(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022135707
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】補強構造、及び、補強方法
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20220908BHJP
B23K 9/20 20060101ALI20220908BHJP
B23K 11/00 20060101ALI20220908BHJP
E04C 3/04 20060101ALI20220908BHJP
E04C 3/32 20060101ALI20220908BHJP
E04C 3/29 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
E04G23/02 F
B23K9/20 Z
B23K11/00 530
E04C3/04
E04C3/32
E04C3/29
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021035673
(22)【出願日】2021-03-05
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】木村 和章
(72)【発明者】
【氏名】江村 勝
【テーマコード(参考)】
2E163
2E176
【Fターム(参考)】
2E163FA02
2E163FA12
2E163FB02
2E163FF01
2E163FG01
2E176AA07
2E176BB29
(57)【要約】
【課題】溶接による周囲への影響を簡易に抑制するとともに補強の強度の向上を図る。
【解決手段】鋼材と、前記鋼材に先端が溶接されている棒材と、前記鋼材との間に溶接空間を有して添設され、前記棒材を挿通する前記棒材よりも広径の挿通孔を有する板材と、前記棒材に螺合する締付材と、を有する補強構造であって、前記鋼材と前記板材の間において前記溶接空間が充填材で充填されており、前記締付材は、前記棒材と前記挿通孔との間隙を塞ぐとともに、前記板材を前記充填材に押し付けている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材と、
前記鋼材に先端が溶接されている棒材と、
前記鋼材との間に溶接空間を有して添設され、前記棒材を挿通する前記棒材よりも広径の挿通孔を有する板材と、
前記棒材に螺合する締付材と、
を有する補強構造であって、
前記鋼材と前記板材の間において前記溶接空間が充填材で充填されており、
前記締付材は、前記棒材と前記挿通孔との間隙を塞ぐとともに、前記板材を前記充填材に押し付けている、
ことを特徴とする補強構造。
【請求項2】
請求項1に記載の補強構造であって、
前記板材は、
前記充填材を受ける受け部と、
前記充填材の漏れを防止する堰部と、
を有することを特徴とする補強構造。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の補強構造であって、
前記充填材は、流動性及び硬化性を有する、
ことを特徴とする補強構造。
【請求項4】
鋼材を、板材と棒材を用いて補強する補強方法であって、
前記板材に前記棒材よりも広径の挿通孔を形成する挿通孔形成工程と、
前記挿通孔の形成された前記板材を、前記鋼材との間に溶接空間が形成されるように添設する板材添設工程と、
前記板材の前記挿通孔に前記棒材を挿通させて、前記棒材の先端を前記鋼材に溶接する溶接工程と、
締付材を前記棒材に螺合させて、前記棒材と前記挿通孔との間隙を前記締付材で塞ぐ締付材取付工程と、
前記溶接空間に充填材を充填する充填工程と、
を有することを特徴とする補強方法。
【請求項5】
請求項4に記載の補強方法であって、
前記板材添設工程の前に、前記板材の前記挿通孔にフェルールを設置するフェルール設置工程を有し、
前記板材添設工程では、前記溶接空間に前記フェルールが位置するように、前記鋼材に対して前記板材を添設し、
前記溶接工程において、前記棒材は、前記挿通孔及び前記フェルールに挿通されており、
前記溶接工程の後、前記フェルールを除去する、
ことを特徴とする補強方法。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載の補強方法であって、
前記溶接工程の前に、前記鋼材と前記板材との間、及び、前記棒材と前記挿通孔との間の間隙を養生する養生工程を有する、
ことを特徴とする補強方法。
【請求項7】
請求項6に記載の補強方法であって、
前記養生工程において、前記棒材と前記挿通孔との前記間隙には、耐火耐熱絶縁材を配置する、
ことを特徴とする補強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補強構造、及び、補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼構造物(鋼材)の補強を行う場合は、一般的に溶接作業が行われる。そして、かかる溶接作業は、例えば、特許文献1に開示されているような溶接装置により行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような溶接装置により溶接作業を行うと、火花、臭気、粉塵等が発生するので、火花による火事の発生、臭気による第三者等への異臭トラブル、粉塵による健康被害等を招くおそれがあった。また、養生を行う場合、かなり大がかりな養生が必要になり、補強を行うのに時間や手間がかかっていた。
【0005】
また、鋼構造物(鋼材)に棒材の先端を溶接し、補強板(板材)の挿通孔に棒材を挿通させることにより、補強板を取り付けて補強する場合、挿通孔は、製造誤差や取付誤差等を考慮して、棒材よりも広径に形成する必要がある。このため、挿通孔と棒材との間に間隙が生じるので、補強による部材性能(強度など)が低下するおそれがあった。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、溶接による周囲への影響を簡易に抑制するとともに補強の強度の向上を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための主たる発明は、鋼材と、前記鋼材に先端が溶接されている棒材と、前記鋼材との間に溶接空間を有して添設され、前記棒材を挿通する前記棒材よりも広径の挿通孔を有する板材と、前記棒材に螺合する締付材と、を有する補強構造であって、前記鋼材と前記板材の間において前記溶接空間が充填材で充填されており、前記締付材は、前記棒材と前記挿通孔との間隙を塞ぐとともに、前記板材を前記充填材に押し付けていることを特徴とする補強構造である。
【0008】
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、溶接による周囲への影響を簡易に抑制するとともに補強の強度の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書及び添付図面により、少なくとも、以下の事項が明らかとなる。
【0012】
鋼材と、前記鋼材に先端が溶接されている棒材と、前記鋼材との間に溶接空間を有して添設され、前記棒材を挿通する前記棒材よりも広径の挿通孔を有する板材と、前記棒材に螺合する締付材と、を有する補強構造であって、前記鋼材と前記板材の間において前記溶接空間が充填材で充填されており、前記締付材は、前記棒材と前記挿通孔との間隙を塞ぐとともに、前記板材を前記充填材に押し付けていることを特徴とする補強構造。
【0013】
このような補強構造によれば、補強に用いる板材を鋼材に添設することにより、鋼材との間に溶接空間が形成されるので、溶接の際に発生する火花、臭気、粉塵等の拡散を簡易に抑制できる。また、溶接空間を構成する各部材を充填材によって一体化させることができ、補強の強度の向上を図ることができる。よって、溶接による周囲への影響を簡易に抑制するとともに補強の強度の向上を図ることができる。
【0014】
かかる補強構造であって、前記板材は、前記充填材を受ける受け部と、前記充填材の漏れを防止する堰部とを有することが望ましい。
【0015】
このような補強構造によれば、充填材の漏れを抑制することができ、充填材を効率的に充填させることができる。
【0016】
かかる補強構造であって、前記充填材は、流動性及び硬化性を有することが望ましい。
【0017】
このような補強構造によれば、溶接空間に充填材を充填することができ、充填材が硬化することによって溶接空間を構成する各部材を一体化することができる。
【0018】
また、鋼材を、板材と棒材を用いて補強する補強方法であって、前記板材に前記棒材よりも広径の挿通孔を形成する挿通孔形成工程と、前記挿通孔の形成された前記板材を、前記鋼材との間に溶接空間が形成されるように添設する板材添設工程と、前記板材の前記挿通孔に前記棒材を挿通させて、前記棒材の先端を前記鋼材に溶接する溶接工程と、締付材を前記棒材に螺合させて、前記棒材と前記挿通孔との間隙を前記締付材で塞ぐ締付材取付工程と、前記溶接空間に充填材を充填する充填工程と、を有することを特徴とする補強方法。
【0019】
このような補強方法によれば、溶接による周囲への影響を簡易に抑制するとともに補強の強度の向上を図ることができる。
【0020】
かかる補強方法であって、前記板材添設工程の前に、前記板材の前記挿通孔にフェルールを設置するフェルール設置工程を有し、前記板材添設工程では、前記溶接空間に前記フェルールが位置するように、前記鋼材に対して前記板材を添設し、前記溶接工程において、前記棒材は、前記挿通孔及び前記フェルールに挿通されており、前記溶接工程の後、前記フェルールを除去することが望ましい。
【0021】
このような補強方法によれば、溶接の際に発生する火花、臭気、粉塵等の拡散をより抑制することが可能である。また、溶接空間にフェルールが残らないようにできる。
【0022】
かかる補強方法であって、前記溶接工程の前に、前記鋼材と前記板材との間の隙間、及び、前記棒材と前記挿通孔との間の間隙を養生する養生工程を有することが望ましい。
【0023】
このような補強方法によれば、溶接の際に発生する火花、臭気、粉塵等の拡散をさらに抑制することができる。
【0024】
かかる補強方法であって、前記養生工程において、前記棒材と前記挿通孔との間隙には、耐火耐熱絶縁材が配置されることが望ましい。
【0025】
このような補強方法によれば、溶接を行う際に、棒材と板材とが接触することを防止でき、棒材と板材を絶縁させることができる。
【0026】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0027】
===本実施形態===
<補強構造について>
【0028】
図1は、本実施形態の補強構造の概略斜視図である。また、
図2は、
図1の概略分解斜視図である。なお、
図2では、充填材50の図示を省略している。また、以下の説明では、図に示すように、互いに交差する上下方向、幅方向、長手方向を定めている。長手方向は、H形鋼1の長さ方向であり、上下方向は、H形鋼1の一対のフランジ2の厚さ方向(一対のフランジ2が並ぶ方向)に沿った方向である。幅方向は、上下方向及び長手方向に直交する方向である。
【0029】
図1及び
図2に示すように、本実施形態の補強構造は、H形鋼1、スタッドボルト10、スペーサー12、ナット14、補強板20、充填材50を有している。
【0030】
H形鋼1は、例えば、建築物における柱や梁など(ここでは梁)を構成する鋼構造物であり、断面が「H」形の鋼材である。H形鋼1は、上下に間隔を隔てて平行配置された板状の一対のフランジ2(上フランジ2A及び下フランジ2B)と、上フランジ2Aと下フランジ2Bとを、幅方向の中央にて上下に繋ぐ板状のウェブ4を有している。本実施形態では、H形鋼1の下フランジ2B(鋼材に相当)に補強板20を設けることにより、下フランジ2Bを補強している。
【0031】
スタッドボルト10(棒材に相当)は、先端がスタッド溶接可能に形成された棒状の部材(ボルト)であり、下フランジ2Bの下面に先端(上端)が溶接されている。下フランジ2Bには、幅方向及び長手方向に間隔を空けて複数のスタッドボルト10が溶接されている。なお、スタッド溶接を行う際には、火花、臭気、粉塵等が発生するので、火花による火事の発生、臭気による第三者等への異臭トラブル、粉塵による健康被害等を招くおそれがある。また、養生を行うにはかなり大がかりな養生が必要になり、時間や手間がかかる。
【0032】
そこで、本実施形態では、後述するように補強に用いる補強板20を用いて、溶接用の空間S(溶接空間に相当)を形成し、スタッド溶接するようにしている。これにより、溶接の際に発生する火花、臭気、粉塵等の拡散を簡易に抑制できる(溶接による周囲への影響を抑制できる)。
【0033】
スペーサー12は、下フランジ2Bと、補強板20の受け部22との間に挟設されることによって、下フランジ2Bと補強板20(受け部22)との間隔を保持するとともに、支圧伝達するための部材である。本実施形態のスペーサー12は、金属製の円筒形状(具体的には、後述するフェルール30の当接部30bと同形状)の部材であり、円筒の内部にスタッドボルト10が挿通されている。なお、スペーサー12の形状は円筒には限られず、例えば、貫通孔を有する角柱など他の形状でもよい。また、スペーサー12を設けていなくてもよい。
【0034】
ナット14(締付材に相当)は、スタッドボルト10に螺合されることにより、補強板20を下フランジ2Bの側(本実施形態では充填材50)に押し付ける部材である。また、ナット14は、補強板20の受け部22に形成された挿通孔22a(後述)とスタッドボルト10との間の間隙を塞ぐ機能を有している。これにより、下フランジ2Bと補強板20との間に充填される充填材50が漏れないようにすることができる。
【0035】
補強板20(板材に相当)は、H形鋼1(より具体的には下フランジ2B)を補強するための部材である。本実施形態の補強板20は、断面凹状の鋼製板材であり、受け部22と堰部24を有している。
【0036】
受け部22は、下フランジ2Bの下面に対向する板状の部位であり、下フランジ2Bと補強板20との間に充填される充填材50を受ける部位である。また、受け部22には、スタッドボルト10に対応して、挿通孔22aが複数形成されている。挿通孔22aは、受け部22を厚さ方向(ここでは上下方向)に貫通して形成された貫通孔である。また、挿通孔22aは、製造誤差や取付誤差などを考慮して、スタッドボルト10の径よりも広径に(例えば、2~3mm大きく)形成されている。そして、挿通孔22aには、H形鋼1の下フランジ2Bに溶接されたスタッドボルト10が挿通されている。なお、挿通孔22aは、スタッドボルト10よりも広径なので、挿通孔22aとスタッドボルト10との間には間隙が生じる。
【0037】
堰部24は、受け部22の幅方向の両端において、上側(下フランジ2B側)に立ち上がった部位であり、空間Sに充填される充填材50の漏れを防止する機能を有している(
図3E参照)。堰部24を設けていることにより、空間Sに充填材50を効率的に充填できる。
【0038】
充填材50は、流動性及び硬化性を有する材料であり、下フランジ2Bと補強板20との間に充填される。そして、充填材50が硬化することにより、補強板20とスタッドボルト10と下フランジ2Bなどが一体化され、複合材料として補強の強度を高めることができる。なお、充填材50は、流動性及び硬化性を有する材料であればよく、特に限定されない。例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などの合成樹脂を用いることができる。あるいは、水硬性材料(セメント)と水などを混合させた材料(無収縮モルタル、セメントミルクなどのグラウト)を用いてもよい。
【0039】
<補強方法について>
図3A~
図3Eは、
図1の補強構造を形成する補強方法の一例を示す説明図である。また、
図4Aは、
図3Bにおける溶接部分(溶接前)の概略断面図であり、
図4Bは、絶縁スリーブ32の斜視図である。なお、
図3D及び
図3Eではスペーサー12を断面で示している。
【0040】
まず、
図3Aに示すように、補強板20の受け部22に、スタッドボルト10よりも広径の挿通孔22aを形成し(挿通孔形成工程に相当)、挿通孔22aに、フェルール30を設置する(フェルール設置工程に相当)。なお、フェルール30は、耐熱性の磁器(セラミック等)で形成されており、スタッド溶接の火花(アーク)発生中に、空気を遮断して溶接金属と空気との反応を防ぎ、また、発生熱を集中して冷却速度を緩やかにする。このようなフェルール30を設けることにより、溶接の際に発生する火花、臭気、粉塵等の拡散を抑制することが可能である。また、フェルール30は、スタッド溶接によって発生する溶融金属を内部に閉じ込めることにより、接合部分における鋳型の役目も有する。
【0041】
図3Aの丸印で囲んだ部分の拡大断面図に示すように、フェルール30は、囲繞部30aと当接部30bとを有している(
図4Aも参照)。
【0042】
囲繞部30aは、挿通孔22aに収容されて、スタッドボルト10を囲繞する部位である。囲繞部30aが、挿通孔22aに収容されることで、フェルール30の位置がずれにくくなり、溶接位置のずれを抑制できる。
【0043】
当接部30bは、囲繞部30aより広径に形成されており、溶接の母材(ここでは下フランジ2B)に当接する部位である。
【0044】
そして、補強板20に設置したフェルール30が、下フランジ2Bと補強板20の間(換言すると空間S)に位置するように、下フランジ2Bに対し補強板20を添設する(板材添設工程に相当)。より具体的には、フェルール30の当接部30bを下フランジ2Bの下面に当接させ、補強板20と下フランジ2Bをシャコ万などの万力(不図示)でクランプして固定する。補強板20と下フランジ2Bとの間にフェルール30(当接部30b)が配置されることにより、補強板20と下フランジ2Bとの間には溶接用の空間S(溶接空間に相当)が形成される(
図3B参照)。
【0045】
次に、
図3Bに示すように、補強板20(具体的には、堰部24の上端)と下フランジ2Bとの隙間に、例えばアルミテープなどの養生部材34を設けて養生を行う。また、本実施形態では、
図3B、
図4Aに示すように、挿通孔22aとスタッドボルト10との隙間に絶縁スリーブ32(耐火耐熱絶縁材に相当)を配置している。なお、養生部材34及び絶縁スリーブ32を設ける作業は養生工程に相当する。このような養生を行うことにより、空間Sを閉塞空間にすることができる。
【0046】
絶縁スリーブ32は、耐火性及び耐熱性の絶縁材料で形成されており、
図4Bに示すように、筒部32aと、鍔部32bを有している。
【0047】
筒部32aは、スタッドボルト10と挿通孔22aとの間隙に配置(埋設)可能な円筒形状に形成されている。
【0048】
鍔部32bは、筒部32aの外周面から外側に突出している。
【0049】
絶縁スリーブ32の筒部32aを挿通孔22aに挿入していくと、鍔部32bが補強板20(受け部22)の下面に当接する。これにより、筒部32aの一部が、挿入孔22aの内部に配置(埋設)される。なお、本実施形態では、絶縁スリーブ32の鍔部32bが筒部32aの中央に設けられているが、これには限られない。例えば、筒部32aの端に鍔部32bが設けられて、筒部32a全体が埋設されてもよい。
【0050】
養生後、スタッドガン40に取り付けたスタッドボルト10を、絶縁スリーブ32、挿通孔22a、及び、フェルール30に挿通させて、スタッドボルト10の先端を下フランジ2Bの下面に当接させる。そして、スタッドガン40を用いてスタッド溶接を行い、スタッドボルト10の先端を下フランジ2Bに溶接する(溶接工程に相当)。
【0051】
この際、スタッドボルト10の先端の周囲にフェルール30が配置されているので、スタッド溶接の際に発生する火花、臭気、粉塵等の拡散を抑制することが可能である。また、スタッドボルト10と挿通孔22aとの間隙には絶縁スリーブ32(具体的には筒部32a)が設けられており、さらに、補強板20と下フランジ2Bとの隙間に養生部材34が設けられている。これにより、空間Sが閉塞空間となっているので、スタッド溶接の際に発生する火花、臭気、粉塵等の拡散をさらに抑制することが可能である。
【0052】
また、スタッドボルト10と挿通孔22aとの間の間隙に絶縁スリーブ32(筒部32a)を埋設していることにより、スタッド溶接の際に、スタッドボルト10と補強板20とが接触することを防止できる。換言すると、スタッドボルト10と補強板20を絶縁させることができる。
【0053】
また、本実施形態では、下フランジ2Bの補強に用いる補強板20が、養生用の部材(養生パネル)として機能するので、大掛かりな養生を行わなくてよく、手間がかからない。また、実際に補強に用いる補強板20に形成した挿通孔22aにスタッドボルト10を挿通させて溶接を行っているので、スタッドボルト10と挿通孔22aとの位置ずれを抑制することができる。
【0054】
なお、養生を行う前に、補強板20の堰部24と下フランジ2Bとの隙間から空間Sに、ガス(希ガス、CO2ガス、アセチレン、不活性ガスなど)を封入するようにしてもよい。そして、ガス封入後、養生を行ないスタッド溶接してもよい。これにより、溶接の品質向上を図ることができる。
【0055】
全てのスタッドボルト10の溶接完了後、
図3Cに示すように、万力(不図示)によるクランプを解除し、補強板20を取り外し、フェルール30を除去する。
図3Cではフェルール30を一部除去した状態を示しているが、全てのフェルール30を除去する。これにより空間Sに磁器のフェルール30が残らないようにできる。なお、溶接後のフェルール30は、軽く衝撃を与えることで簡単に除去することができる。また、この段階において、スタッド溶接の品質を確認することが望ましい。
【0056】
次に、
図3Dに示すように、スタッドボルト10に金属製のスペーサー12を取り付け、補強板20を再度取り付ける。これにより、下フランジ2Bと補強板20との間に、
図3Bと同じ空間S(溶接空間)が形成される。
【0057】
さらに、ナット14をスタッドボルト10に螺合させて、仮締めを行う(締結材取付工程に相当)。この際、ナット14により、スタッドボルト10と挿通孔22aとの間の間隙が塞がれる。なお、前述したように、スペーサー12は設けていなくてもよく、例えば、スタッドボルト10へのナット14の取り付け具合(螺合具合)によって、空間Sが形成されるように補強板20の位置を調整してもよい。
【0058】
次に、
図3Eに示すように、下フランジ2Bと補強板20との間から、空間Sに充填材50を充填し、硬化させる。この際、スタッドボルト10と補強板20の挿通孔22aとの間の間隙がナット14で塞がれているので、充填材50が漏れないようにできる。また、補強板20に堰部24が設けられていることより、充填材50が漏れないようにできる。
【0059】
充填材50が硬化した後、ナット14をさらに強く締め付け(本締め)、補強板20を下フランジ2Bの側(ここでは充填材50)に押し付ける。これにより、空間Sを構成する各部材(下フランジ2B、補強板20、スタッドボルト10など)を充填材50で一体化でき、複合材料として補強の強度の向上を図ることができる。また、本実施形態では、補強板20を養生パネルとして使用しているので、大掛かりな養生を行なわなくても、溶接の際に発生する火花、臭気、粉塵等の拡散を抑制できる。よって、溶接による周囲への影響を簡易に抑制するとともに強度の向上を図ることができる。
【0060】
以上、説明したように、本実施形態の補強構造は、H形鋼1の下フランジ2Bと、下フランジ2Bに上端が溶接されているスタッドボルト10と、下フランジ2Bとの間に空間Sを有して添設され、スタッドボルト10を挿通するスタッドボルト10よりも広径の挿通孔22aを有する補強板20と、スタッドボルト10に螺合するナット14を備えている。また、下フランジ2Bと補強板20の間において空間Sが充填材50で充填されており、ナット14は、スタッドボルト10と挿通孔22aとの間隙を塞ぐとともに、補強板20を充填材50に押し付けている、
【0061】
これにより、補強に用いる補強板20を下フランジ20に添設することにより、下フランジ20との間に溶接用の空間Sが形成されるので、溶接の際に発生する火花、臭気、粉塵等の拡散を簡易に抑制できる。また、空間Sを構成する各部材を充填材50によって一体化させることができ、補強の強度の向上を図ることができる。よって、溶接による周囲への影響を簡易に抑制するとともに補強の強度の向上を図ることができる。
【0062】
また、補強板20は、充填材50を受ける受け部22と、充填材50の漏れを防止する堰部24とを有している。これにより、充填材50の漏れを防止することができ、充填材50を効率的に充填することができる。
【0063】
また、充填材50には、流動性及び硬化性を有する材料(合成樹脂やグラウト)を用いている。これにより、空間S内に充填材50を充填することができ、充填材50が硬化することによって空間Sを構成している各部材を一体化できる。
【0064】
また、本実施形態の補強方法は、H形鋼1の下フランジ2Bを、補強板20とスタッドボルト10を用いて補強する補強方法であって、補強板20の受け部22にスタッドボルト10よりも広径の挿通孔22aを形成する挿通孔形成工程と、挿通孔22aの形成された補強板20を、下フランジ20との間に空間Sが形成されるように添設する板材添設工程と、補強板20の挿通孔22aにスタッドボルト10を挿通させて、スタッドボルト10の先端を下フランジ20に溶接する溶接工程と、ナット14をスタッドボルト10に螺合させ、スタッドボルト10と挿通孔22aとの間隙をナット14で塞ぐ締付材取付工程と、空間Sに充填材50を充填する充填工程とを有している。これにより、補強に用いる補強板20を用いて、溶接の際に発生する火花、臭気、粉塵等の拡散を簡易に抑制できる。また、空間Sを構成する各部材を充填材50によって一体化させることができ、補強の強度の向上を図ることができる。よって、溶接による周囲への影響を簡易に抑制するとともに補強の強度の向上を図ることができる。
【0065】
また、板材添設工程の前に、挿通孔形成工程で形成された板材20の挿通孔22aにフェルール30を設置するフェルール設置工程を有し、板材添設工程では、空間Sにフェルール30が位置するように、下フランジ2に対し補強板20を添設している。そして、溶接工程において、スタッドボルト10は挿通孔22a及びフェルール30に挿通されており、溶接工程後、フェルール30を除去している。これにより、溶接の際に発生する火花、臭気、粉塵等の拡散をより抑制することが可能である。また、溶接後の空間Sにフェルール30が残らないようにできる。
【0066】
また、溶接工程の前に、下フランジ2Bと補強板20との間、及び、スタッドボルト10と挿通孔22aとの間の間隙を養生する養生工程を有している。これにより、溶接の際に発生する火花、臭気、粉塵等の拡散をさらに抑制することができる。
【0067】
また、養生工程において、スタッドボルト10と挿通孔22aとの間隙には、絶縁スリーブ32を配置している。これにより、溶接を行う際に、スタッドボルト10と補強板20とが接触することを防止でき、スタッドボルト10と補強板20を絶縁させることができる。
【0068】
===その他の実施形態について===
上記実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはいうまでもない。特に、以下に述べる実施形態であっても、本発明に含まれるものである。
【0069】
前述の実施形態では、鋼材としてH形鋼1(下フランジ2B)を例示していたが、H形鋼には限られず、他の鋼構造物であってもよい。
【0070】
また、前述の実施形態では、補強対象のH形鋼1(下フランジ2B)を補強する際には、上向きに溶接(スタッド溶接)を行っていたが、これには限られない。また、例えば、補強対象の鋼材が鉛直方向に沿っていてもよく(例えば柱でもよく)、この場合、横向き(水平に)スタッド溶接を行なえばよい。
【符号の説明】
【0071】
1 H形鋼
2 フランジ
2A 上フランジ
2B 下フランジ(鋼材)
4 ウェブ
10 スタッドボルト(棒材)
12 スペーサー
14 ナット(締付材)
20 補強板(板材)
22 受け部
22a 挿通孔
24 堰部
30 フェルール
30a 囲繞部
30b 当接部
32 絶縁スリーブ(耐火耐熱絶縁材)
32a 筒部
32b 鍔部
34 養生部材
40 スタッドガン
S 空間(溶接空間)