グラフG
fのうち不具合箇所のみのグラフを不具合グラフのデータベース{g
1,g
2,g
3,…}として格納する。
図5は過去配管設計不具合データベースに格納されているデータの例を示す図である。
過去配管設計不具合データベース20は、
図5の左方に示すような過去の不具合グラフが蓄積されることにより、不具合辞書データとしての役割を果たす。また、過去配管設計不具合データベース20には、
図5の右方に示すように、過去の修正後のCADデータや、それに関連するドキュメント(修正指示書等)のデータも不具合と対応付けられて保存されている。
これら過去の不具合グラフを検索キーとして、入力の有向グラフG
iに対する類似検索を実施する。
【0054】
図2(a)に示す候補群生成ステップS5からランキング提示ステップS7までは、入力の有向グラフG
iに対して、過去の不具合グラフg
jを類似検索する計算手続き(類似検索法)である。
まず、候補群生成ステップS5では、部分グラフ同型による候補群の生成を行う。
グラフのノード及びエッジの集合として、入力の有向グラフをG
i=(V
i,E
i)、過去の不具合グラフをg
j=(gV
j,gE
j)と表した場合、g
jの任意の2つの頂点u,vに対して、下式(1)が成り立つ写像fが存在するとき、g
jはG
iの部分グラフ同型である。
{u,v}∈E
i⇒{f(u),F(v)}∈gE
j ・・・(数1)
この部分グラフの同型性を判定する問題を、Ullmanら(The design and analysis of computer algorithms, Alfred V. Aho, John E. Hopcroft, Jeffrey D. Ullman, Addison-Wesley Publishing, pp84-86,1974)の手法を用いて解き、過去の不具合グラフg
jに対応する候補群{G
i,0,G
i,1,G
i,2,...}∈G
iを作成する。
【0055】
次に、類似度計算ステップS6では、ルールベースの類似度計算を行う。
候補群生成ステップS5で得られた任意の候補Gi,k=(Vi,k,Ei,k)と過去の不具合グラフgj=(gVj,gEj)との間には、gVjからVi,kへの写像fが存在する。また、gVj,gEjには定義ステップS3-1で定義した属性値が存在するため、不具合の種類に応じて、写像f及び属性値を用いてルールベースの類似度算出を行う。これをすべての候補群に対して実施する。
【0056】
次に、ランキング提示ステップS7では、ランキング形式の表示を行う。
類似度計算ステップS6で過去の不具合グラフg
jに対する候補群{G
i,0,G
i,1,G
i,2,...}∈G
iに対する類似度が得られる。指定された閾値以上の類似度の候補を類似度の高い順に並び替え、ランキング形式で提示する。類似度に基づきランキング付けされた過去の類似不具合情報が得られることで、例えば、配管が繋がっていない、又は配管合流地点において流れが逆向きとなっているといった配管の設計不具合を迅速に検出することができる。
また、
図2(a)に示す設計修正ステップS8において、設計者等は、ランキング形式で提示された類似度の結果から類似度の高い不具合を参考に設計の修正を行う。これにより、配管の設計不具合を適切に修正することができる。なお、配管の設計不具合を修正は、人が行うことも、コンピュータやCADシステム等により自動的に行うこともできる。
【0057】
なお、上記の配管設計不具合の検出方法はプログラムを用いて行うこともできる。
配管の設計不具合を過去の不具合を参照して検出するプログラムは、コンピュータに、配管設計不具合の検出方法における、CADデータ取得ステップS1と、系統図データ取得ステップS2と、有向グラフ変換ステップS3と、不具合情報取得ステップS4と、候補群生成ステップS5と、類似度計算ステップS6と、ランキング提示ステップS7とを実行させる。
プログラムが過去の不具合を参照した配管設計不具合の検出をコンピュータに実行させることで、配管の設計不具合を迅速に検出し、省力化を図ることができる。
【0058】
また、候補群生成ステップS5からランキング提示ステップS7までを、AI(人工知能)に実行させることもできる。この場合、類似不具合検索AI部が、過去配管設計不具合データベース20から、配管系の部分グラフの同一性とルールベース又は機械学習ベースの類似度を算出し、類似度の高い順からランキング形式で過去の似た不具合を表示すると共に、その過去の不具合の修正後の姿や過去の不具合に関連したドキュメントデータを提示する。
【0059】
また、上記の過去配管設計不具合データベース20の構築方法はプログラムを用いて行うこともできる。
過去の配管の設計不具合をデータベースとして構築するプログラムは、コンピュータに、過去配管設計不具合データベース20の構築方法における、設計不具合情報入手ステップS11と、過去CADデータ取得ステップS12と、過去系統図データ取得ステップS13と、過去設計有向グラフ変換ステップS14と、格納ステップS15とを実行させる。
プログラムが過去の配管の設計不具合に関したデータベースの構築をコンピュータに実行させることで、過去の配管の設計不具合を蓄積したデータベースの構築に当たり、省力化を図ることができる。
【0060】
図6は配管設計不具合の検出システムの構成図である。
配管設計不具合の検出システムは、配管の設計不具合を過去の不具合を参照して検出する検出システムであり、CADシステム11を利用して配管の設計を行う設計手段10と、過去の配管設計の不具合情報を過去の不具合グラフとして格納した過去配管設計不具合データベース20と、不具合検出手段30を備える。
設計手段10は、CADシステム11と、モニター等の表示部12を有する。設計者はCADシステム11を利用して配管の設計を行う。
過去配管設計不具合データベース20は、過去配管設計不具合データベースの構築方法に基づいて構築されたものであり、過去設計不具合情報取得部21と、過去設計有向グラフ変換部22と、設計不具合格納部23と、過去不具合記憶部24を有する。
過去設計不具合情報取得部21は、設計不具合情報入手ステップS11と、過去CADデータ取得ステップS12と、過去系統図データ取得ステップS13の実行に用いる。
過去設計有向グラフ変換部22は、過去設計有向グラフ変換ステップS14の実行に用いる。
設計不具合格納部23は、格納ステップS15の実行に用いるものであり、抽象モデルとして有向グラフ化された過去の不具合グラフを過去不具合記憶部24に格納する。過去に配管の設計不具合があった過去設計CADデータと過去系統図データを有向グラフに適切に変換して蓄積したデータベースを構築しておくことにより、現在の配管設計の不具合を有向グラフの類似度を基に迅速に求めることができる。
また、過去配管設計不具合データベース20には、過去に不具合となった配管系に対して、修正後の設計CADデータやドキュメントデータも対応が付くように保存されている。
【0061】
不具合検出手段30は、設計手段10で設計された配管の設計CADデータと系統図データを取得する設計情報取得部31と、過去配管設計不具合データベース20の過去の配管設計の不具合情報を取得する過去不具合情報取得部32と、設計CADデータと系統図データを有向グラフに変換し過去の配管設計の不具合情報との類似度を計算しランキングを計算する類似検索部33と、ランキングを提示する結果提示部34を有する。
設計情報取得部31は、CADデータ取得ステップS1と、系統図データ取得ステップS2の実行に用いる。
過去不具合情報取得部32は、不具合情報取得ステップS4の実行に用いる。
類似検索部33は、有向グラフ変換部33Aと、候補群生成部33Bと、類似度計算部33Cと、ランキング計算部33Dを有する。有向グラフ変換部33Aは有向グラフ変換ステップS3の実行に用い、候補群生成部33Bは候補群生成ステップS5の実行に用い、類似度計算部33Cは類似度計算ステップS6の実行に用いる。ランキング計算部33D及び結果提示部34はランキング提示ステップS7の実行に用いる。ランキング計算部33Dでは、類似度計算部33Cで計算された類似度に基づいてランキングを算出する。これにより、現在の配管設計の有向グラフについて、過去の配管設計の有向グラフとの類似度のランキングを精度よく算出し、ランキング計算をすることができる。
結果提示部34では、算出されたランキングに基づいて、指定された閾値以上の類似度の候補を類似度の高い順に並べて提示する。類似度に基づきランキング付けされた過去の類似不具合情報が得られることで、例えば、配管が繋がっていない、又は配管合流地点において流れが逆向きとなっているといった配管の設計不具合を迅速かつ的確に検出することができる。
設計手段10の表示部12には、結果提示部34が提示するランキングが、関連情報を含めて表示される。関連情報は、例えば、不具合の修正後の姿や、ドキュメントデータである。設計者等は、ランキング形式で提示された類似度の結果から、類似度の高い不具合と関連情報を参考に、配管の設計不具合を適切に修正することができる。
【0062】
設計手段10、過去配管設計不具合データベース20、及び不具合検出手段30はすべて同一箇所に設置することも可能であるが、
図6に示すように、設計手段10、過去配管設計不具合データベース20、及び不具合検出手段30をそれぞれ別々の箇所に設けたり、例えば設計手段10と過去配管設計不具合データベース20を同一箇所に設置して、不具合検出手段30だけを別の箇所に設置したりするなど、設計手段10と、過去配管設計不具合データベース20と、不具合検出手段30とを任意に組み合わせ情報通信網40を利用して情報の連係を行うことができる。
これにより、1社が複数の拠点に各手段やデータベースを分散して利用することや、設計事業者には設計手段10と不具合検出手段30を設置し、データベース提供事業者には過去配管設計不具合データベース20のみを設置するなど、各社がそれぞれの事業内容に応じてシステムを利用すること等が可能となる。
【実施例0063】
過去に熟練者によって修正された不具合を再現したデータを作成し、本発明を適用した例について説明する。
本例では、配管内を通る流体が逆向きに合流する配管の不具合を再現した不具合を作成し、過去配管設計不具合データベース20に格納した。入力として、1隻の船の排水管系統において、逆向きに合流する不具合を人為的に3箇所作成した。また、配管の繋がりチェックの検証用として、二つの配管に重複する箇所が存在する不具合を再現した。これは見た目だけでは判断が難しいものとなる。また、逆向きの合流に対しては、流れの角度をパラメータとして取り出し、差の二乗平均の逆数を類似度として定義した。
【0064】
図7は本実施例によって得られた結果を示す図である。
図7(a)は配管の繋がりチェックによって検出された不具合を示す。
図7(a)は配管系を上からの視点で見たものであり、直方体Xは形状パーツのバウンディングボックス、点線は流れの上流側における配管の中心線を表し、実線は流れの下流側における配管の中心線を表している。
図7(a)では配管が一見つながっているように見えるが、互いに同一直線上で重複しており、直接的につながっていないと判定されている。また、当然ながら、逆に隙間が空いている場合についても同様に配管がつながっていないと判定された。なお、この配管の繋がりチェックは、類似検索する前の段階である有向グラフを構築する手続きの中で行われる。
【0065】
図7(c)及び
図7(d)は、
図7(b)に示す逆向きの合流配管を検索対象として、本発明を適用した結果を示している。
図7(c)は類似度の高いものから3番目に検出された例である。実線は配管の中心線であり、点線は類似度が高いと判定された箇所を示している。左上から右下に流れる本流に対して逆向きに合流しており、類似度計算部33Cによる計算の結果、約0.88という高い類似度で検出できた。
一方、
図7(d)は類似度が0.67となった結果であるが、こちらは逆向きの合流ではないため、不具合ではない。
このように本例では、過去の不具合例に近い箇所を高い類似度で検出することができた。
本発明は、造船における配管設計の不具合チェックに利用できる。また、配管設計のみならず配線設計やチューブ系統設計にも展開可能である。また、同様のアナロジーが成り立つような浮体、洋上風力発電施設、水中航走体や海洋構造物などの他製品、また建築業界など他産業への展開も可能である。これらに適用する場合は、請求項における船舶を他製品や他産業で対象とする言葉に置き替えて解釈することができる。