(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022135630
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】着用エアバッグ装置
(51)【国際特許分類】
A41D 13/018 20060101AFI20220908BHJP
【FI】
A41D13/018
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021035566
(22)【出願日】2021-03-05
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 利仁
(72)【発明者】
【氏名】河村 祐亮
【テーマコード(参考)】
3B011
【Fターム(参考)】
3B011AA01
3B011AA05
3B011AB01
3B011AC04
(57)【要約】
【課題】転倒時に、装着者を的確に保護することが可能な着用エアバッグ装置を提供すること。
【解決手段】装着者Mの腰部MWを転倒時の転倒先面Fから保護可能に構成される着用エアバッグ装置S。骨盤周囲において装着者に装着される構成とされて、内部に膨張用ガスを流入させて、装着者の左右の大腿骨転子部からなる保護対象部位の外側を覆うように、膨張可能とされるエアバッグ10を、備える。エアバッグが、転倒先面との接触時に、転倒先面に対する転がりを抑制する転動抑制手段16を、有している。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
装着者の腰部を転倒時の転倒先面から保護可能に構成される着用エアバッグ装置であって、
骨盤周囲において前記装着者に装着される構成とされて、内部に膨張用ガスを流入させて、前記装着者の左右の大腿骨転子部からなる保護対象部位の外側を覆うように、膨張可能とされるエアバッグを、備え、
該エアバッグが、前記転倒先面との接触時に、前記転倒先面に対する転がりを抑制する転動抑制手段を、有していることを特徴とする着用エアバッグ装置。
【請求項2】
前記エアバッグが、膨張完了時に前記各保護対象部位の外側を覆う2つの保護膨張部を、有して、該各保護膨張部において前記装着者から離隔した側に配置される外側壁部の外側面を、それぞれ、膨張完了時に、前後方向に略沿うとともに、上下方向に略沿って配置可能な平面状接触面として、構成されて、
該平面状接触面が、前記転動抑制手段を構成して、前記装着者の転倒時に、前記転倒先面に対して接触し、前記保護膨張部の転動を抑制可能に構成されていることを特徴とする請求項1に記載の着用エアバッグ装置。
【請求項3】
前記保護膨張部が、前記外側壁部と、膨張完了時に前記装着者側に配置される内側壁部と、を有して、前記外側壁部と前記内側壁部との外周縁相互を結合させて構成されるとともに、内部に、前記外側壁部と前記内側壁部とを連結するテザーを配設させることにより、膨張完了時の前記外側壁部の外側面を、前記平面状接触面とするように、構成されていることを特徴とする請求項2に記載の着用エアバッグ装置。
【請求項4】
前記エアバッグの外周壁が、複数の基材から構成され、
前記平面状接触面を有する前記保護膨張部が、前記基材の周縁を立体的に結合させることにより、構成されていることを特徴とする請求項2に記載の着用エアバッグ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、装着者の腰部を転倒時の転倒先面から保護可能に構成される着用エアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、転倒時等において、装着者(例えば高齢者)の腰部を保護可能に構成される着用エアバッグ装置としては、腰に巻き付けるように装着して、作動時に、下方に向かって突出するように膨張したエアバッグにより腰部を覆って、地面や床等の転倒先面から保護する構成のものがあった(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2019/207474号
【特許文献2】特開2008-22943公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらの従来の着用エアバッグ装置では、装着者の転倒時に、腰部を覆うように膨張したエアバッグが、地面や床等の転倒先面と、腰部と、の間に介在されて、腰部を保護する構成であるが、エアバッグは、内部に膨張用ガスを流入させて、表面を湾曲させるように膨張することから、転倒先面との接触時に、転倒先面に対して転がる場合があり、転倒時におけるエアバッグのさらなる転動を抑制して装着者を的確に保護する点に、改善の余地があった。
【0005】
本発明は、上述の課題を解決するものであり、転倒時に、装着者を的確に保護することが可能な着用エアバッグ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る着用エアバッグ装置は、装着者の腰部を転倒時の転倒先面から保護可能に構成される着用エアバッグ装置であって、
骨盤周囲において装着者に装着される構成とされて、内部に膨張用ガスを流入させて、装着者の左右の大腿骨転子部からなる保護対象部位の外側を覆うように、膨張可能とされるエアバッグを、備え、
エアバッグが、転倒先面との接触時に、転倒先面に対する転がりを抑制する転動抑制手段を、有していることを特徴とする。
【0007】
本発明の着用エアバッグ装置では、エアバッグが、転動抑制手段を有して、装着者の転倒時における転倒先面との接触時に、転倒先面に対して転がることを抑制されることから、エアバッグによって、保護対象部位を的確に保護できるとともに、エアバッグの転動によって、装着者が、エアバッグによって覆われていない領域を転倒先面と接触させる等のダメージを受けることも、抑制できる。
【0008】
したがって、本発明の着用エアバッグ装置では、転倒時に、装着者を的確に保護することができる。
【0009】
具体的には、本発明の着用エアバッグ装置において、エアバッグを、膨張完了時に各保護対象部位の外側を覆う2つの保護膨張部を、有して、各保護膨張部において装着者から離隔した側に配置される外側壁部の外側面を、それぞれ、膨張完了時に、前後方向に略沿うとともに、上下方向に略沿って配置可能な平面状接触面として、構成して、
平面状接触面により、転動抑制手段を構成して、装着者の転倒時に、転倒先面に対して接触し、保護膨張部の転動を抑制可能に構成することが、好ましい。
【0010】
着用エアバッグ装置を上記構成とすれば、エアバッグの膨張完了時に、各保護膨張部の外側壁部の外側面から構成される平面状接触面が、前後上下に略沿って配置されることから、装着者の転倒時に、広い範囲で、転倒先面に接触することとなって、保護膨張部のさらなる転動を、的確に抑制することができ、保護膨張部によって、装着者の保護対象部位を、安定して保護することができる。
【0011】
さらに具体的には、保護膨張部を、外側壁部と、膨張完了時に装着者側に配置される内側壁部と、を有して、外側壁部と内側壁部との外周縁相互を結合させて構成するとともに、内部に、外側壁部と内側壁部とを連結するテザーを配設させることにより、膨張完了時の外側壁部の外側面を、平面状接触面とするように、構成すれば、テザーの配置部位や配置数等によって、外側壁部の平面状態を適宜設定することができ、設計変更が容易である。
【0012】
また、エアバッグの外周壁を、複数の基材から構成し、平面状接触面を有する保護膨張部を、基材の周縁を立体的に結合させることにより、構成してもよく、このような構成とすれば、内部に配置させるテザーの数を抑制できて、エアバッグを簡便な構成とできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態である着用エアバッグ装置を、装着者に装着させた状態の概略図である。
【
図2】実施形態の着用エアバッグ装置を平らに展開した状態の平面図である。
【
図3】実施形態の着用エアバッグ装置において使用するエアバッグを平らに展開した状態の平面図である。
【
図4】
図3のエアバッグを単体で膨張させた状態の断面図であり、
図3のIV-IV部位を示す。
【
図5】実施形態の着用エアバッグ装置において、装着者に装着させた状態でエアバッグが膨張を完了させた状態の概略図である。
【
図6】実施形態の着用エアバッグ装置において、エアバッグが膨張を完了させた状態を示す装着状態での前後方向に沿った概略部分横断面図(左側の概略横断面図である)。
【
図7】実施形態の着用エアバッグ装置において、エアバッグが膨張を完了させた状態を示す装着状態での概略縦断面図である。
【
図8】実施形態の着用エアバッグ装置を装着した状態の装着者が転倒する状態を説明する概略図である。
【
図9】実施形態の着用エアバッグ装置において、エアバッグを膨張させた状態で、装着者が転倒している状態を示す概略断面図である。
【
図10】本発明の他の実施形態であるエアバッグを示す部分拡大平面図である。
【
図11】
図10のエアバッグを単体で膨張させた状態の断面図であり、
図10のXI-XI部位を示す。
【
図12】
図10のエアバッグで使用するテザーの平面図である。
【
図13】
図10のエアバッグが膨張を完了させた状態を示す装着状態での前後方向に沿った概略部分横断面図(左側の概略横断面図である)。
【
図14】
図10のエアバッグが膨張を完了させた状態を示す装着状態での概略縦断面図である。
【
図15】本発明のさらに他の実施形態であるエアバッグを示す概略断面図である。
【
図16】本発明のさらに他の実施形態であるエアバッグを単体で膨張させた状態を示す概略斜視図である。
【
図19】
図16のエアバッグを構成する基材を並べた状態の平面図である。
【
図20】
図16のエアバッグが膨張を完了させた状態を示す装着状態での概略図である。
【
図21】
図16のエアバッグが膨張を完了させた状態を示す装着状態での前後方向に沿った概略部分横断面図(左側の概略横断面図である)。
【
図22】
図16のエアバッグが膨張を完了させた状態を示す装着状態での概略縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。実施形態の着用エアバッグ装置Sは、
図1に示すように、装着者Mの腰部MWの周囲(詳細には、骨盤MPの周囲)に巻き付けるようにして、装着される構成である。実施形態では、上下,前後,左右の方向は、特に断らない限り、装着者Mに装着させた状態での装着者Mの上下,前後,左右の方向と一致するものである。
【0015】
着用エアバッグ装置Sは、
図2に示すように、エアバッグ10と、エアバッグ10に膨張用ガスを供給するガス発生器5と、装着者Mの転倒を検知するセンサ部2を備えてガス発生器5を作動させる作動制御装置1と、エアバッグ10の外周側を覆うアウタカバー部25と、を備える構成とされている。実施形態の着用エアバッグ装置Sでは、エアバッグ10は、
図1,2に示すように、平らに展開された状態で、アウタカバー部25内に配置されている。
【0016】
作動制御装置1は、上下前後左右の3軸回りの角速度を検知可能な角速度検知センサと、3軸方向の加速度を検知可能な加速度検知センサと、を有するセンサ部2を、を備えるとともに、センサ部2からの信号によって、装着者Mの通常動作とは異なる転倒動作を検知すると、ガス発生器5を作動させるように、構成されている。具体的には、装着者Mが通常動作と異なった転倒動作を開始していると、作動制御装置1は、種々の閾値から判定可能な判定手段を備えていることから、その判定手段の判定に基づいて装着者Mの転倒を検出し、ガス発生器5を作動させることとなる。この作動制御装置1には、センサ部2の作動用やガス発生器5の作動用の信号の出力のために、図示しない電池等からなる電源が、内蔵されている。
【0017】
エアバッグ10は、可撓性を有したシート体から形成されるもので、実施形態の場合、ポリエステル糸やポリアミド糸等からなる織布から形成されている。このエアバッグ10は、アウタカバー部25における後述する巻付部位27を装着者Mに巻き付けられることにより、骨盤MP周囲において、装着者Mに装着される構成である。実施形態の場合、エアバッグ10は、装着状態において、装着者Mの腰部MWの左右の側方を覆うように、配置される(
図1参照)。エアバッグ10は、
図3,4に示すように、外形形状を略同一として、装着時に装着者M側に配置される内側壁部10aと、装着者Mから離れた外側に配置される外側壁部10bと、を有し、内側壁部10aと外側壁部10bとの周縁相互を、縫着(結合)させることにより、膨張完了形状を略板状とした袋状とされている。実施形態の場合、エアバッグ10は、
図3に示すように、膨張完了時に装着者Mの腰部MWの左右の側方を覆う2つの保護膨張部13(13L,13R)と、保護膨張部13(13L,13R)の上端相互を連通するように構成される連通路部12と、を備えている。エアバッグ10は、平らに展開した状態で、左右対称形とされている。
【0018】
連通路部12は、膨張完了形状を、左右方向に略沿った略棒状として構成されるもので、アウタカバー部25における後述する巻付部位27の領域内に配置される構成である。この連通路部12は、実施形態の場合、詳細な図示は省略するが、エアバッグ10の膨張完了時に、装着者Mの骨盤MPの後側となる位置に、配置される構成である。実施形態では、この連通路部12の部位に、ガス発生器5が、エアバッグ10の内部に膨張用ガスを供給可能に連結されている(
図2参照)。ガス発生器5は、詳細な図示を省略するが、連通路部12の長手方向の中央付近に配置されるもので、内部に圧縮ガスを封入させて構成されて、作動時に、封入状態を解除されて、エアバッグ10内にコールドガスを噴出可能な構成とされている。このガス発生器5は、上述した作動制御装置1と電気的に接続されており、装着者Mの転倒を検知した作動制御装置1からの作動信号を入力させて、作動される構成である。
【0019】
保護膨張部13(13L,13R)は、エアバッグ10を平らに展開した状態において、上端13aを連通路部12の上縁よりもわずかに下方に位置させるように、連通路部12に対して段差を設けられるようにして、配置されるもので、連通路部12から左右の外方に延びつつ下方に延びるように形成されている。各保護膨張部13(13L,13R)は、装着時に、保護対象部位としての大腿骨転子部TPの周囲を、外側を含めて広く覆い可能に構成されるもので、平らに展開した状態の外形形状を、装着状態における前後方向側で幅広とし、かつ、下端側にかけてやや狭幅に構成される略台形状とされている。具体的には、各保護膨張部13は、エアバッグ10の膨張完了時に、装着者Mの骨盤MPの側方から大腿骨転子部TPの下方(転子下)にかけての領域を、前後上下に広く覆うように、構成されている。また、各保護膨張部13は、膨張完了時に装着者Mから離隔した側に配置される外側壁部15の外側面15aを、それぞれ、膨張完了時に、前後方向に略沿うとともに、上下方向に略沿って配置させるように、構成されている。そして、この外側壁部15の外側面15aが、平面状接触面16として、装着者Mの転倒時に、地面や床面等の転倒先面Fに対して接触し(
図8,9参照)、保護膨張部13の転動を抑制可能とする転動抑制手段を構成している。
【0020】
具体的には、各保護膨張部13は、内部に、膨張完了時に装着者M側に配置される内側壁部14と、装着者Mから離隔した側に配置される外側壁部15と、を連結する縦テザー17,18F,18Bを、配設させることにより、膨張完了時に、外側壁部15を、前後方向に略沿うとともに、上下方向に略沿って配置可能に、構成されている。縦テザー17,18F,18Bは、実施形態の場合、上下方向に略沿って配置されるとともに、前後方向側で3箇所に、並設されている。この3つの縦テザー17,18F,18Bは、
図3に示すように、長さ寸法(上下方向側)の幅寸法を略同一として、各保護膨張部13の上端13a側と下端13b側とを除いて、連続的に形成されている。また、縦テザー17,18F,18Bは、幅寸法を異ならせて構成されている。前後の中央側に配置される中央側縦テザー17は、幅寸法を最も小さく設定され、装着時に端側(中央側縦テザー17の前後両側)に配置される端側縦テザー18F,18Bは、中央側縦テザー17よりも幅寸法を大きく設定されている(
図4参照)。中央側縦テザー17は、装着時における前後の略中央(エアバッグ10を平らに展開した状態で、左右の略中央)に配置され、端側縦テザー18F,18Bは、中央側縦テザー17を中心として略対称となる位置に配置されるとともに、幅寸法を略同一とされている。すなわち、各保護膨張部13は、平らに展開した状態において単体で膨張させた状態では、左右(装着状態における前後)の中央側の中央側領域13cを、上下方向に沿って相対的に薄肉とし、左右両側(装着状態における前後両側)の端側領域13d,13eを、相対的に厚肉として、構成されることとなる。
【0021】
エアバッグ10は、連通路部12の部位を、アウタカバー部25における後述する巻付部位22を利用して、装着者Mの骨盤MPの周囲に巻き付けるようにして、装着される構成であり、すなわち、エアバッグ10の膨張完了時に、連通路部12は、装着者Mの骨盤MP付近の湾曲状態に沿って湾曲して配置されることとなる。そして、連通路部12から下方に延びるように配置される保護膨張部13も、装着者Mの腰部MW付近、すなわち、水平面に沿った断面(前後方向に沿った横断面)において略楕円状に湾曲するような領域を覆う構成である(
図6参照)。内部にテザーを設けない場合、保護膨張部は、単に、前後に幅広とした断面楕円状に膨張しようとするが、実施形態のエアバッグ10では、上述したごとく、保護膨張部13は、装着時における前後の中央の中央側領域13cを相対的に薄肉とし、前後両側の端側領域13d,13eを厚肉とするように、膨張することから、最も薄肉の中央側領域13cを、腰部MWの側方における左右の外側端に位置した部位に対応させれば、前後方向に沿った横断面において、内側壁部14側を腰部MWの腰回りの湾曲に沿わせつつ、外側壁部15側を、前後方向に略沿わせるように、配置されることとなる(
図6参照)。そして、各保護膨張部13において、この前後方向に略沿って配置される外側壁部15の外側面15aが、平面状接触面16を構成することとなるが、平面状接触面16は、前縁相互及び後縁相互を、それぞれ、連通路部12やアウタカバー部25の巻付部位27によって、相互に連結されるような態様となることから(
図6の二点鎖線参照)、エアバッグ10の膨張完了時に、安定して、平面状に形成されることとなる。具体的には、保護膨張部13は、膨張完了状態における前後方向側の幅寸法D1を、少なくとも、装着者の腰部MWの前後方向側の幅寸法D0よりも大きく設定され、中央側領域13cの厚さ寸法D2を、前後方向側の幅寸法D1の1/2程度に設定されるように、構成されている(
図6参照)。また、保護膨張部13の膨張完了時における上下方向側の幅寸法D3(
図7参照)は、膨張完了時の前後方向側の幅寸法D1よりも若干小さく設定されている。
【0022】
アウタカバー部25は、エアバッグ10を構成する基布よりも触感の良好な可撓性を有した織布から形成されるもので、外形形状を略同一として、装着時に内側(装着者M側)に配置される内側壁部25aと、装着時に外側に配置される外側壁部25bと、を有し、内側壁部25aと外側壁部25bとの外周縁相互を結合(縫着)させることにより、袋状とされている。アウタカバー部25は、
図1,2,5に示すように、上縁側に配置されて装着者Mの骨盤MPの上側の領域の周囲に巻き付けられる略帯状の巻付部位27と、巻付部位27から下方に延びるように形成されてそれぞれ各保護膨張部13(13L,13R)の外周側を覆う2つのメインカバー部30(30L,30R)と、を備える構成とされている。巻付部位27の端部27a,27b側には、装着手段としての一対の面状ファスナー28が、配設されている。面状ファスナー28は、それぞれ、巻付部位27の端部27a,27b側に配置される鉤状側部28aとループ側部28bとを有して、巻付部位27の端部27a,27b相互を連結可能に構成されている。メインカバー部30(30L,30R)は、巻付部位27から下方に延びるように形成されるもので、それぞれ、内部で保護膨張部13(13L,13R)を円滑に膨張可能に、平らに展開した状態の外形形状を、保護膨張部13よりも大きくして、保護膨張部13と略相似形とするように、構成されている。
【0023】
実施形態の着用エアバッグ装置Sは、アウタカバー部25における巻付部位27の端部27a,27b相互を、装着手段としての面状ファスナー28を利用して連結させることにより、装着者Mの腰部MW(骨盤MP)の周囲に巻き付けられるようにして、装着者Mに装着されることとなる(
図1参照)。そして、実施形態の着用エアバッグ装置Sでは、装着者Mに装着させた状態で、センサ部2が、
図8に示すような装着者Mの転倒を検知すれば、作動制御装置1からガス発生器5に作動信号が出力されて、エアバッグ10の内部に膨張用ガスが流入することとなり、エアバッグ10が、
図5~7に示すように膨張を完了させることとなる。そして、実施形態の着用エアバッグ装置Sでは、エアバッグ10を膨張させた状態で、装着者Mが、腰部MWの側面を地面や床面等の転倒先面Fと接触させるように転倒すると、転倒先面F側となる一方の保護膨張部13(
図8における左側の保護膨張部13L)が、腰部MWと転倒先面Fとの間に介在されることとなり、この保護膨張部13Lによって、大腿骨転子部TPからなる保護対象部位を保護することができる。
【0024】
そして、実施形態の着用エアバッグ装置Sでは、エアバッグ10が、転動抑制手段(実施形態の場合、保護膨張部13における外側壁部15の外側面15aから構成される平面状接触面16)を有して、装着者Mの転倒時における転倒先面Fとの接触時に、転倒先面Fに対して転がることを抑制されることから(
図9参照)、エアバッグ10によって、保護対象部位としての大腿骨転子部TPを的確に保護できるとともに、エアバッグ10の転動によって、装着者Mが、エアバッグによって覆われていない領域を転倒先面Fと接触させる等のダメージを受けることも、抑制できる。
【0025】
したがって、実施形態の着用エアバッグ装置では、簡便な構成として、装着者Mを的確に保護することができる。
【0026】
具体的には、実施形態の着用エアバッグ装置Sでは、エアバッグ10が、膨張完了時に各大腿骨転子部TP(保護対象部位)の外側を覆う2つの保護膨張部13(13L,13R)を、有して、各保護膨張部13において装着者Mから離隔した側に配置される外側壁部15の外側面15aを、それぞれ、膨張完了時に、前後方向に略沿うとともに、上下方向に略沿って配置可能な平面状接触面16として、構成している。そして、この外側面15a(平面状接触面16)が、転動抑制手段を構成して、装着者Mの転倒時に、転倒先面Fに対して接触し、保護膨張部13の転動を抑制可能としている。すなわち、実施形態の着用エアバッグ装置Sでは、エアバッグ10の膨張完了時に、各保護膨張部13の外側壁部15の外側面15aから構成される平面状接触面16が、前後上下に略沿って配置されることから、装着者Mの転倒時に、広い範囲で、転倒先面Fに接触することとなって、保護膨張部13のさらなる転動を、的確に抑制することができ、保護膨張部13によって、装着者Mの保護対象部位(大腿骨転子部TP)を、安定して保護することができる。この平面状接触面16(各保護膨張部13における外側壁部15の外側面15a)は、前縁相互及び後縁相互を、それぞれ、連通路部12やアウタカバー部25の巻付部位27によって、相互に連結されるような態様となることから(
図6の二点鎖線参照)、エアバッグ10の膨張完了時に、安定して、形成されることとなる。
【0027】
さらに具体的には、実施形態の場合、保護膨張部13は、外側壁部15と、膨張完了時に装着者M側に配置される内側壁部14と、を有して、外側壁部15と内側壁部14との外周縁相互を結合させて構成するとともに、内部に、外側壁部15と内側壁部14とを連結する縦テザー17,18F,18Bを配設させることにより、膨張完了時の外側壁部15の外側面15aを、平面状接触面16とするように、構成している。そのため、テザーの配置部位や配置数等によって、外側壁部の平面状態を適宜設定することができ、設計変更が容易である。詳細には、実施形態のエアバッグ10では、上下方向に略沿うような3つの縦テザー17,18F,18Bを、装着時における前後方向側で並設させる構成として、中央側に配置される中央側縦テザー17の幅寸法を、両側に配置される端側縦テザー18F,18Bの幅寸法よりも小さく設定することにより、膨張完了時の厚さを規制し、装着時に、外側壁部15を、前後方向に略沿うとともに、上下方向に略沿って配置させる構成である。特に、実施形態のエアバッグ10では、保護膨張部13は、膨張完了時の前後方向側の幅寸法D1を、装着者Mの腰部MWの前後方向側の幅寸法よりも大きく設定され、かつ、膨張完了時の上下方向側の幅寸法D3を、前後方向側の幅寸法D1より若干小さく設定されて、腰部MWの側方を、前後の全域で、かつ、上下にも広く覆うことから、転倒時に、腰部MWよりも前後に広い面で、転倒先面Fに接触させることができ、保護膨張部13のさらなる転動を安定して規制することができる。また、保護膨張部13は、最も薄肉とされ、かつ、保護対象部位としての大腿骨転子部TPと転倒先面Fとの間に介在されることとなる中央側領域13cの厚さ寸法D2を、前後方向側の幅寸法D1の1/2程度に設定される構成であることから、保護対象部位としての大腿骨転子部TPを、クッション性よく安定して保護することができる。
【0028】
内部にテザーを配設させることにより、膨張完了時の保護膨張部の外形形状を規制する構成のエアバッグ10Aとしては、
図10,11に示す構成のものを使用してもよい。エアバッグ10Aでは、保護膨張部13A内に、
図10,11に示すように、装着状態における膨張完了時に、水平面(平らに展開した状態での左右方向)に略沿うように配設される横テザー35(35U,35D)を、上下方向側で2箇所に、並設させている。各横テザー35は、平らに展開した状態での保護膨張部13Aの左縁側と右縁側とを除いて配設されるとともに、周縁を全長にわたって、外側壁部15A若しくは内側壁部14Aに、結合(縫着)させている。また、各横テザー35には、膨張用ガスを挿通可能なガス流通孔35aが、複数個(実施形態の場合、3個)配設されている。各横テザー35は、左右方向の中央側の幅寸法を小さくして、両端側にかけて大きくするように、平らに展開した状態の外形形状を、略鼓形状とされている(
図12参照)。
【0029】
エアバッグ10Aをこのような構成とした場合にも、保護膨張部13Aは、単体で膨張させた状態で、左右(装着状態における前後)の中央側の中央側領域13cを、上下方向に沿って相対的に薄肉とし、左右両側(装着状態における前後両側)の端側領域13d,13eを、相対的に厚肉として、構成されることから、装着状態においては、前後方向に沿った横断面において、内側壁部14A側を腰部MWの腰回りの湾曲に沿わせつつ、外側壁部15A側を、前後方向に略沿わせるように、配置されることとなる(
図13参照)。そのため、エアバッグ10Aの膨張完了時に、各保護膨張部13Aの外側壁部15Aの外側面15aから構成される平面状接触面16Aが、前後上下に略沿って配置されることから、装着者Mの転倒時に、詳細な図示は省略するが、広い範囲で、転倒先面に接触することとなって、保護膨張部13Aのさらなる転動を、的確に抑制することができ、保護膨張部13Aによって、装着者Mの保護対象部位(大腿骨転子部TP)を、安定して保護することができる。なお、
図13,14では、アウタカバー部は省略されている。
【0030】
保護膨張部13,13Aの内部に配設されるテザーとしては、エアバッグ10のごとく上下方向に略沿った縦テザー17,18F,18Bを装着時の前後方向側で複数個並設させる構成としても、また、エアバッグ10Aのごとく前後方向に略沿った横テザー35U,35Dを上下方向側で複数個並設させる構成としてもよく、いずれの構成においても、中央側領域13cを相対的に薄肉とし、前後両側の端側領域13d,13eを厚肉とするように、膨張完了形状を規制して、装着状態における膨張完了時に、外側壁部15,15Aの外側面15a(平面状接触面16,16A)を平面状とすることができる。しかしながら、テザーの保護膨張部側への結合作業時における作業性(直線的な縫合作業により形成できる)や、中央側領域13cの厚さを、上下で広く略一定に維持できる観点からは、エアバッグ10のごとく、保護膨張部13の内部に、上下方向に略沿った縦テザー17,18F,18Bを配設させることが、好ましい。
【0031】
エアバッグ10,10Aは、所定形状の基布(内側壁部10a,外側壁部10b)の外周縁を、縫合糸を用いて縫着(結合)させることにより、袋状とされているが、エアバッグは、袋織りにより、形成してもよい。袋織りから形成する場合、エアバッグ10Bとして、
図15に示すごとく、例えば、保護膨張部13Bの内部に、内側壁部14B若しくは外側壁部15Bの一方を構成している経糸36を、他方の内側壁部14B若しくは外側壁部15Bを構成するように、中間部位でクロスさせ、このような経糸36をクロステザー37として、このクロステザー37を設けることにより、膨張完了時の外側壁部15Bの形状を規制する構成としてもよい。このようなクロステザー37を上下方向側若しくは前後方向側で複数箇所に設けるようにすれば、膨張完了時における外側壁部15Bを、外側面15a(平面状接触面16B)を広い面で平面状とするように、構成することができる。
【0032】
さらに、エアバッグ40としては、
図16~22に示す構成のものを使用してもよい。エアバッグ40は、前述のエアバッグ10と同様に、膨張完了時に装着者Mの腰部MWの左右の側方を覆う2つの保護膨張部43(43L,43R)と、保護膨張部43の上端相互を連通するように構成される連通路部42と、を備えており、後述するごとく、所定形状の複数の基材の周縁相互を立体的に結合させることにより、構成されている。このエアバッグ40は、
図20の二点鎖線に示すようなアウタカバー部25C内に収納された状態で、装着者Mに装着される構成であり、詳細な図示は省略するが、アウタカバー部25C内で膨張することとなる。この実施形態のエアバッグ40では、各保護膨張部43(43L,43R)は、膨張完了時に装着者M側に配置される内側壁部44(44L,44R)と、装着者Mから離隔した側に配置される外側壁部45(45L,45R)と、内側壁部44と外側壁部45との間を連結するように配置されるとともに膨張完了時に上下方向側で対向する上壁部47(47L,47R),下壁部48(48L,48R)と、内側壁部44と外側壁部45との間を連結するように配置されるとともに装着状態において前後方向側で対向する前壁部49(49L,49R),後壁部50(50L,50R)と、を備えている。膨張完了時の各保護膨張部43において、内側壁部44は、装着者Mの腰回りの湾曲形状に合わせて湾曲するように配置される(
図17,21参照)。また、内側壁部44は、装着者Mの骨盤MPから大腿骨転子部TP付近にかけての外方(左右の側方)への突出に合わせて、下方にかけて拡開(下端側にかけて外側壁部45に接近)するように、縦断面において、上下方向に対して傾斜して、形成されている(
図18,20参照)。装着時における膨張完了時の各保護膨張部43において、外側壁部45は、前後上下に略沿うような平面状とされる。そして、このエアバッグ40では、保護膨張部43は、内側壁部44を装着者Mの腰回りに沿わせつつ、外側壁部45を、前後方向に略沿うとともに、上下方向に略沿って配置させるようにして、腰部MWの左右の側方を覆うこととなり、外側壁部45の外側面45aが、平面状接触面52を、構成することとなる(
図21,22参照)。
【0033】
このエアバッグ40は、
図19に示すように、各保護膨張部43L,43Rにおける後壁部50L,50Rと連通路部42における外側壁部42bとを構成する後側パネル55と、各保護膨張部43L,43Rにおける前壁部49L,49Rをそれぞれ構成する2枚の前側パネル59L,59Rと、各保護膨張部43L,43Rにおける内側壁部44L,44Rを構成する2枚の内側パネル60L,60Rと、各保護膨張部43L,43Rにおける外側壁部45L,45Rを構成する2枚の外側パネル61L,61Rと、各保護膨張部43L,43Rにおける上壁部47L,47Rを構成する2枚の上側パネル62L,62Rと、各保護膨張部43L,43Rにおける下壁部48L,48Rを構成する2枚の下側パネル63L,63Rと、連通路部42における内側壁部42aを構成する連通路部用パネル64と、の計12枚の基材から構成されるもので、これらの後側パネル55,前側パネル59L,59R,内側パネル60L,60R,外側パネル61L,61R,上側パネル62L,62R,下側パネル63L,63R,連通路部用パネル64の対応する周縁相互を立体的に結合(縫着)させることにより、袋状とされている。後側パネル55は、各保護膨張部43の後壁部50L,50Rをそれぞれ構成する後壁構成部56L,56Rと、連通路部42の外側壁部42bを構成する連通路構成部57と、を備えている。各保護膨張部43の内側壁部44を構成する内側パネル60L,60Rは、下縁60b側にかけて幅広とされる略台形状とされている。また、各保護本体部43において、上壁部47を構成する上側パネル62L,62Rと、下壁部48を構成する下側パネル63L,63Rと、は、内側壁部44の湾曲形状を形成するために、内縁62c,63cを、湾曲させた形状とされている。
【0034】
具体的には、実施形態のエアバッグ40は、下記のようにして構成されている。後側パネル55において、各後壁構成部56L,56Rの上縁56aは、各上側パネル62L,62Rの後縁62bに結合され、下縁56bは、各下側パネル63L,63Rの後縁63bに結合され、内縁56cは、内側パネル60L,60Rの後縁60dに結合され、外縁56dは、外側パネル61L,61Rの後縁61dに結合されている。連通路構成部57の上縁57a,下縁57bは、連通部用パネル64の上縁64a,下縁64bに、それぞれ、結合されている。各前側パネル59L,59Rの上縁59aは、各上側パネル62L,62Rの前縁62aに結合され、下縁59bは、各下側パネル63L,63Rの前縁63aに結合され、内縁59cは、各内側パネル60L,60Rの前縁60cに結合され、外縁59dは、各外側パネル61L,61Rの前縁61cに結合されている。各内側パネル60L,60Rの上縁60aは、各上側パネル62L,62Rの内縁62cに結合され、下縁60bは、各下側パネル63L,63Rの内縁63cに結合されている。各外側パネル61L,61Rの上縁61aは、各上側パネル62L,62Rの外縁62dに結合され、下縁61bは、各下側パネル63L,63Rの外縁63dに結合されている。連結部用パネル64の側縁64cは、各上側パネル62L,62Rにおける内縁62cの後端付近と、各内側パネル60L,60Rにおける後縁60dの上端付近と、に結合されている。
【0035】
このような構成のエアバッグ40においても、膨張完了時に、各保護膨張部43の外側壁部45の外側面45aから構成される平面状接触面52が、
図20,21に示すように、前後上下に略沿って配置されることから、装着者Mの転倒時に、広い範囲で、図示しない転倒先面に接触することとなって、保護膨張部43のさらなる転動を、的確に抑制することができ、保護膨張部43によって、装着者Mの保護対象部位(大腿骨転子部TP)を、安定して保護することができる。また、上記構成のエアバッグ40では、基材の周縁を立体的に結合させる構成であるものの、内部に配置させるテザーの数を抑制できて(実施形態の場合、内部にテザーを配置させていない)、簡便な構成とすることができる。なお、
図20,21では、アウタカバー部は省略されている。
【0036】
実施形態の着用エアバッグ装置Sでは、エアバッグ10,10A,40の2つの保護膨張部13,13A,43によって、装着者Mの大腿骨TBの付け根付近(大腿骨転子部TP)を保護することができることから、装着者Mが、転倒によって、治療が長引く大腿骨TBを骨折することを抑制でき、高齢者に好適に使用することができる。
【0037】
なお、実施形態では、着用エアバッグ装置Sとして、腰部MW(骨盤MP)の周囲に巻き付けるように装着させて、アウタカバー部25の内部に平らに展開したした状態で収納させたエアバッグ10,10A,40を、装着者Mの腰部MW(大腿骨転子部TP)を保護するように膨張させる構成のものを、例に採り説明しているが、本発明を適用可能な着用エアバッグ装置は、実施形態に限定されるものではない。エアバッグを折り畳んだ状態でアウタカバーの内部に収納させ、腰部(骨盤)の周囲に巻き付けるように装着させるタイプの着用エアバッグ装置にも、本発明は適用可能である。また、ベストやジャケット等、装着者の胴部に着用させて、着用状態の下端側から腰部を保護するようにエアバッグを突出させて膨張させるタイプの着用エアバッグ装置にも、本発明は適用可能である。
【符号の説明】
【0038】
10,10A,10B…エアバッグ、10a…内側壁部、10b…外側壁部、13(13L,13R),13A,13B…保護膨張部、14,14A,14B…内側壁部、15,15A,15B…外側壁部、15a…外側面、16…平面状接触面(転動抑制手段)、17…中央側縦テザー、18F,18B…端側縦テザー、35(35U,35D)…横テザー、37…クロステザー、40…エアバッグ、40a…内側壁部、40b…外側壁部、43(43L,43R)…保護膨張部、44…内側壁部、45…外側壁部、45a…外側面、52…平面状接触面(転動抑制手段)、46…側壁部、F…転倒先面、M…装着者、MW…腰部、MP…骨盤、TP…大腿骨転子部(保護対象部位)、S…着用エアバッグ装置。