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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022135588
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】あと施工アンカー
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/41 20060101AFI20220908BHJP
   E04G 21/12 20060101ALI20220908BHJP
   F16B 13/04 20060101ALI20220908BHJP
   F16B 13/06 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
E04B1/41 503G
E04B1/41 503D
E04G21/12 105Z
F16B13/04 H
F16B13/06 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021035508
(22)【出願日】2021-03-05
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上枝 豊
(72)【発明者】
【氏名】濱田 明俊
(72)【発明者】
【氏名】増田 寛之
【テーマコード(参考)】
2E125
3J025
【Fターム(参考)】
2E125AF01
2E125AG13
2E125BA13
2E125BA18
2E125BA22
2E125BB08
2E125BC06
2E125BD01
2E125BE08
2E125BF01
2E125CA03
2E125CA43
2E125EA33
3J025AA02
3J025AA07
3J025BA04
3J025BA05
3J025BA07
3J025CA03
3J025DA06
3J025EA02
(57)【要約】
【課題】アンカー孔を容易に形成すると共に、十分な引き抜き抵抗力を得やすいあと施工アンカーを提供する。
【解決手段】あと施工アンカー10は、孔径が一定のアンカー孔12Aへ挿入され、先端部に雄ねじ22が形成された棒状のアンカー部材20と、アンカー部材20とアンカー孔12Aとの隙間に充填された充填材30と、雄ねじ22が捩じ込まれる雌ねじ42が形成された楔部材40と、楔部材40を取り囲んで配置されると共に、アンカー部材20を回転させて引き上げられた楔部材40によって押圧されて拡張することでアンカー孔12Aの孔壁を面で押圧している複数の拡張片52を有する拡張部材50と、を備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
孔径が一定のアンカー孔へ挿入され、先端部に雄ねじが形成された棒状のアンカー部材と、
前記アンカー部材と前記アンカー孔との隙間に充填された充填材と、
前記雄ねじが捩じ込まれる雌ねじが形成された楔部材と、
前記楔部材を取り囲んで配置されると共に、前記アンカー部材を回転させて引き上げられた前記楔部材によって押圧されて拡張することで前記アンカー孔の孔壁を面で押圧している複数の拡張片を有する拡張部材と、
を備えた、あと施工アンカー。
【請求項2】
前記拡張部材において、前記アンカー孔と接する部分における前記アンカー孔の軸方向に沿う長さをL1とし、
前記充填材における前記軸方向に沿う長さをL2とすると、下記式(1)が満たされている、請求項1に記載のあと施工アンカー。
4×L1≦L2・・・・・(1)
【請求項3】
前記長さL1及び前記長さL2は、さらに下記式(2)を満たす、請求項2に記載のあと施工アンカー。
6×L1≧L2・・・・・(2)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、あと施工アンカーに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、アンカー孔に挿入したテーパー付きナットの上に拡径金具を打ち込んで、拡径金具を拡径させるアンカー構造が記載されている。テーパー付きナットはネジ棒に螺合されているため、拡径金具がアンカー孔に係合することにより、ネジ棒がアンカー孔に固定される。また、ネジ棒とアンカー孔との間の隙間には、充填材が充填されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-311224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1のアンカー構造では、底部が拡径したアンカー孔を形成している。このため、孔径が一定のアンカー孔のみを形成する場合と比較して、特殊な工具が必要となり施工が容易ではない。
【0005】
また、拡径金具の打ち込み具合によって拡径金具の拡径量が変化するため、拡径金具は、アンカー孔に対して、先端部のみが線状に接触して押圧する可能性がある。一方で、充填材が充填された部分は、ネジ棒と充填材、充填材とアンカー孔が面状に接触して引き抜き抵抗力を発揮する。このため、拡径金具の部分における引き抜き抵抗力が不足し、アンカーボルト全体では十分な引き抜き抵抗が得難い可能性がある。
【0006】
本発明は、上記事実を考慮して、アンカー孔を容易に形成すると共に、十分な引き抜き抵抗力を得やすいあと施工アンカーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1のあと施工アンカーは、孔径が一定のアンカー孔へ挿入され、先端部に雄ねじが形成された棒状のアンカー部材と、前記アンカー部材と前記アンカー孔との隙間に充填された充填材と、前記雄ねじが捩じ込まれる雌ねじが形成された楔部材と、前記楔部材を取り囲んで配置されると共に、前記アンカー部材を回転させて引き上げられた前記楔部材によって押圧されて拡張することで前記アンカー孔の孔壁を面で押圧している複数の拡張片を有する拡張部材と、を備える。
【0008】
請求項1のあと施工アンカーでは、楔部材によって押圧された拡張片が、アンカー孔の孔壁を面で押圧している。また、アンカー部材とアンカー孔との隙間には、充填材が充填されている。これにより、アンカー部材とアンカー孔との間で付着力が発生し、面的な引き抜き抵抗を得ることができる。
【0009】
このように、本態様のあと施工アンカーでは、拡張片とアンカー部材に亘って、面的な引抜抵抗力を得られる。このため、例えば拡張片が先端部分のみでアンカー孔の孔壁を押圧する場合と比較して、十分な引き抜き抵抗力を得やすい。
【0010】
また、アンカー孔は杭径が一定とされているため、杭径を拡径させる構造と比較して、アンカー孔を容易に形成することができる。
【0011】
請求項2のあと施工アンカーは、請求項1に記載のあと施工アンカーにおいて、前記拡張部材において、前記アンカー孔と接する部分における前記アンカー孔の軸方向に沿う長さをL1とし、前記充填材における前記軸方向に沿う長さをL2とすると、下記式(1)が満たされている。
【0012】
4×L1≦L2・・・・・(1)
【0013】
請求項2のあと施工アンカーでは、充填材におけるアンカー孔の軸方向に沿う長さL2が、拡張部材においてアンカー孔と接する部分における軸方向に沿う長さL1の4倍以上とされている。このため、4倍未満の場合と比較して、充填材の充填量が多い。これにより、あと施工アンカーの引き抜き抵抗力を高めることができる。
【0014】
請求項3のあと施工アンカーは、請求項2に記載のあと施工アンカーにおいて、前記長さL1及び前記長さL2は、さらに下記式(2)を満たす。
【0015】
6×L1≧L2・・・・・(2)
【0016】
請求項3のあと施工アンカーでは、充填材におけるアンカー孔の軸方向に沿う長さL2が、拡張部材のアンカー孔と接する部分における軸方向に沿う長さL1の6倍以下とされている。このため、6倍以上の場合と比較して、充填材の充填深さが浅い。これにより、充填材の充填不良を抑制できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のあと施工アンカーによると、アンカー孔を容易に形成すると共に、十分な引き抜き抵抗力を得やすい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】(A)は本発明の実施形態に係るあと施工アンカーを示す断面図であり、(B)は(A)におけるB-B線断面図であり、(C)は楔部材の形状の変形例を示す断面図である。
図2】(A)は拡張部材の内側に楔部材を配置した状態を示す断面図であり、(B)は先端に楔部材及び拡張部材を仮固定したアンカー部材をアンカー孔へ挿入している状態を示す断面図であり、(C)はアンカー孔へ挿入したアンカー部材を回転させて楔部材を移動させている状態を示す断面図であり、(D)は(C)におけるD-D線断面図である。
図3】(A)は楔部材と拡張部材の拡張片とが面接触した状態を示す断面図であり、(B)はアンカー部材に捩じ込んだナットを回転させてアンカー部材をアンカー孔の開口端の方向へ移動させている状態を示す断面図であり、(C)はアンカー部材とアンカー孔との間の隙間へ充填材を充填している状態を示す断面図である。
図4】本発明の実施形態に係るあと施工アンカーにおけるアンカー部材、楔部材及び拡張部材を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態に係るあと施工アンカーについて、図面を参照しながら説明する。各図面において同一の符号を用いて示される構成要素は、同一の構成要素であることを意味する。但し、明細書中に特段の断りが無い限り、各構成要素は一つに限定されず、複数存在してもよい。
【0020】
また、各図面において重複する構成及び符号については、説明を省略する場合がある。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において構成を省略する又は異なる構成と入れ替える等、適宜変更を加えて実施することができる。
【0021】
各図において矢印X、Yで示す方向は水平面に沿う方向であり、互いに直交している。また、矢印Zで示す方向は鉛直方向(上下方向)に沿う方向である。各図において矢印X、Y、Zで示される各方向は、互いに一致するものとする。
【0022】
<あと施工アンカー>
図1(A)に示すように、本発明の実施形態に係るあと施工アンカー10は、アンカー部材20、充填材30、楔部材40及び拡張部材50を備えて形成されている。あと施工アンカー10は、例えば建物の躯体12に形成されたアンカー孔12Aに挿入され、躯体12に固定されるアンカーボルトである。アンカー孔12Aは、孔径が一定とされている。
【0023】
なお、アンカー孔12Aは、ドリル等によって穿孔して形成される。ドリルの先端が尖って形成されている場合は、図1(A)に二点鎖線Eで示すように、アンカー孔12Aの先端はすり鉢状に形成される。本実施形態においては、このような態様を含めて、アンカー孔12Aの孔径が「一定」と称す。
【0024】
(アンカー部材)
アンカー部材20は、少なくともアンカー孔12Aに挿入される先端部に雄ねじ22が形成された棒状の鉄筋である。アンカー部材20として用いられる鉄筋としては、全ねじボルトや、先端部に雄ねじが形成された異形鉄筋、先端部に雄ねじが形成された丸鋼等を用いることができる。
【0025】
異形鉄筋や丸鋼の先端部に雄ねじを形成する方法としては、これらの先端を切削する方法、これらの先端に雄ねじを有する棒状部材を溶接する方法など、各種の方法を採用できる。
【0026】
(楔部材)
楔部材40は、アンカー部材20の雄ねじ22が捻じ込まれる雌ねじ42が形成された、金属製(例えば鋼製)の筒状部材である。楔部材40は、アンカー孔12Aの内部に配置された状態で、アンカー孔12Aの孔底から開口端に向かって縮径する錘形状に形成されている。
【0027】
また、図1(B)に示すように、楔部材40の外周面は、平面視で(アンカー孔12Aの軸方向であるZ方向に沿う方向から見て)多角形状に形成されている。本実施形態においては、楔部材40の外周面は、平面視で四角形状の角を面取りした略八角形状とされている。
【0028】
より具体的には、楔部材40の外周面は、図4に示すように、底部から頂部に向かって雌ねじ側(内側)へ傾斜した長辺44Aが、短辺44Bによって面取りされて八角形状に形成されている。この面取り幅は、楔部材の頂部から底部に向かって徐々に大きくなるように形成されている。また、楔部材40の頂部においては、面取り幅がほぼゼロであるため、楔部材40は略四角形状とされている。
【0029】
なお、楔部材40の「底部」とは、図1(A)に示すように、楔部材40がアンカー孔12Aの内部に配置された状態で、アンカー孔12Aの孔底に対向する部分であり、楔部材40の「頂部」とは、楔部材40がアンカー孔12Aの内部に配置された状態で、アンカー孔12Aの開口端側に配置される部分である。
【0030】
楔部材40の外周面における長辺44Aは、図1(B)に示すように、平断面において拡張片52と接触して配置されているほか、図1(A)に示すように、側断面においても、拡張片52と接触して配置されている。すなわち、楔部材40の外周面における長辺44Aは、拡張片52と面接触した状態で配置されている。
【0031】
(拡張部材)
拡張部材50は、図1(B)に示すように、平面視で楔部材40を取り囲んで配置されると共に、外周面がアンカー孔12Aの内周面(孔壁)と接触して配置された、金属製(例えば鋼製)の部材である。
【0032】
拡張部材50は、図1(A)に示すように、アンカー孔12Aの内部に配置された状態で、アンカー孔12Aの孔底と対向して配置された底部54と、底部54からアンカー孔12Aの開口端に向かって延出された複数の拡張片52と、を備えている。
【0033】
拡張部材50の底部54は、アンカー孔12Aより小径とされている。拡張片52には、底部54からアンカー孔12Aの開口端に向かって徐々に拡径する拡径部52Cが形成されている。拡張片52において、拡径部52Cより上方(アンカー孔12Aの開口端側)の部分は、アンカー孔12Aの軸方向に沿って同径とされ、アンカー孔12Aと接して配置されている。
【0034】
また、拡張片52は、アンカー孔12Aの孔底から(拡径部52Cより上方の部分から)開口端に向かって厚みが漸増するように形成されている。拡張片52の外周面52Aは、図1(B)に示すように、平面視で円弧状に形成されている。
【0035】
また、拡張片52の外周面52Aがアンカー孔12Aの孔壁と接触した状態で、拡張片52の内周面52Bは、楔部材40の外周面における長辺44Aと接触して配置されている。この接触状体においては、図1(A)に示すように、アンカー孔12Aの軸方向に対する拡張片52の内周面52Bの角度は、アンカー孔12Aの軸方向に対する楔部材40の外周面における長辺44Aの角度と等しい。
【0036】
なお、図1(B)に示すように、拡張部材50において拡張片52は4片形成され、それぞれの拡張片52の内周面52Bが、楔部材40の外周面における4つの長辺44Aと面接触している。
【0037】
(充填材)
充填材30は、アンカー部材20とアンカー孔12Aとの隙間に充填されたグラウト材である。充填材30は、拡張部材50の上端面(アンカー孔12Aの開口端側の端面)から、アンカー孔12Aの開口端までの全長に亘って充填されている。
【0038】
なお、充填材30は、必ずしも拡張部材50の上端面からアンカー孔12Aの開口端まで密実に充填されていなくてもよい。つまり、充填材30が「全長に亘って充填されている」とは、例えば、アンカー孔12Aの内部に気泡が混在している状態を含むものとする。
【0039】
ここで、拡張部材50の拡張片52において、アンカー孔12Aと接する部分の、アンカー孔12Aの軸方向に沿う長さをL1とし、充填材30におけるアンカー孔12Aの軸方向に沿う長さをL2とすると、下記式(1)が満たされている。
【0040】
4×L1≦L2・・・・・(1)
【0041】
すなわち、あと施工アンカー10では、充填材30におけるアンカー孔12Aの軸方向に沿う長さL2が、拡張部材50の拡張片52において、アンカー孔12Aと接する部分の、アンカー孔12Aの軸方向に沿う長さL1の4倍以上とされている。このため、4倍未満の場合と比較して、充填材30の充填量が多い。これにより、あと施工アンカー10の引き抜き抵抗力を高めることができる。
【0042】
また、長さL1及び長さL2は、下記式(2)を満たす。
【0043】
6×L1≧L2・・・・・(2)
【0044】
すなわち、充填材30におけるアンカー孔12Aの軸方向に沿う長さL2が、拡張部材50の拡張片52において、アンカー孔12Aと接する部分のアンカー孔12Aの軸方向に沿う長さL1の6倍以下とされている。このため、6倍以上の場合と比較して、充填材30の充填深さが浅い。これにより、充填材30の充填不良を抑制できる。
【0045】
<あと施工アンカーの施工方法>
あと施工アンカー10を形成するためには、図2(A)に示すように、まず拡張部材50の内側に、楔部材40を配置する。これにより、楔部材40は拡張片52に取り囲まれて配置される。
【0046】
なお、拡張部材50における拡張片52は、矢印Mで示すように、弾性変形できるように形成することが好ましい。これにより、拡張部材50の内側に、楔部材40を配置し易い。
【0047】
次に、楔部材40に、アンカー部材20の先端部に形成された雄ねじ22を捩じ込む。このとき、拡張部材50を手指などで保持して楔部材40に雄ねじ22を捩じ込む。後述するように、拡張部材50の内部においては楔部材40の回転を抑制することができるため、アンカー部材20の回転による楔部材40の供回りが抑制される。
【0048】
これにより、楔部材40に雄ねじ22を捩じ込むことができ、図2(B)に示すように、楔部材40及び拡張部材50は、アンカー部材20の先端部に仮固定される。
【0049】
次に、楔部材40及び拡張部材50が仮固定されたアンカー部材20の先端部を、アンカー孔12Aへ挿入する。そして、図2(C)に示すように、アンカー部材20の先端部を、拡張部材50における底部54へ押し付けながら、アンカー部材20を手回し等によって回転させる。
【0050】
アンカー孔12Aの直径は、拡張片52の外周面52Aに形成された円弧を形成する円の直径と略一致して形成することが好ましい。これにより、拡張片52の外周面52Aは、アンカー孔12Aの孔壁と面接触することができる。
【0051】
これにより、アンカー部材20が楔部材40へ捩じ込まれ、楔部材40が、アンカー部材20の軸方向に沿ってアンカー孔12Aの開口端へ向かって移動する。このとき、楔部材40と拡張片52との間には隙間があるが、図2(D)に示すように、楔部材40の外周面における長辺44Aと短辺44Bとの間の角部が、拡張片52の内周面52Bに引っ掛かり、楔部材40の回転が抑制される。すなわち、楔部材40は、アンカー部材20の回転に伴って供回りし難い。
【0052】
アンカー部材20の回転を続けることで楔部材40がアンカー孔12Aの開口端側へ引き上げられると、図3(A)(及び図1(B))に示すように、楔部材40の外周面における長辺44Aが、拡張片52の内周面52Bと接触する。
【0053】
この状態で手回しによってアンカー部材20を回転させようとした場合、楔部材40の長辺44Aが、拡張片52の内周面52Bを押圧し、さらに拡張片52の外周面52Aがアンカー孔12Aの孔壁を押圧する。このため、アンカー孔12Aの孔壁から作用する反力によって、手回しでは回転することが困難となる。
【0054】
そこで図3(B)に示すように、アンカー孔12Aの外側において、アンカー部材20にナット24を捩じ込む。ナット24を、アンカー孔12Aの開口端において躯体12に当接させた状態で工具を用いて回転させることで、アンカー部材20の先端部が拡張部材50における底部54から離れる。また、このアンカー部材20の移動に伴って、楔部材40がアンカー孔12Aの開口端へ向かってさらに移動する。そして、楔部材40は拡張片52を外側へ拡張させる。
【0055】
アンカー部材20の先端部が拡張部材50における底部54から離れる離間距離、すなわち、楔部材40の長辺44Aが拡張片52の内周面52Bに当接してからの楔部材40の移動距離は、視認できない程度に小さい場合がある。同様に、拡張片52の拡張幅も、視認できない程度に小さい場合がある。
【0056】
このような場合においても、ナット24に与えるトルクを増やすことにより、拡張片52の外周面52Aがアンカー孔12Aの孔壁を押圧する押圧力が増え、アンカー部材20のアンカー孔12Aに対する引き抜き抵抗力を増やすことができる。
【0057】
また、ナット24に作用させるトルクを管理することにより、アンカー部材20のアンカー孔12Aに対する引き抜き抵抗力を、所望の大きさに調整することができる。
【0058】
次に、図3(C)に示すように、ナット24を撤去して、アンカー部材20とアンカー孔12Aとの間の隙間へ、充填材30を充填する。充填材30の充填には、アンカー部材20とアンカー孔12Aとの間の隙間に挿入可能なチューブを用いることが好ましい。これにより、この隙間に充填材30を充填し易い。以上の工程により、図1に示すあと施工アンカー10が形成される。
【0059】
なお、充填材の硬化後、アンカー部材20へ、ナット24を再度捩じ込んでもよい。この場合、ナット24は躯体12に接触させることが好適である。これにより、アンカー部材20に対して、アンカー孔12Aの孔底方向へ押し込む力が作用しても、アンカー部材20が溝底方向へ移動することを抑制でき、引き抜き抵抗力を維持できる。
【0060】
<作用及び効果>
本発明の実施形態に係るあと施工アンカー10では、楔部材40によって押圧された拡張片52が、アンカー孔12Aの孔壁を面で押圧している。また、アンカー部材20とアンカー孔12Aとの隙間には、充填材30が充填されている。これにより、アンカー部材20とアンカー孔12Aとの間で付着力が発生し、面的な引き抜き抵抗を得ることができる。
【0061】
このように、本実施形態のあと施工アンカー10では、拡張片52と、アンカー部材20において拡張片52が配置されていない部分とに亘って、面的な引き抜き抵抗力を得られる。このため、例えば拡張片52が先端部分のみでアンカー孔12Aの孔壁を押圧する場合と比較して、十分な引き抜き抵抗力を得やすい。
【0062】
また、アンカー孔12Aは、杭径が一定とされているため、杭径を拡径させる構造と比較して、アンカー孔を容易に形成することができる。
【0063】
<その他の実施形態>
本実施形態においては、拡張部材50の拡張片52において、アンカー孔12Aと接する部分のアンカー孔12Aの軸方向に沿う長さをL1とし、充填材30におけるアンカー孔12Aの軸方向に沿う長さをL2とした場合において、上述した式(1)、(2)が満たされるものとしたが、本発明の実施形態はこれに限らない。
【0064】
例えば長さL1、L2は、式(1)、(2)の何れかのみを満たすものとしてもよいし、双方を満たさないものとしてもよい。このような構成によっても、アンカー孔を容易に形成すると共に、十分な引き抜き抵抗力を得やすいあと施工アンカーを得ることができる。
【0065】
また、本実施形態においては、図1(B)に示すように楔部材40を平面視で八角形状としているが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば楔部材40は、平面視で面取りがない四角形状としてもよい。楔部材40を四角形状としても、4片の拡張片52を押圧できる。
【0066】
また、本発明における楔部材は、図1(C)に示す楔部材60のように、平面視で五角形状やその他の多角形状としてもよい。この場合、拡張部材50における拡張片52の数を、楔部材の形状に合わせて適宜変更すればよい。
【符号の説明】
【0067】
12A アンカー孔
20 アンカー部材
22 雄ねじ
30 充填材
40 楔部材
42 雌ねじ
50 拡張部材
52 拡張片
60 楔部材
図1
図2
図3
図4