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特開2022-135519水性インクジェットインク及び顔料複合体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022135519
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】水性インクジェットインク及び顔料複合体
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/326 20140101AFI20220908BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20220908BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
C09D11/326
B41M5/00 120
B41J2/01 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021035377
(22)【出願日】2021-03-05
(71)【出願人】
【識別番号】000250502
【氏名又は名称】理想科学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 正規
(72)【発明者】
【氏名】浦野 裕貴
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056FC01
2H186BA08
2H186DA10
2H186FB11
2H186FB15
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB34
2H186FB48
2H186FB55
2H186FB58
4J039AD09
4J039AD10
4J039BE01
4J039BE22
4J039CA06
4J039EA41
4J039EA44
4J039EA46
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】保存安定性に優れる水性インクジェットインクを提供する。
【解決手段】顔料、分散剤、水溶性溶剤、及び水を含み、分散剤は、カルボキシル基を含むビニル系モノマー(A)、β-ジカルボニル基及びビフェニル基からなる群から選択される少なくとも1種を含むビニル系モノマー(B)、アルキレンオキシドの付加モル数が15以上のポリオキシアルキレン鎖を含むノニオン性のビニル系モノマー(C)、及びアルキレンオキシドの付加モル数が15以上のポリオキシアルキレン鎖と、スルホ基とを含むビニル系モノマー(D)を含むモノマー混合物の共重合体であり架橋構造を有する、水性インクジェットインクである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料、分散剤、水溶性溶剤、及び水を含み、
前記分散剤は、
カルボキシル基を含むビニル系モノマー(A)、
β-ジカルボニル基及びビフェニル基からなる群から選択される少なくとも1種を含むビニル系モノマー(B)、
アルキレンオキシドの付加モル数が15以上のポリオキシアルキレン鎖を含むノニオン性のビニル系モノマー(C)、及び
アルキレンオキシドの付加モル数が15以上のポリオキシアルキレン鎖と、スルホ基とを含むビニル系モノマー(D)を含むモノマー混合物の共重合体であり架橋構造を有する、水性インクジェットインク。
【請求項2】
前記ビニル系モノマー(A)のカルボキシ基の中和度は40~90モル%である、請求項1に記載の水性インクジェットインク。
【請求項3】
前記ビニル系モノマー(A)はアクリル酸及びメタクリル酸の少なくとも1つを含む、請求項1又は2に記載の水性インクジェットインク。
【請求項4】
前記ビニル系モノマー(C)のポリオキシアルキレン鎖のアルキレンオキシドの付加モル数と、前記ビニル系モノマー(D)のポリオキシアルキレン鎖のアルキレンオキシドの付加モル数との比は、(C):(D)=1:0.8~1:2を満たす、請求項1から3のいずれか1項に記載の水性インクジェットインク。
【請求項5】
前記水溶性溶剤は、SP値が13(cal/cm1/2未満のアルコール系溶剤を含む、請求項1から4のいずれか1項に記載の水性インクジェットインク。
【請求項6】
前記顔料及び前記分散剤は顔料複合体を形成し、前記顔料複合体は架橋構造を有する、請求項1から5のいずれか1項に記載の水性インクジェットインク。
【請求項7】
カルボキシル基を含むビニル系モノマー(A)、β-ジカルボニル基及びビフェニル基からなる群から選択される少なくとも1種を含むビニル系モノマー(B)、アルキレンオキシドの付加モル数が15以上のポリオキシアルキレン鎖を含むノニオン性のビニル系モノマー(C)、及びアルキレンオキシドの付加モル数が15以上のポリオキシアルキレン鎖と、スルホ基とを含むビニル系モノマー(D)を含むモノマー混合物の共重合体であり架橋構造を有する分散剤と、顔料とを含む、顔料複合体。
【請求項8】
カルボキシル基を含むビニル系モノマー(A)、β-ジカルボニル基及びビフェニル基からなる群から選択される少なくとも1種を含むビニル系モノマー(B)、アルキレンオキシドの付加モル数が15以上のポリオキシアルキレン鎖を含むノニオン性のビニル系モノマー(C)、及びアルキレンオキシドの付加モル数が15以上のポリオキシアルキレン鎖と、スルホ基とを含むビニル系モノマー(D)を含むモノマー混合物の共重合体を含む、分散用共重合体。
【請求項9】
カルボキシル基を含むビニル系モノマー(A)、β-ジカルボニル基及びビフェニル基からなる群から選択される少なくとも1種を含むビニル系モノマー(B)、アルキレンオキシドの付加モル数が15以上のポリオキシアルキレン鎖を含むノニオン性のビニル系モノマー(C)、及びアルキレンオキシドの付加モル数が15以上のポリオキシアルキレン鎖と、スルホ基とを含むビニル系モノマー(D)を含むモノマー混合物を用いて共重合体を合成すること、前記共重合体を用いて分散質を分散すること、及び前記共重合体を前記分散質の存在下で架橋することを含む、分散体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性インクジェットインク、顔料複合体、分散用共重合体、及び分散体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、流動性の高いインクジェットインクを微細なノズルから液滴として噴射し、ノズルに対向して置かれた記録媒体に画像を記録するものであり、低騒音で高速印字が可能であることから、近年急速に普及している。このようなインクジェット記録方式に用いられるインクとして、水を主溶媒として含有する水性インク、重合性モノマーを主成分として高い含有量で含有する紫外線硬化型インク(UVインク)、ワックスを主成分として高い含有量で含有するホットメルトインク(固体インク)とともに、非水系溶剤を主溶媒として含有する、いわゆる非水系インクが知られている。
【0003】
水性インクジェットインクは安全性及び乾燥性の観点から幅広い分野で利用されている。顔料を用いた水性インクジェットインクでは、安定な吐出を確保するために、インク中に顔料を微分散させて顔料分散性を高めること、長期の分散安定性を高めること等が求められる。
【0004】
特許文献1には、インクジェットプリンターのヘッド部での目詰まりを防止するとともに、インクの保存安定性を改善するために、オキシアルキレン基を有する単量体と、アクリル酸、メタクリル酸、又はこれらの塩、若しくは、アリルスルホン酸、メタクリルスルホン酸、又はこれらの塩とを重合して得られる共重合体を分散剤として用いる水系顔料インクが提案されている。
特許文献2には、顔料分散液中の粒子の粒径が小さく、保存安定性に優れるインクジェット記録用水性顔料分散液として、黄色アゾ系顔料、芳香族基含有ポリマー、及びアルカリ金属水酸化物を含み、芳香族基含有ポリマーが架橋されている分散液が提案されている。
特許文献3には、浸透性の高い溶剤と沸点が高い溶剤とが共存しても、分散安定性及び印刷性に優れる着色剤分散物として、着色剤粒子、塩基性化合物、架橋剤及び水を含む分散物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平09-183926号公報
【特許文献2】特開2018-109095号公報
【特許文献3】特開2019-038890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
水性インクは、(1)表面張力が高く基材によっては濡れにくい傾向があり、(2)水が常温でも徐々に揮発するため機上安定性が低下する傾向がある。例えば、インクジェット記録装置の吐出ヘッドにおいて、ノズル部でインクが大気開放されている状態では、インク中の水分が蒸発して局所的に少なくなり、インクの顔料分散安定性が低下し、吐出不良が発生することがある。
また、上記(1)について水溶性の低極性溶剤をインクに添加することで改善する方法もあるが、上記(2)がさらに悪化する傾向がある。極性が高い水と低極性溶剤とでは、適正な分散形態が異なるためである。
【0007】
特許文献1に開示の水性インクは、初期段階での顔料分散性が十分ではない傾向がある。また、特許文献1に開示の分散剤は、水と低極性溶剤とを用いる系では分散剤が溶媒に溶出しやすくなり機能が十分に発揮されない場合がある。
特許文献2及び3では、分散剤を架橋することで溶媒への分散剤の溶出を抑制し、保存安定性を改善しようとしているが、顔料分散剤の顔料への吸着性及び顔料分散剤の静電反発力が十分ではなく、保存安定性はさらに改善される余地がある。
【0008】
本発明の一目的としては、保存安定性に優れる水性インクジェットインクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面は、顔料、分散剤、水溶性溶剤、及び水を含み、前記分散剤は、カルボキシル基を含むビニル系モノマー(A)、β-ジカルボニル基及びビフェニル基からなる群から選択される少なくとも1種を含むビニル系モノマー(B)、アルキレンオキシドの付加モル数が15以上のポリオキシアルキレン鎖を含むノニオン性のビニル系モノマー(C)、及びアルキレンオキシドの付加モル数が15以上のポリオキシアルキレン鎖と、スルホ基とを含むビニル系モノマー(D)を含むモノマー混合物の共重合体であり架橋構造を有する、水性インクジェットインクである。
本発明の他の側面は、カルボキシル基を含むビニル系モノマー(A)、β-ジカルボニル基及びビフェニル基からなる群から選択される少なくとも1種を含むビニル系モノマー(B)、アルキレンオキシドの付加モル数が15以上のポリオキシアルキレン鎖を含むノニオン性のビニル系モノマー(C)、及びアルキレンオキシドの付加モル数が15以上のポリオキシアルキレン鎖と、スルホ基とを含むビニル系モノマー(D)を含むモノマー混合物の共重合体であり架橋構造を有する分散剤と、顔料とを含む、顔料複合体である。
【0010】
本発明のさらに他の側面は、カルボキシル基を含むビニル系モノマー(A)、β-ジカルボニル基及びビフェニル基からなる群から選択される少なくとも1種を含むビニル系モノマー(B)、アルキレンオキシドの付加モル数が15以上のポリオキシアルキレン鎖を含むノニオン性のビニル系モノマー(C)、及びアルキレンオキシドの付加モル数が15以上のポリオキシアルキレン鎖と、スルホ基とを含むビニル系モノマー(D)を含むモノマー混合物の共重合体を含む、分散用共重合体である。
本発明のさらに他の側面は、カルボキシル基を含むビニル系モノマー(A)、β-ジカルボニル基及びビフェニル基からなる群から選択される少なくとも1種を含むビニル系モノマー(B)、アルキレンオキシドの付加モル数が15以上のポリオキシアルキレン鎖を含むノニオン性のビニル系モノマー(C)、及びアルキレンオキシドの付加モル数が15以上のポリオキシアルキレン鎖と、スルホ基とを含むビニル系モノマー(D)を含むモノマー混合物を用いて共重合体を合成すること、前記共重合体を用いて分散質を分散すること、及び前記共重合体を前記分散質の存在下で架橋することを含む、分散体の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一実施形態によれば、保存安定性に優れる水性インクジェットインクを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を一実施形態を用いて説明する。以下の実施形態における例示が本発明を限定することはない。
【0013】
(水性インクジェットインク)
一実施形態による水性インクジェットインクは、顔料、分散剤、水溶性溶剤、及び水を含み、分散剤は、カルボキシル基を含むビニル系モノマー(A)、β-ジカルボニル基及びビフェニル基からなる群から選択される少なくとも1種を含むビニル系モノマー(B)、アルキレンオキシドの付加モル数が15以上のポリオキシアルキレン鎖を含むノニオン性のビニル系モノマー(C)、及びアルキレンオキシドの付加モル数が15以上のポリオキシアルキレン鎖と、スルホ基とを含むビニル系モノマー(D)を含むモノマー混合物の共重合体であり架橋構造を有することを特徴とする。
この実施形態によれば、保存安定性に優れる水性インクジェットインクを提供することができる。また、この水性インクジェットインクは、低極性溶剤を用いる場合にも保存安定性を良好に維持することができる。また、この水性インクジェットインクは、低極性溶剤を用いることで非浸透性基材へ良好な画質で印刷を行うことができる。
【0014】
以下、水性インクジェットインクを単に「水性インク」又は「インク」とも記し、共重合体を形成する成分をそれぞれモノマー(A)、モノマー(B)、モノマー(C)、モノマー(D)とも記す。また、ポリオキシアルキレン鎖はアルキレンオキシドを付加重合することで形成することができ、付加モル数は、モノマー中のポリオキシアルキレン鎖を形成するアルキレンオキシドの繰り返し数を表すものとし、アルキレンオキシドの付加モル数を単に「AO付加モル数」とも記す。
本開示において、(メタ)アクリル酸はメタクリル酸、アクリル酸、又はこれらの組み合わせを総称して意味し、(メタ)アクリレートはメタクリレート、アクリレート、又はこれらの組み合わせを総称して意味し、(メタ)アクリルアミドはメタクリルアミド、アクリルアミド、又はこれらの組み合わせを総称して意味する。
【0015】
一実施形態による分散剤を用いることで、初期状態の高い分散性に加え、長期の保存安定性にも優れる水性インクを提供することができる。この分散剤は架橋構造を有することで、インクに低極性溶剤が含まれる場合であっても、架橋構造によって顔料から分散剤が脱離することを抑制し、長期に渡って優れた保存安定性を得ることができる。
詳しい原理について以下に説明するが、本発明はこの理論に拘束されるものではない。
一実施形態における分散剤は架橋構造を有する共重合体であることから、顔料を被覆する分散剤が架橋構造によって共重合体-共重合体あるいは共重合体-顔料表面で架橋されることにより、低極性溶剤を含んだ場合であっても、顔料表面からの分散剤の脱離を防ぐことができる。これによって、長期保存した場合でもインクの状態が変化することを防いで、吐出性を良好に維持することができる。
モノマー(A)由来のカルボキシ基は架橋反応の基点として働く。カルボキシ基は反応性に優れ、多官能エポキシ、オキサゾリン、アジリジン等の多官能化合物と反応し、架橋構造を形成することができる。
モノマー(B)由来のβ-ジケトン基及び/又はビフェニル基は、π-π相互作用、水素結合等により顔料表面に強く相互作用し、分散剤の顔料への吸着力を高めることができる。顔料への吸着力の向上は、共重合体-顔料表面の架橋構造の形成にも役立つ。
モノマー(C)及びモノマー(D)由来の長鎖のポリオキシアルキレン鎖による立体反発効果により、顔料同士の橋掛け架橋を抑制することができる。モノマー(D)由来のスルホ基はモノマー(A)由来のカルボキシ基に比べて架橋構造に関与しにくいことから、顔料に吸着した分散剤の状態でモノマー(D)由来のスルホ基が外側に配向することで静電反発力によって、顔料分散性を高めることができる。
【0016】
インクは、顔料及び分散剤を含むことが好ましい。インクにおいて、顔料と分散剤は顔料複合体を形成していてもよい。顔料複合体は、顔料の表面に分散剤が配向している状態であることが好ましく、顔料の表面に分散剤が付着している状態であることが好ましく、顔料の表面を部分的又は全体的に分散剤が被覆している状態であることが好ましい。
分散剤は架橋構造を有することが好ましい。顔料及び分散剤によって顔料複合体が形成される場合は、顔料複合体が架橋構造を有することが好ましい。
分散剤又は顔料複合体において、架橋構造は、分散剤のモノマー(A)由来のカルボキシ基を基点として架橋されていることが好ましい。分散剤の架橋構造は、共重合体の1分子中に存在する複数のカルボキシ基の間で架橋されていてもよく、複数の共重合体の間でカルボキシ基を基点として架橋されていてもよい。例えば、顔料に共重合体が付着した状態で、共重合体同士が架橋されて分散剤を形成していることが好ましい。これによって、顔料を分散剤が被覆する状態をより強固にして、顔料から分散剤の脱離を防止することができる。
顔料複合体において、架橋構造は、共重合体と顔料の間に存在していてもよい。顔料の中には顔料表面にカルボキシ基等の架橋反応性を有する基が存在するものがある。このような顔料では、顔料と共重合体との間で架橋構造を形成することが可能である。例えば、顔料に共重合体が付着した状態で、顔料-共重合体間が架橋されていることが好ましい。これによって、顔料を分散剤が被覆する状態をより強固にして、顔料から分散剤の脱離を防止することができる。
上記した共重合体間の架橋と顔料-共重合体間の架橋とが組み合わされることで、分散剤が顔料をより強固に被覆して、顔料からの分散剤の脱離をより防止することができる。
【0017】
顔料としては、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、多環式顔料、染付レーキ顔料等の有機顔料、及び、カーボンブラック、金属酸化物等の無機顔料を用いることができる。アゾ顔料としては、溶性アゾレーキ顔料、不溶性アゾ顔料及び縮合アゾ顔料等が挙げられる。フタロシアニン顔料としては、金属フタロシアニン顔料及び無金属フタロシアニン顔料等が挙げられる。多環式顔料としては、キナクリドン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、ジオキサジン系顔料、チオインジゴ系顔料、アンスラキノン系顔料、キノフタロン系顔料、金属錯体顔料及びジケトピロロピロール(DPP)等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスカーボンブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。金属酸化物としては、酸化チタン、酸化亜鉛等が挙げられる。
【0018】
上記した顔料は表面処理が施されていてもよい。特に表面が酸化処理された顔料は、顔料表面にも架橋基点が多くなるためより好ましい。
顔料の平均粒子径(体積基準)としては、吐出性と分散安定性の観点から、300nm以下であることが好ましく、より好ましくは200nm以下である。
【0019】
上記した顔料は単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
顔料の配合量は、適宜調節すればよいが、インク全量に対し、1~30質量%が好ましく、2~20質量%がより好ましく、5~15質量%がさらに好ましい。
【0020】
分散剤としては、少なくとも以下の成分を含むモノマー混合物の共重合体であって架橋構造を有するものを用いることができる。
カルボキシ基を含むビニル系モノマー(A)。
β-ジカルボニル基及びビフェニル基からなる群から選択される少なくとも1種を含むビニル系モノマー(B)。
アルキレンオキシドの付加モル数が15以上のポリオキシアルキレン鎖を含むノニオン性のビニル系モノマー(C)。
アルキレンオキシドの付加モル数が15以上のポリオキシアルキレン鎖と、スルホ基とを含むビニル系モノマー(D)。
【0021】
以下、分散剤を形成する共重合体について説明する。
共重合体において、ビニル系モノマーは、エチレン性不飽和結合を含む化合物を好ましく用いることができる。ビニル系モノマーとしては、酢酸ビニル、塩化ビニル、アリル化合物、エチレン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、アクリロニトリル等、又はこれらの誘導体等が挙げられる。これらの化合物に、各種の官能基が導入されたものを、各モノマーとして用いることができる。
【0022】
モノマー(A)は、カルボキシ基を含むビニル系モノマーである。
カルボキシ基を含むビニル系モノマーを用いて共重合体を形成することで、その他のモノマー成分と共重合体を形成し、共重合体において、架橋構造の基点となるカルボキシ基がバランスよく導入される。共重合体に導入されたカルボキシ基は、種々の多官能化合物と反応し、架橋構造を形成することができる。
【0023】
モノマー(A)は、カルボキシ基とエチレン性不飽和結合とを含む化合物を好ましく用いることができる。モノマー(A)において、1分子中に1個のカルボキシ基が含まれればよく、2個以上のカルボキシ基が含まれてもよい。
【0024】
共重合体において、モノマー(A)によって導入されるカルボキシ基は、架橋反応性の観点から、主鎖の近くに位置することが好ましい。例えば、主鎖の炭素原子に直接カルボキシ基が導入されていることが好ましい。このようなモノマー(A)としては、メタクリル酸、アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸等が挙げられる。なかでもアクリル酸、メタクリル酸、又はこれらの組み合わせが好ましい。
【0025】
モノマー(A)としては、主鎖の炭素原子CにリンカーLを介してカルボキシ基-COOHが導入される場合において、リンカーLが、直鎖又は分岐の鎖状炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、エーテル鎖及びエステル鎖からなる群から選択される少なくとも1種を有する基、又はこれらの組み合わせを有する基等を有することが好ましい。リンカーLの炭素数は全体で1~12が好ましく、1~8がより好ましい。
【0026】
主鎖の炭素原子CにリンカーLを介してカルボキシ基-COOHが導入される場合のモノマー(A)としては、例えば、β-カルボキシエチル(メタ)アクリレート、4-[2-(メタクリロイルオキシ)エトキシ]-4-オキソ-2-ブテン酸、2-アクリロイルオキシエチルコハク酸、2-アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2-アクリロイルオキシプロピルフタル酸、2-アクリロイルオキシプロピルヘキサヒドロフタル酸、メタクリロイルオキシメチルコハク酸、メタクリロイルオキシエチルコハク酸、メタクリロイルオキシエチルフタル酸、メタクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸、メタクリロイルオキシプロピルフタル酸、メタクリロイルオキシプロピルヘキサヒドロフタル酸等が挙げられる。
共重合体において、モノマー(A)は1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
モノマー(A)由来のカルボキシ基は、静電反発力向上の観点から、中和されていてもよい。中和剤として水溶性塩基化合物を用いてモノマー(A)由来のカルボキシ基を中和することができる。カルボキシ基を有する分散剤の安定性の観点から、水溶性塩基化合物としては1価のものが好ましい。1価の水溶性塩基化合物はカルボキシ基を中和することで静電反発効果を発現し、顔料同士の凝集をより抑制することができる。
水溶性塩基化合物としては、例えば、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機塩基;アミノメチルプロパノール、アミノエチルプロパノール、ジメチルエタノールアミン、トリエチルアミン、ジエチルエタノールアミン、ジメチルアミノプロパノール、トリエタノールアミン等のアミン類等を挙げることができる。
【0028】
モノマー(A)由来のカルボキシ基の中和度は40~90モル%が好ましい。
モノマー(A)由来のカルボキシ基の中和度は、40モル%以上が好ましく、50モル%以上がより好ましい。これによって、分散剤において静電反発力を高め、初期分散性を良好に維持することができる。
モノマー(A)由来のカルボキシ基の中和度は、90モル%以下が好ましく、80モル%以下がより好ましく、60モル%以下がさらに好ましい。これによって、カルボキシ基と多官能化合物との反応性を高め、あるいは多官能化合物の失活を防止して、架橋反応性をより高めることができる。
なお、中和度が100%であることは、モノマー(A)由来のカルボキシ基のモル当量数に対して当量以上の水溶性塩基化合物が添加されたことを示すが、モノマー(A)由来のカルボキシ基は部分的に中和されずに残っており、架橋構造に関与することができる。
【0029】
本開示において、「カルボキシ基の中和度」は中和前のカルボキシ基のモル当量数に対する水溶性塩基化合物のモル当量数の割合(モル%)を意味する。
【0030】
モノマー(B)は、β-ジカルボニル基及びビフェニル基からなる群から選択される少なくとも1種を含むビニル系モノマーである。
モノマー(B)は、β-ジカルボニル基を含むビニル系モノマーであってもよく、ビフェニル基を含むビニル系モノマーであってもよく、β-ジカルボニル基及びビフェニル基を含むビニルモノマーであってもよい。
β-ジカルボニル基を含むビニル系モノマーに由来して、共重合体に導入されるβ-ジカルボニル基は、顔料表面の極性基と水素結合により吸着して、顔料親和性を示す。
ビフェニル基を含むビニル系モノマーに由来して、共重合体に導入されるビフェニル基は、顔料表面のπ電子と相互作用して吸着して、顔料親和性を示す。
このようにして、共重合体に顔料親和性を示す部位が導入されることで、共重合体によって形成される分散剤の顔料分散性を高めることができる。特に、初期状態でインク中に顔料を微分散させることができ、印刷物にインク成分をより均一に付与することに役立てることができる。
印刷物の耐水性の観点から、ビフェニル基を含むビニル系モノマーを用いることが好ましい。分散剤にビフェニル基が導入されることで、印刷物を水分を含む状態で擦過した場合、分散剤が水に溶出しにくくなり、高い耐水擦過性を得ることができる。
【0031】
β-ジカルボニル基を含むビニル系モノマーは、β-ジカルボニル基とエチレン性不飽和結合とを含む化合物を好ましく用いることができる。
β-ジカルボニル基としては、β-ジケトン基(-C(=O)-C-C(=O)-)、β-ケト酸エステル基(-C(=O)-C-C(=O)OR、Rは炭化水素基)、又はこれらの組み合わせを用いることができる。β-ジケトン基としては、アセトアセチル基、プロピオンアセチル基等が挙げられ、β-ケト酸エステル基としては、アセトアセトキシ基、プロピオンアセトキシ基等が挙げられる。
β-ジカルボニル基を含むビニル系モノマーにおいて、1分子中に1個のβ-ジカルボニル基が含まれればよく、2個以上のβ-ジカルボニル基が含まれてもよい。
β-ジカルボニル基を含むビニル系モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、アリル化合物、エチレン又はこれらの誘導体に、β-ジカルボニル基が導入された化合物を用いることができる。なかでも、β-ジカルボニル基を有する(メタ)アクリレートが好ましい。これによって、主鎖が(メタ)アクリル骨格となる共重合体を提供することができる。
【0032】
β-ジカルボニル基を含むビニル系モノマーとしては、例えば、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシプロピル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシブチル(メタ)アクリレート等のアセトアセトキシアルキル(メタ)アクリレート;エチレングリコールモノアセトアセタートモノ(メタ)アクリレート、2,3-ジ(アセトアセトキシ)プロピル(メタ)アクリレート、2,4-ヘキサジオン(メタ)アクリレート;アセト酢酸アリル、アセト酢酸ビニル;アセトアセトキシエチル(メタ)アクリルアミド等のアセトアセトキシアルキル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0033】
β-ジカルボニル基を含むビニル系モノマーの市販品としては、例えば、東京化成工業株式会社製「エチレングリコールモノアセトアセタートモノメタクリラート」等が挙げられる。
【0034】
ビフェニル基を含むビニル系モノマーは、ビフェニル基とエチレン性不飽和結合とを含む化合物を好ましく用いることができる。
ビフェニル基としては、置換又は非置換であってもよいが、非置換が好ましい。ビフェニル基の結合部位は、o位、m位、p位のいずれであってもよいが、o位が好ましい。
ビフェニル基を含むビニル系モノマーにおいて、1分子中に1個のビフェニル基が含まれればよく、2個以上のビフェニル基が含まれてもよい。
ビフェニル基を含むビニル系モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、アリル化合物、エチレン又はこれらの誘導体に、ビフェニル基が導入された化合物を用いることができる。なかでも、ビフェニル基を有する(メタ)アクリレートが好ましい。これによって、主鎖が(メタ)アクリル骨格となる共重合体を提供することができる。
【0035】
ビフェニル基を含むビニル系モノマーとしては、例えば、ビフェニル(メタ)アクリレート、エトキシ化o-フェニルフェノール(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0036】
ビフェニル(メタ)アクリレートは、ビフェニルアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化反応によって合成することができる。
エトキシ化o-フェニルフェノール(メタ)アクリレートは、エチレンオキシドの付加モル数が13以下のポリエチレングリコール変性したビフェニルアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化反応によって合成することができる。例えば、エチレングリコールで変性したビフェニルアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化物であってよい。
【0037】
ビフェニル基を含むビニル系モノマーの市販品としては、例えば、新中村化学工業株式会社製「A-LEN-10」(商品名)等が挙げられる。
【0038】
モノマー(B)として、上記したβ-ジカルボニルとビフェニル基とを組み合わせて含むビニル系モノマーを用いてもよい。
共重合体において、モノマー(B)は1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
より高い機上安定性を求める場合、モノマー(B)は、顔料の種類に応じて適切なものを選択することが好ましい。例えば、キナクリドン系顔料にはβ-ジカルボニル基を含むビニル系モノマーが好ましく、フタロシアニン系顔料にはβ-ジカルボニル基を含むビニル系モノマー及びビフェニル基を含むビニル系モノマーを併用することが好ましい。
【0039】
モノマー(C)は、アルキレンオキシド(AO)の付加モル数が15以上のポリオキシアルキレン鎖を含むノニオン性のビニル系モノマーである。
【0040】
ポリオキシアルキレン鎖において、AO付加モル数は、15以上が好ましく、18以上がより好ましく、20以上がさらに好ましい。これによって、水性インク中において、水を多く含む状態とともに、水分が蒸発して少なくなった状態においても、分散安定性をより良好に維持することができる。
ポリオキシアルキレン鎖において、AO付加モル数は、50以下が好ましく、45以下がより好ましく、40以下がさらに好ましい。これによって、水性インク中において、水の配合量が少ない状態、又は水分が蒸発して少なくなった状態において、分散剤自体の増粘を防止し、インク全体の粘度上昇を防止することができる。
モノマー(C)において、ポリオキシアルキレン鎖のAO付加モル数は、15~50が好ましく、18~45がより好ましく、20~35がさらに好ましい。
【0041】
AO付加モル数が15以上のポリオキシアルキレン鎖を含むノニオン性のビニル系モノマーは、AO付加モル数が15以上のポリオキシアルキレン鎖とエチレン性不飽和結合とを含む化合物を好ましく用いることができる。
ポリオキシアルキレン鎖としては、1種又は2種以上のアルキレンオキシド基が連続して結合している結合鎖を用いることができる。
アルキレンオキシド基としては、炭素数が1~10が好ましく、炭素数1~8がより好ましく、炭素数2~4がさらに好ましく、炭素数2又は3が一層好ましい。
アルキレンオキシド基としては、メチレンオキシド基、エチレンオキシド基、プロピレンオキシド基、ブチレンオキシド基等が挙げられる。なかでも、エチレンオキシド基、プロピレンオキシド基、又はこれらの組み合わせが好ましく、エチレンオキシド基がより好ましい。
具体的には、モノマー(C)は、AO付加モル数が15以上であるポリエチレングリコール鎖、ポリプロピレングリコール鎖、ポリエチレンプロピレングリコール鎖等を有することが好ましく、より好ましくはポリエチレングリコール鎖である。これによって、水性インク中で、分散剤の親水性をより高め、分散安定性をより改善することができる。
【0042】
モノマー(C)の分子量は、800~3000が好ましく、1000~2000がより好ましい。
【0043】
モノマー(C)は、ノニオン性であることが好ましく、具体的にはイオン性基が導入されていないことが好ましい。例えば、モノマー(C)のポリアルキレングリコール鎖の末端はヒドロキシ基であってもよく、ヒドロキシ基にノニオン性の官能基が導入されたものであってもよい。具体的には、ポリアルキレングリコール鎖の末端のヒドロキシ基に、炭化水素基が導入されていてもよい。
炭化水素基としては、炭素数1~20のアルキル基、又は炭素数1~10のアルキル基で置換されていてもよいアリール基が好ましく、より好ましくは、炭素数1~10のアルキル基である。
炭素数1~10のアルキル基としては、例えば炭素数1~10、好ましくは炭素数1~8、より好ましくは炭素数1~4であって、直鎖又は分岐鎖のアルキル基が好ましい。例えば、メチル基、エチル基、トリメチル基、プロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基、sec-ブチル基等が挙げられ、好ましくはメチル基又はエチル基である。
【0044】
モノマー(C)において、1分子中に1個のAO付加モル数が15以上のポリオキシアルキレン鎖が含まれればよく、2個以上のAO付加モル数が15以上のポリオキシアルキレン鎖が含まれてもよい。
モノマー(C)としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、又はこれらの誘導体に、AO付加モル数が15以上のポリオキシアルキレン鎖が導入された化合物を用いることができる。これによって、主鎖が(メタ)アクリル骨格となる共重合体を提供することができる。
例えば、(メタ)アクリル酸とポリアルキレングリコールとのエーテル、ポリアルキレングリコールによって変性された(メタ)アクリレート等が挙げられる。ポリアルキレングリコール変性(メタ)アクリレートは、例えば、イソシアネート基等の起点となる官能基を導入した(メタ)アクリレートにポリアルキレングリコールを反応させて得ることができる。
【0045】
モノマー(C)の具体例としては、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ステアロキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート;ポリエチレングリコール変性の2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール-プロピレングリコール-モノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール-トリメチレングリコール-モノ(メタ)アクリレート;ポリエチレングリコール-アリルエーテル、メトキシポリエチレングリコール-アリルエーテル、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール-アリルエーテル、ポリプロピレングリコール-アリルエーテル、ポリエチレングリコール-ジアリルエーテル、ポリプロピレングリコール-ジアリルエーテル;メトキシポリエチレングリコールアクリルアミド等が挙げられる。
【0046】
モノマー(C)の市販品としては、例えば、株式会社ADEKA製「アデカリアソープER-20」、日油株式会社製「ブレンマーPME1000」、新中村化学工業株式会社製のNKエステルM-230G(商品名)、日油株式会社製の「ブレンマーPME-4000」、共栄社化学株式会社製「ライトエステル041MA」等が挙げられる(いずれも商品名)。
共重合体において、モノマー(C)は1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
モノマー(D)は、アルキレンオキシド(AO)の付加モル数が15以上のポリオキシアルキレン鎖と、スルホ基とを含むビニル系モノマーである。
分散剤において、モノマー(D)由来のスルホ基は、高い静電反発効果を発現し、低極性溶剤を含んだ場合であっても顔料の高い分散性を得ることができる。一方で、モノマー(D)由来のスルホ基のみで十分な反発力を得ようとすると分子内でのモノマー(D)由来のスルホ基同士の反発効果が強くなり、モノマー(A)由来の単位及びモノマー(B)由来の単位が顔料に吸着するのを妨げてしまうことがある。そのため、モノマー(C)由来のノニオン性のポリオキシアルキレン鎖を導入することで、モノマー(D)由来のスルホ基同士の反発効果をある程度低減することができる。
【0048】
ポリオキシアルキレン鎖において、AO付加モル数は、15以上が好ましく、18以上がより好ましく、20以上がさらに好ましい。これによって、水性インク中において、水を多く含む状態とともに、水分が蒸発して少なくなった状態においても、分散安定性をより良好に維持することができる。
ポリオキシアルキレン鎖において、AO付加モル数は、50以下が好ましく、45以下がより好ましく、40以下がさらに好ましい。これによって、水性インク中において、水の配合量が少ない状態、又は水分が蒸発して少なくなった状態において、分散剤自体の増粘を防止し、インク全体の粘度上昇を防止することができる。
モノマー(D)において、ポリオキシアルキレン鎖のAO付加モル数は、15~50が好ましく、18~45がより好ましく、20~40がさらに好ましい。
【0049】
AO付加モル数が15以上のポリオキシアルキレン鎖を含むビニル系モノマーは、AO付加モル数が15以上のポリオキシアルキレン鎖とエチレン性不飽和結合とを含む化合物を好ましく用いることができる。
ポリオキシアルキレン鎖としては、1種又は2種以上のアルキレンオキシド基が連続して結合している結合鎖を用いることができる。
アルキレンオキシド基としては、炭素数が1~10が好ましく、炭素数1~8がより好ましく、炭素数2~4がさらに好ましく、炭素数2又は3が一層好ましい。好ましいアルキレンオキシド基及びポリエチレングリコール鎖の詳細については、上記モノマー(C)で説明した通りである。
【0050】
モノマー(D)の分子量は、1000~4000が好ましく、1200~3000がより好ましい。
【0051】
モノマー(D)は、ポリアルキレングリコール鎖の末端のヒドロキシ基にスルホ基が導入されたものが好ましい。スルホ基がポリオキシアルキレン鎖の末端に導入されることで、架橋反応性化合物と反応しにくく、分散剤において架橋反応後も静電反発効果が発現しやすくなる。
【0052】
モノマー(D)由来のスルホ基は、モノマー(A)由来のカルボキシ基に比べて架橋反応性が低く、モノマー(D)由来のスルホ基が架橋反応に関与しないで分散剤に残っていることで、高い静電反発効果を発現し、低極性溶剤を含んだ場合であっても顔料の高い分散性を得ることができる。
スルホ基は、NH、Na、K、Li、有機アミン等の対イオンによって塩を形成していてもよい。
【0053】
モノマー(D)にスルホ基を導入する方法としては、AO付加モル数が15以上であるポリオキシアルキレン鎖を有するモノマーを化学修飾剤によって処理する方法がある。
スルホ基を導入するための化学修飾剤としては、例えば、スルファミン酸、トリクロロエチルスルフェート、フェニルスルフェート等が挙げられる。
【0054】
モノマー(D)において、1分子中に1個のAO付加モル数が15以上のポリオキシアルキレン鎖が含まれればよく、2個以上のAO付加モル数が15以上のポリオキシアルキレン鎖が含まれてもよい。
モノマー(D)としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、又はこれらの誘導体に、AO付加モル数が15以上のポリオキシアルキレン鎖が導入された化合物を用いることができる。これによって、主鎖が(メタ)アクリル骨格となる共重合体を提供することができる。
例えば、(メタ)アクリル酸とポリアルキレングリコールとのエーテル、ポリアルキレングリコールによって変性された(メタ)アクリレート等において、ポリアルキレングリコールのヒドロキシ基にスルホ基を導入した化合物等が挙げられる。
【0055】
モノマー(D)の具体例としては、ビニル基を有する脂肪族ポリエチレングリコールグリセリルエーテルのスルホン酸アンモニウム塩、ビニル基を有する芳香族ポリエチレングリコールグリセリルエーテルのスルホン酸アンモニウム塩、1-プロペニル基を有するポリエチレングリコール-αメチルベンジルエーテルのスルホン酸アンモニウム塩、1-プロペニル基を有するポリエチレングリコール-ノニルフェニルエーテルのスルホン酸アンモニウム塩、ポリエチレングリコール変性の2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレートのスルホン酸アンモニウム塩等が挙げられる。
また、モノマー(D)の具体例としては、上記したモノマー(C)の具体例の中からポリアルキレングリコール鎖の末端がヒドロキシ基である化合物に化学修飾してスルホ基を導入したモノマーを用いることができる。
【0056】
モノマー(D)の市販品としては、例えば、「アデカリアソープSRシリーズ、SEシリーズ」(株式会社ADEKA製)、「アクアロンARシリーズ、BCシリーズ、KHシリーズ」(第一工業製薬株式会社製)等が挙げられる(いずれも商品名)。
共重合体において、モノマー(D)は1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0057】
分散剤を形成するための共重合体は、上記した成分に加えて、さらにその他のモノマーを用いて形成されてもよい。以下、その他のモノマーを単にモノマー(E)とも記す。
モノマー(E)として、疎水性モノマーを用いることができる。これによって、共重合体によって形成される分散剤において、親水性を示す部位と、疎水性を示す部位とがバランスよく構成され、分散安定性をより改善することができる。
疎水性モノマーとしては、(メタ)アクリレート、芳香環含有モノマー等が挙げられ、好ましくは(メタ)アクリレートである。
【0058】
その他のモノマー(E)の具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート(例えば、n-又はイソプロピル(メタ)アクリレート)、ブチル(メタ)アクリレート(例えば、n-、イソ、sec-又はtert-ブチル(メタ)アクリレート)、ペンチル(メタ)アクリレート(例えば、n-、イソ又はネオペンチル(メタ)アクリレート)、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート(例えば、n-又はイソオクチル(メタ)アクリレート)、デシル(メタ)アクリレート(例えば、n-又はイソデシル(メタ)アクリレート)、ドデシル(メタ)アクリレート(例えば、n-又はイソドデシル(メタ)アクリレート)、ステアリル(メタ)アクリレート(例えば、n-又はイソステアリル(メタ)アクリレート)、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
さらに、その他のモノマー(E)の具体例としては、スチレン、α-メチルスチレン等のスチレン系モノマー;酢酸ビニル、安息香酸ビニル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル系ポリマー;マレイン酸エステル;フマル酸エステル;アクリロニトリル;メタクリロニトリル;α-オレフィン等が挙げられる。
共重合体において、モノマー(E)は1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
分散剤が顔料表面に吸着した状態で、分散剤の最外層がモノマー(D)に由来するイオン性のポリオキシアルキレン鎖となるように設計することで、スルホ基によって静電反発が起こりやすくなり好ましい。そのため、モノマー(D)に由来するポリオキシアルキレン鎖は、モノマー(C)に由来するポリオキシアルキレン鎖と同等か、長いことがより好ましい。
共重合体において、モノマー(C)のポリオキシアルキレン鎖のAO付加モル数と、モノマー(D)のポリオキシアルキレン鎖のAO付加モル数との比は、C:D=1:0.8~1:2であることが好ましく、1:0.8~1:1.5がより好ましい。
この付加モル数の比「C:D」は、モノマー(D)のAO付加モル数を基準に、1:0.8以上が好ましく、1:1以上がより好ましく、1:1.2以上がさらに好ましい。
この付加モル数の比「C:D」は、モノマー(D)のAO付加モル数を基準に、1:2以下が好ましく、1:1.5以下がより好ましい。
上記した範囲によって、分散剤の初期の顔料分散性をより高めることができ、印刷物の耐擦過性をより改善することができる。
【0060】
また、モノマー(C)のポリオキシアルキレン鎖のAO付加モル数及びモノマー(D)のポリオキシアルキレン鎖のAO付加モル数は、それぞれ独立的に40以下が好ましい。モノマー(C)のポリオキシアルキレン鎖のAO付加モル数及びモノマー(D)のポリオキシアルキレン鎖のAO付加モル数のうち少なくとも一方が40以下である場合に、より好ましくは両方が40以下である場合に、上記した付加モル数の比「C:D」が1:0.8~1:2、特に1:1~1:1.5であることが好ましい。
【0061】
共重合体において、モノマー(C)由来の単位とモノマー(D)由来の単位とは、モル比「C:D」で、1:3~1:0.3が好ましく、1:2~1:0.8がより好ましく、1:1.5~1:0.9がより一層好ましい。これによって、初期状態での顔料分散性と、長期間の分散安定性、特にヘッド放置等による水分蒸発後の分散安定性をより改善することができる。
【0062】
共重合体を形成する成分として、共重合体全量に対し、モノマー(A)は、10~50モル%が好ましく、モノマー(B)は、20~70モル%が好ましく、モノマー(C)は、10~30モル%が好ましく、モノマー(D)は、10~30モル%が好ましい。さらに、共重合体の合成にその他のモノマー(E)が用いられる場合は、共重合体全量に対し、モノマー(E)は、10~30モル%が好ましい。
【0063】
上記したモノマー混合物の共重合体によって形成される分散剤は、カルボキシ基を有する単位(A)、β-ジカルボニル基及びビフェニル基からなる群から選択される1種以上を含む単位(B)、アルキレンオキシドの付加モル数が15以上であるポリオキシアルキレン鎖を含むノニオン性の単位(C)、アルキレンオキシドの付加モル数が15以上であるポリオキシアルキレン鎖と、スルホ基とを含む単位(D)、選択的に導入されるその他の単位(E)を含むことができる。
この共重合体の一例としては、主鎖が(メタ)アクリル骨格を有することが好ましい。
【0064】
この共重合体に対して、各成分は以下の配合割合であることが好ましい。
モノマー(A)由来の単位は、共重合体全量に対し、10~50モル%が好ましく、20~40モル%がより好ましく、20~30モル%がさらに好ましい。モノマー(A)由来の単位が10モル%以上であることで、分散剤に十分な割合で架橋構造を含ませることができる。モノマー(A)由来の単位が50モル%以下であることで、分散剤の水溶性が高くなることを防止し、初期の分散性をより改善することができる。
モノマー(B)由来の単位は、共重合体全量に対し、20~70モル%が好ましく、30~60モル%がより好ましく、30~50モル%がさらに好ましい。
モノマー(C)由来の単位は、共重合体全量に対し、10~30モル%が好ましく、10~20モル%がより好ましい。
モノマー(D)由来の単位は、共重合体全量に対し、10~30モル%が好ましく、10~20モル%がより好ましい。
モノマー(E)由来の単位は、共重合体全量に対し、10~30モル%が好ましく、10~20モル%がより好ましい。
ここで、各単位の量は、合成系に投入したモノマーの合計量から求めることができる。
【0065】
モノマー(C)に由来する単位及びモノマー(D)に由来する単位の合計量は、共重合体全量に対し、10~80モル%が好ましく、20~50モル%がより好ましく、20~40モル%がさらに好ましい。
【0066】
インクは、上記した顔料及び分散剤を含み、分散剤が架橋構造を有する共重合体である。インクは、顔料及び分散剤が顔料複合体を形成し、顔料複合体が架橋構造を備えてもよい。このような架橋構造によって、共重合体同士の結合が強固になって分散剤の溶剤への溶出を抑制することができる。また、分散剤が顔料をより強固に被覆することになって、分散剤の顔料からの脱離を防止することからも、分散剤の溶剤への溶出を抑制することができる。
分散剤の架橋構造は、例えば、顔料に共重合体を付着させた状態で架橋剤を添加して、共重合体のモノマー(A)由来のカルボキシ基を基点として架橋反応を行うことで得ることができる。
架橋剤としては、多官能化合物を用いることができる。多官能化合物としては、例えば、カルボキシ基と反応性を有する官能基を2個以上有する化合物を用いることができる。
【0067】
多官能化合物は、1分子中に反応性基を2~6個有することが好ましく、3~5個有することがより好ましく、4個又は5個がさらに好ましい。
多官能化合物が1分子中に反応性基を2個以上、より好ましくは3個以上、さらに好ましくは4個以上有することで、分散剤の架橋構造による3次元網目構造の密度が高くなって、分散剤の溶媒への溶出をより防ぐことができる。
多官能化合物において、反応性基は共重合体のモノマー(A)由来のカルボキシ基と反応性を有するものであればよいが、多官能化合物は反応性基としてエポキシ基、より具体的にはグリシジル基を有することが好ましい。
多官能化合物は水性溶媒中で共重合体との架橋反応に用いられることから、多官能化合物は親水性を示すことが好ましい。例えば、多官能化合物には、ヒドロキシ基等の親水性基が導入されているとよい。
【0068】
多官能化合物としては、例えば、エポキシ系化合物、オキサゾリン系化合物、アジリジン系化合物、カルボジイミド系化合物等を挙げることができる。これらは単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0069】
エポキシ系化合物としては、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ジプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6-へキサンジオールジグリシジルエーテル、等の2官能のエポキシ系化合物;グリセロールトリグリシジルエーテル、等の3官能のエポキシ系化合物;ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、等の4官能のエポキシ系化合物;グリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、等のヒドロキシ基を任意的に有する多官能性のエポキシ系化合物等が挙げられる。
これらの中でも、ヒドロキシ基を有する多官能性のエポキシ系化合物が好ましく、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルがより好ましい。
【0070】
エポキシ系化合物の市販品としては、例えば、ナガセケムテックス株式会社製「デナコールEX-201、EX-211、EX-212、EX-313、EX-314、EX-321、EX-411、EX-421、EX-512、EX-521、EX-611、EX-612、EX-614、EX-614B」、「EX-200、EX-800、EX-900シリーズ」;共栄社化学株式会社製「エポライト40E、100E、200E、400E、70P、200P、400P、1500NP、1600、80MF」等を用いることができる(いずれも商品名)。
【0071】
オキサゾリン系化合物としては、例えば、オキサゾリン基を有する重合体が好ましい。オキサゾリン基を有する重合体としては、付加重合性オキサゾリンを必須成分として含む単量体成分を重合してなるものが好ましい。付加重合性オキサゾリン基含有単量体としては、2-ビニル-2-オキサゾリン、2-ビニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-ビニル-5-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-5-エチル-2-オキサゾリンが挙げられる。
【0072】
オキサゾリン系化合物の市販品としては、例えば、日本触媒株式会社製「エポクロスWS-300、500、700」、「エポクロスK-1010、1020、1030E」、「エポクロスK-2010、2020、2030」等を用いることができる(いずれも商品名)。
【0073】
アジリジン系化合物としては、分子中にアリジリン基を有する化合物であり、分子中に2個以上のアリジリン基を有する多官能アリジリン系化合物を用いることが好ましい。
例えば、2,2-ビスヒドロキシメチルブタノール-トリス[3-(1-アジリニジル)プロピオネート]、4,4-ビス(エチレンイミノカルボニルアミノ)ジフェニルメタン等を用いることができる。
アジリジン系化合物の市販品としては、例えば、株式会社日本触媒製ケミタイトシリーズの「PZ-33」、「DZ-22E」等を用いることができる(いずれも商品名)。
【0074】
カルボジイミド系化合物としては、分子中に「-N=C=N-」で表されるカルボジイミド基を有する化合物である。
例えば、環状カルボジイミド、イソシアナート末端カルボジイミド、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、アミノ基含有カルボジイミド、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩、N-t-ブチル-N-エチルカルボジイミド、ジ-t-ブチルカルボジイミド等を用いることができる。
【0075】
カルボジイミド系化合物の市販品としては、例えば、日清肪ケミカル株式会社製カルボジライトシリーズの「V-02B」、「V-04K」等を用いることができる(いずれも商品名)。
【0076】
モノマー(A)由来のカルボキシ基を基点として架橋構造を形成する場合は、架橋剤としてエポキシ系化合物を用いることが好ましく、なかでも、2~4個のエポキシ基を有するエポキシ系化合物が好ましく、2~4個のエポキシ基とともに親水性基を有するエポキシ系化合物がより好ましい。
【0077】
分散剤において、モノマー(A)由来のカルボキシ基のモル当量に対し、架橋剤の反応性基のモル当量は、10~50モル%であることが好ましい。例えば、反応系に投入される共重合体の量からカルボキシ基の当量を求め、このカルボキシ基の当量に対し上記範囲を満たす反応性基の当量となる架橋剤を添加するとよい。
【0078】
分散剤は、固形分量で、質量比で、顔料1に対し、0.1~10が好ましく、0.1~5がより好ましく、0.2~3であってもよい。
分散剤は、固形分量で、インク全量に対し、0.5~20質量%が好ましく、1~10質量%がより好ましく、1~5質量%がより好ましい。
ここで、分散剤の含有量は、モノマー混合物の共重合体の質量と架橋剤の質量との合計量である。
【0079】
架橋剤の配合量は、架橋前の共重合体1質量部に対して、0.005質量部以上であることが好ましく、より好ましくは0.02質量部以上である。
一方、架橋剤の配合量は、架橋前の共重合体1質量部に対して、0.5質量部以下であることが好ましく、より好ましくは0.1質量部以下である。
なお、本発明の効果を損なわない範囲で、一実施形態による分散剤に加えて、その他の分散剤がインク中に含まれてもよい。
【0080】
以下、分散剤の合成方法について説明する。なお、一実施形態による分散剤は、以下の合成方法によって合成されたものに限定されずに、上記した特徴を備える分散剤を用いることができる。
【0081】
分散剤の合成方法の一例としては、カルボキシル基を含むビニル系モノマー(A)、β-ジカルボニル基及びビフェニル基からなる群から選択される少なくとも1種を含むビニル系モノマー(B)、アルキレンオキシドの付加モル数が15以上のポリオキシアルキレン鎖を含むノニオン性のビニル系モノマー(C)、及びアルキレンオキシドの付加モル数が15以上のポリオキシアルキレン鎖と、スルホ基とを含むビニル系モノマー(D)を少なくとも含むモノマー混合物を用いて共重合体を合成すること、及び共重合体を架橋することを含む。好ましくは、共重合体は顔料の存在下で架橋される。モノマー混合物は、選択的にその他のモノマー(E)を含んでよい。
これによれば、分散安定性に優れる分散剤を提供することができる。
【0082】
具体的には、モノマー(A)、モノマー(B)、モノマー(C)、モノマー(D)、選択的に配合されるモノマー(E)を、一括又は分割して混合し、必要に応じて溶媒中で反応を進行させて、共重合体の合成を行うことができる。
【0083】
共重合体を得るためのモノマー混合物に対する各モノマーの配合割合は、上記した共重合体において好ましいモル比となるように適宜調節して配合するとよい。
重合は、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合のいずれであってもよい。例えば、ランダム共重合体は、各モノマー成分を一括して含む原料混合物を一括して重合することで得ることができる。また、ブロック共重合体は、先に1種類のモノマーを重合し、この重合体にさらに他のモノマーを重合する方法、先に1種類のモノマーをそれぞれ重合し、得られた複数種類の重合体をブロック重合する方法、リビング重合によって重合反応を制御する方法等によって得ることができる。グラフト共重合体は、1種類又は2種類以上のモノマーを用いて主鎖の共重合体を重合し、この共重合体に反応性基を導入させておき、この反応性基を起点に他のモノマーを重合する方法、又はこの反応性基を起点に他のモノマーを用いて重合した重合体を導入する方法等によって得ることができる。
【0084】
重合は、溶液重合法、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法等にしたがって行うことができ、好ましくは溶液重合法である。
溶液重合において用いる重合溶媒としては、例えば、エタノール、プロパノール等の炭素数1~3の脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸エチル等のエステル類等が挙げられる。重合溶媒は、モノマー成分を溶解可能であって、重合後に除去が可能であることが好ましいため、重合溶媒には、揮発性の高極性溶剤を用いることが好ましい。
【0085】
重合に際して、ラジカル重合開始剤、重合連鎖移動剤、RAFT剤等の各種添加剤を用いることができる。
ラジカル重合開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、ジメチル-2,2’-アゾビスブチレート、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、1,1’-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボニトリル)等のアゾ化合物を好ましく用いることができる。また、ラジカル重合開始剤として、t-ブチルペルオキシオクトエート、ジ-t-ブチルペルオキシド、ジベンゾイルオキシド等の有機過酸化物を用いることができる。
ラジカル重合開始剤の添加量は、モノマー100質量部に対し0.1~5質量部が好ましい。
【0086】
重合連鎖移動剤としては、例えば、オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、n-テトラデシルメルカプタン、2-メルカプトエタノール等のメルカプタン類;ジメチルキサントゲンジスルフィド、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド等のキサントゲンジスルフィド類;テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド等のチウラムジスルフィド類;四塩化炭素、臭化エチレン等のハロゲン化炭化水素類;ペンタフェニルエタン等の炭化水素類;アクロレイン、メタクロレイン、アリルアルコール、2-エチルヘキシルチオグリコレート、タービノーレン、α-テルピネン、γ-テルピネン、ジペンテン、α-メチルスチレンダイマー、9,10-ジヒドロアントラセン、1,4-ジヒドロナフタレン、インデン、1,4-シクロヘキサジエン等の不飽和環状炭化水素化合物;2,5-ジヒドロフラン等の不飽和ヘテロ環状化合物等が挙げられる。
【0087】
重合条件は、用いるモノマー、ラジカル重合開始剤等の添加剤、重合溶媒等に応じて適宜調節することができる。
通常、重合温度は、好ましくは30~120℃、より好ましくは50~100℃である。重合時間は、好ましくは10分~20時間であり、より好ましくは1時間~10時間である。また、反応雰囲気は、非酸化性雰囲気が好ましく、不活性雰囲気がより好ましく、具体的には窒素雰囲気、アルゴン雰囲気等が好ましい。
塊状重合の場合は、溶媒なしで反応を行う以外は、溶液重合と同じような反応を行ってよい。重合条件も溶液重合と同じでよい。
【0088】
架橋前の状態において分散剤の重量平均分子量(Mw)は、5,000~100,000程度が好ましく、5,000~50,000がより好ましい。分散剤の数平均分子量(Mn)は、3,000~100,000程度が好ましく、4,000~50,000がより好ましい。分散剤の分子量分布Mw/Mnは、1.0~2.0が好ましい。
ここで、重量平均分子量及び数平均分子量は、いずれも、GPC法で標準ポリスチレン換算で求めた値である。
【0089】
次に、得られた共重合体を架橋する方法について説明する。架橋反応は共重合体と顔料の存在下で行うことが好ましい。これによって、顔料に共重合体が付着した状態で架橋構造が形成されるため、顔料への分散剤の吸着性をより高めることができる。
一方法では、得られた共重合体と顔料とを水性溶媒に添加し、混合及び分散させプレ顔料分散体を得て、次いで、プレ顔料分散体に架橋剤として多官能化合物を添加して架橋反応を行うことができる。多官能化合物には、上記したものを用いることができる。
具体的には、顔料、共重合体、水及び水溶性溶剤を含む混合物をビーズミル等の分散機を用いて分散させてプレ顔料分散体を得て、次いで、プレ顔料分散体に多官能化合物、希釈用の水溶性溶剤及び水を添加して、顔料分散体を得ることができる。プレ顔料分散体は、顔料の平均粒子径が10~200nm程度になるように分散することが好ましい。また、得られた顔料分散体をフィルター等を用いてろ過してもよい。また、各種添加剤を適宜添加してもよい。
【0090】
架橋反応は加熱下で行うことが好ましく、架橋反応の温度は50~70℃が好ましい。
架橋反応の時間は、特に制限されないが、5~20時間であってよい。
架橋反応を促進するために、反応促進剤を用いてもよい。反応促進剤としては、例えば、三級アミン、ホウ酸、ホウ酸エステル、有機金属化合物、イミダゾール等が挙げられる。
【0091】
得られた架橋反応の生成物は、そのままインクとして用いてもよいし、希釈溶媒を添加してインクとして提供することも可能であるし、あるいは、架橋反応で用いた溶媒を除去しインク用の溶媒を添加してインクとして提供することも可能である。
【0092】
次に、モノマー(A)由来のカルボキシ基を中和する方法について説明する。モノマー(A)由来のカルボキシ基を中和する段階は、モノマー混合物から共重合体を得た後に中和剤を添加して行うことが好ましい。モノマー(A)由来のカルボキシ基を中和する段階は、架橋剤を添加して架橋反応を行う前に中和剤を添加して行うことが好ましい。
一方法では、得られた共重合体と顔料とを水性溶媒に添加し、さらに中和剤を添加して、混合及び分散させプレ顔料分散体を得て、次いで、プレ顔料分散体に架橋剤として多官能化合物を添加して架橋反応を行うことができる。中和剤及び多官能化合物には、上記したものを用いることができる。
【0093】
水性インクは、水性溶媒として水を含むことが好ましく、主溶媒が水であってもよい。
水としては、特に制限されないが、イオン成分をできる限り含まないものが好ましい。特に、インクの顔料分散安定性の観点から、カルシウム等の多価金属イオンの含有量が少ないことが好ましい。水としては、例えば、イオン交換水、蒸留水、超純水等を用いるとよい。
水は、インク粘度の調整の観点から、インク全量に対して20質量%~90質量%で含まれることが好ましく、30質量%~80質量%で含まれることがより好ましく、40質量%~70質量%がさらに好ましい。
【0094】
水性インクは、水溶性溶剤を含むことができる。水溶性溶剤は、水と相溶性を示すことが好ましい。水溶性溶剤としては、濡れ性及び保湿性の観点から、室温で液体であり、水に溶解又は混和可能な有機化合物を使用することができ、1気圧20℃において同容量の水と均一に混合する水溶性溶剤を用いることが好ましい。
水溶性溶剤の沸点は170~250℃が好ましい。水溶性溶剤の沸点が170℃以上、より好ましくは200℃以上であることで、インク中からの水溶性溶剤の蒸発を抑制して機上安定性をより改善することができる。水溶性溶剤の沸点が250℃以下であることで、印刷物の乾燥性をより高めることができる。
【0095】
水溶性溶剤としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-ヘキサンジオール等のグリコール類;グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、ポリグリセリン等のグリセリン類;モノアセチン、ジアセチン等のアセチン類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類;1-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、β-チオジグリコール、スルホラン等を用いることができる。
これらは、1種単独で用いてもよく、また、単一の相を形成する限り、2種以上混合して用いてもよい。
【0096】
水溶性溶剤として、Fedors式から算出されるSP値が13(cal/cm1/2未満の溶剤を用いることが好ましい。これによって、基材、特に非浸透性基材へのインクの濡れ性を高めて、基材上でのインクの弾きやムラを防止することができる。また、顔料及び分散剤に対する濡れ性をより高めて、機上安定性をより改善することもできる。同様の観点から、水溶性溶剤としてアルコール系溶剤を好ましく用いることができる。
なかでも、SP値が13(cal/cm1/2未満のアルコール系溶剤は、分散剤の構造に含まれるポリオキシアルキレン鎖と溶媒和しやすく、分散安定性を良好に維持することができる。
SP値が13(cal/cm1/2未満のアルコール系溶剤としては、例えば、1,2-ブタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノベンジルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。これらは、水性インク中に1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらのアルコール系溶剤とともにその他の水溶性溶剤を併用してもよい。
【0097】
保湿性の観点から、SP値が13(cal/cm1/2以上の水溶性溶剤を含んでもよい。SP値が13(cal/cm1/2以上の水溶性溶剤としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等が挙げられる。
【0098】
水溶性溶剤は、濡れ性、保湿効果、粘度調節等の観点から、インク全量に対し、1~80質量%で含ませることができ、10~60質量%であることがより好ましく、20~50質量%がより好ましい。
SP値が13(cal/cm1/2未満のアルコール系溶剤は、インク全量に対し、1~50質量%で含ませることができ、10~30質量%であることがより好ましく、10~20質量%がより好ましい。
【0099】
水性インクには、上記した各成分に加え、任意的に、定着樹脂、pH調整剤、消泡剤、湿潤剤(保湿剤)、表面張力調整剤(浸透剤)、防腐剤、定着剤、酸化防止剤等の各種添加剤を適宜配合してもよい。
【0100】
pH調整剤として、例えば、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機塩基;硫酸、硝酸、酢酸等の酸;トリエタノールアミン、アミノメチルプロパノール、アミノエチルプロパノール、ジメチルエタノールアミン、トリエチルアミン、ジエチルエタノールアミン、ジメチルアミノプロパノール等のアミン類等を挙げることができる。
pH調整剤は、インク全量に対し0.1~5質量%が好ましく、0.1~1質量%がより好ましい。
インクのpHが7以上を保つようにすることで、モノマー(D)のスルホ基が中和され、電荷を持つようになり、静電反発により顔料の凝集を防ぎ安定性が確保されることになる。したがって、インクのpHは7以上が好ましく、より好ましくは7.5以上である。
上記した通り、pH調整剤として塩基性化合物を用いる場合は、塩基性化合物は架橋反応を阻害する可能性があるため、これらの添加剤は架橋反応後に添加することが好ましい。
【0101】
界面活性剤は、消泡剤、湿潤剤(保湿剤)、表面張力調整剤(浸透剤)等として用いることができる。
界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルフェノール、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル等が挙げられる。アセチレングリコール系界面活性剤としては、例えば、日信化学工業株式会社製「サーフィノール465」(商品名)等を例示することができる。シリコーン系界面活性剤としては、例えば、日信化学工業株式会社製「シルフェイスSAG002」(商品名)等を例示することができる。
界面活性剤は、インク全量に対し0.1~10質量%が好ましく、0.1~5質量%がより好ましい。
【0102】
水性インクの粘度は、インクジェット記録システムの吐出ヘッドのノズル径や吐出環境等によってその適性範囲は異なるが、一般に、23℃において1~30mPa・sであることが好ましく、3~15mPa・sであることがより好ましい。水性インクの粘度は回転粘度計を用いて測定することができる。
【0103】
一実施形態による水性インクジェットインクは、未処理の基材に対して印刷を施してもよく、又は、前処理剤によって処理された基材に対して印刷を施してもよい。特に、基材として非浸透性基材を用いる場合では、水性インクジェットインクが基材に浸透しにくいため、前処理剤によって基材を処理することが好ましい。
前処理剤は、例えば、水性溶媒とともに、界面活性剤、凝集剤、無機粒子等、又はこれらの組み合わせを含むことが好ましい。より好ましくは、前処理剤は、水性溶媒と、界面活性剤及び/又は凝集剤とを含む。また、前処理剤は、凝集剤を基材に定着させるためにバインダー樹脂を含んでもよい。
【0104】
基材にインクを塗工した後に、基材を後処理してオーバーコート層を形成する工程をさらに設けてもよい。基材を後処理する方法としては、基材に後処理剤を付与して行うことができる。後処理剤としては、例えば、皮膜を形成可能な樹脂と、水性溶媒又は油性溶媒とを含む後処理液を用いることができる。
【0105】
以下、印刷物の製造方法の一例について説明する。
印刷物の製造方法は、例えば、水性インクジェットインクを用いて基材に画像を形成することを含むことができる。水性インクジェットインクには、上記した水性インクジェットインクを用いることができる。また、水性インクジェットによる画像形成の前に、前処理剤を用いて基材を処理することを含むことができる。
【0106】
水性インクジェットインクを用いて基材に画像を形成する方法としては、インクジェット印刷方法を用いて行うことができる。インクジェット印刷方法は、基材に非接触で、オンデマンドで簡便かつ自在に画像形成をすることができる。
インクジェット印刷方法は、特に限定されず、ピエゾ方式、静電方式、サーマル方式など、いずれの方式のものであってもよく、例えば、デジタル信号に基づいてインクジェットヘッドからインクを吐出させ、吐出されたインク液滴を基材に付着させるようにすることができる。
【0107】
水性インクを付与するための基材は、特に限定されるものではなく、普通紙、コート紙、特殊紙等の印刷用紙、布、無機質シート、フィルム、OHPシート等、これらを基材として裏面に粘着層を設けた粘着シート等を用いることができる。
ここで、普通紙は、通常の紙の上にインクの受容層やフィルム層等が形成されていない紙である。普通紙の一例としては、上質紙、中質紙、PPC用紙、更紙、再生紙等を挙げることができる。
【0108】
また、コート紙としては、マット紙、光沢紙、半光沢紙等のインクジェット用コート紙や、いわゆる塗工印刷用紙を好ましく用いることができる。ここで、塗工印刷用紙とは、従来から凸版印刷、オフセット印刷、グラビア印刷等で使用されている印刷用紙であって、上質紙や中質紙の表面にクレーや炭酸カルシウム等の無機顔料と、澱粉等のバインダーを含む塗料により塗工層を設けた印刷用紙である。塗工印刷用紙は、塗料の塗工量や塗工方法により、微塗工紙、上質軽量コート紙、中質軽量コート紙、上質コート紙、中質コート紙、アート紙、キャストコート紙等に分類される。
【0109】
基材は浸透性基材及び非浸透性基材のいずれであってもよい。一実施形態による水性インクは、低極性溶剤を用いた場合でも分散剤の溶媒への溶出を防止することができるため、低極性溶剤を水性インクに含ませることで、非浸透性基材への印刷をインクの弾きやムラを防いで行うことができる。
【0110】
(他の実施形態)
本発明の他の実施形態によれば、カルボキシル基を含むビニル系モノマー(A)、β-ジカルボニル基及びビフェニル基からなる群から選択される少なくとも1種を含むビニル系モノマー(B)、アルキレンオキシドの付加モル数が15以上のポリオキシアルキレン鎖を含むノニオン性のビニル系モノマー(C)、及びアルキレンオキシドの付加モル数が15以上のポリオキシアルキレン鎖と、スルホ基とを含むビニル系モノマー(D)を含むモノマー混合物の共重合体であり架橋構造を有する分散剤と、顔料とを含む、顔料複合体を提供することができる。分散剤及び顔料の詳細は上記した通りである。
この実施形態において、架橋構造は、共重合体-共重合体あるいは共重合体-顔料表面で架橋されていてもよい。この顔料複合体は、架橋構造によって、分散体やインクに低極性溶剤を含んだ場合であっても、顔料表面からの分散剤の脱離を防ぐことができる。
【0111】
本発明のさらに他の実施形態によれば、カルボキシル基を含むビニル系モノマー(A)、β-ジカルボニル基及びビフェニル基からなる群から選択される少なくとも1種を含むビニル系モノマー(B)、アルキレンオキシドの付加モル数が15以上のポリオキシアルキレン鎖を含むノニオン性のビニル系モノマー(C)、及びアルキレンオキシドの付加モル数が15以上のポリオキシアルキレン鎖と、スルホ基とを含むビニル系モノマー(D)を含むモノマー混合物の共重合体を含む、分散用共重合体を提供することができる。共重合体の詳細は上記した通りである。
この実施形態では、分散用共重合体の共重合体において、ビニル系モノマー(A)に由来するカルボキシ基が架橋基点となる。例えば、この分散用共重合体と分散質とを混合した状態で、架橋剤を添加することで、共重合体-共重合体あるいは共重合体-分散質表面で架橋構造が形成され得る。このように分散用共重合体によって分散された分散体は、架橋構造によって、低極性溶剤を含んだ場合であっても、分散質表面からの分散剤の脱離を防ぐことができる。分散質としては、顔料、樹脂粒子、シリカ粒子、ガラス粒子、その他のセラミックス粒子等が挙げられる。この組成物は分散媒の主溶媒として水を含むことが好ましく、水溶性有機溶剤を含んでもよい。
【0112】
本発明のさらに他の実施形態によれば、カルボキシル基を含むビニル系モノマー(A)、β-ジカルボニル基及びビフェニル基からなる群から選択される少なくとも1種を含むビニル系モノマー(B)、アルキレンオキシドの付加モル数が15以上のポリオキシアルキレン鎖を含むノニオン性のビニル系モノマー(C)、及びアルキレンオキシドの付加モル数が15以上のポリオキシアルキレン鎖と、スルホ基とを含むビニル系モノマー(D)を含むモノマー混合物を用いて共重合体を合成すること、共重合体を用いて分散質を分散すること、及び共重合体を分散質の存在下で架橋することを含む、分散体の製造方法を提供することができる。共重合体の詳細は上記した通りである。
この実施形態では、共重合体を用いて分散質を分散させ、共重合体を分散質の存在下で架橋することで、共重合体-共重合体あるいは共重合体-分散質表面で架橋構造が形成され得る。このように架橋された分散体は、架橋構造によって、低極性溶剤を含んだ場合であっても、分散質表面からの分散剤の脱離を防ぐことができる。分散質としては、顔料、樹脂粒子、シリカ粒子、ガラス粒子、その他のセラミックス粒子等が挙げられる。分散媒は、主溶媒が水であることが好ましく、水溶性有機溶剤を含んでもよい。
上記した分散体の製造方法は、共重合体を顔料の存在下で架橋することによって、顔料分散体を製造することに好ましく応用することができる。この顔料分散体の製造方法によれば、例えば、上記した水性インクジェットインクを好ましく製造することができる。
【実施例0113】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。本発明は以下の実施例に限定されない。各表において「-」は未添加を表す。
【0114】
「モノマーの合成」
(モノマー1)
ポリエチレングリコール1540をジクロロメタンに溶解し、フラスコで40℃にて攪拌した。カレンズAOIをジクロロメタンに溶解し、滴下ロートで1時間かけてフラスコに加えた。その後、8時間加熱攪拌し、生成物をカラムクロマトグラフィーで分離した。
さらに生成物をジクロロメタンに溶解し、スルファミン酸を添加し、120℃3時間攪拌した。
生成物をカラムクロマトグラフィーで分離して、モノマー1を得た。
得られたモノマー1は、2-イソシアナトエチルアクリラートのNCO基にポリエチレングリコール鎖が付加モル数34で導入され、ポリエチレングリコール鎖の末端にスルホ基が配向した構造を有する。
【0115】
(モノマー2)
ポリエチレングリコール1000をジクロロメタンに溶解し、フラスコで40℃にて攪拌した。カレンズAOIをジクロロメタンに溶解し、滴下ロートで1時間かけてフラスコに加えた。その後、8時間加熱攪拌し、生成物をカラムクロマトグラフィーで分離した。
上記で得られた生成物をアセトンに溶解し、氷冷中でジョーンズ試薬を1時間かけて添加した。その後、2-プロパノールを過剰に添加して吸引ろ過し、アセトンを揮発させた。最後に生成物を洗浄して、モノマー2を得た。
得られたモノマー2は、2-イソシアナトエチルアクリラートのNCO基にポリエチレングリコール鎖が付加モル数23で導入され、ポリエチレングリコール鎖の末端にカルボキシ基が配向した構造を有する。
【0116】
用いた成分は以下の通りである。
ポリエチレングリコール1540(商品名):EOモル数34、富士フイルム和光純薬株式会社製。
ポリエチレングリコール1000(商品名):EOモル数23、富士フイルム和光純薬株式会社製。
2-イソシアナトエチルアクリラート:昭和電工株式会社製「カレンズAOI」(商品名)。
ジクロロメタン:富士フイルム和光純薬株式会社製。
N,N-ジメチルホルムアミド:富士フイルム和光純薬株式会社製。
EOは、エチレンオキシドを示す。以下同じ。
【0117】
「実施例1~13、比較例1」
実施例1~13、比較例1について、用いた共重合体の処方を表1に示し、インク処方を表2及び表3に示す。
(1)共重合体1の合成
表1に示す原材料をフラスコに入れ、窒素でバブリング後、窒素雰囲気下で70℃6時間加熱攪拌した。エバポレーターで溶剤を留去し、樹脂分100質量%の共重合体1を得た。
モノマーの仕込み量から、共重合体のモノマー比率を求めた。
【0118】
(2)インクの作製
表2及び表3に示す(1)分散処方に示す顔料、共重合体、水、中和剤をポリプロピレン(PP)ボトルに入れ、ロッキングミルで分散し、顔料分散液を得た。ロッキングミルの条件は、φ0.5mmジルコニアビーズ、60Hz、3時間とした。共重合体には、共重合体1を用いた。
#120メッシュでビーズを濾別後、分散液をガラス瓶に移し、(1)分散処方に示す架橋剤を添加してマグネチックスターラーで攪拌して架橋反応させ、架橋顔料分散液を得た。攪拌条件は、65℃、16時間、600rpmとした。
#355メッシュで架橋顔料分散液を濾別後、(2)インク処方に示す溶剤、界面活性剤、水を追加し、3μmフィルターでろ過してインクを得た。
【0119】
「実施例14~20」
実施例14~20では、それぞれ共重合体2~8を用いて水性インクを作製した。共重合体2~8の処方、実施例14~20のインク処方を表4に示す。
上記共重合体1の合成において、共重合体の処方を表中に示す処方とした以外は同じ手順で、樹脂分100質量%の共重合体2~8を合成した。上記実施例1において、共重合体2~8を用いてインクの処方を表中に示す処方とした以外は同じ手順で、実施例14~20のインクを作製した。
【0120】
「比較例2~6」
比較例2~6では、それぞれ共重合体9~13を用いて水性インクを作製した。共重合体9~13の処方、比較例2~6のインク処方を表5に示す。
上記共重合体1の合成において、共重合体の処方を表中に示す処方とした以外は同じ手順で、樹脂分100質量%の共重合体9~13を合成した。上記実施例1において、共重合体9~13を用いてインクの処方を表中に示す処方とした以外は同じ手順で、比較例2~6のインクを作製した。
各比較例では、モノマーの仕込み量から、共重合体のモノマー比を求める際に、参考モノマー(B’)、(D’)は、それぞれモノマー(B)、(D)に含めて計算した。(D)/(C)のEO鎖の付加モル数の比も同様に計算した。
【0121】
用いた成分は以下の通りである。
「共重合体」
モノマー(A);
アクリル酸:富士フイルム和光純薬株式会社製。
メタクリル酸:富士フイルム和光純薬株式会社製。
2-アクリロイロキシエチル-コハク酸:「ライトアクリレート HOA-MS(N)」(商品名)、共栄社化学株式会社製。
モノマー(B)及び(B’);
AAEM:エチレングリコールモノアセトアセタートモノメタクリラート、β-ジカルボニル基を有するモノマー、東京化成工業株式会社製。
A-LEN-10(商品名):エトキシ化フェニルフェノールアクリレート、ビフェニル基を有するモノマー、新中村化学工業株式会社製。
メタクリル酸ベンジル:フェニル基を有するモノマー、富士フイルム和光純薬株式会社製。
【0122】
モノマー(C);
ブレンマーPME400(商品名):メトキシポリエチレングリコールメタクリレート、n=9;ノニオン性、日油株式会社製。
ブレンマーPME1000(商品名):メトキシポリエチレングリコールメタクリレート、n=23;ノニオン性、日油株式会社製。
ライトエステル041MA(商品名):メトキシポリエチレングリコールメタクリレート、n=30;ノニオン性、共栄社化学株式会社製。
モノマー(D)及び(D’);
アデカリアソープSR-10(商品名):n=10、末端基:-SONH、株式会社ADEKA製。
アデカリアソープSR-20(商品名):n=20、末端基:-SONH、株式会社ADEKA製。
モノマー1:n=34モル、末端基:-SONH、上記合成処方によって合成したもの。
モノマー2:n=23モル、末端基:-COONH、上記合成処方によって合成したもの。
【0123】
開始剤;AIBN(2,2’-Azobis(isobutyronitrile)):東京化成工業株式会社製。
連鎖移動剤;ラウリルメルカプタン:東京化成工業株式会社製。
2-プロパノール:東京化成工業株式会社製。
nは、ポリエチレングリコール鎖のエチレンオキシド(EO)の付加モル数を示す。表中も同じ。
【0124】
(インク)
顔料;
カーボンブラック「MA8」(商品名):三菱ケミカル株式会社製。
銅フタロシアニン顔料:「クロモファイン4927」(商品名)、大日精化工業株式会社製。
キナクリドン顔料:「FASTOGEN SUPER MAGENTA R」(商品名)、DIC株式会社製。
縮合ジスアゾ系顔料:「Hansa Brilliant Yellow 5GX」(商品名)、クラリアント社製。
カーボンブラック「#45」(商品名):三菱ケミカル株式会社製。
架橋剤;
デナコールEX-521(商品名):4官能以上のエポキシ化合物、ナガセケムテックス株式会社製。
デナコールEX-411(商品名):3~4官能のエポキシ化合物、ナガセケムテックス株式会社製。
エポライト200E(商品名):2官能のエポキシ化合物、ナガセケムテックス株式会社製。
界面活性剤;
シルフェイスSAG002(商品名):シリコーン系界面活性剤、日信化学工業株式会社製。
中和剤及び溶剤は、東京化成工業株式会社又は富士フイルム和光純薬株式会社より入手可能である。
【0125】
溶剤のSP値は以下の通りである。
ジエチレングリコール:14.97(cal/cm1/2
1,2-ヘキサンジオール:11.80(cal/cm1/2
ジエチレングリコールモノブチルエーテル:10.51(cal/cm1/2
【0126】
表中に示す中和度は、架橋前のモノマー(A)由来のカルボキシ基のモル当量数に対する中和剤のモル当量数から求めた。
【0127】
「評価方法」
(1)保存安定性評価
まず、インク作製直後のインクの粘度を測定した。次に、インクを密閉容器に入れ、70℃環境下で4週間放置した。その後、インクの粘度を測定し、以下の計算式にしたがって粘度変化率を求めた。そして、以下の基準にしたがって貯蔵安定性を評価した。
インク粘度は、アントンパール社製レオメーター「MCR302」(コーン角度1°、直径50mm)を用いて、23℃で測定した。
粘度変化率:[((4週間後の粘度)-(粘度の初期値))/(粘度の初期値)]×100(%)
AA:粘度変化率の絶対値が5%以下。
A:粘度変化率の絶対値が5%超過10%以下。
B:粘度変化率が絶対値が10%超過20%以下。
C:粘度変化率が絶対値が20%超過、あるいはインクがゲル化して測定できない。
【0128】
(2)印刷物評価
得られたインクを用いて以下の条件で印刷物を作製した。
プリンタ:解像度300npiのピエゾ式プリントヘッドを備えるシャトル式プリンタ。
印刷基材:塩ビ基材、AveryDennison MPI3002P WPE。
印刷条件:解像度:1200×600dpi、画像:30cm×30cm角のベタ画像。
得られた印刷物の画質について、以下の基準で評価した。
A:均一なベタが形成。
B:ムラが発生。
C:吐出不良が発生し、正しく印刷できない。
【0129】
【表1】
【0130】
【表2】
【0131】
【表3】
【0132】
【表4】
【0133】
【表5】
【0134】
各表に示す通り、各実施例のインクは、適切な共重合体が配合されていて、共重合体が架橋されていて、貯蔵安定性が良好であった。また、各実施例のインクは、塩ビ基材への印刷に適することがわかる。
【0135】
実施例1~4を通して、低極性溶剤を含むインクである実施例1,2,4においても、極性溶剤のみを含むインクである実施例3と同様に保存安定性を良好に維持することができることがわかる。また、実施例1,2,4は、低極性溶剤を含むことから非浸透性基材への濡れ性が改善され、印刷物の画像が良好であった。実施例3では、低極性溶剤が含まれないことから、非浸透性基材への濡れ性が不足し、印刷物にムラが発生した。
実施例5~8を通して、各種の顔料で良好な結果が得られることがわかる。
【0136】
実施例1,9,10を通して、架橋剤の水溶性がより高く、官能基数がより多い実施例1においてより強固な架橋構造が形成されたと考えられ、実施例1において保存安定性がより良好であった。
実施例1,11~13を通して、モノマー(A)のカルボキシ基の中和度の影響を確認することができる。カルボキシ基の中和度は40~90モル%が好ましく、中和度が低いと静電反発力が不足して初期分散性が低下し、中和度が高いと架橋剤との反応性が低くなり、あるいは架橋剤の失活により十分な架橋反応が行われずに、保存安定性が低下すると考えられる。
【0137】
実施例14~20を通して、各種の共重合体を用いた分散剤で良好な結果が得られることがわかる。
実施例1,14,15を通して、モノマー(A)がアクリル酸又はメタクリル酸である例で保存安定性がより良好であった。これは、共重合体の主骨格から離れた位置にあるカルボキシ基は顔料-共重合体間の架橋が起こりにくいためと考えられる。
実施例1,17~20を通して、モノマー(C)のポリオキシアルキレン鎖の付加モル数に対してモノマー(D)のポリオキシアルキレン鎖の付加モル数が大きいことで保存安定性がより良好であった。これは、モノマー(C)のポリオキシアルキレン鎖がモノマー(D)のポリオキシアルキレン鎖に対して大きいと、モノマー(D)のポリオキシアルキレン鎖の末端のスルホ基が埋もれてしまい、静電反発力が低下したためと考えられる。
【0138】
比較例1は架橋剤を用いない例であり、保存安定性が低下した。これは、共重合体が架橋されなかったため、低極性溶剤を含む溶剤に分散剤、すなわち架橋されていない共重合体が溶解し、顔料の凝集が発生したためと考えられる。
比較例2は共重合体の合成において顔料への吸着性が劣るモノマーを用いた例であり、保存安定性が低下した。これは、初期分散性が悪くなる上に顔料-共重合体間の架橋が起こりにくいためと考えられる。
比較例3及び4は付加モル数の少ないポリオキシアルキレン基を有するモノマーを用いた例であり、保存安定性が低下した。これは、初期分散性が低下する上に顔料同士の反発力が低下し、異なる顔料に吸着する共重合体同士の架橋が起こったため、顔料の凝集が起こったと考えられる。
比較例5はポリオキシアルキレン鎖の末端にスルホ基ではなくカルボキシ基を有するモノマーを用いた例であり、保存安定性が低下した。これは、顔料表面に吸着した共重合体の最外層に反応性基であるカルボキシ基が存在するため、異なる顔料間の共重合体同士の架橋がおこりやすくなったためと考えられる。
比較例6はモノマー(C)を用いない例であり、保存安定性が低下した。これは、モノマー(D)のポリオキシアルキレン鎖の末端のスルホ基同士が反発し、顔料への共重合体の吸着を妨げてしまい、初期分散性が著しく低下したためと考えられる。また、低極性溶剤を含む溶剤によって室温においてインクの物性が変化し、吐出不良を引き起こした。