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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022135623
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】プラズマ処理装置およびプラズマ源
(51)【国際特許分類】
   H05H 1/24 20060101AFI20220908BHJP
   B01J 19/08 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
H05H1/24
B01J19/08 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021035555
(22)【出願日】2021-03-05
(71)【出願人】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】堀越 章
(72)【発明者】
【氏名】竹市 弥生
(72)【発明者】
【氏名】上野 美佳
【テーマコード(参考)】
2G084
4G075
【Fターム(参考)】
2G084AA03
2G084AA07
2G084AA25
2G084BB07
2G084BB11
2G084BB23
2G084BB32
2G084BB37
2G084CC03
2G084CC19
2G084CC34
2G084DD01
2G084DD18
2G084DD22
2G084DD63
2G084DD68
2G084FF02
2G084FF06
2G084FF07
2G084FF31
2G084GG02
2G084GG07
4G075AA30
4G075DA02
4G075EA06
4G075EB43
4G075EC01
4G075EC07
4G075EC13
4G075EC21
4G075FB02
4G075FB04
4G075FB06
4G075FC06
4G075FC15
(57)【要約】
【課題】被処理物への熱的損傷を抑制しつつ、プラズマ処理の効率を高めることができるプラズマ処理装置およびプラズマ源を提供する。
【解決手段】プラズマ処理装置800は、被処理物900を大気圧下で処理する。プラズマ処理装置800は、プラズマ源100と、保持部200Aとを有している。プラズマ源100は、第1電極111と、第1電極111に対向する第2電極112と、第1電極111と第2電極112との間を隔てる少なくとも1つの誘電体部120とを含む。保持部200Aは被処理物900を保持する。保持部200Aは、被処理物900を冷却するための、冷却液を用いた冷却装置250を有している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物を大気圧下で処理するプラズマ処理装置であって、
第1電極と、前記第1電極に対向する第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間を隔てる少なくとも1つの誘電体部と、を含むプラズマ源と、
前記被処理物を保持する保持部と、
を備え、
前記保持部は、前記被処理物を冷却するための、冷却液を用いた冷却装置を有している、プラズマ処理装置。
【請求項2】
前記プラズマ源は、前記第1電極および前記第2電極を冷却するための、冷却液を用いた冷却装置を有していない、請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記少なくとも1つの誘電体部は、第1端を有する第1内部空間が設けられた第1管と、開放された第2端を有する第2内部空間が設けられた第2管と、を含み、前記第1管は、前記第1管の前記第1端が前記第2管の前記第2端の方を向くように前記第2管の前記第2内部空間に挿入されており、
前記プラズマ源は、プラズマ化されるプロセスガスを前記第1電極と前記第2電極との間で流すためのガス流路を有しており、
前記ガス流路は、前記第1管と前記第2管との間の隙間によって構成された部分と、前記第2管の前記第2端によって構成された出口と、を有しており、
前記第1電極は前記第1管の前記第1内部空間に挿入されている、
請求項1または2に記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記第1管の前記第1端は閉塞されている、請求項3に記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
前記第1電極は、前記第1管の前記第1端の方を向く端部を有しており、前記端部と前記第1管の前記第1内部空間の前記第1端とは、室温において互いに離れている、請求項4に記載のプラズマ処理装置。
【請求項6】
前記第1電極は、前記第1管の前記第1端の方を向く端部を有しており、前記端部から離れた固定箇所において前記第1管へ固定されており、
前記第1電極のうち前記端部と前記固定箇所との間の部分は、前記第2電極に対向する部分を有しており、前記第1管へ固定されていない、請求項3から5のいずれか1項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項7】
前記固定箇所は、前記第1電極の前記端部から20mm以上離れている、請求項6に記載のプラズマ処理装置。
【請求項8】
前記第1電極の前記端部と、前記固定箇所との間での、前記第1管に垂直な断面視において、
前記第1電極は第1直径R1を有しており、
前記第1管の前記第1内部空間は第2直径R2を有しており、
室温において、R2>R1が満たされている、
請求項6または7に記載のプラズマ処理装置。
【請求項9】
前記第1電極は、室温から600℃への温度上昇によって伸び率E1の熱膨張を生じる材料からなり、
前記第1管は、室温から600℃への温度上昇によって伸び率E2の熱膨張を生じる材料からなり、
前記R1および前記R2は、
R2×E2≧R1×E1
を満たしている、
請求項8に記載のプラズマ処理装置。
【請求項10】
前記保持部は、フローティング電位で前記被処理物を支持する支持板を有している、請求項1から9のいずれか1項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項11】
前記保持部の前記冷却装置は、前記支持板を介して前記被処理物を冷却液によって冷却するものであり、前記支持板は誘電体からなる、請求項1から10のいずれか1項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項12】
前記保持部の前記冷却装置は、前記被処理物を冷却ガスによって冷却するものである、請求項1から10のいずれか1項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項13】
被処理物を大気圧下で処理するプラズマ処理装置のためのプラズマ源であって、
第1電極と、
前記第1電極に対向する第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間を隔てる少なくとも1つの誘電体部と
プラズマ化されるプロセスガスを前記第1電極と前記第2電極との間で流すためのガス流路と、
を備え、
前記少なくとも1つの誘電体部は、第1端を有する第1内部空間が設けられた第1管と、第2端を有する第2内部空間が設けられた第2管と、を含み、前記第1管は、前記第1管の前記第1端が前記第2管の前記第2端の方を向くように前記第2管の前記第2内部空間に挿入されており、
前記ガス流路は、前記第1管と前記第2管との間の隙間によって構成された部分と、前記第2管の前記第2端によって構成された出口と、を有しており、
前記第1電極は、前記第1管の前記第1内部空間に挿入されており、前記第1管の前記第1端の方を向く端部を有しており、前記端部から離れた固定箇所において前記第1管へ固定されており、
前記第1電極のうち前記端部と前記固定箇所との間の部分は、前記第2電極に対向する部分を有しており、前記第1管へ固定されていない、プラズマ源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ処理装置およびプラズマ源に関し、特に、被処理物を大気圧下で処理するプラズマ処理装置と、そのためのプラズマ源とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な分野において、大気圧下で被処理物へプラズマを照射する大気圧プラズマ処理の利用が進められている。例えば、農業、漁業、食品衛生などの分野において、大気圧プラズマが殺菌処理などに用いられている。また工業分野においては、大気圧プラズマが、有機物を除去する洗浄処理、および、濡れ性を向上させる表面処理などに用いられている。
【0003】
特開2000-282243号公報(特許文献1)において、高いプラズマ温度(ガス温度)に起因して、被処理物が空気中で酸化したり炭化したりして熱的損傷を受ける、という問題が着目されている。当該公報に例示されたプラズマ処理装置は、外側電極を備えた筒状の反応管と、反応管の内部に配置される内側電極とを有している。反応管に不活性ガスまたは不活性ガスと反応ガスの混合気体を導入するとともに外側電極と内側電極との間に交流電界を印加することにより、大気圧下で反応管の内部にグロー放電が発生させられ、反応管からプラズマジェットが吹き出される。内側電極は、金属の電極本体管内に冷媒供給管を設けることによって形成されている。電極を冷媒によって冷却することにより、プラズマ温度が高くなることを避けることによって、被処理物の熱的損傷を少なくすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-282243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記公報に記載の技術によれば、被処理物の熱的損傷を少なくするために、プラズマ源に設けられた冷媒供給管(冷却装置)によってプラズマ温度が低くされる。その結果、プラズマの活性種による作用が低下するので、プラズマ処理の効率も低下してしまう。
【0006】
本発明は以上のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、被処理物への熱的損傷を抑制しつつ、プラズマ処理の効率を高めることができるプラズマ処理装置およびプラズマ源を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1態様は、被処理物を大気圧下で処理するプラズマ処理装置であって、プラズマ源と、保持部と、を備える。前記プラズマ源は、第1電極と、前記第1電極に対向する第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間を隔てる少なくとも1つの誘電体部と、を含む。前記保持部は前記被処理物を保持する。前記保持部は、前記被処理物を冷却するための、冷却液を用いた冷却装置を有している。
【0008】
第2態様は第1態様のプラズマ処理装置である。第2態様においては、前記プラズマ源は、前記第1電極および前記第2電極を冷却するための、冷却液を用いた冷却装置を有していない。
【0009】
第3態様は第1または第2態様のプラズマ処理装置である。第3態様においては、前記少なくとも1つの誘電体部は、第1端を有する第1内部空間が設けられた第1管と、開放された第2端を有する第2内部空間が設けられた第2管と、を含み、前記第1管は、前記第1管の前記第1端が前記第2管の前記第2端の方を向くように前記第2管の前記第2内部空間に挿入されており、前記プラズマ源は、プラズマ化されるプロセスガスを前記第1電極と前記第2電極との間で流すためのガス流路を有しており、前記ガス流路は、前記第1管と前記第2管との間の隙間によって構成された部分と、前記第2管の前記第2端によって構成された出口と、を有しており、前記第1電極は前記第1管の前記第1内部空間に挿入されている。
【0010】
第4態様は第3態様のプラズマ処理装置である。第4態様においては、前記第1管の前記第1端は閉塞されている。
【0011】
第5態様は第4態様のプラズマ処理装置である。第5態様においては、前記第1電極は、前記第1管の前記第1端の方を向く端部を有しており、前記端部と前記第1管の前記第1内部空間の前記第1端とは、室温において互いに離れている。
【0012】
第6態様は第3から第5態様のいずれかのプラズマ処理装置である。第6態様においては、前記第1電極は、前記第1管の前記第1端の方を向く端部を有しており、前記端部から離れた固定箇所において前記第1管へ固定されている。前記第1電極のうち前記端部と前記固定箇所との間の部分は、前記第2電極に対向する部分を有しており、前記第1管へ固定されていない。
【0013】
第7態様は第6態様のプラズマ処理装置である。第7態様においては、前記固定箇所は、前記第1電極の前記端部から20mm以上離れている。
【0014】
第8態様は第6または第7態様のプラズマ処理装置である。第8態様においては、前記第1電極の前記端部と、前記固定箇所との間での、前記第1管に垂直な断面視において、前記第1電極は第1直径R1を有しており、前記第1管の前記第1内部空間は第2直径R2を有しており、室温において、R2>R1が満たされている。
【0015】
第9態様は第8態様のプラズマ処理装置である。第9態様においては、前記第1電極は、室温から600℃への温度上昇によって伸び率E1の熱膨張を生じる材料からなり、前記第1管は、室温から600℃への温度上昇によって伸び率E2の熱膨張を生じる材料からなり、前記R1および前記R2は、R2×E2≧R1×E1を満たしている。
【0016】
第10態様は第1から第9態様のいずれかのプラズマ処理装置である。第9態様においては、前記保持部は、フローティング電位で前記被処理物を支持する支持板を有している。
【0017】
第11態様は第1から第10態様のいずれのプラズマ処理装置である。第11態様においては、前記保持部の前記冷却装置は、前記支持板を介して前記被処理物を冷却液によって冷却するものであり、前記支持板は誘電体からなる。
【0018】
第12態様は第1から第10態様のいずれかのプラズマ処理装置である。第12態様においては、前記保持部の前記冷却装置は、前記被処理物を冷却ガスによって冷却するものである。
【0019】
第13態様は、被処理物を大気圧下で処理するプラズマ処理装置のためのプラズマ源であって、第1電極と、前記第1電極に対向する第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間を隔てる少なくとも1つの誘電体部と、プラズマ化されるプロセスガスを前記第1電極と前記第2電極との間で流すためのガス流路と、を備える。前記少なくとも1つの誘電体部は、第1端を有する第1内部空間が設けられた第1管と、第2端を有する第2内部空間が設けられた第2管と、を含み、前記第1管は、前記第1管の前記第1端が前記第2管の前記第2端の方を向くように前記第2管の前記第2内部空間に挿入されている。前記ガス流路は、前記第1管と前記第2管との間の隙間によって構成された部分と、前記第2管の前記第2端によって構成された出口と、を有している。前記第1電極は、前記第1管の前記第1内部空間に挿入されており、前記第1管の前記第1端の方を向く端部を有しており、前記端部から離れた固定箇所において前記第1管へ固定されている。前記第1電極のうち前記端部と前記固定箇所との間の部分は、前記第2電極に対向する部分を有しており、前記第1管へ固定されていない。
【発明の効果】
【0020】
第1態様によれば、保持部は、被処理物を冷却するための、冷却液を用いた冷却装置を有している。これにより、大気圧プラズマが被処理物に及ぼす熱的損傷が抑制される。よって、被処理物への熱的損傷を抑制しつつ、より高いプラズマ温度を用いることができる。高いプラズマ温度を用いることによって活性種による作用が高められるので、プラズマ処理の効率を高めることができる。以上から、被処理物への熱的損傷を抑制しつつ、プラズマ処理の効率を高めることができる。
【0021】
第2態様によれば、プラズマ源の構成を簡素化することができる。
【0022】
第3態様によれば、プラズマから第1電極を第1管によって保護することができる。第4態様によれば、この効果を、より確実に得ることができる。
【0023】
第5態様によれば、室温において、第1電極の端部と、第1管の第1内部空間の第1端との密着が避けられる。これにより、第1電極と第1管との間での熱膨張収縮の差異に起因してのプラズマ源の破壊を防止することができる。
【0024】
第6態様によれば、第1電極のうち特に熱膨張収縮が発生しやすい部分が、第1管へ固定されていない。これにより、第1電極と第1管との間での熱膨張収縮の差異に起因してのプラズマ源の破壊を防止することができる。第7態様によれば、この効果を、より十分に得ることができる。
【0025】
第8態様によれば、室温において、第1電極の側面と第1管との密着が避けられる。これにより、第1電極と第1管との間での熱膨張収縮の差異に起因してのプラズマ源の破壊を防止することができる。第9態様によれば、この効果を、より十分に得ることができる。
【0026】
第10態様によれば、プラズマ源から被処理物およびそれを保持する保持部への放電の発生を避けることができる。
【0027】
第11態様によれば、冷却液の電位がプラズマに及ぼす影響を避けることができる。第12態様によれば、冷却液を用いることなく冷却装置を動作させることができる。
【0028】
第13態様によれば、第1電極のうち特に熱膨張収縮が発生しやすい部分が、第1管へ固定されていない。これにより、第1電極と第1管との間での熱膨張収縮の差異に起因してのプラズマ源の破壊を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】実施の形態1におけるプラズマ処理装置の構成を概略的に示す側面図である。
図2図1のプラズマ源の構成を概略的に示す断面図である。
図3図1の保持部の構成を概略的に示す断面図である。
図4】プラズマ処理時の、冷却装置による被処理物の冷却効果の例を示すグラフ図である。
図5図3の第1変形例を示す断面図である。
図6図3の第2変形例を示す断面図である。
図7図3の第3変形例を示す断面図である。
図8図3の第4変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。なお、いくつかの図面においては、図面間での方向の関係を理解しやすくするために、xyz座標系が示されている。
【0031】
図1は、実施の形態1におけるプラズマ処理装置800の構成を概略的に示す側面図である。図2は、プラズマ源100(図1)の構成を概略的に示す断面図である。図3は、被処理物900を保持している保持部200A(図1)の構成を概略的に示す断面図である。
【0032】
プラズマ処理装置800(図1)は、プラズマPL(具体的にはプラズマジェット)を生成するプラズマ源100と、被処理物900を保持する保持部200Aとを有している。プラズマ処理装置800は、被処理物900を大気圧下で処理するプラズマ処理装置800である。ここで大気圧下は、0.05MPa(約0.5気圧)以上0.2MPa(約2気圧)以下の圧力を意味する。よってプラズマ処理装置800は、高い気密性を有するチャンバー(真空チャンバー)を必要としない。
【0033】
プラズマ源100(図2)は、内側電極111(第1電極)と、内側電極111に対向する外側電極112(第2電極)と、内側電極111と外側電極112との間を隔てる少なくとも1つの誘電体部120と、を含む。この構成によりプラズマ源100は、交流電源140を用いて誘電体バリア放電(DBD:Dielectric Barrier Discharge)を行うことができる。誘電体部120の材料は、例えば、石英またはセラミックスである。当該セラミックスとしては、アルミナの誘電率と同等以上に高い誘電率を有し、高い加工性を有し、高い緻密性(低い吸湿性)を有する材料が好ましく、例えば、アルミナ、イットリア、窒化珪素または炭化珪素を用いることができる。プラズマ源100は、内側電極111および外側電極112を冷却するための、冷却液を用いた冷却装置250を有していない。
【0034】
誘電体部120は内管121(第1管)および外管122(第2管)を有している。内管121には、閉塞された端EC(第1端)を有する内部空間S1(第1内部空間)が設けられている。外管122には、開放された端EO(第2端)を有する内部空間S2(第2内部空間)が設けられている。内管121は、内管121の端ECが外管122の端EOの方を向くように外管122の内部空間S2に挿入されている。内管121は外管122へ固定部材132によって固定されていてよい。固定部材132は、例えばシリコン接着材からなる。
【0035】
プラズマ源100は、プラズマ化されるプロセスガスを内側電極111と外側電極112との間で流すためのガス流路GLを有している。ガス流路GLは、入口GIと、外管122の端EOによって構成された出口と、入口と出口との間を延びるように内管121と外管122との間の隙間SPによって構成された部分と、を有している。
【0036】
内側電極111は内管121の内部空間S1に挿入されている。内側電極111は、内管121の内部空間S1の端ECの方を向く端部111Eを有している。内側電極111の端部111Eと、内部空間S1の端ECとは、室温において互いに離れていることが好ましく、室温から600℃の温度範囲において離れていることがより好ましい。
【0037】
内側電極111は、その端部111Eから離れた固定箇所111Fにおいて内管121へ固定されていることが好ましい。当該固定は固定部材131によって行われてよい。固定部材131は、例えばシリコン接着材からなる。内側電極111のうち端部111Eと固定箇所111Fとの間の部分は、内管121および外管122を介して外側電極112に対向する部分を有しており、内管121へ固定されていない。固定箇所111Fは、内側電極111の端部111Eから、好ましくは20mm以上、より好ましくは30mm以上離れている。なお、内側電極111のうち端部111Eと固定箇所111Fとの間の部分は、図2に示されているようにその全体が内管121から離れていてよく、あるいは、部分的に内管121に、固定されることなく接触していてよい。
【0038】
内側電極111の端部111Eと固定箇所111Fとの間での、内管121に垂直な断面視(xy面での断面視)において、内側電極111は直径R1(第1直径)の略円形形状を有していてよく、内管121の内部空間S1は直径R2(第2直径)の略円形形状を有していてよい。室温において、R2>R1が満たされている。直径R1は、例えば、0.5mm以上5mm以下である。R2とR1との差異は、例えば、0.05mm以上0.5mm以下である。
【0039】
内側電極111は、室温から600℃への温度上昇によって伸び率E1の熱膨張を生じる材料からなる。内管121は、室温から600℃への温度上昇によって伸び率E2の熱膨張を生じる材料からなる。R1およびR2は、R2×E2≧R1×E1を満たしていることが好ましい。
【0040】
内側電極111の材料は、耐スパッタ性の高い材料であることが好ましく、例えばタングステンである。これにより、意図せず内管121内にもプラズマが発生してしまった場合において、内側電極111へのダメージを抑制することができる。外側電極112の材料も同様の材料であってよい。
【0041】
外側電極112は、外管122の側面の周りに配置されている。外側電極112は外管122の側面に取り付けられていてよい。
【0042】
プロセスガス源130(図1)は、ガス流路GLの入口GI(図2)へ、プラズマ化されることになるプロセスガスを供給する。プロセスガスは、例えば、アルゴン、ヘリウム、窒素または空気である。
【0043】
交流電源140は、内側電極111と外側電極112との間に交流電圧を供給する。交流電圧の振幅は、例えば、9kV以上15kV以下である。交流電圧の周波数は、例えば、12kHz以上40kHz以下である。交流電圧の波形は、例えば、正弦波である。交流電圧が供給される際に、外側電極112の電位が接地電位とされていてよい。
【0044】
駆動部190は、プラズマ源100を変位させることによって、プラズマ源100と、保持部200Aとの相対的変位を可能とする。これにより、プラズマ源100からのプラズマPLの大きさが小さくても、広範囲へのプラズマ照射が可能となる。駆動部190は、例えば、プラズマ源100の外管122を支持するアームと、当該アームを変位させるアクチュエータとを有していてよい。なお上の記相対的変位は、保持部200Aの変位によって行われてもよい。
【0045】
保持部200Aは、被処理物900を支持するための支持板211と、被処理物900を冷却するための冷却液ジャケット250(冷却装置)とを有している。
【0046】
支持板211は、誘電体(例えば石英)からなり、よって被処理物900をフローティング電位で支持する。具体的には、支持板211に設けられた貫通孔によって構成された真空チャック212によって、被処理物900が支持板211に吸着される。真空チャック212は真空ポンプ214によって真空引きされる。支持板211は軸部213によって支持されていてよく、真空チャック212は軸部213を経由していてよい。
【0047】
冷却液ジャケット250は、冷却液FLを用いて被処理物900を冷却する。具体的には、冷却液ジャケット250は、支持板211を介して被処理物900を冷却液FLによって冷却する。冷却液FLの電位は接地電位であってよく、よって冷却液ジャケット250の電位も接地電位であってよい。冷却液ジャケット250は、冷却液入口250aと、冷却液出口250bとを有している。冷却液供給部251は冷却液入口250aへ冷却液を供給する。冷却液回収部252は冷却液出口250bから冷却液を回収する。
【0048】
図4は、プラズマ源100によるプラズマ処理時の、保持部200Aの冷却装置による被処理物900の冷却効果の例を示すグラフ図である。被処理物900の温度は、保持部200Aの冷却装置を用いることによって、顕著に抑制することができる。
【0049】
本実施の形態によれば、保持部200Aは、被処理物900を冷却するための、冷却液を用いた冷却装置250を有している。これにより、大気圧プラズマが被処理物900に及ぼす熱的損傷が抑制される。よって、被処理物900への熱的損傷を抑制しつつ、より高いプラズマ温度(内側電極111および外側電極112間でのプロセスガス温度)を用いることができる。高いプラズマ温度を用いることによって活性種による作用が高められるので、プラズマ処理の効率を高めることができる。以上から、被処理物900への熱的損傷を抑制しつつ、プラズマ処理の効率を高めることができる。
【0050】
プラズマ源100は、前述した特開2000-282243号公報の技術とは異なり、内側電極111および外側電極112を冷却するための冷却装置を有していない。これにより、プラズマ源100の構成を簡素化することができる。
【0051】
プラズマPLから内側電極111を内管121によって保護することができる。この効果は、内管121の内部空間S1の端ECが閉塞されていることによって、より確実に得ることができる。
【0052】
内側電極111の端部111Eと、内管121の内部空間S1の端ECとが、室温において互いに離れている場合、室温におけるこれらの密着が避けられる。これにより、内側電極111と内管121との間での熱膨張収縮の差異に起因してのプラズマ源100の破壊を防止することができる。
【0053】
内側電極111のうち端部111Eと固定箇所111Fとの間の部分は、好ましくは、内管121および外管122を介して外側電極112に対向する部分を有しており、内管121へ固定されていない。この場合、内側電極111のうち特に熱膨張収縮が発生しやすい部分が、内管121へ固定されていない。これにより、内側電極111と内管121との間での熱膨張収縮の差異に起因してのプラズマ源100の破壊を防止することができる。固定箇所111Fが、内側電極111の端部111Eから、20mm以上、より好ましくは30mm以上離れていることによって、この効果は、より十分に得ることができる。
【0054】
内側電極111の直径R1に比して、内管121の内部空間S1の直径R2が、室温において大きいことによって、室温において内側電極111の側面と内管121との密着が避けられる。これにより、内側電極111と内管121との間での熱膨張収縮の差異に起因してのプラズマ源100の破壊を防止することができる。内側電極111が室温から600℃への温度上昇によって伸び率E1の熱膨張を生じる材料からなり、内管121が室温から600℃への温度上昇によって伸び率E2の熱膨張を生じる材料からなり、R2×E2≧R1×E1が満たされている場合、この効果をより十分に得ることができる。
【0055】
支持板211がフローティング電位で被処理物900を支持することによって、プラズマ源100から被処理物900およびそれを保持する保持部200Aへの放電の発生を避けることができる。
【0056】
支持板211が誘電体からなることによって、冷却液FLの電位がプラズマPLに及ぼす影響、特に異常放電の発生、を避けることができる。
【0057】
図5は、保持部200A(図3)の第1変形例としての保持部200Bを示す断面図である。保持部200Bは、真空チャック212(図3)が設けられた支持板211(図3)に代わって、被処理物900を支持する支持板221を有している。支持板221は、支持板211と同様、誘電体(例えば石英)からなり、よって被処理物900をフローティング電位で支持する。支持板221にはメカニカルチャック222が設けられている。メカニカルチャック222は、駆動部223によって駆動される。図示された例においては、メカニカルチャック222は、被処理物900を固定する爪部222aと、爪部222aを軸周りに回転可能に支持する軸部222bとを有している。この回転によって軸部222b周りの爪部222aの角度位置を変化させることによって、爪部222aが被処理物900を固定している状態と、固定していない状態とが切り替えられる。なお、これ以外の構成については、前述した保持部200A(図3)の構成とほぼ同じであるため、同一または対応する要素について同一の符号を付し、その説明を繰り返さない。
【0058】
図6は、第2変形例としての保持部200Cを示す断面図である。保持部200Cは、冷却液ジャケット250(図5)およびそれに付随する構成に代わって、冷却液ノズル260(冷却装置)と、それに冷却液FLを供給する冷却液源261とを有している。冷却液ノズル260は、支持板221の下面へ冷却液FLを吐出することによって支持板221を冷却する。これにより、支持板221の上面に支持された被処理物900が、冷却液FLに接することなく冷却される。なお、これ以外の構成については、前述した保持部200B(図5)の構成とほぼ同じであるため、同一または対応する要素について同一の符号を付し、その説明を繰り返さない。
【0059】
図7は、第3変形例としての保持部200Dを示す断面図である。保持部200Dは、支持板221(図6)に代わって、被処理物900を支持する支持板231(図7)を有している。また保持部200D(図7)は、冷却液ノズル260(図6)およびそれに付随する構成に代わって、冷却ガスノズル270(冷却装置)と、それに冷却ガスFGを供給する冷却ガス源271とを有している。冷却ガスノズル270は、支持板221の下面へ冷却ガスFGを吐出することによって支持板231を冷却する。これにより、冷却ガスノズル270は、支持板231の上面に支持された被処理物900を冷却することができる。冷却ガスFGは、例えばエアである。なお、これ以外の構成については、前述した保持部200C(図6)の構成とほぼ同じであるため、同一または対応する要素について同一の符号を付し、その説明を繰り返さない。本変形例の保持部200Dによれば、保持部200C(図6)と異なり、冷却液FL(図6)を用いることなく冷却ガスFG(図7)を用いて冷却装置を動作させることができる。一般にガスの導電性が低いので、冷却ガスFGが支持板231の電位に及ぼす影響は小さい。よって支持板231(図7)は、それがフローティング状態でプラズマ処理装置へ取り付けられている限り、必ずしも誘電体からなる必要はない。
【0060】
図8は、第4変形例としての保持部200Eを示す断面図である。保持部200Eは、保持部200D(図7)と異なり、冷却ガスノズル270から吐出された冷却ガスFGが被処理物900に直接接触するように構成されている。具体的には、保持部200Eにおいては、冷却ガスノズル270からの冷却ガスFGの吐出に対して被処理物900が露出されている。この露出は、例えば、支持板231が、図8に示されているように開口を有することによって実現される。冷却ガスFGは、被処理物900を汚染しないガス、すなわちクリーンガスであることが好ましく、例えばクリーンエアである。なお、これ以外の構成については、前述した保持部200D(図7)の構成とほぼ同じであるため、同一または対応する要素について同一の符号を付し、その説明を繰り返さない。本変形例の保持部200Eによれば、冷却ガスFGが被処理物900を直接に冷却する。よって冷却効率を高めることができる。
【0061】
なお、保持部200D(図7)および保持部200E(図8)においては冷媒としてガスが用いられているが、導電性が十分に低い冷媒、好ましくは実質的に導電性を有しない冷媒、であれば、ガスに限定されることなく用いることができる。特に保持部200E(図8)においては、冷媒は、被処理物900を汚染しないクリーンな冷媒であることが好ましい。
【0062】
上述した実施の形態および変形例は、互いに自由に組み合わされてよい。この発明は詳細に説明されたが、上記の説明は、すべての局面において、例示であって、この発明がそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、この発明の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。上記各実施形態および各変形例で説明した各構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わせたり、省略したりすることができる。
【符号の説明】
【0063】
100:プラズマ源
111:内側電極(第1電極)
112:外側電極(第2電極)
120:誘電体部
121:内管(第1管)
122:外管(第2管)
200A~200D:保持部
211:支持板
221:支持板
231:支持板
250:冷却液ジャケット(冷却装置)
260:冷却液ノズル(冷却装置)
270:冷却ガスノズル(冷却装置)
800:プラズマ処理装置
900:被処理物
FG:冷却ガス
FL:冷却液
GL:ガス流路
PL:プラズマ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8