IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社光学技研の特許一覧

特開2022-135685広帯域位相子、該広帯域位相子を備えた計測装置及び光アッテネーター
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022135685
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】広帯域位相子、該広帯域位相子を備えた計測装置及び光アッテネーター
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20220908BHJP
   G01J 4/04 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
G02B5/30
G01J4/04 A
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021035644
(22)【出願日】2021-03-05
(71)【出願人】
【識別番号】599045936
【氏名又は名称】株式会社光学技研
(74)【代理人】
【識別番号】100088580
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 敦
(74)【代理人】
【識別番号】100195453
【弁理士】
【氏名又は名称】福士 智恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100205501
【弁理士】
【氏名又は名称】角渕 由英
(72)【発明者】
【氏名】戸田 伸一郎
【テーマコード(参考)】
2H149
【Fターム(参考)】
2H149AA22
2H149AB06
2H149BA02
2H149DA04
2H149DA05
2H149DA06
2H149EA03
(57)【要約】
【課題】広帯域で使用可能であり、特に、従来の広帯域位相子よりも位相差の波長依存性が少ない光学素子広帯域で使用可能であり、特に、従来の広帯域位相子よりも位相差の波長依存性が少ない光学素子を提供する。
【解決手段】第1位相差発生部FR1と、第2位相差発生部FR2と、第3位相差発生部FR3と、を備え、第2位相差発生部の入射面側に第1位相差発生部が配置され、第2位相差発生部の出射面側に第3位相差発生部が配置され、第2位相差発生部は、全反射によりp波とs波の間に略180°の位相差を与え、第1位及び第3位相差発生部は、全反射によりp波とs波の間に略90°又は略180°の位相差を与え、入射光線軸を回転軸として、第2位相差発生部の入射面は第1及び第3位相差発生部の入射面に対して回転して配置されており、第1、第2及び第3位相差発生部は、フレネルロムで構成されており、入射光線Iと出射光線Eの光軸が同軸である。
【選択図】図7A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1位相差発生部と、第2位相差発生部と、第3位相差発生部と、を備え、
前記第2位相差発生部の入射面側に前記第1位相差発生部が配置され、
前記第2位相差発生部の出射面側に前記第3位相差発生部が配置され、
前記第2位相差発生部は、全反射によりp波とs波の間に略180°の位相差を与え、
前記第1位相差発生部及び前記第3位相差発生部は、全反射によりp波とs波の間に略90°又は略180°の位相差を与え、
入射光線軸を回転軸として、前記第2位相差発生部の入射面は前記第1位相差発生部及び前記第3位相差発生部の入射面に対して回転して配置されており、
前記第1位相差発生部、前記第2位相差発生部及び前記第3位相差発生部は、フレネルロムで構成されており、
入射光線と出射光線の光軸が同軸であることを特徴とする広帯域位相子。
【請求項2】
前記第1位相差発生部、前記第2位相差発生部及び前記第3位相差発生部を構成する前記フレネルロムは、石英、CaF及びLiFからなる群から選択される少なくとも一種の材料で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の広帯域位相子。
【請求項3】
前記第1位相差発生部、前記第2位相差発生部及び前記第3位相差発生部を構成する前記フレネルロムは、少なくとも1以上の全反射面に多層膜が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の広帯域位相子。
【請求項4】
前記第1位相差発生部は、全反射によりp波とs波の間に略90°の位相差を与える第1フレネルロムを有し、
前記第2位相差発生部は、全反射によりp波とs波の間に略180°の位相差を与える第2フレネルロムを有し、
前記第3位相差発生部は、全反射によりp波とs波の間に略90°の位相差を与える第3フレネルロムを有し、
入射光線軸を回転軸として、前記第2フレネルロムの入射面は前記第1フレネルロム及び前記第3フレネルロムの入射面に対して回転して配置されており、
入射光線に対する出射光線の位相差が略90°であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の広帯域位相子。
【請求項5】
入射光線軸を回転軸として、前記第2フレネルロムの入射面は前記第1フレネルロム及び前記第3フレネルロムの入射面に対して略67.5°回転して配置されていることを特徴とする請求項4に記載の広帯域位相子。
【請求項6】
前記第1位相差発生部は、全反射によりp波とs波の間に略180°の位相差を与える第1フレネルロムを有し、
前記第2位相差発生部は、全反射によりp波とs波の間に略180°の位相差を与える第2フレネルロムを有し、
前記第3位相差発生部は、全反射によりp波とs波の間に略180°の位相差を与える第3フレネルロムを有し、
入射光線軸を回転軸として、前記第2フレネルロムの入射面は前記第1フレネルロム及び前記第3フレネルロムの入射面に対して回転して配置されており、
入射光線に対する出射光線の位相差が略180°であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の広帯域位相子。
【請求項7】
入射光線軸を回転軸として、前記第2フレネルロムの入射面は前記第1フレネルロム及び前記第3フレネルロムの入射面に対して略60°回転して配置されていることを特徴とする請求項6に記載の広帯域位相子。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の広帯域位相子を備えることを特徴とする計測装置。
【請求項9】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の広帯域位相子を備えることを特徴とする光アッテネーター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相子に係り、特に広帯域で使用可能な広帯域位相子、該広帯域位相子を備えた計測装置及び光アッテネーターに関する。
【背景技術】
【0002】
波長板は、直交する2つの偏光成分に所定の位相差(光路差)を与えて、入射偏光の状態を変える光学素子である。一般的に、波長板としては、1/2波長板(λ/2板)と1/4波長板(λ/4板)の2種類がよく利用されている。
【0003】
1/2波長板(Half-wave plate:HWP)は、入射光線に対して1/2の位相差を与える波長板であり、具体的には、入射光線の電界振動方向(偏光面)にλ/2(180°)の位相差を与える光学素子である。1/2波長板は、入射光線に対して位相差をλ/2(180°)与え、直線偏光を回転させて出射させるために用いられる。
【0004】
1/4波長板(Quarter-wave plate:QWP)は、入射光線に対して1/4の位相差を与える波長板であり、具体的には、入射光線の電界振動方向(偏光面)にλ/4(90°)の位相差を与える光学素子である。1/4波長板は、入射光線に対して位相差をλ/4(90°)与え、直線偏光を円偏光に変えたり、円偏光を直線偏光に変えたりするために用いられる。
【0005】
特許文献1及び2には、水晶などの複屈折製の波長板について、3枚の1/2波長板や、1枚の1/2波長板と2枚の1/4波長板の結晶軸をずらして組み合わせることで広帯域波長板としたパンカラトナム型広帯域波長板が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】S.PANCHARATNAM, “ACHROMATIC COMBINATIONS OF BIREFRINGENT PLATES PartI. An Achromatic Circular Polarizer”, Proc. Indian Acad. Sci., A41, p.130-, 1955.
【非特許文献2】S.PANCHARATNAM, “ACHROMATIC COMBINATIONS OF BIREFRINGENT PLATES PartII. An Achromatic Quarter-Wave Plate”, Proc. Indian Acad. Sci., A41 P.137-, 1955.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
偏光計測は、膜物質、異物分析などで有効な手法で、その中でも分光偏光計測は、波長というパラメーターも加わることで、材料などの分散特性なども調べることが出来る有用な分析処方の一つである。また、自然物、人工物に限らず、偏光に依存した吸収、散乱特性を持つ物質は数多く存在するため、理化学用途としても有用である。
【0008】
また、角度測定、黒色物体の形状解析などp波、s波の反射率差を利用した計測にも分光偏光計測は有効である。そのため、従来から波長帯域が広く、偏光状態を変換することが可能な素子として広帯域位相子は、多くの構造や方式で考案されて使用されているが、深紫外から赤外域までの広い波長範囲で位相差変化が少ない(換言すると、位相差の波長依存性が少ない)素子は、ほとんどなかった。
【0009】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、広帯域で使用可能であり、特に、従来の広帯域位相子よりも位相差の波長依存性が少ない光学素子、該光学素子を備えた計測装置及びアッテネーターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、従来から知られている複屈折性のλ/2板とλ/4板を組み合わせた広帯域波長板と、広帯域位相子として知られているフレネルロムを組み合わせることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
前記課題は、本発明の広帯域位相子によれば、第1位相差発生部と、第2位相差発生部と、第3位相差発生部と、を備え、前記第2位相差発生部の入射面側に前記第1位相差発生部が配置され、前記第2位相差発生部の出射面側に前記第3位相差発生部が配置され、前記第2位相差発生部は、全反射によりp波とs波の間に略180°の位相差を与え、前記第1位相差発生部及び前記第3位相差発生部は、全反射によりp波とs波の間に略90°又は略180°の位相差を与え、入射光線軸を回転軸として、前記第2位相差発生部の入射面は前記第1位相差発生部及び前記第3位相差発生部の入射面に対して回転して配置されており、前記第1位相差発生部、前記第2位相差発生部及び前記第3位相差発生部は、フレネルロムで構成されており、入射光線と出射光線の光軸が同軸であること、により解決される。
【0012】
このように、広帯域性をもったフレネルロム位相子を、さらに広帯域性構造で組み合わせることで、真空紫外から近赤外の波長領域で使用可能な超広帯域特性を有し、直線偏光を回転させたり、精度の高い円偏光を作り出したりすることが可能で、入射光線と出射光線が同軸にある広帯域位相子を提供することができる。
【0013】
このとき、前記第1位相差発生部、前記第2位相差発生部及び前記第3位相差発生部を構成する前記フレネルロムは、石英、CaF及びLiFからなる群から選択される少なくとも一種の材料で形成されているとよい。
このとき、前記第1位相差発生部、前記第2位相差発生部及び前記第3位相差発生部を構成する前記フレネルロムは、少なくとも1以上の全反射面に多層膜が形成されているとよい。
このとき、前記第1位相差発生部は、全反射によりp波とs波の間に略90°の位相差を与える第1フレネルロムを有し、前記第2位相差発生部は、全反射によりp波とs波の間に略180°の位相差を与える第2フレネルロムを有し、前記第3位相差発生部は、全反射によりp波とs波の間に略90°の位相差を与える第3フレネルロムを有し、入射光線軸を回転軸として、前記第2フレネルロムの入射面は前記第1フレネルロム及び前記第3フレネルロムの入射面に対して回転して配置されており、入射光線に対する出射光線の位相差が略90°であるとよい。
このとき、入射光線軸を回転軸として、前記第2フレネルロムの入射面は前記第1フレネルロム及び前記第3フレネルロムの入射面に対して略67.5°回転して配置されているとよい。
このとき、前記第1位相差発生部は、全反射によりp波とs波の間に略180°の位相差を与える第1フレネルロムを有し、前記第2位相差発生部は、全反射によりp波とs波の間に略180°の位相差を与える第2フレネルロムを有し、前記第3位相差発生部は、全反射によりp波とs波の間に略180°の位相差を与える第3フレネルロムを有し、入射光線軸を回転軸として、前記第2フレネルロムの入射面は前記第1フレネルロム及び前記第3フレネルロムの入射面に対して回転して配置されており、入射光線に対する出射光線の位相差が略180°であるとよい。
このとき、入射光線軸を回転軸として、前記第2フレネルロムの入射面は前記第1フレネルロム及び前記第3フレネルロムの入射面に対して略60°回転して配置されているとよい。
【0014】
また、前記課題は、本発明の計測装置によれば、上記の広帯域位相子を備えること、により解決される。
また、前記課題は、本発明の光アッテネーターによれば、上記の広帯域位相子を備えること、により解決される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の広帯域位相子によれば、真空紫外から近赤外の波長領域(例えば、200~2600nm)で使用可能であり、直線偏光を回転させたり、精度の高い円偏光を作り出したりすることが可能となる。
【0016】
また、本発明のフレネルロムは、上記の特性を備えているため、各種の測定装置、分析装置、検査装置、観察装置を含む計測装置に適用することで、微細領域の検査、微小領域を観察、様々な偏光計測を行うことが可能となる。さらに、本発明のフレネルロムは、光アッテネーターに適用することで、レーザー装置の発振光の光量や、白色光の光量を調整することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】パンカラトナム構造広帯域波長板の模式図である。
図2A】パンカラトナム構造を構成するλ/4板(QWP)の位相差特性を示すグラフである。
図2B】パンカラトナム構造を構成するλ/2板(HWP)の位相差特性を示すグラフである。
図2C】パンカラトナム構造λ/4広帯域波長板の位相差特性を示すグラフである。
図2D】パンカラトナム構造λ/4広帯域波長板の楕円率特性を示すグラフである。
図2E】パンカラトナム構造λ/4広帯域波長板の偏光軸方向を示すグラフである。
図2F】パンカラトナム構造λ/2広帯域波長板の位相差特性を示すグラフである。
図2G】パンカラトナム構造λ/2広帯域波長板の楕円率特性を示すグラフである。
図2H】パンカラトナム構造λ/2広帯域波長板の偏光軸方向を示すグラフである。
図3A】標準的なλ/4フレネルロム(BK-7製)の模式図である。
図3B】標準的なλ/2フレネルロム(BK-7製)の模式図である。
図4A】BK-7から空気への入射角と位相差の関係を示すグラフである。
図4B】石英から空気への入射角と位相差の関係を示すグラフである。
図5A】BK-7製フレネルロム(λ/4)の位相差の波長依存性を示すグラフである。
図5B】BK-7製フレネルロム(λ/2)の位相差の波長依存性を示すグラフである。
図6A】石英製フレネルロム(λ/4)の位相差の波長依存性を示すグラフである。
図6B】石英製フレネルロム(λ/2)の位相差の波長依存性を示すグラフである。
図7A】パンカラトナム型λ/4フレネルロムの構造を示す模式図である。
図7B】パンカラトナム型λ/2フレネルロムの構造を示す模式図である。
図8A】パンカラトナム型石英製λ/4フレネルロムの位相差特性を示すグラフである。
図8B】パンカラトナム型石英製λ/4フレネルロムの楕円率特性を示すグラフである。
図8C】パンカラトナム型石英製λ/4フレネルロムの偏光軸方向を示すグラフである。
図9A】パンカラトナム型石英製λ/2フレネルロムの位相差特性を示すグラフである。
図9B】パンカラトナム型石英製λ/2フレネルロムの楕円率特性を示すグラフである。
図9C】パンカラトナム型石英製λ/2フレネルロムの偏光軸方向を示すグラフである。
図10】水晶製フレネルプリズムの構造を示す模式図である。
図11】水晶製フレネルプリズムの円偏光分離角の例を示すグラフである。
図12】反射による直線偏光の90°回転を示す模式図である。
図13】パンカラトナム型石英製λ/4フレネルロム(実施例1)の構造を示す模式図である。
図14A】実施例1の素子の位相差特性を示すグラフである。
図14B】実施例1の素子の楕円率特性を示すグラフである。
図14C】実施例1の素子の偏光軸方向を示すグラフである。
図15】パンカラトナム型石英製λ/2フレネルロム(実施例2)の構造を示す模式図である。
図16A】実施例2の素子の位相差特性を示すグラフである。
図16B】実施例2の素子の楕円率特性を示すグラフである。
図16C】実施例2の素子の偏光軸方向を示すグラフである。
図17A】実施例3の素子の位相差特性を示すグラフである。
図17B】実施例3の素子の楕円率特性を示すグラフである。
図17C】実施例3の素子の偏光軸方向を示すグラフである。
図18A】実施例4の素子の位相差特性を示すグラフである。
図18B】実施例4の素子の楕円率特性を示すグラフである。
図18C】実施例4の素子の偏光軸方向を示すグラフである。
図19】光学膜付きキング型パンカラトナム型石英製λ/4フレネルロム(実施例5)の構造を示す模式図である。
図20A】実施例5の素子の位相差特性を示すグラフである。
図20B】実施例5の素子の楕円率特性を示すグラフである。
図20C】実施例5の素子の偏光軸方向を示すグラフである。
図21A】実施例6の素子の位相差特性を示すグラフである。
図21B】実施例6の素子の楕円率特性を示すグラフである。
図21C】実施例6の素子の偏光軸方向を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図1乃至図21Cを参照しながら、本発明の一実施形態(以下、本実施形態)に係る広帯域位相子について説明する。本実施形態に係る広帯域位相子は、真空紫外から近赤外の波長領域において位相差の波長依存性が小さい広帯域の位相子である。
【0019】
本明細書において、○nm~△nmは、○nm以上△nm以下を意味する。
本明細書において、略とは、数値として±10%、好ましくは±5%、より好ましくは±3%、更に好ましくは±2%、特に好ましくは±1%を意味する。
本明細書において、「コンタクト」とは、一対の隣接するフレネルロム(プリズム素子、菱面体)が相互に接触して配置されていることをいい、直接接合されているオプティカル・コンタクトのほか、接着による接合も含まれる。
また、本明細書において、フレネルロム(プリズム素子、菱面体)が「対向」するとは、直接接合されているオプティカル・コンタクトの場合と、接着剤など、何かを介在させて接合されている接着の場合、空気層を介在させている場合とを含む。
【0020】
[1.基本的となるアイディア]
本実施形態に係る広帯域位相子は、従来から知られている複屈折性のλ/2板とλ/4板を組み合わせた広帯域波長板と広帯域位相子として知られているフレネルロムを組み合わせたものである。まず、複屈折性のλ/2板とλ/4板を組み合わせた広帯域波長板について説明する。
【0021】
(1)3枚の複屈折性波長板を組み合わせた広帯域波長板(パンカラトナム構造波長板)
図1及び表1にパンカラトナム型広帯域波長板の構造図(配置図)を示す。図1、表1に示す様に、3枚の波長板から構成されており、第一、三波長板は、同一波長板であり、第二波長板は、位相差180°で第一、三波長板と異なる軸方向で構成される波長板である。波長板は一枚の複屈折素材からなる波長板であっても、複数の複屈折素材の板を組み合わせた波長板であっても良い。この様な構成とすることで、より帯域の広い波長板を作る事が出来る。
【0022】
【表1】
【0023】
図2A及び図2Bに組合せ要素とした、水晶とMgF結晶を組み合わせた位相差90°と180°の波長板の位相差の波長依存性を示す。これらを組み合わせたパンカラトナム型位相子の光学特性を図2C図2Hに示す。図2C図2Fに位相差の波長依存性を示しているが、パンカラトナム型位相子は、位相差で出射偏光状態を表すことが出来ない。出射偏光状態は、図2D図2Gの楕円率、図2E図2Hの偏光軸方向が表している。図2C図2Hから分かる様にパンカラトナム型は、どちらかと言うとλ/2板として優れた性能を示す素子である。
【0024】
(2)フレネルロム
図3A及び図3Bに標準的なフレネルロムの形状を示す。図3Aはλ/4フレネルロム(BK-7製)の模式図であり、図3Bはλ/2フレネルロム(BK-7製)の模式図である。
【0025】
図3Aに示すように、λ/4フレネルロムを構成する第一菱面体10は、第一入射端面11と、第一入射端面11と平行に配置された第一出射端面12と、第一入射端面11及び第一出射端面12と交わる第一全反射面13と、第一全反射面13と平行に配置された第二全反射面14と、を有している。
【0026】
第一菱面体10において、第一入射端面11及び第一出射端面12は互いに平行であり、かつ、第一全反射面13及び第二全反射面14は互いに平行である。また、第一菱面体10において、第一入射端面11と第一全反射面13との間、及び、第一出射端面12と第二全反射面14との間は、互いに90度よりも小さい角度(楔角α)で交わっている。さらに、第一菱面体10において、第一入射端面11と第二全反射面14との間、及び、第一出射端面12と第一全反射面13との間は、互いに90度よりも大きい角度で交わっている。
【0027】
図3Bに示すように、λ/2フレネルロムは、平行四辺形状のプリズム素子を2つ組み合わせた構造(屋根型のフレネルロム)である。具体的には、λ/2フレネルロムは、断面(図3Bの面と平行な断面、つまり、後述する各入射端面、出射端面、全反射面と直交する断面)が平行四辺形の平行四辺形状の第一菱面体10及び第二菱面体20を備えている。第一菱面体10及び第二菱面体20は、同一形状であり、等方性材料で形成されている。
【0028】
第二菱面体20は、第二入射端面21と、第二入射端面21と平行に配置された第二出射端面22と、第二入射端面21及び第二出射端面22と交わる第三全反射面23と、第三全反射面23と平行に配置された第四全反射面24と、を有している。
【0029】
第二菱面体20において、第二入射端面21及び第二出射端面22は互いに平行であり、かつ、第三全反射面23及び第四全反射面24は互いに平行である。また、第二菱面体20において、第二入射端面21と第三全反射面23との間、及び、第二出射端面22と第四全反射面24との間は、互いに90度よりも小さい角度(楔角α)で交わっている。さらに、第二菱面体20において、第二入射端面21と第四全反射面24との間、及び、第二出射端面22と第三全反射面23との間は、互いに90度よりも大きい角度で交わっている。
【0030】
第一菱面体10及び第二菱面体20は、第一菱面体10の第一出射端面12と、第二菱面体20の第二入射端面21とが互いに平行になるように対向して配置されている。第一出射端面12と第二入射端面21は、オプティカル・コンタクトによる直接接合とすることが好適であるが、紫外線透過接着剤を用いた接着固定とすることや、接合を行わずに隙間を空けて配置することも可能である。
【0031】
上述したように第一菱面体10の第一入射端面11と第一全反射面13(第一出射端面12と第二全反射面14)は楔角αをなしており、同様に、第二菱面体20の第二入射端面21と第三全反射面23(第二出射端面22と第四全反射面24)も楔角αをなしている。ここで、楔角αは、第一菱面体10及び第二菱面体20を構成する等方性材料の種類に応じて適宜設定することが可能であり、等方性材料がBK-7の場合には楔角α=55°とし、石英の場合には楔角α=54°とし、等方性材料がCaFの場合には楔角α=54°とすればよい。
【0032】
上記の通り、フレネルロムは、複屈折を持たない等方性の材料で作られるが、全反射時に発生するp波とs波の間の位相差を利用した位相子である。全反射は、光が高屈折材から低屈折材側に、臨界角以上の角度で入射する場合に発生する現象である。図4A及び図4Bに材料が代表的な光学ガラスであるBK-7と石英の場合の反射面への入射角と発生する位相差の関係を示す。
【0033】
図4A及び図4Bより、臨界角以下の、通常の反射では位相差は発生しない事が分かる。また、臨界角以上でも角度により、発生する位相差が異なる事が分かる。ロムの材料の屈折率(入射、出射媒質の屈折率差)により、発生する位相差の最大値が異なる事も分かる。
【0034】
ロム素材がBK-7の場合、入射角約55°の時、位相差が約45°になる。そのため、2回全反射させる事で、位相差を90°付けることが出来、4回全反射させる事で、位相差を180°付ける事が出来る。
【0035】
図5A図5BにBK-7製のフレネルロムの位相差の波長依存性を示す。また、図6A図6Bに石英製フレネルロムの位相差の波長依存性を示す。図2図5A及び図5B図6A及び図6Bよりフレネルロムの位相差の波長依存性は少ないことが分かる。
【0036】
(3)パンカラトナム型フレネルロム(本実施形態の広帯域位相子)
本実施形態に係る広帯域位相子1は、上記二つの広帯域位相子を組み合わせた構造である。広帯域性をもったフレネルロム位相子を、さらに広帯域性構造で構成することで、従来に無い超広帯域特性が得られる。
【0037】
本実施形態に係る広帯域位相子1の一例として、図7A及び図7Bに石英製のパンカラトナム型フレネルロムを示す。また、図8A図8Cに位相差などの出射偏光パラメーターを示す。本素子は、パンカラトナム構造の波長板がそうである様に、出射光の偏光方向は、波長依存性を持つが、比較的一般的な波長板と同様の特性を示す。
【0038】
基本的な構造は、図7A及び図7Bに示す様な構造で、全反射でp波とs波の間に90°または180°の位相差を持たせた2つの位相子の間に、全反射でp波とs波の間に180°の位相差を持たせた位相子を、光線軸(入射光線軸)を回転軸として、所定の角度回転させた構造である。
【0039】
1回の全反射でp波とs波の間に約180°、または、約90°の位相差を発生させる必要は無く、図7A及び図7Bの例では、1回の全反射で発生させる位相差は、約45°で、約180°の位相差を発生させるために、全反射を4回繰り返しており、約90°位相差を発生させるために、全反射を2回繰り返している。
【0040】
図7A及び図7Bでは、各ロム(稜面体ブロック)は、接合しているが、接合している必要はない。また、各ロムを接合させる場合も、使用帯域で透明であるならば、接着剤を用いても良い。ただし、深紫外領域で透明な接着剤は、少ないため、オプティカル・コンタクトで接合する方が好ましい。接合する際は、ロム材の等方性材料に応力がかかり、異方性が発生しない様に注意する必要がある。
【0041】
端面にはAR膜(反射防止膜)を施しても良く、使用帯域全体で透過率を向上出来た方が好ましい。ただし、例えば、本発明の素子で素材が石英の場合、使用波長帯域は、λ=180~2600nmになり、一般的には、この帯域全体で効果的な反射防止膜は難しいため、反射率を大幅に低減することは出来ないが、MgF単層膜を用いる方法がある。また、モスアイ構造を持った特殊な反射防止膜を施す方法などもある。当然、反射防止膜を施さなくても良い。この場合も、出射偏光に著しい影響は発生しない。端面とは、入出射面の事だけで無く、各ロムを接合させない場合は、各ロムの入出射面の事も指す。
【0042】
図7A及び図7Bでは、3個のロムは同一形状であるが、必ずしも同一で無くても位相差が約180°と約90°位相子(λ/2部Hとλ/4部Q)を組み合わせていれば、広帯域化の効果はある。また、反射回数も4回と2回の組合せである必要はない。全反射面に光学多層膜を施し、広帯域化をしたロムを使う事でより、広帯域化し、出射円偏光の精度も高くなる。
【0043】
本構造の位相子は、図8C及び図9Cより、出射光の偏光軸方向が波長により変わる。これは、複屈折材料を使ったパンカラトナム構造でも同じである。パンカラトナム型λ/4フレネルロム(位相差90°品)で、直線偏光から円偏光を作る場合は問題にならないが、円偏光から直線偏光を作る場合は、直線偏光の方向が波長により変わるため、問題になる場合もある。パンカラトナム型λ/2フレネルロム(位相差180°品)では、偏光軸方向が多少波長依存性を持つが、大きくはない。そのため、使用用途によっては、問題にならず使用する事が出来る。
【0044】
(4)本実施形態に係る広帯域位相子の利点及び欠点
本実施形態に係る広帯域位相子の利点としては、広い波長範囲で直線偏光を回転させたり、直線偏光を円偏光に変えたりする事が出来ること、入射光線と出射光線が同軸にあること、製作が容易であることが挙げられる。また、本実施形態に係る広帯域位相子の欠点としては、比較的サイズが大きいことが挙げられる。この様に、本実施形態に係る広帯域位相子は、利点に対して、欠点が少なく、利点である直線偏光の回転や直線偏光を精度の良い円偏光に広い波長帯域で変換する能力に特出した素子である。
【0045】
[2.従来技術]
以下に従来技術として、広帯域λ/4位相子や円偏光子を示す。パンカラトナム構造は、上述した様に、元のλ/2位相子やλ/4位相子より広帯域性が良く、λ/2板、λ/4板と似た特性の位相子を作る事が出来る構造である。そのため、元の位相子の波長依存性が少なければ、より位相差の波長依存性が少ない位相子を製作することが出来る。
【0046】
従来知られている様に、複屈折性の素材を用いたλ/2板とλ/4板よりも、フレネルロムの方が、波長依存性が少ないため、本発明品は、複屈折性の素材を組み合わせた位相子より、広帯域な位相子になり、また、従来のフレネルロムの構成要素として利用するため、従来のフレネルロムよりも広帯域な位相子となることは明らかである。
【0047】
また、複屈折性のフィルムを用いて波長帯域を広げる工夫をしたものを使ったパンカラトナム構造の位相子であっても、有機物を用いて作られている以上、紫外域で透明では無く、また、赤外域でも特徴的な吸収線があり、紫外~赤外までを網羅する位相子にはならない。
【0048】
位相子ではないが、全く異なる構造で広帯域な円偏光子としては、フレネルプリズムがある。これは、例えば、右回り水晶と左回り水晶を組み合わせる事で、その接合面で、左右の円偏光を分離する円偏光子である。
【0049】
図10に水晶製フレネルプリズムの模式図を示す。また、図11に右回り、左回り円偏光の分離角の波長依存性の一例を示す。フレネルプリズムは、広帯域でほぼ完全な円偏光を得ることが出来る素子であるが、大きな分離角を得られる素材が見つかっておらず、実用性に乏しい素子である。また、入射直線偏光を、直線偏光から円偏光へと変える事も出来ないため、λ/4板と同じ様に活用することは出来ない。
【0050】
本実施形態に係る広帯域位相子は、透過帯域の広い、等方性材料であれば、材料とすることが可能で、また、位相差を変えたり、直線光を任意の角度に回転させたりと、従来の波長板と似た、使い方が可能であり、実用性の高い位相子である。直線光を広い波長帯域で90°回転させる方法としては、図12の様にミラーを配置する方法が知られているが、この方法では、光路が90°曲がる点や偏光の回転方向を自由に選べない等の欠点がある。
【0051】
[3.本実施形態の広帯域位相子1の構造の詳説]
本実施形態の広帯域位相子1は、λ/4フレネルロム(図3A、λ/4部Q)とλ/2フレネルロム(図3B、λ/2部H)を組み合わせた構造であり、入射光線Iと出射光線Eの光軸が同軸である光学素子である。
【0052】
本実施形態の広帯域位相子1は、フレネルロムで構成された第1位相差発生部(λ/2部H又はλ/4部Q)と、第2位相差発生部(λ/2部H)と、第3位相差発生部(λ/2部H又はλ/4部Q)と、を備えている。第2位相差発生部の入射面側に第1位相差発生部が配置され、第2位相差発生部の出射面側に第3位相差発生部が配置されている(図13及び図15)。
【0053】
ここで、第2位相差発生部は、全反射によりp波とs波の間に略180°の位相差を与えるλ/2部Hであり、第1位相差発生部及び第3位相差発生部は、全反射によりp波とs波の間に略90°の位相差を与えるλ/4部Qであるか、又は、略180°の位相差を与えるλ/2部Hである。
【0054】
本実施形態の広帯域位相子1では、入射光線軸を回転軸として、第2位相差発生部の入射面は第1位相差発生部及び第3位相差発生部の入射面に対して所定角度(θ-θ)回転して配置されている。
【0055】
(1)パンカラトナム型λ/4フレネルロム
本実施形態の広帯域位相子1が、パンカラトナム型λ/4フレネルロムである場合、図13図7Aに示されるように、第1位相差発生部は、全反射によりp波とs波の間に略90°の位相差を与える第1フレネルロムFR1(λ/4部Q)を有し、第2位相差発生部は、全反射によりp波とs波の間に略180°の位相差を与える第2フレネルロムFR2(λ/2部H)を有し、第3位相差発生部は、全反射によりp波とs波の間に略90°の位相差を与える第3フレネルロムFR3(λ/4部Q)を有し、入射光線軸を回転軸として、第2フレネルロムFR2(λ/2部H)の入射面は第1フレネルロムFR1(λ/4部Q)及び第3フレネルロムFR3(λ/4部Q)の入射面に対して回転して配置されている。
【0056】
より詳細には、入射光線軸を回転軸として、第2フレネルロムFR2(λ/2部H)の入射面は第1フレネルロムFR1(λ/4部Q)及び第3フレネルロムFR3(λ/4部Q)の入射面に対して略67.5°(θ-θ)回転して配置されていることで、入射光線Iに対する出射光線Eの位相差が略90°となっている。
【0057】
本実施形態の広帯域位相子1が、パンカラトナム型λ/4フレネルロムである場合、図7Aに示されるように、第1位相差発生部(λ/4部Q)は、全反射によりp波とs波の間に略90°の位相差を与える第1フレネルロムFR1を有し、第2位相差発生部(λ/2部H)は、全反射によりp波とs波の間に略180°の位相差を与える第2フレネルロムFR2を有しており、第3位相差発生部(λ/4部Q)は、全反射によりp波とs波の間に略90°の位相差を与える第3フレネルロムFR3を有している。入射光線軸を回転軸として、第1フレネルロムFR1の入射面は、第3フレネルロムFR3の入射面に対して略一致して配置されている。入射光線軸を回転軸として、第2フレネルロムFR2の入射面は、第1フレネルロムFR1及び第3フレネルロムFR3の入射面に対して略67.5°回転して配置されている。
【0058】
λ/4部Qを構成する第1フレネルロムFR1(第一菱面体10)の第一入射端面11に入射した入射光線Iは、合計8回全反射して(反射光線R)して、λ/4部Qを構成する第3フレネルロムFR3から出射光線Eとして出射する。広帯域位相子1が、パンカラトナム型λ/4フレネルロムである場合、真空紫外から近赤外の波長領域において入射光線Iに対して略90°(具体的には、90°±5°、好ましくは90°±3°、より好ましくは90°±2°、更に好ましくは90°±1°)の位相差を与えた出射光線Eが出射される。
【0059】
(2)パンカラトナム型λ/2フレネルロム)
本実施形態の広帯域位相子1が、パンカラトナム型λ/2フレネルロムである場合、図15図7Bに示されるように、第1位相差発生部は、全反射によりp波とs波の間に略180°の位相差を与える第1フレネルロムFR1(λ/2部H)を有し、第2位相差発生部は、全反射によりp波とs波の間に略180°の位相差を与える第2フレネルロムFR2(λ/2部H)を有し、第3位相差発生部は、全反射によりp波とs波の間に略180°の位相差を与える第3フレネルロムFR3(λ/2部H)を有し、入射光線軸を回転軸として、第2フレネルロムFR2(λ/2部H)の入射面は第1フレネルロムFR1(λ/2部H)及び第3フレネルロムFR3(λ/2部H)の入射面に対して回転して配置されている。
【0060】
より詳細には、入射光線軸を回転軸として、第2フレネルロムFR2(λ/2部H)の入射面は第1フレネルロムFR1(λ/4部Q)及び第3フレネルロムFR3(λ/4部Q)の入射面に対して略60°(θ-θ)回転して配置されていることで、入射光線Iに対する出射光線Eの位相差が略180°となっている。
【0061】
本実施形態の広帯域位相子1が、パンカラトナム型λ/2フレネルロムである場合、図7Bに示されるように、第1位相差発生部(λ/2部H)は、全反射によりp波とs波の間に略180°の位相差を与える第1フレネルロムFR1を有し、第2位相差発生部(λ/2部H)は、全反射によりp波とs波の間に略180°の位相差を与える第2フレネルロムFR2を有しており、第3位相差発生部(λ/2部H)は、全反射によりp波とs波の間に略180°の位相差を与える第3フレネルロムFR3を有している。入射光線軸を回転軸として、第1フレネルロムFR1の入射面は、第3フレネルロムFR3の入射面に対して略一致して配置されている。入射光線軸を回転軸として、第2フレネルロムFR2の入射面は、第1フレネルロムFR1及び第3フレネルロムFR3の入射面に対して略60°回転して配置されている。
【0062】
λ/2部Hを構成する第1フレネルロムFR1(第一菱面体10)の第一入射端面11に入射した入射光線Iは、合計12回全反射して(反射光線R)して、λ/2部Hを構成する第3フレネルロムFR3から出射光線Eとして出射する。広帯域位相子1がパンカラトナム型λ/2フレネルロムである場合、真空紫外から近赤外の波長領域において入射光線Iに対して略180°(具体的には、180°±5°、好ましくは180°±3°、より好ましくは180°±2°、更に好ましくは180°±1°)の位相差を与えた出射光線Eが出射される。
【0063】
λ/2部H及びλ/4部Qを構成する各フレネルロムは、等方性材料から形成されており、上述した図7A及び図7Bは、等方性材料として石英を使用した場合を示している(楔角α=54°)。等方性材料としては、真空紫外から近赤外の波長領域を透過する材料であれば良く、入手性の観点から石英(溶融石英:屈折率n=1.46@550nm)、フッ化カルシウム(CaF:屈折率n=1.44@546nm)及びフッ化リチウム(LiF:屈折率n=1.39@600nm)からなる群から選択される少なくとも一種の材料を用いると好適である。なお、用いる等方性材料については、位相差を劣化させてしまうような素材の欠陥や歪などがないことも重要であり、CaFよりも石英(溶融石英)を用いることが好ましい。
【0064】
(多層膜M)
λ/2部H及びλ/4部Qを構成するフレネルロムは、少なくとも1以上の全反射面に多層膜Mが形成されているとよい。具体的には、λ/2部H及びλ/4部Qを構成するフレネルロムとしての第一菱面体10の第一全反射面13、第二全反射面14、第二菱面体20の第三全反射面23、第四全反射面24は、その面上に、第一菱面体10及び第二菱面体20を構成する等方性材料とは異なる屈折率の多層膜Mがコーティングされていると好適である。
【0065】
ここで、多層膜Mは、第一菱面体10及び第二菱面体20を構成する等方性材料よりも屈折率の大きい高屈折率材料で形成性された高屈折率膜Mと、第一菱面体10及び第二菱面体20を構成する等方性材料よりも屈折率の小さい低屈折率材料で形成性された低屈折率膜Mと、が交互に積層されている。高屈折率膜Mと低屈折率膜Mの積層の順序は基板となる等方性材料の上に、高屈折率膜M、低屈折率膜Mの順で積層されていてもよいし、基板となる等方性材料の上に、低屈折率膜M、高屈折率膜Mの順で積層されていてもよい。
【0066】
入射光線Iは、各全反射面で全反射し、同時にp偏光とs偏光に位相差が発生する。通常、全反射に伴って生じる位相差は、波長が短くなるにつれて大きくなってしまう。そこで、各フレネルロムにおいて、第一菱面体10及び第二菱面体20を構成する等方性材料(石英やCaF)よりも大きい屈折率の高屈折率膜Mと、小さい屈折率の低屈折率膜Mからなる2種類の膜材料が交互に積層された多層膜Mを全反射面に施すとよい。
【0067】
高屈折率膜Mを構成する高屈折率材料としては、フッ化ガドリニウム(GdF:屈折率n=1.59@550nm)、フッ化ランタン(LaF:屈折率n=1.59@550nm)及びフッ化ネオジム(NdF:1.61@550nm)が例示されるが、これらの物質に限定されるものではない。また、低屈折率膜Mを構成する低屈折率材料としては、フッ化マグネシウム(MgF:屈折率n=1.38~1.40@550nm)が例示されるが、これに限定されるものではない。
【0068】
高屈折率膜M及び低屈折率膜Mは、真空蒸着、CVD、スパッタリング等の方法により形成することが可能である。高屈折率膜M及び低屈折率膜Mの膜厚は、材料の種類に依存し、例えば、100Å以上650Å以下とすればよいが、この範囲に限定されるものではない。
【0069】
本実施形態の広帯域位相子1においてλ/4部Qとλ/2部Hは、上述の図7A及び図7Bに示す構成に限定されるものではない。例えば、図19に示されるように、位相差90°のキングタイプフレネルロムを光線軸方向に2個並べて180°フレネルロム(λ/2部H)と見なし、位相差90°のキングタイプフレネルロム1つを位相差90°フレネルロム(λ/4部Q)と見なして、各キングタイプフレネルロムを回転させて配置した構造とすることも可能である。
【0070】
[4.本実施形態の広帯域位相子の応用例]
本実施形態の広帯域位相子の応用例について、以下に示す。本実施形態の広帯域位相子は、計測装置に応用可能である。ここで、「計測装置」とは、各種の測定装置、分析装置、検査装置、観察装置を含むものとする。
【0071】
半導体検査装置は、微細領域の検査を行う装置であり、紫外光を積極的に利用するため、真空紫外から近赤外の波長領域で使用可能な本実施形態の広帯域位相子を用いると好適である。白色光の偏光を利用している半導体検査装置であれば、本実施形態の広帯域位相子が利用可能である。
【0072】
また、本実施形態の広帯域位相子を、微小領域を観察するための観察装置に適用することも可能である。偏光を制御することでコントラストを向上できる場合がある。より微細な観察を行うためには、短い波長も使った観察が必要になるため、本実施形態の広帯域位相子を使用するメリットがある。
【0073】
さらに、異物検知を行うため、異物からの散乱光の偏光状態が正常な部分と異なる特性を利用した観察装置や検査装置、具体的には、半導体ウエハー上の配線パターンの偏光状態を観察して異物を発見する装置に本実施形態の広帯域位相子を適用することができる。装置によって、偏光の利用方法は異なるが、偏光情報から半導体の各プロセスで発生した異常(不良)を発見する際に、本実施形態の広帯域位相子を位相差90°(λ/4)の位相子と組み合わせることで、様々な偏光計測が可能となる。
【0074】
また、膜厚計に本実施形態の広帯域位相子を適用することができる。膜厚計は、主に半導体プロセス中の検査などに用いられるが、フィルム厚、塗装厚等を測定するなど、他の膜状の物の検査にも使われている。膜厚計の測定原理は、様々であるが、エリプソメーター同様の偏光解析で膜厚を測定する装置もある。
【0075】
その他、本実施形態の広帯域位相子は、機器偏光を低減させるための偏光解消素子の代わりに使用することができる。反射光学系では、p偏光とs偏光の反射率が異なるため、入射光線の偏光状態が異なる場合や変動する場合、透過率が異なったり、変動したりする。このことを防止するために、入射光線の偏光状態を一定にしたり、光学系からの出射光線の偏光状態を一定にしたりすることがある。精密な計測を行う装置の場合には、入射光線や出射光線の偏光状態を一定にすることが必要になる。本実施形態の広帯域位相子を位相差90°(λ/4)の位相子と組み合わせることで、いかなる偏光状態も作り出すことができるため、入射光線や出射光線の偏光状態を一定にすることが可能となる。
【0076】
また、本実施形態の広帯域位相子は、光アッテネーターに応用可能である。レーザー装置の発振光の光量調整は、安定性確保のため、レーザー装置外部で波長板と偏光子を組み合わせた光アッテネーターで行う事がある。この光アッテネーターに用いられる波長板を、本実施形態の広帯域位相子とすることで、光量を調整することが可能となる。加えて、本実施形態の広帯域位相子は、広帯域偏光子と組み合わせる事で、従来には実現できなかった、真空紫外~赤外域までの光を一緒に調光することが出来る広帯域な光アッテネーターを構成することが可能である。
【実施例0077】
以下、実施例に基づき、本発明の広帯域位相子について更に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0078】
<実施例1:パンカラトナム型石英製λ/4フレネルロム>
実施例1のパンカラトナム型石英製λ/4フレネルロムは、第一ロム(Q部)と第三ロム(Q部)の位相差が90°で、第二ロム(H部)の位相差が180°で、第一、第三ロムと第二ロムの入射面の角度が、入射光線軸を回転軸として67.5°(θ-θ=67.5°-0°)回転して配置した構造の位相差90°の位相子である(図13、表2)。
【0079】
【表2】
【0080】
全てのフレネルロムの素材は、石英で、反射面に光学薄膜は無い。第二フレネルロムは、位相差180°の屋根型フレネルロムで、位相差が90°のロムを2つ並べた構造である。そのため、位相差90°のフレネルロムを4個、並べた構造で第一、第四ロムに対して第二、第三ロムが67.5°回転していると見ることも出来る。
【0081】
全てのロムの境界は、接合されていても、いなくても良く、接合する場合も、使用波長帯域で透明であれば、接着剤で接合しても良い。当然、オプティカル・コンタクトで接合しても良い。光線が入出射する面に接合しない場合は、各ロムの光線の入出射平面は、反射防止膜が施されている方が好ましいが、反射防止膜が無くても良く、反射防止膜の有無によって、位相差特性に大きな影響はない。図14A図14Cに、実施例1のパンカラトナム型石英製λ/4フレネルロムの光学特性を示す。
【0082】
<実施例2:パンカラトナム型石英製λ/2フレネルロム>
実施例2のパンカラトナム型石英製λ/2フレネルロムは、第一~第三フレネルロムの位相差が180°で第一、第三フレネルロムに対して、第二フレネルロムを、入射光線軸を回転軸として59.5°(θ-θ=104.5°-45°)回転して配置した位相差180°の位相子である(図15、表3)。
【0083】
【表3】
【0084】
各位相差180°のフレネルロムは、位相差90°のフレネルロムを並べて配置した構造であるため、位相差90°のロムを6個配置したロムとみることも出来る。斜面に光学薄膜は施されていない。各ロムの素材は石英で、全反射角は54°である。なお、接合部、光線が入出射する面への反射防止膜については、実施例1と同様である。
【0085】
図16A図16Cに、実施例2のパンカラトナム型石英製λ/2フレネルロムの光学特性を示す。図16A図16Cより、出射偏光の楕円率(直線性、楕円率は直線偏光の場合、0、円偏光の場合1になる)、位相差、直線偏光の方向の波長依存性など優れており、一般的な波長板同等の使い方が可能で、かつ、非常に広帯域で位相差(直線偏光を入射した場合の出射偏光の直線偏光の度合い)性能が優れていることが分かる。
【0086】
<実施例3:パンカラトナム型CaF製λ/4フレネルロム>
実施例3のパンカラトナム型CaF製λ/4フレネルロムは、第一、第三フレネルロムの位相差が90°、第二フレネルロムの位相差が180°で、第一、第三フレネルロムに対して、第二フレネルロムを、入射光線軸を回転軸として67.5°(θ-θ=67.5°-0°)回転して配置した位相差90°の位相子である(表4)。
【0087】
【表4】
【0088】
全てのフレネルロムの素材は、CaFで、反射面に光学薄膜は無い。第二フレネルロムは、位相差180°の屋根型フレネルロムで、位相差が90°のロムを2つ並べた構造である。そのため、位相差90°のフレネルロムを4個、並べた構造で第一、第四ロムに対して第二、第三ロムが67.5°回転していると見ることも出来る。
【0089】
CaF結晶は、λ=130~6000nmまで透明な等方性材料であるため、特に広い波長帯域で、位相差変化の少ない位相子とすることが出来る。接合方法、反射防止膜については、実施例1と同様である。
【0090】
図17A図17Cに、実施例3のパンカラトナム型CaF製λ/4フレネルロムの光学特性を示す。図17Bより、広い波長帯域で楕円率が1に近い円偏光が得られることが分かる。素子の形状は図13と同等である。
【0091】
<実施例4:パンカラトナム型CaF製λ/2フレネルロム>
実施例4のパンカラトナム型CaF製λ/2フレネルロムは、第一~第三フレネルロムの位相差が180°で第一、第三フレネルロムに対して、第二フレネルロムを、入射光線軸を回転軸として59°(θ-θ=104°-45°)回転して配置した位相差180°の位相子である(表5)。
【0092】
【表5】
【0093】
各位相差180°のフレネルロムは、位相差90°のフレネルロムを並べて配置した構造であるため、位相差90°のロムを6個配置したロムとみることも出来る。斜面に光学薄膜は施されていない。各ロムの素材はCaFで、全反射角は54°である。接合部、光線が入出射する面への反射防止膜については、実施例3と同様である。
【0094】
CaF結晶は、λ=130~6000nmまで透明な等方性材料であるため、特に広い波長帯域で、位相差変化の少ない位相子とすることが出来る。接合方法、反射防止膜については、実施例1と同様である。
【0095】
図18A図18Cに、実施例4のパンカラトナム型CaF製λ/2フレネルロムの光学特性を示す。図18A図18Cより、出射偏光の楕円率(直線性、楕円率は直線偏光の場合、0、円偏光の場合1になる)、位相差、直線偏光の方向の波長依存性など優れており、一般的な波長板同等の使い方が可能で、かつ、非常に広帯域で位相差(直線偏光を入射した場合の出射偏光の直線偏光の度合い)性能が優れていることが分かる。
【0096】
<実施例5:光学膜付きキングタイプ パンカラトナム型石英製λ/4フレネルロム>
実施例5の光学膜付きキングタイプのパンカラトナム型石英製λ/4フレネルロムは、従来知られている中で最も使用波長帯域が広く、楕円率が1に近い石英製で全反射角が72°で使用する斜面に光学薄膜を施した位相差90°のキングタイプフレネルロムを光線軸方向に4個並べ、入射側1個を位相差90°フレネルロムと見なし、次の2個を位相差180°フレネルロムと見なし、最後の1個を位相差90°のフレネルロムと見なし、位相差180°フレネルロムを、入射光線軸を回転軸として、67.5°(θ-θ=67.5°-0°)回転させて配置した構造である(図19、表6)。
【0097】
【表6】
【0098】
各キングタイプフレネルロムは、実施例1同様、接合してもしなくても良く、接合する場合、フレネルロムに光学的な異方性を発生させる歪みを発生させず、光の吸収が無ければ、接合方法は選ばない。光線が透過する面に反射防止膜を施す事が好ましいが、反射防止膜を施さなくても良い。
【0099】
図20A図20Cに、実施例5の光学膜付きキングタイプのパンカラトナム型石英製λ/4フレネルロムの光学特性を示す。図20A図20Cより、出射偏光特性は、従来のどのフレネルロムより優れている。構成要素の位相子の性能をより高める構造であるため、構成要素の性能が高い場合、より高い特性を示す事が分かる。
【0100】
この実施例では、位相差、楕円率特性が高くなるに伴い、偏光軸の波長依存性も少なくなっており、そのため、一般的なλ/4板と同様に、入射偏光を直線偏光から、楕円偏光、円偏光へと自由に変える事が可能である。
【0101】
<実施例6:光学膜付きキングタイプ パンカラトナム型石英製λ/2フレネルロム>
実施例6の光学膜付きキングタイプのパンカラトナム型石英製λ/2フレネルロムは、従来知られている中で最も使用波長帯域が広く、楕円率が1に近い石英製で全反射角が72°で使用する斜面に光学薄膜を施した位相差90°のキングタイプフレネルロムを光線軸方向に6個並べ、入射側の2個を位相差180°の第一フレネルロムと見なし、次の2個を位相差180°の第二フレネルロムと見なし、最後の2個を位相差180°の第三フレネルロムと見なし、第二フレネルロムを、入射光線軸を回転軸として、60°(θ-θ=105°-45°)回転させて配置した構造である(表7)。
【0102】
【表7】
【0103】
各キングタイプフレネルロムは、実施例1同様、接合してもしなくても良く、接合する場合、フレネルロムに光学的な異方性を発生させる歪みを発生させず、光の吸収が無ければ、接合方法は選ばない。光線が透過する面に反射防止膜を施す事が好ましいが、反射防止膜を施さなくても良い。
【0104】
図21A図21Cに、実施例6の光学膜付きキングタイプのパンカラトナム型石英製λ/2フレネルロムの光学特性を示す。図21A図21Cより、出射偏光特性は、従来のどのフレネルロムより優れている。構成要素の位相子の性能をより高める構造であるため、構成要素の性能が高い場合、より高い特性を示す事が分かる。
【0105】
この実施例では、位相差、楕円率特性が高くなるに伴い、偏光軸の波長依存性も非常に少なくなっており、一般的なλ/2波長板と変わりが無いことが分かる。位相差、楕円率の波長依存性もほとんど存在せず、理想的な広帯域λ/2板の光学特性を示す事が分かる。
【符号の説明】
【0106】
1 広帯域位相子
H λ/2部(H部)
Q λ/4部(Q部)
FR1 第1フレネルロム(第1位相差発生部)
FR2 第2フレネルロム(第2位相差発生部)
FR3 第3フレネルロム(第3位相差発生部)
10 第一菱面体
11 第一入射端面
12 第一出射端面
13 第一全反射面
14 第二全反射面
20 第二菱面体
21 第二入射端面
22 第二出射端面
23 第三全反射面
24 第四全反射面
M 多層膜
θ 入射角
α 楔角
α1 全反射角
100 第一波長板
100a 第一波長板の光学軸
200 第二波長板
200a 第二波長板の光学軸
300 第三波長板
300a 第三波長板の光学軸
I 入射光線
Ia 入射偏光方向
R 反射光線
E 出射光線
X 光軸
MR ミラー
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図2G
図2H
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図8C
図9A
図9B
図9C
図10
図11
図12
図13
図14A
図14B
図14C
図15
図16A
図16B
図16C
図17A
図17B
図17C
図18A
図18B
図18C
図19
図20A
図20B
図20C
図21A
図21B
図21C
【手続補正書】
【提出日】2021-11-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0097
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0097】
【表6】