(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022135871
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】加工工具および加工装置
(51)【国際特許分類】
B24D 7/00 20060101AFI20220908BHJP
B23Q 11/00 20060101ALI20220908BHJP
B24B 55/10 20060101ALI20220908BHJP
B24B 55/02 20060101ALI20220908BHJP
B28D 1/18 20060101ALN20220908BHJP
B28D 7/02 20060101ALN20220908BHJP
【FI】
B24D7/00 Z
B23Q11/00 L
B24B55/10
B24B55/02 D
B28D1/18
B28D7/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021125767
(22)【出願日】2021-07-30
(62)【分割の表示】P 2021034659の分割
【原出願日】2021-03-04
(71)【出願人】
【識別番号】508200078
【氏名又は名称】オオノ開發株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】神野 浩
(72)【発明者】
【氏名】神野 太郎
【テーマコード(参考)】
3C047
3C063
3C069
【Fターム(参考)】
3C047FF07
3C047GG05
3C047GG07
3C047JJ12
3C047JJ13
3C047JJ15
3C047JJ20
3C063AA02
3C063AB05
3C063BG04
3C063BH28
3C063BH30
3C069AA06
3C069BA09
3C069BB01
3C069CA01
3C069CA07
3C069DA05
3C069DA07
3C069EA01
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、被加工物を加工したときの加工屑を効果的に加工場から除去可能な加工工具を得ることである。
【解決手段】本発明の加工工具は、回転軸Arを有する加工工具100であって、上部110aと側壁110bと底部110cとを含むカップ形状の工具本体110と、側壁110bに複数の貫通孔が形成されており、複数の貫通孔のうちの1以上の貫通孔102aは、上部側に位置する第1の開口部2a1と、底部側に位置する第2の開口部2a2とを備え、底部側に比べて上部側ほど加工工具の回転方向のより前方の位置に位置するように傾斜するように構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物に対する加工を行うための加工工具およびその加工工具を用いた加工装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、被加工物に対する加工を行うための加工工具を備えた加工装置として、例えば、特許文献1などに開示のサンダー刃を備えた塗膜剥離装置が知られている。この塗膜剥離装置は、加工屑を加工場から除去するエアー集塵装置を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記の塗膜剥離装置では、加工屑の集塵能力に限界があった。
【0005】
本発明は、被加工物を加工したときの加工屑を効果的に加工場から除去可能な加工工具およびその加工工具を用いた加工装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下の項目を提供する。
(項目1)
回転軸を有する加工工具であって、
上部と側壁と底部とを含むカップ形状の工具本体を備え、
前記側壁に、複数の貫通孔が形成されており、
前記複数の貫通孔のうちの1以上の貫通孔は、前記上部側に位置する第1の開口部と、前記底部側に位置する第2の開口部とを備え、前記底部側に比べて前記上部側ほど前記加工工具の回転方向のより前方の位置に位置するように傾斜するように構成されている、加工工具。
(項目2)
前記側壁は、略円錐台形状を有する、項目1に記載の加工工具。
(項目3)
前記側壁の外周を囲むように前記工具本体に設けられた周壁をさらに備える、項目1または2に記載の加工工具。
(項目4)
前記周壁は、前記側壁を囲む周壁本体と、前記周壁本体の上部に前記回転軸側に突出するように設けられたフランジとを有する、項目3に記載の加工工具。
(項目5)
前記側壁の上面には、前記回転軸に対して半径方向外側に向かって放射状に拡がる複数の溝が形成されている、項目1~4のいずれか一項に記載の加工工具
(項目6)
前記溝の深さは、前記回転軸の半径方向に遠ざかるほど浅くなるように構成されている、項目5に記載の加工工具。
(項目7)
前記底部に設けられた少なくとも1つの加工部材をさらに備える、項目1~6のいずれか一項に記載の加工工具。
(項目8)
被加工物を加工する加工装置であって、
項目1~7のいずれか一項に記載の加工工具と、
前記加工工具を回転駆動する駆動部と、
前記側壁の上面に液体を供給する液体供給部と
を備えた加工装置。
(項目9)
前記加工工具を覆う集塵カバーをさらに備えた項目8に記載の加工装置。
(項目10)
前記被加工物は、アスベスト、コンクリート、モルタル、アスファルト、レンガ、セメント、石材およびそれらの複合材料からなる群から選択される材料を含む、項目8または9に記載の加工装置。
(項目11)
項目8~10のいずれか一項に記載の加工装置を用いて前記被加工物を加工することを含む、加工方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、被加工物を加工したときの加工屑を効果的に加工場から除去可能な加工工具およびその加工工具を用いた加工装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態1による加工工具100の外観を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す加工工具110の具体的な構造を示す図であり、
図1に示す加工工具100を紙面上方から見た構造を示している。
【
図3】
図3は、
図1に示す加工工具100の具体的な構造を示す図であり、
図1に示す加工工具100を紙面下方から見た構造を示している。
【
図4】
図4は、
図1に示す加工工具100を用いた加工装置1を模式的に示す斜視図である。
【
図5】
図5は、
図4に示す加工装置1のより具体的な構造を説明するための図である。
【
図6】
図6は、
図4に示す加工装置1の加工工具100を回転させながら加工工具に液体を供給したときの加工工具100での液体の流れを説明するための斜視図である。
【
図7】
図7は、
図4に示す加工装置1により被加工物Pを加工する様子を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を説明する。本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0010】
本明細書において、「加工」とは、研削、研磨、切削など、被加工物の表面を除去する処理のことをいう。
【0011】
本明細書において、「約」とは、後に続く数字の±10%の範囲内をいう。
【0012】
本発明は、被加工物を加工したときの加工屑を効果的に加工場から除去可能な加工工具を得ることを課題とし、
回転軸を有する加工工具であって、
上部と側壁と底部とを含むカップ形状の工具本体を備え、
側壁に複数の貫通孔が形成されており、
複数の貫通孔のうちの1以上の貫通孔は、上部側に位置する第1の開口部と、底部側に位置する第2の開口部とを備え、底部側に比べて上部側ほど加工工具の回転方向のより前方の位置に位置するように傾斜するように構成されている、加工工具を提供することにより、上記の課題を解決したものである。
【0013】
このような構成の加工工具では、加工工具の側壁上に供給された液体は、工具本体の側壁に形成された貫通孔を介して工具本体の内側に流れ込む。また、この貫通孔は、上部側に位置する第1の開口部と、底部側に位置する第2の開口部とを備え、底部側に比べて上部側ほど加工工具の回転方向のより前方の位置に位置するように傾斜しているので、工具本体の側壁の上面に供給された液体は、加工工具の回転により貫通孔に勢いよく流れ込むこととなり、これにより工具本体と被加工物との間で液体が勢いよく流れる。その結果、被加工物と加工刃などの加工部材との接触部分で生ずる加工屑が、被加工物と加工部材との間を流れる液体により効果的に加工場から除去されることとなり、加工屑による加工部材の加工能力の低下を抑制することができる。
【0014】
従って、本発明の加工工具は、カップ形状の工具本体を備え、工具本体を構成する側壁に複数の貫通孔が形成され、複数の貫通孔のうちの1以上の貫通孔が、上部側に位置する第1の開口部と、底部側に位置する第2の開口部とを備え、底部側に比べて上部側ほど加工工具の回転方向のより前方の位置に位置するように傾斜しているもの(第1の貫通孔)であれば、その他の構成は、特に限定されるものではなく、任意であり得る。
【0015】
(工具本体)
工具本体は、加工装置に被加工物を加工する加工部材を取り付けるためのものであって、加工装置の回転軸に装着される上部と、加工部材を取り付けるための底部と、上部と底部とを接続する周壁とを備える。ここで、カップ形状の工具本体は、底部が開口した中空体であればよい。従って、カップ形状の工具本体の側壁部分は、円筒体でも多角形の筒体でもよく、具体的には円錐台形状あるいは角錐台形状の筒体でもよい。
【0016】
さらに、カップ形状の工具本体の側壁に形成されている液体が通過可能な複数の貫通孔の配置、個数、サイズおよび形状は特に限定されるものではなく、任意であり得る。貫通孔の形状は、例えば、略円形、略楕円形、略矩形などである。
【0017】
好ましくは、複数の貫通孔の配置は、工具本体の回転軸の軸回りに所定の間隔を持って設けられる。このようにすることで工具本体の全体に対して略均一に液体を供給することが可能となる。ただし、本発明はこれに限定されない。例えば、複数の貫通孔は異なる間隔を持って配置されていてもよい。また、貫通孔は工具本体底面に設けられる加工部材の近傍に設けるのが好ましい。そのようにすることにより、より効率的に加工場の冷却を行うことが可能となる。
【0018】
また、好ましくは、複数の貫通孔のうち少なくとも1つの貫通孔の配置は、周壁と前記側壁との結合部近傍に設けられている。このようにすることにより貫通孔を通過した液体が加工工具(特に加工部材)近くに供給することが可能となり、より効果的に加工熱の冷却を行うことが可能となる。さらに、加工屑に対して効果的に液体を供給することができ、加工屑の飛散をより効果的に防ぐことも可能となる。さらに好ましくは、貫通孔は加工部材の近傍に設ける。加工部材の近傍に設けることによりさらに、工具本体だけでなく加工部材を効率的に冷却することが可能となる。
【0019】
さらに、複数の貫通孔は、上述した1以上の第1の貫通孔に加えて、第1の貫通孔とは傾斜方向が異なる他の1以上の貫通孔(第2の貫通孔)を含んでいてもよい。例えば、第2の貫通孔は、上部側に位置する第1の開口部と、底部側に位置する第2の開口部とを備え、第1の開口部の位置が第2の開口部の位置よりも回転軸から離間した位置となるように傾斜した構造となっていてもよい。複数の貫通孔(第1の開口部の位置が第2の開口部の位置よりも回転軸から離間した位置となるように傾斜するものおよび/または第1の開口部の位置が第2の開口部の位置よりも加工工具の回転方向の前方側に位置するように傾斜するもの)の大きさは任意であり得る。例えば、貫通孔の大きさはφ約2mm~φ約5mmである。しかし、貫通孔の大きさは所望の液体供給量および/回転速度との関係で適宜調整され得るものであって、貫通孔の大きさは上記数値範囲に限定されない。1つの実施形態において、約12000rpmの加工工具において、貫通孔の大きさはφ約3mmである。
【0020】
また、工具本体の側壁の上面には、回転軸に対して半径方向外側に向かって放射状に拡がる複数の溝が形成されていてもよい。この場合、溝の深さは、回転軸の半径方向に遠ざかるほど浅くなるように構成されていてもよいし、あるいは、溝の全体に渡って一定であってもよい。
【0021】
一方、工具本体の側壁の上面は、凸凹のない滑らかな曲面形状であってもよい。
【0022】
(加工部材)
さらに、工具本体の底部は、被加工物に対する加工が可能な構造を有するものであれば特に限定されるものではない。
【0023】
例えば、工具本体の底部には、被加工物を加工する加工部材が1以上取り付けられていてもよい。ここで、加工部材は、被加工物の表面の加工を行うための部材であればどのようなものでもよく、例えば、加工部材は、研削、切断、剥離などを行う砥石であっても良いし、切削、切断、剥離などを行う加工刃(カッター)であってもよいし、研磨、剥離などを行うウレタンなどの柔軟な素材からなる研磨パッドであってもよい。
【0024】
また、また、底部に設ける加工部材の配置、形状や個数などは任意であり得る。
【0025】
(被加工物)
被加工物は、表面が加工されるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、被加工物は、アスベスト、コンクリート、モルタル、アスファルト、レンガ、セメント、石材およびそれらの複合材料からなる群から選択される材料を含むものでもよい。また、被加工物は、下地部材と、下地部材の表面を被覆する表面被覆材とを有するものでもよい。この場合、下地部材は、鋼鉄製部材あるいはコンクリート製部材などの構造物の骨格となる部材であり、表面被覆材は、アスベスト、モルタル、アスファルト、レンガ、石材およびそれらの複合材料からなる群から選択される材料で構成されていてもよい。
【0026】
(周壁)
さらに、上述した加工工具は、工具本体の側壁の外周を囲むように工具本体に設けられた周壁を有することが好ましい。このように工具本体の側壁の外周を囲む周壁が存在することで、工具本体の側壁と周壁との間に液体が溜まる領域が形成することができる。その結果、工具本体の側壁上に供給された液体がこの溝に貯えられることで工具本体から流れ落ちにくくなり、側壁に形成された貫通孔に効率よく流入可能となるからである。なお、加工工具の構造の簡略化を優先する場合は、加工工具は周壁を有さない構造であってもよい。
【0027】
ここで、周壁は、工具本体の側壁の外周を囲むように工具本体に設けられたものであれば、その他の構成は限定されず、任意であり得る。
【0028】
例えば、周壁は、工具本体の側壁を囲む周壁本体と、周壁本体の上部に回転軸側に突出するフランジとを有するものでもよいし、フランジを有さず、周壁本体のみを有するものでもよい。また、周壁本体は、工具本体の側壁を囲むものであれば、周壁本体の形状は限定されるものではなく、任意であり得る。例えば、周壁の形状は円筒体であってもよいし、中空の円錐台形状であってもよい。フランジを設けることによって、加工工具の外部に液体が流れにくくなり、より効果的に工具本体の側壁と周壁との間に液体を溜めることが可能となる。
【0029】
さらに、上述した加工工具は、加工装置に装着して用いられるものであり、加工装置は、上述した加工工具と、加工工具を回転駆動する駆動部と、側壁の上面に液体を供給する液供給部とを有するものであれば、その他の構成は特に限定されるものではない。周壁(例えば、周壁本体における)の高さは任意であり得る。ここで、周壁の高さとは、周壁(具体的には周壁本体)と側壁の上面とが当接する部分からの高さを意味する。例えば、周壁の高さは約5mm以上である。約5mm以上ですることで、側壁の上面(特に、後述する線状溝)から流れる液体が、加工工具の回転中に遠心力によって周壁と側壁の上面とで形成される領域に液体を溜めることが可能となる。1つの実施形態において、周壁本体の高さは約25mm、周壁本体と側壁の上面とが当接する部分からの高さは約10mmである。
【0030】
(駆動部)
駆動部は、加工工具を回転させるものであればよく、具体的な構成は限定されるものではなく任意であり、また、駆動部の動力も任意であり得る。例えば、駆動部の動力は電力であってもよいし、圧縮空気などで気体の圧力あってもよい。これにより、駆動部により加工工具を回転させることが可能となり、加工装置を手動の工具としてではなく、電動工具あるいはエアー工具などの動力工具として利用することが可能となる。
【0031】
(液供給部)
さらに、液供給部もその構成が限定されるものではなく任意であり、例えば、水道管に接続された液供給管であってもよいし、貯水部から液体を汲み上げるポンプに接続された液供給管であってもよい。
【0032】
さらに、加工装置は、加工屑の飛散防止という観点からは、加工工具を覆う集塵カバーをさらに備えたものでもあることが好ましいが、集塵カバーの構成は限定されず任意である。
【0033】
(集塵カバー)
集塵カバーは、加工工具を覆う部材であって、加工工具による被加工物を加工した後の加工屑を外部に飛散しないようすることが達成できれば、その形状などは任意であり得る。
【0034】
集塵カバーの形状は、例えばカップ形状であり、より具体的には、円筒体あるいは多角形の筒体などの筒状体の一端側開口を平板で閉塞した構造でもよいし、中空の球体の一部をなす形状でもよい。
【0035】
また、集塵カバーは、加工装置の筐体に取り付けられた内側カバーと、内側カバーを囲む外側カバーとを備え、カバー支持機構により外側カバーを内側カバーに対して加工工具の回転軸の方向にスライド可能に支持するようにしたものでもよい。この場合、外側カバーは内側カバーに対して相対的に加工工具の回転軸方向にスライドするので、被加工物の作業中の何かの弾みで内側カバーが加工装置の筐体とともに被加工物の表面から浮き上がっても、外側カバーは被加工物の表面に接した状態を維持することができ、加工屑の飛散を防止することが可能である。
【0036】
また、好ましくは、集塵カバーは、集塵カバー内に液体を供給する液供給部および/または集塵カバー内の加工屑や液体を外部に排出するための加工屑排出部を有している。
【0037】
ここで、液供給部および/または加工屑排出部はカップ形状の集塵カバーの上部に取り付けられていてもよいし、あるいはカップ形状の集塵カバーの周壁に取り付けられていてもよい。さらに、液供給管はカップ形状の集塵カバーの上部に取り付けられ、屑排出管はカップ形状の集塵カバーの周壁に取り付けられていてもよいし、あるいは、液供給管はカップ形状の集塵カバーの周壁に取り付けられ、屑排出管はカップ形状の集塵カバーの上部に取り付けられていてもよい。
【0038】
また、液供給部および/または加工屑排出部は、集塵カバーではなく、加工装置の筐体に設けてもよい。
【0039】
上述したように、本発明の加工工具は、カップ形状の工具本体を備え、工具本体を構成する側壁に複数の貫通孔が形成され、複数の貫通孔のうちの1以上の貫通孔が、上部側に位置する第1の開口部と、底部側に位置する第2の開口部とを備え、底部側に比べて上部側ほど加工工具の回転方向のより前方の位置に位置するように傾斜しているもの(第1の貫通孔)であれば、その他の構成は限定されるものではないが、以下の実施形態では、本発明の加工工具の一例としてより具体的な構造を有する加工工具を挙げる。
【0040】
特に、実施形態で挙げる加工工具は、円錐台形状の筒体からなる側壁を含むカップ形状の工具本体と、工具本体の側壁を囲むように設けられた周壁とを有し、工具本体の側壁には複数(3個)の貫通孔(第1の貫通孔)が側壁の周方向に沿って均等な間隔で並ぶように設けられている。ここで、第1の貫通孔は、工具本体の上部側に位置する第1の開口部と、工具本体の底部側に位置する第2の開口部とを備え、底部側に比べて上部側ほど加工工具の回転方向のより前方の位置に位置するように傾斜した構造となっていることは言うまでもない。
【0041】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0042】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1による加工工具100の外観を示す斜視図であり、
図1(a)は、加工工具100の全体を示し、
図1(b)は、
図1(a)のA部分の拡大図である。
【0043】
〔加工工具100〕
実施形態1の加工工具100は、被加工物Pの表面を加工する工具であって、回転軸Arを有し、加工装置1に取り付けて回転させるものである(
図4参照)。この加工工具100は、上部110aと側壁110bと底部110cとを含むカップ形状の工具本体110と、側壁110aの外周を囲むように工具本体110に設けられた周壁120とを備え、側壁110bには複数の貫通孔102aが形成されている。
【0044】
以下、加工工具100を詳しく説明する。
【0045】
図2および
図3は、
図1に示す加工工具110の具体的な構造を示す図であり、
図2(a)は、
図1に示す加工工具110を紙面上方から見た構造を示す平面図、
図2(b)は、
図2(a)の2A-2A線断面図、
図2(c)は、
図2(a)の2B-2B線断面図であり、
図3(a)は、
図1に示す加工工具100を紙面下方から見た構造を示す平面図、
図3(b)は、
図3(a)の3A-3A線断面図である。
【0046】
ここで、工具本体110を構成する上部110aは、略円板形状の部分であり、工具本体110を構成する側壁110bは、上部110aにつながる略円錐台形状の筒体部分であり、工具本体110を構成する底部110cは、側壁110bの下端に繋がる環状板部であり、この底部110cの裏面には複数の加工刃130が取り付けられている。
【0047】
そして、側壁110bには、1以上(ここでは3個)の貫通孔(第1の貫通孔)102aが形成され、これら3個の貫通孔102aが回転軸Arを中心とする1つの円周上に均等な間隔で配置されている。
【0048】
ここで、それぞれの貫通孔102aは、
図1(b)および
図2(c)に示すように、側壁110bの上面側(上部側)に位置する第1の開口部2a1と、側壁110bの下面側(底部側)に位置する第2の開口部2a2とを有し、貫通孔102aの底部側の部分に比べて貫通孔102aの上部側の部分ほど加工工具100の回転方向Drのより前方の位置に位置するように傾斜した構造となっている。従って、貫通孔102aでは、第1の開口部2a1の位置が第2の開口部2a2の位置よりも加工工具100の回転方向Drのより前方の位置に位置している。
【0049】
工具本体110の側壁110bは、上部側に対して底部側が拡がる略円錐台形状を有している。側壁110bの上面には、複数の線状溝101bが回転軸Arから半径方向外側に向かって延びように放射状に形成されており、これらの線状溝101bは回転軸Arの周りに等間隔で配置されている。この線状溝101bの深さは、回転軸Arから遠ざかるほど浅くなるように構成されている。なお、この線状溝101bは、その内部で均一な深さを有するものでもよい。
【0050】
また、工具本体110に設けられている周壁120は、工具本体110の側壁110bを囲む円筒状の周壁本体120aと、周壁本体120aの上端部に回転軸Ar側に突出するように設けられたフランジ(環状庇部)120bとを有する。なお、周壁120は、必ずしもフランジ120bを有するものである必要はなく、周壁本体のみを有するものでもよいが、フランジ120bを有することで、加工工具100の側壁110bと周壁120との間に形成される溝に溜まった水が遠心力で周壁を乗り越えにくくすることができる。
【0051】
工具本体110の底部110cの下面(底部110cのうちの被加工物Pに対向する面)には、加工部材として、チップ状の加工刃130が固定されている。具体的には、加工刃130は、底部110cを構成する環状板部の裏面(被加工物Pに対応する面)の3箇所に均等に分散させて配置されており、各箇所には3つの加工刃130が隣接するように配置されている(
図3(a)参照)。
【0052】
ここで、加工刃130は、研削、切断砥石、剥離などを行う砥石である。なお、加工刃130は、切削、切断、剥離などを行う加工刃(カッター)であってもよいし、研磨、剥離などを行うウレタンなどの柔軟な素材からなる研磨パッドであってもよい。
【0053】
なお、工具本体110の上部110aの中央には工具固定孔103が形成されている。この工具固定孔103は、加工工具100を加工装置1の駆動部10の工具取付シャフト12b(
図4参照)に固定するための孔である。
【0054】
〔加工装置1〕
図4は、
図1に示す加工工具100を用いた加工装置1を模式的に示す斜視図である。
【0055】
この加工装置1は、被加工物Pを加工する加工工具100と、加工工具100を覆う集塵カバー200と、集塵カバー200の内部に液体(例えば、水)を供給する液供給管210と、加工屑を液体とともに集塵カバー200の内部から排出する屑排出管220と、加工工具100を回転駆動する駆動部10とを備えている。ここで、加工工具100は、
図1~
図3を用いて説明した加工工具100である。
【0056】
(被加工物P)
被加工物Pは、建造物の柱部材であり、下地部材である鋼材の表面に表面被覆材としてアスベストを塗布したものである。ただし、被加工物Pは、このような建造物の柱部材に限定されず、建造物の壁部材、天井部材、あるいは床部材であってもよく、被加工物Pの下地部材は、鋼材に限定されず、コンクリート材であってもよく、表面被覆材はアスベストに限定されず、塗料、モルタル、アスファルト、レンガ、セメント、石材およびそれらの複合材料からなる群から選択される材料であってもよい。
【0057】
(駆動部10)
駆動部10は、モータ部11とギヤ部12とを含む。モータ部11は、回転力を発生する電動モータ11aを有し、ギヤ部12は、電動モータ11aのモータシャフト11bの回転速度を減速する第1のギア部12aと、第1のギア部12aの出力シャフト12cの回転軸の方向を、工具取付シャフト12dの回転軸の方向に変換する第2のギア部12bとを有する。モータ部11およびギア部12は、加工装置1の装置筐体1a内に収容されており、ギア部12を構成する工具取付シャフト12dの一端側が装置筐体1aから突出している。
【0058】
(集塵カバー200)
集塵カバー200は、工具取付シャフト12dおよび加工工具100を囲むように装置筐体1aの一端側(工具取付シャフト12d側)に取付部材201aにより取り付けられている。集塵カバー200には、水を集塵カバー200内に供給する液供給管210が接続され、さらに、加工屑を水とともに集塵カバー200から排出するための屑排出管220が接続されている。
【0059】
以下、集塵カバー200のより具体的な構造を説明する。
【0060】
図5は、
図4に示す加工装置1のより具体的な構造を説明するための図であり、
図5(a)は、
図4に示す加工装置1を紙面の上方から見た構造を示す平面図、
図5(b)は、加工工具100の下端が加工装置1の集塵カバーの下端より浮き上がっている状態を示す5A-5A線断面図、
図5(c)は、加工装置1の集塵カバーの下端と加工工具100の下端とが一致している状態を示す5A-5A線断面図である。
【0061】
集塵カバー200は、カップ状の内側カバー200aと、環状の外側カバー200bと、カバー支持機構200cとを有する。
【0062】
内側カバー200aは、加工工具100を囲むように装置筐体1aに固定されており、外側カバー200bは、内側カバー200aの周囲を囲むように配置されており、カバー支持機構200cは、外側カバー200bを内側カバー200aに対して、加工工具100の回転軸Arの方向にスライド可能に支持している。
【0063】
ここで、カバー支持機構200cは、支持プレート201と、固定ボルト202と、座金付の固定ナット203と、付勢ばね204とを含む。支持プレート201は外側カバー200bの上面に固定されている。内側カバー200aの上面に固定されている固定ボルト202は、支持プレート201の挿通孔(図示せず)に支持プレート201が上下移動可能となるように挿通されている。固定ボルト202には、付勢ばね204が装着され、さらに、固定ボルト202には、付勢ばね204が支持プレート201を下方側(被加工物P側)に付勢するように固定ナット203が装着されている。
【0064】
また、内側カバー200aの上面部には液供給管210の一端が取り付けられ、外側カバー200bの上面部には屑排出管220の一端が取り付けられている。ここで、液供給管210は、
図2(b)に示すように、その一端側の開口が工具本体110の側壁110bの上面に近接するように配されている。液供給管210の他端は、水道管を接続するための供給管ジョイント部210aとなっており、屑排出管220の他端は、集塵装置につながるホース3に接続するための排出管ジョイント部220aとなっている(
図4参照)。
【0065】
なお、装置筐体1aには、
図5に示すように、作業者が装置筐体1aを持つための持ち手1bが取り付けられていてもよいが、持ち手1bは特に設けられていなくてもよい。
【0066】
次に加工工具100を装着した加工装置1の動作を説明する。
【0067】
図6は、
図4に示す加工装置1の加工工具100を回転させながら加工工具100に水を供給したときの加工工具100での液体の流れを説明するための斜視図であり、
図7は、
図4に示す加工装置1により被加工物Pを加工する様子を模式的に示す斜視図である。
【0068】
加工装置1の液供給管210のジョイント部210aに水道管2などの水配管を接続し、屑排出管220のジョイント部220aに、集塵装置(図示せず)の吸引口に接続されているホース3を接続し、被加工物Pの基材Pbの表面に固着されているアスベストなどの塗装材料Paを剥離する作業を開始する。
【0069】
まず、加工装置1の電源を入れて駆動部10の電動モータ11aにより加工工具100を回転させ、同時に、集塵装置(図示せず)の電源を入れて、ホース3により集塵装置に繋がる屑排出管220から集塵カバー200内の空気を吸引し、かつ、液供給管210に繋がる水道管2から水を集塵カバー200内に供給する。
【0070】
この状態で、加工工具100の研削砥石などの加工部材130が被加工物Pの表面に接触するように加工装置1を被加工物Pに押し付けつつ、加工装置1を
図7の矢印Xに示すように移動させると、被加工物Pの基材Pbの表面に固着されている塗装材料Paが回転する加工工具100の加工部材130により削り取られる。
【0071】
このとき、加工工具100を覆う集塵カバー200内には液供給管210から水が供給されている。具体的には、液供給管210から吐出した水は、工具本体110の側壁110b上に落下する。この側壁110bには線状溝101bが形成されていることから、工具本体110の側壁110b上に落下した水は線状溝101b内に一旦収容され、線状溝101bに収容された水は、線状溝101bと共に回転することで遠心力を受けて側壁110bを囲む周壁120側に移動する。この線状溝101b内に収容された水の周壁120側への移動は、線状溝101bの深さが回転軸Arから離れるほど浅くなっていることによりスムーズに行われる。
【0072】
そして、上記のように水が線状溝101bから周壁120側に移動することにより、工具本体110の側壁110bと周壁120とで形成される環状溝101aに水が溜まる。このようにして溜まった水は、遠心力により周壁120に押し付けられ、これにより、環状溝101a内の水には水圧がかかり、側壁110bに形成されている複数の貫通孔102aに水が勢いよく流れ込む。
【0073】
また、貫通孔102aは、側壁110bの上面側(上部側)に位置する第1の開口部2a1の位置が、側壁110bの下面側(底部側)に位置する第2の開口部2a2の位置よりも加工工具100の回転方向Drのより前方の位置に位置する構造となっているので、加工工具100aが回転することで、環状溝101aに溜まった水は、貫通孔102aに相対的に勢いよく流れ込む。
【0074】
その結果、工具本体110の側壁110b上に供給した水は、貫通孔102aから工具本体110の加工部材130と被加工物Pとの間に勢いよく吐出されることとなり、この勢いのある水の流れにより、加工場(特に、工具本体110の加工部材130と被加工物Pとの間)に溜まった切削屑が効果的に洗い流され、切削屑は水とともに屑排出管220から集塵装置に収集される。切削屑は水と一緒になることから、従来の切削屑をエアーによって集塵するのに対して外部に飛散することをより効果的に防止することが可能となる。
【0075】
また、工具本体110の加工部材130と被加工物Pとの間に流れ込んだ水は、工具本体110の底部110cと被加工物Pとの間を通過するので、工具本体110の底部110cに形成されている加工部材である加工刃130が、底部110cと被加工物Pとの間を流れる水により冷却される。
【0076】
さらに、貫通孔102aから加工部材130と被加工物Pとの隙間に流れ込んだ水は、加工工具100の加工部材130による被加工物Pの研削により発生した加工屑と混ざることで、加工屑は粉状から泥状になる。これにより、加工屑が集塵カバー200内であまり舞い上がることなく屑排出管220を通して集塵装置へ吸引される。
【0077】
さらに、加工工具100では、工具本体110の側壁110bを囲むように配置されている周壁120は、工具本体110を囲む筒状体120aと、筒状体120aの上端から内側に迫り出した環状庇部120bとで構成されているので、液供給管210から工具本体110の側壁110b上に供給された水が周壁120を乗り越えて加工工具100の環状溝101aから溢れるのを抑制することができ、集塵カバー200内に供給された水が工具本体110の側壁110bの貫通孔102aを通って工具本体110の内部に効果的に流れ込む。
【0078】
このように、本実施形態1による加工装置100では、被加工物Pと加工刃などの加工部材130との接触部分で生ずる加工屑を加工場から効果的に除去することができ、加工屑による加工部材130の加工能力の低下を抑制することが可能となる。また、工具本体110と被加工物Pとの間に水が効果的に供給され、加工屑が集塵カバー200内および外部で舞い上がるのを防止することができ、その結果、作業者が加工屑を吸い込むことによる健康被害を軽減することができる。
【0079】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、被加工物を加工したときの加工屑を効果的に加工場から除去可能な加工工具およびその加工工具を用いた加工装置を得ることができるものとして有用である。
【符号の説明】
【0081】
1 加工装置
100 加工工具
101a 環状溝
101b 線状溝
102a 貫通孔
110 工具本体
110a 上部
110b 側壁
110c 底部
120 周壁
120a 筒状体
120b 環状庇部
130 加工部材(加工刃)
210 液供給管
220 屑排出管
P 被加工物