(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022135716
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】真空ポンプ、及び、真空排気装置
(51)【国際特許分類】
F04D 19/04 20060101AFI20220908BHJP
【FI】
F04D19/04 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021035687
(22)【出願日】2021-03-05
(71)【出願人】
【識別番号】508275939
【氏名又は名称】エドワーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097559
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 浩司
(74)【代理人】
【識別番号】100123674
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 亮
(74)【代理人】
【識別番号】100173680
【弁理士】
【氏名又は名称】納口 慶太
(72)【発明者】
【氏名】樺澤 剛志
【テーマコード(参考)】
3H131
【Fターム(参考)】
3H131AA02
3H131BA03
3H131BA11
3H131CA35
(57)【要約】
【課題】クリーニング性能の向上が可能な真空ポンプを提供する。
【解決手段】ヒータ11と、パージガス導入ポート12、13やパージガスバルブ14と、排気バルブ16と、を備え、動作モードとして、ターボ分子ポンプ100内の堆積物を昇華させることが可能なクリーニング動作モードを有し、クリーニング動作モードでは、ヒータ11、パージガスバルブ14、もしくは、排気バルブ16の少なくとも一つを制御し、ターボ分子ポンプ100の内部の少なくとも一部を、ターボ分子ポンプ100内の堆積物の昇華温度以上、かつ、中間流または粘性流となる圧力領域に昇圧する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱手段と、
ガス導入手段と、
圧力制御手段と、が配設された真空ポンプであって、
動作モードとして、真空ポンプ内の堆積物を昇華させることが可能なクリーニングモードを有し、
前記クリーニングモードでは、
前記加熱手段、前記ガス導入手段、もしくは、前記圧力制御手段の少なくとも一つを制御し、
前記真空ポンプの内部の少なくとも一部を、
前記真空ポンプ内の前記堆積物の昇華温度以上、かつ、中間流または粘性流となる圧力領域に昇圧することを特徴とする真空ポンプ。
【請求項2】
前記真空ポンプの内部の少なくとも一部が、
中間流または粘性流となる第1の設定圧力と、分子流となる第2の設定圧力と、を交互に繰り返すように制御されることを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項3】
前記クリーニングモードでは、前記真空ポンプの回転数が通常時より低く設定されることを特徴とする請求項1又は2に記載の真空ポンプ。
【請求項4】
前記クリーニングモードでは、前記堆積物の昇華により発生したガスの分圧が、前記堆積物の昇華圧力の半分以下となるように制御されることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の真空ポンプ。
【請求項5】
前記クリーニングモードでは、前記真空ポンプの少なくとも一部が2[Torr]以上に昇圧されることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の真空ポンプ。
【請求項6】
前記クリーニングモードでは、前記真空ポンプの少なくとも一部が10[Torr]以下に昇圧されることを特徴とする請求項5に記載の真空ポンプ。
【請求項7】
前記ガス導入手段から前記真空ポンプへ供給されるガスが、窒素ガス、ヘリウムガス、水素ガスの少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の真空ポンプ。
【請求項8】
真空ポンプと、
加熱手段と、
ガス導入手段と、
圧力制御手段と、を備えた真空排気装置であって、
動作モードとして、前記真空ポンプ内の堆積物を昇華させることが可能なクリーニングモードを有し、
前記クリーニングモードでは、
前記加熱手段、前記ガス導入手段、もしくは、前記圧力制御手段の少なくとも一つを制御し、
前記真空ポンプの内部の少なくとも一部を、
前記真空ポンプ内の前記堆積物の昇華温度以上、かつ、中間流または粘性流となる圧力領域に昇圧することを特徴とする真空排気装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばターボ分子ポンプ等を備えた真空ポンプ、及び、真空排気装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、真空ポンプの一種としてターボ分子ポンプが知られている。このターボ分子ポンプにおいては、ポンプ本体内のモータへの通電により回転翼を回転させ、ポンプ本体に吸い込んだガス(プロセスガス)の気体分子を弾き飛ばすことによりガスを排気するようになっている。また、このようなターボ分子ポンプには、ポンプ内の温度を適切に管理するために、ヒータや冷却管を備えたタイプのものがある(特許文献1)。さらに、出願人は、ターボ分子ポンプを、通常動作モードとクリーニング動作モードとで切り替えて動作させる真空ポンプシステムを提案している(特願2019-165839号)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、出願人が提案した真空ポンプシステム(特願2019-165839号)においては、真空ポンプの温度を、通常動作モード時よりもクリーニング動作モード時の方が高くなるよう制御している。しかし、堆積物の状態によっては、クリーニングの性能(クリーニング性能)が十分に発揮されない場合もあった。
【0005】
本発明の目的とするところは、クリーニング性能の向上が可能な真空ポンプ、及び、真空排気装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)上記目的を達成するために本発明は、
加熱手段と、
ガス導入手段と、
圧力制御手段と、が配設された真空ポンプであって、
動作モードとして、真空ポンプ内の堆積物を昇華させることが可能なクリーニングモードを有し、
前記クリーニングモードでは、
前記加熱手段、前記ガス導入手段、もしくは、前記圧力制御手段の少なくとも一つを制御し、
前記真空ポンプの内部の少なくとも一部を、
前記真空ポンプ内の前記堆積物の昇華温度以上、かつ、中間流または粘性流となる圧力領域に昇圧することを特徴とする真空ポンプにある。
(2)また、上記目的を達成するために他の本発明は、前記真空ポンプの内部の少なくとも一部が、
中間流または粘性流となる第1の設定圧力と、分子流となる第2の設定圧力と、を交互に繰り返すように制御されることを特徴とする(1)に記載の真空ポンプにある。
(3)また、上記目的を達成するために他の本発明は、前記クリーニングモードにおいて、前記真空ポンプの回転数が通常時より低く設定されることを特徴とする(1)又は(2)に記載の真空ポンプにある。
(4)また、上記目的を達成するために他の本発明は、前記クリーニングモードでは、前記堆積物の昇華により発生したガスの分圧が、前記堆積物の昇華圧力の半分以下となるように制御されることを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載の真空ポンプにある。
(5)また、上記目的を達成するために他の本発明は、前記クリーニングモードでは、前記真空ポンプの少なくとも一部が2[Torr]以上に昇圧されることを特徴とする(1)~(4)のいずれかに記載の真空ポンプにある。
(6)また、上記目的を達成するために他の本発明は、前記クリーニングモードでは、前記真空ポンプの少なくとも一部が10[Torr]以下に昇圧されることを特徴とする(5)に記載の真空ポンプにある。
(7)また、上記目的を達成するために他の本発明は、前記ガス導入手段から前記真空ポンプへ供給されるガスが、窒素ガス、ヘリウムガス、水素ガスの少なくとも一つを含むことを特徴とする(1)~(6)のいずれかに記載の真空ポンプにある。
(8)また、上記目的を達成するために他の本発明は、真空ポンプと、
加熱手段と、
ガス導入手段と、
圧力制御手段と、を備えた真空排気装置であって、
動作モードとして、前記真空ポンプ内の堆積物を昇華させることが可能なクリーニングモードを有し、
前記クリーニングモードでは、
前記加熱手段、前記ガス導入手段、もしくは、前記圧力制御手段の少なくとも一つを制御し、
前記真空ポンプの内部の少なくとも一部を、
前記真空ポンプ内の前記堆積物の昇華温度以上、かつ、中間流または粘性流となる圧力領域に昇圧することを特徴とする真空排気装置にある。
【発明の効果】
【0007】
上記発明によれば、クリーニング性能の向上が可能な真空ポンプ、及び、真空排気装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係る真空ポンプを示す構成図である。
【
図3】電流指令値が検出値より大きい場合の制御を示すタイムチャートである。
【
図4】電流指令値が検出値より小さい場合の制御を示すタイムチャートである。
【
図5】本発明の一実施形態に係る真空ポンプの制御のための構成を概略的に示すブロック図である。
【
図6】通常動作モードとクリーニング動作モードとの関係を、昇華曲線を用いて概略的に示す説明図である。
【
図7】クリーニング動作モード時の圧力の変化を概略的に示すグラフである。
【
図8】ガスの圧力と熱伝導率の関係を示すグラフである。
【
図9】部品上に落下した堆積物の状態を模式化して示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態に係る真空ポンプ10について、図面に基づき説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る真空ポンプ10を示している。この真空ポンプ10は、ターボ分子ポンプ100(ポンプ装置)、ターボ分子ポンプ100の動作を制御するポンプ制御装置(以下では単に「制御装置」と称する)200、加熱手段としてのヒータ11を備えている。
【0010】
また、真空ポンプ10は、パージガス導入ポート12、13、及び、パージガスの流路の開閉を行うパージガスバルブ14(バルブ)を備えている。本実施形態では、パージガス導入ポート12、13、及び、パージガスバルブ14が、いずれもガス導入手段を構成するものとなっている。
【0011】
さらに、真空ポンプ10は、ポンプ内のガスの排出に用いられる排気ポート15、及び、ターボ分子ポンプ100の下流側に配置された排気バルブ16(圧力制御手段)等を備えている。そして、本実施形態では、排気ポート15、及び、排気バルブ16が、いずれもガス排気手段を構成するものとなっている。ここで、
図1においては、パージガスバルブ14に記号「V1」を付し、排気バルブ16に記号「V2」を付して、両バルブ14、16を区別している。
【0012】
ここで、「真空ポンプ」の用語は、発明の捉え方によっては、パージガスバルブ14や排気バルブ16から、ターボ分子ポンプ100(ポンプ装置)までの範囲(ヒータ11を含む)の意味のものとすることができる。また、他の捉え方では、「真空ポンプ」の用語は、ターボ分子ポンプ100のような真空ポンプ装置や、上位概念としてターボ分子ポンプ以外の種々の真空ポンプ装置を含む意味のものとすることができる。さらに、パージガスバルブ14や排気バルブ16は、ターボ分子ポンプ100に対して、着脱可能にボルト止めされたものであってもよく、或いは、容易には分離できないよう溶接等により固定されたものであってもよい。
【0013】
図1に示すターボ分子ポンプ100は、例えば、半導体製造装置等のような対象機器の真空チャンバ(図示略)に接続されるようになっている。また、詳細は後述するが、ヒータ11は、ターボ分子ポンプ100を外側から加熱し、パージガス導入ポート12、13は、パージガス(保護ガスや清浄ガスなどともいう)をターボ分子ポンプ100の内部に導入する。
【0014】
さらに、同じく詳細は後述するが、排気バルブ16は、
図5に示す制御回路部22のコントローラ23(バルブ制御手段)により制御されてターボ分子ポンプ100の内部を流れるガスの流量を調整する。以下に、これらの機器の構成や、これらの機器を用いたクリーニング動作について説明する。
【0015】
前述したターボ分子ポンプ100の縦断面図を
図1に示す。
図1において、ターボ分子ポンプ100は、円筒状の外筒127の上端に吸気口101が形成されている。そして、外筒127の内方には、ガスを吸引排気するためのタービンブレードである複数の回転翼102(102a、102b、102c・・・)を周部に放射状かつ多段に形成した回転体103が備えられている。この回転体103の中心にはロータ軸113が取り付けられており、このロータ軸113は、例えば5軸制御の磁気軸受により空中に浮上支持かつ位置制御されている。回転体103は、一般的に、アルミニウム又はアルミニウム合金などの金属によって構成されている。
【0016】
上側径方向電磁石104は、4個の電磁石がX軸とY軸とに対をなして配置されている。この上側径方向電磁石104に近接して、かつ上側径方向電磁石104のそれぞれに対応して4個の上側径方向センサ107が備えられている。上側径方向センサ107は、例えば伝導巻線を有するインダクタンスセンサや渦電流センサなどが用いられ、ロータ軸113の位置に応じて変化するこの伝導巻線のインダクタンスの変化に基づいてロータ軸113の位置を検出する。この上側径方向センサ107はロータ軸113、すなわちそれに固定された回転体103の径方向変位を検出し、制御装置200に送るように構成されている。
【0017】
この制御装置200においては、例えばPID調節機能を有する補償回路が、上側径方向センサ107によって検出された位置信号に基づいて、上側径方向電磁石104の励磁制御指令信号を生成し、
図2に示すアンプ回路150(後述する)が、この励磁制御指令信号に基づいて、上側径方向電磁石104を励磁制御することで、ロータ軸113の上側の径方向位置が調整される。
【0018】
そして、このロータ軸113は、高透磁率材(鉄、ステンレスなど)などにより形成され、上側径方向電磁石104の磁力により吸引されるようになっている。かかる調整は、X軸方向とY軸方向とにそれぞれ独立して行われる。また、下側径方向電磁石105及び下側径方向センサ108が、上側径方向電磁石104及び上側径方向センサ107と同様に配置され、ロータ軸113の下側の径方向位置を上側の径方向位置と同様に調整している。
【0019】
さらに、軸方向電磁石106A、106Bが、ロータ軸113の下部に備えた円板状の金属ディスク111を上下に挟んで配置されている。金属ディスク111は、鉄などの高透磁率材で構成されている。ロータ軸113の軸方向変位を検出するために軸方向センサ109が備えられ、その軸方向位置信号が制御装置200に送られるように構成されている。
【0020】
そして、制御装置200において、例えばPID調節機能を有する補償回路が、軸方向センサ109によって検出された軸方向位置信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bのそれぞれの励磁制御指令信号を生成し、アンプ回路150が、これらの励磁制御指令信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bをそれぞれ励磁制御することで、軸方向電磁石106Aが磁力により金属ディスク111を上方に吸引し、軸方向電磁石106Bが金属ディスク111を下方に吸引し、ロータ軸113の軸方向位置が調整される。
【0021】
このように、制御装置200は、この軸方向電磁石106A、106Bが金属ディスク111に及ぼす磁力を適当に調節し、ロータ軸113を軸方向に磁気浮上させ、空間に非接触で保持するようになっている。なお、これら上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150については、後述する。
【0022】
一方、モータ121は、ロータ軸113を取り囲むように周状に配置された複数の磁極を備えている。各磁極は、ロータ軸113との間に作用する電磁力を介してロータ軸113を回転駆動するように、制御装置200によって制御されている。また、モータ121には図示しない例えばホール素子、レゾルバ、エンコーダなどの回転速度センサが組み込まれており、この回転速度センサの検出信号によりロータ軸113の回転速度が検出されるようになっている。
【0023】
さらに、例えば下側径方向センサ108近傍に、図示しない位相センサが取り付けてあり、ロータ軸113の回転の位相を検出するようになっている。制御装置200では、この位相センサと回転速度センサの検出信号を共に用いて磁極の位置を検出するようになっている。
【0024】
回転翼102(102a、102b、102c・・・)とわずかの空隙を隔てて複数枚の固定翼123(123a、123b、123c・・・)が配設されている。回転翼102(102a、102b、102c・・・)は、それぞれ排気ガスの分子を衝突により下方向に移送するため、ロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成されている。固定翼123(123a、123b、123c・・・)は、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。
【0025】
また、固定翼123も、同様にロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成され、かつ外筒127の内方に向けて回転翼102の段と互い違いに配設されている。そして、固定翼123の外周端は、複数の段積みされた固定翼スペーサ125(125a、125b、125c・・・)の間に嵌挿された状態で支持されている。
【0026】
固定翼スペーサ125はリング状の部材であり、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。固定翼スペーサ125の外周には、わずかの空隙を隔てて外筒127が固定されている。外筒127の底部にはベース部129が配設されている。ベース部129には排気口133が形成され、外部に連通されている。チャンバ(真空チャンバ)側から吸気口101に入ってベース部129に移送されてきた排気ガスは、排気口133へと送られる。
【0027】
さらに、ターボ分子ポンプ100の用途によって、固定翼スペーサ125の下部とベース部129の間には、ネジ付スペーサ131が配設される。ネジ付スペーサ131は、アルミニウム、銅、ステンレス、鉄、又はこれらの金属を成分とする合金などの金属によって構成された円筒状の部材であり、その内周面に螺旋状のネジ溝131aが複数条刻設されている。ネジ溝131aの螺旋の方向は、回転体103の回転方向に排気ガスの分子が移動したときに、この分子が排気口133の方へ移送される方向である。回転体103の回転翼102(102a、102b、102c・・・)に続く最下部には円筒部102dが垂下されている。この円筒部102dの外周面は、円筒状で、かつネジ付スペーサ131の内周面に向かって張り出されており、このネジ付スペーサ131の内周面と所定の隙間を隔てて近接されている。回転翼102および固定翼123によってネジ溝131aに移送されてきた排気ガスは、ネジ溝131aに案内されつつベース部129へと送られる。
【0028】
ベース部129は、ターボ分子ポンプ100の基底部を構成する円盤状の部材であり、一般には鉄、アルミニウム、ステンレスなどの金属によって構成されている。ベース部129はターボ分子ポンプ100を物理的に保持すると共に、熱の伝導路の機能も兼ね備えているので、鉄、アルミニウムや銅などの剛性があり、熱伝導率も高い金属が使用されるのが望ましい。
【0029】
かかる構成において、回転翼102がロータ軸113と共にモータ121により回転駆動されると、回転翼102と固定翼123の作用により、吸気口101を通じてチャンバから排気ガスが吸気される。回転翼102の回転速度は通常20000rpm~90000rpmであり、回転翼102の先端での周速度は200m/s~400m/sに達する。吸気口101から吸気された排気ガスは、回転翼102と固定翼123の間を通り、ベース部129へ移送される。このとき、排気ガスが回転翼102に接触する際に生ずる摩擦熱や、モータ121で発生した熱の伝導などにより、回転翼102の温度は上昇するが、この熱は、輻射又は排気ガスの気体分子などによる伝導により固定翼123側に伝達される。
【0030】
固定翼スペーサ125は、外周部で互いに接合しており、固定翼123が回転翼102から受け取った熱や排気ガスが固定翼123に接触する際に生ずる摩擦熱などを外部へと伝達する。
【0031】
なお、上記では、ネジ付スペーサ131は回転体103の円筒部102dの外周に配設し、ネジ付スペーサ131の内周面にネジ溝131aが刻設されているとして説明した。しかしながら、これとは逆に円筒部102dの外周面にネジ溝が刻設され、その周囲に円筒状の内周面を有するスペーサが配置される場合もある。
【0032】
また、ターボ分子ポンプ100の用途によっては、吸気口101から吸引されたガスが上側径方向電磁石104、上側径方向センサ107、モータ121、下側径方向電磁石105、下側径方向センサ108、軸方向電磁石106A、106B、軸方向センサ109などで構成される電装部に侵入することのないよう、電装部は周囲をステータコラム122で覆われ、このステータコラム122内はパージガスにて所定圧に保たれるようになっている。
【0033】
この場合には、外筒127やベース部129には配管(パージガス導入ポート12、13)が配設され、これらの配管を通じてパージガスが導入される。導入されたパージガスは、保護ベアリング120とロータ軸113間、モータ121のロータとステータ間、ステータコラム122と回転翼102の内周側円筒部の間の隙間を通じて排気口133へ送出される。
【0034】
ここに、ターボ分子ポンプ100は、機種の特定と、個々に調整された固有のパラメータ(例えば、機種に対応する諸特性)に基づいた制御を要する。この制御パラメータを格納するために、上記ターボ分子ポンプ100は、その本体内に電子回路部141を備えている。電子回路部141は、EEP-ROM等の半導体メモリ及びそのアクセスのための半導体素子等の電子部品、それらの実装用の基板143等から構成される。この電子回路部141は、ターボ分子ポンプ100の下部を構成するベース部129の例えば中央付近の図示しない回転速度センサの下部に収容され、気密性の底蓋145によって閉じられている。
【0035】
ところで、半導体の製造工程では、チャンバに導入されるプロセスガスの中には、その圧力が所定値よりも高くなり、或いは、その温度が所定値よりも低くなると、固体となる性質を有するものがある。ターボ分子ポンプ100内部では、排気ガスの圧力は、吸気口101で最も低く排気口133で最も高い。プロセスガスが吸気口101から排気口133へ移送される途中で、その圧力が所定値よりも高くなったり、その温度が所定値よりも低くなったりすると、プロセスガスは、固体状となり、ターボ分子ポンプ100内部に付着して堆積する。
【0036】
例えば、Alエッチング装置にプロセスガスとしてSiCl4が使用された場合、低真空(760[Torr]~10-2[Torr])かつ、低温(約20[℃])のとき、固体生成物(例えばAlCl3)が析出し、ターボ分子ポンプ100内部に付着堆積することが蒸気圧曲線からわかる。これにより、ターボ分子ポンプ100内部にプロセスガスの析出物が堆積すると、この堆積物がポンプ流路を狭め、ターボ分子ポンプ100の性能を低下させる原因となる。そして、前述した生成物は、排気口133付近やネジ付スペーサ131付近の圧力が高い部分で凝固、付着し易い状況にあった。
【0037】
そのため、この問題を解決するために、従来はベース部129等の外周にヒータや環状の水冷管149を巻着させ、かつ例えばベース部129に温度センサ(例えばサーミスタ、後述する)を埋め込み、この温度センサの信号に基づいてベース部129の温度を一定の高い温度(設定温度)に保つようにヒータの加熱や水冷管149による冷却の制御(以下TMSという。TMS;Temperature Management System)が行われている。本実施形態では、ヒータとして前述したヒータ11を用い、通常動作モード時の温度制御として、このTMSが行われる。
【0038】
次に、このように構成されるターボ分子ポンプ100に関して、その上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150について説明する。このアンプ回路150の回路図を
図2に示す。
【0039】
図2において、上側径方向電磁石104等を構成する電磁石巻線151は、その一端がトランジスタ161を介して電源171の正極171aに接続されており、また、その他端が電流検出回路181及びトランジスタ162を介して電源171の負極171bに接続されている。そして、トランジスタ161、162は、いわゆるパワーMOSFETとなっており、そのソース-ドレイン間にダイオードが接続された構造を有している。
【0040】
このとき、トランジスタ161は、そのダイオードのカソード端子161aが正極171aに接続されるとともに、アノード端子161bが電磁石巻線151の一端と接続されるようになっている。また、トランジスタ162は、そのダイオードのカソード端子162aが電流検出回路181に接続されるとともに、アノード端子162bが負極171bと接続されるようになっている。
【0041】
一方、電流回生用のダイオード165は、そのカソード端子165aが電磁石巻線151の一端に接続されるとともに、そのアノード端子165bが負極171bに接続されるようになっている。また、これと同様に、電流回生用のダイオード166は、そのカソード端子166aが正極171aに接続されるとともに、そのアノード端子166bが電流検出回路181を介して電磁石巻線151の他端に接続されるようになっている。そして、電流検出回路181は、例えばホールセンサ式電流センサや電気抵抗素子で構成されている。
【0042】
以上のように構成されるアンプ回路150は、一つの電磁石に対応されるものである。そのため、磁気軸受が5軸制御で、電磁石104、105、106A、106Bが合計10個ある場合には、電磁石のそれぞれについて同様のアンプ回路150が構成され、電源171に対して10個のアンプ回路150が並列に接続されるようになっている。
【0043】
さらに、アンプ制御回路191は、例えば、制御装置200の図示しないディジタル・シグナル・プロセッサ部(以下、DSP部という)によって構成され、このアンプ制御回路191は、トランジスタ161、162のon/offを切り替えるようになっている。
【0044】
アンプ制御回路191は、電流検出回路181が検出した電流値(この電流値を反映した信号を電流検出信号191cという)と所定の電流指令値とを比較するようになっている。そして、この比較結果に基づき、PWM制御による1周期である制御サイクルTs内に発生させるパルス幅の大きさ(パルス幅時間Tp1、Tp2)を決めるようになっている。その結果、このパルス幅を有するゲート駆動信号191a、191bを、アンプ制御回路191からトランジスタ161、162のゲート端子に出力するようになっている。
【0045】
なお、回転体103の回転速度の加速運転中に共振点を通過する際や定速運転中に外乱が発生した際等に、高速かつ強い力での回転体103の位置制御をする必要がある。そのため、電磁石巻線151に流れる電流の急激な増加(あるいは減少)ができるように、電源171としては、例えば50V程度の高電圧が使用されるようになっている。また、電源171の正極171aと負極171bとの間には、電源171の安定化のために、通常コンデンサが接続されている(図示略)。
【0046】
かかる構成において、トランジスタ161、162の両方をonにすると、電磁石巻線151に流れる電流(以下、電磁石電流iLという)が増加し、両方をoffにすると、電磁石電流iLが減少する。
【0047】
また、トランジスタ161、162の一方をonにし他方をoffにすると、いわゆるフライホイール電流が保持される。そして、このようにアンプ回路150にフライホイール電流を流すことで、アンプ回路150におけるヒステリシス損を減少させ、回路全体としての消費電力を低く抑えることができる。また、このようにトランジスタ161、162を制御することにより、ターボ分子ポンプ100に生じる高調波等の高周波ノイズを低減することができる。さらに、このフライホイール電流を電流検出回路181で測定することで電磁石巻線151を流れる電磁石電流iLが検出可能となる。
【0048】
すなわち、検出した電流値が電流指令値より小さい場合には、
図3に示すように制御サイクルTs(例えば100μs)中で1回だけ、パルス幅時間Tp1に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をonにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、正極171aから負極171bへ、トランジスタ161、162を介して流し得る電流値iLmax(図示せず)に向かって増加する。
【0049】
一方、検出した電流値が電流指令値より大きい場合には、
図4に示すように制御サイクルTs中で1回だけパルス幅時間Tp2に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をoffにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、負極171bから正極171aへ、ダイオード165、166を介して回生し得る電流値iLmin(図示せず)に向かって減少する。
【0050】
そして、いずれの場合にも、パルス幅時間Tp1、Tp2の経過後は、トランジスタ161、162のどちらか1個をonにする。そのため、この期間中は、アンプ回路150にフライホイール電流が保持される。
【0051】
このような基本構成を有するターボ分子ポンプ100は、
図1中の上側(吸気口101の側)が対象機器の側に繋がる吸気部となっており、下側(排気口133が図中の左側に突出するようベース部129に設けられた側)側が、図示を省略する補助ポンプ(ドライポンプによる粗引きを行うバックポンプ)等に繋がる排気部となっている。そして、ターボ分子ポンプ100は、
図1に示すような鉛直方向の垂直姿勢のほか、倒立姿勢や水平姿勢、傾斜姿勢でも用いることが可能となっている。
【0052】
また、ターボ分子ポンプ100においては、前述の外筒127とベース部129とが組み合わさって1つのケース(以下では両方を合わせて「本体ケーシング」などと称する場合がある)を構成している。また、ターボ分子ポンプ100は、箱状の電装ケース(図示略)と電気的(及び構造的)に接続されており、電装ケースには前述の制御装置200が組み込まれている。
【0053】
ターボ分子ポンプ100の本体ケーシング(外筒127とベース部129の組み合わせ)の内部の構成は、モータ121によりロータ軸113等を回転させる回転機構部と、回転機構部より回転駆動される排気機構部に分けることができる。また、排気機構部は、回転翼102や固定翼123等により構成されるターボ分子ポンプ機構部と、円筒部102dやネジ付スペーサ131等により構成される溝排気機構部に分けて考えることができる。
【0054】
また、前述のパージガスは、軸受部分や回転翼102等の保護のために使用され、排気ガス(プロセスガス)に因る腐食の防止や、回転翼102の冷却等を行う。このパージガスの供給は、一般的な手法により行うことが可能である。
【0055】
パージガスの供給に係る一般的な手法としては、例えば、パージガス導入ポート12、13に繋がる管路に、パージガスボンベ(窒素(N
2)ガスボンベなど)や、パージガスバルブ14などを介してパージガスを供給するものを例示できる。
図1に示す真空ポンプ10では、このような手法を採用している。
【0056】
軸受部分等を流れたパージガスは、排気口133を通って、本体ケーシング(外筒127とベース部129の組み合わせ)の中におけるその他のガスとともに、外へ排出される。本体ケーシングの中に、パージガス以外のガスが存在する場合は、パージガスは、その他のガスとともに、排気口133を通って外に排出される。
【0057】
前述の保護ベアリング120は、「タッチダウン(T/D)軸受」、「バックアップ軸受」などとも呼ばれる。これらの保護ベアリング120により、例えば万が一電気系統のトラブルや大気突入等のトラブルが生じた場合であっても、ロータ軸113の位置や姿勢を大きく変化させず、回転翼102やその周辺部が損傷しないようになっている。
【0058】
なお、ターボ分子ポンプ100の構造を示す各図(
図1)では、部品の断面を示すハッチングの記載は、図面が煩雑になるのを避けるため省略している。
【0059】
次に、前述したヒータ11や排気バルブ16等の各機器や、各機器の制御について説明する。本実施形態においては、ヒータ11として、面状タイプのもの(面状ヒータ)が採用されている。ヒータ11は、ターボ分子ポンプ100における外筒127の外周に配置されており、外筒127に面接触している。ヒータ11の数は1であっても、複数であってもよい。
【0060】
ヒータ11は、前述のネジ付スペーサ131等により構成された溝排気機構部や、回転翼102や固定翼123等により構成されたターボ分子ポンプ機構部に跨る程度の外形寸法を有している。そして、ヒータ11は、外筒127を挟んで、ネジ付スペーサ131の大部分に面する部位に配置されている。
【0061】
ヒータ11は、通電制御により発熱量を変化させる。そして、ヒータ11は、発生した熱を、外筒127を介して、ネジ付スペーサ131やその他に部品に伝達し、ターボ分子ポンプ100内の部品の温度を上昇させる。ヒータ11の制御は、本実施形態においては、
図5に概略的に示す制御回路部22のコントローラ23により行われる。
【0062】
制御回路部22は、前述した制御装置200に組み込まれ、制御装置200の一部を構成するものとなっている。また、パージガスバルブ14や排気バルブ16も、制御回路部22のコントローラ23により制御される。つまり、制御回路部22や、制御回路部22のコントローラ23は、制御装置200に組み込まれ、ヒータ制御手段、パージガスバルブ制御手段、及び、排気バルブ制御手段としても機能する。
【0063】
ここで、パージガスバルブ制御手段と排気バルブ制御手段とを包含的に「バルブ制御手段」とすることも可能である。また、コントローラ23、制御回路部22、及び、制御装置200を保活的に、或いは、個別に、「パージガスバルブ制御手段」、「排気バルブ制御手段」、及び、「バルブ制御手段」とすることも可能である。
【0064】
制御回路部22には、ROMやRAMなどにより構成される記憶部24が備えられている。この記憶部24は、一部又は全部が、コントローラ23に内蔵されていてもよい。
【0065】
コントローラ23は、CPU(中央処理装置)を有しており、記憶部24に記憶された制御プログラムに従い、同じく記憶部24に記憶された各種の制御データを参照して、制御対象となる各機器の制御を行えるようになっている。また、コントローラ23には、温度センサ21や圧力センサ25、及び、回転数センサ27等からの信号が入力される。
【0066】
そして、コントローラ23は、各種のセンサからの信号を監視しながら、ヒータ11の温度制御、パージガスバルブ14の制御(ここではon/off制御)、及び、排気バルブ16の制御(ここでは開度制御)などを行う。また、さらに、コントローラ23は、前述したモータ121や磁気軸受(符号省略)等の各種機器の制御も行う。
【0067】
より具体的には、コントローラ23は、ヒータ11を所定の温度まで温度上昇させ、加熱温度を保つ制御を行う。また、コントローラ23は、排気バルブ16を制御して、ターボ分子ポンプ100の内部におけるガスの圧力を上昇或いは下降させる。また、コントローラ23は、必要に応じてパージガスバルブ14を作動させ、パージガス導入ポート12、13におけるパージガスの導入に係る制御を行う。
【0068】
ここで、本実施形態においては、パージガスバルブ14は、コントローラ23によりon/off制御されるものとなっている。しかし、これに限定されず、例えば、パージガスバルブ14を、コントローラ23により開度制御されるものとし、ターボ分子ポンプ100に供給されるパージガスの流量を、パージガスバルブ14の開度に応じて変化させるようにしてもよい。
【0069】
また、コントローラ23には、動作モード切替えスイッチ(動作モード切替えスイッチともいう)66の操作信号が入力される。この動作モード切替えスイッチ26は、通常動作モード(通常運転モード)とクリーニング動作モード(クリーニングモード)との切替えの際に、作業者により操作される。動作モード切替えスイッチ26としては、一般的な種々のタイプのスイッチ機器を採用することが可能である。
【0070】
上述の通常動作モードは、詳細は後述するが、ターボ分子ポンプ100が接続された対象機器(ここでは半導体製造装置)を所定の真空度に保ったり、対象機器のガス(ここでは半導体製造装置のプロセスガス)を移送したりするための通常動作を行う動作モード(動作状態)である。これに対して、クリーニング動作モードは、通常動作モードでの運転中にターボ分子ポンプ100内に析出した副反応生成物(堆積物)を除去するクリーニング作業を行う非通常の動作モードである。
【0071】
これらの動作モードに関して、前述の記憶部24には、動作モードに応じた温度情報や回転数情報が記憶されている。通常動作モードに関しては、第1温度情報と第1回転数情報が記憶部24に記憶されている。これらのうち第1温度情報は、ガスの流路の温度環境を適正なものとするために予め決められた温度である第1温度を示す情報である。また、第1回転数情報は、ガスの移送に適するよう予め決められた回転数である第1回転数を示す情報である。
【0072】
クリーニング動作モードに関しては、第2温度情報と第2回転数情報が記憶部24に記憶されている。これらのうち第2温度情報は、堆積物を昇華させて再気化するのに適した温度である第2温度を示す情報である。この第2温度情報が示す第2温度は、通常動作モードに係る第1温度よりも高い値となっている。また、第2回転数情報は、通常動作モードに係る第1回転数よりも低い回転数である第2回転数を示す情報である。
【0073】
続いて、通常動作モードとクリーニング動作モードにおけるターボ分子ポンプ100の動作について、より詳しく説明する。先ず、通常動作モードにおいて、ターボ分子ポンプ100は、コントローラ23からの指令信号である回転動作開始信号を受けて、モータ121を回転させる。モータ121の回転に伴い、回転翼102が回転し、ガスの排気及び圧縮が開始される。
【0074】
回転翼102の回転数が、前述した第1回転数に達すると、回転翼102の回転数の調節が完了する。回転数の調節を完了させるにあたっては、回転翼102の回転数が、本体ケーシング(外筒127とベース部129の組み合わせ)内の所定の部位に配置された回転数センサ(
図5の符号27)により検出される。さらに、回転数センサ27の検出結果がコントローラ23に入力され、コントローラ23が、回転翼102の回転数が第1回転数に達したことを判定して、回転数が一定に保たれるようモータ121を制御する。
【0075】
このような回転数制御と並行して、加熱温度調節が行われる。この加熱温度調節にあたっては、ヒータ11が通電されて温度上昇し、ヒータ11周辺の部位が徐々に加熱される。そして、温度センサ21により検出される温度が前述の第1温度に達すると、コントローラ23が温度の調整が完了したと判定し、温度が一定に保たれるようヒータ11を制御する。
【0076】
コントローラ23は、回転数及び温度の両方がそれぞれの目的の値(第1回転数及び第1温度)に達したことを判定すると、ターボ分子ポンプ100が通常動作(定常動作)の状態に移行した旨の通知を、表示部28を介して行う。そして、このような通常動作モードでは、ヒータ11によって、ガスの流路の温度が一定な程度に高められて維持され、第1温度によって可能となる範囲内で、堆積物の析出が予防される。
【0077】
また、第1温度は、加熱される各種の構成部品(内部構成部品)が、過度な熱膨張や変形などを生じないように定められた温度であり、定常動作においてポンプが不具合なく使用できる許容温度である。さらに、第1温度は、各種の内部構成部品の材質や強度、及び、上流に存在する対象機器の真空チャンバなどからターボ分子ポンプ100へ流れ込むガスの流量、等を考慮して決定されている。
【0078】
そして、前述したように、外筒127、ベース部129、固定翼123、ネジ付スペーサ131、回転体103、及び、ベース部129等の主だった内部構成部品の材質として、アルミニウム合金を採用し、更に、経験上比較的よくある所定のガス流量を前提とした場合には、定常動作時温度である第1温度を例えば100℃とすることが考えられる。
【0079】
ただし、このような第1温度は、あくまでもポンプが不具合なく使用できる許容温度に過ぎないため、堆積物が析出してしまうこともあり得る。例えば堆積物がフッ化アンモニウムの場合、昇華温度が150℃のため、100℃で保持していても堆積物が析出する。このため、本実施形態では、析出した堆積物に対しては、以下に説明するようにクリーニング動作モードでのガス化(再ガス化)を行い、堆積物を除去できるようにしている。
【0080】
クリーニング動作モードにおいては、堆積物の除去のため、ヒータ11が、その周辺部の温度を、通常動作モードに係る第1温度よりも高い第2温度に高めるよう制御される。第2温度は、通常動作モード中に発生した堆積物を、再びガス化することが可能な温度である。本実施形態では、クリーニング動作時温度である第2温度は200℃とされている。このようなガス化(再ガス化)による再生成を行うことで、通常動作モードでの運転中に発生した堆積物の除去が可能となる。ここで、析出した副反応性生成物の再ガス化により生じたガスや、対象機器(ここでは半導体製造装置)からのガス(ここではプロセスガス)等を包括的に「被処理ガス」などと称することが可能である。
【0081】
また、クリーニング動作モードにおいては、モータ121が、第2回転数で回転するよう制御される。この第2回転数は、第1回転数の50%程度の回転数となっている。このように第1回転数よりも十分に低い第2回転数でモータ121を駆動することで、第1回転数でモータ121を駆動した時と比べ、ガスの排出時に発生する圧縮熱や摩擦熱を低減できる。また、回転翼102にかかる遠心力などの負荷も低減できるので、通常動作モードの場合より、許容温度を引き上げることが出来る。一方、回転翼102の分子搬送力により、再生成されたガスは、ヒータ11で加熱されないために温度が低い固定翼123に向かって逆流することなく、排気口133から本体ケーシング(外筒127とベース部129の組み合わせ)の外部へ排出される。そして、回転翼102を回転させ始めてから一定時間で、再ガス化された堆積物の排出が完了する。ここでいう「一定時間」は、堆積物の組成などの条件により決まる。
【0082】
このように、回転翼102が、クリーニング動作モードでも用いられ、通常動作モードよりも低い速度で回転しながら、ガスを移送し、ガス化した堆積物(堆積物の昇華により発生したガス)を、効率良く円滑に排除することで、ガス化した堆積物の滞留による圧力上昇を防止できる。このため、第2温度でのガス化と、第2回転数でのガスの排気とを併せて行うことにより、第2温度でのガス化のみを行った場合に比べて、堆積物のガス化が促進される。なお、堆積物のガス化については、固相(固体)、液相(液体)、及び、気相(気体)の関係を示した状態図における昇華曲線f(
図6)によって表すことができる。そして、昇華曲線fの気相領域(気体側)では堆積物をガス化できるが、ガス化に必要な熱量を供給するため、昇華温度より高い温度に設定するのが望ましい。
【0083】
また、通常動作モードからクリーニング動作モードへの移行は、例えば、通常動作モード時に前述の動作モード切替えスイッチ26を作業者が操作し、コントローラ23がモード切替えの制御を行って、実行することが可能である。
【0084】
さらに、この逆に、クリーニング動作モードから通常動作モードへの移行についても、例えば、クリーニング動作モード時に前述の動作モード切替えスイッチ26を作業者が操作し、コントローラ23がモード切替えの制御を行って、実行することが可能である。
【0085】
ここで、再生成されたガスの排気に要する前述の「一定時間」内には、動作モード切替えスイッチ26を有効とせず、通常動作モードへの移行の操作を受け付けないことが望ましい。そして、コントローラ23が、前述の「一定時間」が経過したか否かを判定し、経過していれば、動作モード切替えスイッチ26の操作を受け付けるようにすることが考えられる。また、前述の「一定時間」が経過すれば、動作モード切替えスイッチ26の操作がなくても自動的に通常動作モードに移行する、といった制御を行うことも可能である。
【0086】
さらに、クリーニング中における回転翼102の回転による排気の他に、ターボ分子ポンプ100とは別に設けられた排気ポンプによって、再生成されたガスの排気を行うことが考えられる。このように他の排気ポンプを利用するクリーニング中の排気を、例えば「排気アシスト」と称することが可能である。
【0087】
この排気アシストを行うにあたっては、ターボ分子ポンプ100の下流側に設置される補助ポンプとしてのバックポンプ(図示略)を利用することが可能である。つまり、一般に、ターボ分子ポンプ100が組み込まれる排気系においては、ターボ分子ポンプ100よりも下流側にバックポンプ(図示略)が設けられることがある。そして、このバックポンプにより、ターボ分子ポンプ100による排気の前段(前段階)において、ターボ分子ポンプ100よりも低真空度での排気が行われる。このため、バックポンプを利用してクリーニング動作モード中の排気を行うことが考えられる。
【0088】
さらに、上述のようなバックポンプを排気アシストに使用する場合には、クリーニング動作モードにおいてバックポンプを作動させ、所定の程度の真空度が得られた状況で、ターボ分子ポンプ100のモータ121を回転(回転開始)させて、第2回転数での排気動作を行うようにすることが可能である。このようなバックポンプによる排気アシストを行うことで、再生成されたガスを更に効率よく排気できるようになる。
【0089】
次に、前述したクリーニング動作モードにおける圧力制御(クリーニング動作時圧力制御)について説明する。本実施形態においては、クリーニング動作モードでの運転期間が、伝熱工程のための期間と昇華工程のための期間に分けられている。このうち、伝熱工程のための期間は、堆積物への伝熱を促進する期間である。また、昇華工程のための期間は、堆積物の昇華を促進する期間である。
【0090】
伝熱工程のための期間中には、
図7に示すように、圧力(ターボ分子ポンプ100の中の圧力)が相対的に高い第1の設定圧力P1とされ、昇華工程のための期間中には、圧力が相対的に低い第2の設定圧力P2とされる。そして、クリーニング動作モード時には、伝熱工程と昇華工程とが交互に繰り返されて、ターボ分子ポンプ100の内部のクリーニングが行われる。このようにしているのは、以下の考え方に基づくものである。
【0091】
前述したように、クリーニング動作モードにおいては、ターボ分子ポンプ100が通常動作モードで運転されていない状況で(待機時間中に)、排気ガスの流路を構成する部品を加熱し、通常動作モード時に発生した堆積物をガス化して除去することが行われている。このようなクリーニング動作を行うことにより、真空ポンプの待機時間に堆積物が除去できることとなる。
【0092】
このため、ターボ分子ポンプ100が通常の排気(通常動作における排気)を行う場合に、ガス流路を常に高温に保つ必要はなく、各部品への負担が少なくなる。そして、この結果として、ターボ分子ポンプ100における許容流量を拡大できるという利点がある。
【0093】
ところで、クリーニング動作は、堆積物の昇華に必要な熱エネルギを、高温に加熱された部品の表面から堆積物に対して供給するものとなっている。そして、発明者等が、堆積物の状態とクリーニング効果との関係に着目したところ、堆積物の状態によっては、クリーニング性能が十分に発揮されず、所望のクリーニング効果が得られない場合があった。
【0094】
具体的には、例えば、堆積物が部品の壁面に薄膜状に付着している場合には、基本的なクリーニング動作を実行するのみでも、クリーニング機能は有効に機能する。また、堆積物が部品の壁面から剥離し、薄片状(薄片状堆積物)や粉状(粉状の堆積物)になって流路上に落下したような場合でも、互いに隙間なく積み重なっている場合には、熱伝導はさほど影響を受けず、クリーニング機能は十分に発揮される。
【0095】
しかし、堆積物が部品の壁面に対して浮きを生じている場合、或いは、薄片状堆積物や粉状堆積物が、互いの間に空間を生じながら積み重なっているような場合には、堆積物に対し、効果的に熱エネルギ(熱量)を供給できない場合がある。そして、このような場合には、部品を加熱しても、堆積物の表面温度はさほど上がらず、充分な昇華速度(「洗浄速度」や「クリーニング速度」などともいう)が得られなくなる。
【0096】
また、出願人は前掲の特許出願(特願2019-165839号)において、バックポンプ利用した排気アシストを、クリーニング動作モードにおいても行うことを提案した。そして、このようなクリーニング動作モード時の排気アシストにより、ターボ分子ポンプ100内の圧力を、容易に低下させることが可能となった。この結果、再生成されたガスを更に効率よく排気できるようになり、堆積物を昇華させ易くなった。
【0097】
しかし、クリーニング動作モード時の排気アシストにより、ターボ分子ポンプ100内の圧力が、或る程度(例えば0.1[Torr]程度)まで下がると、クリーニングの効果がさほど得られなくなった。このような現象は、部品の壁面で浮きを生じている堆積物、薄片状堆積物、及び、粉状堆積物が影響していると考えられる。そして、これらの堆積物を考慮した場合における圧力の低下とクリーニング性能との関係については、更に以下のように説明できる。
【0098】
一般に、ガスの運動状態に係る圧力と熱伝導率との関係は、概略的には
図8のように表される。
図8の横軸は圧力を示しており、縦軸は熱伝導率を示している。
図8に示すように、ガスの運動状態が分子流の領域(分子流領域)にある状況で圧力が上昇すると、熱伝導率は徐々に上昇する。
【0099】
さらに、圧力が上昇して、運動状態が中間流の領域(中間流領域)に遷移すると、熱伝導率の変化は緩くなり、粘性流の領域(粘性流領域)では、熱伝導率に変化はみられなくなる。そして、分子流領域では、圧力が低い程、熱伝導率(伝熱量)が減少する。
【0100】
つまり、堆積物に効率よく伝熱させるには、ガスの運動状態を、中間流領域から粘性流領域に推移する辺りの領域(中間・粘性流領域)とするのが良い。そして、ガスの流路の少なくとも1部の圧力を、ガスの運動状態が中間流から粘性流となる辺りの圧力とすることで、その部分の堆積物に熱エネルギを供給し易くなるといえる。
【0101】
さらに、堆積物の昇華は、堆積物の表面から起こる。このため、堆積物の表面に多くの熱量を伝え、堆積物の表面温度を上げなければ、十分な昇華速度は得られない。
【0102】
また、
図9は、薄片状堆積物である剥離片が空間を生じながら積み重なっている状態を模式化して示している。
図9中の符号71は剥離片を示しており、符号72は隔離片が落下した部品の壁面を示している。さらに、
図9中の符号73は、剥離片71と他の剥離片71との間や、剥離片71と壁面72との間の空間を示している。
【0103】
多数の剥離片71は、不規則な向きで傾き、所々互いに点接触しながら、壁面72で積み重なっている。このように、落下した剥離片71が積み重なる場合、
図9に示すように、隣り合った剥離片71同士や、剥離片71と壁面72との接触状態は、多くの場所で、面接触ではなく、点接触になっていると考えられる。
【0104】
そして、剥離片71に対して、他の剥離片71や壁面72と接触した面(接触面)から伝わる熱の量(伝熱量)は、面接触している場合に比べて小さくなるため、点接触している剥離片71への伝熱量は相対的に小さいと考えられる。
【0105】
このように剥離片71の間に空間が生じている場合について、異なる圧力条件の下で、空間73の大きさ(代表長さ)を例えば0.1mmと仮定し、伝熱量を試算すると、下記のようになる。
【0106】
先ず、流れが連続体として扱えるか否かを表す指標としてクヌーセン数(Kn)が知られている。
このクヌーセン数(Kn)は、以下の数式のように表される。
【数1】
λ:平均自由行程[m]
L:代表長さ[m]
T:温度[K]
k
B:ボルツマン定数[J/K]
P:圧力[Torr]
σ:分子直径[m]
【0107】
また、ガスの運動状態とクヌーセン数には以下のような関係がある。
分子流:クヌーセン数(λ/L)>0.3
粘性流:クヌーセン数(λ/L)<0.01
【0108】
(1) 圧力(P)が0.1[Torr]の場合
N
2ガスの平均自由工程はλ=0.5mmとなり、
クヌーセン数はλ/L=0.5mm/0.1mm=5となる。ここで、L=0.1mmは、前述した空間73の大きさである。
このクヌーセン数の場合、ガスは分子流の領域(5>0.3)に属するため、
図8のグラフより、伝熱量(熱伝導率)は相対的に小さくなる。
【0109】
(2)圧力(P)が5.0[Torr]の場合
N
2ガスの平均自由工程はλ=0.01mmとなり、
クヌーセン数はλ/L=0.01mm/0.1mm=0.1となる。
このクヌーセン数の場合、ガスは中間流の領域(0.3>0.1>0.01)に属するため、
図8のグラフより、ガスを介した伝熱が期待できる。
【0110】
このような伝熱量の試算に基づき、本実施形態においては、クリーニング動作モード時に、
図5に示したヒータ11や排気バルブ16を制御する。そして、クリーニング動作モード時に、ターボ分子ポンプ100の中の空間を使い、
図7に示すように、交互に、且つ、周期的に圧力を変化させている。
【0111】
図7に示すような圧力の調整は、パージガスをパージガス導入ポート12、13からターボ分子ポンプ100内に導入しながら、排気バルブ16を制御することにより行われている。このようにすることで、パージガス導入ポート12、13からパージガスを供給するだけでは十分な圧力上昇が得られない場合でも、より確実に昇圧させることができる。
【0112】
圧力の制御は、前述した圧力センサ25(
図6)の出力を監視しながら行うことが可能である。ただし、これに限定されるものではなく、圧力と、排気バルブ16の開度や開放時間との関係を予め求めておき、排気バルブ16の開度や時間から圧力を推定することによって圧力を制御することも可能である。
【0113】
なお、排気バルブ16により圧力を増減させなくても、パージガスバルブ14のon/off制御により、十分なクリーニングを行える場合には、伝熱工程や昇華工程の実行のための排気バルブ16の制御を省略することも可能である。
【0114】
さらに、前述したように、クリーニング動作モード時には、ヒータ11の温度が、通常動作モード時よりも高い第2温度とされる。さらに、クリーニング動作モード時には、モータ121の回転数が、通常動作モード時よりも低い第2回転数とされる。
【0115】
図7に示す伝熱工程においては、圧力が第1の設定圧力P1に高められることから、ガスの運動状態は中間流から粘性流の領域に移行することとなる。そして、ガス分子が分散し難くなり、昇華は起こりにくくなる。しかし、熱伝導率は上昇し、堆積物への伝熱は良好に行われることとなる。この伝熱工程が実行されている期間は、伝熱を重視した伝熱促進期間となる。
【0116】
この伝熱工程から昇華工程に移行し、圧力を第2の設定圧力P2に下げることにより、ガスの運動状態は、中間流から分子流の領域に移行することとなる。そして、ガス分子が拡散し易くなり、昇華が促進される。この昇華工程が実行されている期間は、昇華を重視した昇華促進期間となる。
【0117】
さらに、このような伝熱工程と昇華工程との間の切り替えが、クリーニング動作モード時に連続して実行され、伝熱と昇華のサイクルが繰り返される。このため、伝熱促進期間と昇華促進期間とが選択的に形成され、伝熱と昇華のサイクルが繰り返されることによって十分な期間が確保されることとなる。そして、堆積物に対して熱エネルギの供給が効率よく行われることとなり、クリーニングの効果が高まる。
【0118】
ここで、
図7は、圧力の変化を簡略化して示すものであり、圧力が矩形波を描くよう変化する制御態様に限らず、例えば、第1の設定圧力P1と第2の設定圧力P2の間で台形波や正弦波等を描くように徐々に変化する制御態様を採用することも可能である。また、伝熱工程と昇華工程の時間は、互いに異なっていてもよい。さらに、伝熱工程に要する時間(及び昇華工程に要する時間)は、各サイクルに関し毎回同じある必要はなく、異なっていてもよい。
【0119】
また、例えば、クリーニング動作モードの期間が予め定められているような場合には、当該期間を前後に分け、伝熱工程を前半に実行し、昇華工程を後半に実行する、といったことも可能である。ただし、相対的に短期間の伝熱工程と昇華工程を繰り返した場合には、堆積物の温度低下を抑制し易くなるため、相対的に短期間の伝熱工程と昇華工程を繰り返す制御態様を採用することが望ましい。
【0120】
また、本実施形態においては、クリーニング動作モード時に供給されるパージガスの流量は、ガス化した堆積物(堆積物の昇華により発生したガス)の分圧が、その温度での堆積物の飽和蒸気圧(「堆積物の昇華圧力」ともいう)の半分以下となるように設定されている。このようにしているのは、以下のような理由による。
【0121】
パージガスを増やすと、パージガス以外のガスの分圧が下がり、堆積物の分圧も下がる。そして、分圧が下がるほど、堆積物は昇華し易くなる。しかし、実際に堆積物が良好に昇華するかどうかは、堆積物の分圧が、堆積物の飽和蒸気圧に対してどの程度となっているかによる。
【0122】
例えば、パージガスの供給前におけるガスの全圧を1[Torr]とし、そのうち堆積物の分圧が0.1[Torr](=10%)である状況を想定する。この状況において、全圧を保ちながら、パージガスの分圧が90%となる流量でパージガスを供給したとすると、元のガスの割合は全体の10%となり、堆積物の分圧は、元の分圧の10%である0.01[Torr]に低下することとなる。
【0123】
また、実際には、堆積物の昇華の度合いは、堆積物の飽和蒸気圧により制約される。これらのことから、堆積物の飽和蒸気圧の半分を目安となる基準値として定め、堆積物の分圧がこの基準値以下に保たれるように、パージガスの供給量を定めている。ここで、ガス化した堆積物(堆積物の昇華により発生したガス)としては、四フッ化チタン(TiF4)や塩化アルミニウム(AlCl3)等を例示できる。
【0124】
また、本実施形態においては、ガス流路の少なくとも1部が2[Torr]以上となるように、ターボ分子ポンプ100の内部が昇圧される。このように、圧力の設定値を2[Torr]とするのは、本実施形態のようなターボ分子ポンプ100を組み込んだ真空ポンプ10において、想定される堆積物の大きさ等を考慮すると、ガスが分子流から中間流に遷移する圧力が約2[Torr]となることに基づいている。そして、2[Torr]を目安とし、第1の設定圧力P1を2[Torr]以上とすることで、堆積物への伝熱を効率よく行うことが可能となる。また、第1の設定圧力P1に係る上限値としては、例えば10[Torr]とすることが考えられる。
【0125】
なお、パージガスとしては、N2に加え、ヘリウム(He)や水素(H2)等のように熱伝導率の高いガスのうち、少なくとも一つを含むガスを採用することが可能である。また、パージガスとしては、これらのような複数種のガスを混合したガス(混合ガス)を採用することができる。
【0126】
以上説明したような本実施形態の真空ポンプ10によれば、クリーニング動作モード時に、ヒータ11、ガス導入手段(ここではパージガスバルブ14)、及び、圧力制御手段(ここでは排気バルブ16)のうちの少なくとも一つを制御し、ターボ分子ポンプ100の内部の少なくとも一部を、真空ポンプ内の堆積物の昇華温度以上(第2温度)、かつ、中間流または粘性流となる圧力領域(第1の設定圧力P1となる領域)に昇圧している。
【0127】
ここで、上述のように、ヒータ11、ガス導入手段(ここではパージガスバルブ14)、及び、圧力制御手段(ここでは排気バルブ16)のうちの少なくとも一つを制御して昇圧するというのは、ターボ分子ポンプ100を通常動作モードで運転した後、例えば、ヒータ11、パージガスバルブ14、排気バルブ16のうちの1つの機器を制御するのみで目的の圧力に達する場合には、その他の機器の制御を行わなくてもよいことを意味している。
【0128】
そして、このように、ヒータ11、ガス導入手段(ここではパージガスバルブ14)、及び、圧力制御手段(ここでは排気バルブ16)の制御を行うことにより、ガスを介した伝熱させることができ、部品の壁面72から堆積物(ここでは薄片状堆積物や粉状堆積物)への伝熱を促進することが可能である(伝熱工程の実行)。
【0129】
さらに、その後に、ターボ分子ポンプ100の内部の少なくとも一部を、真空ポンプ内の堆積物の昇華温度以上(第2温度)、かつ、中間流または分子流となる圧力領域(第2の設定圧力P2となる領域)に減圧していることから、伝熱された堆積物に対して昇華を行わせることができる(昇華工程の実行)。
【0130】
そして、伝熱工程に続けて昇華工程が実行されることから、常に十分に熱エネルギが供給された堆積物を昇華させることができる。したがって、堆積物のクリーニングを効果的に行うことができ、真空ポンプ10のクリーニング性能を向上することが可能となる。そして、洗浄効果が向上し、短時間で効果的に堆積物を除去することができる。
【0131】
さらに、これらのことから、ターボ分子ポンプ100等の機器のメンテナンス時間を短縮できる。そして、真空排気の対象機器を使用して製造される被製造物(半導体製造など)の生産性を向上させることが可能となる。
【0132】
また、クリーニング動作モード時に、ターボ分子ポンプ100を運転しながらガスを供給すると、ガスが流路内で断熱圧縮され、このことによってガスの温度が上昇する。そのため、部品の壁面72からの伝熱のみでなく、ガス自身の熱エネルギを堆積物に直接伝える効果も期待できるようになる。
【0133】
ここで、前述した堆積物の浮きや、薄片状堆積物、及び、粉状堆積物は、ガスの流路であればいずれの場所でも発生する可能性がある。このため、ガスの流路の少なくとも一部について、これまでに説明したようなクリーニング動作モード時の温度条件や圧力条件を満たす必要がある。
【0134】
また、薄片状堆積物や粉状堆積物が溜まり易い部品や箇所としては、種々のものを挙げることができるが、特に薄片状堆積物や粉状堆積物が溜まり易い部品や箇所としては、ネジ付スペーサ131においてネジ溝131aを区画するネジ山131bの壁面132がある。このため、ネジ付スペーサ131の近傍にヒータ11を設置することが、昇温を容易に行うためには有効である。
【0135】
さらに、堆積物が溜まりやすい場所に、非粘着コーティングを施すようにしてもよい。非粘着コーティングとしては、フッ素樹脂加工により形成した膜によるコーティング等を例示できる。
【0136】
また、本実施形態の真空ポンプ10によれば、ターボ分子ポンプ100の内部の少なくとも一部が、中間流または粘性流となる第1の設定圧力P1と、分子流となる第2の設定圧力P2と、を交互に繰り返すように制御が行われる。このため、昇華工程の後にも再度、堆積物の周囲の圧力が、ガスが中間流あるいは粘性流となる程度まで昇圧でき、先の昇華のために消費された熱エネルギを速やかに補充できる。さらに、その後も継続して、堆積物の昇華を促進することができる。したがって、クリーニング効果(洗浄効果)を継続的に発揮することが可能である。
【0137】
また、本実施形態の真空ポンプ10によれば、クリーニング動作モード時において、ターボ分子ポンプ100の回転数が通常動作モード時より低く設定される。このため、通常動作モード時と比べ、ガスの排出時に発生する圧縮熱や摩擦熱を低減できる。
【0138】
また、本実施形態の真空ポンプ10によれば、クリーニング動作モード時では、堆積物の昇華により発生したガスの分圧が、堆積物の昇華圧力(飽和蒸気圧)の半分以下となるように制御される。このため、堆積物を良好に昇華させることが可能である。
【0139】
また、本実施形態の真空ポンプ10によれば、クリーニング動作モード時では、ターボ分子ポンプ100の少なくとも一部が2[Torr]以上に昇圧される。このため、ガスが分子流から中間流に遷移する辺りの圧力で、確実且つ良好に昇華させることが可能である。
【0140】
また、本実施形態の真空ポンプ10によれば、クリーニング動作モードでは、ターボ分子ポンプ100の少なくとも一部が10[Torr]以下に昇圧される。このため、伝熱工程において十分に堆積物に伝熱を行うことが可能である。
【0141】
また、本実施形態の真空ポンプ10によれば、パージガス導入ポート12、13からターボ分子ポンプ100へ供給されるガスが、窒素ガス、ヘリウムガス、水素ガスの少なくとも一つを含む。このため、汎用性のある一般的なガスを用いて圧力制御を行うことが可能である。
【0142】
また、本実施形態の真空ポンプ10によれば、ターボ分子ポンプ100における下流側のパージガス導入ポート13のみでなく、上流側のパージガス導入ポート12も利用して、回転翼102や固定翼123等により構成されるターボ分子ポンプ機構部の上流側からもパージガスの供給を行っている。このため、ガス化した堆積物がターボ分子ポンプ機構部へ向かって逆流し、ガス化した堆積物が、ロータ軸113とステータコラム122との隙間に流れ込んだりするのを防止できる。
【0143】
なお、パージガスとしては、前述したもののほか、例えばCF4(四フッ化炭素)ガスを用いることも可能である。また、パージガスの導入を、例えば、吸気口101から行うことも可能である。
【0144】
また、本実施形態においては、ヒータ11(加熱手段)、パージガス導入ポート12、13(ガス導入手段)、及び、排気バルブ16(圧力制御手段)の各機器を、ターボ分子ポンプ100とは別な機器として説明したが、これらの機器の少なくとも一つを、ターボ分子ポンプ100に一体化されて、ターボ分子ポンプ100により備えられるもの(ターボ分子ポンプ100の一部分として一体に市場で販売や流通が行われるもの)とすることが可能である。
【0145】
また、 本実施形態の真空ポンプ10によれば、ヒータ11として面状タイプのもの(面状ヒータ)を用いているため、温度分布の均一化が可能であり、広範囲において一様な(均一な)加熱や再ガス化を行える。そして、堆積物が部分的に残ることを防ぎ、結果として、オーバーホール等の頻度を低下させることが可能となる。さらに、半導体等の生産効率を向上できるほか、オーバーホール等に要する分のコストの削減も可能となる。
【0146】
また、ヒータとしては、面状タイプのものに限らず、種々のものを採用することができる。例えば、ヒータとしては、カートリッジタイプのものなども採用することが可能である。この場合、ヒータは、ネジ付スペーサ131や、ネジ付スペーサ131に熱伝達が可能な部品に、外筒127の外側から差し込まれたものとすることが可能である。
【0147】
また、ヒータとしては、シースヒータを採用することが可能である。さらに、面状ヒータ、カートリッジヒータ、及び、シースヒータに代えて、その他の一般的な種々のヒータを適用することが可能である。そして、一般的な種々のヒータとしては、電磁誘導ヒータとしてのIHヒータなどを例示できる。例えば、IHヒータを用いた場合には、相対的に短時間で所定の温度に到達させることができ、再ガス化やクリーニングに要する時間を一層短縮することが可能となる。
【0148】
また、ターボ分子ポンプ100の構成部品とその材質との組合せとしては、回転体103をアルミニウム合金製とすることのほか、例えば、回転体103をステンレス合金製とすることが可能である。また、回転体103以外の部品をステンレス合金製とすることも可能である。さらに、例えば、高い熱伝導性、軽量化、加工の容易性等の特性が強く求められる構成部品の材質にはアルミニウム合金を用い、高い剛性や強度等の特性が強く求められる構成部品の材質にはステンレス合金を用いる、といったことが可能である。また、アルミニウム合金やステンレス合金のほかに、例えばチタン合金を採用することも可能である。
【0149】
なお、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内であれば、当業者の通常の創作能力によって多くの変形が可能である。
【符号の説明】
【0150】
10 真空ポンプ(真空排気装置)
11 ヒータ(加熱手段)
12、13 パージガス導入ポート(ガス導入手段)
14 パージガスバルブ(ガス導入手段)
16 排気バルブ(圧力制御手段)
23 コントローラ(バルブ制御手段)
100 ターボ分子ポンプ(真空ポンプ)
P1 第1の設定圧力
P2 第2の設定圧力