(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022135684
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】広帯域円偏光子及び該広帯域円偏光子を備えた計測装置
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20220908BHJP
G01J 4/04 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
G02B5/30
G01J4/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021035643
(22)【出願日】2021-03-05
(71)【出願人】
【識別番号】599045936
【氏名又は名称】株式会社光学技研
(74)【代理人】
【識別番号】100088580
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 敦
(74)【代理人】
【識別番号】100195453
【弁理士】
【氏名又は名称】福士 智恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100205501
【弁理士】
【氏名又は名称】角渕 由英
(72)【発明者】
【氏名】戸田 伸一郎
【テーマコード(参考)】
2H149
【Fターム(参考)】
2H149AA22
2H149AB06
2H149BA02
2H149DA04
2H149DA05
2H149DA06
2H149EA03
(57)【要約】
【課題】真空紫外から近赤外の波長領域で使用可能であり、精度の高い円偏光を作り出すことが可能な光学素子を提供する。
【解決手段】広帯域円偏光子1は、全反射によりp波とs波の間に略180°の位相差を与えるλ/2部Hと、全反射によりp波とs波の間に略90°の位相差を与えるλ/4部Qと、を備え、入射光線軸を回転軸として、λ/4部Qの入射面はλ/2部Hの入射面に対して略60°回転して配置されており、λ/2部H及びλ/4部Qはフレネルロムで構成されており、直線偏光を円偏光に変換する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
全反射によりp波とs波の間に略180°の位相差を与えるλ/2部と、
全反射によりp波とs波の間に略90°の位相差を与えるλ/4部と、を備え、
入射光線軸を回転軸として、前記λ/4部の入射面は前記λ/2部の入射面に対して略60°回転して配置されており、
前記λ/2部及び前記λ/4部はフレネルロムで構成されており、
直線偏光を円偏光に変換することを特徴とする広帯域円偏光子。
【請求項2】
前記λ/2部及び前記λ/4部を構成する前記フレネルロムは、石英、CaF2及びLiFからなる群から選択される少なくとも一種の材料で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の広帯域円偏光子。
【請求項3】
前記λ/2部及び前記λ/4部を構成する前記フレネルロムは、少なくとも1以上の全反射面に多層膜が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の広帯域円偏光子。
【請求項4】
前記λ/2部は、全反射によりp波とs波の間に略90°の位相差を与える第1フレネルロム及び第2フレネルロムを有し、
前記λ/4部は、全反射によりp波とs波の間に略90°の位相差を与える第3フレネルロムを有し、
前記入射光線軸を回転軸として、前記第1フレネルロムの入射面は、前記第2フレネルロムの入射面に対して略一致して配置されており、
前記入射光線軸を回転軸として、前記第3フレネルロムの入射面は、前記第1フレネルロム及び前記第2フレネルロムの入射面に対して略60°回転して配置されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の広帯域円偏光子。
【請求項5】
前記フレネルロムは、2回の全反射によりp波とs波の間に略90°の位相差を与えるものであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の広帯域円偏光子。
【請求項6】
前記フレネルロムは、3回の全反射によりp波とs波の間に略90°の位相差を与えるものであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の広帯域円偏光子。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の広帯域円偏光子を備えることを特徴とする計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円偏光子に係り、特に広帯域で使用可能な広帯域円偏光子及び該広帯域円偏光子を備えた計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
波長板は、直交する2つの偏光成分に所定の位相差(光路差)を与えて、入射偏光の状態を変える光学素子である。一般的に、波長板としては、1/2波長板(λ/2板)と1/4波長板(λ/4板)の2種類がよく利用されている。
【0003】
1/2波長板(Half-wave plate:HWP)は、入射光線に対して1/2の位相差を与える波長板であり、具体的には、入射光線の電界振動方向(偏光面)にλ/2(180°)の位相差を与える光学素子である。1/2波長板は、入射光線に対して位相差をλ/2(180°)与え、直線偏光を回転させて出射させるために用いられる。
【0004】
1/4波長板(Quarter-wave plate:QWP)は、入射光線に対して1/4の位相差を与える波長板であり、具体的には、入射光線の電界振動方向(偏光面)にλ/4(90°)の位相差を与える光学素子である。1/4波長板は、入射光線に対して位相差をλ/4(90°)与え、直線偏光を円偏光に変えたり、円偏光を直線偏光に変えたりするために用いられる。
【0005】
特許文献1には、1/4波長板と1/2波長板とを予め設計した角度で貼り合わせた位相差板を用いることにより、レタデーションの波長分散を制御でき、特に入射光線の波長(λ)に対するレタデーションの比(Δnd/λ)をほぼ一定にした技術が記載されている。
【0006】
特許文献2には、2つの波長板を各々の光学軸が60°の角度で交差するように積層して、全体として波長400nm、650nm、及び785nmにおいて1/4波長板として機能する積層波長板が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10-68816号公報
【特許文献2】特許第4825951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、出射光の偏光状態が円偏光の光源の開発も行われているが、一般的に円偏光を放射する光源は、ほとんどないのが現状である。そのため、円偏光状態を作り出すためには、特定の光学素子が必要となる。
【0009】
円偏光を使うことで、光学システムが機器偏光の影響を受けにくくなり、また、偏光解析では、解析精度の向上などにも有用である。また、円偏光は、有機物や液晶の分析に有用な円二色分光分析にも必要である。よって、広い波長帯域に渡り円偏光状態を作り出すことが可能な光学素子が求められていた。
【0010】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、真空紫外から近赤外の波長領域で使用可能であり、精度の高い円偏光を作り出すことが可能な光学素子及び該光学光子を備えた計測装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、従来から知られている複屈折性のλ/2板とλ/4板を組み合わせた広帯域波長板と、広帯域位相子として知られているフレネルロムを組み合わせることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
前記課題は、本発明の広帯域円偏光子によれば、全反射によりp波とs波の間に略180°の位相差を与えるλ/2部と、全反射によりp波とs波の間に略90°の位相差を与えるλ/4部と、を備え、入射光線軸を回転軸として、前記λ/4部の入射面は前記λ/2部の入射面に対して略60°回転して配置されており、前記λ/2部及び前記λ/4部はフレネルロムで構成されており、直線偏光を円偏光に変換すること、により解決される。
【0013】
このように、広帯域性をもったフレネルロム位相子を、さらに広帯域性構造で組み合わせることで、位相差がλ/4(90°)であり、真空紫外から近赤外の波長領域で使用可能な超広帯域特性を有し、精度の高い円偏光を作り出すことが可能な広帯域円偏光子を提供することができる。
【0014】
このとき、前記λ/2部及び前記λ/4部を構成する前記フレネルロムは、石英、CaF2及びLiFからなる群から選択される少なくとも一種の材料で形成されているとよい。
このとき、前記λ/2部及び前記λ/4部を構成する前記フレネルロムは、少なくとも1以上の全反射面に多層膜が形成されているとよい。
このとき、前記λ/2部は、全反射によりp波とs波の間に略90°の位相差を与える第1フレネルロム及び第2フレネルロムを有し、前記λ/4部は、全反射によりp波とs波の間に略90°の位相差を与える第3フレネルロムを有し、前記入射光線軸を回転軸として、前記第1フレネルロムの入射面は、前記第2フレネルロムの入射面に対して略一致して配置されており、前記入射光線軸を回転軸として、前記第3フレネルロムの入射面は、前記第1フレネルロム及び前記第2フレネルロムの入射面に対して略60°回転して配置されているとよい。
このとき、前記フレネルロムは、2回の全反射によりp波とs波の間に略90°の位相差を与えるものであるとよい。
このとき、前記フレネルロムは、3回の全反射によりp波とs波の間に略90°の位相差を与えるものであるとよい。
【0015】
また、前記課題は、本発明の計測装置によれば、上記の広帯域円偏光子を備えること、により解決される。
【発明の効果】
【0016】
本発明の広帯域円偏光子によれば、位相差がλ/4(90°)であり、真空紫外から近赤外の波長領域(例えば、200~2600nm)で使用可能であり、精度の高い円偏光を作り出すことが可能となる。
【0017】
また、本発明の広帯域円偏光子は、上記の特性を備えているため、各種の測定装置、分析装置、検査装置、観察装置を含む計測装置に適用することで、微細領域の検査、微小領域を観察、様々な偏光計測を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2A】H+Q構造広帯域波長板を構成するλ/4板(QWP)の位相差特性を示すグラフである。
【
図2B】H+Q構造広帯域波長板を構成するλ/2板(HWP)の位相差特性を示すグラフである。
【
図2C】H+Q構造広帯域波長板の位相差特性を示すグラフである。
【
図2D】H+Q構造広帯域波長板の楕円率特性を示すグラフである。
【
図2E】H+Q構造広帯域波長板の偏光軸方向を示すグラフである。
【
図3A】標準的なλ/4フレネルロム(BK-7製)の模式図である。
【
図3B】標準的なλ/2フレネルロム(BK-7製)の模式図である。
【
図4A】BK-7から空気への入射角と位相差の関係を示すグラフである。
【
図4B】石英から空気への入射角と位相差の関係を示すグラフである。
【
図5A】BK-7製フレネルロム(λ/4)の位相差の波長依存性を示すグラフである。
【
図5B】BK-7製フレネルロム(λ/2)の位相差の波長依存性を示すグラフである。
【
図6A】石英製フレネルロム(λ/4)の位相差の波長依存性を示すグラフである。
【
図6B】石英製フレネルロム(λ/2)の位相差の波長依存性を示すグラフである。
【
図7】本発明の一実施形態に係るH+Q型フレネルロムの構造を示す模式図である。
【
図8A】H+Q型石英製フレネルロムの位相差特性を示すグラフである。
【
図8B】H+Q型石英製フレネルロムの楕円率特性を示すグラフである。
【
図8C】H+Q型石英製フレネルロムの偏光軸方向を示すグラフである。
【
図9A】H+Q型石英製フレネルロムの位相差特性(組合せ角微調整)を示すグラフである。
【
図9B】H+Q型石英製フレネルロムの楕円率特性(組合せ角微調整)を示すグラフである。
【
図9C】H+Q型石英製フレネルロム偏光軸方向(組合せ角微調整)を示すグラフである。
【
図10】本発明の一例と光学膜付きキング型フレネルロムの比較を示すグラフである。
【
図11】H+Q型光学膜付きキング型フレネルロムの構造を示す模式図である。
【
図12A】H+Q型光学膜付きキング型石英製フレネルロムの位相差特性を示すグラフである。
【
図12B】H+Q型光学膜付きキング型石英製フレネルロムの楕円率特性を示すグラフである。
【
図12C】H+Q型光学膜付きキング型石英製フレネルロムの偏光軸方向を示すグラフである。
【
図13】水晶製フレネルプリズムの構造を示す模式図である。
【
図14】水晶製フレネルプリズムの円偏光分離角の例を示すグラフである。
【
図15】H+Q型石英製フレネルロム(実施例1)の構造を示す模式図である。
【
図16A】実施例1の素子の位相差特性を示すグラフである。
【
図16B】実施例1の素子の楕円率特性を示すグラフである。
【
図16C】実施例1の素子の偏光軸方向を示すグラフである。
【
図17A】実施例1-2の素子の位相差特性を示すグラフである。
【
図17B】実施例1-2の素子の楕円率特性を示すグラフである。
【
図17C】実施例1-2の素子の偏光軸方向を示すグラフである。
【
図18A】実施例2の素子の位相差特性を示すグラフである。
【
図18B】実施例2の素子の楕円率特性を示すグラフである。
【
図18C】実施例2の素子の偏光軸方向を示すグラフである。
【
図19】H+Q型LiF製フレネルロム(実施例3)の構造を示す模式図である。
【
図20A】実施例3の素子の位相差特性を示すグラフである。
【
図20B】実施例3の素子の楕円率特性を示すグラフである。
【
図20C】実施例3の素子の偏光軸方向を示すグラフである。
【
図21】多層膜付きH+Q型石英製フレネルロム(実施例4)の構造を示す模式図である。
【
図22A】実施例4の素子の位相差特性を示すグラフである。
【
図22B】実施例4の素子の楕円率特性を示すグラフである。
【
図22C】実施例4の素子の偏光軸方向を示すグラフである。
【
図23】光学膜付きキング型H+Q型石英製フレネルロム(実施例5)の構造を示す模式図である。
【
図24A】実施例5の素子の位相差特性を示すグラフである。
【
図24B】実施例5の素子の楕円率特性を示すグラフである。
【
図24C】実施例5の素子の偏光軸方向を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、
図1乃至
図24Cを参照しながら、本発明の一実施形態(以下、本実施形態)に係る広帯域円偏光子について説明する。本実施形態に係る広帯域円偏光子は、真空紫外から近赤外の波長領域において位相差の波長依存性が小さい広帯域の円偏光子である。
【0020】
本明細書において、○nm~△nmは、○nm以上△nm以下を意味する。
本明細書において、略とは、数値として±10%、好ましくは±5%、より好ましくは±3%、更に好ましくは±2%、特に好ましくは±1%を意味する。
本明細書において、「コンタクト」とは、一対の隣接するフレネルロム(プリズム素子、菱面体)が相互に接触して配置されていることをいい、直接接合されているオプティカル・コンタクトのほか、接着による接合も含まれる。
また、本明細書において、フレネルロム(プリズム素子、菱面体)が「対向」するとは、直接接合されているオプティカル・コンタクトの場合と、接着剤など、何かを介在させて接合されている接着の場合、空気層を介在させている場合とを含む。
【0021】
[1.基本的となるアイディア]
本実施形態に係る広帯域円偏光子は、従来から知られている複屈折性のλ/2板とλ/4板を組み合わせた広帯域波長板と、広帯域位相子として知られているフレネルロムを組み合わせたものである。まず、従来から知られている複屈折性のλ/2板とλ/4板を組み合わせた広帯域波長板について説明する。
【0022】
(1)複屈折性λ/2板とλ/4板を組み合わせた広帯域波長板(H+Q構造波長板)
図1にH+Q構造波長板HQPの構造図(配置図)を示す。
図1に示すように、はじめに、入射直線偏光に対して、光学軸Haが15°回転した方向のλ/2板(HWP)を配置し、その後、入射直線偏光に対して、光学軸Qaが75°回転した方向のλ/4板(QWP)を配置した構造である。この素子では、入射側をHWPとし出射側をQWPとする必要がある。HWP、QWPは一枚の複屈折板であっても、複数の複屈折板を組み合わせた波長板であっても良い。
【0023】
図2A及び
図2BにH+Q構造広帯域波長板を構成する水晶とMgF
2結晶を組み合わせたλ/2板(HWP)とλ/4板(QWP)の位相差の波長依存性を示す。これらを組み合わせて構成したH+Q構造広帯域波長板の光学特性を
図2C~
図2Eに示す。
【0024】
(2)フレネルロム
図3A及び
図3Bに標準的なフレネルロムの形状を示す。
図3Aはλ/4フレネルロム(BK-7製)の模式図であり、
図3Bはλ/2フレネルロム(BK-7製)の模式図である。
【0025】
図3Aに示すように、λ/4フレネルロムを構成する第一菱面体10は、第一入射端面11と、第一入射端面11と平行に配置された第一出射端面12と、第一入射端面11及び第一出射端面12と交わる第一全反射面13と、第一全反射面13と平行に配置された第二全反射面14と、を有している。
【0026】
第一菱面体10において、第一入射端面11及び第一出射端面12は互いに平行であり、かつ、第一全反射面13及び第二全反射面14は互いに平行である。また、第一菱面体10において、第一入射端面11と第一全反射面13との間、及び、第一出射端面12と第二全反射面14との間は、互いに90度よりも小さい角度(楔角α)で交わっている。さらに、第一菱面体10において、第一入射端面11と第二全反射面14との間、及び、第一出射端面12と第一全反射面13との間は、互いに90度よりも大きい角度で交わっている。
【0027】
図3Bに示すように、λ/2フレネルロムは、平行四辺形状のプリズム素子を2つ組み合わせた構造(屋根型のフレネルロム)である。具体的には、λ/2フレネルロムは、断面(
図3Bの面と平行な断面、つまり、後述する各入射端面、出射端面、全反射面と直交する断面)が平行四辺形の平行四辺形状の第一菱面体10及び第二菱面体20を備えている。第一菱面体10及び第二菱面体20は、同一形状であり、等方性材料で形成されている。
【0028】
第二菱面体20は、第二入射端面21と、第二入射端面21と平行に配置された第二出射端面22と、第二入射端面21及び第二出射端面22と交わる第三全反射面23と、第三全反射面23と平行に配置された第四全反射面24と、を有している。
【0029】
第二菱面体20において、第二入射端面21及び第二出射端面22は互いに平行であり、かつ、第三全反射面23及び第四全反射面24は互いに平行である。また、第二菱面体20において、第二入射端面21と第三全反射面23との間、及び、第二出射端面22と第四全反射面24との間は、互いに90度よりも小さい角度(楔角α)で交わっている。さらに、第二菱面体20において、第二入射端面21と第四全反射面24との間、及び、第二出射端面22と第三全反射面23との間は、互いに90度よりも大きい角度で交わっている。
【0030】
第一菱面体10及び第二菱面体20は、第一菱面体10の第一出射端面12と、第二菱面体20の第二入射端面21とが互いに平行になるように対向して配置されている。第一出射端面12と第二入射端面21は、オプティカル・コンタクトによる直接接合とすることが好適であるが、紫外線透過接着剤を用いた接着固定とすることや、接合を行わずに隙間を空けて配置することも可能である。
【0031】
上述したように第一菱面体10の第一入射端面11と第一全反射面13(第一出射端面12と第二全反射面14)は楔角αをなしており、同様に、第二菱面体20の第二入射端面21と第三全反射面23(第二出射端面22と第四全反射面24)も楔角αをなしている。ここで、楔角αは、第一菱面体10及び第二菱面体20を構成する等方性材料の種類に応じて適宜設定することが可能であり、等方性材料がBK-7の場合には楔角α=55°とし、石英の場合には楔角α=54°とし、等方性材料がCaF2の場合には楔角α=54°とすればよい。
【0032】
上記の通り、フレネルロムは、複屈折を持たない等方性の材料で作られるが、全反射時に発生するp波とs波の間の位相差を利用した位相子である。全反射は、光が高屈折材から低屈折材側に、臨界角以上の角度で入射する場合に発生する現象である。
図4A及び
図4Bに材料が代表的な光学ガラスであるBK-7と石英の場合の反射面への入射角と発生する位相差の関係を示す。
【0033】
図4A及び
図4Bより、臨界角以下の、通常の反射では位相差は発生しない事が分かる。また、臨界角以上でも角度により、発生する位相差が異なる事が分かる。ロムの材料の屈折率(入射、出射媒質の屈折率差)により、発生する位相差の最大値が異なる事も分かる。
【0034】
ロム素材がBK-7の場合、入射角約55°の時、位相差が約45°になる。そのため、2回全反射させる事で、位相差を90°付けることが出来、4回全反射させる事で、位相差を180°付ける事が出来る。
【0035】
【0036】
(3)H+Q型フレネルロム(本実施形態の広帯域円偏光子)
本実施形態に係る広帯域円偏光子は、上記二つの広帯域位相子を組み合わせた構造である。広帯域性をもったフレネルロム位相子を、さらに広帯域性構造で構成することで、従来に無い超広帯域特性が得られる。
【0037】
本実施形態に係る広帯域円偏光子1の一例として、
図7に石英製のH+Q型フレネルロムを示す。また、
図8A~8Cに位相差などの出射偏光パラメーターを示す。本実施形態に係る広帯域円偏光子は、H+Q構造の波長板がそうである様に、一般的なλ/4板(QWP)としての特徴より、直線偏光を円偏光に変換する素子として性能を発揮する。
【0038】
基本的な構造は、
図7に示す様な構造で、全反射でp波とs波の間に180°の位相差を持たせた位相子(λ/2部:H部)と、全反射でp波とs波の間に90°の位相差を持たせた位相子(λ/4部:Q部)を、光線軸(入射光線軸)を回転軸として、約60°(θ
2-θ
1=75°-15°)回転させた構造である。
【0039】
1回の全反射でp波とs波の間に約180°、または、約90°の位相差を発生させる必要な無く、
図7の例では、1回の全反射で発生させる位相差は、約45°で、約180°の位相差を発生させるために、全反射を4回繰り返しており、約90°位相差を発生させるために、全反射を2回繰り返している。
【0040】
図7では、各ロム(稜面体ブロック)は、接合しているが、接合している必要はない。また、各ロムを接合させる場合も、使用帯域で透明であるならば、接着剤を用いても良い。ただし、深紫外領域で透明な接着剤は、少ないため、オプティカル・コンタクトで接合する方が好ましい。接合する際は、ロム材の等方性材料に応力がかかり、異方性が発生しない様に注意する必要がある。
【0041】
端面にはAR膜(反射防止膜)を施しても良く、使用帯域全体で透過率を向上出来た方が好ましい。但し、例えば、本発明の素子で素材が石英の場合、使用波長帯域は、λ=180~2600nmになり、一般的には、この帯域全体で効果的な反射防止膜は難しいため、反射率を大幅に低減することは出来ないが、MgF2単層膜を用いる方法がある。また、モスアイ構造を持った特殊な反射防止膜を施す方法もある。当然、反射防止膜を施さなくても良い。この場合も、出射偏光に著しい影響は発生しない。端面とは、入出射面の事だけで無く、各ロムを接合させない場合は、各ロムの入出射面の事も指す。
【0042】
図7では、3個のロムは同一形状であるが、必ずしも同一で無くても位相差が約180°と約90°位相子(λ/2部Hとλ/4部Q)を組み合わせていれば、広帯域化の効果はある。また、反射回数も4回と2回の組合せである必要はない。全反射面に光学多層膜を施し、広帯域化をしたロムを使う事でより、広帯域化し、出射円偏光の精度も高くなる。
【0043】
本構造の位相子は、
図8C及び
図9Cに示されるように、出射光の偏光軸方向が波長により変わる。これは、複屈折材料を使ったH+Q構造でも同じである。ただし、出射偏光が円偏光であるため、特に問題にはならない。但し、円偏光から直線偏光を得るためには、入射円偏光の光学軸を波長毎に
図8C及び
図9Cの様に変える必要があり、また、位相差90°ロム側(λ/4部Q側)から入射する必要があるが、これは現実的ではない。そのため、本素子は主に、直線偏光から円偏光を作り出す際に効果があり、また、位相差180°ロム側(λ/2部H側)から入射させる必要がある。
【0044】
図8Bより、楕円率は1に近く出射偏光がほぼ円偏光になっていることが分かる。ただし、赤外側で1からずれている。
図7の2つのロムの間の角度60°を59.6°に微調整することで、
図8A~
図8Cの特性は、
図9A~
図9Cの様に調整することが可能である。
【0045】
(4)本実施形態に係る広帯域円偏光子の利点及び欠点
本実施形態に係る広帯域円偏光子の利点としては、直線偏光を広い波長範囲で円偏光に変える事が出来ること、製作が容易であることが挙げられる。また、本実施形態に係る広帯域円偏光子の欠点としては、入射光と出射光が同一軸上にないこと、円偏光を直線偏光に変える場合に波長により直線偏光の方位が異なること、一般的なλ/4板の様に直線偏光から楕円偏光、円偏光への偏光状態を変化させる使い方に向かないこと、比較的サイズが大きいことが挙げられる。この様に、本実施形態に係る広帯域円偏光子は、利点に対して、欠点は多いものの、利点である直線偏光を精度の良い円偏光に広い波長帯域で変換する能力に特出した素子である。
【0046】
[2.従来技術]
以下に、従来技術として、広帯域λ/4位相子や円偏光子を示す。H+Q構造は、上述した様に、元のλ/2位相子やλ/4位相子より広帯域性が良く、楕円率が1に近い位相子を作る事が出来る構造である。そのため、元の位相子の波長依存性が少なく楕円率が1に近ければ(円偏光に近ければ)、より波長依存性が少なく、楕円率が1に近い円偏光子を作る事が出来る。
【0047】
従来知られている様に、複屈折性の素材を用いたλ/2板とλ/4板よりも、フレネルロムの方が、波長依存性が少ないため、本発明品は、複屈折性の素材を組み合わせた円偏光子より、広帯域な円偏光子になることは明らかである。
【0048】
また、複屈折性のフィルムを用いて波長帯域を広げる工夫をしたものを使ったH+Q構造の円偏光子であっても、有機物を用いて作られている以上、紫外域で透明では無く、また、赤外域でも特徴的な吸収線があり、紫外~赤外までを網羅する円偏光子にはならない。
【0049】
次に、従来のフレネルロムの中でも、最も波長帯域が広く、楕円率が1に近い素子である光学薄膜付きのキング型フレネルロムとの比較をする。
図10に光学膜付きキング型フレネルロムと、
図7に示したフレネルロム(本実施形態に係る広帯域円偏光子)の楕円率の比較を示す。
図10より、ほぼ同等の広帯域性、楕円率特性であることが分かる。ここで、比較した光学薄膜付きのキング型フレネルロムは、λ/4位相子であるため、2つ直列配置にすることで、λ/2位相子になり、これと約60°回転した向きにもう一つ配置することで、光学薄膜付きキング型フレネルロムをH+Q型配置にすることが出来る。この様に配置することで、さらに楕円率を1に近づける事が可能である。
【0050】
図11、
図12A~
図12Cに光学膜付きキング型H+Q型フレネルロムの構造と光学特性を示す。そのため、本発明と従来のフレネルロムを比較することは意味がない。
図12Cより、この例では、偏光軸の波長依存性も少なく、そのため、円偏光を直線偏光に変える事も可能であることが分かる。
【0051】
全く異なる構造で広帯域な円偏光子としては、フレネルプリズムがある。これは、たとえば、右回り水晶と左回り水晶を組み合わせる事で、その接合面で、左右の円偏光を分離する円偏光子である。
【0052】
図13に水晶製フレネルプリズムの模式図を示す。また、
図14に右回り、左回り円偏光の分離角の波長依存性の一例を示す。フレネルプリズムは、広帯域でほぼ完全な円偏光を得ることが出来る素子であるが、大きな分離角を得られる素材が見つかっておらず、実用性に乏しい素子である。本発明は、透過帯域の広い、等方性材料であれば、使用する事が可能であるため、実用性のある円偏光子である。
【0053】
[3.本実施形態の広帯域円偏光子1の構造の詳説]
本実施形態の広帯域円偏光子1は、λ/4フレネルロム(
図3A、λ/4部Q)とλ/2フレネルロム(
図3B、λ/2部H)を組み合わせた構造であり、直線偏光を円偏光に変換する光学素子である。具体的には、
図15に示すように、広帯域円偏光子1は、全反射によりp波とs波の間に略180°の位相差を与えるλ/2部Hと、全反射によりp波とs波の間に略90°の位相差を与えるλ/4部Qと、を備え、入射光線軸を回転軸として、λ/4部Qの入射面はλ/2部Hの入射面に対して略60°(θ
2-θ
1)回転して配置されている。
【0054】
λ/2部H及びλ/4部Qを構成する各フレネルロムは、等方性材料から形成されており、上述した
図7は、等方性材料として石英を使用した場合を示している(楔角α=54°)。等方性材料としては、真空紫外から近赤外の波長領域を透過する材料であれば良く、入手性の観点から石英(溶融石英:屈折率n=1.46@550nm)、フッ化カルシウム(CaF
2:屈折率n=1.44@546nm)及びフッ化リチウム(LiF:屈折率n=1.39@600nm)からなる群から選択される少なくとも一種の材料を用いると好適である。なお、用いる等方性材料については、位相差を劣化させてしまうような素材の欠陥や歪などがないことも重要であり、CaF
2よりも石英(溶融石英)を用いることが好ましい。
【0055】
図7に示されるように、λ/2部Hは、全反射によりp波とs波の間に略90°の位相差を与える第1フレネルロムFR1及び第2フレネルロムFR2を有し、λ/4部Qは、全反射によりp波とs波の間に略90°の位相差を与える第3フレネルロムFR3を有している。入射光線軸を回転軸として、第1フレネルロムFR1の入射面は、第2フレネルロムFR2の入射面に対して略一致して配置されている。入射光線軸を回転軸として、第3フレネルロムFR3の入射面は、第1フレネルロムFR1及び第2フレネルロムFR2の入射面に対して略60°回転して配置されている。
【0056】
λ/2部Hを構成する第1フレネルロムFR1(第一菱面体10)の第一入射端面11に入射した入射光線Iは、4回全反射して(反射光線R)して、λ/4部Qを構成する第3フレネルロムFR3から出射光線Eとして出射する。広帯域円偏光子1では、真空紫外から近赤外の波長領域において入射光線Iに対して略90°(具体的には、90°±5°、好ましくは90°±3°、より好ましくは90°±2°、更に好ましくは90°±1°)の位相差を与えた出射光線Eが出射される。
【0057】
広帯域円偏光子1を使用する時、第1フレネルロムFR1(第一菱面体10)の第一入射端面11に対して、外部から実質的に垂直に入射させられた入射光線Iは、次のように進む。入射光線Iは、第1フレネルロムFR1(第一菱面体10)の第一全反射面13及び第二全反射面14において内部反射し、反射光線Rは、第1フレネルロムFR1(第一菱面体10)の第一出射端面12から第二菱面体20の第二入射端面21へと出射する。そして、第1フレネルロムFR1(第一菱面体10)の第一出射端面12から第2フレネルロムFR2(第二菱面体20)の第二入射端面21へと入射した反射光線Rは、第三全反射面23と第四全反射面24において内部反射し、反射光線Rは、第2フレネルロムFR2(第二菱面体20の)第二出射端面22から第3フレネルロムFR3へと入射して、2回内部反射をし、出射光線Eとして出射する。
【0058】
(多層膜M)
λ/2部H及びλ/4部Qを構成するフレネルロムは、少なくとも1以上の全反射面に多層膜Mが形成されているとよい。具体的には、λ/2部H及びλ/4部Qを構成するフレネルロムとしての第一菱面体10の第一全反射面13、第二全反射面14、第二菱面体20の第三全反射面23、第四全反射面24は、その面上に、第一菱面体10及び第二菱面体20を構成する等方性材料とは異なる屈折率の多層膜Mがコーティングされていると好適である。
【0059】
ここで、多層膜Mは、第一菱面体10及び第二菱面体20を構成する等方性材料よりも屈折率の大きい高屈折率材料で形成性された高屈折率膜MHと、第一菱面体10及び第二菱面体20を構成する等方性材料よりも屈折率の小さい低屈折率材料で形成性された低屈折率膜MLと、が交互に積層されている。高屈折率膜MHと低屈折率膜MLの積層の順序は基板となる等方性材料の上に、高屈折率膜MH、低屈折率膜MLの順で積層されていてもよいし、基板となる等方性材料の上に、低屈折率膜ML、高屈折率膜MHの順で積層されていてもよい。
【0060】
入射光線Iは、各全反射面で全反射し、同時にp偏光とs偏光に位相差が発生する。通常、全反射に伴って生じる位相差は、波長が短くなるにつれて大きくなってしまう。そこで、各フレネルロムにおいて、第一菱面体10及び第二菱面体20を構成する等方性材料(石英やCaF2)よりも大きい屈折率の高屈折率膜MHと、小さい屈折率の低屈折率膜MLからなる2種類の膜材料が交互に積層された多層膜Mを全反射面に施すとよい。
【0061】
高屈折率膜MHを構成する高屈折率材料としては、フッ化ガドリニウム(GdF3:屈折率n=1.59@550nm)、フッ化ランタン(LaF3:屈折率n=1.59@550nm)及びフッ化ネオジム(NdF3:1.61@550nm)が例示されるが、これらの物質に限定されるものではない。また、低屈折率膜MLを構成する低屈折率材料としては、フッ化マグネシウム(MgF2:屈折率n=1.38~1.40@550nm)が例示されるが、これに限定されるものではない。
【0062】
高屈折率膜MH及び低屈折率膜MLは、真空蒸着、CVD、スパッタリング等の方法により形成することが可能である。高屈折率膜MH及び低屈折率膜MLの膜厚は、材料の種類に依存し、例えば、100Å以上650Å以下とすればよいが、この範囲に限定されるものではない。
【0063】
本実施形態の広帯域円偏光子1においてλ/4部Qとλ/2部Hは、上述の
図7に示す構成に限定されるものではない。例えば、
図19に示されるように、位相差を180°持たせるためにλ/2部Hで8回の反射、位相差90°を持たせるためにλ/4部Qで4回の反射を行う構成、つまり、3個の屋根型フレネルロムを並べた構造とすることも可能である。この構造では、位相差180°の2つの屋根型フレネルロムと、位相差90°の1つの屋根型フレネルロムが、入射光線軸を59.5°(θ
2-θ
1=74.5°-15°)回転させて配置される。
【0064】
さらに、
図23に示されるように、位相差90°のキングタイプフレネルロムを光線軸方向に3個並べ、入射側2個を位相差180°フレネルロム(λ/2部H)と見なし、出射側の1個を位相差90°フレネルロム(λ/4部Q)と見なし、位相差180°フレネルロムと位相差90°フレネルロムを、入射光線軸を回転軸として、60°(θ
2-θ
1=75°-15°)回転させて配置した構造とすることも可能である。
【0065】
[4.本実施形態の広帯域円偏光子の応用例]
本実施形態の広帯域円偏光子の応用例について、以下に示す。本実施形態の広帯域円偏光子は、計測装置に応用可能である。ここで、「計測装置」とは、各種の測定装置、分析装置、検査装置、観察装置を含むものとする。
【0066】
半導体検査装置は、微細領域の検査を行う装置であり、紫外光を積極的に利用するため、真空紫外から近赤外の波長領域で使用可能な本実施形態の広帯域円偏光子を用いると好適である。白色光の偏光を利用している半導体検査装置であれば、本実施形態の広帯域円偏光子が利用可能である。
【0067】
本実施形態の広帯域円偏光子を適用する具体的な対象装置として、分光エリプソメーターが例示される。具体的には、分光エリプソメーターの補償素子として広帯域円偏光子を利用することができる。
【0068】
また、本実施形態の広帯域円偏光子を、微小領域を観察するための観察装置に適用することも可能である。偏光を制御することでコントラストを向上できる場合がある。より微細な観察を行うためには、短い波長も使った観察が必要になるため、本実施形態の広帯域円偏光子を使用するメリットがある。
【0069】
さらに、異物検知を行うため、異物からの散乱光の偏光状態が正常な部分と異なる特性を利用した観察装置や検査装置、具体的には、半導体ウエハー上の配線パターンの偏光状態を観察して異物を発見する装置に本実施形態の広帯域円偏光子を適用することができる。装置によって、偏光の利用方法は異なるが、偏光情報から半導体の各プロセスで発生した異常(不良)を発見する際に、本実施形態の広帯域円偏光子を位相差180°(λ/2)の位相子と組み合わせることで、様々な偏光計測が可能となる。
【0070】
また、膜厚計に本実施形態の広帯域円偏光子を適用することができる。膜厚計は、主に半導体プロセス中の検査などに用いられるが、フィルム厚、塗装厚等を測定するなど、他の膜状の物の検査にも使われている。膜厚計の測定原理は、様々であるが、エリプソメーター同様の偏光解析で膜厚を測定する装置もある。
【0071】
その他、本実施形態の広帯域円偏光子は、機器偏光を低減させるための偏光解消素子の代わりに使用することができる。反射光学系では、p偏光とs偏光の反射率が異なるため、入射光線の偏光状態が異なる場合や変動する場合、透過率が異なったり、変動したりする。このことを防止するために、入射光線の偏光状態を一定にしたり、光学系からの出射光線の偏光状態を一定にしたりすることがある。精密な計測を行う装置の場合には、入射光線や出射光線の偏光状態を一定にすることが必要になる。本実施形態の広帯域円偏光子を位相差180°(λ/2)の位相子と組み合わせることで、いかなる偏光状態も作り出すことができるため、入射光線や出射光線の偏光状態を一定にすることが可能となる。
【0072】
タンパク質、医薬品、食品などの高分子の立体構造を分析するための方法に、高分子の光学異性体を調べる旋光分散測定(ORD)や円偏光二色性(CD)分光測定がある。これら測定は、左右円偏光の屈折率、吸収の違いを測定する方法で、精度が高く、波長帯域の広い円偏光子が望まれている測定である。本実施形態の広帯域円偏光子は、このような要望に、合致しており、旋光分散測定や円二色性分光測定の精度を高める事が可能である。
【実施例0073】
以下、実施例に基づき、本発明の広帯域円偏光子について更に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0074】
<実施例1:H+Q型石英製フレネルロム>
実施例1のH+Q型石英製フレネルロムは、一般的な石英製の位相差180°の屋根型フレネルロム(λ/2部:H部)と、位相差90°の平行四辺形のフレネルロム(λ/4部:Q部)を、入射光線軸を回転軸として60°(θ
2-θ
1=75°-15°)回転させて配置した構造である(
図15、表1)。
【0075】
【0076】
位相差180°の屋根型フレネルロム(λ/2部:H部)は、位相差90°の平行四辺形フレネルロムを2つ並べた配置になっているため、位相差90°の平行四辺形フレネルロム3個を、入射偏光に対してそれぞれ15°、15°、75°回転させて配置した構造ともとらえることができる。
【0077】
各平行四辺形フレネルロムは、互いに離して配置しても、接合しても良く、接合は使用波長帯域が広いため、オプティカル・コンタクトとすることが好ましいが、平行四辺形のフレネルロムに応力による位相差が発生せず、光吸収も無ければ、接着や融着等の方法でも良い。各平行四辺形のフレネルロムの光線が透過する面に反射防止膜を施すことが好ましいが、反射防止膜を施さなくても良い。
図16A~
図16Cに、実施例1のH+Q型石英製フレネルロムの光学特性を示す。
【0078】
<実施例1-2:H+Q型石英製フレネルロム最適化型>
実施例1-2は、実施例1の位相差180°フレネルロムと位相差90°フレネルロムの回転角を59.6°(θ
2-θ
1=74.6°-15°)として配置した構造である(表2)。
図16A~
図16Cと、
図17A~
図17Cの比較からも分かる様に、λ/2部(H部)とλ/4部(Q部)の回転角を最適となるように調整することで、使用波長帯域全体(200nm~2600nm)で、楕円率をより1に近づける事が出来る。なお、接合方法、反射防止膜については、実施例1と同様である。
【0079】
【0080】
<実施例2:H+Q型CaF
2製フレネルロム最適化型>
CaF
2結晶は、λ=130~6000nmまで透明な等方性材料である。CaF
2を用いたフレネルロムも広帯域な位相子であるが、CaF
2で製作した位相差180°のフレネルロムと位相差90°のフレネルロムを、59°(θ
2-θ
1=74°-15°)回転させて配置した構造とすることで、より広帯域で楕円率が1に近い特性を持つ素子となる(表3、
図18A~
図18C)。なお、接合方法、反射防止膜については、実施例1と同様である。
図17Bに楕円率特性を示すH+Q型石英製フレネルロム最適化型(実施例1)よりも、
図18Bに楕円率特性を示すH+Q型CaF
2製フレネルロム最適化型(実施例2)の方が、広い波長帯域で楕円率が1に近い円偏光が得られることが分かる。
【0081】
【0082】
<実施例3:H+Q型LiF製フレネルロム最適化型>
LiF結晶は、波長約λ=110~9000nmの帯域で透明な等方性の結晶である。そのため、LiFでフレネルロムを製作すると非常に帯域の広い位相子を製作出来る可能性がある。但し、屈折率が比較的小さく、また、真空紫外領域と中赤外領域では、屈折率差が大きく、透明帯域を生かした位相子の製作は難しい。
【0083】
以下に、LiFを素材に使ったH+Q型LiF製フレネルロムの実施例3を示す。屈折率が比較的小さく一度の全反射で大きな位相差を得ることが難しいため、一度の反射での位相差を約22.5°とし、位相差を180°持たせるためにλ/2部(H部)で8回の反射、位相差90°を持たせるためにλ/4部(Q部)で4回の反射を行う構成にしている(
図19、表4)。つまり、3個の屋根型フレネルロムを並べた構造である。位相差180°の2つの屋根型フレネルロムと、位相差90°の1つの屋根型フレネルロムを、入射光線軸を59.5°(θ
2-θ
1=74.5°-15°)回転させて配置した構造である。なお、接合方法、反射防止膜については、実施例1と同様である。
【0084】
【0085】
図20A~
図20Cに、実施例3のH+Q型LiF製フレネルロム最適化型の光学特性を示す。
図20B及び
図20Cより、長波長側である程度性能が劣化するが、従来の位相子に比べれば十分高い性能であることが分かる。
【0086】
<実施例4:小型多層膜付きH+Q型石英製フレネルロム>
実施例4は、位相差が90°の多層膜付き小型フレネルロム3個を光線方向に並べ、入射側2個を位相差180°フレネルロム(λ/2部:H部)と見なし、出射側の1個を位相差90°フレネルロム(λ/4部:Q部)と見なし、位相差180°フレネルロムと位相差90°フレネルロムを、入射光線軸を回転軸として、59.8°(θ
2-θ
1=74.8°-15°)回転させて配置した構造である(
図21及び表5)。
【0087】
【0088】
元となる小型多層膜付きフレネルロムが、入出射光が同軸上にあるため、本実施例も出射光と入射光が同一直線上になる。なお、接合方法、反射防止膜については、実施例1と同様である。
図22A~
図22Cに、実施例4の小型多層膜付きH+Q型石英製フレネルロムの光学特性を示す。
図22Bより、特にλ=200~2000nmで楕円率が1に近い、精度の良い円偏光を出射することが分かる。
【0089】
<実施例5:光学膜付きキングタイプH+Q型石英製フレネルロム>
従来知られている中で最も使用波長帯域が広く、楕円率が1に近い石英製で全反射角が72°で使用する斜面に光学薄膜を施した位相差90°のキングタイプフレネルロムを光線軸方向に3個並べ、入射側2個を位相差180°フレネルロム(λ/2部:H部)と見なし、出射側の1個を位相差90°フレネルロム(λ/4部:Q部)と見なし、位相差180°フレネルロムと位相差90°フレネルロムを、入射光線軸を回転軸として、60°(θ
2-θ
1=75°-15°)回転させて配置した構造である(
図23及び表6)。
【0090】
各キングタイプフレネルロムは、実施例1同様、接合してもしなくても良く、接合する場合、フレネルロムに光学的な異方性を発生させる歪みを発生させず、光の吸収が無ければ、接合方法は選ばない。光線が透過する面に反射防止膜を施す事が好ましいが、反射防止膜を施さなくても良い。
【0091】
【0092】
図24A~
図24Cに、実施例5の光学膜付きキングタイプH+Q型石英製フレネルロムの光学特性を示す。
図24A~
図24Cより、出射偏光特性は、従来のどのフレネルロムより優れており、また、どの位相子より優れる特性を示す。本構造は、構成要素の位相子の性能をより高める構造であるため、構成要素の性能が高い場合、より高い特性を示す事が分かる。
【0093】
この実施例では、位相差、楕円率特性が高くなるに伴い、偏光軸の波長依存性も少なくなっており、そのため、一般的なλ/4板と同様に、入射偏光を直線偏光から、楕円偏光、円偏光へと自由に変える事が可能である。また、位相差90°側(λ/4部側)から光線を入射させても良い偏光特性が得られる。ただし、位相差180°側(λ/2部側)から光線を入射させた場合の方がより優れた性能になる。