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  • 特開-ボックス柱の接合方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022135541
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】ボックス柱の接合方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/00 20060101AFI20220908BHJP
【FI】
B23K9/00 501B
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021035425
(22)【出願日】2021-03-05
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】浅井 英克
【テーマコード(参考)】
4E081
【Fターム(参考)】
4E081YB03
(57)【要約】
【課題】良好な接合部を有したボックス柱を製造するためのボックス柱の接合方法を提供する。
【解決手段】ボックス柱を構成する上柱部材と下柱部材との接合部の空間において、ボックス柱の角の対角ラインを超える位置に、溶接を止めるタブを配置して、空間の一辺の溶接領域を溶接する先行溶接を行なう。そして、タブを取り外して、先行溶接の端部の端部を対角ラインに向かって削る。その後、先行溶接の端部に接合する後行溶接を行なう。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボックス柱を構成する上柱部材と下柱部材との接合部を溶接により接合する接合方法であって、
前記接合部となる空間において、前記ボックス柱の角のラインを超える位置に、溶接を止めるタブを配置して、前記空間の一辺の溶接領域を溶接する先行溶接を行なう第1ステップと、
前記タブを取り外して、前記先行溶接の端部を前記ラインに向かって削る第2ステップと、
前記先行溶接の端部に接合する後行溶接を行なう第3ステップとを備えることを特徴とするボックス柱の接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボックス柱を構成する上柱部材と下柱部材との接合部を溶接により接合するボックス柱の接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボックス柱を構成するために、上柱部材と下柱部材との接合部を、ロボットを用いた自動溶接で接合することが行なわれている。そして、この自動溶接では、接合部に、タブを斜め45度に配置して対向する2辺を溶接(先行溶接)した後、タブを取り外し、残りの2辺を溶接(後行溶接)することが知られている(例えば、特許文献1参照。)。この文献に記載のボックス柱の自動溶接方法においては、対向する上下のボックス柱の開先隅肉部に耐火性フラックスタブを対角線方向に配置して溶接を行なう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭54-103754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように、タブを対角線方向に配置して溶接を行なうことにより、端部の形状を整えることができる。しかしながら、先行溶接の始点や終点の両端部に、内部欠陥や表面欠陥が生じることがある。この場合、タブを取り外した後の後行溶接において、先行溶接との接合部に不具合が生じる可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する溶接方法は、ボックス柱を構成する上柱部材と下柱部材との接合部を溶接により接合する接合方法であって、前記接合部となる空間において、前記ボックス柱の角のラインを超える位置に、溶接を止めるタブを配置して、前記空間の一辺の溶接領域を溶接する先行溶接を行なう第1ステップと、前記タブを取り外して、前記先行溶接の端部を前記ラインに向かって削る第2ステップと、前記先行溶接の端部に接合する後行溶接を行なう第3ステップとを備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、良好な接合部を有したボックス柱を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施形態において下柱部材に上柱部材を配置した斜視図。
図2】実施形態においてボックス柱の接合方法の処理手順を説明した流れ図。
図3】実施形態において接合部となる空間にタブを配置した斜視図。
図4】実施形態において接合部となる空間にタブを配置した平面図。
図5】実施形態においてタブを配置した状態で先行溶接を行なった平面図。
図6】実施形態において先行溶接の端部を削った後の平面図。
図7】実施形態において後行溶接を行なった平面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図1図7を用いて、ボックス柱の接合方法を具体化した一実施形態を説明する。ここで、本実施形態のボックス柱は、4枚の鋼板を四角枠形状となるように配置して構成された柱部材を積層して構成される。この場合、ボックス柱は、積層した柱部材の接合部を溶接により固定して構成される。以下、図においては、ボックス柱を構成する板の長さ、幅及び厚さ等の大きさは、把握し易いように変更して示している。
【0009】
本実施形態においては、図1に示すように、まず、ボックス柱10を構成する下柱部材11の上に上柱部材12を積層する。ここで、下柱部材11と上柱部材12とは、ほぼ同じ構成を有する。具体的には、下柱部材11(上柱部材12)は、2枚の短い板部材T1と、板部材T1より長い2枚の板部材T2とを有する。そして、離間した2枚の短い板部材T1の端部と、長い板部材T2を一定距離(ルートギャップ)離して、2枚対向して配置した状態で、角継手溶接部W1における溶接で板部材T1と板部材T2とを一体固定することにより、下柱部材11(上柱部材12)が構成される。なお、各柱部材(11,12)の内側の角には、ルートギャップに対応して裏当て金13が配置されている。
【0010】
また、積層される上柱部材12の下端部には、例えば35度の角度で傾斜した開先部12gが形成されている。そして、下柱部材11と上柱部材12との間が一定距離(ルートギャップ)離れた状態を維持するように、各柱部材(11,12)の内側に、裏当て部材としての裏当て金16,17が配置される。裏当て金16,17は、それぞれ先行溶接の範囲、後行溶接の範囲に対応して設けられている。本実施形態では、裏当て金16は、裏当て金17より長く、先行溶接に用いられる。
更に、下柱部材11の板部材T2及び上柱部材12の板部材T2には、図示しないエレクションピースが設けられている。そして、これらエレクションピースを用いて、下柱部材11と上柱部材12との位置を整合させる。
【0011】
(ボックス柱10の溶接方法)
図2を用いて、ボックス柱10の溶接方法の各ステップを説明する。
まず、図3に示すように、接合領域にタブを設置する(ステップS1)。ここでは、下柱部材11と上柱部材12との間であって、接合部が設けられる空間(接合領域)に、タブ15を配置する。
【0012】
この場合、図4に示すように、4つのタブ15を、接合領域における各角部において板部材T2側にずれた位置に配置する。ここでは、先行溶接を行なう第1溶接領域G1が広がるように、第1溶接領域G1に対して対角ラインL1を超える位置に、4つのタブ15を配置する。具体的には、下柱部材11(上柱部材12)の直交した方向で板部材T1,T2が接する角部のそれぞれにおいて、対角ラインL1と平行で、対角ラインL1より削り代D1分、長い板部材T2側となる位置に、タブ15を配置する。ここで、対角ラインL1は、内側の角と外側の角とを結ぶ線であって、直交する板部材T1,T2の延在方向に対して45度の角度をなす。また、削り代D1としては、例えば、約5mmを用いる。この削り代D1は、タブ15から隣接する他のタブ15までの往復移動による溶接で、タブ15と裏当て金16とで囲まれた領域が空洞なく溶着可能な長さである。
【0013】
次に、先行溶接を行なう(ステップS2)。具体的には、第1溶接領域G1の上方である上柱部材12の板部材T1の外周に、直線のレールを、それぞれ、板部材T1と平行となるように取り付ける。そして、各レールに溶接ロボットをそれぞれ取り付ける。これら2個の溶接ロボットは、各レールに接続される走行台車と溶接トーチとを基台で連結して構成され、電源ケーブル及び溶接金属線材等が付帯される。そして、各溶接ロボットのトーチの先端を、第1溶接領域G1において、上柱部材12の開先部12gに臨むように、裏当て金16と対向させて位置させる。
【0014】
その後、図5に示すように、自動制御により、各第1溶接領域G1において、隣接するタブ15からタブ15までの間において、溶接ロボットをそれぞれ往復移動させて、溶接パスが重ねられて溶接が行なわれる。この場合、2個の溶接ロボットは、下柱部材11に対して対向する辺を移動するように配置されており、第1溶接領域G1を同時に溶着する。先行溶接が終了した後、溶接ロボット及びレールを取り外す。
【0015】
次に、図5に示すように、下柱部材11と上柱部材12との間の第1溶接領域G1から、タブ15を取り外す(ステップS3)。このとき、先行溶接された部分(先行溶接部PW1)の端部は、タブ15の片面に当接した位置であって、対角ラインL1よりも削り代D1分、板部材T2側に位置する。その後、エレクションピースも取り外す。
【0016】
次に、図6に示すように、先行溶接部の端部を対角ラインに向かって削る(ステップS4)。ここでは、グラインダー等により、対角ラインL1まで、先行溶接部PW1の端部を削る。
次に、後行溶接を行なう(ステップS5)。具体的には、第2溶接領域G2の上方である上柱部材12の板部材T2の外周に、直線のレールを、それぞれ、板部材T2と平行となるように取り付ける。そして、各レールに、上述した構成の溶接ロボットをそれぞれ取り付ける。そして、各溶接ロボットのトーチの先端を、第2溶接領域G2において、上柱部材12の開先部12gに臨むように、裏当て金17と対向させて位置させる。
【0017】
更に、図7に示すように、自動制御により、各第2溶接領域G2において、削られた先行溶接部PW1の端部の間において、溶接ロボットをそれぞれ往復移動させて、溶接パスが重ねられて溶接が行なわれる。この場合、2個の溶接ロボットは、下柱部材11に対して対向する辺を移動するように配置されており、第2溶接領域G2を同時に溶着する。
そして、後行溶接が終了すると、板部材T1間の第2溶接領域G2には、後行溶接部TW1が形成される。そして、溶接ロボット及びレールを取り外す。
以上により、下柱部材11と上柱部材12との接合が終了する。結果として、下柱部材11と上柱部材12とは、接合領域に形成された先行溶接部PW1及び後行溶接部TW1によって構成される接合部で接合される。
【0018】
(作用)
本実施形態では、タブ15をずらして設置して(ステップS1)、先行溶接を行なう(ステップS2)。これにより、先行溶接部PW1には余剰部分が生じるので、この余剰部分の端部を削った(ステップS4)後、後行溶接を行なう(ステップS5)。従って、削ることにより、先行溶接の端部に生じる溶接の欠陥を除去した後、後行溶接を行なうことができる。
【0019】
本実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態では、下柱部材11と上柱部材12との間の接合領域においてタブ15をずらして配置した後、先行溶接を行なう(ステップS2)。そして、先行溶接の端部を削った(ステップS4)後、この削った部分に接合する端部が形成される後行溶接を行なう(ステップS5)。これにより、先行溶接の端部において生じた空洞部分等の欠陥を削って少なくした後、この端部に後行溶接を行なうので、先行溶接と後行溶接とを良好に繋ぎ合わせたボックス柱10を製造することができる。
【0020】
(2)本実施形態では、先行溶接の領域が大きくなるように、タブ15を対角ラインL1よりもずらして配置した後、先行溶接を行ない(ステップS2)、先行溶接の端部を対角ラインに向かって削る(ステップS4)。これにより、対角ラインL1より多めに溶接した端部を削るので、後から行なう後行溶接の端部を、削った先行溶接の端部に接合させることができる。また、端部を対角ラインL1に合わせて削るため、内側の角と外側の角とを結ぶ対角ラインL1に継ぎ目が揃うので、良好な外観を実現できる。更に、この場合、対角ラインL1となるように平行に削っていくので、グラインダー等で削り易い。
【0021】
(3)本実施形態では、タブ15を、対角ラインL1より削り代D1分、ずらして配置する。この削り代D1は、2つのタブ15に跨る溶接パスで往復移動させただけで、タブ15と裏当て金16とで囲まれた領域が空洞なく溶着できる。
【0022】
(4)本実施形態では、エレクションピースを用いて下柱部材11及び上柱部材12を整合させた後、エレクションピースを設けていない板部材T1の間の第1溶接領域G1を先に溶接する。これにより、下柱部材11及び上柱部材12を、効率的に整合させて溶接することができる。
【0023】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記実施形態においては、接合領域に配置するタブ15を、対角ラインL1から削り代D1分、ずらして配置した。この削り代D1の大きさは、端部に生じた空洞等の欠陥を削って除去できる大きさであれば、上述したように約5mmに限定されない。ただし、削り代D1を大きくすると、削り代にある裏当て金16との溶接を十分に行えないため、また削る作業に時間や労力がかかるため、削り代D1はなるべく小さくするほうが好ましい。
【0024】
・上記実施形態においては、先行溶接部PW1の端部を、内側の角と外側の角を結んだ45度の対角ラインL1に向かって、対角ラインL1まで削った。削る先行溶接部PW1の端部は、45度に限られず、後行溶接が、先行溶接部PW1の端部と良好に繋げることができる直線形状に削ればよい。この場合、対角ラインL1に向かって削れば、正確に対角ラインL1まで削る必要はなく、対角ラインL1の付近まで削ればよい。
【0025】
・上記実施形態では、下柱部材11の板部材T1と上柱部材12の板部材T1との間の第1溶接領域G1を先行溶接し、下柱部材11の板部材T2と上柱部材12の板部材T2との間の第2溶接領域G2を後から溶接(後行溶接)した。先行溶接と後行溶接の箇所は、逆であってもよい。この場合には、タブ15は、先行溶接を行なう板部材T2の間の第2溶接領域G2よりも板部材T1側にずらして配置する。
【0026】
・上記実施形態では、対向する2辺となる位置にレールと溶接ロボットとを配置し、対向する2辺を同時に溶接する。溶接ロボットで溶接する場合は、対向する2辺を同時に行なう必要はなく、1辺ずつ順番に行なってもよい。
【0027】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、以下に追記する。
(a)前記ラインは、前記ボックス柱の内側の角と外側の角とを結ぶ対角ラインであって、
前記第1ステップにおいて、前記タブを、前記対角ラインと平行に配置することを特徴とする請求項1に記載のボックス柱の接合方法。
(b)前記タブは、前記裏当て部材とで形成される空間が、前記先行溶接による溶接によって埋まる領域の大きさを有することを特徴とする請求項1又は前記(a)に記載のボックス柱の溶接方法。
(c)前記第1ステップは、対向する2つの第1接合領域に対して溶接を行ない、前記第3ステップは、前記第1接合領域に直交する第2接合領域に対して溶接を行なうことを特徴とする請求項1、前記(a)又は(b)に記載のボックス柱の溶接方法。
【符号の説明】
【0028】
D1…削り代、G1…第1溶接領域、G2…第2溶接領域、T1,T2…板部材、W1…角継手溶接部、L1…対角ライン、PW1…先行溶接部、TW1…後行溶接部、10…ボックス柱、11…下柱部材、12…上柱部材、12g…開先部、13,16,17…裏当て金、15…タブ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7