(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022135625
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】半導体チップ、加工ウェハ、および半導体チップの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/02 20060101AFI20220908BHJP
H01L 21/301 20060101ALI20220908BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20220908BHJP
B23K 26/53 20140101ALI20220908BHJP
【FI】
H01L21/02 A
H01L21/02 C
H01L21/78 B
H01L21/304 611Z
B23K26/53
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021035558
(22)【出願日】2021-03-05
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長屋 正武
(72)【発明者】
【氏名】河口 大祐
【テーマコード(参考)】
4E168
5F057
5F063
【Fターム(参考)】
4E168AA00
4E168AE01
4E168CB07
4E168DA03
4E168DA46
4E168JA13
5F057AA05
5F057AA21
5F057BA16
5F057BB06
5F057BC06
5F057BC09
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5F057FA30
5F063AA05
5F063AA35
5F063BA07
5F063BA25
5F063BA31
5F063BA33
5F063BA43
5F063CA04
5F063CA06
5F063CB02
5F063CB07
5F063CB29
5F063DD29
5F063DD59
5F063DD68
(57)【要約】
【課題】識別用のマークが形成されつつ、割れることを抑制する。
【解決手段】GaNウェハ1を用意することと、GaNウェハ1の一面1a上にエピタキシャル膜3を形成して複数のチップ形成領域を有する加工ウェハを構成することと、複数のチップ形成領域に半導体素子の一面側素子構成部分を形成することと、加工ウェハの他面側から当該加工ウェハの内部にレーザ光Lを照射することにより、加工ウェハの面方向に沿ったウェハ用変質層を形成することと、ウェハ用変質層を境界として加工ウェハを分割することにより、加工ウェハを、チップ構成ウェハとリサイクルウェハとに分割することと、チップ構成ウェハから半導体チップを取り出すこととを行う。そして、GaNウェハ1を用意した後であって、分割することの前に、GaNウェハ1または加工ウェハの内部にレーザ光Lを照射することにより、内部に、ガリウムが析出したマークWMを形成する。
【選択図】
図1B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体素子が形成された半導体チップの製造方法であって、
窒化ガリウムで構成され、一面(1a)および他面(1b)を有する窒化ガリウムウェハ(1)を用意することと、
前記窒化ガリウムウェハの一面上にエピタキシャル膜(3)を形成することにより、前記エピタキシャル膜側の面を一面(10a)とすると共に前記窒化ガリウムウェハ側の面を他面(10b)とし、前記一面側に複数のチップ形成領域(RA)を有する加工ウェハ(10)を構成することと、
前記複数のチップ形成領域に対し、前記半導体素子の一面側素子構成部分(11)を形成することと、
前記加工ウェハの他面側から当該加工ウェハの内部にレーザ光(L)を照射することにより、前記加工ウェハの面方向に沿って、窒素がガリウムから分離されたウェハ用変質層(15)を形成することと、
前記ウェハ用変質層を境界として前記加工ウェハを分割することにより、前記加工ウェハを、前記加工ウェハの一面側のチップ構成ウェハ(30)と、前記加工ウェハの他面側のリサイクルウェハ(40)とに分割することと、
前記チップ構成ウェハから半導体チップ(100)を取り出すことと、を行い、
前記窒化ガリウムウェハを用意した後であって、前記分割することの前に、前記窒化ガリウムウェハまたは前記加工ウェハの内部にレーザ光(L)を照射することにより、内部に、ガリウムが析出したマーク(WM、TM)を形成することを行う半導体チップの製造方法。
【請求項2】
前記マークを形成することは、前記窒化ガリウムウェハを用意した後であって、前記一面側素子構成部分を形成することの前に、前記マークとしてのウェハ用マーク(WM)を形成する請求項1に記載の半導体チップの製造方法。
【請求項3】
前記マークを形成することは、前記リサイクルウェハとなる部分に前記ウェハ用マークを形成する請求項2に記載の半導体チップの製造方法。
【請求項4】
前記マークを形成することは、前記一面側素子構成部分を形成することの後、前記ウェハ用変質層を形成することの前に、前記複数のチップ形成領域に対して、前記マークとしてのチップ用マーク(TM)を形成する請求項1ないし3のいずれか1つに記載の半導体チップの製造方法。
【請求項5】
前記マークを形成することの後、加熱処理を行う請求項1ないし4のいずれか1つに記載の半導体チップの製造方法。
【請求項6】
前記リサイクルウェハを再び前記窒化ガリウムウェハとして利用することを行う請求項1ないし5のいずれか1つに記載の半導体チップの製造方法。
【請求項7】
半導体素子が形成された半導体チップ(100)を構成する加工ウェハであって、
一面(1a)および前記一面と反対側の他面(1b)を有する窒化ガリウムウェハ(1)と、
前記窒化ガリウムウェハの一面上に形成されたエピタキシャル膜(3)と、を備え、
前記窒化ガリウムウェハおよび前記エピタキシャル膜の少なくとも一方には、内部に、析出したガリウムにて構成されるマーク(WM、TM)が形成されている加工ウェハ。
【請求項8】
半導体素子が形成された半導体チップであって、
一面(110a)、および前記一面と反対側の他面(110b)を有し、前記半導体素子が形成され、窒化ガリウムで構成されるチップ構成基板(110)を備え、
前記チップ構成基板には、内部に、析出したガリウムで構成されるマーク(TM)が形成されている半導体チップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化ガリウム(以下では、GaNともいう)で構成される半導体チップ、加工ウェハ、および半導体チップの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、GaNウェハを用いて半導体チップを構成することが知られている。そして、GaNウェハに対し、識別用のマークを形成することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。具体的には、このマークを形成することでは、レーザによってGaNの表面に窪み部を形成する工程と、窪み部が残るように当該表面を研磨する工程とを行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、GaNウェハは、非常に割れやすい材料である。このため、GaNウェハに窪み部を形成すると、窪み部を起点として割れることが懸念される。
【0005】
本発明は上記点に鑑み、識別用のマークが形成されつつ、割れることを抑制できる半導体チップ、加工ウェハ、および半導体チップの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための請求項1では、半導体素子が形成された半導体チップの製造方法であって、窒化ガリウムで構成され、一面(1a)および他面(1b)を有する窒化ガリウムウェハ(1)を用意することと、窒化ガリウムウェハの一面上にエピタキシャル膜(3)を形成することにより、エピタキシャル膜側の面を一面(10a)とすると共に窒化ガリウムウェハ側の面を他面(10b)とし、一面側に複数のチップ形成領域(RA)を有する加工ウェハ(10)を構成することと、複数のチップ形成領域に対し、半導体素子の一面側素子構成部分(11)を形成することと、加工ウェハの他面側から当該加工ウェハの内部にレーザ光(L)を照射することにより、加工ウェハの面方向に沿って、窒素がガリウムから分離されたウェハ用変質層(15)を形成することと、ウェハ用変質層を境界として加工ウェハを分割することにより、加工ウェハを、加工ウェハの一面側のチップ構成ウェハ(30)と、加工ウェハの他面側のリサイクルウェハ(40)とに分割することと、チップ構成ウェハから半導体チップ(100)を取り出すことと、を行い、窒化ガリウムウェハを用意した後であって、分割することの前に、GaNウェハまたは加工ウェハの内部にレーザ光(L)を照射することにより、内部にガリウムが析出したマーク(WM、TM)を形成することを行う。
【0007】
これによれば、加工ウェハの内部にガリウムを析出させたマークを形成しており、窪み部を形成していない。このため、マークを起点として加工ウェハが割れることを抑制できる。
【0008】
請求項7では、半導体素子が形成された半導体チップ(100)が構成される加工ウェハであって、一面(1a)および一面と反対側の他面(1b)を有する窒化ガリウムウェハ(1)と、窒化ガリウムウェハの一面上に形成されたエピタキシャル膜(3)と、を備え、窒化ガリウムウェハおよびエピタキシャル膜の少なくとも一方には、内部に、析出したガリウムにて構成されるマーク(WM、TM)が形成されている。
【0009】
これによれば、析出したガリウムで加工ウェハの内部にマークが形成されており、窪み部が形成されていない。このため、マークを起点として加工ウェハが割れることを抑制できる。
【0010】
請求項8では、半導体素子が形成された半導体チップであって、一面(110a)、および一面と反対側の他面(110b)を有し、半導体素子が形成され、窒化ガリウムで構成されるチップ構成基板(110)を備え、チップ構成基板には、内部に、析出したガリウムで構成されるマーク(TM)が形成されている。
【0011】
これによれば、析出したガリウムで加工ウェハの内部にマークが形成されており、窪み部が形成されていない。このため、マークを起点として半導体チップが割れることを抑制できる。
【0012】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1A】第1実施形態における半導体チップの製造工程を示す断面図である。
【
図1B】
図1Aに続く半導体チップの製造工程を示す断面図である。
【
図1C】
図1Bに続く半導体チップの製造工程を示す断面図である。
【
図1D】
図1Cに続く半導体チップの製造工程を示す断面図である。
【
図1E】
図1Dに続く半導体チップの製造工程を示す断面図である。
【
図1F】
図1Eに続く半導体チップの製造工程を示す断面図である。
【
図1G】
図1Fに続く半導体チップの製造工程を示す断面図である。
【
図1H】
図1Gに続く半導体チップの製造工程を示す断面図である。
【
図1I】
図1Hに続く半導体チップの製造工程を示す断面図である。
【
図1J】
図1Iに続く半導体チップの製造工程を示す断面図である。
【
図1K】
図1Jに続く半導体チップの製造工程を示す断面図である。
【
図1L】
図1Kに続く半導体チップの製造工程を示す断面図である。
【
図2A】チップ用変質層を形成せずにウェハ用変質層を形成した場合の模式図である。
【
図2B】チップ用変質層を形成した後にウェハ用変質層を形成した場合の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0015】
(第1実施形態)
第1実施形態について、図面を参照しつつ説明する。以下では、GaNを含むチップ構成基板110に半導体素子が形成された半導体チップ100の製造方法について説明する。
【0016】
まず、
図1Aに示されるように、一面1aおよび他面1bを有し、バルクウェハ状とされているGaNウェハ1を用意する。例えば、GaNウェハ1は、シリコン、酸素、ゲルマニウム等がドーパントされ、不純物濃度が5×10
17~5×10
19cm
-3とされたものが用いられる。GaNウェハ1の厚みについては任意であるが、例えば400μm程度のものを用意している。本実施形態のGaNウェハ1は、一面1aがGa面とされ、他面1bがN面とされている。また、このGaNウェハ1は、下記半導体チップ100の製造工程を行った後では、後述する
図1Lのリサイクルウェハ40を再利用することで用意される。
【0017】
なお、特に図示しないが、GaNウェハ1は、必要に応じて他面1b側が研削、研磨等され、他面1bの表面粗さが10nm以下とされる。これにより、後述するようにGaNウェハ1の他面1b側からレーザ光Lを照射した際、GaNウェハ1の他面1bでレーザ光Lが乱反射することが抑制される。
【0018】
次に、
図1Bに示されるように、GaNウェハ1の他面10bからレーザ光Lを照射し、GaNウェハ1の内部に、ウェハを識別するためのロット番号等のウェハ用マークWMを形成する。具体的には、レーザ光Lを発振するレーザ光源、レーザ光の光軸(すなわち、光路)の向きを変えるように配置されたダイクロイックミラー、およびレーザ光を集光するための集光用レンズ(すなわち、集光光学系)、変位可能なステージ等を有するレーザ装置を用意する。そして、ウェハ用マークWMを形成する際には、GaNウェハ1をステージに載置し、レーザ光Lの集光点がGaNウェハ1の内部における所定箇所となるように、ステージ等の位置を調整する。
【0019】
これにより、GaNウェハ1には、熱エネルギーによってガリウムと窒素とが分解され、窒素がガスとして蒸発すると共にガリウムが析出されたウェハ用マークWMが形成される。本実施形態では、ウェハ用マークWMは、後述する加工ウェハ10を分離してチップ構成ウェハ30とリサイクルウェハ40とに分割した際、リサイクルウェハ40側にウェハ用マークWMが残存するように、形成される位置が調整される。
【0020】
なお、ウェハ用マークWMの形状は、線や多角形等の図形、または番号等の種々の識別可能なパターンとされる。また、特に限定されるものではないが、本実施形態では、ウェハ用マークWMを形成する際には、レーザ光Lとして、固体レーザ光であって、波長が532nmのグリーンレーザが用いられる。そして、レーザ光Lは、加工点出力が2μJ、パルス幅が500ps、加工速度が500mm/sとされて照射される。但し、これらの条件は1例であり、本発明者らは、レーザ光Lの加工点出力がさらに低い場合やパルス幅がさらに短い場合等においても、適切にウェハ用マークWMが形成されることを確認している。また、本発明者らは、レーザ光Lの加工点出力がさらに高い場合やパルス幅がさらに長い場合等においても、適切にウェハ用マークWMが形成されることを確認している。
【0021】
その後、特に図示しないが、加熱処理を行うことによってガリウムの析出を促進させ、ウェハ用マークWMの視認性を向上させる。なお、ここでの加熱処理は、半導体素子が形成されていないGaNウェハ1に対して行うものであるため、Gaの融点(すなわち、29.76°)以上の温度であって、1000°以下の温度で行う。
【0022】
次に、
図1Cに示されるように、GaNウェハ1の一面1a上に、10~60μm程度のGaNで構成されるエピタキシャル膜3を形成することにより、複数のチップ形成領域RAを有する加工ウェハ10を用意する。この際、本実施形態では、GaNウェハ1の内部にウェハ用マークWMが形成されている。このため、加工ウェハ10は、内部にウェハ用マークWMが形成された状態で構成される。
【0023】
エピタキシャル膜3は、本実施形態では、n+型エピタキシャル層3aと、n-型エピタキシャル層3bとがGaNウェハ1側から順に成膜されて構成される。例えば、n+型エピタキシャル層3aは、シリコン、酸素、ゲルマニウム等がドーパントされ、不純物濃度が5×1017~1×1018cm-3程度とされる。n-型エピタキシャル層3bは、シリコン等がドーパントされ、不純物濃度が1×1017~4×1017cm-3程度とされる。
【0024】
なお、n-型エピタキシャル層3bは、後述する拡散層12等の一面側素子構成部分11が形成される部分であり、例えば、厚さが8~10μm程度とされる。n+型エピタキシャル層3aは、後述する半導体チップ100の厚さを確保するための部分であり、例えば、厚さが40~50μm程度とされる。なお、n+型エピタキシャル層3aとn-型エピタキシャル層3bとの厚みの大小については任意であるが、ここでは半導体チップ100の厚みを確保できるようにn+型エピタキシャル層3aをn-型エピタキシャル層3bよりも厚くしてある。以下では、加工ウェハ10のうちのエピタキシャル膜3側の面を加工ウェハ10の一面10aとし、加工ウェハ10のうちのGaNウェハ1側の面を加工ウェハ10の他面10bとする。そして、各チップ形成領域RAは、加工ウェハ10の一面10a側に構成される。
【0025】
次に、
図1Dに示されるように、一般的な半導体製造プロセスを行い、各チップ形成領域RAに、拡散層12やゲート電極13、図示しない表面電極、配線パターン、パッシベーション膜等の半導体素子における一面側素子構成部分11を形成する工程を行う。なお、ここでの半導体素子は、種々の構成のものが採用され、例えば、高電子移動度トランジスタ(HEMT:High Electron Mobility Transistorの略)等のパワーデバイスや、発光ダイオード等の光半導体素子が採用される。その後、必要に応じ、加工ウェハ10の一面10a側に、レジスト等で構成される表面保護膜を形成する。
【0026】
続いて、
図1Eに示されるように、加工ウェハ10の一面10a側に保持部材20を配置する。保持部材20は、例えば、基材21と粘着剤22とを有するダイシングテープ等が用いられる。基材21は、製造工程中に反り難い材料で構成され、例えば、ガラス、シリコン基板、セラミックス等で構成される。粘着剤22は、粘着力を変化させることができる材料で構成され、例えば、温度や光によって粘着力が変化するものが用いられる。この場合、粘着剤22は、例えば、紫外線硬化樹脂、ワックス、両面テープ等で構成される。但し、粘着剤22は、後述する
図1Jの他面側素子構成部分60を形成する際にも粘着力を維持する材料で構成される。
【0027】
次に、
図1Fに示されるように、加工ウェハ10の他面10bからレーザ光Lを照射し、各チップ形成領域RAの境界を含む外縁にチップ用変質層14を形成する。具体的には、上記
図1Bの工程と同様のレーザ装置を用意する。そして、チップ用変質層14を形成する際には、加工ウェハ10をステージに載置し、レーザ光Lの集光点が各チップ形成領域RAの外縁に沿って相対的に走査されるように、ステージ等の位置を調整する。
【0028】
これにより、各チップ形成領域RAの外縁には、熱エネルギーによってガリウムと窒素とが分解されたチップ用変質層14が形成される。より詳しくは、レーザ光Lを照射することにより、窒素がガスとして蒸発すると共にガリウムが析出されたチップ用変質層14が形成される。なお、チップ用変質層14は、窒素が分離されることにより、微小な空孔が構成された状態となっている。また、チップ用変質層14は、各チップ形成領域RAの境界においては、隣合うチップ形成領域RAで共用とされる。つまり、チップ形成領域RAが隣接している部分では、チップ用変質層14は、チップ形成領域RAの境界に沿って形成される。
【0029】
また、本実施形態では、チップ用変質層14を形成する際には、ステージ等を適宜移動させ、各チップ形成領域RAの外縁において、加工ウェハ10の厚さ方向の異なる二箇所所以上の複数箇所に集光点が移動するようにレーザ光Lを照射する。この場合、加工ウェハ10の厚さ方向の異なる箇所にチップ用変質層14が形成されるが、各チップ用変質層14は、互いに離れていてもよいし、繋がっていてもよい。また、加工ウェハ10の厚さ方向の異なる二箇所以上の複数個所に集光点を移動させる場合には、加工ウェハ10の一面10a側から他面10b側に向かって集光点が移動される。
【0030】
なお、チップ用変質層14は、後述する
図1Hのウェハ用変質層15を形成する際、ウェハ用変質層15を形成することによって発生する窒素がチップ用変質層14の空孔を介して外部に放出できるように形成される。また、特に限定されるものではないが、本実施形態では、チップ用変質層14を形成する際には、レーザ光Lとして、固体レーザ光であって、波長が532nmのグリーンレーザが用いられる。そして、レーザ光Lは、加工点出力が2μJ、パルス幅が500ps、加工速度が500mm/sとされて照射される。但し、これらの条件は1例であり、本発明者らは、レーザ光Lの加工点出力がさらに低い場合やパルス幅がさらに短い場合等においても、適切にチップ用変質層14が形成されることを確認している。また、本発明者らは、レーザ光Lの加工点出力がさらに高い場合やパルス幅がさらに長い場合等においても、適切にチップ用変質層14が形成されることを確認している。
【0031】
続いて、
図1Gに示されるように、加工ウェハ10の他面10bからレーザ光Lを照射し、各チップ形成領域RAの内部に、後述する半導体チップ100を製造した際に半導体チップ100を識別するためのロット番号等のチップ用マークTMを形成する。
【0032】
具体的には、上記
図1Bの工程と同様のレーザ装置を用意する。そして、チップ用マークTMを形成する際には、加工ウェハ10をステージに載置し、レーザ光Lの集光点が各チップ形成領域RAの所定位置となるように、ステージ等の位置を調整する。なお、チップ用マークTMの形状は、線や多角形等の図形、または番号等の種々の識別可能なパターンとされる。また、特に限定されるものではないが、本実施形態では、チップ用マークTMを形成する際におけるレーザ光Lの各条件は、ウェハ用マークWMを形成する際の条件と同じとされる。
【0033】
その後、特に図示しないが、加熱処理を行うことによってガリウムの析出を促進させ、チップ用マークTMの視認性を向上させる。なお、ここでの加熱処理は、一面側素子構成部分11が形成された加工ウェハ10に対して行うため、Gaの融点(すなわち、29.76°)以上の温度であって、200°以下の温度で行う。
【0034】
続いて、
図1Hに示されるように、加工ウェハ10の他面10bからレーザ光Lを照射し、加工ウェハ10の一面10aから所定深さDとなる位置に、加工ウェハ10の面方向に沿ったウェハ用変質層15を形成する。本実施形態では、上記
図1Bの工程と同様のレーザ装置を用いてウェハ用変質層15を形成する。
【0035】
そして、ウェハ用変質層15を形成する場合には、レーザ光Lの集光点が加工ウェハ10の面方向に沿って相対的に走査されるように、ステージ等の位置を調整する。これにより、加工ウェハ10には、面方向に沿ったウェハ用変質層15が形成される。なお、ウェハ用変質層15は、上記チップ用変質層14と同様に、窒素がガスとして蒸発すると共にガリウムが析出された構成とされる。
【0036】
この場合、本実施形態では、チップ用変質層14と交差する、またはチップ用変質層14の直下を通るようにウェハ用変質層15を形成する。これにより、本実施形態では、ウェハ用変質層15を形成する際に各チップ形成領域RAに大きな歪が印加されることを抑制できる。
【0037】
すなわち、チップ用変質層14を形成しない場合には、
図2Aに示されるように、ウェハ用変質層15を形成する際に発生した窒素が外部に放出され難いため、ウェハ用変質層15を形成したことによる加工ウェハ10の歪みが大きくなる可能性がある。一方、本実施形態では、チップ用変質層14が形成されており、ウェハ用変質層15は、チップ用変質層14と交差する、またはチップ用変質層14の直下を通るように形成されている。このため、
図2Bに示されるように、ウェハ用変質層15を形成する際に発生する窒素は、チップ用変質層14の空孔を介して外部に放出され易くなる。したがって、ウェハ用変質層15を形成したことによる加工ウェハ10の歪が大きくなることを抑制でき、各チップ形成領域RAに印加される歪を小さくできる。
【0038】
なお、特に限定されるものではないが、本実施形態では、ウェハ用変質層15を形成する際には、レーザ光Lとして、固体レーザ光であって、波長が532nmのグリーンレーザが用いられる。そして、レーザ光Lは、加工点出力が0.1~0.3μJ、パルス幅が500ps、加工速度が50~500mm/sとされて照射される。但し、これらの条件は1例であり、本発明者らは、レーザ光の加工点出力がさらに低い場合やパルス幅等がさらに短い場合等においても、適切にウェハ用変質層15が形成されることを確認している。また、本発明者らは、レーザ光Lの加工点出力がさらに高い場合やパルス幅がさらに長い場合等においても、適切にウェハ用変質層15が形成されることを確認している。
【0039】
また、ウェハ用変質層15を形成する際の所定深さDは、半導体チップ100のハンドリングのし易さや耐圧等に応じて設定され、10~200μm程度とされる。この場合、ウェハ用変質層15は、エピタキシャル膜3の厚さに応じて形成される場所が変更され、エピタキシャル膜3の内部、エピタキシャル膜3とGaNウェハ1との境界、またはGaNウェハ1の内部のいずれかに形成される。
図1Hでは、エピタキシャル膜3とGaNウェハ1との境界にウェハ用変質層15を形成する例を示している。
【0040】
なお、後述するように、加工ウェハ10におけるGaNウェハ1の少なくとも一部は、リサイクルウェハ40として再利用される。このため、ウェハ用変質層15は、エピタキシャル膜3の内部、またはエピタキシャル膜3とGaNウェハ1との境界に形成されることが好ましい。また、ウェハ用変質層15がGaNウェハ1の内部に形成される場合には、ウェハ用変質層15は、GaNウェハ1の一面1a側に形成されることが好ましい。
【0041】
そして、ウェハ用変質層15がエピタキシャル膜3の内部に形成される場合、ウェハ用変質層15は、半導体素子を構成するn-型エピタキシャル層3bではなく、n+型エピタキシャル層3aの内部に形成される。以下では、加工ウェハ10のうちのウェハ用変質層15より一面10a側の部分をチップ構成ウェハ30とし、加工ウェハ10のうちのウェハ用変質層15より他面10b側の部分をリサイクルウェハ40として説明する。
【0042】
次に、
図1Iに示されるように、加工ウェハ10の他面10b側に補助部材50を配置する。なお、補助部材50は、例えば、保持部材20と同様に、基材51と、粘着力を変化させることのできる粘着剤52とで構成される。この場合、補助部材50における基材51は、例えば、ガラス、シリコン基板、セラミックス等で構成され、補助部材50における粘着剤52は、例えば、紫外線硬化樹脂、ワックス、両面テープ等で構成される。そして、保持部材20および補助部材50を把持して加工ウェハ10の厚さ方向に引張力等を印加し、ウェハ用変質層15を境界(すなわち、分岐の起点)としてチップ構成ウェハ30とリサイクルウェハ40とに分割する。
【0043】
なお、上記のように、ウェハ用マークWMは、リサイクルウェハ40に残存するように形成されることが好ましい。これにより、後述するようにリサイクルウェハ40をGaNウェハ1として利用する際、
図1C以降の工程から行うことができる。以下では、チップ構成ウェハ30のうちの一面側素子構成部分11が形成されている側の面を一面30aとし、チップ構成ウェハ30のうちの分割された面側を他面30bとし、リサイクルウェハ40のうちの分割された面側を一面40aとして説明する。また、
図1I以降の各図では、チップ構成ウェハ30の他面30bおよびリサイクルウェハ40の一面40aに残存するウェハ用変質層15等を適宜省略して示している。
【0044】
その後、
図1Jに示されるように、一般的な半導体製造プロセスを行い、チップ構成ウェハ30の他面30bに、裏面電極を構成する金属膜61等の半導体素子における他面側素子構成部分60を形成する工程を行う。
【0045】
なお、この他面側素子構成部分60を形成する工程の前に、必要に応じて、CMP(cemical mechanical polishingの略)法等でチップ構成ウェハ30の他面30bを平坦化する工程を行うようにしてもよい。
図1Jは、チップ構成ウェハ30の他面30bを平坦化した場合の図を示している。また、他面側素子構成部分60を形成する工程を行った後、必要に応じて、金属膜61とチップ構成ウェハ30の他面30bとをオーミック接触とするため、レーザアニール等の加熱処理等を行うようにしてもよい。
【0046】
続いて、
図1Kに示されるように、保持部材20をエキスパンドし、チップ用変質層14を境界(すなわち、分岐の起点)として各チップ形成領域RAを分割する。その後、加熱処理や光を照射する等して粘着剤22の粘着力を弱まらせ、半導体チップ100をピックアップする。これにより、半導体チップ100が製造される。なお、各チップ形成領域RAを分割する前には、必要に応じ、金属膜61のうちの各チップ形成領域RAの境界にスリット等を形成しておくことにより、チップ形成領域RA毎に金属膜61を容易に分割できる。この場合、
図1Jの工程において、分割される部分を覆うメタルマスクを用意し、分割される部分に金属膜61が形成されないようにしてもよい。
【0047】
また、上記のように製造される半導体チップ100は、一面110a、一面と反対側の他面110b、一面110aと他面110bとを繋ぐ側面110cを有するチップ構成基板110を備えた構成となる。チップ構成基板110は、GaNで構成されるエピタキシャル膜3を有し、一面110a側に一面側素子構成部分11が形成され、他面110b側に他面側素子構成部分60が形成された構成となる。そして、半導体チップ100は、上記のようにチップ用マークTMが形成された状態で構成される。
【0048】
なお、本実施形態の半導体チップ100は、チップ用変質層14を境界として分割されることで構成されるため、側面110cにチップ用変質層14が残存した状態となっている。この場合、チップ用変質層14は、ガリウムと窒素とが分離されてガリウムが析出した層であり、微小な凹凸が形成された状態となっている。このため、本実施形態の製造方法では、ハンドリング等がし易い半導体チップ100が製造される。
【0049】
また、
図1Lに示されるように、
図1Iで構成されたリサイクルウェハ40に対し、研磨装置70等を用いたCMP法で一面40aを平坦化する。そして、平坦化したリサイクルウェハ40をGaNウェハ1とし、再び上記
図1A以降の工程を行う。これにより、GaNウェハ1は、半導体チップ100を構成するのに複数回利用されることができる。但し、リサイクルウェハ40にウェハ用マークWMが形成されている場合には、改めて
図1Bの工程を行うことなく、
図1C以降の工程が行われる。
【0050】
以上説明した本実施形態によれば、加工ウェハ10の内部に、ガリウムを析出させてウェハ用マークWMを形成している。そして、加工ウェハ10の一面10aおよび他面10bには、窪み部が形成されていない。このため、ウェハ用マークWMを起点として加工ウェハ10が割れることを抑制できる。
【0051】
また、本実施形態によれば、半導体チップ100の内部に、ガリウムを析出させてチップ用マークTMを形成している。そして、半導体チップ100を構成するチップ構成基板110の一面110aおよび他面110bには、窪み部が形成されていない。このため、チップ用マークTMを起点として半導体チップ100が割れることを抑制できる。
【0052】
さらに、ウェハ用マークWMを内部に形成することにより、ウェハ用マークWMを形成する際に微小な塵等が発生することを抑制できる。同様に、チップ用マークTMを内部に形成することにより、チップ用マークTMを形成する際に微小な塵等が発生することを抑制できる。このため、これらのマークWM、TMを形成する際に塵等が加工ウェハ10や半導体チップ100に付着することを抑制できる。
【0053】
(1)本実施形態では、一面側素子構成部分11を形成する前にウェハ用マークWMを形成する。このため、一面側素子構成部分11を形成した後にウェハ用マークWMを形成する場合と比較して、加熱処理等の条件の選択を広くできる。
【0054】
(2)本実施形態では、ウェハ用マークWMを形成する際、リサイクルウェハ40となる部分にウェハ用マークWMを形成する。これにより、リサイクルウェハ40を再びGaNウェハ1として利用する際、新たにウェハ用マークWMを形成する工程を行う必要がなく、製造工程の簡略化を図ることができる。
【0055】
(3)本実施形態では、ウェハ用変質層15を形成する前にチップ用マークTMを形成している。このため、ウェハ用変質層15を形成した後にチップ用マークTMを形成する場合と比較して、チップ用マークTMを形成する際のレーザ光Lがウェハ用変質層15によって散乱することを抑制でき、好適にチップ用マークTMを形成することができる。
【0056】
(4)本実施形態では、ウェハ用マークWMを形成した後、およびチップ用マークTMを形成した後に加熱処理を行っている。このため、各マークWM、TMを構成するガリウムの析出を促進させることができ、各マークWM、TMの視認性の向上を図ることができる。
【0057】
(5)本実施形態では、加工ウェハ10をチップ構成ウェハ30とリサイクルウェハ40とに分割し、リサイクルウェハ40を再びGaNウェハ1として利用する。このため、半導体チップ100を製造する度にGaNウェハ1を新たに用意する必要がなく、GaNウェハ1を有効利用できる。したがって、半導体チップ100の生産性の向上を図ることができる。
【0058】
(他の実施形態)
本開示は、実施形態に準拠して記述されたが、本開示は当該実施形態や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【0059】
例えば、上記第1実施形態において、エピタキシャル膜3は、n-型エピタキシャル層3bのみで構成されていてもよい。
【0060】
また、上記第1実施形態において、
図1Jの工程では、チップ構成ウェハ30の他面30bを研磨せずに金属膜61を形成するようにしてもよい。例えば、半導体素子として光半導体素子等を形成する場合には、半導体チップ100の他面側に凹凸構造を形成することにより、他面側から効果的に光を取り出すことが可能となる。そして、加工ウェハ10をチップ構成ウェハ30とリサイクルウェハ40とに分割した直後においては、チップ構成ウェハ30の他面30bは、ウェハ用変質層15が残存した状態となっており、微小な凹凸が形成された状態となっている。このため、光半導体素子を形成する場合には、チップ構成ウェハ30の他面30bを研磨せず、ウェハ用変質層15の凹凸を利用するようにしてもよい。
【0061】
さらに、上記第1実施形態において、
図1Bのエピタキシャル膜3を形成する工程では、GaNウェハ1の他面1b側にもエピタキシャル膜が形成されるようにしてもよい。これによれば、例えば、ウェハ用変質層15をGaNウェハ1内に形成する場合においても、リサイクルウェハ40として所定以上の厚さを残し易くなり、再利用できる回数の増加を図ることができる。
【0062】
また、上記第1実施形態において、ウェハ用マークWMを形成する工程およびチップ用マークTMを形成する工程のいずれか一方の工程のみを行うようにしてもよい。
【0063】
そして、上記第1実施形態において、ウェハ用マークWMを形成する工程は、
図1Cのエピタキシャル膜3を形成した後、
図1Dの一面側素子構成部分11を形成する工程の前に行うようにしてもよい。また、ウェハ用マークWMは、加工ウェハ10のうちのチップ構成ウェハ30となる部分に構成されるようにしてもよい。
【0064】
さらに、上記第1実施形態において、チップ用マークTMを形成する工程では、
図1Hのウェハ用変質層15を形成する工程の後に行うようにしてもよい。
【0065】
また、上記第1実施形態において、チップ用変質層14を形成する代わりに、チップ用変質層14が形成される部分に溝部を形成しておいてもよい。また、上記第1実施形態において、チップ用変質層14や溝部を形成せず、チップ構成ウェハ30を形成した後、ダイシングソー、またはレーザダイシング等でチップ構成ウェハ30をチップ単位に分割して半導体チップ100を個片化するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0066】
1 GaNウェハ
1a 一面
1b 他面
3 エピタキシャル膜
10 加工ウェハ
10a 一面
10b 他面
11 一面側素子構成部分
30 チップ構成ウェハ
40 リサイクルウェハ
100 半導体チップ
WM ウェハ用マーク
TM チップ用マーク
L レーザ光